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特開2022-119683歯科用ブロック材およびそれを用いる歯科用ブロック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119683
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】歯科用ブロック材およびそれを用いる歯科用ブロック
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/15 20200101AFI20220809BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20220809BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20220809BHJP
   A61K 6/822 20200101ALI20220809BHJP
   A61K 6/816 20200101ALI20220809BHJP
【FI】
A61K6/15
A61C5/70
A61K6/891
A61K6/822
A61K6/816
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016983
(22)【出願日】2021-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(71)【出願人】
【識別番号】517337633
【氏名又は名称】株式会社ULTI-Medical
(71)【出願人】
【識別番号】000108982
【氏名又は名称】ポリプラ・エボニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】北村 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】河野 顕志
(72)【発明者】
【氏名】大山 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】大山 定和
(72)【発明者】
【氏名】澤田 克己
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA09
4C089BA01
4C089BA06
4C089BE07
4C089BE08
4C089CA04
4C159RR15
4C159SS04
(57)【要約】
【課題】CAD/CAM加工がしやすく、かつCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さを有する熱可塑性樹脂を用いる歯科用ブロック材を提供する。
【解決手段】本発明に係る歯科用ブロック材は、JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa及び曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa及び曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂からなる歯科用ブロック材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリカーボネート(PC)、および変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)からなる群から選択される1以上の熱可塑性樹脂であり、前記歯科用ブロック材は、無機フィラー1wt%~30wt%をさらに含む、請求項1に記載の歯科用ブロック材。
【請求項3】
前記無機フィラーは、プラセオジウム化合物、エルビウム化合物及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含む、請求項2に記載の歯科用ブロック材。
【請求項4】
前記歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で加工した後に再利用するための歯科用ブロック材である、請求項1-3のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材。
【請求項5】
再利用の際に使用する歯科用ブロック材であって、前記歯科用ブロック材は、
歯科用CAD/CAM装置で切削する前の請求項1-4のいずれか1項に記載の前記歯科用ブロック材60wt%~80wt%と、
歯科用CAD/CAM装置で切削する際に廃棄物として得られる請求項1-4のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材20wt%~40wt%とを含む、歯科用ブロック材。
【請求項6】
(a)ブロック部と、
(b)ピン部とを備える、歯科用ブロックであって、
前記ブロック部と前記ピン部は、請求項1-5のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材からなる、歯科用ブロック。
【請求項7】
前記ブロック部および前記ピン部は一体成形である、請求項6に記載の歯科用ブロック。
【請求項8】
前記ブロック部の形状は、直方体、立方体、円柱、および球からなる群から選択される形状である、請求項6または7に記載の歯科用ブロック。
【請求項9】
前記ブロック部は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物の重量の110wt%~500wt%である、請求項6-8のいずれか1項に記載の歯科用ブロック。
【請求項10】
前記ブロック部は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物の重量の150wt%~300wt%である、請求項9に記載の歯科用ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ブロック材およびそれを用いる歯科用ブロックに関する。より詳しくは、JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂からなる歯科用ブロック材およびそれを用いる歯科用ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において歯科用ブロックとは、CAD/CAM加工に用いるための、樹脂で構成されるブロックのことを指し、この歯科用ブロックをCAD/CAMで加工することにより、CAD/CAM加工物(クラウン)と呼ばれる歯科用補綴物を製造できる。このCAD/CAM加工物は、例えば、虫歯を患う患者において、虫歯部分を削った後に歯の修復すべき箇所にこのCAD/CAM加工物を補綴することで虫歯の治療を行うなどして使用でき、主に歯の治療用途に使用できる。
【0003】
本明細書において歯科用ブロック材とは、歯科用ブロックにおいて使用する材料のことを指す。従来、歯科用ブロック材としては、金属の台座に熱硬化性樹脂を用いる歯科用ブロック材が使用され、この歯科用ブロック材を用いる歯科用ブロックをCAD/CAM加工していた。
【0004】
特許文献1には、(a)周期表における第2族及び/または第13族の元素を酸化物換算で55wt%以上含む無機フィラーと、(b)重合性単量体と、(c)重合開始剤とを含む組成物の硬化体からなる歯科切削用レジン硬化体が記載されており、熱硬化性樹脂を用いる歯科用ブロック材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-65000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱硬化性樹脂を用いる歯科用ブロック材はCAD/CAM加工が難しく、これを用いる歯科用ブロックから得られるCAD/CAM加工物は、硬い一方でもろくて割れやすいという欠点もあった。そこで熱可塑性樹脂を用いて歯科用ブロック材を調製することが望まれていた。
【0007】
一方、熱可塑性樹脂を用いる歯科用ブロック材は、CAD/CAM加工物材としては硬さ等の特性が充分でない問題があった。そのため、CAD/CAM加工がしやすく、かつCAD/CAM加工物材として使用する上でも充分な硬さ、高い曲げ強度と低い曲げ弾性率を有する熱可塑性樹脂を用いる歯科用ブロック材の開発が望まれていた。
【0008】
上記問題に鑑みて鋭意研究したところ、JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂であれば、CAD/CAM加工に適し、かつCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さを有する歯科用ブロック材が得られることを本発明者らは見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂からなる歯科用ブロック材に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリカーボネート(PC)、および変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)からなる群から選択される1以上の熱可塑性樹脂であり、前記歯科用ブロック材は、無機フィラー1wt%~30wt%をさらに含む、請求項1に記載の歯科用ブロック材に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記無機フィラーは、プラセオジウム化合物、エルビウム化合物及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含む、請求項2に記載の歯科用ブロック材に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で加工した後に再利用するための歯科用ブロック材である、請求項1-3のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、再利用の際に使用する歯科用ブロック材であって、前記歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で切削する前の請求項1-4のいずれか1項に記載の前記歯科用ブロック材60wt%~80wt%と、歯科用CAD/CAM装置で切削する際に廃棄物として得られる請求項1-4のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材20wt%~40wt%とを含む、歯科用ブロック材に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、(a)ブロック部と、(b)ピン部とを備える、歯科用ブロックであって、前記ブロック部と前記ピン部は、請求項1-5のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材からなる、歯科用ブロックに関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記ブロック部および前記ピン部は一体成形である、請求項6に記載の歯科用ブロックに関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記ブロック部の形状は、直方体、立方体、円柱、および球からなる群から選択される形状である、請求項6または7に記載の歯科用ブロックに関する。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記ブロック部は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物の重量の110wt%~500wt%である、請求項6-8のいずれか1項に記載の歯科用ブロックに関する。
【0018】
請求項10に係る発明は、前記ブロック部は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物の重量の150wt%~300wt%である、請求項9に記載の歯科用ブロックに関する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂からなる歯科用ブロック材であるため、適量な曲げ強さを有するためにCAD/CAM加工に適しており、かつCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さと高い曲げ強度と低い曲げ弾性率を有する歯科用ブロック材とすることができる。また、上記特性を有しない歯科用ブロック材と比較して、CAD/CAM装置による加工時間を短くできる。加えて、この歯科用ブロック材から得られる歯科用ブロックは、熱可塑性樹脂からなるため、CAD/CAM装置で切削した際に廃棄物として得られる余剰の歯科用ブロックを熱溶解して射出成形することで、歯科用ブロックを再利用することができる。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、前記熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリカーボネート(PC)、および変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)からなる群から選択される1以上の熱可塑性樹脂であり、前記歯科用ブロック材は、無機フィラー1wt%~30wt%をさらに含むため、CAD/CAM加工がしやすい適量な曲げ強さを有するとともに、CAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さを有する歯科用ブロック材を提供できる。また、無機フィラーは顔料としての役割も有するため、歯科用ブロック材に色を付与することができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、前記無機フィラーは、プラセオジウム化合物、エルビウム化合物及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含むため、この歯科用ブロック材から、患者の口腔内における他の歯と同様の色を有する白色系のCAD/CAM加工物を提供することができる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、前記歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で加工した後に再利用するための歯科用ブロック材であるため、CAD/CAM加工した際に廃棄物として得られる余剰の歯科用ブロックまで無駄なく使用できる歯科用ブロック材を提供できる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、再利用の際に使用する歯科用ブロック材であって、前記歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で切削する前の請求項1-4のいずれか1項に記載の前記歯科用ブロック材60wt%~80wt%と、歯科用CAD/CAM装置で切削する際に廃棄物として得られる請求項1-4のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材20wt%~40wt%とを含むため、歯科用ブロックの性質を落とすことなく歯科用ブロック材を再利用でき、CAD/CAM加工がしやすい適量な曲げ強さを有するとともにCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さ、曲げ強度、曲げ弾性率を有する歯科用ブロック材を提供できる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、(a)ブロック部と、(b)ピン部とを備える、歯科用ブロックであって、前記ブロック部と前記ピン部は、請求項1-5のいずれか1項に記載の歯科用ブロック材からなる、歯科用ブロックであるため、適量な曲げ強さを有することからCAD/CAM加工に適し、CAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さを有する歯科用ブロックを提供できる。また、熱可塑性樹脂は射出成形できるため、所望のCAD/CAM加工物の形状やサイズにあらかじめ近い形状の歯科用ブロックを製造することができる。そのため、CAD/CAM加工にかかる時間を短縮することができ、迅速に望みのCAD/CAM加工物を提供することが可能となる。
【0025】
請求項7に係る発明によれば、前記ブロック部および前記ピン部は一体成形であるため、接着剤を用いることなく歯科用ブロックを提供でき、金属からなるピン部を用いずともこの歯科用ブロックをCAD/CAM加工できる。また、CAD/CAM加工する際に廃棄物として得られる歯科用ブロックを再利用する場合においても、そのまま歯科用ブロックを熱溶解させることができるため、金属からなるピン部を備える従来の歯科用ブロックと比較して、歯科用ブロックを低コストかつ簡易に再利用することができる。
【0026】
請求項8に係る発明によれば、前記ブロック部の形状は、直方体、立方体、円柱、および球からなる群から選択される形状であるため、製造するCAD/CAM加工物の大きさや形状にあらかじめ合わせたブロック部とすることでCAD/CAM加工の時間を短縮することができ、廃棄物である余剰の歯科用ブロックの量も減らすことができる。
【0027】
請求項9に係る発明によれば、前記ブロック部は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物の重量の110wt%~500wt%であるため、CAD/CAM加工の時間を短縮することができ、所望のCAD/CAM加工物を迅速に提供できる。また、廃棄物である余剰の歯科用ブロックの量も減らすことができるため、環境への負荷が少ない歯科用ブロックを提供できる。
【0028】
請求項10に係る発明によれば、前記ブロック部は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物の重量の150wt%~300wt%であるため、CAD/CAM加工の時間を短縮することができ、所望のCAD/CAM加工物を迅速に提供できる。また、廃棄物である余剰の歯科用ブロックの量も減らすことができるため、環境への負荷が少ない歯科用ブロックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの斜視図である。
図2】(a)本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの斜視図である。(b)本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの平面図である。
図3】(a)本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの斜視図である。(b)本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの側面図である。
図5】本発明の実施形態に係る歯科用ブロックから得られるCAD/CAM加工物を患者の口腔内の歯に装着するときの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る歯科用ブロック材(以下、単に「本歯科用ブロック材」とも言う)の好適な実施形態について説明する。
【0031】
本歯科用ブロック材は、CAD/CAM加工がしやすく、かつCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さ、曲げ強度、曲げ弾性率を有する歯科用ブロック材とするため、一定の硬さと曲げ強さ、曲げ弾性率を有する熱可塑性樹脂からなる。
【0032】
より具体的には、本歯科用ブロック材は、ビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、および曲げ強さが150MPa~250MPaの熱可塑性樹脂からなる。そのため、本歯科用ブロック材はCAD/CAM加工物(90)として使用する上で充分な硬さを有し、かつ適度な靭性も有するため、CAD/CAM加工をする際にも割れにくく、加工がしやすい。熱可塑性樹脂のビッカース硬さが20HV0.2未満である場合、CAD/CAM加工物(90)として使用する上で充分な硬さとは言えず、患者の口腔内でCAD/CAM加工物(90)を使用する際の耐久性が低くなる。一方、熱可塑性樹脂のビッカース硬さが35HV0.2を超える場合、充分な硬さを有するもののCAD/CAM加工に手間がかかり、CAD/CAM加工物(90)を迅速に提供することが難しくなる。また、熱可塑性樹脂の曲げ強さが150MPa未満である場合、靭性に欠けるため、CAD/CAM加工物(90)として長期的に使用した際に割れやすい。一方、熱可塑性樹脂の曲げ強さが250MPaを超える場合、充分な靭性を有するものの曲げ弾性率が向上し、口腔内で割れやすいこととなる。また、CAD/CAM加工物(90)を迅速に提供することが難しくなる。また、熱可塑性樹脂の曲げ弾性率が2GPa以下である場合、材料的に靭性がありすぎて変形の恐れがあり、10GPa以上である場合、材料がもろくなり、口腔内での破折のリスクがある。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、ビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、および曲げ強さが150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2~10GPaの熱可塑性樹脂であれば全て使用でき、特にエンジニアプラスチックであればより好適に使用できる。例えば、熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリアリールケトン(PAK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンエーテルケトン(PEKEKEK)、ポリエーテルケトンケトンケトン(PEKKK)、またはこれらの組み合わせなどを好適に使用できる。また、PEEK、PEKK、PC、m-PPE、またはこれらの組み合わせを熱可塑性樹脂として使用することが特に好ましい。
【0034】
本歯科用ブロック材は、上述した熱可塑性樹脂を主成分として好適に含むものであり、含有量としては、60wt%~100wt%であることが望ましい。熱可塑性樹脂の含有量60wt%未満では、ビッカース硬さ20HV0.2~35HV0.2、および曲げ強さ150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2~10GPaの特性を有する歯科用ブロック材が得られず、CAD/CAM加工が難しく、CAD/CAM加工物材として使用する上でも充分な諸特性を有しない。
【0035】
本歯科用ブロック材は、無機フィラーを適量含有することが好ましい。無機フィラーは、無機酸化物で融点が500℃以上のものであれば好適に使用でき、例えばシリカ、アルミナ、アルミノシリケートガラス、シリカファイバー、プラセオジウム化合物、エルビウム化合物及び/又はマンガン化合物、酸化チタン、黄色酸化鉄、またはこれらの組み合わせなどを使用できる。本歯科用ブロック材が無機フィラーを含有することにより、硬度や曲げ強さなどの物性を好適に調整できる。また、ビッカース硬さ20HV0.2~35HV0.2、および曲げ強さ150MPa~250MPa、及び曲げ弾性率が2~10GPaの特性を付与しやすいため、プラセオジウム化合物、エルビウム化合物及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含有する無機フィラーとPEEK、PEKK、PC、m-PPE、またはこれらの組み合わせからなる熱可塑性樹脂とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0036】
本明細書においてプラセオジウム化合物は、酸化プラセオジウムを主として含み、加えて塩化プラセオジム(III)などの塩を含む化合物のことを指す。
【0037】
本明細書においてエルビウム化合物は、酸化エルビウムを主として含み、加えて塩化エルビウム、硝酸エルビウム、フッ化エルビウム、または蓚酸エルビウムなどの塩を含む化合物のことを指す。
【0038】
本明細書においてマンガン化合物はマンガンを主として含み、酸化アルミニウムに固溶させたマンガンピンク、酸化マンガンなどの化合物のことを指す。
無機フィラーは顔料としての役割も有するため、無機フィラーが有する色を歯科用ブロック材に付与することもできる。例えば、酸化プラセオジウムは黄色、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物は赤色、および酸化チタンは白色を本歯科用ブロック材にそれぞれ付与できる。無機フィラーの含有量としては、例えば、1wt%~30wt%、1wt%~40wt%、1wt%~50wt%、5wt%~30wt%、10wt%~30wt%、15wt%~30wt%、20wt%~30wt%、25wt%~30wt%、5wt%~35wt%、15wt%~35wt%、20wt%~35wt%、25wt%~35wt%、25wt%~40wt%、20wt%~50wt%、または30wt%~60wt%の含有量とすることができる。また、無機フィラーの含有量は1wt%~30wt%であることが好ましく、歯科用ブロック材に程良く色を付与するとともに、一定の硬度および曲げ強さ、曲げ弾性率を付与できる。無機フィラーの含有量が1wt%未満では無機フィラーの色を歯科用ブロック材に充分に付与できず、無機フィラーの含有量が30wt%を超える場合は歯科用ブロック材の曲げ弾性率が上がるために壊れやすくなる。
【0039】
無機フィラーは、酸化プラセオジウム、酸化エルビウム及び/又はマンガンピンク、および酸化チタンの3種類を組み合わせた無機フィラーを使用することが好ましく、歯本来の白色系の色を付与するとともに、一定の硬度および曲げ強さを付与できる。
【0040】
例えば、酸化プラセオジウム、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含む無機フィラー10wt%を本歯科用ブロック材に含有させる場合、酸化プラセオジウムの含有量を1wt%~2wt%、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物の含有量を0.01wt%~1wt%、および酸化チタンの含有量を7wt%~9wt%で用いることができる。
【0041】
他の例としては、酸化プラセオジウム、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含む無機フィラー20wt%を本歯科用ブロック材に含有させる場合、酸化プラセオジウムの含有量を1wt%~2wt%、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物の含有量を0.01wt%~1wt%、および酸化チタンの含有量を17wt%~19wt%で用いることができる。
【0042】
さらに他の例としては、酸化プラセオジウム、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物、および酸化チタンを含む無機フィラー30wt%を本歯科用ブロック材に含有させる場合、酸化プラセオジウムの含有量を1wt%~2wt%、酸化エルビウム及び/又はマンガン化合物の含有量を0.01wt%~1wt%、および酸化チタンの含有量を27wt%~29wt%で用いることができる。
【0043】
本歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で加工した後に再利用するための歯科用ブロック材として好適に使用できる。これは、本歯科用ブロック材は熱可塑性樹脂を主成分として用いているため、歯科用ブロック(80)として一度射出成形した後でも熱溶解させることにより、改めて射出成形できるためである。このように、本歯科用ブロック材は再利用できるため、熱硬化性樹脂を用いる従来の歯科用ブロック材と比較して、材料費のコスト削減および環境への負荷を低く抑えることができる。
【0044】
本歯科用ブロック材は、無機フィラーに限定されず、他の添加剤を含むものであってもよい。このような添加剤としては、当業者に自明のものであれば全て使用できる。
【0045】
本歯科用ブロック材の製造方法としては、上述した熱可塑性樹脂と無機フィラーとを加熱しながら容器中で混合することにより製造する。歯科用ブロック材の製造方法は特に限定されず、当業者に自明の方法であれば全て使用できる。
【0046】
再利用の際に使用する本歯科用ブロック材は、歯科用CAD/CAM装置で切削する前の本歯科用ブロック材60wt%~80wt%と、歯科用CAD/CAM装置で切削する際に廃棄物として得られる本歯科用ブロック材20wt%~40wt%を含有する歯科用ブロック材を好適に使用できる。本発明者らは、上述した割合で配合することにより、未加工の本歯科用ブロック材と比較しても、性質をほとんど落とさない歯科用ブロック(80)を提供できることを見出した。これにより、上述の割合の本歯科用ブロック材を用いることにより、CAD/CAM加工がしやすい適量な曲げ強さを有するとともにCAD/CAM加工物(90)として使用する上でも充分な硬さを有する歯科用ブロック材を提供できる。
【0047】
本発明に係る歯科用ブロック(以下、単に「本歯科用ブロック」とも言う)の好適な実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0048】
図1は、本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの斜視図である。図2aは、本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの斜視図である。図2bは、本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの平面図である。図3aは、本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの斜視図である。図3bは、本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの平面図である。図4は、本発明の一実施形態に係る歯科用ブロックの側面図である。
【0049】
図1に示すように、本歯科用ブロック(80)は、ブロック部(81)とピン部(82)とを備える。歯科用ブロック(80)は上述したような歯科用ブロック材を成形したものであり、実際にCAD/CAM装置にセットして加工するための材料である。
【0050】
ブロック部(81)は、CAD/CAM加工することにより、CAD/CAM加工物(90)となる部位である。ブロック部(81)の形状は、例えば、直方体、立方体、円柱、または球などの形状とすることができる。例えば、ブロック部(81)の形状が直方体である場合、図1に示している高さXは10mm~20mm、縦の長さYは10mm~20mm、および横の長さZは15mm~65mmであることが好ましい。高さX、縦の長さY、および横の長さZが各最小値未満である場合は歯冠の形状にしにくく、各最大値を超える場合は加工時間がかかり、歯科用ブロック(80)の廃棄物の量が多くなる。
【0051】
図2は、ブロック部(81)の形状が円柱のものを示している。また、図3に示すように、うちわ型の形状であるブロック部(81)とすることもできる。
【0052】
ブロック部(81)の形状は上述した形状に限定されず、例えば、図4に示すように、歯冠に沿った形状のブロック部(81)を用いることもできる。図4の例では、側面が略M字型のブロック部(81)を使用している。このように、ブロック部(81)の形状および大きさを目的の切削物に近い形状および大きさとすることで、CAD/CAM加工の時間を短縮することができ、廃棄物である余剰の歯科用ブロック(80)の量も減らすことができる。
【0053】
ピン部(82)は、CAD/CAM加工機に取り付けるための治具である。したがって、ピン部(82)を備えることにより、本歯科用ブロック(80)をCAD/CAM加工機に固定でき、加工する際に特定の位置に調節できる。ピン部(82)の形状は特に限定されず、当業者に自明のピン部(82)の形状であれば全て使用できる。例えば、円柱状のピン部(82)を使用でき、このピン部(82)はCAD/CAM加工機に取り付けるための溝を適宜有していてもよい。
【0054】
ブロック部(81)とピン部(82)は、両方とも上述した本歯科用ブロック材からなる。そのため、ブロック部(81)とピン部(82)は、ビッカース硬さ20HV0.2~35HV0.2、および曲げ強さ150MPa~250MPa、曲げ弾性率2~10GPaの特性をそれぞれ有する。したがって、本歯科用ブロック(80)は、CAD/CAM加工がしやすく、充分な硬さを有するCAD/CAM加工物(90)を提供することができる。
【0055】
本歯科用ブロック(80)は、ブロック部(81)とピン部(82)とを本歯科用ブロック材を用いて一体成形にすることが好ましい。そうすることで、本歯科用ブロック(80)を簡易かつ大量に製造することができ、歯科用ブロック(80)の製造コストを削減できる。また、ブロック部(81)とピン部(82)を一体成形した本歯科用ブロック(80)は、CAD/CAM加工後の廃棄物として得られる歯科用ブロック(80)をそのまま熱溶解して再利用できるため、コストの削減と環境への負荷を抑えることができる。
【0056】
ブロック部(81)は、歯科用CAD/CAM装置で切削して得られるCAD/CAM加工物(90)の重量に対して、例えば、110wt%~500wt%の重量または150wt%~300wt%の重量などとすることができる。重量範囲が各最小値未満である場合は、ブロック部(81)の重量が小さすぎるためにCAD/CAM加工が困難となり、重量範囲が各最大値を超える場合は、CAD/CAM加工に時間がかかり、廃棄物である余剰の歯科用ブロック(80)の量も多くなってしまう。
【0057】
本歯科用ブロック(80)は、例えば、本歯科用ブロック材を熱で液状にし、任意の形状を有する射出成形用の型に流し込み、冷却して固めることにより製造できる。このように、本歯科用ブロック(80)の製造方法は、例えば射出成形による方法を用いることができるが、当業者に自明の方法であれば全て使用できる。
【0058】
CAD/CAM加工物(90)は、例えば、本歯科用ブロック(80)をCAD/CAM装置で加工することにより得ることができる。図5に示すように、CAD/CAM加工物(90)の使用方法としては、例えば、患者の口腔内において、歯茎(93)上の歯(91)のいずれかが虫歯になった際に、歯(91)を削って支台歯(92)を作り、その支台歯(92)の上から被せるなどして使用する。しかし、CAD/CAM加工物(90)の使用方法は上述した例に限定されない。CAD/CAM加工物(90)を詰め物またはブリッジとしても使用でき、その場合は、CAD/CAM加工物(90)の形状を詰め物状またはブリッジ状に加工して使用する。
【実施例0059】
以下、本発明に係る歯科用ブロック材および歯科用ブロックの実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例1-8]
(歯科用ブロックおよびそれを用いるCAD/CAM加工物の製造)
実施例1-8では、表1および表2に示す割合で混合した熱可塑性樹脂を平均粒径d50=10μmとなるように粉砕した。続いて、無機フィラーとして酸化チタン、酸化プラセオジウム、および酸化エルビウムもしくはマンガンピンクを粉砕物に混合し、得られた歯科用ブロック材を熱溶解することにより射出成形し、ブロック部の形状が直方体である歯科用ブロックを製造した。実施例1-8における歯科用ブロックの組成、ブロック部の大きさ、および加工時間を表1および表2に示した。
【0061】
得られた実施例1-8の歯科用ブロックを歯科用ミリングマシンDWX-52D(株式会社松風製)を用いて臼歯サイズモデルに加工し、CAD/CAM加工物を得た。
【0062】
(測定試験)
実施例1-8で得られたCAD/CAM加工物において、JIS Z 2244で定められる試験方法に基づいてビッカース硬さを測定した。また、JIS T 6517:2011で定められる試験方法に基づいて、曲げ強さ、吸水量、および溶解量を測定した。また、色差計を使用して実施例1-8で得られたCAD/CAM加工物の色を測定した。なお、測定にあたってはCAD/CAMブロックを厚み2.0になるように加工し、測色を行い、VITAシェードガイドA3との色差を測定した。結果を表1および表2に示した。
【0063】
[比較例1]
熱可塑性樹脂と無機フィラーの混合割合を変え、実施例1-8の歯科用ブロックと同様の製造方法により、比較例1の歯科用ブロックおよびそれを用いるCAD/CAM加工物を製造した。
【0064】
[比較例2]
熱硬化性樹脂を加熱・加圧重合により成形し、比較例2の歯科用ブロック(松風ブロックHC、株式会社松風)を得た。得られた比較例2の歯科用ブロックを歯科用ミリングマシンDWX-52D(株式会社松風製)を用いて臼歯サイズモデルに加工し、CAD/CAM加工物を得た。
【0065】
(測定試験)
比較例1および比較例2で得られたCAD/CAM加工物において、JIS Z 2244で定められる試験方法に基づいてビッカース硬さを測定した。また、JIS T 6517:2011で定められる試験方法に基づいて、曲げ強さ、曲げ弾性率、吸水量、および溶解量を測定した。また、色差計を使用して比較例1、2で得られたCAD/CAM加工物の色を測定した。結果を表3に示した。
【0066】
(実施例1-8および比較例1の歯科用ブロックを再利用したCAD/CAM加工物の製造)
実施例1-8および比較例1の歯科用ブロックを熱溶解させ、得られた歯科用ブロック材を再度射出成形し、ブロック部の形状が直方体である歯科用ブロックを製造した。得られた歯科用ブロックを歯科用ミリングマシンDWX-52D(株式会社松風製)を用いて臼歯サイズモデルに加工し、CAD/CAM加工物を得た。なお、比較例2の歯科用ブロックは熱硬化性樹脂で構成されているため、再利用することはできなかった。
【0067】
(測定試験)
実施例1-8および比較例1で得られた再利用品であるCAD/CAM加工物において、JIS T 6517:2011で定められる試験方法に基づいて、曲げ強さを測定した。結果を表1、表2、および表3に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
(考察)
実施例1-4では、熱可塑性樹脂としてPEEKを用いて歯科用ブロックを製造した。表1のデータから、酸化チタン、酸化プラセオジウム、および酸化エルビウム及び/又はマンガンピンクを含む無機フィラーの含有量を多くすることにより、曲げ強さの値が下がり、曲げ弾性率が上がり、ビッカース硬さの値が上がることが分かった。したがって、靭性はやや落ちるものの、患者の口腔内においてCAD/CAM加工物として使用する上で充分な硬さを有することが分かった。また、酸化チタンの含有量が多い歯科用ブロックは白色系となるため、補綴物として使用する上で好ましい色にできることが分かった。また、そのような歯科用ブロックであっても、ビッカース硬さの値が20HV0.2~35HV0.2の範囲内であり、かつ曲げ強さの値が150MPa~250MPa、曲げ弾性率が2.0~10.0GPaの範囲内であるため、程良い靭性と充分な硬さを有する歯科用ブロックであることが分かった。また、再利用品の歯科用ブロックの曲げ強さも150MPa~250MPaの範囲内であるため、再利用した際にも物性がほとんど落ちないことが示唆された。
【0072】
実施例5では熱可塑性樹脂としてPEKKを用いて歯科用ブロックを製造した。実施例5のPEKKの場合ではビッカース硬さが24HV0.2であり、かつ曲げ強さの値が189MPa、曲げ弾性率が3.0GPaであるため、程良い靭性と充分な硬さを有する歯科用ブロックであることが分かった。また、再利用品の歯科用ブロックの曲げ強さが181MPaであるため、再利用した際にも物性がほとんど落ちないことが示唆された。
【0073】
実施例6では熱可塑性樹脂としてPCを用いて歯科用ブロックを製造した。実施例6のPCの場合ではビッカース硬さが22HV0.2であり、曲げ強さの値が152MPa、曲げ弾性率が3.5GPaであるため、程良い靭性と充分な硬さを有する歯科用ブロックであることが分かった。また、再利用品の歯科用ブロックの曲げ強さが149MPaであるため、再利用した際にも物性がほとんど落ちないことが示唆された。
【0074】
比較例1は、PEEK35wt%と無機フィラー65wt%とを混合して歯科用ブロックを製造した。この歯科用ブロックは、ビッカース硬さが24HV0.2であり、曲げ強さが189MPaであるため、程良い靭性と充分な硬さを有する歯科用ブロックであるものの、曲げ弾性率も大きいために患者の口腔内で長期的に使用した場合は壊れる可能性があることが分かった。
【0075】
比較例2は、熱硬化性樹脂を用いて成形した歯科用ブロックである。比較例2の歯科用ブロックは、ビッカース硬さが65HV0.2であるために充分な硬さを有する。一方、曲げ強さが167MPaであり、曲げ弾性率が12.0GPaであるために靭性に少し欠け、CAD/CAM加工物として長期的な臨床使用には難しい特性があることが分かった。また、比較例2の歯科用ブロック材は熱硬化性樹脂からなるため、再利用することができない。
【0076】
実施例1-8、比較例1、2の色の測定結果から、酸化チタン、酸化プラセオジウム、および酸化エルビウム及び/又はマンガンピンクを含む無機フィラーを添加することにより、一般の歯の色にかなり近くなることが分かった。したがって、実施例1-8のCAD/CAM加工物は、患者の口腔内において快適に使用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る歯科用ブロック材によれば、JIS Z 2244で定められるビッカース硬さが20HV0.2~35HV0.2、およびJIS T 6517:2011で定められる曲げ強さが150MPa~250MPa、曲げ弾性率2.0~10.0GPaの熱可塑性樹脂からなる歯科用ブロック材であるため、適量な曲げ強さを有するためにCAD/CAM加工に適しており、かつCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さと高い曲げ強度と低い曲げ弾性率を有する歯科用ブロック材とすることができる。また、上記特性を有しない歯科用ブロック材と比較して、CAD/CAM装置による加工時間を短くできる。加えて、この歯科用ブロック材から得られる歯科用ブロックは、熱可塑性樹脂からなるため、CAD/CAM装置で切削した際に廃棄物として得られる余剰の歯科用ブロックを熱溶解して射出成形することで、歯科用ブロックを再利用することができる。
【0078】
したがって、本発明に係る歯科用ブロック材は、CAD/CAM加工に適し、かつCAD/CAM加工物として使用する上でも充分な硬さを有する歯科用ブロック材として、好適に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
80 歯科用ブロック
81 ブロック部
82 ピン部
90 CAD/CAM加工物
91 歯
92 支台歯
93 歯茎
図1
図2
図3
図4
図5