(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119163
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】蛍光体、セラミックス板および発光モジュール
(51)【国際特許分類】
C09K 11/80 20060101AFI20220808BHJP
C09K 11/81 20060101ALI20220808BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20220808BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20220808BHJP
【FI】
C09K11/80
C09K11/81
G02B5/20
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118917
(22)【出願日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021016057
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA07
2H148AA19
4H001CA02
4H001XA08
4H001XA12
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA15
4H001XA20
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA58
5F142AA23
5F142BA32
5F142DA02
5F142DA12
5F142DA45
5F142DA54
5F142DA55
5F142DA73
(57)【要約】
【課題】新規な蛍光体を提供する。
【解決手段】蛍光体は、一般式がM
aY
3-a-bAl
5-a+cSi
a-2cP
cO
12:Ce
b(ただし、MはBa,Sr,Ca,Mgからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、bは、b=0.1135a+0.0754で表される直線、b=0.0816a+0.02で表される直線、a=0.01で表される直線、b=0.12で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値である。cは、0≦c<a/2の値である。)で表される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がMaY3-a-bAl5-a+cSia-2cPcO12:Ceb(ただし、MはBa,Sr,Ca,Mgからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、bは、b=0.1135a+0.0754で表される直線、b=0.0816a+0.02で表される直線、a=0.01で表される直線、b=0.12で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値である。cは、0≦c<a/2の値である。)で表されることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
結晶構造がガーネット型であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光で励起され、ドミナント波長が567~572nmの範囲にある黄色光を発することを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
体積平均粒径が1~30μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項5】
a,cは、a/c-2<8.0、0.01≦c≦0.16の式を満たす、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項6】
ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光を発するLEDと、
前記LEDが発する青色光で励起され、黄色光を発する光波長変換層と、を備え、
前記光波長変換層は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の蛍光体を含み、
前記青色光と前記黄色光とを混色した発光色が、色度座標(cx、cy)=(0.311、0.339)、(0.313、0.342)、(0.331、0.354)、(0.331、0.338)、(0.319、0.315)、(0.311、0.309)で囲まれる範囲の色度であることを特徴とする発光モジュール。
【請求項7】
前記光波長変換層は、可視光に対して透明な樹脂に前記蛍光体が0.1~30vol%含有されており、厚みが0.01~5mmであることを特徴とする請求項6に記載の発光モジュール。
【請求項8】
前記光波長変換層は、厚さが0.01~2.0mmのセラミックス板であることを特徴とする請求項6に記載の発光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、YAG蛍光体と青色LEDとを組み合わせた白色光源が広く知られている。一方、光源の高輝度化に伴い、YAG蛍光体での波長変換(ストークスロス)による熱集中によって温度消光が起こり、白色光源の効率低下を招いていた。そこで、YAG蛍光体にBaとSiを固溶させたBaY1.92Al4SiO12:Ce0.08が考案されている(非特許文献1参照)。この蛍光体は、従来のYAG蛍光体(Y3Al5O12:Ce)より温度特性が良好で、25℃から200℃まで昇温させた場合の発光強度維持率は91.5%であり、温度消光を起こし難い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Haipeng Ji et al.、「New Y2BaAl4SiO12:Ce3+ yellow microcrystal-glass powder phosphor with high thermal emission stability」、Journal of Materials Chemistry C, 2016, 4, pp.9872-9878
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のBaY1.92Al4SiO12:Ce0.08で表される黄色蛍光体で実現できる色度範囲には制限がある。そのため、この黄色蛍光体と青色LEDとを組み合わせた白色光源として実現できる色度範囲にも制限がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところの一つは、新規な蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の蛍光体は、一般式がMaY3-a-bAl5-a+cSia-2cPcO12:Ceb(ただし、MはBa,Sr,Ca,Mgからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、bは、b=0.1135a+0.0754で表される直線、b=0.0816a+0.02で表される直線、a=0.01で表される直線、b=0.12で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値である。cは、0≦c<a/2の値である。)で表される。
【0007】
この態様によると、発光特性や温度特性が良好である新規な蛍光体を実現できる。
【0008】
結晶構造がガーネット型であってもよい。
【0009】
ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光で励起され、ドミナント波長が567~572nmの範囲にある黄色光を発してもよい。これにより、新規な黄色蛍光体を実現できる。
【0010】
体積平均粒径が1~30μmであってもよい。
【0011】
a,cは、a/c-2<8.0、0.01≦c≦0.16の式を満たしてよい。これにより、蛍光体を昇温した場合におけるドミナント波長のシフト量を低減できる。
【0012】
本発明の更に他の態様は発光モジュールである。この発光モジュールは、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光を発するLEDと、LEDが発する青色光で励起され、黄色光を発する光波長変換層と、を備えている。光波長変換層は、上述の蛍光体を含んでいる。この発光モジュールは、青色光と黄色光とを混色した発光色が、色度座標(cx、cy)=(0.311、0.339)、(0.313、0.342)、(0.331、0.354)、(0.331、0.338)、(0.319、0.315)、(0.311、0.309)で囲まれる範囲の色度である。
【0013】
光波長変換層は、可視光に対して透明な樹脂に蛍光体が0.1~30vol%含有されており、厚みが0.01~5mmであってもよい。これにより、所望の発光効率を達成しつつ、発光色が上記範囲の色度である発光モジュールを実現できる。
【0014】
光波長変換層は、厚さが0.01~2.0mmのセラミックス板であってもよい。これにより、所望の発光効率を達成しつつ、発光色が上記範囲の色度である発光モジュールを実現できる。
【0015】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を製造方法、灯具や照明などの装置、発光モジュール、光源などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規な蛍光体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来の黄色蛍光体と青色LEDの発光色の色度を示す色度図(CIE1931)である。
【
図2】本実施の形態に係る黄色蛍光体が目標とするドミナント波長の範囲を説明するための図である。
【
図3】本実施の形態に係る黄色蛍光体におけるBa及びCeの仕込量とドミナント波長との関係を示す図である。
【
図4】Ceの仕込量(b)と内部量子効率(IQE)との関係を示す図である。
【
図5】Ceの仕込量(b)と吸収率(Abs)との関係を示す図である。
【
図6】Baの仕込量(a)とCeの仕込量(b)との好ましい範囲を示す図である。
【
図7】本実施の形態に係る発光モジュールの模式図である。
【
図8】実施例19乃至21に係る発光モジュールの発光色の色度と、黄色蛍光体を含む光波長変換層の厚みとの関係を説明するための図である。
【
図9】蛍光体および青色LEDの発光色の色度を示す色度図(CIE1931)である。
【
図10】実施例22乃至26に係る蛍光体におけるP量とドミナント波長のシフト量との関係を示す図である。
【
図11】各Ba量についてSi/Pとドミナント波長のシフト量との関係を示す図である。
【
図12】実施例46乃至48に係る発光モジュールの発光色を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
(第1実施形態)
[蛍光体]
本実施の形態に係る蛍光体は、青色光で効率良く励起され発光する蛍光体である。具体的には、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光で強い励起を示し、ドミナント波長が567~572nmの範囲にある黄色光を発する蛍光体である。また、本実施の形態に係る蛍光体は、結晶構造がガーネット型であり、Ce3+イオン等の賦活剤をドープすることで黄色発光を実現している。
【0020】
次に、本実施の形態に係る蛍光体について詳述する。本実施の形態に係る蛍光体は、一般式がBaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Ceb(ただし、a、bは、b=0.1135a+0.0754で表される直線、b=0.0816a+0.02で表される直線、a=0.01で表される直線、b=0.12で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値)で表される。
【0021】
図1は、従来の黄色蛍光体と青色LEDの発光色の色度を示す色度図(CIE1931)である。
図1に示すポイントC1は、YAG蛍光体にBaとSiを固溶させた公知の蛍光体(BaY
1.92Al
4SiO
12:Ce
0.08)の色度座標であり、この公知の蛍光体のドミナント波長は566.3nmである。一方、ポイントC2は、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色LEDの一例の色度座標である。
【0022】
また、範囲R1は、特定の用途(車両用ヘッドライト)の白色光として規定される色度範囲である。具体的には、範囲R1は、色度座標(cx、cy)=(0.311、0.339)、(0.313、0.342)、(0.331、0.354)、(0.331、0.338)、(0.319、0.315)、(0.311、0.309)で囲まれる範囲である。
【0023】
公知蛍光体による黄色光とLEDの青色光とを組み合わせた混色光は、ポイントC1とポイントC2とを結んだ直線上の色度を持つ。そのため、
図1に示すように、黄色光のドミナント波長が長波長側になると、青色LEDを変更しない限り範囲R1に含まれる白色光を実現できない。そこで、本願発明の黄色光蛍光体のように、従来の黄色蛍光体よりもドミナント波長が長波長側にシフトした蛍光体が求められる。
【0024】
図2は、本実施の形態に係る黄色蛍光体が目標とするドミナント波長の範囲を説明するための図である。本実施の形態に係る黄色蛍光体は、青色LEDと組み合わせて車両用ヘッドライトの白色光として規定される色度範囲を実現するために、青色LEDの色度(cx2,cy2)と黄色蛍光体の色度(cx1,cy1)とを結んだ直線が、範囲R1を通ることが必要である。
【0025】
本願発明者らの検討によれば、ポイントC2における青色LEDの色度(cx2,cy2)とポイントC1’における黄色蛍光体の色度(cx1’,cy1’)とを結んだ直線が、色度範囲R1の上部で接する場合のドミナント波長は567.4nmである。同様に、ポイントC2における青色LEDの色度(cx2,cy2)とポイントC1”における黄色蛍光体の色度(cx1”,cy1”)とを結んだ直線が、色度範囲R1の下部で接する場合のドミナント波長は570.6nmである。
【0026】
そこで、本実施の形態に係る黄色蛍光体は、ドミナント波長が567~572nmの範囲であるとよく、好ましくは、ドミナント波長が567.4~570.6nmの範囲であるとよい。
【0027】
以下、比較例、実施例を用いて更に具体的に説明するが、下記の蛍光体の原料、製造方法、蛍光体の化学組成等の記載は本発明の蛍光体の実施の形態を何ら制限するものではない。
【0028】
(比較例1)
比較例1に係る蛍光体は、Ba1.00Y1.92Al4.00Si1.00:Ce3+
0.08で表される蛍光体である。比較例1に係る蛍光体は以下の方法で製造される。はじめに、BaCO3(99.9%:関東化学株式会社製%)、Y2O3(99.9%:株式会社高純度化学研究所製)、CeO2(99.99%:株式会社高純度化学研究所製)、α-Al2O3(99.99%:株式会社高純度化学研究所製)、SiO2(99.9%:株式会社トクヤマ製)の粉末原料を準備する。そして、それぞれの粉末原料を、Ba=1.00、Y=1.92、Al=4.00、Si=1.00、Ce=0.08のmol比となるように計量する。
【0029】
フラックスとしてBaF2(99%:株式会社高純度化学研究所製)を、粉末原料の合計重量の5wt%計量し、粉末原料と合わせ、それらを乳鉢で均一混合する。その後、アルミナルツボ(SSA-S B1:株式会社ニッカトー製)に入れ、還元雰囲気中(H2:N2=5/95(vol比))、1550℃で4h加熱し焼結する。常温まで冷却後、乳鉢で粉砕し、分光光度計(FP-8500:日本分光株式会社製)にて、波長が460nmの光で励起された蛍光体の発光特性を測定した。
【0030】
その結果、比較例1に係る蛍光体のドミナント波長λdは566.3nm、25℃から200℃に昇温した際の発光強度維持率(K)を評価したところ91.5%であった。つまり、25℃における発光強度に対して、200℃に昇温した際の発光強度が91.5%に低下した。また、内部量子効率(IQE)は95%、LEDが発する青色光を黄色発光する蛍光体が吸収する吸収率(Abs)が80%であり、公知の蛍光体と同等の結果が得られた。
【0031】
各実施例および各比較例に係る蛍光体の発光特性や温度特性等の結果を表1にまとめて示す。なお、表1では、Baの仕込量の最も少ない比較例2から順に記載されている。また、表1において、ドミナント波長λdが567.4nm≦λd≦570.6nmを満たす場合を○、満たさない場合を×としている。また、発光強度維持率(K)が90%以上の場合を○、90%未満の場合を×としている。また、内部量子効率(IQE)が90%以上の場合を○、90%未満の場合を×としている。また、吸収率(Abs)が80%以上場合を○、80%未満の場合を×としている。
【0032】
【0033】
(実施例1)
実施例1に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.89Al4.95Si0.05:Ce3+
0.06で表される蛍光体である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、Ba=0.05、Y=2.89、Al=4.95、Si=0.05、Ce=0.06のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0034】
その結果、実施例1に係る蛍光体のドミナント波長は569.0nmであり、目標の波長の範囲に含まれている。また、内部量子効率は97%、吸収率が84%、発光強度維持率が93.0%であり、全ての項目で目標の値を超えており、比較例1に係る蛍光体よりも性能が向上していることがわかる。結果を表1に示す。
【0035】
なお、蛍光体の原料の混合を、クエン酸ゾルゲル法、ヘキサミン法、尿素法等液相混合で行った原料を用いて合成した蛍光体においても同等の発光特性が得られた。なお、本実施の形態に係る蛍光体の製造方法には様々な手法を採用し得るが、例えば、固相法を用いた場合は、高純度の粉末原料を使用することで不純物が入りにくく、原料の混合も短時間で済む(10分程度)。また、液相法を用いた場合は、原子レベルの混合が可能なため、1/100molレベルの組成違いの蛍光体を作り分けることができる。
【0036】
(実施例2)
実施例2に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.91Al4.95Si0.05:Ce3+
0.04で表される蛍光体である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、Ba=0.05、Y=2.91、Al=4.95、Si=0.05、Ce=0.04のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0037】
その結果、実施例2に係る蛍光体のドミナント波長は567.8nmであり、目標の波長の範囲に含まれている。また、内部量子効率は98%、吸収率が82%、発光強度維持率が95.0%であり、全ての項目で目標の値を超えており、比較例1に係る蛍光体よりも性能が向上していることがわかる。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
実施例3に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.87Al4.95Si0.05:Ce3+
0.08で表される蛍光体である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、Ba=0.05、Y=2.87、Al=4.95、Si=0.05、Ce=0.08のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0039】
その結果、実施例3に係る蛍光体のドミナント波長は570.5nmであり、目標の波長の範囲に含まれている。また、内部量子効率は97%、吸収率が85%、発光強度維持率が91.0%であり、全ての項目で目標の値を超えており、比較例1に係る蛍光体よりも性能が向上していることがわかる。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例4~6)
実施例4~6に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.10、b=0.04(実施例4)、0.06(実施例5)、0.09(実施例6)である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0041】
その結果、実施例4~6に係る蛍光体は、ドミナント波長、内部量子効率、吸収率、発光強度維持率の全ての項目において、目標の範囲の特性が得られた。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例7~9)
実施例7~9に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.03、b=0.03(実施例7)、0.04(実施例8)、0.06(実施例9)である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0043】
その結果、実施例7~9に係る蛍光体は、ドミナント波長、内部量子効率、吸収率、発光強度維持率の全ての項目において、目標の範囲の特性が得られた。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例10~12)
実施例10~12に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.08、b=0.03(実施例10)、0.06(実施例11)、0.08(実施例12)である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0045】
その結果、実施例10~12に係る蛍光体は、ドミナント波長、内部量子効率、吸収率、発光強度維持率の全ての項目において、目標の範囲の特性が得られた。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例13~15)
実施例13~15に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.20、b=0.04(実施例13)、0.08(実施例14)、0.10(実施例15)である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0047】
その結果、実施例13~15に係る蛍光体は、ドミナント波長、内部量子効率、吸収率、発光強度維持率(K)の全ての項目において、目標の範囲の特性が得られた。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例16~18)
実施例16~18に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.40、b=0.06(実施例16)、0.10(実施例17)、0.12(実施例18)である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0049】
その結果、実施例16~18に係る蛍光体は、ドミナント波長、内部量子効率、吸収率、発光強度維持率の全ての項目において、目標の範囲の特性が得られた。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例2)
比較例2に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.01、b=0.02である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0051】
その結果、比較例2に係る蛍光体は、内部量子効率が98%であり目標の範囲の特性を得られたが、ドミナント波長、吸収率、発光強度維持率の項目において、目標の範囲の特性が得られなかった。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
比較例3に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.01、b=0.04である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0053】
その結果、比較例3に係る蛍光体は、ドミナント波長が568.0nm、内部量子効率(IQE)が98%、吸収率が82%であり、これらの項目は目標の範囲の特性を得られたが、発光強度維持率が87%であり、目標の範囲の特性が得られなかった。結果を表1に示す。
【0054】
(比較例4)
比較例4に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.60、b=0.18である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0055】
その結果、比較例4に係る蛍光体は、吸収率が86%であり目標の範囲の特性を得られたが、ドミナント波長、内部量子効率、発光強度維持率の項目において、目標の範囲の特性が得られなかった。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例5)
比較例5に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-aSiaO12:Cebで表される蛍光体において、a=0.70、b=0.13である。なお、比較例1と同様のそれぞれの原料粉末を、所望のmol比となるように計量した以外は、比較例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性や温度特性を評価した。
【0057】
その結果、比較例5に係る蛍光体は、ドミナント波長が570.0nm、吸収率が86%であり、これらの項目は目標の範囲の特性を得られたが、内部量子効率が87%、発光強度維持率が89%であり、これらの項目は目標の範囲の特性が得られなかった。結果を表1に示す。
【0058】
図3は、本実施の形態に係る黄色蛍光体におけるBa及びCeの仕込量とドミナント波長との関係を示す図である。表1に示すように、実施例3,6,15,18に係る蛍光体は、全てドミナント波長λdが目標とする範囲の上限である570.6nmであり、これら各実施例のBaとCeの仕込量(a,b)を示す座標に基づいて近似直線を算出すると、以下の式L1となる。
式L1:b=0.1135a+0.0754
【0059】
同様に、実施例4,7,10,13,16に係る蛍光体は、全てドミナント波長λdが目標とする範囲の下限である567.4nmであり、これら各実施例のBaとCeの仕込量(a,b)を示す座標に基づいて近似直線を算出すると、以下の式L1’となる。
式L1’:b=0.0816a+0.02
【0060】
そして、2つの直線L1,L1’に挟まれた範囲にあるBaとCeの仕込量(a,b)であれば、ドミナント波長λdが567.4nm≦λd≦570.6nmの範囲となる。一方、BaとCeの仕込量(a,b)が、2つの直線L1,L1’に挟まれた範囲にない比較例1,2,4に係る蛍光体は、ドミナント波長λdが567.4nm≦λd≦570.6nmの範囲に含まれていない。
【0061】
また、式L1の直線と式L1’の直線に囲まれた範囲は、Baの仕込量の増加に伴いCeの仕込量も増加する傾向にある。その理由は、本実施の形態に係る蛍光体では、Baの増加に伴い、530nm付近の短波側の発光強度が大きくなる傾向があり、その影響でドミナント波長が短波長側にシフトする傾向にある。この傾向を緩和するために、Ceの仕込量を増やし、多重励起させることで長波長側の発光を増やしている。その結果、Baの仕込量の増加に伴いCeの仕込量も増加する。
【0062】
次に、Ceの仕込量(b)について検討する。
図4は、Ceの仕込量(b)と内部量子効率(IQE)との関係を示す図である。
【0063】
図4に示すように、Ceの仕込量(b)が0.12molである実施例18に係る蛍光体は、内部量子効率が90%であり、目標の範囲の特性が得られている。一方、Ceの仕込量(b)が0.13m0lである比較例5や0.18molである比較例4に係る蛍光体は、内部量子効率が90%未満であり、目標の範囲の特性が得られなかった。したがって、内部量子効率を加味したCeの仕込量(b)は、以下の式L2を満たすとよい。
式L2:b≦0.12
【0064】
また、
図4に示すように、Ceの仕込量(b)が0.09molより大きくなると、内部量子効率が急激に低下する。Ceの仕込量(b)が0.09mol以上の場合、濃度消光が生じていると考えられる。よって、Ceの仕込量(b)は、内部量子効率の観点では0.09mol未満であるとより好ましい。
【0065】
図5は、Ceの仕込量(b)と吸収率(Abs)との関係を示す図である。Ceは青色光を吸収し黄色発光する元素であることから、Ceの仕込量の増加とともに吸収率は増加する。例えば、実施例6(b=0.09)に係る蛍光体の吸収率は86%であり、各実施例の中で最大の値である。一方、更にCeの仕込量を増加させても、吸収率は86%で一定である。これは、Ceでの青色光の吸収が飽和状態になったためであると考えられる。また、Ceの仕込量を減少させていくと、実施例7(b=0.03)に係る蛍光体の吸収率は81%であり、目標(≧80%)の範囲の特性が得られている。
【0066】
しかしながら、比較例2(b=0.02)に係る蛍光体の吸収率は78%であり、目標の範囲の特性が得られていない。これは、Ceの仕込量が不足しているためと考えられる。そのため、比較例2に係る蛍光体を青色LEDと組み合わせて発光モジュールとした場合、必要な蛍光体量が多くなり、LEDの配向性が悪くなることが考えられる。以上から、吸収率を考慮したCeの仕込量(b)は0.02molより多いとよい。
【0067】
次に、Baの仕込量(a)について検討する。表1に示すように、実施例8(a=0.03、b=0.04)に係る蛍光体の発光強度維持率は94%であり、目標の範囲の特性が得られている。一方、Ceの仕込量(b=0.04)が実施例8の蛍光体と同じであるが、Baの仕込量(a)が実施例8の蛍光体より少ない比較例3(a=0.01)の蛍光体の発光強度維持率は87%であり、目標の範囲の特性が得られていない。これは、Baの仕込量(a)が0.01molと少ない場合、Baが固溶することによる発光強度維持率の向上の効果があまりないためであると考えられる。以上から、発光強度維持率を考慮したBaの仕込量(a)は、以下のL3を満たすとよい。
式L3:a>0.01
【0068】
図6は、Baの仕込量(a)とCeの仕込量(b)との好ましい範囲を示す図である。
図6に示すように、本実施の形態に係る蛍光体は、一般式がBa
aY
3-a-bAl
5-aSi
aO
12:Ce
b(ただし、a、bは、b=0.1135a+0.0754で表される直線、b=0.0816a+0.02で表される直線、a=0.01で表される直線、b=0.12で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値)で表される。
【0069】
このように、本実施の形態に係る黄色蛍光体は、発光特性や温度特性が良好である新規な蛍光体である。また、この黄色蛍光体は、色度座標(cx、cy)が、0.414≦cx≦0.453、0.532≦cy≦0.558を満たす光を発するとよい。これにより、例えば、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光を発する発光素子と組み合わせて所望の用途の白色光源を実現できる。
【0070】
[発光モジュール]
図7は、本実施の形態に係る発光モジュールの模式図である。本実施の形態に係る発光モジュール10は、実装基板12と、実装基板12の上に実装された発光素子であるLED14と、樹脂に蛍光体が分散された光波長変換層16と、を備える。LED14は、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光を発する。光波長変換層16は、可視光に対して透明なシリコーン樹脂に、本実施の形態に係る黄色蛍光体が分散されている。また、光波長変換層16は、黄色蛍光体を0.1~30vol%含有し、厚みtが0.01~5mmである。なお、厚みは0.1~2mmの範囲であってもよい。黄色蛍光体の体積濃度は10vol%以下であってもよい。また、黄色蛍光体の体積平均粒径(MV:Mean Volume Diameter)は1~30μmであってもよい。
【0071】
この発光モジュール10は、LED14が発する青色光で励起され、黄色光を発する光波長変換層16と、を備えている。光波長変換層16は、上述の蛍光体を含んでいる。この発光モジュール10は、青色光と黄色光とを混色した発光色が、色度座標(cx、cy)=(0.311、0.339)、(0.313、0.342)、(0.331、0.354)、(0.331、0.338)、(0.319、0.315)、(0.311、0.309)で囲まれる範囲の色度である。これにより、所望の発光効率を達成しつつ、発光色が前述のヘッドランプに好適な範囲の色度である発光モジュール10を実現できる。
【0072】
また、光波長変換層16は、厚さが0.01~2.0mmのセラミックス板であってもよい。このセラミックス板は、蛍光体を加圧成形した後、真空焼成または加圧焼成することで得られる、可視光に対して透明なものである。そして、発光モジュール10は、LED14と光波長変換層16とが常温接合されていてもよい。
【0073】
以下、所望のドミナント波長の黄色光が得られ、発光強度維持率、内部量子効率、吸収率が目標の範囲に含まれている実施例1、4、6の蛍光体と青色LEDとを組み合わせた白色発光モジュールについて発光特性を評価した。
図8は、実施例19乃至21に係る発光モジュールの発光色の色度と、黄色蛍光体を含む光波長変換層の厚みとの関係を説明するための図である。
【0074】
(実施例19)
実施例1に係る蛍光体(λd=569.0nm)5g、0.5wt%のTEOS(テトラエトキシシラン)、φ1mmのアルミナボール50gを100mlポリポットに入れ、24h回転させた後、フッ素樹脂コートされたアルミバットに取り出し、加熱乾燥する。乾燥品をナイロン50メッシュパスにてほぐした後、1gずつ計量し、それぞれφ20mmの金型に入れ、10MPaで成形し、さらにCIP(Cold Isostatic Pressing)にて、98MPaで成形した。
【0075】
成形品を真空炉にて1×10-3Pa、1750℃、24hの条件で加熱し、さらにHIP(Hot Isostatic Pressing)にて、196MPa、1650℃×2hの条件で加熱し、厚さが約1mmの透明焼結体(透明セラミックス板)を得た。その透明焼結体を鏡面研磨にて任意の厚さに研磨し、それぞれを□1mmの大きさでに切り出し、青色LEDチップ上に常温接合させることで、白色光を実現する実施例19に係る発光モジュールを作製した。
【0076】
実施例19に係る発光モジュールは、光波長変換層である前述の透明焼結体の厚さが、0.10mm(
図8の実施例19に含まれる5つの色度座標のうち最も左のマーク)、0.12mm、0.18mm、0.25mm、0.30mm(同様に最も右のマーク)のとき、発光モジュールの発光色(青色光と黄色光とを混色した発光色)の色度が、ヘッドランプに好適な所望の色度の範囲R1に入った。なお、光波長変換層として、透明セラミックス板の代わりに透明樹脂に蛍光体を分散したものを用いてもよい。
【0077】
(実施例20)
実施例4に係る蛍光体(λd=567.4nm)を用いた以外は、実施例19と同様の製法で、実施例20に係る発光モジュールを作製した。実施例20に係る発光モジュールは、透明焼結体の厚さが、0.10mm(
図8の実施例20に含まれる2つの色度座標のうち左側のマーク)、0.15mm(同様に右側のマーク)のとき、発光モジュールの発光色の色度が、ヘッドランプに好適な所望の色度の範囲R1に入った。
【0078】
(実施例21)
実施例6に係る蛍光体(λd=570.5nm)を用いた以外は、実施例19と同様の製法で、実施例21に係る発光モジュールを作製した。実施例21に係る発光モジュールは、透明焼結体の厚さが、0.15mm(
図8の実施例21に含まれる3つの色度座標のうち最も左にあるマーク)、0.20mm、0.30mm(同様に最も右にあるマーク)のとき、発光モジュールの発光色の色度が、ヘッドランプに好適な所望の色度の範囲R1に入った。
【0079】
(第2実施形態)
[背景]
YAG蛍光体にBaおよびSiを固溶させた蛍光体(以下、「BS-YAG蛍光体」ともいう。)の発光イオンであるセリウム(Ce3+)は、結晶中で、酸素(O)と十二面体の構造因子(Ceサイト)を形成する。Ceサイトは、2か所で、SiO4四面体(辺長1.60Å)、またはAlO4四面体(辺長1.74Å)と稜を共有する。
【0080】
BS-YAG蛍光体の結晶中では、AlとOが形成するAlO4四面体、及び、SiおよびOが形成するSiO4四面体において、AlとOとの結合(Al-O)、及び、SiとOとの結合(Si-O)が等価である。このため、AlおよびSiの位置が固定され、強固な四面体ユニットが形成されている。この四面体ユニットは、温度上昇時に強固な四面体として振動するため、稜を共有するCeサイトは大きな格子振動を受け、この結果、ドミナント波長のシフトが起こると推測される。
【0081】
このSiO4四面体のSi(イオン半径0.26Å)を、Siよりイオン半径の小さいリン(P)(イオン半径0.17Å)に置換することにより、SiO4四面体より小さいPO4四面体(辺長1.48Å)を形成したとする。PおよびOが形成するPO4四面体では、Pに配位する4つのOとの結合(P-O)のうちの一つが二重結合を形成する。このため、Pの位置は、4つのOに対し等価でなく、Pは、PO4四面体において振動する(位置を変える)ことができる。その結果、稜を共有するCeサイトの熱振動の影響が小さくなり、ドミナント波長がシフトすることを抑制できる蛍光体を実現できる可能性に本発明者らは想到した。
【0082】
[蛍光体]
第2実施形態では、主として、一般式がMaY3-a-bAl5-a+cSia-2cPcO12:Ceb(ただし、MはBa,Sr,Ca,Mgからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、bは、b=0.1135a+0.0754で表される直線、b=0.0816a+0.02で表される直線、a=0.01で表される直線、b=0.12で表される直線で囲まれる範囲に含まれる値である。cは、0≦c<a/2の値である。)で表される蛍光体について説明する。なお、a>0、b>0である。
【0083】
なお、本実施の形態に係る上記の一般式においてSi量が0ではないとき、aおよびcは、a-2c>0(すなわち、a/2>c)の関係式を満たす。Pの量が増える(すなわち、cの値が大きくなる)と、その増えた量に応じてSiの量が減少する。これにより、蛍光体におけるチャージバランスがとられる。本実施の形態では、aの値は、0.01<a<1.20である。これにより、蛍光体におけるチャージバランスをとりやすくなる。また、cの値は、0.01≦c≦0.16であることが好ましい。さらに、SiとPのモル比を(a-2c)/c=a/c-2と表すとき、このモル比は0<a/c-2<8.0であることが好ましい。これにより、蛍光体のドミナント波長のシフト量を低減できる。また、本実施の形態に係るbの値は、0.02<b<0.12である。
【0084】
本実施の形態に係る蛍光体は、青色光により励起されて発光する蛍光体である。蛍光体は、たとえば25℃において、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色光で強い励起され、ドミナント波長が567~572nmの範囲にある黄色光を発する蛍光体であってよい。また、本実施の形態に係る蛍光体の結晶構造は、空間群がIa3dであるガーネット型であってよい。さらに、本実施の形態に係この粉末状の蛍光体の体積平均粒径は、たとえば1~30μmなどであってよい。
【0085】
以下、実施例を参照しながら、本実施の形態に係る蛍光体について説明する。以下の実施例では、作製した蛍光体について、25℃におけるドミナント波長に加えて200℃におけるドミナント波長を測定した。200℃におけるドミナント波長から25℃におけるドミナント波長を差し引いた値であるドミナント波長のシフト量(以下では、単に「シフト量」とも称する。)と目標値とを比較することにより、蛍光体を評価した。
【0086】
図9を参照して、シフト量の目標値について説明する。
図9は、蛍光体および青色LEDの発光色の色度を示す色度図(CIE1931)である。
図9に示す範囲R1は、特定の用途(車両用ヘッドライト)の白色光として規定される色度範囲であり、その範囲は、
図1を参照して説明した範囲R1と同じである。
図9に示すポイントC3は、ピーク波長が430~480nmの範囲にある青色LEDの一例の色度座標である。
【0087】
ここで、25℃における蛍光体のドミナント波長が569.0nmであり、その蛍光体の色度座標がポイントC4であるとする。また、200℃におけるその蛍光体のドミナント波長が570.5nmであり、その蛍光体の色度座標がポイントC5であるとする。このとき、ポイントC3とポイントC4とを結ぶ直線は、範囲R1の中央を通る。また、ポイントC3とポイントC5とを結ぶ直線は、範囲R1の下限を通る。そこで、シフト量の目標値を1.5nm(=570.5nm-569.0nm)とし、蛍光体のシフト量がこの目標値を下回ることを目標とした。
【0088】
なお、以下の実施例では、第1実施形態に係る実施例と同様に、発光強度維持率については90%、内部量子効率については90%、吸収率については80%を目標値として、それぞれの項目について作製した蛍光体を評価した。
【0089】
(実施例22)
実施例22に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.89Al4.95Si0.05:Ce3+
0.06で表される蛍光体である。実施例22では、実施例1と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性および温度特性を評価した。
【0090】
実施例22の蛍光体では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目については、目標が達成された。ただし、実施例22の蛍光体では、25℃におけるドミナント波長は569.0nmであり、200℃におけるドミナント波長は570.5nmであった。したがって、実施例22では、シフト量が1.5nmであり、シフト量に関しては目標が達成されなかった。
【0091】
実施例における蛍光体の作製条件および発光特性などの測定結果を表2にまとめて示す。
【0092】
【0093】
(実施例23)
実施例23に係る蛍光体は、Pを含む蛍光体である。具体的には、実施例23に係る蛍光体は、BaaY3-a-bAl5-a+cSia-2cPcO12:Cebで表される蛍光体であって、a=0.05、b=0.06、c=0.01を満たす蛍光体であり、すなわち、Ba0.05Y2.89Al4.96Si0.03P0.01O12:Ce0.06で表される蛍光体である。
【0094】
実施例23では、実施例1において用いた原料(BaCO3、Y2O3、CeO2、α-Al2O3、SiO2)に加えてAlPO4(株式会社高純度化学研究所製)を原料として用い、Ba=0.05、Y=2.89、Al=4.960、Si=0.03、P=0.010、Ce=0.06のmol比となるように計量した以外は、実施例22と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性、温度特性およびシフト量を評価した。
【0095】
実施例23の蛍光体では、25℃におけるドミナント波長は569.0nmであり、200℃におけるドミナント波長は570.0nmであった。したがって、実施例23に係る蛍光体では、シフト量が1.0nmとなり、Pを添加しなかった実施例22に係る蛍光体よりもシフト量が0.5nm減少した。この結果、実施例23では、シフト量が目標値を下回り、シフト量に関する目標が達成された。なお、実施例23の蛍光体では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目についても目標が達成された。
【0096】
(実施例24)
実施例24に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.89Al4.965Si0.02P0.015O12:Ce0.06で表される蛍光体である。なお、実施例23と同様のそれぞれの原料粉末を、Ba=0.05、Y=2.89、Al=4.965、Si=0.02、P=0.015、Ce=0.06のmol比となるように計量した以外は、実施例23と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性、温度特性およびシフト量を評価した。
【0097】
実施例24に係る蛍光体では、25℃におけるドミナント波長は569.0nmであり、200℃におけるドミナント波長は569.5nmであった。したがって、実施例24に係る蛍光体では、ドミナント波長のシフト量が0.5nmとなり、実施例23に係る蛍光体よりもシフト量がさらに0.5nm減少した。
【0098】
(実施例25)
実施例25に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.89Al4.97Si0.01P0.02O12:Ce0.06で表される蛍光体である。なお、実施例23と同様のそれぞれの原料粉末を、Ba=0.05、Y=2.89、Al=4.970、Si=0.01、P=0.020、Ce=0.06のmol比となるように計量した以外は、実施例23と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性および温度特性を評価した。
【0099】
実施例25に係る蛍光体では、25℃におけるドミナント波長は569.0nmであり、200℃におけるドミナント波長は570.0nmであった。したがって、実施例25に係る蛍光体では、シフト量が1.0nmとなり、目標が達成された。
【0100】
(実施例26)
実施例26に係る蛍光体は、Ba0.05Y2.89Al4.975P0.025O12:Ce0.06で表される蛍光体である。実施例26では、Ba=0.05、Y=2.89、Al=4.975、Si=0.00、P=0.025、Ce=0.06のmol比となるように計量したこと以外は、実施例23と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性および温度特性を評価した。
【0101】
実施例26に係る蛍光体では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目については目標が達成された。ただし、実施例26に係る蛍光体では、25℃におけるドミナント波長は569.0nmであり、200℃におけるドミナント波長は570.5nmであった。したがって、実施例26に係る蛍光体では、シフト量が1.5nmとなり、シフト量に関しては目標が達成されなかった。
【0102】
(実施例27、31、36、41)
実施例27、31、36、41では、実施例22と同様のそれぞれの原料粉末を表2に示すmol比となるように計量した以外は、実施例22と同様の条件で蛍光体を作製し、発光特性および温度特性を評価した。したがって、実施例27、31、36、41では、Pを含む原料を用いずに蛍光体を作製した。実施例27、31、36、41のいずれの実施例においても、シフト量が1.5nmを下回らず、シフト量に関しては目標が達成されなかった。なお、これらの実施例に係る蛍光体では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目については目標が達成されている。
【0103】
(実施例28~30、33~35、38~40、43~45)
実施例28~30、33~35、38~40、43~45では、実施例23と同様のそれぞれの原料粉末を表2に示すmol比となるように計量したこと以外は、実施例23と同様の条件で蛍光体を作製した。いずれの実施例に係る蛍光体についても、シフト量は1.5nmを下回り、シフト量に関する目標が達成された。なお、これらの実施例に係る蛍光体では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目についても目標が達成された。
【0104】
(実施例32、37、42)
実施例32、37、42では、実施例23と同様のそれぞれの原料粉末を表2に示すmol比となるように計量したこと以外は、実施例23と同様の条件で蛍光体を作製した。実施例32、37、42では、Siに対するPのモル比が他の実施例よりも小さくなるように、具体的には、SiとPとのモル比が8.00となるように、原料粉末を計量した。いずれの実施例に係る蛍光体についても、ドミナント波長のシフト量は1.5nmとなり、シフト量に関しては目標が達成されなかった。なお、これらの実施例に係る蛍光体では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目については目標が達成された。
【0105】
以上、実施例22~45に係る蛍光体の製造方法およびシフト量の評価について説明した。以下、実施例22~45の評価結果について、より詳細に説明する。
【0106】
表2に示すように、いずれの実施例においても、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目について目標が達成された。なお、蛍光体がPを含まない実施例22、27、31、36、41、および、Siに対するPのモル比が小さい実施例32、37、42においても、これらの項目について目標が達成された。
【0107】
また、蛍光体がPを含む実施例のうち、cが0.01≦c≦0.16を満たす実施例では、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率の項目に加えて、シフト量についての評価が良好となった。
【0108】
蛍光体がPを含まない実施例のうち、25℃におけるドミナント波長が569.0nmであり、内部量子効率、吸収率および発光強度維持率が最高値である実施例22の組成(Ba=0.05、Ce=0.06)について、P量とドミナント波長のシフト量の関係について検討する。
【0109】
図10は、実施例22~26に係る蛍光体におけるP量とドミナント波長のシフト量との関係を示す図である。実施例22~26では、いずれもBa=0.05、Ce=0.06となっている。
図10に示すように、P=0.015のとき(実施例24)、シフト量は、0.4nmとなり、実施例22~26のシフト量の中では最小値となった。
【0110】
実施例24からP量を増加させ、P=0.02とすると(実施例25)、シフト量は1.0nmに増加した。さらにP量を増加させ、P=0.025、Si=0.00とする(すなわち、Si/P=0)と、シフト量は1.5nmとなり、目標が達成されなかった。以上より、シフト量を低減するという観点では、蛍光体の上述した一般式におけるc(すなわちP量)は、0.025未満であることが好ましく、より好ましくは、0.016未満である。
【0111】
次に、Si/Pとシフト量との関係のBa量の違いに応じた変化について検討する。
【0112】
図11は、各Ba量についてSi/Pとシフト量との関係を示す図である。
図11では、各Ba量(Ba=0.05、0.08、0.10、0.20、0.40)の実施例について、Si/Pをプロットした図である。
【0113】
図11に示すように、Ba量の違いにかかわらず、Si/Pが0~1.33である範囲では、Si/Pが大きくなるほど、シフト量が小さくなった。また、Si/Pが0~8.0である範囲では、Si/Pが1.33のときにシフト量が最小値となった。たとえば、実施例24では、シフト量が最小値の0.4となった。Si/Pが1.33から大きくなるにつれてシフト量は大きくなり、Si/Pが8.0のときにシフト量が1.5nmとなり、目標が達成されなかった。以上より、シフト量を小さくする観点では、Si/Pは、0より大きいことが好ましく、また、8.0未満であることが好ましい。
【0114】
[発光モジュール]
第2実施形態に係る蛍光体を用いても、
図7を参照して発光モジュール10を実現可能である。本実施の形態に係る発光モジュール10は、実装基板12と、実装基板12の上に実装された発光素子であるLED14と、光波長変換層16と、を備える。
【0115】
光波長変換層16は、上述の蛍光体を含んでおり、LED14が発する波長が430~480nmの青色光で励起されて黄色光を発する。したがって、発光モジュール10は、LED14が発する青色光と光波長変換層16が発する黄色光とを混色した発光色を発することができる。この発色光の色度は、色度座標(cx、cy)=(0.311、0.339)、(0.313、0.342)、(0.331、0.354)、(0.331、0.338)、(0.319、0.315)、(0.311、0.309)で囲まれる範囲の色度であってよい。これにより、発光モジュール10は、所望の発光効率を達成しつつ、発光色が上述のヘッドランプに好適な範囲の色度を有する光を発することができる。
【0116】
光波長変換層16は、可視光に対して透明なシリコーン樹脂に、本実施の形態に係る黄色蛍光体が分散されて構成されてよい。また、光波長変換層16は、上述の蛍光体をたとえば0.1~30vol%含有してよい。また、光波長変換層16の厚みtは、たとえば0.01~5mm程度であってよい。なお、厚みは0.1~2mmの範囲であってもよい。
【0117】
また、光波長変換層16は、厚さが0.01~5.0mmのセラミックス板であってもよい。このセラミックス板は、蛍光体を加圧成形した後、真空焼成または加圧焼成することで得られる、可視光に対して透明なものであってよい。そして、発光モジュール10は、LED14と光波長変換層16とが常温接合されていてもよい。
【0118】
(実施例46)
実施例46では、実施例24に係る蛍光体を用いて、発光モジュールを作製した。実施例46に係る蛍光体は、上記実施例の中では、シフト量が最も小さく、かつ、発光強度維持率、内部量子効率および吸収率が目標値を達成した蛍光体である。
【0119】
まず、実施例24に係る蛍光体をφ20mm×1.5mmの金型に入れて成形し、成形品を得た。次いで、成形品を1550℃、4hの条件で焼成し、さらに50MPa、1500℃×1hの条件で加圧焼成して、焼結体(セラミックス板)を作製した。次いで、焼結体を1mm角に加工して、焼結体を研磨することにより、焼結体の厚さを0.3mmに調整した。この焼結体を光波長変換層として青色LEDチップ上に常温接合させることで、白色光を実現する実施例46に係る発光モジュールを作製し、発光モジュールの発光色を測定した。
【0120】
(実施例47,48)
実施例47,48では、光波長変換層の厚さをそれぞれ0.1、0.05mmとしたこと以外は実施例46と同様にして、発光モジュールを作製し、発光モジュールの発光色を測定した。
【0121】
図12は、実施例46~48に係る発光モジュールの発光色を示す図である。
図12に示す四角形のマークは、実施例46~48に係る発光モジュールの25℃における発光色の色度座標である。また、
図12に示す三角形のマークは、実施例46~48に係る発光モジュールの200℃における発光色の色度座標である。
【0122】
図12に示すように、25℃における実施例46~48に係る発光色の色度座標は、いずれもヘッドランプに好適な所望の色度の範囲R1に入った。より具体的には、これらの色度座標は、範囲R1のおよそ中央を通り、蛍光体の色度座標と青色LEDの色度座標とを結ぶ直線上において変化する結果となった。
【0123】
また、200℃における実施例46~48に係る発光色の色度座標は、いずれもヘッドランプに好適な所望の色度の範囲R1に入った。より具体的には、これらの色度座標は、範囲R1の下限よりも範囲R1の内側を通り、蛍光体の色度座標と青色LEDの色度座標とを結ぶ直線上において変化する結果となった。
【0124】
以上、実施例46~48より、BS-YAGにPを添加することにより、25℃から200℃まで昇温したときの発光強度維持率を高くしつつ、ドミナント波長のシフト量を低減させた白色LEDを実現できたといえる。
【0125】
[液相法を利用した蛍光体の製造方法]
上記実施形態では、主として、原料粉末を用いて固相法により蛍光体を製造する方法について説明した。蛍光体を製造する方法は固相法に限定されるものではなく、たとえば液相法によって蛍光体を製造してもよい。たとえば、クエン酸ゾルゲル法、ヘキサミン法および尿酸法などの液相法によって蛍光体を製造してもよい。
【0126】
(実施例49)
実施例49では、クエン酸ゾルゲル法を利用して、実施例24に係る蛍光体と同様の組成を有する蛍光体を作製した。
【0127】
まず、硝酸イットリウム六水和物を1mol/lの硝酸イットリウム水溶液に調整し、酢酸バリウムを1mol/lの水溶液に調整し、硝酸セリウム六水和物を1mol/lの硝酸セリウム水溶液に調整し、水溶性シリカを1mol/lの水溶液に調整した。また、リン酸トリメチルを0.5mol/lの水溶液に調整し、クエン酸を2mol/lの水溶液に調整した。
【0128】
100mlのビーカーに、4.502gのアルミニウム九水和物を入れ、そこに、調整した硝酸イットリウム水溶液を6.98ml、調整した酢酸バリウムの水溶液を0.12ml、調整した水溶性シリカの水溶液を0.05ml、調整したリン酸トリメチルの水曜を機を0.07ml、および調整したクエン酸の水溶液を38.7ml投入し、混合水溶液を得た。
【0129】
得られた混合水溶液を80℃に昇温し、400rpmの撹拌速度で1hr撹拌した。次いで、混合水溶液が撹拌されている状態を維持しながら、5.7mlのプロピレングリコールを混合水溶液に投入し、混合水溶液を130℃に昇温した。混合水溶液を130℃に昇温したあと、撹拌を停止して、その状態を6時間保持することにより、ゲル状の物質(クエン酸エステル)を合成した。
【0130】
ゲル状物質をビーカーに入れた状態で、ビーカーを電気炉に入れ、500℃でゲル状物質を2hr加熱した。これにより、ゲル状物質が分解され、灰化した物質(以下、「灰化物」ともいう。)を合成した。この灰化物をアルミナルツボに入れ、800℃で灰化物を大気中で12hr加熱して、灰化物を脱炭素化することにより、約1.5gの蛍光体の原料粉末を合成した。
【0131】
[補足]
以上、本発明を上述の実施の形態や各実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態や各実施例に限定されるものではなく、実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態や各実施例における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態や各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0132】
上記の第1実施形態および第2実施形態では、主として、一般式MaY3-a-bAl5-a+cSia-2cPcO12:Cebに含まれるMがBaである例について説明した。これに限らず、Mは、他のアルカリ土類金属であるSr,CaまたはMgであってもよいし、Ba,Sr,CaおよびMgからなる群から選ばれる2種以上の元素の組み合わせであってもよい。
【符号の説明】
【0133】
10 発光モジュール、 12 実装基板、 14 LED、 16 光波長変換層。