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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011894
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】ノイズリダクション回路
(51)【国際特許分類】
   G10L 21/0208 20130101AFI20220107BHJP
   G10L 21/0232 20130101ALI20220107BHJP
【FI】
G10L21/0208 100B
G10L21/0232
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113302
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】今里 康二郎
(57)【要約】
【課題】雑音成分の抑圧処理後における高周波帯の信号の低減を改善して本来受信したい目的信号(例えば、音声)を理想的な出力に近づける。
【解決手段】入力される信号の高周波成分の相対強度を増幅するプリエンファシス回路2と、プリエンファシス回路2による増幅後の信号の音声高周波成分の相対強度を増幅する高周波強調フィルタ3と、高周波強調フィルタ3による増幅後の信号の雑音成分を抑圧する減算部8と、雑音成分の抑圧後の信号の高周波成分の相対強度を減衰させるディエンファシス回路11と、を有し、ディエンファシス回路11は、プリエンファシス回路2による増幅を相殺し且つ高周波強調フィルタ3による増幅は相殺しない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される信号に含まれる雑音成分をスペクトル減算法を用いて抑圧するノイズリダクション回路であり、
前記入力される信号の音声高周波成分の相対強度を増幅する高周波強調フィルタを有し、
前記高周波強調フィルタによる前記音声高周波成分の相対強度の増幅を相殺する減衰処理をしない、
ことを特徴とするノイズリダクション回路。
【請求項2】
前記高周波強調フィルタは、周波数が0.3~3kHzの区間において、前記周波数の増加に伴って利得が増加するように構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のノイズリダクション回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノイズリダクション回路に関し、例えば、高周波信号を送受信する無線機に組み込まれて用いられ得るノイズリダクション回路に関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号に含まれる雑音成分を抑圧する手法としてスペクトル減算法(Spectral Subtraction)が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-238399号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P.Scalart and J.Vieira Filho「Speech Enhancement Based on a Priori Signal to Noise Estimation」,IEEE International Conference on.Acoustics,Speech,Signal Processing,Atlanta,GA,USA,vol.2,pp.629-632,1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、音声は、一般に低周波のレベルが高く、高周波になるほどレベルが低下する。一方、定常雑音は白色であることが多く、この場合、周波数に対して一様に分布する。このため、高周波帯の信号はSN比(Signal to Noise ratio)が小さくなることが多く、そしてSN比が小さい環境では特に、スペクトル減算法を用いたノイズリダクションにおいて、雑音成分を抑圧した際に高周波帯の信号が小さくなる傾向がある。この結果として、音声の高周波成分が欠落し、音声がこもってしまう、という問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、雑音成分の抑圧処理後における高周波帯の信号の低減を改善して本来受信したい目的信号(例えば、音声)を理想的な出力に近づけることが可能な、ノイズリダクション回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、入力される信号に含まれる雑音成分をスペクトル減算法を用いて抑圧するノイズリダクション回路であり、前記入力される信号の音声高周波成分の相対強度を増幅する高周波強調フィルタを有し、前記高周波強調フィルタによる前記音声高周波成分の相対強度の増幅を相殺する減衰処理をしない、ことを特徴とするノイズリダクション回路である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のノイズリダクション回路において、前記高周波強調フィルタは、周波数が0.3~3kHzの区間において、前記周波数の増加に伴って利得が増加するように構成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、高周波強調フィルタを用いて高周波帯を強調することにより、SN比が小さい環境であっても雑音成分の抑圧処理後の音声を元の音声に近づけることができ、雑音成分の抑圧処理後における高周波帯の信号の低減を改善して本来受信したい目的信号(例えば、音声)を理想的な出力に近づけることが可能となり、特に、こもらないクリアな音声を実現することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、高周波強調フィルタの利得を適切に設定することができ、雑音成分の抑圧処理後における高周波帯の信号の低減を改善して本来受信したい目的信号(例えば、音声)を理想的な出力に一層確実に近づけることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施の形態に係るノイズリダクション回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1のノイズリダクション回路による高周波強調処理の効果を説明する概念図である。
図3図1のノイズリダクション回路における高周波強調フィルタの特性の例を示す図である。
図4図1のノイズリダクション回路の作用効果の検証例を説明する図である。
図5】ノイズリダクション回路の他の例の概略構成を示す機能ブロック図である。
図6】ノイズリダクション回路のさらに他の例の概略構成を示す機能ブロック図である。
図7】ノイズリダクション回路のまたさらに他の例の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0013】
図1は、この発明の実施の形態に係るノイズリダクション回路1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0014】
実施の形態に係るノイズリダクション回路1は、入力される信号に含まれる雑音成分をスペクトル減算法を用いて抑圧するノイズリダクション回路であり、入力される信号の音声高周波成分の相対強度を増幅する高周波強調フィルタを3有し、高周波強調フィルタ3による音声高周波成分の相対強度の増幅を相殺する減衰処理をしない、ようにしている。
【0015】
この実施の形態では、特に、入力される信号の高周波成分の相対強度を増幅するプリエンファシス回路2と、プリエンファシス回路2による増幅後の信号の音声高周波成分の相対強度を増幅する高周波強調フィルタ3と、高周波強調フィルタ3による増幅後の信号の雑音成分を抑圧する減算部8と、雑音成分の抑圧後の信号の高周波成分の相対強度を減衰させるディエンファシス回路11と、を有し、ディエンファシス回路11は、プリエンファシス回路2による高周波成分の相対強度の増幅を相殺する減衰処理をし且つ高周波強調フィルタ3による音声高周波成分の相対強度の増幅を相殺する減衰処理はしない、ようにしている。
【0016】
ノイズリダクション回路1は、例えば、高周波信号を送受信する無線機に組み込まれて、音声信号に含まれる雑音成分を抑圧する手法であるスペクトル減算法(Spectral Subtraction)を実現する回路であり、主として、プリエンファシス回路2と、高周波強調フィルタ3と、窓処理部4と、時間周波数変換部5と、変換結果出力部6と、音声区間検出・ノイズ更新部7と、減算部8と、合成部9と、周波数時間変換部10と、ディエンファシス回路11と、を有する。
【0017】
プリエンファシス(Pre-Emphasis:PE)回路2は、アンテナから受信した高周波信号を復調した音声信号に対して高周波成分の相対強度を予め増幅する高域強調処理を施して、高域強調処理後の信号を出力する。
【0018】
高周波強調フィルタ3は、プリエンファシス回路2から出力される高域強調処理後の信号の入力を受け、入力された前記信号の高周波成分の相対強度を増幅する高周波強調処理を施して、高周波強調処理後の信号を出力する。
【0019】
高周波強調フィルタ3は、例えばIIR(Infinite Impulse Response の略;有限インパルス応答)型のハイパスフィルタやFIR(Finite Impulse Response の略;無限インパルス応答)型のハイパスフィルタを備えて構成される。高周波強調フィルタ3のフィルタ特性は、周波数が所定の区間において、周波数の増加に伴って利得が増加するように設定される。高周波強調フィルタ3のフィルタ特性は、例えば、周波数が0.3~3kHzの区間において、周波数が1kHz高くなるごとに、入力信号を、0.5~2dB程度の範囲のうちのいずれかの値で強調するように設定され、特に1dB程度強調するように設定される、ことが考えられる。
【0020】
高周波強調フィルタ3は、特に、音声成分がある(もしくは、音声成分があると考えられる)高周波成分を増幅する。高周波強調フィルタ3によって増幅される高周波成分とプリエンファシス回路2によって増幅される高周波成分とは、同じであるように設定されてもよく、あるいは、異なるように設定されてもよい(具体的には、少なくとも一部が相互に重複するように設定されてもよいし、相互にまったく重複しないように設定されてもよい)。高周波強調フィルタ3によって増幅される高周波成分(特に、音声成分がある高周波成分、もしくは、音声成分があると考えられる高周波成分)のことを「音声高周波成分」と呼び、高周波強調フィルタ3による高周波強調処理のことを「音声高周波強調処理」と呼ぶ。
【0021】
窓処理部4は、高周波強調フィルタ3から出力される音声高周波強調処理後の信号の入力を受け、入力された前記信号から所定の時間長さのフレームを抽出する(例えば、12.5msごとに25ms分の時間波形を抽出する)とともに、各フレームに対して例えばハニング窓などの窓関数を乗じて窓処理を施す。窓処理部4は、各フレームに対して窓処理を施すたびに、窓処理後のフレームを出力する。
【0022】
時間周波数変換部5は、窓処理部4から出力される窓処理後のフレームの入力を受け、前記フレームの入力を受けるたびに、前記フレームに対して時間領域の信号から周波数領域の信号への変換処理を施し、複数の周波数それぞれについての振幅成分と位相成分とを含む周波数スペクトルを計算して、実数と虚数との周波数スペクトルの信号を出力する。時間周波数変換部5は、例えば離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform)や高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)により、時間周波数変換を実行して周波数スペクトルを計算する。
【0023】
変換結果出力部6は、時間周波数変換部5から出力されるフレームごとの(例えば、12.5ms程度の間隔で)周波数スペクトルの信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記周波数スペクトルのうちの各周波数の振幅成分を含む振幅スペクトルに該当する信号を減算部8に対して出力するとともに、入力された前記周波数スペクトルのうちの各周波数の位相成分を含む位相スペクトルに該当する信号を合成部9に対して出力する。
【0024】
音声区間検出・ノイズ更新部7は、変換結果出力部6から出力されて分岐されるフレームごとの振幅スペクトルに該当する信号の入力を受け、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号を用いて、周波数ごとの雑音成分を表すノイズスペクトルを更新する。音声区間検出・ノイズ更新部7におけるノイズスペクトルの更新の仕法は、特定の手順や手法に限定されるものではなく、従来もしくは新規の手順や手法の中から適当な手順や手法が適宜選択され得る。音声区間検出・ノイズ更新部7におけるノイズスペクトルの更新の仕法として、例えば、下記の手法が用いられ得る。
【0025】
音声区間検出・ノイズ更新部7は、まず、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号について、フレームごとに、ノイズ成分のみのフレームであるのか、音声成分を含むフレームであるのか、の判定を行う。
【0026】
音声区間検出・ノイズ更新部7における、処理対象のフレームがノイズ成分のみであるのか音声成分を含むのかの判定の仕法は、特定の手順や手法に限定されるものではなく、従来もしくは新規の手順や手法の中から適当な手順や手法が適宜選択され得る。
【0027】
音声区間検出・ノイズ更新部7における、処理対象のフレームがノイズ成分のみであるのか音声成分を含むのかの判定の仕法として、例えば、音声の非恒常性に着目して、振幅スペクトルの周波数別の振幅の大きさに関する平均や分散の値が直近のフレームにおいて複数回(例えば、3~5回程度)連続して所定の閾値未満であるときは処理対象のフレームはノイズ成分のみであると判定し、前記以外のときは処理対象のフレームには音声成分があると判定する手法や、あるいは、振幅スペクトルの周波数別の振幅の大きさに関する平均や分散の値が所定の閾値未満であるときは処理対象のフレームはノイズ成分のみであると判定し、前記平均や分散の値が前記閾値以上であるときは処理対象のフレームには音声成分があると判定する手法などが用いられ得る。
【0028】
音声区間検出・ノイズ更新部7は、続いて、過去に計算された周波数ごとの雑音成分を表すノイズスペクトルに、現フレーム(別言すると、処理対象のフレーム、最新のフレーム)の振幅スペクトル、すなわち、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号を加味することにより、最新のノイズスペクトルへの更新を行う。
【0029】
音声区間検出・ノイズ更新部7における、周波数ごとの雑音成分を表すノイズスペクトルの更新の仕法は、特定の手順や手法に限定されるものではなく、従来もしくは新規の手順や手法の中から適当な手順や手法が適宜選択され得る。
【0030】
音声区間検出・ノイズ更新部7における、周波数ごとの雑音成分を表すノイズスペクトルの更新の仕法として、例えば、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号を用いて、更新後のノイズスペクトルNi(f)を、処理対象のフレームがノイズ成分のみであるのか音声成分を含むのかに応じて下記の数式1または数式2に従って算出する手法が用いられ得る。なお、以降の数式における添字iは、時系列の順序を表す順序数であり、すべての数式に共通して適用される順序を表す。また、以降の数式におけるfは、入力された前記振幅スペクトルにおける周波数を表す。
【0031】
具体的には、処理対象のフレームがノイズ成分のみである場合には、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号を入力信号スペクトルYi(f)として、IIR(Infinite Impulse Response の略;無限インパルス応答)フィルタである以下の数式1に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を算出する。数式1や数式2におけるNi-1(f)は、1フレーム前のノイズスペクトルを表す。
【数1】
【0032】
数式1におけるKは、処理対象のフレーム(別言すると、現フレーム、最新のフレーム)がノイズ成分のみのフレームである場合の、前記処理対象のフレームの振幅スペクトルである入力信号スペクトルYi(f)に対する更新の1フレーム前のノイズスペクトルNi-1(f)の重みづけを決定づける定数である。定数Kは、0以上の整数であれば特定の値に限定されるものではなく、具体的には例えば、IIRフィルタの時定数の0.06~0.20秒程度に相当する範囲(例えば、フレーム間隔12.5msにおいてK=5~16程度の範囲)のうちのいずれかの値に設定されることが考えられ、特にIIRフィルタの時定数の0.1秒程度に相当する値(例えば、フレーム間隔12.5msにおいてK=8程度)に設定されることが考えられる。
【0033】
また、処理対象のフレームが音声成分を含む場合には、以下の数式2に従って周波数fごとに更新後のノイズスペクトルNi(f)を決定する。
【数2】
【0034】
音声区間検出・ノイズ更新部7は、各フレームについて、更新後の、周波数fごとのノイズスペクトルNi(f)に該当する信号を減算部8に対して出力する。
【0035】
減算部8は、変換結果出力部6から出力されるフレームごとの振幅スペクトルに該当する信号の入力を受けるとともに、音声区間検出・ノイズ更新部7から出力されるフレームごとの更新後のノイズスペクトルに該当する信号の入力を受け、各フレームについて、入力された前記振幅スペクトルに該当する信号から、周波数ごとに(別言すると、スペクトルごとに)、入力された前記更新後のノイズスペクトルに該当する信号を減算する。これにより、音声信号に含まれる雑音成分が抑圧される。減算部8は、変換結果出力部6から出力されるフレームごとに、減算処理後の振幅スペクトルに該当する信号を出力する。
【0036】
合成部9は、変換結果出力部6から出力されるフレームごとの位相スペクトルに該当する信号の入力を受けるとともに、減算部8から出力されるフレームごとの減算処理後の振幅スペクトルに該当する信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記位相スペクトルに該当する信号と前記振幅スペクトルに該当する信号とを合成して周波数スペクトルを生成して、実数と虚数との周波数スペクトルの信号を出力する。
【0037】
周波数時間変換部10は、合成部9から出力されるフレームごとの周波数スペクトルの信号の入力を受け、フレームごとに、入力された前記周波数スペクトルの信号に対して周波数領域の信号から時間領域の信号への変換処理、すなわち時間周波数変換部5における変換処理の逆変換処理を施して、音声信号を出力する。周波数時間変換部10は、例えば逆離散フーリエ変換や逆高速フーリエ変換により、周波数時間変換を実行して音声信号を生成する。
【0038】
ディエンファシス(De-Emphasis:DE)回路11は、周波数時間変換部10から出力される音声信号の入力を受け、入力された前記音声信号に対して高周波成分の相対強度を減衰させる高域減衰処理を施して、高域減衰処理後の音声信号を出力する。
【0039】
ここで、ディエンファシス回路11は、入力された前記音声信号に対して、プリエンファシス回路2の逆フィルタとして前記プリエンファシス回路2による高周波成分の相対強度の増幅を相殺するための減衰処理を施す一方で、高周波強調フィルタ3による音声高周波成分の相対強度の増幅を相殺するような減衰処理は施さない。すなわち、ディエンファシス回路11の減衰量は、プリエンファシス回路2による増幅量のみに基づいて決定され、高周波強調フィルタ3による増幅量は加味されない。
【0040】
このように、ディエンファシス回路11によってプリエンファシス回路2による増幅を相殺する減衰処理が施される一方で高周波強調フィルタ3による増幅は相殺されないようにすることにより、雑音成分の抑圧処理後における高周波帯の信号の低減が改善される。すなわち、図2に示すように、本来受信したい目的信号(例えば、音声)と定常雑音(特に、白色雑音)とが混在/重畳している信号について、プリエンファシス回路2による高域強調処理に加えて高周波強調フィルタ3による音声高周波強調処理を施さない場合には、雑音成分の抑圧後において、高周波帯の信号が低減する(同図(b)および(c)参照)。これに対し、本来受信したい目的信号(例えば、音声)と定常雑音(特に、白色雑音)とが混在/重畳している信号について、プリエンファシス回路2による高域強調処理に加えて高周波強調フィルタ3による音声高周波強調処理をさらに施すことにより、雑音成分の抑圧後において、高周波帯の信号の低減が改善される(同図(d)および(e)参照)。
【0041】
上記のような、高周波強調フィルタ3を有するノイズリダクション回路1の作用効果の検証例を図4に示す。
【0042】
この検証例における高周波強調フィルタ3は、周波数1kHzと3kHzとに音声成分があると仮定し、周波数が0.3~3kHzの区間において、周波数の増加に伴って利得が増加するように構成される。高周波強調フィルタ3は、具体的には、カットオフ周波数が3kHzであるとともに振幅応答(dB)として周波数が1kHz高くなるごとに入力信号を1dB強調するフィルタ特性(図3参照)を備えるFIR型のハイパスフィルタを備えて構成される。
【0043】
周波数1kHzの音声レベルを1.00とするとともに周波数3kHzの音声レベルを0.50とし、また、周波数に対して一様に分布する定常雑音の雑音レベルを0.20とする(図4(a)参照)。この状態で(即ち、高周波強調フィルタ3による音声高周波強調処理を施すことなく)雑音成分の抑圧を行うと、周波数1kHzのレベルが0.80になり、周波数3kHzのレベルが0.30になる(同図(b)参照)。この結果を、雑音成分の抑圧前の音声レベルと対比するために周波数1kHzのレベルが1になるように正規化すると、周波数3kHzのレベルは0.38になる(同図(c)参照)。つまり、雑音成分の抑圧前の周波数3kHzの音声レベル0.50と比べて低減することが確認される。
【0044】
図4(a)に示す状態に対して高周波強調フィルタ3による音声高周波強調処理を施すと、周波数1kHzの音声レベルが1.12になるとともに周波数3kHzの音声レベルが0.71になり、また、周波数1kHzの雑音レベルが0.22になるとともに周波数3kHzの雑音レベルが0.28になる(同図(d)参照)。そのうえで雑音成分の抑圧を行うと、周波数1kHzのレベルが0.90になり、周波数3kHzのレベルが0.42になる(同図(e)参照)。この結果を、雑音成分の抑圧前の音声レベルと対比するために周波数1kHzのレベルが1になるように正規化すると、周波数3kHzのレベルは0.47になる。つまり、雑音成分の抑圧前の周波数3kHzの音声レベル0.50と概ね同程度であって低減が改善できることが確認される。
【0045】
上記のようなノイズリダクション回路1によれば、高周波強調フィルタ3を用いて高周波帯を強調することにより、SN比が小さい環境であっても雑音成分の抑圧処理後の音声を元の音声に近づけることができ、雑音成分の抑圧処理後における高周波帯の信号の低減を改善して本来受信したい目的信号(例えば、音声)を理想的な出力に近づけることが可能となり、特に、こもらないクリアな音声を実現することが可能となる。
【0046】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では図1に概略構成を示すノイズリダクション回路1に対してこの発明が適用される場合を例に挙げて説明しているが、この発明が適用され得るノイズリダクション回路の構成は図1に示す例には限定されない。さらに言えば、この発明が適用され得る回路は、ノイズリダクション回路には限定されない。すなわち、この発明は、雑音成分を抑圧することが必要とされる種々の回路に対して適用され得る。
【0047】
具体的には例えば、上記の実施の形態ではノイズリダクション回路1がプリエンファシス回路2とディエンファシス回路11とを有するようにしているが、プリエンファシス回路2とディエンファシス回路11とを有することはこの発明において必須の構成ではない。プリエンファシス回路2とディエンファシス回路11とを有することなく、高周波強調フィルタ3によって音声高周波成分の相対強度を増幅したうえで前記高周波強調フィルタ3による増幅を相殺するような減衰処理が施されないようにしても、この発明の作用効果は発揮される。
【0048】
また、上記の実施の形態では高周波強調フィルタ3がプリエンファシス回路2と窓処理部4との間に配設されるようにしているが、高周波強調フィルタ3の配設位置は上記の実施の形態における位置には限定されない。具体的には例えば、高周波強調フィルタ3が、プリエンファシス回路2の前に配設されるようにしてもよく(図5参照)、周波数時間変換部10とディエンファシス回路11との間に配設されるようにしてもよく(図6参照)、ディエンファシス回路11の後に配設されるようにしてもよい(図7参照)。
【0049】
また、この発明の要点はディエンファシス回路11はプリエンファシス回路2による増幅を相殺し且つ高周波強調フィルタ3による増幅は相殺しないようにする点であり、ノイズスペクトルの更新の仕法を含む雑音成分の抑圧の仕法は、上記の実施の形態における手順や手法に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 ノイズリダクション回路
2 プリエンファシス回路
3 高周波強調フィルタ
4 窓処理部
5 時間周波数変換部
6 変換結果出力部
7 音声区間検出・ノイズ更新部
8 減算部
9 合成部
10 周波数時間変換部
11 ディエンファシス回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7