特開 2022-119276 ブラシ用毛材およびブラシ

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2022119276

(43)【公開日】2022-08-17

(54)【発明の名称】ブラシ用毛材およびブラシ

(51)【国際特許分類】

   A46D 1/00 20060101AFI20220809BHJP

   D01F 6/62 20060101ALI20220809BHJP

【ＦＩ】

A46D1/00 101

D01F6/62 305Z

D01F6/62 303F

【審査請求】未請求

【請求項の数】5

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2021016265

(22)【出願日】2021-02-04

(71)【出願人】

【識別番号】000219288

【氏名又は名称】東レ・モノフィラメント株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100182785

【弁理士】

【氏名又は名称】一條 力

(72)【発明者】

【氏名】土岐 美鈴

(72)【発明者】

【氏名】山本 健雄

【テーマコード（参考）】

3B202

4L035

【Ｆターム（参考）】

3B202AA01

3B202AA11

3B202AA14

3B202AA15

3B202AA16

3B202AA31

3B202AB00

3B202EA01

3B202EB13

3B202EB14

4L035AA05

4L035BB31

4L035DD02

4L035DD14

4L035DD20

4L035EE20

(57)【要約】      （修正有）

【課題】海洋環境負荷を低減したブラシ用毛材およびブラシを提供する。
【解決手段】ポリヒドロキシアルカン酸およびその誘導体を７０～１００質量％含む脂肪族ポリエステルが主成分の合成繊維からなるブラシ用毛材。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

ポリヒドロキシアルカン酸およびその誘導体を６０～１００質量％含む脂肪族ポリエステルを主成分とする合成繊維からなるブラシ用毛材。

【請求項2】

前記合成繊維の５０～１００質量％が非石油由来原料からなる請求項１に記載のブラシ用毛材。

【請求項3】

前記合成繊維の繊維軸と垂直方向の断面形状が３以上の葉裂部を有する多葉断面である請求項１または２に記載のブラシ用毛材。

【請求項4】

少なくとも一端がテーパー形状を有する請求項１～３のいずれかに記載のブラシ用毛材。

【請求項5】

少なくとも一部に請求項１～４のいずれかに記載のブラシ用毛を使用したブラシ。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、海水中で生分解する脂肪族ポリエステル系重合体を原料とする合成繊維を用いたブラシ用毛材およびブラシに関するものである。

【背景技術】

【0002】

近年、プラスチックが環境に与える影響が重要視されてきた。従来のプラスチックは、主原料が石油由来であるため、プラスチック製品が大量消費されることによる資源の枯渇や、使用後のプラスチック製品を燃焼処理することによる二酸化炭素の排出など、環境への負荷が高いことが問題視されている。さらに、世界的な人口増加に伴い、プラスチック製品使用量の増加が予想され、環境負荷は増加傾向にあると考えられている。

【0003】

特に、マイクロプラスチックは、長期に渡って分解されないプラスチックの細かい粒子が海洋を漂い、生物の体内へ取り込まれたり、プラスチックの添加成分が環境中へ流出したり、といった問題が指摘されており、注目されている。

【0004】

一方で、石油資源の枯渇や地球温暖化への対策として、非石油由来のプラスチックの開発も進められている。非石油由来のプラスチックの利用は、自然の恵みによりもたらされる持続的に再生可能な資源であるバイオマスの活用を通じて、循環型社会の形成の一端を担うものである。また、石油資源由来のＣＯ_２の発生を抑制できることから、カーボンニュートラルの考え方にも当てはまるものである。

【0005】

ここで、歯ブラシをはじめとするブラシの分野に目を向けてみると、例えば、歯ブラシは、世界中で１年間に約３６億本廃棄されていると言われており、今後も世界的な人口増加に伴い歯ブラシの廃棄量が増加することで、石油資源の枯渇及び海洋のマイクロプラスチックの増大が懸念される。また、筆ペンやリキッドアイライナーなど容器一体型のブラシは、容器中の液体が無くなれば廃棄される。他のブラシにおいても、廃棄量は増えており、同様の課題がある。さらに、特に研磨ブラシや歯ブラシ等は、磨くという行為に伴って、使用と共にブラシ毛材の先端が摩耗する。その破片は廃水と共に下水に流れ込み、海洋マイクロプラスチックの一部となってしまうことが懸念される。

【0006】

このように、環境負荷を低減できる可能性のあるブラシ類の開発が求められている。

【0007】

これらの問題に対し、例えば、生分解性樹脂製ハンドルに、生分解性樹脂製フィラメントを生分解性樹脂製平線を用いて打ち込み固定した生分解歯ブラシが提案されている（特許文献１）。しかし、ここで提案されている生分解歯ブラシは、コンポスト中での生分解反応は進むものの、海水中では分解が進まないため、近年注目されている海洋マイクロプラスチックの問題を解決することはできない。また、土壌中においても分解に時間がかかるという問題もあった。

【0008】

生分解性速度を改善する樹脂材料として、生分解性プラスチックと水膨潤性繊維乾燥粉末と肥料粉末との混合物からなる生分解性プラスチック成形品が提案されている（特許文献２）。しかし、繊維の場合には、製造の際に溶融樹脂を細い孔から押し出すため、大量の粉末を樹脂中に混ぜることは困難である。

【0009】

生分解性速度を改善した繊維として、芯鞘複合繊維の芯部に生分解性速度の速い樹脂、鞘部に遅い樹脂を配し、生分解性速度を調整した繊維（特許文献３）も提案されている。しかし、この発明は単糸繊度３．１デニール（直径換算で１７μｍ）のマルチフィラメントを対象としたものであり、ブラシに使用される直径１００μｍ以上のモノフィラメントの場合には生分解速度が著しく遅くなり、その改善効果は不十分なものであった。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0010】

【特許文献1】特開平９－３１３２５２号公報

【特許文献2】再表９９－４２５２７号公報

【特許文献3】特開平７－３０５２３４号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0011】

本発明の課題は、海洋環境負荷を低減したブラシ用毛材およびブラシを提供することである。

【課題を解決するための手段】

【0012】

本発明によれば、ポリヒドロキシアルカン酸およびその誘導体を６０～１００質量％含む脂肪族ポリエステルが主成分の合成繊維からなるブラシ用毛材が提供される。

【0013】

なお、本発明のブラシ用毛材においては、
前記合成繊維の５０～１００質量％が非石油由来原料からなること、
前記合成繊維の繊維軸と垂直方向の断面形状が３以上の葉裂部を有する多葉断面であること、および
少なくとも一端がテーパー形状を有すること、
がいずれも好ましい条件として挙げられ、これらの要件を満たした場合には、さらに優れた性能を発揮する。

【0014】

また、本発明のブラシは、前記のブラシ用毛材を少なくとも一部に使用したことを特徴とする。

【発明の効果】

【0015】

本発明によれば、以下に説明するとおり、海洋環境負荷を低減したブラシ用毛材およびブラシを提供することができる。したがって、本発明のブラシ用毛材は、歯ブラシ、ペイントブラシ、化粧ブラシ等のブラシ用途に極めて有用である。

【図面の簡単な説明】

【0016】

【図1】本発明のブラシ用毛材の繊維軸と垂直方向の断面形状を例示した図である。

【発明を実施するための形態】

【0017】

以下、本発明を詳細に説明する。

【0018】

本発明のブラシ用毛材は、ポリヒドロキシアルカン酸およびその誘導体を６０～１００質量％含む脂肪族ポリエステルを主成分とする合成繊維からなることを特徴とする。

【0019】

ここで、脂肪族ポリエステルとは、（ｉ）ポリエステルの繰り返し単位のエステル結合以外の骨格が脂肪族骨格のみで構成されているポリエステル（狭義の脂肪族ポリエステル）、および、（ｉｉ）芳香族ポリエステルと狭義の脂肪族ポリエステルとの共重合体であってポリエステルの繰り返し単位の５０ｍｏｌ％以上が脂肪族ポリエステルであるもの（広義の脂肪族ポリエステル）をいう。脂肪族ポリエステルを主成分とする合成繊維とは、合成繊維に含まれる成分のうち、脂肪族ポリエステルが５０質量％を超えて含まれる合成繊維をいい、かかる脂肪族ポリエステルの比率は、７０～１００質量％であればより好ましく、８０～１００質量％であればさらに好ましく、９０～１００質量％あれば特に好ましい。合成繊維中の脂肪族ポリエステルの含有率が上記の範囲外であると、生分解性能が不足することから、本発明の目的を達成できない。前記（ｉ）の脂肪族ポリエステルの例としては、ポリブチレンサクシネート（ＰＢＳ）、ポリエチレンサクシネート（ＰＥＳ）、ポリ（ブチレンサクシネート－ｃｏ－ブチレンアジペート）（ＰＢＳＡ）や、後述するポリヒドロキシアルカン酸（以下、ＰＨＡと表す）およびその誘導体（以下、ＰＨＡおよびその誘導体をＰＨＡ類と表す）が挙げられ、前記（ｉｉ）の脂肪族ポリエステルの例としては、前記（ｉ）と、既知のポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートとの共重合体のうち上記の範囲のものが挙げられる。

【0020】

本発明のブラシ用毛材は、脂肪族ポリエステル中にＰＨＡ類を６０～１００質量％含み、ＰＨＡ類を７０質量％以上含むことが好ましく、９０質量％以上含むことがさらに好ましく、１００質量％含むことが最も好ましい。なお、本発明において１００質量％とは、１質量％以上含まれる他の成分が存在しないことと定義する。脂肪族ポリエステル中のＰＨＡ類の含有率が上記範囲外であると、海洋環境での生分解性能が著しく低下する。

【0021】

ここで、ポリヒドロキシアルカン酸（ＰＨＡ）とは水酸基を置換基として有するアルキルカルボン酸が縮合した構造を有するポリマーを総称するものである。ＰＨＡ類の具体例を以下に示すが、これに制限されるものではない。ＰＨＡとしては、ポリ乳酸（以下、ＰＬＡと記載）、ポリグリコール酸（以下、ＰＧＡと記載）、ポリ-ε-カプロラクトン（以下、ＰＣＬと記載）、やポリヒドロキシ酪酸（以下、ＰＨＢと記載）、ポリヒドロキシカプロン酸（以下、ＰＨＨと記載）、ポリヒドロキシ吉草酸（以下、ＰＨＶと記載）、ポリヒドロキシカプリル酸（以下、ＰＨＯと記載）、および、ＰＨＡの誘導体としては、ポリ（３－ヒドロキシブチレート－ｃｏ－３－ヒドロキシヘキサノエート）（以下、ＰＨＢＨと記載）に代表されるそれらの共重合体等が挙げられる。

【0022】

また、必要に応じて本発明に係るＰＨＡ類と組み合わせて用いることができる脂肪族ポリエステル以外の合成樹脂としては、成形性と適度の柔軟性及び硬度を有し、微生物の作用により崩壊し得る樹脂が好ましく、例えば、澱粉と変性ポリビニルアルコールとのブレンド物、澱粉と生分解性合成ポリマーとのブレンド物等の天然高分子（澱粉）系樹脂等が挙げられる。

【0023】

本発明のブラシ用毛材は、合成繊維の５０～１００質量％が非石油由来原料からなることが好ましく、７０～１００質量％であることがより好ましく、９０～１００質量％であることがさらに好ましい。非石油由来原料とは、バイオマス自体がポリマーであるもの、バイオマス由来モノマーを化学的に重合したもの、微生物が体内でバイオマスを重合するものを含む。例えば、植物原料であるデンプンを出発物質として、乳酸菌による発酵合成法でＰＬＡを得ることができる。また、ＰＨＢはバクテリアが体内で生産するポリマーであり、この他にも微生物の体内で生産されるＰＨＡ類は数種類発見されている。非石油由来原料が上記の範囲であれば、海洋環境負荷が小さくなるだけでなく、地球温暖化ガス削減や循環型社会の推進にも寄与できる可能性があるため、好ましい。

【0024】

本発明のブラシ用毛材に用いられる合成繊維の形態としては、フィラメント、ステープル等、特に制限されるものではないが、モノフィラメントであることが好ましい。モノフィラメントとは、直径が２０μｍ～６ｍｍの独立した形態を有する糸である。なお独立した形態とは、撚り合わされたものではないことをいい、平行に引きそろえて束ねられたものはモノフィラメントの集合体として取り扱う。

【0025】

また、本発明のブラシ用毛材は、合成繊維の繊維軸と垂直方向の断面形状が３以上の葉裂部を有する多葉断面であることが好ましい。ここで、本発明における多葉断面とは、複数の凹部と凸部とを有する断面形状であり、凹部が合成繊維の繊維軸方向に沿って形成する溝を葉裂部という。

【0026】

通常、ブラシに使用される毛材は、その太さを調整することで毛としての弾力性や反発性を調整し、ブラシの硬さを調整している。しかし、本発明のポリヒドロキシアルカン酸およびその誘導体を６０～１００質量％含む脂肪族ポリエステルが主成分の合成繊維は、原料特性によって柔らかい繊維となりやすく、ブラシに必要な硬さがでるまで太くすると、異物感を感じる程であった。また、本発明の目的である海洋環境負荷低減には、海水中での生分解が早く進むことが望ましいが、太い繊維では生分解に時間がかかるという問題もあった。発明者らは、ブラシに必要な硬さと生分解速度という相反する特性を両立するため、鋭意検討を重ね、合成繊維の断面形状を３以上の葉裂部を有する多葉断面とすることでこれらの特性を両立しうることを見いだした。

【0027】

より具体的には、本発明の多葉断面とはＹ字、星型、ギア型を含むものであり、葉裂部が上記の個数存在すれば、葉裂部や葉部の形状は問わない。図１に断面形状の例を示す。葉裂部や葉部が滑らかな曲線（例えば、図１（Ｄ）の葉部、（Ｅ）の葉部および葉裂部や（Ｆ）の葉裂部）であっても、鋭い溝状（例えば、図１（Ａ），（Ｄ）の葉裂部や（Ｂ）の葉部および葉裂部）あっても、矩形（例えば、図１（Ａ）の葉部や（Ｃ）の葉部および葉裂部）であってもよい。

【0028】

断面形状を上記態様とすることで、ブラシに必要な硬さを持ちながらも適度な生分解速度をも達成することができ、３～６の葉裂部を有する多葉断面であることがさらに好ましい。

【0029】

さらに、本発明のブラシ用毛材は、少なくとも一端がテーパー形状を有する場合には、狭い隙間の清掃性を向上したり、ブラシの先端にしなやかさを持たせたり、肌あたりを滑らかにしたりする効果が望めるため好ましい。好ましいテーパー形状としては、先端から０．５ｍｍの部分が毛材の長手方向の中央部の横断面の９０％以下の直径であることが好ましく、さらに好ましくは８０％以下、最も好ましくは５０％以下である。また、テーパー形状とするための加工については、特に制限されるわけではないが、先端形状を安定化および上記のような形状を得るためにケミカル加工が好ましい。

【0030】

本発明のブラシ用毛材において、合成繊維の太さは任意であるが、合成繊維の繊維軸と垂直方向の断面積が１μｍ^２～１００ｍｍ^２であることが好ましく、３００μｍ^２～１００ｍｍ^２であることがより好ましく、９００μｍ^２～１ｍｍ^２であることがさらに好ましく、５，０００μｍ^２～１ｍｍ^２であることが特に好ましく、最も好ましくは１０，０００μｍ^２～０．２５ｍｍ^２である。例えば歯ブラシにおいては、上記の断面積範囲とすることにより、歯間への侵入性と侵入後の清掃性を両立でき、優れた使用感を発揮できる。

【0031】

本発明のブラシ用毛材は、人工海水中での１ヶ月後の生分解度が１５以上であることが好ましい。人工海水中での１ヶ月後の生分解度は生分解性の指標であり、かかる条件を満たすことにより、優れた環境負荷低減効果を得ることができる。このような観点から人工海水中での１ヶ月後の生分解度は、２５以上がより好ましく、５０以上となることがより好ましい。

【0032】

人工海水中での１ヶ月後の生分解度とは、ＩＳＯ／ＴＣ６１に規定される生分解性プラスチックの海洋中での分解評価に用いられる人工海水に準じた人工海水（調整法は以下の通り）を用い、人工海水中にブラシ用毛材１ｇ程度を投入し、３０℃環境下、１ヶ月後の重量減少率を測定することにより得られる。
（人工海水の調製）
市販の海水用塩を、塩分濃度３５±１質量％になるように精製水に溶解して水槽に満たし、さらに水槽に市販のソイルを加え、市販の海水用スターターキットを適量加え、バクテリアを培養する。アンモニア・亜硝酸が検出されなくなり、硝酸が１０ｍｇ／Ｌ程度となったのを確認した後、人工海水として試験に供する。

【0033】

なお本発明で用いる合成繊維には、例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収材、酸化防止剤、結晶化抑制剤、及び可塑剤等の添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合工程、重合後あるいは紡糸直前に添加することができる。

【0034】

本発明の目的は海水中で分解し、マイクロプラスチックの増加を抑制することであるため、海洋への異物という意味では、添加剤はできるだけ少量であることが好ましく、添加剤を含まないことがさらに好ましい。

【0035】

本発明のブラシ用毛材の製造方法は、特に制限されることはなく、乾式・湿式・溶液紡糸でも良いが、環境負荷低減のために溶融紡糸が特に好ましい。単一・複合紡糸いずれも問題ない。紡糸された合成繊維は束ねて固定し、必要な長さに切られてブラシ用毛材として使用される。好ましいブラシの毛丈（ブラシ根元から毛先までの長さ）の範囲は、その用途にもよるが、１～１００ｍｍの範囲が例示され、より好ましくは、５～３５ｍｍの範囲である。

【0036】

本発明のブラシ用毛材を少なくとも一部に使用したブラシは、上述の通り、海洋環境負荷を低減したものとなる。

【0037】

さらに、本発明のブラシ用毛材をブラシに用いる際の植毛方法は、その用途に適した方法で植毛されていればよく、一般に歯ブラシ用途においては、平線植毛および無平線植毛があるが、いずれの植毛方法においても対応可能であり、その他方法でも良く、何ら制限を受けない。

【実施例0038】

以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。

【0039】

各特性の測定は、以下の様に行った。

【0040】

（１）合成繊維の繊維軸と垂直方向の断面形状および断面積
合成繊維を固定し、ミクロトームで繊維軸と垂直方向にカット、横断面をマイクロスコープ（ＫＥＹＥＮＣＥ製、ＶＨ－ＺＳＴ）で２００倍に拡大し、断面形状の確認および断面積の測定を行った。

【0041】

（２）生分解度
ＩＳＯ／ＴＣ６１に規定される生分解性プラスチックの海洋中での分解評価に用いられる人工海水に準じ、下記の手順で作製した人工海水を用いた。

【0042】

市販の海水用塩を用い、塩分濃度３４～３６％になるように調整した人工海水の前駆溶液３Ｌを水槽に加え、さらに水槽に市販のソイルを加え、市販の海水用スターターキットを適量加え、バクテリアを培養した。試験できる状態は、アンモニア・亜硝酸が検出されなくなり、硝酸が１０ｍｇ／Ｌ程度となった状態とし、これを人工海水とした。

【0043】

この人工海水中に用毛１ｇを投入し、３０℃環境下、１ヶ月後の重量減少率を生分解度とした。

【0044】

［実施例１～６］
表１記載の性質の山東省意可曼科技製ＰＨＡ ＥＭ１００８０樹脂（非石油由来原料１００質量％）をΦ６０ｍｍ（Ｌ／Ｄ＝２５）の１軸エクストルーダーを有する溶融紡糸装置に供給して紡糸温度２８５℃で溶融した。溶融樹脂は延伸後の繊維軸方向の横断面と横断面積が表１記載となるようにギヤポンプで計量した後、表１記載の孔形状の口金孔より紡出した。記号は図１の各図に対応する。紡出したストランドを温度２５℃の温水を満たした冷却浴に導入し、３０秒冷却浴内を通過させたのち、表面速度３ｍ／分で回転する第１ロールにより引き取った。引き取った未延伸の合成繊維は、一旦巻き取ることなく連続して第１ロールと第２ロール間で延伸倍率３．５倍で一段延伸し、第２ロールと第３ロール間で１倍の弛緩処理を施した後、巻取り機に巻き取った。なお、第１ロールと第２ロール間には延伸熱源として長さ１５００ｍｍ、温度８０℃の温水浴を設置した。かくして得られた合成繊維の特性を表１に示す。

【0045】

【表1】

【0046】

［実施例７～１２］
ＰＨＡ ＥＭ１００８０樹脂と三菱ケミカル製ＢｉｏＰＢＳ（登録商標）ＦＺ７１ＰＢ樹脂（非石油由来原料割合１００質量％）、またはＰＨＡ ＥＭ１００８０樹脂と東レ製トレコン（登録商標）１２００Ｓ樹脂（非石油由来原料割合０質量％）を表１に記載の割合で混合した樹脂を実施例１と同様の方法で合成繊維にした場合の特性を表１に示す。

【0047】

［比較例１～４］
トレコン（登録商標）１２００Ｓ樹脂およびＢｉｏＰＢＳ（登録商標）ＦＺ７１ＰＢ樹脂をそれぞれ単独で実施例１と同様の方法で合成繊維にした場合の特性を表２に示す。

【0048】

【表2】

【0049】

実施例７、１０、１２、比較例２および３の合成繊維を３ｃｍにカットし、ブラシ用毛材として歯ブラシ（４列コンパクトタイプ）に植毛した。植毛には辻村機械（株）製全自動植毛機を用いた。その歯ブラシを用いて、ＪＩＳ Ｓ ３０１６－１９９５ ５．３（２．２）に準じて毛の硬さを測定した。ただし、歯ブラシの毛の長さは１３．０ｍｍとした。測定結果を表３に示す。

【0050】

【表3】

【産業上の利用可能性】

【0051】

本発明によれば、上記の通り、海洋環境負荷を低減したブラシ用毛材が得られるため、あらゆるブラシに適用でき、特に、歯ブラシ、舌ブラシ、化粧ブラシ、フェイシャル用ブラシ、塗布用ブラシ、液晶洗浄用ブラシ等に好適なものである。

【符号の説明】

【0052】

１ ブラシ用毛材
２ 葉裂部
３ 葉部

【図1】