(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119183
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】流体切替弁
(51)【国際特許分類】
F16K 5/04 20060101AFI20220808BHJP
【FI】
F16K5/04 G
F16K5/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204192
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2021016048
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000208064
【氏名又は名称】大洋技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】森 克巳
【テーマコード(参考)】
3H054
【Fターム(参考)】
3H054AA02
3H054BB02
3H054BB22
3H054CA32
3H054CD12
3H054EE04
3H054GG01
3H054GG09
(57)【要約】
【課題】バルブ部とバルブ室との回動時の摺動抵抗を小さくし、かつ、流体のシールを確実に行う。
【解決手段】バルブ部と一体にバルブ室内で回動し流体入口通路及び流体出口通路のいずれかを閉じるシール部材を備え、バルブ室の中心軸位置に対して、シール部材の回動時の回動中心軸位置が偏芯しており、シール部材の径方向位置は回動に応じて変位する。この変位を利用してシール部材を流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方に押圧し、確実にシールする。また、回動時には変位を利用してシール部材をバルブ室から引き離す方向に移動させて、回動に伴う摺動抵抗を小さくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状をしたバルブ室と、このバルブ室と軸方向に連続する円筒状の回動支持部と、前記バルブ室に径方向に開口し流体を前記バルブ室に流入する流体入口通路と、前記バルブ室に径方向に開口し前記バルブ室より流体を流出する流体出口通路とを有するバルブボディと、
このバルブボディの前記回動支持部に回転可能に配置されるバルブ基部と、このバルブ基部と一体に回動し前記バルブ室内を回動するバルブ部とを有するバルブ部材と、
前記バルブ部と一体に回動し、前記流体入口通路及び前記流体出口通路のいずれか一方と対向して、前記流体入口通路及び前記流体出口通路のいずれか一方を閉じるシール部材とを備え、
前記回動支持部及び前記バルブ基部の中心軸位置に対して、前記シール部材の回動時の回動中心軸位置が偏芯しており、前記シール部材の回動に応じて前記シール部材は前記流体入口通路及び前記流体出口通路のいずれか一方に押圧される
ことを特徴とする流体切替弁。
【請求項2】
前記バルブ室は円筒形状をしており、前記バルブ室の中心軸と前記回動支持部及び前記バルブ基部の中心軸位置が一致している
ことを特徴とする請求項1記載の流体切替弁。
【請求項3】
前記バルブ室は円筒形状をしており、前記バルブ室の中心軸と前記回動支持部及び前記バルブ基部の中心軸とは、前記流体入口通路及び前記流体出口通路のいずれか一方側に偏芯している
ことを特徴とする請求項1記載の流体切替弁。
【請求項4】
前記バルブ部は断面非円形形状をしており、前記回動支持部及び前記バルブ基部の中心軸位置から偏芯している
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の流体切替弁。
【請求項5】
前記バルブ室は円筒形状をしており、前記バルブ部は円柱形状をしており、かつ、前記バルブ室の中心軸位置と前記バルブ部の中心軸位置とは一致しており、
前記シール部材の肉厚の変化により、前記バルブ室の中心軸位置に対して、前記シール部材の回動時の回動中心軸位置が偏芯している
ことを特徴とする請求項1記載の流体切替弁。
【請求項6】
前記シール部材は、前記バルブ部の外周の全周に配置される
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の流体切替弁。
【請求項7】
前記シール部材は、前記バルブ部の外周のうち前記流体入口通路及び前記流体出口通路のもいずれか一方と対向しうる部位のみに配置される
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の流体切替弁。
【請求項8】
前記シール部材は、前記バルブ部の外周のうち前記流体入口通路及び前記流体出口通路のいずれか一方と対向しうる部位に、前記バルブ部と一体に形成され、かつ、
前記シール部材は、内部に空間を有する球形形状に形成されて、弾性機能を有する
請求項1若しくは5に記載の流体切替弁。
【請求項9】
筒形状をしたバルブ室と、このバルブ室と軸方向に連続する円筒状の回動支持部と、前記バルブ室に径方向に開口し流体を前記バルブ室に流入する流体入口通路と、前記バルブ室に径方向に開口し前記バルブ室より流体を流出する流体出口通路とを有するバルブボディと、
このバルブボディの前記回動支持部に回転可能に配置されるバルブ基部と、このバルブ基部と一体に回動し前記バルブ室内を回動するバルブ部とを有するバルブ部材と、
前記流体入口通路と対向して、前記流体入口通路を閉じるシール部材とを備え、
前記バルブ室の中心軸位置に対して、前記バルブ部の回動時の回動中心軸位置が偏芯しており、前記バルブ部の回動に応じて前記シール部材は前記流体入口通路に押圧される
ことを特徴とする流体切替弁。
【請求項10】
前記バルブ部と前記シール部材との間には、前記バルブ部の回動に応じて生じる変位を前記シール部材に伝達する伝達部材が介在する
ことを特徴とする請求項9記載の流体切替弁。
【請求項11】
前記バルブボディの前記回動支持部と前記バルブ部材の前記バルブ基部には、前記バルブ部の前記バルブ室からの抜け止めを行う抜け止め機構が配置される
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の流体切替弁。
【請求項12】
前記バルブ基部の外周にはOリング保持溝が形成され、このOリング保持溝に保持されたOリングにより、流体の前記バルブ室からの流出を防止する
ことを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の流体切替弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件の開示は流体の流路の開閉を切り替える切替弁に関し、例えば、エンジンに供給される燃料等の液体やガス等の気体の切り替え等に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
流体の切替弁として、特許文献1に示されるように、筒状のバルブ室内に柱形状のバルブ部を回動可能に配置し、バルブ部の回動位置により流体入口通路と流体出口通路との開閉を切り替えるものが知られている。そして、バルブ部とバルブ室とは同軸上に配置され、バルブ部とバルブ室とは回転摺動する構造であった。また、特許文献2に示すように、シール部材をバルブ部とバルブ室との間に介在させるものも知られているが、これもバルブ部とバルブ室とは回転摺動する構造であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63-104842号公報
【特許文献2】実開昭60-185769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただ、バルブとバルブ室とが回転摺動する構造では、バルブ部とバルブ室との間に不可避的にクリアランスが必要となり、このクリアランスを介して流体が漏れる恐れがある。流体の漏れを抑えるためにクリアランスを小さくすると、バルブ室内にバルブを配置する作業が困難となると共に、回動摺動する際の摺動抵抗が大きくなる。
【0005】
バルブ部と流体入口通路若しくは流体出口通路との間にシール部材を配置する場合でも、シール部材のシール力を高くするとバルブ部が回動摺動する際の抵抗が過大となる恐れがある。
【0006】
本件開示は、上記点に鑑み、バルブ室内にバルブ部を配置する構造を前提とし、かつ、バルブ室とバルブ部との間にシール部材を配置する構造を前提とし、バルブ部の外周とバルブ室の内周との回動時の摺動抵抗を小さくし、かつ、流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方のシールを確実に行うことができることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1は、筒形状をしたバルブ室とこのバルブ室と軸方向に連続する円筒状の回動支持部とバルブ室に径方向に開口し流体をバルブ室に流入する流体入口通路とバルブ室に径方向に開口しバルブ室より流体を流出する流体出口通路とを有するバルブボディと、このバルブボディの回動支持部に回動可能に配置されるバルブ基部とこのバルブ基部と一体に回動しバルブ室内を回動するバルブ部とを有するバルブ部材と、バルブ部と一体に回動し流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方と対向して流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方を閉じるシール部材とを備える流体切替弁である。
【0008】
そして、本開示の第1は、バルブ室の中心軸位置に対して、シール部材の回動時の回動中心軸位置が偏芯しており、シール部材の回動に応じてシール部材は流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方に押圧される流体切替弁である。
【0009】
本開示の第1では、バルブ室の中心軸位置に対して、シール部材の回動時の回動中心軸位置が偏芯している結果、シール部材の径方向位置が、シール部材の回動に応じて変位する。そのため、この変位を利用してシール部材を流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方に押圧することが可能である。このシール部材の押圧により、シール部材が流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方を確実にシールすることができる。
【0010】
本開示の第2では、バルブ室は円筒形状をしており、バルブ室の中心軸と回動支持部の中心軸位置が一致している。円柱形状をしたバルブ部を円筒形状のバルブ室内にコンパクトに配置することが可能である。
【0011】
本開示の第3は、バルブ室は円筒形状をしており、バルブ室の中心軸と回動支持部及びバルブ基部の中心軸とは、流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方側に偏芯している。バルブ室の内周とバルブ部の外周との間の空間を広くすることが可能である。
【0012】
本開示の第4は、バルブ部は断面非円形形状をしており、バルブ基部の中心軸位置から偏芯している。バルブ部を断面非円形形状とする結果、バルブ部の小型化を図ることも可能である。
【0013】
本開示の第5は、バルブ部は円柱形状をしており、かつ、バルブ室の中心軸位置とバルブ部の中心軸位置とは一致しており、シール部材の肉厚の変化により、バルブ室の中心軸位置に対して、シール部材の回動時の回動中心軸位置が偏芯している。
【0014】
本開示の第5によれば、シール部材の回動時の回動中心軸位置をバルブ室の中心軸位置に対して偏芯させるのに、シール部材の肉厚の変化を用いるので、バルブ室の中心軸位置とバルブの中心軸位置とを一致させることが可能である。また、シール部材の厚肉部を用いてシール機能を発揮することができるので、シール部材の耐久性を高めることができる。
【0015】
本開示の第6は、シール部材は、バルブ部の外周の全周に配置される。シール部材でバルブ部を覆うように組み付けることができ、シール部材の組付け作業が容易となる。
【0016】
本開示の第7は、シール部材は、バルブ部の外周のうち流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方と対向しうる部位のみに配置される。シール部材を小型化することが可能である。
【0017】
本開示の第8は、シール部材は、バルブ部の外周のうち流体入口通路及び流体出口通路のいずれか一方と対向しうる部位に、バルブ部と一体に形成され、かつ、シール部材は、内部に空間を有する球形形状に形成されて、弾性機能を有する。シール部材とバルブ部とを一体成型することで、部品点数を削減することが可能である。かつ、シール部材は内部の空間により弾性機能を有するので、流体入口通路及び流体出口通路の少なくともいずれか一方を確実にシールすることが可能である。
【0018】
本開示の第9は、筒形状をしたバルブ室とこのバルブ室と軸方向に連続する円筒状の回動支持部とバルブ室に径方向に開口し流体をバルブ室に流入する流体入口通路とバルブ室に径方向に開口しバルブ室より流体を流出する流体出口通路とを有するバルブボディと、このバルブボディの回動支持部に回転可能に配置されるバルブ基部とこのバルブ基部と一体に回動しバルブ室内を回動するバルブ部とを有するバルブ部材と、流体入口通路と対向して流体入口通路を閉じるシール部材とを備える流体切替弁である。
【0019】
そして、バルブ室の中心軸位置に対してバルブ部の回動時の回動中心軸位置が偏芯しており、バルブ部の回動に応じてシール部材は流体入口通路に押圧される構造となっている。
【0020】
本開示の第9では、バルブ室の中心軸位置に対してバルブ部の回動時の回動中心軸位置が偏芯しているので、バルブ部はバルブ室内で相対移動を行う。この相対移動を用いてシール部材を流体入口通路に押圧することで、流体入口通路のシールを確実に行うことができる。
【0021】
本開示の第10は、バルブとシール部材との間には、バルブの回動に応じて生じる変位をシール部材に伝達する伝達部材が介在している。伝達部材を介在させることで、バルブの回動により生じるバルブ室内の相対移動を、より的確にシール部材に伝達することができる。
【0022】
本開示の第11は、バルブボディの回動支持部とバルブ部材のバルブ基部には、バルブ部のバルブ室からの抜け止めを行う抜け止め機構が配置される。抜け止め機構により、バルブ部をバルブ室内に確実に保持することが可能である。
【0023】
本開示の第12は、バルブ基部の外周にはOリング保持溝が形成され、このOリング保持溝に保持されたOリングにより、流体のバルブ室からの流出を防止する。Oリングによって流体の流出を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、流体切替弁の第1実施形態の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2よりバルブ部を90度回動させた状態の断面図である。
【
図4】
図4は、流体切替弁の第2実施形態の断面図である。
【
図5】
図5は、流体切替弁の第3実施形態の断面図である。
【
図6】
図6は、流体切替弁の第4実施形態の断面図である。
【
図7】
図7は、流体切替弁の第5実施形態の断面図である。
【
図8】
図8は、流体切替弁の第6実施形態の断面図である。
【
図9】
図9は、
図8よりバルブ部を90度回動させた状態の断面図である。
【
図10】
図10は、流体切替弁の第7実施形態の断面図である。
【
図11】
図11は、流体切替弁の第8実施形態の断面図である。
【
図12】
図12は、流体切替弁の第6実施形態の断面図である。
【
図15】
図15は、流体切替弁の他の使用例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
図14は、流体切替弁100の使用例を示す。この使用例では流体切替弁100は、燃料タンク900とエンジン910の気化器920との間に配置される燃料切替弁として利用される。燃料が重力によりエンジン910に供給されるよう、燃料タンク900はエンジン910の上方に配置される。901は、燃料タンク900の燃料供給口を閉じるキャップである。
【0026】
そして、燃料タンク900と流体切替弁100とは、燃料パイプ930により連結され、流体切替弁100と気化器920とは燃料パイプ931により連結される。なお、本例で、エンジン910は発電機940や高圧洗浄機の駆動に用いられる。
【0027】
図1に示すように、流体切替弁100は、バルブボディ200と、バルブ部材300とシール部材400とを備える。
【0028】
バルブボディ200は、ポリアセタールPOMの樹脂製である。そして、
図2及び
図3に示すように、流体入口通路210と流体出口通路220とが左右に突出形成されている。流体入口通路210には、図示していないが、燃料パイプに挿入された際の抜け止めとなる係止部が所外周に突出形成されている。流体出口通路220にも、同様に、燃料パイプに挿入された際の抜け止めとなる係止部が外周に突出形成されている。
【0029】
流体入口通路210の入口通路穴211は、2.3ミリメートル程度である。また、流体出口通路220の出口通路穴221の径も同様に2.3ミリメートル程度である。入口通路穴211と出口通路穴221とは180度離れて対向している。
【0030】
バルブボディ200の中心軸周りには、断面円形上の回動支持部230が形成されている。回動支持部230は、内径は15ミリメートル程度である。回動支持部230の下方には、流体入口通路210及び流体出口通路220が開口するバルブ室240が形成されている。本実施形態では、回動支持部230とバルブ室240とは連続した同一径の円筒形状である。
【0031】
バルブ部材300は、ナイロン樹脂製で、バルブボディ200の回動支持部230に嵌り合って回動するバルブ基部310と、このバルブ基部310の下方に一体形成されバルブ室240内を回動するバルブ部320を備えている。バルブ基部310及びバルブ部320は共に円柱形状で、バルブ基部310の外径は回動支持部230の内径と略同じである。
【0032】
バルブ基部310の外周には抜け止め凸部311が全周に1ミリメートル程度突出形成され、この抜け止め凸部311が回動支持部230の抜け止め凹部231に嵌り合う。この抜け止め凸部311と抜け止め凹部231との嵌合で、抜け止め機構が構成される。
【0033】
バルブ基部310の外周のうち、抜け止め凸部311よりバルブ部320側にはOリング保持溝312が形成され、Oリング保持溝312にはOリング500が保持される。このOリング500は回動支持部230の内周と密着し、バルブ室240より燃料が漏出するのを防いでいる。
【0034】
バルブ部320の外径は10ミリメートル程度で、バルブ部320の中心軸Bは、バルブ基部310及び回動支持部230の中心軸Aから1ミリメートル程度偏芯している。従って、バルブ部320はバルブ室240内を偏芯して回動することとなる。
【0035】
バルブ部320の外周のうち、流体入口通路210と対向する位置には、ゴム製で円環状のシール部材400が配置されている。また、バルブ部320の外周で、このシール部材400が配置される部位にはローレット溝が形成されて、シール部材400がバルブ部320に確実に保持されるようになっている。
【0036】
上述の流体切替弁100の組付けは、バルブ部320の外周のローレット溝にシール部材400をその弾力性を用いて取り付け、Oリング保持溝312内にOリング500を同じくその弾力性を用いて取り付ける。その状態で、バルブ部材300を、バルブボディ200の回動支持部230の上側開口部より挿入する。バルブ部320の下端がバルブ室240の底部に微小間隙を介して対向する位置で、抜け止め凸部311が抜け止め凹部231と嵌合し、その状態で、バルブ部材300はバルブボディ200に対して、回動が可能で、軸方向には変位不能に組付けられる。
【0037】
流体切替弁100の切り替え動作は、作業者がバルブ部材300の上部に形成された摘み部335を手動で回動させることで行う。
図2が流体入口通路210を閉じた状態で、バルブ部320の中心軸Bは最も流体入口通路210側に変位している。この変位によりシール部材400を流体入口通路210の開口部212に押し付けて、シール部材400を弾性変形させ、流体入口通路210の開口部212を確実に塞いでいる。より具体的には、バルブ部320の中心軸Bが最も流体入口通路210側に変位した状態でのバルブ部320外周と流体出口通路220の開口部212との距離(1ミリメートル程度)より、シール部材400の肉厚(1.5ミリメートル程度)の方が大きいので、その差分シール部材400が押しつぶされて、開口部212のシールを行う。
【0038】
作業者が摘み部335を90度回動させた状態が
図3で、バルブ部320の中心軸Bは、バルブ基部310及び回動支持部230の中心軸Aに対して図の上方に変位している。その結果、シール部材400は流体入口通路210の開口部から離れ、燃料はバルブ室240を介して流体出口通路220に流れる。
【0039】
燃料の供給を止めるには、作業者が再度摘み部335を90度回して、
図2の状態とする。上述のように、本例では単にシール部材400が流体出口通路220の開口部212を摺動するのみでなく、バルブ部320の変位を利用してシール部材400を開口部212に押し付けるので、確実にシールすることができる。
【0040】
なお、90度の回動動作の間、シール部材400はバルブ室240の内周に押し付けられることとなるが、押し付けられるのは、シール部材400の一部のみである。従って、摘み部335の回動に必要な荷重を必要以上に高めることは無い。
【0041】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、流体出口通路220を開いた状態で、燃料はシール部材400の外周とバルブ室240の内周との隙間を介して流体出口通路220に流れた。この隙間が狭く、燃料の通過量の不足が懸念される場合には、バルブ部320に通路穴321を形成しても良い。
【0042】
図4は、この第2実施形態を示すが、内径5ミリメートル程度の通路穴321を形成している、そして、通路穴321の軸線は、流体入口通路210及び流体出口通路220の軸線に直交している。従って、
図4の状態からバルブ部320を90度回動させると、通路穴321が流体入口通路210及び流体出口通路220に対向し、燃料はシール部材400の外周とバルブ室240の内周との隙間のみでなく、この通路穴321を介しても流れることになる。
【0043】
(第3実施形態)
上述の実施形態ではバルブ部320を円柱状に形成していたが、バルブ部320は回動支持部230やバルブ基部310の中心軸Aから偏芯して、シール部材400を押圧できればよく、必ずしも円柱状である必要はない。
図5に示すように、バルブ部320の断面形状を非円形としてもよい。勿論、
図5は非円形の一例であり、他にも様々な形状を採用可能である。
【0044】
図5の例では、90度回動させた際に、シール部材400の外周とバルブ室240の内周との間に充分なスペースが確保でき、第2実施形態の通路穴321を形成しなくても、必要な燃料を流すことが可能である。また、バルブ部320の周囲長さを円形の周囲長さより短くすれば、バルブ部320及びシール部材400の小型軽量化も図れる。
【0045】
なお、
図5でBはバルブ部320の中心位置を示し、このB点と中心軸Aとの距離がバルブ部320の変位である点は、第1実施形態と同様である。
【0046】
(第4実施形態)
上述の実施形態では、シール部材400をバルブ部320の全周に配置したが、シール部材400は流体入口通路210の開口部212を閉じることができればよい。
図6に示す第4実施形態のように、シール部材400を流体入口通路210の開口部212と対向可能な位置のみに配置しても良い。
【0047】
図6の実施形態では、バルブ部320に円錐形状の保持部322を設け、この保持部322にシール部材400を嵌め込んでいる。嵌め込みのみでシール部材400の保持は可能であるが、必要に応じ、シール部材400をバルブ部320に接着等固定してもよい。
【0048】
(第5実施形態)
上述の実施形態では、シール部材400をバルブ部320とは別部材としていたが、シール部材400をバルブ部320に一体形成しても良い。
図7に示す第5実施形態では、バルブ部320のうち、流体入口通路210の開口部212と対向可能な部位にシール部材400をブロー成型している。即ち、シール部材400とバルブ部320との間に空洞部323を形成し、この空洞部323によってシール部材400を内部に空間を有する球形形状として、弾性機能を持たせている。
【0049】
図7の例では、バルブ部320の中心軸の位置は、回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aと一致しているが、空洞部323を介してシール部材400が変位しているので、回動時のシール部材400の回動中心は回動支持部230やバルブ基部310の中心軸Aから変位している。
【0050】
(第6実施形態)
上述の実施形態では、シール部材400は変位によって流体入口通路210の開口部212側に押圧されるが、そのシール時のみでなく、バルブ部320を回動させる際にもバルブ室240の内周側に押圧されていた。上述したように、接触面積が小さいため、回動時の摺動抵抗はさほど大きくはない。ただ、シール部材400は流体入口通路210の開口部212のシールを行うことができればよく、それ以外の部位ではシール機能は求められていない。
【0051】
図8及び
図9に示す第6実施形態では、バルブ室240を円筒形状とし、その中心軸Cの位置を、回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aから偏芯させている。より具体的には、回動支持部230やバルブ基部310の中心軸Aに対して、流体入口通路210の開口部212とは反対側(流体出口通路220側)に偏芯している。
【0052】
そのため、
図8に示すように、バルブ部320の中心軸Bが左側に変位している状態では、シール部材400を流体入口通路210の開口部212に押し付けている。一方、
図9に示すように、バルブ部320の中心軸Bが上側に変位している状態では、シール部材400はバルブ室240の内周から離間している。これにより、バルブ部320を回動させる際の摺動抵抗を大幅に低減することが可能となる。
【0053】
(第7実施形態)
図7図示第5実施形態と同様、
図10で示す第7実施形態も、バルブ部320の中心軸は、回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aと一致している。ただ、シール部材400の肉厚が変化し、この肉厚の変化によってシール部材400の回動中心Bが回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aから偏芯している。
【0054】
シール部材400のうち、シール機能を発揮するのは流体入口通路210の開口部212に押し付けられる部位のみである。従って、この第7実施形態のように、シール機能を発揮する部位の肉厚を厚くすることで、シール部材400の耐久性を高めることが可能となる。
【0055】
(第8実施形態)
図11に示す第8実施形態も、バルブ部320の中心軸と回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aは一致しているが、バルブ部320の外周はその一部が円弧状に突出して卵形状となっている。そのため、突出部324の位置は回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aに対して偏芯している。この突出部324により、シール部材400を流体入口通路210の開口部212に押し付ける構成としている。
【0056】
図11の第8実施形態では、突出部324とシール部材400との間に突出部324の変位をシール部材400に伝達する伝達部材410が介在している。また、バルブ室240の内周に並行壁面241を形成し、伝達部材410はこの並行壁面241に沿って往復移動する。そのため、
図11に示すように、突出部324が流体入口通路210の開口部212側にあるときには伝達部材410を介して、シール部材400を押圧する。そして、
図11の状態からバルブ部320を90度回動させると、燃料流れによる圧力を受けてシール部材400及び伝達部材410が図の右側に変位して流体入口通路210の開口部212を開く。この際のシール部材400の移動を伝達部材410がサポートすることが可能となる。
【0057】
(第9実施形態)
第9実施形態では、
図12及び
図13に示すように、バルブ部320の90度の回動をガイドするガイド溝250をバルブボディ200のバルブ室240の底面に形成している。そして、バルブ部材300にも、バルブ部320の下方よりガイドピン340を突出形成している。
【0058】
ガイド溝250は、回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aと同軸となる円弧形状をしている。また、ガイドピン340も、回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aと同軸上で回動する位置に形成されている。そして、ガイド溝250の溝幅より、円柱形状のガイドピン340の外径を僅かに小さくしている。
【0059】
また、
図12に示すように、摘み部335の二面幅にレバー350を嵌合させて、作業者はレバー350を用いてバルブ部材300の回動を行うことができるようになっている。バルブ部材300の回動を行う際には、ガイドピン340がガイド溝250沿って移動する。そして、ガイドピン340がガイド溝250の端部251と当接することで、90度の回動を確実に位置決めすることができる。
【0060】
なお、
図12の実施形態では、バルブ部材300のうち、バルブボディ200の抜け止め凹部231と対向する位置にサークリップ保持溝315を形成している。そして、サークリップ550で、バルブ部320のバルブ室240からの抜け止めを行う抜け止め機構を構成している。
【0061】
また、
図12の実施形態では、
図8及び
図9に示した第6実施形態と同じく、バルブ室240の中心軸Cを、回動支持部230及びバルブ基部310の中心軸Aに対して流体入口通路210の開口部212とは反対側に偏心させている。
【0062】
(その他の実施形態)
以上説明した例は望ましい開示であるが、他に種々の変形例がある。例えば、エンジン910の容量に応じて燃料パイプ930、931の径も変更される。そのため、エンジン910の容量に応じ、流体切替弁100の大きさも変更される。即ち、上述した各寸法は、小型エンジン910において、流体切替弁100の望ましい大きさであるが、寸法は変更可能である。偏芯の程度も、バルブ部材300の大きさやシール部材400の厚さに応じ、0.2~1.5ミリメートル程度で変更可能である。
【0063】
上述の実施形態では、シール部材400が流体入口通路210の開口部212を閉じるようにしていたが、逆に、シール部材400で流体出口通路220を閉じるようにしても良い。構造としては、
図1及び
図12において右側の流体通路を流体入口通路210とし、左側の流体通路を流体出口通路220とするのみで、図示構造と同様である。但し、流体出口通路220を用いて流体の流路の遮断を行う際には、流体が常時バルブ室240に流入することとなる。従って、上述の実施形態のように、流体入口通路210の開口部212で流体流れを遮断する方が望ましい。
【0064】
上述の実施形態では、流体入口通路210と流体出口通路220とを180度対向配置したが、燃料パイプ930、931の取り回しによっては、流体入口通路210と流体出口通路220との間の角度を変更してもよい。その場合、バルブ部材300の回動角度も変更される。例えば、流体入口通路210と流体出口通路220との間の角度が120度の場合には、バルブ部材300の回動角度は60度とするのが望ましい。
【0065】
上述の実施形態では、バルブボディ200をポリアセタールPOM製とし、バルブ部材300をナイロン樹脂製としたが、他の材料としてもよい。亜鉛、鉄やアルミニウム合金等の金属製としてもよく、他の樹脂製としてもよい。
【0066】
上述の実施形態では、作業者が摘み部335を操作してバルブ部材300を回動させていたが、モータを用いて電動動作するようにしてもよい。
【0067】
上述の実施形態では、エンジン910の用途を発電機940や高圧洗浄機の駆動用としているが、本件の流体切替弁100は各種のエンジン910に使用可能である。例えば、オートバイ用エンジン910に使用してもよい。更に、エンジン910の燃料の切り替えに限らず、水やアルコール等の他の液体の流路切り替えに使用することも可能である。
【0068】
本開示の流体切替弁100は、液体の用途に限らず、更に気体の流路の開閉切り替えにも用いることができる。
図15にガスの流体開閉弁700と一体に用いられる例を示す。この例ではバルブボディ200は、アルミニウム若しくはアルミニウム合金でできており、ダイキャストで、流体切替弁100と流体開閉弁700とが一体で形成されている。
【0069】
流体入口通路210の更に上流にダイヤフラム室701が形成されている。ダイヤフラム室701とダイヤフラム702を介して反対側には、大気圧室703がアルミニウム若しくはアルミニウム合金製のカバー704によって形成されている。ダイヤフラム702は、ダイヤフラム室701内の圧力が高くなると上方へ変位し、ダイヤフラム室701内の圧力が低いとダイヤフラム付勢バネ705の付勢力で下方に変位する。
【0070】
ダイヤフラム702にはロット706が固定され、ダイヤフラムの変位に応じてロット706は上下に移動する。ロット706の下端には、ダイヤフラム室701内を上下動するカム構造体707が固定され、カム構造体707はロット706と一体に上下動する。カム構造体707は、その下方に第1カム面708、上方に第2カム面709、中間部に第3カム面710を設けている。第3カム面710は、第1カム面708及び第2カム面709に対して左側に突出している。
【0071】
バルブボディ200のダイヤフラム室701より更に上流には、ダイヤフラム室701にガスを流入させる流入通路711が形成されている。この流入通路711のダイヤフラム室701とは反対側の面に、弁座712が形成されている。
【0072】
流入通路711には、弁体部材713が配置されている。弁体部材713は弁座712と当接離脱する弁本体714と、先端がカム構造体707と当接する弁ロット715とからなる。弁本体714の弁座712との当接面には、ゴム製のシール部材716が貼り付け固定されている。また、弁ロット715は、バルブボディ200に形成された摺動支持部717により左右の移動が支持されている。
【0073】
上記の通り、ダイヤフラム室701内の圧力が低い時は、ダイヤフラム付勢バネ705の付勢力でロット706と共にカム構造体707も下方に変位する。その状態では、弁ロット715の先端は第2カム面709と当接している。その為、弁体部材713は
図15に示す状態より左に変移する。その結果、弁本体714のシール部材716が弁座712に当接し、流入通路711は閉じられる。この流入通路711を閉じた状態は、弁付勢バネ719の付勢力で保持されている。この弁ロット715が第2カム面709と当接して流入通路711を閉じている状態は、ダイヤフラム室701内にガスが供給されていないか、供給されてもガスの圧力が大気圧より1キロパスカル未満しか高くない状態である。
【0074】
ダイヤフラム室701内のガスの圧力が大気圧室703の大気圧より高くなるとロット706及びカム構造体707がダイヤフラム付勢バネ705の付勢力に抗して上方に移動する。
図15がその状態を示している。弁ロット715の先端は第3カム面710と当接し、弁本体714は弁付勢バネ719の付勢力に抗して弁座712から離脱する。その結果、流入通路711は開いて、ガスがダイヤフラム室701内に流入する。
図15で示す流入通路711が開いている状態は、ガスの圧力が大気圧より1~8キロパスカル程度高い状態である。
【0075】
流入通路711が開いている状態でのガス流れは流量調整弁718により所定量に調整される。即ち、流量が多くなりすぎるとボール弁720が絞り部721に隣接して流路を絞り流量を制限する。逆に、流量が少ない状態ではボール弁付勢バネの付勢力で、ボール弁720が絞り部721より離間して流路を開き流量を増加させる。
【0076】
この流量調整弁718は、特に流体開閉弁700と共に用いる上で有用である。即ち、弁ロット715の先端が第2カム面709に当接しているときは弁本体714のシール部材716が弁座712を閉じている。この流量が0の状態から弁ロット715の先端が第3カム面710と当接する状態に変位すると急激に流量が増えることとなる。また、弁ロット715の先端が第3カム面710と接する状態でも、ガス流量は1~8キロパスカル程度の範囲で変動する。このように、流体開閉弁700はガス流量に大きな変動をもたらすものであるので、流量調整弁718によりガス流量の変動を抑えることは望ましい。
【0077】
ダイヤフラム室701内のガス圧が1~8キロパスカル程度に変動しても、弁ロット715の先端が第3カム面710と当接している限りにおいて、
図15の状態は保たれる。ただ、ダイヤフラム室701内のガス圧が上限以上の高くなると、ロット706及びカム構造体707が更に上方に変移する。
【0078】
このガスの圧力が大気圧より8キロパスカル程度以上高くなった状態では、弁ロット715の先端は第1カム面708と当接する。第1カム面708の位置は、第2カム面709と同様第3カム面より左側となっている。その為、弁体部材713が左に変移して弁本体714のシール部材716が弁座712をシールする。このシール状態も、弁付勢バネ719の付勢力によって保持される。
【0079】
流体切替弁100は、通常の仕様状態では流体入口通路210と流体出口通路220を連通させている。ただ、ガス圧が上限以上に高くなって流体開閉弁700が閉じたような状態では、流体切替弁100も流体入口通路210を閉じるようにする。
【0080】
ロット706の上端には操作部722が固定されている。従って、操作部722もロット706の変位と共に移動する。その為、操作部722の位置を見ることで、ガス圧が低圧側閾値以下で流体開閉弁700が閉じているのか、ガス圧が作動圧内で流体開閉弁700が開いているのか、ガス圧が高圧側閾値以上で流体開閉弁700が閉じているのかが視覚的に把握できる。
【0081】
更に、作業者が操作部722を操作することで、
図15に示す状態(流入通路711が開)から流入通路711が閉の状態にすることも、逆に流入通路711が閉の状態から
図15に示す状態(流入通路711が開)に戻すことも可能である。
【0082】
図15の例では、流体切替弁100の下流に流出管800を配置している。流出管800と流体切替弁100との間は、流出管Oリング801によってシールされている。また、流出管800はサークリップ802によりバルブボディ200に固定されている。その為、流出管800はバルブボディ200に対して回動可能であり、かつ、流出管800は直角に屈曲しているので配管の取り回し方向を自由に設定することができる。
【0083】
図15の例では、流体切替弁100をガスの流れ制御に用いたが、他の気体にも利用可能であるのは勿論である。空気流れの開閉切り替えに用いても良い。
【符号の説明】
【0084】
100・・・流体切替弁
200・・・バルブボディ
210・・・流体入口通路
220・・・流体出口通路
230・・・回動支持部
240・・・バルブ室
300・・・バルブ部材
310・・・バルブ基部
320・・・バルブ部
700・・・流体開閉弁