(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118881
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】空気二次電池用触媒及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20220808BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220808BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220808BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220808BHJP
B01J 23/644 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/90 X
H01M12/08 K
H01M4/38 A
B01J23/644 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015677
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】井上 実紀
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】渡部 芳克
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CC40
4G169EA01Y
4G169EB18Y
4G169EC22X
4G169EC25
4G169FC08
5H018AA10
5H018BB01
5H018BB06
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5H018BB12
5H018BB13
5H018BB16
5H018EE13
5H018HH00
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS11
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5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
5H032HH04
5H050AA07
5H050BA20
5H050CA12
5H050CB16
5H050CB17
5H050CB18
(57)【要約】
【課題】従来よりも微小短絡の発生を抑制することができ、もって、サイクル寿命特性の向上を図ることができる空気二次電池用触媒及びこの空気二次電池用触媒を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】電池2は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含む電極群10と、電極群10をアルカリ電解液82とともに収容している容器4と、を備え、空気極16は、空気二次電池用触媒を含んでおり、この空気二次電池用触媒は、組成式がBi
2Ru
2O
7で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、この結晶構造における格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がBi2Ru2O7で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む、空気二次電池用触媒。
【請求項2】
前記格子定数が、10.23Å以上、10.24Å以下である、請求項1に記載の空気二次電池用触媒。
【請求項3】
容器と、
前記容器内に配設された電極群と、
前記容器内に注入されたアルカリ電解液と、を備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、
前記空気極は、請求項1又は2に記載の空気二次電池用触媒を含んでいる、空気二次電池。
【請求項4】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項3に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用触媒及びこの空気二次電池用触媒を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(I)
放電(酸素還元反応):O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水酸化物イオンが生成される。
【0008】
上記した空気二次電池の正極である空気極としては、上記した充放電反応を促進させる触媒が用いられている。空気二次電池においては、エネルギー効率の向上や高出力化を図るため、空気極の充放電反応における過電圧を低減することが望まれている。このため、空気極に用いられる触媒となる材料に関しては、過電圧の低減に有効な材料の検討がなされている。そのような過電圧の低減に有効な材料としては、種々の金属酸化物が有望である。そのような金属酸化物のなかでも、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、電位窓が広いこと、安定であること、高い充放電サイクル耐性を有していることなどから特に有望である。
【0009】
ところで、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を空気極に用いた空気二次電池を繰り返し使用していると、空気極において、ビスマスのデンドライト成長が見られ、このビスマスのデンドライトがセパレータ中に伸びていく現象が起こる。そして、ビスマスのデンドライトは最終的には、セパレータを突き抜けてしまう。その結果、空気二次電池内で微小短絡が起こる。このような微小短絡が発生すると、電池内部では、正極及び負極の間で、電解質を介したイオン伝導性だけではなく、電子伝導性が存在することになる。電子伝導性が存在する場合、電池は自己放電を起こしていることになる。その結果、比較的少ないサイクル数で電池の放電容量の低下が起こり、早期に電池の寿命が尽きてしまうという問題がある。
【0010】
パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は触媒であるので、空気二次電池の充放電反応にともない、ビスマスルテニウム複合酸化物自体からのビスマスの溶解析出は通常は起こらないと考えられる。しかしながら、実際には、上記のような微小短絡が生じているため、この微小短絡の問題に関する検討が種々行われている。そのような検討の中で、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を製造する過程で生じる副生成物が微小短絡発生の原因である可能性があることが見出された。そこで、特許文献2によれば、この副生成物を除去するために、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を酸性水溶液に浸漬させる酸処理工程を含む空気二次電池用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6444205号公報
【特許文献2】特開2019-179592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2の空気二次電池用触媒の製造方法を採用して得られたパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を触媒として空気極に用いた空気二次電池においては、サイクル寿命の長さが十分なものとなっていないのが現状である。つまり、空気極における微小短絡の抑制が未だ不十分であると考えられる。
【0013】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも微小短絡の発生を抑制することができ、もって、サイクル寿命特性の向上を図ることができる空気二次電池用触媒及びこの空気二次電池用触媒を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明によれば、組成式がBi2Ru2O7で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む、空気二次電池用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る空気二次電池用触媒は、組成式がBi2Ru2O7で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含んでいる。格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下の範囲にあると、ビスマスルテニウム複合酸化物の構造安定性が高く、ビスマスが溶出しにくくなり、ビスマスのデンドライト成長が抑制され、微小短絡の発生が抑えられる。このため、本発明に係る空気二次電池用触媒を空気極に用いた空気二次電池は、従来の空気二次電池よりもサイクル寿命特性が向上する。よって、本発明によれば、従来よりも微小短絡の発生を抑制することができ、もって、サイクル寿命特性の向上を図ることができる空気二次電池用触媒及びこの空気二次電池用触媒を含む空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
【
図2】格子定数とサイクル数との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態に係る空気二次電池用の空気極触媒を含む空気水素二次電池(以下、電池とも表記する)2について図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
【0019】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0020】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0021】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛、カーボンブラック等の粒子の集合体である粉末を用いることができる。
【0022】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgaNib-c-dAlcMd・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0023】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0024】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0025】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0026】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、粒子間に隙間があり、全体として多孔質構造をなしている。
【0027】
次に、空気極16は、網目構造を有する導電性の空気極基材と、前記した空気極基材に担持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極基材としては、例えば、ニッケルメッシュを用いることができる。
【0028】
空気極合剤は、酸化還元触媒(空気極触媒)、導電材、及び結着剤を含む。
酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素発生及び酸素還元の2元機能を有している。
【0029】
本実施形態においては、組成式がBi2Ru2O7で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を用いる。
【0030】
ここで、本願の発明者は、空気極における微小短絡の原因について鋭意研究したところ、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物だけではなく、ビスマスルテニウム複合酸化物自体からのビスマスの溶出が少なからずあり、その溶出したビスマスも微小短絡の原因になっていることを発見した。本発明者は、空気極における微小短絡の抑制についての研究過程において、ビスマスルテニウム複合酸化物のパイロクロア型結晶構造の格子定数とビスマスの溶出にともなう微小短絡との間に関係があることを見出した。そして、ビスマスルテニウム複合酸化物のパイロクロア型結晶構造の格子定数を10.24Å以下とすることにより、顕著な短絡抑制効果が得られることを見出した。国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data, ICDD)に報告されている一般的なパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2―xRu2O7-z)の格子定数は、10.28Å以上10.30Å以下である。この格子定数は、出発原料の種類、原料の混合比、原料の混合方法、熱処理温度などの条件を調整することによって変化する。これらの諸条件を調整することにより格子定数を10.24Å以下としたパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、既に報告されている一般的なパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物よりもビスマスや酸素原子の欠損量が増加していると考えられる。これにより、金属元素の価数が増加することや金属原子-酸素原子間の結合距離が縮まることで、金属原子-酸素原子間の結合が強くなり、充放電反応時において結晶構造の安定性が向上し、ビスマスの溶出が抑制されるものと推測される。このため、ビスマスの溶出に起因する微小短絡が抑えられ、結果として空気二次電池のサイクル寿命特性は向上するものと考えられる。
【0031】
格子定数が小さいほど結晶構造が安定化し、ビスマスの溶出が抑制されるので、短絡はしにくくなると予想される。しかしながら、格子定数は幾何学的な制約を受ける。具体的には、格子定数が小さくなるように合成条件を変更していくと、やがて相分離やその他の結晶構造をとるようになる。ここで、A元素及びB元素の陽イオンからなるパイロクロア型の酸化物は、一般式:A2B2O7で表される立方晶系化合物である。各原子位置はイオン半径と電荷バランスを保ちながら様々に置換でき、ある程度の原子欠損も許容できることから、パイロクロア型の酸化物においては、多くの化合物群が存在する。この化合物群のうち、A元素がSc、Y、Biなどの3価の陽イオン、B元素がSn、Ti、Zr、Ruなどの4価の陽イオンであるA3+
2B4+
2O7型においては、A3+とB4+とのイオン半径比は1.4~1.9の間とされている。B元素をRu4+(イオン半径=0.62Å(6配位))とした場合、A元素のとり得るイオン半径は0.87~1.18Åである。実際にB元素をRuとしたパイロクロア型構造において、最小の格子定数はA元素をCd2+(イオン半径0.95Å(6配位))としたCd2Ru2O7であり、その際のイオン半径は、10.13Åである。よって、Biの欠損やNaへの置換により格子定数が減少している本実施形態においても、最小の格子定数は10.13Åとなると考えられる。よって、格子定数は10.13Å以上とする。
【0032】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0033】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを準備する。そして、原子比でRuが1.00に対し、Biが0.50~1.00となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量する。計量されたBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加えて前駆体を析出させる。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌する。この撹拌操作は、酸素バブリングをともなって半日~2日の間行う。ここで、撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHが11となるように維持するとともに、温度が60℃以上、90℃以下になるように維持する。撹拌操作の終了後、混合水溶液を半日~2日の間静置する。静置した後、生じた沈殿物を吸引濾過して回収する。回収された沈殿物は、80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、5時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。得られたペーストの乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末を得る。そして、この粉末を、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、4時間以下保持することにより熱処理を施す。熱処理が終了した粉末は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後、乾燥処理が施される。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2Ru2O7)が得られる。
【0034】
次に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0035】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上に設定することが好ましい。
【0036】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
【0037】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、100℃以上、130℃以下の環境下で1時間以上、4時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0038】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0039】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は所定の粒径に調整すべく、必要に応じ機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
【0040】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した酸化還元触媒の担体として用いられる。
【0041】
このような導電材としては、例えば、ニッケル粒子からなるニッケル粉末を用いることが好ましい。上記したニッケル粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、空気極に所望の導電性を付与できる大きさとすることが好ましい。
【0042】
上記したニッケル粉末は、空気極合剤中において、60質量%以上含有させることが好ましい。このニッケル粉末の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から80質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極16に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも表記する)が用いられる。
【0044】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としてのNi粒子の集合体である導電材粉末、結着剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、結着剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
【0045】
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート状に成形され、それにより空気極合剤シート得る。その後、空気極合剤シートは、ニッケルメッシュ(空気極基材)にプレス圧着される。これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0046】
次いで、得られた中間製品は、熱処理炉に投入され熱処理が行われる。この熱処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。熱処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、中間製品を熱処理炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、熱処理が施された中間製品が得られる。この熱処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。空気極合剤は、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子等を含んでいるので、斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多数の細孔を含む多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
【0047】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0048】
形成された電極群10は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、
図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
【0049】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0050】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0051】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0052】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0053】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0054】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0055】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0056】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、
図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
【0057】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0058】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0059】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、
図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0060】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極触媒の合成
1)第1ステップ
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを準備した。そして、原子比でRuが1.00に対し、Biが0.75となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量した。計量されたBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oをあわせて75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて前駆体を析出させた。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌した。この撹拌操作は、酸素バブリングを行いながら1日間行った。この撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHを11に維持するとともに、温度を75℃に維持した。撹拌操作の終了後、当該混合水溶液を1日間静置した。静置した後、生じた沈殿物を濾過することにより回収した。回収された沈殿物は、85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。
【0061】
2)第2ステップ
得られた前駆体の乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末状とした。得られた前駆体の粉末を、空気雰囲気下で500℃に加熱し3時間保持する熱処理を施した。当該熱処理が終了した後の前駆体を、75℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間乾燥処理を施した。これにより、およそ12gのビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)を得た。
【0062】
3)第3ステップ
ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gを20mLの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0063】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、75℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0064】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の空気極触媒(Bi2Ru2O7触媒)の粉末を得た。
【0065】
得られたBi2Ru2O7触媒の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0066】
更に、得られたBi2Ru2O7触媒について、X線回折法(XRD)により分析を行った。XRD分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が15kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、得られた回折チャートパターンから(111)面、(222)面、(400)面、(331)面、(440)面、(622)面、及び(444)面に由来するそれぞれのピーク位置を読み取った。具体的には、ブラッグの式である2dsinθ=nλ(ただし、dは結晶面の間隔、θは結晶面とX線がなす角度、λはX線の波長(本実施例ではλ=1.54Å)、nは自然数である。)及び(hkl)面の方程式を用いて結晶面の間隔dを求めた。ここで、(hkl)面の方程式は一般的にhx+ky+lz-a=0であり、原点との距離が(hkl)面の結晶面の間隔dに等しく、d=a*(h^2+k^2+l^2)^(-1/2)となる。そして、得られたdの値を、解析ソフト「CellCalc」に入力して格子定数を算出した。その結果、実施例1のBi2Ru2O7触媒の格子定数は10.239Åであった。
【0067】
(2)空気極の製造
Ni粒子の集合体であるNi粉末を準備した。このNi粒子は、平均粒径が10~20μmであった。
【0068】
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。
【0069】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)に、ニッケル粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を加えて混合した。このとき、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は20重量部、ニッケル粉末は70重量部、PTFEのディスパージョンは10重量部、イオン交換水は10重量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
【0070】
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。これにより、空気極の中間製品を得た。
【0071】
次に、中間製品を熱処理した。熱処理条件は、中間製品を窒素ガス雰囲気下で340℃の熱処理温度に加熱し、この温度で13分間保持した。熱処理された中間製品は、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。この空気極16の厚さは0.23mmであった。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.25gであった。
【0072】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0073】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、25℃の室温まで冷却した。冷却後、当該インゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0074】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0075】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0重量部、カーボンブラックの粉末0.5重量部、水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0076】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m2、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.78mmであった。
【0077】
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、負極容量規制のニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0078】
この単極セルに対し、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。この充放電サイクルを5回行うことにより負極12の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極容量とした。なお、負極容量は2.5Ahであった。
【0079】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
【0080】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0081】
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0082】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0083】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0084】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0085】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、
図1に示すような電池2を製造した。
【0086】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0087】
(実施例2)
原子比でRuが1.00に対し、Biが0.80となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、実施例2のBi2Ru2O7触媒の格子定数は10.235Åであった。
【0088】
(実施例3)
原子比でRuが1.00に対し、Biが0.80となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量したこと、第2ステップで前駆体の粉末を、空気雰囲気下で550℃に加熱し3時間保持する熱処理を施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、実施例3のBi2Ru2O7触媒の格子定数は10.239Åであった。
【0089】
(実施例4)
原子比でRuが1.00に対し、Biが0.80となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量したこと、第2ステップで前駆体の粉末を、空気雰囲気下で600℃に加熱し3時間保持する熱処理を施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、実施例4のBi2Ru2O7触媒の格子定数は10.240Åであった。
【0090】
(比較例1)
原子比でRuが1.00に対し、Biが0.85となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、比較例1のBi2Ru2O7触媒の格子定数は10.247Åであった。
【0091】
(比較例2)
原子比でRuが1.00に対し、Biが1.00となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量したこと、第3ステップで使用した硝酸水溶液の濃度を5mol/Lとしたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、比較例2のBi2Ru2O7触媒の格子定数は10.247Åであった。
【0092】
2.空気水素二次電池の評価
【0093】
(1)電池特性評価
実施例1~4、及び比較例1~2の空気水素二次電池については、25℃の雰囲気下で、空気極端子58及び負極端子60を介して、0.1Itで10時間充電し、0.2Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとする充放電を繰り返した。なお、負極容量の80%に相当する2.0Ahを1.0Itとした。
【0094】
上記した充放電操作において、充電と放電との間、及び放電と充電との間には、それぞれ10分間の休止期間を設けた。そして、この休止期間に空気水素二次電池の開路電圧(OCV)を測定した。ここで、充電と放電との間の休止期間でのOCVを充電時OCVとし、放電と充電との間の休止期間でのOCVを放電時OCVとした。この電池において、充電しても1.3Vを超える電圧を発生できなくなった場合、電池内部で短絡が発生したものとした。よって、充電時OCVが1.3V以下となるまでのサイクル数を数え、そのサイクル数をサイクル寿命とした。得られたサイクル数を表1に示した。また、実施例1~4、及び比較例1、2の空気水素二次電池に関するサイクル数と格子定数との関係を
図2に示した。
【0095】
なお、上記した充放電操作において、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、33mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。
【0096】
【0097】
(2)考察
表1及び
図2より、実施例1~4の電池のサイクル数が62回以上であるのに対し、比較例1、2の電池のサイクル数は、19回以下であり、実施例1~4の電池と、比較例1、2の電池との間には、サイクル数に大きな差があることがわかる。実施例1~4の電池に含まれるビスマスルテニウム複合酸化物も、比較例1、2の電池に含まれるビスマスルテニウム複合酸化物も、どちらも酸処理が施されており、ビスマスルテニウム複合酸化物を製造する過程で生じる副生成物は除去されている。それにも関わらず、上記のようにサイクル数に差が生じている。
【0098】
比較例1、2の電池では、副生成物に由来するビスマスの溶解析出に起因する微小短絡は抑制されていると考えられる。しかしながら、実際には微小短絡が起き、サイクル数が低い値となっている。これは、ビスマスルテニウム複合酸化物自体からのビスマスの溶解析出が起きており、それによる微小短絡が発生しているものと考えられる。
【0099】
一方、実施例1~4の電池は、比較例1、2の電池に比べ、サイクル数が大幅に改善されている。これは、ビスマスルテニウム複合酸化物自体からのビスマスの溶解析出が抑えられているためと考えられる。実施例1~4の電池に含まれるビスマスルテニウム複合酸化物は、構造が安定しているため、ビスマスの溶解が起き難いと考えられる。つまり、格子定数が10.24Å以下のパイロクロア型ビスマスルテニウム酸化物は、格子定数が10.24Åを超えるパイロクロア型ビスマスルテニウム酸化物に比べ、充放電反応時における構造安定性が高く、微小短絡の原因となるビスマスの溶解析出が起こり難くなっていると考えられる。
【0100】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、組成式がBi2Ru2O7で表されるパイロクロア型の結晶構造を有しており、前記結晶構造における格子定数が、10.13Å以上、10.24Å以下であるビスマスルテニウム複合酸化物を含む、空気二次電池用触媒である。
【0101】
この第1の態様によれば、ビスマスルテニウム複合酸化物の構造安定性が高くなり、ビスマスの溶出が抑えらる。その結果、ビスマスのデンドライト成長が抑制され、微小短絡の発生を抑えることができる。
【0102】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記格子定数が、10.23Å以上、10.24Å以下である、空気二次電池用触媒に関する。
【0103】
この第2の態様によれば、ビスマスルテニウム複合酸化物の構造安定性がより高くなる。
【0104】
本発明の第3の態様は、容器と、前記容器内に配設された電極群と、前記容器内に注入されたアルカリ電解液と、を備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、前記空気極は、上記した第1又は第2の態様の空気二次電池用触媒を含んでいる、空気二次電池である。
【0105】
この第3の態様によれば、従来の空気二次電池よりもサイクル寿命特性が向上した空気二次電池が得られる。
【0106】
本発明の第4の態様は、前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、上記した第3の態様の空気二次電池である。
【0107】
この第4の態様によれば、寿命特性に優れる空気水素二次電池が得られる。
【0108】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではない。例えば、本発明は、空気水素二次電池に限定されるものではなく、負極に用いる金属として、Zn、Al、Mg、Liなどを用いた他の空気二次電池であっても構わない。これら他の空気二次電池においては、空気極での反応が、本実施形態の空気水素二次電池と同様であり、電池のサイクル寿命の向上効果が同様に得られる。
【符号の説明】
【0109】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材