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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119510
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】判別方法および蛍光測定装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20220809BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220809BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220809BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/00 A
G01N21/64 F
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016693
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】599066676
【氏名又は名称】学校法人東京歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 和幸
(72)【発明者】
【氏名】細川 真弓
(72)【発明者】
【氏名】伊東 愛
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA17
2G043DA02
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA03
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA02
2G045AA25
2G045AA28
2G045CB06
2G045CB07
2G045CB30
2G045FB01
2G045FB12
2G045GC15
2G045JA07
4B029AA07
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA03
4B029GB06
4B063QA12
4B063QQ05
4B063QQ36
4B063QR48
4B063QR66
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】歯周病の原因菌の遺伝子型を酵素活性に基づいて簡便に判別することができる判別方法および蛍光測定装置を提供する。
【解決手段】判別方法は、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別するものであり、歯周病の原因菌と、原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された試薬と、を含み、液体温度を4℃以上45℃以下に調整して酵素反応させた液体試料に励起光を照射し、液体試料から放出された蛍光の強度に基づいて遺伝子型を判別する。蛍光測定装置は、液体試料に励起光を照射する照射手段と、液体試料から放出される蛍光を検出する検出手段と、検出された蛍光の強度に基づいて遺伝子型を判別する判別手段とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する判別方法であって、
歯周病の原因菌の菌体または菌体抽出物と、前記原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された試薬と、を含み、液体温度を4℃以上45℃以下に調整して酵素反応させた液体試料に励起光を照射し、
前記液体試料から放出された蛍光の強度に基づいて前記遺伝子型を判別する判別方法。
【請求項2】
請求項1に記載の判別方法であって、
前記原因菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリスであり、
前記遺伝子型は、線毛タンパクをコードするfimA遺伝子の多型である判別方法。
【請求項3】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体または菌体抽出物を含む試験区の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体または菌体抽出物を含み、前記試験区の液体試料と同じ液体温度に調整されている対照区の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記試験区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、前記対照区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、互いに同一であるか、または、近似しているとき、前記試験区中の当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子が、遺伝子型が既知である前記原因菌のfimA遺伝子と同じ遺伝子型であると判定する判別方法。
【請求項4】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体または遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、上位一番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がII型であると判定する判別方法。
【請求項5】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体または遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、上位二番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がIV型であると判定する判別方法。
【請求項6】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体または遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、下位一番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がI型であると判定する判別方法。
【請求項7】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体抽出物または遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、上位一番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がI型であると判定する判別方法。
【請求項8】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体抽出物または遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、上位二番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がIV型であると判定する判別方法。
【請求項9】
請求項2に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体抽出物または遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記遺伝子型の判別において、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、下位一番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がII型であると判定する判別方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記試薬は、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)である判別方法。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記励起光の波長は、355nm以上375nm以下である判別方法。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記蛍光の波長は、430nm以上455nm以下である判別方法。
【請求項13】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記液体試料は、pH緩衝液であり、
前記pH緩衝液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を主成分とする判別方法。
【請求項14】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記液体試料のpHは、pH7.0以上pH8.5以下である判別方法。
【請求項15】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の判別方法であって、
前記液体試料のpHは、中性である判別方法。
【請求項16】
歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する蛍光測定装置であって、
歯周病の原因菌の菌体または菌体抽出物と、前記原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された試薬と、を含み、液体温度を4℃以上45℃以下に調整して酵素反応させた液体試料に励起光を照射する照射手段と、
前記液体試料から放出される蛍光を検出する検出手段と、
検出された蛍光の強度に基づいて前記遺伝子型を判別する判別手段と、を備える蛍光測定装置。
【請求項17】
請求項16に記載の蛍光測定装置であって、
前記原因菌は、ポルフィロモナス・ジンジバリスであり、
前記遺伝子型は、線毛タンパクをコードするfimA遺伝子の多型である蛍光測定装置。
【請求項18】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体または菌体抽出物を含む試験区の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体または菌体抽出物を含み、前記試験区の液体試料と同じ液体温度に調整されている対照区の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
前記対照区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量を記憶した記憶部と、
前記試験区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、前記対照区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、互いに同一であるか、または、近似しているとき、前記試験区中の当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子が、遺伝子型が既知である前記原因菌のfimA遺伝子と同じ遺伝子型であると判定するデータ比較部と、を備える蛍光測定装置。
【請求項19】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
第1閾値を記憶した記憶部と、
前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第1閾値とを比較し、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記第1閾値以下であるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がI型であると判定するデータ比較部と、を備え、
前記第1閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値である蛍光測定装置。
【請求項20】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
第1閾値および第2閾値を記憶した記憶部と、
前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第1閾値および第2閾値とを比較し、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記第1閾値を超え、前記第2閾値以下であるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がIV型であると判定するデータ比較部と、を備え、
前記第1閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値であり、
前記第2閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がII型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値である蛍光測定装置。
【請求項21】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
第2閾値を記憶した記憶部と、
前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第2閾値とを比較し、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記第2閾値を超えるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がII型であると判定するデータ比較部と、を備え、
前記第2閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がII型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値である蛍光測定装置。
【請求項22】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体菌体抽出物を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
第1閾値を記憶した記憶部と、
前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第1閾値とを比較し、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記第1閾値以下であるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がII型であると判定するデータ比較部と、を備え、
前記第1閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がII型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値である蛍光測定装置。
【請求項23】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体抽出物を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
第1閾値および第2閾値を記憶した記憶部と、
前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第1閾値および第2閾値とを比較し、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記第1閾値を超え、前記第2閾値以下であるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がIV型であると判定するデータ比較部と、を備え、
前記第1閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がII型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値であり、
前記第2閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値である蛍光測定装置。
【請求項24】
請求項17に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、
遺伝子型が未知である前記原因菌の菌体抽出物を含む判別対象の液体試料と、
遺伝子型が既知である前記原因菌の菌体抽出物を含み、前記判別対象の液体試料と同じ液体温度に調整されている複数の液体試料と、であり、
前記判別手段は、
第2閾値を記憶した記憶部と、
前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第2閾値とを比較し、前記判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、前記第2閾値を超えるとき、当該液体試料の前記原因菌のfimA遺伝子がI型であると判定するデータ比較部と、を備え、
前記第2閾値は、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定された値である蛍光測定装置。
【請求項25】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記遺伝子型の判別の結果を表示する表示手段を備える蛍光測定装置。
【請求項26】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料のpHを測定するpH測定手段を備える蛍光測定装置。
【請求項27】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料の温度を調節する温度制御手段を備える蛍光測定装置。
【請求項28】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記試薬は、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)である蛍光測定装置。
【請求項29】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記励起光の波長は、355nm以上375nm以下である蛍光測定装置。
【請求項30】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記蛍光の波長は、430nm以上455nm以下である蛍光測定装置。
【請求項31】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料は、pH緩衝液であり、
前記pH緩衝液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を主成分とする蛍光測定装置。
【請求項32】
請求項16から請求項24のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料のpHは、pH7.0以上pH8.5以下である蛍光測定装置。
【請求項33】
請求項19から請求項21のいずれか一項に記載の蛍光測定装置であって、
前記液体試料のpHは、中性である蛍光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する判別方法および蛍光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの口腔内には、数百種類の口腔内細菌が存在している。これらの口腔内細菌のうち、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネマ・デンティコラ(Treponema denticola)、タネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)の3種は、歯周病との関連性が高いレッドコンプレックス(Red complex)として分類されている。
【0003】
歯周病は、口腔内細菌によって引き起こされる炎症性疾患であり、歯周組織への影響だけでなく、心筋梗塞、糖尿病等の他、動脈硬化等の全身性疾患との関連も指摘されている。従来、歯周病の診断には、プローブを用いて歯周ポケットの深さや出血の有無を調べるプロービング検査や、歯槽骨等を観察するためのX線検査等が用いられている。また、歯周病の原因菌の存在を検査するための体外診断用の検査薬も開発されている。
【0004】
細菌学や臨床の分野では、レッドコンプレックスに分類される3種の細菌のうち、歯周病の重症化、すなわち歯槽骨吸収の進行に重大な影響を与えているのは、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg菌)であると考えられている。Pg菌は、菌体の表面に線毛を有しており、線毛等の菌体表面の成分が口腔内への付着・定着に大きく関わっていることが知られている。
【0005】
Pg菌の線毛タンパクをコードする遺伝子としては、線毛タンパクのサブユニットをコードするfimA遺伝子がある。fimA遺伝子は、遺伝子多型を示すことが確認されており、I~V型(1~5型)の5種類に分類されている。従来、Pg菌の口腔内への付着能・定着能や病原性が、fimA遺伝子の遺伝子型毎に異なる可能性が報告されている。
【0006】
例えば、非特許文献1には、健康な歯周組織を持つ成人は、fimA遺伝子のI型の保有率が約70%、V型の保有率が約30%、その他が10%程度未満であった一方、成人の歯周炎患者は、II型(2型)の保有率が約60%弱、IV型(4型)の保有率が約20%弱、その他が10%程度未満であったと報告されている。進行した歯周炎患者から検出されたPg菌は90%以上がII型であったと報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】天野 敦雄、「Porphyromonas gingivalis線毛の付着能と遺伝子多型の歯周病原性との関連」、日本歯周病学会会誌、2003年、45巻、4号、p.357-363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
歯周病の原因菌の遺伝子型は、Pg菌のfimA遺伝子のように、歯周病の病態に対して互いに異なる影響を及ぼす可能性が示唆されている。よって、歯周病の診断・治療・予防に際して、患者の口腔細菌叢を構成する遺伝子型を判別できれば、歯周病の病態を適切に評価したり、重症化の可能性を予測したりすることが可能になる可能性がある。
【0009】
従来、遺伝子型を判別する方法としては、RT-PCR等を利用する分子生物学的手法が用いられている。しかし、分子生物学的手法は、操作に手間がかかり、簡便に行うことが困難である。また、分子生物学的手法は、遺伝子のコピー数ないし細胞数を間接的に計測することができる一方で、歯周病を実際に進行させる酵素活性を計測するものではない。
【0010】
レッドコンプレックスに分類されるPg菌は、プロテアーゼの一種であるジンジパイン等を産生し、これらの酵素が、ディスバイオシスのような細菌叢の攪乱を起こしたり、炎症反応を促進したりして、歯周病が進行すると考えられている。そのため、従来の分子生物学的手法と比較して、簡便に行うことが可能であり、より歯周病の病態に即した、直接的な指標に基づく遺伝子型の判別手段が求められている。
【0011】
そこで、本発明は、歯周病の原因菌の遺伝子型を酵素活性に基づいて簡便に判別することができる判別方法および蛍光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明に係る判別方法は、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する判別方法であって、歯周病の原因菌と、前記原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された試薬と、を含み、液体温度を4℃以上45℃以下に調整して酵素反応させた液体試料に励起光を照射し、前記液体試料から放出された蛍光の強度に基づいて前記遺伝子型を判別する。
【0013】
また、本発明に係る蛍光測定装置は、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する蛍光測定装置であって、歯周病の原因菌と、前記原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された試薬と、を含み、液体温度を4℃以上45℃以下に調整して酵素反応させた液体試料に励起光を照射する照射手段と、前記液体試料から放出される蛍光を検出する検出手段と、検出された蛍光の強度に基づいて前記遺伝子型を判別する判別手段と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、歯周病の原因菌の遺伝子型を酵素活性に基づいて簡便に判別することができる判別方法および蛍光測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る判別方法の流れを示すフロー図である。
図2A】菌体を酵素反応させた液体試料(液体温度4℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図2B】菌体を酵素反応させた液体試料(液体温度15℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図2C】菌体を酵素反応させた液体試料(液体温度22℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図2D】菌体を酵素反応させた液体試料(液体温度30℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図2E】菌体を酵素反応させた液体試料(液体温度37.5℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図2F】菌体を酵素反応させた液体試料(液体温度45℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図3A】菌体を酵素反応させた液体試料の温度毎の蛍光測定結果を示す図である。
図3B】菌体を酵素反応させた液体試料の菌株毎の蛍光測定結果を示す図である。
図4A】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料(液体温度4℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図4B】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料(液体温度15℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図4C】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料(液体温度22℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図4D】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料(液体温度30℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図4E】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料(液体温度37.5℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図4F】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料(液体温度45℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図5A】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料の温度毎の蛍光測定結果を示す図である。
図5B】菌体抽出物を酵素反応させた液体試料の菌株毎の蛍光測定結果を示す図である。
図6A】菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度4℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図6B】菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度15℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図6C】菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度22℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図6D】菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度30℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図6E】菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度37.5℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図6F】菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度45℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図7A】菌体抽出物をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度4℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図7B】菌体抽出物をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度15℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図7C】菌体抽出物をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度22℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図7D】菌体抽出物をpHを変えて酵素反応させた液体試料(液体温度30℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図7E】菌体抽出物を温度を変えて酵素反応させた液体試料(液体温度37.5℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図7F】菌体抽出物を温度を変えて酵素反応させた液体試料(液体温度45℃)の蛍光測定結果を示す図である。
図8】歯周病の原因菌の遺伝子型を菌体を用いて判別する原理について説明する図である。
図9】歯周病の原因菌の遺伝子型を菌体抽出物を用いて判別する原理について説明する図である。
図10】本発明の実施形態に係る蛍光測定装置の構成を示す図である。
図11】蛍光測定装置が備える制御装置の概略構成を示す図である。
図12】蛍光測定装置による判別方法の流れを示すフロー図である。
図13】蛍光測定装置による遺伝子型を判別する処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<判別方法>
はじめに、本発明の一実施形態に係る判別方法について、図を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態に係る判別方法は、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する方法である。この判別方法では、採取された試料中の歯周病の原因菌が、既知の遺伝子多型のうちで、いずれの遺伝子型に属するかを判別する。遺伝子型の判別は、各遺伝子型との相関関係が確認されている酵素活性に基づいて行う。酵素活性は、蛍光標識された酵素反応の基質を用いた検査薬を使用することにより、蛍光測定法によって評価される。
【0018】
遺伝子型の判別対象とする歯周病の原因菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg菌)が挙げられる。判別する遺伝子型としては、線毛タンパクをコードするfimA遺伝子の多型であるI型(1型)、II型(2型)、III型(3型)、IV型(4型)、V型(5型)が挙げられる。fimA遺伝子の亜型であるIb型は、I型に属するものとする。
【0019】
本実施形態に係る判別方法では、蛍光標識された酵素反応の基質(蛍光標識基質)を含む液体状の検査薬に、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体、または、その菌体抽出物(供試物)を加えて、蛍光測定用の液体試料を調製する。蛍光標識基質は、歯周病の原因菌が産生する分解酵素の基質であり、酵素反応によって蛍光発色団を解離する。解離した蛍光発色団は、励起光を照射すると蛍光を発するため、液体試料から放出される蛍光の強度が酵素活性の指標となる。
【0020】
供試物に含まれる分解酵素の酵素活性は、Pg菌の遺伝子型毎に温度に対する挙動が異なるため、供試物をいずれかの遺伝子型に分類することができる。温度に対する酵素活性の挙動は、供試物の形態や、蛍光測定用の液体試料のpHに応じて異なる傾向を示す。そのため、供試物の形態に応じて、所定の温度条件および所定のpH条件における酵素活性を蛍光測定によって求め、酵素活性の温度に対する挙動を比較する。
【0021】
遺伝子型を判別するために蛍光測定用の液体試料の調製に供する供試物は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体、または、その菌体抽出物である。供試物としては、例えば、被験者の口腔から採取した歯垢、歯肉浸出液等を、そのまま、ないし、懸濁液や懸濁液の上清として用いることができる。一般に、ヒト等の口腔細菌叢中において、歯周病の原因菌は、いずれかの遺伝子型が優勢な状態で存在している。そのため、ある被験者から採取した供試菌は、優勢な状態にあるいずれかの遺伝子型に分類することができる。
【0022】
蛍光測定用の液体試料は、蛍光標識基質を含む液体状の検査薬に、歯垢、歯肉浸出液等に含まれる菌体を加えて調製してもよいし、菌体から抽出された菌体抽出物を加えて調製してもよい。なお、菌体抽出物には、蛍光標識基質と反応する分解酵素を含む限り、菌体を細胞破壊処理等して残渣から分離した抽出物、および、菌体が細胞外に分泌・産生した分泌物のいずれも含まれる。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る判別方法の流れを示すフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係る判別方法は、酵素反応工程S10と、蛍光測定工程S20と、遺伝子型判別工程S30と、を含む。
【0024】
酵素反応工程S10では、蛍光標識基質と液体状の媒質とを含有する液体試料に、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体、または、その菌体抽出物(供試物)を加えて酵素反応を開始させる。蛍光標識基質は、歯周病の原因菌による酵素反応の基質が蛍光発色団によって蛍光標識された物質である。供試物を加えて酵素反応を開始した液体試料が、蛍光測定法による測定対象となる。
【0025】
蛍光標識基質としては、ポリペプチドのC末端がL-アルギニン(Arg)残基であり、Arg残基のC末端に蛍光発色団が結合した物質が好ましく用いられる。このような蛍光標識基質によると、Pg菌が産生するプロテアーゼの一種であるジンジパインによって、Arg残基のC末端が特異的に消化されるため、Pg菌の酵素活性を評価することができる。
【0026】
蛍光標識基質は、歯周病の原因菌が産生するプロテアーゼによって認識される限り、適宜のアミノ酸配列を有していてよい。蛍光標識基質を構成するポリペプチドは、任意の個数のアミノ酸で構成されてもよいし、任意の種類のアミノ酸で構成されてもよい。但し、ポリペプチドの長さは、酵素反応や蛍光測定を安定させる観点等からは、3~4merであることが好ましい。
【0027】
蛍光標識基質は、ポリペプチドのN末端が保護基によって保護されていてもよい。保護基としては、イソブチルオキシカルボニル基(iBoc)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、アセチル基(Ac)、ベンゾイル基(Bz)、9-フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)等が挙げられる。
【0028】
蛍光標識基質は、蛍光発色団としてアミノメチルクマリン(AMC)を結合していることが好ましい。AMCによると、アミド結合した状態で蛍光を発さず、解離した状態のみで蛍光を発し、高輝度の蛍光が得られる。そのため、高感度な蛍光測定によって酵素活性を評価することができる。
【0029】
蛍光標識基質としては、保護基-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(Gly-Gly-Arg-MCA)が好ましく、iBoc-Gly-Gly-Arg-MCAが特に好ましい。このような蛍光標識基質によると、Pg菌が産生するジンジパインによって認識され易く、AMCによって計測に適した高輝度が得られる。そのため、Pg菌の酵素活性をより正確に評価することができる。
【0030】
蛍光測定対象の液体試料は、pH緩衝液、水等の適宜の液体状の媒質を含むことができるが、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、および、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)のいずれかを主成分とするpH緩衝液を含むことが好ましい。このようなpH緩衝液によると、液体試料のpHの変動をPg菌が産生するジンジパインに適した範囲内に抑制することができるため、Pg菌の酵素活性を正確に評価することができる。
【0031】
蛍光測定対象の液体試料は、特に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を主成分とするpH緩衝液を含むことが好ましい。Trisを主成分とするpH緩衝液の具体例としては、Tris-塩酸緩衝液、Tris-酢酸緩衝液、Tris-ホウ酸緩衝液、Tris-リン酸緩衝液等が挙げられる。Trisを主成分とするpH緩衝液によると、Pg菌の酵素活性をより正確に評価することができる。
【0032】
蛍光測定工程S20では、液体試料に励起光を照射し、液体試料から放出される蛍光の強度を測定する。液体試料は、歯周病の原因菌の菌体、または、その菌体抽出物(供試物)と、歯周病の原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された蛍光標識基質と、を含む溶液である。蛍光標識基質は、歯周病の原因菌が産生した分解酵素による酵素反応で蛍光発色団を解離するため、所定の波長域の励起光を照射すると蛍光を発する。そのため、蛍光測定を行うと、供試菌の酵素活性および反応時間に応じた蛍光強度を検出することができる。
【0033】
液体試料に照射する励起光の波長は、好ましくは350nm以上380nm以下、より好ましくは355nm以上375nm以下、更に好ましくは360nm以上370nm以下である。このような波長であると、蛍光標識基質を構成する蛍光発色団がAMCである場合に、検出に適した蛍光強度が得られる。
【0034】
蛍光強度を測定する蛍光の波長は、好ましくは410nm以上475nm以下、より好ましくは425nm以上465nm以下、更に好ましくは430nm以上455nm以下、特に好ましくは435nm以上450nm以下である。このような波長であると、蛍光標識基質を構成する蛍光発色団がAMCである場合に、蛍光を高感度に検出することができる。
【0035】
なお、液体試料についての蛍光の検出は、蛍光標識基質を含む液体状の検査薬に供試物を加えた後、蛍光標識基質が酵素反応によって完全に分解・解離する前に行うことが好ましい。また、液体試料についての蛍光の検出は、蛍光寿命によって蛍光が減衰する前に行うことが好ましい。具体的には、蛍光の検出は、酵素反応の開始時から10分以内に行うことが好ましく、5分以内に行うことがより好ましい。このような時期であると、酵素活性に応じた蛍光強度の違いを高感度に検出することができる。
【0036】
遺伝子型判別工程S30では、励起光を照射した液体試料から放出される蛍光の強度に基づいて、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する。蛍光測定によって検出される蛍光強度値は、酵素反応の反応率、すなわち反応した基質の割合を間接的に表している。また、蛍光強度の時間的変化量は、酵素の反応速度を間接的に表している。そのため、これらの蛍光強度結果に基づいて遺伝子型を判別することができる。
【0037】
ここで、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別するための具体的な原理・方法について、図を参照しながら説明する。
【0038】
図2は、菌体を酵素反応させた液体試料の蛍光測定結果を示す図である。図2Aは、液体温度4℃で酵素反応させた結果である。図2Bは、液体温度15℃で酵素反応させた結果である。図2Cは、液体温度22℃で酵素反応させた結果である。図2Dは、液体温度30℃で酵素反応させた結果である。図2Eは、液体温度37.5℃で酵素反応させた結果である。図2Fは、液体温度45℃で酵素反応させた結果である。
図2A図2Fには、Pg菌の細胞懸濁液を遠心分離して沈殿物を採取し、この菌体を含む沈殿物を加えた液体試料をpH8.0に調整し、各温度条件で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0039】
図2A図2Fの横軸は、酵素反応の開始時から起算される測定時間[分]、縦軸は、所定の単位の蛍光強度を示す。図中の太線は、fimA遺伝子の遺伝子型がI型のPg菌の結果であり、細線は、II型のPg菌の結果であり、破線は、IV型のPg菌の結果である。
【0040】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。遺伝子型毎の液体試料のサンプル数は3である。
【0041】
図2A図2Fに示すように、fimA遺伝子の遺伝子型毎に、蛍光強度が異なる結果が得られている。蛍光強度の時間変化量に相当する曲線の傾きは、I型よりもIV型が大きく、IV型よりもII型が大きい傾向を示している。液体試料をpH8.0で液体温度4~37.5℃に調整した場合には、液体温度45℃に調整した場合と比較して、II型やIV型の蛍光強度の時間変化量の差異が拡大している。歯周病の原因菌の遺伝子型毎に酵素活性が異なり、酵素活性の温度に対する挙動も異なることが分かる。
【0042】
図2A図2Fに示す結果によると、蛍光標識基質を含む液体試料に菌体自体を加える方法では、pH8.0において、液体温度4~37.5℃に調整した液体試料中で酵素反応させた場合、II型やIV型の蛍光強度が高くなり、遺伝子型の判別の精度が向上するといえる。また、II型やIV型は、液体温度4~37.5℃で酵素活性が高く、液体温度45℃で酵素活性が失活し易いのに対し、I型は、液体温度4~45℃の全範囲で酵素活性が低いことが分かる。
【0043】
図3Aは、菌体を酵素反応させた液体試料の温度毎の蛍光測定結果を示す図である。
図3Aには、fimA遺伝子の遺伝子型がII型であるPg菌の細胞懸濁液を遠心分離して沈殿物を採取し、この菌体を含む沈殿物を加えた液体試料をpH8.0に調整し、各温度条件で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0044】
図中の横軸は、酵素反応の開始時から起算される測定時間[分]、縦軸は、所定の単位の蛍光強度を示す。図中の太破線は、液体温度4℃の結果であり、一点鎖線は、液体温度15℃の結果であり、細破線は、液体温度22℃の結果であり、点線は、液体温度30℃の結果であり、太実線は、液体温度37.5℃の結果であり、細実線は、液体温度45℃の結果である。
【0045】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。温度毎の液体試料のサンプル数は3である。
【0046】
図3Aに示すように、液体試料の温度に応じて、蛍光強度が異なる結果が得られている。各測定時間あたりの蛍光強度値や、初期の蛍光強度の時間変化量は、液体温度45℃と比較して、液体温度4~37.5℃で高い傾向を示している。液体温度37.5℃が特に大きい時間変化量を示しており、液体温度37.5℃付近で最大の酵素活性が得られることが分かる。
【0047】
図3Aに示す結果によると、蛍光標識基質を含む液体試料に菌体自体を加える方法では、pH8.0の付近、且つ、液体温度4~37.5℃に調整した液体試料中で酵素反応させた場合、比較的高い蛍光強度が得られるため、蛍光強度の比較に基づく遺伝子型の判別の精度が向上するといえる。
【0048】
図3Bは、菌体を酵素反応させた液体試料の菌株毎の蛍光測定結果を示す図である。
図3Bには、菌株の種類が異なる各Pg菌の細胞懸濁液を遠心分離して沈殿物を採取し、この菌体を含む沈殿物を加えた液体試料をpH8.0に調整し、37.5℃で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0049】
図中の横軸は、酵素反応の開始時から起算される測定時間[分]、縦軸は、所定の単位の蛍光強度を示す。図中の長破線は、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である33277株の結果であり、一点鎖線は、II型であるTDC60株の結果であり、短破線は、IV型であるW83株の結果であり、太実線は、II型である275株の結果であり、細実線は、II型である268株の結果である。275株および268株は、歯肉縁下の歯垢から単離された単離株である(Hiroyuki Asano et al., Journal of Periodontology, 2003, Vol. 74, 9, p.1355-1360参照)。
【0050】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。菌株毎の液体試料のサンプル数は1である。
【0051】
図3Bに示すように、fimA遺伝子の遺伝子型に応じて、蛍光強度が異なる結果が得られている。fimA遺伝子の遺伝子型がII型であるTDC60株、275株および268株については、I型である33277株や、IV型であるW83株と比較して、各測定時間あたりの蛍光強度値や蛍光強度の時間変化量が有意に大きい値を示している。
【0052】
図3Bに示す結果によると、Pg菌が産生する分解酵素の酵素活性は、歯周病の原因菌の遺伝子型毎に異なり、供試物として菌体自体を用いる場合、II型とI型やIV型とでは蛍光強度値や蛍光強度の時間変化量が大きく異なることが分かる。任意の菌株の菌体自体を用いた蛍光測定結果に基づいて、II型をはじめとする遺伝子型の判別を行うことができるといえる。
【0053】
図4は、菌体抽出物を酵素反応させた液体試料の蛍光測定結果を示す図である。図4Aは、液体温度4℃で酵素反応させた結果である。図4Bは、液体温度15℃で酵素反応させた結果である。図4Cは、液体温度22℃で酵素反応させた結果である。図4Dは、液体温度30℃で酵素反応させた結果である。図4Eは、液体温度37.5℃で酵素反応させた結果である。図4Fは、液体温度45℃で酵素反応させた結果である。
図4A図4Fには、Pg菌の細胞懸濁液を遠心分離して上清を採取し、この菌体抽出物である上清を加えた液体試料をpH8.0に調整し、各温度条件で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0054】
図4A図4Fの横軸は、酵素反応の開始時から起算される測定時間[分]、縦軸は、所定の単位の蛍光強度を示す。図中の太線は、fimA遺伝子の遺伝子型がI型のPg菌の結果であり、細線は、II型のPg菌の結果であり、破線は、IV型のPg菌の結果である。
【0055】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。遺伝子型毎の液体試料のサンプル数は3である。
【0056】
図4A図4Fに示すように、fimA遺伝子の遺伝子型毎に、蛍光強度が異なる結果が得られている。蛍光強度の時間変化量に相当する曲線の傾きは、菌体の場合とは反対に、II型よりもIV型が大きく、IV型よりもI型が大きい傾向を示している。液体試料をpH8.0で液体温度15~37.5℃に調整した場合には、液体温度4℃に調整した場合や、液体温度45℃に調整した場合と比較して、I型やIV型の蛍光強度の時間変化量の差異が拡大している。歯周病の原因菌の遺伝子型毎に酵素活性が異なり、酵素活性の温度に対する挙動も異なることが分かる。
【0057】
図4A図4Fに示す結果によると、蛍光標識基質を含む液体試料に菌体抽出物を加える方法では、pH8.0付近において、液体温度15~37.5℃に調整した液体試料中で酵素反応させた場合、I型の蛍光強度が高くなり、遺伝子型の判別の精度が向上するといえる。また、I型やIV型は、液体温度15~37.5℃で酵素活性が高く、液体温度4℃や45℃で酵素活性が失活し易いのに対し、II型は、液体温度4~45℃の全範囲で酵素活性が低いことが分かる。
【0058】
図5Aは、菌体抽出物を酵素反応させた液体試料の温度毎の蛍光測定結果を示す図である。
図5Aには、fimA遺伝子の遺伝子型がI型であるPg菌の細胞懸濁液を遠心分離して上清を採取し、この菌体抽出物である上清を加えた液体試料をpH8.0に調整し、各温度条件で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0059】
図中の横軸は、酵素反応の開始時から起算される測定時間[分]、縦軸は、所定の単位の蛍光強度を示す。図中の太破線は、液体温度4℃の結果であり、一点鎖線は、液体温度15℃の結果であり、細破線は、液体温度22℃の結果であり、点線は、液体温度30℃の結果であり、太実線は、液体温度37.5℃の結果であり、細実線は、液体温度45℃の結果である。
【0060】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。温度毎の液体試料のサンプル数は3である。
【0061】
図5Aに示すように、液体試料の温度に応じて、蛍光強度が異なる結果が得られている。各測定時間あたりの蛍光強度値や、蛍光強度の時間変化量は、液体温度4℃や45℃と比較して、液体温度15~37.5℃で高い傾向を示している。液体温度22℃や30℃や37.5℃が特に大きい時間変化量を示しており、液体温度22~37.5℃付近で最大の酵素活性が得られることが分かる。
【0062】
図5Aに示す結果によると、蛍光標識基質を含む液体試料に菌体抽出物を加える方法では、pH8.0の付近、且つ、液体温度15~37.5℃に調整した液体試料中で酵素反応させた場合、比較的高い蛍光強度が得られるため、蛍光強度の比較に基づく遺伝子型の判別の精度が向上するといえる。
【0063】
図5Bは、菌体抽出物を酵素反応させた液体試料の菌株毎の蛍光測定結果を示す図である。
図5Bには、菌株の種類が異なる各Pg菌の細胞懸濁液を遠心分離して上清を採取し、この菌体抽出物である上清を加えた液体試料をpH8.0に調整し、37.5℃で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0064】
図中の横軸は、酵素反応の開始時から起算される測定時間[分]、縦軸は、所定の単位の蛍光強度を示す。図中の長破線は、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である33277株の結果であり、一点鎖線は、II型であるTDC60株の結果であり、短破線は、IV型であるW83株の結果であり、太実線は、II型である275株の結果であり、細実線は、II型である268株の結果である。
【0065】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。菌株毎の液体試料のサンプル数は1である。
【0066】
図5Bに示すように、fimA遺伝子の遺伝子型に応じて、蛍光強度が異なる結果が得られている。fimA遺伝子の遺伝子型がI型である33277株や、IV型であるW83株については、II型であるTDC60株、275株および268株と比較して、各測定時間あたりの蛍光強度値や蛍光強度の時間変化量が有意に大きい値を示している。また、I型である33277株は、IV型であるW83株と比較して、蛍光強度値や蛍光強度の時間変化量が大きい値を示している。
【0067】
図5Bに示す結果によると、Pg菌が産生する分解酵素の酵素活性は、歯周病の原因菌の遺伝子型毎に異なり、供試物として菌体抽出物を用いる場合、I型とII型やIV型とでは蛍光強度値や蛍光強度の時間変化量が大きく異なることが分かる。任意の菌株の菌体抽出物を用いた蛍光測定結果に基づいて、I型をはじめとする遺伝子型の判別を行うことができるといえる。
【0068】
図6は、菌体をpHを変えて酵素反応させた液体試料の蛍光測定結果を示す図である。図6Aは、4℃で酵素反応させた結果である。図6Bは、15℃で酵素反応させた結果である。図6Cは、22℃で酵素反応させた結果である。図6Dは、30℃で酵素反応させた結果である。図6Eは、37.5℃でpHを変えて酵素反応させた結果である。図6Fは、45℃で酵素反応させた結果である。
図6A図6Fには、各遺伝子型のPg菌の細胞懸濁液を遠心分離して沈殿物を採取し、この菌体を含む沈殿物を加えた液体試料を各pH条件に調整し、各温度条件で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0069】
図6A図6Fの横軸は、液体試料の温度[℃]、縦軸は、蛍光強度の1分間あたりの時間変化量を示す。蛍光強度の時間変化量は、酵素反応の開始後に蛍光測定を行い、その結果を1分間あたりの変化量に換算したものである。図中の●のプロットは、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である33277株の結果であり、■のプロットは、II型であるTDC60株の結果であり、▲のプロットは、IV型であるW83株の結果である。
【0070】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。株毎の液体試料のサンプル数は3である。
【0071】
図6Aに示すように、液体温度4℃の場合、pH7.0やpH7.5において、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.8~8.5では、II型およびIV型の時間変化量値が、I型よりも有意に大きい値を示している。特に、pH7.8~8.0では、II型の時間変化量値が、I型だけでなく、IV型よりも有意に大きくなっている。
【0072】
図6Bに示すように、液体温度15℃の場合、pH7.0~8.5において、II型およびIV型の時間変化量値が、I型よりも有意に大きい値を示している。pH7.0~7.8では、II型の時間変化量値が、IV型よりもやや大きいが、時間変化量値の大きな差はない。一方、pH8.0~8.5では、II型の時間変化量値が、I型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0073】
図6Cに示すように、液体温度22℃の場合、pH7.5において、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.0やpH7.8~8.5では、II型およびIV型の時間変化量値が、I型よりも有意に大きい値を示している。特に、pH8.0~8.5では、II型の時間変化量値が、I型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0074】
図6Dに示すように、液体温度30℃の場合、I型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では大幅に低下している。pH7.0では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.5~8.5では、II型およびIV型の時間変化量値が、I型よりも有意に大きい値を示している。また、pH7.5~8.5では、II型の時間変化量値が、I型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0075】
図6Eに示すように、液体温度37.5℃の場合、I型やIV型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では大幅に低下している。pH7.5では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.0やpH7.8~8.5では、II型およびIV型の時間変化量値が、I型よりも有意に大きい値を示している。特に、pH7.8~8.5では、II型の時間変化量値が、I型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0076】
図6Fに示すように、液体温度45℃の場合、pH7.5やpH8.5において、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.0やpH7.8~8.0では、II型およびIV型の時間変化量値が、I型よりも有意に大きい値を示している。特に、pH7.8では、II型の時間変化量値が、I型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0077】
図6A図6Fに示す結果によると、酵素を内包する菌体については、pH7.0付近以上pH8.5以下に調整し、且つ、4~45℃に調整した液体試料中で酵素反応させた場合、II型の蛍光強度がI型やIV型よりも高くなり、IV型の蛍光強度がI型よりも高くなる傾向があるため、蛍光測定結果に基づいて、II型とI型やIV型との判別や、IV型とI型やII型との判別が可能になるといえる。また、38~45℃よりも低い温度域と、38~45℃よりも高い温度域とでは、遺伝子型毎の酵素活性の挙動が大きく異なることが分かる。
【0078】
図7は、菌体抽出物をpHを変えて酵素反応させた液体試料の蛍光測定結果を示す図である。図7Aは、4℃で酵素反応させた結果である。図7Bは、15℃で酵素反応させた結果である。図7Cは、22℃で酵素反応させた結果である。図7Dは、30℃で酵素反応させた結果である。図7Eは、37.5℃で酵素反応させた結果である。図7Fは、45℃で酵素反応させた結果である。
図7A図7Fには、各遺伝子型のPg菌の細胞懸濁液を遠心分離して上清を採取し、この菌体抽出物である上清を加えた液体試料を各pH条件に調整し、各温度条件で酵素反応させた後に、蛍光測定装置を使用して蛍光強度を測定した結果を示している。
【0079】
図7A図7Fの横軸は、液体試料の温度[℃]、縦軸は、蛍光強度の1分間あたりの時間変化量を示す。蛍光強度の時間変化量は、酵素反応の開始後に蛍光測定を行い、その結果を1分間あたりの変化量に換算したものである。図中の●のプロットは、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である33277株の結果であり、■のプロットは、II型であるTDC60株の結果であり、▲のプロットは、IV型であるW83株の結果である。
【0080】
蛍光標識基質としては、イソブチルオキシカルボニル-グリシル-グリシル-L-アルギニル-4-メチルクマリル-7-アミド(iBoc-Gly-Gly-Arg-MCA)を用いている。株毎の液体試料のサンプル数は3である。
【0081】
図7Aに示すように、液体温度4℃の場合、I型やIV型やII型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では低下している。pH8.0では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.0~7.8やpH8.5では、I型およびIV型の時間変化量値が、II型よりも有意に大きい値を示している。また、pH7.0では、I型の時間変化量値が、II型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0082】
図7Bに示すように、液体温度15℃の場合、I型やIV型やII型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では大きく低下している。I型の時間変化量値は、pH8.0で顕著に大きい値を示している。pH7.0~7.8では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH8.0~8.5では、I型の時間変化量値が、IV型やII型よりも有意に大きい値を示している。
【0083】
図7Cに示すように、液体温度22℃の場合、I型やIV型やII型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では大幅に低下している。I型の時間変化量値は、pH8.0で顕著に大きい値を示している。pH7.0~7.5では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.8~8.5では、I型の時間変化量値が、IV型やII型よりも有意に大きい値を示している。
【0084】
図7Dに示すように、液体温度30℃の場合、I型やIV型やII型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では大幅に低下している。I型の時間変化量値は、pH7.8~8.0で顕著に大きい値を示している。pH7.0~8.5では、I型およびIV型の時間変化量値が、II型よりも有意に大きい値を示している。また、pH7.5やpH8.0では、I型の時間変化量値が、II型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0085】
図7Eに示すように、液体温度37.5℃の場合、I型やIV型やII型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では大幅に低下している。I型の時間変化量値は、pH8.0で顕著に大きい値を示している。pH7.0では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.5~8.5では、I型の時間変化量値が、IV型やII型よりも有意に大きい値を示している。また、pH7.8~8.0では、I型の時間変化量値が、II型だけでなく、IV型よりも有意に大きい値を示している。
【0086】
図7Fに示すように、液体温度45℃の場合、IV型やII型の時間変化量値は、pH7.0~8.0にかけて次第に大きくなっているが、pH8.5では低下している。pH8.0では、遺伝子型毎の時間変化量値が、互いに同程度の値を示している。一方、pH7.0~7.8やpH8.5では、I型の時間変化量値が、IV型やII型よりも有意に大きい値を示している。
【0087】
図7A図7Fに示す結果によると、酵素が産生された菌体抽出物については、pH7.0以上pH8.5未満に調整し、且つ、15℃を超え45℃未満に調整した液体試料中で酵素反応させた場合、I型の蛍光強度がIV型やII型よりも高くなり、IV型の蛍光強度がII型よりも高くなる傾向があるため、蛍光測定結果に基づいて、I型とIV型やII型との判別や、IV型とI型やII型との判別が可能になるといえる。また、4~15℃よりも低い温度域や、38~45℃よりも高い温度域と、4~15℃よりも高く、且つ、38~45℃よりも低い温度域とでは、遺伝子型毎の酵素活性の挙動が大きく異なることが分かる。
【0088】
図8は、歯周病の原因菌の遺伝子型を菌体を用いて判別する原理について説明する図である。
図8の横軸は、酵素反応の開始時から起算される時間、縦軸は、蛍光強度を示す。図中の一点鎖線は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体(供試物)を含む液体試料の蛍光測定結果の具体例を示している。
【0089】
また、図中の太実線は、遺伝子型がI型のPg菌によって得られる蛍光測定結果の具体例、細実線は、遺伝子型がII型のPg菌によって得られる蛍光測定結果の具体例、破線は、遺伝子型がIV型のPg菌によって得られる蛍光測定結果の具体例を示す。このような蛍光測定結果は、液体試料の温度が38~45℃よりも低い温度域である場合に得られる。38~45℃よりも高い温度域では、II型やIV型の蛍光測定結果がI型の蛍光測定結果に近似した曲線となる。
【0090】
図8に示すように、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料を蛍光測定すると、歯周病の原因菌の酵素活性や、酵素の細胞外産生能力、分泌能力等が遺伝子型によって異なる場合、液体試料の温度やpHに応じて、遺伝子型毎に異なる蛍光強度が検出される。蛍光測定に際しては、菌量、酵素量、反応時間、測定誤差等によるバラつきを生じるため、多数の蛍光測定を行うと、図中の網掛け領域で示すように、或る範囲に分布する蛍光測定結果が得られる。遺伝子型が既知である多数の液体試料について蛍光測定を行い、その結果を回帰分析等すると、図中に曲線(I型線、II型線、IV型線)で示すように、遺伝子型毎の測定値群についての代表値を得ることができる。
【0091】
一方、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料を蛍光測定すると、図中に一点鎖線で示すように、いずれかの遺伝子型の代表値の曲線(I型線、II型線、IV型線)に近接した測定結果が得られる。図8においては、II型線に近接した測定結果を示している。被験者から採取した供試物は、いずれかの遺伝子型が優勢な状態であり、酵素活性や、酵素の細胞外産生能力、分泌能力の程度が、いずれかの遺伝子型のものと類似しているため、このような測定結果が得られる。
【0092】
したがって、酵素反応の開始後に所定の反応時間が経過したとき(例えば、時間T)に、液体試料の蛍光強度を測定し、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の蛍光強度値(例えば、蛍光強度I)と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の蛍光強度値(例えば、蛍光強度I,Iや、図中の網掛け領域の境界線)とを、同じ反応時間あたりで比較すると、供試物の遺伝子型を判別することができる。
【0093】
このような判別法の場合、遺伝子型が未知である供試物を含む試験区と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌の菌体を含む対照区との比較を行う際に、酵素反応の反応条件や蛍光測定の測定系を一致させる必要があるが、単純な蛍光強度値の比較によって遺伝子型を判別することができる。
【0094】
或いは、酵素反応の開始後に所定の時間間隔毎に経時的(例えば、時間T付近の微小区間)に液体試料の蛍光強度を測定し、蛍光強度の時間微分である時間的変化量(傾き)を求め、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の蛍光強度の時間的変化量(例えば、T-Iの交点における接線の傾き)と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の蛍光強度の時間的変化量(例えば、T-Iの交点における接線の傾き,T-Iの交点における接線の傾きや、図中の網掛け領域の境界線の接線の傾き)とを比較すると、供試物の遺伝子型を判別することができる。
【0095】
このような判別法の場合、時間的変化量(傾き)の計算が必要になるが、酵素反応の反応時間を必ずしも一致させる必要がなく、また、蛍光測定の結果が測定系統誤差を生じ難くなるため、正確な比較を行うことができる。なお、蛍光強度の時間的変化量は、同じ反応時間あたりで比較することもできるし、酵素反応中の最大値同士で比較することもできる。
【0096】
図9は、歯周病の原因菌の遺伝子型を菌体抽出物を用いて判別する原理について説明する図である。
図9の横軸は、酵素反応の開始時から起算される時間、縦軸は、蛍光強度を示す。図中の一点鎖線は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物(供試物)を含む液体試料の蛍光測定結果の具体例を示している。
【0097】
また、図中の太実線は、遺伝子型がII型のPg菌によって得られる蛍光測定結果の具体例、細実線は、遺伝子型がI型のPg菌によって得られる蛍光測定結果の具体例、破線は、遺伝子型がIV型のPg菌によって得られる蛍光測定結果の具体例を示す。このような蛍光測定結果は、液体試料の温度が4~15℃よりも高く、且つ、38~45℃よりも低い温度域である場合に得られる。4~15℃よりも低い温度域や、38~45℃よりも高い温度域では、I型やIV型の蛍光測定結果がII型の蛍光測定結果に近似した曲線となる。
【0098】
図9に示すように、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物を含む液体試料を蛍光測定すると、歯周病の原因菌の酵素活性が遺伝子型によって異なる場合、菌体を用いる場合(図8参照)と同様に、液体試料の温度やpHに応じて、遺伝子型毎に異なる蛍光強度が検出される。但し、菌体抽出物を用いる場合、酵素の細胞外産生能力、分泌能力等の影響は小さくなるため、遺伝子型毎の蛍光強度の測定値は、菌体を用いる場合とは異なる傾向を示す。
【0099】
一方、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物を含む液体試料を蛍光測定すると、図中に一点鎖線で示すように、いずれかの遺伝子型の代表値の曲線(I型線、II型線、IV型線)に近接した測定結果が得られる。菌体抽出物を用いる場合、菌体を用いる場合に対してI型の蛍光強度とII型の蛍光強度が逆の関係になるため、蛍光強度の測定値が小さいほどII型の曲線に近接し、蛍光強度の測定値が大きいほどI型の曲線に近接することになる。
【0100】
したがって、菌体抽出物を用いる場合、菌体を用いる場合(図8参照)と同様に、酵素反応の開始後に所定の反応時間が経過したとき(例えば、時間T)に、液体試料の蛍光強度を測定し、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度値(例えば、蛍光強度I)と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度値(例えば、蛍光強度I,Iや、図中の網掛け領域の境界線)とを、同じ反応時間あたりで比較すると、供試物の遺伝子型を判別することができる。
【0101】
また、酵素反応の開始後に所定の時間間隔毎に経時的(例えば、時間T付近の微小区間)に液体試料の蛍光強度を測定し、蛍光強度の時間微分である時間的変化量(傾き)を求め、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度の時間的変化量(例えば、T-Iの交点における接線の傾き)と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌から抽出された菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度の時間的変化量(例えば、T-Iの交点における接線の傾き,T-Iの交点における接線の傾きや、図中の網掛け領域の境界線の接線の傾き)とを比較すると、供試物の遺伝子型を判別することができる。
【0102】
例えば、遺伝子型判別工程S30における遺伝子型の判別は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)を含む液体試料によって構成される試験区の液体試料と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物を含む液体試料によって構成される対照区の液体試料と、を調製し、互いに同じ液体温度に調整して酵素反応させた後に、試験区の液体試料の蛍光測定結果と、対照区の液体試料の蛍光測定結果と、を互いに比較する方法によって行うことができる。なお、試験区の液体試料と対照区の液体試料とは、pH、歯周病の原因菌や菌体抽出物の供試量、蛍光標識基質の濃度等を互いに実質的に同じ条件に調整して酵素反応させる。
【0103】
対照区は、1以上の任意の個数の液体試料で構成することができるが、多数の液体試料によって構成することが好ましい。対照区は、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や、その菌体抽出物を含む液体試料と共に、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌や、その菌体抽出物を含む液体試料を含んでもよい。但し、対照区は、遺伝子型を確実に判別する観点からは、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や、その菌体抽出物を含む液体試料のみで構成されることが好ましい。
【0104】
対照区は、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や、その菌体抽出物として、一種の遺伝子型の菌体や、その菌体抽出物を含んでもよいし、複数種の遺伝子型の菌体や、その菌体抽出物を含んでもよい。例えば、対照区がI型のみを含む場合、供試菌がI型か否か、判別することができる。対照区がI~V型を含む場合、供試物がいずれの遺伝子型か、判別することができる。
【0105】
対照区は、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や、その菌体抽出物として、蛍光測定法による遺伝子型の判別を事前に行った菌株の菌体や、その菌体抽出物、分譲等によって一般的に取得可能な寄託株・単離株の菌体や、その菌体抽出物等を用いて用意することができる。
【0106】
寄託株・単離株の具体例としては、fimA遺伝子がI型であるATCC_33277株、ATCC_BAA-1703(FDC381)株、II型であるJCM_19600(TDC60)株、275株(HG184株)、268株、III型であるATCC_49417(RB22D-1)株、IV型であるATCC_BAA-308(W83)株、ATCC_53978(W50)株、V型であるHNA99株等が挙げられる。
【0107】
蛍光測定対象の液体試料は、蛍光測定の前に、中性のpH以上、且つ、pH8.5以下に調整して酵素反応させることが好ましい。なお、本明細書において、中性とは、pH6.8以上pH7.2以下であることを意味する。液体試料のpHは、好ましくはpH8.4以下、より好ましくはpH8.3以下、更に好ましくはpH8.2以下、更に好ましくはpH8.1以下である。また、液体試料のpHは、菌体抽出物を用いる場合、好ましくはpH7.5以上、より好ましくはpH7.8以上である。このようなpHに調整すると、Pg菌が産生するジンジパインの酵素活性が適切に得られるため、Pg菌のfimA遺伝子の遺伝子型を、より正確に判別することができる。一方、液体試料のpHは、菌体を用いる場合、好ましくは中性である。菌体を用いる場合、pHの調整を行うことなく、液体試料の調製を簡便に行うことができる。
【0108】
蛍光測定対象の液体試料は、試験区および対照区のそれぞれについて、互いに同じ所定の温度に調整し、所定の温度に調整した恒温制御下で蛍光測定することが好ましい。液体試料の温度は、好ましくは4℃以上45℃以下である。液体試料の温度は、菌体抽出物を用いる場合、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは34℃以上、更に好ましくは36℃以上である。また、好ましくは40℃以下、より好ましくは39℃以下、更に好ましくは38℃以下である。一方、液体試料の温度は、菌体を用いる場合、好ましくは4℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、更に好ましくは18℃以上、更に好ましくは21℃以上である。また、好ましくは37℃以下、より好ましくは30℃以下である。pHが中性である場合、好ましくは22℃以上37.5以下、特に好ましくは30℃である。このような温度に制御すると、Pg菌のfimA遺伝子の遺伝子型を、正確に判別することができる。
【0109】
具体的には、試験区の蛍光測定結果と対照区の蛍光測定蛍光結果との比較は、試験区について測定された遺伝子型が未知である歯周病の原因菌もしくは菌体抽出物(供試物)を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、対照区について測定された遺伝子型が既知である歯周病の原因菌もしくは菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、を比較することによって行うことができる。比較に際しては、互いに同じ液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果のうち、蛍光強度値同士または蛍光強度の時間的変化量同士を比較する。
【0110】
試験区の蛍光測定結果と対照区の蛍光測定結果とを比較した結果、試験区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、対照区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、互いに同一であるか、または、近似しているとき、試験区中の当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、対照区中の当該液体試料の遺伝子型が既知である歯周病の原因菌のfimA遺伝子と同じ遺伝子型であると判定することができる。
【0111】
一方、試験区の蛍光測定結果と対照区の蛍光測定結果とを比較した結果、試験区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、対照区について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、同一でなく、且つ、近似していないとき、試験区中の当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、対照区中の当該液体試料の遺伝子型が既知である歯周病の原因菌のfimA遺伝子と異なる遺伝子型であると判定することができる。
【0112】
試験区の蛍光測定結果と対照区の蛍光測定結果との比較は、例えば、測定値自体の比較や、平均値等の代表値の比較によって行うことができる。例えば、試験区について測定された測定値と、対照区について測定された平均値等の代表値とを比較し、試験区の測定値と対照区の代表値との差が、対照区の代表値に対して±30%の範囲内であるとき、当該蛍光測定結果同士が近似していると判断することができる。
【0113】
或いは、遺伝子型判別工程S30における遺伝子型の判別は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌または菌体抽出物(供試物)を含む判別対象の液体試料を含んだ複数の液体試料からなる試料群を調製し、互いに同じ液体温度に調整して酵素反応させた後に、試料群中の液体試料の蛍光測定結果を互いに比較する方法によって行うこともできる。なお、判別対象の液体試料とそれ以外の液体試料とは、pH、歯周病の原因菌や菌体抽出物の供試量、蛍光標識基質の濃度等を互いに実質的に同じ条件に調整して酵素反応させる。
【0114】
試料群は、2以上の任意の個数の液体試料で構成することができるが、多数の液体試料によって構成することが好ましい。試料群は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌または菌体抽出物(供試物)を含む判別対象の液体試料を含む限り、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌や菌体抽出物を含む液体試料のみで構成されてもよいし、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌や菌体抽出物を含む液体試料と、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や菌体抽出物を含む液体試料と、の組み合わせで構成されてもよい。
【0115】
試料群は、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や菌体抽出物として、複数の遺伝子型の菌株や菌体抽出物を含んでいることが好ましい。例えば、対照区がI~V型を含む場合、蛍光測定結果は、蛍光強度の時間変化の傾向が遺伝子型毎に異なる5種類の測定値群を生じることになる。そのため、供試物の蛍光測定結果について、これらの測定値群との類似度を判定することにより、供試物がいずれの遺伝子型か、判別することができる。
【0116】
蛍光測定対象の液体試料は、試験区と対照区とを比較する場合と同様に、蛍光測定の前に、中性のpH以上、且つ、pH8.5以下に調整して酵素反応させることが好ましい。また、蛍光測定対象の液体試料は、試験群中の液体試料のそれぞれについて、互いに同じ所定の温度に調整し、所定の温度に調整した恒温制御下で蛍光測定することが好ましい。液体試料の温度は、供試物の種別にもよるが、好ましくは4℃以上45℃以下である。
【0117】
具体的には、試料群中の蛍光測定結果の比較は、試料群中の遺伝子型が未知である歯周病の原因菌もしくは菌体抽出物(供試物)を含む判別対象の液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、試料群中の複数の液体試料について得られた蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群と、を比較することによって行うことができる。比較に際しては、互いに同じ液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果のうち、蛍光強度値同士または蛍光強度の時間的変化量同士を比較する。
【0118】
液体試料の調製に菌体を用いた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)を比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、試料群中の複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、上位一番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型である、と判定することができる。一方、液体試料の調製に菌体抽出物を用いた場合、上位一番目の測定値群に分類された当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、I型である、と判定することができる。
【0119】
上位一番目の測定値群は、図8にドットの網掛け、図9に斑の網掛けで示すように、全遺伝子型のうちで、蛍光強度の最大値が分類される測定値群となる。同様に、上位一番目の測定値群は、蛍光強度の時間的変化量(傾き)についても、最大値が分類される測定値群となる。そのため、液体試料の調製に菌体を用いており、試料群中にII型とI型やIV型が含まれる場合、上位一番目の測定値群がII型となる。一方、液体試料の調製に菌体抽出物を用いており、試料群中にI型とIV型やII型が含まれる場合、上位一番目の測定値群がI型となる。
【0120】
また、液体試料の調製に菌体を用いた場合や、液体試料の調製に菌体抽出物を用いた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)と比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、試料群中の複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、上位二番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、IV型である、と判定することができる。
【0121】
上位二番目の測定値群は、図8図9に斜線の網掛けで示すように、全遺伝子型のうちで、蛍光強度の最大値が分類される測定値群の次に高い測定値群となる。同様に、上位二番目の測定値群は、蛍光強度の時間的変化量(傾き)についても、最大値が分類される測定値群の次に高い測定値群となる。そのため、液体試料の調製に菌体を用いており、試料群中にII型とIV型やI型が含まれる場合、上位二番目の測定値群がIV型となる。また、液体試料の調製に菌体抽出物を用いており、試料群中にI型とIV型やII型が含まれる場合、上位二番目の測定値群がIV型となる。
【0122】
また、液体試料の調製に菌体を用いた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)と比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、試料群中の複数の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群のうち、下位一番目の測定値群に分類されるとき、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、I型である、と判定することができる。一方、液体試料の調製に菌体抽出物を用いた場合、下位一番目の測定値群に分類された当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型である、と判定することができる。
【0123】
下位一番目の測定値群は、図8に斑の網掛け、図9にドットの網掛けで示すように、全遺伝子型のうちで、蛍光強度の最小値が分類される測定値群となる。同様に、下位一番目の測定値群は、蛍光強度の時間的変化量(傾き)についても、最小値が分類される測定値群となる。そのため、液体試料の調製に菌体を用いており、試料群中にI型とII型やIV型が含まれる場合、下位一番目の測定値群がI型となる。一方、液体試料の調製に菌体抽出物を用いており、試料群中にII型とIV型やI型が含まれる場合、下位一番目の測定値群がII型となる。
【0124】
試料群中の蛍光測定結果の比較は、例えば、測定によって得られる結果同士の類似度に基づいて行うことができる。例えば、試験区について測定された測定値と、対照区について測定された測定値とを比較し、試験区の測定値が、対照区の測定値群に対して、予め設定されている所定の類似度の範囲内であるとき、当該蛍光測定結果同士が近似していると評価することができる。
【0125】
対照区の測定値群は、予め遺伝子型毎に分類(クラスタリング)された状態で試験区の測定値と比較されてもよい。遺伝子型毎の分類には、遺伝子型毎の測定値を所定の閾値で分類する方法や、ウォード法、群平均法、最長距離法、最短距離法等の各種の計算手法を用いることができる。蛍光測定結果の比較は、ユークリッド距離等の各種の数学的距離を用いて行うことができる。
【0126】
或いは、遺伝子型判別工程S30における遺伝子型の判別は、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌または菌体抽出物(供試物)を含む複数の判別対象の液体試料からなる試料群を調製し、互いに異なる液体温度で酵素反応させた後に、試料群中の液体試料の蛍光測定結果を互いに比較する方法によって行うこともできる。なお、判別対象の液体試料としては、互いに同じ遺伝子型の菌株に由来する複数を用意する。複数の判別対象の液体試料は、pH、歯周病の原因菌や菌体抽出物の供試量、蛍光標識基質の濃度等を互いに実質的に同じ条件に調整して酵素反応させる。
【0127】
試料群は、判別対象の液体試料として、2以上の任意の個数の液体試料を含むように構成することができるが、多数の液体試料を含むように構成することが好ましい。また、試料群は、判別対象の液体試料に加えて、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や菌体抽出物を含む液体試料を用いて構成されてもよい。このような多数の液体試料を含む試料群を用いると、種々の温度域における酵素反応の挙動を遺伝子型毎に比較することができる。
【0128】
蛍光測定対象の液体試料は、蛍光測定の前に、中性のpH以上、且つ、pH8.5以下に調整して酵素反応させることが好ましい。液体試料のpHは、好ましくはpH8.4以下、より好ましくはpH8.3以下、更に好ましくはpH8.2以下、更に好ましくはpH8.1以下である。また、液体試料のpHは、菌体抽出物を用いる場合、好ましくはpH7.5以上、より好ましくはpH7.8以上である。このようなpHに調整すると、Pg菌が産生するジンジパインの酵素活性が適切に得られるため、Pg菌のfimA遺伝子の遺伝子型を、より正確に判別することができる。一方、液体試料のpHは、菌体を用いる場合、好ましくは中性である。菌体を用いる場合、pHの調整を行うことなく、液体試料の調製を簡便に行うことができる。
【0129】
蛍光測定対象の液体試料は、試料群中の液体試料のそれぞれについて、互いに異なる所定の温度に調整し、所定の温度に調整した恒温制御下で蛍光測定することが好ましい。試料群中の液体試料は、4℃以上45℃以下の範囲内において、互いに異なる温度に振り分けるものとする。菌体を用いる場合、各液体試料の制御温度を、少なくとも、38~45℃よりも低い温度域と、38~45℃よりも高い温度域とに振り分けることが好ましい。菌体抽出物を用いる場合、各液体試料の制御温度を、少なくとも、4~15℃よりも低い温度域と、4~15℃よりも高い温度域とに振り分けるか、または、38~45℃よりも低い温度域と、38~45℃よりも高い温度域とに振り分けることが好ましい。このような温度に制御すると、Pg菌のfimA遺伝子の遺伝子型を、温度毎の酵素活性の挙動を比較して判別することができる。
【0130】
具体的には、試料群中の蛍光測定結果の比較は、試料群中の遺伝子型が未知である歯周病の原因菌もしくは菌体抽出物(供試物)を含む判別対象の液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、試料群中の判別対象以外の液体試料について得られた蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の測定値群と、を比較することによって行うことができる。比較に際しては、互いに異なる液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果のうち、蛍光強度値同士または蛍光強度の時間的変化量同士を比較する。
【0131】
液体試料の調製に菌体を用いており、38~45℃の範囲内にある境界温度に対して試料群の温度を振り分けた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)を比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、当該判別対象の液体試料とは異なる温度域に調整された液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、互いに同一であるか、または、近似しているとき、判別対象の液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、I型である、と判定することができる。
【0132】
一方、液体試料の調製に菌体を用いており、38~45℃の範囲内にある境界温度に対して試料群の温度を振り分けた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)を比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、当該判別対象の液体試料とは異なる温度域に調整された液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、同一でなく、且つ、近似していないとき、判別対象の液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型またはIV型である、と判定することができる。
【0133】
また、液体試料の調製に菌体抽出物を用いており、4~15℃または38~45℃の範囲内にある境界温度に対して試料群の温度を振り分けた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)を比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、当該判別対象の液体試料とは異なる温度域に調整された液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、互いに同一であるか、または、近似しているとき、判別対象の液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型である、と判定することができる。
【0134】
一方、液体試料の調製に菌体抽出物を用いており、4~15℃または38~45℃の範囲内にある境界温度に対して試料群の温度を振り分けた場合、試料群中の蛍光測定結果(測定値群)を比較した結果、試料群中の遺伝子型が未知である判別対象の液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、当該判別対象の液体試料とは異なる温度域に調整された液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量とが、同一でなく、且つ、近似していないとき、判別対象の液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、I型またはIV型である、と判定することができる。
【0135】
互いに異なる温度域に振り分けた試料群の蛍光測定結果の比較は、例えば、測定値自体の比較や、平均値等の代表値の比較によって行うことができる。例えば、互いに異なる温度域に振り分けた試料群の蛍光測定結果同士を比較し、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量の差分が、予め設定された閾値以下であるとき、当該蛍光測定結果同士が近似していると判断することができる。
【0136】
以上の本実施形態に係る判別方法によると、歯周病の原因菌の酵素活性と歯周病の原因菌の遺伝子型とに相関関係がある場合に、蛍光測定法によって求められる酵素活性に基づいて、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別することができる。従来一般的な分子生物学的手法とは異なり、歯周病を進行させる酵素活性が判別に反映されるため、より実際の病態に即した遺伝子型の判別を行うことができる。また、液体試料の調製に菌体を用いる場合、被験者の口腔から採取した試料を、そのまま蛍光測定用の液体試料に用いることができるため、遺伝子型の判別を簡便に行うことができる。
【0137】
特に、液体試料の調製に菌体を用いる場合、38~45℃を境界として遺伝子型毎の酵素活性の挙動が変わるため、II型やIV型とI型との判別の精度を向上させることができる。また、液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、4~15℃や38~45℃を境界として遺伝子型毎の酵素活性の挙動が変わるため、I型やIV型とII型との判別の精度を向上させることができる。I型のPg菌は、健康な歯周組織を持つ成人の保有率が高い一方で、II型やIV型のPg菌は、成人の歯周炎患者の保有率が高いため、歯周病の現在の病態や重症化の可能性を、より正確に判断することができる。
【0138】
また、液体試料の調製には、歯垢、歯肉浸出液等に含まれる菌体、および、菌体から抽出された菌体抽出物のうち、いずれを用いることもできる。酵素活性の温度条件に対する挙動は、遺伝子型毎、且つ、供試物の形態毎に異なる傾向を示すことが確認されている。菌体内で酵素等を内包しているベジクルの菌体からの遊離性や菌体による保持力は、遺伝子型毎に異なっている可能性がある。しかし、供試物の形態毎に、酵素反応の条件を調整することにより、高精度な判別を行うことができる。
【0139】
<蛍光測定装置>
次に、本発明の一実施形態に係る蛍光測定装置について、図を参照しながら説明する。
【0140】
図10は、本発明の実施形態に係る蛍光測定装置の構成を示す図である。
図10に示すように、本実施形態に係る蛍光測定装置100は、光源(照射手段)1と、試料ホルダ2と、光学レンズ3a,3bと、フィルタ4と、検出素子(検出手段)5と、増幅器6と、アナログ処理器7と、A/D変換器8と、制御装置(判別手段)9と、試料容器10と、入力手段11と、表示手段12と、pH測定手段13と、温度測定手段14と、温調装置15と、を備えている。
【0141】
本実施形態に係る蛍光測定装置100は、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別することができる蛍光測定装置である。この蛍光測定装置100では、液体試料Saに含まれている歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)が、既知の遺伝子多型のうちで、いずれの遺伝子型に属するかを判別する。遺伝子型の判別は、各遺伝子型との相関関係が確認されている酵素活性に基づいて行う。酵素活性は、蛍光標識された酵素反応の基質を用いた検査薬を使用することにより、蛍光測定法によって評価される。
【0142】
遺伝子型の判別対象とする歯周病の原因菌としては、前記の実施形態に係る判別方法と同様に、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg菌)が挙げられる。判別する遺伝子型としては、fimA遺伝子の多型であるI型(1型)、II型(2型)、III型(3型)、IV型(4型)、V型(5型)が挙げられる。
【0143】
遺伝子型を判別するために蛍光測定用の液体試料の調製に供する供試物としては、前記の判別方法と同様に、被験者の口腔から採取した歯垢、歯肉浸出液等を、そのまま、ないし、懸濁液や懸濁液の上清として用いることができる。蛍光測定対象の液体試料としては、歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物と、歯周病の原因菌による酵素反応の基質が蛍光標識された蛍光標識基質と、を含む液体試料Saが用いられる。
【0144】
光源1は、励起光を発生させるための装置である。液体試料Sa中において、歯周病の原因菌による酵素反応が起こると、蛍光標識基質から蛍光発色団が解離する。光源1によって発生させた励起光を液体試料Saに照射すると、蛍光発色団が発した蛍光が、液体試料Saから放出される。
【0145】
光源1としては、特定の励起波長が単色化された単色化光源、例えば、発光ダイオード(light emitting diode:LED)、レーザー光源等が好ましく用いられる。但し、光源1としては、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ等のその他の光源を、分光器等の光学系と共に備えてもよい。
【0146】
光源1が発生する励起光は、350nm以上380nm以下の波長に最大ピークを持つことが好ましく、355nm以上375nm以下の波長に最大ピークを持つことがより好ましく、360nm以上370nm以下の波長に最大ピークを持つことが更に好ましい。このようなスペクトルであると、蛍光標識基質を構成する蛍光発色団がAMCである場合に、検出に適した蛍光強度が得られる。
【0147】
試料ホルダ2は、不図示の測定室内に設置されており、試料容器10を、励起光の照射および蛍光の出射が可能な状態に支持している。蛍光測定に際して、試料ホルダ2には、液体試料Saを入れた試料容器10が固定される。試料ホルダ2に支持された試料容器10には、側方から励起光が照射される。
【0148】
検出素子5は、液体試料Saが放出した蛍光を検出するための装置である。液体試料Saから放出された蛍光は、試料容器10から出射し、光学レンズ3aを通ってフィルタ4に達する。フィルタ4は、ノイズや低感度の波長域を除き、特定の波長域の蛍光のみを透過する。フィルタ4を透過した蛍光は、光学レンズ3bを通って検出素子5に入射して、電気信号に変換される。
【0149】
検出素子5としては、フォトダイオード、光電管、光電子増倍管等の各種の検出素子を用いることができる。フィルタ4としては、光学フィルタ、ダイクロイックミラー等を用いることができる。フィルタ4としては、410nm以上475nm以下の波長を透過し、それ以外の波長を遮断するものが好ましい。このような特性であると、蛍光標識基質を構成する蛍光発色団がAMCである場合に、蛍光を高感度に検出することができる。
【0150】
検出素子5で変換された蛍光の電気信号は、増幅器6によって増幅された後、ローパスフィルタ等を備えるアナログ処理器7によってノイズ除去処理等を施される。その後、蛍光の電気信号は、A/D変換器8によってデジタル信号に変換されて、制御装置9に入力される。
【0151】
蛍光測定対象の液体試料Saは、前記の判別方法と同様に、蛍光測定の前に、中性のpH以上、且つ、pH8.5以下に調整して酵素反応させることが好ましい。液体試料のpHは、好ましくはpH8.4以下、より好ましくはpH8.3以下、更に好ましくはpH8.2以下、更に好ましくはpH8.1以下である。また、液体試料のpHは、菌体抽出物を用いる場合、好ましくはpH7.5以上、より好ましくはpH7.8以上である。このようなpHに調整すると、Pg菌が産生するジンジパインの酵素活性が適切に得られるため、Pg菌のfimA遺伝子の遺伝子型を、より正確に判別することができる。一方、液体試料のpHは、菌体を用いる場合、好ましくは中性である。菌体を用いる場合、pHの調整を行うことなく、液体試料Saの調製を簡便に行うことができる。
【0152】
液体試料SaのpHは、pH測定手段13によって測定することができる。pH測定手段13としては、例えば、ガラス電極式、膜電極式等のpH計を試料容器10に挿入して用いることができる。pH測定手段13によると、蛍光測定時に液体試料SaのpHを測定することができるため、pHが所定の範囲を逸脱している場合に、蛍光測定を中止したり、不正確な蛍光測定結果を破棄したりする対応が可能になる。
【0153】
蛍光測定対象の液体試料Saは、前記の判別方法と同様に、所定の温度に調整した恒温制御下で蛍光測定することが好ましい。液体試料の温度は、供試物の種別や判別の方式にもよるが、好ましくは4℃以上45℃以下である。
【0154】
液体試料Saの温度は、温度測定手段14によって測定することができる。温度測定手段14としては、例えば、サーミスタ、熱電対、測温抵抗体等を試料容器10に挿入して用いることができる。温度測定手段14によると、蛍光測定時に液体試料Saの温度をオンラインで監視して、調温装置15をフィードバック制御することができる。
【0155】
温調装置15は、試料容器10中の液体試料Saを調温するための装置である。温調装置15としては、PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータ、ペルチェ素子、恒温媒体循環系等を試料容器10の周囲、例えば、下方や側方の試料ホルダ2に備えることができる。温調装置15によると、液体試料Saを酵素反応に適した温度に調温して、酵素活性を正確に評価することができる。
【0156】
なお、図10に示す判別装置100では、セル状の試料容器10を用いているが、試料容器10として、マイクロチューブを用いることもできる。マイクロチューブとしては、反応、抽出、培養、遠心分離等の各種の操作に用いることが可能であり、容積1~2mL程度のプラスチック製、ガラス製等の容器が挙げられる。
【0157】
試料容器10として、マイクロチューブを用いる場合、試料ホルダ2には、液体試料Saを入れた脱蓋状態のマイクロチューブを取り付けることができる。このようなマイクロチューブには、側壁面から励起光を入射させることができる。液体試料Saから放出される蛍光は、試料ホルダ2の側方ではなく、脱蓋状態のマイクロチューブの上方に出射させて検出することができる。
【0158】
このような形態によると、マイクロチューブの側壁が励起光の光導波路となり、脱蓋状態のマイクロチューブの上方に蛍光が出射するため、光学系を簡素化することができる。また、各種の操作に用いたマイクロチューブを、そのまま蛍光測定に供することができる。そのため、少量の液体試料Saを測定対象とし、簡単な構造の蛍光測定装置を使用して、安価且つ簡便に蛍光測定を行うことができる。
【0159】
図11は、蛍光測定装置が備える制御装置の概略構成を示す図である。
図11に示すように、蛍光測定装置100が備える制御装置9は、測定結果データ取得部90と、測定結果データ処理部91と、測定結果データ比較部92と、測定条件データ取得部93と、制御部94と、記憶部95と、表示制御部96と、温度制御部97と、を備えている。
【0160】
制御装置9は、蛍光測定装置100の運転を制御すると共に、液体試料Saに含まれる歯周病の原因菌や菌体抽出物の遺伝子型を判別する処理を行う。制御装置9は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等の記憶装置等によって構成することができる。
【0161】
制御装置9には、不図示の入力インターフェイスを介して、入力手段11や、検出素子5を備えている蛍光測定部や、pH測定手段14や、温度測定手段15が接続される。また、制御装置9には、不図示の出力インターフェイスを介して、表示手段12や、温調装置15が接続される。制御装置9が備える各デバイスは、不図示のバスを介して互いに接続される。
【0162】
入力手段11は、蛍光測定装置100を操作するための装置である。入力手段11は、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド等の各種の装置によって構成することができる。
【0163】
表示手段12は、遺伝子型の判別の結果を表示する装置である。表示手段12は、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種の装置によって構成することができる。
【0164】
蛍光測定装置100では、液体試料Saに含まれる歯周病の原因菌や菌体抽出物の遺伝子型の判別を、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌もしくは菌体抽出物(供試物)を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定されている閾値と、を比較する方法によって行うことができる。比較に際しては、蛍光強度値と蛍光強度値に対応した閾値、または、蛍光強度の時間的変化量と蛍光強度の時間的変化量に対応した閾値を比較する。
【0165】
測定結果データ取得部90は、検出素子5を備えている蛍光測定部側から入力される測定結果データを取得する。測定結果データは、液体試料Saについて検出された蛍光の蛍光強度、酵素反応の開始時から起算される検出時間等のデータである。測定結果データは、測定結果データ処理部91や記憶部95に出力される。
【0166】
測定結果データ処理部91は、測定結果データに基づいて、遺伝子型の判別に用いる蛍光強度データを算出する。蛍光強度データは、所定の検出時間における蛍光強度値、所定の検出時間における蛍光強度の時間的変化量(傾き)等のデータである。蛍光強度データは、所定の検出時間範囲における蛍光強度値の平均値、所定の検出時間範囲における蛍光強度の時間的変化量(傾き)の平均値または最大値等であってもよい。蛍光強度データは、測定結果データ比較部92や記憶部95に出力される。
【0167】
測定結果データ比較部92は、蛍光強度データを記憶部95に記憶されている閾値と比較する。測定結果データ比較部92は、液体試料Saについて生成された蛍光強度データが、閾値を超えるか否かを判定して、液体試料Saに含まれる歯周病の原因菌や菌体抽出物の遺伝子型を判別する。判別の結果を示すデータは、表示制御部97に出力される。
【0168】
測定条件データ取得部93は、pH測定手段13や、温度測定手段14から入力される測定条件データを取得する。測定条件データは、pH測定手段13によって所定の時間間隔で測定された液体試料SaのpHや、温度測定手段14によって所定の時間間隔で測定された液体試料Saの温度のデータである。測定条件データは、制御部95や温度制御部97に出力される。
【0169】
制御部94は、蛍光測定装置100が備える各デバイスの動作や、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する処理、判別の結果を表示する処理等を、所定のプログラムや、入力手段11を介したユーザからの入力に基づいて制御する。
【0170】
記憶部95は、蛍光測定装置100が備える各デバイスの動作や、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別する処理、判別の結果を表示する処理等を実行するためのプログラムや、遺伝子型の判別に用いる閾値等のデータを記憶する。
【0171】
例えば、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や菌体抽出物を用いて予め蛍光測定を行い、その測定結果として得られた測定結果データから蛍光強度データを求め、予め記憶部95に記憶させておくことができる。また、多数の蛍光強度データに基づいて遺伝子型毎の閾値を設定し、予め記憶部95に記憶させておくことができる。
【0172】
閾値の設定には、例えば、回帰分析、標準偏差分類、自然分類、多項分類等の各種の分析法を用いることができる。閾値は、評価の対象となる分解酵素以外の酵素活性の影響を受けないように、予め補正しておくこともできる。
【0173】
表示制御部96は、表示手段12に表示する画像の生成や表示の制御を行う。表示制御部96は、蛍光測定装置100の運転状態や、蛍光測定の結果や、遺伝子型の判別の結果についての画像を生成して表示手段12に出力する。
【0174】
温度制御部97は、温調装置15の温度制御を行う。温度制御部97は、温度測定手段15によって測定された液体試料Saの温度に基づいて温調装置15をフィードバック制御し、液体試料Saの温度を酵素反応に適した温度に維持する。
【0175】
図12は、蛍光測定装置による判別方法の流れを示すフロー図である。
図12に示すように、蛍光測定装置100では、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)を含む液体試料Saを測定対象として蛍光測定を行い、その測定データに基づいて解析された遺伝子型の判別の結果を、ユーザに対して表示させることができる。
【0176】
図12に示すように、蛍光測定装置100の運転時には、はじめに、制御装置9に蛍光測定の測定条件を入力する(ステップS300)。測定条件としては、液体試料の調製に用いた供試物の種別、蛍光測定に使用する蛍光波長、待機時間・検出時間、遺伝子型の判別に用いる蛍光強度データの種別、例えば、所定の検出時間における蛍光強度値、所定の検出時間における蛍光強度の時間的変化量(傾き)等の種別等が挙げられる。
【0177】
続いて、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)を含む液体試料Saの蛍光測定を開始して、励起光の照射と蛍光の検出を行う(ステップS310)。そして、検出素子5によって検出された蛍光の電気信号である測定結果データを取得する(ステップS320)。
【0178】
ステップS320では、遺伝子型の判別に所定の検出時間における蛍光強度値を用いる場合、測定結果データとして、その時間の蛍光強度値を、測定結果データ取得部90に収集する。また、遺伝子系の判別に蛍光強度の時間的変化量(傾き)を用いる場合、測定結果データとして、所定の時間間隔で経時的に蛍光強度値を、測定結果データ取得部90に収集する。また、平均値や最大値を用いる場合、所定の時間範囲の蛍光強度値を収集する。
【0179】
続いて、遺伝子型の判別に用いる蛍光強度データを測定結果データに基づいて算出する(ステップS330)。蛍光強度データは、所定の検出時間における蛍光強度値、所定の検出時間範囲における蛍光強度値の平均値、所定の検出時間における蛍光強度の時間的変化量(傾き)、所定の検出時間範囲における蛍光強度の時間的変化量(傾き)の平均値または最大値等として、測定結果データ処理部91に収集する。
【0180】
続いて、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)の遺伝子型を判別する処理を行う(ステップS340)。そして、遺伝子型の判別の結果を示す画像を、表示制御部96によって表示手段12に表示する(ステップS350)。その後、蛍光測定装置100の運転を終了する。
【0181】
遺伝子型の判別の結果としては、液体試料Saに含まれている遺伝子型が未知である歯周病の原因菌や菌体抽出物が、既知のいずれかの遺伝子型に属する旨、既知のいずれかの遺伝子型に属しない旨、判別が不能である旨等を、表示手段12に表示させることができる。判別の結果は、言語、記号、色等のいずれで表示してもよいし、判別の確度を表すパーセンテージ等と共に表示してもよい。
【0182】
図13は、蛍光測定装置による遺伝子型を判別する処理の流れを示すフロー図である。
図13に示すように、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌や菌体抽出物の遺伝子型を判別する処理(ステップS340)は、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のデータである蛍光強度データを、測定結果データ比較部92において、記憶部95に記憶されている閾値と比較することによって行う。
【0183】
はじめに、測定結果データ比較部92には、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)を含む液体試料について得られた蛍光強度データが入力される(ステップS341)。
【0184】
続いて、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)を含む液体試料の蛍光強度データ、すなわち、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第1閾値とを比較する(ステップS342)。
【0185】
第1閾値と比較した結果、遺伝子型が未知である液体試料の蛍光強度データ、すなわち、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、第1閾値を超えるとき(ステップS342:Yes)、処理をステップS343に進める。
【0186】
続いて、遺伝子型が未知である歯周病の原因菌、または、その菌体抽出物(供試物)を含む液体試料の蛍光強度データ、すなわち、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、予め設定された第2閾値とを比較する(ステップS343)。
【0187】
第1閾値や第2閾値としては、遺伝子型が既知である歯周病の原因菌や菌体抽出物を用いて事前に蛍光測定を行い、判別対象の遺伝子型や酵素反応の条件に応じて、蛍光強度と反応時間との相関関係に基づく任意値を設定することができる。例えば、図8図9中の網掛けの領域同士を区画するような、各遺伝子型を弁別する境界値や、同じ遺伝子型の温度域毎の酵素活性を弁別する境界値等を設定することができる。
【0188】
第1閾値は、互いに同じ液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体を用いる場合、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定することができる。例えば、pH、温度、歯周病の原因菌の供試量、蛍光標識基質の濃度等が、判別対象の液体試料Saと実質的に同じ条件である液体試料について事前に多数の蛍光測定結果を取得し、I型について収集された蛍光測定結果の最大値以下、且つ、IV型について収集された蛍光測定結果の最小値未満となる境界値を、蛍光強度の時間変化の結果に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体を用いる場合、第1閾値によると、I型と、IV型やII型とを弁別することができる。
【0189】
一方、第1閾値は、互いに同じ液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、fimA遺伝子の遺伝子型がII型である歯周病の原因菌の菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、第1閾値によると、II型と、IV型やI型とを弁別することができる。
【0190】
第2閾値は、互いに同じ液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体を用いる場合、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がII型である前記原因菌の菌体を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定することができる。例えば、pH、温度、歯周病の原因菌の供試量、蛍光標識基質の濃度等が、判別対象の液体試料Saと実質的に同じ条件である液体試料について事前に多数の蛍光測定結果を取得し、IV型について収集された蛍光測定結果の最大値以下、且つ、II型について収集された蛍光測定結果の最小値未満となる境界値を、蛍光強度の時間変化の結果に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体を用いる場合、第2閾値によると、II型と、IV型やI型とを弁別することができる。
【0191】
一方、第2閾値は、互いに同じ液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、例えば、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型である歯周病の原因菌の菌体抽出物を含む液体試料の蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量、および、fimA遺伝子の遺伝子型がI型である前記原因菌の菌体抽出物を含む前記液体試料について測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量のうち、少なくとも一方に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、第2閾値によると、I型と、IV型やII型とを弁別することができる。
【0192】
また、第1閾値は、互いに異なる液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体を用いる場合、fimA遺伝子の遺伝子型がI型またはIV型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、これと同じ遺伝子型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、に基づいて設定することができる。例えば、液体試料の温度に加え、pH、歯周病の原因菌の供試量、蛍光標識基質の濃度等が、判別対象の液体試料Saと実質的に同じ条件である液体試料について事前に多数の蛍光測定結果を取得し、38~45℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光測定結果の最大値以上、且つ、38~45℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光測定結果の最小値未満となる境界値を、蛍光強度の時間変化の結果に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体を用いる場合、第1閾値によると、I型と、IV型やII型とを弁別することができる。
【0193】
一方、第1閾値は、互いに異なる液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、fimA遺伝子の遺伝子型がI型またはIV型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、これと同じ遺伝子型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、に基づいて設定することができる。または、fimA遺伝子の遺伝子型がI型またはIV型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、4~15℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、これと同じ遺伝子型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、4~15℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、第1閾値によると、II型と、IV型やI型とを弁別することができる。
【0194】
また、第2閾値は、互いに異なる液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体を用いる場合、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型またはII型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、これと同じ遺伝子型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、に基づいて設定することができる。例えば、液体試料の温度に加え、pH、歯周病の原因菌の供試量、蛍光標識基質の濃度等が、判別対象の液体試料Saと実質的に同じ条件である液体試料について事前に多数の蛍光測定結果を取得し、38~45℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光測定結果の最大値以上、且つ、38~45℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光測定結果の最小値未満となる境界値を、蛍光強度の時間変化の結果に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体を用いる場合、第2閾値によると、II型と、IV型やI型とを弁別することができる。
【0195】
一方、第2閾値は、互いに異なる液体温度で酵素反応させて得られた蛍光測定結果同士を比較する判別方法において、液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、例えば、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型またはII型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、これと同じ遺伝子型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、38~45℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、に基づいて設定することができる。または、fimA遺伝子の遺伝子型がIV型またはII型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、4~15℃よりも低い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、これと同じ遺伝子型である歯周病の原因菌の菌体を含む液体試料の、4~15℃よりも高い温度域で酵素反応させたときに測定された蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量と、に基づいて設定することができる。液体試料の調製に菌体抽出物を用いる場合、第2閾値によると、I型と、IV型やII型とを弁別することができる。
【0196】
液体試料の調製に菌体を用いた場合、閾値と比較した結果、遺伝子型が未知である液体試料の蛍光強度データ、すなわち、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、第1閾値を超え、第2閾値以下であるとき(ステップS342:Yes,ステップS343:No)、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、I型、II型以外の遺伝子型である、と判定することができる。すなわち、供試菌がIII型やV型以外の遺伝子型を含まない場合であれば、IV型である、と判定することができる。また、液体試料の調製に菌体抽出物を用いた場合、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型、I型以外の遺伝子型である、と判定することができる。すなわち、供試菌がIII型やV型以外の遺伝子型を含まない場合であれば、IV型である、と判定することができる。
【0197】
また、液体試料の調製に菌体を用いた場合、閾値と比較した結果、遺伝子型が未知である液体試料の蛍光強度データ、すなわち、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、第2閾値を超えるとき(ステップS342:Yes,ステップS343:Yes)、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、I型、IV型以外の遺伝子型である、と判定することができる。すなわち、供試菌がIII型やV型以外の遺伝子型を含まない場合であれば、II型である、と判定することができる。また、液体試料の調製に菌体抽出物を用いた場合、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型、IV型以外の遺伝子型である、と判定することができる。すなわち、供試菌がIII型やV型以外の遺伝子型を含まない場合であれば、I型である、と判定することができる。
【0198】
一方、液体試料の調製に菌体を用いた場合、閾値と比較した結果、遺伝子型が未知である液体試料の蛍光強度データ、すなわち、蛍光強度値または蛍光強度の時間的変化量が、第1閾値以下であるとき(ステップS342:No)、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、II型、IV型以外の遺伝子型である、と判定することができる。すなわち、供試菌がIII型やV型以外の遺伝子型を含まない場合であれば、I型である、と判定することができる。また、液体試料の調製に菌体抽出物を用いた場合、当該液体試料の歯周病の原因菌のfimA遺伝子が、IV型、I型以外の遺伝子型である、と判定することができる。すなわち、供試菌がIII型やV型以外の遺伝子型を含まない場合であれば、II型である、と判定することができる。
【0199】
以上の本実施形態に係る蛍光測定装置によると、歯周病の原因菌の酵素活性と歯周病の原因菌の遺伝子型とに相関関係がある場合に、蛍光測定法によって求められる酵素活性に基づいて、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別することができる。従来一般的な分子生物学的手法とは異なり、歯周病を進行させる酵素活性が判別に反映されるため、より実際の病態に即した遺伝子型の判別を行うことができる。また、被験者の口腔から採取した試料を、そのまま蛍光測定用の液体試料に用いることができるため、遺伝子型の判別を簡便に行うことができる。
【0200】
特に、蛍光測定装置は、第1閾値や第2閾値を記憶した記憶部を備えることができるため、歯周病の原因菌の遺伝子型を、手技・操作にかかわらず、安定的且つ再現性良く判別することができる。歯周病の原因菌の被験者の口腔から採取した試料を、歯周病の原因菌の遺伝子型を判別するための検査薬を用意するだけで、自動的に判別にすることができるため、歯周病の現在の病態や重症化の可能性を、効率的に判断することができる。
【0201】
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【0202】
例えば、前記の蛍光測定装置100は、液体試料Saの蛍光強度を測定できる限り、適宜の光学系や信号処理系を備えることができる。遺伝子型の判別は、第1閾値や第2閾値だけでなく、前記の判別方法と同様の方法等のように、蛍光強度についての指標値の類似度を比較する他の方法によって行うこともできる。
【符号の説明】
【0203】
1 光源(照射手段)
2 試料ホルダ
3a 光学レンズ
3b 光学レンズ
4 フィルタ
5 検出素子(検出手段)
6 増幅器
7 アナログ処理器
8 A/D変換器
9 制御装置(判別手段)
10 試料容器
11 入力手段
12 表示手段
13 pH測定手段
14 温度測定手段
15 温調装置
90 測定結果データ取得部
91 測定結果データ処理部
92 測定結果データ比較部
93 測定条件データ取得部
94 制御部
95 記憶部
96 表示制御部
97 温度制御部
100 蛍光測定装置
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8
図9
図10
図11
図12
図13