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特開2022-118899古紙処理方法およびこれに用いる処理溶媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118899
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】古紙処理方法およびこれに用いる処理溶媒
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/46 20060101AFI20220808BHJP
   C07D 307/48 20060101ALI20220808BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20220808BHJP
【FI】
C07D307/46
C07D307/48
B09B3/00 304H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015718
(22)【出願日】2021-02-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】593045341
【氏名又は名称】明和製紙原料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511110441
【氏名又は名称】駒津 慎
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 久士
(72)【発明者】
【氏名】細谷 隆史
(72)【発明者】
【氏名】駒津 慎
【テーマコード(参考)】
4C037
4D004
【Fターム(参考)】
4C037HA20
4C037HA21
4D004AA12
4D004AC05
4D004BA06
4D004CA04
4D004CA12
4D004CA22
4D004CA34
4D004CB13
4D004CB31
4D004CC04
(57)【要約】
【課題】廃棄物から直接フラン化合物を生成することにより、作業工数および投入エネルギーを低減しつつ、収率を向上する古紙処理方法およびこれに用いる処理溶媒を提供する。
【解決手段】本実施形態は、古紙を処理する古紙処理方法である。古紙処理方法は、分解処理工程、および分離工程を含む。分解処理工程は、原料となる古紙を、精製することなくそのままイオン液体を用いて分解し、フラン化合物を生成する。分離工程は、分解処理工程で廃棄物から生成したフラン化合物を分離する。イオン液体は、1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来の廃棄物を処理する廃棄物処理方法であって、
前記廃棄物を破砕する破砕工程と、
前記破砕工程で破砕された前記廃棄物を、イオン液体を用いて分解し、フラン化合物を生成する分解処理工程と、
前記分解処理工程で前記廃棄物から生成した前記フラン化合物を分離する分離工程と、を含み、
前記イオン液体として、1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩を用いる廃棄物処理方法。
【請求項2】
前記廃棄物は、廃棄した紙を含む古紙である請求項1記載の廃棄物処理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の植物由来の廃棄物を処理するときに用いる処理溶媒であって、
1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩を主成分とする処理溶媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、植物由来の廃棄物処理方法およびこれに用いる処理溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば廃材や古紙といった植物由来の廃棄物は、再生紙やバイオマス燃料での利用など一部が再利用されているものの、多くは焼却処理されている(例えば特許文献1など参照)。特に近年、主に古紙などの廃棄物は、海外への輸出が制限される傾向にある。そのため、日本国内で発生する植物由来の廃棄物は、国内での有効な処理が求められている。しかし、植物由来の廃棄物は、用途が限定されることから、消費量および処理量が伸び悩んでいる。そのため、植物由来の廃棄物は、国内での有効な処理に限界があるのが現状である。
【0003】
そこで、近年、純粋なセルロースからフラン化合物を生成し、このフラン化合物を樹脂や医薬品の原料とする研究が進められている(特許文献2など参照)。しかしながら、これらは、パルプから分離した純粋なセルロースを原料とするものであり、廃材や古紙といった雑多な廃棄物を処理することは想定していない。そのため、廃棄物を処理するためには、これら植物由来の廃棄物からセルロースを生成する前処理を必要とし、作業工数および投入エネルギーが増大し、収率も低いという問題がある。また、特許文献2の場合、純粋なセルロースであっても、この溶解および加水分解の工程を必要とし、作業工数が増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-256808号公報
【特許文献2】特表2017-537119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、廃棄物から直接フラン化合物を生成することにより、作業工数および投入エネルギーを低減しつつ、収率を向上する植物由来の廃棄物処理方法およびこれに用いる処理溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態では、イオン液体として1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩(以下、「処理溶媒」と省略する)」を用いている。この処理溶媒は、不揮発性であり、純粋なセルロースに限らず、種々の植物由来の廃棄物に対して高い溶解力を発揮する。そして、この処理溶媒は、熱的な安定性が高いことから取り扱いおよび再利用が容易である。本実施形態では、この処理溶媒に、任意の大きさに破砕した植物由来の廃棄物を投入し、加熱することにより、フラン化合物が生成する。生成したフラン化合物は、処理溶媒から任意の手法で分離される。そのため、本実施形態では、フラン化合物の生成の前段階としてセルロースを精製する工程は不要である。すなわち、本実施形態では、フラン化合物は、植物由来の廃棄物を直接処理溶媒に投入することにより容易に生成される。したがって、作業工数および投入エネルギーを低減することができ、収率も高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態による廃棄物処理方法の流れを示す概略図
図2】一実施形態による廃棄物処理方法を説明する模式図
図3】一実施形態による廃棄物処理方法に用いる処理溶媒を示す化学式
図4】一実施形態による廃棄物処理方法で生成するフラン化合物を示す化学式
図5】一実施形態による廃棄物処理方法に適用する廃棄物の例である古紙の写真を示す図
図6】一実施形態による廃棄物処理方法に適用する廃棄物の例である古紙を構成する成分を示す概略図
図7】一実施形態による廃棄物処理方法に適用する廃棄物の例である古紙に含まれるフラン化合物の原料となる成分を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態による植物由来の廃棄物処理方法について詳細に説明する。
本実施形態の場合、図1に示すように廃棄物処理方法は、破砕工程(S101)、分解処理工程(S102)および分離工程(S103)を含んでいる。図2に示すような廃棄物10は、例えば建築物などに含まれる木材、古紙、間伐材あるいは落葉など、植物を由来とするものであれば加工品または未加工品など任意のものを用いることができる。これらの廃棄物10は、S101の破砕工程において適度な大きさに破砕される。この場合、廃棄物10は、必ずしも微細に破砕する必要はなく、取り扱いが容易な程度に任意の大きさに破砕すれば足りる。後続するS102の分解処理工程において処理を容易にするためには、廃棄物10は数mm~数10cm程度に破砕することが好ましい。なお、廃棄物10は、数mm以下、すなわち数μm程度に破砕してもよい。
【0009】
破砕工程で破砕された廃棄物10は、分解処理工程で処理される。破砕された廃棄物10は、イオン液体である処理溶媒11に投入される。例えば、廃棄物10は、図2に示すように反応容器12に貯えられている処理溶媒11に投入される。本実施形態の場合、処理溶媒11は、図3に示すように1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩([MIM]HSO)である。この処理溶媒11は、1-メチルイミダゾールと硫酸とで塩を形成したイオン液体である。処理溶媒11は、処理温度として適当な100℃~300℃付近で液体として存在し、不揮発性を示す。また、処理溶媒11は、この100℃~300℃付近の温度で熱的な安定性が高い。さらに、処理溶媒11は、単に破砕されただけの廃棄物10に対して、高い溶解力を発揮する。処理溶媒11は、これらの特徴によって、例えば純粋なセルロースを生成するなどの前処理を経ることなく、単に破砕されただけの廃棄物10を溶解する。
【0010】
S103の分解処理工程では、廃棄物10および処理溶媒11が投入された反応容器12は、100℃~300℃程度に加熱される。処理溶媒11の温度が100℃を下回ると、廃棄物10の分解に際しての反応速度が低下する。一方、処理溶媒11の温度が300℃を超えると、生成したフラン化合物がさらに分解するおそれがある。そこで、分解処理工程は、100℃~300℃程度の温度範囲で実行することが好ましい。
分解処理工程では、イオン液体である処理溶媒11に破砕した廃棄物10を投入して加熱する。これにより、処理溶媒11に溶解した廃棄物10は、分解してフラン化合物を生成する。具体的には、廃棄物10は、処理溶媒11のイオンの作用により、廃棄物10に含まれるセルロースなどを構成するグルコースなどの糖成分に、加水分解および脱水反応が生じる。その結果、廃棄物10は、糖成分を原料とするフラン化合物を生成する。生成するフラン化合物は、例えば図4に示すような5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)、およびフルフラール(FF)などである。これらのフラン化合物は、例えば樹脂、医薬品などの原料として用いることができる。
【0011】
分解処理工程で生成したフラン化合物は、続くS103の分離工程において処理溶媒11から分離される。分離工程は、例えば処理溶媒11とは異なる他の溶媒を用いる抽出や蒸留など、既知の任意の手法によって実施することができる。処理溶媒11は、不揮発性である。そのため、処理溶媒11は、フラン化合物を分離した後、再利用可能である。すなわち、処理溶媒11は、分解処理工程で廃棄物10から生成したフラン化合物を分離工程で分離した後、あらためて分解処理工程に用いられる。この場合、処理溶媒11には、廃棄物10を由来としてフラン化合物の生成に寄与しない様々な物質が溶解する。処理溶媒11は、不揮発性で熱的安定性が高いことから、これら溶解した物質の影響をほとんど受けない。そのため、処理溶媒11は、溶解した物質が反応を妨げるほどの濃度に至らない限り、繰り返し利用することができる。
以上の手順により、植物由来の廃棄物10は、処理溶媒11を用いてフラン化合物を生成する。
【0012】
次に、本実施形態の実施例を説明する。
実施例では、廃棄物10として古紙を用いた。古紙は、破砕処理されており、図5に示すように破砕時に発生する数mm以下の微細な繊維状の破片および粉末に加え、破砕が十分に行なわれていない数cmを超える大きさの破片など、様々な大きさのものが含まれている。また、この古紙を主成分とする廃棄物10は、図6に示すようにリグニン、α-セルロース、ヘミセルロース、灰分、およびその他を含んでいる。このように、古紙を主成分とする廃棄物10は、純粋なセルロース以外の成分も含んでいる。このうち、その他に含まれる成分としては、例えばエタノール-ベンゼンを溶媒とした抽出物などである。この抽出物は、古紙に含まれる印刷物のインクなどに由来すると考えられる。また、古紙は、図7に示すようにフラン化合物の原料となる物質として、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノースを50質量%以上含んでいた。
【0013】
実施例では、廃棄物10としての古紙は、0.03g用いた。この古紙は、3.00gの処理溶媒11に加えた。この後、古紙を含む処理溶媒11は、180℃で20分、加熱した。これらの条件で古紙を処理したところ、フラン化合物は投入した古紙に対して30質量%を超える収率で得られた。得られたフラン化合物は、主に図4に示すような5-HMFおよびFFを含んでいた。これらの結果、古紙に含まれるフラン化合物の原料となるグルコースなどの物質に対するフラン化合物の理論収率は、70mol%を超えた。このフラン化合物の理論収率は、
理論収率(mol%)=(得られたフラン化合物の物質量)/(古紙に含まれるフラン化合物の原料となる物質の物質量)×100
として算出した。
【0014】
以上説明した一実施形態では、1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩を「処理溶媒11」として用いている。この処理溶媒11は、不揮発性であり、純粋なセルロースに限らず、種々の植物由来の廃棄物10に対して高い溶解力を発揮する。そのため、本実施形態では、この処理溶媒11に、任意の大きさに破砕した植物由来の廃棄物10である古紙を投入し、加熱することにより、フラン化合物を得ることができる。すなわち、本実施形態では、フラン化合物の生成の前段階としてセルロースを精製する工程は不要である。その結果、本実施形態では、植物由来の廃棄物10を処理溶媒11に直接投入し、加熱することによりフラン化合物が容易に生成される。したがって、全体的な作業工数および投入エネルギーを低減することができ、収率も高めることができる。
【0015】
また、一実施形態では、100℃~300℃で20分程度という比較的低温かつ短時間で廃棄物10である古紙からフラン化合物を生成している。そして、その理論収率は、70%を超えている。したがって、分解処理工程においても、作業工数および投入エネルギーを低減することができ、収率も高めることができる。
【0016】
さらに、一実施形態で用いる処理溶媒11は、熱的な安定性が高い。そのため、取り扱いが容易であり、再利用が容易である。また、この処理溶媒11は、環境負荷も小さい。したがって、投入エネルギーを低減しつつ、環境に配慮して植物由来の廃棄物10を処理することができる。
【0017】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0018】
図面中、10は廃棄物、11は処理溶媒を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール-ベンゼンを溶媒とした抽出物を含有する古紙を処理する古紙処理方法であって
古紙を、精製することなくそのままイオン液体に投入するとともに、100℃~300℃に加熱して分解し、フラン化合物を生成する分解処理工程と、
前記分解処理工程で前記廃棄物から生成した前記フラン化合物を分離する分離工程と、を含み、
前記イオン液体として、1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩を用いる古紙処理方法。
【請求項2】
前記分解処理工程の前に、前記古紙を数mm以下の微細な繊維状の破片および粉末、ならびに数cmから数10cmの破片に、物理的に破砕する破砕工程をさらに含む請求項1記載の古紙処理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の古紙を処理するときに用いる処理溶媒であって、
1-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩を主成分とする処理溶媒。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本実施形態は、古紙処理方法およびこれに用いる処理溶媒に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
そこで、古紙から直接フラン化合物を生成することにより、作業工数および投入エネルギーを低減しつつ、収率を向上する古紙処理方法およびこれに用いる処理溶媒を提供することを目的とする。