IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本無線株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ノイズ更新回路 図1
  • 特開-ノイズ更新回路 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011891
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ノイズ更新回路
(51)【国際特許分類】
   G10L 21/0232 20130101AFI20220107BHJP
【FI】
G10L21/0232
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113299
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】今里 康二郎
(57)【要約】      (修正有)
【課題】入力される音声信号からノイズ成分を的確に減算するノイズリダクション回路に用いられるノイズ更新回路を提供する。
【解決手段】ノイズ更新回路は、処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する入力信号スペクトルYi(f)について平均スペクトルレベルMを算出する平均値算出部と、処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、入力信号スペクトルYi(f)と平均スペクトルレベルMとに関してYi(f)<Te×Mである周波数fについて更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する第1の更新部と、入力信号スペクトルYi(f)と平均スペクトルレベルMとに関してYi(f)≧Te×Mである周波数fについて更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第2の更新部と、処理対象のフレームが音声成分を含むフレームである場合に、周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第3の更新部と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、前記入力信号スペクトルYi(f)について、以下の数式1に従って平均スペクトルレベルMを算出する平均値算出部と(但し、f:振幅スペクトルにおける周波数、f1:振幅スペクトルにおける最小の周波数、f2:振幅スペクトルにおける最大の周波数、Fn:最小の周波数f1から最大の周波数f2までの範囲における周波数の個数、i:時系列の順序を表す順序数)、
【数1】
前記処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、前記入力信号スペクトルYi(f)と前記平均スペクトルレベルMとに関して Yi(f)<Te×M である周波数fについて、前記処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を平均化を含む処理によって算出する第1の更新部と(但し、Te:係数)、
前記処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、前記入力信号スペクトルYi(f)と前記平均スペクトルレベルMとに関して Yi(f)≧Te×M である周波数fについて、以下の数式2に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第2の更新部と(但し、Ni-1(f):更新の1フレーム前のノイズスペクトル)、
【数2】
前記処理対象のフレームが音声成分を含むフレームである場合に、以下の数式3に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第3の更新部と、
【数3】
を有する、ことを特徴とするノイズ更新回路。
【請求項2】
前記第1の更新部が、IIRフィルタである以下の数式4もしくはFIRフィルタである以下の数式5に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する(但し、Ni-1(f):更新の1フレーム前のノイズスペクトル、Yi-j(f):更新のjフレーム前の入力信号スペクトル、K:Yi(f)に対するNi-1(f)の重みづけを決定づける定数、j:時系列における順序数iとの隔たりの程度を表す0以上の整数)、
【数4】
【数5】
ことを特徴とする請求項1に記載のノイズ更新回路。
【請求項3】
前記係数Teが、1~100の範囲のうちのいずれかの値に設定される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のノイズ更新回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノイズ更新回路に関し、例えば、高周波信号を送受信する無線機に組み込まれるノイズリダクション回路に用いられ得るノイズ更新回路に関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号に含まれる雑音成分を抑圧する手法としてスペクトル減算法(Spectral Subtraction)が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-238399号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P.Scalart and J.Vieira Filho「Speech Enhancement Based on a Priori Signal to Noise Estimation」,IEEE International Conference on.Acoustics,Speech,Signal Processing,Atlanta,GA,USA,vol.2,pp.629-632,1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スペクトル減算法を適切に適用するためには、入力される音声信号から、必要に応じてユーザのニーズも踏まえて、ノイズ成分を的確に減算することが重要である。
【0006】
そこでこの発明は、入力される音声信号から、必要に応じてユーザのニーズも踏まえて、ノイズ成分を的確に減算することが可能な、ノイズ更新回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、前記入力信号スペクトルYi(f)について、以下の数式1に従って平均スペクトルレベルMを算出する平均値算出部と(但し、f:振幅スペクトルにおける周波数、f1:振幅スペクトルにおける最小の周波数、f2:振幅スペクトルにおける最大の周波数、Fn:最小の周波数f1から最大の周波数f2までの範囲における周波数の個数、i:時系列の順序を表す順序数)、
【数1】
前記処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、前記入力信号スペクトルYi(f)と前記平均スペクトルレベルMとに関して Yi(f)<Te×M である周波数fについて、前記処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を平均化を含む処理によって算出する第1の更新部と(但し、Te:係数)、
前記処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、前記入力信号スペクトルYi(f)と前記平均スペクトルレベルMとに関して Yi(f)≧Te×M である周波数fについて、以下の数式2に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第2の更新部と(但し、Ni-1(f):更新の1フレーム前のノイズスペクトル)、
【数2】
前記処理対象のフレームが音声成分を含むフレームである場合に、以下の数式3に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第3の更新部と、
【数3】
を有する、ことを特徴とするノイズ更新回路である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のノイズ更新回路において、前記第1の更新部が、IIRフィルタである以下の数式4もしくはFIRフィルタである以下の数式5に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する(但し、Ni-1(f):更新の1フレーム前のノイズスペクトル、Yi-j(f):更新のjフレーム前の入力信号スペクトル、K:Yi(f)に対するNi-1(f)の重みづけを決定づける定数、j:時系列における順序数iとの隔たりの程度を表す0以上の整数)、
【数4】
【数5】
ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のノイズ更新回路において、前記係数Teが、1~100の範囲のうちのいずれかの値に設定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、トーン信号を抑圧しないようすることが可能となる。具体的には、スペクトル減算法を実現する従来の回路では、周波数スペクトルにおいて定常的に存在する成分をノイズと判断して抑圧するようにしているので、トーン信号も定常性があるためにノイズと判断されて抑圧の対象になり、ユーザにとって必要なトーン信号(例えば、モールス信号)も抑圧されてしまう、という問題がある。これに対して、請求項1に記載の発明では、平均スペクトルレベルよりも振幅スペクトルが著しく大きい周波数成分をノイズスペクトルの更新から除外するようにしているので、トーン信号を抑圧しないようにすることが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、係数Teが適切な値に設定されるので、平均スペクトルレベルよりも振幅スペクトルが著しく大きい周波数成分をノイズスペクトルの更新から一層確実に除外することができ、トーン信号を一層確実に抑圧しないようすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施の形態に係るノイズ更新回路を含むノイズリダクション回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施の形態に係るノイズ更新回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態に係るノイズ更新回路11を含むノイズリダクション回路1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、実施の形態に係るノイズ更新回路11の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0015】
ノイズリダクション回路1は、例えば、高周波信号を送受信する無線機に組み込まれて、音声信号に含まれる雑音成分を抑圧する手法であるスペクトル減算法(Spectral Subtraction)を実現する回路であり、主として、プリエンファシス回路2と、窓処理部3と、時間周波数変換部4と、変換結果出力部5と、減算部6と、合成部7と、周波数時間変換部8と、ディエンファシス回路9と、音声区間検出部10と、ノイズ更新回路11と、を有する。
【0016】
プリエンファシス(Pre-Emphasis:PE)回路2は、アンテナから受信した高周波信号を復調した音声信号に対して高周波成分の相対強度を予め増幅する高域強調処理を施して、高域強調処理後の信号を出力する。
【0017】
窓処理部3は、プリエンファシス回路2から出力される高域強調処理後の信号の入力を受け、入力された前記信号から所定の時間長さのフレームを抽出する(例えば、12.5msごとに25ms分の時間波形を抽出する)とともに、各フレームに対して例えばハニング窓などの窓関数を乗じて窓処理を施す。窓処理部3は、各フレームに対して窓処理を施すたびに、窓処理後のフレームを出力する。
【0018】
時間周波数変換部4は、窓処理部3から出力される窓処理後のフレームの入力を受け、前記フレームの入力を受けるたびに、前記フレームに対して時間領域の信号から周波数領域の信号への変換処理を施し、複数の周波数それぞれについての振幅成分と位相成分とを含む周波数スペクトルを計算して、実数と虚数との周波数スペクトルの信号を出力する。時間周波数変換部4は、例えば離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform)や高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)により、時間周波数変換を実行して周波数スペクトルを計算する。
【0019】
変換結果出力部5は、時間周波数変換部4から出力されるフレームごとの(例えば、12.5ms程度の間隔で)周波数スペクトルの信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記周波数スペクトルのうちの各周波数の振幅成分を含む振幅スペクトルに該当する信号を減算部6に対して出力するとともに、入力された前記周波数スペクトルのうちの各周波数の位相成分を含む位相スペクトルに該当する信号を合成部7に対して出力する。
【0020】
減算部6は、変換結果出力部5から出力されるフレームごとの振幅スペクトルに該当する信号の入力を受けるとともに、ノイズ更新回路11から出力されるフレームごとの更新後のノイズスペクトルに該当する信号の入力を受け、各フレームについて、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号から、周波数ごとに(別言すると、スペクトルごとに)、入力された前記更新後のノイズスペクトルに該当する信号を減算する。これにより、音声信号に含まれる雑音成分が抑圧される。減算部6は、変換結果出力部5から出力されるフレームごとに、減算処理後の振幅スペクトルに該当する信号を出力する。
【0021】
合成部7は、変換結果出力部5から出力されるフレームごとの位相スペクトルに該当する信号の入力を受けるとともに、減算部6から出力されるフレームごとの減算処理後の振幅スペクトルに該当する信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記位相スペクトルに該当する信号と前記振幅スペクトルに該当する信号とを合成して周波数スペクトルを生成して、実数と虚数との周波数スペクトルの信号を出力する。
【0022】
周波数時間変換部8は、合成部7から出力されるフレームごとの周波数スペクトルの信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記周波数スペクトルの信号に対して周波数領域の信号から時間領域の信号への変換処理、すなわち時間周波数変換部4における変換処理の逆変換処理を施して、音声信号を出力する。周波数時間変換部8は、例えば逆離散フーリエ変換や逆高速フーリエ変換により、周波数時間変換を実行して音声信号を生成する。
【0023】
ディエンファシス(De-Emphasis:DE)回路9は、周波数時間変換部8から出力される音声信号の入力を受け、入力された前記音声信号に対して高周波成分の相対強度を減衰させる高域減衰処理、すなわちプリエンファシス回路2の逆フィルタによる減衰処理を施して、高域減衰処理後の音声信号を出力する。
【0024】
音声区間検出部10は、変換結果出力部5から出力されて分岐されるフレームごとの振幅スペクトルに該当する信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号について、ノイズ成分のみのフレームであるのか、音声成分を含むフレームであるのか、の判定を行う。
【0025】
音声区間検出部10における、処理対象のフレームがノイズ成分のみであるのか音声成分を含むのかの判定の仕法は、特定の手順や手法に限定されるものではなく、従来もしくは新規の手順や手法の中から適当な手順や手法が適宜選択され得る。
【0026】
音声区間検出部10における、処理対象のフレームがノイズ成分のみであるのか音声成分を含むのかの判定の仕法として、例えば、音声の非恒常性に着目して、振幅スペクトルの周波数別の振幅の大きさに関する平均や分散の値が直近のフレームにおいて複数回(例えば、3~5回程度)連続して所定の閾値未満であるときは処理対象のフレームはノイズ成分のみであると判定し、前記以外のときは処理対象のフレームには音声成分があると判定する手法、あるいは、振幅スペクトルの周波数別の振幅の大きさに関する平均や分散の値が所定の閾値未満であるときは処理対象のフレームはノイズ成分のみであると判定し、前記平均や分散の値が前記閾値以上であるときは処理対象のフレームには音声成分があると判定する手法などが用いられ得る。
【0027】
音声区間検出部10は、処理対象のフレームはノイズ成分のみであると判定した場合にはノイズフレーム信号を出力し、また、処理対象のフレームには音声成分があると判定した場合には音声フレーム信号を出力する。音声区間検出部10は、フレームごとに、音声区間検出結果としてノイズフレーム信号または音声フレーム信号を出力する。
【0028】
そして、実施の形態に係るノイズ更新回路11は、処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、入力信号スペクトルYi(f)について平均スペクトルレベルMを算出する平均値算出部111と(但し、f:振幅スペクトルにおける周波数、i:時系列の順序を表す順序数)、処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、入力信号スペクトルYi(f)と平均スペクトルレベルMとに関して Yi(f)<Te×M である周波数fについて、処理対象のフレームの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を平均化を含む処理によって算出する第1の更新部112と(但し、Te:係数)、処理対象のフレームがノイズ成分のみのフレームである場合に、入力信号スペクトルYi(f)と平均スペクトルレベルMとに関して Yi(f)≧Te×M である周波数fについて周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第2の更新部113と、処理対象のフレームが音声成分を含むフレームである場合に、周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する第3の更新部114と、を有する、ようにしている。
【0029】
ノイズ更新回路11は、過去に計算された周波数ごとの雑音成分を表すノイズスペクトルに、現フレーム(別言すると、処理対象のフレーム、最新のフレーム)の振幅スペクトルを加味することにより、最新のノイズスペクトルに更新するものであり、平均値算出部111と、第1の更新部112と、第2の更新部113と、第3の更新部114と、を有する。
【0030】
ノイズ更新回路11は、変換結果出力部5から出力されて分岐されるフレームごとの振幅スペクトルに該当する信号の入力を受けるとともに、音声区間検出部10から出力されるフレームごとの音声区間検出結果の入力を受け、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号を用いて、周波数fごとに、更新の1フレーム前のノイズスペクトルNi-1(f)を更新するものとして、更新後のノイズスペクトルNi(f)を、入力された前記音声区間検出結果の内容などに応じて下記の数式7ないし数式10のうちのいずれかに従って算出する。なお、以降の数式における添字iは、時系列の順序を表す順序数であり、すべての数式に共通して適用される順序を表す。
【0031】
平均値算出部111は、変換結果出力部5から出力されて分岐されるフレームごとの振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、以下の数式6に従って平均スペクトルレベルMを算出する。平均スペクトルレベルMは、すなわち、振幅スペクトルの周波数軸方向における平均値である。
【数6】
【0032】
数式6における、fは振幅スペクトルにおける周波数を表し、f1は振幅スペクトルにおける最小の周波数であり、f2は振幅スペクトルにおける最大の周波数であり、さらに、Fnは最小の周波数f1から最大の周波数f2までの範囲における周波数の個数を表す。周波数の個数Fnは、すなわち、時間周波数変換部4での時間周波数変換において1フレームに含まれるサンプル点数をnとすると、n/2+1である。
【0033】
平均値算出部111は、フレームごとの振幅スペクトルに該当する信号の入力を受けるたびに、平均スペクトルレベルMを算出する。
【0034】
そのうえで、ノイズ更新回路11へと入力された音声区間検出結果がノイズフレーム信号である場合には、入力された振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、周波数fごとに、前記入力信号スペクトルYi(f)と平均スペクトルレベルMとの間の関係に応じて下記の〈ア〉または〈イ〉の処理が行われる。
【0035】
〈ア〉Yi(f)<Te×M である周波数fについて
第1の更新部112が、IIR(Infinite Impulse Response の略;無限インパルス応答)フィルタである以下の数式7もしくはFIR(Finite Impulse Response の略;有限インパルス応答)フィルタである以下の数式8に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する。なお、以降の数式におけるNi-1(f)は、更新の1フレーム前のノイズスペクトルを表す。また、数式8における添字jは、時系列における順序数iとの隔たりの程度を表す変数であり、0以上の整数である。さらに、数式8におけるYi-j(f)は、更新のjフレーム前の入力信号スペクトルを表す。
【数7】
【数8】
【0036】
入力信号スペクトルYi(f)と平均スペクトルレベルMとの間の関係におけるTeは、平均スペクトルレベルMよりも振幅スペクトルが著しく大きい周波数成分をノイズスペクトルの更新から除外するための係数である。係数Teは、特定の値に限定されるものではなく、例えばトーン信号に相当する周波数成分がノイズスペクトルの更新から除外されるようにしてトーン信号が減算部6で減算されず雑音成分として抑圧されないようにすることが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。係数Teは、具体的には、1~100程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられ、特に10程度に設定されることが考えられる。
【0037】
数式8におけるKは、処理対象のフレーム(別言すると、現フレーム、最新のフレーム)の振幅スペクトルである入力信号スペクトルYi(f)に対する更新の1フレーム前のノイズスペクトルNi-1(f)の重みづけを決定づける定数であり、「更新前重み定数K」と呼ぶ。
【0038】
更新前重み定数Kは、0以上の整数であれば特定の値には限定されない。更新前重み定数Kは、具体的には例えば、IIRフィルタの時定数もしくはFIRフィルタの平均区間の0.06~0.20秒程度に相当する範囲(例えば、フレーム間隔12.5msにおいてK=5~16程度の範囲)のうちのいずれかの値に設定されることが考えられ、特にIIRフィルタの時定数もしくはFIRフィルタの平均区間の0.1秒程度に相当する値(例えば、フレーム間隔12.5msにおいてK=8程度)に設定されることが考えられる。なお、IIRフィルタの時定数もしくはFIRフィルタの平均区間を例えば0.1秒としたとき、数式7における定数Kの具体的な値と数式8における定数Kの具体的な値とは異なる。
【0039】
なお、更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出するための平均化を含む処理について、IIRフィルタ(一般形は Ni(f)=ΣAjYi-j(f)+ΣBkNi-k(f);但し、A,Bは係数、iは時系列の順序を表す順序数、jは時系列における順序数iとの隔たりの程度を表す0以上の整数、kは時系列における順序数iとの隔たりの程度を表す1以上の整数)を用いる場合は、更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する際に、入力信号スペクトルYi(f)と過去の入力信号スペクトルYi-j(f)と過去のノイズスペクトルNi-k(f)とを用いた平均の平均化時間が用いられるようにしてもよい。
【0040】
また、上記のIIRフィルタの一般形についてj≧1においてAj=0としたIIRフィルタを用いて、更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する際に、入力信号スペクトルYi(f)と過去のノイズスペクトルNi-k(f)とを用いた平均の平均化時間が用いられるようにしてもよい。
【0041】
なお、上記のIIRフィルタの一般形についてj≧1においてAj=0としたうえで、A0=1/(1+K),B1=K/(1+K),且つBk=0(k≧2)である場合が上記の数式7に該当する。
【0042】
さらに、更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出するための平均化を含む処理について、FIRフィルタ(一般形は Ni(f)=ΣAjYi-j(f);但し、Aは係数、iは時系列の順序を表す順序数、jは時系列における順序数iとの隔たりの程度を表す0以上の整数;即ち、上記のIIRフィルタの一般形についてBk=0としたもの)を用いる場合は、更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する際に、入力信号スペクトルYi(f)と過去の入力信号スペクトルYi-j(f)とを用いた平均の平均化時間が用いられるようにしてもよい。
【0043】
なお、上記のFIRフィルタの一般形について、Aj=1/Kである場合が上記の数式8に該当する。
【0044】
〈イ〉Yi(f)≧Te×M である周波数fについて
第2の更新部113が、以下の数式9に従って更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する。
【数9】
【0045】
数式9におけるNi-1(f)は、更新の1フレーム前のノイズスペクトルを表す。
【0046】
すなわち、Yi(f)≧Te×M であって平均スペクトルレベルMよりも振幅スペクトルが著しく大きい周波数成分については、当該の更新の後のノイズスペクトルNi(f)を更新の1フレーム前のノイズスペクトルNi-1(f)のままとして更新から除外する。
【0047】
また、ノイズ更新回路11へと入力された音声区間検出結果が音声フレーム信号である場合には、第3の更新部114が、以下の数式10に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する。
【数10】
【0048】
ノイズ更新回路11は、フレームごとの振幅スペクトルに該当する信号および音声区間検出結果の入力を受けるたびに、更新後の、周波数fごとのノイズスペクトルNi(f)に該当する信号を減算部6に対して出力する。減算部6は、フレームごとに、ノイズ更新回路11から出力される前記更新後のノイズスペクトルNi(f)に該当する信号を用いて、変換結果出力部5から出力される振幅スペクトルに該当する信号から前記更新後のノイズスペクトルNi(f)に該当する信号を減算する処理を行う。
【0049】
上記のようなノイズ更新回路11によれば、トーン信号を抑圧しないようすることが可能となる。具体的には、スペクトル減算法を実現する従来の回路では、周波数スペクトルにおいて定常的に存在する成分をノイズと判断して抑圧するようにしているので、トーン信号も定常性があるためにノイズと判断されて抑圧の対象になり、ユーザにとって必要なトーン信号(例えば、モールス信号)も抑圧されてしまう、という問題がある。これに対して、上記のようなノイズ更新回路11では、平均スペクトルレベルよりも振幅スペクトルが著しく大きい周波数成分をノイズスペクトルの更新から除外するようにしているので、トーン信号を抑圧しないようにすることが可能となる。
【0050】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では図1に概略構成を示すノイズリダクション回路1に対してこの発明に係るノイズ更新回路11が適用される場合を例に挙げて説明しているが、この発明が適用され得るノイズリダクション回路の構成は図1に示す例には限定されない。一例として挙げると、この発明に特有の回路構成(特に、平均値算出部111および第2の更新部113)を利用して雑音成分の抑圧を行うか、あるいは、この発明に特有の回路構成を利用せずに従来型の雑音成分の抑圧を行うか、をユーザが必要に応じて選択できる回路構成とするようにしてもよい。付け加えると、この発明が適用され得る回路は、ノイズリダクション回路には限定されない。すなわち、この発明は、ノイズスペクトルを時系列で更新することが必要とされる種々の回路に対して適用され得る。
【符号の説明】
【0051】
1 ノイズリダクション回路
2 プリエンファシス回路
3 窓処理部
4 時間周波数変換部
5 変換結果出力部
6 減算部
7 合成部
8 周波数時間変換部
9 ディエンファシス回路
10 音声区間検出部
11 ノイズ更新回路
111 平均値算出部
112 第1の更新部
113 第2の更新部
114 第3の更新部
図1
図2