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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119022
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】運動補助器具
(51)【国際特許分類】
   A63B 23/00 20060101AFI20220808BHJP
   A63B 23/04 20060101ALI20220808BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A63B23/00 F
A63B23/04
A61H1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015959
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100177644
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA45
4C046AA47
4C046BB08
4C046BB09
4C046CC01
4C046CC04
(57)【要約】
【課題】使用者の身体能力に応じて起立動作のトレーニングを行うことができる運動補助器具を提供する。
【解決手段】
運動補助器具1は、使用者が着座する座面91に取り付けられ、起立動作のトレーニングに使用される。運動補助器具1は、使用者の臀部が接する受面部10と、受面部10を後部から前部に向かって下方に傾斜させた姿勢に保持し、保持させる受面部10の傾斜角度を段階的に変更する保持部11と、保持部11を座面91に着脱可能に取り付けるベルト20(固定部)と、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座する座面に取り付けられ、起立動作のトレーニングに使用される運動補助器具であって、
前記使用者の臀部が接する受面部と、
前記受面部を後部から前部に向かって下方に傾斜させた姿勢に保持し、保持する前記受面部の傾斜角度を段階的に変更する保持部と、
前記保持部を前記座面に着脱可能に取り付ける固定部と、を備えたことを特徴とする運動補助器具。
【請求項2】
前記固定部は、前記座面を有する座部に掛け回されて前記保持部を前記座部に締め付ける少なくとも1つのベルトであることを特徴とする請求項1に記載の運動補助器具。
【請求項3】
前記ベルトは、前記受面部と前記保持部とは別部材であって、長さを調節するアジャスターと、長手方向の両端部同士の接続と分離を可能とするバックルと、を有していることを特徴とする請求項2に記載の運動補助器具。
【請求項4】
前記固定部は、前記座面を有する座部の少なくとも前後方向の両縁部に引っ掛けられる一対のフックであることを特徴とする請求項1に記載の運動補助器具。
【請求項5】
前記保持部は、前記座面上に配置される枠状のフレームを有し、
前記受面部は、前記座面に沿う角度に変更されて前記フレームの枠内に収められることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の運動補助器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が着座する座面に取り付けられ、起立動作のトレーニングに使用される運動補助器具に関する。
【背景技術】
【0002】
椅子からの起立時に補助力を得るために使用する椅子が知られている(特許文献1)。この椅子は、本体に固着された下板と座面板とを有し、下板と座面板との間にU字ばねを設け、U字ばねのばね力によって座面板が前方に跳ね上がるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3022144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した椅子では自動的に座面板が跳ね上がるため、使用者の脚力や障害の程度(身体能力)に応じて、負荷を変えながら意識的にトレーニングをすることができなかった。また、上記した椅子では、使用者の体重に応じてU字ばねの数を変更する必要があり、特定の使用者以外の者が使用できないこともあった。さらに、使用者の脚力が回復する等して使用しなくなった椅子は、通常の椅子として使用することができなかった。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、使用者の身体能力に応じて起立動作のトレーニングを行うことができる運動補助器具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、使用者が着座する座面に取り付けられ、起立動作のトレーニングに使用される運動補助器具であって、使用者の臀部が接する受面部と、前記受面部を後部から前部に向かって下方に傾斜させた姿勢に保持し、保持する前記受面部の傾斜角度を段階的に変更する保持部と、前記保持部を前記座面に着脱可能に取り付ける固定部と、を備えた。
【0007】
この場合、前記固定部は、前記座面を有する座部に掛け回されて前記保持部を前記座部に締め付ける少なくとも1つのベルトであってもよい。
【0008】
この場合、前記ベルトは、前記受面部と前記保持部とは別部材であって、長さを調節するアジャスターと、長手方向の両端部同士の接続と分離を可能とするバックルと、を有してもよい。
【0009】
他の場合、前記固定部は、前記座面を有する座部の少なくとも前後方向の両縁部に引っ掛けられる一対のフックであってもよい。
【0010】
この場合、前記保持部は、前記座面上に配置される枠状のフレームを有し、前記受面部は、前記座面に沿う角度に変更されて前記フレームの枠内に収められてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用者の身体能力に応じて起立動作のトレーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る運動補助器具を椅子に取り付けた状態を示す側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る運動補助器具を示す側面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る運動補助器具(ベルトを除く)を示す平面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る運動補助器具(使用形態、最大角度)を示す側面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る運動補助器具(使用形態、最小角度)を示す側面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る運動補助器具の使用方法を説明する側面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る運動補助器具を示す側面図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る運動補助器具を椅子に取り付けた状態を示す側面図である。
図9】運動補助器具を使用せずに行う起立動作のトレーニングを説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、図面に示すFr、Rr、L、R、U、Dは、前、後、左、右、上、下を示している。本明細書では方向や位置を示す用語を用いるが、それらの用語は説明の便宜のために用いるものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、本明細書では方向や位置を示す用語は、使用者を基準にした方向や位置としている。
【0014】
[第1実施形態:運動補助器具]
図1ないし図5を参照して、第1実施形態に係る運動補助器具1について説明する。図1は運動補助器具1を椅子90に取り付けた状態を示す側面図である。図2は運動補助器具1を示す側面図である。図3は運動補助器具1(ベルト20を除く)を示す平面図である。図4および図5は運動補助器具1(使用形態F1)を示す側面図である。
【0015】
図1に示すように、運動補助器具1は、椅子90の座面91に取り付けられ、例えば、脚力が衰えた者や下肢(脚)等に障害をもつ者(使用者99)が起立動作をトレーニングする際に用いるものである。椅子90は、使用者99が着座する座面91を有する座部92と、座部92を支持する4本の脚部93(図1では2本のみ図示している。)と、を備えている。後方の2本の脚部93は座部92よりも上方に延設され、この2本の脚部93の上部には背板94が架設されている。なお、椅子90は、使用者99が腰を掛けることができれば如何なるものでもよく、その材質も問わない。また、椅子90には背板94が無くてもよい。
【0016】
図1および図2に示すように、運動補助器具1は、受面部10と、保持部11と、ベルト20と、を備えている。
【0017】
<受面部>
受面部10は、使用者99の臀部99Aが接する簡易的な座面である(詳細は後述する。)。受面部10は、例えば、金属製、木材製または合成樹脂製で、長方形を成す平板状に形成されている(図3も参照)。受面部10の表面(上面)には、使用者99の臀部99Aが当たったときの衝撃をやわらげるために、布、革または合成樹脂等で構成されたシートが貼られている(図示せず)。なお、シートは、滑り止め機能を有していてもよい。また、シートには、綿や羽毛等のクッション性を有する素材が含まれてもよい。
【0018】
<保持部>
図1図2の上段および図3に示すように、保持部11は、フレーム12と、角度調節部15と、を有している。フレーム12は、受面部10を支持し、座面91上に配置される(図1参照)。角度調節部15は、受面部10の傾斜角度(X1~X3)を段階的に変更する。
【0019】
(フレーム)
フレーム12は、例えば、金属製、木材製または合成樹脂製で、長方形を成す枠状に形成されている。具体的には、フレーム12は、左右一対のサイドフレーム13の前後方向の両端部を結ぶ連結フレーム14を有し、平面から見て矩形環状に形成されている(図3参照)。フレーム12は、受面部10を枠内に収めることができるように受面部10よりも大きく形成されている。受面部10は、一対の回動軸13Aを介して一対のサイドフレーム13の前端部に支持されている。受面部10は、回動軸13Aを中心として後部を跳ね上げるように回動する。フレーム12の下面には、例えば、合成樹脂(合成ゴムやウレタン樹脂等)で形成された保護シート12Aが貼られている(図2の上段参照)。保護シート12Aは、椅子90の座面91を傷つけないようにすると共に、座面91上に設置した運動補助器具1のずれを抑制する滑り止め機能を有する。
【0020】
(角度調節部)
角度調節部15は、複数の調節溝16と、嵌合部材17と、一対のアーム18と、を有している。
【0021】
複数の調節溝16は、一対のサイドフレーム13において前後方向に間隔をあけて形成されている。調節溝16は、サイドフレーム13の上端から下方に向かって斜め後方に傾斜するように凹設されている。なお、最も後方の調節溝16よりも後方には、収納溝19がサイドフレーム13の上端から垂直に凹設されている。
【0022】
嵌合部材17は、例えば、金属製または合成樹脂製で、円形断面を有する棒状に形成されている。嵌合部材17は、一対のサイドフレーム13に架け渡すことができる長さに形成されている。嵌合部材17は、調節溝16に着脱可能に嵌合する直径に形成されている。なお、嵌合部材17は、円形断面に限らず、多角形状の断面であってもよい。
【0023】
アーム18は、例えば、金属製または合成樹脂製で、板状(または棒状)に形成されている。一対のアーム18は、受面部10と嵌合部材17との間に架設されている。アーム18の一端部は、受面部10の左右両側面に連結軸18Aを介して回転可能に連結されている。連結軸18Aは、受面部10の側面の前後方向の中央付近に設けられている。アーム18の他端部は、一対のサイドフレーム13の内側において嵌合部材17の左右両側に回転可能に連結されている。つまり、アーム18は、連結軸18Aと嵌合部材17とを支点にして回動する。なお、一対のアーム18に嵌合部材17が架設されていたが、これに限らず、一対のアーム18のそれぞれに嵌合部材が取り付けられていてもよい(図示せず)。
【0024】
[保持部の作用(受面部の傾斜角度の設定)]
嵌合部材17の左右方向の両端部は、一対のアーム18よりも左右方向の外側に延設されている(図3参照)。一対のアーム18よりも外側に延びた嵌合部材17の左右方向の両端部が、調節溝16に嵌り込む。図1図4および図5に示すように、嵌合部材17は、前後方向に並んだ複数の調節溝16から選択した左右一対の調節溝16に嵌め込まれることで前後方向および左右方向に移動不能に固定される。アーム18は、後部から前部に向かって上方に傾斜した姿勢で、調節溝16に嵌合した嵌合部材17と受面部10との間に架け渡される。受面部10は、アーム18を介して調節溝16に嵌合した嵌合部材17に支持され、後部から前部に向かって下方に傾斜した姿勢(傾斜角度(X1~X3))になる。なお、本明細書では、受面部10が傾斜姿勢となった形態を「使用形態F1」と呼ぶ。詳細は後述するが、使用者99は、運動補助器具1を使用形態F1にしてトレーニングを行う。
【0025】
嵌合部材17が嵌合する調節溝16を変更することで、受面部10の傾斜角度(X1~X3)が変更される。図4に示すように、嵌合部材17が最も前方の調節溝16に嵌合すると、受面部10の傾斜角度(X2)は最も大きくなり(急になり)、受面部10は垂直に近い姿勢になる。一方で、図5に示すように、嵌合部材17が最も後方の調節溝16に嵌合すると、受面部10の傾斜角度(X3)は最も小さくなり(緩やかになり)、受面部10は水平に近い姿勢になる。以上のように、保持部11は、受面部10を後部から前部に向かって下方に傾斜させた姿勢に保持し、保持する受面部10の傾斜角度(X1~X3)を段階的に変更する。なお、第1実施形態に係る運動補助器具1では、一例として、受面部10の傾斜角度は、0度、30度、45度、60度の4段階に設定されるが、これに限らず、0度(水平)以上、90度(垂直)未満の範囲で複数段階に任意の角度で設定してもよい。
【0026】
運動補助器具1を収納または運搬する場合、図2の上段および図3に示すように、運動補助器具1は受面部10を水平にして平坦に畳んだ収納形態F2に変形される。具体的には、嵌合部材17が調節溝16から引き抜かれた状態で、受面部10は、傾斜角度を0度とされて(座面91に沿う角度に変更されて)フレーム12の枠内に収められる。また、嵌合部材17は、一対の収納溝19に嵌め込まれる。これにより、受面部10と保持部11とは概ね同一平面を成すように平坦に畳まれた収納形態F2になる。なお、収納溝19が省略され、嵌合部材17がサイドフレーム13の後側に配置されてもよい(図示せず)。
【0027】
<ベルト>
固定部の一例としてのベルト20は、保持部11を座面91に着脱可能に取り付けるための部材である。図2に示すように、ベルト20は、受面部10と保持部11とは別部材で構成されている。図1および図2の下段に示すように、ベルト20は、ベルト本体21と、アジャスター22と、バックル23と、を有している。ベルト本体21は、可撓性を有する部品であって、例えば、植物繊維や合成樹脂繊維等を織った織物によって帯状に形成されている。アジャスター22は、例えば、合成樹脂等で形成され、ベルト本体21の長さを調節する部品である。バックル23は、ベルト本体21の長手方向の両端部同士の接続と分離を可能とする部品である。バックル23は、例えば、サイドリリースバックルであって、ベルト幅の両側にある一対のボタンを均等に押し込むことで接続解除される。
【0028】
[運動補助器具の取付方法]
次に、図1を参照して、椅子90への運動補助器具1の取付方法について説明する。なお、使用前の運動補助器具1は収納形態F2(図2参照)となっているものとする。
【0029】
まず、使用者99は、運動補助器具1を収納形態F2から使用形態F1に変形させる。このとき、使用者99は、嵌合部材17を任意の調節溝16に嵌める。
【0030】
次に、使用者99は、使用形態F1にした運動補助器具1を椅子90の座面91に配置し、ベルト20を座部92に掛け回して保持部11を座部92に締め付ける。具体的には、ベルト20は、一対の連結フレーム14の上側を通され、且つ受面部10と嵌合部材17との下側を通される。フレーム12の前後方向の両側に延びたベルト20の両端部は、座部92の下側に回され、バックル23によって連結される。つまり、ベルト20は、前後方向に掛け回される。最後に、使用者99は、アジャスター22によってベルト20のたるみを除去し、ベルト20によってフレーム12を座部92(座面91)に締め付ける。
【0031】
以上によって、運動補助器具1が座面91上に固定される。
【0032】
[運動補助器具を使用しないトレーニング]
次に、運動補助器具1の使用方法の説明に先立ち、図9を参照して、運動補助器具1を使用せず、椅子90のみで起立動作のトレーニングを行う場合について説明する。図9は運動補助器具1を使用せずに行う起立動作のトレーニングを説明する側面図である。
【0033】
まず、本明細書において、「起立動作」とは、椅子90の座面91に着座した使用者99が、座面91から臀部99Aを離間させ、立ち上がるまでの動作である。なお、立ち上がった姿勢(起立姿勢)としては、膝が伸びている必要はなく、膝が曲がり前かがみとなる姿勢でもよい。また、本明細書において、「起立動作のトレーニング」とは、上記した起立動作と再び着座する動作とを繰り返し、下肢(主に大腿四頭筋)の筋力を向上させることである。
【0034】
運動補助器具1を使用せずに起立動作のトレーニングを行う場合、椅子90の使用者99は、座面91に浅く腰を掛け、上半身の姿勢を正し、両手を膝の上に載せる(図9の(1)参照)。使用者99は、着座した状態で、踵を後方に引きながら上半身を前方に傾ける(図9の(2)参照)。使用者99は、重心を前方に移動させ、足で床を押し出し、臀部99Aを座面91から離し、自身の脚で自立する(図9の(3)、(4)参照)。その後、使用者99は、再び座面91に着座する(図9の(1)、(2)参照)。以降、使用者99は、起立と着座を繰り返す。
【0035】
ここで、使用者99が立ち上がる際、使用者99の下肢(筋肉等)には、着座時に比べて、大きな負荷がかかる。また、使用者99は、体重の大部分を座面91にかけていた安定した姿勢(図9の(1)、(2)参照)から、自身の両脚で全体重を支えなければならない不安定な姿勢(図9の(3)参照)になるため、下肢に大きな負荷がかかるだけでなく、安定性(バランス)も大きく変化する。立ち上がるために必要な筋力のある使用者99であれば、上記した下肢への負荷と安定性の変化に対応することができ、座面91に臀部99Aを接触させた状態から立ち上がることができる。しかし、脚力が衰えた高齢者や下肢等に障害をもつ者の中には、上記した下肢への負荷と安定性の変化に対応することができず、座面91に臀部99Aを接触させた状態(図9の(2)参照)から立ち上がることが困難なこともある。
【0036】
[運動補助器具の使用方法]
上記のような問題に対し、第1実施形態に係る運動補助器具1は、下肢への負荷と安定性の変化量を小さくし、脚力が衰えた者等であっても起立動作のトレーニングを行うことを可能としている。図6を参照して、運動補助器具1の使用方法について説明する。図6は運動補助器具1の使用方法を説明する側面図である。
【0037】
使用者99は、自身の身体能力(脚力)に応じて、受面部10の傾斜角度を調節する。例えば、脚力が著しく衰えた者や重度の障害をもつ者等は、受面部10の傾斜角度(X2)を大きく(垂直に近く)設定し(図4参照)、脚力が僅かに衰えた者や軽度の障害をもつ者等は、受面部10の傾斜角度(X3)を小さく(水平に近く)設定する(図5参照)。
【0038】
次に、使用者99は、傾斜させた受面部10に着座し、上半身の姿勢を正し、両手を膝の上に載せる(図6の(1)参照)。この際、受面部10は傾斜しているため、使用者99は、受面部10にしっかりと腰を下ろして座るわけではなく、受面部10に寄り掛かるようにして臀部99Aを受面部10に接触させる。したがって、使用者99の下肢(脚)にかかる負荷は、椅子90の座面91に着座した状態よりも大きく、起立状態よりも小さくなる。使用者99は、受面部10に着座した状態で、踵を後方に引きながら上半身を前方に傾ける(図6の(2)参照)。使用者99は、重心を前方に移動させ、足で床を押し出し、臀部99Aを受面部10から離し、自身の脚で自立する(図6の(3)、(4)参照)。その後、使用者99は、再び受面部10に着座する(図6の(1)、(2)参照)。以降、使用者99は、起立と着座を繰り返す。
【0039】
以上説明した第1実施形態に係る運動補助器具1を用いた起立動作のトレーニングによれば、使用者99は、受面部10に軽く腰掛けているため、下肢(脚)にある程度の負荷をかけた状態から立ち上がる動作を開始することができる。これにより、受面部10に腰掛けた姿勢から起立姿勢になる過程で、下肢への負荷と安定性の変化量を小さく抑えることができる。その結果、脚力が衰えた高齢者等であっても、起立動作のトレーニングを行い易くなる。
【0040】
また、第1実施形態に係る運動補助器具1によれば、受面部10の傾斜角度(X1~X3)を段階的に変更することができるため、特定の者以外の使用者99も起立動作のトレーニングに使用することができる。これにより、使用者99の脚力や障害の程度(身体能力)に応じて起立動作のトレーニングを行うことができる。また、運動補助器具1は椅子90の座面91に着脱可能に取り付けられているため、運動補助器具1を座面91から取り外すことで、普通の椅子90として使用することができる。さらに、その場にある適当な椅子90に運動補助器具1を取り付けることができるため、場所を選ぶことなく、トレーニングを行うことができる。
【0041】
また、第1実施形態に係る運動補助器具1によれば、ベルト20で保持部11を座部92に締め付けることで、簡単に保持部11を座面91上に固定することができる。また、ベルト20は、クランプ機構等に比べて、安価に製造することができるため、運動補助器具1全体の製造コストを低減することができる。
【0042】
また、第1実施形態に係る運動補助器具1によれば、ベルト20の長さをアジャスター22で調節することができる。これにより、座部92の大きさや形状に合わせてベルト20の長さを調節できるため、運動補助器具1を様々な椅子90に取り付けることができる。また、バックル23によってベルト20の両端部同士を簡単に接続・分離することができるため、椅子90の座面91に対する運動補助器具1の取り付け、取り外しを容易に行うことができる。さらに、ベルト20が保持部11等とは別部材であるため、例えば、ベルト20のみを交換することができる。また、例えば、ベルト20を複数の設置場所に常備しておき、ベルト20以外の運動補助器具1(受面部10および保持部11)のみを持ち歩くこともできる。
【0043】
また、第1実施形態に係る運動補助器具1によれば、受面部10が保持部11と概ね同一平面上に配置された収納形態F2に変形させることができる(図2の上段参照)。これにより、作業者は収納形態F2に変形させた運動補助器具1を容易に持ち運ぶことができる、また、運動補助器具1を収納形態F2にすることで、使用しない運動補助器具1を収納する際に場所を取ることがなく、収納(保管)場所の省スペース化を図ることができる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、図7を参照して、第2実施形態に係る運動補助器具2について説明する。図7は運動補助器具2を示す側面図である。なお、以下の説明では、第1実施形態に係る運動補助器具1と同一または対応する構成には同一の符号を付し、第1実施形態に係る運動補助器具1と同様の説明は省略する。
【0045】
第1実施形態に係る運動補助器具1ではベルト20が保持部11等とは別部材であったが、第2実施形態に係る運動補助器具2ではベルト20が保持部11に接続されている。
【0046】
例えば、ベルト20は、フレーム12の一対の連結フレーム14に連結された一対のベルト本体25を有している。アジャスター22は、一対のベルト本体25のいずれか一方(両方でもよい)に設けられている。バックル23は、一対のベルト本体25の先端部に連結されている。
【0047】
以上説明した第2実施形態に係る運動補助器具2によれば、ベルト20が保持部11に接続されているため、ベルト20の紛失を防止することができる。なお、ベルト20は、受面部10の下面に連結されていてもよい(図示せず)。
【0048】
なお、第1および第2実施形態に係る運動補助器具1,2は、1つのベルト20(固定部)を備えていたが、これに限らず、2つ以上のベルト20を備えていてもよい。例えば、2つのベルト20を備えた場合、1つのベルト20を座部92の前後方向に巻き付け、もう1つのベルト20を座部92の左右方向に巻き付けてもよい(図示せず)。
【0049】
また、第1および第2実施形態に係る運動補助器具1,2では、バックル23がサイドリリースバックルであったが、これに限らず、例えば、前面のボタンを押すことで接続解除されるフロントリリースバックル等であってもよい(図示せず)。他にも、バックル23は、ベルト本体21,25の一端部に連結された枠部材であって、枠部材にベルト本体21,25の他端部を通した後、ベルト本体21,25の他端側に穿設された複数の孔に挿通させるピンを有していてもよい(図示せず)。
【0050】
[第3実施形態]
次に、図8を参照して、第3実施形態に係る運動補助器具3について説明する。図8は運動補助器具3を椅子90に取り付けた状態を示す側面図である。なお、以下の説明では、第1実施形態に係る運動補助器具1と同一または対応する構成には同一の符号を付し、第1実施形態に係る運動補助器具1と同様の説明は省略する。
【0051】
第1および第2実施形態に係る運動補助器具1,2は、固定部の一例としてベルト20を備えていたが、第3実施形態に係る運動補助器具3は、固定部の他の例として一対のフック30を備えている。
【0052】
一対のフック30は、フレーム12の一対の連結フレーム14から前後両側に延びた先端側を下方に折り返してU字状に形成されている。後方のフック30は、前後方向にスライド可能に設けられている。後方の連結フレーム14には、後方のフック30をスライド不能に固定する固定部(ネジ等)が設けられている(図示せず)。
【0053】
運動補助器具3を椅子90に取り付けるには、後方のフック30を後方に引き出し、前方のフック30を座部92の前縁部に引っ掛け、保持部11を座面91上に配置する。次に、後方のフック30を前方に押して座部92の後縁部に引っ掛け、固定部によって後方のフック30を固定する。これにより、一対のフック30は、椅子90の座部92の前後方向の両縁部に引っ掛けられる。
【0054】
以上説明した第3実施形態に係る運動補助器具3によれば、一対のフック30を座部92の前後両縁部に引っ掛けるだけで、簡単に運動補助器具3を座面91上に固定することができる。なお、座部92の前後方向の両縁部に引っ掛かる一対のフック30に加えて、座部92の左右方向の両縁部に引っ掛かる一対のフック30を更に備えてもよい(図示せず)。
【0055】
なお、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3では、受面部10が長方形状に形成されていたが、これに限らず、例えば、円形状、半円形状、四角形を除く多角形状に形成されてもよい(図示せず)。また、受面部10は、平板状に限らず、使用者99の臀部99Aに沿うように湾曲した凹みが形成されていてもよい(図示せず)。
【0056】
また、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3では、フレーム12が受面部10と概ね相似形状に形成されていたが、これに限らず、受面部10とは異なる形状に形成されてもよい(図示せず)。また、フレーム12は、受面部10を枠内に収めることができるように形成されていたが、本発明はこれに限定されない。収納形態F2に変形させたとしても平板状にはならないが、受面部10を枠内に収められない大きさ、形状に形成されてもよい(図示せず)。
【0057】
また、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3では、フレーム12の下面に保護シート12Aが貼られていたが、保護シート12Aに代えて、複数のゴム足が設けられていてもよい(図示せず)。
【0058】
また、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3では、調節溝16がサイドフレーム13に斜めに形成されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、調節溝16は、サイドフレーム13に対し、垂直に形成されてもよいし、略L字状に屈曲するように形成されてもよい(図示せず)。また、複数の調節溝16が、サイドフレーム13に不定の間隔に形成されていたが、これに限らず、等間隔に形成されてもよい(図示せず)。
【0059】
また、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3では、角度調節部15が嵌合部材17を嵌合させる調節溝16を選択することで受面部10の傾斜角度を変更していたが、本発明はこれに限定されない。他の角度調節部として、例えば、長さ調節可能な伸縮アーム(ピストン、シリンダ)等を受面部10とフレーム12との間に架設してもよい(図示せず)。伸縮アームを伸縮させることで、受面部10の後部を昇降させ、受面部10の傾斜角度を変更してもよい。また、他の角度調節部として、例えば、フレーム12に回転可能に支持させた偏心カムを受面部10の下面に摺接可能に設けてもよい(図示せず)。偏心カムを回転することで受面部10の後部を昇降させ、受面部10の傾斜角度を変更してもよい。
【0060】
また、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3では、フレーム12が枠状に形成されていたが、これに限らず、板状に形成されてもよい(図示せず)。この場合、板状のフレームに左右方向に延びる調節溝を凹設し、一対のアーム18の間の嵌合部材17が調節溝16に嵌り込むようにしてもよい(図示せず)。
【0061】
また、第1~第3実施形態に係る運動補助器具1~3は、使用者が着座する座面91を有するものの一例としての椅子90に取り付けられていたが、これに限らず、例えば、ベッドに取り付けられてもよい(図示せず)。
【0062】
なお、上記実施形態の説明は、本発明に係る運動補助器具における一態様を示すものであって、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明は技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよく、特許請求の範囲は技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様を含んでいる。
【符号の説明】
【0063】
1、2、3 運動補助器具
10 受面部
11 保持部
12 フレーム
20 ベルト(固定部)
22 アジャスター
23 バックル
30 フック(固定部)
91 座面
99 使用者
99A 臀部
図1
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図9