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特開2022-118857電解質組成物、電極層、電解質層および蓄電デバイス
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  • 特開-電解質組成物、電極層、電解質層および蓄電デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118857
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】電解質組成物、電極層、電解質層および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20220808BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220808BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220808BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220808BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20220808BHJP
   H01G 11/58 20130101ALI20220808BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220808BHJP
   H01G 11/46 20130101ALN20220808BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01G11/56
H01G11/58
H01G11/30
H01G11/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015636
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】長屋 善明
(72)【発明者】
【氏名】澤永 佳歩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元彦
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB01
5E078DA06
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM09
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029HJ01
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB08
5H050DA11
5H050DA13
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】内部短絡の発生を低減できる電解質組成物、電極層、電解質層および蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】電解質組成物は、固体電解質を含む固体イオン伝導材料、イオン伝導性を有するイオン液体、及び、バインダーを含むものであって、固体イオン伝導材料、イオン液体、及び、バインダーの合計量に対して固体イオン伝導材料が70質量%以上含まれ、その合計量に対して炭酸エステルが1質量%以上10質量%以下含まれる。蓄電デバイスは、順に正極層、電解質層および負極層を含むものであって、正極層、電解質層および負極層の少なくとも1つは、電解質組成物が含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質を含む固体イオン伝導材料、イオン伝導性を有するイオン液体、及び、バインダーを含む電解質組成物であって、
前記固体イオン伝導材料、前記イオン液体、及び、前記バインダーの合計量に対して前記固体イオン伝導材料が70質量%以上含まれ、前記合計量に対して炭酸エステルが1質量%以上10質量%以下含まれる電解質組成物。
【請求項2】
前記炭酸エステルはプロピレンカーボネートを含む請求項1記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記固体電解質はリチウムイオン伝導体である請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記固体電解質は、Li,La,Zr,Mg及びSrを含み、ガーネット型結晶構造を有する酸化物を含む請求項3記載の電解質組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電解質組成物を含む電極層。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の電解質組成物を含む電解質層。
【請求項7】
順に正極層、電解質層および負極層を含む蓄電デバイスであって、
前記正極層、前記電解質層および前記負極層の少なくとも1つは、請求項1から4のいずれかに記載の電解質組成物を含む蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解質組成物、電極層、電解質層および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスの電極間に配置される電解質層として、特許文献1には、固体電解質などの無機粒子、イオン伝導性を有するイオン液体、及び、バインダーを含み、無機粒子を10質量%から40質量%含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-212576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1の技術では、例えば充電時に微小な内部短絡が生じるおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、内部短絡の発生を低減できる電解質組成物、電極層、電解質層および蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の電解質組成物は、固体電解質を含む固体イオン伝導材料、イオン伝導性を有するイオン液体、及び、バインダーを含むものであって、固体イオン伝導材料、イオン液体、及び、バインダーの合計量に対して固体イオン伝導材料が70質量%以上含まれ、その合計量に対して炭酸エステルが1質量%以上10質量%以下含まれる。本発明の蓄電デバイスは、順に正極層、電解質層および負極層を含むものであって、正極層、電解質層および負極層の少なくとも1つは、前記電解質組成物が含まれる。
【発明の効果】
【0007】
電解質組成物を含む電極層や電解質層、蓄電デバイスに生じる内部短絡を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施の形態における蓄電デバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における蓄電デバイス10の模式的な断面図である。本実施形態における蓄電デバイス10は、発電要素が固体で構成されたリチウムイオン固体電池である。発電要素が固体で構成されているとは、発電要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。
【0010】
図1に示すように蓄電デバイス10は、順に正極層11、電解質層14及び負極層15を含む。正極層11及び負極層15は電極層である。正極層11、電解質層14及び負極層15はケース(図示せず)に収容されている。
【0011】
正極層11は集電層12と複合層13とが重ね合わされている。集電層12は導電性を有する部材である。集電層12の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの2種以上の元素を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0012】
複合層13は、固体イオン伝導材料18、イオン伝導性を有するイオン液体、バインダー及び炭酸エステルを含む。固体イオン伝導材料18は、活物質19と固体電解質20とを合わせたものである。複合層13の抵抗を低くするために、複合層13に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維,Ni,Pt及びAgが例示される。複合層13は電解質組成物からなる。
【0013】
活物質19は、遷移金属を有する金属酸化物、硫黄系活物質、有機系活物質が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、Mn,Co,Ni,Fe,Cr及びVの中から選択される1種以上の元素とLiとを含む金属酸化物が例示される。遷移金属を有する金属酸化物は、LiCoO,LiMn,LiNiVO,LiMn1.5Ni0.5及びLiFePOが例示される。
【0014】
活物質19と固体電解質20との反応の抑制を目的として、活物質19の表面に被覆層を設けることができる。被覆層は、Al,ZrO,LiNbO,LiTi12,LiTaO,LiNbO,LiAlO,LiZrO,LiWO,LiTiO,Li,LiPO及びLiMoOが例示される。
【0015】
硫黄系活物質は、S,TiS,NiS,FeS,LiS,MoS及び硫黄-カーボンコンポジットが例示される。有機系活物質は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノキシル-4-イルメタクリレートやポリテトラメチルピペリジノキシルビニルエーテルに代表されるラジカル化合物、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、及び、フェナジンオキシドが例示される。
【0016】
固体電解質20は、キャリアイオンを伝導する固体材料である。固体電解質20は、酸化物系、硫化物系、水素化物系および有機系から選ばれる1種以上を含む。酸化物系、硫化物系および水素化物系の固体電解質20は、不燃性で5V以上の高電位下でも安定なので好ましい。酸化物系の固体電解質20は、湿度に対する安定性が高いので好ましい。固体電解質20は、酸化物および水素化物の複合体であっても良い。
【0017】
酸化物系の固体電解質20は、Li,La及びZrを少なくとも含むガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有する酸化物、NASICON型構造を有する酸化物、ペロブスカイト構造を有する酸化物が例示される。
【0018】
ガーネット型の酸化物は基本組成がLiLa12(M=Nb,Ta)である。Li,La及びZrを少なくとも含むガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有する酸化物は、5価のMカチオンを4価のカチオンに置換したLiLaZr12や、LiLaZr12に対してMg及びSrの元素置換を行ったものが例示される。
【0019】
特にLi,La,Zr,Mg及びSrを含み、ガーネット型結晶構造を有する固体電解質(以下「LLZ」と称す)は、他の酸化物系の固体電解質に比べて粒内抵抗が小さいので好ましい。LLZは、例えば各元素のモル比が以下の(1)及び(2)の少なくとも一方を満たすものである。
(1)1.33≦Li/(La+Sr)≦3、0≦Mg/(La+Sr)≦0.5、かつ、0≦Sr/(La+Sr)≦0.67
(2)2.0≦Li/(La+Sr)≦2.5、0.01≦Mg/(La+Sr)≦0.14、かつ、0.04≦Sr/(La+Sr)≦0.17。
【0020】
NASICON型構造を有する酸化物は、Li,M(MはTi,Zr及びGeから選ばれる1種以上の元素)及びPを少なくとも含む酸化物、例えばLi(Al,Ti)(PO及びLi(Al,Ge)(POが挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物は、Li,Ti及びLaを少なくとも含む酸化物、例えばLa2/3-XLi3XTiOが挙げられる。
【0021】
硫化物系の固体電解質20は、結晶性のチオリシコン型、Li10GeP12型、アルジロダイト型、Li11型、LiS-Pに代表されるガラスやガラスセラミック系が例示される。水素化物系の固体電解質20は、LiBHとリチウムハライド化合物(LiI,LiBr,LiCl)及びリチウムアミド(LiNH)との固溶体が例示される。有機系の固体電解質20は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリルが例示される。
【0022】
イオン液体は電解質塩が溶解している。電解質塩は、キャリアイオンがLiイオンの場合、LiBF,LiPF,LiClO,Li(CFSO),LiN(CFSO,LiN(SOF),LiN(CSOが例示される。
【0023】
イオン液体は、カチオンとして、ブチルトリメチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム等のアンモニウム系;1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム系;1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム等のピペリジニウム系;1-ブチル-4-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム等のピリジニウム系;1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム等のピロリジニウム系;トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等のスルホニウム系;ホスホニウム系;モルホニウム系を有するものが例示される。
【0024】
イオン液体は、アニオンとして、Cl、Br等のハロゲン化物系;BF 等のホウ素化物系;(NC)、(CFSO、(FSO等のアミン系;CHSO 等のスルファート系;CFSO 等のスルホナート系;PF 等のリン酸系を有するものが例示される。
【0025】
イオン液体は、ブチルトリメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルプロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミドが例示される。
【0026】
複合層13に含まれるバインダーは、活物質19や固体電解質20を結着する。バインダーはポリイミド系、アクリル系、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及び、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が例示される。
【0027】
複合層13には、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルから選択される少なくとも1種以上の炭酸エステルが含まれる。環状炭酸エステルは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートが例示される。鎖状炭酸エステルは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが例示される。
【0028】
炭酸エステルはバインダーを溶かす溶媒として機能できる。炭酸エステルは、バインダーと共に複合層13の可塑性を向上させる。炭酸エステルはプロピレンカーボネートを含むものが好適である。プロピレンカーボネートは粘性が低いので、電解質組成物に含まれるプロピレンカーボネートが少量でも、薄いシート状の複合層13を成形し易いからである。また、炭酸エステルの中ではプロピレンカーボネートは沸点が高いので、乾燥などの工程を経てもプロピレンカーボネートは複合層13に残留し易いからである。これによりプロピレンカーボネートが揮発して生じる複合層13の空隙を少なくできる。
【0029】
複合層13において、固体イオン伝導材料18とイオン液体との割合(体積%)は、固体イオン伝導材料:イオン液体=(100-X):X、但し0<X≦30であることが好ましい。イオン液体による固体イオン伝導材料18の粒界のイオン伝導性を向上させると共に、イオン液体の染み出しを低減するためである。
【0030】
複合層13において、固体イオン伝導材料18とイオン液体とを合わせた量とバインダーとの割合(体積%)は、固体イオン伝導材料18とイオン液体とを合わせた量:バインダー=(100-Y):Y、但し0<Y≦10であることが好ましい。バインダーによって複合層13の成形性を確保すると共に、バインダーによるイオン伝導性の低下を低減するためである。
【0031】
複合層13の活物質19、固体電解質20、イオン液体およびバインダーの体積は、例えば以下のようにして特定できる。まず各物質が複合層13に固定された状態を得るために、液体窒素等で複合層13を凍結させ、又は、4官能性のエポキシ系等樹脂に複合層13を埋め込み、複合層13を固めた後、切断面を得る。
【0032】
次に、エネルギー分散型X線分光器(EDS)が搭載された走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、切断面において無作為に選択した5000倍の視野を対象に、活物質19の元素、固体電解質20の元素(例えばLLZの場合には、La,Zr)、イオン液体の元素(例えば1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む場合にはS)、バインダーの元素(例えばポリフッ化ビニリデンの場合にはF)の分布を特定したり、反射電子像のコントラストを画像解析したりする。これにより活物質19、固体電解質20、イオン液体およびバインダーの視野に占める面積を測定する。活物質19、固体電解質20、イオン液体およびバインダーの面積を各物質の体積とみなして割合(体積%)を特定する。
【0033】
電解質層14は、固体電解質20(固体イオン伝導材料)、イオン伝導性を有するイオン液体、バインダー及び炭酸エステルを含む。電解質層14は電解質組成物からなる。電解質層14に含まれる固体電解質20、イオン伝導性を有するイオン液体、バインダー及び炭酸エステルは、複合層13に含まれるものと同様なので、説明を省略する。
【0034】
負極層15は集電層16と複合層17とが重ね合わされている。集電層16は導電性を有する部材である。集電層16の材料はNi,Ti,Fe,Cu及びSiから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0035】
複合層17は、固体イオン伝導材料21、イオン伝導性を有するイオン液体、バインダー及び炭酸エステルを含む。固体イオン伝導材料21は、活物質22と固体電解質20とを合わせたものである。複合層17の抵抗を低くするために、複合層17に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維,Ni,Pt及びAgが例示される。複合層17は電解質組成物からなる。
【0036】
複合層17に含まれる固体電解質20、イオン伝導性を有するイオン液体、バインダー及び炭酸エステルは、複合層13に含まれるものと同様なので説明を省略する。固体イオン伝導材料21とイオン液体とを合わせた量とバインダーとの割合(体積%)や体積の求め方は、複合層13の場合と同様なので説明を省略する。活物質22は、Li、Li-Al合金、LiTi12、黒鉛、In、Si、Si-Li合金、及び、SiOが例示される。
【0037】
複合層13,17及び電解質層14の電解質組成物に含まれる固体イオン伝導材料18,21(固体電解質20を含む)は、電解質組成物に含まれる固体イオン伝導材料18,21、イオン液体およびバインダーの合計量Tに対して70質量%以上95質量%以下である。合計量Tに対する固体イオン伝導材料の割合(質量%)は、強熱減量試験法によって求められる。強熱減量試験により残留成分と揮発成分の重量割合を求め、残留成分の質量割合を固体イオン伝導材料の割合とする。
【0038】
複合層13において、固体電解質20は合計量Tに対して5-40質量%であることが好ましく、活物質19は合計量Tに対して50-85質量%であることが好ましい。複合層17において、固体電解質20は合計量Tに対して10-50質量%であることが好ましく、活物質22は合計量Tに対して40-70質量%であることが好ましい。電解質層14において、固体電解質20は合計量Tに対して70-95質量%であることが好ましい。
【0039】
電解質組成物に含まれる炭酸エステルは、合計量Tに対して1質量%以上10質量%以下である。固体イオン伝導材料間の空隙に存在する炭酸エステルの量を確保すると共に、複合層13,17及び電解質層14の積層の不具合を低減するためである。合計量Tに対する炭酸エステルの割合(質量%)は、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)によって求められる。
【0040】
GC-MSで測定する試料は、電子天秤にて秤量し、バイアル瓶に入れて密閉する。検量線作成用試料は、対象物質をエタノールで希釈した溶液をマイクロシリンジで秤量し、バイアル瓶に入れて密閉する。分析装置は例えばGCMS-QP2010Plus(島津製作所製)を用いる。ガスクロマトグラフの操作条件は以下のとおりである。
【0041】
キャリヤーガス:ヘリウムガス、1.0mL/min
カラム:分配形キャピラリーカラム
固定相液体:5%フェニル-95%ジメチルポリシロキサン、膜厚0.25μm
カラム用キャピラリー:材質はヒューズドシリカ、内径0.25mm、長さ30m
試料の導入:ヘッドスペース法、1分加圧、0.2分注入
試料気化室温度:200℃
カラム槽温度:初期温度40℃、昇温速度20℃/min、最終温度320℃(昇温法)
質量分析計の操作条件は以下のとおりである。
【0042】
イオン化法:電子衝撃法(EI法)、正イオン、イオン化電圧は70eV
インターフェース(GC/MS接続部)の温度:250℃
校正用標準試料:デカフルオロトリフェニルホスフィン(DFTPP)をオートチューニングで自動注入。
【0043】
蓄電デバイス10は、例えば以下のように製造される。電解質塩を溶解したイオン液体と固体電解質20とを混合したものに、バインダーを溶解した炭酸エステルを混合し、スラリーを作る。テープ成形後、乾燥して電解質層14のためのグリーンシート(電解質シート)を得る。
【0044】
電解質塩を溶解したイオン液体と固体電解質20とを混合したものに活物質19を混合し、さらにバインダーを溶解した炭酸エステルを混合し、スラリーを作る。集電層12の上にテープ成形後、乾燥して正極層11のためのグリーンシート(正極シート)を得る。
【0045】
電解質塩を溶解したイオン液体と固体電解質20とを混合したものに活物質22を混合し、さらにバインダーを溶解した炭酸エステルを混合し、スラリーを作る。集電層16の上にテープ成形後、乾燥して負極層15のためのグリーンシート(負極シート)を得る。
【0046】
電解質シート、正極シート及び負極シートをそれぞれ所定の形に裁断した後、正極シート、電解質シート、負極シートの順に重ね、互いに圧着して一体化する。集電層12,16にそれぞれ端子(図示せず)を接続しケース(図示せず)に封入して、順に正極層11、電解質層14及び負極層15を含む蓄電デバイス10が得られる。
【0047】
蓄電デバイス10の性能を確認する充放電試験の一つに、定電流・定電圧充電-定電流放電試験がある。この試験において充放電を繰り返すと蓄電デバイスに微小な内部短絡が生じ、充電時に電位が上昇しなくなったり(充電上限電位に達しなくなったり)電位が不安定になったりすることがある。この原因の一つは、還元されたキャリアイオンが、金属として複合層13,17や電解質層14に析出することであると推察される。電解質組成物を含む蓄電デバイス10は、微小な内部短絡を低減できる。
【0048】
電解質組成物が内部短絡を低減するメカニズムは、以下のように推察される。電解質組成物に含まれる固体イオン伝導材料18,21、イオン液体およびバインダーの合計量Tに対して、電解質組成物に含まれる固体イオン伝導材料18,21が70質量%以上なので、析出した金属が成長する固体イオン伝導材料18,21間の空隙を少なくできる。電解質組成物に含まれる炭酸エステルは、合計量Tに対して1質量%以上なので、複合層13,17及び電解質層14の可塑性を確保できる。その結果、シートを圧着して複合層13,17及び電解質層14を一体化するときに各層が潰れ易くなり、固体イオン伝導材料18,21間の空隙を減らすことができる。固体イオン伝導材料18,21間の空隙に存在する炭酸エステルは、析出した金属の成長を低減したり成長する金属の形状を変化させたりする。これにより内部短絡を低減できる。
【0049】
電解質組成物に含まれる炭酸エステルは、合計量Tに対して10質量%以下なので、シートを重ねて複合層13,17及び電解質層14を一体化するときに生じる不具合や、ケース(図示せず)に封入された炭酸エステルが気化してケースが変形したりする不具合を低減できる。
【実施例0050】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(固体電解質の調製)
Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012となるように、LiCO,MgO,La(OH),SrCO,ZrOを秤量した。LiCOは、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰にした。秤量した原料および有機溶剤をジルコニア製ボールと共にナイロン製ポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。ポットから取り出したスラリーを乾燥後、MgO製の板の上で仮焼成(1100℃で10時間)した。仮焼成後の粉末、バインダー及び有機溶剤をポットに投入し、ボールミルで15時間粉砕混合した。
【0052】
ポットから取り出したスラリーを乾燥後、直径12mmの金型に投入し、プレス成形により厚さが1.5mm程度の成形体を得た。冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧をさらに成形体に加えた。成形体と同じ組成の仮焼粉末で成形体を覆い、還元雰囲気において焼成(1100℃で4時間)し、焼結体を得た。焼結体のイオン伝導率は1.0×10-3S/cmであった。イオン伝導率の測定条件は、温度25℃、電圧10mV、周波数7MHz-100mHzとした。焼結体をAr雰囲気のグローブボックス内で粉砕して、酸化物系の固体電解質の粉末(以下「LLZ粉末」と称す)を得た。
【0053】
(イオン伝導性を有するイオン液体の調製)
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミドに、リチウム塩であるLiN(CFSOを0.8mol/l複合し、リチウム塩が溶解したイオン液体(以下「LiTFSI」と称す)を得た。
【0054】
(複合粉末の調製)
アルゴン雰囲気において、後ほど加えるバインダー、LiTFSI及びLLZ粉末の合計量Tに対してLLZ粉末(固体イオン伝導材料)が70質量%となるようにLiTFSI及びLLZ粉末を秤量した。乳鉢を用いてLiTFSI及びLLZ粉末を混合し、複合粉末を得た。
【0055】
(No.1の評価セル)
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(バインダー)を溶解したプロピレンカーボネート(炭酸エステル)を複合粉末に混合した後、遊星式撹拌機を使ってスラリーを作成した。アプリケータ(クリアランス100μm)を用いてアルミニウム箔の上にスラリーを塗布し、電解質層を形成した。80℃で1時間の減圧乾燥を行い、No.1における電解質シートを得た。
【0056】
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(バインダー)を溶解したプロピレンカーボネート(炭酸エステル)、及び、LiNi0.8Co0.15Al0.05(活物質)を複合粉末に混合した後、遊星式撹拌機を使ってスラリーを作成した。アプリケータ(クリアランス100μm)を用いてアルミニウム箔の上にスラリーを塗布し、複合層を形成した。80℃で1時間の減圧乾燥を行い、No.1における正極シートを得た。なお、正極シートの複合層は、LLZ粉末、活物質、バインダー及びLiTFSIの合計量Tに対してLLZ粉末および活物質(固体イオン伝導材料)が70質量%となるようにした。
【0057】
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(バインダー)を溶解したプロピレンカーボネート(炭酸エステル)、及び、天然黒鉛(活物質)を複合粉末に混合した後、遊星式撹拌機を使ってスラリーを作成した。アプリケータ(クリアランス100μm)を用いて銅箔の上にスラリーを塗布し、複合層を形成した。80℃で1時間の減圧乾燥を行い、No.1における負極シートを得た。なお、負極シートの複合層は、LLZ粉末、活物質、バインダー及びLiTFSIの合計量Tに対してLLZ粉末および活物質(固体イオン伝導材料)が70質量%となるようにした。
【0058】
電解質シート、正極シート及び負極シートを裁断した後、正極シートの複合層と負極シートの複合層との間に、アルミニウム箔を剥がした電解質シート(電解質層)を挟み、60℃に加熱したロールプレス機で加圧し、積層体を得た。端子が配置されたラミネートフィルムに積層体を真空包装し、No.1における評価セルを得た。
【0059】
(No.2の評価セル)
電解質シート、正極シート及び負極シートの減圧乾燥の温度を100℃にした以外は、材料の配合量、シートの乾燥時間、ロールプレス機の温度・圧力などの条件はNo.1の評価セルと同様にして、No.2における評価セルを得た。
【0060】
(No.3の評価セル)
LiTFSI及びLLZ粉末の合計量Tに対してLLZ粉末が80質量%となるように混合した複合粉末を用い、電解質シート、正極シート及び負極シートの減圧乾燥の温度を100℃にした以外は、材料の配合量、シートの乾燥時間、ロールプレス機の温度・圧力などの条件はNo.1の評価セルと同様にして、No.3における評価セルを得た。No.3における評価セルは、正極シート及び負極シートの複合層を、LLZ粉末、活物質、バインダー及びLiTFSIの合計量Tに対してLLZ粉末および活物質(固体イオン伝導材料)が80質量%となるようにした。
【0061】
(No.4の評価セル)
電解質シート、正極シート及び負極シートの減圧乾燥の温度を130℃にした以外は、材料の配合量、シートの乾燥時間、ロールプレス機の温度・圧力などの条件はNo.1の評価セルと同様にして、No.4における評価セルを得た。
【0062】
(No.5の評価セル)
電解質シート、正極シート及び負極シートの減圧乾燥の温度を150℃にした以外は、材料の配合量、シートの乾燥時間、ロールプレス機の温度・圧力などの条件はNo.1の評価セルと同様にして、No.5における評価セルを得た。
【0063】
(No.6の評価セル)
電解質シート、正極シート及び負極シートの減圧乾燥の温度を60℃にした以外は、材料の配合量、シートの乾燥時間、ロールプレス機の温度・圧力などの条件はNo.1の評価セルと同様にして、No.6における評価セルを得た。No.6における評価セルは、ロールプレス機で加圧したときに積層体が潰れた。
【0064】
(固体イオン伝導材料および炭酸エステルの定量分析)
No.1-6の評価セルの電解質層14及び複合層13,17に含まれる固体イオン伝導材料(質量%)を、強熱減量試験による残留成分の重量割合から求めた。
【0065】
No.1-6の評価セルの電解質層14及び複合層13,17に含まれる炭酸エステル(質量%)を、GC-MS(GCMS-QP2010Plus(島津製作所製))を使って測定した。定量は、解析ソフトを使ってマスクロマトグラムを手動で範囲指定し、ピーク面積を自動算出して行った。測定回数は1回、検出方式は質量分析法(四重極型)、選択イオンはm/z57、被検成分はプロピレンカーボネートであった。内標準物質は使わなかった。
【0066】
(充放電試験)
No.1-5の評価セルの定電流・定電圧充電-定電流放電試験を行った。試験は0.5Cレートの定電流で充電し(定電流モード)、端子電圧が充電上限電圧(4.2V)に達したときに定電圧モードに切り替えた。全充電時間は充電電流が0.1Cまで低下するまでとし、0.5Cレートの定電流で放電した。これを1サイクルとして30サイクル繰り返した。定電流モードのときに充電上限電圧に達しなかった評価セルや、定電圧モードのときに電流値が異常に変動した評価セルは、内部短絡が発生したと判定した。No.6の評価セルは短絡していたので充放電試験は行わなかった。
【0067】
(結果)
表1は、各評価セルの電解質層14及び複合層13,17におけるLLZ粉末(固体イオン伝導材料)、イオン液体およびバインダーの合計量Tに対する固体イオン伝導材料の含有量(質量%)、電解質層14及び複合層13,17の合計量Tに対するプロピレンカーボネート(炭酸エステル)の含有量(質量%)、内部短絡の有無の一覧表である。
【0068】
【表1】
表1によれば、電解質層や複合層において固体イオン伝導材料、イオン液体、及び、バインダーの合計量Tに対して固体イオン伝導材料が70質量%以上含まれ、合計量Tに対して炭酸エステルが1質量%以上10質量%以下含まれるNo.1-4の評価セルは、充放電試験において内部短絡が生じなかった。
【0069】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0070】
実施形態では、蓄電デバイス10として、集電層12の片面に複合層13が設けられた正極層11、及び、集電層16の片面に複合層17が設けられた負極層15を備えるものを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電層12の両面に複合層13と複合層17とをそれぞれ設けた電極層(いわゆるバイポーラ電極)を備える蓄電デバイスに、実施形態における各要素を適用することは当然可能である。バイポーラ電極と電解質層14とを交互に積層しケース(図示せず)に収容すれば、いわゆるバイポーラ構造の蓄電デバイスが得られる。
【0071】
実施形態では、複合層13,17及び電解質層14が全て電解質組成物からなる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。複合層13,17及び電解質層14の少なくとも1つが電解質組成物でできていれば良い。
【0072】
実施形態では、リチウムイオン固体電池(二次電池)を例示して電極層(正極層11及び負極層15)及び電解質層14を備える蓄電デバイス10を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の蓄電デバイスとしては、金属空気電池やナトリウムイオン電池、多価イオン電池などの他の二次電池や一次電池、電解コンデンサが挙げられる。
【符号の説明】
【0073】
10 蓄電デバイス
11 正極層(電極層)
14 電解質層
15 負極層(電極層)
18,21 固体イオン伝導材料
20 固体電解質(固体イオン伝導材料)
図1