(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118956
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】水没防止構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20220808BHJP
B63C 9/00 20060101ALI20220808BHJP
E02B 1/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
B63C9/00 Z
E02B1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015826
(22)【出願日】2021-02-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】596141402
【氏名又は名称】有限会社ちふりや工業
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】岩下 芳人
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA07
2E139AC19
2E139AD03
(57)【要約】
【課題】津波又は洪水等の発生時に、搬送若しくは移動が不可能な重量がある大型の機械設備等の保護対象物を水没から保護することができる水没防止構造を提供する。
【解決手段】(a)保護対象物12の外周で設置面11に埋設された複数の被締結具13と、(b)防水性素材で形成され、保護対象物12の外周を覆う周壁部16、周壁部16の下端外周に全周にわたって延設された鍔部17及び保護対象物12の上面18を覆う天井部19とを有し、被締結具13を介して設置面11に着脱可能に固定される水没防止カバー15と、(c)設置面11と鍔部17の底面との間に、鍔部17の全周にわたって配置される止水材20と、(d)鍔部17の上面に載置される押え部材21と、(e)押え部材21、鍔部17及び止水材20を貫通し、各被締結具13と締結される複数の締結具22を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置面に載置された保護対象物を水没から保護する水没防止構造であって、
(a)前記保護対象物の外周で前記設置面に埋設された複数の被締結具と、(b)防水性素材で形成され、前記保護対象物の少なくとも下側外周を覆う周壁部と該周壁部の下端外周に全周にわたって延設された鍔部とを有し、前記被締結具を介して前記設置面に着脱可能に固定される水没防止カバーと、(c)前記設置面と前記鍔部の底面との間に、該鍔部の全周にわたって配置される止水材と、(d)前記鍔部の上面に載置される押え部材と、(e)該押え部材、前記鍔部及び前記止水材を貫通し、前記各被締結具と締結される複数の締結具とを備えたことを特徴とする水没防止構造。
【請求項2】
請求項1記載の水没防止構造において、前記押え部材、前記鍔部及び前記止水材には、前記各被締結具の位置に対応して前記締結具を挿通するための貫通孔がそれぞれ形成されていることを特徴とする水没防止構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水没防止構造において、前記止水材は、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムであることを特徴とする水没防止構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1記載の水没防止構造において、前記被締結具は、アンカーナットであり、前記締結具は、ボルトであることを特徴とする水没防止構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1記載の水没防止構造において、前記水没防止カバーは、防水性素材で形成され前記保護対象物の上面を覆う天井部を有し、該天井部の外周は、前記周壁部の上端部と水密に連結されていることを特徴とする水没防止構造。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1記載の水没防止構造において、前記水没防止カバーは、前記周壁部の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、前記周壁部の上部を上方に引き上げる浮力発生部を備えたことを特徴とする水没防止構造。
【請求項7】
請求項6記載の水没防止構造において、前記浮力発生部は、中空袋状に形成されて前記周壁部の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体が充填されることを特徴とする水没防止構造。
【請求項8】
請求項6又は7記載の水没防止構造において、前記周壁部及び前記鍔部は、帯状に形成され、前記保護対象物の外周に沿って巻き回されて、該周壁部及び該鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結可能であることを特徴とする水没防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波又は洪水等の発生時に、重量がある大型の機械設備等をはじめとする搬送若しくは移動が不可能(困難)な様々な保護対象物を水没から保護するための水没防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台風、集中豪雨、地震等に伴って発生する津波又は洪水等により、電化製品、寝具、家財道具、事務機器及び車両等が水没したり、屋外に流出したりして、汚損若しくは損傷し、使用不能になることや、行方不明になることがある。そこで、例えば特許文献1には、洪水等において床上浸水した場合に、寝具、衣類、その他の家財道具等を水濡れや土砂崩れ等による倒壊等の被害から守るようにした密閉式強化袋が提案されている。また、車両の水没を防止するものとして、例えば特許文献2には、空気袋の下に箱型の防水布を結合させた袋の中央に自動車を置き、空気袋を自動車の排気ガスで膨らませ、周囲の水位の上昇と共に空気袋が上昇し自動車を水害から保護する自動車用水害防止袋が提案されている。特許文献3には、自動車の床下が支えられてそれを浮上させるための袋状で折畳み可能なマット本体と、該マット本体にガスを導入するための導入パイプと、その導入パイプの端部にマフラーの排気管に取付ける排気部取付具とから少なくとも構成し、且つ、マット本体が、中央マット部と、その両側に配置して固定したサイドマット部とから少なくとも構成される自動車用浮上マットが提案されている。特許文献4には、浮き袋と、車室への浸水を検出する浸水検出部と、該浸水検出部の検出信号に従って制御信号を発する制御部と、該制御部の制御信号に従って該浮き袋にガスを供給するガス供給部とを含む車両用水面浮揚装置が提案されている。特許文献5には、防水底パッドと、防水底パッド周縁で相互に通じる中空の辺棒と、辺棒一端に設けられた防水空気充填孔と、防水底パッド片側に設けられた防水カバー体を備え、防水カバー体と防水底パッドに相互に対応する防水ファスナーを設置し、防水カバー体により自動車を包んだ後、防水ファスナーにより、防水カバー体と防水底パッドとを閉めて合わせる自動車防水カバーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-29172号公報
【特許文献2】実用新案登録第3100090号公報
【特許文献3】特開2016-20191号公報
【特許文献4】特開2016-132365号公報
【特許文献5】実用新案登録第3179545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの従来技術は、いずれも保護対象物の少なくとも底部及び外周を防水性のカバー等で囲うことにより、保護対象物の水没を防止するものであるため、対象物をカバー等の内部(底部の上)に移動させる必要がある。従って、保護対象物は、小型若しくは比較的軽量で人手によって搬送できるものか、車両のように人が運転して移動させることができるものに限られ、重量がある大型の機器や、設置面に固定され、又は配線若しくは配管等が接続された機械設備等のように、容易に搬送又は移動が不可能な保護対象物の水没を防ぐことができず、大きな損失が発生するという問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、津波又は洪水等の発生時に、搬送若しくは移動が不可能な各種の保護対象物を水没から保護することができる水没防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る水没防止構造は、設置面に載置された保護対象物を水没から保護する水没防止構造であって、
(a)前記保護対象物の外周で前記設置面に埋設された複数の被締結具と、(b)防水性素材で形成され、前記保護対象物の少なくとも下側外周を覆う周壁部と該周壁部の下端外周に全周にわたって延設された鍔部とを有し、前記被締結具を介して前記設置面に着脱可能に固定される水没防止カバーと、(c)前記設置面と前記鍔部の底面との間に、該鍔部の全周にわたって配置される止水材と、(d)前記鍔部の上面に載置される押え部材と、(e)該押え部材、前記鍔部及び前記止水材を貫通し、前記各被締結具と締結される複数の締結具とを備える。
【0006】
ここで、水没防止カバーの周壁部及び鍔部を形成する防水性素材は非透水性である。押え部材としては、ステンレス等の金属で形成された長尺の板材(例えばフラットバー)が好適に用いられる。なお、本発明における水没防止構造では、浸水時に発生する周囲の水の圧力に対して、水没防止カバーの内側に水が浸入しない程度の水密性を確保できる範囲で、各部の素材及び部材同士の接合方法又は連結方法を適宜、選択することができる。
【0007】
本発明に係る水没防止構造において、前記押え部材、前記鍔部及び前記止水材には、前記各被締結具の位置に対応して前記締結具を挿通するための貫通孔がそれぞれ形成されていることが好ましい。
【0008】
本発明に係る水没防止構造において、前記止水材は、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムであることが好ましい。
【0009】
本発明に係る水没防止構造において、前記被締結具は、アンカーナットであり、前記締結具は、ボルトであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る水没防止構造において、前記水没防止カバーは、防水性素材で形成され前記保護対象物の上面を覆う天井部を有し、該天井部の外周は、前記周壁部の上端部と水密に連結されていてもよい。
【0011】
本発明に係る水没防止構造において、前記水没防止カバーは、前記周壁部の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、前記周壁部の上部を上方に引き上げる浮力発生部を備えることもできる。
【0012】
本発明に係る水没防止構造において、前記浮力発生部は、中空袋状に形成されて前記周壁部の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体が充填されることが好ましい。
【0013】
本発明に係る水没防止構造において、前記周壁部及び前記鍔部は、帯状に形成され、前記保護対象物の外周に沿って巻き回されて、該周壁部及び該鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結可能であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る水没防止構造は、保護対象物が載置された設置面と、水没防止カバーの周壁部の下端外周に全周にわたって延設された鍔部の底面との間に止水材が配置されることにより、保護対象物を設置面に載置したまま保護対象物の外周を確実に止水することができ、保護対象物を持ち上げたり、移動させたりする必要がないので、大型で重量のある保護対象物や、設置面に固定され、又は配線若しくは配管等が接続されている保護対象物でも水没から保護することができる。また、保護対象物の設置面に、水没防止カバーを固定するための被締結具が予め埋設されているので、必要時に短時間で簡単に水没防止カバーを設置することができると共に、水没防止カバーを取り外した状態では、設置面に埋設された被締結具が邪魔になることがなく、機能性に優れる。
【0015】
本発明に係る水没防止構造において、押え部材、鍔部及び止水材に、各被締結具の位置に対応して締結具を挿通するための貫通孔がそれぞれ形成されている場合、各部の位置合わせ及び締結作業を容易に行うことができる。
【0016】
本発明に係る水没防止構造において、止水材が、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムである場合、浸水時に、自己体積膨張機能により、水分を吸収して数倍の体積に膨張し、長期的に安定して止水することができる。
【0017】
本発明に係る水没防止構造において、被締結具が、アンカーナットであり、締結具が、ボルトである場合、ボルトをアンカーナットに螺着することにより、簡単に締結作業を行うことができ、水没防止カバーの固定の確実性及び安定性に優れる。
【0018】
本発明に係る水没防止構造において、水没防止カバーが、防水性素材で形成され保護対象物の上面を覆う天井部を有し、天井部の外周が、周壁部の上端部と水密に連結されている場合、周囲の水位が保護対象物の高さを超えても、水没防止カバーの内部に浸水することがなく、保護対象物を水没から確実に保護することができる。
【0019】
本発明に係る水没防止構造において、水没防止カバーが、周壁部の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、周壁部の上部を上方に引き上げる浮力発生部を備える場合、周壁部を高さ方向に押し潰した状態で設置しても、水位の上昇と共に周壁部の上部を上方に移動させることができ、水位が周壁部の最大高さを超えない限り、水没防止カバーの内部に浸水することがなく、水没防止カバーの上面を開放する(天井部をなくす)ことができるので、保護対象物の高さの制約を受けず、汎用性に優れる。
【0020】
本発明に係る水没防止構造において、浮力発生部が、中空袋状に形成されて周壁部の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体が充填される場合、使用しない時は周壁部と共に浮力発生部を押し潰し、コンパクトに折り畳んで収納及び搬送を行うことができ、使用時には周壁部の上部を全周にわたって周囲の水位に応じた均一な高さに保持して、水没防止カバーの内部への浸水を確実に防止することができる。
【0021】
本発明に係る水没防止構造において、周壁部及び鍔部が、帯状に形成され、保護対象物の外周に沿って巻き回されて、該周壁部及び該鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結可能である場合、保護対象物の高さが高くても、周壁部を高さ方向に押し潰した状態で水没防止カバーを保護対象物の外周に沿って配置し、周壁部及び鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士を地上で簡単に連結することができ、脚立等を用いて連結作業を行う必要がなく、安全性及び施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る水没防止構造を示す平面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る水没防止構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1~
図3に示す本発明の第1の実施の形態に係る水没防止構造10は、コンクリート等で形成された非透水性の設置面11に載置され、津波又は洪水等の発生時に、搬送若しくは移動が不可能な重量がある大型の機械設備等の保護対象物12を水没から保護するためのものである。
水没防止構造10は、保護対象物12の外周で設置面11に埋設された複数の被締結具(ここでは、アンカーナット)13(
図3参照)と、被締結具13を介して設置面11に着脱可能に固定される水没防止カバー15とを備えている。水没防止カバー15は、防水性素材で形成され、保護対象物12の外周を覆う周壁部16、周壁部16の下端外周に全周にわたって延設された鍔部17及び保護対象物12の上面18を覆う天井部19を有している。そして、水没防止構造10は、設置面11と鍔部17の底面との間に、鍔部17の全周にわたって配置される止水材20(
図3参照)と、鍔部17の上面に載置される押え部材21と、押え部材21、鍔部17及び止水材20を貫通し、各被締結具13と締結される複数の締結具(ここでは、ボルト)22を備えている。
【0024】
水没防止カバーを形成する防水性素材としては、例えばゴムボート、災害用エアーテント、又は耐火防護服等と同様の堅牢性及び耐久性を有する生地を用いることが好ましい。特に、水上で使用されるゴムボートの生地は、破れ難く、水密性に優れるので好適である。具体的には、ポリアミド又はポリエステル等の合成繊維の基布に、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、又は天然ゴム等のゴムを複数層貼り合わせたゴム引布が好適に用いられる。基布としてポリアミドを用いた場合は、軽量で柔軟性及び伸縮性に優れ、ポリエステルを用いた場合は、硬く、高剛性で伸縮性が少なく、耐久性に優れる。なお、基布に貼り合わせるゴムの組合せ及び層数は、適宜、選択することができる。また、ゴムの代わりに、塩化ビニル樹脂を基布に貼り合わせた生地を用いてもよく、その場合、加工が簡単で低コストで製造でき、耐摩耗性にも優れる。水没防止カバーは、保護対象物全体を覆うことができればよく、周壁部及び天井部の形状及び大きさは、保護対象物の形状及び大きさに応じて、適宜、選択することができる。
【0025】
鍔部の幅は、例えば100~300mm程度が好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、保護対象物の大きさ等に応じて、適宜、選択することができる。
本実施の形態では、保護対象物12の外周に被締結具13を一列に配置したが、被締結具の数及び配置は、適宜、選択することができる。被締結具の配置間隔は、例えば200~500mm程度が好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、保護対象物の大きさ等に応じて、適宜、選択することができ、不等間隔でもよい。また、被締結具を二列に配置してもよく、その場合、一列目と二列目の配置をピッチ方向にずらして互い違いに(千鳥状に)配置することもできる。
本実施の形態では、周壁部16と鍔部17を一体に(継ぎ目なく)形成したが、周壁部16と鍔部17との継ぎ目を溶着又は接着により貼り合わせて一体化することにより、水密性を確保してもよい。また、本実施の形態では、天井部19の外周と、周壁部16の上端部とを溶着で貼り合わせて水密に連結したが、可能な範囲で天井部と周壁部を一体に(継ぎ目なく)形成してもよい。周壁部同士の継ぎ目、鍔部同士の継ぎ目、周壁部と鍔部との継ぎ目及び周壁部と天井部との継ぎ目が発生する場合、その数及び場所は適宜、選択することができ、継ぎ目を溶着又は接着により貼り合わせる代わりに、止水(防水)ファスナーで連結することもできる。
【0026】
本実施の形態では、止水材20として、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムを用いた。これにより、水没防止カバー15の周囲に浸水した時に、止水材20が膨張して設置面11と鍔部17の底面との隙間を確実に塞いで、水没防止カバー15の内部への浸水を防ぐことができる。なお、止水材は、これに限定されるものではなく、設置面11と鍔部17の底面との間を止水できるものであればよい。また、止水材は、鍔部の全周にわたって隙間なく連続的に配置されている必要があり、鍔部の形状に合わせて1枚の環状に形成されていることが好ましいが、例えば複数の板状の止水材を鍔部に沿うように連続的に並べて配置してもよい。さらに、設置面に止水材を配置した後、水没防止カバーを載置して止水材の上面を鍔部で覆ってもよいが、鍔部の底面に止水材を仮止めした状態で水没防止カバーを設置面に載置することにより、止水材の位置ずれを防止することができ、施工性に優れる。なお、接着層を介して鍔部に止水材を仮止めする際に、止水材の幅全体に接着層を形成せず部分的に接着層を形成しておけば、使用時に、接着層が圧縮され接着層の周囲の止水材が膨張して鍔部を密着することにより、接着層から水没防止カバーの内部に浸水することを防止できる。特に止水材の表面に凹凸を設け、凹部に接着層を形成すれば、接着層の周囲の止水材を鍔部に確実に密着させることができる。
【0027】
押え部材21としては、ステンレス等の金属で形成された長尺の板材(例えばフラットバー)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、被締結具13と締結具22を締結することにより、鍔部17を設置面11側に押付けて止水材20を圧縮できるものであればよい。本実施の形態では、各押え部材21の全長を鍔部17の各辺の長さとほぼ同等に形成し、鍔部17のほぼ全周にわたって押え部材21を配置したが、止水材による止水性を確保できる範囲で、押え部材を断続的に配置することもでき、その場合の各押え部材の長さ、数及び配置間隔は、適宜、選択することができる。また、押え部材の幅は、例えば50~200mmが好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、鍔部の幅と同等以下の範囲で適宜、選択することができる。押え部材の厚さは例えば3~15mmが好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、押え部材の面積等に応じて、適宜、選択することができる。
押え部材21、鍔部17及び止水材20には、各被締結具13の位置に対応して締結具22を挿通するための貫通孔24、25、26がそれぞれ形成されている。これにより、各部材間の位置決めを容易に行うことができ、施工性に優れる。なお、これらの貫通孔24、25、26が形成されていても、貫通孔26の周囲で、止水材20の下面及び上面がそれぞれ設置面11及び鍔部17の底面と密着することにより、貫通孔24、25、26から水没防止カバー15の内部に浸水することはない。特に、止水材として水膨張ゴムを用いた場合は、貫通孔26の内周面と締結具22の外周面との隙間が、止水材(水膨張ゴム)の膨張により埋められ、貫通孔26への水の浸入をより確実に防ぐことができる。
【0028】
以上の構成によれば、津波又は洪水等の発生に備えて、予め保護対象物12の外周で設置面11に埋設された被締結具13の上に止水材20、水没防止カバー15(鍔部17)、押え部材21の順に配置し、被締結具13に締結具22を締結して設置面11と押え部材21との間で止水材20及び水没防止カバー15の鍔部17を圧縮するようにして水没防止カバー15を固定することにより、保護対象物12の外周を止水することができ、保護対象物12の周囲が浸水した場合でも、水没防止カバー15の内側に水が浸入することを防止して、保護対象物15の水没を防ぐことができる。
【0029】
次に、
図4~
図6を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る水没防止構造28について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
水没防止構造28が水没防止構造10と異なる点は、水没防止カバー29が天井部を備えていない点と、周壁部16の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、周壁部16の上部を上方に引き上げる浮力発生部30を備えている点である。浮力発生部30は、中空袋状に形成されて周壁部16の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体(空気、窒素、二酸化炭素等)が充填されるものである。これにより、使用開始時(浸水前)は、周壁部16を高さ方向に押し潰した状態で設置しても、浸水時の周囲の水位の上昇と共に、浮力発生部30で周壁部16の上部を上方に移動させることができ、水位が周壁部16の最大高さを超えない限り、水没防止カバー29の内部に水が浸入することを防止して、保護対象物12の水没を防ぐことができる。従って、想定される浸水時の水位よりも、周壁部16を高く形成しておけば、保護対象物12の高さに関わらず(周壁部16が保護対象物12の下側外周を覆っている場合でも)、保護対象物12を水没から守ることができ、汎用性に優れる。
【0030】
また、周壁部16及び鍔部17が、帯状に形成され、保護対象物12の外周に沿って巻き回されて、周壁部16及び鍔部17のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結される構造にすることにより、保護対象物12の高さが高くても、周壁部16を高さ方向に押し潰した状態で水没防止カバー29を保護対象物12の外周に沿って配置し、周壁部16及び鍔部17のそれぞれの長手方向の両側の端部同士を地上で簡単に連結することができ、脚立等を用いて連結作業を行う必要がなく、安全性及び施工性に優れる。そこで、
図4、
図5に示すように、周壁部16の高さ方向及び鍔部17の幅方向に沿って止水ファスナー31を取り付ければ、帯状に形成された周壁部16及び鍔部17のそれぞれの長手方向の両側の端部同士を簡単かつ確実に水密に連結することができる。なお、止水ファスナーの位置は適宜、選択することができる。また、帯状に形成された周壁部及び鍔部を止水ファスナーを介して複数連結し、水没防止カバーを構成することもできる。この場合、所定の長さで帯状に形成された周壁部及び鍔部を適宜、連結する(継ぎ足す)ことにより、水没防止カバーを容易に大型化することができ、汎用性に優れる。
【0031】
周壁部16及び鍔部17を帯状に形成する場合、浮力発生部30は周壁部16に対して着脱可能とし、周壁部16及び鍔部17を保護対象物12の外周に沿って巻き回して端部同士を連結した後、浮力発生部30を取り付ける構造としてもよいし、環状の浮力発生部の代わりに、帯状の周壁部の長手方向に沿って棒状の浮力発生部を取り付けてもよい。或いは、周壁部の周方向に沿って複数の浮力発生部を分割して取り付けてもよい。なお、
図6に示すように、周壁部16と浮力発生部30の連結位置が浮力発生部30の底部位置よりも高ければ、浮力発生部30が水に浮いた状態で、水位が連結位置よりも低くなるので、周壁部16と浮力発生部30との接合面が水密である必要はなく、面ファスナー等を用いて両者を簡単に連結(接合)することができるが、念のために止水ファスナーを用いて水密に連結することもできる。また、建物の天井から配線や配管が接続されている保護対象物に対しても適用することができ、設置の自在性に優れる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、上記実施の形態では、水没防止カバーの周壁部を角筒状(平面視して長方形状)に形成したが、周壁部は保護対象物の外周を覆うことができればよく、例えば円筒状(平面視して円形状)に形成してもよい。
また、1つの水没防止カバーで保護する保護対象物の数は適宜、選択することができ、近接して配置された複数の保護対象物や、配線又は配管等で接続された複数の保護対象物を1つの水没防止カバーでまとめて保護してもよいし、天井部を有する水没防止カバーは屋外にも設置することができ、建物全体を保護対象物として水没から保護することも可能である。
さらに、水没防止カバー(周壁部)の外周に緩衝部材を取付け、漂流物等との衝突時の衝撃を緩和し、周壁部の破損を防止することもできる。緩衝部材としては、中空袋状に形成され、内部に気体(空気、窒素、二酸化炭素等)が充填可能なもの(例えばエアーマット)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、その材質及び構造は、適宜、選択することができる。また、必要に応じて、周壁部の内側及び/又は外側の要所に補強材を取り付けてもよい。
上記実施の形態では、被締結具及び締結具としてアンカーナット及びボルトを使用したが、被締結具としてアンカーボルトを設置面に埋設し、締結具としてナットを使用することもできる。また、被締結具と締結具は、ボルトとナットの組合せに限らず、締結によって押え部材を設置面側に押付けて止水材を圧縮できるものであればよい。特に、止水材が水膨張ゴムである場合、被締結具と締結具は、止水材(水膨張ゴム)が水を吸収して膨張しても締結状態を維持することができればよく、嵌合(摩擦)により締結されてもよい。
なお、保護対象物には、電車や地下鉄等の自動改札機も含まれる。
【符号の説明】
【0033】
10:水没防止構造、11:設置面、12:保護対象物、13:被締結具、15:水没防止カバー、16:周壁部、17:鍔部、18:上面、19:天井部、20:止水材、21:押え部材、22:締結具、24、25、26:貫通孔、28:水没防止構造、29:水没防止カバー、30:浮力発生部、31:止水ファスナー
【手続補正書】
【提出日】2021-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波又は洪水等の発生時に、重量がある大型の機械設備等をはじめとする搬送若しくは移動が不可能(困難)な様々な保護対象物を水没から保護するための水没防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台風、集中豪雨、地震等に伴って発生する津波又は洪水等により、電化製品、寝具、家財道具、事務機器及び車両等が水没したり、屋外に流出したりして、汚損若しくは損傷し、使用不能になることや、行方不明になることがある。そこで、例えば特許文献1には、洪水等において床上浸水した場合に、寝具、衣類、その他の家財道具等を水濡れや土砂崩れ等による倒壊等の被害から守るようにした密閉式強化袋が提案されている。また、車両の水没を防止するものとして、例えば特許文献2には、空気袋の下に箱型の防水布を結合させた袋の中央に自動車を置き、空気袋を自動車の排気ガスで膨らませ、周囲の水位の上昇と共に空気袋が上昇し自動車を水害から保護する自動車用水害防止袋が提案されている。特許文献3には、自動車の床下が支えられてそれを浮上させるための袋状で折畳み可能なマット本体と、該マット本体にガスを導入するための導入パイプと、その導入パイプの端部にマフラーの排気管に取付ける排気部取付具とから少なくとも構成し、且つ、マット本体が、中央マット部と、その両側に配置して固定したサイドマット部とから少なくとも構成される自動車用浮上マットが提案されている。特許文献4には、浮き袋と、車室への浸水を検出する浸水検出部と、該浸水検出部の検出信号に従って制御信号を発する制御部と、該制御部の制御信号に従って該浮き袋にガスを供給するガス供給部とを含む車両用水面浮揚装置が提案されている。特許文献5には、防水底パッドと、防水底パッド周縁で相互に通じる中空の辺棒と、辺棒一端に設けられた防水空気充填孔と、防水底パッド片側に設けられた防水カバー体を備え、防水カバー体と防水底パッドに相互に対応する防水ファスナーを設置し、防水カバー体により自動車を包んだ後、防水ファスナーにより、防水カバー体と防水底パッドとを閉めて合わせる自動車防水カバーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-29172号公報
【特許文献2】登録実用新案第3100090号公報
【特許文献3】特開2016-20191号公報
【特許文献4】特開2016-132365号公報
【特許文献5】登録実用新案第3179545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの従来技術は、いずれも保護対象物の少なくとも底部及び外周を防水性のカバー等で囲うことにより、保護対象物の水没を防止するものであるため、対象物をカバー等の内部(底部の上)に移動させる必要がある。従って、保護対象物は、小型若しくは比較的軽量で人手によって搬送できるものか、車両のように人が運転して移動させることができるものに限られ、重量がある大型の機器や、設置面に固定され、又は配線若しくは配管等が接続された機械設備等のように、容易に搬送又は移動が不可能な保護対象物の水没を防ぐことができず、大きな損失が発生するという問題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、津波又は洪水等の発生時に、搬送若しくは移動が不可能な各種の保護対象物を水没から保護することができる水没防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る水没防止構造は、設置面に載置された保護対象物を水没から保護する水没防止構造であって、
(a)前記保護対象物の外周で前記設置面に埋設された複数の被締結具と、(b)防水性素材で形成され、前記保護対象物の少なくとも下側外周を覆う周壁部と該周壁部の下端外周に全周にわたって延設された鍔部とを有し、前記被締結具を介して前記設置面に着脱可能に固定される水没防止カバーと、(c)前記設置面と前記鍔部の底面との間に、該鍔部の全周にわたって配置される止水材と、(d)前記鍔部の上面に載置される押え部材と、(e)該押え部材、前記鍔部及び前記止水材を貫通し、前記各被締結具と締結される複数の締結具とを備える。
【0006】
ここで、水没防止カバーの周壁部及び鍔部を形成する防水性素材は非透水性である。押え部材としては、ステンレス等の金属で形成された長尺の板材(例えばフラットバー)が好適に用いられる。なお、本発明における水没防止構造では、浸水時に発生する周囲の水の圧力に対して、水没防止カバーの内側に水が浸入しない程度の水密性を確保できる範囲で、各部の素材及び部材同士の接合方法又は連結方法を適宜、選択することができる。
【0007】
本発明に係る水没防止構造において、前記押え部材、前記鍔部及び前記止水材には、前記各被締結具の位置に対応して前記締結具を挿通するための貫通孔がそれぞれ形成されていることが好ましい。
【0008】
本発明に係る水没防止構造において、前記止水材は、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムであることが好ましい。
【0009】
本発明に係る水没防止構造において、前記被締結具は、アンカーナットであり、前記締結具は、ボルトであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る水没防止構造において、前記水没防止カバーは、防水性素材で形成され前記保護対象物の上面を覆う天井部を有し、該天井部の外周は、前記周壁部の上端部と水密に連結されていてもよい。
【0011】
本発明に係る水没防止構造において、前記水没防止カバーは、前記周壁部の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、前記周壁部の上部を上方に引き上げる浮力発生部を備えることもできる。
【0012】
本発明に係る水没防止構造において、前記浮力発生部は、中空袋状に形成されて前記周壁部の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体が充填されることが好ましい。
【0013】
本発明に係る水没防止構造において、前記周壁部及び前記鍔部は、帯状に形成され、前記保護対象物の外周に沿って巻き回されて、該周壁部及び該鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結可能であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る水没防止構造は、保護対象物が載置された設置面と、水没防止カバーの周壁部の下端外周に全周にわたって延設された鍔部の底面との間に止水材が配置されることにより、保護対象物を設置面に載置したまま保護対象物の外周を確実に止水することができ、保護対象物を持ち上げたり、移動させたりする必要がないので、大型で重量のある保護対象物や、設置面に固定され、又は配線若しくは配管等が接続されている保護対象物でも水没から保護することができる。また、保護対象物の設置面に、水没防止カバーを固定するための被締結具が予め埋設されているので、必要時に短時間で簡単に水没防止カバーを設置することができると共に、水没防止カバーを取り外した状態では、設置面に埋設された被締結具が邪魔になることがなく、機能性に優れる。
【0015】
本発明に係る水没防止構造において、押え部材、鍔部及び止水材に、各被締結具の位置に対応して締結具を挿通するための貫通孔がそれぞれ形成されている場合、各部の位置合わせ及び締結作業を容易に行うことができる。
【0016】
本発明に係る水没防止構造において、止水材が、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムである場合、浸水時に、自己体積膨張機能により、水分を吸収して数倍の体積に膨張し、長期的に安定して止水することができる。
【0017】
本発明に係る水没防止構造において、被締結具が、アンカーナットであり、締結具が、ボルトである場合、ボルトをアンカーナットに螺着することにより、簡単に締結作業を行うことができ、水没防止カバーの固定の確実性及び安定性に優れる。
【0018】
本発明に係る水没防止構造において、水没防止カバーが、防水性素材で形成され保護対象物の上面を覆う天井部を有し、天井部の外周が、周壁部の上端部と水密に連結されている場合、周囲の水位が保護対象物の高さを超えても、水没防止カバーの内部に浸水することがなく、保護対象物を水没から確実に保護することができる。
【0019】
本発明に係る水没防止構造において、水没防止カバーが、周壁部の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、周壁部の上部を上方に引き上げる浮力発生部を備える場合、周壁部を高さ方向に押し潰した状態で設置しても、水位の上昇と共に周壁部の上部を上方に移動させることができ、水位が周壁部の最大高さを超えない限り、水没防止カバーの内部に浸水することがなく、水没防止カバーの上面を開放する(天井部をなくす)ことができるので、保護対象物の高さの制約を受けず、汎用性に優れる。
【0020】
本発明に係る水没防止構造において、浮力発生部が、中空袋状に形成されて周壁部の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体が充填される場合、使用しない時は周壁部と共に浮力発生部を押し潰し、コンパクトに折り畳んで収納及び搬送を行うことができ、使用時には周壁部の上部を全周にわたって周囲の水位に応じた均一な高さに保持して、水没防止カバーの内部への浸水を確実に防止することができる。
【0021】
本発明に係る水没防止構造において、周壁部及び鍔部が、帯状に形成され、保護対象物の外周に沿って巻き回されて、該周壁部及び該鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結可能である場合、保護対象物の高さが高くても、周壁部を高さ方向に押し潰した状態で水没防止カバーを保護対象物の外周に沿って配置し、周壁部及び鍔部のそれぞれの長手方向の両側の端部同士を地上で簡単に連結することができ、脚立等を用いて連結作業を行う必要がなく、安全性及び施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る水没防止構造を示す平面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る水没防止構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1~
図3に示す本発明の第1の実施の形態に係る水没防止構造10は、コンクリート等で形成された非透水性の設置面11に載置され、津波又は洪水等の発生時に、搬送若しくは移動が不可能な重量がある大型の機械設備等の保護対象物12を水没から保護するためのものである。
水没防止構造10は、保護対象物12の外周で設置面11に埋設された複数の被締結具(ここでは、アンカーナット)13(
図3参照)と、被締結具13を介して設置面11に着脱可能に固定される水没防止カバー15とを備えている。水没防止カバー15は、防水性素材で形成され、保護対象物12の外周を覆う周壁部16、周壁部16の下端外周に全周にわたって延設された鍔部17及び保護対象物12の上面18を覆う天井部19を有している。そして、水没防止構造10は、設置面11と鍔部17の底面との間に、鍔部17の全周にわたって配置される止水材20(
図3参照)と、鍔部17の上面に載置される押え部材21と、押え部材21、鍔部17及び止水材20を貫通し、各被締結具13と締結される複数の締結具(ここでは、ボルト)22を備えている。
【0024】
水没防止カバーを形成する防水性素材としては、例えばゴムボート、災害用エアーテント、又は耐火防護服等と同様の堅牢性及び耐久性を有する生地を用いることが好ましい。特に、水上で使用されるゴムボートの生地は、破れ難く、水密性に優れるので好適である。具体的には、ポリアミド又はポリエステル等の合成繊維の基布に、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、又は天然ゴム等のゴムを複数層貼り合わせたゴム引布が好適に用いられる。基布としてポリアミドを用いた場合は、軽量で柔軟性及び伸縮性に優れ、ポリエステルを用いた場合は、硬く、高剛性で伸縮性が少なく、耐久性に優れる。なお、基布に貼り合わせるゴムの組合せ及び層数は、適宜、選択することができる。また、ゴムの代わりに、塩化ビニル樹脂を基布に貼り合わせた生地を用いてもよく、その場合、加工が簡単で低コストで製造でき、耐摩耗性にも優れる。水没防止カバーは、保護対象物全体を覆うことができればよく、周壁部及び天井部の形状及び大きさは、保護対象物の形状及び大きさに応じて、適宜、選択することができる。
【0025】
鍔部の幅は、例えば100~300mm程度が好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、保護対象物の大きさ等に応じて、適宜、選択することができる。
本実施の形態では、保護対象物12の外周に被締結具13を一列に配置したが、被締結具の数及び配置は、適宜、選択することができる。被締結具の配置間隔は、例えば200~500mm程度が好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、保護対象物の大きさ等に応じて、適宜、選択することができ、不等間隔でもよい。また、被締結具を二列に配置してもよく、その場合、一列目と二列目の配置をピッチ方向にずらして互い違いに(千鳥状に)配置することもできる。
本実施の形態では、周壁部16と鍔部17を一体に(継ぎ目なく)形成したが、周壁部16と鍔部17との継ぎ目を溶着又は接着により貼り合わせて一体化することにより、水密性を確保してもよい。また、本実施の形態では、天井部19の外周と、周壁部16の上端部とを溶着で貼り合わせて水密に連結したが、可能な範囲で天井部と周壁部を一体に(継ぎ目なく)形成してもよい。周壁部同士の継ぎ目、鍔部同士の継ぎ目、周壁部と鍔部との継ぎ目及び周壁部と天井部との継ぎ目が発生する場合、その数及び場所は適宜、選択することができ、継ぎ目を溶着又は接着により貼り合わせる代わりに、止水(防水)ファスナーで連結することもできる。
【0026】
本実施の形態では、止水材20として、水分を吸収して膨張する水膨張ゴムを用いた。これにより、水没防止カバー15の周囲に浸水した時に、止水材20が膨張して設置面11と鍔部17の底面との隙間を確実に塞いで、水没防止カバー15の内部への浸水を防ぐことができる。なお、止水材は、これに限定されるものではなく、設置面11と鍔部17の底面との間を止水できるものであればよい。また、止水材は、鍔部の全周にわたって隙間なく連続的に配置されている必要があり、鍔部の形状に合わせて1枚の環状に形成されていることが好ましいが、例えば複数の板状の止水材を鍔部に沿うように連続的に並べて配置してもよい。さらに、設置面に止水材を配置した後、水没防止カバーを載置して止水材の上面を鍔部で覆ってもよいが、鍔部の底面に止水材を仮止めした状態で水没防止カバーを設置面に載置することにより、止水材の位置ずれを防止することができ、施工性に優れる。なお、接着層を介して鍔部に止水材を仮止めする際に、止水材の幅全体に接着層を形成せず部分的に接着層を形成しておけば、使用時に、接着層が圧縮され接着層の周囲の止水材が膨張して鍔部を密着することにより、接着層から水没防止カバーの内部に浸水することを防止できる。特に止水材の表面に凹凸を設け、凹部に接着層を形成すれば、接着層の周囲の止水材を鍔部に確実に密着させることができる。
【0027】
押え部材21としては、ステンレス等の金属で形成された長尺の板材(例えばフラットバー)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、被締結具13と締結具22を締結することにより、鍔部17を設置面11側に押付けて止水材20を圧縮できるものであればよい。本実施の形態では、各押え部材21の全長を鍔部17の各辺の長さとほぼ同等に形成し、鍔部17のほぼ全周にわたって押え部材21を配置したが、止水材による止水性を確保できる範囲で、押え部材を断続的に配置することもでき、その場合の各押え部材の長さ、数及び配置間隔は、適宜、選択することができる。また、押え部材の幅は、例えば50~200mmが好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、鍔部の幅と同等以下の範囲で適宜、選択することができる。押え部材の厚さは例えば3~15mmが好ましいが、この範囲に限定されるものではなく、押え部材の面積等に応じて、適宜、選択することができる。
押え部材21、鍔部17及び止水材20には、各被締結具13の位置に対応して締結具22を挿通するための貫通孔24、25、26がそれぞれ形成されている。これにより、各部材間の位置決めを容易に行うことができ、施工性に優れる。なお、これらの貫通孔24、25、26が形成されていても、貫通孔26の周囲で、止水材20の下面及び上面がそれぞれ設置面11及び鍔部17の底面と密着することにより、貫通孔24、25、26から水没防止カバー15の内部に浸水することはない。特に、止水材として水膨張ゴムを用いた場合は、貫通孔26の内周面と締結具22の外周面との隙間が、止水材(水膨張ゴム)の膨張により埋められ、貫通孔26への水の浸入をより確実に防ぐことができる。
【0028】
以上の構成によれば、津波又は洪水等の発生に備えて、予め保護対象物12の外周で設置面11に埋設された被締結具13の上に止水材20、水没防止カバー15(鍔部17)、押え部材21の順に配置し、被締結具13に締結具22を締結して設置面11と押え部材21との間で止水材20及び水没防止カバー15の鍔部17を圧縮するようにして水没防止カバー15を固定することにより、保護対象物12の外周を止水することができ、保護対象物12の周囲が浸水した場合でも、水没防止カバー15の内側に水が浸入することを防止して、保護対象物12の水没を防ぐことができる。
【0029】
次に、
図4~
図6を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る水没防止構造28について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
水没防止構造28が水没防止構造10と異なる点は、水没防止カバー29が天井部を備えていない点と、周壁部16の上部に取り付けられ、周囲の水位の上昇に合わせて浮上し、周壁部16の上部を上方に引き上げる浮力発生部30を備えている点である。浮力発生部30は、中空袋状に形成されて周壁部16の全周にわたって取り付けられ、使用時に内部に気体(空気、窒素、二酸化炭素等)が充填されるものである。これにより、使用開始時(浸水前)は、周壁部16を高さ方向に押し潰した状態で設置しても、浸水時の周囲の水位の上昇と共に、浮力発生部30で周壁部16の上部を上方に移動させることができ、水位が周壁部16の最大高さを超えない限り、水没防止カバー29の内部に水が浸入することを防止して、保護対象物12の水没を防ぐことができる。従って、想定される浸水時の水位よりも、周壁部16を高く形成しておけば、保護対象物12の高さに関わらず(周壁部16が保護対象物12の下側外周を覆っている場合でも)、保護対象物12を水没から守ることができ、汎用性に優れる。
【0030】
また、周壁部16及び鍔部17が、帯状に形成され、保護対象物12の外周に沿って巻き回されて、周壁部16及び鍔部17のそれぞれの長手方向の両側の端部同士が水密に連結される構造にすることにより、保護対象物12の高さが高くても、周壁部16を高さ方向に押し潰した状態で水没防止カバー29を保護対象物12の外周に沿って配置し、周壁部16及び鍔部17のそれぞれの長手方向の両側の端部同士を地上で簡単に連結することができ、脚立等を用いて連結作業を行う必要がなく、安全性及び施工性に優れる。そこで、
図4、
図5に示すように、周壁部16の高さ方向及び鍔部17の幅方向に沿って止水ファスナー31を取り付ければ、帯状に形成された周壁部16及び鍔部17のそれぞれの長手方向の両側の端部同士を簡単かつ確実に水密に連結することができる。なお、止水ファスナーの位置は適宜、選択することができる。また、帯状に形成された周壁部及び鍔部を止水ファスナーを介して複数連結し、水没防止カバーを構成することもできる。この場合、所定の長さで帯状に形成された周壁部及び鍔部を適宜、連結する(継ぎ足す)ことにより、水没防止カバーを容易に大型化することができ、汎用性に優れる。
【0031】
周壁部16及び鍔部17を帯状に形成する場合、浮力発生部30は周壁部16に対して着脱可能とし、周壁部16及び鍔部17を保護対象物12の外周に沿って巻き回して端部同士を連結した後、浮力発生部30を取り付ける構造としてもよいし、環状の浮力発生部の代わりに、帯状の周壁部の長手方向に沿って棒状の浮力発生部を取り付けてもよい。或いは、周壁部の周方向に沿って複数の浮力発生部を分割して取り付けてもよい。なお、
図6に示すように、周壁部16と浮力発生部30の連結位置が浮力発生部30の底部位置よりも高ければ、浮力発生部30が水に浮いた状態で、水位が連結位置よりも低くなるので、周壁部16と浮力発生部30との接合面が水密である必要はなく、面ファスナー等を用いて両者を簡単に連結(接合)することができるが、念のために止水ファスナーを用いて水密に連結することもできる。また、建物の天井から配線や配管が接続されている保護対象物に対しても適用することができ、設置の自在性に優れる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、上記実施の形態では、水没防止カバーの周壁部を角筒状(平面視して長方形状)に形成したが、周壁部は保護対象物の外周を覆うことができればよく、例えば円筒状(平面視して円形状)に形成してもよい。
また、1つの水没防止カバーで保護する保護対象物の数は適宜、選択することができ、近接して配置された複数の保護対象物や、配線又は配管等で接続された複数の保護対象物を1つの水没防止カバーでまとめて保護してもよいし、天井部を有する水没防止カバーは屋外にも設置することができ、建物全体を保護対象物として水没から保護することも可能である。
さらに、水没防止カバー(周壁部)の外周に緩衝部材を取付け、漂流物等との衝突時の衝撃を緩和し、周壁部の破損を防止することもできる。緩衝部材としては、中空袋状に形成され、内部に気体(空気、窒素、二酸化炭素等)が充填可能なもの(例えばエアーマット)が好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、その材質及び構造は、適宜、選択することができる。また、必要に応じて、周壁部の内側及び/又は外側の要所に補強材を取り付けてもよい。
上記実施の形態では、被締結具及び締結具としてアンカーナット及びボルトを使用したが、被締結具としてアンカーボルトを設置面に埋設し、締結具としてナットを使用することもできる。また、被締結具と締結具は、ボルトとナットの組合せに限らず、締結によって押え部材を設置面側に押付けて止水材を圧縮できるものであればよい。特に、止水材が水膨張ゴムである場合、被締結具と締結具は、止水材(水膨張ゴム)が水を吸収して膨張しても締結状態を維持することができればよく、嵌合(摩擦)により締結されてもよい。
なお、保護対象物には、電車や地下鉄等の自動改札機も含まれる。
【符号の説明】
【0033】
10:水没防止構造、11:設置面、12:保護対象物、13:被締結具、15:水没防止カバー、16:周壁部、17:鍔部、18:上面、19:天井部、20:止水材、21:押え部材、22:締結具、24、25、26:貫通孔、28:水没防止構造、29:水没防止カバー、30:浮力発生部、31:止水ファスナー