(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119185
(43)【公開日】2022-08-16
(54)【発明の名称】抗光老化のための薬剤及び美容方法,並びに抗光老化剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/53 20060101AFI20220808BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20220808BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220808BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220808BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220808BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220808BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20220808BHJP
【FI】
A61K36/53
A61P17/00
A61P43/00 111
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K31/455
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206486
(22)【出願日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021016046
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021169105
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】堀場 聡
(72)【発明者】
【氏名】上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】細井 純一
(72)【発明者】
【氏名】飛田 亮三
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
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4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC09
4B065CA46
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC851
4C083AC852
4C083BB51
4C083CC02
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4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC19
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC52
4C088AB38
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4C088BA10
4C088CA06
4C088MA02
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC02
4C088ZC52
(57)【要約】
【課題】光老化を予防及び/又は改善するための方法及び薬剤,並びに抗光老化剤のスクリーニング方法の評価方法を提供する。
【解決手段】皮膚IL-34及び/又はCSF-1Rを増加することにより光老化を予防及び/又は改善することができる。IL-34及び/又はCSF-1Rを指標とすることで,光老化度を客観的に評価することが可能になり,このような方法に基づいて光老化を予防及び/又は改善するための薬剤が探索可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚IL-34を増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための抗光老化剤。
【請求項2】
皮膚IL-34を増加させる薬剤としてタイム抽出物を含む,請求項1に記載の抗光老化剤。
【請求項3】
表皮IL-34を増加することにより真皮M1/M2バランスを調整することを介して光老化を予防及び/又は改善する,請求項1又は2に記載の抗光老化剤。
【請求項4】
抗光老化剤のスクリーニング方法であって,
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるIL-34を測定すること;及び
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるIL-34が該薬剤を施す前と比較して増加する場合,前記薬剤に抗光老化作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
【請求項5】
皮膚IL-34を増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための美容方法。
【請求項6】
表皮IL-34を増加することにより真皮M1/M2バランスを調整することを介して光老化を予防及び/又は改善する,請求項5に記載の美容方法。
【請求項7】
タイム抽出物を含むIL-34産生促進剤を投与することを含む,請求項5又は6に記載の美容方法。
【請求項8】
タイム抽出物を含むIL-34産生促進剤。
【請求項9】
ニコチン酸アミドを含むIL-34産生促進剤を投与することを含む,請求項5又は6に記載の美容方法。
【請求項10】
ニコチン酸アミドを含むIL-34産生促進剤。
【請求項11】
真皮CSF-1Rを増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための抗光老化剤。
【請求項12】
真皮CSF-1Rを増加することによりM2マクロファージを誘導することを介して光老化を予防及び/又は改善する,請求項11に記載の抗光老化剤。
【請求項13】
抗光老化剤のスクリーニング方法であって,
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるCSF-1Rを測定すること;及び
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるCSF-1Rが該薬剤を施す前と比較して増加する場合,前記薬剤に抗光老化作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
【請求項14】
真皮CSF-1Rを増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための美容方法。
【請求項15】
真皮CSF-1Rを増加することによりM2マクロファージを誘導することを介して光老化を予防及び/又は改善する,請求項14に記載の美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,抗光老化のための薬剤及び美容方法,並びに抗光老化剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト皮膚の老化現象は大きく「自然老化」と「光老化」に分けられる。光老化は露光する部位特異的に認められる現象で,皮膚特異的である。光老化では,UVなどの影響で活性酸素の産生や,細胞のDNAの損傷などが誘発され,皮膚線維組織が損傷し,しわやたるみといった表現型が現れる原因と考えられている。例えば,皮膚光老化によりコラーゲンからなる膠原線維の減少やエラスチンからなる弾性線維の変性といった現象がみられる。また,メラノサイトもダメージを受け,メラニン色素が多く作られてしまい,しみ等を引き起こす原因となる。
【0003】
抗光老化美容法として,例えば,特許文献1では,白血球エラスターゼの阻害を予防することによる皮膚光老化の予防又は抑制剤を開示する。また,皮膚の光老化現象において炎症が一因となることも示唆されており,抗炎症剤も多く開発されている。特許文献2では,アディポネクチン発現増加とともにオートファジー活性化を誘導する化合物を含む抗老化用化粧料組成物を開示する。
【0004】
また,本発明者らはM1マクロファージとM2マクロファージのバランスの不均衡が光老化に関連し,M1/M2バランスを調整することが光老化の予防改善においてとりわけ重要であることを報告している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5657723号公報
【特許文献2】特開2018-177805号公報
【特許文献3】国際公開第2020/213743号
【特許文献4】特開平09-187248号公報
【特許文献5】特開2003-261455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は,抗光老化のための薬剤及び美容方法,並びに抗光老化剤のスクリーニング方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは更なる鋭意研究の結果,皮膚IL-34及び/又はその受容体であるCSF-1Rの減少が光老化に関与することを発見した。さらに,皮膚IL-34がM1/M2バランスと関連することも発見した。
本願は,以下の発明を提供する:
(1)皮膚IL-34を増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための抗光老化剤。
(2)皮膚IL-34を増加させる薬剤としてタイム抽出物を含む,(1)に記載の抗光老化剤。
(3)表皮IL-34を増加することにより真皮M1/M2バランスを調整することを介して光老化を予防及び/又は改善する,(1)又は(2)に記載の抗光老化剤。
(4)抗光老化剤のスクリーニング方法であって,
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるIL-34を測定すること;及び
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるIL-34が該薬剤を施す前と比較して増加する場合,前記薬剤に抗光老化作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
(5)皮膚IL-34を増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための美容方法。
(6)表皮IL-34を増加することにより真皮M1/M2バランスを調整することを介して光老化を予防及び/又は改善する,(5)に記載の美容方法。
(7)タイム抽出物を含むIL-34産生促進剤を投与することを含む,(5)又は(6)に記載の美容方法。
(8)タイム抽出物を含むIL-34産生促進剤。
(9)ニコチン酸アミドを含むIL-34産生促進剤を投与することを含む,(5)又は(6)に記載の美容方法。
(10)ニコチン酸アミドを含むIL-34産生促進剤。
(11)真皮CSF-1Rを増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための抗光老化剤。
(12)真皮CSF-1Rを増加することによりM2マクロファージを誘導することを介して光老化を予防及び/又は改善する,(11)に記載の抗光老化剤。
(13)抗光老化剤のスクリーニング方法であって,
皮膚試料に候補薬剤を施すこと;
候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるCSF-1Rを測定すること;及び
前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるCSF-1Rが該薬剤を施す前と比較して増加する場合,前記薬剤に抗光老化作用があると評価すること;
を含む,前記方法。
(14)真皮CSF-1Rを増加することにより光老化を予防及び/又は改善するための美容方法。
(15)真皮CSF-1Rを増加することによりM2マクロファージを誘導することを介して光老化を予防及び/又は改善する,(14)に記載の美容方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法及び薬剤により,皮膚IL-34及び/又は真皮CSF-1Rを増加することにより光老化を予防及び/又は改善することができる。また,皮膚IL-34及び/又は真皮CSF-1Rを指標とすることで,光老化度を客観的に評価することが可能になり,このような方法に基づいて光老化を予防及び/又は改善するための薬剤や美容処置が探索可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は,若齢者及び高齢者の表皮及び真皮におけるIL-34
+細胞数を示すグラフである(cells/mm
2)(マンホイットニーのu検定,*; P<0.05)。
【
図2】
図2は,若齢者及び高齢者の真皮におけるCSF-1R
+ CD68
+細胞数を示すグラフである(cells/mm
2)。
【
図3】
図3は,表皮におけるIL-34
+細胞数(cells/mm
2)と真皮におけるM1/M2バランスとの関係を示すグラフである(r=スピアマンの順位相関係数)。
【
図4】
図4は,真皮におけるCSF-1R
+ CD68
+細胞数と真皮におけるIL-34
+細胞数(左),及び真皮におけるCSF-1R
+ CD68
+細胞数と真皮におけるCD206
+ CD68
+細胞数(M2マクロファージ数)(右)との関係を示すグラフである(r=ピアソンの相関係数)。
【
図5】
図5は,タイム抽出物を添加しない(左:control)又は添加した(右:タイム抽出物)表皮細胞におけるIL-34 mRNA発現量をcontrolに対する割合(%)として示すグラフである(t検定,*; P<0.05)。
【
図6】
図6左は,ニコチン酸アミドを添加しない(上:Cont)又は添加した(下:NAM)ヒト皮膚におけるIL-34
+細胞を示す免疫染色写真である。
図6右は,ニコチン酸アミドを添加しない(左:Cont)又は添加した(右:NAM)表皮細胞におけるIL-34タンパク質発現量を対照(Cont)の結果を1とした相対値で示すグラフである(t検定)。
【
図7】
図7は,ニコチン酸アミドを添加しない(左:Cont)又は添加した(右:NAM)表皮細胞におけるIL-34 mRNA発現量を対照(Cont)の結果を1とした相対値で示すグラフである(t検定,***; P<0.001)。
【
図8】
図8は,マクロファージに分化させたCD14+単球細胞に各濃度のIL-34又はCSF-1を添加した場合のCD206のmRNA発現量(左)及びIL-10のmRNA発現量(右)を示すグラフである(rはピアソンの相関係数)。CD206及びIL-10のmRNA発現量はGAPDHのmRNA発現量に対する相対値で示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは,M1マクロファージとM2マクロファージの比率であるM1/M2バランスを調整することが光老化に有効であることを示している(特許文献3)。本発明者らは更なる研究を行い,光老化には皮膚IL-34が関与し,皮膚IL-34,とりわけ表皮IL-34の減少がM1/M2バランスの悪化に関連することを発見した。更に本発明者らは,光老化には真皮CSF-1Rも関与し,真皮IL-34と真皮CSF-1Rが相関することを発見した。また,IL-34がM2マクロファージを誘導することは知られているが,表皮IL-34がM1/M2バランスと相関し,真皮CSF-1Rと真皮M2マクロファージの数と相関することを本発明者らは発見した。
【0011】
IL-34(Interleukin 34)は,CSF-1Rのリガンドの1つであり,CSF-1(colony-stimulating factor-1)とは異なるシグナルを有するサイトカインである。IL-34はランゲルハンス細胞を維持するのに必要であること,アトピー皮膚炎に関係すること等が示唆されている。また,IL-34は,IL-10の発現を増加させること,M2マクロファージを誘導すること等が知られている。
【0012】
CSF-1R(colony-stimulating factor-1 receptor)は,M-CSFR(macrophage colony-stimulating factor receptor), CD115 (Cluster of Differentiation 115)とも称され,CSF-1及びIL-34をリガンドとする受容体であり,マクロファージに特異的に発現しマクロファージの分化と機能を制御する。CSF-1Rは腫瘍関連マクロファージの形成を促すこと,CSF-1Rの阻害によって抗腫瘍免疫応答が増強されること等が報告されている。
【0013】
しかしながら,皮膚IL-34や真皮CSF-1Rの減少が光老化と関連することは知られていない。本発明者らは驚くべきことに,光のあたった皮膚では特異的に皮膚IL-34及び真皮CSF-1Rが減少することを発見した。
【0014】
本発明は,皮膚IL-34及び/又は真皮CSF-1Rを増加することにより,光老化を予防及び/又は改善するための抗光老化剤及び美容方法を提供する。本発明の方法は,美容を目的とする方法であり,医師や医療従事者による治療ではない場合がある。一態様では,皮膚IL-34,とりわけ表皮IL-34を増加することによりM1/M2バランスを調整することを介して光老化を予防及び/又は改善する。一態様では,真皮CSF-1Rを増加することによりM2マクロファージを誘導することを介して光老化を予防及び/又は改善する。一態様では,皮膚IL-34を増加することにより真皮CSF-1Rを増加させることを介してM2マクロファージを誘導することにより真皮M1/M2バランスを調整してもよい。
【0015】
また,本発明は,皮膚におけるIL-34及び/又はCSF-1Rを皮膚光老化の指標とし,抗光老化剤をスクリーニングする方法も提供する。更に本発明は,皮膚試料に候補薬剤を施すこと;候補薬剤を施した前後の皮膚試料におけるIL-34及び/又はCSF-1Rを測定すること;及び前記候補薬剤を施した皮膚試料におけるIL-34及び/又はCSF-1Rが該薬剤を施す前と比較して増加する場合,前記薬剤に抗光老化作用があると評価すること;を含む,抗光老化剤のスクリーニング方法も提供する。本発明の方法により,候補薬剤が抗光老化効果を有するか否かについてのスクリーニングが可能となり,製品開発や新たな肌ケアの提案が可能になる。
【0016】
皮膚IL-34の増加とは,表皮及び/又は真皮におけるIL-34のタンパク量,IL-34の遺伝子発現量,又はIL-34陽性細胞の数が,例えば,候補物質と接触させていない状態(コントロール)に比べて,候補物質と接触させた場合に,例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば,Wilcoxonの順位和検定,スチューデントのt検定等)をもって増加していること,あるいは,例えば5%以上,10%以上,20%以上,30%以上,40%以上,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,100%以上,あるいはそれ以上増加していることを意味する。
【0017】
皮膚IL-34は,皮膚又は皮膚試料におけるIL-34タンパク量,IL-34遺伝子発現量,又はIL-34陽性細胞数を測定することにより決定できる。皮膚試料とは,採取後の皮膚試料,例えば,ヒト等の動物から採取された後のex vivoの状態の皮膚試料,3D皮膚モデルなどの人工皮膚試料,又はかかる皮膚試料における表皮又は真皮相当部分,あるいは,培養皮膚細胞,例えば,単層又は重層培養細胞,培養角化細胞又は培養線維芽細胞といったin vitroの状態の試料を指す。表皮/真皮IL-34は,それぞれ,皮膚又は皮膚試料における表皮/真皮相当部分におけるIL-34タンパク量,IL-34遺伝子発現量,又はIL-34陽性細胞数を測定することにより決定できる。
【0018】
真皮CSF-1Rの増加とは,真皮におけるCSF-1Rのタンパク量,CSF-1Rの遺伝子発現量,又はCSF-1R陽性細胞数が,例えば,候補物質と接触させていない状態(コントロール)に比べて,候補物質と接触させた場合に,例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば,Wilcoxonの順位和検定,スチューデントのt検定等)をもって増加していること,あるいは,例えば5%以上,10%以上,20%以上,30%以上,40%以上,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,100%以上,あるいはそれ以上増加していることを意味し得る。
【0019】
真皮CSF-1Rは,皮膚又は皮膚試料における真皮相当部分におけるCSF-1Rタンパク量,CSF-1R遺伝子発現量,又はCSF-1R陽性細胞数を測定することにより決定できる。
【0020】
本明細書において,M1/M2バランスとは,M1マクロファージの数とM2マクロファージの数の比率を指すものであってもよく,M1マクロファージのマーカー(例えば,CD86,CD80,iNOS等)のmRNA量とM2マクロファージのマーカー(例えば,CD206,CD163,Agr1,IL-10等)のmRNA量の比率を指すものであってもよい。M1/M2バランスの調整は,M1/M2の比率(M1の数/M2の数,及び/又はM1マーカーのmRNA量/M2マーカーのmRNA量)を減少させることであってもよい。減少は,例えば,有意水準を5%とした統計学的有意差(例えば,Wilcoxonの順位和検定,スチューデントのt検定等)を有する減少であってもよく,及び/又は,例えば1%以上,5%以上,10%以上,20%以上,30%以上,40%以上,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,100%の減少であってもよい。一態様では,表皮IL-34及び/又は真皮CSF-1Rを増加することにより真皮M1/M2バランスを調整する。一態様では,M1/M2バランスの調整は,M2マクロファージの誘導により達成される。
【0021】
M2マクロファージの誘導とは,皮膚IL-34及び/又はCSF-1Rを増加することによりM2マクロファージのマーカーのmRNA量又はM2マクロファージ数を上昇させること,例えば,有意水準を5%とした統計学的有意差(例えばスチューデントのt検定)を有する上昇であってもよく,及び/又は,例えば1%以上,5%以上,10%以上,20%以上,30%以上,40%以上,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,100%以上上昇させることであってもよい。一態様では,皮膚IL-34及び/又は真皮CSF-1Rを増加することによりM2マクロファージを誘導することを介して光老化を予防及び/又は改善する。
【0022】
本発明者らは,上記方法で各種物質をスクリーニングした結果,タイム抽出物及びニコチン酸アミドがIL-34産生促進剤として機能することを発見した。よって,本発明は,タイム抽出物及び/又はニコチン酸アミドからなる,又はタイム抽出物及び/又はニコチン酸アミドを有効成分として含む,IL-34産生促進剤,抗光老化剤,及びそれらを含有する組成物も提供する。一態様では,上記抗光老化剤は,皮膚,例えば表皮及び/又は真皮におけるIL-34を増加することにより,真皮M1/M2バランスを調整することを介して光老化を予防及び/又は改善する。
【0023】
タイム抽出物には,抗アレルギー作用,抗菌作用,M1/M2バランス調整作用等が報告されている(特許文献3,4,5)。しかしながら,タイム抽出物が,表皮IL-34産生促進効果を有することは,本発明者らによって今回初めて見出された。
【0024】
タイム(Thymus)は,シソ科イブキジャコウソウ属の多年生植物である。本発明では,コモンタイム(T. vulgaris),シトラスタイム(T. x citriodorus),ワイルドタイム(T. serpyllum)等の各種タイムを用いることができる。本発明に用いられるタイム抽出物としては,タイムの全草,種,花,根等のうちいずれか1又は2つ以上の部位の抽出物を使用することができる。タイムの抽出物は,市販品を用いることもできる。
【0025】
使用する抽出物の抽出方法は特に限定されるものではないが,溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には,植物体をそのまま使用することもできるが,顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が,穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく,粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は,室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また,抽出時間も特に限定されるものではなく,粉砕物の粒径,溶媒の種類,抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに,抽出時には,撹拌を行ってもよいし,撹拌せず静置してもよいし,超音波を加えてもよい。
【0026】
溶媒の種類は特に限定されるものではないが,水,含水エタノール,エタノール等の低級アルコール,ヘキサン等の有機溶媒,又はヘキサン/エタノールといったこれらの混合溶媒が好ましい。抽出は常温で行ってもよいが,加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。また,溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって,植物の細胞組織を崩壊させることができ,これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては,細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては,例えば,ペクチナーゼ,セルラーゼ,ヘミセルラーゼ,α-アミラーゼ,フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよいし,2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
このような抽出操作により,有効成分が抽出され,溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は,そのまま使用してもよいが,滅菌,洗浄,濾過,脱色,脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また,必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに,溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし,該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0028】
また,原料の植物を圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので,抽出物の代わりに圧搾液を使用することもできる。
【0029】
ニコチン酸アミド(CAS No. 98-92-0)は,ニコチン酸のアミド化合物であり,血行促進作用や,肌荒れ改善作用,美白作用等が知られている。しかしながら,ニコチン酸アミドが,表皮IL-34産生促進効果を有することは,本発明者らによって今回初めて見出された。本発明に用いられるニコチン酸アミドとしては,天然物からの抽出物であっても良いし,公知の方法によって合成した物であっても良い。例えば,具体的には,第17改正日本薬局方に収載されているものを用いることができる。
【0030】
しかしながら,抗光老化剤や組成物は上記物質に限定されず,任意の物質,例えば,ビタミンDといったIL-34及び/又はCSF-1Rを増加することが知られている公知の物質を使用してもよい。その投与経路も例えば,経皮投与,経口投与,皮下投与,経粘膜投与,筋肉内投与等任意に選択できるが,光老化は,光が当たった部分の皮膚に特異的にみられる現象であり,皮膚の特定箇所に投与できる経皮投与が好ましい。また,経皮投与だと本発明の抗光老化剤や組成物を表皮に直接適用することが可能となる。
【0031】
本発明の剤は,本発明の有効成分を,1種又は2種以上の他の成分,例えば賦形剤,担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。組成物の組成や形態は任意であり,有効成分や用途等の条件に応じて適切に選択すればよい。当該組成物は,その剤形に応じ,賦形剤,担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で,常法を用いて製造することができる。
【0032】
本発明の剤は,化粧品等に配合してヒト及び動物に使用し,或いは医薬製剤としてヒト及び動物に投与することができる。また,各種の飲食品,飼料に配合してヒト及び動物に摂取させてもよい。
【0033】
本発明を化粧品,医薬品,医薬部外品等の皮膚外用剤に適用する場合,植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は,それらの種類,目的,形態,利用方法などに応じて,適宜決めることができる。例えば,化粧料全量中に,タイム抽出物及び/又はニコチン酸アミドを0.00001%~50%(抽出物又は生薬の場合,乾燥質量換算)を配合できる。
【0034】
上記成分に加えて,さらに必要により,本発明の効果を損なわない範囲内で,通常化粧品,医薬品,医薬部外品等の皮膚外用剤に用いられる成分,例えば酸化防止剤,油分,紫外線防御剤,界面活性剤,増粘剤,アルコール類,粉末成分,色材,水性成分,水,各種皮膚栄養剤,抗光老化剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0035】
本発明の皮膚外用剤は,外皮に適用される化粧料,医薬部外品等,特に好適には化粧料として適用可能であり,その剤型も皮膚に適用できるものであれば限定されず,溶液系,可溶化系,乳化系,粉末分散系,水-油二層系,水-油-粉末三層系,軟膏,化粧水,ゲル,エアゾール等,任意の剤型が適用される。
【0036】
本発明の剤を化粧品として用いる場合は,化粧水,乳液,ファンデーション,口紅,リップクリーム,クレンジングクリーム,マッサージクリーム,パック,ハンドクリーム,ハンドパウダー,ボディシャンプー,ボディローション,ボディクリーム,浴用化粧品等の形態として用いてもよい。
【0037】
しかしながら,本発明の剤及び組成物の採り得る形態は,上述の剤型や形態に限定されるものではない。また,本発明の剤又は組成物は,本発明の装置又は方法あるいはその他の装置又は方法等と併用してもよい。
【0038】
本発明の方法,剤及び組成物を適用する対象は,皮膚光老化が客観的又は主観的に認められる対象であっても,皮膚光老化を予防したいと希望する対象であってもよい。例えば,皮膚IL-34及び/又はCSF-1Rが低い,M1/M2バランスが崩れている,M2マクロファージの数又は誘導が少ないと判断された対象であってもよい。1実施形態では,皮膚におけるIL-34及び/又はCSF-1Rを指標として皮膚光老化度が高いと判断された対象であってもよい。あるいは,皮膚の光老化に特異的な表現型,例えば,しみ,しわ,たるみ等が気になる対象であってもよい。しみ,しわ,たるみ等は,視感判定や公知の指標を用いることにより決定することができる。
【0039】
本明細書において候補薬剤とは,抗光老化作用について調査が行われる薬剤のことをいい,製品として既に販売されている薬剤の他,開発段階の薬剤も含み,さらに化粧料の開発において化粧料用に選択された薬剤であってもよい。
【実施例0040】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお,本発明はこれにより限定されるものではない。
【0041】
実験1:光老化と皮膚IL-34との関係
若齢者(n=10, 平均年齢34.2才)及び光老化が起こっている高齢者(n=10, 平均年齢74.5才)の白人由来の目尻の皮膚の表皮部分及び表皮直下~200μmまでの真皮部分とし,凍結切片にし,薄切後,IL-34のマーカー(abcam社製ab101443)で染色しIL-34+細胞を計数した。
【0042】
計数結果のグラフを
図1に示す。
図1に示すように,光老化が起こっている高齢者では,表皮及び真皮にいずれにおいてもIL-34
+細胞数が若齢者に対して有意に減少していた。このことから,皮膚IL-34の減少と光老化が関連していることが分かる。
【0043】
実験2:光老化と真皮CSF-1Rとの関係
実験1で使用したものと同じ若齢者(n=10, 平均年齢34.2才)及び光老化が起こっている高齢者(n=10, 平均年齢74.5才)の白人由来の目尻の皮膚を凍結切片にし,薄切後,抗CSF-1R抗体(abcam社ab183316)及び抗CD68抗体(abcam)で二重染色した。表皮直下から200μmまでの真皮部分におけるCSF-1R+ CD68+細胞を計数した。
【0044】
計数結果のグラフを
図2示す。
図2に示すように,光老化が起こっている高齢者では,真皮においてCSF-1R
+ CD68
+細胞数が若齢者に対して減少する傾向が見られた。このことから,真皮CSF-1Rの減少と光老化が関連していることが示唆される。
【0045】
実験3:皮膚IL-34とM1/M2バランスとの関係
図1で使用した若齢者及び高齢者の皮膚の真皮部分の凍結切片試料に,以下に示すマクロファージのマーカーで染色した。
(1)M1マクロファージの染色:ヤギ由来の抗ヒトCD86抗体(R&D)とウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)を用いる二重染色。
(2)M2マクロファージの染色:マウス由来の抗ヒトCD206抗体(BD)又はマウス由来抗ヒトCD163抗体(Leica)とウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)を用いる二重染色。
(3)総マクロファージの染色:マウス由来の抗ヒトCD68抗体(abcam)とウサギ由来の抗ヒトCD11b抗体(abcam)を用いる二重染色。
【0046】
(1)~(3)の抗体に二重で陽性である細胞を各マクロファージとして計数し,M1マクロファージ数/M2マクロファージ数をM1/M2バランスとして求め,実験1で求めた表皮及び真皮におけるIL-34+細胞数との相関関係を調べた。
【0047】
結果を
図3,
図4に示す。
図3に示すように,表皮IL-34
+細胞数と真皮におけるM1/M2バランスは負の相関関係にあった。一方,真皮IL-34
+細胞数と真皮におけるM1/M2バランスでは相関関係がなかったものの,真皮CSF-1Rと真皮M2マクロファージ数も相関していた(
図4右)。さらに,真皮IL-34
+細胞数が真皮CSF-1Rと相関していた(
図4左)。
【0048】
実験4:表皮IL-34を増加することにより光老化を予防及び/又は改善する抗光老化剤のスクリーニング
上記実験の結果より,表皮IL-34を増加することができれば光老化を予防及び/又は改善することが期待される。よって,表皮IL-34を増加する薬剤のスクリーニングを行った。
スクリーニング対象薬剤として,タイム抽出物を含む合計6種の成分について検討した。タイム抽出物は香栄興業より購入したワイルドタイムの全草のブチレングリコール抽出物である。タイム抽出物はブチレングリコールに溶解したものを用いた。
【0049】
クラボウ社より得た表皮細胞を,増殖添加剤(クラボウ,HuMedia-KG増殖添加剤セット,KK-6150)を加えた培地(ThermoFishser scientific,EpiLife Medium,MEPI500CA)にて37℃で24時間培養した。上記各スクリーニング対象薬剤を培地に対し0.1%となるようにそれぞれ添加し,対照にはブチレングリコールを同量添加し,37℃でさらに24時間培養した。細胞を回収してRNAを抽出し(RNeasy Plus Mini Kit,QIAGEN,74136),IL-34の発現量をreal time PCRで定量した。real time PCRは反応キット(ThermoFishser scientific,TaqMan RNA-to-CT 1-Step Kit,4392938)及びIL-34とGAPDH特異的プローブ(ThermoFishser scientific,IL-34:Hs01050926_m1,GAPDH:Hs02786624_g1)を用いて行った。なおGAPDHは内在性コントロールとして用いた。対照(cont)より再現性をもってIL-34発現量が増加する薬剤を抗光老化剤として探索した。
【0050】
結果を
図5に示す。タイム抽出物には表皮細胞におけるIL-34発現量を有意に増加させる効果があることがわかった。
【0051】
実験5:表皮IL-34を増加する薬剤の更なる探索
本出願人は,更なる物質を探索すべく,ニコチン酸アミドの表皮IL-34産生促進効果について検討した。ニコチン酸アミド(CAS No. 98-92-0)は和光純薬工業株式会社(現:富士フィルム和光純薬株式会社)より購入したものを用いた。
【0052】
インフォームドコンセントを行ったヒト被験者(20代から30代)の腹部の新鮮皮膚サンプルを株式会社KACから購入取得し培養を行った。ニコチン酸アミド(終濃度15 mM)を添加した10%FBS-DMEM(Thermo Fisher Science, 11885084),Humedia-KG2(KURABO, KK-2150S)の等量混合培地で培養した。対照ではニコチン酸アミドを含めない同様の培地で培養を行った。毎日培地交換を行い,2日目に組織片を回収した。
【0053】
回収した新鮮ヒト皮膚をAMeX法に従って,冷アセトンを用いて脱水固定後,アセトン,安息香酸メチル,キシレンの順で置換し,パラフィンに包埋した。3μmの厚さで切片を作成し,組織染色用の切片を作成した。
【0054】
3μmの厚さで作成したパラフィン切片を,キシレンで脱パラフィン後,EtOHを使って水和化した。IL-34に対する抗体(abcam, ab101443)を用いて蛍光免疫染色を行った。
【0055】
回収した新鮮ヒト皮膚を60℃のホットプレートで熱処理することで表皮を分離し,RNeasy mini kit(QUIAGEN)を用いてmRNAを抽出,SuperScript VILO(invitrogen)を用いてcDNAを合成した。その後合成したcDNAを用いて,platinum SYBER green(invitrogen)を用いて定量PCR解析を行った。使用したプライマーは,Human IL-34 qPCR Primer Pair(Sinobiological, Cat: HP100825)および内在性コントロールとして下記表1に示す配列のB2M primer setであった。対照(cont)より再現性をもってIL-34発現量が増加する薬剤を抗光老化剤として探索した。
【表1】
【0056】
結果を
図6,7に示す。ニコチン酸アミドには表皮細胞におけるIL-34タンパク量及び遺伝子発現量を顕著に増加させる効果があることがわかった。
【0057】
実験6:IL-34によるM1/M2バランス調整作用
上述のように,CSF-1RはCSF-1及びIL-34の受容体であるが,本発明のM1/M2バランス調整においてCSF-1ではなくIL-34が強く関連することを示すべく下記実験を行った。
末梢血由来CD14+単球(Lifeline Cell Technology)をRPMI 1640 medium (Nacalai Tesque, Kyoto, Japan) supplemented with 10% fetal bovine serum, 1 mM sodium pyruvate and 2 mM L-glutamineの培地にhuman CSF-1(R&D社)を100ng/ml添加し,300,000個の細胞を12 well plateに播種した。播種後37℃にて6日間培養し,未分化なマクロファージ(特許文献3)へと分化させた。
【0058】
分化後,培養液を除き,PBSで洗った後,IL-34またはCSF-1(いずれもR&D社)をそれぞれ0, 60, 120, 180, 240 ng/mlの濃度で添加し,72時間培養後,RNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN,74136)を用いてmRNAを回収した。
【0059】
回収したmRNAを用いて,M2マクロファージマーカーであるCD206及びIL-10の発現量をreal time PCRで定量した。real time PCRは反応キット(ThermoFishser scientific,TaqMan RNA-to-CT 1-Step Kit,4392938)及びCD206,IL-10とGAPDH特異的プローブ(ThermoFishser scientific,CD206:Hs07288635_g1,IL-10:Hs00961622_m1, GAPDH:Hs02786624_g1)を用いて行った。
【0060】
結果を
図8に示す。IL-34を添加した場合,濃度依存的にCD206及びIL-10の発現量の増加が見られ,M2マクロファージが誘導されたことが示唆される。一方で,同じ受容体CSF-1Rに結合するCSF-1ではそのような効果がなく,M2誘導はIL-34特異的であることも示唆された。以上の結果から,本発明の抗光老化効果では皮膚IL-34を増加させることにより,真皮M2マクロファージを誘導し真皮M1/M2バランスを調整することが示唆される。更には,真皮M2マクロファージの誘導は皮膚IL-34の増加による真皮CSF-1Rの増加といった真皮CSF-1Rへの作用を介する可能性も示唆される。
【0061】
従前の報告により,光刺激によりM1/M2のバランスの不均衡が生して光老化が引き起こされること,M1/M2のバランスの調整はタイム抽出物等のM1分化抑制作用がある成分をM1/M2バランス調整剤として適用することにより達成されることが示されている。本実験より,光老化には更に皮膚IL-34および真皮CSF-1Rも関与し,表皮IL-34とM1/M2バランスが相関すること,真皮IL-34と真皮CSF-1Rが相関すること,真皮CSF-1Rと真皮M2マクロファージの数と相関することが発見された。このことから,表皮IL-34が真皮にてM2マクロファージを誘導している可能性,真皮IL-34の増加によりその受け手であるCSF-1Rが増加している可能性,CSF-1Rの増加により受け取るIL-34が増加している可能性などが考えられる。
【0062】
さらに,タイム抽出物及びニコチン酸アミドには表皮IL-34の産生を促進する作用があること,M1マクロファージへの分化を抑制する作用のみならずM2マクロファージを誘導する作用があることも示された。したがって,タイム抽出物及び/又はニコチン酸アミドを適用することにより表皮IL-34を増加させることにより,場合により真皮CSF-1Rの増加及び/又はM1/M2バランスの調整を介して光老化の予防及び/又は改善が可能になることが期待される。