(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119040
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】道路領域特定装置、道路領域特定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20220808BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015994
(22)【出願日】2021-02-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207778
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】大垣 志織
(72)【発明者】
【氏名】古恵良 拓哉
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032HA04
(57)【要約】
【課題】高精度に道路領域を特定する。
【解決手段】道路領域特定装置は、所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得する第1取得部と、地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得する第2取得部と、数値標高モデル及び数値表層モデルに基づいて、地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出する算出部と、傾斜分布及び高さ分布に基づいて、地理的領域から道路候補領域を抽出する抽出部と、道路候補領域から尾根谷線データに示される尾根線及び谷線にそれぞれ対応する領域を除外した領域を道路領域として特定する特定部と、道路領域に関する情報を出力する出力部と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び前記地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得する第1取得部と、
前記地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得する第2取得部と、
前記数値標高モデル及び前記数値表層モデルに基づいて、前記地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出する算出部と、
前記傾斜分布及び前記高さ分布に基づいて、前記地理的領域から道路候補領域を抽出する抽出部と、
前記道路候補領域から前記尾根谷線データに示される尾根線及び谷線にそれぞれ対応する領域を除外した領域を道路領域として特定する特定部と、
前記道路領域に関する情報を出力する出力部と、
を有することを特徴とする道路領域特定装置。
【請求項2】
前記抽出部は、
前記傾斜分布に基づいて前記地理的領域を平坦領域と非平坦領域とに分割し、
前記高さ分布に基づいて前記地理的領域を被覆領域と非被覆領域とに分割し、
前記平坦領域及び前記非被覆領域の両方に含まれる領域を前記道路候補領域として抽出する、
請求項1に記載の道路領域特定装置。
【請求項3】
前記地理的領域において施設が設けられている施設領域を取得する第3取得部をさらに有し、
前記特定部は、前記道路候補領域から前記施設領域をさらに除外した領域を前記道路領域として特定する、
請求項1又は2に記載の道路領域特定装置。
【請求項4】
道路領域特定装置によって実行される道路領域特定方法であって、
所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び前記地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得し、
前記地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得し、
前記数値標高モデル及び前記数値表層モデルに基づいて、前記地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出し、
前記傾斜分布及び前記高さ分布に基づいて、前記地理的領域から道路候補領域を抽出し、
前記道路候補領域から前記尾根谷線データに示される尾根線及び谷線にそれぞれ対応する領域を除外した領域を道路領域として特定し、
前記道路領域に関する情報を出力する、
ことを含むことを特徴とする道路領域特定方法。
【請求項5】
所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び前記地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得し、
前記地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得し、
前記数値標高モデル及び前記数値表層モデルに基づいて、前記地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出し、
前記傾斜分布及び前記高さ分布に基づいて、前記地理的領域から道路候補領域を抽出し、
前記道路候補領域から前記尾根谷線データに示される尾根線及び谷線にそれぞれ対応する領域を除外した領域を道路領域として特定し、
前記道路領域に関する情報を出力する、
ことをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路領域特定装置、道路領域特定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、戦後に造成された人工林の多くが利用期を迎えており、森林資源循環のために人工林の伐採を促進することが求められている。効率的な伐採のためには林道の路網を整備することが有効である。しかしながら、人工林によっては、路網の設計に必要となる既存路網の情報が更新されていない場合もある。この場合、新規路網の設計に先立ち既存路網の情報を把握してデータ化する必要が生じ、そのための工数が問題となっていた。
【0003】
特許文献1には、衛星や航空機から撮影された撮影画像に基づいて土地が道路として用いられているか否かを示す土地利用状況を推定し、土地利用状況に基づいて始点から終点までの経路を作成する経路作成システムが記載されている。特許文献1の経路作成システムによれば、土地利用状況が不明な場合でも適切な経路が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の経路作成システムは撮影画像に基づいて土地利用状況を推定するため、撮影画像に含まれる雲、日射等のノイズにより経路の精度が十分でなくなる場合があるという問題があった。したがって、特許文献1の経路作成システムによって高精度に道路領域を推定することはできなかった。
【0006】
また、地表の標高を示す数値標高モデル及び地物表面の標高を示す数値表層モデルから地物の高さを求め、地物の高さに基づいて、撮影画像を用いることなく道路領域を推定することができる。しかし、この場合、谷沿いの河川、施設周辺の敷地は、地物の高さが道路領域とほぼ同じであるため、道路領域を誤抽出する原因となっていた。したがって、この手法により高精度に道路領域を推定することはできなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、高精度に道路領域を特定することを可能とする道路領域特定装置、道路領域特定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る道路領域特定装置は、所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得する第1取得部と、地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得する第2取得部と、数値標高モデル及び数値表層モデルに基づいて、地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出する算出部と、傾斜分布及び高さ分布に基づいて、地理的領域から道路候補領域を抽出する抽出部と、道路候補領域から尾根谷線データに示される尾根線及び谷線にそれぞれ対応する領域を除外した領域を道路領域として特定する特定部と、道路領域に関する情報を出力する出力部と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る道路領域特定装置において、抽出部は、傾斜分布に基づいて地理的領域を平坦領域と非平坦領域とに分割し、高さ分布に基づいて地理的領域を被覆領域と非被覆領域とに分割し、平坦領域及び非被覆領域の両方に含まれる領域を道路候補領域として抽出する、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る道路領域特定装置は、地理的領域において施設が設けられている施設領域を取得する第3取得部をさらに有し、特定部は、道路候補領域から施設領域をさらに除外した領域を道路領域として特定する、ことが好ましい。
【0011】
本発明に係る道路領域特定方法は、道路領域特定装置によって実行される道路領域特定方法であって、所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得し、地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得し、数値標高モデル及び数値表層モデルに基づいて、地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出し、傾斜分布及び高さ分布に基づいて、地理的領域から道路候補領域を抽出し、道路候補領域から尾根谷線データに示される尾根線及び谷線に対応する領域を除外した領域を道路領域として特定し、道路領域に関する情報を出力する、ことを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るプログラムは、所定の地理的領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び地理的領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得し、地理的領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得し、数値標高モデル及び数値表層モデルに基づいて、地理的領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出し、傾斜分布及び高さ分布に基づいて、地理的領域から道路候補領域を抽出し、道路候補領域から尾根谷線データに示される尾根線及び谷線に対応する領域を除外した領域を道路領域として特定し、道路領域に関する情報を出力する、ことをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る道路領域特定装置、道路領域特定方法及びプログラムは、高精度に林道の路網を特定することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の概要を説明するための模式図である。
【
図2】道路領域特定装置1の概略構成の一例を示す図である。
【
図3】数値標高モデルT1のデータ構造の一例を示す図である。
【
図4】尾根谷線データT2のデータ構造の一例を示す図である。
【
図5】施設領域データT3のデータ構造の一例を示す図である。
【
図6】道路領域特定処理の流れの一例を示すフロー図である。
【
図7】抽出処理の流れの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はそれらの実施形態には限定されず、特許請求の範囲及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0016】
図1は、本発明の概要を説明するための模式図である。本発明に係る道路領域特定装置は、道路領域を特定する対象となる地理的領域である対象領域の数値標高モデル及び数値表層モデルを取得する。数値標高モデルは、対象領域の地表S1の標高を示すデータである。数値表層モデルは、対象領域の地物表面S2の標高を示すデータである。数値標高モデル及び数値表層モデルは、対象領域を分割した矩形状の小領域である複数のメッシュと、各メッシュ内の代表点の標高値とが関連付けられたデータである。数値標高モデル及び数値表層モデルは、上空からのリモートセンシングや測量によりあらかじめ生成され、道路領域特定装置に記憶されている。
【0017】
また、道路領域特定装置は、対象領域の尾根谷線データを取得する。尾根谷線データは、対象領域に含まれる尾根線及び谷線を示すデータであり、例えば尾根線及び谷線の形状を折れ線(polyline)により示すポリゴンデータである。尾根谷線データは、数値標高モデルを用いて公知の水文解析処理を実行することによりあらかじめ生成され、道路領域特定装置に記憶されている。
【0018】
道路領域特定装置は、数値標高モデル及び数値表層モデルに基づいて、対象領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出する。傾斜分布は対象領域の地表の傾斜を示すデータであり、例えば、数値標高モデルの隣接するメッシュの標高値の差分をとることにより算出される。高さ分布は対象領域の地物の高さを示すデータであり、メッシュごとに数値表層モデルの標高値と数値標高モデルの標高値との差分をとることにより算出される。対象領域が林地である場合、高さ分布は樹冠高分布を示す。
【0019】
道路領域特定装置は、傾斜分布及び高さ分布に基づいて、対象領域から道路候補領域を抽出する。一般に、林道は車両の通行が容易となるように傾斜が小さい領域に設けられる。また、一般に、林道が存在する領域には樹木が植えられていないため、地物の高さはゼロ又は小さい値をとる。したがって、道路領域特定装置は、傾斜分布及び高さ分布に基づいて道路候補領域を抽出することができる。
【0020】
例えば、道路領域特定装置は、傾斜分布に基づいて対象領域を平坦領域Fと非平坦領域NFとに分割する。平坦領域Fは傾斜が小さい領域であり、非平坦領域NFは傾斜が大きい領域である。また、道路領域特定装置は、高さ分布に基づいて対象領域を被覆領域Cと非被覆領域NCとに分割する。被覆領域Cは地物の高さが大きい領域であり、非被覆領域NCは地物の高さが小さい領域である。道路領域特定装置は、平坦領域F及び非被覆領域NCの両方に含まれる領域を道路候補領域として抽出する。
【0021】
道路領域特定装置は、道路候補領域から尾根谷線データに示される尾根線及び谷線の近傍領域Nを除外した領域を道路領域Rとして特定する。近傍領域Nは、尾根線及び谷線からの距離が所定距離以下である領域である。一般に、林道が尾根の近傍に設けられることはない。また、一般に、谷の近傍は河川であるため、林道として用いられることはない。道路領域特定装置は、これらの近傍領域Nを道路候補領域から除外した領域を道路領域Rとして特定することにより、高精度に林道の路網を特定することを可能とする。
【0022】
上述した説明は、本発明への理解を深めるためのものである。本発明は、具体的には次に述べる実施形態及び様々な変形例により実施される。
【0023】
図2は、本発明に係る道路領域特定装置1の概略構成の一例を示す図である。道路領域特定装置1は、記憶部11、通信部12、表示部13及び処理部14を有する。
【0024】
記憶部11は、データ及びプログラムを記憶するための構成であり、例えば半導体メモリを備える。記憶部11は、処理部14による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。プログラムは、CD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能且つ非一時的な可搬型記憶媒体からセットアッププログラムによりインストールされる。
【0025】
通信部12は、道路領域特定装置1を他の装置と通信可能にする構成であり、通信インタフェース回路を備える。通信部12が備える通信インタフェース回路は、有線LAN(Local Area Network)、無線LAN又はLTE(Long Term Evolution)等の通信インタフェース回路である。通信部12は、他の装置から受信したデータを処理部14に供給するとともに、処理部14から供給されたデータを他の装置に送信する。
【0026】
表示部13は、画像を表示するための構成であり、例えば液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイを備える。表示部13は、処理部14から供給された表示データに基づいて画像を表示する。
【0027】
処理部14は、道路領域特定装置1の動作を統括的に制御する構成であり、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備える。処理部14は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、LSI(Large Scale Integration)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)を備える。処理部14は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。処理部14は、記憶部11に記憶されているプログラムに基づいて、道路領域特定装置1の各種処理が適切に実行されるように道路領域特定装置1の各構成の動作を制御するとともに、各種の処理を実行する。
【0028】
処理部14は、第1取得部141、第2取得部142、第3取得部143、算出部144、抽出部145、特定部146及び出力部147を有する。これらの各部は、処理部14によって実行されるプログラムによって実現される機能モジュールである。これらの各部は、ファームウェアとして道路領域特定装置1に実装されてもよい。
【0029】
図3は、記憶部11にあらかじめ記憶される数値標高モデルT1のデータ構造の一例を示す図である。数値標高モデルT1は、対象領域を分割した小領域である複数のメッシュごとに、メッシュID、メッシュ位置及び標高値を相互に関連付けて記憶する。
【0030】
メッシュIDは、複数のメッシュのそれぞれを識別するための情報である。メッシュ位置は、対象領域におけるメッシュの位置を特定するための情報である。
図3に示す例では各メッシュは矩形状であり、4つの頂点の二次元座標値(例えば、緯度及び経度)により特定されている。標高値は、各メッシュの代表点(例えば、メッシュの重心点)における地表の標高値である。
【0031】
数値表層モデルは、標高値として各メッシュの代表点における地物表面の標高値が記憶される点を除き、数値標高モデルT1と同様のデータ構造を有する。数値表層モデルは、記憶部11にあらかじめ記憶される。
【0032】
図4は、記憶部11にあらかじめ記憶される尾根谷線データT2のデータ構造の一例を示す図である。尾根谷線データT2は、尾根線又は谷線に対応するポリゴンごとに、ポリゴンID、頂点位置及び属性を相互に関連付けて記憶する。
【0033】
ポリゴンIDは、尾根線又は谷線に対応するポリゴンのそれぞれを識別するための情報である。頂点位置は、各ポリゴンを構成する頂点の二次元座標値である。頂点位置が記憶された各頂点を順に線分で結ぶことにより尾根線又は谷線を示す折れ線が形成される。属性は、各ポリゴンの属性であり、各ポリゴンが尾根線及び谷線の何れに対応するかを示す値が記憶される。
【0034】
尾根谷線データT2は、例えば次のように生成される。数値標高モデルに基づいて、対象領域に含まれる各メッシュにおける傾斜方向が算出される。傾斜方向が相互に近似し且つ隣接するメッシュをグループ化することにより、傾斜方向が略一様である斜面を示す複数のメッシュグループが算出される。傾斜方向が相互に近似するとは、例えば、2つのメッシュの傾斜方向のなす角が所定角度以下であることをいう。各メッシュグループが示す斜面に基づいて公知の水文解析処理を実行することにより、対象領域に含まれる河川ごとに集水域が算出される。相互に隣接する河川の集水域の境界線が尾根線として抽出される。また、各メッシュの標高値に負の符号を付して上述の処理を実行することにより、谷線が抽出される。抽出された尾根線及び谷線の形状を示すポリゴンデータを生成することにより、尾根谷線データT2が生成される。
【0035】
図5は、施設領域データのデータ構造T3の一例を示す図である。施設領域データT3は、上空からのリモートセンシング又は測量によりあらかじめ生成され、記憶部11に記憶される。施設領域データは、施設領域に対応するポリゴンごとに、ポリゴンID及び頂点位置を相互に関連付けて記憶する。
【0036】
ポリゴンIDは、施設領域に対応するポリゴンのそれぞれを識別するための情報である。施設領域は、対象領域内において施設が設けられている領域をいい、例えば建造物の外周を示す領域である。頂点位置は、各ポリゴンを構成する頂点の二次元座標値である。
【0037】
図6は、道路領域特定装置1によって実行される道路領域特定処理の流れの一例を示すフロー図である。道路領域特定処理は、記憶部11に記憶されたプログラムに基づいて、道路領域特定装置1の各構成が協働することにより実現される。
【0038】
まず、第1取得部141は、対象領域の地表の標高を示す数値標高モデル及び対象領域の地物表面の標高を示す数値表層モデルを取得する(S101)。第1取得部141は、記憶部11から数値標高モデル及び数値表層モデルを取得する。第1取得部141は、数値標高モデル及び数値表層モデルをあらかじめ記憶した地理情報サーバから通信部12を介して数値標高モデル及び数値表層モデルを取得してもよい。
【0039】
続いて、第2取得部142は、対象領域の尾根線及び谷線を示す尾根谷線データを取得する(S102)。第2取得部142は、記憶部11から尾根谷線データを取得する。第2取得部142は、第1取得部によって取得された数値標高モデルに基づいて尾根谷線データを生成し、これを取得してもよい。
【0040】
続いて、第3取得部143は、対象領域において施設が設けられている施設領域を取得する(S103)。第3取得部143は、記憶部11から施設領域データを取得する。
【0041】
続いて、算出部144は、数値標高モデル及び数値表層モデルに基づいて、対象領域の傾斜分布及び地物の高さ分布を算出する(S104)。傾斜分布は、各メッシュの傾斜の大きさを示すデータである。算出部144は、数値標高モデルの各メッシュの標高値と、各メッシュに第1方向(例えば、南側)に隣接するメッシュの標高値との差分をとることにより、各メッシュの第1方向における傾斜の大きさを算出する。また、算出部144は、各メッシュの標高値と、各メッシュに第1方向と直交する第2方向(例えば、東側)に隣接するメッシュの標高値との差分をとることにより、各メッシュの第2方向における傾斜の大きさを算出する。算出部144は、各メッシュの第1方向における傾斜の大きさと第2方向における傾斜の大きさとの二乗和平方根を算出することにより、各メッシュの傾斜の大きさを算出する。
【0042】
地物の高さ分布は、各メッシュに配置された地物の高さを示すデータである。算出部144は、数値表層モデルの各メッシュの標高値と、数値標高モデルの各メッシュの標高値との差分をとることにより、各メッシュに配置された地物の高さを算出する。
【0043】
続いて、抽出部145は、抽出処理を実行する(S105)。抽出処理は、傾斜分布及び高さ分布に基づいて、対象領域から道路候補領域を抽出する処理である。抽出処理の詳細は後述する。
【0044】
続いて、特定部146は、道路候補領域から尾根谷線データに示される尾根線及び谷線の近傍領域及び施設領域を除外した領域を道路領域として特定する(S106)。特定部146は、尾根谷線データに基づいて近傍領域を設定する。近傍領域は、例えば、尾根谷線データに示される尾根線又は谷線からの距離が所定距離(例えば、10m)以下である地点の集合である領域を示すポリゴンデータとして生成される。特定部146は、道路候補領域に含まれるメッシュのうち、近傍領域及び施設領域の何れにも含まれないメッシュの集合を道路領域として特定する。なお、近傍領域及び施設領域の何れにも含まれないメッシュとは、例えば、その中心点が近傍領域及び施設領域の何れにも含まれないメッシュのことをいう。
【0045】
続いて、出力部147は、道路領域に関する情報を出力し(S107)、道路領域特定処理を終了する。例えば、出力部147は、各メッシュが道路領域であるか否かを示す情報を付したラスターデータを生成し、通信部12を介して他の装置に送信することにより出力する。出力部147は、あらかじめ記憶された地図画像に重畳して道路領域を表示するための表示データを生成し、表示部13に表示することにより出力してもよい。
【0046】
図7は、抽出処理の流れの一例を示すフロー図である。抽出処理は、道路領域特定処理のS105において実行される。
【0047】
まず、抽出部145は、傾斜分布に基づいて、対象領域内で傾斜が近似するメッシュをグループ化する(S201)。グループ化は、単一のグループに属する各メッシュの傾斜の大きさが相互に近似するように、次に述べるとおりISODATA法を用いて実行される。
【0048】
まず、抽出部145は、対象領域の各メッシュを所定数(例えば、20個)のグループの何れかにランダムに分類する。続いて、抽出部145は、各グループに含まれるメッシュの数を計数する。抽出部145は、メッシュの数が下限値以下であるグループを他のグループと結合させ、メッシュの数が上限値以上であるグループを2つのグループに分割する。続いて、抽出部145は、各グループに属するメッシュの傾斜の大きさの平均値を算出し、各メッシュを、各メッシュの傾斜の大きさに最も近い平均値を有するグループに再分類する。抽出部145は、所定の終了条件を満たすまで上述した結合及び分割処理と再分類処理とを反復する。このようにして、抽出部145は、単一のグループに属する各メッシュの傾斜の大きさが相互に近似するようにメッシュをグループ化する。終了条件は、反復回数が所定数以上となること、又は、再分類の前後において異なるグループに属しているメッシュの数が所定値以下であること等である。
【0049】
グループ化は、上述したISODATA法に限られず、k-平均法やMean-shiftクラスタリング等の他のクラスタリング手法を用いて実行されてもよい。また、抽出部145は、相互に隣接し且つ傾斜の大きさの差が所定値以下であるメッシュが同一のグループに属するように各メッシュをグループ化してもよい。
【0050】
続いて、抽出部145は、グループ化された各領域を平坦領域及び非平坦領域の何れか一方に分類する(S202)。抽出部145は、各グループについて傾斜の代表値を算出する。傾斜の代表値は、各グループに含まれるメッシュの傾斜の相加平均値であるが、これに限られず、相乗平均値や中央値等でもよい。抽出部145は、傾斜の代表値が所定値未満であるグループを平坦領域に分類し、代表値が所定値以上であるグループを非平坦領域に分類する。このようにして、抽出部145は傾斜分布に基づいて対象領域を平坦領域及び非平坦領域に分割する。また、あらかじめ傾斜分布と平坦領域と非平坦領域とを含んだ教師データを作成し、教師データをもとに学習済みモデルを作成し、作成した学習済みモデルを用いて、傾斜分布に基づいて対象領域を平坦領域及び非平坦領域に分割しても良い。学習済みモデルに用いられるアルゴリズムは、例えば、ディープラーニングにおけるセマンティックセグメンテーションとすることができる。
【0051】
続いて、抽出部145は、高さ分布に基づいて、対象領域内で高さが近似するメッシュをグループ化する(S203)。グループ化は、単一のグループに属する各メッシュが相互に近接し且つ地物の高さが相互に近似するように、上述したような手法を用いて実行される。
【0052】
続いて、抽出部145は、グループ化された各領域を被覆領域及び非被覆領域の何れか一方に分類する(S204)。抽出部145は、各グループについて地物の高さの代表値を算出する。抽出部145は、地物の高さの代表値が所定値以上であるグループを被覆領域に分類し、代表値が所定値未満であるグループを非被覆領域に分類する。このようにして、抽出部145は高さ分布に基づいて対象領域を被覆領域及び非被覆領域に分割する。
また、あらかじめ地物の高さ分布と被覆領域と非被覆領域とを含んだ教師データを作成し、教師データをもとに学習済みモデルを作成し、作成した学習済みモデルを用いて、高さ分布に基づいて対象領域を被覆領域及び非被覆領域に分割しても良い。学習済みモデルに用いられるアルゴリズムは、例えば、ディープラーニングにおけるセマンティックセグメンテーションとすることができる。
【0053】
続いて、抽出部145は、平坦領域及び非被覆領域の両方に含まれる領域を道路候補領域として抽出し(S205)、抽出処理を終了する。抽出部145は、各メッシュが平坦領域に含まれ且つ非被覆領域に含まれるか否かを判定する。抽出部145は、平坦領域に含まれ且つ非被覆領域に含まれると判定されたメッシュの集合からなる領域を道路候補領域として抽出する。
【0054】
以上説明したように、道路領域特定装置1は、対象領域の傾斜分布及び高さ分布に基づいて道路候補領域を抽出し、道路候補領域から尾根線及び谷線の対応する領域である近傍領域を除外することにより道路領域を特定する。これにより、道路領域特定装置1は、撮影画像を用いることなく、高精度に道路領域を特定することを可能とする。
【0055】
また、道路領域特定装置1は、傾斜分布に基づいて対象領域内のメッシュをグループ化し、グループ化された各領域を平坦領域及び非平坦領域のうちの何れかに分類することにより、対象領域を平坦領域及び非平坦領域に分割する。グループ化は、単一のグループに属する各メッシュが相互に近接し且つ傾斜の大きさが相互に近似するようになされる。このように、対象領域の分割に先立ち各メッシュの位置関係に基づくグループ化をすることにより、対象領域が傾斜の変化量が大きい領域である場合も、高精度に分割がなされる。
【0056】
また、道路領域特定装置1は、高さ分布に基づいて対象領域内のメッシュをグループ化し、グループ化された各領域を被覆領域及び非被覆領域のうちの何れかに分類することにより、対象領域を被覆領域及び非被覆領域に分割する。グループ化は、単一のグループに属する各メッシュが相互に近接し且つ地物の高さが相互に近似するようになされる。このように、対象領域の分割に先立ち各メッシュの位置関係に基づくグループ化をすることにより、対象領域が高さの変化量が大きい領域である場合も、高精度に分割がなされる。
【0057】
上述した説明では、道路領域特定装置1は、対象領域において施設が設けられている施設領域を取得するものとしたが、このような例に限られない。例えば、施設の位置座標(例えば、緯度及び経度)は明らかであるが、施設領域のデータが存在しない場合がある。この場合、道路領域特定処理のS103において、第3取得部143は、施設の位置座標を取得し、施設の位置座標に基づいて施設領域のデータを生成して取得してもよい。このとき、施設領域は、例えば、施設の位置座標を重心点とする円形または矩形状の領域として設定される。
【0058】
上述した説明では、対象領域を分割した小領域は矩形状のメッシュであるものとしたが、このような例に限られない。小領域は、三角形又は五角形以上の多角形等の任意の形状であってもよい。また、各小領域の大きさ及び形状が相互に異なってもよい。
【0059】
道路領域特定装置1によって実行される処理の一部は他の装置によって実現されてもよい。
【0060】
当業者は、本発明の精神および範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した各部の処理は、本発明の範囲において、適宜に異なる順序で実行されてもよい。また、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 道路領域特定装置
11 記憶部
12 通信部
13 表示部
141 第1取得部
142 第2取得部
143 第3取得部
144 算出部
145 抽出部
146 特定部
147 出力部