(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119285
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220809BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M1/08 A
H02M7/48 L
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016277
(22)【出願日】2021-02-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲治
(72)【発明者】
【氏名】熊本 佳人
(72)【発明者】
【氏名】若松 降仁
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH07
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770FA03
5H770HA03W
5H770HA14W
5H770JA09X
5H770JA11W
5H770JA14W
5H770JA17W
5H770LA10W
5H770LB02
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】上相側FETに印加される高電圧によって誤動作し、上下相のアーム短絡が発生することを防止できる電力変換装置の制御装置を提供する。
【解決手段】バッテリ50の正、負極端P,N間にフューズ51、メインコンタクタ52および電解コンデンサC21を直列に接続し、電解コンデンサC21の正、負極端間に、上相側FET(54U,54V,54W)および下相側FET(54X,54Y,54Z)をブリッジ接続したインバータ54を接続し、電解コンデンサC21の予備充電用の抵抗R1をメインコンタクタ52に並列に接続し、前記抵抗R1の抵抗値を、バッテリ50を接続してからキースイッチをオンするまでの予備充電期間において、上相側FETがオフ、下相側FETがオンに制御されたときに、上相側FETがオンとならないゲート-ソース間電圧に抑えることができる電解コンデンサC21の充電電圧値となるように設定した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の正、負極端間に、上相側FETおよび下相側FETがブリッジ接続される電力変換部と、
前記電力変換部の上相側FETおよび下相側FETの直列回路に並列に接続された電解コンデンサと、
前記直流電源の正極端と電解コンデンサの正極端とを結ぶ電路に介挿されたメインコンタクタと、
前記メインコンタクタに並列に接続され、設定した充電時定数で前記電解コンデンサを充電するための第1の充電用抵抗と、
前記第1の充電用抵抗に並列に接続され、キースイッチをオンしてから設定時間後にオン制御される充電用FETと第1の充電用抵抗よりも短い充電時定数に設定された第2の充電用抵抗との直列回路と、
前記電力変換部の上相側FETのゲートを駆動する上相側FETアームゲート駆動回路と、
前記電力変換部の下相側FETのゲートを駆動する下相側FETアームゲート駆動回路と、
前記キースイッチのオンによりゲート用電源が立上がり、且つ前記下相側FETがオン制御されたときに充電されて、前記上相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる上相側ゲート駆動用電源コンデンサと、
前記キースイッチのオンによるゲート用電源立上がり時に充電されて、前記下相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる下相側ゲート駆動用電源コンデンサとを備え、前記直流電源の接続又は切り離しを自在に構成した電力変換装置において、
前記第1の充電用抵抗の抵抗値を、前記直流電源を接続状態にしてからキースイッチをオンするまでの予備充電期間において、前記上相側FETがオフ、下相側FETがオンに制御されたときに、上相側FETがオンとならないゲート-ソース間電圧に抑えることができる前記電解コンデンサの充電電圧値となるように設定し、
前記電力変換部を動作させる前であって、前記キースイッチのオン後に、電解コンデンサの電圧が、前記設定された充電電圧値になっているときに、前記下相側FETをオン制御して前記上相側ゲート駆動用電源コンデンサを充電し、前記下相側FETのオン制御後に前記充電用FETをオン制御し、前記メインコンタクタの両端の電位差が設定値以下となったらメインコンタクタを投入した後、電力変換部の動作を開始する制御部を設けたことを特徴とする電力変換装置の制御装置。
【請求項2】
前記予備充電期間における電解コンデンサの充電電圧値は、前記電力変換部の上相側FETおよび下相側FETを金属ベース基板に実装したときの、金属ベース基板と上相側FETおよび下相側FETの各端子間に生じる各種寄生容量を考慮し、ドレイン-ソース間に瞬時的な電圧を印加した際にゲート-ソース間に生じる電圧を計測し、前記各種寄生容量を経由してゲート-ソース間電圧Vgsに過渡的に印加される電圧値を、ドレイン-ソース間の低電圧が一定時間続くことによる故障検知が動作する電圧値に比べて十分大きい範囲にて低くなるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御装置。
【請求項3】
直流電源の正、負極端間に、上相側FETおよび下相側FETがブリッジ接続される電力変換部と、
前記電力変換部の上相側FETおよび下相側FETの直列回路に並列に接続された電解コンデンサと、
前記直流電源の正極端と電解コンデンサの正極端とを結ぶ電路に介挿されたメインコンタクタと、
前記メインコンタクタに並列に接続され、設定した充電時定数で前記電解コンデンサを充電するための第1の充電用抵抗と、
前記第1の充電用抵抗に並列に接続され、キースイッチをオンしてから設定時間後にオン制御される充電用FETと第1の充電用抵抗よりも短い充電時定数に設定された第2の充電用抵抗との直列回路と、
前記電力変換部の上相側FETのゲートを駆動する上相側FETアームゲート駆動回路と、
前記電力変換部の下相側FETのゲートを駆動する下相側FETアームゲート駆動回路と、
前記キースイッチのオンによりゲート用電源が立上がり、且つ前記下相側FETがオン制御されたときに充電されて、前記上相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる上相側ゲート駆動用電源コンデンサと、
前記キースイッチのオンによるゲート用電源立上がり時に充電されて、前記下相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる下相側ゲート駆動用電源コンデンサとを備え、
前記直流電源の接続又は切り離しは自在に構成され、
前記第1の充電用抵抗の抵抗値は、前記直流電源を接続状態にしてからキースイッチをオンするまでの予備充電期間において、前記上相側FETがオフ、下相側FETがオンに制御されたときに、上相側FETがオンとならないゲート-ソース間電圧に抑えることができる前記電解コンデンサの充電電圧値となるように設定された電力変換装置の制御方法であって、
制御部が、前記電力変換部を動作させる前であって、前記キースイッチのオン後に、電解コンデンサの電圧が、前記設定された充電電圧値になっているときに、前記下相側FETをオン制御して前記上相側ゲート駆動用電源コンデンサを充電するステップと、
制御部が、前記下相側FETのオン制御後に前記充電用FETをオン制御し、前記メインコンタクタの両端の電位差が設定値以下となったらメインコンタクタを投入した後、電力変換部の動作を開始するステップと、を備えたことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばバッテリフォークリフトなどの電動車両の駆動に適用され、パワーMOSFETなどを主制御回路に用いたインバータ・コンバータなどの電力変換装置の制御装置に関する。
【0002】
特に、FETを上下相アームに装備し、上相側FETアームのゲート駆動用エネルギーをブートストラップ回路のコンデンサに蓄えてFETゲートを駆動するように構成されたFETアームゲート駆動回路を有する制御装置、制御方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の、バッテリフォークリフトなどの電動車両の駆動に適用される電力変換装置の構成例を
図1~
図5に示す。
図1はバッテリを電源とする電動車両のモータ駆動用インバータの全体構成を示し、50は電源用のバッテリである。バッテリ50の正極端Pと負極端Nの間には、保護フューズ51、異常時電源遮断用のメインコンタクタ(MC)52および電源平滑用の電解コンデンサC21が直列に接続されている。
【0004】
フューズ51およびメインコンタクタ52の共通接続点(P2)とメインコンタクタ52および電解コンデンサC21の共通接続点(P3)の間には、長時間時定数で電解コンデンサC21へ電荷を充電するための充電用抵抗(第1の充電用抵抗)R1が接続されている。
【0005】
充電用抵抗R1には、Pチャネル型の充電用FET53と充電用抵抗R1よりも短い充電時定数で電解コンデンサC21へ電荷を充電するための充電用抵抗(第2の充電用抵抗)の直列回路が並列に接続されている。
【0006】
充電用抵抗R1とR3の共通接続点(電解コンデンサC21の正極端P3)と電解コンデンサC21の負極端(N)の間には、バッテリ50のオフ時(バッテリ50の接続を切り離したとき)に電解コンデンサC21の電荷を放電させる放電用抵抗R2が接続されている。
【0007】
電解コンデンサC21の正極端(P3)と負極端(N)の間には、上相側FET54U,54V,54Wおよび下相側FET54X,54Y,54Zを3相ブリッジ接続したインバータ54(電力変換部)が接続されている。前記各FET54U,54V,54W,54X,54Y,54Zは、例えばnチャネル型のMOSFETで構成されている。
【0008】
U相FET54UおよびX相FET54Xの直列回路には抵抗55Uおよび抵抗55Xの直列回路が並列に接続され、抵抗55Uおよび55Xの共通接続点は前記FET54Uおよび54Xの共通接続点に接続されている。
【0009】
V相FET54VおよびY相FET54Yの直列回路には抵抗55Vおよび抵抗55Yの直列回路が並列に接続され、抵抗55Vおよび55Yの共通接続点は前記FET54Vおよび54Yの共通接続点に接続されている。
【0010】
W相FET54WおよびZ相FET54Zの直列回路には抵抗55Wおよび抵抗55Zの直列回路が並列に接続され、抵抗55Wおよび55Zの共通接続点は前記FET54Wおよび54Zの共通接続点に接続されている。インバータ54の交流側u,v,wはモータ56に接続されている。
【0011】
図中のVp4は抵抗55U、55Xの分圧点電圧、Vp5は抵抗55V、55Yの分圧点電圧、Vp6は抵抗55W、55Zの分圧点電圧を各々示し、図示省略の制御部を構成するCPUに入力される。
【0012】
図1の装置における、上相側FETアームゲート駆動回路と下相側アームゲート駆動回路の例を
図2に示す。
図2は、例としてU相、X相のFETアームゲート駆動回路の構成を示している。
【0013】
図2において、60は、U相FET54U、X相FET54Xのゲートを駆動する高耐圧IC(High Voltage Integrated Circuit:以下HVICと称する)である。
【0014】
62は、ハイサイド入力端子61Hから入力されるハイサイド回路側のゲート制御信号(HIN)のレベルをアップさせるレベルシフタである。レベルシフタ62の出力側にはハイサイド側の内部回路63Hが接続され、内部回路63Hの出力側には、2つのnチャネル型のFET64Ha、64Hbを縦続接続したトーテムポール回路が接続されている。
【0015】
63Lはローサイド入力端子61Lから入力されるローサイド回路側のゲート制御信号(LIN)が入力されるローサイド側の内部回路であり、内部回路63Lの出力側には、2つのnチャネル型のFET64La、64Lbを縦続接続したトーテムポール回路が接続されている。
【0016】
ハイサイド入力端子61Hと接地間には抵抗65Hが接続され、ローサイド入力端子61Lと接地間には抵抗65Lが接続されている。
【0017】
70は、例えば14Vのゲート電源を出力するゲート用電源であり、ゲート用電源70の出力側には、ダイオードD1のアノード、カソードを介してコンデンサC31(上相側ゲート駆動用電源コンデンサ(ブートストラップコンデンサ))が接続されるとともに、ダイオードD2のアノード、カソードを介してコンデンサC32(下相側ゲート駆動用電源コンデンサ)が接続されている。
【0018】
コンデンサC31の一端(ダイオードD1側端)はFET64Ha、64Hbからなるトーテムポール回路の接地側端に接続されている。
【0019】
コンデンサC32の一端(ダイオードD2側端)はFET64La、64Lbからなるトーテムポール回路の接地側端および図示省略のバッテリ50の負極端(N)に接続されている。
【0020】
FET64Ha、64Hbからなるトーテムポール回路の出力端(FET64Ha、64Hbの共通接続点)は抵抗R11を介してU相FET54Uのゲートに接続され、FET64Ha、64Hbからなるトーテムポール回路の接地側端は抵抗R12を介してU相FET54Uのソースに接続されている。U相FET54Uのゲート-ソース間には抵抗R14が接続されている。
【0021】
FET64La、64Lbからなるトーテムポール回路の出力端(FET64La、64Lbの共通接続点)は抵抗R13を介してX相FET54Xのゲートに接続され、X相FET54Xのゲート-ソース間には抵抗R15が接続されている。
【0022】
前記FET64Ha、64Hbからなるトーテムポール回路の接地端および抵抗R12の共通接続点にはダイオードD3のカソードが接続され、ダイオードD3のアノードはバッテリ50の負極端(N)(X相FET54Xのソース)に接続されている。
【0023】
前記バッテリ50は接続、切り離しが自在に構成されている。
【0024】
尚V相、Y相のFETアームゲート駆動回路、W相、Z相のFETアームゲート駆動回路も
図2と同様に構成されている。
【0025】
上記のように構成された装置では、バッテリ50を接続し、図示省略のキースイッチをオンして電解コンデンサC21を充電し、メインコンタクタ52を投入した後にインバータ54の駆動を開始するものであるが、インバータ54の駆動開始までのシーケンスを以下に説明する。
【0026】
(1)バッテリ50が接続され、次にキースイッチがオンされると、メインコンタクタ(MC)52を投入する。投入する場合、必要な条件は、メインコンタクタ52の機械接点を閉極すると、バッテリ50から電解コンデンサC21に充電ラッシュ電流が流れる。これをコンタクタ接点が許容可能なピーク電流値に抑えるためには、メインコンタクタ52の1次-2次電位差を低くして接点を閉極する必要がある。
【0027】
尚、バッテリ50→ケーブル→メインコンタクタ52→電解コンデンサC21の経路は、
図3に示すようにケーブルのインダクタ、ケーブル抵抗、バッテリ内部等価抵抗、によってLRCで構成された回路になっている。
【0028】
図3において、Eはバッテリ50の電圧、Lはケーブルのインダクタ、Rはケーブル抵抗、バッテリ抵抗、C1は電解コンデンサC21のキャパシタンスを示している。
【0029】
回路方程式は、
【0030】
【0031】
である。
【0032】
ここで、Lは小さいので計算上無視すると、メインコンタクタ52が閉極した時の電流iは、
【0033】
【0034】
となり、電圧差が低いほどピーク電流値は低くなる。このことから、メインコンタクタ52の1次-2次電位差を小さくしてやることが、コンタクタの突入電流抑制のために良いことである。
【0035】
バッテリ50を接続した時点から、抵抗R1を通して電解コンデンサC21は充電され、キースイッチオン時にメインコンタクタ1次-2次電位差が所定の電圧差以下になっていなかった場合は、さらに電解コンデンサC21を充電させるために、充電用FET53をオンさせて、抵抗R3を通して充電動作をして、コンタクタの電極間電位差が所定の値以下になったときに、メインコンタクタ52を閉極する。
【0036】
(2)メインコンタクタ52が閉極完了したら、インバータ54は動作開始可能となる。
【0037】
ただし、インバータ54の上相側FETアームゲート駆動回路(例えば
図2のU相FETアームゲート駆動回路)には、ゲート駆動用電源エネルギーが蓄積していない。すなわち、U相FET54Uの各端子に寄生する静電容量とFETアームゲート駆動回路の関係を示す
図5において、チャージポンプ動作(コンデンサC31の充電動作)が一度も実施されていないため、この時点では、HVIC60のハイサイドアーム駆動用のFET64Ha,64Hbで構成されたトーテムポール出力は、ソース側・シンク側ともにオフとなっている。
【0038】
図5において
図2と同一部分は同一符号をもって示しているが、
図2のダイオードD3、抵抗R13,R15とHVIC60内のレベルシフタ62および抵抗65H,65Lは図示省略している。
【0039】
U相FET54UのCrssはドレイン-ゲート間静電容量(帰還容量)、Cgsはゲート-ソース間静電容量(入力容量)を示している。
【0040】
U相FET54Uは、HVIC60のハイサイドアーム駆動用FETFET64Ha,64Hbがオフの状態であるので、仮にこの状態でゲート-ソース間電圧Vgsに外部からノイズなどにより電荷がチャージされるような状況になった場合は、ゲート-ソース間の抵抗R14の放電能力以外、誤動作を防止できる手段はない。
【0041】
(3)上相側(U相)FETアームゲート駆動回路および下相側(X相)FETアームゲート駆動回路のゲート駆動用電源エネルギーの充電シーケンス
(3-1)X相FETアームゲート駆動回路のゲート駆動用電源エネルギーの充電シーケンス(
図2と同様にゲート駆動回路の構成を図示した
図4参照)
X相FETアームゲート駆動回路のゲート駆動用電源エネルギーの充電は、ゲート用電源70が確立された時点で、ゲート用電源70→ダイオードD2→コンデンサC32→0Vの回路によってゲート駆動用の電源コンデンサC32に充電が行われる。この充電は、主回路FETのオン・オフにかかわらず常時充電回路が構成されているので、常時充電される。
【0042】
(3-2)U相FETアームゲート駆動回路のゲート駆動用電源エネルギーの充電シーケンス
(3-2-1)電解コンデンサC21の正極端P3の電圧は、バッテリ電圧であり、公称電圧72V以上となる。ゲート用電源70からコンデンサC31へ電流を通電することで、C31が充電されるが、その充電回路は、下相側FET(X相)が導通(オン)することにより以下の充電回路が形成され、コンデンサC31が充電される。
【0043】
ゲート用電源70→ダイオードD1→コンデンサC31→抵抗R12→X相FET54X→0V
(3-2-2)X相FET54Xをオン動作する機会は、インバータ54を動作させるその時となる。インバータ動作では、上相側アーム駆動がオンの時は下相側アーム駆動はオフ、上相側アーム駆動がオフの時は下相側アーム駆動はオンというように、一般的に相補PWM動作を行うが、コンデンサC31が充電されていない場合、上相側FETはオン動作できない。次の下相側FET(X相)がオン駆動されたときに、コンデンサC31が充電される。
【0044】
コンデンサC31が充電されたとき、上相側FETアーム駆動回路のトーテムポール出力FET(64Ha,64Hb)の上下いづれかが動作に従ってオンまたはオフの動作を行う。
【0045】
(3-2-3)インバータ54が継続的に、上下アームFETが相補PWMで駆動継続している場合は、コンデンサC31の電荷は継続的に下相側FET(X相)がオンしたときに充電されるため、上相側FET(U相)の駆動回路は安定的にオン・オフを継続できる。
【0046】
尚、従来の電力変換装置におけるFETのゲート駆動回路は例えば特許文献1、2に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】特開2019-33621号公報
【特許文献2】特開2010-200554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0048】
前記「背景技術」の欄の(3-2-2)項において、インバータ動作時に下相側FET(X相FET54X)がオンするときに、下相側FETのドレイン-ソース間電圧は、
図1の分圧抵抗55U,55Xにより印加されている電圧値(Vp4)から、急激にゼロボルトになる。
【0049】
この時、上相側FET(U相FET54U)のドレイン-ソース間には、非常に大きな+のdv/dtが印加されることになる。
【0050】
その場合、FETの内部に形成されている、
図5に示すCrss(ドレイン-ゲート間静電容量)、Cgs(ゲート-ソース間静電容量)は、U相FET54Uのドレイン-ソースに印加されたVds電圧に対して、直列に接続された状態となり、Crss、Cgsには電荷が充電されることになる。
【0051】
通常のゲート駆動状態であれば、前述のU相FET54Uのゲート駆動回路用電源エネルギー(コンデンサC31の充電電圧)があり、HVIC60のU相側アーム駆動用FET64Ha,64Hbで構成されたトーテムポール出力はゲート駆動回路がオフ方向に出力が動作(シンク動作)しているので、Cgsに充電される電荷は抵抗R11+抵抗R12で放電されて、Cgsの電荷は、充電されないため、ゲート-ソース間電圧Vgsは上昇せず、U相FET54Uはオン動作に移行しない。
【0052】
しかし、最初の駆動時には、U相FET54Uのゲート駆動回路用電源エネルギーがないため、HVIC60のU相アーム駆動用FETで構成されたトーテムポール出力はシンク・ソース側ともに動作していない(オフ状態)ため、印加されたVdsによりCgsに充電された電荷は、抵抗R14(高抵抗)を通しての放電しかできないため、Vds値と、Crss、Cgs、Vgs(th)(FETの特性値であり、あるドレイン-ソース電圧において、FETの導通状態が切り替わる(ドレイン-ソース間に閾値以上の電流が流れ始める)ゲート-ソース間電圧Vgsの閾値)によっては、U相FET54UにVdsが印加された(=下相側(X相)FETがターンオンした)時に、上相側(U相)FET54Uがオン動作(完全なオン状態ではないが、活性状態となる一定以下のオン抵抗値になる)ことで、端子P3電源から上相側(U相)FET54U→下相側(X相)FET54Xへのアーム短絡電流が流れる場合が生じる。
【0053】
Cgsの電圧は、以下のように求められる。ドレイン-ゲート-ソース間で静電容量の直列合成値をCとすると
【0054】
【0055】
ドレイン-ソース間に電圧Vが印加された場合、ドレイン-ソース間に蓄えられる電荷Qは、
【0056】
【0057】
より、
【0058】
【0059】
となる。
【0060】
また、当該電子部品等を搭載する回路基板において、裏側が金属板となっている金属ベース基板を使用した場合、これらFET端子間の静電容量以外に、ベース金属と各端子間の静電容量が、この特性に影響を及ぼす。
【0061】
ここで、
図1、
図2のU相FET(54U)とX相FET(54X)を前記金属ベース基板に実装した場合の各種寄生容量の様子を
図9とともに説明する。
【0062】
図9においてBattは
図1のバッテリ50、C4は
図1の電解コンデンサC21を各々示している。
【0063】
U相FET(54U)とX相FET(54X)は金属ベース基板に、並列ではんだ実装されている。
【0064】
C1,C5はゲート-ソース間静電容量、C2,C6はドレイン-ゲート間静電容量、C3,C7は出力容量である。
【0065】
C8~C12は、ベース金属(アルミ)とパターンの間の絶縁層の誘電率に構成される静電容量であり、これらの静電容量が特性に影響を及ぼす。
【0066】
上相側FET(U相FET54U)、下相側FET(X相FET54X)の各静電容量特性をCrss=105pF、Cgs=5270pFとし、両者の直列合成値Cを計算すると、
直列合成値C=105×5270/(105+5270)=102.9pF
Q=CV=102.9pF×24v=2469.6[pC]
Vgs=Q/Cgs=2469.6p/5270p=0.46[V]となる。
【0067】
Crss、Cgsの数値より求めたゲート-ソース間電圧Vgsへの影響は上記のとおりであるが、これらはFET単体での計算によるものである。
【0068】
しかしながら実際のインバータ状態(FETを金属ベース基板に実装した状態)でのVgsを測定した結果、5V程度まで上昇していた。
【0069】
そのため、上相側(U相)FETは、オン動作となり、上下FETに短絡電流が短時間通電されてしまう。
【0070】
この予防策として、従来技術では次の対策が存在する。
【0071】
(1)
図2、
図5に示すVgs間の並列抵抗R14をより低抵抗にする。
【0072】
→問題点:抵抗R14は、FETをオン駆動した時に駆動用回路消費電流が大きくなるため、上相側FET駆動電源用コンデンサ(C31)の静電容量を大きくする必要がある。そして消費電流が大きくなる、さらには、電荷を充電するための時間が長くなるので、下相側FETの最低オン導通率を大きくする必要が生じるため、インバータの最低動作電圧が悪化する。
【0073】
(2)FETのゲート-ソース間に並列にコンデンサを挿入し、Cgsを大きくし、Cgsの電圧を下げる。
【0074】
→問題点:前記(1)と同じ問題点が生じる。さらに、ゲート駆動回路の電流制限がある場合、FETをゲート駆動する際に、Vgsの充電時定数が、増加してしまうため、ターンオン・ターンオフ時の過渡期間が長くなり、その間のFETスイッチング損失が大きくなり、発熱が高くなる。
【0075】
次に、
図1~
図5の装置におけるキースイッチオンからインバータ動作開始までの従来の処理の一例を
図6、
図7とともに説明する。従来の処理のフローチャートを示す
図6において、
図1のバッテリ50はステップS1以前に回路に接続される。そしてステップS1においてキースイッチをオンする。
【0076】
次にステップS2では、
図1の電解コンデンサC21の正極端P3の電圧が63V以下になったか否かを判定し、その判定結果がYESの場合はステップS3において急速充電処理(充電用FET53をオン)する。
【0077】
次にステップS4では、前記正極端P3の電圧が5V以下で且つその状態が0.6秒連続したか否かを判定する。ステップS4の判定結果がYESの場合はステップS5にて所定の急速充電エラー処理(インバータの主回路FETならびに電解コンデンサC21が短絡していると判定し、その異常状態を図示省略の上位コントローラに伝える等の処理)を行う。
【0078】
ステップS4の判定結果がNOの場合か、またはステップS5の処理後は、ステップS6において前記正極端P3の電圧が63V以下であり、且つその状態が3.6秒連続したか否かを判定する。
【0079】
ステップS6の判定結果がYESならステップS7において所定の急速充電エラー処理(エラー状態を図示省略の上位コントローラに伝える等の処理)を行う。
【0080】
ステップS6の判定結果がNOの場合か、またはステップS7の処理後は、ステップS8において、前記正極端P3の電圧が3V以下であり、且つその状態が15秒連続したか否かを判定する。
【0081】
ステップS8の判定結果がYESの場合はステップS9において上下相のFETがショートしていると判断する。
【0082】
前記ステップS2の判定結果がNOの場合か、又はステップS8の判定結果がNOの場合は、ステップS10において
図1のメインコンタクタ52を投入した後、ステップS11においてインバータ54の動作を開始する。
【0083】
尚、
図6の従来の処理フローによれば、ステップS11のインバータ動作で初めて上下相アームが駆動され、下相側アームのFET(54X)がオンすることで、上相側FETアームゲート駆動回路のゲート駆動用電源コンデンサ(C31)に電荷が充電されるので、上相アームの動作が可能となる。
【0084】
次に、
図6のフローチャートに沿った処理を行った際の、装置の各部の動作波形とFETの静電容量について、
図7、
図8とともに説明する。
図7は、U相、X相の1上下アーム分のみの動作波形を示すタイムチャートであるが、このU相FET,X相FETの各静電容量の様子を
図8に示している。
【0085】
図8において、Battは
図1のバッテリ50、C4は
図1の電解コンデンサC21を示している。C1はU相FET(54U)のゲート-ソース間静電容量、C5はX相FET(54X)のゲート-ソース間静電容量を示し、C2はU相FETのドレイン-ゲート間静電容量、C6はX相FETのドレイン-ゲート間静電容量を示し、C3はU相FETのドレイン-ソース間静電容量、C7はX相FETのドレイン-ソース間静電容量を示している。
【0086】
VdsはU相FETのドレイン-ソース間電圧(Vp3-Vp4間の電圧)である。尚、
図8ではX相FETの動作をリレーS1(SW)として表現した。
【0087】
図7において、(a)は電解コンデンサC21の正極端P3の電圧Vp3を示し、
図8のVp3の電圧に相当する。
【0088】
(b)は上相側のU相FETのドレイン-ソース間電圧Vds(
図8のVp3-Vp4間の電圧)である。
【0089】
(c)は下相側のX相FETのドレイン側電圧Vp4(X相FETのドレイン-ソース間電圧Vds:
図8、
図1の電圧Vp4)である。
【0090】
(d)はU相FETのゲート電圧である。
【0091】
(e)はU相ゲート駆動回路の電源電圧(上相側FETアームゲート駆動回路(HVIC60のハイサイドトーテムポール回路の電源電圧)である。
【0092】
(f)は、U相ゲート信号(U相FET54UのPWM信号)である。
【0093】
(g)はX相FETのゲート電圧である。
【0094】
(h)は、X相側ゲート駆動回路の電源電圧(下相側FETアームゲート駆動回路(HVIC60のローサイドトーテムポール回路の電源電圧)である。
【0095】
(i)は、X相ゲート信号(X相FET54XのPWM信号)である。
【0096】
(j)はU相FET→X相FETに流れる短絡電流である。
【0097】
まず時刻t1において、バッテリ50が接続されると、バッテリ50からフューズ51、充電用抵抗R1を介して電解コンデンサC21に充電電流が流れ、C21の予備充電が開始され、Vp3が
図7(a)のように上昇する。
【0098】
次に、時刻t2(
図6のステップS1の処理の実行時刻)でキースイッチをオンすると、
図2のゲート用電源70からダイオードD2を介してコンデンサC32に充電され、X相側ゲート駆動回路の電源電圧(HVIC60のローサイドトーテムポール回路の電源)が
図7(h)に示すように立ち上がる。
【0099】
時刻t2でキースイッチをオンした後の所定時間後の時刻t3で充電用FET53がオンされると、充電用FET53および抵抗R3を介して電解コンデンサC21に電流が流れて急速充電が開始される。この時刻t3は
図6のステップS3の処理の実行時刻である。
【0100】
電解コンデンサC21の電圧Vp3が上昇し、メインコンタクタ52の電極間電位差が所定値以下になった時刻t4にてメインコンタクタ52が閉極される。この時刻t4は
図6のステップS10の処理の実行時刻である。
【0101】
次に、インバータの動作が開始し
図7(f)のようにU相ゲート信号(PWM信号)が入力される時刻t5(
図6のステップS11の処理の実行時刻)では、X相FET54Xが未だオン制御されていないため、
図4(
図2と同一構成を記載した図)の破線の矢印の経路で電流は流れず、
図7(e)のU相側ゲート駆動回路の電源電圧(U相側FETアームゲート駆動回路のゲート駆動用電源コンデンサC31の電圧)は未だ立ち上がらない。このため
図7(d)に示すように時刻t5ではU相FET54Uはゲートオンしない。
【0102】
次に時刻t6において、
図7(i)のようにX相ゲート信号(PWM信号)が入力されて、
図7(g)のようにX相FET54Xがゲートオンし、これにより前記U相側のゲート駆動用電源コンデンサC31が充電されて、
図7(e)のようにU相側ゲート駆動回路の電源電圧が立ち上がる。
【0103】
この時刻t6では、
図7(f)のようにU相ゲート信号がオフであるため、U相FETのドレイン-ソース間電圧Vdsが
図7(b)のように上昇し、このVdsのdv/dtによって、
図8のC2に示すU相FETのドレイン-ゲート間静電容量Crssを経由してU相FETのゲート-ソース間に
図7(d)のように電圧Vgsが発生する。このVgsは、U相FETのゲート-ソース間電圧の閾値Vgs(th)を少し超えるため、ドレイン-ソース間オン抵抗が少し下がってU相FET54Uのドレイン→ソース→X相FET54Xのドレイン→ソースの経路で、
図7(j)のように短絡電流が流れてしまう。
【0104】
尚、
図7のタイミングチャートは、U相、X相の1上下アーム分のみを記載しているが、インバータの場合U相・X相、V相・Y相、W相・Z相の3つの上下アームがあり、すべて
図7のような動作となる。
【0105】
このように
図6、
図7に示す従来の制御方法では、上相側FETに印加される高電圧によって誤動作が発生し、上下相のアーム短絡に至るという欠点があった。
【0106】
また、特許文献1では駆動用トランジスタを別設し、長時間の間欠運転動作時にブートストラップ回路のコンデンサ電圧低下を、別に設けたコンデンサ電圧の変動により予測し、ハイインピーダンス状態となる出力端子を前記駆動用トランジスタによりローにする技術が記載されている。この特許文献1の技術では、多数の回路構成により素子を用いる必要がある。
【0107】
また特許文献2には、起動時にブートストラップ回路のコンデンサに充電を行わせる構成が記載されているが、これは開始時の電圧が高い場合に適用される構成であり、高電圧によって誤動作が生じる恐れがあるという問題がある。
【0108】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、上相側FETに印加される高電圧によって誤動作し、上下相のアーム短絡が発生することを防止できる電力変換装置の制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0109】
上記課題を解決するための請求項1に記載の電力変換装置の制御装置は、
直流電源の正、負極端間に、上相側FETおよび下相側FETがブリッジ接続される電力変換部と、
前記電力変換部の上相側FETおよび下相側FETの直列回路に並列に接続された電解コンデンサと、
前記直流電源の正極端と電解コンデンサの正極端とを結ぶ電路に介挿されたメインコンタクタと、
前記メインコンタクタに並列に接続され、設定した充電時定数で前記電解コンデンサを充電するための第1の充電用抵抗と、
前記第1の充電用抵抗に並列に接続され、キースイッチをオンしてから設定時間後にオン制御される充電用FETと第1の充電用抵抗よりも短い充電時定数に設定された第2の充電用抵抗との直列回路と、
前記電力変換部の上相側FETのゲートを駆動する上相側FETアームゲート駆動回路と、
前記電力変換部の下相側FETのゲートを駆動する下相側FETアームゲート駆動回路と、
前記キースイッチのオンによりゲート用電源が立上がり、且つ前記下相側FETがオン制御されたときに充電されて、前記上相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる上相側ゲート駆動用電源コンデンサと、
前記キースイッチのオンによるゲート用電源立上がり時に充電されて、前記下相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる下相側ゲート駆動用電源コンデンサとを備え、前記直流電源の接続又は切り離しを自在に構成した電力変換装置において、
前記第1の充電用抵抗の抵抗値を、前記直流電源を接続状態にしてからキースイッチをオンするまでの予備充電期間において、前記上相側FETがオフ、下相側FETがオンに制御されたときに、上相側FETがオンとならないゲート-ソース間電圧に抑えることができる前記電解コンデンサの充電電圧値となるように設定し、
前記電力変換部を動作させる前であって、前記キースイッチのオン後に、電解コンデンサの電圧が、前記設定された充電電圧値になっているときに、前記下相側FETをオン制御して前記上相側ゲート駆動用電源コンデンサを充電し、前記下相側FETのオン制御後に前記充電用FETをオン制御し、前記メインコンタクタの両端の電位差が設定値以下となったらメインコンタクタを投入した後、電力変換部の動作を開始する制御部を設けたことを特徴とする。
【0110】
請求項2に記載の電力変換装置の制御装置は、請求項1において、
前記予備充電期間における電解コンデンサの充電電圧値は、前記電力変換部の上相側FETおよび下相側FETを金属ベース基板に実装したときの、金属ベース基板と上相側FETおよび下相側FETの各端子間に生じる各種寄生容量を考慮し、ドレイン-ソース間に瞬時的な電圧を印加した際にゲート-ソース間に生じる電圧を計測し、前記各種寄生容量を経由してゲート-ソース間電圧Vgsに過渡的に印加される電圧値を、ドレイン-ソース間の低電圧が一定時間続くことによる故障検知が動作する電圧値に比べて十分大きい範囲にて低くなるように設定したことを特徴とする。
【0111】
請求項3に記載の電力変換装置の制御方法は、
直流電源の正、負極端間に、上相側FETおよび下相側FETがブリッジ接続される電力変換部と、
前記電力変換部の上相側FETおよび下相側FETの直列回路に並列に接続された電解コンデンサと、
前記直流電源の正極端と電解コンデンサの正極端とを結ぶ電路に介挿されたメインコンタクタと、
前記メインコンタクタに並列に接続され、設定した充電時定数で前記電解コンデンサを充電するための第1の充電用抵抗と、
前記第1の充電用抵抗に並列に接続され、キースイッチをオンしてから設定時間後にオン制御される充電用FETと第1の充電用抵抗よりも短い充電時定数に設定された第2の充電用抵抗との直列回路と、
前記電力変換部の上相側FETのゲートを駆動する上相側FETアームゲート駆動回路と、
前記電力変換部の下相側FETのゲートを駆動する下相側FETアームゲート駆動回路と、
前記キースイッチのオンによりゲート用電源が立上がり、且つ前記下相側FETがオン制御されたときに充電されて、前記上相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる上相側ゲート駆動用電源コンデンサと、
前記キースイッチのオンによるゲート用電源立上がり時に充電されて、前記下相側FETアームゲート駆動回路の電源とされる下相側ゲート駆動用電源コンデンサとを備え、
前記直流電源の接続又は切り離しは自在に構成され、
前記第1の充電用抵抗の抵抗値は、前記直流電源を接続状態にしてからキースイッチをオンするまでの予備充電期間において、前記上相側FETがオフ、下相側FETがオンに制御されたときに、上相側FETがオンとならないゲート-ソース間電圧に抑えることができる前記電解コンデンサの充電電圧値となるように設定された電力変換装置の制御方法であって、
制御部が、前記電力変換部を動作させる前であって、前記キースイッチのオン後に、電解コンデンサの電圧が、前記設定された充電電圧値になっているときに、前記下相側FETをオン制御して前記上相側ゲート駆動用電源コンデンサを充電するステップと、
制御部が、前記下相側FETのオン制御後に前記充電用FETをオン制御し、前記メインコンタクタの両端の電位差が設定値以下となったらメインコンタクタを投入した後、電力変換部の動作を開始するステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0112】
(1)請求項1~3に記載の発明によれば、予備充電期間における電解コンデンサの充電電圧値を従来よりも低く設定していることと、電解コンデンサの電圧が前記低く設定した充電電圧値になっているときに、下相側FETをオン制御して上相側ゲート駆動用電源コンデンサを充電していることにより、最初に下相側FETをオン制御したときに発生する上相側FETのドレイン-ソース間の印加電圧dv/dtを小さくすることができる。
【0113】
これによって、上相側FETのドレイン-ゲート間容量(Crss)→ゲート-ソース間容量(Cgs)の経路で充電する電荷を低下させてゲート-ソース間電圧Vgsの値を低くすることができ、結果、上下相のアーム短絡の誤動作を防止することができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、予備充電期間における電解コンデンサの充電電圧値を、FETを金属ベース基板へ実装した状態で、各種寄生容量を考慮し、ドレイン-ソース間に瞬時的な電圧を印加したときのゲート-ソース間電圧を計測して設定しているので、電解コンデンサの充電電圧値の設定精度がより高精度となり、また、誤って故障検知することが避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1】本発明が適用されるインバータの主回路構成図。
【
図2】
図1のU相、X相のゲート駆動回路の回路図。
【
図3】
図1においけるメインコンタクタ閉極時の突入電流の計算方法を示す説明図。
【
図4】
図2のコンデンサC31の充電経路を示す回路図。
【
図5】FETの各端子に寄生する静電容量を説明するために
図2、
図4を簡略化して図示したFETゲート駆動回路図。
【
図6】従来の制御装置における処理のフローチャート。
【
図7】従来の処理による各部の動作波形を示すタイムチャート。
【
図8】U相FET、X相FETの各種静電容量の様子を示す説明図。
【
図9】U相FET、X相FETを金属ベース基板に実装した場合の各種寄生容量の様子を示す説明図。
【
図10】本発明の一実施形態例における処理のフローチャート。
【
図11】本発明の別の実施形態例における処理のフローチャート。
【
図12】本実施形態例の処理による各部の動作波形を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0115】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、パワーMOSFETなどを主制御回路に用いたインバータ・コンバータなどの電力変換装置において、主回路の上相側FETの誤動作(意図しないオン動作)が、特に電源電圧が高い場合に、生じることを防ぐように構成した。
【0116】
また、FETゲート駆動回路において、インバータ・コンバータ(電力変換装置)の停止期間が長期間続いた後から、再度インバータ・コンバータの動作が再開された場合における、上記の誤動作を防ぐように構成した。
【0117】
以下に、本発明を
図1~
図5の電力変換装置に適用した実施形態例を説明する。
図1の第1の充電用抵抗である抵抗R1の抵抗値を、バッテリ50を接続状態にしてから、キースイッチをオンするまでの予備充電期間において、上相側FET、例えば54Uがオフ、下相側FET、例えば54Xがオンに制御されたときに、U相FET54Uがオンとならないゲート-ソース間電圧に抑えることができる電解コンデンサC21の充電電圧値となるように設定する。
【0118】
そして制御部は、インバータ54を動作する前であって前記キースイッチのオン後に、電解コンデンサC21の電圧が、前記設定された充電電圧値になっているときに、前記下相側FET、例えばX相FET54Xをオン制御して前記上相側ゲート駆動用電源コンデンサ(コンデンサC31)を充電し、前記下相側FET(X相FET54X)のオン制御後に前記充電用FET53をオン制御し、前記メインコンタクタ52の両端の電位差が設定値以下となったらメインコンタクタ52を投入した後、インバータ54の動作を開始するものである。
【0119】
図1の電力変換装置の、従来の構成では、バッテリ50を接続してからキースイッチをオンする前の、電解コンデンサC21の予備充電電圧値は、例えば72Vバッテリ適用時に50V前後であったものを、本実施形態例では20V程度まで下げている。
【0120】
この電解コンデンサC21の予備充電電圧値は、前記インバータ54の上相側FET(例えばU相FET54U)および下相側FET(例えばX相FET54X)を金属ベース基板に実装したときの、金属ベース基板と上相側FETおよび下相側FETの各端子間に生じる各種寄生容量を考慮し、ドレイン-ソース間に瞬時的な電圧を印加した際にゲート-ソース間に生じる電圧を計測し、前記各種寄生容量を経由してゲート-ソース間電圧Vgsに過渡的に印加される電圧値を、ドレイン-ソース間の低電圧が一定時間続くことによる故障検知が動作する電圧値に比べて十分大きい範囲にて低くなるように設定する。
【0121】
次に、
図1~
図5の装置におけるキースイッチオンからインバータ動作開始までの本実施形態例の処理の一例を
図10、
図12とともに説明する。本実施形態例の処理のフローチャートを示す
図10において、
図1のバッテリ50はステップS21以前に回路に接続される。そしてステップS21においてキースイッチをオンする。
【0122】
次にステップS22では、
図1の電解コンデンサC21の正極端P3の電圧が10V以下になったか否かを判定し、その判定結果がYESの場合はステップS23において急速充電処理(充電用FET53をオン)する。
【0123】
次にステップS24では、前記正極端P3の電圧が5V以下で且つその状態が0.6秒連続したか否かを判定する。ステップS24の判定結果がYESの場合はステップS25にて所定の急速充電エラー処理(インバータの主回路FETならびに電解コンデンサC21が短絡していると判定し、その異常状態を図示省略の上位コントローラに伝える等の処理)を行う。
【0124】
ステップS24の判定結果がNOの場合か、またはステップS25の処理後は、ステップS26において前記正極端P3の電圧が10V以下であり、且つその状態が3.6秒連続したか否かを判定する。
【0125】
ステップS26の判定結果がYESならステップS27において所定の急速充電エラー処理(エラー状態を図示省略の上位コントローラに伝える等の処理)を行う。
【0126】
ステップS26の判定結果がNOの場合か、またはステップS27の処理後は、ステップS28において、前記正極端P3の電圧が3V以下であり、且つその状態が15秒連続したか否かを判定する。
【0127】
ステップS28の判定結果がYESの場合はステップS29において上下相のFETがショートしていると判断する。
【0128】
前記ステップS22の判定結果がNOの場合か、又はステップS28の判定結果がNOの場合は、ステップS30において下相側FET、例えばX相FET54XのゲートをZmsecの間だけオン制御した後、ステップS31においてX相FET54Xのゲートをオフ制御する。
【0129】
次にステップS32において、前記電解コンデンサC21の正極端P3の電圧Vp3が63V以下か否かを判定し、その判定結果がYESの場合ステップS33において再度
図1の充電用FET53をオン制御して電解コンデンサC21の急速充電を行う。
【0130】
次にステップS34において、前記電圧Vp3が63V以下で3.6秒連続したか否かを判定し、その判定結果がYESの場合、ステップS35において異常状態を図示省略の上位コントローラに伝える等の急速充電エラー処理を行う。
【0131】
ステップS34の判定結果がNOの場合か、ステップS35の処理後は、ステップS36において
図1のメインコンタクタ52をオンした後、ステップS37においてインバータ54を動作させる。
【0132】
このステップS37の時点では上相(U相)側FETアームゲート駆動用電源コンデンサ(C31)に電荷が充電されているので、上相(U相)アームはアーム短絡動作のような誤動作はしない。
【0133】
図12は
図10のフローチャートに沿った処理を行った際のU相、X相の1上下アーム分のみの各部の動作波形を示している。
【0134】
図12において、(a)は電解コンデンサC21の正極端P3の電圧Vp3を示し、
図8のVp3の電圧に相当する。
【0135】
(b)は上相側のU相FETのドレイン-ソース間電圧Vds(
図8のVp3-Vp4間の電圧)である。
【0136】
(c)は下相側のX相FETのドレイン側電圧Vp4(X相FETのドレイン-ソース間電圧Vds:
図8、
図1の電圧Vp4)である。
【0137】
(d)はU相FETのゲート電圧である。
【0138】
(e)はU相ゲート駆動回路の電源電圧(上相側FETアームゲート駆動回路(HVIC60のハイサイドトーテムポール回路の電源電圧)である。
【0139】
(f)は、U相ゲート信号(U相FET54UのPWM信号)である。
【0140】
(g)はX相FETのゲート電圧である。
【0141】
(h)は、X相側ゲート駆動回路の電源電圧(下相側FETアームゲート駆動回路(HVIC60のローサイドトーテムポール回路の電源電圧)である。
【0142】
(i)は、X相ゲート信号(X相FET54XのPWM信号)である。
【0143】
(j)はU相FET→X相FETに流れる短絡電流である。
【0144】
まず時刻t1において、バッテリ50が接続されると、バッテリ50からフューズ51、充電用抵抗R1を介して電解コンデンサC21に充電電流が流れ、C21の予備充電が開始され、Vp3が
図12(a)のように上昇する。
【0145】
本実施形態例では、
図1の電解コンデンサC21の予備充電電圧値が低くなるように抵抗R1を設定しているため、
図12(a),(b),(c)に示すように破線で示した従来の制御方法による電圧波形よりも低い電圧Vp3,Vds,Vp4で推移(上昇)している。
【0146】
時刻t2a(
図10のステップS21のよりの実行時刻)でキースイッチをオンすると、
図2のゲート用電源70からダイオードD2を介してコンデンサC32に充電がなされ、X相側ゲート駆動回路の電源電圧(HVIC60のローサイドトーテムポール回路の電源)が
図12(h)のように立ち上がる。
【0147】
時刻t2aでキースイッチがオンされた後、電解コンデンサC21の予備充電が完了しない(
図10のステップS22の判定結果がYESの)場合は、
図1の充電用FET55がオンされて
図10のステップS23~S29の処理が行われる。
【0148】
次に時刻t2b(
図10のステップS30の処理実行時刻)においてX相FET54Xのゲートを
図12(g)のようにオン制御する。これによって
図4の破線矢印の経路で電流が流れてU相側のゲート駆動用電源コンデンサC31が充電されて
図12(e)のようにU相側ゲート駆動回路の電源電圧が立ち上がる。
【0149】
次に時刻t3a(
図10のステップS31の処理実行時刻)においてX相FET54Xのゲートが
図12(g)のようにオフ制御される。
【0150】
次に時刻t3b(
図10のステップS33の処理実行時刻)において、
図1の充電用FET53がオンされ、充電用FET53、抵抗R3を介して電源コンデンサC21に電流が流れ急速充電が行われる。
【0151】
次に電解コンデンサC21の電圧Vp3が上昇し、メインコンタクタ52の電極間電位差が所定値以下になった時刻t4にてメインコンタクタ52が閉極される。この時刻t4は
図10のステップS36の処理実行時刻である。
【0152】
次にインバータ54の動作開始時刻t5(
図10のステップS37の処理の実行時刻)において、
図12(f)のようにU相ゲート信号(PWM信号)が入力されると、この時刻t5では既に
図12(e)に示すようにU相側ゲート駆動回路の電源電圧(前記コンデンサC31の電圧)が確立されているため、
図12(d)のようにU相FET54Uのゲート信号(ゲート電圧)が正常に発生する。
【0153】
これによってU相FET54Uがオン制御され、
図12(b)に示すようにU相FETのドレイン-ソース間電圧Vdsは正しくゼロとなる(正常なオン動作となる)。
【0154】
次に時刻t6において、
図12(i)、(f)のようにX相ゲート信号(PWM信号)がオンされて、U相ゲート信号(PWM信号)がオフされると、
図12(g)、(d)のようにX相FET54Xのゲートがオンとなり、U相FET54Uのゲートがオフとなる。
【0155】
このU相FET54Uがオフし、X相FET54Xがオンしている期間において、上相側(U相)FETアームゲート駆動回路(
図5のHVIC60のハイサイドトーテムポール回路)が、前記コンデンサC31に電圧が確立されていることによって、オフ出力動作(シンク動作)を行って、
図5の抵抗R11、ハイサイドのトーテムポール回路の下側FET、抵抗R12を介してU相FET54Uのゲート-ソース間電圧(入力容量Cgsの電荷)が放電されるので、ゲート-ソース間の閾値電圧Vgs(th)を超える電圧は発生せず、U相とX相のFETのオン、オフが切換る時刻t7に示すような上下アーム短絡電流は流れない。
【0156】
尚、
図12のタイミングチャートは、U相、X相の1上下アーム分のみを記載しているが、インバータの場合U相・X相、V相・Y相、W相・Z相の3つの上下アームがあり、すべて
図12のような動作となる。
【0157】
以上のように本実施形態例によれば、最初に下相側FETをオン制御したときに発生する上相側FETのドレイン-ソース間の印加電圧dv/dtを小さくすることができる。
【0158】
これによって、上相側FETのドレイン-ゲート間容量(Crss)→ゲート-ソース間容量(Cgs)の経路で充電する電荷を低下させてゲート-ソース間電圧Vgsの値を低くすることができ、結果、上下相のアーム短絡の誤動作を防止することができる。
【0159】
また、予備充電期間における電解コンデンサC21の充電電圧値を、FETを金属ベース基板へ実装した状態で、各種寄生容量を考慮し、ドレイン-ソース間に瞬時的な電圧を印加したときのゲート-ソース間電圧を計測して設定しているので、電解コンデンサの充電電圧値の設定精度がより高精度となり、また、誤って故障検知することが避けられる。
【0160】
次に本発明の別の実施形態例における処理を説明する。前記
図10のステップS36のように、メインコンタクタ52を閉極したあと(
図12の時刻t4以降)、しばらくインバータ動作を行わないことがある。このような状況では、上相側FETは、オフ動作を継続している。つまり、上相側FETゲート駆動回路は、連続動作を継続していることになるので、ある一定の時間(上相側FETゲート駆動回路電源エネルギー(コンデンサC31の電圧)が消費・放電し低下すると思われる時間)になる前に、上相側FETゲート駆動回路電源コンデンサC31の再充電を行うために、下相側FETを短時間の間オンさせる。それにより、上相側FETゲート駆動電源用コンデンサC31へエネルギー再充電が行われるため、インバータ動作の最初期に発生していたような、ゲート駆動回路がオフ動作しないことでFETのVgsが上昇することが防止される。
【0161】
この処理のフローチャートを
図11に示す。
図11はメインコンタクタ52の投入中でインバータ動作が停止中に実行される処理であり、ステップS41では、上相側FET(54U)のゲートがオンされたか否かを判定し、その判定結果がNOの場合、ステップS42において、経過時間がX秒以下であるか否かが判定される。ステップS42の判定結果が、YESの場合はステップS43でカウントアップとし、NOの場合はステップS44において、経過時間がY秒以下であるか否かが判定される。
【0162】
ステップS44の判定結果が、YESの場合はステップS45でカウントアップとし、NOの場合はステップS46において下相側FET(X相FET54X)のゲートをZmsecの間だけオン制御した後、ステップS47で下相側FET(X相FET54X)をゲートオフにする。
【0163】
前記ステップS41の判定結果がYESの場合と、ステップS43、S45、S47の処理終了時は最初のステップS41に戻って
図11の処理を繰り返し実行する。
【0164】
上記実施形態例によれば、メインコンタクタ52を閉極したあと、しばらくインバータ動作を行わない場合においても、ある一定時間ごとに、下相側FETをオンさせて上相側FETゲート駆動回路用電源エネルギー(C31)を再充電するので、ゲート回路がオフ動作しないことでのVgsの上昇を抑え、上下アーム短絡誤動作を防止できる。
【符号の説明】
【0165】
50…バッテリ
51…フューズ
52…メインコンタクタ
53…充電用FET
54…インバータ
54U,54V,54W…上相側FET
54X,54Y,54Z…下相側FET
55U,55V,55W,55X,55Y,55Z、65H,65L,R1~R3、R11~R15…抵抗
56…モータ
60…HVIC
70…ゲート用電源
C21…電解コンデンサ
C31,C32…コンデンサ
D1~D3…ダイオード