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特開2022-119660シンチレータ材および放射線検出装置
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  • 特開-シンチレータ材および放射線検出装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119660
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】シンチレータ材および放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/61 20060101AFI20220809BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C09K11/61
G01T1/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016935
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】特許業務法人プロウィン特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 公典
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
【テーマコード(参考)】
2G188
4H001
【Fターム(参考)】
2G188BB04
2G188CC09
2G188CC18
2G188CC21
2G188CC22
2G188CC23
2G188DD11
2G188DD42
4H001CA02
4H001CA04
4H001XA08
4H001XA14
4H001XA20
4H001XA35
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】耐湿性に優れ、放射線によって良好に可視光を発光するシンチレータ材および放射線検出装置を提供する。
【解決手段】放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材であって、一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ で表される蛍光体材料を含有するシンチレータ材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材であって、
一般式 (M1-aSr(SiO:Eu2+
(ここで、Mは2価の金属元素、Xはハロゲン元素を示し、0≦a≦1、0≦b≦1を満たす範囲)
で表される蛍光体材料を含有することを特徴とするシンチレータ材。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ材であって、
前記一般式におけるMは、CaまたはBaを含む2価の金属元素で構成されることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシンチレータ材であって、
前記一般式におけるXは、少なくともClまたはClより原子量の大きな1種のハロゲン元素を含むことを特徴とするシンチレータ材。
【請求項4】
請求項3に記載のシンチレータ材であって、
前記一般式におけるXは、Brを含み、
(M1-aSr(SiO2―cBr:Eu2+ で表されることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項5】
請求項4に記載のシンチレータ材であって、
前記Brの組成比は、0.2≦c≦2.0の範囲であることを特徴とするシンチレータ材。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のシンチレータ材であって、
前記蛍光体材料を単結晶または多結晶で含むことを特徴とするシンチレータ材。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一つに記載のシンチレータ材であって、
前記蛍光体材料の粉末をバインダーに含有させたことを特徴とするシンチレータ材。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一つに記載のシンチレータ材と、
530nm以上560nm以下の波長を検出する光検知部を備えることを特徴とする放射線検出装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ材および放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から放射線検出装置には、放射線によって励起され可視光を発光するシンチレータ材として、NaI:TlやCaI:Tlなどのヨウ化物が用いられていた。ヨウ化物系のシンチレータ材は、空気中の水分を取り込んで水溶液化してしまう潮解性を有しており、気密性の高い容器に封入して用いる必要がある。そこで従来の放射線検出装置では、ヨウ化物系のシンチレータ材と光検出部をアルミニウム製の缶である容器に封緘して、光取り出し口にガラス製の窓部材を接着し、容器内に配置した光検出部で可視光を検出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-074358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、外気中の水蒸気が微量ずつ容器と窓部材の接着部分から容器内に侵入するため、ヨウ化物系シンチレータが加水分解によって劣化し、長期間にわたって使用するためには放射線検出装置の管理とメンテナンスを適切に行う必要があった。また、容器内への水分の侵入を抑制するためには、気密性の高い封止をする必要があり、製造工程において工数が増加し作業性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、耐湿性に優れ、放射線によって良好に可視光を発光するシンチレータ材および放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のシンチレータ材は、放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材であって、一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ (ここで、Mは2価の金属元素、Xはハロゲン元素を示し、0≦a≦1、0≦b≦1を満たす範囲)で表される蛍光体材料を含有することを特徴とする。
【0007】
このような本発明のシンチレータ材では、上記一般式で表される蛍光体材料(クルムス蛍光体)を用いることで耐湿性に優れ、放射線によって良好に可視光を発光することができる。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記一般式におけるMは、CaまたはBaを含む2価の金属元素で構成される。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記一般式におけるXは、少なくともClまたはClより原子量の大きな1種のハロゲン元素を含む。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記一般式におけるXは、Brを含み、(M1-aSr(SiO2―cBr:Eu2+ で表される。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記Brの組成比は、0.2≦c≦2.0の範囲である。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記蛍光体材料を単結晶または多結晶で含む。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記蛍光体材料の粉末をバインダーに含有させる。
【0014】
また、本発明の放射線検出装置は、上記何れか一つに記載のシンチレータ材と、530nm以上560nm以下の波長を検出する光検知部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、耐湿性に優れ、放射線によって良好に可視光を発光するシンチレータ材および放射線検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係るシンチレータ材を用いた放射線検出装置10の構造を示す模式図である。
図2】第2実施形態に係るシンチレータ材を用いた放射線検出装置20の構造を示す模式図である。
図3】シンチレータ材のガンマ線吸収率の測定装置30を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るシンチレータ材を用いた放射線検出装置10の構造を示す模式図である。図1に示すように放射線検出装置10は、容器11と、窓部材12と、シンチレータ材13と、光電子増倍管14(PMT:PhotoMultiplier Tube)と、ブリーダ回路15を備えている。
【0018】
容器11は、開口部を有する略円筒形状の部材であり、内部にシンチレータ材13、光電子増倍管14、ブリーダ回路15を収容する。開口部には窓部材12が接着剤等で気密に固定されている。容器11を構成する材料は限定されないが、一例としてはアルミニウムを用いることができる。また、容器11の形状は円筒形状に限定されず、内部に収容する各部材の形状や大きさに合わせて適宜設計することができる。また容器11には、図示しない配線孔が形成されており、外部から配線孔を介してブリーダ回路15に配線が接続されている。
【0019】
窓部材12は、放射線を透過する材料で構成された板状の部材であり、容器11の開口部に配置されて容器11の内部を気密に封止している。窓部材12を構成する材料は限定されず、公知のガラス材料を用いることができる。窓部材12の外周と容器11の開口部の間は接着剤等が塗布されており、隙間からの水蒸気の侵入を抑制するために気密風刺されている。
【0020】
シンチレータ材13は、窓部材12と光電子増倍管14の間に配置され、放射線が照射されることで可視光を発光する蛍光材料を含有する部材である。本実施形態では、蛍光材料として一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ (ここで、Mは2価の金属元素、Xはハロゲン元素を示し、0≦a≦1、0≦b≦1を満たす範囲)で表される蛍光体材料(以下、クルムス蛍光体ともいう)を用いている。この蛍光体材料は、放射線が照射されることで励起され、530nm以上560nm以下の波長範囲で発光する。シンチレータ材13は、蛍光体材料の単結晶または多結晶を粉末状に加工し、シリコーン樹脂に分散した構造を有している。シンチレータ材13に含まれる蛍光体材料の比率は限定されないが、例えば5~50重量%の範囲とすることが好ましい。蛍光体材料が5重量%未満の場合には放射線を十分に吸収して発光することができず、50重量%より大きいと蛍光体材料での発光が蛍光体材料で遮蔽される割合が高くなり好ましくない。また、シンチレータ材13に含まれる蛍光体材料の粒径は、中心粒径が70μm以下の範囲とすることが好ましい。蛍光体材料の中心粒径が70μmより大きいと、シリコーン樹脂中に蛍光体材料を良好に分散させることが困難になる。
【0021】
光電子増倍管14は、微量の光子を検出して電気信号を出力する部材である。光電子増倍管14の構造は公知のものを用いることができ、一例としては、高真空のガラス容器中に光電陰極、複数の二次電子増倍電極(ダイノード)、陽極、およびその他の電極を封入した構造を有するものを用いることができる。光電子増倍管14の入射窓側にはシンチレータ材13が配置されており、出力側にはブリーダ回路15が接続されている。
【0022】
ブリーダ回路15は、高電圧電源からの電圧を複数の分割抵抗を介して光電子増倍管14に供給するとともに、光電子増倍管14からの電流を出力する部材である。高電圧電源からの複数の電圧は、光電子増倍管14の各ダイノードに供給されている。ブリーダ回路15の出力は、図示しない配線を介して検出信号として外部の信号処理部に伝達される。
【0023】
図1に示した放射線検出装置10では、ガンマ線などの放射線が窓部材12を介してシンチレータ材13に入射すると、シンチレータ材13中の蛍光体材料が励起され、波長範囲が530nm以上560nm以下の黄色光で発光する。シンチレータ材13で発光した黄色光の光子は、光電子増倍管14の入射窓から光電陰極に到達し、光電陰極で電子に変換される。光電陰極で生じた電子がダイノードに衝突すると、ダイノードに印加されている電圧によって多数の電子が放出され、複数のダイノードの間で電子放出が連鎖的に生じることで、1つの光子で生じた電子が雪崩のように増幅される。光電子増倍管14で増幅された電子による電流は、検出信号としてブリーダ回路を介して外部の信号処理部に伝達され、信号処理部が光子と電流と検出信号の関係から光子数を算出する。また、信号処理部では、算出された光子数から放射線の強度を算出する。
【0024】
次に、本実施形態のシンチレータ材13に用いる蛍光体材料(クルムス蛍光体)についてさらに詳細に説明する。上述した蛍光体材料の一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ において、組成Mは、CaまたはBaを含む2価の金属元素で構成されることが好ましい。組成MにCa以上の原子量を有する2価の金属元素を含むことで、シンチレータ材13に含まれる蛍光体材料の比重を大きくして、より多くの放射線を吸収して可視光の発光量を大きくすることができる。
【0025】
また、上記一般式における組成Xは、少なくともClまたはClより原子量の大きな1種のハロゲン元素を含むことが好ましい。組成XにCl以上の原子量を有するハロゲン元素を含むことで、シンチレータ材13に含まれる蛍光体材料の比重を大きくして、より多くの放射線を吸収して可視光の発光量を大きくすることができる。
【0026】
また、組成Xのハロゲン元素にはBrを含み、上記一般式が(M1-aSr(SiO2―cBr:Eu2+ であることが好ましい。また、Brの組成比は、0.2≦c≦2.0の範囲であることが好ましい。ハロゲン元素にBrを含むことで、ガンマ線等の放射線吸収量を増加させて、可視光の発光量を大きくすることができる。
【0027】
上述したように、本実施形態の放射線検出装置10では、シンチレータ材13に一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ で表される蛍光体材料を用いることで、耐湿性に優れ放射線によって発光した可視光を検出し、放射線の検出感度を高めることができる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図2を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。図2は、本実施形態に係るシンチレータ材を用いた放射線検出装置20の構造を示す模式図である。図1に示すように放射線検出装置20は、受光素子21と、シンチレータ材23を備えている。
【0029】
受光素子21は、半導体材料で構成されて、光を受光することで電子が生じる部材である。受光素子21は公知のものを用いることができ材料や構造は限定されないが、例えばシリコンやIII-V族化合物系半導体材料を材料としたフォトダイオード(PD:Photo Diode)やアバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photo Diode)を用いることができる。受光素子21には、図示しない電極に配線が接続されており、配線を介して光の強度に応じた電圧または電流が出力される。
【0030】
シンチレータ材23は、受光素子21の受光面側に配置され、放射線が照射されることで可視光を発光する蛍光材料を含有する部材である。第1実施形態と同様に本実施形態でも、蛍光材料として一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ で表される蛍光体材料を用いている。
【0031】
図2に示した放射線検出装置20では、ガンマ線などの放射線がシンチレータ材23に入射すると、シンチレータ材23中の蛍光体材料が励起され、波長範囲が530nm以上560nm以下の黄色光で発光する。シンチレータ材23で発光した黄色光の光子は、受光素子21の受光面に到達し、光の強度に応じたて電流または電圧が検出信号として外部の信号処理部に伝達される。信号処理部では、検出信号から光子数と放射線の強度を算出する。
【0032】
本実施形態の放射線検出装置20でも、シンチレータ材13に一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ で表される蛍光体材料を用いることで、耐湿性に優れ放射線によって発光した可視光を検出し、放射線の検出感度を高めることができる。
(ガンマ線照射による発光量の測定)
図1に示した放射線検出装置のシンチレータ材13として、以下に示す比較例1、実施例1~6の材料を用いてガンマ線による発光量を測定した。本実施形態では、ガンマ線源には137Csの662keVを用いている。実施例1~6では、得られた蛍光体材料を中心粒径12μm程度の粉末に加工し、シリコーン樹脂中に30重量%の蛍光体材料を分散させて、直径50mm、厚さ3mmの円盤状に整形したものをシンチレータ材13とした。
【0033】
(比較例1)
市販されているBGO(BiGe12)をシンチレータ材13として用いた。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、15,000[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0034】
(実施例1)
(Ca0.4,Sr0.58,Eu0.02(SiOClで表される蛍光体材料。
原料として、SiO,Eu,Ca(OH),SrCl・6HOを用意し、これらのモル比が6.0:0.07:2.8:4.06となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ、約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5~40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、実施例1の蛍光体材料を得た。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、25,000[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0035】
(実施例2)
(Ca0.4,Sr0.45,Ba0.05,Eu0.1(SiO(Cl0.9,I0.1で表される蛍光体材料。
原料として、SiO,Eu,Ca(OH),SrCl・6HO,BaCO,CaIを用意し、これらのモル比が6.0:0.35:2.6:3.15:0.35:0.2となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ、約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5~40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、実施例2の蛍光体材料を得た。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、24,500[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0036】
(実施例3)
(Ca0.4,Sr0.45,Ba0.05,Eu0.1(SiO(Cl0.8,Br0.1,I0.1で表される蛍光体材料。
原料として、SiO,Eu,Ca(OH),SrCl・6HO,BaCO,SrBr,CaIを用意し、これらのモル比が6.0:0.35:2.6:3.05:0.35:0.1:0.2となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ、約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5~40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、実施例3の蛍光体材料を得た。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、24,200[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0037】
(実施例4)
(Ca0.35,Sr0.45,Ba0.05,Eu0.15(SiOCl1.6,Br0.2,I0.2で表される蛍光体材料。
原料として、SiO,Eu,Ca(OH),SrCO,BaCO,SrCl・6HO,SrBr,CaIを用意し、これらのモル比が6.0:0.525:2.35:2.25:0.35:0.8:0.1:0.1となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ、約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5~40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、実施例4の蛍光体材料を得た。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、26,100[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0038】
(実施例5)
(Ca0.4,Sr0.58,Eu0.02(SiOCl0.5,Br1.5で表される蛍光体材料。
原料として、SiO,Eu,Ca(OH),SrCO,BaCO,SrCl・6HO,SrBrを用意し、これらのモル比が6.0:0.07:2.8:3.06:0.25:0.75となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ、約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5~40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、実施例5の蛍光体材料を得た。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、28,500[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0039】
(実施例6)
(Ca0.4,Sr0.45,Ba0.05,Eu0.1(SiOCl0.1,Br1.9で表される蛍光体材料。
原料として、SiO,Eu,Ca(OH),SrCO,BaCO,SrCl・6HO,CaBrを用意し、これらのモル比が6.0:0.35:1.85:3.1:0.35:0.05:0.05となるよう秤量し、秤量した各原料をアルミナ乳鉢に入れ、約30分粉砕混合し、原料混合物を得た。この原料混合物をアルミナ坩堝に入れ、還元雰囲気の電気炉で雰囲気(5/95)の(H/N)、1030℃で5~40時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を温純水で丹念に洗浄し、実施例6の蛍光体材料を得た。図1の放射線検出装置でガンマ線照射による発光を測定したところ、27,300[photons/Mev]の発光量が得られた。
【0040】
表1に、比較例1、実施例1~6でのガンマ線照射による発光量の測定結果を示す。表1に示したように、一般式(M1-aSr(SiO:Eu2+ (ここで、Mは2価の金属元素、Xはハロゲン元素を示し、0≦a≦1、0≦b≦1を満たす範囲)で表される蛍光体材料(クルムス蛍光体)を含有するシンチレータ材を用いることで、放射線による発光を測定できることがわかる。また、上記一般式で表される蛍光体材料(クルムス蛍光体)を用いることで、従来から用いられているBGOよりも大きな発光量を得ることができ、放射線の検出感度を向上できる。
【0041】
また、一般式における組成Mに、CaまたはBaを含む2価の金属元素が含まれており、組成Xは少なくともClまたはClより原子量の大きな1種のハロゲン元素を含んでいる。特に、組成XにBrを含む場合には、蛍光体材料を一般式(M1-aSr(SiO2―cBr:Eu2+ で表すことができる。このとき、Brの組成比が、0.2≦c≦2.0の範囲である場合に光子の検出量が大きく、放射線の検出感度が向上している。
【0042】
【表1】
【0043】
(シンチレータ材でのガンマ線吸収の測定)
次に、上述した実施例1,4~6で作成したシンチレータ材によるガンマ線吸収率を測定した。図3は、シンチレータ材のガンマ線吸収率の測定装置30を示す模式図である。図3に示すように、ガンマ線吸収率の測定装置30は、光電子増倍管31と、検出用シンチレータ32と、評価サンプル33と、遮光シート34と、放射線源35を備えている。
【0044】
光電子増倍管31は、微量の光子を検出して電気信号を出力する部材である。検出用シンチレータ32は、光電子増倍管31の入射窓に配置され、BGOを含有した部材であり、放射線源35から照射される放射線によって励起されて可視光を発光する。評価サンプル33は、上述した実施例1,4~6で作成した蛍光体材料を含有するシンチレータ材であり、光電子増倍管31と検出用シンチレータ32との間に配置されている。遮光シート34は、可視光を遮り放射線を透過する材料で構成されたシート状の部材であり、光電子増倍管31の入射窓と検出用シンチレータ32を覆って配置されている。また、遮光シート34は検出用シンチレータ32と評価サンプル33の間に挟まれている。放射線源35は、放射線を照射するための装置であり、本実施形態では241Amの60keVを用いている。
【0045】
図3に示した測定装置30では、放射線源35から照射されたガンマ線は、評価サンプル33および遮光シート34を透過して検出用シンチレータ32に到達する。検出用シンチレータ32では、ガンマ線によってBGOが励起され可視光を発光する。検出用シンチレータ32で発光した光子は、光電子増倍管14に到達して検出信号として信号処理部に出力される。信号処理部では、検出信号に基づいて光子数を算出する。
【0046】
このとき、評価サンプル33に入射したガンマ線によって、蛍光体材料も励起されて可視光を発光するが、遮光シート34で光が遮られるために、光電子増倍管31に入射する光子は検出用シンチレータ32で発光したものだけとなる。したがって、光電子増倍管31で検出された光子数を比較することで、評価サンプル33によって吸収されたガンマ線の量を測定することができる。
【0047】
(比較例2)
図3に示した測定装置30において、評価サンプル33を取り除いた状態で光電子増倍管31により検出用シンチレータ32の発光量を測定したものを比較例2とする。また測定装置30において、評価サンプル33として実施例1,4~6を置いた状態で光電子増倍管31により検出用シンチレータ32の発光量を測定し、比較例2との比較でガンマ線吸収率を算出した。ここでガンマ線吸収率Rは、比較例2での検出光子数(N)を100%として、評価サンプル33を置いた状態での検出光子数(N)の比率R(N/N)を求め、R=(100-R)%として算出している。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示したように、実施例1,4~6では蛍光体材料(クルムス蛍光体)を含有した評価サンプル33のシンチレータ材でガンマ線が30%以上吸収されており、放射線で蛍光体材料(クルムス蛍光体)を高効率に励起して可視光を発光できていることがわかる。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10,20…放射線検出装置
30…測定装置
11…容器
12…窓部材
13,23…シンチレータ材
14,31…光電子増倍管
15…ブリーダ回路
21…受光素子
32…検出用シンチレータ
33…評価サンプル
34…遮光シート
35…放射線源

図1
図2
図3