(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119745
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】磁界センサ装置及び磁界センサ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20220809BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
G01R33/09
H01L43/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022014686
(22)【出願日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】10 2021 201 042.3
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム・ナーゲル
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・ペーター・ウーリヒ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ティブス
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー・シーマン
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD55
2G017BA05
2G017BA07
2G017BA09
2G017BA10
2G017CC04
5F092AA01
5F092AB01
5F092AC12
5F092DA10
5F092GA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁界センサ装置及び磁界センサ装置の製造方法に関する。
【解決手段】ホイートストンブリッジ回路に接続された4つの抵抗素子を有する磁界センサ装置であって、各抵抗素子が少なくとも1つのトンネル磁気抵抗であるTMR素子を有し、各TMR素子11~14が導電性の固定層71と、導電性の自由層72と、固定層71及び自由層72を分離する電気絶縁トンネルバリアとを有し、自由層71は異方性幾何学形状を有する。励磁装置2は交番磁界を発生させる。補償装置3は直流磁界を発生させる。測定装置4は、ホイートストンブリッジ回路のブリッジ電圧に応じて測定信号を出力する。制御装置5は、測定信号の直流成分が所定値に制御されるように補償装置3を駆動制御するために、測定装置から出力される測定信号に基づいて制御信号を生成する。評価装置6は、励磁電流と、測定装置から出力される測定信号とに基づいて、外部磁界強度を特定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイートストンブリッジ回路に接続された4つの抵抗素子(R1~R4)であって、各抵抗素子(R1~R4)が少なくとも1つのトンネル磁気抵抗であるTMR素子を有し、各TMR素子(11~14)が導電性の固定層(71)と、導電性の自由層(72;72a~72d)と、前記固定層(71)及び前記自由層(72;72a~72d)を分離する電気絶縁トンネルバリアとを有し、前記自由層(72;72a~72d)が異方性幾何学形状を有する、抵抗素子(R1~R4)と、
少なくとも1つの磁界装置(21)を備える励磁装置(2)であって、前記少なくとも1つの磁界装置(21)に励磁電流を通電して、各抵抗素子(R1~R4)に対して前記抵抗素子(R1~R4)に作用する交番磁界を発生させるように構成されている、励磁装置(2)と、
各抵抗素子(R1~R4)に対して前記抵抗素子(R1~R4)に作用する直流磁界を発生させるように構成されている補償装置(3)と、
前記ホイートストンブリッジ回路のブリッジ電圧に応じて測定信号を出力するように構成されている測定装置(4)と、
前記測定信号の直流成分が所定値に制御されるように前記補償装置(3)を駆動制御するために、前記測定装置(4)から出力される前記測定信号に基づいて制御信号を生成するように構成されている制御装置(5)と、
前記励磁電流と、前記測定装置(4)から出力される前記測定信号とに基づいて、外部磁界強度を特定するように構成されている評価装置(6)と、
を備えた、磁界センサ装置(10)。
【請求項2】
前記自由層(72;72a~72d)が、2つの主軸に対して対称的に構成され、前記主軸に沿った前記自由層(72;72a~72d)の伸張が、前記2つの主軸について異なる、請求項1に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項3】
前記自由層(72;72a~72d)が、楕円形、長方形、菱形又はレンズ形に成形されている、請求項2に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項4】
前記磁界装置(21)が、少なくとも1つのコイル又は少なくとも1つの導電体を有し、前記励磁装置(2)が、交番磁界を発生させるために、前記少なくとも1つのコイル又は前記少なくとも1つの導電体に励磁電流を通電するように構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコイル又は前記少なくとも1つの導電体が、前記少なくとも1つのTMR素子(11~14)の前記自由層(72)の磁化方向に対して横方向に延びる、請求項4に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項6】
前記励磁装置(2)が、前記補償装置(3)を備え、前記励磁電流の交流成分が前記交番磁界を発生させ、前記励磁電流の直流成分が前記直流磁界を発生させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項7】
各抵抗素子(R1~R4)が、並列及び/又は直列に接続された複数のTMR素子(11~14)を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項8】
前記制御装置(5)が、前記測定信号がゼロボルトのブリッジ電圧について実質的に対称に延びるように、前記補償装置(3)を駆動制御するように構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項9】
前記励磁装置(2)及び前記補償装置(3)が、薄膜プロセスによって製造されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)。
【請求項10】
少なくとも励磁装置(2)及び補償装置(3)が薄膜プロセスによって製造されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)の製造方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の磁界センサ装置(10)の作動方法であって、
前記磁界センサ装置(10)が、
ホイートストンブリッジ回路に接続された4つの抵抗素子(R1~R4)を備え、
少なくとも1つの磁界装置(21)を備える励磁装置(2)と、
補償装置(3)と、
測定装置(4)と、
制御装置(5)と、
評価装置(6)と
を備え、
各抵抗素子(R1~R4)に対して前記抵抗素子(R1~R4)に作用する交番磁界を発生させるように、前記少なくとも1つの磁界装置(21)に励磁電流を通電するステップと、
各抵抗素子(R1~R4)に対して前記抵抗素子(R1~R4)に作用する直流磁界を発生させるステップと、
前記ホイートストンブリッジ回路のブリッジ電圧に応じて測定信号を出力するステップと、
前記測定信号の直流成分が所定値に制御されるように前記補償装置(3)を駆動制御するために、前記測定装置(4)から出力される前記測定信号に基づいて制御信号を生成するステップと、
前記励磁電流と、前記測定装置(4)から出力される前記測定信号とに基づいて、外部磁界強度を特定するステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界センサ装置及び磁界センサ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動化の増加に伴い、自動車の電流測定の重要性がより一層高まっている。公知の測定方法では、測定用シャントが使用され、電圧降下に基づいて、測定用シャントを流れる電流を測定する。ここでの問題は、測定回路と評価回路をガルバーニ絶縁することが頻繁に必要になるが、この測定方法ではそれができず、追加の電子部品を用いて構成しなければならないことである。
【0003】
そのため、例えば磁界を発生させる電流を磁界に基づいて特定する非接触方式がより一層使用されている。線形性が改善された磁界センサは、米国特許出願公開第2016/0320459号より公知である。EP1450176A1は、磁界測定セルと、空隙によって分離された少なくとも2つの部分を有し、磁気シールドの空洞に配置された磁界測定セルを囲む磁気シールドとを備える磁界センサを開示している。さらに、EP2423693B1から、誘電体とハウジングに設けられた相補的なロック要素によって、誘電体をハウジングにロックすることができるトロイダルコア変流器が公知である。
【0004】
変圧器の原理で作動する誘導型システムは、直流成分の検出には適さない。非接触式電流測定には様々なアプローチがある。したがって、例えば、線形法とフラックスゲート原理とを区別することができる。
【0005】
線形法は、定義された測定範囲全体についての電流センサの線形挙動に基づく。測定量は、実質的に線形関数を介して、例えば電圧などの電気的に検出可能な量に変換される。
これに対し、フラックスゲート原理は、特にセンサの磁性材料の非線形挙動を利用して、センサ素子の必要な飽和磁化を特定する。これは外部磁界に応じて変化し、中心点位置を移動させる。ここで、中心点位置は、負方向の磁界及び正方向の磁界で飽和に必要な振幅の差異に相当する。
【0006】
磁性材料を磁界の向きを変えて周期的に飽和状態にする、発振基準磁界を発生させると、この中心点のずれを特定し、そこから測定すべき外部磁界を推測することができる。
非接触式電流測定には、例えば異方性磁気抵抗効果(AMR効果)、巨大磁気抵抗効果(GMR効果)、トンネル磁気抵抗効果(tunnel magnetoresistance、TMR効果)などに基づくセンサを使用することができる。これらのセンサは、線形用途、多くの場合測定ブリッジ用途において使用される。この際、このタイプのセンサの線形特性曲線を改善する負担がある。
【0007】
フラックスゲート原理に関する磁気コア内の強磁性コアの磁気反転は、センサで検出することができる。この時、励磁コイル及び強磁性コアからなる磁気回路を用いることができる。センサは、受信コイル又はリニア磁気センサのいずれかを使用する。また、磁気コアに巻いた1つのコイルを励磁器及び受信器として同時に使用することも意図され得る。さらに、補償コイルを用いて外部磁界を補償し、それによって中心点位置を修正することもできる。そして、必要な補償電流が外部磁界の基準となる。
【0008】
米国特許出願公開第2018/0191282号の文献から、2つの磁気センサ素子でトンネル磁気抵抗効果(TMR)を使用した磁界センサ装置が公知である。TMR効果のさらなる適用は、米国特許出願公開第2016/0320462号、EP2284553A1の文献から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0320459号
【特許文献2】EP1450176A1
【特許文献3】EP2423693B1
【特許文献4】米国特許出願公開第2018/0191282号
【特許文献5】米国特許出願公開第2016/0320462号
【特許文献6】EP2284553A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、独立請求項の特徴を有する磁界センサ装置及び磁界センサ装置の製造方法を提供する。さらに、本発明は、記載された磁界センサ装置の作動方法の権利を主張する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
好ましい実施形態は、それぞれの従属請求項の主題である。
第1の態様によれば、本発明は、ホイートストンブリッジ回路に接続された4つの抵抗素子を有する磁界センサ装置であって、各抵抗素子は少なくとも1つのトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)を有し、各TMR素子は、導電性の磁気固定層(fixed layer)と、導電性の磁気自由層(free layer)と、固定層及び自由層を分離する電気絶縁トンネルバリアとを有し、自由層は異方性幾何学形状を有する、磁界センサ装置に関する。磁界センサ装置は、少なくとも1つの磁界装置を備える励磁装置であって、少なくとも1つの磁界装置に励磁電流を通電して、各抵抗素子に対して抵抗素子に作用する交番磁界を発生させるように構成されている励磁装置をさらに備える。磁界センサ装置は、各抵抗素子に対して抵抗素子に作用する直流磁界を発生させるように構成されている補償装置をさらに備える。磁界センサ装置は、ホイートストンブリッジ回路のブリッジ電圧に応じて測定信号を出力するように構成されている測定装置を備える。磁界センサ装置は、測定信号の直流成分が所定値に制御されるように補償装置を駆動制御するために、測定装置から出力される測定信号に基づいて制御信号を生成するように構成されている制御装置をさらに備える。最後に、磁界センサ装置は、励磁電流と、測定装置から出力される測定信号とに基づいて、外部磁界強度を特定するように構成されている評価装置を備える。
【0012】
第2の態様によれば、本発明は、本発明に係る磁界センサ装置の製造方法であって、少なくとも励磁装置及び補償装置は、薄膜プロセスによって製造される磁界センサ装置の製造方法に関する。
【0013】
フラックスゲート法では、特に非線形のB-H特性曲線を有する磁界感応材料(強磁性コア)の使用を有する。これにより、一般的に設置スペースが大きくなり、そのサイズや位置が磁界に影響を与える可能性がある。本発明に係る磁界センサ装置は、センサ出力特性曲線の必要な非線形性を発生させるために、センサ素子が幾何学的異方性を有するように構築されている。磁界感応材料の機能をセンサ素子に内蔵することで、設置スペースを節約することができる。
【0014】
本発明の基礎となる考えは、高精度な線形磁界センサ装置を提供するために、トンネル磁気抵抗に基づいた磁界センサの幾何学的に発生する非線形性を利用することである。このため、非線形TMR素子は、ホイートストン測定ブリッジで接続されている。
【0015】
TMRに基づくセンサは、到達可能な測定周波数に関して有利であり、そのためフラックスゲート原理での使用に特に適している。2つの動作点を高い周波数で周期的に切り換えることで、励磁装置には一定の要求がなされるが、これは、励磁コイルを使用する場合、必要な電圧は励磁コイルのインダクタンスに大きく依存するためである。これにより、高い測定帯域幅に高い精度で到達することも可能になる。
【0016】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、自由層は、2つの主軸に対して対称的に構成され、主軸に沿った自由層の伸張は、2つの主軸について異なる。主軸は主磁化方向、ひいては磁界センサ装置の動作点を決定する。
【0017】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、自由層は、楕円形、長方形、菱形又はレンズ形に成形されている。したがって、自由層は、特に好ましくは、2つの対称軸又は主軸を有する。
【0018】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、磁界装置は、少なくとも1つのコイル又は少なくとも1つの導電体を有し、励磁装置は、交番磁界を発生させるために、少なくとも1つのコイル又は少なくとも1つの導電体に励磁電流を通電するように構成されている。
【0019】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、少なくとも1つのコイル又は少なくとも1つの導電体は、少なくとも1つのTMR素子の自由層の磁化方向に対して横方向に延びる。
【0020】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、励磁装置は、補償装置を備え、励磁電流の交流成分が交番磁界を発生させ、励磁電流の直流成分が直流磁界を発生させる。これにより、特にコンパクトな構成が可能になる。
【0021】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、各抵抗素子は、並列及び/又は直列に接続された複数のTMR素子を有する。これにより、磁界センサ装置の感度や効果的な電気抵抗を調整することができる。
【0022】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、制御装置は、測定信号がゼロボルトのブリッジ電圧について実質的に対称に延びるように、補償装置を駆動制御するように構成されている。評価装置は、ホイートストン測定ブリッジがどの励磁電流で動作点を切り換えるかを特定することができる。評価装置は、例えばルックアップテーブルや校正機能による計算によって、外部磁界強度を特定することができる。
【0023】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、評価装置は、外部磁界の特定強度に基づいて、磁界を発生させる電流の電流強度を決定するようにさらに構成されている。
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、励磁装置及び補償装置は、薄膜プロセスによって製造されている。薄膜プロセスで励磁装置及び補償装置を実現することで、距離が小さいほど、対応する振幅の電界を発生させるためにより小さな電流で足りるため、消費電流を低減することができる。さらに、好ましくは、TMR素子もまた薄膜プロセスによって製造されてもよい。
【0024】
磁界センサ装置の好ましい発展形態によれば、評価装置は、磁界を決定するために、ホイートストンブリッジ回路がどの励磁電流で動作点を切り換えるかを特定するように構成されている。ホイートストンブリッジ回路に外部磁界が作用すると、動作点の切り換えに必要な励磁電流が変化する。このため、評価装置は、励磁電流に基づいて外部磁界の磁界強度を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】発明の実施形態に係る磁界センサ装置の第1の状態の概略構成図。
【
図6】TMR素子の自由層及び固定層の磁化方向間の角度に対する、抵抗の依存性。
【
図8】本発明に係る磁界センサ装置のホイートストンブリッジの出力特性曲線を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
全ての図において、同一又は機能的に同一の要素や装置には、同一の参照符号を付している。プロセスステップの番号付けは明確化のためであり、一般的に特定の時系列順序を示すものではない。特に、複数のプロセスステップを同時に行ってもよい。
【0027】
図1は、磁界センサ装置10の概略構成図を示す。ホイートストンブリッジ回路は、4つの抵抗素子R1~R4を備える。各抵抗素子R1~R4は、固定層71、自由層72及び(図示しない)トンネルバリアを有するTMR素子又はTMRセル11~14からなる。自由層72は、異方性幾何学形状、
図1では楕円形形状を有する。
【0028】
磁界センサ装置10は、磁界装置を有する励磁装置2をさらに備える。磁界装置は、コイル、又は導電体、又は複数の導電体として構成されてもよく、抵抗素子R1~R4の下方又は上方に配置されている。コイルや導電体に電流が流れると交番磁界が発生し、交番磁界は抵抗素子R1~R4に作用する。導電体は、例えば薄膜プロセスによって製造されてもよい。
【0029】
さらに、磁界センサ装置10は、各抵抗素子R1~R4に対して、抵抗素子に作用する直流磁界を発生させるように構成された補償装置3を備える。また、補償装置3と励磁装置2とは、同一の部品によって実施されてもよい。例えば、TMR素子11~14の下方又は上方に延びるコイル、又は単一の導電体、又は複数の並列導電体を設けてもよく、コイル又は導電体を流れる励磁電流の交流成分により交番磁界が発生し、励磁電流の直流成分により直流磁界が発生する。
【0030】
磁界センサ装置10は、ホイートストンブリッジ回路のブリッジ電圧VDDを測定し、対応する測定信号を出力する測定装置4をさらに備える。
磁界センサ装置10は、測定装置4からの測定信号を受信し、測定信号に基づいて制御信号を生成する制御装置5をさらに備える。この制御信号によって補償装置3が制御される。制御装置5は、測定信号の直流成分が所定値に制御されるように制御信号を生成する。特に、測定信号がゼロボルトのブリッジ電圧について実質的に対称になるように制御することができる。
【0031】
最後に、磁界センサ装置10は、励磁装置2が印加した励磁電流と、測定装置4が出力した測定信号とに基づいて、外部磁界強度を特定する評価装置6を備える。
磁界を決定するために、評価装置6は、ホイートストンブリッジ回路の動作点を切り換える励磁電流を特定する。ホイートストンブリッジ回路に外部磁界が作用すると、動作点の切り換えに必要な励磁電流が変化する。
【0032】
図1に示すように、固定層71の磁化方向と自由層72の磁化方向は、ある角度を取る。TMR素子11、14のうちの2つはそれぞれ第1の自由磁化方向を有し、他の2つのTMR素子12、13は自由層72の磁化に対して鏡映の第2の自由磁化方向を有する。TMR素子11~14の自由層72の磁化は、2つの動作点に対して磁化方向に沿って正又は負に配向され、すなわち180度ずれて配向されている。実際に発生する磁化は、励磁装置2の交番磁界と補償装置3の直流磁界、及び制御装置6の制御信号における、外部磁界の補償に必要な理想的な制御信号からの誤った偏差に依存する。
【0033】
図1に示す状態(第1の動作点)では、TMR素子11~14の磁化はそれぞれ第1の方向を示す。TMR素子11~14の配向により、センシング方向xが決まる。磁界センサ装置10は、センシング方向xに沿った外部磁界の磁界強度を決定することができる。
【0034】
図2は、磁界センサ装置10のさらなる状態(第2の動作点)を示す。ここで、TMR素子11~14の磁化は、それぞれ第1の方向とは反対の第2の方向を示す。
なお、本発明は、図示の実施形態に限定されるものではない。特に、各抵抗素子R1~R4は、直列及び/又は並列接続された複数のTMR素子11~14から構成されてもよい。
【0035】
図3は、TMR素子11~14の自由層72の、考えられる様々な幾何学的構成を示す。左から右に、自由層は、楕円形の自由層72a、長方形の自由層72b、菱形の自由層72c又はレンズ形の自由層72dとすることができる。
【0036】
図4は、自由層72における磁化を説明するための概略図である。自由層72の対称軸又は主軸である軸Aが示されている。自由層72の磁化の第1の配向が左下に図示され、反対方向の第2の配向が右下に図示されている。自由層72のこれらの磁化方向は、印加された交番磁界により周期的に切り換わる。
【0037】
図5は、第1の方向に沿って磁化された磁気固定層71と、第2の方向に沿って正又は負の方向に磁化された磁気自由層72とを備え、第1の方向及び第2の方向が角度φを取るTMR素子の概略図である。
【0038】
固定層71は、外部磁界に依存しないか、又はあまり依存しない、実質的に固定された磁化を有する。固定層71と自由層72は、遮断層又はトンネルバリアとも呼ばれる、電気的に非導電性のバリアによって分離されている。固定層71は、磁気的に好ましい方向に調整されており、自由層72は、磁気的にはるかに自由である。2つの磁性層の磁化方向間の角度φは、結果として生じるトンネル磁気抵抗のオーム性抵抗を決定する。作用する磁界に応じて、この角度φ、ひいては抵抗値が変化するため、評価装置6は外部磁界の磁界強度を決定することができる。
【0039】
図6は、TMR素子の自由層及び固定層の磁化方向間の角度φに対する、抵抗Rの依存性を示す。角度φが0度の場合は、第1の抵抗値R↑↑を有し、磁化方向の平行な配向に相当する。角度φが大きくなると、抵抗値は抵抗値R0を経て、反平行に相当する角度180度の最大値R↑↓まで増加する。
【0040】
図7は、磁界装置21を備えたTMR素子の概略図である。固定層71、自由層72、及び磁界装置21を形成し電流iが流れる平行導電体が示されている。電流は、自由層72の磁化に作用する交番磁界及び/又は直流磁界を発生させる。
【0041】
固定磁気基準点を調整するために、自由層72の幾何学的異方性は、実質的に平面に構成された構造の長さと幅との間のアスペクト比が1に等しくないことによって意図的に調整される。追加の磁界の中止により、自由層72は、異方性によって設定された好ましい軸に沿って配向される。異方性は一方向のみ設定するため、それぞれを180°相互に捩れた2つの安定した動作点が調整される。
【0042】
単一のTMR素子11~14の安定性、すなわちそれぞれ他の動作点に近づくために必要な磁界の振幅は、アスペクト比によって調整される。細長い自由層72は、両方の空間方向に略同じ幾何学的寸法を有する自由層72よりも高い安定性を有する。
【0043】
TMR素子11~14の2つの動作点の間で周期的に交互に切り換わるために十分な強さの磁界が、磁界装置21を用いて生成される場合、それぞれ他方の動作点に近づくために最初に克服しなければならない外部磁界を、調整されたブリッジ出力電圧でホイートストンブリッジ回路を適宜構築し、2つの動作点に到達するために必要な励磁電流を知ることで特定することができる。
【0044】
図8は、本発明に係る磁界センサ装置10のホイートストンブリッジの出力特性曲線の概略図である。出力電圧又はブリッジ電圧V
outが、
図1に図示したセンシング方向に沿った外部磁界Bの磁界強度の関数としてプロットされる。出力電圧V
outをゼロボルトとして、飽和電圧V
satと-V
satがプロットされている。磁界が大きくなると、出力電圧V
outは正の飽和電圧V
satを起点に矢印方向Pに沿って増加する。上側の磁界強度B
flipが正の場合、出力電圧V
outは負の値まで下がり、増加している磁界強度Bに対し下側から負の飽和電圧V
satに近づく。逆に、出力電圧V
outは大きい磁界強度Bから下側の負の磁界強度B
flipまで減少し、このとき磁界強度Bは正の値に移動する。出力電圧V
outの経過はヒステリシスを示す。
【0045】
磁界を決定するために、測定装置4はホイートストンブリッジ回路の励磁コイル電流とブリッジ電圧を記録し、どの励磁電流でホイートストンブリッジ回路が動作点を切り換えるかを記載する。ホイートストンブリッジ回路に外部磁界が作用すると、動作点の切り換えに必要な励磁電流が変化する。
【0046】
さらに、制御装置5によって制御される補償装置3は、外部磁界が存在する場合でも動作点がゼロを中心に対称的に切り換えられるように、補償電流を供給することができる。
図9は、本発明に係る磁界センサ装置10の製造方法を示すフロー図である。
【0047】
このために、薄膜技術における第1のプロセスステップS1において、4つの相互接続された抵抗素子R1~R4を有するホイートストンブリッジ回路が提供され、各抵抗素子は少なくとも1つのTMR素子11~14を有する。
【0048】
さらに、プロセスステップS2において、コイル又は複数の平行導電体など、少なくとも1つの磁界装置で交番磁界を発生させるための励磁装置2が提供され、これも好ましくは薄膜プロセスによって製造される。さらに、直流磁界を発生させるための補償装置3が提供される。補償装置3は、別個のコイル又は別個の導電体を備えることができ、これらも好ましくは薄膜プロセスによって製造される。ただし、補償装置3及び励磁装置2は、1つ又は複数のコイルや導電体など、同じ部品を備えていてもよい。
【0049】
プロセスステップS3において、ホイートストンブリッジ回路のブリッジ電圧を測定する測定装置4が構成される。測定信号の直流成分が所定の値に制御されるように補償装置3を駆動制御するために、測定装置によって出力された測定信号に基づいて制御信号を生成する制御装置5が構成される。最後に、励磁電流と、測定装置から出力される測定信号とに基づいて外部磁界強度を特定する評価装置が構成される。
【符号の説明】
【0050】
2 励磁装置
3 補償装置
4 測定装置
5 制御装置
6 評価装置
10 磁界センサ装置
11 TMRセル、TMR素子
12 TMRセル、TMR素子
13 TMRセル、TMR素子
14 TMRセル、TMR素子
21 磁界装置
71 固定層
72 自由層
72a 楕円形の自由層
72b 長方形の自由層
72c 菱形の自由層
72d レンズ形の自由層
R1 抵抗素子
R2 抵抗素子
R3 抵抗素子
R4 抵抗素子
S1 プロセスステップ
S2 プロセスステップ
S3 プロセスステップ
【外国語明細書】