(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119441
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】ソナーシステム、位置ずれ検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20220809BHJP
G01P 13/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G01S7/52 V
G01P13/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016562
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 徹
(72)【発明者】
【氏名】島津 定生
【テーマコード(参考)】
2F034
5J083
【Fターム(参考)】
2F034AA04
2F034DB04
5J083AA05
5J083AB12
5J083AE03
5J083AF20
5J083AG09
(57)【要約】
【課題】水上部と水中部の位置ずれを低コストかつ短時間で検出することを可能とする。
【解決手段】ソナーシステムは、水上部と、前記水上部に吊下げられ自己の姿勢を検出するセンサを備えた水中部と、前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する位置計算手段を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上部と、
前記水上部に吊下げられ自己の姿勢を検出するセンサを備えた水中部と、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、
前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する位置計算手段と、
を備えた、ことを特徴とするソナーシステム。
【請求項2】
前記位置計算手段は、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜角度を平均した角度に基づき、前記水中部に作用する前記水流の流速を求め、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向を平均した方向と反対方向を、前記水中部に作用する前記水流の流向とする、ことを特徴とする請求項1記載のソナーシステム。
【請求項3】
前記位置計算手段は、
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向を、前記水中部に作用する前記水流の流向で近似するか、あるいは、
前記水中部と吊下ケーブルの流体運動シミュレーション又は水槽内での水流実験で予め取得した、前記水流の流速と、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離と、の関係に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、ことを特徴とする請求項1又は2記載のソナーシステム。
【請求項4】
前記位置計算手段を前記水上部に備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のソナーシステム。
【請求項5】
水上部と、前記水上部に吊下げられる水中部とを有するソナーシステムにおける前記水上部と前記水中部の位置ずれを検出する方法であって、
前記水中部の姿勢を検出するセンサを前記水中部に実装し、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、
前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する、ことを特徴とする位置ずれ検出方法。
【請求項6】
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜角度を平均した角度に基づき、前記水中部に作用する前記水流の流速を求め、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向を平均した方向と反対方向を、前記水中部に作用する前記水流の流向とする、ことを特徴とする請求項5記載の位置ずれ検出方法。
【請求項7】
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出するにあたり、
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向を、前記水中部に作用する前記水流の流向で近似するか、あるいは、
前記水中部と吊下ケーブルの流体運動シミュレーション又は水槽内での水流実験で予め取得した、前記水流の流速と、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向、及び、位置ずれ距離と、の関係に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、ことを特徴とする請求項5又は6記載の位置ずれ検出方法。
【請求項8】
水上部と、前記水上部に吊下げられ自己の姿勢を検出するセンサを備えた水中部とを有するソナーシステムの前記水上部と前記水中部の位置ずれを検出する処理を実行するコンピュータに、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、
前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する処理を実行させるプログラム。
【請求項9】
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜角度を平均した角度に基づき、前記水中部に作用する前記水流の流速を求め、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向を平均した方向と反対方向を、前記水中部に作用する前記水流の流向とする処理を前記コンピュータに実行させる請求項8記載のプログラム。
【請求項10】
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出するにあたり、
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向を、前記水中部に作用する前記水流の流向で近似するか、あるいは、
前記水中部と吊下ケーブルの流体運動シミュレーション又は水槽内での水流実験で予め取得した、前記水流の流速と、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向、及び、位置ずれ距離と、の関係に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する処理を前記コンピュータに実行させる請求項8又は9記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はソナーシステム、位置ずれ検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
吊下式ソナーは、航空機等(例えば固定翼対潜哨戒機や対潜ヘリコプタ等)から投下され海面に着水後、水上部と水中部に分離される。水上部は海水に対して浮力を有し海面上を漂流する。水上部は水中部から吊下ケーブルを介して受信した水中音波の電気信号や、該水上部に設けられたGPS(Global Positioning System)受信機で計測した該水上部の位置情報を、該水上部の無線通信部及び無線アンテナを介して航空機等や地上又は海上等の情報センタへ送信する。
【0003】
水中部は、海水よりも比重が大きいため、海中に沈降する。水中部は、音響素子(電歪振動子)を備えている。音響素子は、水中の物体から放射される水中音波を受信し受信音波を電気信号に変換し、該電気信号を吊下ケーブルの信号線を介して水上部に送信する。アクティブソナー方式の水中部では、内蔵電池から電力供給される増幅回路等で増幅された送信信号(電気信号)を音響素子(電歪振動子)で音波に変換して送波し、水中の物体にて反射された反響音を音響素子(電歪振動子)で受信し該反響音を電気信号に変換し吊下ケーブルの信号線(信号ケーブル)を介して該電気信号を水上部に送信する。
【0004】
図1(A)は、上方から海面を見下ろした場合の水上部2と水中部3の一例を模式的に示す平面図(xy平面)である。なお、特に制限されないが、x軸を東西方向、y軸を南北方向としてもよい。
図1(A)において、白抜き矢線5は、海面1上を漂流する水上部2の移動方向と移動速度を表している。なお、本明細書では、移動速度を、速度の大きさ(速さ)(スカラー量)とし、移動方向と移動速度をベクトルで表したものを「速度ベクトル」という。
【0005】
図1(B)は、水上部2と水中部3を側面からみた側面模式図である。特に制限されないが、
図1(B)において、z軸は海面からの深さ方向を正方向としている。
図1(B)は、例えばyz平面に平行な平面から水上部2と水中部3をみた図としてもよいし、
図1(A)において、xy座標の第1象限に示した矢線(
図1(A)のxy平面の水上部2と水中部3を結ぶ直線)に平行且つxy平面と直交する平面から、水上部2と水中部3の側面をみた図としてもよい。
図1(B)において、航空機6は、吊下式ソナーを投下した固定翼対潜哨戒機または対潜ヘリコプタ等である。
【0006】
図1(A)、(B)に示すように、水中部3は水上部2の真下には位置せず、水上部2と水中部3との間に位置のずれが存在する。
【0007】
現在のところ、水上部2と水中部3の位置のずれを検出する技術は確立されていないというのが実情である。一般に、吊下式ソナーは、水中部3が水上部2の真下に存在するという仮定のもとで使用されている。吊下式ソナーを単純化したモデルでは、海上の風や波浪の影響を受ける水上部2の移動に引っ張られる形で水中部3が水上部2に牽引されていることが想定されている。
【0008】
図2(A)、(B)は、実際の吊下式ソナーを模式的に例示する図である。
図2(A)、(B)において、白抜き矢線7は、水上部2の風力による移動(移動方向、移動速度)を表している。水上部2に作用し移動に影響する力(運動エネルギー)としては、風力が支配的である。時々刻々と変化する海面1上の風向及び風速を高精度で観測することは不可能ではないが、コストが高く長時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0009】
白抜き矢線8は、水上部2の波浪等による移動(移動方向、移動速度)を表している。水上部2に作用し移動に影響する力(運動エネルギー)としては、潮流、海流、波浪等の風力以外のものもあり、それらを全て観測することは不可能ではないが、コストが高く長い時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0010】
白抜き矢線9は、中層海流による吊下ケーブル4の移動(移動方向、移動速度)を表している。吊下ケーブル4に作用する力(運動エネルギー)としては、例えば深度数100mの中層海流がある。中層海流は、海面上の風力及び波浪の影響が小さく、海面上の波浪等による移動とは異なる方向へ作用する。それらを全て観測することは不可能ではないが、コストが高く長時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0011】
白抜き矢線10は、水上部2による牽引(移動方向、移動速度)を表している。水中部3の移動に影響する力(運動エネルギー)としては、一般的に、水上部2の移動による牽引が支配的である。
【0012】
白抜き矢線11は、中層海流による水中部3の移動(移動方向、移動速度)を表している。水中部3の移動に影響する運動エネルギーとしては、深度数100mの中層海流もある。中層海流は、水深によって流向及び流速が一定とは限らず、水深によって流向及び流速が異なる場合があり、それらを全て観測することは不可能ではないが、コストが高く長い時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0013】
水上部2は、風力による移動、及び、潮流等の風力以外による移動の影響を受ける。また、吊下ケーブル4は、中層海流の影響を受ける。水中部3は、水上部2による牽引及び中層海流の影響を受ける。複雑な気象及び海象の影響を、海上及び海中で観測する場合、観測器材のコストが高いことに加えて観測に長時間を要する。このため、水上部2と水中部3の位置ずれは無視できるほど小さいものとして扱われている。
【0014】
しかし、吊下ケーブル4の長さが、例えば数100mに達する場合、水上部2と水中部3の位置ずれの距離も100mを超える場合がある。この場合、吊下式ソナーが検出した水中音波の到来方位及び距離の精度について起点となる水中部3の位置が正確でない、という問題が生じている。
【0015】
例えば特許文献1には、航空機から投下されたソノブイは、風波、海潮流等の影響によりブイ位置が時々刻々と変化し、ブイ位置には投下位置に対し位置誤差(位置ずれ)が生じ、風浪、海潮流等の影響によりハイドロフォンの位置はブイ位置に対して位置誤差(位置ずれ)が生じ、これらのソノブイ等の位置誤差はブイ位置からの水中目標等の位置算出に大きな誤差を生じさせることが記載されている。特許文献1では、ブイ部とハイドロフォン間の信号ケーブルの長さa、ブイ部からのハイドロフォン方位角α、及びハイドロフォン傾度β、ハイドロフォン深度dの計測値により、偏位距離γを算出している。特許文献1には、ハイドロフォン位置の位置精度を向上させたいときは、信号ケーブルに生じる「垂れ」を懸垂線方程式により補正し算出することもできると記載されているが、潮流等によるブイ部とハイドロフォンの運動の関係性、特にハイドロフォンの回転運動等に関する考慮を欠いている。
【0016】
また特許文献2には、スパーブイの上部に搭載したGPS式の運動計測センサでスパーブイ上部の動揺による運動変位を3次元位置データとして時系列に計測し、時系列で得られたこの3次元位置データに基づいて波によるスパーブイの縦揺れ振幅角φと運動周期Twを求める。得られたスパーブイの縦揺れ振幅角φと運動周期Twの数値から波高Hwの近似値を求め、その数値をもって海洋波の波高を推定する構成が開示されている。特許文献2では、水上部の移動軌跡から水上部の傾斜方位及び傾斜角度を算出し潮流等の流向及び流速を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平6-289132号公報
【特許文献2】特開2007-327853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
GPS受信機等を備えたソノブイの普及等、水上部の位置計測精度が向上する傾向にある。このため、水上部と水中部の位置ずれを低コストかつ短時間で検出する技術の実用化が望まれている。
【0019】
したがって、本発明は、上記課題を解決するシステム、方法、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の1つの側面によれば、水上部と、前記水上部に吊下げられ自己の姿勢を検出するセンサを備えた水中部と、前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する位置計算手段と、を備えたソナーシステムが提供される。
【0021】
本発明の1つの側面によれば、水上部と、前記水上部に吊下げられる水中部とを有するソナーシステムにおける前記水上部と前記水中部の位置ずれを検出する方法が提供される。該方法は、
前記水中部の姿勢を検出するセンサを前記水中部に実装し、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、
前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する。
【0022】
本発明の1つの側面によれば、水上部と、前記水上部に吊下げられ自己の姿勢を検出するセンサを備えた水中部とを有するソナーシステムの前記水上部と前記水中部の位置ずれを検出する処理を実行するコンピュータに、
前記水中部の前記センサで検出された前記水中部の傾斜方向及び傾斜角度に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を算出し、前記水中部に作用する前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を算出する処理を実行させるプログラムが提供される。さらに、本発明によれば、上記プログラムを記憶したコンピュータ可読型記録媒体((例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM))等の半導体ストレージ、HDD(Hard Disk Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc))が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水上部と水中部の位置ずれを低コストかつ短時間で検出することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(A)、(B)は関連技術を説明する図である。
【
図2】(A)、(B)は関連技術を説明する図である。
【
図4】本発明の実施形態の水中部を説明する図である。
【
図5】本発明の実施形態の水中部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について説明する。
図3及び
図4は、本発明の一実施形態における水中部3を説明する図である。
図3には、本発明の一実施形態の吊下式ソナーの水中部3が模式的に示されており、水中部3が水流等による移動によって傾斜する状態を模式的に示している。なお、
図3において、水中部3は、吊下ケーブル4で不図示の水上部2(
図1、
図2等参照)に接続されている。
図4には、水中部3が水中で首振り運動(定常歳差運動)をしながら回転する状態が模式的に示されている。
【0026】
図3を参照すると、水中部3は、3軸姿勢センサ31を備えている。3軸姿勢センサ31は、例えば3軸加速度センサからなり、前後、左右の軸に関する傾斜角度(ロール角、ピッチ角)と、上下軸のまわりの回転角度(ヨー角)を、連続的に検出する。3軸姿勢センサ31で検出された上下軸のまわりの回転角度(ヨー角)を傾斜方向(傾斜方位)という。なお、
図3では、3軸姿勢センサ31で検出された水中部3の傾斜角度(ロール角、ピッチ角)と傾斜方向(ヨー角)を、水中部3の傾斜角度及び傾斜方向15で表している。
【0027】
水中部3は、水中で回転しているため、水中部3の傾斜角度及び傾斜方向15は、水中部3の回転に伴う首振り運動の影響を受ける。本実施形態によれば、水中部3の位置の検出にあたり、3軸姿勢センサ31にて予め定められた時間(一定時間)計測した水中部3の傾斜角度及び傾斜方向15を算術平均した平均値を、水中部3の傾斜角度及び傾斜方向(
図4の水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38)として算出する。そして、算出した水中部3の傾斜角度と傾斜方向に基づき、水中部3の移動方向と移動速度の算出が行われる。
【0028】
水上部2では、GPS受信機(
図5の24)が、水上部2の位置を緯度及び経度として連続的に計測し、その軌跡から水上部2の移動方向及び移動速度(
図1の速度ベクトル5)を算出する。また、水上部2では、水中部3の3軸姿勢センサ31から、水中部3の傾斜角度及び傾斜方向を、吊下ケーブル4を介して受信する。
【0029】
水上部2では、水上部2と水中部3の位置ずれとして、水上部2から見た水中部3までの水平方位及び水平距離(
図2のxy2次元平面上での方位と距離)を算出する。
【0030】
図3及び
図4において、白抜き矢線16は水中部3に作用する水流を示している。
図2に例示したように、水中部3は、中層海流11に沿って漂流しようとするが、水上部2から吊下げられた吊下ケーブル4による牽引(
図2の10)により中層海流(
図2の11)に逆らって移動する。このため、水中部3は水流16による抵抗を受ける。水流16による抵抗を受けた水中部3は、吊下ケーブル4の支点と水中部3の重心32のずれが生じる。このため、水中部3は、水流16の反対の方向に向かって傾斜する。
【0031】
この水流16の方向は、水上部2による牽引のベクトルと、中層海流による移動ベクトルの合成ベクトルである。つまり、水流16の向きと反対の方向は、概ね水中部3の傾斜方向(
図3の15)であり、水流16の大きさは、水中部3の傾斜角度(
図3の15)にほぼ比例するかたちで影響する。
【0032】
図4において、参照符号33の水中部(平均姿勢)は、
図3の水中部3の平均姿勢を示している。吊下式ソナーが、海面に着水して水上部2と水中部3に分離後、水中部3は吊下ケーブル4を繰り出しながら沈降していく。その際、吊下ケーブル4の捻じれが解放されるため、水中部3は水中で回転運動を行う。このとき、水上部2は水中部3とは反対方向に回転運動を行う。
【0033】
図4において、水中部(平均姿勢)33は、首振り運動しながら回転する水中部3の平均的な姿勢を示している。
【0034】
水中部(傾斜角度最小時)34は、水中で首振り運動しながら回転する水中部3の傾斜角度が最小になった状態を示している。水中部(傾斜角度最小時)34の傾斜方向は、水中部3の平均傾斜方向と一致する。
【0035】
水中部(傾斜角度最大時)35は、水中で首振り運動しながら回転する水中部3の傾斜角度が最大になった状態を示している。水中部(傾斜角度最大時)35の傾斜方向は、水中部3の平均傾斜方向と一致する。
【0036】
水中部の最小傾斜角度(平均傾斜方向)36は、水中部(傾斜角度最小時)34における水中部3の最小傾斜角度を示している。水中部の最小傾斜角度(平均傾斜方向)36の傾斜方向は、水中部3の平均傾斜方向と一致する。
【0037】
水中部の最大傾斜角度(平均傾斜方向)37は、水中部(傾斜角度最大時)35における水中部3の最大傾斜角度を示している。水中部の最大傾斜角度(平均傾斜方向)37の傾斜方向は、水中部3の平均傾斜方向と一致する。
【0038】
水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38は、水中部(平均姿勢)33における水中部3の傾斜角度を示している。水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38の傾斜方向は、水中部3の平均傾斜方向と一致する。
【0039】
吊下ケーブル(平均姿勢)41は、吊下ケーブル4の平均姿勢を示しており、水中部(平均姿勢)33に対応した吊下ケーブル4の状態を示している。
【0040】
図5は、本発明の一実施形態における水上部2を説明する図である。
図5を参照すると、水上部2は、GPS受信機24、位置計算部25、無線通信部26、無線アンテナ27を備えている。GPS受信機24は、GPSにより水上部2の位置として緯度及び経度の情報を一定時間毎に連続して位置計算部25へ出力する。GPS受信機24は、GPS、準天頂衛星(QZSS(Quasi-Zenith Satellite System))等の衛星測位システムの総称であるGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)と読み替えてもよいことは勿論である。
【0041】
水上部2の位置計算部25は、GPS受信機24から水上部2の位置情報を入力する。また、水上部2の位置計算部25は、水中部3の3軸姿勢センサ31から水中部3の傾斜角度と傾斜方向を入力し、水上部2の移動方向と移動速度、及び、水中部3に作用する水流16の流向と流速を算出する。
【0042】
水上部2の位置計算部25は、水中部3に作用する水流16の流向と流速と、水上部2の移動方向と移動速度(
図1の速度ベクトル5)に基づき、水上部2と水中部3の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する。
【0043】
水上部2の無線通信部26は、吊下式ソナーと航空機(
図1(B)の6)の無線通信を行う通信機であり、位置計算部25が算出した水上部2の位置情報及び水中部3の位置情報を該航空機に送信する。水上部2の無線アンテナ27は、無線電波の送受信を行う。
【0044】
次に、
図6等を参照して、本実施形態における水中部3の位置ずれ検出について説明する。
図6は、本実施形態の水上部2と水中部3を説明する図である。
【0045】
水中部3の3軸姿勢センサ31は、例えば20~50ミリ秒の周期で水中部3の傾斜角度及び傾斜方向を計測し、吊下ケーブル4を介して水上部2の位置計算部25へ出力する。
【0046】
水上部2の位置計算部25は、水中部3の3軸姿勢センサ31から入力した水中部3の傾斜角度及び傾斜方向(
図3の15)について、例えば、約30秒間程度の平均値を算出する。水上部2の位置計算部25で算出された水中部3の傾斜角度及び傾斜方向の平均値は、
図4の水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38に対応する。
【0047】
想定される吊下式ソナーの水中部3の最大回転速度を120deg/秒、約3秒間で1回転するものとする。この場合、水中部3の傾斜角度及び傾斜方向について、30秒間の平均値を算出することで、水中部3の平均的な姿勢としての傾斜方向及び傾斜角度(
図4の水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38)を取得することができる。
【0048】
水上部2の位置計算部25は、水中部3の平均的な姿勢としての傾斜角度(
図4の水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38の平均傾斜角度)に基づき、水中部3に作用している水流16の流速を算出する。
【0049】
水上部2の位置計算部25は、水中部3の平均的な姿勢としての傾斜角度から水中部3に作用する水流16の流速を算出するにあたり、例えば、
・水中部3の流体運動シミュレーションモデルを作成して計算式化する手法を用いるか、あるいは、
・水槽内に水中部3を沈めて吊下して水中部3を水平方向に移動させるか水槽内で水流を起こすことにより、既知の流速の水流がある場合に、水中部3が何度傾斜するか計測し、水中部3の傾斜角度と水流の流速との換算テーブルを事前に作成しておき、水上部2の位置計算部25は、記憶部(不図示)に該換算テーブルを記憶保持し、該換算テーブルを参照して、水中部3の平均傾斜角度から、水中部3に作用する水流16の流速を求めるようにしてもよい。
【0050】
水上部2の位置計算部25は、水中部3の平均的な姿勢としての傾斜方向(
図4の水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)38における平均傾斜方向)と反対方向を、水中部3に作用している水流16の流向とする。水中部3に作用している水流16の流向と流速は、
図2(A)等のxy2次元平面(水平面)に投影した向きと速度である。例えば南北方向(y軸)を基準方位とし、水流16の流向をβ、流速をV
bとすると、水流16の速度ベクトル
→V
b(2次元ベクトル)は、
…(1)
で表される。
【0051】
水上部2のGPS受信機24は、例えば1秒周期で水上部2の位置(緯度及び経度)を水上部2の位置計算部25へ出力する。
【0052】
水上部2の位置計算部25では、水上部2の最新の位置情報から30秒前までの位置情報を記憶し、位置情報を次の式で計算しやすい緯度及び経度のデータに変換する。
【0053】
水上部2の位置計算部25は、最新の位置情報から所定時間前(例えば30秒前)までの位置情報を記憶し、位置情報を次式(2)、(3)により、緯度及び経度のデータ(秒単位)に変換する。経度、緯度は度・分・秒による座標表記が用いられる。
【0054】
位置情報(緯度1~30)→度の値×60×60+分の値×60+秒の値
…(2)
【0055】
位置情報(経度1~30)→(度の値×60×60+分の値×60+秒の値)×cos(位置情報(緯度(deg)))
…(3)
【0056】
ここで、位置情報(経度1~30)、位置情報(緯度1~30)を配列X[i], Y[i](i=1,..,30)で表す。
【0057】
水上部2の位置計算部25では、例えば1秒間毎の位置情報から1秒間に水上部2が移動した移動方向α(例えば南北方向(y軸)を基準方位とする水平方位)及び移動速度Vaを次式(4)、(5)で算出する。
【0058】
【0059】
【0060】
水上部2の速度ベクトル
→V
a(2次元ベクトル)は以下で与えられる。
…(6)
【0061】
水上部2の位置計算部25では、例えば30秒間の水上部2の移動方向及び移動速度(m/秒)の平均値を算出するようにしてもよい。あるいは、位置計算部25では、位置情報(緯度1)X[1]、及び、30秒前の位置情報(緯度30)X[30]、位置情報(経度1)Y[1]及び30秒前の位置情報Y[30](経度30)について、式(1)により30秒間の水上部2の移動方向及び水上部2の移動距離(30秒間の移動速度ともいう)を算出し、30秒間の水上部2の移動距離に、1/30を乗算して、単位時間(1秒)あたりの水上部2の移動距離、すなわち移動速度(m/秒)を求めるようにしてもよい。
【0062】
水上部2の位置計算部25は、水中部3に作用する水流16の流向及び流速、並びに水上部2の移動方向及び移動速度から、次式(7)により、水上部2と水中部3の位置ずれ方向(2次元平面(水平面)上での位置ずれ方向)の概算値を算出する。
【0063】
位置ずれ方向≒水中部3に作用する水流16の流向(β)+180 (deg)
…(7)
【0064】
水上部2の位置計算部25において、水上部2と水中部3の位置ずれ方向を高精度に算出するには、例えば数100mの長さがある吊下ケーブル4が水流の影響を受け、上空から俯瞰したときに直線にならず、水流の抵抗により水流の流向の方向にカーブした曲線になっていることを考慮する必要がある。
【0065】
吊下ケーブル4の曲線化による水中部3の位置ずれ方向のずれ角度について、例えば、以下の(a)、(b)のいずれかの手法を用いることができる。
【0066】
(a)水中部3及び吊下ケーブル4の流体運動シミュレーションモデルを作成しておき、水流の流速及び吊下ケーブル4の長さから算出する計算式を得る。
【0067】
(b)水槽内に水中部3を沈めて吊下し、水中部3を水平方向に移動させるか水槽内で水流を起こす方法により、既知の流速の水流の場合に吊下ケーブル4の上側起点となる水上部2と水中部3の位置ずれが何度生じるか計測し、水中部3及び吊下ケーブル4に作用する水流の流速と位置ずれ角度の換算テーブルを事前に作成しておく。水上部2の位置計算部25は、該換算テーブルを記憶部(不図示)に記憶保持し、該換算テーブルを参照して、水流16の流速、及び吊下ケーブル4の長さから、位置ずれ方向を求める。
【0068】
水上部2と水中部3の位置ずれ距離について、例えば、以下の(c)、(d)のいずれかの手法を用いることができる。
【0069】
(c)水中部3及び吊下ケーブル4の流体運動シミュレーションモデルを作成しておき、水流の流速及び吊下ケーブル長から算出する計算式を得る。
(d)水槽内に水中部3を沈めて吊下し、水中部3を水平方向に移動させるか水槽内で水流を起こす手法により、既知の流速の水流の場合に吊下ケーブル4の上側起点となる水上部2と水中部3の位置ずれが何m生じるか計測し、水中部3及び吊下ケーブル4に作用する水流の流速と位置ずれ距離の換算テーブルを作成しておく。水上部2の位置計算部25は、該換算テーブルを記憶部(不図示)に記憶保持し、該換算テーブルを参照して、水流16の流速及び吊下ケーブル4の長さから、位置ずれ距離を求める。
【0070】
水上部2の位置計算部25は、GPS受信機24の位置情報から算出した水上部2の速度ベクトル
→Va(移動方向、移動速度)に基づき、水上部2と水中部3の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を、水上部2の風力による移動(
図2の7)や潮流等による移動(
図2の8)による影響を反映するように補正してもよい。
【0071】
水上部2の位置計算部25は、例えば1秒周期で算出した水中部3との位置ずれ方向及び位置ずれ距離の情報、並びに、GPS受信機24から入力した最新の水上部2の位置情報(緯度及び経度)を無線通信部26へ出力する。
【0072】
無線通信部26は、無線アンテナ27から水中部3との位置ずれ方向及び位置ずれ距離の情報並びにGPS受信機24から入力した最新の水上部2の位置情報(緯度及び経度)について、吊下式ソナーを投下して水中音波を監視している固定翼又は回転翼の航空機(
図1(B)の6)へ送信する。なお、GPS受信機24及び無線通信部26は、当業者にとってよく知られており、その詳細な動作は説明を省略する。
【0073】
本実施形態によれば、吊下式ソナーの水上部2と水中部3の位置ずれ方向及び位置ずれ距離を、水中部の3軸姿勢センサ31で検出した水中部3の傾斜角度及び傾斜方向から推定することにより、水中部3(吊下式ソナーにより受信した水中音波の到来方向の起点となる)の位置精度を向上させることができる。
【0074】
本実施形態によれば、吊下式ソナーの水上部2と水中部3の位置ずれが生じる原因となる気象及び海象を観測することなく、水中部3に作用する水流がもたらす水中部3の傾斜という物理現象の測定結果を演算処理することにより、水上部2と水中部3の位置ずれを遅延時間なくリアルタイムに推定できる。
【0075】
図7は、本発明の実施の形態を説明する図であり、位置計算部25をコンピュータ装置200で実装した場合の構成を説明する図である。
図7を参照すると、コンピュータ装置200は、プロセッサ201と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の半導体メモリ等(あるいは、HDD(Hard Disk Drive)等であってもよい)のメモリ202と、表示装置203と、
図5のGPS受信機24、無線通信部26に接続し、さらに吊下ケーブル4を介して3軸姿勢センサ31に接続するインタフェース204(バスインタフェース)を備えている。プロセッサ201はDSP(Digital Signal Processor)であってもよい。メモリ202に格納されたプログラム205を実行することで、プロセッサ201は、
図6の位置計算部25の処理を実行する。
【0076】
なお、上記の特許文献1、2の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施の形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
1 海面
2 水上部
3 水中部
4 吊下ケーブル
5 速度ベクトル(移動方向、移動速度)
6 航空機
7 風力による移動
8 潮流等による移動
9 中層海流による移動
10 水上部による牽引
11 中層海流による移動
14 鉛直方向
15 水中部の傾斜角度及び傾斜方向
16 水流
23 水上部の傾斜角度
24 GPS受信機
25 位置計算部
26 無線通信部
27 無線アンテナ
31 3軸姿勢センサ
32 水中部の重心
33 水中部(平均姿勢)
34 水中部(傾斜角度最小時)
35 水中部(傾斜角度最大時)
36 水中部の最小傾斜角度(平均傾斜方向)
37 水中部の最大傾斜角度(平均傾斜方向)
38 水中部の平均傾斜角度(平均傾斜方向)
41 吊下ケーブル(平均姿勢)
61 機上無線通信部
62 機上無線アンテナ
200 コンピュータ装置
201 プロセッサ
202 メモリ
203 表示装置
204 インタフェース
205 プログラム