IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-インバータの制御装置 図1
  • 特開-インバータの制御装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119590
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】インバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220809BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20220809BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20220809BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P27/08
H02P5/46 C
B60L9/18 J
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016839
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】高倉 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】増穂 大介
【テーマコード(参考)】
5H125
5H505
5H572
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB02
5H125EE08
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE49
5H505EE55
5H505HA10
5H505HB02
5H505HB05
5H572AA02
5H572BB04
5H572CC04
5H572DD02
5H572HA10
5H572HB09
5H572HC01
5H572HC04
5H572HC07
5H770AA07
5H770BA02
5H770CA01
5H770CA03
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA22
5H770DA41
5H770EA02
(57)【要約】
【課題】効率の低下および官能の悪化を抑制しつつ、複数種類の周波数が重なることによる騒音の発生を抑制できる、インバータの制御装置を提供する。
【解決手段】モータの回転数がモータから発生するキャリア周波数fc、キャリア側帯波周波数fs、モータ固有振動数frおよびトルクリップル発生周波数foのいずれか2つ以上が重なる回転数Nに所定値を加減して設定される回転数域に入ったか否かが判定される。そして、モータの回転数が回転数Nを含む回転数域に入ったまま所定時間が経過すると、モータについてのキャリア周波数fcが所定周波数まで引き上げられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータをパルス幅変調により制御する制御装置であって、
前記モータの回転数が前記モータの通電時に発生する複数種類の周波数が重なる回転数域に入ったことを判定し、
前記モータの回転数が前記回転数域に入ったことの判定が所定時間継続したことに応じて、パルス幅変調のキャリア周波数を引き上げる、制御装置。
【請求項2】
前記複数種類の周波数は、前記キャリア周波数、キャリア側帯波の周波数、前記モータの固有振動数および前記モータのトルクリップルが発生する次数の周波数のうちの少なくとも2種類である、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、シリーズ方式のハイブリッド車両には、エンジンの動力で発電するモータと、走行用の動力を発生するモータとが搭載されている。
【0003】
これらのモータを駆動するインバータの制御には、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御が広く採用されている。パルス幅変調周期を決定する周波数であるキャリア周波数fcを中心とする高調波成分(キャリア側帯波の周波数fs)とモータの固有振動数frとが一致すると、モータからの騒音が増大する。
【0004】
この問題に対して、たとえば、モータの全回転域で、キャリア側帯波の周波数fsとモータの固有振動数frとを一致しないように、キャリア周波数fcを高周波化することが提案されている。しかし、モータの全回転域でスイッチング回数が増えることにより効率が低下する。しかも、モータの高回転域で、モータのトルクリップルが発生する次数の周波数foとキャリア側帯波の周波数fsとが一致し、モータからの騒音が発生する。
【0005】
モータの高回転域で、キャリア側帯波の周波数fsとモータの固有振動数frとが一致しないように、モータの回転数に応じてキャリア周波数を切り替えることも提案されているが、モータの高回転域での効率の低下およびモータからの騒音の発生は不可避である。
【0006】
また、キャリア側帯波の周波数fsとモータのトルクリップルが発生する次数の周波数foとが相違するように、キャリア周波数fcを細かく切り替えることも提案されている。しかし、キャリア周波数の切替回数が多くなることにより、キャリア周波数の切替音に対するユーザの官能が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-284719号公報
【特許文献2】特開2019-161704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、効率の低下および官能の悪化を抑制しつつ、複数種類の周波数が重なることによる騒音の発生を抑制できる、インバータの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係るインバータの制御装置は、モータを駆動するインバータをパルス幅変調により制御する制御装置であって、モータの回転数がモータの通電時に発生する複数種類の周波数が重なる回転数域に入ったことを判定し、モータの回転数が回転数域に入ったことの判定が所定時間継続したことに応じて、パルス幅変調のキャリア周波数を引き上げる。
【0010】
この構成によれば、モータの回転数がモータの通電時に発生する複数種類の周波数が重なる回転数域に入り、その回転数域に入った状態が所定時間継続した場合に限って、パルス幅変調のキャリア周波数が高周波化される。これにより、複数種類の周波数が重なることによる騒音の発生(増大)を抑制できながら、キャリア周波数が高周波化される期間を短く抑えて、効率の低下を抑制することができ、かつ、キャリア周波数の切替回数を少なく抑えて、キャリア周波数の切替音に対するユーザの官能の悪化を抑制することができる。
【0011】
複数種類の周波数は、キャリア周波数、キャリア側帯波の周波数、モータの固有振動数およびモータのトルクリップルが発生する次数の周波数のうちの少なくとも2種類であることが好ましい。
【0012】
これらの周波数が重なることによる騒音の発生(増大)を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、効率の低下および官能の悪化を抑制しつつ、複数種類の周波数が重なることによる騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用された制御システムの構成を示すブロック図である。
図2】モータ回転数と各種の周波数との関係を示す図であり、キャリア周波数変更処理によるキャリア周波数の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
<制御システム>
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が適用された制御システム1の構成を示すブロック図である。
【0017】
制御システム1は、シリーズ方式のハイブリッドシステムに好適に用いることができる。制御システム1には、2個のモータ(MG1,MG2)11,12、バッテリ(BAT)13およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)14が含まれている。
【0018】
シリーズ方式のハイブリッドシステムは、車両にエンジンとともに搭載されることにより、ハイブリッド車両を構成する。モータ11,12は、たとえば、永久磁石同期モータである。モータ(MG1)11は、エンジンの動力により発電を行う発電モータとして、その回転軸がエンジン11のクランクシャフトとギヤなどを介して機械的に連結される。モータ(MG2)12は、ハイブリッド車両の走行用の駆動力を発生する駆動モータとして、その回転軸がハイブリッド車両の駆動系に連結される。駆動系には、たとえば、デファレンシャルギヤが含まれており、モータ12の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に分配されて伝達される。
【0019】
バッテリ13は、複数の二次電池(たとえば、リチウムイオン電池)を組み合わせた組電池である。バッテリ13は、たとえば、約200~350V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0020】
PCU14は、モータ11,12の駆動を制御するためのユニットであり、インバータ(INV1,INV2)21,22、コンバータ23およびMGECU24を備えている。
【0021】
インバータ(INV1)21は、モータ11を駆動する三相電圧形インバータであり、2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ21は、モータ11の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力をモータ11に供給する。また、インバータ21は、モータ11の回生運転(発電)時に、モータ11で発生した交流電力を直流電力に変換する。
【0022】
インバータ(INV2)22は、モータ12を駆動する三相電圧形インバータであり、インバータ21と同様に、2個のIGBTの直列回路をU相、V相およびW相の各相に対応して設け、それらの直列回路をプラス配線とマイナス配線との間に互いに並列に接続した構成を有している。インバータ22は、モータ12の力行運転時に、直流電力を交流電力に変換して、交流電力をモータ12に供給する。また、インバータ22は、モータ12の回生運転(発電)時に、モータ12で発生した交流電力を直流電力に変換する。
【0023】
コンバータ23は、モータ11,12の力行運転時に、バッテリ14から出力される直流電力を昇圧してインバータ21,22に供給する。また、モータ11,12の回生運転時には、インバータ21,22から出力される直流電力を降圧してバッテリ13に供給する。
【0024】
MGECU24は、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。ハイブリッド車両には、マイコンを備えるECUが複数搭載されており、MGECU24は、それらのECUとCAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続される。
【0025】
MGECU24は、モータ11,12ごとに、他のECUから受信するトルク指令値に基づいて、d-q座標系におけるd軸電流指令値およびq軸電流指令値を設定する。d-q座標系は、モータ11,12のロータと同期して回転するd軸およびq軸からなる回転直交座標系である。d軸は、ロータが形成する磁束の方向に沿った軸であり、q軸は、モータジェネレータ2が発生するトルクの方向に沿った軸である。MGECU24は、d軸電流指令値およびq軸電流指令値に基づいて、d軸電圧指令値およびq軸電圧指令値を求め、d軸電圧指令値およびq軸電圧指令値をd-q/三相交流座標変換し、この変換によって得られるU相電圧指令値、V相電圧指令値およびW相電圧指令値に基づいて、インバータ21,22をそれぞれパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御する。これにより、モータ11,12からそれぞれのトルク指令値に応じたトルクが出力される。
【0026】
<キャリア周波数変更処理>
図2は、モータ回転数と各種の周波数との関係を示す図であり、キャリア周波数変更処理によるキャリア周波数の変化を示す。
【0027】
モータ11,12の通電時には、モータ11,12ごとに、PWM制御のパルス幅変調周期を決定する周波数であるキャリア周波数fc、キャリア周波数fcを中心として高周波数側および低周波数側に現れる高調波成分であるキャリア側帯波の周波数fs、モータ11,12の固有振動数frおよびモータ11,12のトルクリップルが発生する次数の周波数foが発生する。
【0028】
MGECU24は、モータ11,12の回転数がモータ11,12のそれぞれから発生するキャリア周波数fc、キャリア側帯波周波数fs、モータ固有振動数frおよびトルクリップル発生周波数foのいずれか2つ以上が重なる回転数Nに所定値を加減して設定される回転数域に入ったか否かを判定する。所定値は、0以上の正数である。
【0029】
MGECU24は、モータ11,12の回転数が回転数Nを含む回転数域に入ったと判定した場合、その判定からモータ11,12の回転数が当該回転数域に入ったまま所定時間が経過したか否かを判断する。そして、モータ11,12の回転数が回転数Nを含む回転数域に入った状態のまま所定時間が経過すると、MGECU24は、モータ11,12についてのキャリア周波数fcを所定周波数まで引き上げる。
【0030】
その後、モータ11,12の回転数が回転数Nを含む回転数域から外れると、MGECU24は、キャリア周波数fcを元の周波数に戻す。
【0031】
<作用効果>
以上のように、モータ11,12の回転数がモータ11,12の通電時に発生する複数種類の周波数、つまりキャリア周波数fc、キャリア側帯波周波数fs、モータ固有振動数frおよびトルクリップル発生周波数foのうちのいずれか2つ以上が重なる回転数域に入り、その回転数域に入った状態が所定時間継続した場合に限って、パルス幅変調のキャリア周波数fcが高周波化される。これにより、複数種類の周波数が重なることによる騒音の発生(増大)を抑制できながら、キャリア周波数fcが高周波化される期間を短く抑えて、効率の低下を抑制することができ、かつ、キャリア周波数fcの切替回数を少なく抑えて、キャリア周波数fcの切替音に対するユーザの官能の悪化を抑制することができる。
【0032】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0033】
たとえば、前述の実施形態では、モータ11,12の回転数が回転数Nを含む回転数域に入ったと判定してから所定時間が経過すると、キャリア周波数fcが引き上げられるとした。所定時間は、予め定められた不変時間であってもよいし、モータ騒音とそれ以外の騒音との音量の関係によって可変に設定されてもよく、たとえば、モータ騒音の音量よりもそれ以外の騒音の音量が大きい場合、モータ騒音の音量がそれ以外の騒音の音量以上である場合と比較して、所定時間が長い時間に設定されてもよい。
【0034】
モータ騒音以外の騒音としては、ハイブリッド車両のエンジンの回転数および出力により変化するエンジン音、ハイブリッド車両の走行によるロードノイズおよび風切り音、ハイブリッド車両の車室内におけるオーディオ音およびエアコン音、ならびにハイブリッド車両の窓の開閉音などを例示することができる。ロードノイズの音量は、車速やタイヤおよび/またはモータ11,12の回転変動から予測することがでる。風切り音の音量は、車速から予測することができる。オーディオ音、エアコン音および窓の開閉音の各音量は、車室内の音量をセンシングすることにより取得することができる。また、オーディオ音、エアコン音および窓の開閉音の各音量は、それらの動作を制御するECUから通信により受信した情報から取得されてもよい。すなわち、オーディオ音の音量は、アンプ出力の情報から求めることができ、エアコン音の音量は、設定風量の情報から予測することができ、窓の開閉音の音量は、窓が開閉動作中か否かの情報から開閉動作中か否かでそれぞれ一定値として取得することができる。
【0035】
所定時間は、モータ騒音が車室内に入りやすい状況であるか否かに応じて、たとえば、すべての窓が完全に閉じている状態では、モータ騒音が車室内に入りにくいので、所定時間が相対的長い時間に設定され、窓が1つでも開いている状態では、所定時間が相対的に短い時間に設定されてもよい。また、空いている窓の数が多いほど、所定時間が短い時間に設定されてもよい。
【0036】
また、モータ11,12の回転数が回転数Nを含む回転数域から外れると、キャリア周波数fcが元の周波数に戻されるとしたが、モータ11,12の回転数が回転数Nを含む回転数域よりも広い回転数域から外れたことに応じて、キャリア周波数fcが元の周波数に戻されてもよい。また、モータ騒音がそれ以外の騒音より一定量下回った場合に、キャリア周波数fcが元の周波数に戻されてもよい。
【0037】
本発明は、2個のモータ11,12を含む構成に限らず、1個のモータのみを含む構成および3個以上のモータを含む構成に適用することができる。
【0038】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0039】
11,12:モータ
21,22:インバータ
24:MGECU(制御装置)
図1
図2