(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119670
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20220809BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C12M3/00
C12M1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016956
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(74)【代理人】
【識別番号】100129377
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 耕司
(72)【発明者】
【氏名】堀井 大地
(72)【発明者】
【氏名】三重野 靖理
(72)【発明者】
【氏名】竹内 晴紀
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DA10
4B029DC07
4B029DG06
4B029DG08
4B029GB10
4B029HA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞培養容器に接続された液チューブの余長が適正に設定された細胞培養装置を提供する。
【解決手段】ベースと、ベースに対して第1軸X回りに回転可能に取り付けられた回転台32と、回転台に対して第2軸Y回りに回転可能に取り付けられ且つ細胞培養容器2を保持する容器保持部材33と、回転台を第1軸X回りに回転駆動し且つ容器保持部材を第2軸Y回りに回転駆動する駆動機構30とを備え、細胞培養容器の外周面には、給排液チューブ50が接続される給排液ポート25が配置され、給排液チューブにおいて給排液ポートに接続された接続部50aから所定長さ離れた第1所定部51は、第1位置決め部材61により容器保持部材に位置決めされ、給排液チューブにおいて接続部から第1所定部よりも離れた第2所定部52は、第2位置決め部材62により回転台に位置決めされており、第1位置決め部材は、容器保持部材に対して回転可能に取り付けられる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースに対して第1軸回りに回転可能に取り付けられた回転台と、
前記回転台に対して第2軸回りに回転可能に取り付けられ且つ細胞培養容器を保持する容器保持部材と、
前記回転台を第1軸回りに回転駆動し且つ前記容器保持部材を第2軸回りに回転駆動する駆動機構とを備え、
前記細胞培養容器の外周面には、液チューブが接続される液ポートが配置されており、
前記液チューブにおいて前記液ポートに接続された接続部から所定長さ離れた第1所定部は、第1位置決め部材により前記容器保持部材に位置決めされ、
前記液チューブにおいて前記接続部から前記第1所定部よりも離れた第2所定部は、第2位置決め部材により前記回転台に位置決めされており、
前記第1位置決め部材は、前記容器保持部材に対して回転可能に取り付けられることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記液チューブの前記第1所定部よりも前記接続部に近接する第3所定部は、第3位置決め部材により前記容器保持部材に位置決めされることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記第1所定部と前記第3所定部とは、前記容器保持部材に対して同一平面上において位置決めされることを特徴とする請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記駆動機構は、前記細胞培養容器内から試薬を排液する排液動作において、前記液ポートから前記液チューブ内に流出した試薬がそれに作用する重力により前記液チューブ内を前記液ポートから離れる方向に流れるように、前記回転台及び前記容器保持部材を回転駆動することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量培養を適切に行う上で好適となる細胞培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞培養容器を用いて培養する細胞培養技術において、細胞を播種した培養液などを細胞培養容器に導入または細胞培養容器から回収するために、細胞培養容器を回転させるなどのハンドリング操作を行う細胞培養装置が利用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の細胞培養装置は、細胞培養容器の姿勢を変更するための駆動機構を備える。駆動機構は、ベースと、このベースに第1軸X回りに回転可能に取り付けた回転台と、この回転台に第2軸Y回りに回転可能に取り付けた容器保持部材と、第1軸X回りに回転台を回転駆動する第1駆動部と、第2軸Y回りに容器保持部材を回転駆動する第2駆動部と、これらの駆動部を制御するコントローラとを備える。
【0004】
そのため、第1駆動部及び第2駆動部を制御することにより、回転台および/または容器保持部材を回転させて、細胞培養容器の給排液ポートから培養液を供給したり、細胞培養容器の給排液ポートから培養液を回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の細胞培養装置において、細胞培養容器の給排液ポートには、培養液を給排するための給排液チューブが接続され、その給排液チューブが給排液ポートに接続された状態で回転台および/または容器保持部材が回転駆動される。回転台および/または容器保持部材が回転する際に、給排液チューブが周囲に引っ掛かるのを防止するために、給排液チューブの互いに離れた複数の部分が回転台または容器保持部材に位置決めされる。その場合、回転台および/または容器保持部材の回転が規制されないように、給排液チューブにおいて回転台に位置決めされた部分と容器保持部材に位置決めされた部分との間には、余長部が形成される。
【0007】
しかしながら、給排液チューブの余長部をあまり長くすると、回転台および/または容器保持部材が回転した際に給排液チューブが周囲に引っ掛かって、給排液チューブが裂けたり給排液ポートから外れて培養を継続できなくなる問題がある。また、給排液チューブの余長部をあまり短くした場合も、回転台および/または容器保持部材が回転した際に給排液チューブが引っ張られて、給排液ポートから外れたり折れ曲がって塞がれて培養を継続できなくなる問題がある。
【0008】
本発明は、このような課題に着目し、細胞培養容器に接続された液チューブの余長が適正に設定された細胞培養装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明の細胞培養装置は、ベースと、前記ベースに対して第1軸回りに回転可能に取り付けられた回転台と、前記回転台に対して第2軸回りに回転可能に取り付けられ且つ細胞培養容器を保持する容器保持部材と、前記回転台を第1軸回りに回転駆動し且つ前記容器保持部材を第2軸回りに回転駆動する駆動機構とを備え、前記細胞培養容器の外周面には、液チューブが接続される液ポートが配置されており、前記液チューブにおいて前記液ポートに接続された接続部から所定長さ離れた第1所定部は、第1位置決め部材により前記容器保持部材に位置決めされ、前記液チューブにおいて前記接続部から前記第1所定部よりも離れた第2所定部は、第2位置決め部材により前記回転台に位置決めされており、前記第1位置決め部材は、前記容器保持部材に対して回転可能に取り付けられることを特徴とする。
【0011】
これにより、液チューブの第1所定部を位置決めする第1位置決め部材を容器保持部材に回転可能に取り付けることで、液チューブの第1所定部と第2所定部との間に形成される余計な余長を無くすことができる。そのため、細胞培養容器内に試薬を給液する場合または細胞培養容器内から試薬を排液する場合に、液チューブが液ポートに接続された状態で回転台および/または容器保持部材が回転駆動されたとしても培養を適正に継続できるように、液ポートに接続された液チューブの余長が長くなりすぎるのを抑制することができる。
【0012】
本発明の細胞培養装置において、前記液チューブの前記第1所定部よりも前記接続部に近接する第3所定部は、第3位置決め部材により前記容器保持部材に位置決めされることを特徴とする。
【0013】
これにより、液チューブが液ポートに接続された状態で回転台および/または容器保持部材が回転駆動された場合に、第1位置決め部材により容器保持部材に対して回転可能に位置決めされる液チューブの第1所定部の方向が変化しやすくなる。そのため、液チューブの第1所定部と第2所定部との間に形成される余計な余長を容易に無くすことができる。
【0014】
本発明の細胞培養装置において、前記第1所定部と前記第3所定部とは、前記容器保持部材に対して同一平面上において位置決めされることを特徴とする。
【0015】
これにより、第1位置決め部材により容器保持部材に対して回転可能に位置決めされる液チューブの第1所定部の方向がより変化しやすくなる。そのため、液チューブの第1所定部と第2所定部との間に形成される余計な余長をさらに無くすことができる。
【0016】
本発明の細胞培養装置において、前記駆動機構は、前記細胞培養容器内から試薬を排液する排液動作において、前記液ポートから前記液チューブ内に流出した試薬がそれに作用する重力により前記液チューブ内を前記液ポートから離れる方向に流れるように、前記回転台及び前記容器保持部材を回転駆動することを特徴とする。
【0017】
これにより、細胞培養容器内から試薬を排液する際に、試薬が液チューブ内に残るのを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、液ポートに接続された液チューブの余長が適正に設定された細胞培養装置を提供することが可能となる。また、液チューブ内の残液を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養システムの概略的な構成図である。
【
図2】
図1の細胞培養システムにおいて細胞培養容器を収容したインキュベータを示す図である。
【
図7】容器保持部材を第2軸Y回りに回転駆動した際の給排液チューブの状態変化を示す図である。
【
図8】容器保持部材を第2軸Y回りに回転駆動した際の給排液チューブの状態変化を示す図である。
【
図11】排液動作での第1排液姿勢を説明する図である。
【
図12】排液動作での第2排液姿勢を説明する図である。
【
図13】排液動作での第3排液姿勢を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、この実施形態の細胞培養システムを簡易的に示す系統図である。この細胞培養システムは、例えば冷蔵庫などの液貯留部1と、細胞培養容器2と、細胞培養容器2で培養された細胞を回収する細胞回収部3とを備える。液貯留部1、細胞培養容器2、細胞回収部3の間は、適宜箇所が図示しない無菌コネクタで接続され、組み上げた後に一旦運転を始めた以後は、運転を終了するまで系統内は閉鎖系のラインとされて、外部からの菌の侵入が防止される。
【0022】
液貯留部1は、細胞培養容器2に供給する培地や各種試薬等の液を保存するものであり、内部を培地や各種試薬を保冷するために必要な温度、例えば4℃程度に保たれる。
【0023】
細胞培養容器2は、平面状に展開した培地の中で細胞を培養する棚構造のもので、細胞の分裂を促進すべく、約37℃の温度環境下に置かれる。
【0024】
細胞回収部3は、細胞培養容器2で培養を終えた後に取り出された液中の細胞が回収される。細胞培養容器2と細胞回収部3の間には、必要に応じて細胞の状態を分析する分析部や細胞を含む懸濁液の希釈度を調整する調整部等の中間処理部4が介在される。この中間処理部4中のラインも全て閉鎖系のラインで構成される。
【0025】
このような閉鎖系のラインのなかで、液貯留部1に培地や試薬等の液を準備した後、それらの液を液貯留部1から細胞培養容器2に移送する工程、細胞培養容器2内で細胞を培養する工程、培養した細胞を細胞培養容器2から取り出して細胞回収部3に回収する工程、回収前に細胞培養容器2から取り出した液に対して中間処理部4で各種中間処理を行う工程等を、人手を介さずに全て自動で行うシステムが構築される。
【0026】
そのために、各ラインに必要に応じてバルブVやポンプP(ポンプP(a)やポンプP(b))等が接続され、これらバルブVやポンプPがコントローラCからの制御指令によって制御される。ポンプP(a)及びポンプP(b)は、圧送及び吸引の何れの用途にも使用可能である。
【0027】
本実施形態では、閉鎖系のラインを崩さずに細胞培養容器2を所定温度に保持するために、細胞培養容器2および周辺要素部品を含む細胞培養装置10を、閉鎖系のラインの一部を構成する給排液チューブ50を接続したままで
図1、
図2に示すようにインキュベータ5内に配置する。
【0028】
これにより、細胞培養容器2は空間的制約を受ける。そのため、極力多量の培養を可能にするためには、細胞培養容器2における培養率を高める必要がある。
【0029】
そこで本実施形態では、細胞培養容器2を多段棚構造にして、棚21の数だけ培養面積を増やす構成を採用する。多段棚構造であるがゆえに、外部からの給液を各棚21に行き渡らせ、培養が終わった後は、各棚21から外部に排液を行うプロセスが必要である。その際、接続する閉鎖系のラインを極力減らすために、給液ポートと排液ポートを兼ねた給排液ポート25を細胞培養容器2の筐体に設け、給排液ポート25は各棚21に共通のものとして、細胞培養容器2をインキュベータ5内で閉鎖ライン状態を保ったままで姿勢変更することで、各棚21への供液と、各棚21からの排液とを実現する。
【0030】
具体的に細胞培養容器2は、
図3に示すように、各棚21の一端縁21a側のコーナー部に各棚空間に均等に液が入り込むように棚面21bの一部を切り欠いて連通部21cを設け、棚空間同士の間は、連通部21c以外の部分においては棚面21bや側面21dによって仕切られるように構成される。そして、連通部21cと棚面21bの境界部分に、棚面21bが水平状態にある時に液を貯留し、棚面21bが傾斜または倒置されたときにその液を排出可能なように、側面21dよりも高さの低い立壁21eを設けている。つまり、
図3(b)においてハッチングで示す部分は、水平時に液を貯留できる領域を示している。
【0031】
細胞培養装置10は、
図4~
図6に示すように、細胞培養容器2の姿勢を変更するための駆動機構30を備える。なお、
図4では、細胞培養容器2に給液するための液チューブと細胞培養容器2から排液するための液チューブとを兼用する給排液チューブ50を図示しているが、
図5~
図6では、給排液チューブ50の図示を省略している。
【0032】
駆動機構30は、ベース31と、このベース31に第1軸X回りに回転可能に取り付けた回転台32と、この回転台32に第2軸Y回りに回転可能に取り付けた容器保持部材33と、第1軸X回りに回転台32を回転駆動する第1駆動部34と、第2軸Y回りに容器保持部材33を回転駆動する第2駆動部35と、これらの駆動部34、35を制御する制御部たるコントローラCとを備える。
【0033】
なお、
図4に示すように、第1軸X回りに左回転に回転する場合を正方向(+)に回転するとし、第1軸X回りに右回転に回転する場合を負方向(-)に回転するとする。同様に、第2軸Y回りに左回転に回転する場合を正方向(+)に回転するとし、第2軸Y回りに右回転に回転する場合を負方向(-)に回転するとする。
【0034】
第1駆動部34は、細胞培養容器2から第1軸Xに沿った方向に位置し、第2駆動部35は、第1駆動部34の近傍に配置されて第2軸Yとの間が第1軸Xに沿って動力を伝達するベルトやチェーン等を用いた伝達機構36を介して接続されている、
【0035】
すなわち、第1駆動部34のみを駆動すれば、
図5に示すように回転台32、容器保持部材33、細胞培養容器2が第1軸X回りに回転し、第2駆動部35のみを駆動すれば、
図6に示すように回転台32は回転せずに容器保持部材33、細胞培養容器2が第2軸Y回りに回転し、更に、第1駆動部34と第2駆動部35を同時に駆動すれば、回転台32、容器保持部材33、細胞培養容器2が
図5に示すように第1軸X回りに回転し、その回転台32に対して更に、容器保持部材33、細胞培養容器2が
図6のように第2軸Y回りに回転することが可能である。駆動機構30は、オープン制御で細胞培養容器2の姿勢を制御してもよいし、棚面21bの姿勢を検出するセンサ等を設けて細胞培養容器2の姿勢をフィードバック制御しても構わない。
【0036】
細胞培養容器2の外周面には、給液ポートと排液ポートを兼ねた給排液ポート25が設けられる。給排液ポート25には、液貯留部1及び細胞回収部3と接続される給排液チューブ50が接続される。給排液チューブ50は、細胞培養容器2内に試薬を給液するとともに、細胞培養容器2内から試薬を排液するために使用される。
【0037】
図4は、細胞培養容器2の棚面21bが水平な培養姿勢に配置された状態を示しているが、その状態において、容器保持部材33は、上面が開口した略直方体形状を有している。容器保持部材33の正面部33aには、略矩形状の開口部33bが形成される。
図4の状態では、回転台32は、容器保持部材33の右側面部と背面部とに対向するように配置される。
【0038】
給排液チューブ50において給排液ポート25に接続される接続部50aから液チューブ長手方向に沿って所定長さ離れた第1所定部51は、第1位置決め部材61により容器保持部材33に位置決めされる。第1所定部51を保持する第1位置決め部材61は、容器保持部材33の正面部33aの上端近傍において開口部33bより右側に配置される。
【0039】
給排液チューブ50において給排液ポート25に接続される接続部50aから第1所定部51よりも離れた第2所定部52は、第2位置決め部材62により回転台32に位置決めされる。第2位置決め部材62は、回転台32において容器保持部材33の右側面部と対向する板状部材の正面部32aに配置される。
【0040】
給排液チューブ50において第1所定部51よりも接続部50aに近接する第3所定部53は、第3位置決め部材63により容器保持部材33に位置決めされる。第3位置決め部材63は、容器保持部材33の正面部33aの上端において開口部33bより左側から上方に向かって突出する取付部33cに位置決めされる。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51と第3所定部53とは、容器保持部材33に対して同一平面上において位置決めされる。
【0041】
給排液チューブ50において第2所定部52よりも接続部50aから離れた第4所定部54は、第4位置決め部材64により細胞培養装置10の筐体10aに移動しないように固定される。すなわち、給排液チューブ50の長手方向に互いに離れた第1所定部51、第2所定部52、第3所定部53及び第4所定部54において位置決めされる。
【0042】
第1位置決め部材61は、容器保持部材33の正面部33aに対して回転可能に取り付けられる。
図4において、第1位置決め部材61が左回転に回転する場合を正方向(+)に回転するとし、第1位置決め部材61が右回転に回転する場合を負方向(-)に回転するとする。そのため、第1位置決め部材61により位置決めされた給排液チューブ50の第1所定部51は、第1位置決め部材61とともに容器保持部材33の表面に沿って回転可能である。すなわち、
図4に示すように、給排液チューブ50の第1所定部51は、容器保持部材33の正面部33aの表面に沿って360度回転可能である。
【0043】
これに対して、第2位置決め部材62は、回転台32の正面部32aに対して移動しないように固定される。そのため、第2位置決め部材62により位置決めされた給排液チューブ50の第2所定部52は、回転台32の正面部32aにおいて移動不可能である。すなわち、
図4に示すように、給排液チューブ50の第2所定部52は、回転台32の正面部32a厚さ方向に略平行に配置された状態で回転台32に固定される。
【0044】
同様に、第3位置決め部材63は、容器保持部材33の取付部33cに対して移動しないように固定される。そのため、第3位置決め部材63により位置決めされた給排液チューブ50の第3所定部53は、容器保持部材33の取付部33cの表面において移動不可能である。すなわち、
図4に示すように、給排液チューブ50の第3所定部53は、容器保持部材33の取付部33cに対して上下方向に略平行に配置された状態で容器保持部材33に固定される。
【0045】
本実施形態の細胞培養装置10では、細胞培養容器2に試薬を給液する場合または細胞培養容器2内から試薬を排液する場合、給排液チューブ50が給排液ポート25に接続された状態で回転台32および/または容器保持部材33が回転駆動されるため、給排液チューブ50は、容器保持部材33に取り付けられた第1位置決め部材61と回転台32に取り付けられた第2位置決め部材62との間A1、及び、回転台32に取り付けられた第2位置決め部材62と細胞培養装置10の筐体表面に取り付けられた第4位置決め部材64との間A2において弛ませて余長をもたせている。
【0046】
すなわち、給排液チューブ50の第1所定部51と第2所定部52との間には、余長部N1が形成され、給排液チューブ50の第2所定部52と第4所定部54との間には、余長部N2が形成される。これにより、回転台32および/または容器保持部材33を回転駆動した場合でも、給排液チューブ50が引っ張られて、回転台32および/または容器保持部材33の回転が規制されることはない。
【0047】
図7(a)は、細胞培養容器2の棚面21bが水平な培養姿勢に配置された状態を示している。その状態から、第2駆動部35により容器保持部材33を第2軸Y回りに+90度回転駆動すると、
図7(b)に示すように、給排液チューブ50の第1所定部51及び第3所定部53は、第1位置決め部材61及び第3位置決め部材63により容器保持部材33にそれぞれ位置決めされるため、給排液チューブ50の第1所定部51と第3所定部53との間の長さは略一定に維持された状態で容器保持部材33の回転とともに移動する。
【0048】
また、給排液チューブ50の第2所定部52は、第2位置決め部材62により回転台32に位置決めされており、容器保持部材33の回転につれて、第1位置決め部材61と第2位置決め部材62との間の距離が大きくなる。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51と第2所定部52との間に形成された余長部N1の弛みが少なくなるように変化する。
【0049】
そのとき、第1位置決め部材61により容器保持部材33に位置決めされる給排液チューブ50の第1所定部51には、第2所定部52側に引っ張られる力が作用する。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51は、容器保持部材33の表面に沿って負方向(-)に回転する。
【0050】
これに対して、
図8(a)は、細胞培養容器2の棚面21bが水平な培養姿勢に配置された状態を示している。その状態から、第2駆動部35により容器保持部材33を第2軸Y回りに-135度回転駆動すると、
図8(b)に示すように、給排液チューブ50の第1所定部51及び第3所定部53は、第1位置決め部材61及び第3位置決め部材63により容器保持部材33にそれぞれ位置決めされるため、給排液チューブ50の第1所定部51と第3所定部53との間の長さは略一定に維持された状態で容器保持部材33の回転とともに移動する。
【0051】
また、給排液チューブ50の第2所定部52は、第2位置決め部材62により回転台32に位置決めされており、容器保持部材33の回転につれて、第1位置決め部材61と第2位置決め部材62との間の距離が大きくなる。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51と第2所定部52との間に形成された余長部N1の弛みが少なくなるように変化する。
【0052】
そのとき、第1位置決め部材61により容器保持部材33に位置決めされる給排液チューブ50の第1所定部51には、第2所定部52側に引っ張られる力が作用する。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51は、容器保持部材33の表面に沿って正方向(+)に回転する。
【0053】
細胞培養容器2を旋回させる際は、培地が揺れて細胞に過剰な刺激を与えないような速度で回転させる必要があり、且つ、各棚21に均等に液を供給する必要がある。そのため、以下のような手順で姿勢制御を行う。
【0054】
(給液動作)
図9(a)に示す細胞培養容器2の棚面21bが水平な培養姿勢に配置された状態から、駆動部34、35を駆動するコントローラCは、
図9(b)に示すように給排液ポート25が下方に位置するように第1駆動部34を駆動して容器保持部材33及び細胞培養容器2を第1軸X回りに+90°回転させ、さらに、第2駆動部35を駆動して細胞培養容器2を第2軸Y回りに+90°回転させ、各棚面21bを起立させて、給液姿勢にする。
【0055】
そして、水平方向を向いた給排液ポート25に対して液を供給して各棚空間に均等に液を侵入させた後、第1駆動部34を駆動して細胞培養容器2を第1軸X回りに-90°回転させる。このとき給排液ポート25が液面より高くなったら、第2駆動部35も駆動しはじめ細胞培養容器2を第2軸Y回りに-90°回転させて、各棚面21bを水平な培養姿勢にして、各棚面21b上に液を略均等に行き渡らせる。
【0056】
(排液動作)
試薬を排液する排液動作では、
図10(a)に示すように、細胞培養容器2の棚面21bが水平な培養姿勢に配置された状態から、まず、回転台32及び容器保持部材33を第1軸X回りに+120°回転させるとともに、容器保持部材33を第2軸Y回りに+30°回転させる。すると、
図10(b)に示すように、給排液ポート25が下を向き、各棚空間の液が連通部21cに出て給排液ポート25至るようになる(第1排液姿勢)。本実施形態において、試薬を排液する排液動作には、例えば培養液などの液体を排液する排液動作が含まれる。
【0057】
図11(a)及び
図11(b)は、第1排液姿勢を説明する図であり、
図11(b)は、
図11(a)のA方向から見た図である。
図11(a)及び
図11(b)の第1排液姿勢において、給排液チューブ50の径が大きい場合、給排液チューブ50が下流側に向かって昇り勾配であると、液が昇りきれずに、
図11(b)において最下点となる領域T1に液が残液する。その場合、培養容器内に新しい試薬を供液する際に、使用済みの液が混ざってしまうため、細胞の成長に影響が出る可能性がある。例えば、剥離液を給液する工程において、前工程の培地を排液する際に給排液チューブ50内に残液があると、剥離液が薄められてしまうため、剥離が適正に行われない可能性がある。
【0058】
給排液チューブ50内に残液させない方法としては、給排液チューブ50の径を小さくすることが考えられるが、送液時間がかかり細胞が浮遊している時間が長くなることで細胞に影響が出る。送液時間を短くするために流速を速くすると、細胞に過度な剪断力かかり、細胞に影響が出る可能性がある。
【0059】
そこで、本実施形態の細胞培養装置では、駆動機構30を適正に制御することにより、排液時に、給排液チューブ50内に残液しないように、回転台32及び容器保持部材33を回転駆動する。
【0060】
図11(a)及び
図11(b)の第1排液姿勢から、回転台32及び容器保持部材33を第1軸X回りに-220°回転させるとともに、容器保持部材33を第2軸Y回りに-150°回転させると、給排液ポート25が上方に移動する(第2排液姿勢)。
図12(a)~
図12(c)は、第2排液姿勢を説明する図であり、
図12(b)は、
図12(a)のA方向から見た図であり、
図12(c)は、
図12(a)のB方向から見た図である。そのため、
図11(b)において最下点であった領域T1が上方に移動して、領域T1に残液していた液が、給排液チューブ50の下流側(給排液チューブ50の接続部50aから離れる方向)に向かって移動して、
図12(c)において最下点となる領域T2に移動する。
【0061】
図12(a)~
図12(c)の第2排液姿勢から、回転台32及び容器保持部材33を第1軸X回りに+190°回転させるとともに、容器保持部材33を第2軸Y回りに+120°回転させると、給排液ポート25が下方に移動する(第3排液姿勢)。
図13(a)及び
図13(b)は、第3排液姿勢を説明する図であり、
図13(b)は、
図13(a)のA方向から見た図である。そのため、
図12(c)において最下点であった領域T2が上方に移動して、領域T2にあった液が、給排液チューブ50の下流側の領域T3に向かって移動して、全ての液が給排液チューブ50内から無くなる。
【0062】
このように、給排液チューブ50の下流側に向かって移動する際に、給排液チューブ50が下流側に向かって昇り勾配としないことで、液が常に最下点に向かって流れるようになり、給排液チューブ50内に残液する量を減らすことができる。なお、排液動作の際、ポンプを常に回転し続けることで、液が逆流するのを防止し、液が給排液チューブ50の下流側に向かって流れるようにする。排液を終えたら、次の給液のために
図9(b)の給液姿勢に戻す。
【0063】
以上のように、本実施形態の細胞培養装置10は、ベース31と、ベースに31対して第1軸X回りに回転可能に取り付けられた回転台32と、回転台32に対して第2軸Y回りに回転可能に取り付けられ且つ細胞培養容器2を保持する容器保持部材33と、回転台32を第1軸X回りに回転駆動し且つ容器保持部材33を第2軸Y回りに回転駆動する駆動機構30とを備え、細胞培養容器2の外周面には、給排液チューブ50が接続される給排液ポート25が配置されており、給排液チューブ50において給排液ポート25に接続された接続部50aから所定長さ離れた第1所定部51は、第1位置決め部材61により容器保持部材33に位置決めされ、給排液チューブ50において接続部50aから第1所定部51よりも離れた第2所定部52は、第2位置決め部材62により回転台32に位置決めされており、第1位置決め部材61は、容器保持部材33に対して回転可能に取り付けられる。
【0064】
このようにすれば、給排液チューブ50の第1所定部51を位置決めする第1位置決め部材61を容器保持部材33に回転可能に取り付けることで、給排液チューブ50の第1所定部51と第2所定部52との間に形成される余計な余長を無くすことができる。そのため、細胞培養容器2内に試薬を給液する場合または細胞培養容器2内から試薬を排液する場合に、給排液チューブ50が給排液ポート25に接続された状態で回転台32および/または容器保持部材33が回転駆動されたとしても培養を適正に継続できるように、給排液ポート25に接続された給排液チューブ50の余長が長くなりすぎるのを抑制することができる。
【0065】
本実施形態の細胞培養装置10において、給排液チューブ50の第1所定部51よりも接続部50aに近接する第3所定部53は、第3位置決め部材63により容器保持部材33に位置決めされる。
【0066】
このようにすれば、給排液チューブ50が給排液ポート25に接続された状態で回転台32および/または容器保持部材33が回転駆動された場合に、第1位置決め部材61により容器保持部材33に対して回転可能に位置決めされる給排液チューブ50の第1所定部51の方向が変化しやすくなる。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51と第2所定部52との間に形成される余計な余長を容易に無くすことができる。
【0067】
本実施形態の細胞培養装置10において、第1所定部51と第3所定部53とは、容器保持部材33に対して同一平面上において位置決めされる。
【0068】
このようにすれば、第1位置決め部材61により容器保持部材33に対して回転可能に位置決めされる給排液チューブ50の第1所定部51の方向がより変化しやすくなる。そのため、給排液チューブ50の第1所定部51と第2所定部52との間に形成される余計な余長をさらに無くすことができる。
【0069】
本実施形態の細胞培養装置10において、駆動機構30は、細胞培養容器2内から試薬を排液する排液動作において、給排液ポート25から給排液チューブ50内に流出した試薬がそれに作用する重力により給排液チューブ50内を給排液ポート25から離れる方向に流れるように、回転台32及び容器保持部材33を回転駆動する。
【0070】
このようにすれば、細胞培養容器2内から試薬を排液する際に、試薬が給排液チューブ50内に残るのを防止することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0072】
例えば上記実施形態では、第1所定部51が、容器保持部材33の正面部33aの上端近傍において開口部33bより右側に位置決めされ、第2所定部52が、回転台32において容器保持部材33の右側面部と対向する板状部材の正面部32aに位置決めされるが、それに限られない。第1所定部51が容器保持部材33に位置決めされる箇所、及び、第2所定部52が回転台32に位置決めされる箇所は、任意である。
【0073】
上記実施形態では、給排液チューブ50の第1所定部51よりも接続部50aに近接する第3所定部53が第3位置決め部材63により容器保持部材33に位置決めされるが、それに限られない。給排液チューブ50の接続部50aと第1所定部51との間の部分が、容器保持部材33に位置決めされなくてもよい。また、給排液チューブ50の接続部50aと第1所定部51との間の部分が容器保持部材33に位置決める場合、その位置決めされる箇所の数は、任意である。
【0074】
上記実施形態では、給排液チューブ50の第1所定部51が容器保持部材33に対して360度回転可能に取り付けられるが、それに限られない。第1所定部51が容器保持部材33に対して回転可能な範囲は任意である。
【0075】
上記実施形態では、給排液チューブ50の第2所定部52が回転台32に対して移動しないように固定されるが、第2所定部52が回転台32に対して回転可能に取り付けられてもよい。同様に、上記実施形態では、給排液チューブ50の第3所定部53が容器保持部材33に対して移動しないように固定されるが、第3所定部53が容器保持部材33に対して回転可能に取り付けられてもよい。上記実施形態において、第1位置決め部材61に限らず、第1位置決め部材61、第2位置決め部材62及び第3位置決め部材63の何れの位置決め部材が、回転台32または容器保持部材33に対して回転可能でもよい。
【0076】
上記実施形態では、第1所定部51と第3所定部53とが、容器保持部材33に対して同一平面上において位置決めされるが、それに限られない。第1所定部51と第3所定部53とは、異なる平面上において位置決めされてもよい。
【0077】
上記実施形態では、給排液ポート25や給排液チューブ50が、給液と排液とを兼用しているが、それに限られない。給液と排液のそれぞれに異なる液ポートや液チューブを使用して、給液用経路と排液用経路を分けてもよい。
【0078】
上記実施形態では、細胞培養容器2内から試薬を排液する排液動作において、回転台32及び容器保持部材33が、第1排液姿勢、第2排液姿勢、第3排液姿勢の順に変化するように回転駆動されるが、それに限られない。排液動作において、回転台32及び容器保持部材33が、給排液ポート25から給排液チューブ50内に流出した試薬がそれに作用する重力により給排液チューブ50内を給排液ポート25から離れる方向に流れるように回転駆動されれば、回転台32及び容器保持部材33を姿勢変更する手順は、上記以外の手順でもよい。
【0079】
なお、給排液チューブ50の第1所定部51が容器保持部材33に対して回転しないように固定されていても、排液動作において、回転台32及び容器保持部材33が、給排液ポート25から給排液チューブ50内に流出した試薬がそれに作用する重力により給排液チューブ50内を給排液ポート25から離れる方向に流れるように回転駆動することは可能である。
【0080】
上記実施形態では、多段棚構造の細胞培養容器2を使用しているが、多段棚構造でない細胞培養容器2を使用してもよい。上記実施形態において、給排液チューブ50は、試薬や培養液などの液体が流れるものに限られず、ガス(気体)などが流れるものでもよい。
【0081】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0082】
2 細胞培養容器
10 細胞培養装置
25 給排液ポート(液ポート)
30 駆動機構
31 ベース
32 回転台
33 容器保持部材
50 給排液チューブ(液チューブ)
50a 接続部
51 第1所定部
52 第2所定部
53 第3所定部
61 第1位置決め部材
62 第2位置決め部材
63 第3位置決め部材
X…第1軸
Y…第2軸