(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119081
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】色度座標上での定量解析による定量分析方法及び定量分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/80 20060101AFI20220808BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20220808BHJP
G01J 3/50 20060101ALI20220808BHJP
C09B 69/10 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
G01N21/80
G01N31/22 123
G01J3/50
C09B69/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016072
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【テーマコード(参考)】
2G020
2G042
2G054
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020DA02
2G020DA03
2G020DA04
2G020DA05
2G020DA12
2G020DA62
2G042AA03
2G042CB03
2G042DA08
2G042FA12
2G042FB07
2G054AA02
2G054CA04
2G054CE01
2G054EA06
2G054GA03
2G054GB01
(57)【要約】
【課題】物質の含有量を簡便で高速な定量分析することができる、色度座標上での定量解析による定量分析方法を提供する。
【解決手段】本発明の定量分析方法は、物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、それらの呈色をCIE XYZ表色系の3次元色座標上の色度点に変換し、3次元色座標の原点から色度点を終点とするベクトルに変換し、3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面とベクトルとの交点とし、交点間を結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとし、前記計測スケールを用いて、測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する工程を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、物質(T)の含有量を分析する定量分析方法であって、工程1~工程6を含む定量分析方法。
工程1:
物質(T)の第1含有量のよって、分析材料(A)を第1呈色と、
物質(T)の第2含有量のよって、分析材料(A)を第2呈色と、
物質(T)の測定対象サンプルによって、分析材料(A)を第3呈色と、する工程;
工程2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する工程;
工程3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する工程;
工程4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする工程;
工程5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする工程;
工程6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する工程。
【請求項2】
前記工程4において、更に、前記第1交点、前記第2交点及び前記第3交点をXY平面への射影し、CIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、及び第3色度点(x3、y3)に変換する工程を含み、
前記工程5は、CIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)を結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする工程であり、
前記工程6は、前記計測スケールにおける第3色度点(x3、y3)の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する工程である、請求項1に記載の定量分析方法。
【請求項3】
前記第1含有量が、前記物質(T)の最大含有量であり、
前記第2含有量が、前記物質(T)の最小含有量であり、
前記工程1において、更に、物質(T)の第4含有量によって、前記物質の色を第4呈色とする工程を含み、
前記工程2において、更に、前記第4呈色を、CIE XYZ表色系の3次元色座標上の第4色度点に変換する工程を含み、
前記工程3において、更に、前記3次元色座標の原点から前記第4色度点を終点とする第4ベクトルに変換する工程を含み、
前記工程4において、更に、前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点とする工程を含み、
前記工程5において、更に、前記計測スケールの前記第1交点を100%、前記第2交点を0%として、前記第4交点の位置が測定された前記第4含有量の割合となるように、前記スケールに目盛りを付する工程を含む、請求項1に記載の定量分析方法。
【請求項4】
前記第1含有量が、前記物質(T)の最大含有量であり、
前記第2含有量が、前記物質(T)の最小含有量であり、
前記工程1において、更に、物質(T)の第4含有量のよって、前記物質の色を第4呈色とする工程を含み、
前記工程2において、更に、前記第4呈色を、CIE XYZ表色系の3次元色座標上の第4色度点に変換する工程を含み、
前記工程3において、更に、前記3次元色座標の原点から前記第4色度点を終点とする第4ベクトルに変換する工程を含み、
前記工程4において、更に、前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点とし、前記第4交点をXY平面への射影し、CIE xy色度図の第4色度点(x4、y4)に変換する工程を含み、
前記工程5において、更に、前記計測スケールの前記第1色度点(x1、y1)を100%、前記第2色度点(x2、y2)を0%として、前記第4色度点(x4、y4)の位置が測定された前記第4含有量の割合となるように、前記スケールに目盛りを付する工程を含む、請求項2に記載の定量分析方法。
【請求項5】
前記物質(T)は水素イオンであり、
前記物質(T)の含有量は、pH値である、請求項1~4の何れか1項に記載の定量分析方法。
【請求項6】
前記分析材料(A)はpHによる変色する色素を含む請求項5に記載の定量分析方法。
【請求項7】
前記分析材料(A)はpHによる変色する高分子色素を含む請求項5に記載の定量分析方法。
【請求項8】
前記高分子色素は、一般(1)式に示す共重合体を含む請求項7に記載の定量分析方法。
【化1】
【請求項9】
物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、物質(T)の含有量を分析する定量分析装置であって、測定部1~測定部6を含む定量分析装置。
測定部1:
物質(T)の第1含有量のよって、分析材料(A)を第1呈色と、
物質(T)の第2含有量のよって、分析材料(A)を第2呈色と、
物質(T)の測定対象サンプルによって、分析材料(A)を第3呈色と、する測定部;
測定部2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する測定部;
測定部3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する測定部;
測定部4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする測定部;
測定部5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする測定部;
測定部6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する測定部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色度座標上での定量解析による定量分析方法及び定量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分析対象の物質に吸着、又は反応などの相互作用によって、色変化を伴う材料に対して、その材料の色情報を取得し、その物質を定量分析方法が提案されている。例えば、イオンなどとの結合前後で色変化する色素は多数知られている。これらの色変化をデジタルカメラ、スキャナー、測色器などで測定し、ノイズ除去をはじめとする適切な情報処理の後、RGB,HSV,L*a*b*など異なる様式で色情報を解析することで、結合したイオンの量を見積もる方法が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
また、吸着材料としての色素に白色光を照射し、その反射光をRGBの3成分に分離してイオンをはじめとする吸着物質の成分を判別する手法が最も多く報告されている。また、吸着材料の呈する色を色相(H)、彩度(S)、明るさ(V)の3要素で捉えて解析(HSVモデル)し、RGBで判別する方法と比較検討する報告(例えば、非特許文献2)がある。また、色差を重要視するL*a*b*表色系において、色情報を解析して目的物質の吸着量を定量する報告がある(例えば、非特許文献3)。
また、L*a*b*表色系と同様に、色差に等色性を加味したXYZ表色系での色情報解析の他、イオンが吸着すると蛍光を示す吸着材料を用いて、その発光強度で吸着量を定量する報告例もある。
【0004】
また、白色点Oが中央に配置された色度図上に、pH指示薬の発色をプロットしてその白色点Oが中心の極座標上の発色点Cの偏角Dを検出することより、pH値を検測する方法が報告されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
一方、材料の色情報を表現する場には、HSVのような人間が色の違いを認識しやすい空間;あるいは、RGB、XYZ、L*a*b*のような測色において定量性をもった表色系など数多く知られている。国際照明委員会(Commission internationale de l‘eclairage、略称CIE)は、これらの表色系を全世界的にまとめている。CIEはISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)と協定を結んでおり、CIEで定めた表色系を用いて色情報を扱えば、規格化された土俵上で目的物質の吸着量の解析法を示すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Capitan-Vallvey, L. F., et al. (2015). “Recent developments in computer vision-based analytical chemistry: A tutorial review.” Analytica Chimica Acta 899: 23-56.
【非特許文献2】Cantrell, K., et al. (2010). “Use of the hue parameter of the hue, saturation, value color space as a quantitative analytical parameter for bitonal optical sensors.” Analytical Chemistry 82(2): 531-542
【非特許文献3】Abe, K., et al. (2008). “Inkjet-printed microfluidic multianalyte chemical sensing paper.” Analytical Chemistry 80(18): 6928-6934.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
デジタルカメラやスキャナーなどの普及機がRGB方式で色情報を取得しているため、CIE RGB表色系での色解析を進めた方が一見有利に見えるが、色情報を用いて解析する段階で、RGB表色系には実用上の問題点があった。例えば、等色関数が負になる(色度が負になる)こと、あるいは、測光量との対応が複雑なことなどの問題があった。
また、色度図上にプロットし、計測対象の発色点の偏角Dを利用する方法では、偏角の計測方法より簡便な解析方法が求められている。
【0009】
本発明は、上記表色系の中でも特にCIE XYZ表色系に着目し、CIE XYZ表色系において材料の色情報を解析し、材料に吸着した測定対象の吸着量を見積もる方法である。CIE XYZ表色系のコンセプトは、従来のような人の目による感覚を意識したものではなく、等色関数を導入するなど、むしろ定量的な均等色空間になっている。このため、本発明のように、色情報を取得してから解析するまで一貫して人の目を介さない場合、特に有用性を発揮すると考えられる。
以上のような特徴をもつCIE XYZ表色系は、線形変換を主として用いる本発明には精度を確保できる表色系である。また、本発明の一実施形態において、CIE XYZ表色系から二次元のCIE xy座標に精度を維持したまま移行することができる(
図8に示す)。CIE xy座標はCIE XYZ表色系から派生した色空間で、RGB表色系と肩を並べる程度に汎用化されている。本実施形態として、例えば、CIE xy座標上に、測定対象物の吸着率を示す目盛りを付けることで、測定対象物吸着状況を見やすくできるようになる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、物質の含有量に応じて変化する材料の色を、CIE XYZ系又はCIE xy座標上などの加法混色できる場において、それぞれの色に対応する色度点から定量的に見積もる方法を見いだし、その物質を簡便で定量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0012】
[1] 物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、物質(T)の含有量を分析する定量分析方法であって、工程1~工程6を含む定量分析方法。
工程1:
物質(T)の第1含有量のよって、分析材料(A)を第1呈色と、
物質(T)の第2含有量のよって、分析材料(A)を第2呈色と、
物質(T)の測定対象サンプルによって、分析材料(A)を第3呈色と、する工程;
工程2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する工程;
工程3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する工程;
工程4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする工程;
工程5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする工程;
工程6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する工程。
[2] 前記工程4において、更に、前記第1交点、前記第2交点及び前記第3交点をXY平面への射影し、CIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、及び第3色度点(x3、y3)に変換する工程を含み、
前記工程5は、CIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)を結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする工程であり、
前記工程6は、前記計測スケールにおける第3色度点(x3、y3)の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する工程である、[1]に記載の定量分析方法。
[3] 前記第1含有量が、前記物質(T)の最大含有量であり、
前記第2含有量が、前記物質(T)の最小含有量であり、
前記工程1において、更に、物質(T)の第4含有量によって、前記物質の色を第4呈色とする工程を含み、
前記工程2において、更に、前記第4呈色を、CIE XYZ表色系の3次元色座標上の第4色度点に変換する工程を含み、
前記工程3において、更に、前記3次元色座標の原点から前記第4色度点を終点とする第4ベクトルに変換する工程を含み、
前記工程4において、更に、前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点とする工程を含み、
前記工程5において、更に、前記計測スケールの前記第1交点を100%、前記第2交点を0%として、前記第4交点の位置が測定された前記第4含有量の割合となるように、前記スケールに目盛りを付する工程を含む、[1]に記載の定量分析方法。
[4] 前記第1含有量が、前記物質(T)の最大含有量であり、
前記第2含有量が、前記物質(T)の最小含有量であり、
前記工程1において、更に、物質(T)の第4含有量のよって、前記物質の色を第4呈色とする工程を含み、
前記工程2において、更に、前記第4呈色を、CIE XYZ表色系の3次元色座標上の第4色度点に変換する工程を含み、
前記工程3において、更に、前記3次元色座標の原点から前記第4色度点を終点とする第4ベクトルに変換する工程を含み、
前記工程4において、更に、前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点とし、前記第4交点をXY平面への射影し、CIE xy色度図の第4色度点(x4、y4)に変換する工程を含み、
前記工程5において、更に、前記計測スケールの前記第1色度点(x1、y1)を100%、前記第2色度点(x2、y2)を0%として、前記第4色度点(x4、y4)の位置が測定された前記第4含有量の割合となるように、前記スケールに目盛りを付する工程を含む、[2]に記載の定量分析方法。
[5] 前記物質(T)は水素イオンであり、
前記物質(T)の含有量は、pH値である、[1]~[4]の何れかに記載の定量分析方法。
[6] 前記分析材料(A)はpHによる変色する色素である[5]に記載の定量分析方法。
[7] 前記分析材料(A)はpHによる変色する高分子色素である[5]に記載の定量分析方法。
[8] 前記高分子色素は、一般(1)式に示す共重合体を含む[7]に記載の定量分析方法。
【化1】
[9] 物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、物質(T)の含有量を分析する定量分析装置であって、測定部1~測定部6を含む定量分析装置。
測定部1:
物質(T)の第1含有量のよって、分析材料(A)を第1呈色と、
物質(T)の第2含有量のよって、分析材料(A)を第2呈色と、
物質(T)の測定対象サンプルによって、分析材料(A)を第3呈色と、する測定部;
測定部2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する測定部;
測定部3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する測定部;
測定部4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする測定部;
測定部5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする測定部;
測定部6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する測定部。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、物質を簡便で高速な定量分析することができる、色度座標上での定量解析による定量分析方法及び定量分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】pH指示薬であるニトロビニルフェノール(NVP)由来の構造を含む共重合体である高分子色素材料(a1)、及びpH指示薬であるビニルジメチルアミノアゾベンゼン(VAAB)由来の構造を含む共重合体である高分子色素材料(a2)を示す。
【
図2】pH2~10の溶液中でのニトロビニルフェノール(NVP)由来の構造(NVPセグメント)を含む高分子色素(a1)の緩衝液中での吸収スペクトルである。挿入図:溶液のpHに対する[NVP-H
+]/[NVP]の濃度比の変化を示す図である。
【
図3】高分子色素材料(a1)のNVPセグメントの可逆的な色変化を示すスキーム2である。
【
図4】異なるpHの緩衝液に浸漬した、NVPセグメントを含む高分子色素材料(a1)の色度点の移動を示す図である。●は白色点である。
【
図5】pH1.5~4.5の溶液中でのVAABセグメントを含む高分子色素(a2)の吸収スペクトルである。挿入図:溶液のpHに対する[VAAB-H
+]/[VAABP]の濃度比の変化を示す図である。
【
図6】高分子色素材料(a2)のVAABセグメントの可逆的な色変化を示すスキーム3である。
【
図7】異なるpHの緩衝液に浸漬した、VAABセグメントを含む高分子色素材料(a2)の色度点の移動を示す図である。●は白色点である。
【
図8】CIE XYZ 1931の色ベクトルからCIE xy色度図における色度点への変換過程。
【
図9】本発明の定量測定方法の一実施形態において、工程4~6を示す概念図である。
【
図10】本発明の定量測定方法の一実施形態において、工程4~6を示す概念図である。
【
図11】異なるpHの緩衝液の中に、ビニルジメチルアミノアゾベンゼン(VAAB)由来の構造を含む高分子色素材料(a2)が示す、CIE XYZ色空間における1931の色ベクトルである。
【
図12】異なるpHの緩衝液の中に、ニトロビニルフェノール(NVP)由来の構造を含む高分子色素材料(a2)が示す、CIE XYZ色空間における1931の色ベクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本実施形態にかかる定量分析方法及び定量分析装置を実施するための形態を説明する。
本発明は、物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、物質(T)の含有量を分析する定量分析方法である。以下の工程1~工程6を含む。
工程1:
物質(T)の第1含有量のよって、分析材料を第1呈色と、
物質(T)の第2含有量のよって、分析材料を第2呈色と、
物質(T)の測定対象サンプルによって、分析材料を第3呈色と、する工程;
工程2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する工程;
工程3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する工程;
工程4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする工程(
図9);
工程5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする工程(
図9);
工程6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する工程(
図9)。
【0016】
また、本発明の定量分析方法は、以下のように、目盛りを付する工程を更に含むことが好ましい。
前記第1含有量が、前記物質(T)の最大含有量であり、
前記第2含有量が、前記物質(T)の最小含有量であり、
前記工程1において、更に、物質(T)の第4含有量のよって、前記物質の色を第4呈色とする工程を含み、
前記工程2において、更に、前記第4呈色を、CIE XYZ表色系の3次元色座標上の第4色度点に変換する工程を含み、
前記工程3において、更に、前記3次元色座標の原点から前記第4色度点を終点とする第4ベクトルに変換する工程を含み、
前記工程4において、更に、前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点とする工程を含み(
図10)、
前記工程5において、更に、前記計測スケールの前記第1交点を100%、前記第2交点を0%として、前記第4交点の位置が測定された前記第4含有量の割合となるように、前記スケールに目盛りを付する工程(
図10)を含む。
【0017】
本発明の分析材料(A)は、物質(T)との相互作用によって呈色する化合物を含む。この化合物としては、例えば、物質(T)との相互作用によって呈色する色素が挙げられる。本発明の分析材料(A)は、物質(T)との相互作用によって呈色する色素を含むことが好ましい。本明細書において、「色素を含む」ということは、色素を分析材料(A)の1つの成分として含むこと、または、色素由来の構造を含む高分子材料(「高分子色素」ともいう。)を含むことを意味する。本発明の分析材料(A)は、特に、色素由来の構造を含む重合性単量体を、他の重合性単量体と重合させてからなる重合体である高分子色素を含むことがより好ましい。
本発明の分析材料(A)としては、物質(T)との相互作用によって呈色する化合物を液体に溶解又は分散してからなる溶液又は分散液を用いて、紙等の担体に含浸させた方法で得られた、定量測定指示薬(試験紙等)等が挙げられる。また、分析材料(A)としては、物質(T)との相互作用によって呈色する化合物由来の構造を含む高分子材料(A)が挙げられる。その中において、重合性単量体としての物質(T)との相互作用によって呈色する化合物、及び他の重合性部位を有する単量体成分とを共重合させた色調変化型の高分子材料(A1)が好ましい。
【0018】
本発明の分析材料(A)は、好ましくは、物質(T)の含有量の測定範囲において、380nm~800nmの可視領域に1つ以上の吸収帯を有し、かつ、物質(T)の含有量の変化によってある吸収帯が増大又は減衰したりし、さらにそれと同期して他の吸収帯がそれぞれ減衰又は増大する材料である。例えば、実施例で用いたビニルジメチルアミノアゾベンゼン(VAAB)が挙げられる。一方、同期する吸収帯は紫外領域にある場合がある。例えば、実施例で用いたニトロビニルフェノール(NVP)が挙げられる。本発明の分析材料(A)は、より好ましく、380nm~800nmの波長の範囲において、物質(T)の含有量が変化しても吸光度が変化しない等吸収点(Isosbestic point)を有する。
【0019】
本発明は、水素イオン(T1)との相互作用によって呈色する分析材料(A1)を用いて、水素イオン(T1)の濃度を測定する方法であっても良い。
本実施形態の分析材料(A1)は、水素イオン(T1)との相互作用によって呈色する材料であれば特に制限されない。本実施形態の分析材料(A1)は、水素イオン(T1)との相互作用によって呈色する色素を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の分析材料(A1)の一実施態様であるpH測定用分析材料(A11)の場合、pH測定用分析材料(A11)は、水溶液の水素イオン濃度(pH値)によって、色調変化が観測される色素、例えば、pH指示薬などを含むことが好ましい。
【0021】
本実施形態のpH測定用分析材料(A11)としては、例えば、pH指示薬などの色素を液体に溶解又は分散してからなる溶液又は分散液を用いて、紙等に含浸させたpH指示薬(リトマス試験紙等)が挙げられる。
【0022】
また、本実施形態のpH測定用分析材料(A11)は、pH指示部位及び重合性部位を有する単量体成分(pH指示用モノマー)と親水性部位及び重合性部位を有する単量体成分(親水性モノマー)とを共重合させた色調変化型の高分子材料(「高分子色素」ということがある。)を含むことがより好ましい。
このような分析材料(A11)としては、例えば、一般(1)式に示すように,pH指示薬であるニトロビニルフェノール(NVP)を用いて、親水性N-イソプロピルアクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む単量体と共重合で得られた、NVP由来構造を有する高分子色素(a1)が挙げられる。また、一般(1)式に示すように,pH指示薬であるビニルジメチルアミノアゾベンゼン(VAAB)を用いて、親水性N-イソプロピルアクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む単量体と共重合で得られた、VAAB由来構造を有する高分子色素(a2)が挙げられる。
【0023】
【0024】
一般式(1)式のような色調変化型共重合体は,pH指示部が強固な共有結合で高分子鎖に担持されており,測定対象のサンプル液体に長期間浸漬してもpH指示部が溶出するおそれがない。また必要に応じて,一般(1)式のように親水性部位及び重合性部位を有する単量体成分(親水性モノマー)を含めて共重合させ,その親水性の度合いに応じてpH指示用モノマーが色調変化するpH領域を塩基性側又は酸性側へシフトさせることにより,共重合体の色調変化領域をpH指示用モノマーに固有の変色域から移動させ,色調変化領域を制御することが可能である。
【0025】
本発明の定量分析方法は、水素イオン(T1)の濃度を測定する方法として用いることができる。その場合、以下の工程1~工程6を含む。
工程1:
水素イオン(T1)の第1濃度のよって、分析材料(A1)を第1呈色と、
水素イオン(T1)の第2濃度のよって、分析材料(A1)を第2呈色と、
水素イオン(T1)の測定対象サンプルによって、分析材料(A1)を第3呈色と、する工程;
工程2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する工程;
工程3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する工程;
工程4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする工程;
工程5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を水素イオン(T1)の濃度の計測スケールとする工程;
工程6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの水素イオン(T1)の濃度を算出する工程。
【0026】
以下、本発明の定量分析方法を説明するために、第1実施形態、第2実施形態としてpHを測定する方法を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態によって何ら限定および制限されない。
【0027】
(第1実施形態)
<分析材料(A1)>
第1実施形態の分析材料(A1)は、pH応答性色素部分を有する高分子色素(A11)(「高分子色素(A11)」ということもある)を用いる。例えば、上記一般(1)式に示す高分子色素(a1)又は高分子色素(a2)が挙げられる。
【0028】
<予備工程>
pH1~13の範囲において、pH1.0間隔の各緩衝水溶液を調整し、分析材料(A1)としての高分子色素(A11)を、各緩衝水溶液に浸漬する。上記の異なるpHを有する一連の溶液に浸漬された高分子色素(A11)の色変化を、測色計で順次測定する。測色計で測定した色情報をCIE L*a*b*の形で捕捉し,線形変換によりCIE XYZ色空間の色度点に変換する。スカラーを乗じたベクトルの終点を表す色度点は,X+Y+Z=1の平面上にあり,それらの3D色度点をXY平面へ射影する。すなわちCIE xy色度図の2D色度点に変換する。CIE xy色度図において、得られたpH1~13の範囲の各色度点について、pH値が1.0変換する場合の色度点間の距離を計算し、最小間隔dと対比する。最小間隔dは、pH測定の範囲、測定の精度に依存する。例えば、0.1以上が好ましい。最小間隔d以上の間隔を有する色度点を含む、pH範囲を決定する。
【0029】
前記で得られたpH範囲の最小値を第1pH値とし、pH範囲の最大値を第2pH値とする。また、第1pH値以上第2pH値以下であり、正確な値が分からない第3pH値を有する溶液を測定対象とする。
【0030】
<工程1>
上記予備工程と同様な方法で、第1pH値、第2pH値、第3pH値の緩衝水溶液によって、高分子色素(A11)をそれぞれ第1呈色、第2呈色、第3呈色する。
【0031】
<工程2>
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する。
【0032】
<工程3>
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する。
【0033】
<工程4>
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする。
工程4において、さらに、X+Y+Z=1 の平面上の第1交点、第2交点及び第3交点をXY平面へ射影し,それぞれ、CIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、及び第3色度点(x3、y3)に変換する(工程4に含まれてる「工程4-1」とする)。
【0034】
<工程5>
前記第1色度点(x1、y1)と第2色度点(x2、y2)とを結んだ直線を計測スケールとする。第1pH値~第2pH値の範囲での試料のpH値を計測することができる。
【0035】
<工程6>
CIE xy色度図において、前記計測スケールにおける第3色度点(x3、y3)の位置によって、前記測定対象サンプルのpH値を算出する。
【0036】
(第2実施形態)
<分析材料(A1)>
第2実施形態の分析材料(A1)は、第1実施形態と同様な高分子色素(A11)を用いる。
【0037】
<予備工程>
第1実施形態と同様に、高分子色素(A11)に適するpH測定範囲を決定する。
【0038】
<工程1>
第1実施形態と同様に、第1pH値、第2pH値の緩衝水溶液、測定対象の第3pH値の緩衝水溶液によって、高分子色素(A11)をそれぞれ第1呈色、第2呈色、第3呈色する。また、第1pH値と第2pH値との中間点付近の第4pH値を有する緩衝水溶液を準備し、その緩衝水溶液によって、高分子色素(A11)を第4呈色する。
【0039】
上記第4pH値は、「第1pH値+(第2pH値-第1pH値)x10%」以上「第1pH値+(第2pH値-第1pH値)x50%」以下の範囲であることが好ましく、「第1pH値+(第2pH値-第1pH値)x30%」以上「第1pH値+(第2pH値-第1pH値)x50%」以下の範囲であることがより好ましく、「第1pH値+(第2pH値-第1pH値)x45%」以上「第1pH値+(第2pH値-第1pH値)x50%」以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0040】
<工程2>
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色、前記第4呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点、第4色度点に変換する。
【0041】
<工程3>
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点、第3色度点及び第4色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトル、第3ベクトルおよび第4ベクトルに変換する。
【0042】
<工程4>
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点する。
工程4において、さらに、X+Y+Z=1 の平面上の第1交点、第2交点及び第3交点をXY平面への射影,すなわちCIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、第3色度点(x3、y3)及び第4色度点(x4、y4)に変換する(工程4に含まれてる「工程4-1」とする)。
【0043】
<工程5>
前記第1色度点(x1、y1)と第2色度点(x2、y2)とを結んだ直線を計測スケールとする。前記第4色度点(x4、y4)の位置が測定された前記第3pH値の割合となるように、前記スケールに目盛りを付する。第1pH値~第2pH値の範囲での試料のpH値を計測することができる。
【0044】
<工程6>
CIE xy色度図において、前記目盛りを付する計測スケールにおける第3色度点(x3、y3)の位置によって、前記測定対象サンプルのpH値を算出する。
【0045】
(定量分析装置)
本発明の定量分析装置は、物質(T)との相互作用によって呈色する分析材料(A)を用いて、物質(T)の含有量を分析する定量分析装置であり、測定部1~測定部6を含む。
測定部1:
物質(T)の第1含有量のよって、分析材料(A)を第1呈色と、
物質(T)の第2含有量のよって、分析材料(A)を第2呈色と、
物質(T)の測定対象サンプルによって、分析材料(A)を第3呈色と、する測定部;
測定部2:
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点に変換する測定部;
測定部3:
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点及び第3色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトルおよび第3ベクトルに変換する測定部;
測定部4:
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点とする測定部;
測定部5:
前記第1交点と前記第2交点とを結んだ直線を物質(T)の含有量の計測スケールとする測定部;
測定部6:
前記計測スケールにおける第3交点の位置によって、前記測定対象サンプルの物質(T)の含有量を算出する測定部。
【0046】
本発明の定量分析装置は、前述の本発明の定量分析方法と同様に、様々な好ましい実施形態を有する。
【実施例0047】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
「分光測定」
UV/可視吸収スペクトルをAgilent 8453ダイオードアレイ分光光度計で取得した。
【0049】
「比色測定」
高分子色素の色情報をColor Munki Photo測色計(X-Rite GmbH)で測定した。
【0050】
(合成例1)
「4-ニトロ-2-ビニルフェノールの合成」
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.032g)を含む1,4-ジオキサン(15mL)及び炭酸セシウム(0.67g)を含む水(5.0mL)の混合溶液中で、2-ブロモ-4-ニトロフェノール(0.201g)を4,4,5,5-テトラメチル-2-ビニル-1,3,2-ジオキサボロラン(0.19g)と100℃で24時間反応させた。この溶液をクロロホルムに加え,塩酸を加えて有機層を抽出した。酢酸エチル/n-ヘキサン(v/v=7:3)混合物を展開溶媒とするカラムクロマトグラフィーにより生成物を精製し、4-ニトロ-2-ビニルフェノール(NVP、Rf=0.39)を得た。
収率0.017g(11%)であった。mp144-145°Cであった。
1H NMR(400MHz,D2O) δ ppm 7.92ppm(s,1H),7.60ppm(d,1H),6.63ppm(m,1H),6.19ppm(d,1H),5.46ppm(d,1H),4.94ppm(d,1H)。
【0051】
(合成例2)
「(E)-4-((4-ブロモフェニル)ジアジニル)-N,N-ジメチルアニリンの合成」
4‐ブロモアニリン(1.0g)を亜硝酸ナトリウム(0.6g/1.0mL H2O)の塩酸(35質量%、0.8mL)水溶液と混合した。酢酸(99.5質量%、2.7mL)中で、混合物をN,N-ジメチルアニリン(1.48mL)と0℃で5時間反応させた。この溶液をクロロホルムと水で相分離した。有機層を抽出し、クロロホルムを展開溶媒とするカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、(E)-4-((4-ブロモフェニル)ジアジニル)-N,N-ジメチルアニリン(Rf=0.64)を得た。
収率0.68g(39%)であった。mp154-155°Cであった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ ppm 7.89(d,2H),7.74(d,2H),7.61(d,2H),6.78(d,2H),3.12(s,6H)。
【0052】
(合成例3)
「(E)-N,N-ジメチル-4-((4-ビニルフェニル)ジアジニル)アニリンの合成」
炭酸セシウム(1.6g)を含む1,4-ジオキサン(4.5mL)及びテトラキス (トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を含む水(4.5mL)の混合溶液中で、(E)-4-((4-ブロモフェニル)ジアジニル)-N,N-ジメチルアニリン(0.70g)を、4,4,5,5-テトラメチル-2-ビニル-1,3,2-ジオキサボロラン(0.60mL)と、100℃で24時間反応させた(0.076g)。この溶液を水に注ぎ、水層をクロロホルムで抽出した。有機層を抽出し、クロロホルムを展開溶媒とするカラムクロマトグラフィーにより(E)-N,N-ジメチル-4-((4-ビニルフェニル)ジアジニル)アニリン(VAAB、Rf=0.54)を得た。
収率0.51g(92%)であった。mp162-163℃であった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ ppm 7.90(d,2H),7.83(d,2H),7.53(d,2H),6.78(m,1H),6.78(d,2H),5.84(d,1H),5.33(d,1H),3.12(s,6H)。
【0053】
(合成例4)
「NVP由来構造を有する高分子色素(a1)の作製」
THF(4.2mL)と水(1.8mL)との混合溶媒中で、合成例1で得られたNVP(21mg)およびN-イソプロピルアクリルアミド(1.35g)を添加し、開始剤としてアンモニウムペルオキソジスフェート(76mg)および架橋剤としてN,N’-メチレンジアクリルアミド(0.161g)を添加し、また、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(0.076mL)を添加した後、-20°Cで48時間共重合することによって、上記一般式(1)で表すNVP由来構造を有する高分子色素(a1)フィルムを作製した。フィルムの膜厚が0.1mmであった。得られた高分子色素(a1)のフィルムをメタノールに2日間浸漬し,続いて水に2日間浸漬した。上澄み液は両方とも透明になり,UV‐vis分光法で測定した結果、残留反応原料が観測されなかった。
【0054】
(合成例5)
「VAAB由来構造を有する高分子色素(a2)の作製」
THF(4.2mL)と水(1.8mL)との混合溶媒中で、合成例3で得られたVAAB(15mg)およびN-イソプロピルアクリルアミド(1.35g)を添加し、開始剤としてアンモニウムペルオキソジスフェート(76mg)および架橋剤としてN,N’-メチレンジアクリルアミド(0.161g)とを添加し、また、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(0.076mL)を添加した後、-20°Cで48時間共重合することによって、上記一般式(1)で表すVAAB由来構造を有する高分子色素(a2)を作製した。得られた高分子色素(a2)のフィルムをメタノールに2日間浸漬し,続いて水に2日間浸漬した。上澄み液は両方とも透明になり,UV‐vis分光法で測定した結果、残留反応原料が観測されなかった。
【0055】
(実施例1)
【0056】
<pHの変化と共に、CIE XYZにおけるポリマーNVP染料の色度点の移動>
<予備工程>
合成例4で得られた、pH応答性色素部分としてNVP由来構造を含む高分子色素(a1)フィルムは、pH2、3、4、5、6、7、8、9、10の全ての緩衝水溶液に浸漬すると透明な膜となり、上記の異なるpHを有する一連の溶液に浸漬された高分子色素(a1)フィルムの色変化を、測色計で順次測定した。測色計で測定した色情報をCIE L*a*b*の形で捕捉し,線形変換によりCIE XYZ色空間の色度点に変換した(
図11)。スカラーを乗じたベクトルの終点を表す色度点は,X+Y+Z=1の平面上にあり,XY平面へ射影し,すなわちCIE xy色度図の色度点に変換した。
図4において、NVP由来構造を含む高分子色素(a1)フィルムは、pH2の浸漬溶液中でほとんど無色を示した。
図4のCIE xy色度図の各色度点の関係から、上記第1実施形態の予備工程と同様な方法を用いて、本実施例の高分子色素(a1)に適するpH測定範囲をpH4.0~pH8.0に決定した。
【0057】
<工程1>
pH4.0を第1pH値とし、pH8.0を第2pH値とし、それぞれの緩衝水溶液を準備した。測定対象の未知のpH値を第3pH値とし、その測定対象水溶液を準備した。第1pH値及び第2pH値の緩衝水溶液、及び測定対象水溶液によって、本実施例の高分子色素(a1)をそれぞれ第1呈色、第2呈色、第3呈色した。また、第1pH値と第2pH値との中間点であるpH6.0を第4pH値をとし、第4pH値を有する緩衝水溶液を準備し、その緩衝水溶液によって、本実施例の高分子色素(a1)を第4呈色した。第1と第2呈色はそれぞれ、無色と黄色であった。
【0058】
<工程2>
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色、前記第4呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点、第4色度点に変換した。
【0059】
<工程3>
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点、第3色度点及び第4色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトル、第3ベクトルおよび第4ベクトルに変換した。
【0060】
<工程4>
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点した。
工程4において、さらに、X+Y+Z=1 の平面上の第1交点、第2交点及び第3交点をXY平面への射影,すなわちCIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、第3色度点(x3、y3)及び第4色度点(x4、y4)に変換した。第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、第3色度点(x3、y3)及び第4色度点(x4、y4)はそれぞれ、第1色度点(0.34,0.34)、第2色度点(0.44、0.48)、第3色度点(0.38、0.40)及び第4色度点(0・35、0.36)であった。
【0061】
<工程5>
前記第1色度点(x1、y1)と第2色度点(x2、y2)とを結んだ直線を計測スケールとした。前記第4色度点(x4、y4)の位置が前記第4pH値であるpH6.0となるように、前記スケールに目盛りを付した。
【0062】
<工程6>
CIE xy色度図において、前記目盛りpH6.0を付する計測スケールにおける第3色度点(x3、y3)の位置によって、前記測定対象サンプルのpH値をpH6.2と算出した。
【0063】
「分光光度計による確認」
合成例4で得られた、前記高分子色素は、pH2~10の範囲の全ての緩衝水溶液に浸漬し、
図2に示すように、浸漬した膜の320nmの吸収極大波長の吸収帯が酸性溶液中に現れ、溶液のpHの上昇に伴い強度が低下した。その代わり,430nmの黄色バンドが拡大した。重合体‐染料膜の黄色への着色はpHに応答して360nmの等吸収点で可逆的であり,
図3のスキーム2に示したNVPセグメントのプロトン化と脱プロトンの間の可逆的反応を示唆した。一連のpH(
図2の挿入図)に浸漬した重合体膜の吸収バンドの分析から,pKaは7.4と計算された。酸性環境に対する適切なpH指示薬であることを示した。
【0064】
図2に示すように、NVPセグメントの分子構造がNVP-H
+型からNVP型に変化する過程では、pHの上昇に伴い430nmの吸収帯が形状を保ったまま増加した。測色計を用いた同じ過程で,測色計の光検出器に入る光の量はNVP型の濃度の増加と共に減少し,最終的に測定限界を超えた。
【0065】
(実施例2)
<pHの変化と共に、CIE XYZにおけるポリマーVAAB染料の色度点の移動>
【0066】
<予備工程>
合成例5で得られた、pH応答性色素部分としてVAABセグメントを含む高分子色素(a2)は、その色素フィルムを浸漬した溶液のpHによって黄色と赤色との間で変化した。実施例1において酸性環境でほとんど無色のNVPセグメントを含む高分子色素(a1)フィルムとは対照的に,本実施例の高分子色素(a2)はpH1.5からpH4.5の範囲で色を示した。本実施例の高分子色素(a2)は、実施例1と同様な手順を用いて、CIE XYZ色空間における色情報を得た(
図12)。
図7は、pH4~5の溶液に浸漬した赤色高分子色素膜のxy線図では色度点の動きがほとんどないのに対し、pH2~4の範囲では、xy線図の色度点が直線上にあるオレンジ色を経て赤色から黄色へと急激に色相が変化した。これは,色空間の色度点間に付加的混合が保持されるので,異なる色を持つ二つの種,すなわち赤色プロトン化VAAB型(VAAB‐H
+)と黄色脱プロトン化型(VAAB)のみが存在することを意味する。色度点が色空間の直線上にあることは、
図4に示すように、吸収スペクトルに等吸収点があることと同様の意味を持っている。
図7のCIE xy色度図の各色度点の関係から、上記第1実施形態の予備工程と同様に、本実施例の高分子色素(a2)に適するpH測定範囲をpH1.5~pH4.5に決定した。なお、
図4、
図7、
図8のカラー図面を、別途、物件提出書により提出する。
【0067】
<工程1>
pH1.5を第1pH値とし、pH4.5を第2pH値とし、それぞれの緩衝水溶液を準備した。測定対象の未知のpH値を第3pH値とし、その測定対象水溶液を準備した。第1pH値及び第2pH値の緩衝水溶液、及び測定対象水溶液によって、本実施例の高分子色素(a1)をそれぞれ第1呈色、第2呈色、第3呈色した。また、第1pH値と第2pH値との中間点付近のpH3.0を第4pH値をとし、第4pH値を有する緩衝水溶液を準備し、その緩衝水溶液によって、本実施例の高分子色素(a2)を第4呈色した。第1と第2呈色はそれぞれ、赤色と黄色であった。
【0068】
<工程2>
前記第1呈色、前記第2呈色、前記第3呈色、前記第4呈色を、それぞれCIE XYZ表色系の3次元色座標上の第1色度点、第2色度点、第3色度点、第4色度点に変換した。
【0069】
<工程3>
前記3次元色座標の原点から前記第1色度点、前記第2色度点、第3色度点及び第4色度点を終点とする第1ベクトル、第2ベクトル、第3ベクトルおよび第4ベクトルに変換した。
【0070】
<工程4>
前記3次元色座標における X+Y+Z=1 の平面と、前記第1ベクトルとの交点を第1交点と、前記第2ベクトルとの交点を第2交点と、前記第3ベクトルとの交点を第3交点と、前記第4ベクトルとの交点を第4交点した。
工程4において、さらに、X+Y+Z=1 の平面上の第1交点、第2交点及び第3交点をXY平面への射影,すなわちCIE xy色度図の第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、第3色度点(x3、y3)及び第4色度点(x4、y4)に変換した。第1色度点(x1、y1)、第2色度点(x2、y2)、第3色度点(x3、y3)及び第4色度点(x4、y4)はそれぞれ、第1色度点(0.70、0.28)、第2色度点(0.57、0.42)、第3色度点(0.65、0.33)及び第4色度点(0.63、0.36)であった。
【0071】
<工程5>
前記第1色度点(x1、y1)と第2色度点(x2、y2)とを結んだ直線を計測スケールとした。前記第4色度点(x4、y4)の位置が前記第4pH値であるpH3.0となるように、前記スケールに目盛りを付した。
【0072】
<工程6>
CIE xy色度図において、前記目盛りpH3.0を付する計測スケールにおける第3色度点(x3、y3)の位置によって、前記測定対象サンプルのpH値をpH2.7と算出した。
【0073】
「分光光度計による確認」
酸性溶液(pH1.5)に浸漬した本実施例の高分子色素(a2)フィルムにおいて,450nmに最大吸収波長(
図5)として黄色吸収帯が現れた。pHの増加と共に,520nmの別の吸収帯は450nmの減衰の代わりに拡大し,490nmで等吸収点を示した。pH応答挙動は
図6のスキーム3に示したVAABセグメントのプロトン化と脱プロトン化間の可逆反応を示唆した。pHによるこれらのスペクトルの変化から,VAABセグメントを含む高分子染料のpKaを計算し、結果が2.4であった。酸性環境に対する適切なpH指示薬であることを示した。