(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119546
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】識別コード付きガラス基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 23/00 20060101AFI20220809BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20220809BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20220809BHJP
【FI】
C03C23/00 D
C03C15/00 B
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016760
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】山内 寛之
(72)【発明者】
【氏名】長尾 卓也
(72)【発明者】
【氏名】新美 伍郎
(72)【発明者】
【氏名】春名 柾局
【テーマコード(参考)】
4E168
4G059
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168DA23
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA14
4E168KA04
4G059AA01
4G059AC01
4G059AC30
4G059BB04
4G059BB16
(57)【要約】
【課題】コンパクトで自由度の高い識別コードを描画することが可能な識別コード付きガラス基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の有底状の微小凹部によって構成される識別コードパターン部を備えた識別コード付きガラス基板であって、微小凹部の底面および側面がエッチング面によって構成される。この微小凹部は、例えば、ドット径が5~100μmの複数の有底筒状のドット状凹部によって構成されることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有底状の微小凹部によって構成される識別コードパターン部を備えた識別コード付きガラス基板であって、
前記微小凹部の底面および側面がエッチング面によって構成されることを特徴とする識別コード付きガラス基板。
【請求項2】
前記微小凹部が、ドット径が5~100μmの複数の有底筒状のドット状凹部によって構成されることを特徴とする請求項1に記載の識別コード付きガラス基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の識別コード付きガラス基板を製造する方法であって、
前記識別コード付きガラス基板を多面取りするための多面取り用ガラス母材に対して、前記識別コード付きガラス基板の形状に対応する形状予定線に沿ってレーザを照射することによって前記形状予定線をエッチングされ易い性質に改質する第1のレーザ改質ステップと、
前記微小凹部の形成予定位置にレーザを照射することによって、前記微小凹部の形成予定位置をエッチングされ易い性質に改質する第2のレーザ改質ステップと、
前記第1のレーザ改質ステップおよび前記第2のレーザ改質ステップによって改質された箇所をエッチング液によって溶解するエッチングステップと、
を少なくとも含む識別コード付きガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記第1のレーザ改質ステップでは、集光領域が前記識別コード付きガラス基板の厚み方向の全域にわたって広がる一方で、
前記第2のレーザ改質ステップでは、集光領域が前記識別コード付きガラス基板の厚み方向の表面近傍にのみ配置されることを特徴とする請求項3に記載の識別コード付きガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、識別コードが付与された識別コード付きガラス基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の製造元、製造年月日、ロット番号等の識別情報を製品の所定箇所に付与することによって、製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を向上させる取り組みが広く行われている。
【0003】
このトレーサビリティ向上の活動は、ガラス基板を用いた製品においても行われている。例えば、カラーフィルタ付きガラスのカラーフィルタ膜に識別情報をパターニングしたり、車両のフロントガラスの黒い遮蔽部に識別情報をパターニングしたりする技術が存在する(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0004】
ところが、上述の従来技術では、ガラス基板に付着した膜が劣化すると、識別情報を読み取りにくくなるおそれがあり、長期間にわたって識別情報を判読可能な状態に維持することが困難になることあった。
【0005】
そこで、従来技術の中には、ガラス基板に対して直接、ブラスト加工処理やレーザ加工処理によってガラス基板の表面に二次元コード等の識別コードを描画する技術も開発されている。(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-199747号公報
【特許文献2】特開2019-147714号公報
【特許文献3】特許第6685514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラス基板に対して直接加工を施す場合には、ガラス基板の強度を低下させないために、描画面積(体積)を縮小させる等の工夫をすることが余儀なくされるという問題があった。
【0008】
例えば、特許文献3に係る技術においては、識別コードの構成単位のドットを環状の溝で形成する等の工夫をしているが、この場合、構成単位のドットが大きくなってしまい、結果として、識別コードのコンパクト化に対応しにくいといった不都合が考えられる。
本発明の目的は、コンパクトで自由度の高い識別コードの描画が可能な識別コード付きガラス基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る識別コード付きガラス基板は、複数の有底状の微小凹部によって構成される識別コードパターン部を備える。有底状とは、ガラス基板の厚み方向において貫通していない構成を意味している。
【0010】
微小凹部の形状の例としては、ドット状、ライン状、所定のエリアをカバーする面的な広がりを持つ形状等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0011】
そして、微小凹部の底面および側面はエッチング面によって構成されている。これらの面がエッチング面によって形成されることによって、微小凹部には物理的キズがほとんど存在しないことになり、微小凹部の存在に起因してガラス基板の強度が低下しにくくなる。特に、ガラス基板の板厚の4分の1程度までの深さの凹部であれば、ガラス基板の強度にほとんど影響がないことが出願人によって確認されている。
【0012】
上述の構成において、微小凹部が、ドット径が5~100μmの複数の有底筒状のドット状凹部によって構成されることが好ましい。このような微小なドット径のドット状凹部を形成することによって、識別コードの構成単位のドットを最小化することが可能であり、識別コードの全体をコンパクトに配置することが可能になる。
【0013】
微小凹部のドット径を5~100μm程度(多くの場合は、50~75μm程度)にまで縮小するための手法の代表例としては、レーザアシストエッチングが挙げられる。パルスレーザを用いて熱ひずみの発生を防止しつつ、ガラス基板の所望の箇所を改質し、改質箇所をエッチングによって溶解させる手法であれば、ドット径の微細化に対応可能である。
【0014】
また、この発明に係る識別コード付きガラス基板の製造方法は、上述の識別コード付きガラス基板を製造するために最適な方法であり、第1のレーザ改質ステップ、第2のレーザ改質ステップ、およびエッチングステップを含んでいる。
【0015】
第1のレーザ改質ステップでは、識別コード付きガラス基板を多面取りするための多面取り用ガラス母材に対して、識別コード付きガラス基板の形状に対応する形状予定線に沿ってレーザを照射することによって形状予定線をエッチングされ易い性質に改質する。
【0016】
第2のレーザ改質ステップでは、微小凹部の形成予定位置にレーザを照射することによって、微小凹部の形成予定位置をエッチングされ易い性質に改質する。
【0017】
エッチングステップでは、第1のレーザ改質ステップおよび第2のレーザ改質ステップによって改質された箇所をエッチング液によって溶解する。
【0018】
このような識別コード付きガラス基板の製造方法を用いることによって、エッチングにおいて識別コードの付与とガラス基板の外形加工とが同時に行われるため、生産効率が向上する。
【0019】
上述の識別コード付きガラス基板の製造方法において、第1のレーザ改質ステップでは、集光領域が識別コード付きガラス基板の厚み方向の全域にわたって広がる一方で、第2のレーザ改質ステップでは、集光領域が識別コード付きガラス基板の厚み方向の表面近傍にのみ配置されるようにすることが好ましい。
【0020】
このような方法を採用することにより、レーザビームの焦点位置を調整するという簡易な作業によって、識別コードの描画のためのレーザ加工と、ガラス基板の輪郭形成のためのレーザ加工とを切り替えることが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、コンパクトで自由度の高い識別コードの描画が可能な識別コード付きガラス基板や、この識別コード付きガラス基板の最適な製造方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る識別コード付きガラス基板の概略構成である。
【
図2】識別コードパターン部の概略構成を示す図である。
【
図3】第1のレーザ改質ステップの一例を示す図である。
【
図4】第2のレーザ改質ステップの一例を示す図である。
【
図6】エッチング装置のバリエーションを示す図である。
【
図7】母材から分断されたガラス基板の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図を用いて、本発明の一実施形態である識別コード付きガラス基板10の一実施形態を説明する。ここでは、ガラス基板10は、スマートフォン用カバーガラスに用いられるものであるが、ガラス基板10の用途はこれには限定されない。ガラス基板10は、板状のガラスを用いるガラス製品全般に用いることが可能である。
【0024】
図1(A)および
図1(B)に示すように、ガラス基板10は、ロット番号等の識別情報を有する識別コードパターン部12を有している。識別コードパターン部12は、
図2(A)~
図2(C)に示すように、複数の有底状の微小凹部122によって構成される。
【0025】
微小凹部122は、そのドット径(内径)が50~75μm程度に設定される。ただし、後述するレーザ加工処理におけるレーザビーム径を調整することによって、5~100μm程度範囲から最適なドット径を設定することが可能である。
【0026】
微小凹部122は、
図2(C)に示すように、その深さが、ガラス基板10の板厚の4分の1程度までに抑えられている。この実施形態においては、ドット状を呈する微小凹部122について説明するが、微小凹部の構成はこれに限定されるものではない。
【0027】
微小凹部122は、少なくともその底面および側面はエッチング面によって構成される。ここでは、底面および側面に加えて主面と側面とが交わる稜面や、側面と底面とが交わる稜面もエッチング面によって構成されている。エッチング面は、後述する化学的処理によって形成されるものであるが、このようなエッチング面は物理的キズがほとんど存在しない。
【0028】
続いて、
図3~
図7を用いて、上述のガラス基板を製造する方法の一例を説明する。ここでは、生産効率を高めるために、ガラス基板10を多面取りするための多面取り用ガラス母材100を用いる例を説明する。
【0029】
図3(A)に示すように、まず、ガラス基板10の形状に対応する形状予定線に沿ってレーザが照射される(第1のレーザ改質ステップに相当)。これにより、ガラス基板10の輪郭となる形状予定線がエッチングされ易い性質に改質される。
【0030】
このとき、
図3(B)に示すように、集光領域がガラス母材100の厚み方向の全域にわたって広がるように設定される。
【0031】
続いて、
図4(A)に示すように、微小凹部122の形成予定位置にレーザが照射される(第2のレーザ改質ステップに相当)。これにより、微小凹部122の形成予定位置がエッチングされ易い性質に改質される。
【0032】
このとき、
図4(B)に示すように、レーザビームの集光領域がガラス母材100の厚み方向の表面近傍にのみに設定される。ガラス基板10の強度を考慮すると、この集光領域は、ガラス母材100の厚み全体の25%程度に抑制されることが好ましい。
【0033】
このように識別コードパターン部122の描画のためのレーザ加工と、ガラス基板10の輪郭形成のためのレーザ加工とは、レーザビームの焦点位置を調整するという簡易な作業によって切り替えられる。
【0034】
上述したレーザ加工において、レーザビームは、ガラス母材100をエッチングされ易い性質に改質できる限り、その種類および照射条件は特に限定されない。
【0035】
この実施形態では、レーザヘッドから、短パルスレーザ(例えばピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ)から発振されるレーザビームが照射されているが、例えば、CO2レーザ、ナノ秒レーザ等を用いても良い。
【0036】
また、この実施形態では、レーザビームの平均レーザエネルギが、約30μJ~300μJ程度になるように出力制御が行われているが、これに限定されるものでもない。
【0037】
続いて、
図5(A)および
図5(B)に示すように、所望の位置がエッチングされやすい性質に改質されたガラス母材100は、エッチング装置50によってエッチング処理される。
【0038】
レーザビームの照射によって形成された改質部は、エッチング装置50によるエッチング処理によって溶解する。この結果、識別コードパターン部12が形成されるとともに切断予定線に沿ってガラス基板10の外形が画定される。
【0039】
エッチング処理においては、
図5(B)に示すように、ガラス母材100は、エッチング装置50に導入され、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液によるエッチング処理が施される。通常、フッ酸1~10重量%、塩酸5~20重量%程度を含むエッチング液が用いられ、必要に応じて適宜、界面活性剤等が併用される。
【0040】
エッチング装置50では、
図6(A)に示すように、搬送ローラによってガラス母材100を搬送しつつ、エッチングチャンバ52内でガラス母材100の主面にエッチング液を接触させることによって、ガラス母材100に対するエッチング処理が行われる。
【0041】
なお、エッチング装置50におけるエッチングチャンバ52の後段には、ガラス母材100に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバ53が設けられているため、ガラス母材100はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置50から排出される。
【0042】
ガラス母材100にエッチング液を接触させる手法の一例として、
図6(A)に示すように、エッチング装置50の各エッチングチャンバ52において、ガラス母材100に対してエッチング液をスプレイするスプレイエッチングが挙げられる。
【0043】
また、スプレイエッチングに代えて、
図6(B)に示すように、オーバーフロー型のエッチングチャンバ54において、オーバーフローしたエッチング液に接触しながらガラス母材100が搬送される構成を採用することも可能である。
【0044】
さらには、
図6(C)に示すように、エッチング液が収納されたエッチング槽56に、キャリアに収納された単数または複数のガラス母材100を浸漬させるディップ式のエッチングを採用することも可能である。
【0045】
エッチング処理によって、
図7に示すように、ガラス母材100におけるガラス基板10の輪郭部分が溶解して、各ガラス基板10に分割される。さらに、識別コードパターン部12形成位置の改質部も同時に溶解する。上述のようにレーザビームの照射によってエッチング処理をアシストする手法(レーザアシストエッチング)によって、エッチングすべき領域が改質されているため、エッチング処理時間を極限まで最小化することが可能になる。
【0046】
エッチング処理時間が短縮することにより、識別コードパターン部12の形成時に、識別コードパターン部12の形状がいびつになったり意図せずにガラス母材100の表面が粗面化したりしにくくなる。このため、微小凹部122のドット径や線幅等を、20μm~50μm程度の範囲で狙った大きさに調整することが可能になる。
【0047】
ここで、一般的な等方性エッチングの場合には、ガラス母材100の板厚が厚くなればなるほど、微小凹部122のドット径や線幅等が大きくなってしまう傾向がある。その理由は、エッチング処理において、ガラス母材100の厚さ方向と同時に幅方向にもエッチングが進行するからである。
【0048】
このエッチング処理の等方性を抑制する対策として、エッチング処理において、酸化チタン等のフッ素錯化剤を添加することにより、エッチング処理における微小凹部122のドット径や線幅等の拡大が抑制されることが出願人の実験によって明らかになっている。このため、必要に応じて、エッチング液にフッ素錯化剤を適量添加することによって、微小凹部122のドット径や線幅や形状等を調整することが可能になる。
【0049】
上述のような製造方法を用いることによって、エッチング処理において識別コードパターン部12の形成とガラス基板10の外形加工が同時に行われるため、生産効率が向上する。
【0050】
上述した実施形態によれば、コンパクトでかつ読み取り易い識別コードパターン部12を備えたガラス基板10が実現する。しかも、識別コードパターン部12を、物理的キズが残らない化学的処理で形成するため、識別コードパターン部12の存在によってガラス基板10の強度が低下することもない。
【0051】
上述の実施形態では、識別コードパターン部12は1辺が2センチ弱程度で、データ量は20バイト程度のものを説明したが、識別コードパターン部12の構成はこれに限定されるものではない。
【0052】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
10-ガラス基板
12-識別コードパターン部
100-ガラス母材
122-微小凹部