(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011954
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】高力ボルト摩擦接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/61 20060101AFI20220107BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20220107BHJP
E04B 1/18 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
E04B1/61 502L
F16B5/02 U
E04B1/18 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113390
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591241718
【氏名又は名称】大和リース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小原 泉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】桂 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】永峰 頌子
(72)【発明者】
【氏名】西出 俊夫
【テーマコード(参考)】
2E125
3J001
【Fターム(参考)】
2E125AA42
2E125AB01
2E125AB02
2E125AB03
2E125AB04
2E125AC15
2E125AE12
2E125AG12
2E125BB02
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE02
2E125CA05
2E125CA06
2E125EA06
2E125EA26
3J001FA02
3J001GA02
3J001GB01
3J001HA04
3J001JA10
3J001KB04
(57)【要約】
【課題】接合部材同士の位置調整を容易とし、劣化しにくい高力ボルト摩擦接合構造を提供することを目的の一つとする。
【解決手段】高力ボルトの接合構造は、第1ボルト孔が設けられた第1構造材と、第1ボルト孔より孔径の大きい第2ボルト孔が設けられた第2構造材と、第1ボルト孔と略同じ孔径の第3ボルト孔が設けられた補強板と、第1乃至第3ボルト孔に挿通される高力ボルトを含む締結材とを含む。第1構造材及び第2構造材は摩擦面を含み、摩擦面同士が当接し、補強板が第2構造材側に配置され、第1ボルト孔、第2ボルト孔、及び第3ボルト孔が連通し、第1構造材、第2構造材、及び補強板が締結材により締結されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ボルト孔が設けられた第1構造材と、
前記第1ボルト孔より孔径の大きい第2ボルト孔が設けられた第2構造材と、
前記第1ボルト孔と略同じ孔径の第3ボルト孔が設けられた補強板と、
高力ボルトを含む締結材と、を含み、
前記第1構造材及び前記第2構造材は摩擦面を含み、前記摩擦面同士が当接し、
前記補強板が、前記第2構造材側に配置され、
前記第1ボルト孔、前記第2ボルト孔、及び前記第3ボルト孔が連通し、前記第1構造材、前記第2構造材、及び前記補強板が前記締結材により締結されている
ことを特徴とする高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項2】
前記第2ボルト孔が円形孔であり、前記円形孔の直径と前記高力ボルトの軸径との差が2mmを超え4mm以下である
請求項1に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項3】
前記補強板の、短辺側の一端から前記第3ボルト孔の中心位置までの距離eh11が、以下に示す式(1)
eh11≧d+th (1)
を満たす(ここで、dは前記高力ボルトの軸径、thは前記補強板の板厚)
請求項1又は2に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項4】
前記補強板の板厚thが、以下に示す式(2)乃至(4)
th+t2≧t1 (2)
40≧t1,t2≧4.5mm (3)
16mm≧th≧6mm (4)
を満たす(ここで、t1は前記第1構造材の厚さ、t2は前記第2構造材の厚さ)
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項5】
前記第2ボルト孔が長孔であり、短径が前記高力ボルトの軸径との差が2mmを超え4mm以下であり、長径が前記軸径の2.5倍以下である、
請求項1に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項6】
前記補強板の、前記第2ボルト孔の短径方向と交差する一辺の側の端部から前記第3ボルト孔の中心位置までの距離eh21が、以下の式(5)
eh21≧d+th (5)
を満たす(ここで、thは前記補強板の板厚)
請求項5に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項7】
前記補強板の、前記第2ボルト孔の長径方向と交差する一辺の側の端部から前記第3ボルト孔の中心位置までの距離eh11が、以下の式(6)
eh11=d+th (6)
以上を満たし、かつ、以下の式(7)
eh11=dL-0.5d+1 (7)
以上を満たす(ここで、dは前記高力ボルトの軸径、thは前記補強板の板厚、dLは前記第3ボルト孔の長径方向の孔径)
請求項6に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項8】
前記第1構造材、前記第2構造材、前記補強板が鋼材で形成されている
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項9】
前記第1構造材が、鋼板、H形鋼、CT形鋼、溝形鋼、又は平鋼であり、板厚が4.5mm以上40mm以下である
請求項8に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項10】
前記高力ボルトの軸径が16mm以上20mm以下である
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項11】
前記摩擦面が、赤錆面又はブラスト処理面である
請求項8乃至10のいずれか一項に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、高力ボルトの摩擦接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における鉄骨部材の接合構造として、高力ボルトを用いた摩擦接合構造が知られている。この摩擦接合構造において、高力ボルトを挿通するボルト孔は円形孔とされ、その孔径は高力ボルトの軸径(呼び径)プラス2mm(軸径(呼び径)が27mm以上の場合にはプラス3mm)とされている。これに対し、高力ボルトの位置調整範囲を大きくすることを目的として、接合する2枚の鋼板に長孔を形成し、長孔同士が互いに長径方向を直交するようにして重ね合わせ、その重なり部分に座金を介して高力ボルトが挿通されてナットで締結された高力ボルト摩擦接合構造が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の施工時に、高力ボルトを挿通するボルト孔の孔径を規定値通りとした場合、ゆとりがなく、部材の精度や建方の精度によってはそのままでは接合できず、部材の位置調整や部材の再製作などが必要となる場合がある。一方、特許文献1に開示されるようにボルト孔を長径とした場合には、高力ボルトに必要な軸力を導入できず、またボルト孔に水分が浸入しやすく、空気に晒されることにより錆が進行し劣化しやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、接合部材同士の位置調整を容易とし、劣化しにくい高力ボルト摩擦接合構造を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る高力ボルトの接合構造は、第1ボルト孔が設けられた第1構造材と、第1ボルト孔より孔径の大きい第2ボルト孔が設けられた第2構造材と、第1ボルト孔と略同じ孔径の第3ボルト孔が設けられた補強板と、第1乃至第3ボルト孔に挿通される高力ボルトを含む締結材とを含む。第1構造材及び第2構造材は摩擦面を含み、摩擦面同士が当接し、補強板が第2構造材側に配置され、第1ボルト孔、第2ボルト孔、及び第3ボルト孔が連通し、第1構造材、第2構造材、及び補強板が締結材により締結されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、高力ボルト摩擦接合構造において、一方の構造材に設けるボルト孔の孔径を大きくすることで、建方時に部材の調整代を増加させることができ、建方精度の確保を容易にすることができる。高力ボルト摩擦接合構造に補強板を用いることで,高力ボルトの導入軸力を安定化させることができ、すべりが生じた後の偏心曲げによる接合部の変形に対する補強をすることができる。さらに、孔径が広げられたボルト孔を補強板が覆う構造とすることで、外部から見えないようにすることができ、ボルト孔への水分、湿気の侵入を防ぎ、錆の進行を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を示し、(A)は平面概略図、(B)はA1-A2線に対応する断面図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を示し、(A)は平面概略図、(B)はB1-B2線に対応する断面図を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を示し、(A)は平面概略図、(B)はC1-C2線に対応する断面図を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を示し、(A)は平面概略図、(B)はD1-D2線に対応する断面図を示す。
【
図5】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造におけるボルト孔の形態を示し、(A)は標準孔、(B)は過大孔、(C)は長孔(過大孔)を示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造の正面図を示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を示し、(A)は
図6に示すE1-E2間に対応する断面構造を示し、(B)はF1-F2間に対応する断面構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の内容を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様を含み、以下に例示される実施形態の内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、それはあくまで一例であって、本発明の内容を限定するものではない。また、本明細書において、ある図面に記載されたある要素と、他の図面に記載されたある要素とが同一又は対応する関係にあるときは、同一の符号(又は符号として記載された数字の後にa、b等を付した符号)を付して、繰り返しの説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有しない。
【0010】
[第1実施形態]
図1(A)は、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造の平面模式図を示し、同図中A1-A2線に対応する断面構造を
図1(B)に示す。以下においては、
図1(A)及び(B)の両方を適宜参照して説明する。なお、
図1(A)は、高力ボルトの締結部において、高力ボルト、ナット等が省略され、ボルト孔の位置のみが示されている。
【0011】
本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造は、第1構造材102、第2構造材104、補強板106、締結具を含む。この高力ボルト摩擦接合構造は、第1構造材102と第2構造材104とを摩擦接合する際に補強板106が付加され、締結具として用いられる高力ボルト108に導入された軸力により締め付けられた構造を有する。第1構造材102及び第2構造材104は、建築物の梁、柱等を構成する部材であり、締結具は、高力ボルト、ナット、座金を含む。
【0012】
第1構造材102は第1ボルト孔114を有し、第2構造材104は第2ボルト孔116を有する。また補強板106は第3ボルト孔118を有する。第1ボルト孔114、第2ボルト孔116、及び第3ボルト孔118は高力ボルト108が挿通される孔である。第1構造材102、第2構造材104、及び補強板106は、第1ボルト孔114、第2ボルト孔116、及び第3ボルト孔118が連通するように重ね合わせて配置される。
【0013】
高力ボルト摩擦接合構造は、第1構造材102及び第2構造材104のそれぞれに形成された摩擦面120を有し、両方の構造材の摩擦面120が当接するように配置される。摩擦面120は、第1構造材102の第1ボルト孔114の周囲、第2構造材104の第2ボルト孔116の周囲に形成される。別言すれば、第1構造材102の摩擦面120を貫通するように第1ボルト孔114が設けられ、第2構造材104の摩擦面120を貫通するように第2ボルト孔116が設けられる。補強板106は第2構造材104と当接するように設けられる。具体的に、補強板106は、第2構造材104が第1構造材102と当接する面とは反対側の面に設けられる。
【0014】
第1構造材102、第2構造材104、及び補強板106は鋼材により形成される。第1構造材102及び第2構造材104に形成される摩擦面120は、赤錆面又はブラスト処理面により形成される。例えば、赤錆面は、構造材の表面の黒皮を除去し、自然発錆させる処理により形成され、ブラスト処理面は、構造材の表面をブラスト処理することにより形成される。
【0015】
図5(A)に示すように、第1構造材102に設けられる第1ボルト孔114の孔径d
1、及び補強板106に設けられる第3ボルト孔118の孔径d
3は、高力ボルト108の軸径(呼び径)dに対して大きい値を有する。代表的には、孔径d
1、d
3は、高力ボルト108の軸径(呼び径)dより2mm大きい値を有する(d
1,d
3=d+2mm)。この孔径d
1、d
3は標準的な大きさとされているため、以下、第1ボルト孔114及び第3ボルト孔118を「標準孔」とも呼ぶ。これに対し、
図5(B)に示すように、第2構造材104に設けられる第2ボルト孔116の孔径d
2は、第1ボルト孔114及び第3ボルト孔118の孔径d
1、d
3よりも大きな孔径を有する。具体的には、第2ボルト孔116の孔径d
2と高力ボルト108の軸径(呼び径)dとの差が、2mmを超え4mm以下の範囲で大きな値を有する。孔径d
2は、標準孔の孔径より大きいため、以下、第2ボルト孔116を「過大孔」とも呼ぶ。本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造は、第1構造材102と補強板106との間に配置される第2構造材104のボルト孔(第2ボルト孔116)が、他のボルト孔(第1ボルト孔114、第2ボルト孔116)より大きな孔径を有している。
【0016】
図1(A)及び(B)に示すように、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造は、第1構造材102と第2構造材104との摩擦面120を重ね合わせ、さらに第2構造材104の側に補強板106を配置して、連通するように配置された第1ボルト孔114、第2ボルト孔116、及び第3ボルト孔118に高力ボルト108を挿通し、座金112を挟んでナット110で締め付けることで形成される。本実施形態では、高力ボルト摩擦接合構造に、2本の高力ボルト108を用いる例を示すが、高力ボルト摩擦接合構造を形成するに当たり高力ボルト108の本数は任意であり、以下に述べる条件を満たすことを前提に適宜選択することができる。
【0017】
補強板106の大きさ(別言すれば、補強板106に形成される第3ボルト孔118の中心位置)は、高力ボルト108の軸径(呼び径)dと補強板106の板厚thとから決めることができる。すなわち、補強板106の大きさは、補強板106の短辺側の端部SS1、SS2から第3ボルト孔118の中心位置までのそれぞれの距離eh11、eh12、及び補強板106の長辺側の端部SL1、SL2から第3ボルト孔118の中心位置までのそれぞれの距離eh21、eh22が、以下の式(1)を満たすように決めることができる。
eh11,eh12,eh21,eh22≧d+th (1)
ここで、各端部から第3ボルト孔118の中心位置までの距離eh11、eh12、eh21、eh22は式(1)を満たす限り同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0018】
補強板106の短辺側の端部及び長辺側の端部から第3ボルト孔118の中心位置までのそれぞれの距離eh11、eh12、eh21、eh22は、式(1)に示すように、高力ボルト108の軸径(呼び径)dと補強板106の厚みthの合計と同じかそれ以上の長さを有していればよい。別言すれば、補強板106の形状が平面視で長方形である場合、短辺の長さは、eh21とeh22との合計の長さ又はそれ以上の長さを有していればよい。
【0019】
また、補強板106の板厚thは、第1構造材102の板厚をt1、第2構造材104の板厚をt2としたときに、次に示す式(2)、式(3)、式(4)を満たすことが好ましい。
th+t2≧t1 (2)
40mm≧t1,t2≧4.5mm (3)
16mm≧th≧6mm (4)
【0020】
上記の式(2)で示すように、補強板106と第2構造材104の合計の厚みは、第1構造材102の厚み以上であることが好ましい。補強板106の厚みを薄くすることで、高力ボルト摩擦接合構造のコスト削減が可能である。
【0021】
本実施形態において、第1構造材102は、鋼板、H形鋼、CT形鋼、溝形鋼、又は平鋼であり、板厚が4.5mm以上40mm以下であることが好ましい。また、高力ボルト108の軸径は16mm以上20mm以下であることが好ましい。また、第2構造材104は、ガセットプレート、スプライスプレートであってもよい。または、第1構造材102がガゼットプレート、スプライスプレートで、第2構造材104が鋼板、H形鋼、CT形鋼、溝形鋼、又は平鋼であってもよい。補強板106は、上記のように端部から第3ボルト孔118の中心位置までの距離ehを満たすものであれば、長方形に限定されず他の形状を有していてもよい。
【0022】
第2構造材104に設ける第2ボルト孔116が過大孔である場合、高力ボルト108を締め付けても必要な軸力が高力ボルト108に導入できないことが懸念される。しかしながら、本実施形態で示すように、第2構造材104の側に補強板106を導入することでこの問題を解消することができ、高力ボルト108に必要な軸力を導入することができる。
【0023】
すなわち、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造は、第2構造材104の過大孔である第2ボルト孔116に隣接するように補強板106を設けることで、高力ボルトによる導入張力を摩擦面120に確実に伝達し、また、摩擦面120における接触面積を確保することができる。別言すれば、式(1)乃至(4)の要件を満たす補強板106を設けることで、高力ボルトによる締め付けの圧縮応力が存在する範囲が、座金直径部よりθ=45度の点線で示す半頂角を有する円錐の底面の範囲内に摩擦面120が含まれるようにすることができ(
図1(B)参照)、しかもその範囲を広げることができる。
【0024】
また、本実施形態によれば、過大孔(第2ボルト孔116)が設けられた第2構造材104を、第1構造材102と補強板106とで挟むことで、過大孔の部分を外部から見えないようにすることが可能となる。これにより、第2ボルト孔116に水分、湿気が侵入することを防ぎ、錆の進行を抑えることができ、高力ボルトによる摩擦接合部の劣化を防止することができる。
【0025】
さらに、本実施形態によれば、第2構造材104に設けられる第2ボルト孔116を過大孔とすることで、建方時に構造材同士の調整代を大きくすることができ、建方精度を確保することができる。また、補強板106を導入することで、高力ボルト108の導入軸力を安定化させることができ、すべりが生じた際の偏心曲げによる接合部の変形を防止することができる。
【0026】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態に示す高力ボルト摩擦接合構造に対し、第2ボルト孔の形状が異なる態様を示す。以下においては、第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0027】
図2(A)は、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造の平面模式図を示し、同図中B1-B2線に対応する断面構造を
図2(B)に示す。以下においては、
図2(A)及び(B)の両方を適宜参照して説明する。
【0028】
本実施形態において、第1構造材102に設けられる第1ボルト孔114の孔径d
1、及び補強板106に設けられる第3ボルト孔118の孔径d
3は、第1実施形態と同様であり標準孔が設けられる。一方、第2構造材104に設けられる第2ボルト孔116は長孔で形成される。
図2(A)に示すように、補強板106の形状が平面視で長方形である場合、第2ボルト孔116は長径の方向が長辺と略平行となるように配置される。第2ボルト孔116の数は任意であるが、本実施形態は、
図2(A)及び(B)に示すように2つのボルト孔が並置される構造を例示する。
【0029】
図5(C)に示すように、第2構造材104に設けられる第2ボルト孔116の孔径は、短径d
sが高力ボルト108の軸径(呼び径)dに対して2mm大きく、長径d
Lが軸径(呼び径)dの2.5倍以下の大きさを有する。本実施形態に係る第2ボルト孔116も、標準孔と比較して大きな孔径を有するので、長孔と呼ぶことができる。
【0030】
図2(A)に示すように、補強板106の短辺の長さは、第1実施形態と同様に定められる。すなわち、高力ボルト108の軸径(呼び径)d、補強板106の厚みをthとしたときに、補強板106の、第2ボルト孔116の短径方向と交差する一辺の側の端部S
B1から第3ボルト孔118の中心位置までの距離e
h21、及び第2ボルト孔116の短径方向と交差する他の一辺の側の端部S
B2から第3ボルト孔118の中心位置までの距離e
h22は、以下の式(5)を満たすように求められる。
e
h21,e
h22≧d+t
h (5)
ここで、各端部から第3ボルト孔118の中心位置までの距離e
h21、e
h22は、式(5)を満たす限り同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0031】
図2(A)に示す構成において、補強板106の短辺の長さは、e
h21とe
h22との合計の長さ又はそれ以上の長さを有していることが求められる。一方、補強板106の、第2ボルト孔116の長径方向と交差する一辺の側の端部S
A1から第3ボルト孔118の中心位置までの距離e
h11、及び第2ボルト孔116の長径方向と交差する他の一辺の側の端部S
A2から第3ボルト孔118の中心位置までの距離e
h12は、式(6)を満たし、かつ第2ボルト孔116の長径の長さをd
Lとしたときに、次式(7)を満たすようにすることが求められる。
e
h11,e
h12≧d+t
h (6)
e
h11,e
h12≧d
L-0.5d+1 (7)
ここで、各端部から第3ボルト孔118の中心位置までの距離e
h11、e
h12は、式(6)及び式(7)を満たす限り同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0032】
補強板106の大きさは、第3ボルト孔118の中心位置に対して、短辺の長さが式(5)を満たし、長辺については式(6)及び式(7)を満たす長さを有していることにより、高力ボルト108に軸力を導入し、摩擦接合に必要な締め付け力を付与することができる。さらに、第2構造材104に設けられた第2ボルト孔116が長孔であっても、外部から見えないようにすることができる。
【0033】
図2(B)に示すように、高力ボルト摩擦接合構造は、第1構造材102と第2構造材104とは、両方の摩擦面120が当接され、さらに第2構造材104の摩擦面120とは反対側の面に補強板106が接して設けられる。第1ボルト孔114、第2ボルト孔116、及び第3ボルト孔118が連通するように重ねられ、そこに高力ボルト108が挿通され、座金112を挟んでナット110で締め付けることで高力ボルト摩擦接合構造が形成される。補強板106の厚みt
hは、第1実施形態で述べた式(2)を満たす厚みを有することで、高力ボルト108による導入張力を確実に伝達し、摩擦面における支圧面積を確保することができる。
【0034】
本実施形態において、第2ボルト孔116の配置は
図2(A)に示す形態に限定されず、長径d
Lの方向が異なっていてもよい。例えば、
図3(A)の平面模式図、及び
図3(B)の断面模式図(
図3(A)中に示すC1-C2に対応する断面構造)に示すように、第2ボルト孔116の長径d
Lが補強板106の短辺と平行な方向に配置されていてもよい。
図3(A)及び(B)に示す第2ボルト孔116の配置においても、補強板106は、第2ボルト孔116の短径方向と交差する辺の側の端部S
B1、S
B2から第3ボルト孔118の中心位置までのそれぞれの距離e
h21、e
h22は、式(5)を満たし、第2ボルト孔116の長径方向と交差する辺の側の端部S
A1、S
A2から第3ボルト孔118の中心位置までのそれぞれの距離e
h11、e
h12が式(6)及び式(7)を満たす大きさを有するように設けられる。
【0035】
図2(A)及び(B)に示す高力ボルト摩擦接合構造は、第1ボルト孔114及び第3ボルト孔118の位置が、第2ボルト孔116の略中心に配置される例を示す。しかしながら本発明の一実施形態はこの例に限定されない。例えば、
図4(A)の平面図及び(B)に示すC1-C2線に沿った断面図に示すように、長孔に形成される第2ボルト孔116に対し、第1ボルト孔114及び第3ボルト孔118の位置(すなわち、高力ボルト108の位置)が一方の孔端に偏っていてもよい。長孔で形成される第2ボルト孔116に対して高力ボルト108を孔端に配置することで、第1構造材102及び第2構造材104のそれぞれに対し、一方向に対する調整範囲を広げることができる。なお、
図4(A)及び(B)に示す構成においても、
図3(A)及び(B)に示すように第2ボルト孔116の長径d
Lの方向が補強板106の短辺と平行な方向に配置されていてもよい。
【0036】
本実施形態で示す高力ボルト摩擦接合構造は、第2ボルト孔116が長孔の形状を有することの他は第1実施形態に示す構造と同様であり、同様の作用効果を奏する。さらに、上述のように、第2ボルト孔116が長孔であることにより、長孔の長径方向の調整代がさらに増加し、建方精度の確保を容易にすることができる。
【0037】
[第3実施形態]
本実施形態は、第1実施形態に示す高力ボルト接合構造の適用例を示す。
【0038】
図6は、構造部材122と梁103の仕口部の正面図を示す。また、
図6に示すD1-D2間の断面構造を
図7(A)に示し、E1-E2間に対応する断面構造を
図7(B)に示す。
図6、
図7(A)及び(B)において、梁103が第1構造材102に相当し、ガセットプレート105が第2構造材104に相当する。梁103はH形鋼である場合を示す。
【0039】
梁103とガセットプレート105は、第1実施形態に示す高力ボルト接合構造により接合される。梁103のウエブとガセットプレート105の摩擦面が当接され、ガセットプレート105の側に補強板106が配置される。高力ボルト108を挿通するために、梁103及び補強板106には標準孔のボルト孔が設けられ、ガセットプレート105には第2ボルト孔116に相当する過大孔が設けられる。そして、梁103、ガセットプレート105、及び補強板106が高力ボルト108、ナット110、座金112のセットより締結具により締結される。補強板106に設けられるボルト孔の中心は、第1実施形態で説明したように各端部から距離eh11、eh12、eh21、eh22の位置に配置される。
【0040】
ガセットプレート105に形成される第2ボルト孔116を過大孔とすると、高力ボルト108を締め付けても必要な軸力が高力ボルト108に導入できないことが懸念される。しかしながら、第1実施形態で説明したように、ガセットプレート105に重ねて補強板106を設けることでこの問題を解消することができ、高力ボルト108に必要な軸力を導入することができる。また、補強板106を設けることで、ガセットプレート105に形成された第2ボルト孔116が露出しない構造とすることができ、水分、湿気の浸入を防ぐことができる。なお、第2ボルト孔116として、第2実施形態に示す構成を適用することもできる。
【0041】
本実施形態において、梁103としてH形鋼を用いる例を示すが、CT形鋼、溝形鋼等の他の形鋼を適用することもできる。構造部材122としては角形鋼管、円形鋼管等の構造用鋼管、各種形鋼、鉄筋コンクリート構造体、プレキャストコンクリート構造体等を適用することができる。また、ガセットプレート105に代えてスプライスプレートを適用することで、梁同士の接合部に本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
102・・・第1構造材、103・・・梁、104・・・第2構造材、105・・・ガセットプレート、106・・・補強板、108・・・高力ボルト、110・・・ナット、112・・・座金、114・・・第1ボルト孔、116・・・第2ボルト孔、118・・・第3ボルト孔、120・・・摩擦面、122・・・構造部材