(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118831
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】生地を生産する方法
(51)【国際特許分類】
D06M 16/00 20060101AFI20220808BHJP
D06M 19/00 20060101ALI20220808BHJP
D06P 3/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
D06M16/00 Z
D06M19/00
D06P3/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015596
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】519087697
【氏名又は名称】株式会社ノリタケ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 三郎
(72)【発明者】
【氏名】金城 秀侑
(72)【発明者】
【氏名】那須 竜太
【テーマコード(参考)】
4H157
4L031
【Fターム(参考)】
4H157AA02
4H157DA01
4H157DA43
4H157GA07
4L031AB31
4L031BA31
(57)【要約】
【課題】糸を材料とした製布において、この糸の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとすることを、毛焼き処理によらずに実現させる。
【解決手段】糸本体の表面に突出した毛羽を有する撚糸を製布して、生地の組織を、その撚糸の糸本体が毛羽により離間された状態となるように形成する。その後、生地の組織に対してバイオ加工を施して、組織を構成する撚糸の表面から毛羽の少なくとも一部を除去し、もってこの毛羽が組織において占めていたスペースに透かし目が設けられた生地を生産する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を材料とした製布により、組織をなす生地(textile)を生産する、生地を生産する方法において、
前記糸として、糸本体の表面に突出した毛羽を有する撚糸を用い、
前記撚糸を製布して、前記組織を、その前記撚糸の前記糸本体が前記毛羽により離間された状態となるように形成した後に、
前記組織に対してバイオ加工を施して、前記組織を構成する前記撚糸の表面から前記毛羽の少なくとも一部を除去し、もって当該毛羽が前記組織において占めていたスペースに透かし目が設けられた生地を生産する、
生地を生産する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された生地を生産する方法であって、
前記撚糸が強撚糸である、
生地を生産する方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された生地を生産する方法であって、
前記バイオ加工の際に、前記組織を、当該組織の表面に付着した付着物の量をより少なくする精錬加工が施された状態にし、
その後で、前記組織に対して浸染を行う、
生地を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糸を材料とした製布により、組織をなす生地(textile)を生産する、生地を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸を材料とした製布において、この糸の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとするために、毛焼き処理が施された原糸を撚ってなる撚糸を材料として生地を生産する技術が公知であった(例えば下記の特許文献1を参照)。ここで、「ドレープ性」とは、生地において、この生地が柔らかな感触(「ふくらみのある感触」と表現されることもある)を有し、かつ、生地のたるみがゆったりとしたひだをなす性質のことをいう。また、「毛焼き処理」とは、糸または生地の表面にある毛羽を焼いて取り除く処理のことをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、糸を材料とした製布において、この糸の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとするために、毛焼き処理を必須工程とするものであった。
【0005】
本開示は、糸を材料とした製布において、この糸の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとすることを、毛焼き処理によらずに実現させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における1つの特徴によると、糸を材料とした製布により、組織をなす生地(textile)を生産する、生地を生産する方法が提供される。この生地を生産する方法においては、上記糸として、糸本体の表面に突出した毛羽を有する撚糸を用いる。また、生地を生産する方法においては、撚糸を製布して、組織を、その撚糸の糸本体が毛羽により離間された状態となるように形成する。その後に、組織に対してバイオ加工を施して、組織を構成する撚糸の表面から毛羽の少なくとも一部を除去し、もってこの毛羽が組織において占めていたスペースに透かし目が設けられた生地を生産する。
【0007】
上記の生地を生産する方法によれば、生産された生地における糸の毛羽立ちは、生地の組織に施されたバイオ加工によって抑えられる。また、生産された生地は、その組織をなす糸の糸本体間に設けられた透かし目により、生地全体として変形しやすくなり、それゆえにドレープ性のあるものとなる。このため、糸を材料とした製布において、この糸の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとすることが、毛焼き処理によらずに実現される。
【0008】
上記の生地を生産する方法においては、上記撚糸が強撚糸であるものが好ましい。
【0009】
撚糸において、その糸本体の表面に突出する毛羽は、糸本体の長手方向に対して立ち上がった状態となる。この立ち上がりの角度は、上記撚糸が強撚糸である場合、上記撚糸が強撚糸でない場合よりも大きく(90[°]に近く)なる。これに対し、上記の生地を生産する方法によれば、撚糸における毛羽の立ち上がりの角度を、撚糸として強撚糸を選択することで大きくし、この毛羽が糸本体を離間させる距離を大きくすることができる。これにより、上記透かし目をより大きくし、もって生産される生地におけるドレープ性の向上を図ることができる。
【0010】
上記の生地を生産する方法においては、バイオ加工の際に、上記組織を、この組織の表面に付着した付着物の量をより少なくする精錬加工が施された状態にし、その後で、上記組織に対して浸染を行うものが好ましい。
【0011】
本開示においては、「浸染」とは、もっぱら染料の溶液が生地の組織内に浸透する作用によって生地の染色を行う処理のことをいうものとする。このような「浸染」の具体例としては、例えば、生地を染料の溶液に漬け込んで染色する「漬け染め」の処理や、生地に染料の溶液をかけることで染色を行う「注染」の処理などが挙げられる。また、「浸染」には該当しない染色処理の具体例としては、例えば、染料を含む糊を生地の表面にすりつけることで染色を行う「なせん」の処理や、染料をはけで生地の表面にぬりつけることで染色を行う「引き染め」の処理などが挙げられる。
【0012】
上記の生地を生産する方法によれば、撚糸の表面から毛羽を除去するためのバイオ加工を、精錬加工と染色処理と仕上げ処理とを一連の流れ作業として行う染色整理作業における1ステップとして実行し、もって生地を染色された状態で生産する際の工数の削減を図ることができる。また、生地の染色を浸染によって行うことで、この染色に際して生地の表面にこすれが生じ、このこすれにより組織にて撚糸が位置ずれする目寄れが発生することをさけることができる。これにより、生産される生地に目寄れが発生して透かし目がつぶれ、それにより生地においてそのドレープ性が損なわれるおそれを低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、糸を材料とした製布において、この糸の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとすることを、毛焼き処理によらずに実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態にかかる生地を生産する方法を表したフローチャートである。
【
図2】
図1のステップS10で得られる撚糸の拡大写真である。
【
図3】
図1のステップS20で得られる組織の拡大写真である。
【
図4】
図1のステップS30を経て得られる組織の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を用いて、本開示の一実施形態にかかる生地を生産する方法について説明する。この生地を生産する方法は、糸(
図2の撚糸11を参照)を材料とした製布により、組織10(
図4参照)をなす生地を生産するものである。
【0016】
この生地を生産する方法においては、まず、生地の材料となる糸である撚糸11(
図2参照)を生産する(
図1のステップS10)。本実施形態においては、木綿(cotton)のコンパクト紡績糸を原糸11C(
図2参照)とし、これを2本取りで撚って木綿の強撚糸とした双糸強撚糸を、撚糸11として生産する。この生産に関しては、公知の手法を採用することができる。ただし、撚糸11の表面に発生する毛羽11B(
図2参照)を取り除く処理については、これを一切行わないものとする。
【0017】
このようにして生産された撚糸11の拡大写真を、
図2に示す。
図2には、表面に突出した毛羽11Bを有する2本の原糸11Cが撚られてなる撚糸11が示されている。ここで、2本の原糸11Cは、撚られることで撚糸11の糸本体11Aを構成するとともに、その毛羽11Bを糸本体11Aの表面に突出した状態とする。また、原糸11Cは、コンパクト紡績糸であるため、その表面に突出される毛羽11Bの密度は、毛羽を取り除く処理が行われておらず、かつ、コンパクト紡績糸でない紡績糸における、糸本体の表面に突出される毛羽(図示せず)の密度よりも低い。
【0018】
ついで、撚糸11を製布して組織10(
図3参照)を形成する(
図1のステップS20)。本実施形態においては、撚糸11を公知の吊機(図示せず)にセットし、この吊機を稼働させることで、丸編みの編地を組織10として形成する。ここで、「丸編みの編地」とは、緯編みの編地のうち、この編地をなすコースを折り返すことなくつるまき線をなすように連ねることで、巨視的な形状が筒状となる編地のことをいう。
【0019】
このようにして形成された組織10の拡大写真を、
図3に示す。
図3には、1本の撚糸11が複数個所で絡み合う緯編みの編地とされた組織10が示されている。この組織10においては、その撚糸11が絡み合う複数個所において、この撚糸11の糸本体11Aが、離間された状態となっている。この糸本体11Aの間のスペースには、この糸本体11Aの表面から突出する毛羽11Bが、糸本体11Aの長手方向に対して立ち上がった状態で存在している。
【0020】
続いて、組織10に対してバイオ加工を施す(
図1のステップS30)。本実施形態においては、撚糸11の毛羽11Bの主成分(すなわちセルロース)を分解する分解酵素を含有し、かつ、この分解酵素の至適温度となるように調製された処理液で組織10を洗った後に、この組織10を水洗いする処理を、バイオ加工として実行する。
【0021】
具体的には、バイオ加工は、以下の洗い加工として実行される。この洗い加工においては、洗い加工を行う洗い加工装置として、株式会社日阪製作所が「サーキュラー(登録商標)」の商標を付して販売している液流染色機を使用することができる。また、上記洗い加工においては、処理液として、水道水100[l]に対して、市販のバイオ酵素の液を1[l]添加したものを使用する。この処理液は、35[℃]以上40[℃]以下となる温度で、かつ、pH7となるように調製される。上記洗い加工装置は、上記処理液によって組織10を3[時間]だけ洗った後に、この組織10を60[℃]以上の温度に調製された水によって水洗いする熱処理を行うことで、バイオ酵素の死滅処理を行う。ここで、「バイオ酵素の死滅処理」は、液中の微生物を完全に殺滅する滅菌処理である必要はなく、液中に残存する分解酵素の、少なくとも巨視的なレベルで見た活性を失わせる失活処理で足りる。
【0022】
このようにしてバイオ加工が施された組織10の拡大写真を、
図4に示す。
図4には、
図3と同様、緯編みの編地である組織10が示されている。ここで、
図4の組織10においては、この組織10を構成する撚糸11の表面から毛羽11Bが完全に除去され、この毛羽11Bが組織10において占めていた糸本体11A間のスペースに透かし目10Aが設けられている。なお、バイオ加工が施された組織10においては、毛羽11Bが除去しきれずに、その一部が残存する場合もある。
【0023】
そして、バイオ加工が施された組織10に対して、所望の染料を用いた浸染(本実施形態においては漬け染めの処理)を行う(
図1のステップS40)。この浸染に関しては、公知の染色整理作業において実行される処理を採用することができる。しかるに、本実施形態においては、上記バイオ加工として、組織10を処理液に単に浸漬する処理ではなく、処理液で組織10を洗う処理が行われている。このため、バイオ加工が施された組織10は、この組織10の表面に付着した付着物(図示せず)の量をより少なくする精錬加工が施された状態となっている。したがって、本実施形態においては、上記「染色整理作業において実行される処理」から、精錬加工の処理を省き、もって工数の削減を図ることができる。
【0024】
上述した生地を生産する方法によれば、生産された生地における撚糸11の毛羽立ちは、生地の組織10に施されたバイオ加工によって抑えられる。また、生産された生地は、その組織10をなす撚糸11の糸本体11A間に設けられた透かし目10Aにより、生地全体として変形しやすくなり、それゆえにドレープ性のあるものとなる。このため、撚糸11を材料とした製布において、この撚糸11の毛羽立ちを抑え、かつ、生産される生地をドレープ性のあるものとすることが、毛焼き処理によらずに実現される。
【0025】
また、上述した生地を生産する方法によれば、撚糸11における毛羽11Bの立ち上がりの角度を、撚糸11として強撚糸を選択することで大きくし、この毛羽11Bが糸本体11Aを離間させる距離を大きくすることができる。これにより、透かし目10Aをより大きくし、もって生産される生地におけるドレープ性の向上を図ることができる。
【0026】
また、上述した生地を生産する方法によれば、撚糸11の表面から毛羽11Bを除去するためのバイオ加工を、精錬加工と染色処理と仕上げ処理とを一連の流れ作業として行う染色整理作業における1ステップとして実行し、もって組織10をなす生地を染色された状態で生産する際の工数の削減を図ることができる。また、組織10をなす生地の染色を浸染によって行うことで、この染色に際して生地の表面にこすれが生じ、このこすれにより組織10にて撚糸11が位置ずれする目寄れが発生することをさけることができる。これにより、生産される生地に目寄れが発生して透かし目10Aがつぶれ、それにより生地においてそのドレープ性が損なわれるおそれを低減させることができる。
【0027】
また、上述した生地を生産する方法によれば、撚糸11の材料として撚られる原糸11Cとしてコンパクト紡績糸を用いる。このため、撚糸11における糸本体11Aの表面に突出される毛羽11Bの密度は、コンパクト紡績糸でない紡績糸を撚ってなる紡績糸における、糸本体の表面に突出される毛羽(図示せず)の密度よりも低い。これにより、組織10を構成する撚糸11の表面に存在する毛羽11Bの密度を低くしてバイオ加工の処理液が入り込みやすくし、もってこの毛羽11Bの除去を促進することができる。
【0028】
なお、糸本体の表面に突出される毛羽の密度がコンパクト紡績糸よりも低くなる、原糸となりうる材料としては、フィラメントヤーンが知られている。しかしながら、フィラメントヤーンは、その糸本体の表面に毛羽をほとんど生じさせないものであるため、これを撚糸にして製布した場合に、その糸本体が毛羽により離間された状態とすることが困難なものである。
【0029】
以上、本開示を実施するための形態について、上述した一実施形態によって説明した。しかしながら、当業者であれば、本開示の目的を逸脱することなく種々の代用、手直し、変更が可能であることは明らかである。すなわち、本開示を実施するための形態は、本明細書に添付した特許請求の範囲の精神および目的を逸脱しない全ての代用、手直し、変更を含みうるものである。例えば、本開示を実施するための形態として、以下のような各種の形態を実施することができる。
【0030】
(1)本開示において、生地の材料となる糸である撚糸は、原糸を2本取りで撚って強撚糸とした双糸強撚糸に限定されない。すなわち、撚糸は、例えば1本取りまたは3本取りなど、適宜選択した本数の原糸を撚ったものとすることができ、この撚りの態様は、強撚糸、中撚糸、弱撚糸のいずれにすることもできる。また、原糸は木綿のコンパクト紡績糸である必要はなく、例えば麻の紡績糸など、適宜選択した素材からなる、任意の種類の紡績糸とすることができる。
【0031】
(2)本開示において、撚糸の製布により形成される生地の組織は、丸編みの編地に限定されない。すなわち、生地の組織は、例えば横編みの編地(緯編みの編地のうち、この編地をなすコースを折り返しながら段をなして連ねることで、巨視的な形状が帯状となる編地)であってもよい。また、生地は、例えば経編みの編地、または、平織り、斜文織り、サテン織りその他の任意の製織方法によって織られた織地など、緯編みでない組織をなすものであってもよい。
【0032】
(3)本開示において、バイオ加工が施された組織に対して、浸染として漬け染めの処理を行うことは必須ではない。すなわち、バイオ加工が施された組織に対しては、例えば、浸染として注染の処理を行うことができる。また、バイオ加工が施された組織に対して浸染を行わないこともできる。この場合において、生地を生産する方法は、原糸の段階、原糸を撚って撚糸とした段階、撚糸を製布した組織にバイオ加工を施す前の段階の、少なくとも1つの段階において染色を行うものとしてもよい。また、生地を生産する方法は、染色を一切行わない「きなり」の生地を生産するものであってもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 組織(生地)
10A 透かし目
11 撚糸(糸)
11A 糸本体
11B 毛羽
11C 原糸