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  • 特開-除藻剤及び除藻方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119363
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】除藻剤及び除藻方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/50 20200101AFI20220809BHJP
   A01N 63/20 20200101ALI20220809BHJP
   A01N 63/38 20200101ALI20220809BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20220809BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 9/42 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
A01N63/50 100
A01N63/20
A01N63/38
A01N61/00 A
A01P13/00
C12N9/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016435
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000138082
【氏名又は名称】株式会社メニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】小久保 智史
【テーマコード(参考)】
4B050
4H011
【Fターム(参考)】
4B050DD01
4B050LL10
4H011AB01
4H011BA06
4H011BB19
4H011BB21
4H011DD01
4H011DH11
(57)【要約】
【課題】容易に使用できるとともに、優れた除藻効果を得ることができる除藻剤及び除藻方法を提供する。
【解決手段】本発明の除藻剤は、水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素を含有することを特徴とする。本発明の除藻方法は、前記除藻剤を藻類が生息している水生環境に投与することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素を含有することを特徴とする除藻剤。
【請求項2】
前記多糖類分解酵素は、エンド型又はエキソ型多糖類分解酵素であることを特徴とする請求項1に記載の除藻剤。
【請求項3】
前記多糖類分解酵素は、セルロース分解活性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の除藻剤。
【請求項4】
前記多糖類分解酵素は、セルロモナス属由来のセルラーゼ及びトリコデルマ属由来のセルラーゼを含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の除藻剤。
【請求項5】
前記藻類は、緑藻、接合藻、灰色藻、紅藻、珪藻、褐藻、ピングイオ藻、真正眼点藻、アピコンプレクサ、渦鞭毛藻、クロララクニオン藻、ハプト藻、クリプト藻、ユーグレナ藻、及び藍藻から選ばれる少なくとも一種である請求項1~4のいずれか一項に記載の除藻剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の除藻剤を藻類が生息している水生環境に投与することを特徴とする除藻方法。
【請求項7】
前記水生環境は、水田、水槽、池、湖、海、水路、又はプールであることを特徴とする請求項6に記載の除藻方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生環境に生息する藻類に適用される除藻剤及び除藻方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、水田、水槽、池等の水生環境に生息する水生植物として、例えばアオミドロ、アミミドロ等の水生藻類が知られている。しかしながら、特に初夏の水田において、水生藻類が過剰繁殖すると、絡みついて稲を倒したり、水温が上がらず生育が悪化したり、肥料養分が奪われることにより、稲の分げつ抑制等の稲の成長が妨げられるという問題が生じる。水生藻類の除去方法として、人手により直接除去する方法、機械的な除去方法、除藻剤の散布等の方法が用いられている。しかしながら、人手により直接除去する方法、及び機械的な除去方法は、労力や費用の観点から容易に採用されていない。
【0003】
従来より、特許文献1に開示される除藻作用を含む殺生物剤が知られている。特許文献1は、アミノクロロナフトキノン等の有機の汚れ防止性殺生物剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-507637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の殺生物剤は、使用において標的生物以外への影響や水環境に与える影響を考慮する必要があり、使用に慎重を要した。そのため、容易に使用できるとともに、除藻効果に優れる除藻剤及び除藻方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素が優れた除藻作用を有することを見出したことに基づくものである。
上記課題を達成するために本発明の一態様の除藻剤は、水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素を含有することを特徴とする。
【0007】
前記除藻剤において、前記多糖類分解酵素は、エンド型又はエキソ型多糖類分解酵素であってもよい。
前記除藻剤において、前記多糖類分解酵素は、セルロース分解活性を有してもよい。
【0008】
前記除藻剤において、前記多糖類分解酵素は、セルロモナス属由来のセルラーゼ及びトリコデルマ属由来のセルラーゼを含有してもよい。
前記除藻剤において、前記藻類は、緑藻、接合藻、灰色藻、紅藻、珪藻、褐藻、ピングイオ藻、真正眼点藻、アピコンプレクサ、渦鞭毛藻、クロララクニオン藻、ハプト藻、クリプト藻、ユーグレナ藻、及び藍藻から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0009】
本発明の別態様の除藻方法は、前記除藻剤を藻類が生息している水生環境に投与することを特徴とする。
前記除藻方法において、前記水生環境は、水田、水槽、池、湖、海、水路、又はプールであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容易に使用できるとともに、優れた除藻効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例1における各例のアミミドロの外観を示す写真。
図2】試験例1における各例のアオミドロの顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明の除藻剤を具体化した第1実施形態を説明する。
本実施形態の除藻剤は、除藻成分として水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素を含有する。
【0013】
(多糖類分解酵素)
多糖類分解酵素は、水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素を適用できる。多糖類分解酵素の具体例としては、セルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、グルカナーゼ、マンナナーゼ、βグルコシダーゼ等が挙げられる。これらの多糖類分解酵素は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
これらの多糖類分解酵素の由来(基原)は、特に限定されず、動植物及び微生物由来の酵素を使用できる。微生物の具体例としては、セルロモナス属、トリコデルマ属、アスペルギルス属、バチルス属、ペニシリウム属等が挙げられる。これらの中で、除藻作用の向上の観点から、多糖類分解酵素は、セルラーゼ等のセルロース分解活性を有することが好ましい。セルロース分解活性を有する酵素としてエキソ型としてセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)、エンド型としてエンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、βグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)が挙げられる。これらの酵素から少なくとも2種を併用することが好ましい。除藻作用により優れる観点から、トリコデルマ属由来のセルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物を使用することが好ましい。また、セルロモナス属由来のセルラーゼ、及びトリコデルマ属由来のセルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物を併用することがより好ましい。
【0015】
セルロモナス属由来のセルラーゼ、及びトリコデルマ属由来のセルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物を併用する場合、その質量比は、適宜設定されるが、好ましくは1:1~1000、より好ましくは1:5~500である。
【0016】
セルロモナス属由来の多糖類分解酵素としては、例えばセルロモナスsp.K32A由来のセルラーゼが挙げられる。セルロモナスsp.K32Aとしては、例えば受託番号FERM BP-6766等の菌株が挙げられる。トリコデルマ属由来の多糖類分解酵素としては、例えばトリコデルマ・リーセイ由来のセルラーゼ、トリコデルマ・ロンギブラキアタム由来の商品名スクラーゼC(三菱ケミカルフーズ社製)が挙げられる。また、セルロモナスsp.K32A由来のエキソ型又はエンド型セルラーゼ、及びトリコデルマ・リーセイ由来のエキソ型又はエンド型セルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物とを含有する組成物を適用してもよい。
【0017】
多糖類分解酵素は、上述したような公知品、市販品等を使用してもよく、動植物、微生物、又は微生物の培養上清から公知の方法を用いて粗抽出又は精製したものを使用してもよい。また、多糖類分解酵素をコードするDNAより公知の方法、例えば、プラスミド等の発現ベクターを大腸菌、酵母等の微生物に導入することにより発現させるインビトロ(in vitro)タンパク合成系を利用することにより取得してもよい。
【0018】
(藻類)
本実施形態の除藻剤は、水生環境に生息する藻類に適用される。藻類の具体例としては、例えばアーケプラスチダとして緑藻、灰色藻、紅藻等、ストラメノパイルとして接合藻(ホシミドロ)、珪藻、褐藻、ピングイオ藻、真正眼点藻等、アルベオラータとしてアピコンプレクサ、渦鞭毛藻等、リザリアとしてクロララクニオン藻等、ハプト藻、クリプト藻、エクスカバータとしてユーグレナ藻等、藍藻等が挙げられる。緑藻の具体例として、例えばアミミドロ、フシマダラ等が挙げられる。接合藻の具体例としては、例えばアオミドロ等が挙げられる。藍藻の具体例として、例えばアオコ等が挙げられる。特に、水田に生息する緑藻、接合藻に対して優れた除藻効果を発揮する。
【0019】
<第2実施形態>
以下、本発明の除藻方法を具体化した第2実施形態を説明する。
本発明の除藻方法は、第1実施形態の除藻剤を藻類が生息している水生環境に投与する方法である。除藻方法において、水生環境としては、藻類が生息する水生環境であれば、特に限定されないが、例えば水田、水槽、池、湖、海、水路、プール等が挙げられる。
【0020】
除藻剤が水生環境に投与された際の多糖類分解酵素の濃度としては、適宜設定されるが、効率的な効能の発揮の観点から好ましくは0.1μg/L以上である。藻類が生存する温度環境下、例えば0~50℃において投与できるが、多糖類分解酵素が効率的に作用する温度環境下、例えば20~35℃において投与することが好ましい。
【0021】
上記実施形態の除藻剤及び除藻方法の作用及び効果について説明する。
(1)上記実施形態では、除藻成分として水生環境に生息する藻類の細胞壁を分解する多糖類分解酵素を含有する。したがって、容易に使用できるとともに、優れた除藻効果を発揮できる。
【0022】
(2)また、天然成分由来の多糖類分解酵素を使用することにより、安全性をより向上できる。また、自然環境に与える影響をより抑制できる。さらには、酵素(タンパク質)の自然分解により、残留物質の蓄積を抑制できる。
【0023】
(3)上記実施形態は、細胞壁において粘液質層を有し、クチクラを含まない藻類に対して優れた除藻効果を発揮する。除藻剤が、他の植物、例えば稲等の農作物の茎・葉に適用されたとしても、生育に影響を与えず、また水生環境、標的生物以外の生物の活性に悪影響を及ぼさない。そのため、除藻作用の選択性に優れる。
【0024】
(4)上記実施形態の除藻剤により、特に初夏の水田において発生する水生藻類の過剰繁殖による苗の成長の妨げ、肥料養分の搾取、日光の妨げ、水流の妨げ等を低減できる。
尚、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0025】
・上記実施形態の除藻剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内において公知の除藻剤が混合されてもよい。但し、安全性をより向上させる観点から、化学合成された除藻剤を含有しないことが好ましい。
【0026】
・上記実施形態の除藻剤は、水生環境に生息する藻類に適用されるが、生育する藻類に直接適用するのみならず、藻類の発生の予防のために予め繁殖地へ散布してもよい。
【実施例0027】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<試験例1:除藻剤の除藻作用に関する試験>
多糖類分解酵素の水生環境に生息する藻類に対する除藻効果について試験した。
【0028】
(多糖類分解酵素)
多糖類分解酵素としては、セルロモナスsp.K32A由来のエンド型又はエキソ型セルラーゼ、及びトリコデルマ・リーセイ由来のエンド型又はエキソ型セルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物を、質量比で1:200~250含む組成物Aを使用した。また、セルロモナスsp.K32A由来のエンド型又はエキソ型セルラーゼ、及びトリコデルマ・リーセイ由来のエンド型又はエキソ型セルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物を、質量比で1:6~9含む組成物Bを使用した。
【0029】
(藻類)
6月に水田よりアオミドロ及びアミミドロをそれぞれ採取した。アオミドロ及びアミミドロは、水温22~24℃の水中に保持した。
【0030】
(試験)
実施例1として、水200mLに組成物Aを4μL添加し、酵素濃度が0.77μg/Lの酵素溶液を調製した。
【0031】
実施例2として、水200mLに組成物Aを40μL添加し、酵素濃度が7.7μg/Lの酵素溶液を調製した。
実施例3として、水200mLに組成物Aを400μL添加し、酵素濃度が77μg/Lの酵素溶液を調製した。
【0032】
実施例4として、水200mLに組成物Bを添加し、酵素濃度が570μg/Lの酵素溶液を調製した。
実施例5として、水200mLにトリコデルマ・リーセイ由来のエンド型又はエキソ型セルラーゼとβグルコシダーゼとの混合物を添加し、酵素濃度が250μg/Lの酵素溶液を調製した。
【0033】
対照区(コントロール)は、酵素無添加の水とした。
まず、所定容量のビーカーに上記の各酵素溶液をそれぞれ約200mL添加した。その溶液中に良好な生育状態にあるアオミドロ又はアミミドロを入れ、水温を22~24℃とした。日照時間は制御しなかった。観察期間はアオミドロで10日間、アミミドロで8日間とした。
【0034】
(除藻評価)
各試験群は、目視で外観を毎日観察した。アオミドロは外観が著しく変化したため、顕微鏡で拡大観察した。各実施例群は、コントロール群と比較して下記の基準で評価した。評価方法は、色が茶色へ変色している場合又は大半が壊死している場合を○、コントロールと比較して生育不良が生じている場合を△、コントロールと比較して変化がない場合を×とした。各結果を表1に示す。また、酵素処理したアミミドロの一部をシャーレに移したものの外観写真を図1に示す。また、酵素処理したアオミドロの150倍に拡大した顕微鏡写真を図2に示す。
【0035】
【表1】
表1及び図1,2に示されるように、各実施例において、セルロース分解活性により、水生環境に生息する藻類に対して、大半が脱色又は壊死している様子が確認された。
【0036】
なお、各実施例群で使用した多糖類分解酵素を稲の苗に与えても、生育速度、大きさ等に変化は見られず、通常の生育に影響を与えないことを確認している。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0037】
(イ)化学合成された除藻剤を含有しない上記除藻剤。従って、この(イ)に記載の発明によれば、自然環境への負荷をより低減でき、また、安全性をより向上できる。
(ロ)デンプン分解酵素を含まず、セルロモナス属由来のセルラーゼ及びトリコデルマ属由来のセルラーゼを含有する前記除藻剤。従って、この(ロ)に記載の発明によれば、特定のセルラーゼのみで効率的に除藻効果を発揮できる。
図1
図2