(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118955
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】アルミニウム合金フィン材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20220808BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20220808BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20220808BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20220808BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20220808BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220808BHJP
【FI】
C22C21/00 J
C22C21/00 D
C22F1/04 Z
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
B23K1/00 S
C22C21/00 E
C22F1/00 622
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 614
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015823
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】則包 一成
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠
(57)【要約】
【課題】強度及び成形性に優れたアルミニウム合金フィン材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フィン材1は、心材2と心材2の両面上に配置されたろう材3とを備えたブレージングシートから構成されている。心材2は、Si:0.02~0.80質量%、Fe:0.02~0.80質量%及びMn:0.8~2.0質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分と、Brass方位、Copper方位及びS方位のうち1種類以上の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の20倍以上であり、かつ、Cube方位、CR方位およびP方位の方位密度がいずれもランダム方位試料の10倍以下である結晶集合組織とを有している。ろう材は、Si:6.0~13.0質量%及びFe:0.02~0.80質量%を含有するAl-Si系合金からなる。各ろう材3のクラッド率は6%以上16%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、前記心材の両面上に配置されたろう材とを備えたブレージングシートからなるアルミニウム合金フィン材であって、
前記心材は、
Si:0.02質量%以上0.80質量%以下、Fe:0.02質量%以上0.80質量%以下及びMn:0.8質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分と、
Brass方位、Copper方位及びS方位のうち1種類以上の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の20倍以上であり、かつ、Cube方位、CR方位およびP方位の方位密度がいずれもランダム方位試料の10倍以下である結晶集合組織とを有し、
前記ろう材は、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及びFe:0.02質量%以上0.80質量%以下を含むAl-Si系合金からなり、
前記各ろう材のクラッド率は6%以上16%以下である、アルミニウム合金フィン材。
【請求項2】
前記心材は、さらに、Zn:0.3質量%以上3.0質量%以下を含有している、請求項1に記載のアルミニウム合金フィン材。
【請求項3】
前記ろう材を構成する前記Al-Si系合金は、さらに、Sr:0.005質量%以上0.050質量%以下を含有している、請求項1または2に記載のアルミニウム合金フィン材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金フィン材の製造方法であって、
Si:0.02質量%以上0.80質量%以下、Fe:0.02質量%以上0.80質量%以下及びMn:0.8質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する心材用塊と、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及び0.02質量%以上0.80質量%以下のFeを含むAl-Si系合金からなるろう材用塊とを作製する鋳造工程と、
前記心材用塊の両面上に前記ろう材用塊を配置してクラッド塊を作製する積層工程と、
前記クラッド塊に熱間圧延を施してクラッド板を作製する熱間圧延工程と、
前記クラッド板に冷間圧延を施す第1冷間圧延工程と、
前記第1冷間圧延工程後の前記クラッド板を、下記式(1)により算出される総拡散量Mが1.0×10
-14m
2以上5.0×10
-12m
2以下となる条件で加熱して焼鈍する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程後の前記クラッド板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程と、を有する、アルミニウム合金フィン材の製造方法。
【数1】
(ただし、前記式(1)におけるnは総加熱時間を単位時間Δtで分割したときの区間数であり、D
0は1.37×10
-5m
2/sであり、Qは123kJ/molであり、Rの値は8.3145kJ/(mol・K)であり、T(k)の値は第k番目の区間の開始時点における加熱温度[K]である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金フィン材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサやラジエータ、ヒータコア、インタークーラ等の熱交換器は、金属の中でも高い比強度と高い熱伝導率とを兼ね備えたアルミニウム合金から構成されていることが多い。この種の熱交換器は、コルゲートフィンを有していることがある。コルゲートフィンを備えた熱交換器は、例えば、フィン材を所望の形状に成形した後、他の部材と組み合わせてろう付を行うことによって作製されている。フィン材としては、心材と、心材の両面にろう材が積層されたブレージングシートが用いられている。
【0003】
近年、例えば自動車分野などの種々の技術分野において、熱交換器の軽量化や小型化が強く望まれている。このような要求に対応するため、熱交換器に用いられるフィン材にも、強度を確保しつつ厚みを薄くすることが求められている。
【0004】
かかる要求に対し、例えば特許文献1には、芯材がSi:0.05~0.8質量%、Fe:0.05~0.8質量%、Mn:0.8~2.0質量%を含有し、かつ、前記Si、Fe、Mnの含有量がSi+Fe≦Mnの条件を満たし、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ろう材が、Si:6.0~13.0質量%、Fe:0.05~0.8質量%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるAl-Si系合金からなるアルミニウム合金製ブレージングシートフィン材が記載されている。引用文献1のフィン材は、ろう付加熱前後の芯材の金属組織を特定の状態に制御することにより、ろう付加熱後の強度の向上等を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱交換器に組み込まれるコルゲートフィンには、熱交換効率を向上させるために、スリットやルーバーなどの複雑な形状が付与されることがある。熱交換器を小型化しようとすると、スリットやルーバーなどの寸法が従来よりも小さくなるため、フィン材には、従来よりも優れた成形性を有することが求められる。
【0007】
しかし、強度と成形性とはトレードオフの関係にあり、成形性を改善しようとすると、強度が低くなる傾向がある。特許文献1のフィン材は、高い強度と優れた成形性との両立の観点から、いまだ改善の余地があった。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、強度及び成形性に優れたアルミニウム合金フィン材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、心材と、前記心材の両面上に配置されたろう材とを備えたブレージングシートからなるアルミニウム合金フィン材であって、
前記心材は、
Si(シリコン):0.02質量%以上0.80質量%以下、Fe(鉄):0.02質量%以上0.80質量%以下及びMn(マンガン):0.8質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分と、
Brass方位、Copper方位及びS方位のうち1種類以上の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の20倍以上であり、かつ、Cube方位、CR方位およびP方位の方位密度がいずれもランダム方位試料の10倍以下である結晶集合組織とを有し、
前記ろう材は、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及びFe:0.02質量%以上0.80質量%以下を含むAl-Si系合金からなり、
前記各ろう材のクラッド率は6%以上16%以下である、アルミニウム合金フィン材にある。
【0010】
本発明の他の態様は、前記の態様のアルミニウム合金フィン材の製造方法であって、
Si:0.02質量%以上0.80質量%以下、Fe:0.02質量%以上0.80質量%以下及びMn:0.8質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する心材用塊と、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及びFe:0.02質量%以上0.80質量%以下を含むAl-Si系合金からなるろう材用塊とを作製する鋳造工程と、
前記心材用塊の両面上に前記ろう材用塊を配置してクラッド塊を作製する積層工程と、
前記クラッド塊に熱間圧延を施してクラッド板を作製する熱間圧延工程と、
前記クラッド板に冷間圧延を施す第1冷間圧延工程と、
前記第1冷間圧延工程後の前記クラッド板を、下記式(1)により算出される総拡散量Mが1.0×10-14m2以上5.0×10-12m2以下となる条件で加熱して焼鈍する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程後の前記クラッド板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程と、を有する、アルミニウム合金フィン材の製造方法にある。
【0011】
【0012】
ただし、前記式(1)におけるnは総加熱時間を単位時間Δtで分割したときの区間数であり、D0は1.37×10-5m2/sであり、Qは123kJ/molであり、Rの値は8.3145kJ/(mol・K)であり、T(k)の値は第k番目の区間の開始時点における加熱温度[K]である。
【発明の効果】
【0013】
前記アルミニウム合金フィン材(以下、「フィン材」という。)は、心材と、心材の両面上に配置されたろう材とを有するブレージングシートから構成されている。また、心材は、前記特定の化学成分を有するとともに、前記各結晶方位の方位密度により特定される結晶集合組織を有している。前記フィン材は、ろう付加熱前の心材の化学成分および結晶集合組織を前記特定の態様とすることにより、優れた成形性を有している。
【0014】
また、前記心材にろう付加熱を行うと、心材中に微細な析出物を形成することができる。その結果、心材の強度、つまり、フィンの強度を向上させることができる。
【0015】
従って、前記フィン材は、ろう付加熱前の成形性に優れているとともに、ろう付後に高い強度を有している。
【0016】
前記フィン材は、前記の態様の製造方法により作製することができる。前記製造方法においては、前記第1冷間圧延工程と前記第2冷間圧延工程との間に、総拡散量Mが前記特定の範囲となる条件でクラッド板を加熱して焼鈍する焼鈍工程が行われる。焼鈍工程における総拡散量Mを前記特定の範囲とすることにより、最終的に得られるフィン材の心材の結晶集合組織を容易に前記特定の態様とすることができる。それ故、前記の態様の製造方法によれば、前記フィン材を容易に得ることができる。
【0017】
以上のように、前記の態様によれば、強度及び成形性に優れたアルミニウム合金フィン材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例における、アルミニウム合金フィン材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(フィン材)
前記フィン材は、心材と、前記心材の両面上に配置されたろう材とを備えた、いわゆる両面ブレージングシートから構成されている。より具体的には、フィン材を構成するブレージングシートは、心材と、心材の両面に積層されたろう材との3つの層から構成されていてもよい。また、フィン材を構成するブレージングシートは、例えば、心材と、ろう材と、心材及びろう材以外のアルミニウム合金からなる層とを含む4つ以上の層を有していてもよい。ブレージングシートに含まれ得る層としては、例えば、ブレージングシートの最表面に露出した皮材や、心材とろう材との間に介在する中間材などがある。
【0020】
<心材>
心材は、Si:0.02質量%以上0.80質量%以下、Fe:0.02質量%以上0.80質量%以下及びMn:0.8質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分と、Brass方位、Copper方位及びS方位の結晶方位のうち少なくとも1種類の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の20倍以上であり、かつ、Cube方位、CR方位およびP方位の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の10倍以下である結晶集合組織とを有している。以下、心材の化学成分、結晶集合組織及びこれらの限定理由を説明する。
【0021】
[化学成分]
・Si(シリコン):0.02質量%以上0.80質量%以下
心材中には、必須成分として、0.02質量%以上0.80質量%以下のSiが含まれている。Siは、MnやFeとともにろう付加熱後の心材中にAl-Mn-Si系化合物やAl-Mn-Si-Fe系化合物を形成し、析出強化によって心材の強度を向上させる作用を有している。
【0022】
心材中のSiの含有量を0.02質量%以上とすることにより、心材中に形成されるAl-Mn-Si系化合物等の数を十分に多くし、ろう付加熱後の心材の強度を向上させることができる。ろう付加熱後の心材の強度をより高める観点からは、心材中のSiの含有量は、0.04質量%以上であることが好ましい。心材中のSiの含有量が0.02質量%未満の場合には、ろう付加熱後に心材中に形成されるAl-Mn-Si系化合物等の量が不十分となり、ろう付加熱後の心材の強度の低下を招くおそれがある。
【0023】
一方、心材中のSiの含有量が多くなると、心材へのSiの固溶量が増大し、心材の融点の低下を招きやすい。そして、心材の融点が過度に低下すると、ろう付加熱中に心材がろうにより侵食され、心材が溶融しやすくなるおそれがある。心材中のSiの含有量を0.80質量%以下、好ましくは0.70質量%以下、より好ましくは0.60質量%以下とすることにより、かかる問題を容易に回避することができる。
【0024】
・Fe(鉄):0.02質量%以上0.80質量%以下
心材中には、必須成分として、0.02質量%以上0.80質量%以下のFeが含まれている。Feは、心材中におけるAl-Mn-Si系化合物やAl-Mn-Si-Fe系化合物の形成を促進してろう付後の強度を向上させるとともに、心材の結晶組織を安定化する作用を有している。
【0025】
心材中のFeの含有量を0.02質量%以上とすることにより、ろう付後の心材の強度を向上させるとともに結晶組織を安定化させることができる。これらの作用効果をより高める観点からは、心材中のFeの含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。心材中のFeの含有量が0.02質量%未満の場合には、心材中に形成されるAl-Mn-Si系化合物やAl-Mn-Si-Fe系化合物の量が不十分となり、ろう付後の心材の強度の低下を招くおそれがある。
【0026】
一方、心材中のFeの含有量が多くなると、フィン材の製造過程において、心材となる心材用塊を鋳造する際に、心材用塊中に粗大な晶出物が形成されやすくなる。心材用塊中の粗大な晶出物は、フィン材の作製を難しくする原因となったり、フィン材の成形性の低下を招くおそれがある。心材中のFeの含有量を0.80質量%以下、好ましくは0.70質量%以下とすることにより、粗大な晶出物の形成を容易に回避することができる。
【0027】
・Mn(マンガン):0.8質量%以上2.0質量%以下
心材中には、必須成分として、0.8質量%以上2.0質量%以下のMnが含まれている。Mnの一部は、ろう付加熱後の心材中に固溶し、固溶強化によって心材の強度を向上させる作用を有している。また、Mnの残部は、SiやFeとともに心材中にAl-Mn-Si系化合物やAl-Mn-Si-Fe系化合物を形成し、析出強化によってろう付後の心材の強度を向上させる作用を有している。
【0028】
心材中のMnの含有量を0.8質量%以上とすることにより、固溶強化及び析出強化の効果を高め、ろう付加熱後の心材の強度を向上させることができる。ろう付加熱後の心材の強度をより高める観点からは、心材中のMnの含有量は、1.0質量%以上であることが好ましい。心材中のMnの含有量が0.8質量%未満の場合には、ろう付加熱後の心材中のMnの固溶量及び心材中に形成されるAl-Mn-Si系化合物等の量が不十分となり、ろう付加熱後の心材の強度の低下を招くおそれがある。
【0029】
一方、心材中のMnの含有量が多くなると、フィン材の製造過程において心材用塊を鋳造する際に、心材用塊中に粗大な晶出物が形成されやすくなる。心材用塊中の粗大な晶出物は、フィン材の作製を難しくする原因となったり、フィン材の成形性の低下を招くおそれがある。心材中のMnの含有量を2.0質量%以下、好ましくは1.8質量%以下とすることにより、粗大な晶出物の形成を容易に回避することができる。
【0030】
・Zn(亜鉛):0.3質量%以上3.0質量%以下
心材には、必須成分としてのSi、Fe及びMnの他に、任意成分として、Zn:0.3質量%以上3.0質量%以下が含まれていてもよい。心材中に前記特定の範囲のZnを添加することにより、心材の電位を適度に低下させ、ろう付後の心材、つまり、熱交換器におけるフィンを犠牲陽極として機能させることができる。その結果、フィンの犠牲防食効果により、チューブなどの熱交換器におけるフィン以外の部材の腐食をより長期間に亘って抑制することができる。フィンによる犠牲防食効果を確保しつつフィンの自己耐食性を高める観点からは、心材中のZnの含有量は、0.5質量%以上2.8質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上2.7質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
・その他の元素
前記心材中には、前述した作用効果を損なわない範囲であれば、前述した元素以外の元素が微量に含まれていてもよい。心材中に含まれ得る元素としては、例えば、Mg(マグネシウム)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)及びCu(銅)などが挙げられる。これらの元素の含有量は、それぞれの元素について0.05質量%以下であり、かつ、含有量の合計が0.15質量%以下であればよい。
【0032】
[結晶集合組織]
心材は、ろう付加熱前において、Brass方位、Copper方位及びS方位のうち少なくとも1種類の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の20倍以上であり、かつ、Cube方位、CR方位およびP方位の方位密度がランダム方位試料の10倍以下である結晶集合組織を有している。
【0033】
前述した各結晶方位は、アルミニウム合金中に存在する代表的な結晶方位である。結晶方位の発達の程度は方位密度の大きさで表すことができ、ある結晶方位の方位密度が高いほど当該結晶方位が発達していることを示す。結晶方位の方位密度は、X線回折チャートにおける、当該結晶方位の回折強度に基づいて算出することができる。また、方位密度の大きさは、ランダム方位試料、つまり、結晶方位の分布が無秩序である試料における結晶方位の方位密度を基準としたときの、測定対象の試料における対応する結晶方位の方位密度の比率で表される。
【0034】
前述した結晶方位のうち、Brass方位、Copper方位及びS方位は、アルミニウム合金の加工硬化指数を高める作用を有している。それ故、ろう付加熱前の心材におけるBrass方位、Copper方位及びS方位のうち1種類以上の結晶方位の方位密度を、ランダム方位試料における対応する結晶方位の方位密度の20倍以上とすることにより、ろう付加熱前の心材の加工硬化指数を高めることができる。ろう付加熱前の心材におけるBrass方位、Copper方位及びS方位の方位密度がいずれもランダム方位試料の20倍未満である場合には、これらの結晶方位による加工硬化指数向上の効果が低下するおそれがある。
【0035】
また、Cube方位、CR方位およびP方位は、アルミニウム合金の加工硬化指数を低下させる作用を有している。それ故、ろう付加熱前の心材におけるCube方位、CR方位およびP方位の方位密度を、いずれもランダム方位試料における対応する結晶方位の方位密度の10倍以下とすることにより、ろう付加熱前の心材の加工硬化指数の低下を回避することができる。ろう付加熱前の心材におけるCube方位、CR方位およびP方位のうち1種類以上の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の10倍よりも大きい場合には、これらの結晶方位により加工硬化指数の低下を招くおそれがある。
【0036】
従って、ろう付前の心材の結晶集合組織を前記特定の態様とすることにより、心材の加工硬化指数を高くすることができる。このような心材は、プレス加工などの成形加工によって容易に変形することができる。また、このような心材は、変形後においては加工硬化によって強度が上昇するため、成形加工によって付与された形状を容易に維持することができる。以上の結果、前記心材を備えたフィン材は、優れた成形性を有している。
【0037】
<ろう材>
前記フィン材は、心材の両面上にろう材を有している。心材の一方面上に配置されたろう材と他方面上に配置されたろう材とは、同一の化学成分を有していてもよいし、互いに異なる化学成分を有していてもよい。ろう材は、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及びFe:0.02質量%以上0.80質量%以下を含有するAl-Si系合金から構成されている。より具体的には、ろう材を構成するAl-Si系合金は、例えば、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及びFe:0.02質量%以上0.80質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。
【0038】
・Si:6.0質量%以上13.0質量%以下
ろう材中には、必須成分として、6.0質量%以上13.0質量%以下のSiが含まれている。ろう材中のSiは、ろう材の融点を低下させるとともに、ろうの流動性を高める作用を有している。また、ろう材中のSiの一部は、ろう付加熱中に心材へ拡散し、心材中に固溶したり、心材中の固溶MnとともにAl-Mn-Si系化合物等を形成することができる。そして、固溶強化や析出強化により、ろう付後の心材の強度を向上させる作用を有している。
【0039】
ろう材中のSiの含有量を6.0質量%以上、好ましくは6.5質量%以上とすることにより、相手材とのろう付性を向上させるとともに、ろう付後の心材の強度を向上させることができる。ろう材中のSiの含有量が6.0質量%未満の場合には、ろう付加熱中のろう材から心材へのSiの拡散が不十分となり、ろう付後の心材の強度の低下を招くおそれがある。
【0040】
一方、ろう材中のSiの含有量が多くなると、ろう付加熱中にろう材から心材へ拡散するSiの量が多くなる。心材へのSiの拡散量が過度に多くなると、Al-Mn-Si系化合物等の形成によって心材中に固溶しているMnが過剰に消費される。その結果、ろう付後の心材中に固溶しているMnの量が不足し、強度の低下を招くおそれがある。さらに、この場合には、ろう付加熱中に生じるろうの量が過度に多くなり、自己耐食性の低下を招くおそれがある。ろう材中のSiの含有量を13.0質量%以下、好ましくは12.0質量%以下とすることにより、これらの問題を容易に回避することができる。
【0041】
・Fe:0.02質量%以上0.80質量%以下
ろう材中には、必須成分として、0.02質量%以上0.80質量%以下のFeが含まれている。ろう材中のFeは、ろうの流動性を高めるとともに自己耐食性を向上させる作用を有している。
【0042】
ろう材中のFeの含有量を0.02質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上とすることにより、ろうの流動性を高めるとともに自己耐食性を向上させることができる。ろう材中のFeの含有量が0.02質量%未満の場合には、ろうの流動性の低下を招くおそれがある。
【0043】
一方、ろう材中のFeの含有量が多くなると、フィン材の製造過程において、ろう材となるろう材用塊を鋳造する際に、ろう材用塊中に粗大な晶出物が形成されやすくなる。ろう材用塊中の粗大な晶出物は、フィン材の作製を難しくする原因となったり、フィン材の成形性の低下を招くおそれがある。という問題がある。ろう材中のFeの含有量を0.80質量%以下、好ましくは0.70質量%以下、より好ましくは0.60質量%以下とすることにより、これらの問題を容易に回避することができる。
【0044】
・Sr(ストロンチウム):0.005質量%以上0.050質量%以下
前記ろう材中には、必須成分としてのSi及びFeの他に、任意成分として、Sr:0.005質量%以上0.050質量%以下が含まれていてもよい。ろう材中のSrは、ろうの流動性を向上させる作用を有している。ろう材中に前記特定の範囲のSrを添加することにより、ろう付性をより向上させることができる。
【0045】
・その他の元素
前記ろう材中には、前述した作用効果を損なわない範囲であれば、前述した元素以外の元素が微量に含まれていてもよい。ろう材中に含まれ得る元素としては、例えば、Mg、Cr、Ti、Zr及びCuなどが挙げられる。これらの元素の含有量は、それぞれの元素について0.05質量%以下であり、かつ、含有量の合計が0.15質量%以下であればよい。
【0046】
<厚み>
前記フィン材の厚みは、例えば、40μm以上140μm以下の範囲から適宜設定することができる。
【0047】
<クラッド率>
前記フィン材における各ろう材のクラッド率は6%以上16%以下である。ろう材のクラッド率をいずれも6%以上とすることにより、ろう付加熱中に生じるろうの量を十分に多くするとともに、ろう材から心材へのSiの拡散量を適度に多くすることができる。その結果、ろう付性を向上させるとともにろう付後の心材の強度を向上させることができる。いずれかのろう材のクラッド率が6%未満の場合には、ろうの不足によるろう付性の悪化やろう付後の心材の強度の低下を招くおそれがある。
【0048】
一方、クラッド率が高くなると、ろう付加熱中にろう材から心材へ拡散するSiの量が多くなり、心材中に固溶しているMnが消費されやすくなる。その結果、固溶強化による強度向上の効果が低下し、ろう付後の心材の強度の低下を招くおそれがある。ろう材のクラッド率をいずれも16%以下、好ましくは14%以下、より好ましくは12%以下とすることにより、かかる問題を容易に回避することができる。
【0049】
<加工硬化指数>
前記フィン材は、降伏点における加工硬化指数が0.07以上となる特性を有していることが好ましく、0.08以上であることがより好ましい。加工硬化指数は、同一のひずみを与えた場合の加工硬化による強度の上昇の程度を示す指数であり、加工硬化指数の値が大きいほど強度の上昇量が大きくなることを意味する。
【0050】
前記特定の範囲の加工硬化指数を備えたフィン材は、プレス加工などの成形加工による強度の上昇量をより大きくすることができる。それ故、成形加工を施す際にはフィン材を容易に変形させて所望の形状とし、成形加工が完了した後においては、成形加工よって付与された形状を容易に維持することができる。このように、フィン材の加工硬化指数を前記特定の範囲とすることにより、フィン材の成形性をより向上させることができる。
【0051】
フィン材の加工硬化指数は、以下の方法により算出することができる。まず、フィン材から、長手方向が圧延方向に対して平行になるようにして、JIS Z2241:2011に規定された13B号試験片を採取する。次いで、JIS Z 2241:2011に規定された方法に従い、室温環境下において引張試験を行う。そして、引張試験により得られた試験力-ひずみ曲線から、降伏点における試験力及び塑性ひずみの値と、降伏点から塑性ひずみが0.1%増加した点における試験力の値とを特定する。そして、これらの値を用いて2点法により算出した加工硬化指数を、フィン材の加工硬化指数とする。
【0052】
より具体的には、フィン材の加工硬化指数nは、降伏点における試験力F1(単位:N)及び塑性ひずみe1(単位:%)と、降伏点から塑性ひずみが0.1%増加した点における試験力F2(単位:N)とを用い、下記式(2)により算出される値である。
【0053】
【0054】
(フィン材の製造方法)
前記フィン材は、例えば、心材となる心材用塊及びろう材となるろう材用塊を含む複数のアルミニウム合金鋳塊を作製する鋳造工程と、前記心材用塊の両面上に前記ろう材用塊を配置してクラッド塊を作製する積層工程と、前記クラッド塊に熱間圧延を施してクラッド板を作製する熱間圧延工程と、前記クラッド板に冷間圧延を施す第1冷間圧延工程と、前記第1冷間圧延工程後の前記クラッド板を加熱して焼鈍する焼鈍工程と、前記焼鈍工程後の前記クラッド板に冷間圧延を施す第2冷間圧延工程と、を有する製造方法により作製される。
【0055】
<鋳造工程>
鋳造工程において、心材用塊及びろう材用塊の作製方法は特に限定されることはない。心材用塊及びろう材用塊の作製方法としては、例えば、半連続鋳造等の公知の鋳造方法を採用することができる。半連続鋳造により心材用塊を作製する場合には、例えば、溶湯がダイに供給されてから凝固するまでの平均冷却速度が0.5℃/秒以上となるように、鋳造を行えばよい。
【0056】
また、半連続鋳造により心材用塊を作製する場合には、心材用塊の温度が550℃となった時点から200℃に到達するまでの平均冷却速度が0.10℃/秒以上となるように、心材用塊を冷却することが好ましい。心材用塊の平均冷却速度を前記特定の範囲とすることにより、心材用塊中へのAl-Mn-Si系化合物等の過剰な析出を回避することができる。同様の観点からは、心材用塊の温度が550℃となった時点から200℃に到達するまでの平均冷却速度が0.13℃/秒以上となるように、心材用塊を冷却することがより好ましい。
【0057】
鋳造工程において得られた心材用塊及びろう材用塊は、そのまま積層工程に供してもよい。また、心材用塊及び/またはろう材用塊に面削を施し、表面に形成される鋳塊偏析層を除去した後に、心材用塊を積層工程に供することもできる。さらに、最終的に得られるフィン材のクラッド率が所望の値となるように、心材用塊及び/またはろう材用塊に熱間圧延を施してこれらの厚みを調整することもできる。心材及びろう材に加え、これら以外のアルミニウム合金からなる層を備えたフィン材を作製しようとする場合には、鋳造工程において、心材用塊及びろう材用塊に加え、これら以外のアルミニウム合金鋳塊を作製すればよい。
【0058】
<均質化処理工程>
前記製造方法は、鋳造工程を行った後、積層工程を行う前に、心材用塊を加熱して均質化処理を行う均質化処理工程を有していてもよい。均質化処理工程においては、例えば、保持温度を420℃以上510℃未満、保持時間を0.5時間以上12時間以下の範囲から適宜選択することができる。
【0059】
<積層工程>
積層工程においては、心材用塊の両面上に、ろう材用塊及び必要に応じて設けられるろう材用塊以外のアルミニウム合金鋳塊を重ね合わせてクラッド塊を作製する。このようにしてクラッド塊を作製することにより、心材の両面上にろう材が配置されたフィン材を得ることができる。
【0060】
<熱間圧延工程>
熱間圧延工程においては、クラッド塊に熱間圧延を施すことにより、クラッド塊における隣り合う鋳塊同士を接合しつつ、これらの厚みを薄くする。これにより、心材の両面上にろう材が配置されたクラッド板を得ることができる。熱間圧延工程においては、クラッド塊を420℃以上500℃以下、好ましくは430℃以上490℃以下の温度範囲まで予熱した後、熱間圧延を行えばよい。圧延開始温度を前記特定の範囲とすることにより、クラッド板における心材中へのAl-Mn-Si系化合物等の過剰な析出を回避しつつ、隣り合う鋳塊同士を容易に接合することができる。これにより、最終的に得られるフィン材において心材中に固溶しているMnの量を十分に多くし、ろう付前のフィン材の成形性を向上させるとともに、ろう付後のフィンの強度を向上させることができる。
【0061】
心材用塊の予熱を行う場合には、圧延開始温度の保持時間が0.5時間以上12時間以下となるように予熱を行うことが好ましい。保持時間を前記特定の範囲とすることにより、心材中へのAl-Mn-Si系化合物等の過剰な析出をより確実に回避することができる。同様の観点から、予熱を開始した時点から圧延開始温度に到達するまでの時間が15時間以内となるように、心材用塊の予熱を行うことが好ましい。
【0062】
また、熱間圧延工程においては、熱間圧延における圧下率、つまり、熱間圧延開始時のクラッド塊の厚みに対するクラッド板の厚みの減少率が10%に達した時点におけるクラッド板の温度が370℃以上450℃以下となるように熱間圧延を行うことが好ましく、380℃以上440℃以下となるように熱間圧延を行うことがより好ましい。また、熱間圧延工程においては、完了時のクラッド板の温度が370℃未満となるように熱間圧延を行うことが好ましく、350℃以下となるように熱間圧延を行うことがより好ましい。また、熱間圧延工程においては、熱間圧延を開始した時点から完了した時点までの時間が60分以下となるように熱間圧延を行うことが好ましく、40分以下となるように熱間圧延を行うことが好ましい。このような条件で熱間圧延を行うことにより、心材中へのAl-Mn-Si系化合物等の過剰な析出をより確実に抑制することができる。
【0063】
<第1冷間圧延工程>
熱間圧延工程が完了した後のクラッド板は、焼鈍を行うことなく第1冷間圧延工程に供される。第1冷間圧延工程においては、熱間圧延工程により得られたクラッド板に1パス以上の冷間圧延を行い、所望するフィン材の厚みよりも厚くなるようにクラッド板の厚みを低減する。第1冷間圧延工程において複数パスの冷間圧延を行う場合には、パス間での焼鈍は行わない。第1冷間圧延工程においては、例えば、圧下率、つまり、熱間圧延工程が完了した後のクラッド板の厚みに対する第1冷間圧延工程によるクラッド板の厚みの減少率(単位:%)が85.0%以上99.5%以下となるように冷間圧延を行えばよい。
【0064】
<焼鈍工程>
第1冷間圧延工程が完了した後、クラッド板を加熱して焼鈍する焼鈍工程を行う。焼鈍工程においては、下記式(1)により算出される総拡散量Mが1.0×10-14m2以上5.0×10-12m2以下となる条件でクラッド板を加熱する。
【0065】
【0066】
ただし、前記式(1)におけるnは総加熱時間を単位時間Δtで分割したときの区間数であり、D0は1.37×10-5m2/sであり、Qは123kJ/molであり、Rの値は8.3145kJ/(mol・K)であり、T(k)の値は第k番目の区間の開始時点における加熱温度[K]である。
【0067】
焼鈍工程においてクラッド板を加熱すると、アルミニウム原子が拡散し、結晶格子が再配列される。焼鈍工程におけるアルミニウム原子の拡散量を適正な範囲に制御することにより、焼鈍工程後のクラッド板における心材の結晶集合組織を所望の態様に制御し、ひいては最終的に得られるフィン材における心材の結晶集合組織を前記特定の態様とすることができる。
【0068】
より具体的には、アルミニウム原子の自己拡散係数Dは、クラッド板の温度T(単位:K)を用いて以下の式(3)で表される。
D=D0exp(-Q/RT) ・・・(3)
【0069】
それ故、温度Tが一定の場合には、前記式(3)により算出される拡散係数Dに保持時間を乗じることにより、アルミニウム原子の拡散量を算出することができる。しかし、実際の焼鈍工程においては、例えば加熱開始から保持温度に到達するまでの間や、加熱終了後、冷却が完了するまでの間等に、温度が変動することがある。前記式(1)においては、焼鈍開始から焼鈍完了までの間を単位時間Δtごとに区分し、各区間での自己拡散係数と単位時間Δtとの積を合計することにより総拡散量Mの値が算出されている。それ故、前記式(1)によれば、前述した温度の変動を考慮した総拡散量Mを算出することができる。
【0070】
前記製造方法においては、焼鈍工程における総拡散量Mが前記特定の範囲となるようにクラッド板を加熱することにより、アルミニウム原子を適度に拡散させ、心材中にBrass方位、S方位及びCopper方位を発達させるとともに心材中のCube方位、CR方位およびP方位の発達を抑制することができる。その結果、最終的に得られるフィン材における心材の結晶集合組織を前記特定の態様とすることができる。
【0071】
焼鈍工程における総拡散量Mが1.0×10-14m2未満の場合には、Brass方位、S方位及びCopper方位の発達が不十分となりやすい。また、総拡散量Mが5.0×10-12m2よりも大きい場合には、Cube方位、CR方位及びCopper方位の発達が促進されやすい。それ故、焼鈍工程における総拡散量Mが前記特定の範囲外となる場合には、フィン材の成形性の悪化を招くおそれがある。
【0072】
なお、総拡散量Mを算出するに当たり、単位時間Δtは、各区間の開始時点におけるクラッド板の温度と、各区間の終了時点におけるクラッド板の温度との差が十分に小さくなるように、適当な値を設定すればよい。単位時間Δtは、例えば1分とすることができる。
【0073】
<第2冷間圧延工程>
第2冷間圧延工程においては、焼鈍工程が完了した後のクラッド板に1パス以上の冷間圧延を行い、所望の厚みのフィン材を得る。第2冷間圧延工程において複数パスの冷間圧延を行う場合には、パス間での焼鈍は行わない。
【実施例0074】
前記アルミニウム合金フィン材及びその製造方法の実施例を以下に説明する。なお、本発明に係るアルミニウム合金フィン材及びその製造方法の具体的な態様は、以下の実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更することができる。
【0075】
図1に示すように、本例のフィン材1は、心材2と、心材2の両面上に配置されたろう材3とを備えたブレージングシートから構成されている。心材2は、Si:0.02質量%以上0.80質量%以下、Fe:0.02質量%以上0.80質量%以下及びMn:0.8質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。また、心材2は、Brass方位、Copper方位及びS方位のうち1種類以上の結晶方位の方位密度がランダム方位試料の20倍以上であり、かつ、Cube方位、CR方位およびP方位の方位密度がいずれもランダム方位試料の10倍以下である結晶集合組織とを有している。ろう材3は、Si:6.0質量%以上13.0質量%以下及びFe:0.02質量%以上0.80質量%以下を含むAl-Si系合金からなる。各ろう材3のクラッド率は6%以上16%以下である。以下、本例のフィン材1の構成及び製造方法をより具体的に説明する。
【0076】
本例において使用する心材2の化学成分を表1に示す。また、本例において使用するろう材3の化学成分を表2に示す。表1及び表2における記号「Bal.」は残部であることを示す記号であり、記号「-」は、当該元素の含有量がスパーク放電発光分光分析装置の検出限界以下であることを示す記号である。
【0077】
【0078】
【0079】
本例のフィン材1を作製するに当たっては、まず、半連続鋳造により、表1に示す化学成分を備えた心材用塊及び表2に示す化学成分を備えたろう材用塊を作製する(鋳造工程)。合金記号A1及び合金記号A3~A6に示す化学成分を備えた心材用塊については、鋳造後の心材用塊を500℃の温度に8時間保持して均質化処理を行う。なお、合金記号A2に示す化学成分を備えた心材用塊については、均質化処理を行わない。このようにして得られた各心材用塊及びろう材用塊の表面を面削し、鋳塊偏析層を除去する。また、本例においては、ろう材用塊に熱間圧延を施し、最終的に得られるフィン材のクラッド率が所望の値となるようにろう材用塊の厚みを調整する。
【0080】
次に、表3に示す組み合わせで心材用塊の両面にろう材用塊を重ね合わせ、クラッド塊を作製する(積層工程)。このクラッド塊を予熱した後、熱間圧延を行ってクラッド板を得る(熱間圧延工程)。次いで、クラッド板に冷間圧延を行い、クラッド板の厚みを所望するフィン材の厚みよりも厚くなるまで低減する(第1冷間圧延工程)。
【0081】
第1冷間圧延工程が完了した後のクラッド板を、総拡散量Mが表3に示す値となる条件で加熱して焼鈍する(焼鈍工程)。その後、クラッド板に更に冷間圧延を施し、クラッド板の厚みを表3に示す値まで低減する(第2冷間圧延工程)。以上により、表3に示すフィン材1(試験材S1~S3)を得ることができる。
【0082】
なお、本例においては、便宜上、心材2の一方の面上に積層されたろう材3を第1ろう材3aといい、他方の面上に積層されたろう材3を第2ろう材3bという。第1ろう材3a及び第2ろう材3bのクラッド率は、それぞれ、表3に示した通りである。
【0083】
また、表3に示す試験材S4~S6は、試験材S1~S3との比較のための試験材である。試験材S4~S6の作製方法は、焼鈍工程における加熱条件を、総拡散量Mが前記特定の範囲から外れるように変更した以外は、試験材S1~S3の作製方法と同様である。
【0084】
フィン材1の結晶集合組織の評価方法、加工硬化指数の測定方法及びろう付後のフィンの強度の評価方法を以下に説明する。
【0085】
<結晶集合組織の評価方法>
フィン材1の圧延直角方向における中央部から、一辺25mmの正方形状を呈する試験片を採取する。この試験片における縦25mm×横25mmの面を、試験片の厚みがフィン材の厚みの1/2となるまで研磨し、心材2を露出させる。次いで、試験片を硝酸、塩酸およびフッ酸を混合してなるエッチング液に10秒間浸漬し、心材2の表面をエッチングする。
【0086】
次に、試験片における心材2の表面にX線を照射し、反射法によるX線回折測定を行う。これにより、心材2の表面の極点図を取得する。そして、球面調和関数を用いた級数展開法により心材2の極点図の三次元解析を行い、心材2中に存在する各結晶方位の方位密度を算出する。これと同様の測定及び解析を、ランダム方位試料について実施し、ランダム方位試料中に存在する各結晶方位の方位密度を算出する。なお、ランダム方位試料としては、例えばアルミニウム粉末などの、試料中の結晶方位が特定の方向に配向していない試料を使用すればよい。
【0087】
その後、ランダム方位試料の方位密度に対する心材2の方位密度の比率を算出する。各試験材における結晶方位の方位密度の比率は、表3に示す値となる。
【0088】
<加工硬化指数の測定方法>
フィン材1から、長手方向が圧延方向に対して平行になるようにして、JIS Z2241:2011に規定された13B号試験片を採取する。次いで、JIS Z 2241:2011に規定された方法に従い、室温環境下において引張試験を行う。そして、引張試験により得られた試験力-ひずみ曲線から、降伏点における試験力及び塑性ひずみの値と、降伏点から塑性ひずみが0.1%増加した点における試験力の値とを特定する。そして、これらの値を用い、2点法により加工硬化指数を算出する。各試験材の加工硬化指数は、表3に示す値となる。
【0089】
<ろう付後のフィンの強度の評価>
ろう付後のフィンの強度は、ろう付加熱を模擬した条件で加熱した試験材の引張強さに基づいて評価することができる。具体的には、まず、適当な大きさに切断したフィン材1をろう付炉内に配置し、窒素雰囲気中において加熱する。炉内の温度が600℃に到達した時点で加熱を完了し、炉内でフィン材1を冷却する。ろう付炉から取り出したフィン材1を室温まで自然冷却した後、フィン材1から、圧延方向に対して長手方向が並行になるようにしてJIS Z2241:2011に規定された13B号試験片を採取する。
【0090】
このようにして作製した試験片を用い、JIS Z 2241:2011に規定された方法に従って、室温環境下において引張試験を行う。表3に、各試験材のろう付後における引張強さを示す。
【0091】
【0092】
表1~表3に示すように、試験材S1~S3は、前記特定の化学成分および結晶集合組織を備えた心材2と、前記特定の化学成分を備えたろう材3とを有している。また、試験材S1~S3におけるろう材3のクラッド率は、いずれも前記特定の範囲内にある。このような構成を有する試験材S1~S3は、高い加工硬化指数を有し、成形性に優れているとともに、ろう付加熱後の強度にも優れている。
【0093】
一方、試験材S4~S6は、総拡散量Mが試験材S1~S3よりも大きくなる条件で焼鈍が施されている。そのため、試験材S4~S6は、焼鈍中に心材のアルミニウム原子が過度に拡散し、Brass方位、S方位及びCopper方位の方位密度が低くなるとともに、Cube方位、CR方位及びCopper方位の発達が促進される。その結果、試験材S4~S6は、試験材S1~S3に比べて成形性に劣っている。