(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118974
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】紡績糸及びそれを用いた速乾性生地並びに速乾性衣料
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20220808BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20220808BHJP
D06M 14/22 20060101ALI20220808BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20220808BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20220808BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20220808BHJP
D03D 15/40 20210101ALI20220808BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20220808BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20220808BHJP
A41D 31/12 20190101ALI20220808BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20220808BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/36
D06M14/22
D06M15/263
D04B1/14
D03D15/00 D
D03D15/00 C
D03D15/00 E
D03D15/08
A41D31/12
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015859
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小島 丈典
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉山 稔
(72)【発明者】
【氏名】森島 英暢
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AB01
4L002AB04
4L002AC00
4L002AC01
4L002BA01
4L002EA00
4L002EA03
4L002EA06
4L002FA02
4L002FA03
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC07
4L033CA18
4L036MA09
4L036MA39
4L036PA31
4L036PA33
4L036RA24
4L048AA08
4L048AA13
4L048AA47
4L048AA51
4L048AA54
4L048AA56
4L048AB01
4L048AB05
4L048AC12
4L048AC15
4L048CA00
4L048CA04
4L048CA07
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】綿繊維を代表とするセルロース繊維に速乾性を付与し、環境面及び着心地及び耐洗濯性に優れた紡績糸及びそれを用いた速乾性生地並びに速乾性衣料を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を含む紡績糸であって、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含み、前記紡績糸は、混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸である。本発明の速乾性生地は、前記紡績糸を含み、編み物及び織物から選ばれる少なくとも一つでの生地であり、速乾性を有する。本発明の速乾性衣料は、前記速乾性生地で縫製した衣料であり、弾性糸が身体の周囲方向に配置されている。速乾性は一例として、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、又は少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物等が、電子線照射によりコットン繊維にグラフト結合させることにより発現する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む紡績糸であって、
速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含み、
前記紡績糸は、混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸であることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
前記速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維は、電子線照射により速乾性付与モノマーがグラフト結合されているセルロース繊維である請求項1に記載の紡績糸。
【請求項3】
前記速乾性付与モノマーは、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、及び少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物である請求項1又は2に記載の紡績糸。
【請求項4】
前記セルロース繊維はコットンである請求項1~3のいずれか1項に記載の紡績糸。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の紡績糸を含む生地であって、
前記生地は編み物及び織物から選ばれる少なくとも一つでの生地であり、吸水性及び速乾性を有することを特徴とする吸水速乾性生地。
【請求項6】
前記生地を100質量%としたとき、前記速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維は5~40質量%であり、前記未速乾性加工セルロース繊維は60~95質量%含まれている請求項5に記載の吸水速乾性生地。
【請求項7】
前記生地を100質量%としたとき、前記速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維は5~40質量%であり、前記未速乾性加工セルロース繊維は57~92質量%であり、さらに弾性糸(C)は3~15質量%を含む請求項5に記載の吸水速乾性生地。
【請求項8】
前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡又は芯鞘型紡績糸であり、残りの糸は未速乾性加工糸である請求項5~7のいずれか1項に記載の吸水速乾性生地。
【請求項9】
請求項5~8のいずれかに記載の速乾性生地で縫製した衣料であり、弾性糸が身体の周囲方向に配置されていることを特徴とする吸水速乾性衣料。
【請求項10】
前記衣料はインナー衣料であり、シャツ又はパンツである請求項9に記載の吸水速乾性衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コットン等のセルロース繊維を主要繊維糸とする紡績糸及びそれを用いた速乾性生地並びに該速乾性生地を用いた速乾衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
綿繊維に代表される天然セルロース繊維は、環境に優しく、しかも風合いや染色性、吸水性等にも優れているため、種々の衣料に幅広く使用されている。しかし、綿繊維は、吸収した水分の蒸発が遅いため、一旦汗を吸うと、なかなか乾燥しない等の点が問題になっている。
【0003】
従来、綿繊維を含む吸水性かつ乾燥性も優れる、いわゆる吸水速乾性繊維としては、特許文献1~5のようなものが見られる。特許文献1には、例えばグリオキザール系樹脂のようなセルロース反応型樹脂を加工したセルロース系繊維の速乾加工方法が開示されている。特許文献2には、最外層がポリエステル繊維のような疎水性繊維で構成されており、内層及び/又は中間層はセルロースマルチフィラメント繊維で構成されている布帛が開示されている。特許文献3には、芯部が例えばレーヨン、キュプラのような公定水分率3.5%以上の繊維から構成され、鞘部が例えばポリエステル繊維のような公定水分率1.0%以下の繊維から構成される芯鞘型複合糸を用いた織編物が開示されている。また、特許文献4には、綿からなる芯部繊維と、綿からなる鞘部繊維を有する複重層紡績糸で構成された吸水速乾性編地であって、撚係数が3.0~5.5である芯部繊維を鞘部繊維により撚係数2.5~4.0で同方向へ加撚したものが開示されている。さらに、特許文献5には、吸湿性に優れた天然繊維からなる吸湿性繊維糸と、非吸湿性の合成繊維で構成されたマルチフィラメントからなる非吸湿性マルチフィラメント糸との2種類の編糸を用いた速乾性編地も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-207672号公報
【特許文献2】特開平10-25637号公報
【特許文献3】特開2002-266207号公報
【特許文献4】特開2015-67927号公報
【特許文献5】特許2001-288650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの繊維は合成繊維、主に合成繊維、特にポリエステル繊維が使用されるため、綿繊維とポリエステル繊維との染色性は異なり、均一な染色が難しく、風合い的にも最適とは言えない。さらに、一般的なポリエステル繊維が主素材として多く使用されるが、自然に分解されることはないので、使用後に廃棄の問題が生じる。また、綿繊維に樹脂加工を施したものや芯に強撚の撚りをかけたものは、その風合い及び耐洗濯性に課題がある。
近年、国連が定めた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の観点から、肌着等のインナー衣料として綿繊維(コットン)が見直されているが、コットン自体を主素材として風合い及び耐洗濯性に優れるとともに速乾性を付与した技術は見出されていない。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、綿繊維(コットン)を代表とするセルロース繊維に速乾性を付与し、環境面と共に吸水性、着心地及び耐洗濯性に優れた紡績糸及びそれを用いた吸水速乾性生地並びに吸水速乾性衣料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の紡績糸は、セルロース繊維を含む紡績糸であって、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含み、前記紡績糸は、混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸であることを特徴とする。なお、本発明における未速乾性加工とは、先行技術に挙げたようなセルロース繊維に対する速乾性加工を施さないことを意味している。
【0008】
本発明の速乾性生地は、前記の紡績糸を含む生地であって、前記生地は編み物及び織物から選ばれる少なくとも一つでの生地であり、速乾性を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の速乾性衣料は、前記の速乾性生地で縫製した衣料であり、弾性糸が身体の周囲方向に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含み、前記紡績糸は、混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸であることにより、綿繊維(コットン)を代表とするセルロース繊維に速乾性を付与し、環境面及び着心地及び耐洗濯性に優れた紡績糸及びそれを用いた速乾性生地並びに速乾性衣料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態におけるインナー衣料の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の糸は、セルロース繊維を含む紡績糸である。セルロース繊維はコットン、麻などの天然繊維、レーヨンなどの化学繊維がある。このうち、衣料として最も汎用性のあるコットンが好ましい。
【0013】
本発明の糸は、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含む。グラフト結合させる速乾性付与モノマーは、いわゆる疎水性化合物モノマーやセルロース繊維の水酸基と液相の水の接触を阻害するようなモノマーが挙げられる。例えば、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物や少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とウレタン結合基を含む化合物などである。前記シリコーン系化合物としては、例えばアクリル変性シリコーン(アクリル基を含むオルガノポリシロキサン)化合物が好ましい。前記少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物としては、例えばエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートが好ましい。前記少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とウレタン結合基を含む化合物としては、ウレタンアクリレート化合物が挙げられる。
【0014】
前記速乾性付与モノマーは、電子線照射によりセルロース繊維にグラフト結合させるのが好ましい。前記グラフト結合は、電子線を照射することにより、セルロース系繊維表面にラジカルを発生させる反応、発生したラジカルに官能基(-OH、-NH2等)を含むエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を接触させることでセルロース系繊維の表面にグラフト結合する反応、前記活性基がカルボン酸基(-COOH)と反応して共有結合する反応等、様々な反応が関与して形成される。前記速乾性付与モノマーは、セルロース系繊維に対して0.5~30質量%の範囲付与されているのが好ましく、さらに好ましくは0.5~20質量%付与されている。前記の範囲であれば、未処理コットンと混紡しても速乾性機能を発揮できる。
【0015】
本発明の糸は、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含む混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸である。混紡紡績糸は、カード機での混紡又はスライバーで混紡するのが好ましい。芯鞘型紡績糸は、紡績機のフロントローラーからそれぞれの繊維束を紡出し、一方を芯とし、他方を芯の周りに巻き付けて鞘とし、撚りを掛けて巻き取ることにより得られる。なお、本発明の糸の水分率は、未加工綿と同程度である。すなわち、温度20℃、相対湿度95%RHの状態で2時間放置後の水分率を測定すると、未加工綿は14~16%程度であるが、本発明の紡績糸は、約11~16%程度である。なお、綿80%、ポリエステル20%の紡績糸については10%未満となる。
【0016】
次に本発明の生地について説明する。本発明の生地は、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と、未速乾性加工セルロース繊維を含む混紡紡績糸又は芯鞘型紡績糸から形成される編み物及び織物から選ばれる少なくとも一つでの生地であり、吸水速乾性を有する。吸水速乾性における吸水性とは、JISL1907(滴下法)に準拠する試験において、吸水時間が3秒未満のものをいう。好ましくは1秒未満である。吸水速乾性における速乾性とは、60分後の拡散性残留水分率が、未加工綿100%生地より低いことをいう。好ましい速乾性は、60分後の拡散性残留水分率が30%以下である。なお、拡散性残留水分率は、20℃×65%RH下で試料に約0.3mlの水を滴下させ、経過時間毎に重量を測定し、次の計算式で算出する。
拡散性残留水分率(%)=各時間水分重量(g)/滴下直後の水分重量(g)×100
なお、洗濯耐久性に関しては、洗濯前及び10回洗濯した後で測定する。洗濯条件は、JIS L 0217 103法に準拠する。
【0017】
前記生地を100質量%としたとき、前記速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維は5~40質量%であり、前記未速乾性加工セルロース繊維は60~95質量%含むのが好ましい。これにより、速乾性は良好となる。
【0018】
前記生地を100質量%としたとき、前記速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維は5~40質量%であり、前記未速乾性加工セルロース繊維は57~92質量%であり、さらに弾性糸(C)は3~15質量%を含むことも好ましい。これによりストレッチ性を向上できる。
【0019】
前記生地は編み物であり、生地を構成する編み糸割合は、糸3本に対して1~2本は前記混紡又は芯鞘型紡績糸であり、残りの糸は未速乾性加工糸であるのが好ましい。
【0020】
前記生地は編み物又は織物が好ましい。編み物及び織物はインナー衣料にするのに好適である。とくに編み物は伸縮性があり、柔軟でインナー衣料に好適である。生地を構成する糸3本に対して1~2本は前記混紡紡績糸であり、残りの糸は未速乾性加工コットン紡績糸であるのが好ましい。編み物は、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織、及びこれらを組み合わせた織物等いずれの織組織でもよい。編地を作製するには種々の交編方法が用いられる。交編編地は、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダブルアトラス編み、ダブルデンビー編み、及びこれらを組み合わせた編み物等いずれの編組織でもよい。織物組織としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織、またはこれらを組み合わせた組織がある。この中でも丸編みを含む緯編み生地、又は経編み生地が好ましい。
【0021】
前記生地の単位面積当たりの質量(目付)は80~300g/m2が好ましく、より好ましくは90~250g/m2であり、さらに好ましくは100~250g/m2である。前記の範囲であればインナー衣料として好適である。
【0022】
前記弾性糸は、ポリウレタン糸及び異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。ポリウレタン弾性糸は、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。前記コンジュゲート糸とは、異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸であり、原糸の段階からクリンプ(捲縮)を発現しているが、熱が加わることにより、さらに大きいクリンプ(捲縮)を発現する。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とのコンジュゲート糸(バイコンポーネント糸)が好ましい。このような潜在捲縮型ストレッチ糸として、例えば東レ・オペロンテックス社製、商品名”ライクラT400”、KBセーレン社製、商品名”エスパンディ”、ユニチカ社製、商品名”Z10”などがある。通常使用される弾性糸はポリウレタン糸である。
【0023】
弾性糸は、例えば緯編み生地、丸編み生地の場合、スパンデックス裸糸をループ糸の添え糸として入れることが多く、経編み生地の場合、スパンデックス裸糸を挿入組織、又は緯糸挿入によって入れる。いわゆるインナー衣料の場合は、通常丸編みが採用され、弾性糸特にポリウレタン弾性糸はループ糸の添え糸として用いられる。ポリウレタン弾性糸は、通常30dの糸が2.5倍程度に引き延ばされた状態で添え糸として挿入される。
【0024】
本発明の速乾性生地で縫製した衣料は、弾性糸が身体の周囲方向に配置されている。いわゆるワンウェイストレッチ生地である。身体の周囲方向とは、胴体の周囲方向、及び腕の周囲方向のことである。これにより着心地が良く、洗濯を繰り返しても型崩れしにくいインナー衣料となる。この衣料は、シャツ又はパンツが好ましい。本発明のインナー衣料はコットンが85質量%以上、好ましくは88質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上の主要繊維であり、肌にやさしいインナー衣料である。
【0025】
次に本発明の製造方法について、セルロース系繊維としてコットン(天然セルロース繊維)を使用した混紡紡績糸を例示して説明する。紡績用コットンスライバーに対して、疎水性化合物モノマーやセルロース繊維の水酸基と液相の水の接触を阻害するようなモノマー、例えば、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物や少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物を付与した後、連続法の場合は窒素雰囲気下で電子線を照射することにより、コットン繊維表面上でエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、及びエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物をグラフト重合することが可能となる。なお、コットン繊維にエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、及びエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物を付与する工程と、エチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、及びエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物を付与したコットン繊維に電子線を照射する工程は、連続でも非連続でもどちらでもよい。なお、電子線の照射は、速乾性付与モノマーの付与の前後(同時も含む)どちらでもよいが、窒素雰囲気下で電子線を照射すると、発生したラジカルが失活しにくいので好ましい。
【0026】
速乾性付与モノマー、例えば、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むシリコーン系化合物、少なくとも2以上のエチレン性不飽和二重結合とアルコキシ基を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させる方法は、浸漬法又はスプレー法などいかなる方法でも良い。なお、速乾性付与モノマーを水溶液に調製して、スライバーを浸漬させるかまたは、スライバーにスプレーして、付与するのが好ましい。
【0027】
本発明においては、前記処理後の紡績用スライバーとそれ以外の未処理スライバーを混紡し精紡することにより、吸水性を維持した状態で速乾性を有する紡績糸が得られる。すなわち、疎水性の化合物を付与したスライバーからなる紡績糸は吸水性が低下してしまい、そのような糸に基づいて得られた生地の吸水性は好ましいものとはならない。混紡は通常はダブリング工程の入る練条工程が好ましい。しかし、梳綿工程(カード)、粗紡工程、精紡工程でも可能であり、ウエブ、スライバー、フリース、粗紡糸を複数本引き揃え、所定倍率引き伸ばすことにより混紡できる。粗紡工程や精紡工程では、撚り掛けする際に構成繊維のマイグレーションにより混紡できる。さらには、前記処理後の紡績用スライバーを混打綿工程まで戻して所望の混紡割合にすることも可能である。
【0028】
前記速乾性付与モノマーがグラフト結合したコットンと未速乾性加工コットンを混紡した後は、常法にしたがい混紡紡績糸(A)とする。また、未速乾性加工コットンの紡績糸も常法にしたがい紡績糸(B)とする。前記混紡紡績糸(A)と紡績糸(B)と弾性糸(C)を所定量使用して速乾性生地とする。この生地は常法にしたがい晒、染色、柔軟仕上げなどの後加工することは任意である。
上記は、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と未速乾性加工セルロース繊維を含む混紡紡績糸の例であるが、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と未速乾性加工セルロース繊維を含む芯鞘型紡績糸としてもよい。この場合、芯に未速乾性加工セルロース繊維を配置し、速乾性付与モノマーがグラフト結合したセルロース繊維と未速乾性加工セルロース繊維を含む混紡紡績糸を鞘にして構成するのが好ましい。
【0029】
図1は本発明の一実施形態におけるインナー衣料1の正面図である。このインナー衣料1は長袖シャツの例である。身体の周囲方向、すなわち胴体の周囲方向(矢印2)、及び腕の周囲方向(矢印3)には弾性糸が配置されている。
【実施例0030】
以下、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
<拡散性残留水分率>
拡散性残留水分率は、20℃×65%RH下で試料に約0.3mlの水を滴下させ、経過時間毎に重量を測定し、次の計算式で算出する。
拡散性残留水分率(%)=各時間水分重量(g)/滴下直後の水分重量(g)×100
<吸水性>
吸水性はJISL1907(滴下法)に準拠する。
<洗濯耐久性>
洗濯耐久性は、洗濯前及び10回洗濯した後で測定する。洗濯条件は、JIS L 0217 103法に準拠する。
【0031】
(実施例1)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、0.5質量%の浸透剤(HUNTSMAN社製「INVADINE650」)を含有するエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社製,商品名”ATM35E”)の2.4質量%水溶液に浸漬し、マングルでスライバー質量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。次に、連続して130℃の熱風乾燥機で7.5分間乾燥した。
次にエレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を、加速電圧200kV、15kGyで2回照射した。
このようにして得られたスライバーを“処理コットン”という。
<紡績糸>
(1)処理コットンを含む混紡糸
前記処理コットンと未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手40番の糸を紡績した。混紡糸中の処理コットンの割合は30質量%となるようにした。なお、水分率は14.0%であった。
(2)未処理コットン紡績糸
未処理コットンスライバーを使用して綿番手40番の糸を紡績した。
<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は10質量%である。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は151g/m2であった。
<晒、仕上処理>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理および仕上処理を行った。
【0032】
(実施例2)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、0.5質量%の浸透剤(実施例1と同様)を含有するエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社製,商品名”ATM35E”)の5.0質量%水溶液に浸漬し、マングルでスライバー質量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。次に、連続して130℃の熱風乾燥機で7.5分間乾燥した。
次にエレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を、加速電圧200kV、15kGyで2回照射した。
このようにして得られたスライバーを“処理コットン”という。
<紡績糸>
(1)処理コットンを含む混紡糸
前記処理コットンと未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手40番の糸を紡績した。混紡糸中の処理コットンの割合は30質量%となるようにした。なお、水分率は14.2%であった。
(2)未処理コットン紡績糸
未処理コットンスライバーを使用して綿番手40番の糸を紡績した。
<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は10質量%となる。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は153g/m2であった。
<晒、仕上処理>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理および仕上処理を行った。
【0033】
(実施例3)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、0.5質量%の浸透剤(実施例1と同様)を含有するアクリル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製,商品名”KF2005”)の0.5質量%水溶液に浸漬し、マングルでスライバー質量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。次に、連続して130℃の熱風乾燥機で7.5分間乾燥した。
次にエレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を、加速電圧200kV、15kGyで2回照射した。
このようにして得られたスライバーを“処理コットン”という。
<紡績糸>
(1)処理コットンを含む混紡糸
前記処理コットンと未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手40番の糸を紡績した。混紡糸中の処理コットンの割合は30質量%となるようにした。なお、水分率は14.2%であった。
(2)未処理コットン紡績糸
未処理コットンスライバーを使用して綿番手40番の糸を紡績した。
<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。生地の処理コットンの割合は10質量%となる。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は157g/m2であった。
<晒、仕上処理>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理および仕上処理を行った。
【0034】
(実施例4)
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、0.5質量%の浸透剤(実施例1と同様)を含有するアクリル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製,商品名”KF2005”)の1.0質量%水溶液に浸漬し、マングルでスライバー質量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。次に、連続して130℃の熱風乾燥機で7.5分間乾燥した。
次にエレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して電子線を、加速電圧200kV、15kGyで2回照射した。
このようにして得られたスライバーを“処理コットン”と呼ぶ。
<紡績糸>
(1)処理コットンを含む混紡糸
前記処理コットンと未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手40番の糸を紡績した。混紡糸中の処理コットンの割合は30質量%となるようにした。
(2)未処理コットン紡績糸
未処理コットンスライバーを使用して綿番手40番の糸を紡績した。
<弾性糸>
市販のポリウレタン系弾性糸の22decitex品を用いた。
<編み物の編成>
前記処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、弾性糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、弾性糸は生地の7質量%となるように挿入した。なお、弾性糸は2.5倍に引き延ばされるようにテンションを加えた状態で、生地の7質量%となるよう、それぞれの糸に添え糸として挿入した。丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は175g/m2であった。
<晒、仕上処理>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理および仕上処理を行った。
【0035】
(実施例5)
実施例2の処理コットンを含む混紡糸と、未処理コットン紡績糸と、弾性糸を使用し、未処理コットン紡績糸2本に対して処理コットンを含む混紡糸を1本の割合で供給糸とし、丸編機を使用して天竺編組織の編物を編成した。得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は172g/m2であった。
<晒、染色、仕上処理>
得られた編み物を常法にしたがい晒処理、染色処理および仕上処理を行った。
生地の色目は濃色のNAVY色となる。
【0036】
(比較例1-2)
処理コットンを使用しない以外は実施例1及び実施例5と同様に実施し、未加工綿繊維のみから得られた編み物を使った。また、得られた編物生地の単位面積当たりの質量(目付)は、比較例1は150g/m2、比較例2は158g/m2であった。なお、未加工綿繊維のみから得られた紡績糸の水分率は14.6%であった。
実施例1-5および比較例1及び比較例2を試料として、吸水性試験および拡散性残留水分率試験を実施し、その結果を表1-5にまとめて示す。
【0037】
【0038】
表1-5から明らかなとおり、実施例1-5は、吸水性は未加工綿繊維と同様でありながら速乾性が高かった。また実施例4及び実施例5は、着用試験をしたところ、吸放湿性が良く、蒸れないため着心地性が良く、肌にやさしいシャツであることが確認できた。