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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119606
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】万年筆
(51)【国際特許分類】
   B43K 5/18 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
B43K5/18 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016855
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
(72)【発明者】
【氏名】平山 暁子
(72)【発明者】
【氏名】椎野 健一
(72)【発明者】
【氏名】上田 聡
(72)【発明者】
【氏名】川上 智也
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350HA01
2C350HC04
2C350KA01
2C350KA09
2C350NA10
2C350NC03
2C350NC20
(57)【要約】
【課題】 インク誘導芯をペン先部材に安定して接しさせ得る万年筆を提供する。
【解決手段】 軸筒の先端に配設されたペン先部材と、軸筒の後部に配設されたインクタンク内のインクを前記ペン先部材に誘導するインク中継芯と、インク中継芯の先端がペン先部材に接するように保持すると共に、インクの一時保溜機能を奏するコレクタと、インク中継芯の後部を保持する保持部と、保持部をコレクタに弾性的に接続する弾性部とを有する万年筆。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の先端に配設されたペン先部材と、
前記軸筒の後部に配設されたインクタンク内のインクを前記ペン先部材に誘導するインク中継芯と、
前記インク中継芯の先端が前記ペン先部材に接するように保持すると共に、インクの一時保溜機能を奏するコレクタと、
前記インク中継芯の後部を保持する保持部と、
当該保持部をコレクタに弾性的に接続する弾性部とを有することを特徴とする万年筆。
【請求項2】
前記コレクタは、一時保溜機能を奏する一時保溜部と、上向き筆記時に一定量の液を貯留可能なバッファ部とを有することを特徴とする請求項1に記載の万年筆。
【請求項3】
前記バッファ部は、前記一時保溜部の前記インクタンク側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の万年筆。
【請求項4】
前記弾性部は、前記コレクタ後端と前記保持部との間を繋ぐ伸縮可能な概略螺旋構造体に形成されたものであることを特徴とする請求項1から3のうちの1項に記載の万年筆。
【請求項5】
前記保持部又は前記弾性部には、前記インク中継芯を前記インクタンク内に連通させるインク流路が形成されていることを特徴とする請求項1から4のうちの1項に記載の万年筆。
【請求項6】
前記ペン先部材には、軸方向に沿って先端から中央部にインク誘導スリットが形成され、前記インク中継芯は、先細の先端部が前記インク誘導スリットに接するように配設されていることを特徴とする請求項1から5のうちの1項に記載の万年筆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は万年筆に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、万年筆について種々の技術がある。
【0003】
ペン先ホルダに軸線方向に沿って中芯を挿入する溝を設け、その中芯が毛細管現象によってペン先にインク(「インク」とも称する)を誘導する万年筆であって、中芯を挿入した溝には、前端に向かって次第に幅が縮小する細溝を併設して、細溝によって、インク導通量の不足を補う万年筆が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ペン先部材と、ペン先部材の下側に位置させたインク誘導芯と、インク誘導芯を支持する支持部と、支持部の後端に一体であって、環状櫛溝とスリットを外面に中心孔を内部に形成したインク流量調整部(コレクタ)とを備え、支持部の小空間内にインク誘導芯の先細部を挿入させた状態で流量調整部内の中心孔内にインク誘導芯を装着し、その誘導芯でインク貯蔵部(インクタンク)内のインクをペン先部材に誘導する筆記具が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、インク溝が上側面に形成され、空気溝が前方から後方に亘って形成されたペン芯と、ペン芯の上側面に隣接されたペン体と、軸筒の前方開口に挿着した万年筆であって、ペン芯の中間部にインク溝と空気溝を連結する連結溝を形成した万年筆が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2-121983号公報
【特許文献2】実開平1-25179号公報
【特許文献3】特開2018-83392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来は、万年筆のペン先部材にインク中継芯を安定して接しさせ、衝撃等の物理的要因があってもペン先部材からインク中継芯が離れることを確実に防止できる技術が提案されていなかった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、インク誘導芯をペン先部材に安定して接しさせ得る万年筆を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、軸筒の先端に配設されたペン先部材と、前記軸筒の後部に配設されたインクタンク内のインクを前記ペン先部材に誘導するインク中継芯と、前記インク中継芯の先端が前記ペン先部材に接するように保持すると共に、インクの一時保溜機能を奏するコレクタと、前記インク中継芯の後部を保持する保持部と、当該保持部を先方に向けた弾性力で支持する弾性部とを有することを特徴とする万年筆である。
【0010】
本発明において、前記コレクタは、一時保溜機能を奏する一時保溜部と、上向き筆記時に一定量の液を貯留可能なバッファ部とを有することが好適である。
【0011】
本発明において、前記バッファ部は、前記一時保溜部の前記インクタンク側に配置されていることが好適である。
【0012】
本発明において、前記弾性部は、前記コレクタ後端と前記保持部との間を繋ぐ伸縮可能な構造体に形成されたものであることが好適である。
【0013】
本発明において、前記保持部又は前記弾性部には、前記インク中継芯を前記インクタンク内に連通させるインク流路が形成されていることが好適である。
【0014】
本発明において、前記ペン先部材には、軸方向に沿って先端から中央部にインク誘導スリットが形成され、前記インク中継芯は、先細の先端部が前記インク誘導スリットに接するように配設されていることが好適である。
【0015】
本発明において、前記インクは、せん断速度384/s(20℃)におけるインクの粘度が5~20mPa・sであることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の万年筆によれば、前記インク中継芯の先端が前記ペン先部材に接するように保持すると共に、インクの一時保溜機能を奏するコレクタと、前記インク中継芯の後部を保持する保持部と、当該保持部を先方に向けた弾性力で支持する弾性部とを有するので、弾性部の弾性力によってインク中継芯をペン先部材に安定的に当接させてインクを誘導するので、インク中継芯がペン先部材からずれることを適切に防止してペン先部材にインクが行き渡りやすくし、インク切れやペン先部材の乾燥、比較的大粒径のインクの供給ができる等の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る万年筆のキャップをした状態の説明図であって、(a)が外観図,(b)が縦断面図である。
図2図1の万年筆のキャップを外した状態の説明図であって、(a)が一面から見た正面図、(b)が(a)から周方向に90度回転させた側面図、(c)は(a)のC-C線に沿う縦断面図である。
図3図2の状態における万年筆の外観斜視図である。
図4図1の万年筆において、ペン先部材、インク中継芯及びコレクタを部組した説明図であって、(a)が先方側からの斜視図、(b)が先方から見た図、(c)が正面図、(d)が(c)から周方向に90度回転させた側面図、(e)が(c)のE-E線に沿う縦断面図、(f)が裏面図、(g)が後方側からの斜視図、(h)が後方から見た図、(i)が後方裏面側からの斜視図である。
図5図1の万年筆において、コレクタの部品図であって、(a)が先方側からの斜視図、(b)が先方から見た図、(c)が先方裏面側からの斜視図、(d)が正面図、(e)が(f)のE-E線に沿う縦断面図、(f)が(d)から周方向に90度回転させた側面図、(g)が(d)のG-G線に沿う縦断面図、(h)が(f)から周方向に90度回転させた裏面図、(i)が後方側からの斜視図、(j)が後方から見た図、(k)が後方裏面側からの斜視図である。
図6】ペン先部材の部品図であって、(a)が先方側からの斜視図、(b)が正面から見た図、(c)が正面図、(d)が(c)から周方向に90度回転させた側面図、(e)が(d)から周方向に90度回転させて裏面図、(f)が後方側からの斜視図、(g)が後方からの見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係る万年筆のキャップをした状態、図2図3は、キャップを外した状態の説明図である。
【0020】
図1図3に示すように、実施形態に係る万年筆は、軸筒10の先端に配設されたペン先部材12と、軸筒10の後部に配設されたインクタンク14内のインクをペン先部材12に誘導するインク中継芯16と、インク中継芯16の先端が前記ペン先部材12に接するようにインク中継芯16保持すると共に、インクの一時保溜機能を奏するコレクタ18と、インク中継芯16の後部を保持する保持部20と、保持部20をコレクタ18に弾性的に接続する弾性部22とを備える。
【0021】
各部を詳説する。
【0022】
図1に示すように、万年筆は、軸筒10の先軸10fにキャップ28が着脱自在に嵌合し、使用時には、図2に示すように、キャップ28を外してペン先部材12を露出させて筆記する。
【0023】
キャップ28は、軸筒10の先端部10aに嵌着して不使用時にペン先部材12の乾燥を防ぐインナーキャップ28aと、インナーキャップ28aを押圧するスプリング28bと、軸筒10外周の凸部10bに係止してキャップ28を軸筒に固定する係止部28cとを有する。
【0024】
軸筒10は、ペン先部材12、コレクタ18、インク中継芯16等を内装する概略中空筒状の先軸10fと、インクタンク14を覆う後軸10rとが嵌合して一体化している。先軸10fの外周にフランジ部10cが凸部10bの後方で拡径して形成されている。後軸10rは、後端の閉鎖された筒状であって、先端の開口から先軸10fの後部に外嵌してフランジ部10cに付き当たり、先軸10fの後部外周面に後軸10rの内周面が凹凸嵌合して着脱可能に固定される。
【0025】
インクタンク14は、後端の閉鎖された筒状であって、先端が先軸10fの後部内周に着脱可能に嵌着する。
【0026】
図1図2に示すように、コレクタ18は、一保溜機能を奏する一時保溜部24と、上向き筆記時に一定量の液を貯留可能なバッファ部26とを有する。
バッファ部26は、一時保溜部24のインクタンク14側に配置されている。
【0027】
図4図5はコレクタの説明図、図6は、ペン先部材の説明図である。
【0028】
図4図5に示すように、コレクタ18は、インク中継芯16を挿通させる挿通孔18aを内部に形成した概略筒状の本体部18bが、図5(b)に示すように、先後に亘って形成されている。本体部18bの先端部には、ペン先部材12を装着固定する保持構造18cが形成されている。
【0029】
また、図4に示すように挿通孔18aがコレクタ18の軸中心からオフセットした位置に形成されている。実施形態では、図1図2図4(b)(e)等に示すように、コレクタ18の中心軸からペン先部材12の表面側にずれた位置にインク中継芯16の先端部16aが位置し、先端部16aがaペン先部材12の裏面に接する構造になっている。
【0030】
一時保溜部24は、薄板部24aが櫛歯形状に配列されて本体部18bに一体的に形成され、各薄板部24aの間隙がインク中継芯16よりも毛細管力の低い構造となっており、溢れたインクを一時的に保溜する。
【0031】
一時保溜部24の後部には、隔壁18dで隔ててバッファ部26が形成される。バッファ部26は複数の板部26aが配列されて本体部18bに一体に形成され、各板部26aの間隙が一時保溜部24よりも広く毛細管力よりも低くなるように形成されている。バッファ部26には、各板部26aの外周面に横断面で板部26aの面積の1/8~1/5程度の凹部26bが同様に形成される。
【0032】
凹部26bはインクタンク14側端にまで形成され、連続する空間が凹部26bによって軸筒10の内周面との間に形成される。凹部26bの空間を介してインクタンク14内部が各板部26a間に連通してインクが各板部26a間に流通する構造になっている。各板部26aにはインク誘導用のスリット26cが形成され、スリット26cに連続する後部孔26c1(スリット26cと同じ間隔が好ましい)が本体部18bの挿通孔18a内にまで形成される(図5(e)参照)。スリット26cから後部孔26c1を介して、挿通孔18a内のインク中継芯16と板部26a間が連通している。
【0033】
一時保溜部24のインクタンク14側端までの各薄板部24aにはスリット24bが形成されている。スリット24bは隔壁18dの外周部スリット18eを経由してバッファ部26の凹部26bの空間に連通している。
【0034】
インクタンク14内のインクが凹部26bの空間を介して流通してバッファ部26の各板部26a間に溜まり、溜まったインクがスリット26cの後部孔26c1を通してインク中継芯16に導かれる。その溜まりから溢れたインクは隔壁18dの外周部スリット18eを経由してバッファ部26よりも毛細管力の高い一時保溜部24にスリット24bを通して毛細管力の差から導入される。
【0035】
バッファ部26に溜まるインクは、板部26aの間隙や凹部26bの外周と先軸10f内との間の空間に常時溜まる。上向き筆記時にも、各板部26a間のインクはインクタンク内に戻らない程度の毛細管力を各板部26aの間隔が設定されている。
【0036】
筆記使用によってインクが消費されることによって、スリット26c後部孔26c1を経由してインク中継芯16からペン先部材12にインクが供給される。
【0037】
弾性部22は、コレクタ18後端と保持部20との間を繋ぐ伸縮可能な螺旋構造体に形成されたものである。
【0038】
詳しくは、コレクタ18の後端から複数巻の螺旋状に延びるような構造に弾性部22が形成され、弾性部22後部が概略半筒状の保持部20に連続してコレクタ18と弾性部22と保持部20が一体に形成されたものである。コレクタ18の後端面はインクタンク14に臨むため、弾性部22及び保持部20はインクタンク内に突き出して入り込んだ構造となっている。
【0039】
保持部20と弾性部22には、インク中継芯16をインクタンク内に連通させるインク流路20aと20bが形成されている。具体的には、保持部20には、筒状であって後端部に孔がインク流路20aとして形成されている。また、弾性部22には、螺旋状の構造の隙間がインク流路22aとなっている。
【0040】
ペン先部材12には、軸方向に沿って先端から中央部にインク誘導スリット12aが形成され、インク中継芯16は、先細の先端部16aがインク誘導スリット12aに接するように配設されている。
【0041】
具体例を挙げる
インク中継芯16は、気孔率が30%以上のポリエステルなどの繊維芯やポリアセタール等の押出成形芯から構成されている。
【0042】
ペン先部材12において、ペンポイント(ペン先部材12先端)からインク中継芯16の前端面までの距離が5mm未満である。
【0043】
ペン先部材12から空気置換部までの距離が60mm未満である。
ペン先部材12が金属積層構造体で作成されている。
【0044】
インクは、比重調整剤と顔料と水を成分とし、比重調整剤の配合量がインク組成物全体に対して15.0~75.0質量%、顔料の比重が1.2~3.1である筆記具用水性インク組成物である。
【0045】
上記筆記具用水性インク組成物により、インク組成物中の顔料の沈降を抑制し、再分散のための攪拌を必要とせず、比較的高比重の顔料を用いた際や低粘度の筆記具用インクを用いた際にも顔料の沈降を抑制することができるという優れた効果を得ることができる。
【0046】
比重調整剤は、ポリモリブデン酸塩および/またはポリタングステン酸塩から選ばれた少なくとも1種類以上である。ポリモリブデン酸塩およびポリタングステン酸塩にはそれぞれのイソポリ酸塩およびヘテロポリ酸塩等も含まれる。ポリ酸は、モリブデン、タングステン等の金属元素の酸素酸が縮合生成した多重酸であり、ただ一種類の金属によって構成されるポリ酸をイソポリ酸といい、イソポリ酸と他の元素の酸素酸が縮合したポリ酸をヘテロポリ酸という。イソポリ酸塩として具体的には、パラモリブデン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、メタタングステン酸アンモニウム等が挙げられる。ヘテロポリ酸塩として具体的には、モリブドリン酸ナトリウム、モリブドケイ酸ナトリウム、タングストリン酸ナトリウム、タングストケイ酸ナトリウム等が挙げられる。これらポリモリブデン酸塩およびポリタングステン酸塩を、単独あるいは2種類以上を混合して使用することができる。特にメタタングステン酸ナトリウムが好適である。
【0047】
これら比重調整剤は、インク媒質中に溶解させることにより、インク媒質の比重を顔料の比重に合わせる目的で添加するので、その添加量は、用いる顔料の比重に応じて該比重調整剤の溶解度まで任意に設定することができる。十分な沈降抑制効果を得るために、インク組成物全体に対して15.0~75.0質量%添加するのが好ましい。この範囲を下回るとインク媒質の比重を調整する効果に乏しくなる傾向があり、比重の大きい顔料を用いた際に、十分な沈降抑制効果を得ることができなくなる。一方、添加量の上限は、用いる比重調整剤の溶解度等に依存する。水に対する溶解度が大きいものほど、様々な比重の顔料に対応することができ、比重調整剤として用いるのに好ましい。また、添加量が増加し、高濃度になればなるほど、溶液の粘度が増加するので、使用する比重調整剤と筆記具の組合せによって適宜調節しなければならない。本実施形態のインク媒質とは、筆記具用水性インク組成物から顔料分を除いた残りの構成物のことである。
【0048】
インク媒質の比重は、インク媒質中に溶解させた水溶性物質の比重とその添加量に左右される。インク媒質中に比重の大きい水溶性物質をより多く添加し、溶解させれば、インク媒質の比重を大きくすることができる。ポリモリブデン酸塩およびポリタングステン酸塩は、モリブデン、タングステンといった高比重な金属元素を含んでおり、比較的比重の大きい化合物であることから、インク媒質の比重を調整する添加物として好適に用いることができる。なお、インク媒質の比重は、顔料の沈降安定性が最良になるように、インク組成物の構成ごとに判断して調整する必要がある。特に非常に安定な物質であるポリモリブデン酸塩およびポリタングステン酸塩を用いることで、人体に対し無毒で、高比重な水溶液を得ることができ、比較的高比重の顔料を用いた筆記具用水性インク組成物の添加物として用いるのに極めて好適となる。
【0049】
顔料としては、比重調整剤と反応してしまうなどの化学的影響を与えないものであれば特に限定されないが、例えば、通常筆記具用インクに用いられる有機顔料、プラスチック顔料、無機顔料の他、金属光沢を有する金属粉顔料、着色金属粉顔料、金属蒸着粉顔料、ガラスフレーク等や虹彩色のような色彩を有するパール顔料、コレステリック液晶等が挙げられる。その中でも、比重が1.2~3.1の高比重顔料を用いた際に特に効果的に作用する。有機顔料として具体的には、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、パーマネントレッド、レーキレッド、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アニリンブラックなどが挙げられる。プラスチック顔料として具体的には、ローペイクOP-62、同OP-84J、同OP-91、同HP1055(以上、ローム・アンド・ハース社製)、エポカラーFP-1000N、同FP-112、同FP-113、同FP-114、同FP-115、同FP-116、同FP-117、同FP-101、同MA-1002FW、同FP-1050(以上、(株)日本触媒製)、ルミコールNKP-8604、同NKP-8605、同NKP-8607、同NKP-9203、同NKP-9207、同NKP-9237、同NKP-9238(以上、日本蛍光化学(株)製)などが挙げられる。また、加工顔料に限らず、元々低比重である顔料についても同様に前記比重調整剤を併用すると顔料の分散安定性を向上させることができる。無機顔料としては、カーボンブラック、群青、ルチル型・アナターゼ型等の各種酸化チタンなどがある。酸化チタンとしては、タイトーンSR-1、同R-650、同R-3L、同A-110、同A-150(以上、堺化学工業(株)製)、タイペークR-580、同R-550、同R-780(以上、石原産業(株)製)、クロノスKR-310、同KR-380、同KR-480、同KA-10、同KA-15(以上、チタン工業(株)製)、タイピュアーR-900、同R-931、同R-960(以上、デュポン・ジャパン・リミテッド社製)、チタニックスJR-301、同JR-600A、同JR-603、同JA-4(以上、テイカ(株)製)などが挙げられる。また、LIOFAST WHITE H201、EM WHITE H、EM WHITE FX9048(以上、東洋インク(株)製)、ポルックスホワイトPC-CR(住友カラー(株)製)、FUJI SP WHITE 11、同1011、同1036、同1051(以上、富士色素(株)製)といった市販の酸化チタン水性分散体を使用すれば、生産面での分散工程の省略ができ、簡便にインク化できる。酸化チタンは、各種顔料の中でも特に高比重の顔料のひとつであるが筆記具用水性インク組成物によれば、低粘度インクにおいてもある程度の分散安定性を得ることができる。金属粉顔料としては、アルミニウムペースト、アルミニウム粉末、ブロンズ粉末、銅粉末、亜鉛粉末などが用いられる。アルミニウムペーストは、アルミニウム金属粉をミネラルスピリットとステアリン酸またはオレイン酸などを入れたボールミルの中で粉砕、研磨し、非常に薄い鱗片状のアルミ微粒子にしてあるため、発火、爆発の危険が少なく、使用上取り扱いやすくなっているものである。市販されているアルミニウムペーストとしては、スーパーファインNo.22000WN、同No.18000WN(以上、大和金属粉工業(株)製)、WB0230(東洋アルミニウム(株)製)、400SW、010WD、FM4010WG(以上、昭和アルミパウダー(株)製)などがある。アルミニウム粉末としては、AA12、AA8、No.900、No.18000(以上、福田金属箔粉工業(株)製)などがある。着色金属粉顔料としては、F503RG、F503BG、F500SI、F500RE、F500RE、F500BL(以上、昭和アルミパウダー(株)製)などが挙げられる。金属蒸着粉顔料としては、合成樹脂にアルミニウムを真空蒸着し、金属層を樹脂により保護して片状に粉砕したエルジーSilver#500、同#325、同#200(以上、尾池工業(株)製)などがある。さらに、樹脂層に着色を施したエルジーR.Gold#500、同B.Gold#500、同R.Gold#325、同B.Gold#325、同Red#325、同Blue#325、同Green#325、同Violet#325、同Black#325、同Copper#325、同R.Gold#200、同B.Gold#200、同Red#200、同Blue#200、同Green#200、同Violet#200、同Black#200、同Copper#200(以上、尾池工業(株)製)などが挙げられる。ガラスフレーク顔料としては、ガラスフレークに無電解めっき法により金属を被覆したメタシャインREFSX-2015PS、同-2025PS、同-2040PS、RCFSX-5030NS、同-5030NB、同-5030PS、同-2015PS、同-5090GG(以上、日本板硝子(株)製)などがある。パール顔料としては、イリオジン120 Luster Satin、同123Bright Luster Satin、同201 Rutile Fine Gold、同211 Rutile Fine Red、同221 Rutile Fine Blue、同223 Rutile Fine Lilac、同231 Rutile Fine Green、同302 Gold Satin、同323 Royal Gold Satin、同520 Bronze Satin、同522 Red Brown Satin、同524 Red Satin(以上、メルクジャパン(株)製)などが挙げられる。コレステリック液晶としては、ヘリコーンHC SLM90020、同90120,同90220,同90320(以上、ワッカーケミー社製)などがある。これらの顔料はそれぞれ単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、安定性に影響を与えない範囲で比重の小さな顔料や染料を組み合わせて用いてもよい。さらに、水に完全溶解しない染料についても、顔料と同様に沈降抑制効果を得ることができるので使用可能である。これらの顔料および/または染料の添加量は、筆記具用水性インク組成物として十分な濃度が得られれば特に限定されない。また、これら顔料および/または染料の粒径は、用いる筆記具に適応した範囲内であれば特に限定されない。
【0050】
上記の筆記具用水性インク組成物は、ニュートニアンインクやせん断減粘性インクなどのどのような形態のインク構成に用いても有用であるが、低粘度のインクほど顔料等、分散物の沈降の課題が大きいため、より好ましく用いられる。せん断速度384/s(20℃)におけるインク組成物の粘度が5~20mPa・sのインク組成物の場合、より大きな効果を得ることができる。防腐剤としては、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、安息香酸ナトリウム等を使用することができる。
【0051】
保湿剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、尿素などを単独もしくは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
pH調整剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリアタノールアミン、N,N-ジエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N,N-メチルジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等を使用することができる。
【0053】
せん断減粘性付与剤としては、無機系、天然高分子系、合成高分子系、高分子多糖類系等のせん断減粘性付与剤を使用することができる。
【0054】
上記以外の成分で通常の筆記具用インク組成物として用いられる成分も、任意に用いることができる。例えば、インク粘度を調整したり、顔料の被筆記媒体への定着性や耐水性を向上させるために通常用いられる樹脂などを添加してもよい。また、防腐剤、防錆剤、分散剤、潤滑剤、保湿剤、pH調整剤、粘度調整剤、せん断減粘性付与剤、界面活性剤等の成分も用いることができる。ただし、その種類、添加量は上記で用いる比重調整剤の比重調整機能に影響を与えない範囲で使用しなければならない。
【0055】
実施例のひとつとして、以下の組成物を用いた。
保湿剤(エチレングリコール):25.0質量部
保湿剤(尿素):6.3質量部
分散剤(ポリビニルピロリドン):1.0質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤):0.5質量部
防腐剤(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン):0.2質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン):1.0質量部
顔料(エルジーSilver#500) 20.0質量部
メタタングステン酸ナトリウム(比重調整剤):18.0質量部
イオン交換水:46.0質量部
【0056】
まず、比重調整剤をイオン交換水に溶解した後に、その他の顔料以外の成分を混合し、該混合物に対して相当量の顔料を攪拌しながら添加して、金属光沢色の筆記具用水性インク組成物を得た。
【0057】
比重調整剤としてはメタタングステン酸ナトリウム SPT(SOMETU社製)を用いた。分散剤としてはポリビニルピロリドン(K-15 ISPテクノロジーズ社製)を用いた。潤滑剤としてはリン酸エステル系界面活性剤(プライサーフA-208S 第一工業製薬(株)製)を用いた。防腐剤としては1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(プロキセルXL-2(S)アビシア(株)製)を用いた。pH調整剤としてはトリエタノールアミンを用いた。顔料としては金属蒸着粉顔料(エルジーSilver#500 尾池工業(株)製)を用いた。上記組成物をPRIMIX社製ホモディスパーにより撹拌混合を行い、水性インク組成物を得た。
【0058】
なお前記インク組成物の粘度は、インク組成物作成後、DV-2+粘度計(ブルックフィールド社)で、CPE-42スピンドルを使用し、せん断速度384/s(100rpm)における粘度を測定した(20℃)時の粘度が11mPa・sであった。
【0059】
実施形態に係る万年筆によれば、図1図2に示すように、インク中継芯16が保持部20で後端を保持し、弾性部22で保持部20を介してインク中継芯16を弾性的に保持しクッションさせるので、インク中継芯16の先端部16aの接触性が安定する。インク中継芯16が万年筆に対する衝撃で先後に振動した際にクッションして前方に向ける弾性力が生じるので、ペン先部材12の裏面にインク中継芯16を押し付けて安定的に当たらせることができる。したがって、インク中継芯16がペン先部材12から離れることによるインク切れが生じることが無い。
【0060】
また、コレクタ18にバッファ部26を設けているので、上向き筆記時にペン先部材12のドライアップを防ぐことができる。すなわち、バッファ部26である程度(例えば0.1ml(ミリリットル))貯留できるようにしているため、空気置換を有利にしている。上向き筆記時にもある程度の量のインクがバッファ部26で貯留できるため、コレクタ18からインクタンク14内にインクが落ち切ることが無い。
【0061】
したがって、バッファ部26で貯留するインクによって、上向き筆記時にペン先部材12やインク中継芯16からのインクの揮発を抑制することができ、インクが乾き切るドライアップを防止することができる。
【0062】
特に、従来の、従来の万年筆では、メタリックインク等の大粒子径インクを搭載しようとすると、安定した流量を確保できない状態や、上向き保管でペン先がドライアップしてしまい(ペン先にインクが十分に無く)筆記不能になる状態が生じていたが、本実施形態の万年筆はこのような問題を確実に防止でき、大粒子径インクを搭載しても上向き保管でのドライアップをバッファ部の保溜によって確実に防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は万年筆に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 軸筒
12 ペン先部材
12a インク誘導スリット
14 インクタンク
16 インク中継芯
16a 先端部
18 コレクタ
20 保持部
22 弾性部
24 一時保溜部
26 バッファ部
26a 板部
26b 凹部
26c スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6