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特開2022-119611リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119611
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220809BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220809BHJP
   C08G 79/08 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/134
C08G79/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016862
(22)【出願日】2021-02-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「特殊機能高分子バインダー/添加剤を用いたリチウムイオン2次電池用高性能電極系の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】バダム ラージャシェーカル
(72)【発明者】
【氏名】ガナヴァラプ クリシュナ プラサード
【テーマコード(参考)】
4J030
5H050
【Fターム(参考)】
4J030CA01
4J030CB01
4J030CB11
4J030CB17
4J030CC06
4J030CC16
4J030CD11
4J030CE02
4J030CE11
4J030CF09
4J030CG02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA09
5H050CA17
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB05
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050EA10
5H050EA23
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充放電耐久性に優れ、放電容量が高いLiイオン二次電池を与えるSi負極バインダー、バインダーに用いるボロシロキサンポリマー、Liイオン二次電池を提供する。
【解決手段】式(I):

(式中、R1~R4は、独立して水素または1価の有機基を示す)で表わされる繰り返しを有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含有するSi負極バインダー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含有してなるリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダー。
【請求項2】
式(I):
【化2】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマー。
【請求項3】
ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合させることを特徴とする式(I):
【化3】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの製造方法。
【請求項4】
正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が請求項1に記載のリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーを含むシリコン負極であるリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーに関する。さらに詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダー、前記リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーに好適に用いることができるピリジル基含有ボロシロキサンポリマーおよびその製造方法、ならびに前記シリコン負極用バインダーを含む負極を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の負極活物質には一般にグラファイトが用いられている。しかし、グラファイトにリチウムイオンを充填したときの理論容量が372mAh/gであることから、近年、理論容量がグラファイトよりもはるかに高いシリコン粒子を負極活物質に用いることが検討されている。
【0003】
しかし、シリコン粒子にリチウムイオンを充填したとき、当該シリコン粒子の体積が3倍程度に膨張するため、リチウムイオンの充填および放出を繰り返しているうちにシリコン粒子が破壊され、破壊された微細シリコン粒子が電気的に孤立するとともに、シリコン粒子の破壊面に新たな被覆層が形成されることから二次電池の充放電サイクル特性が低下するものと考えられている(例えば、特許文献1の段落[0003]参照)。
【0004】
そこで、シリコン粒子の膨張収縮によるシリコン粒子の電気的孤立が防止された負極活物質として、炭素基材の表面に鱗片状シリコン粒子が付着し、前記鱗片状シリコンの一部が前記炭素基材に突き刺さっているリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーが提案されている(例えば、特許文献1の請求項1参照)。前記負極活物質は、シリコン粒子の膨張収縮によるシリコン粒子の電気的孤立が防止されているとされているが、初期放電容量が800mAh/g程度である(例えば、特許文献1の図12参照)。
【0005】
近年においては、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を与えるシリコン負極用バインダーの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-143462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を与えるシリコン負極用バインダー、前記シリコン負極用バインダーに好適に用いることができるピリジル基含有ボロシロキサンポリマーおよびその製造方法、ならびに前記シリコン負極用バインダーを含むシリコン負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含有してなるリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダー、
(2) 式(I):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマー、
(3) ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合させることを特徴とする式(I):
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの製造方法、および
(4) 正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が前記(1)に記載のリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーを含むシリコン負極であるリチウムイオン二次電池
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を与えるシリコン負極用バインダー、前記リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーに好適に用いることができるピリジル基含有ボロシロキサンポリマーおよびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーを含むシリコン負極を有するリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの1H-NMRスペクトルを示すグラフである。
図2】実施例1で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの11B-NMRスペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)のチャートである。
図4】実施例1で得られた電池のサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフである。
図5】実施例1で得られた電池のサイクリックボルタンメトリーの測定前後におけるEISスペクトルを示すグラフである。
図6】実施例1で得られた電池のサイクリックボルタンメトリーの測定時のスキャン速度を0.1mV/s、0.3mV/s、0.5mV/s、0.7mV/sまたは1.0mV/sに変更してサイクリックボルタンメトリーを調べた結果を示すグラフである。
図7】(a)は実施例1において、負極用バインダーとしてピリジル基含有ボロシロキサンポリマー30mgおよびβ-シクロデキストリン10mgを用いたときのスキャン速度とピーク電流との関係を示すグラフ、(b)はカルボキシメチルセルロース40mgを用いたときのスキャン速度とピーク電流との関係を示すグラフ、(c)はβ-シクロデキストリン40mgを用いたときのスキャン速度とピーク電流との関係を示すグラフである。
図8】(a)は実施例1で得られた電池の充放電サイクルと放電容量との関係および充放電効率の測定結果を示すグラフ、(b)はシリコンが使用されている電池の充放電サイクルと放電容量との関係および充放電効率の測定結果を示すグラフである。
図9】実施例1で得られた電池の充放電を繰り返し、電池容量と電位との関係を調べた結果を示すグラフである。
図10】実施例1で得られた電池の充放電を420サイクル繰り返した後、当該電池のX線光電子分光分析を行なった結果を示すグラフである。
図11】実施例1で得られた電池を用い、充放電速度を変化させて電池を充放電させたときの電池容量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下に記載の実施態様のみに限定されるものではなく、本明細書に記載されている技術的思想の範囲内で当業者が種々の変更および修正をすることができる。
【0018】
〔ピリジル基含有ボロシロキサンポリマー〕
本発明のピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、前記したように、式(I):
【0019】
【化4】
【0020】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する。
【0021】
本発明のピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーに有用な化合物である。ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーをリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーに用いることにより、リチウムイオン二次電池の放電容量を高めることができるのみならず、リチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させることができる。
【0022】
1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基である。R1、R2、R3およびR4は、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、水素原子または炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがさらに一層好ましい。
【0023】
式(I)で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、例えば、ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合させることによって調製することができる。より具体的には、式(II):
【0024】
【化5】
【0025】
(式中、R1~R4は前記と同じ)
で表わされるジフェニルシランジオールと式(III):
【0026】
【化6】
【0027】
で表わされるピリジンボロン酸とを反応させることによって調製することができる。
【0028】
ジフェニルシランジオールのなかでは、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、式(IIa):
【0029】
【化7】
【0030】
(式中、R1~R4は前記と同じ)
で表わされるジフェニルシランジオールが好ましく、式(IIa)において、R1、R2、R3およびR4が水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1~6のアルキル基であることがより一層好ましく、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがさらに一層好ましい。
【0031】
ピリジンボロン酸のなかでは、充放電に対する耐久性に優れ、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を得る観点から、式(IIIa):
【0032】
【化8】
【0033】
で表わされるピリジンボロン酸が好ましい。
【0034】
ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合させる方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを効率よく調製する観点から、溶液重合法および塊状重合法が好ましく、溶液重合法がより好ましい。
【0035】
ピリジンボロン酸1モルあたりのジフェニルシランジオールの量は、理論的には1モルである。したがって、ジフェニルシランジオール1モルに対するピリジンボロン酸の量は、理論的には1モルである。しかし、本発明のピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを調製する際には、ジフェニルシランジオールの量がピリジンボロン酸の量に対して過剰であってもよく、ピリジンボロン酸の量がジフェニルシランジオールの量に対して過剰であってもよい。
【0036】
ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合させる際には、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを効率よく調製する観点から、触媒を適量で用いることが好ましい。触媒は、パラジウム化合物であることが好ましい。パラジウム化合物としては、例えば、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(ジ-tert-ブチルプレニルホスフィン)パラジウムジクロリド、ビス(ジtert-クロチルホスフィン)パラジウムジクロリド、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸パラジウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。触媒のなかでは、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)が好ましい。
【0037】
ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸との溶液重合によってピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを調製する場合、有機溶媒を用いることができる。
【0038】
前記有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
前記有機溶媒の量は、ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを効率よく重合させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸との合計量の(質量)の10~50倍程度の量であることが好ましい。
【0040】
ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合させる際の重合反応温度は、特に限定されないが、反応効率を高める観点から20~90℃程度であることが好ましい。また、ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸との重合反応時間は、使用される有機溶媒の量、重合反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、5~50時間程度である。ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸との重合反応時間を調節することにより、得られるピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの分子量を調整することができる。ジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸との重合反応させる際の雰囲気は、特に限定されず、大気であってよいが、空気中に含まれている酸素による影響を回避する観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0041】
以上のようにしてジフェニルシランジオールとピリジンボロン酸とを重合反応させることにより、式(I)で表わされる繰り返し単位を有するピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含む反応混合物が得られる。
【0042】
反応終了後、得られた反応混合物に含まれている溶媒をエバポレーターなどを用いて除去することにより、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを回収し、ヘキサン、トルエン、キシレンなどの溶媒を添加することによって抽出することができる。前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、例えば、減圧乾燥などにより、乾燥させてもよい。
【0043】
本発明のピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量は、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池のシリコン負極バインダーとして使用したときに充放電に対する耐久性を向上させ、放電容量を高める観点から、3000~100000であることが好ましく、10000~80000であることがより好ましく、30000~65000であることがさらに好ましい。なお、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0044】
本発明のピリジル基含有ボロシロキサンポリマーには、本発明の目的が阻害されない範囲内で、式(I)で表わされる繰り返し単位以外の単位が含まれていてもよい。
【0045】
〔リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダー〕
本発明のリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーは、前記ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含有する。本発明のリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーは、前記ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含有していることから、当該ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーをリチウムイオン二次電池のシリコン負極に用いることにより、リチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させ、放電容量を高めることができる。また、本発明のシリコン負極用バインダーは、非極性溶媒に溶解させて使用することができるという利点も有する。
【0046】
非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、2-エチルヘキサンなどの飽和炭化水素化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0047】
本発明のシリコン負極用バインダーは、前記ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーのみで構成されていてもよく、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどの他の負極用バインダーが含まれていてもよく、有機溶媒などの成分が含まれていてもよい。
【0048】
〔リチウムイオン二次電池〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、一般に用いられているリチウムイオン二次電池と同様の構造を有する。
【0049】
本発明のリチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有する。リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、円筒型、積層型などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池が、例えば、CR2025型のコイン電池である場合、負極、セパレータおよび非水電解質は、ケース内に収容されている。以下においては、リチウムイオン二次電池がCR2025型のコイン電池である場合の実施態様について説明するが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0051】
CR2025型のコイン電池に使用されるケースは、その内部が中空であり、開口部を有し、正極容器を兼ねている。ケースの開口部には、蓋部が設けられており、蓋部は、負極蓋を兼ねている。ケースと蓋部との間には、ケースと蓋部との絶縁状態および密封状態を維持するために、ガスケットが設けられている。ケースと蓋部との間の空間には、電極および非水電解質が収容されている。
【0052】
(1)電極
電極は、正極、セパレータおよび負極を有し、この順序で配列されている。正極は、ケースの内面に接触し、負極は、蓋部の内面と接触している。
【0053】
[正極]
正極は、一般に用いられているリチウムイオン二次電池に用いられている正極と同様であればよく、本発明は、当該正極の組成および構造によって限定されるものではない。
【0054】
正極は、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を所定の比率で混合し、得られた混合物に溶媒、必要により活性炭、粘度調整用添加剤などを適量で添加し、得られた混合物を混練し、正極合材ペーストを調製した後、集電体の表面に塗布し、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0055】
正極活物質の代表例としては、リチウム、リチウム-マンガン系複合酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。導電材としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。集電体としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、銀、錫、インジウム、マグネシウム、鉄、クロム、モリブデンおよびそれらの合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0056】
[セパレータ]
セパレータは、正極と負極との間に用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するとともに、正極と負極と間のリチウムイオンの移動経路を形成する。セパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、セルロース、ガラスなどの箔膜を用いることができる。当該薄膜には、多数の微細孔が形成されていることが好ましい。
【0057】
[負極]
負極には、本発明のシリコン負極用バインダーが用いられる。負極は、例えば、負極活物質と本発明のシリコン負極用バインダーとを混合し、得られた混合物に有機溶媒を添加することにより、ペースト状の負極合材を調製し、当該負極合材を銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥させ、必要により熱ロールプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0058】
負極活物質には、リチウムイオン二次電池の容量を高める観点から、リチウムイオン二次電池の充放電時の膨張および収縮が大きいシリコンが用いられる。シリコンは、アモルファスシリコンであってもよく、シリコン結晶子であってもよい。シリコンとしてシリコンナノ粒子を用いることができる。シリコンナノ粒子は、商業的に容易に入手することができるが、以下のようにして調製することができる。
【0059】
シリコンナノ粒子の原料として、アルコキシシラン化合物を用いることができる。アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシシラン化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。アルコキシシラン化合物は、水との混合物として用いることができる。
【0060】
アルコキシシラン化合物は、あらかじめ還元させておくことが好ましい。アルコキシシラン化合物の還元は、例えば、アルコキシシラン化合物と水との混合物に還元剤を添加することによって行なうことができる。アルコキシシラン化合物を還元させる際の温度は、特に限定されないが、通常、5~80℃程度である。アルコキシシラン化合物を還元させる際の雰囲気は、特に限定されず、大気であってもよく、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0061】
還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸およびその塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アルデヒド亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどの亜硫酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウムなどのピロ亜硫酸塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの還元剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
還元剤の量は、当該還元剤の種類によって異なるので一概には決定することができない。還元剤は、通常、アルコキシシラン化合物を中和させるのに必要な量で使用することが好ましい。
【0063】
アルコキシシラン化合物と水との混合物に還元剤を添加する際の温度は、特に限定されないが、通常、5~80℃程度である。アルコキシシラン化合物と水との混合物に還元剤を添加した後、均一な粒子径を有するシリコンナノ粒子を得る観点から、当該混合物を均一な組成となるまで攪拌することが好ましい。
【0064】
以上のようにしてアルコキシシラン化合物を還元剤で還元させることにより、シリコンナノ粒子の水分散体を得ることができる。
【0065】
前記で得られたシリコンナノ粒子の平均粒子径は、分散安定性およびリチウムイオン二次電池の充放電に対する耐久性を向上させ、放電容量を高める観点から、1~300nmであることが好ましく、2~250nmであることがより好ましく、3~200nmであることがさらに好ましい。なお、シリコンナノ粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で撮影された画像から任意に100個のシリコンナノ粒子を選択し、各シリコンナノ粒子の縦軸と横軸との平均値を求め、100個のシリコンナノ粒子について当該平均値を合計し、その合計値を100で除した値を意味する。
【0066】
本発明においては、負極活物質としてシリコンのみを用いてもよく、本発明の目的を阻害しない範囲内で他の負極活物質を用いてもよい。他の負極活物質は、リチウムイオンを挿入・脱離することができる活物質であればよく、特に限定されない。他の負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、ケイ素含有化合物、ケイ素含有合金、スズ、スズ含有合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、グラファイトなどの炭素系材料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0067】
前記有機溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0068】
負極合材には、必要により、導電助剤が含まれていてもよい。導電助剤としては、例えば、アチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、銅、ニッケルなどの金属粉末、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。負極合材における導電助剤の含有率は、通常、10質量%以下であることが好ましい。
【0069】
また、負極合材には、必要により、包接化合物が適量で含まれていてもよい。包接化合物は、電池内で発生したガスを吸収する性質を有する。包接化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンなどのシクロデキストリン、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6などのクラウンエーテルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。負極合材における包接化合物の含有率は、通常、3~10質量%程度であることが好ましい。
【0070】
集電体としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、銀、錫、インジウム、マグネシウム、鉄、クロム、モリブデンおよびそれらの合金などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0071】
(2)非水電解質
非水電解質としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート:ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの非水電解質は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
本発明のリチウムイオン二次電池は、シリコン負極に本発明のシリコン負極用バインダーが用いられているので、放電容量が高く、さらに充放電に対する耐久性に優れるという優れた性質を有する。
【0073】
本発明のリチウムイオン二次電池が、例えば、コイン型電池である場合、初期放電容量が900mAh/g以上であり、充放電を400サイクル行なった後の充放電効率が約100%で維持されているので、放電容量の維持性および充放電に対する耐久性に顕著に優れている。
【実施例0074】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
実施例1
ジフェニルシランジオール2.2mmol(280mg)およびビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)80mgを室温下で窒素ガス置換された丸底フラスコ内に入れ、脱水させたテトラヒドロフラン10mLを当該フラスコ内に添加した。当該フラスコの内容物を攪拌しながらピリジン-4-ボロン酸2.2mmol(270mg)を脱水させたテトラヒドロフラン10mLに溶解させた溶液をゆっくりと当該フラスコ内に添加することにより、混合物を得た。前記で得られた混合物を室温下で48時間撹拌することにより、ジフェニルシランジオールとピリジン-4-ボロン酸とを重合させてピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含む反応混合物を得た。
【0076】
前記で得られた反応混合物に含まれているテトラヒドロフランをロータリーエバポレーターで除去し、回収されたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーをヘキサンで抽出した。ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの収率は77質量%(1078mg)であった。
【0077】
前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの1H-NMRスペクトルを図1に、11B-NMRスペクトルを図2に示す。
【0078】
なお、核磁気共鳴(1H-NMRおよび11B-NMR)は、核磁気共鳴分光装置〔ブルカー(Bruker)社製、商品名:AVANCE III HD NMR Spectrometer 400MHz〕を用い、サンプルポリマー5mgをヘキサン0.5mLに溶解させ、得られた溶液をガラス製サンプルチュ-ブに移し、25℃の温度で積算回数16にて測定した。
【0079】
図1に示された結果から、前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、7.59~7.66ppmの領域でピリジン環に特有のピークおよび7.30~7.23ppmの領域でSiに結合しているベンゼン環に特有のピークを有することがわかる。また、図2に示された結果から、前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、31.34ppmでボロン酸エステルの生成を示すピークが存在していることがわかる。
【0080】
以上の結果から、前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、式:
【0081】
【化9】
【0082】
で表わされる繰り返し単位を有することが確認された。また、前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーのゲル透過クロマトグラフィー(GPC)のチャートを図3に示す。図3に示された結果から、前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量は64600であることが確認された。
【0083】
なお、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ-(GPC)によって測定した。より具体的には、装置として送液ポンプユニット〔日本分光(株)製、品番:PU-2080〕、カラムオーブン〔ジーエル・サイエンス(GL Science)社製、品番:CO 631A、設定温度:40 ℃〕、紫外可視検出器〔日本分光(株)製、品番:UV-2075〕、示差屈折計〔日本分光(株)製、品番:RI-2031〕、カラム〔昭和電工(株)製、商品名:Shodex SB-806 MHQ、2本〕、標準物質(ポリメチルメタクリレートスタンダ-ド、分子量:30701、7360、18500、68800、211000、569000、1050000)、移動相(0.01mol/LのLiBrのヘキサン溶液)を用い、溶液の流速を1.0mL/minに調節してピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量を測定した。
【0084】
実施例2
ジフェニルシランジオール2.2mmol(280mg)およびビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)80mgを室温下で窒素ガス置換された丸底フラスコ内に入れ、脱水させたテトラヒドロフラン10mLを当該フラスコ内に添加した。当該フラスコの内容物を攪拌しながらピリジン-4-ボロン酸2.2mmol(270mg)を脱水させたテトラヒドロフラン10mLに溶解させた溶液をゆっくりと当該フラスコ内に添加することにより、混合物を得た。前記で得られた混合物を室温下で40時間撹拌することにより、ジフェニルシランジオールとピリジン-4-ボロン酸とを重合させてピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含む反応混合物を得た。
【0085】
前記で得られた反応混合物に含まれているテトラヒドロフランをロータリーエバポレーターで除去し、回収されたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーをヘキサンで抽出することにより、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを得た。前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、実施例1と同様の1H-NMRスペクトルおよび11B-NMRスペクトルを有することから、実施例1で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーと同じ繰り返し単位を有することが確認された。前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量は、前記と同様にして測定したところ、48500であった。
【0086】
実施例3
ジフェニルシランジオール2.2mmol(280mg)およびビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)80mgを室温下で窒素ガス置換された丸底フラスコ内に入れ、脱水させたテトラヒドロフラン10mLを当該フラスコ内に添加した。当該フラスコの内容物を攪拌しながらピリジン-4-ボロン酸2.2mmol(270mg)を脱水させたテトラヒドロフラン10mLに溶解させた溶液をゆっくりと当該フラスコ内に添加することにより、混合物を得た。前記で得られた混合物を室温下で32時間撹拌することにより、ジフェニルシランジオールとピリジン-4-ボロン酸とを重合させてピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを含む反応混合物を得た。
【0087】
前記で得られた反応混合物に含まれているテトラヒドロフランをロータリーエバポレーターで除去し、回収されたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーをヘキサンで抽出することにより、ピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを得た。前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、実施例1と同様の1H-NMRスペクトルおよび11B-NMRスペクトルを有することから、実施例1で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーと同じ繰り返し単位を有することが確認された。前記で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーの数平均分子量は、前記と同様にして測定したところ、32500であった。
【0088】
〔電極の作製〕
負極用バインダーとして実施例1で得られたピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを用いた。当該ピリジル基含有ボロシロキサンポリマー30mg、β-シクロデキストリン10mg、アセチレンブラック40mg、グラファイト70mgおよびシリコン粉末(平均粒子径:100nm)50mgの混合物およびN-メチルピロリドン2mLをボールミル(フリッチュ社製、商品名:パルベライゼッテ7)で混練することにより、スラリーを得た。前記で得られたスラリーをドクターブレードで銅箔(縦:20mm、横:100mm、厚さ:20μm)に塗布し、80℃の温度で約12時間減圧乾燥させた後、間隙が70μmであるローラー間に80℃の温度で通過させることによってロールプレスし、塗膜の厚さが約50μmである電極を作製した。
【0089】
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
前記で得られた電極を直径が13mmの円盤に打ち抜くことにより、シリコン負極を作製した。負極として前記で得られたシリコン負極を用い、対極および参照電極としてリチウム箔を用い、セパレータとしてポリプロピレンセパレータ〔旭化成(株)製、商品名:セルガード2500、厚さ:25μm〕を用い、電解質としてエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを1:1の質量比で混合した溶媒に濃度が1MとなるようにLiPF6を溶解させた電解質を用いてアルゴンガス雰囲気中で負極半電池を作製し、当該負極半電池を安定化のために室温中で12時間放置した。
【0090】
〔サイクリックボルタンメトリー〕
ポテンシオスタット(バイオロジカル社製、品番:VSM)を用い、室温で前記負極半電池を用いてサイクリックボルタンメトリーを4サイクル測定した。なお、サイクリックボルタンメトリーの測定時の電位範囲は0.005~1.2Vであり、スキャン速度を0.1mV/sに調整した。サイクリックボルタンメトリーの測定結果を図4に示す。なお、図4中の符号1~4は、それぞれ1~4サイクル目であることを示す。
【0091】
図4に示された結果から、1サイクル目では電位が約0.65Vであるときに電解質の劣化およびSEI(固体電解質中間相)の形成が見られたが、それ以降のサイクルでは電解質の劣化およびSEIの形成が認められないことがわかる。また、いずれのサイクルにおいても、シリコンの脱リチウムおよびグラファイトの脱リチウムが認められる。
【0092】
また、サイクリックボルタンメトリーの測定前後におけるEISスペクトルを調べた。その結果を図5に示す。なお、図5中のCV前は、サイクリックボルタンメトリーの測定前を意味し、CV後はサイクリックボルタンメトリーの測定後を意味する。
【0093】
図5に示された結果から、SEIの生成により前記電池のインピーダンスが低下することがわかる。
【0094】
〔リチウムイオンの拡散〕
前記電池のサイクリックボルタンメトリーの測定時のスキャン速度を0.1mV/s、0.3mV/s、0.5mV/s、0.7mV/sまたは1.0mV/sに変更してサイクリックボルタンメトリーを調べた。その結果を図6(a)に示す。
【0095】
前記電極を作製する際に、負極用バインダーとして前記ピリジル基含有ボロシロキサンポリマー30mgの代わりに、β-シクロデキストリン30mgまたはカルボキシメチルセルロース30mgを用いたこと以外は、前記と同様にして電池を作製し、サイクリックボルタンメトリーを調べた。β-シクロデキストリンを用いたときのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を図6(b)に、カルボキシメチルセルロースを用いたときのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を図6(c)に示す。
【0096】
なお、図6(a)~(c)において、符号Aはスキャン速度が0.1mV/sであるときの結果、符号Bはスキャン速度が0.3mV/sであるときの結果、符号Cはスキャン速度が0.5mV/sであるときの結果、符号Dはスキャン速度が0.7mV/sであるときの結果、符号Eはスキャン速度が1.0mV/sであるときの結果を示す。
【0097】
また、負極用バインダーとしてピリジル基含有ボロシロキサンポリマー30mgおよびβ-シクロデキストリン10mgを用いたときのスキャン速度とピーク電流との関係を図7(a)に、カルボキシメチルセルロース40mgを用いたときのリチウムスキャン速度とピーク電流との関係を図7(b)に、β-シクロデキストリン40mgを用いたときのスキャン速度とピーク電流との関係を図7(C)に示す。図7に示されたリチウムスキャン速度とピーク電流との関係を示すグラフの傾きからRandles-Sevcik式に基づいてリチウムイオン拡散係数を求めた。その結果、バインダーとしてピリジル基含有ボロシロキサンポリマーを用いた場合には、リチウムイオン拡散係数が8.07×10-4cm2/sであり、β-シクロデキストリンを用いた場合には、リチウムイオン拡散係数が5.64×10-4cm2/sであり、カルボキシメチルセルロースを用いた場合には、リチウムイオン拡散係数が0.75×10-4cm2/sであった。これら結果から、バインダーとしてピリジル基含有ボロシロキサンポリマーは、リチウムイオンの拡散性に優れていることがわかる。
【0098】
〔充放電サイクル特性〕
電池の充放電サイクル特性は、充放電装置として自動電池評価装置〔(株)エレクトロフィールド製、品番:ABE1024-05RI〕を用いて行なった。前記で得られた電池を用い、充放電サイクル速度を50mV/gに調整し、電位の範囲を0.005~1.2Vに調整した。なお、前記電池の理論容量の計算値は1758mAh/gであった。前記電池の充放電サイクル特性として充放電を繰り返したときの放電容量を調べた。その結果を図8の符号Aで示す。図8に示された結果から、シリコンに対する電池容量は、電池の充放電サイクルが420サイクルの時点で1053mAh/gであることから、前記電池は、充放電サイクル特性に優れていることがわかる。
【0099】
また、前記電池の充放電サイクルと充放電効率(充電時に充電された充電容量に対する放電時の放電容量の比の百分率)の測定結果を図8の符号Bで示す。図8に示された結果から、前記電池の充放電効率が約100%であることから、前記電池は、充放電特性に優れていることがわかる。
【0100】
次に、前記電池の充放電を繰り返し、電池容量と電位との関係を調べた。その結果を図9に示す。なお、図9中の数字は各サイクル後のデータを示す。例えば、図9に300とあるのは300サイクル後のデータである。
【0101】
図9に示された結果から、充放電を100サイクル行なったとき、リチウム化がやや阻害され、粉砕されたシリコン粒子の周囲で固体電解質界面(SEI)が形成されていることが認められる。充放電サイクルにおいて電極の可逆性があることは、図9に示された結果から明らかである。
【0102】
次に、前記電池の充放電を420サイクル繰り返した後、当該電池のX線光電子分光分析を行なった。なお、X線光電子分光分析は、X線光電子分光分析装置(フィソン・インストルメント社製、製品名:S-PROBE 2803)を用いて行なった。その結果を図10に示す。
【0103】
図10に示された結果から、前記で得られた電池には、リチウムイオンを拡散し、SEI(固体電解質中間相)の電気抵抗を低減し、自己修復性を有し、シリコン粒子の破壊を抑制することを主たる役割とするホウ素の存在が認められる。
【0104】
次に、充放電速度を変化させて電池を充放電させたときの電池容量の変化を調べた。充放電の6サイクルまでは充放電速度を50mA/gとし、7~12サイクルまでは充放電速度を100mA/gとし、13~18サイクルまでは充放電速度を200mA/gとし、19~24サイクルまでは充放電速度を300mA/gとし、25~30サイクルまでは充放電速度を500mA/gとした後、31サイクル以降は充放電速度を初期の50mA/gとした。その結果を図11に示す。
【0105】
図11に示された結果から、充放電速度を順次上昇させるにしたがって電池容量が小さくなるが、再度、元の充放電速度に戻したときには電池容量が大幅に回復することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のリチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーおよび当該リチウムイオン二次電池のシリコン負極用バインダーを含むシリコン負極が用いられているリチウムイオン二次電池は、放電容量が高く、さらに充放電に対する耐久性に優れていることから、例えば、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータ、ハイブリッド自動車、電気自動車などに使用することが期待される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11