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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119131
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】車室換気装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/26 20060101AFI20220808BHJP
【FI】
B60H1/26 681A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016156
(22)【出願日】2021-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】塚本 欣司
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 伸太朗
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA12
3L211DA14
(57)【要約】
【課題】本発明は、各座席間の換気効率の差異を少なくして、ウイルス等の感染リスクを低下させることができる車室換気装置の提供を目的とした。
【解決手段】本発明の車室換気装置10は、複数の座席2を備える車両1に用いられるものであって、複数の座席2にそれぞれ対応するように設けられ、車室5内の空気の入口となる吸入口12と、複数の吸入口12に至る複数の経路Lを備える支線ダクト34と、複数の支線ダクト34と接続される幹線ダクト32と、を有し、支線ダクト34は、それぞれの吸入口12から幹線ダクト32までの経路長さが同等であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の座席を備える車両に用いられるものであって、
複数の座席にそれぞれ対応するように設けられ、車室内の空気の入口となる吸入口と、
複数の前記吸入口に至る複数の経路を備える支線ダクトと、
複数の前記支線ダクトと接続される幹線ダクトと、を有し、
前記支線ダクトは、
それぞれの前記吸入口から前記幹線ダクトまでの経路長さが同等であること、を特徴とする車室換気装置。
【請求項2】
車室内を前記座席ごとに区分けする仕切りを備え、
前記吸入口は、前記座席の上方にそれぞれ設けられており、
複数の前記座席は、前記仕切りにより区分けされていること、を特徴とする請求項1に記載の車室換気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内を換気するための換気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車室内にダクトを設け、ダクトから車外に空気を排出させて車室内の換気を行うものが提供されている。例えば、下記特許文献1には、乗客の座席上方に設けた換気ダクトで室内空気を吸入し、車外に放出することで換気できる車両の室内換気装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2-90115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各座席に対応するように車内の所定の位置(例えば天井など)に吸入口を設け、これらの吸入口から一つのダクトに空気を合流させると、ダクト内を流れる空気の圧力損失により、換気効率が低下する懸念がある。また、複数の吸入口から車室全体の空気を吸入しているため、座席乗客同士の空気感染(ウイルス感染)を減らす効果が低下するおそれがある。
【0005】
昨今では新型コロナウイルスの流行により、不特定多数の乗客が利用する乗合い車両において、感染症を予防するための換気システムを搭載することが求められている。そのため、昨今では、乗員の感染を予防するための換気システムに対するニーズが非常に高く、特に乗員付近の空気を効率的に車外に排出したいとの要望が高まっている。
【0006】
ここで、強制換気の方法として、各座席に換気ダクトを設置することが考えられる。しかしながら、単純に各座席に換気ダクトを搭載すると、ダクト内を流れる空気の圧力損失により各座席間で換気効率に差異が生じるといった問題があった。また、座席ごとに吸入口を設けて複数の吸入口から空気を吸入した場合において座席間に換気効率の差異が生じると、乗客同士の空気感染(ウイルス感染)を効果的に抑制できないといった懸念が生じる。
【0007】
そこで本発明は、各座席間の換気効率の差異を少なくして、ウイルス等の感染リスクを低下させることができる車室換気装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、本発明の発明者らが上述の課題について検討したところ、各座席から空気を吸い込む吸込口から幹線ダクトまでの配管距離(吸込口から合流点までの距離)が異なると圧力損失が発生しやすく、各座席間の換気効率に差異が生じやすいことが判明した。また、各座席の吸入口から合流点までの経路長さを同等(略同一)とすれば、支線ダクト内を流れる空気の圧力損失を低減し、各座席間の換気効率の差異を改善できるとの知見に至った。
【0009】
(1)上述の知見に基づき提供される本発明の車室換気装置は、複数の座席を備える車両に用いられるものであって、複数の座席にそれぞれ対応するように設けられ、車室内の空気の入口となる吸入口と、複数の前記吸入口に至る複数の経路を備える支線ダクトと、複数の前記支線ダクトと接続される幹線ダクトと、を有し、前記支線ダクトは、それぞれの前記吸入口から前記幹線ダクトまでの経路長さが同等であること、を特徴とする。
【0010】
本発明の車室換気装置によれば、複数の吸入口が設けられている場合にも(複数の座席にそれぞれ吸入口が設けられている場合にも)、各配管を流れる空気の圧力損失を低減することができる。これにより、各座席間の換気効率の差異を改善して、乗客同士のウイルス等への感染リスクを低減することができる。すなわち、車内の乗員を他の乗員の飛沫が含まれる空気(ウイルスが混ざった空気)に晒してしまうリスクを低下させ、乗客同士のウイルス等への感染リスクを低減することができる。これにより、乗員のウイルス感染への不安を低減することができる。なお、経路長さが「同等」とは、経路の長さが厳密に同一である場合だけでなく、支線ダクト内の流路抵抗に問題がない範囲で実質的に同一である場合も含む概念である。
【0011】
(2)本発明の車室換気装置は、車室内を前記座席ごとに区分けする仕切りを備え、前記吸入口は、前記座席の上方にそれぞれ設けられており、複数の前記座席は、前記仕切りにより区分けされているものであるとよい。
【0012】
上述の構成では、各座席間に仕切りを配置して各座席を区分けする(区画する)とともに、各座席の上方に吸入口が設けられている。これにより、乗員の飛沫が他の乗員に付着することを抑制しつつ、仕切りにより区画された空間ごとに(座席ごとに)換気が可能となる。その結果、車室内で飛沫を含む空気が拡散されることを抑制し、乗客同士のウイルス等への感染リスク低減の効果を高めることができる
【0013】
(3)本発明の車室換気装置は、前記支線ダクトは、前記吸入口を始点として、他の前記吸入口から延びる経路と合流しつつ、複数の経路が一つの合流点に至るようなトーナメント型の経路を備えているものであるとよい。「トーナメント型」の経路は、「経路長さが同等」となるように支線ダクトを配置するための一つの形態であるとともに、最適な形態である。
【0014】
上述の構成によれば、排気経路を単純かつシンプルな経路とすることができる。
【0015】
ここで、天井外板と成形天井との間(隙間)にダクトを配策する場合、支線ダクトに「曲げ部」を形成して、支線ダクトの端部の開口を室内に連通させて吸入口とすることも考えられる。具体的に説明すると、支線ダクトを車両の前後左右方向に延伸するように配置し(横向きの姿勢で配置し)、吸入口の上方で経路を下向きに変化させ、支線ダクトの端部の開口を室内に連通させて吸入口とすることができる。すなわち、支線ダクトに「曲げ部」を設けて支線ダクトの端部を吸入口とすることができる。
【0016】
しかしながら、曲げ部に通常のエルボを利用しようとすると、車内スペースにエルボの一部が侵食する、あるいは天井(成形天井)に隆起部分を設ける必要があり、車室内の景観を害するおそれがある。また、曲げ部が急な経路変化となり、支線ダクト内を流れる空気の圧力損失が発生して換気効率の低下につながりかねない。さらに、室内天井(成形天井)と天井外板との間は狭くペース(隙間の大きさ)が制限されるため、エルボを利用するのが難しい。
【0017】
(4)上述の問題に対応するため、本発明の車室換気装置は、前記支線ダクトが、車両の成形天井と天井外板との間の隙間に設けられており、前記隙間には、前記吸入口を取り囲むように堰が設けられてものであるとよい。
【0018】
上述の構成によれば、支線ダクトの端部の近傍に曲げ部(エルボ)を設けずに、支線ダクトを吸入口と接続することができる。その結果、車室換気装置は、支線ダクトに急激な経路変化(曲げ部)が形成されることを回避して圧力損失を抑制することができる。また、エルボを設けることを要さないため、エルボを設けた場合に懸念される景観悪化を回避することができる。すなわち、車室換気装置は、堰部により接続部を形成し、スペースの問題に対応しつつ急激な経路変化による圧力損失を低減させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各座席間の換気効率の差異を少なくして、ウイルス等の感染リスクを低下させることができる車室換気装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る車室換気装置が設けられた車両の側面図である。
図2図1の車両の平面図である。
図3図1の車室換気装置の仕切りの位置を示す平面図である。
図4図1の車両換気装置のダクトを示す斜視図である。
図5図1の車両換気装置の接続部を示す図である。(a)は側面図、(b)は平面図である。
図6図1の車室換気装置の空気の流れを示す図である。
図7図1の車室換気装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の車室換気装置10の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
車室換気装置10は、複数の座席2を備える車両1に用いられるものである。図2に示すとおり、本実施形態で一例として示す車両1は、五人乗りの乗用車であり、前列に二つの座席2が、後列に三つの座席2が設けられ、合計五つの座席2が設けられている。より詳細に説明すると、図2に示すとおり、車両1には、前列には運転席2a及び助手席2bが設けられ、後列には右側後部座席2c、中央後部座席2d、及び左側後部座席2eが設けられている。
【0023】
なお、本実施形態では、五つの座席2を備える車両1に用いられる車室換気装置10を例に挙げて説明するが、本発明の車室換気装置は上述の実施形態に限定されない。すなわち、本発明の車室換気装置は、四人乗り、あるいは六人以上乗車可能な車両に用いることができる。また、本発明の車室換気装置は、特定の者が利用する車両のほか、不特定多数の者が利用する乗合い車両など、幅広く適用することができる。
【0024】
なお、以下の説明では、車両1の前方を単に「前方Fr」と、後方を単に「後方Rr」と記載して説明する場合がある。また、車両1の上下方向を単に「上下方向H」と記載して説明する場合がある。さらに、上下方向Hにおいて上方を単に「上方Up」と、下方を単に「下方Lw」と記載して説明する場合がある。また、車両1の左右方向について、乗員から視認した場合の右側を単に「右側」と、乗員から視認した場合の左側を単に「左側」と記載して説明する場合がある。
【0025】
図1に示すとおり、車両1には、車室5内の空調を行う空調装置3が設けられている。空調装置3には、図示を省略したファンが設けられている。
【0026】
車両1の天井部4は、天井外板4aと成形天井4bとを備えている(図4及び図5参照)。図4に示すとおり、天井外板4aは上方Up側の面を構成しており、成形天井4bは下方Lw側(車室5側)の面を構成している。また、天井外板4aと成形天井4bとの間には、隙間Sが形成されている。隙間Sには、ダクト30が配置されている。
【0027】
図1に示すとおり、車室換気装置10は、吸入口12、排気部14、ファン20、及びダクト30を備えている。また、車室換気装置10は、仕切り50を備えている。
【0028】
吸入口12は、車室内(各座席2の空気)の空気の入口となる貫通孔である。吸入口12は、成形天井4bに設けられており、成形天井4bの貫通孔として設けられている(図5参照)。すなわち、複数の吸入口12は、座席2の上方Upにそれぞれ設けられている。吸入口12は、座席2ごとにそれぞれ一つ設けられている(座席2に対応して設けられている)。
【0029】
なお、以下の説明では、運転席2aに対して設けられた吸入口12を単に「吸入口12a」と、助手席2bに対して設けられた吸入口12を単に「吸入口12b」と、右側後部座席2cに対して設けられた吸入口12を単に「吸入口12c」と、中央後部座席2dに対して設けられた吸入口12を単に「吸入口12d」と、左側後部座席2eに対して設けられた吸入口12を単に「吸入口12e」と、それぞれ記載して説明する場合がある。
【0030】
排気部14は、吸入口12から取り込まれた空気の排出口(ベントダクト)として設けられている。図1に示すとおり、本実施形態では、排気部14は、車両1の後方Rrに設けられている。
【0031】
ファン20は、ダクト30内に案内された空気を、排気部14に搬送するために設けられている。ファン20は、空調装置3に設けられたものとは別に設けられている。言い方を換えれば、車両1には、空調装置3のファンとは別に、強制換気用のものとしてファン20が設けられている。本実施形態のファン20は、5.6立方メートル/分のファン流量のものが用いられている。なお、ファン20の流量は、本実施形態に限定されず、車室5内の容積に応じて適宜設定されることが望ましい。図1及び図2に示すとおり、ファン20は車室5内の後方Rrに配置されている。
【0032】
ダクト30は、空気の通路(排気路)を形成するものである。図2に示すとおり、本実施形態の車室換気装置10では、ダクト30として、幹線ダクト32、及び支線ダクト34を備えている。また、本実施形態の車室換気装置10では、ダクト30として、中空の部材(管状部材)が用いられている。
【0033】
図4に示すとおり、幹線ダクト32は、ファン20及び前記支線ダクトと接続されている。より詳細に説明すると、図4に示すとおり、幹線ダクト32は、一端が支線ダクト34に接続されており、他端がファン20に接続されており、一本の通路(一つの経路)をなしている。
【0034】
また図4に示すとおり、幹線ダクト32は、天井部4において、支線ダクト34と接続された部分(合流点P)から車両1の側方(右側)に向けて延び、車両1の側方近傍で後方Rrに向けて屈曲している。また、幹線ダクト32は、車両1の後方Rr近傍で下方Lwに向けて屈曲してファン20に至るような経路をなしている。すなわち、幹線ダクト32は、一部が天井部4に横向きの姿勢で配置され、一部が車両1の後方Rrに縦向きの姿勢で配置されている。
【0035】
なお、以下の説明では、幹線ダクト32と支線ダクト34との接続部分を、単に「合流点P」と記載して説明する場合がある。
【0036】
支線ダクト34は、複数の吸入口12と接続されている。図4及び図5に示すとおり、支線ダクト34は、天井部4(天井外板4aと成形天井4bとの間に形成された隙間S)に横向きの姿勢で配置されている。また、支線ダクト34は、複数に枝分かれするような(分岐するような)配管とされている。すなわち、支線ダクト34は、幹線ダクト32(合流点P)から分岐するような複数の経路Lを備えている。
【0037】
より詳細に説明すると、図4に示すとおり、支線ダクト34は、幹線ダクト32との接続部分(合流点P)から前方Fr側の経路Lと後方Rr側の経路Lとの二つの経路に分岐している。また、支線ダクト34の前方Fr側の経路Lは、さらに右側の経路Lと左側の経路Lに分岐しており、右側の経路Lは吸入口12aに至り、左側の経路Lは吸入口12bに至っている。
【0038】
また、支線ダクト34の後方Rr側の経路Lは、さらに右側の経路L、中間の経路L、及び左側の経路Lの三つの経路に分岐しており、右側の経路Lは吸入口12cに至り、中間の経路Lは吸入口12dに至り、左側の経路Lは吸入口12eに至っている。
【0039】
このように、支線ダクト34は、合流点Pから複数に分岐して、分岐した先の端部34aがそれぞれ吸入口12に到達している。逆の観点から説明すると、支線ダクト34は、複数の吸入口12を始点として、他の吸入口12から延びる経路Lと合流しつつ、複数の経路Lが最終的に一つの合流点Pに至るような「トーナメント型」の経路Lを備えている。本実施形態の車室換気装置10は、前列側と後列側とで、それぞれトーナメント型を成す経路Lを備えている。なお、「トーナメント型」の経路Lは、「経路長さが同等」となるように支線ダクト34を配置するための一つの形態であるとともに、最適な形態である。
【0040】
これにより、車室換気装置10は、排気経路を効率的かつシンプルな経路とすることができる。
【0041】
なお、以下の説明では、吸入口12aから合流点Pに至る経路Lを「第一経路La」と、吸入口12bから合流点Pに至る経路Lを「第二経路Lb」と、吸入口12cから合流点Pに至る経路Lを「第三経路Lc」と、吸入口12dから合流点Pに至る経路Lを「第四経路Ld」と、吸入口12eから合流点Pに至る経路Lを「第五経路Le」と、それぞれ記載して説明する場合がある。
【0042】
ここで、車室換気装置10の支線ダクト34は、吸入口12から幹線ダクト32までの各経路Lの長さが略同一とされている。具体的には、支線ダクト34は、始点となる各吸入口12から、終点となる合流点Pまでの経路距離が略同じとされている(各経路Lが等長とされている)。より詳細に説明すると、支線ダクト34は、第一経路La、第二経路Lb、第三経路Lc、第四経路Ld、及び第五経路Leのそれぞれの距離(配管距離)が同等(略同一)とされている。なお、経路Lの長さ(経路距離)が「同等」、「略同じ」とは、経路Lの長さが厳密に同一である場合だけでなく、支線ダクト34内の流路抵抗に問題がない範囲で実質的に同一である場合も含む概念である。
【0043】
これにより、車室換気装置10は、支線ダクト34内を流れる空気の圧力損失を低減させることができる。すなわち、各座席2までの配管距離が異なると圧力損失が大きくなるのに対して、車室換気装置10では各座席2までの配管距離(経路の長さ)が略同一とされており、これにより支線ダクト34内を流れる空気の圧力損失を低減させることができる。その結果、各座席2間の換気効率の差異を改善し、ウイルス等への感染リスクを低下させることができる。
【0044】
また、図4に示すとおり、支線ダクト34は、第四経路Ldでは三つの屈曲部(曲がり角)が形成されており、他の四つの経路L(第一経路La、第二経路Lb、第三経路Lc、及び第五経路Le)では三つの屈曲部(曲がり角)が形成されている。言い方を換えれば、本実施形態の支線ダクト34は、複数の経路の屈曲部の数が最小限となるように構成されている。これにより、さらに圧力損失の低減に貢献することができる。
【0045】
図4に示すとおり、支線ダクト34は、天井外板4aと成形天井4bとの間(隙間S)に横向きの姿勢で配置されている。すなわち、支線ダクト34は、車室5内以外の場所(車室の上の隙間S)に配置されている。これにより、車室5内の景観悪化を抑制することができ、また室内天井(成形天井4b)の位置が下がり車室5内を圧迫することを抑制することができる。
【0046】
図5(a)に示すとおり、吸入口12が設けられた隙間S(成形天井4bと天井外板4aとの間)の近傍には、堰部40(堰)が設けられている。堰部40は、吸入口12と支線ダクト34の端部34aとを接続する接続部42を形成するために設けられている。本実施形態では、堰部40は、通気性が少ない(通気性がほとんどない)柔軟な緩衝材が用いられている。堰部40は、エプトシーラ等の独泡タイプの緩衝材を用いることができる。
【0047】
図5(b)に示すとおり、堰部40は、緩衝材を略U字としたものであり、吸入口12及び支線ダクト34の端部34a(端部34aの開口)を取り囲むように、かつ隙間Sを埋めるように設けられている。これにより、本実施形態の車室換気装置10では、支線ダクト34を横向きの姿勢で配置させつつ(開口が横に向くように配置させつつ)、上下方向Hに貫通する吸入口12と接続されている。このように、車室換気装置10では、支線ダクト34の端部34aと吸入口12とが接続される接続部42が形成されている。
【0048】
ここで、天井外板と成形天井との間(隙間)にダクトを配策する場合、支線ダクトに「曲げ部」を形成して、支線ダクトの端部の開口を室内に連通させて吸入口とすることも考えられる。具体的に説明すると、支線ダクトを横向きの姿勢で配置し、吸入口の上方で経路を下向きに変化させ、支線ダクトの端部の開口を室内に連通させて吸入口とすることができる。すなわち、支線ダクトに「曲げ部」を設けて支線ダクトの端部を吸入口とすることができる。
【0049】
しかしながら、曲げ部に通常のエルボを利用しようとすると、車内スペースにエルボの一部が侵食する、あるいは天井(成形天井)に隆起部分を設ける必要があり、車室内の景観を害するおそれがある。また、曲げ部が急な経路変化となり、支線ダクト34内を流れる空気の圧力損失が発生して換気効率の低下につながりかねない。さらに、室内天井(成形天井4b)と天井外板4aとの間は狭くペース(隙間Sの大きさ)が制限されるため、エルボを利用するのが難しい。
【0050】
このような、曲げ部を設けることに起因する車室内の景観悪化や圧力損失を回避するため、本実施形態の車室換気装置10では、堰部40が設けられている。具体的に説明すると、車室換気装置10では、支線ダクト34が横向きに配置されており、吸入口12の上方Up近傍には曲げ部が設けられていない。また、横向きに開口する支線ダクト34の開口(端部34aの開口)と、上下方向Hに開口する吸入口12とを連通させつつ、これらの開口の周囲の隙間Sを埋めるように堰(堰部40)が設けられている。
【0051】
これにより、支線ダクト34の端部34aの近傍に曲げ部を設けずに、支線ダクト34を吸入口12と接続することができる。その結果、車室換気装置10は、支線ダクトに急激な経路変化(曲げ部)が形成されることを回避して圧力損失を抑制することができる。また、エルボを設けることを要さないため、エルボを設けた場合に懸念される景観悪化を回避することができる。すなわち、車室換気装置10は、通気性のない柔軟な緩衝材(エプトシーラ等)で堰部40により接続部42を形成し、スペースの問題に対応しつつ急激な経路変化による圧力損失を低減させることができる。
【0052】
仕切り50は、車室5内を座席2ごとに区分けするために設けられている。図3に示すとおり、本実施形態の車室換気装置10では、仕切り50として、前列の座席2と後列の座席2とを区画する仕切り板52と、左右に隣接する二つの座席2を区画するカーテン54とが設けられている。
【0053】
図3に示すとおり、各座席2は、仕切り板52及びカーテン54により区分けされている。また、区分けされた各エリア(仕切り板52及びカーテン54により区分けされたエリア)の乗員の頭上付近となる位置(成形天井4bの座席2の上方Up)には、それぞれ吸入口12が設けられている(図1参照)。すなわち、車室5内は、座席2ごとに一つのエリア(換気エリアR)として区分けされており、これらのエリアにそれぞれ吸入口12が設けられている。これにより、車室5内には、座席2ごとに一つの吸入口12により空気が吸引されるエリア(換気エリアR)が形成されている。
【0054】
なお、カーテン54は、通気性が低い(通気性がほとんどない)材質を用いることが望ましい。また、仕切り板52は、ポリカーボネートなど透光性を備える板状の樹脂材が用いられることが望ましい。さらに、カーテン54や仕切り板52は、天井部4から吊すなどして車室5内に配置させるとよい。
【0055】
なお、本実施形態の車室換気装置10では、仕切り50としてカーテン54及び仕切り板52の双方を設けた例を示したが、本発明の車室換気装置の仕切りは、全てカーテン又は仕切り板としてもよい。また、本発明の車室換気装置は、天井から仕切りを吊り下げるほか、座席などに仕切りを取り付けてもよい。
【0056】
<車室換気装置の動作について>
次に、車室換気装置10の動作について図6を参照しつつ説明する。
【0057】
車両1は、駆動装置(図示を省略)がオンとされると(エンジンがオンとされると)、空調装置3(エアコン)が作動する(エアコンがオンとなる)。なお、空調装置3がオンとなると、外部空気吸入(図6中の矢印A1参照)が行われる。外部空気は、一部が車室5内に供給される(図6中のA2参照)。
【0058】
車室換気装置10は、空調装置3(エアコン)がオンとなると、図示を省略した排気制御装置が、強制換気用のファン20をオンとする(空調装置3のオンと連動して強制換気用のファン20がオンとなる)。また、ファン20が作動して、吸入口12から空気が吸入される(図6中の矢印A3参照)。また、吸入口12から吸入された各換気エリアRの空気は、支線ダクト34、幹線ダクト32を通って排気部14から車外に排出される(図6中の矢印A4参照)。このように、車室換気装置10は、特に乗員付近の空気を効率的に車外に排出(強制換気)することができる。
【0059】
ここで、上述のとおり、車室換気装置10では、各支線ダクト34は吸入口12から幹線ダクト32(合流点P)までの経路長さが略同一とされている。そのため、各座席2に対応するよう複数の吸入口12を設けつつ(複数の座席2に対応する数の吸入口12を設けつつ)、支線ダクト34内を流れる空気の圧力損失を低減することができる。これにより、各座席2間の換気効率の差異を改善して、乗員同士のウイルス等への感染リスクを低減することができる。すなわち、車内の乗員を他の乗員の飛沫が含まれる空気(ウイルスが混ざった空気)に晒してしまうリスクを低下させ、乗員同士のウイルス等への感染リスクを低減することができる。これにより、乗員の心理的な不安を低減させることができる。
【0060】
また、吸入口12は、天井部4(成形天井4b)に設けられている。これにより、乗員の顔の近くで空気を吸引することができる。そのため、空気中を浮遊するウイルス等をより効率的に排除することができる。
【0061】
また、車室換気装置10では、各座席2間に通気性の低い仕切り50(カーテン、ポリカ板など)を配置して各座席2を仕切る(区画する)とともに、各座席2の上方Upに各座席2用の吸入口12を設けている。これにより、乗員の飛沫が他の乗員に付着することを抑制しつつ、仕切り50により区画された空間ごとに(座席2ごとに)換気が可能となる。その結果、車室5内で飛沫を含む空気が拡散されることを抑制し、乗員同士のウイルス等への感染リスク低減の効果を高めることができる。
【0062】
<変形例について>
続いて、車室換気装置の変形例について説明する。上述の実施形態に係る車室換気装置10では、ダクト30として管状部材を用いた例を示したが、本発明の車室換気装置は、本実施形態に限定されず、成形天井4bによりダクトを形成してもよい。
【0063】
例えば、図7(a)に示すダクト130のように、成形天井104bに溝部104cを形成し、溝部104cを蓋部材104dにより閉塞して、ダクト30を形成してもよい。これにより、別部材としてのダクト(管状部材)を不要とできることに加え、室内天井(成形天井104b)の位置が下がり車室内を圧迫することを抑制することができる。
【0064】
また、本発明の車室換気装置は、図7(b)に示すとおり、ルーフレール140をダクトとして用いてもよい。具体的には、中空のルーフレール140の内部空間をダクトとして利用し、ルーフレール140内を空気が流れるようにしてもよい。なお、この場合、天井部4に貫通孔112を形成し、貫通孔112をパッキン等でシールして漏れ対策が行われることが望ましい。ルーフレール140をダクトとして利用することとすれば、ダクトを車室外に設けることができ、現行搭載品(ルーフレール)の流用によって部品追加による違和感を抑制し、かつ車室内にダクトを設けた場合に懸念される景観悪化の抑制にも貢献することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態に係る車室換気装置10について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
【0066】
例えば、上述した車室換気装置10では、ダクト30として管状部材を用いた例を示したが、本発明の車室換気装置は上述の実施形態に限定されず、変形例で示したように成形天井などに溝部を設け、溝部をダクトとして形成したものであってもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、一つの座席2に対して一つの吸入口12を設けた例を示したが、本発明の車室換気装置は上述の実施形態に限定されず、一つの座席に対して複数の吸入口を設けてもよい。
【0068】
本発明は、上述した実施形態として示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示および精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、車内の換気を行うためのものとして、好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
2 座席
5 車室
10 車室換気装置
12 吸入口
12a 吸入口
12b 吸入口
12c 吸入口
12d 吸入口
12e 吸入口
32 幹線ダクト
34 支線ダクト
50 仕切り
52 仕切り板(仕切り)
54 カーテン(仕切り)
L 経路
La 第一経路(経路)
Lb 第二経路(経路)
Lc 第三経路(経路)
Ld 第四経路(経路)
Le 第五経路(経路)
P 合流点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7