(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119625
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】導電助剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20220809BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220809BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220809BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220809BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016883
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】古西 克次
(72)【発明者】
【氏名】井谷 弘道
(72)【発明者】
【氏名】小日向 務
(72)【発明者】
【氏名】楫野 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC08A
4G146AC27A
4G146AD23
4G146AD25
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4G146BA38
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146CA11
4G146CA16
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
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5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】各種電池、特にリチウムイオン電池の特性を改善し得る炭素材料含有導電助剤及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】窒素配位金属錯体又は多孔性金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法、並びに、これら工程を含む、リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造方法及びリチウムイオン電池用電極の製造方法。窒素含有率が0.1質量%以上30.0質量%以下で、かつ比表面積が180m2/g以上800m2/g以下である炭素材料を含有する、導電助剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素有機化合物が配位した金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法。
【請求項2】
金属有機構造体である多孔性三次元構造の金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法。
【請求項3】
前記金属錯体がコバルトを含有する、請求項1又は2に記載の導電助剤の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電助剤の製造方法。
【請求項5】
含窒素有機化合物が配位した金属錯体、又は金属有機構造体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程、
前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程、及び
前記洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に、溶媒に分散させる工程
を含む、リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造方法。
【請求項6】
含窒素有機化合物が配位した金属錯体、又は金属有機構造体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程、
前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程、
前記洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に、集電体上に付与する工程
を含む、リチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法により製造した電極を有する、リチウムイオン電池。
【請求項8】
窒素含有率が0.1質量%以上30.0質量%以下で、かつ比表面積が180m2/g以上800m2/g以下である炭素材料を含有する、導電助剤。
【請求項9】
さらにアセチレンブラックを含有する請求項8記載の導電助剤であって、前記炭素材料と前記アセチレンブラックとの質量比が5:95~95:5の範囲内である、導電助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料を含有する導電助剤及びその製造方法に関する。本発明は特に、リチウムイオン電池用の電極、中でもリチウム過剰型正極での使用に適する導電助剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートグリッド社会の実現や電気自動車の高効率化が希求され、電池に対してもさらなる特性改善が求められている。そうした要求に対応すべく、高エネルギー密度で小型・軽量化が可能なリチウムイオン電池を始め、従来より様々なタイプの電池が検討され、実用化されてきた。それら電池のさらなる特性改善のために、各種電池材料に関する検討も続けられており、例えば最近では高電池容量で耐熱性に優れるリチウム過剰系正極材料が研究されている(特許文献1参照)。こうした材料以外にも、各種電池における活物質や導電助剤等について、様々な検討がなされている。
【0003】
電池材料の一つとして、従来より炭素材料が活用されてきた。炭素は電気伝導性が高い上に、耐薬品性に優れ、副反応も生じないので、一次電池、二次電池(蓄電池)、燃料電池等の化学電池では特に多用されており、活物質、導電助剤(導電補助材)、吸着剤等の様々な役目を果たしている。汎用のマンガン電池やアルカリ電池では導電助剤が必須であるが、これらの材料として炭素は最適である。この点は他の電池においても同様で、リチウムイオン電池では、炭素材料は正極用導電助剤や負極材料として多用され、現在も新たな材料が開発され続けている。例えば特許文献2には、Mg、Al、Si、Ca、Sn及びPbから選ばれる元素を40~75質量%含有する炭素質物が負極材料として開示され、上記元素を有する錯体を、炭素前駆体である等方性ピッチと共に焼成する製法が記載されている。炭素材料はまた、燃料電池においても電極触媒の担体として用いられ、電気二重層キャパシターのような物理電池においても吸着剤型の電極として使用されている。
【0004】
上記のように、炭素材料は電池関連の技術において、近年ますます広く重要な役割を担っており、さらなる特性の改善が検討されている。例えば特許文献3には、黒鉛中に固定された樹脂を熱分解して得た部分剥離型薄片化黒鉛が、リチウムイオン二次電池用の炭素質材料として開示されている。この炭素質材料を導電助剤としてコバルト酸リチウムに混合し、電極材料として用いると、リチウムイオン二次電池の充放電効率やサイクル特性を高めることができるとされている。非特許文献1には、メラミン樹脂のフォームをアルゴン雰囲気下で焼成して得た、窒素ドープ量が5%程度のカーボンペーパーが記載されている。このカーボンペーパーをリチウムイオン電池の自立型負極として用いると、高い電池容量が繰り返し充放電後にも発現する。特許文献4には、アニオン性及び中性の二座配位子と、ナトリウム、カリウム、亜鉛等とから成る金属錯体を、非酸化性雰囲気下で焼成して得られる多孔質炭素材が開示されている。この多孔質炭素材は比表面積が900m2/g程度以上と大きく、ガス分子の吸着能向上を目的に発明された材料であるが、イオンを吸着させて電極材料として使用することも可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-139569号公報
【特許文献2】特開2000-21404号公報
【特許文献3】特開2017-216254号公報
【特許文献4】特開2017-100912号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Zhang、J.Yang、H.Hou、S.Chen、H.Yao、Scientific Reports,7:7769(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年は地球温暖化等の問題から特に二次電池が見直され、導電助剤等についても特性のさらなる改善が求められている。例えば特許文献1や2では、新規な正極活物質や負極材料が開示されているが、導電助剤として使用されているのは黒鉛やアセチレンブラック等の汎用炭素材料であり、新規導電助剤を用いれば電池特性がさらに改善される可能性がある。新規な導電助剤として、特許文献3には黒鉛ベースの材料が開示されているが、それを用いたリチウムイオン二次電池の容量は、一般的なリチウムイオン電池とさして違わないレベルに止まっている。非特許文献1では高容量の電池が得られているが、開示されたカーボン材料は導電性が必ずしも高くはなく、導電助剤としては機能し難いと考えられる。特許文献4記載の多孔質炭素材は、電極材料としての使用も可能と記載されているが、その電気伝導度は3S/mと汎用導電性カーボンに比べて低い。高い吸着能故に電気二重層キャパシターの電極等としては有用であっても、導電助剤としての特性は低いと考えられる。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決すべく、各種電池の特性を改善し得る炭素材料含有導電助剤、特に、リチウムイオン電池用の電極、中でもリチウム過剰型正極での使用に適する導電助剤として有用な炭素材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の金属錯体を非酸化性雰囲気下で焼成することにより、各種電池を高容量化し得る炭素材料が得られること、並びに、そうした炭素材料は特定の窒素含有率や比表面積を有し、導電助剤、特にリチウムイオン電池用電極における導電助剤として優れた特性を発現することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)~(9)を提供する。
(1)含窒素有機化合物が配位した金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法。
(2)金属有機構造体である多孔性三次元構造の金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法。
(3)前記金属錯体がコバルトを含有する、上記(1)又は(2)の導電助剤の製造方法。
(4)さらに、前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程を含む、上記(1)~(3)のいずれかの導電助剤の製造方法
(5)含窒素有機化合物が配位した金属錯体、又は金属有機構造体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程、
前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程、及び
前記洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に、溶媒に分散させる工程
を含む、リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造方法。
(6)含窒素有機化合物が配位した金属錯体、又は金属有機構造体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程、
前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程、
前記洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に、集電体上に付与する工程
を含む、リチウムイオン電池用電極の製造方法。
(7)上記(6)のリチウムイオン電池用電極の製造方法により製造した電極を有する、リチウムイオン電池。
(8)窒素含有率が0.1質量%以上30.0質量%以下で、かつ比表面積が180m2/g以上800m2/g以下である炭素材料を含有する、導電助剤。
(9)さらにアセチレンブラックを含有する上記(8)の導電助剤であって、前記炭素材料と前記アセチレンブラックとの質量比が5:95~95:5の範囲内である、導電助剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、各種電池の特性を改善し得る炭素材料含有導電助剤、特にリチウムイオン電池用の電極、中でもリチウム過剰型正極での使用に適する炭素材料含有導電助剤が提供される。これら導電助剤をリチウムイオン電池用の電極、特にリチウム過剰型正極に使用すると、高容量の電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
本発明は第一に、含窒素有機化合物が配位した金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法である。
【0014】
本発明は第二に、多孔性三次元構造の金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程を含む、導電助剤の製造方法である。
【0015】
[金属錯体]
本発明の導電助剤の製造方法においては、上記のように炭素材料の原料として、含窒素有機化合物が配位した金属錯体、又は多孔性三次元構造の金属錯体(多孔性金属錯体)を使用する。以下では、これら金属錯体について詳細に説明する。
【0016】
(含窒素有機化合物が配位した金属錯体)
含窒素有機化合物が配位した金属錯体(以後、「窒素配位金属錯体」と略すことがある)自体は公知であり、従来よりイソシアネート、アルキレンジアミン類、ピリジン類、キノリン類、ビウレット類、ビピリジン類、フェナントロリン類、ピラジン類、イミダゾール類、ピリジンアルドキシム、ピリジンカルボキサミド、ターピリジン類、ポルフィリン類、グリオキシム類、各種アザ化合物等の含窒素有機化合物の配位子(以後、「含窒素配位子」ということがある)が、分子内の窒素原子を介して各種金属と配位結合した錯体を始め、種々の金属錯体が知られている。本発明においては、これら公知のどのような窒素配位金属錯体をも使用することができる。含窒素配位子は、ニトロソフェノールやニトロソナフトール、EDTA、アミノ酸、ピラジンジカルボン酸、さらにはチオシアネートのような、窒素原子だけでなく酸素等の他の元素をも介して金属と結合し得る化合物やイオンであってもよい。複数種の配位子が結合した金属錯体、例えばポルフィリン環1つが2つのイソシアネートやアンモニア配位子と共に中心金属に結合した錯体を用いることもできる。これら金属錯体はまた、含窒素配位子と共に、窒素原子不含の配位子、例えばカルボキシレートアニオン、ヒドロキシアニオン、アセチルアセトナートアニオン、シアノアニオン、カルボニル(CO)、ホスフィン等を有していてもよく、アルキル基やフェニル基等の有機基が金属原子に直接結合した、狭義の有機金属錯体であってもよい。中心金属の数や種類にも特に制限はなく、複数個又は複数種の金属原子を有する多核錯体であってもよい。複数の金属原子と複数の多座配位子とが相互に結合した、配位高分子を使用することもできる。
【0017】
しかしながら本発明においては、窒素配位金属錯体は、配位子が専ら窒素原子を介して、又は窒素原子及び炭素原子のみを介して中心金属に結合した構造であることが好ましい。特に、金属原子が配位子の窒素原子とのみ結合した構造であることが好ましい。また、配位子が二座以上の含窒素配位子である金属錯体を使用することが好ましい。例えばビピリジンやジメチルグリオキシム等の二座配位子や、ターピリジン等の三座配位子、フタロシアニンやテトラアザシクロドデカンのような四座配位子、さらにはビスターピリジンやトリスターピリジンのような六座以上の配位子からなる錯体を使用することにより、導電助剤として特に適する炭素材料を得ることができる。これら多座配位子と共に、イソシアネート、カルボニル、アルキル基等の単座配位子が中心金属に結合していてもよい。一方、硫黄、リン、ハロゲンは、焼成後の炭素材料中に残存する場合があるので、これら元素を不含の窒素配位金属錯体が好ましい。また、中心金属として遷移金属、特に第7族~第12族の金属を含有する錯体が好ましい。これら遷移金属は、含窒素配位子と安定な配位結合を形成し、焼成後には導電助剤に適する炭素材料を生成し易い。これらの中でも、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等、特にコバルトを含有する錯体が好ましい。また、コバルトと亜鉛等とを2:1等のモル比で含有する配位高分子を使用することも可能である。
【0018】
(多孔性三次元構造の金属錯体)
多孔性三次元構造の金属錯体とは、金属イオンと有機配位子が配位結合形成を介して秩序だって整列し、三次元骨格構造を形成した高分子錯体である。金属有機構造体や金属有機骨格材料、あるいは多孔性金属錯体、多孔性配位高分子などとも呼ばれ、metal-organic frameworkやporous coordination polymerの頭文字をとってMOFやPCPとも略記される。本願明細書においても、以下で「MOF」の略称を使用することがある。MOFは例えば、特開2007-534896号公報、特開2009-519116号公報、特開2009-528251号公報、特開2011-042881号公報、特開2011-064336号公報、特開2016-102037号公報、特開2016-178005号公報、米国特許第5648508号公報、米国特許第7196210号公報、欧州特許公開EP0790253A2号公報、ドイツ特許公開DE10111230A1号公報、欧州特許公開EP1785428A1号公報等に記載されており、いくつかの品種が市販もされている。
【0019】
MOF(PCP)は、典型的には1種以上の金属イオンが、1種以上の連結部分によって連結された1種以上の繰り返し単位(コア)を有する。連結部分は、典型的には二座以上の配位子(多座配位子)であるが、連結クラスターを介して、1個または複数の金属原子と結合する単座及び二座以上の配位子を包含する。ここで、連結クラスターとは、連結部分と金属とを、又は1つの連結部分と他の連結部分とを結合可能な、後記するイミンやカルボキシ基等の反応種である。MOFにおいては、互いに連結された複数のコアによって骨格が規定されるが、これら骨格は均一な繰り返しコア構造と不均一な繰り返しコア構造のいずれを含んでもよい。MOFは、配位子の選択や中心金属の配位形態によってトポロジーを制御することができるので、孔サイズの制御や機能化を精密に行うことのできる次世代材料として注目されている。
【0020】
MOFは殆ど全ての金属と多座配位子とから形成することができ、例えばテレフタル酸とジルコニウムから形成されるUiO-66等が市販もされている。本発明においてもどのような構造のMOFを使用することも可能である。複数種の金属原子が含有されていてもよい。しかしながら本発明においては、MOFとして、遷移金属、特に第7族~第12族の金属で形成された錯体を使用することが好ましい。中でも、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等のイオン、特にCo2+、Co3+、Ni2+、Cu2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+等のイオンは、安定なMOFを形成し、焼成後に導電助剤として適当な炭素材料を生成し易い。特に、コバルトを含有する錯体が好ましい。また、コバルトと亜鉛等とを2:1等のモル比で含有するMOFを使用することも可能である。
【0021】
MOFを形成する配位子にも、特に制限はない。例として3-ピリジルトリアジン、4-ピリジルトリアジン、イミダゾール類、ビピリジン類、ターピリジン、ビスターピリジン、トリスターピリジン、ジアザ化合物、ピラジン及びその誘導体、クリプテート類、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸等が挙げられるが、本発明で使用するMOFはこれら配位子から成るものに限定されない。複数種の配位子を有していてもよいが、その場合は、ジカルボン酸等のアニオン性配位子と含窒素化合物等の中性配位子のいずれか一方のみから、複数の多座配位子を選択するのが好ましい。多座配位子と共に、単座配位子、例えばヒドロキシアニオン、シアノアニオン、カルボニル(CO)、ホスフィン等を有していてもよく、アルキル基やフェニル基等の有機基が金属原子に直接結合した、狭義の有機金属錯体であってもよい。より好ましくは、3-ピリジルトリアジン、4-ピリジルトリアジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、アルキルイミダゾール、及び/又はビピリジン、特にメチルイミダゾールを配位子とするMOFを使用する。MOFの中でもゼオライト型イミダゾール骨格材料(ZIF)は、焼成により生じる炭素材料が導電助剤として優れた特性を発現し易く、本発明における多孔性金属錯体として好適である。
【0022】
尚、上記の連結クラスターとしては、先に挙げた配位子に含まれるイミン系の含窒素基や-COOHの他に、例えば-CS2H、-NO2、-SO3H、-Si(OH)3、-Ge(OH)3、-Sn(OH)3、-Si(SH)4、-Ge(SH)4、-Sn(SH)4、-PO3H、-AsO3H、-AsO4H、-P(SH)3、-As(SH)3、-CH(RSH)2、-C(RSH)3、-CH(RNH2)2、-C(RNH2)3、-CH(ROH)2、-C(ROH)3、-CH(RCN)2、-C(RCN)3、-CH(SH)2、-C(SH)3、-CH(NH2)2、-C(NH2)3、-CH(OH)2、-C(OH)3、-CH(CN)2、-C(CN)3 等(Rはアルキル基又はアリール基である)を挙げることができる。しかしながら、硫黄、リン、ケイ素、スズは、焼成後の炭素材料中に残存する場合があり、また、ヒ素を含有するMOFは焼成時に有害なガスが発生する可能性もあるので、これら元素不含のMOFが好ましい。
【0023】
(特に好ましい金属錯体)
上記のように、本発明の導電助剤の製造方法においては、炭素材料の原料として窒素配位金属錯体又は多孔性金属錯体を使用するが、好ましくは含窒素有機化合物が配位したMOFを使用する。中でも、各金属原子が専ら窒素原子及び/又は炭素原子と、特に窒素原子のみと結合した構造のMOFが好ましい。等網目状金属有機骨格材料(IRMOF)であってもよい。こうした金属錯体であれば、焼成後に電池用の導電助剤として特に適する炭素材料を生成することができる。より好ましくは、イミダゾールを配位子として含むMOF、特に上記のゼオライト型イミダゾール骨格材料(ZIF)を使用する。例えば、イミダゾール及びジメチルアミンと亜鉛で形成されるZIF-1、2-メチルイミダゾールと亜鉛で形成されるZIF-8、ベンズイミダゾールとコバルトで形成されるZIF-9やZIF-12、2-エチルイミダゾールと亜鉛で形成されるZIF-14、プリンとコバルトで形成されるZIF-21、イミダゾール及びベンゾイミダゾールと亜鉛で形成されるZIF-62、2-メチルイミダゾールとコバルトで形成されるZIF-67、2-イミダゾールカルバルデヒドと亜鉛で形成されるZIF-90等の市販品が挙げられるが、これらに限定されない。上記文献に基づき、所望のZIFを合成してもよい。また、これらZIFの混合物を使用することもできる。さらに好ましくは、コバルトを含有するZIF、特にZIF-67を使用する。
【0024】
本発明の製造方法に従い、上記の金属錯体から得られる炭素材料は、導電助剤として有用である。特に、これら炭素材料をリチウムイオン電池の電極、中でもリチウム過剰型正極の導電助剤に用いると、高い電池容量が得られる。この理由は定かではなく、また、本発明は特定の理論により限定されるものでもないが、本発明が効果を奏する理由として、焼成時のグラファイト化の進行が考えられる。金属錯体の一部は、焼成条件によっては顕著にグラファイト化することが知られているが、本発明の製造方法においても、グラファイト化により導電性の高い炭素材料が得られている可能性がある。また、窒素含有炭素は通常の炭素材料よりも導電性が高いとの報告もあり、窒素配位金属錯体の焼成物ではそうした現象も生じていると推定される。後記する実施例にも示すように、上記の金属錯体から得られる炭素材料は、測定条件にもよるが概して200Ω・cm以下、典型的には10~150Ω・cm、特に50~100Ω・cm程度の体積固有抵抗値を示し、特許文献4記載の炭素材等に比べて高い導電性を有する。本発明の製造方法により得られる炭素材料はまた、後記するように概して特定の値の比表面積を有するが、それによってリチウムイオンの吸蔵放出能が改善され、電池反応が促進・安定化されている可能性も考えられる。これらの他、正極や負極の活物質とのなじみ性も一因と考えられる。一般に導電助剤の効果は、活物質との分散性に優れる方が高くなるが、上記のような金属錯体の焼成物は活物質と良好に混合・分散し、アセチレンブラック等の他の導電助剤との相溶化剤のような役割も果たして、優れた電池特性を発現している可能性がある。以下では、本発明の製造方法における焼成条件等について、詳細に説明する。
【0025】
[焼成条件]
本発明の導電助剤の製造方法は、上記の金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成する工程を含む。ここで、「非酸化性雰囲気」とは、アルゴンやヘリウム等の希ガス、窒素を始めとする不活性ガス雰囲気の他、水素ガスやメタンガス等、燃焼時に炭素の酸化消失が起こり難い雰囲気全てを包含する。真空下で焼成してもよい。コストや窒素含有量を増加させること等を考慮すると、焼成は窒素雰囲気下、例えば窒素気流下で行うことが好ましい。
【0026】
焼成温度は、700~1200℃の範囲内であれば、使用する金属錯体の種類や炭素材料の目標物性に応じて任意に設定できるが、好ましくは750℃以上1200℃未満、より好ましくは800℃以上1150℃以下、特に好ましくは900℃以上1100℃以下とする。焼成時間にも特に制限はなく、焼成温度や金属錯体の種類に応じて任意に設定できるが、好ましくは10分間~24時間、より好ましくは30分間~10時間、特に好ましくは1~5時間程度とする。こうした条件であれば、炭素材料を高い収率で効率的に作製することができる。例えば、上記の金属錯体を窒素気流下、室温の炉に入れ、5~20℃/分程度の速度で昇温させ、950~1050℃程度の温度に30分間~3時間保持した後、窒素を流したまま室温へと放冷することにより、炭素材料とすることができる。
【0027】
[洗浄工程]
上記のように焼成して得られる炭素材料は、そのまま導電助剤として用いても優れた電池特性を発現するが、焼成後に酸で洗浄するのが好ましい。すなわち、本発明の導電助剤の製造方法は、好ましくは前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程を含む。水性酸溶液に特に制限はなく、塩酸や希硫酸等の水溶液を包含する。酸の種類にも特に制限はなく、塩酸等のハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸の他、酢酸やシュウ酸等の有機酸を使用することも可能である。また、酸の濃度も、0.1質量%以上99.9質量%以下の範囲で任意に設定でき、例えば安全性等を考慮して0.1質量%以上10質量%以下、特に1質量%以上5質量%以下としてもよい。しかしながら本発明においては、鉱酸、特に上記濃度の希塩酸や希硝酸等が、作業性が良好で作製する炭素材料中に残存し難い点から好ましい。洗浄方法も特に限定されず、例えば上記焼成物を水性酸溶液中に分散させて洗浄してもよく、あるいはフィルター上の焼成物に水性酸溶液を流して洗浄してもよい。残存した酸による電池への悪影響を避けるため、酸による洗浄後、さらに水やアルコールで洗浄することが好ましい。
【0028】
焼成・洗浄後の炭素材料は、後記するようにそのままリチウムイオン電池電極塗布用スラリーやリチウムイオン電池用電極の製造に用いることもできるが、一旦乾燥して粉末等の形状の導電助剤としてもよい。乾燥条件に特に制限はなく、例えば大気圧下、減圧下、あるいは窒素等の非酸化性ガス雰囲気下、50~500℃、特に100~200℃程度の温度で、10分間~10時間、特に30分間~2時間程度保持してもよい。洗浄工程の最後にエタノール等のアルコールを使用した場合には、室温付近で風乾させることも可能である。
【0029】
[導電助剤]
上記のようにして得られる炭素材料は、導電性に優れ、電池用の導電助剤として適している。特に、リチウムイオン電池の電極、中でもリチウム過剰型正極の導電助剤として用いると、電池容量を大きく改善することが可能となる。本発明はまた、これら炭素材料を含有する導電助剤を包含する。
【0030】
本発明の製造方法により得られる炭素材料は、概して0.1質量%以上30.0質量%以下の窒素含有率、及び180m2/g以上800m2/g以下の比表面積を有する。典型的には、1.0質量%以上20.0質量%以下、特に6.0質量%以上10.0質量%以下の窒素含有率と、200m2/g以上600m2/g以下、特に250m2/g以上500m2/g以下の比表面積とを有する。比表面積の上限値をさらに小さく、例えば300m2/g、250m2/g、200m2/g等に設定することも可能である。本発明はまた、窒素含有率及び比表面積がこうした範囲内にある炭素材料を含有する、導電助剤をも包含する。
【0031】
焼成又は洗浄・乾燥後の上記炭素材料を、所望により分級又は粉砕し、0.05~20μm程度、特に0.1~10μm程度の粒径としてもよい。また、脂肪酸等で表面処理して粒子の表面特性を改変することも可能である。上記炭素材料はまた、洗浄処理を施されて、金属含有率が30.0質量%以下、さらには15.0質量%以下、特に5.0質量%以下となっていることが好ましい。後記する実施例にも示すように、一般に金属含有率を低減することにより、電池容量を向上する効果をより顕著なものとすることができる。
【0032】
本発明の導電助剤は、上記炭素材料以外に、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、活性炭等の汎用炭素材料を含んでもよい。これら汎用炭素材料の併用によって、電池特性をさらに改善することができる。特に、上記炭素材料とアセチレンブラックとの両者を含有する導電助剤は、リチウムイオン電池、特にリチウム過剰型正極を有する電池の容量を、大きく改善することが可能である。本発明はさらに、前記炭素材料とアセチレンブラックとを、質量比5:95~95:5、好ましくは20:80~80:20の範囲で含有する導電助剤をも包含する。ここで、上記炭素材料がアセチレンブラックとの合計質量中に占める比率を75質量%以下、さらには70質量%以下、特に60質量%以下とすることにより、導電助剤のコストを低減することができる。また、同比率を25質量%以上、30質量%以上、特に40質量%以上とすることにより、電池容量をさらに向上させることが可能となる。
【0033】
[リチウムイオン電池]
上記のような本発明の導電助剤を使用することにより、電池の容量を大きく向上させることができる。使用対象の電池に特に制限はなく、マンガン電池やアルカリ電池等の汎用電池、酸化銀電池、鉛蓄電池、リチウム(イオン)電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、燃料電池、さらには電気二重層キャパシターや太陽電池等の物理電池のような、種々の電池の電極に本発明の導電助剤を使用することも可能である。特に、リチウムイオン電池の電極に本発明の導電助剤を含ませることにより、電池容量や充放電効率、サイクル特性等を顕著に向上させることができる。本発明はまた、上記のようにして製造された導電助剤を含む電極を有する、リチウムイオン電池を包含する。尚、本発明のリチウムイオン電池は、狭義のリチウムイオン電池の他にリチウム金属電池やリチウムポリマー電池等をも包含する。また、本発明のリチウムイオン電池においては、正極及び負極の両者が上記導電助剤を含んでいてもよく、また、正極又は負極のいずれか一方のみが上記導電助剤を含む電極であってもよい。例えば、上記導電助剤を含む正極と、黒鉛やリチウムの負極とを有するリチウムイオン電池であってもよく、アセチレンブラックのみを導電助剤とする正極と、上記導電助剤を含む負極とを有するリチウムイオン電池であってもよい。
【0034】
リチウムイオン電池用の電極は例えば、上記の導電助剤を、正極又は負極活性剤及び結着剤等と共に溶媒に分散してスラリーとし、このスラリーを集電体上に塗布することによって製造することができる。このように本発明は、上記のようにして得られた炭素材料、特に洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に溶媒に分散させる工程を含む、リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造方法、並びに、こうしたスラリーを集電体上に塗布する工程を含む、リチウムイオン電池用電極の製造方法をも包含する。
【0035】
(正極活物質)
上記リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造に使用する正極活物質に特に制限はなく、目的とするリチウムイオン電池に応じて、種々の公知のものを使用することができる。例としてLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等の層状岩塩型化合物;Li2Mn1/2Ti1/2O2F、0.5Li2MnO3・0.5LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、Li1.2Mn0.4Fe0.4O2、Li1.2Ti0.4Mn0.4O2、Li1.2Ni0.13Mn0.54Co0.13O2、Li2MnO3-LiMO2系(MはCo、Ni等の金属)等のリチウム過剰型材料;LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型化合物;LiCoVO4、LiNiVO4等の逆スピネル型化合物;LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、Li2FeSiO4等のオリビン型化合物;Fe2(SO4)3、Fe2(WO4)3、Li3Fe2(PO4)3、Li3Ti2(PO4)3等のナシコン型化合物; FeF3等の金属フッ化物;TiS2、MoS2等の金属カルコゲナイト;バナジウムやマンガンの酸化物等が挙げられるが、これらに限定されない。しかしながら本発明の導電助剤は、リチウム過剰型正極での使用で特に効果を奏するので、リチウム過剰型材料を正極活物質とする系に好適である。
【0036】
(負極活物質)
上記リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造に使用する負極活物質にも、特に制限はない。例として黒鉛(グラファイト)、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料;シリコン系材料;Li-Sn合金、Li-Si合金等のリチウム合金;Nb2O5、TiO2、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、特にLi4/3Ti5/3O4等のチタン酸リチウム(LTO);Li2.6Co0.4N3等の窒化物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
(結着剤)
結着剤(バインダー)は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレンの共重合体、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン共重合体、セルロース系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等が一般に用いられている。本発明においては、これらを始めとする公知の結着剤のいずれをも使用することができる。
【0038】
(溶剤他)
上記のような炭素材料を含有する導電助剤、正極又は負極活物質、及び結着剤を溶媒に分散させることにより、リチウムイオン電池電極塗布用スラリーを製造することができる。使用する溶媒にも制限はなく、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の溶媒を混合して用いることもできる。また溶媒として水も使用できる。また、粘度調整剤、分散剤、界面活性剤、酸化防止剤等の添加剤を、スラリー中に配合することも可能である。
【0039】
(集電体)
上記のようにして製造したスラリーを、集電体上に塗布することにより、リチウムイオン電池用電極を製造することができる。集電体に特に制限はなく、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル等の箔、板、メッシュ、パンチドメタル、ラスメタル等の公知材料を使用することができる。
【0040】
(リチウムイオン電池電極塗布用スラリーの製造)
以上のように、窒素配位金属錯体又は多孔性金属錯体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程、前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程、及び前記洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質等と共に、溶媒に分散させる工程を含む、本発明の方法によって、リチウムイオン電池電極塗布用のスラリーを製造することができる。また、そうしたスラリーを集電体上に塗布することによって、リチウムイオン電池用電極を製造することができる。ここで、炭素材料等の溶媒への分散方法に特に制限はなく、慣用の撹拌機やロールミキサー等を用いて混練・分散させることができる。集電体へのスラリーの塗布方法にも制限はなく、スピンコーティング、刷毛塗り、スプレーコーティング、ディップコーティング等の公知の方法で塗布することができる。塗布後の乾燥条件にも特に制限はなく、使用した溶媒等に応じて、例えば50~150℃等の温度に10分間~5時間程度加熱する等の条件を採用することができる。
【0041】
(リチウムイオン電池用電極の製造)
以上のようにして作製したスラリーを、集電体上に塗布する工程を含む本発明の方法によって、リチウムイオン電池用電極を製造することができる。リチウムイオン電池用の電極はまた、上記のようにして作製した炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に集電体上に、塗布以外の方法で付与する方法、例えば炭素材料と正極活物質又は負極活物質、所望により結着剤等の他の材料を混合し、集電体に熱圧着するする方法によっても、製造することが可能である。本発明はまた、含窒素有機化合物が配位した金属錯体、又は金属有機構造体を、非酸化性雰囲気下、700℃以上1200℃以下の温度で焼成して炭素材料とする工程、前記炭素材料を濃度0.1質量%以上99.9質量%以下の水性酸溶液で洗浄する工程、前記洗浄後の炭素材料を、正極活物質又は負極活物質と共に、集電体上に付与する工程を含む、リチウムイオン電池用電極の製造方法を包含する。
【0042】
上記のようにして製造される電極は、各種の電池に使用することができ、高い電池容量や充放電効率、サイクル特性等の優れた特性を発現する。特に、リチウムイオン電池の電極、中でもリチウム過剰型の正極として使用すると、顕著に高い電池容量が発現するので、リチウムイオン電池の電極として好適である。
【実施例0043】
以下、本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
[製造例1]
リチウムイオン電池用の電極を作製するに先立ち、リチウム過剰型正極活物質を合成した。Li2CO3、NiO、MnO2、Co3O4の各粉体を、各金属元素のモル比が120:13:54:13となる量にて混合し、大気中、950℃へと1時間加熱し、その後950℃に3時間保持して、Li1.2Ni0.13Mn0.54Co0.13O2を合成した。
【0045】
[実施例1]
2-メチルイミダゾールとコバルトの金属錯体であるZIF-67(GSアライアンス株式会社製、比表面積1512m2/g)を、窒素中1000℃で3時間焼成し、炭素材料を作製した。得られた炭素材料の窒素含有率は8.6質量%、比表面積は287m2/g、体積固有抵抗値は98Ω・cmであった。
【0046】
尚、炭素材料の物性は、以下のようにして測定した。
・窒素含有率(8.6質量%):XPS法により測定した。
・比表面積:マイクロトラック・ベル社製、BELSORP MAX2を用いて、BET法により測定した。
・体積固有抵抗:JIS K 7194に従い、日東精工アナリテック社製のロレスタを用いて測定した。炭素材料:PVDF:NMP=25:15:60の比でインク化し、PETフィルム上に塗布して80℃で乾燥させて後に測定した。
【0047】
製造例1で合成した正極活物質、上記の炭素材料、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF、SOLVAY社製の5130)を、質量比92.6:4.6:2.8の割合でNMP中に分散させ、固形分約25%に調整したスラリーを集電体のアルミニウム箔(厚み15μm)に塗布し、乾燥して正極を作製した。
【0048】
上記とは別に、金属リチウムの負極、並びに、EC/DEC混合溶媒(体積比1/2)にLiPF6を溶解した1M溶液の電解液を、それぞれ用意した。上記の正極とこれら負極及び電解液を用いてリチウムイオン電池を作製し、電池特性を測定した。測定は、北斗電工社製のポテンショスタット/ガルバノスタット HAシリーズを用い、電位窓2.0~4.5V、0.1Cにて行った。試験結果を、後記する表1に示す。
【0049】
[実施例2]
導電助剤として、実施例1と同様の操作で作製した炭素材料(ZIF-67焼成物)と、アセチレンブラック(デンカ株式会社製のHS-100)とを等質量使用し(正極活物質:上記炭素材料:アセチレンブラック:PVDF=92.6:2.3:2.3:2.8)、実施例1と同様の操作で電極及び電池を作製し、電池特性を測定した。試験結果を、後記する表1に示す。
【0050】
[実施例3]
実施例1と同様の操作で炭素材料を作製した後、これを10%希塩酸中に分散して室温で30分間攪拌し、濾過、水洗した後、80℃で180分間乾燥した。得られた洗浄後炭素材料(ZIF-67焼成・洗浄物)の窒素含有率は8.5質量%、比表面積は294m2/g、体積固有抵抗値は88Ω・cmであった。この洗浄後炭素材料をアセチレンブラックと共に用いて、実施例2と同様の操作で電極及び電池を作製し、電池特性を測定した。試験結果を、後記する表1に示す。
【0051】
[比較例1]
導電助剤としてアセチレンブラックのみを使用し、実施例1と同様の操作で電極及び電池を作製し、電池特性を測定した。試験結果を、後記する表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示す結果より、含窒素有機化合物が配位したMOFであるZIF-67を焼成して得られる炭素材料は、リチウムイオン電池の初期電池容量を汎用のアセチレンブラックよりも高めることができ、導電助剤として優れた効果を示すことが明らかとなった。そうした効果は、特にアセチレンブラックと併用した場合に顕著であった。また、本発明に従う炭素材料は、酸洗浄によって導電性を増し(体積固有抵抗値が小さくなり)、さらに優れた電池特性をもたらすことが明らかとなった。
【0054】
[実施例4]
ZIF-67の代わりに、2-メチルイミダゾールと亜鉛の金属錯体であるZIF-8(GSアライアンス株式会社製、比表面積1623m2/g)を使用し、実施例1と同様の操作を行った。試験結果を、比較例1の結果と共に後記する表2に示す。
【0055】
[実施例5]
ZIF-67の代わりにZIF-8を使用し、実施例3と同様の操作を行った。試験結果を、後記する表2に示す。
【0056】
[実施例6]
ZIF-67の代わりに、テレフタル酸とジルコニウムの金属錯体であるUiO-66(GSアライアンス株式会社製、比表面積1517m2/g)を使用し、実施例3と同様の操作を行った。試験結果を、後記する表2に示す。
【0057】
【0058】
表2に示す結果より、亜鉛を中心金属とするMOFであるZIF-8や、窒素原子不含の配位子から形成されるUiO-66からも、導電助剤として適する炭素材料が得られること、並びに、実施例1~3におけるような窒素配位金属錯体やコバルト錯体の焼成物の方が優れた電池特性を発現することが明らかとなった。