(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119438
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】船舶用スラスター
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20220809BHJP
B63H 19/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
B63H25/42 F
B63H19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016553
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】591224788
【氏名又は名称】大分県
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】城門 由人
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲
(72)【発明者】
【氏名】沓掛 暁史
(57)【要約】
【課題】耐久性やメンテナンス性を向上させた船舶用スラスターを提供すること。
【解決手段】本発明では、船舶(3)を前後に推進させる原動機(4)とは別個に設けられ、船舶(3)を左右に移動させるための船舶用スラスター(5,18,40)において、水を流す流路(14~16,33~38)に対向する一対の磁石(6,7,19,20)と対向する一対の電極(8~13,21~32)とを交差させて配置し、対向する一対の磁石(6,7,19,20)によって水中に磁場を形成するとともに、対向する一対の電極(8~13,21~32)によって水中に電流を流して、磁場及び電流の作用によって水を流路(14~16,33~38)に沿って流すことで船舶(3)を左右に移動させることにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を前後に推進させる原動機とは別個に設けられ、船舶を左右に移動させるための船舶用スラスターにおいて、
水を流す流路に対向する一対の磁石と対向する一対の電極とを交差させて配置し、対向する一対の磁石によって水中に磁場を形成するとともに、対向する一対の電極によって水中に電流を流して、磁場及び電流の作用によって水を流路に沿って流すことで船舶を左右に移動させることを特徴とする船舶用スラスター。
【請求項2】
前記対向する一対の磁石の間に複数の対向する一対の電極を並べて設けて複数の流路を形成したことを特徴とする請求項1に記載の船舶用スラスター。
【請求項3】
前記流路と一対の磁石と一対の電極とをヨークで囲繞したユニットを各流路が直線上に連通するように並べて設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶用スラスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を前後に推進させる原動機とは別個に設けられ、船舶を左右に移動させるための船舶用スラスターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶には、前後方向に推進させるモーターやスクリューなどからなる原動機とは別個に、船舶を定位置に保つためや接岸・離岸を容易にするために、船首に配置されたバウスラスターや船尾に配置されたサイドスラスターといった船舶用スラスターが設けられている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来の船舶用スラスターでは、モーターにギヤを介してスクリューを連結し、モーターによってスクリューを正転・反転させることによって、船舶を小刻みに左右に移動させることができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の船舶用スラスターでは、通常稼働時に生じるギヤの摩耗に加えて、スクリューの反転時や振動などによってギヤの摩耗が繰り返され、耐久性に問題があった。
【0006】
また、上記従来の船舶用スラスターでは、スクリューに藻や塵などが絡まって推進力が低減してしまうため、メンテナンス作業に多大な労力を要するといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、請求項1に係る本発明では、船舶を前後に推進させる原動機とは別個に設けられ、船舶を左右に移動させるための船舶用スラスターにおいて、水を流す流路に対向する一対の磁石と対向する一対の電極とを交差させて配置し、対向する一対の磁石によって水中に磁場を形成するとともに、対向する一対の電極によって水中に電流を流して、磁場及び電流の作用によって水を流路に沿って流すことで船舶を左右に移動させることにした。
【0008】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、前記対向する一対の磁石の間に複数の対向する一対の電極を並べて設けて複数の流路を形成することにした。
【0009】
また、請求項3に係る本発明では、前記請求項1又は請求項2に係る本発明において、前記流路と一対の磁石と一対の電極とをヨークで囲繞したユニットを各流路が直線上に連通するように並べて設けることにした。
【発明の効果】
【0010】
そして、本発明では、以下に記載する効果を奏する。
【0011】
すなわち、本発明では、船舶を前後に推進させる原動機とは別個に設けられ、船舶を左右に移動させるための船舶用スラスターにおいて、水を流す流路に対向する一対の磁石と対向する一対の電極とを交差させて配置し、対向する一対の磁石によって水中に磁場を形成するとともに、対向する一対の電極によって水中に電流を流して、磁場及び電流の作用によって水を流路に沿って流すことで船舶を左右に移動させることにしているために、ギヤやスクリューを用いる必要が無く、耐久性やメンテナンス性を向上させることができる。
【0012】
特に、前記対向する一対の磁石の間に複数の対向する一対の電極を並べて設けて複数の流路を形成することにした場合には、対向する一対の電極の間隔を狭めた流路を複数形成することができ、磁場及び電流の作用によって水を流路に沿って流すことによる推進力を向上させることができる。
【0013】
また、前記流路と一対の磁石と一対の電極とをヨークで囲繞したユニットを各流路が直線上に連通するように並べて設けることにした場合にも、磁場及び電流の作用によって水を流路に沿って流すことによる推進力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施例1に係る船舶用スラスターを示す斜視図。
【
図3】同平面図(a)、正面図(b)、右側面図(c)。
【
図4】実施例2に係る船舶用スラスターを示す斜視図(a)、正面図(b)、右側面図(c)。
【
図5】実施例3に係る船舶用スラスターを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る船舶用スラスターの具体的な構成について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明に係る船舶用スラスター1,2は、船舶3を前後に推進させるために設けられたモーターやスクリューなどからなる原動機4とは別個に船舶3に設けられ、船舶3を左右に移動させるものである。なお、本発明に係る船舶用スラスター1,2は、船舶3を前後に推進させる原動機4とは別個に設けられ、船舶3を左右に移動させるためのものであればよく、船首に配置されたバウスラスター(1)であっても、船尾に配置されたサイドスラスター(2)であってもよく、その他の位置に配置されたものであってもよい。
【0017】
[実施例1]
図2及び
図3に示すように、実施例1に係る船舶用スラスター5は、上下に対向する一対の磁石6,7(ここでは、磁心の周りにコイルを巻回させた電磁石)の間に左右に複数(ここでは、3個)の対向する一対の電極8~13を配置して、各対向する一対の電極8~13の間に水(海水や淡水)を流す流路14~16を形成している。なお、ここでは、複数(3個)の流路14~16を形成しているが、対向する一対の磁石6,7と対向する一対の電極8,9とで1個の流路14だけを形成した構成としてもよい。
【0018】
対向する一対の磁石6,7は、一方がS極で他方がN極となって対面しており、対向する磁石6,7の間(流路14~16)の水中で磁場が発生するようになっている。対向する磁石6,7の間隔は、一定値に固定することが望ましいが、可変できるようにしてもよい。
【0019】
対向する一対の電極8,9(10,11)(12,13)は、一方が正極で他方が負極となって対面しており、対向する電極8,9(10,11)(12,13)の間(流路14~16)の水中で電流が流れるようになっている。一対の電極8~13の間隔は、一定値に固定することが望ましいが、可変できるようにしてもよい。
【0020】
対向する一対の磁石6,7と対向する一対の電極8~13とは、流路14~16を中心に交差する位置に配置されている。なお、対向する一対の磁石6,7と対向する一対の電極8~13とは、直交させることが望ましいが、これに限定されるものではない。また、対向する一対の磁石6,7や対向する一対の電極8~13は、平行に対向させることが望ましいが、これに限定されるものではない。さらに、ここでは、一対の磁石6,7を上下方向に対向させる一方、一対の電極8~13を左右方向に対向させているが、これに限定されるものではない。
【0021】
また、船舶用スラスター5は、複数(ここでは、3個)の流路14~16と一対の磁石6,7と一対の電極8~13を流路14~16の両端(上流端及び下流端)を開口させた状態で筒状のヨーク17で囲繞して、1個のユニットを形成している。
【0022】
そして、船舶用スラスター5では、対向する一対の磁石6,7によって流路14~16の内部の水中に磁場を形成するとともに、対向する一対の電極8~13によって流路14~16の内部の水中に電流を流すと、磁場及び電流によって流路14~16の内部の水に力が作用し、水を流路14~16に沿って流すことができる。
【0023】
これにより、船舶用スラスター5は、船舶3を左右に移動させることができる。なお、船舶3を左右に移動させる推進力及び推進方向は、一対の磁石6,7の間に生じさせる磁力や一対の電極8~13の間に生じさせる電流によって適宜制御することができる。
【0024】
[実施例2]
上記実施例1に係る船舶用スラスター5では、磁石として電磁石を用いているが、永久磁石を用いることもできる。
【0025】
図4に示すように、実施例2に係る船舶用スラスター18は、上下に対向する一対の磁石19,20(ここでは、永久磁石)の間に左右に複数(ここでは、6個)の対向する一対の電極21~32を交差させて(直交させて)配置して、各対向する一対の電極21~32の間に水(海水や淡水)を流す流路33~38を形成している。また、船舶用スラスター18は、複数(ここでは、6個)の流路33~38と一対の磁石19,20と一対の電極21~32を流路33~38の両端(上流端及び下流端)を開口させた状態で矩形薄板環状のヨーク39で囲繞して、1個のユニットを形成している。なお、船舶用スラスター18では、一対の磁石19,20や一対の電極21~32の厚みをヨーク39の厚み以下にして、ヨーク39の開口の内側に一対の磁石19,20や一対の電極21~32が収容されるようにしている。
【0026】
この船舶用スラスター18では、永久磁石を用いることで1ユニットの厚みを薄型化することができる。
【0027】
[実施例3]
上記実施例1,2に係る船舶用スラスター5,18では、1ユニットで構成するようにしているが、複数ユニットを重ねて用いることもできる。
【0028】
図5に示すように、実施例3に係る船舶用スラスター40は、上記実施例2に係る船舶用スラスター18の1ユニットを複数(ここでは、7個)重ねてケーシング41の内部に収容している。なお、上記実施例1に係る船舶用スラスター5を並べて用いてもよい。
【0029】
複数ユニットを重ねた船舶用スラスター40では、前側のユニットの各流路33~38の上流端と後側のユニットの各流路33~38の下流端とが対面して全てのユニットの各流路33~38が直線上に連通するように並べて配置している。
【0030】
各ユニットの各流路33~38においては、各電極21~32の間で水中での通電が行われることになるが、水中での通電では電気抵抗が小さなところで集中して電気が流れるために、各電極21~32の長さを長くするだけでは、全面で均等に通電するのではなく局所的に通電してしまい、船舶3を左右に移動させる推進力を増大させることができない。
【0031】
そこで、実施例3に係る船舶用スラスター40では、各電極21~32の短いユニットを複数連結することによって、各ユニットでの推進力を維持したまま全体の推進力を加算させることができ、結果として、船舶3を左右に移動させる推進力を増大させることができる。
【0032】
なお、上記実施例1~3に係る船舶用スラスター5,18,40では、一対の磁石6,7,19,20の間以外での磁気的な損失が最小となるように最適な厚さのヨーク17,39を設けることで各流路14~16,33~38の内部に強力な磁場を形成させることができる。
【0033】
以上に説明したように、上記実施例1~3に係る船舶用スラスター5,18,40は、水を流す流路14~16,33~38に対向する一対の磁石6,7,19,20と対向する一対の電極8~13,21~32とを交差させて配置し、対向する一対の磁石6,7,19,20によって水中に磁場を形成するとともに、対向する一対の電極8~13,21~32によって水中に電流を流して、磁場及び電流の作用によって水を流路14~16,33~38に沿って流すことで船舶3を左右に移動させる構成となっている。
【0034】
そのため、上記構成の実施例1~3に係る船舶用スラスター5,18,40では、ギヤやスクリューを用いる必要が無く、ギヤの摩耗やスクリューへの藻等の付着を回避することができるので、耐久性やメンテナンス性を向上させることができる。
【0035】
また、上記実施例1~3に係る船舶用スラスター5,18,40は、対向する一対の磁石6,7,19,20の間に複数の対向する一対の電極8~13,21~32を並べて設けて複数の流路14~16,33~38を形成した構成となっている。
【0036】
そのため、上記構成の実施例1~3に係る船舶用スラスター5,18,40では、対向する一対の電極8~13,21~32の間隔を狭めた流路14~16,33~38を複数形成することができ、各流路14~16,33~38での損失を抑制することができるので、磁場及び電流の作用によって水を流路14~16,33~38に沿って流すことによる推進力を向上させることができる。
【0037】
また、上記実施例3に係る船舶用スラスター40は、流路33~38と一対の磁石19,20と一対の電極21~32とをヨーク39で囲繞したユニットを各流路33~38が直線上に連通するように並べて設けた構成となっている。
【0038】
そのため、上記構成の実施例3に係る船舶用スラスター40では、磁場及び電流の作用によって水を流路33~38に沿って流すことによる推進力を向上させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1,2,5,18,40 船舶用スラスター 3 船舶
4 原動機 6,7,19,20 磁石
8~13,21~32 電極 14~16,33~38 流路
17,39 ヨーク 41 ケーシング