(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119110
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】バリア機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20220808BHJP
A61K 31/662 20060101ALI20220808BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220808BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20220808BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K31/662
A61P17/16
A61Q17/00
A61Q19/00
A61P43/00 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016116
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】中上 夕子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD661
4C083AD662
4C083CC02
4C083CC31
4C083DD05
4C083DD08
4C083DD11
4C083DD12
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】バリア機能を効果的に改善することができる、バリア機能改善剤、および前記バリア機能改善剤を含有するバリア機能改善用組成物の提供。
【解決手段】トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を有効成分として含有する、バリア機能改善剤、及び当該バリア機能改善剤と薬学的に許容される担体とを含有する、バリア機能改善用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を有効成分として含有する皮膚のバリア機能改善剤。
【請求項2】
前記トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩が、α-トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩である、請求項1に記載のバリア機能改善剤。
【請求項3】
前記トコフェロールリン酸エステルの塩を有効成分として含有し、前記トコフェロールリン酸エステルの塩が、トコフェロールリン酸エステルのナトリウム塩である、請求項1又は2に記載のバリア機能改善剤。
【請求項4】
フィラグリンの産生促進用である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバリア機能改善剤。
【請求項5】
インボルクリンの産生促進用である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバリア機能改善剤。
【請求項6】
ロリクリンの産生促進用である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバリア機能改善剤。
【請求項7】
トランスグルタミナーゼ1の産生促進用である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバリア機能改善剤。
【請求項8】
アクアポリン3の産生促進用である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバリア機能改善剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のバリア機能改善剤及び薬学的に許容される担体を含有する、バリア機能改善用組成物。
【請求項10】
前記トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の合計含有量が、0.01~10質量%である、請求項9に記載のバリア機能改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア機能改善剤およびバリア機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮の最も重要な生理機能の一つとして、外界からの乾燥、紫外線、その他の物理的、化学的刺激に対する防御機能が挙げられ、その防御機能の役割を担うのが角質層である。この角質層を形成する角質細胞は、表皮角化細胞のターンオーバーと言われる分化過程を通して形成される。この皮膚の分化が、何らかの原因で阻害されたり、或いは異常に亢進されたりすると、正常な皮膚ターンオーバーが行われなくなり、バリア機能の低下を引き起こす(非特許文献1、2)。
【0003】
皮膚のバリア機能の低下は、経表皮水分蒸散量を増加させ、皮膚のかさつき、落屑、掻痒感等を引き起こし、いわゆる乾燥肌を引き起こす。加齢した肌や、バリア障害を伴うアトピー性皮膚炎、乾癬の患者において、角層セラミドをはじめとする細胞間脂質の減少や組成変化が報告されている(非特許文献3、4)。
【0004】
また、角質層の保水に関わるアミノ酸は顆粒層細胞のフィラグリン蛋白の分解物であり、強い乾燥症状を呈するアトピー性皮膚炎ではこのフィラグリンの前駆体であるプロフィラグリンが角層で減少していることが知られている。フィラグリンの減少は、角層の保水能力の低下とそれによる乾燥肌を引き起こすため、皮膚のバリア機能の維持、改善にフィラグリンも重要であることが広く知られるようになっている(非特許文献5、6)。
【0005】
正常な皮膚ターンオーバーを行い、バリアを形成する過程に関わる分化マーカーと呼ばれる因子として、上記のフィラグリン以外にも、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ1が知られている。この他にも、皮膚ケラチノサイトに多く存在するアクアポリン3(AQP3)は、水やグリセロールの輸送を促進することで皮膚の生理的バリア機能の改善に重要である(非特許文献7)。また、アクアポリン3の発現は皮膚炎症部位で著明に低下しており、これが種々の皮膚疾患に伴う乾燥症状の形成とも密接な関係にあることも示唆されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mina Yaar et al., Retinoic Acid Delays the Terminal Differentiation of Keratinocytes in Suspension Culture. J Invest Dermatol 76:363-366, 1981.
【非特許文献2】Akemi Ishida-Yamamoto et al., Structural organization of cornified cell envelopes and alterations in inherited skin disorders. Exp Dermatol 1998: 7: 1-10.
【非特許文献3】Kayoko Akimoto et al., Quantitative Analysis of Stratum Corneum Lipids in Xerosis and Asteatotic Eczema. The Journal of Dermatology Vol.20: 1-6, 1993.
【非特許文献4】Genji Imokawa et al., Decreased level of ceramides in stratum corneum of atopic dermatitis: an etiologic factor in atopic dry skin?. J Invest Dermatol 96:523-526, 1991.
【非特許文献5】Tokuji Seguchi et al., Decreased expression of filaggrin in atopic skin. Arch Dermatol Res 288, 442-446, 1996.
【非特許文献6】藤田宏志ら「乾燥によるフィラグリンとアミノ酸の減少を防ぐPalo Azul」 J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 37(2), 84-91, 2003.
【非特許文献7】Mariko Hara-Chikuma et al., Aquaporin-3 functions as a glycerol transporter in mammalian skin. Biol. Cell (2005) 97, 479-486.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピーなどにおいては皮膚のバリア機能が低下することが知られており、バリア機能を効果的に改善することのできる薬剤が求められている。しかしながら、従来知られている薬剤では、その効果はまだ不十分といえる。
【0009】
そこで、本発明は、バリア機能を効果的に改善することができる、バリア機能改善剤、および前記バリア機能改善剤を含有するバリア機能改善用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を有効成分として含有する皮膚のバリア機能改善剤。
[2]前記トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩が、α-トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩である、[1]に記載のバリア機能改善剤。
[3]前記トコフェロールリン酸エステルの塩を有効成分として含有し、前記トコフェロールリン酸エステルの塩が、トコフェロールリン酸エステルのナトリウム塩である、[1]又は[2]に記載のバリア機能改善剤。
[4]フィラグリンの産生促進用である、[1]~[3]のいずれかに記載のバリア機能改善剤。
[5]インボルクリンの産生促進用である、[1]~[3]のいずれかに記載のバリア機能改善剤。
[6]ロリクリンの産生促進用である、[1]~[3]のいずれかに記載のバリア機能改善剤。
[7]トランスグルタミナーゼ1の産生促進用である、[1]~[3]のいずれかに記載のバリア機能改善剤。
[8]アクアポリン3の産生促進用である、[1]~[3]のいずれかに記載のバリア機能改善剤。
[9][1]~[8]のいずれかに記載のバリア機能改善剤及び薬学的に許容される担体を含有する、バリア機能改善用組成物。
[10]前記トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の合計含有量が、0.01~10質量%である、[9]に記載のバリア機能改善用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バリア機能を効果的に改善することができる、バリア機能改善剤、および前記バリア機能改善剤を含有するバリア機能改善用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】試験例1の、免疫抗体染色を行った皮膚組織の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(バリア機能改善剤)
一実施形態において、本発明は、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を有効成分として含有する、皮膚のバリア機能改善剤を提供する。
ここで「バリア機能」とは、皮膚における、外界からの乾燥、紫外線、その他の物理的、化学的刺激による内側の水分の蒸散を防ぎ、外界からの異物の侵入に対して防御する機能をいう。
本実施形態のバリア機能改善剤は、分化マーカーであるフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ1と、細胞膜の水チャネルであるアクアポリン3の産生を促進することで、バリア機能を効果的に改善することができる。
【0014】
<トコフェロールリン酸エステル>
本実施形態のバリア機能改善剤は、トコフェロールリン酸エステル又はその塩を有効成分として含むものであれば特に限定されない。本実施形態のバリア機能改善剤に用いられるトコフェロールリン酸エステルとしては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0015】
【化1】
[式中、R
1、R
2及びR
3は、互いに独立に、水素原子又はメチル基を表す。]
【0016】
トコフェロールリン酸エステルには、上記一般式(1)中のR1、R2、R3によって、α-トコフェロールリン酸エステル(R1,R2,R3=CH3)、β-トコフェロールリン酸エステル(R1,R3=CH3、R2=H)、γ-トコフェロールリン酸エステル(R1,R2=CH3、R3=H)、δ-トコフェロールリン酸エステル(R1=CH3、R2,R3=H)、ζ2-トコフェロールリン酸エステル(R2,R3=CH3、R1=H)、η-トコフェロールリン酸エステル(R2=CH3、R1,R3=H)等が存在する。
【0017】
トコフェロールリン酸エステルは、特に限定されず、これらのトコフェロールリン酸エステルのいずれであってもよい。これらの中でも、α-トコフェロールリン酸エステル及びγ-トコフェロールリン酸エステルが好ましく、α-トコフェロールリン酸エステルがより好ましい。
【0018】
上記一般式(1)で表される化合物は、クロマン環の2位に不斉炭素原子を有するため、d体及びl体の立体異性体、並びにdl体が存在する。トコフェロールリン酸エステルは、これらの立体異性体のいずれであってもよいが、dl体が好ましい。
【0019】
上記の中でも、トコフェロールリン酸エステルとしては、dl-α-トコフェロールリン酸エステル及びdl-γ-トコフェロールリン酸エステルが好ましく、dl-α-トコフェロールリン酸エステルがより好ましい。
【0020】
トコフェロールリン酸エステルの塩は、特に限定されないが、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩等が挙げられる。
【0021】
無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩;亜鉛塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、例えば、アルキルアンモニウム塩、塩基性アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0022】
上記の中でも、トコフェロールリン酸エステルの塩としては、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩、特にナトリウム塩は、水への溶解性が高く、また性状が粉末となるため取り扱いが容易になるという利点を有している。
【0023】
トコフェロールリン酸エステルの好ましい態様としては、上記一般式(1)で表される化合物のアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩)、α-トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩)、γ-トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩)、dl-α-トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩)、dl-γ-トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩)等が挙げられる。
【0024】
トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩の中で、α-トコフェロールリン酸エステルのナトリウム塩及びγ-トコフェロールリン酸エステルのナトリウム塩が好ましく、α-トコフェロールリン酸エステルのナトリウム塩がより好ましい。
【0025】
dl-α-トコフェロールリン酸エステルのナトリウム塩は、TPNa(登録商標)(表示名称:トコフェリルリン酸Na)の製品名で昭和電工より市販されている。前記TPNaは、トコフェロールリン酸エステルの好ましい例として例示される。
【0026】
本実施形態のバリア機能改善剤は、トコフェロールリン酸エステル及びその塩から選択される1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態のバリア機能改善剤は、トコフェロールリン酸エステルの塩を含むことが好ましく、トコフェロールリン酸エステルのアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩)を単独で用いることがより好ましい。
【0027】
トコフェロールリン酸エステル又はその塩は、公知の製造方法、例えば特開昭59-44375号公報、国際公開公報第97/14705号等に記載の方法により製造することができる。
例えば、溶媒中に溶解したトコフェロールにオキシ塩化リン等のリン酸化剤を作用させ、反応終了後に適宜精製することによりトコフェロールリン酸エステルを得ることができる。さらに、得られたトコフェロールリン酸エステルを、酸化マグネシウム等の金属酸化物、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物、又は、水酸化アンモニウムや水酸化アルキルアンモニウム等で中和することにより、トコフェロールリン酸エステルの塩を得ることができる。
【0028】
以下、トコフェロールリン酸エステル及びその塩をまとめて、「トコフェロールリン酸エステル等」と記載することがある。
【0029】
本実施形態のバリア機能改善剤は、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎などの治療の目的で、それ自体を患者に投与して使用することができる。また、本実施形態のバリア機能改善剤は、バリア機能を改善する目的で、医薬品や化粧品に配合して使用することもできる。また、後述するバリア機能改善用組成物に配合して使用してもよい。
【0030】
本実施形態のバリア機能改善剤は、フィラグリンの産生を促進することで、バリア機能を効果的に改善することができる。
本実施形態のバリア機能改善剤は、インボルクリンの産生を促進することで、バリア機能を効果的に改善することができる。
本実施形態のバリア機能改善剤は、ロリクリンの産生を促進することで、バリア機能を効果的に改善することができる。
本実施形態のバリア機能改善剤は、トランスグルタミナーゼ1の産生を促進することで、バリア機能を効果的に改善することができる。
本実施形態のバリア機能改善剤は、アクアポリン3の産生を促進することで、バリア機能を効果的に改善することができる。
本実施形態のバリア機能改善剤は、バリア機能を効果的に改善することができるので、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎の予防または治療に用いることができる。
【0031】
(フィラグリン)
フィラグリンは、表皮の顆粒細胞で産生される塩基性タンパク質の一種であり、角層細胞内で進行するケラチン線維の線維形成反応を促進する働きを有する。フィラグリンは角層細胞が下層から上層へと移行する過程で、さらにプロテアーゼの作用でアミノ酸にまで分解され、角層中で遊離アミノ酸が天然保湿因子(NMF)として機能する。フィラグリンの産生が促進されることにより、NMF量が増加し、角層の保湿力が高まるため、皮膚のバリア機能が向上する。
【0032】
(インボルクリン)
インボルクリンは、角層細胞のコーニファイドエンベロープを構成する主要タンパク質の一つであり、ケラチノサイト(表皮角化細胞)の分化の初期段階の指標として用いられる。インボルクリンの産生が促進されることにより、角層の保湿力を担う構造体であるコーニファイドエンベロープの形成が促進されるため、皮膚のバリア機能が向上する。
【0033】
(ロリクリン)
ロリクリンは、グリシン、セリン、システインなどを多く含む疎水性タンパク質であり、コーニファイドエンベロープのおもな構成成分である。インボルクリンの産生が促進されることにより、コーニファイドエンベロープの形成が促進されるため、皮膚のバリア機能が向上する。
【0034】
(トランスグルタミナーゼ1)
トランスグルタミナーゼ1は、タンパク質中のグルタミンとリジンとの間にイソペプチド結合を形成する酵素であり、コーニファイドエンベロープの形成反応に関与する。トランスグルタミナーゼ1の産生が促進されることにより、コーニファイドエンベロープの形成が促進されるため、皮膚のバリア機能が向上する。
【0035】
(アクアポリン3)
アクアポリン3は、細胞膜に存在する細孔を持ったタンパク質であり、細胞内の水分量を調節する水チャネルとして機能する。アクアポリン3の産生が促進されることにより、表皮細胞内の水分量が増加するため、表皮のバリア機能が向上する。
【0036】
本実施形態のバリア機能改善剤は、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎などの発症リスクが高い患者に投与し、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎などを予防するために使用してもよい。また、本実施形態のバリア機能改善剤は、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎などを発症した患者に投与し、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎などの進行や悪化を抑制するために使用してもよい。
【0037】
本実施形態のバリア機能改善剤は、後述するバリア機能改善用組成物と同様の方法で患者に投与することができ、経口的に投与してもよく、非経口的に投与してもよく、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内等に投与してもよく、坐剤として直腸内投与してもよく、皮膚外用剤として皮膚に投与してもよい。
【0038】
(バリア機能改善用組成物)
本実施形態のバリア機能改善用組成物は、上述したトコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を含有するバリア機能改善剤と、薬学的に許容される担体とを含有する。
【0039】
本実施形態のバリア機能改善用組成物は、常法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、上述したバリア機能改善剤、薬学的に許容される担体、および場合によっては他の成分を混合して製剤化することにより製造することができる。
【0040】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、かつ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。
なお、「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。
薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、注射剤用溶剤、保湿剤、感触向上剤、界面活性剤、高分子・増粘・ゲル化剤、溶剤、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、酸、アルカリ、粉体、無機塩、水、金属含有化合物、不飽和単量体、多価アルコール、高分子添加剤、湿潤剤、増粘剤、粘着付与物質、油性原料、液状マトリックス、脂溶性物質、高分子カルボン酸塩等を挙げることができる。
【0041】
これらの成分の具体例としては、例えば、国際公開公報第2016/076310号に記載のもの等が挙げられる。さらに、高分子・増粘・ゲル化剤の具体例としては、メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン、メタクリル酸ブチルまたはこれらの重合体等が挙げられる。
本実施形態のバリア機能改善用組成物における薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、他の成分としては、特に制限されず、防腐剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、美白剤、トコフェロールリン酸エステル等以外のビタミン類及びその誘導体類、消炎剤、抗炎症剤、育毛用薬剤、血行促進剤、刺激剤、ホルモン類、抗しわ剤、抗老化剤、ひきしめ剤、冷感剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、植物・動物・微生物エキス、種子油、鎮痒剤、角質剥離・溶解剤、制汗剤、清涼剤、収れん剤、酵素、核酸、香料、色素、着色剤、染料、顔料、消炎鎮痛剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌性物質、抗てんかん剤、冠血管拡張剤、生薬、止痒剤、角質軟化剥離剤、紫外線遮断剤、殺菌剤、抗酸化物質、pH調整剤、添加剤、金属セッケン等を挙げることができる。これらの成分の具体例としては、例えば、国際公開公報第2016/076310号に記載のもの等が挙げられる。さらに、植物・動物・微生物エキスの具体例としては、ラプサナコムニス花/葉/茎、チャ葉等が挙げられる。種子油の具体例としては、ワサビノキ種子油が挙げられる。香料の具体例としては、ペリルアルデヒドが挙げられる。
他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本実施形態のバリア機能改善用組成物は、前記バリア機能改善剤を治療的有効量含有することができる。「治療的有効量」とは、患者の疾患の治療又は予防のために有効な薬剤の量を意味する。治療的有効量は、投与対象の疾患の状態、年齢、性別、および体重等によって変動し得る。
本実施形態のバリア機能改善用組成物において、上記バリア機能改善剤の治療的有効量は、トコフェロールリン酸エステル等が、バリア機能を改善し得る量であり得る。また、上記バリア機能改善剤の治療的有効量は、トコフェロールリン酸エステル等が、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ1、およびアクアポリン3からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進し得る量であり得る。
【0044】
本実施形態のバリア機能改善用組成物における前記バリア機能改善剤の治療的有効量(トコフェロールリン酸エステル等の合計含有量)は、バリア機能改善用組成物全量に対して、例えば0.01~10質量%であってもよく、例えば0.1~10質量%であってもよく、例えば0.1~5質量%であってもよく、例えば0.1~3質量%であってもよく、例えば0.1~2質量%であってもよく、例えば0.3~2質量%であってもよく、例えば0.6~1.5質量%であってもよい。
なお、トコフェロールリン酸エステル等の合計含有量とは、1種のトコフェロールリン酸エステル又はその塩を単独で使用する場合にはその化合物の含有量を意味し、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を2種以上組み合わせて用いる場合には、これらの化合物の合計の含有量を意味する。
【0045】
本実施形態のバリア機能改善用組成物は、医薬組成物であってもよく、化粧料であってもよい。
【0046】
(医薬組成物)
一実施形態において、本発明は、上述したバリア機能改善剤及び薬学的に許容される担体を含有する、バリア機能改善用医薬組成物を提供する。
【0047】
本実施形態の医薬組成物において、薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、上記に挙げたもののほか医薬品に一般的に使用される担体を使用することができる。例えば、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格2013(薬事日報社、2013年)、医薬品添加物辞典2016(日本医薬品添加剤協会編、薬事日報社、2016年)、Handbook of Pharmaceutical Excipients,7th edition(Pharmaceutical Press、2012年)等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本実施形態の医薬組成物は、前記バリア機能改善剤及び薬学的に許容される担体に加えて、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されず、一般的な医薬品添加物を使用することができる。また、他の成分として、上述したバリア機能改善剤以外の活性成分を使用することもできる。他の成分としての医薬品添加物及び活性成分としては、上記に挙げたもののほか、例えば、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格2013(薬事日報社、2013年)、医薬品添加物辞典2016(日本医薬品添加剤協会編、薬事日報社、2016年)、Handbook of Pharmaceutical Excipients,7th edition(Pharmaceutical Press、2012年)等に記載されている一般的な原料を使用することができる。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本実施形態の医薬組成物の剤型としては、特に制限されず、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型;及び、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0050】
本実施形態の医薬組成物の投与方法は、特に制限されず、医薬品の投与方法として一般的に用いられる方法で投与することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等として経口投与してもよく、注射剤、輸液製剤等として、単独で、又はブドウ糖液、リンゲル液等の一般的な輸液と混合して、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内等に投与してもよく、坐剤として直腸内投与してもよく、皮膚外用剤として皮膚に投与してもよい。
【0051】
本実施形態の医薬組成物の投与量は、治療的有効量とすることができる。治療的有効量は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。
例えば、本実施形態の医薬組成物の投与量は、経口投与の場合には、トコフェロールリン酸エステル等として投与単位形態あたり0.01~500mg、注射剤の場合には、トコフェロールリン酸エステル等として投与単位形態あたり0.02~250mg、坐剤の場合には、トコフェロールリン酸エステル等として投与単位形態あたり0.01~500mg等を例示することができる。また、皮膚外用剤の場合には、例えば、トコフェロールリン酸エステル等として投与単位形態あたり0.15~500mgを例示することができ、例えば0.15~300mgであってもよく、例えば0.15~200mgであってもよく、例えば0.2~100mgであってもよい。
【0052】
本実施形態の医薬組成物の投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、および性別等、ならびに医薬組成物の剤型、および投与方法等によって適宜決定すればよい。例えば、1日1回又は2~3回程度等とすることができる。
【0053】
本実施形態の医薬組成物は、バリア機能の低下に起因する症状又は疾患の治療又は予防のために用いることができる。そのような症状又は疾患としては、例えば、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎などが挙げられる。
【0054】
本実施形態の医薬組成物は、例えば、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、またはアトピー性皮膚炎の患者に投与して、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、またはアトピー性皮膚炎の進行を抑制するために用いることができる。また、本実施形態の医薬組成物は、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、またはアトピー性皮膚炎の患者に投与して、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、またはアトピー性皮膚炎を治療するために用いることができる。また、本実施形態の医薬組成物は、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ1、またはアクアポリン3の産生低下に起因する症状又は疾患を治療するために用いることができる。
【0055】
本実施形態の医薬組成物は、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、またはアトピー性皮膚炎の発症リスクの高い患者に投与して、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、またはアトピー性皮膚炎を予防するために用いることもできる。
【0056】
(化粧料)
一実施形態において、本発明は、上述したバリア機能改善剤及び薬学的に許容される担体を含有する、バリア機能改善のための化粧料を提供する。
【0057】
本実施形態の化粧料において、薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、上記に挙げたもののほか化粧料に一般的に使用される担体を使用することができる。例えば、化粧品原料基準第二版注解(日本公定書協会編、薬事日報社、1984年)、化粧品原料基準外成分規格(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料基準外成分規格追補(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品種別許可基準(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料辞典(日光ケミカルズ社、平成3年)、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook 2002 Ninth Edition Vol.1~4,by CTFA等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本実施形態の化粧料は、バリア機能改善剤及び薬学的に許容される担体に加えて、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されず、一般的な化粧品添加物を使用することができる。また、他の成分として、上述したバリア機能改善剤以外の活性成分を使用することもできる。他の成分としての化粧品添加物及び活性成分としては、上記に挙げたもののほか、例えば、化粧品原料基準第二版注解(日本公定書協会編、薬事日報社、1984年)、化粧品原料基準外成分規格(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料基準外成分規格追補(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品種別許可基準(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料辞典(日光ケミカルズ社、平成3年)、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook 2002 Ninth Edition Vol.1~4,by CTFA等に記載されている一般的な原料を使用することができる。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本実施形態の化粧料の形態としては、特に制限されず、化粧料として一般的に用いられる形態とすることができる。例えば、シャンプー、リンス、整髪剤などの毛髪用化粧料;洗顔料、クレンジング剤、化粧水、乳液、ローション、クリーム、ジェル、サンスクリーン剤、パック、マスク、美容液などの基礎化粧料;ファンデーション類、化粧下地、口紅類、リップグロス、頬紅類などのメーキャップ化粧料;ボディ洗浄料、ボディーパウダー、防臭化粧料などのボディ化粧料等が挙げられる。これらの化粧料は、定法に従って製造することができる。
【0060】
また、本実施形態の化粧料の剤型としては、特に制限されず、例えば、水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、W/O/W型、O/W/O型等の乳化型、乳化高分子型、油性、固形、液状、練状、スティック状、揮発性油型、粉状、ゼリー状、ジェル状、ペースト状、クリーム状、シート状、フィルム状、ミスト状、スプレー型、エアゾール状、多層状、泡状、フレーク状等が挙げられる。
【0061】
本実施形態の化粧料の使用量は、特に制限されないが、バリア機能を改善するために有効な量とすることができる。
例えば、本実施形態の化粧料の使用量は、トコフェロールリン酸エステル等の量として1回の使用あたり0.15~500mgを例示することができ、例えば0.15~300mgであってもよく、例えば0.15~200mgであってもよく、例えば0.2~100mgであってもよい。
【0062】
本実施形態の化粧料の使用間隔は、特に制限されないが、例えば、1日1回又は2~3回程度等とすることができる。
【0063】
本実施形態の化粧料は、バリア機能の低下に起因する症状を緩和するために用いることができる。または、バリア機能の低下に起因する症状の発症を予防するために、これらの発症リスクが高い被験者により日常的なスキンケアやメーキャップに使用されてもよい。
【0064】
(その他の実施形態)
一実施形態において、本発明は、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を対象に投与する工程を含む、バリア機能を改善する方法を提供する。
【0065】
一実施形態において、本発明は、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を対象に投与する工程を含む、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、又はトランスグルタミナーゼ1の産生を促進する方法を提供する。
【0066】
一実施形態において、本発明は、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を対象に投与する工程を含む、アクアポリン3の産生を促進する方法を提供する。
【0067】
一実施形態において、本発明は、バリア機能を改善するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を提供する。
【0068】
一実施形態において、本発明は、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、又はトランスグルタミナーゼ1の産生を促進するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を提供する。
【0069】
一実施形態において、本発明は、アクアポリン3の産生を促進するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を提供する。
【0070】
一実施形態において、本発明は、肌荒れ、乾燥肌、乾癬、又はアトピー性皮膚炎を予防又は治療するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩を提供する。
【0071】
一実施形態において、本発明は、バリア機能改善剤を製造するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の使用を提供する。
【0072】
一実施形態において、本発明は、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、又はトランスグルタミナーゼ1の産生促進剤を製造するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の使用を提供する。
【0073】
一実施形態において、本発明は、アクアポリン3の産生促進剤を製造するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の使用を提供する。
【0074】
一実施形態において、本発明は、バリア機能改善用組成物を製造するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の使用を提供する。
【0075】
一実施形態において、本発明は、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、又はトランスグルタミナーゼ1の産生促進用組成物を製造するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の使用を提供する。
【0076】
一実施形態において、本発明は、アクアポリン3の産生促進用組成物を製造するための、トコフェロールリン酸エステル及び/又はその塩の使用を提供する。
【実施例0077】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0078】
[トコフェロールリン酸エステル]
以下の試験例では、昭和電工株式会社製のα-TPNa(dl-α-トコフェリルリン酸ナトリウム、製品名:TPNa(登録商標))を使用した。試験例1および試験例2では、α-TPNaをエタノール水溶液に溶解した「α-TPNa溶液」を用いた。
【0079】
[酢酸トコフェロール]
以下の試験例では、和光純薬株式会社製の酢酸トコフェロールを使用した。試験例1および試験例2では、酢酸トコフェロールをエタノール水溶液に溶解した「酢酸トコフェロール溶液」を用いた。
【0080】
[試験例1]分化マーカーおよびアクアポリン3の発現促進効果
以下の方法により、ヒト3次元モデル皮膚における分化マーカー(フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ1)およびアクアポリン3の発現促進効果を検証した。
ヒト3次元モデル皮膚(クラボウ社製)をEPI-100培地(クラボウ社製)に移植し、30分後に、実施例1では、0.5%(V/V)エタノール水溶液にα-TPNa1%(V/V)を溶解したα-TPNa溶液を皮膚の表面に30μL添加し、6時間培養した。比較例1では、0.5%(V/V)エタノール水溶液に酢酸トコフェロール0.2%(V/V)を溶解した酢酸トコフェロール溶液を皮膚の表面に30μL添加し、6時間培養した。参考例1では、0.5%(V/V)エタノール水溶液を皮膚の表面に添加し、6時間培養した。その後、皮膚を生理食塩水で洗浄し、ALTFiX(登録商標)(株式会社ファルマ製)にて固定後、パラフィンに包埋し皮膚組織切片を作製した。
切片を脱パラフィン処理し、脱水処理した後に、皮膚組織に免疫抗体染色を実施した。1次抗体としてフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、アクアポリン3(いずれもアブカム社製)とトランスグルタミナーゼ1(Novus Biologicals社製)を用いた。各抗体は、フィラグリン(1:200)、インボルクリン(1:150)、ロリクリン(1:150)、トランスグルタミナーゼ1(1:500)、アクアポリン3(1:500)の濃度で、0.05%ツイン-20含有リン酸緩衝液を用いて希釈した。2次抗体には、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG抗体(アブカム社製)を、0.05%ツイン-20含有リン酸緩衝液で1:200に希釈し、使用した。抗体反応後、洗浄した後、ペルオキシダーゼ発色基質3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩(和光純薬株式会社製)を用いて、発色反応を行った。
各組織をニコンTS1にて観察し、写真撮影した。撮影した写真の著効例を
図1に示す。
【0081】
図1に示した結果から、α-TPNa溶液を添加した実施例1では、エタノール水溶液を添加した参考例1、および酢酸トコフェロール溶液を添加した比較例1に比べ、分化マーカーであるフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ1と、アクアポリン3のすべてにおいて発現促進効果が認められた。
【0082】
[試験例2]皮膚の経表皮水分蒸散量(TEWL)の改善効果
以下の方法により、ヒト3次元モデル皮膚における経表皮水分蒸散量(TEWL)の改善効果を検証した。
ヒト3次元モデル皮膚(クラボウ社製)をEPI-100培地(クラボウ社製)に移植し、30分後に、実施例2では、0.5%(V/V)エタノール水溶液にα-TPNa1%(V/V)を溶解したα-TPNa溶液を皮膚の表面に30μL添加し、6時間培養した。比較例2では、0.5%(V/V)エタノール水溶液に酢酸トコフェロール0.2%(V/V)を溶解した酢酸トコフェロール溶液を皮膚の表面に30μL添加し、6時間培養した。参考例2では、0.5%(V/V)エタノール水溶液を皮膚の表面に添加し、6時間培養した。その後、皮膚をリン酸緩衝液で洗浄し、さらに培養し、上記の各試料を添加後72時間の経表皮水分蒸散量(TEWL)をVAPO SCAN(日本アッシュ株式会社製)で測定した。実施例2および比較例2の測定値は、参考例2の測定値を1.00とした場合の相対値で示した。結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1に示した結果から、α-TPNa溶液を添加した実施例2では、エタノール水溶液を添加した参考例2、および酢酸トコフェロール溶液を添加した比較例2に比べ、経表皮水分蒸散量(TEWL)が低下し、バリア機能が高まっていることが確認された。