(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011953
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】衝突緩和機構およびレンズ鏡筒
(51)【国際特許分類】
G02B 7/04 20210101AFI20220107BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20220107BHJP
【FI】
G02B7/04 D
G02B7/02 E
G02B7/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113389
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加々見 諒
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AE05
2H044BD11
2H044BD13
2H044BE02
(57)【要約】
【課題】自重で移動する可動部品の固定体への衝突を簡素な構成で緩和する機構を実現する。
【解決手段】本発明の衝突緩和機構は、可動部品(3)のボスと、これに嵌合可能な固定部品(1、5)のボス穴とを含み、可動部品(3)の固定部品(1、5)への接近によりボスがボス穴に嵌合し、両者間で圧縮される空気が可動部品(3)に向かう方向の圧力を生じる。その結果、可動部品(3)と固定部品(1、5)との衝突が緩和される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固定体の内部を前記固定体の軸に沿って自重により移動可能であり前記固定体の端部で前記固定体と当接する可動部品の前記固定体との衝突を緩和する衝突緩和機構であって、
前記可動部品に配置され、前記軸に沿う凸部および凹部の一方と、
前記固定体の端部に前記凸部および凹部の一方に対向して配置され、前記凸部および凹部の一方に嵌合可能な、前記軸に沿う凸部および凹部の他方と、を含み、
前記可動部品の移動によって前記凸部および凹部の一方が他方に嵌合するにつれて、前記凸部と前記凹部との間で圧縮される空気が前記可動部品に向かう方向の圧力を生じる、衝突緩和機構。
【請求項2】
前記凸部は、所望の前記圧力を生じさせるための前記軸に沿う特定の隙間を有して前記凹部に嵌合する、請求項1に記載の衝突緩和機構。
【請求項3】
前記可動部品が前記固定体に当接したときの前記凸部の先端と前記凹部の底との間に隙間を有する、請求項1または2に記載の衝突緩和機構。
【請求項4】
前記凹部は、円筒状の第一周壁部によって形成されており、
前記凸部の周囲を囲むとともに、前記凸部と前記凹部との嵌合時に前記第一周壁部に外嵌可能な第二周壁部をさらに含む、請求項2または3に記載の衝突緩和機構。
【請求項5】
前記第二周壁部は、所望の前記圧力を生じさせるための前記軸に沿う特定の隙間を有して前記第一周壁部に外嵌する、請求項4に記載の衝突緩和機構。
【請求項6】
前記可動部品が前記固定体に当接したときの前記第一周壁部の先端と前記第二周壁部によって前記凸部の周囲に形成されるさらなる凹部の底との間に隙間を有する、請求項4または5に記載の衝突緩和機構。
【請求項7】
前記可動部品および前記固定体の一方または両方に配置される弾性部材をさらに含み、前記可動部品は、前記弾性部材を介して前記固定体に当接する、請求項1~6のいずれか一項に記載の衝突緩和機構。
【請求項8】
前記固定体は鏡筒であり、前記可動部品はレンズを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の衝突緩和機構。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の衝突緩和機構を有するレンズ鏡筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突緩和機構およびレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
ズームレンズおよび単焦点レンズなどのレンズ鏡筒では、鏡筒内においてレンズ群またはレンズを移動させることにより焦点を合わせている。当該レンズ群などの可動部品の移動には、移動応答性および分解能に優れているダイレクトドライブと呼ばれるリニアエンジンが広く採用されている。
【0003】
ダイレクトドライブが非通電の場合では、可動部品は、自己の位置を保つ自己保持性のない状態、すなわちフリーの状態となる。このため、ユーザが非通電時に撮像装置の姿勢を変えることにより、レンズ群などの可動部品が自重により鏡筒などの固定体の内部で移動し、鏡筒の端部において、鏡筒またはその内部に固定されている部材に衝突することがある。この衝突による音および感触は、レンズ鏡筒のユーザに伝わり、ユーザに不快感を与えることがある。
【0004】
一方で、上記のような鏡筒とその内部の可動部品との衝突を抑制または防止するための機構が知られている。たとえば、モータと歯車とを備える機構を用いて、可動部品を鏡筒内において物理的に固定する機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。当該機構では、非通電時では可動部品が歯車によって固定されるため、前述の衝突音および衝突感は発生しない。
【0005】
また、前述した機構の例には、ばね部材を用いて衝突時の衝撃を吸収する機構が知られている(例えば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-109427号公報
【特許文献2】特開2010-243877号公報
【特許文献3】特開2011-128594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、レンズ鏡筒には、高性能化および小型化が求められている。特許文献1に記載の機構は、モータおよび歯車を要する。このため、当該機構を採用するレンズ鏡筒が大きくなりやすい。また、特許文献2および特許文献3に記載の機構は、可動部品を適宜に固定するためにばね部材を適所に配置するための構成を要する。このため、当該機構を採用するレンズ鏡筒が大きくなりやすい。このように、前述の衝突を緩和するための従来の機構は、構成の複雑さのために検討の余地が残されている。
【0008】
本発明の一態様は、自重で移動する可動部品の固定体への衝突を簡素な構成で緩和する機構を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る衝突緩和機構は、筒状の固定体の内部を前記固定体の軸に沿って自重により移動可能であり前記固定体の端部で前記固定体と当接する可動部品の前記固定体との衝突を緩和する衝突緩和機構であって、前記可動部品に配置され、前記軸に沿う凸部および凹部の一方と、前記固定体の端部に前記凸部および凹部の一方に対向して配置され、前記凸部および凹部の一方に嵌合可能な、前記軸に沿う凸部および凹部の他方と、を含み、前記可動部品の移動によって前記凸部および凹部の一方が他方に嵌合するにつれて、前記凸部と前記凹部との間で圧縮される空気が前記可動部品に向かう方向の圧力を生じる。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るレンズ鏡筒は、上記の衝突緩和機構を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、自重で移動する可動部品の固定体への衝突を簡素な構成で緩和することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係るレンズ鏡筒の分解斜視図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態における第一固定部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た第一固定部品の斜視図である。
【
図3】
図2の矢印X方向に沿って見た第一固定部品の構成を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の第一の実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、対物側から見た可動部品の斜視図である。
【
図5】本発明の第一の実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た可動部品の斜視図である。
【
図6】本発明の第一の実施形態における 第二固定部品の構成を模式的に示す、対物側から見た第二固定部品の斜視図である。
【
図7】
図6の矢印X方向に沿って見た第二固定部品の構成を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の第一の実施形態に係るレンズ鏡筒を対物側から見た図である。
【
図9】本発明の第一の実施形態における可動部品が自重により固定部品に接近していくときのレンズ鏡筒の、
図8のC-C線で切断した断面を示す図である。
【
図10】本発明の第一の実施形態におけるボスがボス穴に進入していくときの様子を模式的に示す図である。
【
図11】本発明の第一の実施形態におけるボスがボス穴内に進入する場合の、ボス穴内の空気の状態を説明するための図である。
【
図12】本発明の第二の実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た可動部品の斜視図である。
【
図13】
図12の矢印X方向に沿って見た可動部品の構成を模式的に示す図である。
【
図14】本発明の第二の実施形態におけるボスおよび周壁部がボス穴と嵌合していくときの様子を模式的に示す図である。
【
図15】本発明の第二の実施形態におけるボスおよび周壁部がボス穴に嵌合する場合の、ボスおよび周壁部とボス穴との間の空気の状態を説明するための図である。
【
図16】本発明の第三の実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た可動部品の斜視図である。
【
図17】
図16の矢印X方向に沿って見た可動部品の構成を模式的に示す図である。
【
図18】本発明の第三の実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、対物側から見た第二固定部品の斜視図である。
【
図19】
図18の矢印X方向に沿って見た第二固定部品の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレンズ鏡筒の分解斜視図である。
【0014】
〔実施形態1〕
[概略構成]
本実施形態のレンズ鏡筒は、
図1に示されるように、対物側から接眼側に向けて、第一固定部品1、可動部品3および第二固定部品5を有する。光軸方向における第一固定部品1と可動部品3との間、および、可動部品3と第二固定部品5との間には、それぞれ、弾性部材2が配置されている。第一固定部品1および第二固定部品5は、二本のポール4、4で連結されている。第一固定部品1および第二固定部品5は、本発明における固定体を構成する。可動部品3は、ポール4、4に沿って移動可能である。
【0015】
[第一固定部品]
図2は、第一固定部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た第一固定部品の斜視図であり、
図3は、
図2の矢印X方向に沿って見た第一固定部品の構成を模式的に示す図である。第一固定部品1は、
図2および
図3に示されるように、本体10、ボス穴1a、台座1bおよび当接部1cを有する。
【0016】
本体10は、中央部に円形の孔を有する略円環板状の部材である。中央部の孔は、後述するレンズを通過する光の光路を構成している。
【0017】
ボス穴1aは、本体10の表面から突出する略円筒状の周壁部によって形成されている。ボス穴1aは、本体10に二つ配置されている。二つのボス穴1aは、本体10の孔の中心を回転中心としたときの二回対称の位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点、および、ボス穴1aに接近するボス3aが嵌合時にその側面に圧力を受けることによる、ボス3aに対する光軸方向に沿う反発力を強める観点、から、ボス穴1aは、その外径が開口端に向けて漸次短くなる形状を有しており、またその内径が開口端に向けて漸次長くなる形状を有している。
【0018】
台座1bは、本体10の表面から突出する枠部を有する。平面視したときの当該枠部の形状は、矩形である。台座1bは、本体10に三つ配置されている。三つの台座1bは、本体10の孔の中心を回転中心としたときの三回対称の位置にそれぞれ配置されている。それぞれの台座1bには、弾性部材2が着座している。
【0019】
当接部1cは、本体10の表面から突出する略円柱状の部分である。当接部1cは、本体10に三つ配置されている。三つの当接部1cは、台座1bと同様に、本体10の孔の中心を回転中心としたときの三回対称の位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点から、当接部1cは、その外径が先端に向けて漸次短くなる形状を有している。
【0020】
[可動部品]
図4は、可動部品の構成を模式的に示す、対物側から見た可動部品の斜視図であり、
図5は、可動部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た可動部品の斜視図である。可動部品3は、
図4および
図5に示されるように、本体30、ボス3a、緩衝用凸部3b、当接部3cおよびガイド部3dを有する。
【0021】
本体30は、中央部に円形の孔を有する略円環板状の部材である。本体30は、円環形状における内周部、外周部およびこれらの間における径方向に沿う部分に、表面から突出するリブを有する。本体30の中央部の孔には、レンズが配置される。
【0022】
ボス3aは、本体30の表面から突出する凸部であり、より詳しくは略円柱状の部分である。ボス3aは、本体30に二つ配置されている。二つのボス3aは、本体30の孔の中心を回転中心としたときの二回対称の位置であって、第一固定部品1のボス穴1aに対向する位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点、および、前述の光軸方向に沿う反発力を強める観点から、ボス3aは、その外径が先端に向けて漸次短くなる形状を有している。
【0023】
緩衝用凸部3bは、本体30の表面から突出する略円柱状の部分である。緩衝用凸部3bは、本体30に三つ配置されている。三つの緩衝用凸部3bは、本体30の孔の中心を回転中心としたときの三回対称の位置であって、第一固定部品1の台座1bに対向する位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点から、緩衝用凸部3bは、その外径が先端に向けて漸次短くなる形状を有している。
【0024】
当接部3cは、本体30の表面から突出する略円柱状の部分である。当接部3cは、本体30に三つ配置されている。三つの当接部3cは、本体30の孔の中心を回転中心としたときの三回対称の位置であって、第一固定部品1の当接部1cに対向する位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点から、当接部3cは、その外径が先端に向けて漸次短くなる形状を有している。
【0025】
ガイド部3dは、本体30の外縁部から接眼側へ突出する略円筒状の部分である。ガイド部3dの周壁の一部は、切り欠かれていてもよい。ガイド部3dは、本体30に二つ配置されている。二つのガイド部3dは、本体30の孔の中心を回転中心としたときの二回対称の位置にそれぞれ配置されている。ガイド部3dには、ポール4が挿通される。
【0026】
なお、ボス3a、緩衝用凸部3bおよび当接部3cのうち、本体30の表面からの突出長さは、ボス3aが最も長く、緩衝用凸部3bが次に長く、当接部3cが最も短い。また、ボス3a、緩衝用凸部3bおよび当接部3cのうち、当接部3cが最も太く、緩衝用凸部3bが次に太く、ボス3aが最も細い。
【0027】
[第二固定部品]
図6は、第二固定部品の構成を模式的に示す、対物側から見た第二固定部品の斜視図であり、
図7は、
図6の矢印X方向に沿って見た第二固定部品の構成を模式的に示す図である。第二固定部品5は、
図6および
図7に示されるように、本体50、フランジ部51、ボス穴5a、台座5b、当接部5cおよびポール受け部5dを有する。
【0028】
本体50は、有底のカップ状の部材であり、略円筒状の周壁を有する。本体50は、円形の底の中央部に孔を有する。当該孔は、可動部品3に配置されるレンズを通過する光の光路を構成している。
【0029】
フランジ部51は、本体50の周壁の縁部から外方へ広がる円環状の平面の部分である。フランジ部51の外径は、第一固定部品1の外径と略同一である。
【0030】
ボス穴5aは、本体50の底の内表面から突出する略円筒状の部分である。ボス穴5aは、本体50に二つ配置されている。二つのボス穴5aは、本体50の底の孔の中心を回転中心としたときの二回対称の位置であって、可動部品3の接眼側表面におけるボス3aに対向する位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点、および、前述の光軸方向に沿う反発力を強める観点から、ボス穴5aは、その外径が開口端に向けて漸次短くなる形状を有しており、またその内径が開口端に向けて漸次長くなる形状を有している。
【0031】
台座5bは、本体50の底の内表面から突出する枠部を有する。平面視したときの当該枠部の形状は、矩形である。台座5bは、本体50に三つ配置されている。三つの台座5bは、本体50の底の孔の中心を回転中心としたときの三回対称の位置であって、可動部品3の接眼側表面における緩衝用凸部3bに対向する位置にそれぞれ配置されている。それぞれの台座5bには、弾性部材2が着座している。
【0032】
当接部5cは、本体50の底の内表面から突出する略円柱状の部分である。当接部5cは、本体50に三つ配置されている。三つの当接部5cは、台座5bと同様に、本体50の底の孔の中心を回転中心としたときの三回対称の位置であって、可動部品3の接眼側表面における当接部3cに対向する位置にそれぞれ配置されている。成形加工上の観点から、当接部5cは、その外径が先端に向けて漸次短くなる形状を有している。
【0033】
ポール受け部5dは、有底の凹部であり、本体50の底に開口している。ポール受け部5dは、筒状の周壁と円形の底とを有する。ポール受け部5dは、本体50に二つ配置されている。二つのポール受け部5dは、本体50の底の孔の中心を回転中心としたときの二回対称の位置であって、可動部品3のガイド部3dに対向する位置にそれぞれ配置されている。ポール受け部5dには、ポール4が挿入される。ポール受け部5dは、その底に、ポール4の端部が着座するための台座を有していてもよい。
【0034】
上記のレンズ鏡筒において、第二固定部品5の略円筒状の周壁における中心軸は、本発明における固定体の軸である。当該軸は、レンズ鏡筒の光軸と一致する。ボス3aは、可動部品3における上記の軸方向に沿う凸部であり、ボス穴1a、5aは、固定体における当該凸部に対向して配置される、当該凸部に嵌合可能な凹部である。
【0035】
[弾性部材]
弾性部材2は、弾性を有するとともに、矩形の平面形状を有する部材である。弾性部材2は、台座1b、5bの枠部に保持され、台座1b、5bに固定されている。また、弾性部材2は、台座に着座した状態で枠部よりも突出する十分な厚さを有している。弾性部材2は、ポール4に沿って自重で移動する可動部品3が第一固定部品1または第二固定部品5と衝突したときの衝撃を軽減可能な十分な弾性を有していればよく、その材料の例には、ゴムが含まれる。
【0036】
[ポール]
ポール4は、第一固定部品1から第二固定部品5の底まで、軸方向に沿って可動部品3を案内する。ポール4は、可動部品3を支持するのに十分な強度を有していればよく、その材料の例には、金属が含まれる。ポール4は、例えばアルミニウム製であってよい。
【0037】
[その他の構成]
レンズ鏡筒は、本実施形態の効果が得られる範囲において前述した以外の他の構成をさらに有していてもよい。他の構成の例には、第一固定部品1におけるポール4の端部を固定するためのボス、および、第一固定部品1を第二固定部品5のフランジ部51に固定するためのねじ穴、が含まれる。
【0038】
[衝突緩和についての説明]
本実施形態のレンズ鏡筒において、合焦のための可動部品3の移動は、不図示のリニアモータによって行われる。合焦時以外は、リニアモータは停止し、可動部品3は、レンズを含むその自重によって軸方向へ移動し得る。以下、自重で移動する可動部品3が第二固定部品5に衝突する場合の衝突の緩和について説明する。なお、可動部品3が第一固定部品1に衝突する場合も同様であり、その説明は省略する。
【0039】
図8は、本実施形態のレンズ鏡筒を対物側から見た図である。
図9は、可動部品が自重により固定部品に接近していくときのレンズ鏡筒の、
図8のC-C線で切断した断面を示す図である。
図10は、ボスがボス穴に進入していくときの様子を模式的に示す図である。
図9の上中下の三つの図のうち、上の図は、ボスがボス穴に進入した当初の状態を示しており、
図10の左の図は、
図9の上の図における一点鎖線で囲んだA部を拡大して示す図であり得る。
図9の上中下の三つの図のうち、中間の図は、ボスがボス穴にさらに進入した状態を示しており、
図10の右の図は、
図9の中間の図における一点鎖線で囲んだB部を拡大して示す図であり得る。
図9の上中下の三つの図のうち、下の図は、ボスがボス穴に進入しきった状態を示している。
【0040】
<衝突前>
可動部品3が自重により軸方向に沿って第二固定部品5に接近すると、可動部品3のボス3aが第二固定部品5のボス穴5aの開口部に到達し、ボス穴5aに進入する。ボス3aがボス穴5aに進入すると、ボス穴5a内の空気S1は、ボス3aによって圧縮され始める。圧縮された空気S1は、ボス3aの先端面に対する圧力を生じる。
【0041】
<衝突直前>
可動部品3が第二固定部品5にさらに接近してボス3aがボス穴5aにさらに進入すると、ボス穴5a内の空気S1は、ボス3aによってさらに圧縮される。このため、ボス3aによってさらに圧縮された空気S1は、ボス3aの先端面に対して、より強い圧力を生じる。その一方で、ボス3aの周壁とボス穴5aの周壁との間には、特定の隙間が形成されており、ボス3aによってさらに圧縮された空気S1の一部は、矢印aで示されるように、当該隙間からボス穴5aの外部へ流出する。このため、圧縮された空気S1の圧力は、当該隙間の断面積に応じた特定の強さとなる。
【0042】
また、可動部品3が第二固定部品5にさらに接近すると、緩衝用凸部3bは、台座5bに固定されている弾性部材2に当接する。
【0043】
<衝突時>
可動部品3が自重により軸方向に沿って第二固定部品5にさらに接近すると、ボス3aはボス穴5aにさらに進入し、ボス3aの先端がボス穴5aの底により接近する。ボス穴5a内の空気はさらに圧縮される。その一方で、前述の隙間からはボス穴5a内の空気が流出する。その結果、ボス穴5a内の圧縮された空気は、より強い圧力でボス3aの先端面および側面を押し、可動部品3が第二固定部品5に近づくにつれて可動部品3の第二固定部品5への移動に対する制動力がより強まる。
【0044】
ここで、可動部品3の当接部3cが、第二固定部品5の当接部5cに当接する。こうして、可動部品3の軸方向への移動が規制され、すなわち可動部品3が第二固定部品5に衝突する。衝突時には、ボス穴5a内の空気は最も圧縮されており、最も強い圧力でボス3aを押し返す。よって、可動部品3の軸方向への移動の速度が十分に低減され、可動部品3が第二固定部品5に衝突するときの衝撃が十分に軽減される。
【0045】
また、衝突時には、緩衝用凸部3bは、台座5b上の弾性部材2をさらに押圧し、弾性部材2は、その弾性に応じて緩衝用凸部3bの先端面に対してより強い反発力を生じる。よって、可動部品3が第二固定部品5に衝突するときの衝撃がさらに軽減される。
【0046】
<衝突後>
衝突後は、ボス穴5a内の空間は、ボス3aとボス穴5aとの隙間によって外部と連通しているため、常圧になる。したがって、可動部品3が衝突した第二固定部品5から離脱する際に、ボス3a先端とボス穴5a底との隙間に、ボス3a周方向の隙間から空気が流入し、ボス3a先端とボス穴5a底との隙間が負圧になることが防がれる。よって、可動部品3は、円滑に第二固定部品5から離脱する。
【0047】
<圧力の調整法>
上記のように、ボス穴とそれに嵌合するボスとの間には、隙間が形成されており、ボスによって圧縮されるボス穴内の空気が当該隙間から漏れ出ることにより、ボス穴内の圧縮された空気の圧力が調整される。このように、ボスに対向する向きに作用する当該圧力は、可動部品3と第二固定部品5との衝突を緩和するが、ボスによる空気の圧縮と、当該隙間からの空気の漏出とのバランスに応じて決められる。上記の隙間は、上記の衝突を緩和させる空気の圧力を生じさせる観点から、以下に説明するように設定することが可能である。
【0048】
図11は、ボス3aがボス穴5a内に進入する場合の、ボス穴5a内の空気の状態を説明するための図である。
【0049】
まず、ベルヌーイの法則より下記式が成り立つ。下記式中、「P」は流体の圧力、「v」は流体の速さ、「ρ」は流体の粘度、「g」は重力角速度、「z」は鉛直方向の座標、「const」は定数、を表す。
【0050】
【0051】
位置エネルギーは、圧力と速度のエネルギーと比べると無視できると考えると、上記の式から以下の式(1)が成り立つ。下記式(1)中、「P1」は、ボス穴5aとボス3aとで挟まれた空間(以下、「圧縮部」とも言う)の空気の圧力を表し、「v1」は、当該空間における空気の速さを表す。また、「P2」は、ボス穴5aとボス3aとの周方向における隙間(以下、単に「隙間」とも言う)の空気の圧力を表し、「v2」は、当該隙間における空気の速さを表す。
【0052】
【0053】
質量(流量)保存の法則より、上記隙間から流れ出る空気の流量は、流出前後で変わらないので、以下の式が成り立つ。下記式(2)中、「S1」は、圧縮部における空気の流路の断面積を表し、「S2」は、隙間における空気の流路の断面積を表す。
【0054】
【0055】
式(1)、(2)より、v2は下記式(3)で表され、S2を通る空気の流量Q2は、下記式(4)で表される。
【0056】
【0057】
ここで圧縮部の体積をVとすると、ボス3aに反発力が働く時間Tは、式(5)で表される。
【0058】
【0059】
一方、可動部品3に力Fが時間Tだけ作用した場合の可動部品3の減速量Δvは、運動量保存則より以下の式(6)のように表される。下記式(6)中、「M」は、可動部品3の質量を表す。
【0060】
【0061】
式(3)~式(6)より、Δvの絶対値は、以下の式(7)で表される。下記式(7)中、「P0」は、標準圧力を表し、「S0」は、ボス3aの表面積を表し、「θ」は、ボス3aの周面のテーパ角度を表す。
【0062】
【0063】
式(7)によれば、可動部品3の質量Mが大きくなると、可動部品3の減速量Δvは小さくなる。可動部品3と第二固定部品5との衝突の衝撃をより軽減するためには、可動部品3の速度の減速量を大きくすればよい。したがって、可動部品3の質量Mが大きく、可動部品3へのブレーキ力を強めたい場合には、式(7)の右辺の分母をより小さくするか、当該右辺の分子をより大きくすればよい。より詳しくは、隙間S2を小さくする、ボス3aのテーパ角を大きくする、あるいは、圧縮部S1を大きくすることにより、可動部品3の減速量をより大きくすることが可能となる。
【0064】
本実施形態におけるボス3aとボス穴5aは、上記のような関係性を含むが、レンズ鏡筒における自重による可動部品3の移動には、他の要素も影響することがある。たとえば、レンズ鏡筒の場合、リニアエンジンによるレンズの移動の応答性が良好であることが求められる。この場合では、衝撃の軽減とレンズ移動の応答性とが適切に両立する範囲で可動部品3の減速量を設計することが好ましい。このような他の要素を考慮する場合には、上記の原理に基づいてボスおよびボス穴を設計し、必要に応じて、コンピュータシミュレーションによる結果または試作品を用いた実験結果に基づいて、ボスおよびボス穴の設計を適宜に変更すればよい。
【0065】
[作用効果]
本実施形態のレンズ鏡筒では、可動部品3と、第一固定部品1および第二固定部品5で構成される固定体とを有し、前述のリニアモータが非通電の場合には、可動部品3(すなわちレンズ)がフリーの状態になる。可動部品3の対物側と接眼側とのそれぞれには、ボスが備えられ、それに対向する固定部品側には、ボス穴が備えられている。当該ボスおよびボス穴は、嵌合することによって可動部品3の固定体への衝突を緩和するエアダンパとして機能する。本実施形態におけるエアダンパの構成は、密閉空間で等温変化の場合、その領域内の空気が圧縮されると空気による圧力は体積に反比例する、というボイルシャルルの法則を利用して設計可能である。
【0066】
より詳しくは、本実施形態における上記のエアダンパ構造では、リニアモータの非通電時での可動部品3の自重落下によって、可動部品3のボス3aが固定部品(1、5)のボス穴(1a、5a)に入り、当該ボスとボス穴で囲まれる領域の空気が圧縮される。また、ボスとボス穴との周方向における微小な隙間からは、圧縮された空気が抜ける。当該領域で圧縮される空気の圧力が可動部品3に対して反発力として作用し、移動する可動部品3を制動する。これにより、可動部品3が固定部品1、5に衝突する際の可動部品3の速度が低減し、衝突音および衝撃感の軽減が実現される。このように、本実施形態のレンズ鏡筒は、可動部品3の固定部品への衝突を緩和する衝突緩和機構を備えている。
【0067】
また、本実施形態では、ボスの先端がボス穴の底面まで到達せず、可動部品3と固定部品1、5との衝突時においてもボスの先端とボス穴の底との間には、微小な隙間が形成される。ボスの先端とボス穴の底とが密着すると、可動部品3が固定部品1、5から離脱する際により大きな負荷を必要とする。しかしながら、本実施形態では、上記の微小な隙間が形成されるため、離脱時の負荷が軽減される。
【0068】
本実施形態では、ボスとボス穴という簡素な構成を有するが、特別な部品およびそのための機構を要さない。このような単純な構造であるがために量産にも有利である。したがって、コストの削減もしくは維持が可能であり、コストの観点から有利である。
【0069】
また、本実施形態は、当該エアダンパの構成とは別に、弾性部材を用いるダンパ構成をさらに含んでいる。本実施形態のエアダンパ構造は、弾性部材を用いるダンパと実質的に同等のスペースで構築可能であるので、レンズ鏡筒の小型化の観点からも有利である。また、弾性部材を用いるダンパのような他のダンパ構造との併用が容易であるため、このような併用により、小型化の利点が維持されつつ、可動部品3と固定部品1、5との衝突のさらなる緩和が期待される。
【0070】
[本実施形態のまとめ]
以上の説明から明らかなように、本実施形態のレンズ鏡筒は、衝突緩和機構を有する。本実施形態の衝突緩和機構は、筒状の固定体(第一固定部品1、第二固定部品5)の内部を固定体の軸に沿って自重により移動可能であり固定体の端部で固定体と当接する可動部品(3)の固定体との衝突を緩和する衝突緩和機構であり、可動部品に配置され、軸に沿う凸部および凹部の一方(ボス3a)と、固定体の端部に凸部および凹部の一方に対向して配置され、凸部および凹部の一方に嵌合可能な、軸に沿う凸部および凹部の他方(ボス穴1a、5a)と、を含む。そして、当該衝突緩和機構は、可動部品の移動によって凸部および凹部の一方が他方に嵌合するにつれて、凸部と凹部との間で圧縮される空気が可動部品に向かう方向の圧力を生じる。本実施形態によれば、自重で移動する可動部品の固定体への衝突を簡素な構成で緩和することができる。
【0071】
本実施形態において、凸部は、所望の圧力を生じさせるための軸に沿う特定の隙間を有して凹部に嵌合している。この構成は、衝撃の軽減の度合いを適切に調整する観点からより一層効果的である。
【0072】
また、本実施形態において、可動部品は、固定体に当接したときの凸部の先端と凹部の底との間に隙間を有している。この構成は、衝突後に可動部品が固定体から離脱する際の負荷を軽減する観点からより一層効果的である。
【0073】
また、本実施形態において、衝突緩和機構は可動部品および固定体の一方または両方に配置される弾性部材をさらに含み、可動部品は弾性部材を介して固定体に当接する。この構成は、固定体への可動部品の衝突の影響を低減させる観点からより一層効果的である。
【0074】
また、本実施形態において、固定体は鏡筒であり、可動部品はレンズを含んでいる。本実施形態の衝突緩和機構は、このような態様、すなわちレンズ鏡筒に好適に適用することができる。前述したように、本実施形態の衝突緩和機構は、衝突時の衝撃音を防止または軽減し、また衝突によるユーザに伝わる衝撃を防止または軽減するのに好適である。このため、当該衝突音および衝撃を不快と感じやすいカメラのレンズ鏡筒のユーザからより高く評価されることが期待される。
【0075】
〔第二の実施形態〕
以下、本発明に係る他の実施形態を説明する。本実施形態のレンズ鏡筒は、可動部品3に周壁部32をさらに配置した以外は、前述の実施形態1と同様に構成されている。実施形態1と同様の構成には同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0076】
[構成]
図12は、本発明の実施形態2における可動部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た可動部品の斜視図である。
図13は、
図12の矢印X方向に沿って見た可動部品の構成を模式的に示す図である。本実施形態のレンズ鏡筒は、
図12および
図13に示されるように、ボス3aの周囲を囲む略円筒状の周壁部32をさらに有している以外は、実施形態1における可動部品3と同様に構成されている。
【0077】
周壁部32は、本体30の表面から突出する略円筒状の部分である。周壁部32は、特定の隙間を有してボス3aを囲んでいる。周壁部32も、ボス3aと同様に、本体30の孔の中心を回転中心としたときの二回対称の位置であって、第一固定部品1のボス穴1aに対向する位置にそれぞれ配置されている。成形加工上および上述の空気圧の観点から、周壁部32は、その外径が先端に向けて漸次短くなる形状を有しており、またその内径が先端に向けて漸次長くなる形状を有している。
【0078】
[衝突緩和についての説明]
次に、本実施形態において自重で移動する可動部品3が第二固定部品5に衝突する場合の衝突の緩和について説明する。
図14は、本実施形態におけるボスおよび周壁部がボス穴と嵌合していくときの様子を模式的に示す図である。
図15は、本実施形態におけるボスおよび周壁部がボス穴に嵌合する場合の、ボスおよび周壁部とボス穴との間の空気の状態を説明するための図である。
図14の上中下の三つの図のうち、上の図は、ボスおよび周壁部とボス穴との嵌合当初の状態を示しており、中間の図は、両者の嵌合がさらに進んだ状態を示しており、下の図は、両者が嵌合しきった状態を示している。
図15の左の図は、例えば
図14の中間の図の状態に対応しており、
図15の右の図は、例えば
図14の下の図の状態に対応している。
【0079】
可動部品3と第二固定部品5との衝突において空気の圧縮は、圧縮される空気S1が、ボス穴5a内の空気S1aと、ボス3aおよび周壁部32の間の隙間の空気S1bとの両方になる以外は、前述した実施形態1と同様である。ボス3aの先端およびボス穴5aの周壁によって囲まれる領域を「第一圧縮部」とも言い、ボス穴5aの先端縁、ボス3aの周壁および周壁部32の内周壁で囲まれる領域を「第二圧縮部」とも言う。当接部3cと当接部5cとが当接したとき、第一圧縮部と同様に、第二圧縮部においても、軸方向において隙間が形成される。
【0080】
衝突後は、第一圧縮部は、ボス3a周囲の隙間、第二圧縮部、および、ボス穴5aの外周側の隙間、によって外部と連通している。このため、第一圧縮部および第二圧縮部は、いずれも、衝突後には常圧になる。したがって、可動部品3が衝突した第二固定部品5から離脱する際に、当該隙間が負圧になることが防がれる。よって、本実施形態においても、衝突後の可動部品3は、円滑に第二固定部品5から離脱する。
【0081】
なお、ボス穴5aと周壁部32との間に形成される隙間についても、実施形態1で説明したボス3aとボス穴5aとの間に形成される隙間と同様に設計することが可能である。
【0082】
[作用効果]
本実施形態では、ボス3aとボス穴5aによってのみならず、ボス穴5aの周壁部とその外側のボス3a側の周壁部32とによっても、エアダンパ構造が形成される。このように、本実施形態は、エアダンパ構造による二段階の減速機構となっている。これにより、可動部品3の自重によって圧縮される空気の流路の長さがより長くなり、また圧縮される空気の圧力の発生個所がより多くなる。したがって、実施形態1に比べて、圧縮空気の反発力を約2倍にすることが可能であり、可動部品3の第二固定部品5への衝突に際してより大きな制動力を生み出すことが可能である。
【0083】
また、本実施形態では、第一圧縮部での圧力と第二圧縮部での圧力とを適宜に設定することにより、それぞれの圧縮部によって生じる可動部品3に対する制動力を適宜に設定することが可能である。たとえば、第二圧縮部よる制動力を比較的小さく設定し、第一圧縮部による制動力を比較的大きく設定することにより、二段階の制動力を発生させることが可能となる。
【0084】
[本実施形態のまとめ]
本実施形態に係る衝突緩和機構は、凹部が円筒状の第一周壁部(ボス穴1a、5a)によって形成されており、そして、凸部の周囲を囲むとともに凸部(ボス3a)と凹部(ボス穴1a、5a)との嵌合時に第一周壁部に外嵌可能な第二周壁部(周壁部32)をさらに含んでいる。このため、前述の実施形態1の衝突緩和機構と同様の効果を奏し、さらに実施形態1に対して、可動部品の固定体への衝突時の衝撃を軽減する観点からより一層効果的である。
【0085】
また、本実施形態では、第二周壁部は、所望の圧力を生じさせるための軸に沿う特定の隙間を有して第一周壁部に外嵌している。この構成は、衝撃の軽減の度合いを適切に調整する観点からより一層効果的である。
【0086】
また、本実施形態では、可動部品が固定体に当接したときの第一周壁部の先端と第二周壁部によって凸部の周囲に形成されるさらなる凹部の底との間に隙間を有している。この構成は、衝突後に可動部品が固定体から離脱する際の負荷を軽減する観点からより一層効果的である。
【0087】
〔第三の実施形態〕
以下、本発明に係る他の実施形態を説明する。本実施形態のレンズ鏡筒は、ボス3aおよびボス穴1a、5aの平面形状が異なる以外は、前述の実施形態1と同様に構成されている。実施形態1と同様の構成には同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0088】
図16は、本実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、接眼側から見た可動部品の斜視図であり、
図17は、
図16の矢印X方向に沿って見た可動部品の構成を模式的に示す図である。
図18は、本実施形態における可動部品の構成を模式的に示す、対物側から見た第二固定部品の斜視図であり、
図19は、
図18の矢印X方向に沿って見た第二固定部品の構成を模式的に示す図である。
【0089】
可動部品3は、
図16および
図17に示されるように、ボス3aに代えてボス33aを有している。ボス33aは、平面視したときの形状が略円弧状である以外は、ボス3aと同様に構成されている。
【0090】
第二固定部品5は、
図18および
図19に示されるように、ボス穴5aに代えてボス穴53aを有している。ボス穴53aは、平面視したときの形状が略円弧状である以外は、ボス穴5aと同様に構成されている。
【0091】
本実施形態における可動部品と固定部品との衝突時の空気の状態は、実施形態1と同様である。本実施形態も、前述した実施形態1と同様の効果を奏する。本発明では、空気を圧縮する領域が確保可能であれば、ボスおよびボス穴の平面形状は限定されず、本実施形態のように略円弧形状も可能である。このようにボスおよびボス穴の平面形状を適宜に設定することにより、レンズ鏡筒における空きスペースを有効に活用することが可能である。
【0092】
〔その他の実施形態〕
前述の実施形態では、弾性ダンパ構造を併設しているが、前述の実施形態で示しているエアダンパ構造によって、可動部品の自重による固定体への衝突の衝撃を十分に軽減可能であれば、弾性ダンパ構造を併用しなくてもよい。
【0093】
可動部品と固定体との衝突時において、ボスの先端面とボス穴の底面、あるいはボス穴の周壁の先端面とボス周辺の隙間の底面は、すべて離間していなくてもよく、前述した可動部品の離間時に負圧とならなければ、一部は互いに接触していてもよい。たとえば、ボスは、その先端に当該先端を横断する溝を有しており、当該ボスの先端は、ボス穴の底に当接してもよい。
【0094】
前述の実施形態では、エアダンパ構造において、可動部品にボスのみ、固定部品にボス穴のみを配置しているが、可動部品にボスとボス穴を配置し、固定部品にそれらに対応するボス穴とボスとを配置してもよい。同様に、弾性ダンパ構造を採用する場合では、弾性部材およびその台座は、可動部品のみに配置してもよいし、固定体のみに配置してもよいし、これらの両方に配置してもよい。
【0095】
前述の実施形態では、可動部品の片面当たり二つのボスを配置し、固定部品にはこれらのボスに対応する二つのボス穴を配置しているが、エアダンパ構造におけるボスとボス穴のセットの数は限定されない。当該セットの数が少ないと、構成の簡素さの観点から好ましい。当該セットの数が多ければ、可動部品が固定部品へ衝突するときの衝撃をより軽減させる観点から好ましい。このように、エアダンパ構造の数によって、可動部品の衝突時における衝撃の軽減の度合いを調整することも可能である。
【0096】
前述した実施形態では、当接部1c、3c、5cが可動部品と固定体との衝突時の位置関係を規定しているが、これらの当接部はなくてもよい。たとえば、ボスの周壁に、ボスのボス穴への進入を規制する段差を設け、当該段差によって可動部品と固定体との衝突時の位置関係を規定してもよい。
【0097】
前述の実施形態ではレンズ鏡筒を例に説明しているが、前述の可動部品および固定体を含み、前述の衝突音の低減および衝突時の感触の軽減との効果が期待される他の物品へ適用することも可能である。
【0098】
前述した実施形態では、ボス3aとボス穴5aとの周壁間に通気路となる隙間を形成しているが、当該通気路は上記の隙間に限定されない。たとえば、当該隙間の代わりに、ボス穴5aの周壁または底を貫通し、ボス3aの先端とボス穴5aの底との間の空間と外部とを連通する貫通孔を形成してもよい。このような貫通孔によっても、ボス3aとボス穴5aとの嵌合によって圧縮される空気の圧力を適宜に調整することが可能である。
【0099】
前述した実施形態では、嵌合する凹凸における凹部を周壁で囲まれたボス穴としたが、可動部品または固定部品の本体の表面から窪む(周壁部を有さない)凹部であってもよい。この場合、可動部品と固定体との衝突に際して嵌合する凹部および凸部のそれぞれの中心部に、互いに嵌合する構造を用いることにより、前述の実施形態2と同様の二段以上のエアダンパ構造を構築することが可能である。たとえば、凸部にはその先端から窪むさらなる凹部を、そして凹部にはその底から突出するさらなる凸部を、これらのさらなる凹部とさらなる凸部とが上記の凹部および凸部と同様に嵌合するように形成することにより、実施形態2に示したような二段のエアダンパ構造を構築可能である。
【0100】
前述した実施形態2では、二段のエアダンパ構造としているが、第n周壁部(nは3以上の整数)を、nが奇数の場合には固定体に、nが偶数の場合には可動部品に配置してもよい。この構成によれば、n段のエアダンパ構造を構築することが可能である。
【0101】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1 第一固定部品(固定体)
1a、5a、53a ボス穴(凹部、第一周壁部)
1b、5b 台座
1c、3c、5c 当接部
2 弾性部材
3 可動部品
3a、33a ボス(凸部)
3b 緩衝用凸部
3d ガイド部
4 ポール
5 第二固定部品(固定体)
5d ポール受け部
10、30、50 本体
32 周壁部(第二周壁部)
51 フランジ部