(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119329
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】唾液検体の採取具、採取キット、および採取方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20220809BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G01N1/10 V
G01N1/10 N
G01N33/48 E
G01N33/48 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016370
(22)【出願日】2021-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年12月2日~令和3年1月15日に「唾液検体の採取具、採取キット」の試供品を配布した。
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391060546
【氏名又は名称】平和メディク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 充
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】小濱 聖佳
(72)【発明者】
【氏名】安田 知世
(72)【発明者】
【氏名】黒川 友博
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G045BB35
2G045CA30
2G045CB07
2G045HA01
2G045HA07
2G045HA20
2G052AA29
2G052AA36
2G052AD06
2G052AD26
2G052BA19
2G052DA02
2G052DA08
2G052DA12
2G052DA22
2G052GA29
2G052JA04
2G052JA24
(57)【要約】
【課題】唾液の吐出を必要とせず、簡便且つ安全に所定量の唾液を採取できる採取具、採取キット、および採取方法を提供する。
【解決手段】実施形態の一例である採取キットは、被検者の唾液検体を採取するためのキットである。採取キットは、唾液検体を前処理するための前処理液を内部に収容し、開口部を蓋によって開栓および閉栓可能な検体容器と、唾液検体を吸収する吸収体および吸収体を一端に備えた棒状の軸を含む採取具とを備える。採取具の軸は、吸収体が設けられた一端と他端の間の所定位置で折れるように構成されている。検体容器10と採取具20は、唾液検体を吸収した吸収体を検体容器に挿入した状態で軸を折ることにより、吸収体および軸の少なくとも一部を検体容器に残したまま検体容器を閉栓できるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の唾液検体を採取するための採取キットであって、
唾液検体を前処理するための前処理液を内部に収容し、開口部を蓋によって開栓および閉栓可能な検体容器と、
唾液検体を吸収する吸収体および前記吸収体を一端に備えた棒状の軸を含む採取具と、
を備え、
前記軸は、前記吸収体が設けられた前記一端と他端の間の所定位置で折れるように構成されており、
前記検体容器と前記採取具は、唾液検体を吸収した前記吸収体を前記検体容器に挿入した状態で前記軸を折ることにより、前記吸収体および前記軸の少なくとも一部を前記検体容器に残したまま前記検体容器を閉栓できるように構成されている、採取キット。
【請求項2】
前記前処理液は、唾液検体に含まれるウイルスを不活化するための不活化液である、請求項1に記載の採取キット。
【請求項3】
前記採取具は、前記検体容器の内底部から前記開口部までの高さよりも長い、請求項1または2に記載の採取キット。
【請求項4】
前記採取具は、前記吸収体を前記検体容器に挿入した状態で前記軸を前記開口部の縁に押し当てることにより、前記軸部が前記所定位置で折れるように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項5】
前記採取具は、前記吸収体の少なくとも一部が前記検体容器内の前記前処理液に浸漬した状態で前記軸を前記開口部の縁に押し当てることにより、前記軸部が前記所定位置において折れるように構成されている、請求項4に記載の採取キット。
【請求項6】
前記所定位置は、前記吸収体の先端から50mm以上離れている、請求項1~5のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項7】
前記軸は、前記所定位置に切り込みを備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項8】
前記軸は、前記所定位置において折ることで、前記一端側の第1部分と、前記他端側の第2部分とに分離できるように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項9】
前記軸部は、前記所定位置および前記所定位置の周辺の少なくとも一方に目印を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項10】
前記軸は、前記吸収体が設けられた前記一端側の開口が閉じられた筒状部材であるか、または中実部材である、請求項1~9のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項11】
前記吸収体は、綿を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項12】
前記吸収体は、少なくとも1mLの唾液検体を吸収可能に構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項13】
唾液の分泌を促進する画像が印刷された印刷物をさらに備える、請求項1~12のいずれか一項に記載の採取キット。
【請求項14】
前記画像は、レモン、梅、ルバーブ、またはこれらを原料とする加工品の写真である、請求項13に記載の採取キット。
【請求項15】
唾液検体を吸収する吸収体および前記吸収体を一端に備えた棒状の軸を含む採取具を用いて被検者の唾液検体を採取し、
唾液検体を前処理するための前処理液を内部に収容する検体容器に前記採取具を挿入し、
前記吸収体を前記検体容器に挿入した状態で前記軸を折り、
前記吸収体および前記軸の一部を前記検体容器に残したまま前記検体容器を閉栓する、唾液検体の採取方法。
【請求項16】
被検者の唾液検体を採取するための採取具であって、
唾液検体を吸収する吸収体と、
前記吸収体を一端に備えた棒状の軸と、
を備え、
前記軸は、前記吸収体が設けられた前記一端と前記他端の間の所定位置で折れるように構成されている、採取具。
【請求項17】
前記所定位置は、前記吸収体の先端から50mm以上離れている、請求項16に記載の採取具。
【請求項18】
前記軸部は、前記所定位置および前記所定位置の周辺の少なくとも一方に目印を有する、請求項16または17に記載の採取具。
【請求項19】
前記軸は、前記吸収体が設けられた前記一端側の開口が閉じられた筒状部材であるか、または中実部材である、請求項16~18のいずれか一項に記載の採取具。
【請求項20】
前記吸収体は、少なくとも1mLの唾液検体を吸収可能に構成されている、請求項16~19のいずれか一項に記載の採取具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液検体の採取具、採取キット、および採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鼻腔拭い液を採取するための綿棒軸であって、鼻腔の奥に存在する検体を採取するための綿棒軸が開示されている。特許文献1の綿棒軸には折溝が設けられており、検体を採取した後に軸部を短くして保管する場合や、検体を採取する際に短い綿棒軸を使用したい場合には、この折溝により軸部を折断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
COVID-19の感染拡大に伴い、検体中のウイルスを検出するためのPCR検査の需要が高まっている。従来の感染性ウイルス検査、例えばインフルエンザの検査では、特許文献1に開示されるような綿棒を用いて鼻腔拭い液や咽頭拭い液を採取することが広く行われていたが、COVID-19の発生以降、検査施設における感染リスク低減および検査負担軽減の観点から、採取時に介助が必要な鼻咽頭拭い液よりも、被検者が自己採取可能な唾液が検体として好まれる傾向にある。唾液採取のために様々な方法がこれまでに提案されているが、唾液採取の簡便性と感染リスク低減の観点で課題があった。
【0005】
本発明は、簡便且つ安全に唾液を採取できる採取具、採取キット、および採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る唾液検体の採取キットは、被検者の唾液検体を採取するための採取キットであって、唾液検体を前処理するための前処理液を内部に収容し、開口部を蓋によって開栓および閉栓可能な検体容器と、唾液検体を吸収する吸収体および吸収体を一端に備えた棒状の軸を含む採取具とを備え、軸は、吸収体が設けられた一端と他端の間の所定位置で折れるように構成されており、検体容器と採取具は、唾液検体を吸収した吸収体を検体容器に挿入した状態で軸を折ることにより、吸収体および軸の少なくとも一部を検体容器に残したまま検体容器を閉栓できるように構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る唾液検体の採取方法は、唾液検体を吸収する吸収体および吸収体を一端に備えた棒状の軸を含む採取具を用いて被検者の唾液検体を採取し、唾液検体を前処理するための前処理液を内部に収容する検体容器に採取具を挿入し、吸収体を検体容器に挿入した状態で軸を折り、吸収体および軸の一部を検体容器に残したまま検体容器を閉栓することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る唾液検体の採取具は、被検者の唾液検体を採取するための採取具であって、唾液検体を吸収する吸収体と、吸収体を一端に備えた棒状の軸とを備え、軸は、吸収体が設けられた一端と他端の間の所定位置で折れるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る唾液検体の採取キット、採取具、および採取方法によれば、簡便且つ安全に唾液を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の一例である唾液検体の採取キットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る唾液検体の採取キット、採取具、および採取方法の実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態および変形例の各構成要素を選択的に組み合わせることは本開示の範囲内である。
【0012】
以下では、実施形態の一例である唾液検体の採取具、採取キット、および採取方法により採取される唾液検体がPCR法に基づくウイルス検査に用いられるものとして説明する。PCR法の一例はリアルタイムPCR法であるが、採取された唾液検体は、例えばインベーダー法、LAMP法、SmartAmp法、TMA法等の等温増幅法などに用いられてもよい。検査対象のウイルスの一例は、SARS-CoV-2である。また、本発明に係る唾液検体の採取具、採取キット、および採取方法は、ウイルス検査用の検体採取に限定されず、抗原検査等の他の検査の検体採取に用いられてもよい。
【0013】
図1は、実施形態の一例である採取キット1を示す図である。採取キット1は、被検者の唾液検体を採取するためのキットであって、被検者自身が使用することを想定した自己採取キットである。
【0014】
図1に示すように、採取キット1は、検体容器10と、検体容器10に唾液検体を採取するための採取具20とを備える。検体容器10は、唾液検体を前処理するための前処理液13を内部に収容し、開口部を蓋12によって開栓および閉栓可能な容器である。検体容器10は、前処理液13を収容する有底筒状の容器本体11と、容器本体11の開口部を閉じる蓋12とを有する。採取具20は、唾液検体を吸収する吸収体21と、吸収体21を一端に備えた棒状の軸22とを有する。採取具20は、包材40により個包装されていることが好ましい。被検者は、唾液検体を採取する際に、包材40から採取具20を取り出して使用する。
【0015】
詳しくは後述するが、採取具20の軸22は、吸収体21が設けられた一端と他端の間の所定位置で折れるように構成されており、一端側の第1部分23と、他端側の第2部分24と、第1部分23と第2部分24の間に設けられた切り込み25とを含む。検体容器10および採取具20は、唾液検体を吸収した吸収体21を検体容器10に挿入した状態で切り込み25において軸22を折ることにより、吸収体21および軸22の第1部分23を検体容器10に残したまま採取具20を閉栓できるように構成されている。採取キット1によれば、高齢者等の唾液の分泌量が少ない被検者であっても検査に必要な量の唾液を確実に採取できる。唾液の採取量が多過ぎても検査精度の低下につながるが、採取キット1によれば、被検者によらず一定量の唾液検体を採取することが可能である。
【0016】
採取キット1は、唾液の分泌を促進する画像31が印刷された印刷物30をさらに備える。画像31は、例えば飲食物の画像であって、好ましくは酸っぱい飲食物の画像である。一般に、酸っぱい飲食物を口に入れた場合、舌がその味覚を感知すると唾液の分泌が促進される。人は過去に飲食したことのある酸っぱい飲食物の味覚を記憶しているため、その飲食物を見ただけで唾液の分泌量が多くなることが知られている。このため、印刷物30は、特に高齢者等の唾液の分泌量が少ない被検者に対して有効であり、検査に必要な量の唾液検体を短時間で採取することを容易にする。
【0017】
印刷物30には、1つの画像31が印刷されていてもよく、複数の画像31が印刷されていてもよい。印刷物30には、1種または複数種の飲食物が、1つまたは複数の画像31として印刷されていてもよい。画像31は、飲食物等のイラストであってもよいが、好ましくは写真である。好適な画像31の一例は、レモン、梅、ルバーブ、またはこれらを原料とする加工品の写真である。
図1に例示する印刷物30は、画像31として、レモンの写真と梅干しの写真を含んでいる。レモンの写真には、カットされて断面が露出したレモンが少なくとも1つ含まれていることが好ましい。
【0018】
採取キット1には、キットの使い方を示すリーフレットが含まれていてもよい。リーフレットには、例えば、後述の
図4に示す唾液検体の採取手順が記載されている。印刷物30は、このリーフレットと兼用されていてもよく、リーフレットの裏面に画像31が印刷されていてもよい。
【0019】
採取キット1では、上述の通り、採取具20が包材40により個包装されている。包材40は、採取具20が使用されるまでの間、採取具20を衛生的な状態に保つ。包材40は、唾液を吸収する吸収体21だけでなく採取具20の全体を覆うことが好ましい。
図1に例示する包材40は、採取具20が載せられる台紙41と、台紙41の表面に貼着されて採取具20を覆うフィルム42とを備える。台紙41とフィルム42は、採取具20の全体を覆うことができる大きさを有し、採取具20の全体を覆っている。包材40は、台紙41からフィルム42を剥離することにより開封でき、使用時には包材40から採取具20を容易に取り出すことができる。
【0020】
台紙41には、減菌紙を用いることが好ましい。フィルム42は、台紙41と共に採取具20の全体を覆うように、フィルム42の周縁部が台紙41の表面に貼着されている。フィルム42は、採取具20の吸収体21に手が触れることなく、被検者が軸22の他端側である第2部分24を容易に把持できるように、めくり口を第2部分24側に設ける等、第2部分24側から剥離可能な状態で台紙41に貼着されていることが好ましい。
図1では、長方形状の台紙41を図示しているが、台紙41の形状は特に限定されない。台紙41には、例えば製品名、製造番号、使用期限、使用上の注意等が印字される。
【0021】
検体容器10は、上述のように、有底筒状の容器本体11と、容器本体11の開口部を閉じる蓋12とを有する。容器本体11は、上端が開口したチューブ状の容器であって、取り扱い性等の観点から、透明な樹脂製の容器であることが好ましい。蓋12は、例えば、樹脂製のスクリューキャップである。容器本体11の側面上部には、蓋12を固定するためのネジ溝が形成されている。容器本体11の形状は、前処理液13を収容でき、採取具20を容易に挿入可能な形状であれば特に限定されないが、好ましくは有底円筒形状を有する。
【0022】
容器本体11は、吸収体21が開口部の縁に触れることなく、採取具20を内部に挿入可能な内径を有することが好ましい。容器本体11の内径は、例えば、吸収体21の直径より大きく、上端の開口部から内底部にわたって略一定である。容器本体11の内底部は、周縁から中央に向かって次第に深くなるように傾斜している。即ち、容器本体11の内底部は、最深部に向かって次第に細くなったテーパー状に形成されている。この場合、採取具20を挿入したときに、周縁部の斜面がガイドとなって吸収体21が容器本体11の最深部まで案内されるので、唾液検体を吸収した吸収体21の全体を前処理液13に浸漬することが容易になる。
【0023】
容器本体11の内底部から開口部までの高さH(内底部から開口部までの容器本体11の軸方向に沿った長さ)は、採取具20の軸22の第1部分23の長さより長く、第1部分23を内部に収容した状態で蓋12を閉じることができる高さとなっている。他方、容器本体11の高さHは軸22の全長より短い。容器本体11の高さHの一例は、90mm~110mmであり、好ましくは100mmである。容器本体11の内径は、上述のように吸収体21の直径より大きく、一例としては12mm~18mmであり、好ましくは15mmである。
【0024】
容器本体11には、採取具20の吸収体21の全体が浸かる量の前処理液13が収容されていることが好ましい。前処理液13の液面は、蓋12を上にして検体容器10を鉛直方向に沿って立てた状態で、容器本体11の内底面に当接した吸収体21の全体が浸かる高さに位置している。前処理液13の量は、吸収体21の全体が浸かる量であって、且つ容器本体11の容量に対して半分以下が好ましい。前処理液13の液面の高さは、例えば、容器本体11の内底部から開口部までの高さHの25%~50%である。この場合、採取具20を容器本体11に挿入したときに、前処理液13が漏れ出すことをより確実に防止できる。
【0025】
前処理液13は、吸収体21に吸収された唾液検体を処理するための薬液である。前処理液13による処理は、唾液検体を検査、運搬、保管等に適した状態とするための処理である。本実施形態では、前処理液13として、唾液検体に含まれるウイルスを不活化するための不活化液を用いる。不活化液は、例えば、ウイルスの核酸を破壊することなく、感染に寄与するタンパク質を変性させてウイルスの感染力を低下させる。
【0026】
不活化液の一例は、グアニジンを含む薬液である。不活化液には、グアニジンと共に界面活性剤が含まれていてもよい。前処理液13におけるグアニジンの濃度は、好ましくは1%~10%、より好ましくは3%~8%である。不活化液によりウイルスを不活化することにより、検体の取り扱い時の安全性が向上する。また、不活化液は、不活化後のウイルスの核酸を安定的に保存する。
【0027】
図2および
図3は、採取具20を示す図である。
図2は、採取具20の正面図である。
図3は、採取具20の軸方向断面図である。
【0028】
図2および
図3に示すように、採取具20は、吸収体21と軸22を含み、軸22の一端に吸収体21が固定された構造を有する。採取具20は、軸22の他端側が把持部となる。詳しくは後述するが、被検者は、軸22の他端側の第2部分24を把持し、吸収体21を口に入れて吸収体21に唾液を染み込ませる。その後、唾液検体が染み込んだ吸収体21を下に向けた状態で採取具20を検体容器10に挿入し、軸22を途中で破断して、吸収体21と共に軸22の一部を容器本体11内に収容した状態で検体容器10を閉栓する。採取具20によれば、吸収体21による唾液検体の吸収量が、検体容器10への唾液検体の採取量となる。
【0029】
吸収体21は、軸22の一端部を完全に覆うように、球状に形成されている。吸収体21は、例えば真球状ではなく、軸22に沿って長く延びた紡錘状に形成されている。
図3に示すように、吸収体21の一部は、軸22の一端から軸方向に延びている。この場合、採取具20を口に入れたときに、軸22の一端が口腔内組織に当たることがより確実に抑制される。吸収体21は、例えば、接着剤を用いて軸22の一端部に固定されている。接着剤は、吸収体21と軸22を接合でき、且つ生体適合性を有するものであれば特に限定されない。接着剤の一例は、ポリビニルアルコール系接着剤である。
【0030】
吸収体21は、少なくとも1mLの唾液検体を吸収可能に構成されている。1mLの唾液検体があれば、より高精度のウイルス検査が可能となる。採取具20によれば、吸収体21を口に含むことにより吸収体21が自然に唾液を吸収するので、高齢者等の唾液の分泌量が少ない被検者であっても検査に必要な量の唾液を確実に採取できる。唾液の分泌量が少ない被検者にとっては、採取容器等に唾液を吐出することは容易ではないが、採取具20によれば検査に必要な量の唾液検体を容易に採取することが可能である。吸収体21を口に含ませる時間を長くすれば、唾液の分泌量が少ない被検者であっても検査に必要な量の唾液検体を採取できる。言い換えると、唾液の分泌量が少ない被検者を想定して、吸収体21を口に含ませる時間を設定することが好ましい。吸収体21による唾液吸収量には上限があるため、この時間を長くしても検体採取量が多くなり過ぎることはない。
【0031】
採取具20では、吸収体21の材質および大きさを変更することにより、唾液検体の吸収量を容易に調整することができる。吸収体21は、例えば綿、不織布等の布、スポンジ等の多孔質体、および吸水性樹脂から選択される少なくとも1種を含む。中でも、吸収体21は綿を含むことが好ましい。吸収体21は、実質的に綿のみで構成されていてもよい。本明細書において、綿は、繊維が絡まりあった集合体を意味し、繊維が無秩序に絡まりあったもの、または繊維の方向が揃うように加工されたもののいずれであってもよい。綿は、例えば木綿、麻綿等の植物繊維、羊毛綿等の動物繊維、レーヨン、ポリエステル等の合成繊維、またはこれらの組み合わせにより構成される。
【0032】
吸収体21は、上述のように、1mL以上の唾液検体を吸収可能で、且つ唾液検体の吸収量が3mL以下となるように構成されていることが好ましい。即ち、吸収体21は、唾液の最大吸収量が1mL~3mLとなるように構成されていることが好ましい。唾液の最大吸収量は、1mL~2mLがより好ましく、1mL~1.5mLが特に好ましい。吸収体21による唾液の吸収量、即ち唾液検体の採取量が当該範囲内であれば、より高精度のウイルス検査が可能となる。検体容器等に唾液を吐出する検体採取法では、唾液検体の採取量をコントロールすることが難しく、検査に必要な量の唾液検体を採取できないことや、過剰量の唾液検体が採取されることが容易に起こりうるが、採取具20によれば、例えば、吸収体21の材質および大きさを変更することにより、検査に適した量の唾液検体を容易に採取することが可能である。
【0033】
吸収体21の大きさは、目的とする量の唾液検体を吸収可能であれば特に限定されないが、被検者の口に挿入することが容易な大きさとする必要がある。軸22の長さ方向(軸方向)に沿った吸収体21の長さL21の一例は、20mm~25mmである。軸22の径方向に沿った吸収体21の長さD21(本明細書では「直径」という場合がある)は、少なくとも容器本体11の開口部の内径より小さく、一例としては10mm~15mmであり、好ましくは11mm~13mmである。吸収体21が綿により構成され、長さD21,L21が当該範囲内であれば、唾液の最大吸収量を上記最適な範囲に制御することが容易になる。
【0034】
軸22は、吸収体21を保持する保持部であり、且つ被検者により把持される把持部として機能する。軸22は、さらに所定位置に切り込み25を有し、切り込み25で容易に折ることができる。軸22は、所定位置において折ることで、一端側の第1部分23と、他端側の第2部分24とに分離できるように構成されている。言い換えると、軸22は、吸収体21が固定された第1部分23と、第1部分23に連結された第2部分24と、第1部分23と第2部分24の間に設けられた切り込み25とを含む。即ち、第1部分23と第2部分24は、切り込み25を介してつながっている。このため、切り込み25において軸22を折ることにより、軸22を第1部分23と第2部分24に分離することができ、吸収体21が固定された第1部分23だけを検体容器10に残すことができる。
【0035】
軸22は、例えば、径方向断面が真円形状の丸棒であって、軸22の長さ方向中央部に切り込み25が形成されている。切り込み25は、第1部分23および第2部分24よりも小さい外力によって破断するように構成されている。つまり、第1部分23および第2部分24を折るために必要な力よりも小さな力で、軸22を切り込み25において折ることができる。本実施形態では、第1部分23と第2部分24が同じ直径を有し、切り込み25が第1部分23および第2部分24よりも細くなって括れている。
【0036】
軸22の直径は、第1部分23と第2部分24において、例えば2mm~2.5mmである。切り込み25には、軸22の周方向に沿って一定の幅および深さの溝が形成されている。切り込み25の直径の一例は、第1部分23および第2部分24の直径の70%以下であり、好ましくは60%以下である。軸22は、木製であってもよいが、好ましくは樹脂製である。軸22を構成する樹脂の一例は、ポリスチレンである。
【0037】
採取具20は、検体容器10の容器本体11の内底部から開口部までの高さH(
図1参照)よりも長いことが好ましい。採取具20は吸収体21側から容器本体11に挿入されるが、採取具20の長さが高さHより長ければ、採取具20を容器本体11に挿入したときに軸22の一部が容器本体11の開口部から延びた状態となる。採取具20の長さL1および軸22の長さL22は高さHより長く、例えば、吸収体21が容器本体11の内底部に接した状態で軸22の第2部分24の長さL24の50%~95%が容器本体11の開口部から延びていることが好ましい。第2部分24は被検者により把持される部分であるため、第2部分24の大部分が容器本体11に入らないようにすることで、ウイルスのコンタミネーションリスクを低減できる。
【0038】
採取具20は、吸収体21を容器本体11に挿入した状態で軸22を容器本体11の開口部の縁に押し当てることにより、軸22が切り込み25において折れるように構成されている。この場合、軸22を折るときに両手を使う必要がないため、片手で検体容器10を持ったまま、もう一方の手で軸22を容易に折ることができる。また、吸収体21およびその周辺の近くを触らずに軸22を折ることができるため、唾液検体が手に付着するリスクを低減できる。切り込み25は、上述のように、軸22の他の部分よりも細くなっていればよいが、軸22の周方向全長にわたって括れていることが好ましい。この場合、切り込み25のどの部分を開口縁部に押し当てても同様に軸22を折ることができる。
【0039】
採取具20では、吸収体21の先端から切り込み25までの長さL2が、容器本体11の高さHより短くなっている。この場合、切り込み25を容器本体11の開口部の縁に押し当てることができ、第2部分24の被検者により押される部分が力点、吸収体21の容器本体11の内面に当接する部分が支点、開口縁部に当接する切り込み25が作用点となる梃子が形成され、軸22を切り込み25で容易に折ることができる。切り込み25は、採取具20を操作して唾液検体を採取する際には破断することなく、上記梃子により加わる力で容易に破断されるように、その直径等が設定される。
【0040】
本実施形態では、吸収体21の一部は軸22の一端から延びているので、上記長さL2は、第1部分23の長さL23よりも少し長くなっている。長さL2,L23は、容器本体11に第1部分23が入った状態で蓋12を閉じることができる範囲において長いことが好ましい。長さL2,L23を長くすれば、容器本体11に入る第2部分24の長さを短くすることができると共に、軸22が切り込み25において折れて吸収体21が容器本体11の最深部まで落下したときの前処理液13の跳ねを抑えることができる。長さL2,L23は、例えば、容器本体11の高さHの70%~95%である。
【0041】
採取具20の長さL1の一例は、155mm~160mmである。軸22の長さL22は、長さL1より少し短く、一例としては150mm~155mmである。第1部分23の長さL23と第2部分24の長さL24は、例えば70mm~80mmであって、実質的に同じであってもよい。
【0042】
採取具20は、吸収体21の少なくとも一部が容器本体11内の前処理液13に浸漬した状態で軸22を容器本体11の開口縁部に押し当てることにより、軸22が切り込み25において折れるように構成されている。即ち、切り込み25が容器本体11の開口縁部に押し当てられた状態で、吸収体21の少なくとも一部が前処理液13に浸漬されるように、例えば、第1部分23の長さL23および前処理液13の液量が調整される。この場合、吸収体21の少なくとも一部が前処理液13に浸漬した状態で軸22を折ることができるため、唾液検体が空中に飛散するリスクを低減できる。
【0043】
検体容器10と採取具20は、軸22の切り込み25が容器本体11の開口縁部に当接した状態で、吸収体21の全体が前処理液13に浸漬されるように構成されることが好ましい。本実施形態では、検体容器10を鉛直方向に沿って立てた状態における前処理液13の液面の高さ(容器本体11の内底部から液面までの鉛直方向に沿った長さ)が、吸収体21の長さL21を超えている。
【0044】
切り込み25は、例えば、吸収体21の先端から80mmの位置に設けられている。切り込み25は、吸収体21の先端から50mm以上離れた位置に設けられていることが好ましく、より好ましくは70mm以上離れた位置に設けられていることが好ましい。この場合、唾液を採取する際に切り込み25が口に入らず切り込み25には唾液が付着しないので、軸22を切り込み25で折るときに、軸22に付着した唾液が周囲に飛散することを防止できる。吸収体21の先端から切り込み25までの長さは、切り込み25が口に入ることを避ける目的では、吸収体21の先端からできるだけ離れた方が好ましいが、吸収体21と切り込み25の距離が長くなりすぎると、折れた軸22の第1部分23が検体容器10に収まらないことがありえる。そのため、切り込み25の特に好ましい位置は、採取具20とともに用いられる検体容器10の長さによって適宜調整可能であるが、吸収体21の先端から70mm~90mmである。
【0045】
採取具20は、切り込み25および切り込み25の周辺の少なくとも一方に目印26を有する。目印26は、切り込み25の位置を確認し易くする機能を有する。軸22に目印26を付けることで、軸22を折る際に切り込み25を容器本体11の開口縁部に押し当てることが容易になる。目印26は、切り込み25の位置を示すものであればよく、直径が小さくなった切り込み25のみに設けられてもよいし、切り込み25の周辺のみに設けられてもよい。或いは、切り込み25および切り込み25の周辺の両方に設けられてもよい。
図2に示す例では、切り込み25とその周辺に目印26が設けられている。目印26は、例えば切り込み25に跨るように設けられてもよいし、切り込み25の周辺、例えば、切り込み25から1mm~5mmの範囲内に設けられてもよい。
【0046】
目印26は、例えば、軸22の周方向に沿って帯状に設けられる。目印26は、軸22に付された色である。目印26は、軸22に貼着されたシールであってもよい。目印26の色は特に限定されないが、軸22の色とのコントラストが大きな色であることが好ましい。目印26の帯は、軸22の周方向全長にわたって設けられている。目印26の帯は、周方向の一部に設けられてもよい。また、目印26の帯は、軸22の周方向に沿って間欠的に設けられてもよく、連続的に設けられてもよい。
【0047】
軸22は、吸収体21が設けられた一端側の開口が閉じられた筒状部材であるか、または断面が非中空である中実部材であることが好ましい。軸22の一端が開口した筒状であれば、吸収体21を口に含んだ際に、毛細管現象により唾液が軸22の中を流れて軸22の他端等から漏れ出る、或いは切り込み25において軸22を折った際に唾液が飛散することが想定される。軸22が、一端が閉じられた筒状部材であるか、または中空部を有さない中実部材であれば、このような毛細管現象による唾液の漏出または飛散を防止できる。
【0048】
以下、
図4を参照しながら、上述の構成を備えた採取キット1による唾液検体の採取方法について説明する。
図4は、唾液検体の自己採取手順の一例を示す図である。採取キット1には、例えば、採取手順が記載されたリーフレットが同封される。
【0049】
採取キット1を用いた唾液検体の自己採取手順の概要は、下記の通りである。
(1)唾液検体を吸収する吸収体21および吸収体21を一端に備えた棒状の軸22を含む採取具20を用いて被検者の唾液検体を採取する(
図4の手順2)。
(2)唾液検体を前処理するための前処理液13を内部に収容する検体容器10に採取具20を挿入する(
図4の手順3,4)。
(3)採取具20を検体容器10に挿入した状態で軸22を折る(
図4の手順5)。
(4)吸収体21および軸22の一部を検体容器10に残したまま検体容器10を閉栓する(
図4の手順6)。
【0050】
図4では、採取具20を包材40から取り出す手順1から、採取具20を収容した検体容器10を撹拌する手順8までを示している。
図4に示すように、手順1において、被検者は包材40から採取具20を取り出す。このとき、包材40のフィルム42を軸22の他端側である第2部分24側から剥離し、第2部分24を持って包材40から採取具20を取り出す。包材40は、めくり口またはその目印を第2部分24側に設ける等、第2部分24側からのフィルム42の剥離を促進するための構成を備えていてもよい。この場合、吸収体21が設けられた軸22の第1部分23側に手が触れ難くなるので、ウイルスのコンタミネーションリスクを低減できる。
【0051】
手順2において、包材40から採取具20を取り出した被検者は、軸22の第2部分24を持って吸収体21を口に含み、吸収体21に唾液を染み込ませる。吸収体21を所定時間口に含むと、所定量の唾液が吸収体21に吸収される。所定時間の一例は、1分~3分である。一般的に、高齢者は唾液の分泌量が少なくなるので、高齢者等の唾液の分泌量が少ない被検者を考慮して所定時間を決定する。或いは、年齢に応じて所定時間を変更してもよい。所定時間は、例えば、65歳以上の被検者の場合は3分、40歳以上65歳未満の被検者の場合は2分、40歳未満の被検者の場合は1分のように設定してもよい。手順2において、唾液の分泌を促進する画像31を被検者に見せることは、特に唾液の分泌量が少ない被検者において有効である。
【0052】
採取具20によれば、吸収体21の材質、大きさ等により、吸収体21が吸収可能な唾液の量が予め定まっているため、吸収体21を口に含むことにより検査に適した量の唾液検体を確実に採取できる。手順2では、被検者によらず、例えば1mL~1.5mLの唾液検体を採取できる。また、手順2では、軸22の吸収体21が設けられていない部分も口に含まれるので、吸収体21以外の部分にも唾液が付着するが、切り込み25は吸収体21の端から50mm以上離れた位置に設けられているため、採取具20の把持部であって後の手順5で切除される軸22の第2部分24には唾液は付着しない。このため、唾液が手に付着するリスクが少なく、且つ唾液が付着した感染性廃棄物が発生しない。
【0053】
手順3において、被検者は、容器本体11および蓋12の内面に手が触れないように注意しながら、前処理液13が入った検体容器10を開栓する。蓋12はスクリューキャップであるため、蓋12を回すことで容器本体11から容易に取り外すことができる。手順4において、検体容器10を開栓した被検者は、唾液検体を吸収した吸収体21が他のものや容器本体11の開口部の縁に触れないように注意しながら、吸収体21を下に向けた状態で採取具20を容器本体11に挿入する。吸収体21の直径D21は容器本体11の開口部の内径より小さいので、吸収体21が開口部の縁に触れることなく採取具20を容器本体11に挿入できる。
【0054】
採取具20の長さL1は、容器本体11の内底部から開口部までの高さHよりも長いため、採取具20を容器本体11に挿入したときに軸22の一部が容器本体11の開口部から延びた状態となる。手順4では、軸22の第1部分23の全体が容器本体11に入り、第2部分24の50%~95%が容器本体11の開口部から延びていることが好ましい。採取具20の把持部である第2部分24の大部分が容器本体11に入らないようにすることで、ウイルスのコンタミネーションリスクを低減できる。
【0055】
手順5において、被検者は、軸22の切り込み25を容器本体11の開口縁部に押し当てることにより、軸22を切り込み25で折り、第2部分24を切除する。続く手順6では、吸収体21が設けられた軸22の第1部分23を検体容器10に残したまま、容器本体11に蓋12を装着して検体容器10を閉栓する。吸収体21の先端から切り込み25までの採取具20の長さL2は、容器本体11の高さHより短いため、吸収体21が設けられた第1部分23を容器本体11に収容した状態で蓋12を閉じることができる。上述のように、容器本体11に入る第2部分24の長さが短くなるように、採取具20の長さL2は、蓋12を閉じることができ、且つ第2部分24への唾液の付着を防止できる範囲で短くすることが好ましい。
【0056】
手順5では、吸収体21が前処理液13に浸漬された状態で軸22を破断できることが好ましい。この場合、唾液検体が空中に飛散するリスクを低減できる。切り込み25を容器本体11の開口縁部に押し当てると、第2部分24の被検者により押される部分が力点、第1部分23の容器本体11の内面に当接する部分が支点、切り込み25が作用点となる梃子が形成されるので、軸22を容易に折ることができる。この場合、唾液が手に付着せず、また片手で検体容器10を持ったまま、もう一方の手で軸22を容易に折ることができる。本実施形態では、前処理液13として不活化液を用いる。不活化液により唾液検体中のウイルスを不活化でき、検体の取り扱い時の安全性が向上する。
【0057】
採取キット1を用いた検体採取手順では、唾液が付着した軸22の第1部分23を検体容器10に残し、且つ切除される軸22の第2部分24には唾液は付着していないため、感染性廃棄物は発生せず、検査施設・医療施設における感染防止・負担軽減を図ることができる。手順7において、被検者は、アルコール等で検体容器10の表面を消毒する。通常、検体容器10の表面に唾液は付着しないが、念のため、被検者自身により消毒を行うことが好ましい。手順8において、被検者は、唾液検体と前処理液13が良く混ざるように、検体容器10を振って中身を撹拌する。検体容器10を保管する場合は、冷蔵庫で保管することが好ましい。
【0058】
以下、採取キット1を用いた唾液検体採取の利点について、他の採取キットを用いた方法と比較しながら説明する。表1は、採取キット1を用いた方法と、他の方法1~5について、唾液検体の不活化液への直接採取の可否、唾液検体の採取量のコントロール性、唾液検体の自己採取の可否、および不活化液の誤飲リスクをまとめたものである。
【0059】
【0060】
表1に示すように、方法1は、シャーレに唾液を吐出した後、スポイト等で吐出した唾液を採取容器に分注する方法である。方法1によれば、唾液検体の自己採取および採取量のコントロールが可能であるが、スポイトによる分注が必要であるため、スポイトの操作に不慣れな被検者において採取量のコントロールは容易ではない。さらに、唾液の分泌量には個人差があり、高齢者等の唾液の分泌量が少ない被検者にとっては、検査に必要な量の唾液を吐出することは困難である。唾液を吐出する際やスポイトで分注する際に、シャーレや容器の周囲に唾液が飛散することも想定され、また唾液が付着した感染性廃棄物も発生する。
【0061】
方法2は、不活化液が入った採取容器に漏斗をセットし、漏斗に唾液を吐出する方法である。方法2によれば、方法1のようにスポイトによる分注が不要であり、且つ不活化液が入った採取容器に唾液を直接採取できるという利点がある。一方、方法1と同様に唾液の吐出が必要であり、また唾液が付着した感染性廃棄物も発生する。加えて、唾液の吐出量を調整することは実質的に困難であるから、唾液検体の採取量をコントロールすることはできない。
【0062】
方法3は、方法2の漏斗の代わりにストローを採取容器にセットし、ストローを通じて唾液を吐出する方法であって、方法2と同様の利点と欠点がある。さらに、方法3の場合、ストローを誤って吸い込んでしまった場合に不活化液を誤飲するリスクがある。
【0063】
方法4は、棒状スワブの先端を口にくわえて唾液を染み込ませた後、棒状スワブを採取容器に移す方法である。この場合、採取容器に不活化液を入れておけば、棒状スワブを不活化液に直接導入することができる。このとき、方法3のように不活化液を誤飲するリスクはない。しかし、棒状スワブへの唾液の吸収量を調整することは実質的に困難であるから、唾液検体の採取量をコントロールすることはできない。
【0064】
方法5は、スワブを口に含み、唾液を吸ったスワブを回収チューブに移して遠心することで唾液を抽出し、採取容器に分注する方法である。この場合、採取量のコントロールは可能であるが、遠心作業が必要であるため自己採取には適さず、また唾液が付着した感染性廃棄物も発生する。さらに、唾液を吸ったスワブを回収チューブに移す際に唾液が手に付着するという問題や、ウイルスのコンタミネーションリスクもある。
【0065】
方法1~5に対し、採取キット1を用いた唾液検体採取によれば、採取具20の吸収体21を口に含ませるだけで検査に必要な所定量(例えば、1mL~1.5mL)の唾液検体を容易に採取することができる。唾液の分泌量は被検者によって大きく異なるが、その個人差に関わらず一定量の唾液検体を採取することが可能である。このため、品質が担保された検査を実施することができる。上述のように、高齢者等の唾液の分泌量が少ない被検者にとって、漏斗等に唾液を吐出することは容易ではないし、唾液を吐出すると漏斗等の周囲に唾液が飛散することも想定される。採取キット1によれば、吸収体21を口に入れて所定時間待つだけで所定量の唾液検体を採取できるので、このような問題は生じない。
【0066】
さらに、前処理液13(不活化液)が入った検体容器10に採取具20を挿入することで、唾液が染み込んだ吸収体21を不活化液に直接導入でき、唾液検体中のウイルスを迅速に不活化することができる。このとき、吸収体21およびその周辺に触れることなく、唾液が付着していない軸22の第2部分24を把持して採取具20を操作できるため、唾液が手に付着せず、ウイルスのコンタミネーションリスクも低減される。
【0067】
軸22には、他の部分よりも折れ易い切り込み25が設けられているので、切り込み25で軸22を容易に折ることができ、唾液が付着した第1部分23を検体容器10に残すことができる。そして、第1部分23が検体容器10に入った状態で蓋12を閉じることが可能である。このとき切除される軸22の第2部分24は、上述のとおり吸収体21の先端から50mm以上離れており唾液が付着しにくいいため、唾液が付着した感染性廃棄物が発生しにくい。なお、軸22は吸収体21が設けられる一端側が閉じられた筒状部材であるか、または中実部材であるから、毛細管現象による唾液の不意な輸送が発生せず、唾液採取時の唾液の漏れ出し、および軸破断時の唾液の飛散が回避できる。
【0068】
以上のように、採取キット1を用いた検体採取作業には、遠心分離機のような装置やスポイトのような器具を必要としないため、この一連の作業を被検者が1人で簡単に行うことができる。また、唾液検体中のウイルスは被検者により迅速に不活化処理され、唾液が付着した感染性廃棄物を発生させずに唾液採取が可能である。このため、唾液検体の採取から検査までの手順において、医療従事者の感染リスクを低減することが可能になる。
【0069】
本発明は上述した実施形態および変形例に限定されず、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、上述の実施形態では、検体容器10に収容される前処理液13として、唾液検体に含まれるウイルスを不活化するための不活化液を用いたが、不活化液に代えて生理食塩水や培養液を用いることもできる。採取キット1は、唾液の分泌を促進する画像31が印刷された印刷物30を備えるが、検査施設・医療施設に設置されたモニターに画像31を表示させてもよい。
【0070】
上記実施形態の採取キット1には、例えば、
図4に示した採取手順が記載されたリーフレットが同封されてもよい。この場合、自己採取を行う被検者は、採取手順を確認して確実に自己採取を行うことができる。
【0071】
上記実施形態では、切り込み25において軸22を折った後に残る第2部分24は検体容器10とは別に廃棄すると述べたが、分離した第2部分24は検体容器10に収納してもよい。このようにすれば、第2部分24を一般廃棄物として廃棄するよりも感染リスクをより効果的に低減できる。
【0072】
上述の実施形態では、採取具20の軸22の長さ方向中央部に括れ部を形成して切り込み25としたが、軸の第1部分と第2部分の直径を異ならせることにより破断部を設けてもよい。第1部分の直径を第2部分の直径よりも小さくして第1部分と第2部分の境界部分に段差を形成してもよい。この場合、第1部分と第2部分の境界部分に応力が集中し易く、当該境界部分が他の部分よりも破断し易い破断部となる。
【符号の説明】
【0073】
1 採取キット
10 検体容器
11 容器本体
12 蓋
13 前処理液
20 採取具
21 吸収体
22 軸
23 第1部分
24 第2部分
25 切り込み
26 目印
30 印刷物
31 画像
40 包材
41 台紙
42 フィルム