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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119861
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】アレルギーの治療のための核酸
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220809BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220809BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220809BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20220809BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220809BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220809BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220809BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 39/35 20060101ALI20220809BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C07K14/00
C07K14/705
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
A61K38/16
A61P37/04
A61K39/35
A61P37/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082014
(22)【出願日】2022-05-19
(62)【分割の表示】P 2019524956の分割
【原出願日】2017-11-15
(31)【優先権主張番号】62/423,111
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/536,088
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516384081
【氏名又は名称】イミュノミック セラピューティックス, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMUNOMIC THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ハイラント, テリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アレルギー応答の治療または予防のためのDNAワクチンを提供する。
【解決手段】ワクチンは、リソソーム結合膜タンパク質(LAMP)の内腔側ドメインとインフレームで融合させたアレルゲンXまたはその断片のコード配列と、LAMPの標的化配列を含む。ワクチンは、被験体に投与した場合、免疫応答を生じさせるための適正に構成された3次元のエピトープの提示を可能にする。ワクチンは多価分子であり得る、および/または2種類以上のDNA構築物を含む多価ワクチンの一部として提供され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.リソソーム結合膜タンパク質(LAMP)内腔側ドメイン、
b.表1に記載の少なくとも1種類のアレルゲンX、および
c.LAMP膜貫通ドメイン/細胞質尾部
を含むポリペプチドをコードしている単離された核酸。
【請求項2】
LAMPが、LAMPポリペプチド(LAMP-1)、DC-LAMP、LAMP-2、LAMP-3、LIMP IIまたはENDOLYNから選択される、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記LAMP内腔側ドメインがLAMP-1に由来する、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
前記LAMP内腔側ドメインが、
(a)配列番号:2、
(b)配列番号:3、
(c)配列番号:4の29~381もしくは配列番号:5の25~370のアミノ酸、または
(d)(a)~(c)のバリアント、ここで、前記バリアントは(a)~(c)と少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%もしくは99%同一である、
として示すアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
前記LAMP膜貫通ドメイン/細胞質尾部が、
(a)配列番号:1、
(b)アミノ酸配列番号:4の382~417もしくは配列番号:5の371~406、または
(c)(a)~(b)のバリアント、ここで、前記バリアントは(a)~(b)と少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%もしくは99%同一である、
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項6】
アレルゲンXが、
(a)配列番号:Yもしくは配列番号:Vのうちの少なくとも一方のアミノ酸配列、または
(b)(a)のバリアント
を含み、前記バリアントは(a)と少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性であり、
前記バリアントは、(a)アレルゲンXと交差反応する抗体を生じさせる能力、ここで、前記抗体は前記アレルゲンXにより誘導されたものである、および/または(b)アレルゲンXの生物学的活性のいずれかを保持している、
請求項1~5のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項7】
前記核酸が、
(a)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つ、
(b)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つにコードされたポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド、
(c)表1に示す配列番号:Yまたは配列番号:Vのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド、
(d)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)、表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上、およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド、
(e)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)および表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上をコードしているポリヌクレオチド、
(f)表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド
あるいは
(g)(a)~(f)のポリヌクレオチドのいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するポリヌクレオチド
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸または請求項8に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸、請求項8に記載のベクター、または請求項9に記載の宿主細胞にコードされたポリペプチド。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の宿主細胞または請求項10に記載のポリペプチドを含むワクチン。
【請求項12】
被験体に請求項11に記載のワクチンを、アレルギー応答が低減、抑止または予防されるのに充分な有効量で投与することを含む、アレルギー応答を治療または予防する方法。
【請求項13】
前記ワクチンが治療的に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ワクチンが予防的に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
プライム工程および少なくとも1回のブースト工程を含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
(a)前記LAMP構築物が前記被験体をプライミングするために使用される、および/または
(b)前記ブースト工程が、アレルゲン、前記LAMP構築物、前記LAMP構築物にコードされたポリペプチド、または前記LAMP構築物を含む細胞の投与を含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プライミングするために使用される前記アレルゲンがブーストするために使用されるものと同じである、請求項15または16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
プライミングするために使用される前記アレルゲンが、ブーストするために使用されるアレルゲンのものと同じタンパク質に由来する、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
1種類より多くのアレルゲンがプライミングおよび/またはブーストするために使用される、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学および薬の分野に関する。より詳しくは、本発明は、DNAワクチンとしての使用のための核酸、およびアレルギー反応に苦しんでいるか、またはアレルギー反応を起こし易い被験体を治療するためのその使用方法に関する。また、本明細書に記載のLAMP構築物を使用するプライムブーストプロトコルも記載する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー反応は、免疫系がアレルゲンと称される異物と反応して無害にする際に起こる。例えば、食物アレルギーは、死亡する可能性がある全身性ショックであるアナフィラキシーのリスクが高いため、重要な公衆衛生課題である(Sampson et al.(1992)N.Engl.J.Med.327:380-384;Bock et al.(2001)J.Allergy Clin.Immunol.107:191-193)。年少者は一般公衆より食物アレルギーを発症するリスクが高い(Lack et al.(2003)N.Engl.J.Med 348:977-985;Zimmerman et al.(1989)J.Allergy Clin.Immunol.83:764-770;Green et al.(2007)Pediatrics 120:1304-1310)。3歳までの間に小児の6~8%が、食物が原因のアレルギー反応を経験する(Bock(1987)Allergy 45:587-596;Burks and Sampson(1993)Curr.Prob.Pediatr.23:230-252;Jansen et al.(1994)J.Allergy Clin.Immunol.93;2:446-456;Sampson(1999)J.Allergy Clin.Immunol.103;5:717-728)。人口の1~2%もがナッツアレルギー、例えば、ピーナツやナッツ類に対するアレルギー持ちであり、食物アレルギーのこの発生率は一般集団において増えつつあり、罹患はアジア系民族に偏っていると考えられている。
【0003】
アレルゲン、例えばナッツ類またはピーナツへの曝露によって引き起こされるアナフィラキシーは、ヒスタミンの過剰生成を特徴とする深刻な免疫反応をもたらし、米国の年間のアナフィラキシーによる救急外来受診の半数を占める。例えば、ナッツ類に対する極端な反応では、米国において毎年、30,000例を超えるアナフィラキシーおよび100~200例の死亡の発生がみられる。表示されていないにも関わらず、微量のナッツ類が数千の個別ブランドの包装された食料品において一般的に検出される。150万人を超える米国人がナッツアレルギーによる症状に苦しんでおり、症状は多くの場合、一生続く。多くの人は微量の曝露で危険な反応が起こる。
【0004】
ナッツアレルギーの症状を軽減させるための治療法はない。この10年間で、ナッツアレルギーの有病率は2倍になり、成人の米国人の2%が罹患している(Sampson(1999)J.Allergy Clin.Immunol.103;5:717-728;Sicherer et al.(2003)J.Allergy Clin.Immunol.112:1203-1207)。花粉症およびブタクサ花粉などの他の多くのアレルギーの症状は生命を脅かすものではないが、ナッツアレルギーの個体は、ナッツ1粒の1000分の1という少量の摂取でもアナフィラキシーショックや死亡が誘導されることがあり得る(Taylor et al.(2002)J.Allergy Clin.Immunol.109(1):24-30;Wensing et al.(2002)J.Allergy Clin.Immunol.110(6):915-920)。偶発的な摂取によってアナフィラキシーが誘発された場合では、気道を広げるためにエピネフリン注射が使用される(Stark and Sullivan(1986)J.Allergy Clin.Immunol.78:76-83;Sampson(2003)Pediatrics 111(6):1601-1608)。
【0005】
食物アレルギーは、個体が経口免疫寛容の成立に失敗し、代わりにその後のアレルゲン曝露に感作された状態になったときに起こる(Till et al.(2004)J.Allergy Clin.Immunol.113(6):1025-1034)。アレルギー患者では、アレルゲンが、2型ヘルパーCD4+ Tリンパ球(Th2)を優先的に活性化させるが、Th2は、ほとんどのアレルギー症状の根底にある炎症の組織化を助けるアレルギー促進性サイトカインであるインターロイキンIL-4、IL-5およびIL-13を産生する(Woodfolk(2007)J.Allergy Clin.Immunol.118(2):260-294)。IL-4は、抗体産生B細胞にアレルゲン特異的免疫グロブリン(Ig)Eを分泌するように指令する(Del Prete et al.(1988)J.Immunol.140:4193-4198;Swain et al.(1990)J.Immunol.145:3796-3806)。中和性のIgGとは異なり、IgEは、マスト細胞および好酸球が発現する高親和性受容体Fc-εR1に結合し(Blank et al.(1989)Nature 337:187-190;Benhamou et al.(1990)J.Immunol.144:3071-3077)、これらの細胞を感作する。問題となっているアレルゲンに後に曝露されると、IgEは、それに結合し、架橋し、マスト細胞に、脱顆粒し、アレルギー反応を誘発する短命な化学物質を放出するように指令するシグナルを伝達する。
【0006】
食物アレルギーの他に、他の環境要因によってもまた、上記のようなアレルギー応答が個体において生じる場合があり得る。かかる環境要因の例としては、限定されないが、花粉、犬のふけ、猫の唾液またはイエダニが挙げられる。
【0007】
漸増用量のアレルゲンの投与によって免疫寛容をもたらす免疫療法は、アレルギー疾患の標準的な治療法であるが、高頻度のアナフィラキシー反応のため、ナッツアレルギーの治療としては承認されていない(Nelson et al.(1997)J.Allergy Clin.Immunol 99;6:744-751;Oppenheimer et al.(1992)J.Allergy Clin.Immunol 90:256-262)。また、免疫療法の有用性は治療期間の長さによって制限されており、治療には36ヵ月間もの毎週または隔週の注射が必要とされ、治療が成功する程度および服薬順守の度合もさまざまである(Bousquet et al.(1998)J.Allergy Clin.Immunol 102:558-562;Rank and Li(2007)Mayo Clin.Proc.82(9):1119-1123;Ciprandi et al.(2007)Allergy Asthma Proc.28:40-43)。
【0008】
DNAワクチンがアレルギー疾患の治療薬として提案されている(Raz et al.,1996;Hartl et al.,2004;Hsu et al.,1996;Crameri 2007;Weiss et al.,2006)。基礎となる理論的根拠は、DNAワクチンにコードされたアレルゲンタンパク質が、特徴的なTh2型の応答、例えば、IL-4、IL-5およびIL-13の分泌ならびにBリンパ球によるIgEの形成ならびに反応後期における好酸球の成熟および動員ではなく、APC、ナチュラルキラー(NK)およびT細胞によるインターフェロン産生を伴うアレルゲン特異的Th1細胞応答を優先的に活性化させるということである。しかしながら、Th1 T細胞表現型が誘導されるかTh2 T細胞表現型が誘導されるかの違いの基礎となる機構には、数多くの要素、例えば、ワクチン調製物の細菌DNAの特有の特性、例えば、非メチル化CpG DNA残基、自然免疫によって誘起されるサイトカイン環境、および細胞のアレルゲントラフィッキング特性が関与しているようである(Chen et al.,2001;Kaech et al.,2002)。
【0009】
一般的に言うと、DNAワクチンは、1つ以上のエピトープをコードしている配列を含む改変操作された核酸である。核酸は細胞に、典型的には抗原提示細胞(APC)に送達され、核酸が発現され、発現されたタンパク質上に存在するエピトープがエンドソーム/リソソーム区画内でプロセッシングされ、最終的に細胞の表面上に提示される。例えば、August et al.に対する米国特許第5,633,234号には、リソソーム結合膜タンパク質(LAMP)のエンドソーム/リソソーム標的化配列が開示され、特性評価がされており、LAMPタンパク質をエンドソーム/リソソーム区画に標的化するのに必要なLAMPタンパク質のC末端領域内の極めて重要な残基が同定されている。また、Harris et al.に対する米国特許出願公開第2004/0157307号には、DNAワクチンから発現されたキメラタンパク質を、1つ以上の細胞区画/細胞小器官、例えば、リソソーム系小胞経路を通過させるための「トラフィッキングドメイン」として、LAMP内腔側ドメインを使用することが開示されている。キメラタンパク質は、LAMPポリペプチドの内腔側ドメイン、抗原タンパク質から選択され既に同定されているペプチドエピトープ配列を含む抗原ドメイン、膜貫通ドメインおよびエンドソーム/リソソーム標的化配列を含む。
【0010】
数々のLAMPキメラワクチンが提案されているが、有効なワクチンとしての機能する能力は、インビボで試験を行うと一貫性がない。例えば、Godinho et al.,PLoS ONE 9(6):9(6):e99887.doi:10.1371/journal.pone.0099887において、著者らにより、抗原をリソソームおよびエクソソーム系の分泌経路に標的化するためにはインタクトな内腔側ドメインが必要であること、ならびに内腔側ドメインの断片は必ずしも奏功するわけではないことが報告された。同書第6頁を参照のこと。さらに、この著者らにより、免疫応答を起こす能力は、使用される具体的な抗原とエピトープに依存性であることが認められた。例えば、第9頁、第2欄に、この著者らは、「したがって、これまでの研究により、VLPとして分泌されるGagまたは可溶性形態であるGagを生成するDNAワクチンは、T細胞活性化およびB細胞活性化をさまざまなレベルで誘導し、この活性化は細胞質内Gagによって誘導される応答とも異なることが実証された」と記載している。
【0011】
したがって、両方のLAMPドメインが存在している場合であっても、免疫応答を起こすための具体的な抗原の有効性は、使用される具体的な配列に高度に依存性であることが次第にわかってきた。実際、同じタンパク質のいろいろな抗原断片を同一のLAMPワクチンベクター内に挿入すると、惹起される免疫応答は同じでないことがわかっている。ある場合では、抗原断片によって免疫応答が生じ、別の場合では生じない。このような観察結果では、対象のタンパク質に由来するどの具体的な抗原配列が免疫応答を起こすのかを事前に予測するのを可能にすることは困難である。代わりに、LAMPワクチンの場合では、免疫応答活性をインビボ試験によって調べる必要がある。
【0012】
したがって、アレルギー反応の起こり易さを有効に治療するために使用され得る改善された新しいLAMPキメラワクチンが同定される必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,633,234号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0157307号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Sampson et al.(1992)N.Engl.J.Med.327:380-384
【非特許文献2】Bock et al.(2001)J.Allergy Clin.Immunol.107:191-193
【非特許文献3】Lack et al.(2003)N.Engl.J.Med 348:977-985
【非特許文献4】Zimmerman et al.(1989)J.Allergy Clin.Immunol.83:764-770
【非特許文献5】Green et al.(2007)Pediatrics 120:1304-1310
【非特許文献6】Sampson(1999)J.Allergy Clin.Immunol.103;5:717-728
【非特許文献7】Sicherer et al.(2003)J.Allergy Clin.Immunol.112:1203-1207
【非特許文献8】Taylor et al.(2002)J.Allergy Clin.Immunol.109(1):24-30
【非特許文献9】Wensing et al.(2002)J.Allergy Clin.Immunol.110(6):915-920
【非特許文献10】Stark and Sullivan(1986)J.Allergy Clin.Immunol.78:76-83
【非特許文献11】Sampson(2003)Pediatrics 111(6):1601-1608
【非特許文献12】Till et al.(2004)J.Allergy Clin.Immunol.113(6):1025-1034
【非特許文献13】Woodfolk(2007)J.Allergy Clin.Immunol.118(2):260-294
【非特許文献14】Del Prete et al.(1988)J.Immunol.140:4193-4198
【非特許文献15】Swain et al.(1990)J.Immunol.145:3796-3806
【非特許文献16】Blank et al.(1989)Nature 337:187-190
【非特許文献17】Benhamou et al.(1990)J.Immunol.144:3071-3077
【非特許文献18】Nelson et al.(1997)J.Allergy Clin.Immunol 99;6:744-751
【非特許文献19】Oppenheimer et al.(1992)J.Allergy Clin.Immunol 90:256-262
【非特許文献20】Bousquet et al.(1998)J.Allergy Clin.Immunol 102:558-562
【非特許文献21】Rank and Li(2007)Mayo Clin.Proc.82(9):1119-1123
【非特許文献22】Ciprandi et al.(2007)Allergy Asthma Proc.28:40-43
【非特許文献23】Raz et al.,1996
【非特許文献24】Hartl et al.,2004
【非特許文献25】Hsu et al.,1996
【非特許文献26】Crameri 2007
【非特許文献27】Weiss et al.,2006
【非特許文献28】Chen et al.,2001
【非特許文献29】Kaech et al.,2002
【非特許文献30】Godinho et al.,PLoS ONE 9(6):9(6):e99887.doi:10.1371/journal.pone.0099887
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、増強された免疫原性を有する特異的抗原(1種類または複数種)を含むワクチン、特に、遺伝子ワクチン、例えばDNAワクチンまたはRNAワクチンを提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、本開示の抗原の使用によるワクチン接種のより有効な方法を提供することであり、本開示の抗原は、リソソーム/エンドソーム区画および関連細胞小器官(例えば、MIIC、CIIV、メラノソーム、分泌顆粒、バーベック顆粒など)に指向され、区画および関連細胞小器官でプロセッシングされ、ヘルパーT細胞が優先的に刺激されるように主要組織適合複合体(MHC)クラスII分子に提示される。
【0017】
本発明の核酸、したがって、コードされたタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドは、被験体、特に、アレルギーに苦しんでいるか、またはアレルギーを発症する可能性がある被験体を治療する方法において使用され得る。一般に、本発明による治療方法は、本発明の核酸を被験体に、核酸が1つ以上の免疫細胞に、好ましくは免疫系の1つ以上の抗原提示細胞(APC)に送達されるのに充分な量で投与することを含む。送達されたら、核酸が発現され、コードされたタンパク質が細胞内部でプロセッシングされ、エピトープ(1つまたは複数)が細胞の表面上にディスプレイされる。本治療方法は、アレルギーに苦しんでいるか、またはアレルギーを発症する可能性がある被験体において治療的または予防的免疫応答をもたらすために核酸およびタンパク質を使用する方法とみなされ得る。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一態様において、本発明により:少なくとも1種類のアレルゲンXを含むN末端ドメイン;およびトラフィッキングドメインを含み;該トラフィッキングドメインが、アレルゲンXを細胞内のエンドソーム区画(例えば、リソソーム)に指向する、キメラタンパク質を提供する。好ましくは、トラフィッキングドメインが、LAMPポリペプチドの内腔側ドメイン、例えば、LAMP-1またはLAMP-2ポリペプチドを含む。
【0019】
別の態様では、キメラタンパク質が、タンパク質のプロセッシングおよびペプチドエピトープのMHC IIとの結合のために少なくとも1種類のアレルゲンXをエンドソーム/リソソーム区画または関連細胞小器官に指向する標的化配列、例えば、テトラペプチド配列Tyr-Xaa-Xaa-Xbb(ここで、Xaaは任意のアミノ酸であり、Xbbは疎水性アミノ酸である)を含む。さらに別の態様では、標的化配列がジロイシン配列を含むものである。さらなる一態様では、標的化配列が、エンドサイトーシス受容体由来のサイトゾルタンパク質標的化ドメインを含むものである。好適なドメインとしては、限定されないが、C型レクチン受容体の標的化ドメイン、DEC-205ポリペプチド、gp200-MR6タンパク質、またはそのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾形態が挙げられる。
【0020】
特に好ましい一態様では、タンパク質は、LAMPポリペプチドの内腔側ドメインと、テトラペプチド配列Tyr-Xaa-Xaa-Xbb(ここで、Xaaは任意のアミノ酸であり、Xbbは疎水性アミノ酸である)を含む細胞質ドメインとを含むものである。キメラタンパク質は、好ましくは、膜貫通型タンパク質をさらに含む。さらにより好ましくは、キメラタンパク質はまた、シグナル伝達ドメインも含む。
【0021】
アレルゲンXは、キメラタンパク質を生成させるために使用され得る。一態様において、好ましいアレルゲンは、表1に示す配列番号:Yのいずれか1つのアレルゲンXのアミノ酸配列を含む。アレルゲンX(配列番号:Y)をコードするものであり得るポリヌクレオチドの代表例を配列番号:Zとして表1に示す。このようなポリヌクレオチドは、トラフィッキングドメインと標的化ドメインの間に挿入される。挿入は、配列番号:Yのアミノ酸配列にフランキングするクローニング配列、例えば、“Leu-Glu”をコードするポリヌクレオチドと“Glu-Phe”をコードするポリヌクレオチド(例えば、“CTCGAG”と“GAATTC”)などの使用によって助長され得る。
【0022】
本発明によりさらに、表1のアレルゲンXのいずれかをコードしている核酸分子を提供する。また、本発明により、アレルゲンXをコードしている核酸、例えば配列番号:Zおよび配列番号:Wなどを含み、核酸分子が発現制御配列に作動可能に連結されているベクターも提供する。好ましい一態様では、ベクターが、患者をアレルゲンXに対してワクチン接種するのに適したワクチンベクターである。別の態様では、本発明により、核酸分子を含む送達媒体であって、細胞内への核酸分子の導入を助長するための送達媒体を提供する。送達媒体は、脂質ベースのもの(例えば、リポソーム製剤)、ウイルスベースのもの(例えば、核酸分子が封入されたウイルスタンパク質を含むもの)、または細胞ベースのものであり得る。好ましい一態様では、ベクターがワクチンベクターである。
【0023】
また、本発明により、上記の任意のベクターを含む細胞も提供する。一態様において、細胞は抗原提示細胞である。抗原提示細胞は、専門的抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞など)であっても、改変操作された抗原提示細胞(例えば、抗原提示のために必要とされる分子、例えば、MHCクラスII分子を発現するように改変操作された非専門的抗原提示細胞)であってもよい。抗原提示のために必要とされる分子は、他の細胞に由来するもの、例えば天然に存在するものであってもよく、それ自体が改変操作(例えば、所望の特性、例えば、抗原エピトープに対してより高い、またはより低い親和性を示すように変異または修飾)されているものであってもよい。一態様において、抗原提示細胞は、なんら共刺激シグナルを示さないものであり、抗原は自己抗原である。
【0024】
さらに本発明により、上記の任意のベクターを含む複数の細胞を備えたキットを提供する。少なくとも2つの細胞が異なるMHCクラスII分子を発現し、各細胞は同じベクターを含む。一態様において、ベクターと、ベクターを受容するための細胞とを備えたキットを提供する。
【0025】
また、本発明により、少なくとも1つの上記の細胞を含むトランスジェニック動物も提供する。
【0026】
本発明によりさらに、動物においてアレルゲンXに対する免疫応答を生じさせるための方法であって:動物に上記のアレルゲンXをコードしている核酸配列(例えば、配列番号:Zまたは配列番号:Wなど)を含む細胞またはポリヌクレオチドを投与することを含み、細胞は、動物においてキメラタンパク質を発現するか、または発現するように誘導され得る方法を提供する。一態様において、細胞は、動物がMHCクラスII分子に対する免疫応答を生じないように動物のMHCタンパク質と適合性のMHCクラスII分子を含む。好ましい一態様では、動物がヒトである。
【0027】
一態様において、本発明により、アレルゲンXに対するアレルギーに苦しんでいるか、またはアレルギーを発症する可能性がある被験体を治療する方法であって、動物に上記のベクター、宿主細胞、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドのいずれかを投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、ベクターが動物の細胞に感染性である。例えば、ベクターは、ウイルスベクター、例えばワクシニアベクターであり得る。動物に投与される好ましいキメラワクチンは、表1に示す配列番号:Yのアミノ酸配列のいずれか1つをコードしているポリヌクレオチドを含む。
【0028】
また、プライムブーストプロトコルも想定される。例えば、本発明によりさらに、被験体においてアレルゲンXに対する免疫応答を生じさせるための方法であって、被験体を本明細書に記載のLAMP構築物でプライミングした後、アレルゲンXまたは関連抗原(例えば、同じもしくは非常に類似しているタンパク質配列に由来する第2のアレルゲン)での被験体の少なくとも1回のブーストを行うことを含む方法を提供する。アレルゲン混合物を、プライミング工程とブースト工程のいずれか、または両方で使用してもよい。プライム工程に続いてブースト工程にもLAMP構築物を使用すると有意により高い力価がもたらされることが示され、抗体応答の増強におけるLAMPの力を示す。
【0029】
さらなる一態様では、細胞を患者から採取し、ベクターを細胞内に導入し、細胞または細胞の子孫を患者に再導入する。一態様において、細胞は、抗原提示細胞への分化能を有する幹細胞である。
【0030】
本発明の目的および特徴は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照すると、よりよく理解され得よう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本明細書に記載の構築物を作製するために使用したヒトLAMP-1配列のいろいろな部分を示す。
図2】ヒトLamp-1タンパク質(配列番号:4)の既知の構造ドメインおよびアミノ酸配列を示す。
図3】マウスLamp-1タンパク質(配列番号:5)の既知の構造ドメインおよびアミノ酸配列を示す
図4】表1に示した本明細書に記載のいろいろな構築物の図式的表示である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明により、アレルゲンXに対するワクチンを作製するため使用され得るキメラタンパク質およびこのようなタンパク質をコードしている核酸を提供する。一態様において、キメラタンパク質は、アレルゲンXと、タンパク質のエンドソーム/リソソーム区画または関連細胞小器官へのトラフィッキングのためのドメインとを含む。好ましい一態様では、トラフィッキングドメインが、LAMPポリペプチドの内腔側ドメインを含む。択一的または付加的に、キメラタンパク質は、エンドサイトーシス受容体(例えば、C型レクチン、DEC-205またはgp200-MR6など)のトラフィッキングドメインを含む。ワクチンは免疫応答を調節するために使用され得る。好ましい一態様では、本発明により、アレルゲンXを含むキメラタンパク質またはアレルゲンXをコードしている核酸を患者に供給することにより、患者のアレルギー応答を治療または予防する方法を提供する。
【0033】
定義
本明細書で以下において使用している具体的な用語について、以下に定義を示す。
【0034】
本明細書および特許請求の範囲で用いる場合、単数“a”、“an”および“the”は、本文中にそうでないことを明示していない限り、複数の言及を包含している。例えば、用語“a cell(細胞)”は、複数の細胞(その混合物を含む)を包含している。用語“a nucleic acid molecule(核酸分子)”は複数の核酸分子を包含している。
【0035】
本明細書で用いる場合、用語“comprising(~を含む)”は、組成物および方法が記載の要素を含むものであるが、他の要素を排除しないことを意味していることを意図する。“consisting essentially of(本質的に~からなる)”は、組成物および方法を規定するために用いている場合、この組合せに対して本質的になんらかの意義がある他の要素を排除することを意味しているものとする。したがって、本質的に本明細書において規定された要素からなる組成物では、単離および精製の方法による微量の混入物ならびに薬学的に許容され得る担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水、保存料などは排除され得ない。“consisting of(~からなる)”は、本発明の組成物を投与するための微量要素の他の成分および実質的な方法工程の他は排除することを意味しているものとする。これらの移行句の各々によって規定される実施形態が本発明の範囲に含まれる。
【0036】
本明細書で用いる場合、「リソソーム/エンドソーム区画」は、膜内LAMP分子、抗原プロセッシングにおいて機能を果たす加水分解酵素、ならびに抗原の認識および提示のためのMHCクラスII分子を含む、膜結合型酸性液胞をいう。この区画は、細胞表面からさまざまな機構のいずれか、例えばエンドサイトーシス、食作用および飲作用によって内在化された異物の分解のため、ならびに特殊な自己融解現象によってこの区画に送達された細胞内物質の分解のための部位としての機能を果たす(de Duve,Eur.J.Biochem.137:391,1983)。用語「エンドソーム」は、本明細書および特許請求の範囲で用いる場合、リソソームを包含している。
【0037】
本明細書で用いる場合、「リソソーム関連細胞小器官」は、リソソームを含む任意の細胞小器官をいい、限定されないが、MIIC、CIIV、メラノソーム、分泌顆粒、溶解性顆粒(lytic granule)、血小板密顆粒、好塩基性顆粒、バーベック顆粒、ファゴリソソーム、分泌型リソソームなどが包含される。好ましくは、かかる細胞小器官は、マンノース6-リン酸受容体がなく、LAMPを含むが、MHCクラスII分子は含んでいても含んでいなくてもよい。概説については、例えば、Blott and Griffiths,Nature Reviews,Molecular Cell Biology,2002;Dell’Angelica,et al.,The FASEB Journal 14:1265-1278,2000を参照のこと。
【0038】
本明細書で用いる場合、用語「ポリヌクレオチド」および「核酸分子」は、任意の長さのポリマー形態のヌクレオチドを示すために互換的に用いている。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドおよび/またはそのアナログを含むものであり得る。ヌクレオチドは、任意の三次元構造を有するものであり得、既知または未知の任意の機能を果たすものであり得る。用語「ポリヌクレオチド」には、例えば、一本鎖、二本鎖および三重らせんの分子、遺伝子または遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、アンチセンス分子、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝型ポリヌクレオチド、アプタマー、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、ならびにプライマーが包含される。また、核酸分子には、修飾核酸分子(例えば、修飾された塩基、糖鎖および/またはヌクレオチド間リンカーを含むもの)も包含され得る。
【0039】
本明細書で用いる場合、用語「ペプチド」は、サブユニットである2つ以上のアミノ酸、アミノ酸アナログまたはペプチド模倣物の化合物をいう。サブユニットはペプチド結合によって、または他の結合によって(例えば、エステル、エーテルなどとして)連結され得る。
【0040】
本明細書で用いる場合、用語「アミノ酸」は、天然および/または非天然もしくは合成のいずれかのアミノ酸、例えば、グリシンおよびDまたはLの両方の光学異性体、ならびにアミノ酸アナログならびにペプチド模倣物をいう。3個以上のアミノ酸のペプチドは一般的に、ペプチド鎖が短ければオリゴペプチドと称される。ペプチド鎖が長い場合(例えば、約10個より多いアミノ酸)、ペプチドは一般的にポリペプチドまたはタンパク質と称される。用語「タンパク質」は用語「ポリペプチド」を包含しているが、「ポリペプチド」は完全長より短いタンパク質であり得る。
【0041】
本明細書で用いる場合、用語「アレルゲンX」は、以下の表1に列記した具体的な遺伝子/タンパク質、その断片、または個体に対して反復的に曝露するとアレルギー、すなわちIgE媒介性反応を誘導することがわかっている列記したタンパク質の混合物をいう。一般的に、アレルゲンは、アレルギー反応を誘起する能力を有する任意の化合物、物質または材料である。アレルゲンは通常、免疫応答を誘起する能力を有する化合物、物質または材料である抗原の下位区分として理解される。本発明を実施するために、アレルゲンXは、とりわけ、天然または天然状態のアレルゲン、修飾された天然アレルゲン、合成アレルゲン、組換えアレルゲン、アレルゴイド、およびその混合物または組合せから選択され得る。特に重要なものは、IgE媒介性即時型過敏症を引き起こす能力を有するアレルゲンXである。
【0042】
【表1-1】
【0043】
【表1-2】
【0044】
本明細書で用いる場合、アレルゲンXのアミノ酸配列は、配列番号:Yのいずれか1つを含むものである。アレルゲンXをコードするものであり得るポリヌクレオチドの好ましい代表例を配列番号:Zとして表1に示す。アレルゲンXポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドが具体的に想定される。
【0045】
本明細書で用いる場合、「アレルゲンX」はまた、アレルゲンXのバリアントも包含している。例えば、好ましい実施形態は、配列番号:Yと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアレルゲンXポリペプチドバリアントを含む。このようなバリアントは、(a)アレルゲンXと交差反応する抗体を生じさせる能力、ここで、抗体はアレルゲンXにより誘導されたものである、および/または(b)アレルゲンXの生物学的活性のいずれかを保持している。このようなバリアントアレルゲンXポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドが具体的に想定される。
【0046】
さらに、1種類より多くのアレルゲンXを組合せ、本明細書に記載のワクチンとして投与してもよい。クローニングの際、アレルゲンXの組合せの順序は構築物内でさまざまであり得る。さらに、アレルゲンXの組合せは、単一のワクチン構築物内でクローニングされ得るか、または複数のワクチン構築物もしくはアレルゲンXを含む組成物にて送達され得ることが具体的に想定される。具体的には、表1に記載のアレルゲンXは本明細書に記載のLAMP構築物内に、個々に、または互いとの組合せのいずれかでクローニングされ得る。本明細書においてこのパラグラフで用いる場合、名称Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1およびCtef1は、表1に記載のアレルゲンXを示す。具体的には、アレルゲンXの組合せは、本明細書に記載のLAMP構築物内に以下の通りにクローニングされ得る:(a)Cora1と、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(b)Cora9と、Cora1、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(c)Prudu6と、Cora1、Cora9、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(d)Anao1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(e)Anao2と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(f)Anao3と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(g)Jugn1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(h)Jugr2と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(i)Betv1-Aと、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(j)Canf1と、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(k)Cynd1と、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(l)DerF1(19-321)と、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(m)DerF1(99-321)と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(n)DerP2と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(o)DerF2と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(p)DerP1(del)と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(q)FelD1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(r)FelD2と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(s)FelD4と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(t)Litv1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(u)Lolp5aと、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(v)Phlp1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1
-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(w)Amba1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(x)Phlp5と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Derf15、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(y)Derf15と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf18、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(z)Derf18と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Zen-1および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;(aa)Zen-1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、および/またはCtef1のうちの少なくとも1つ;および/または(bb)Ctef1と、Cora1、Cora9、Prudu6、Anao1、Anao2、Anao3、Jugn1、Jugr2、Amba1、Betv1-A、Canf1、Cynd1、DerF1(19-321)、DerF1(99-321)、DerP2、DerF2、DerP1(del)、FelD1、FelD2、FelD4、Litv1、Lolp5a、Phlp1、Phlp5、Derf15、Derf18、および/またはZen-1のうちの少なくとも1つ。
【0047】
この列記は、LAMP構築物が何を含んでいるかを示すものであって、必ずしも具体的な構築物内における抗原の配置を示しているとは限らないため、具体的なLAMP構築物内における上記の抗原の組合せの順序はさまざまであり得る。さらに、これらの抗原は、単一のLAMP構築物内に合わされ得るか、または複数のLAMP構築物を含む組成物にて送達され得ることが具体的に想定される。
【0048】
本明細書で用いる場合、「LAMPポリペプチド」は、LAMP-1、LAMP-2、CD63/LAMP-3、DC-LAMP、もしくは任意のリソソーム結合膜タンパク質、またはホモログ、オーソログ、バリアント(例えば、アレルバリアント)および修飾形態(例えば、天然に存在するか、もしくは改変操作型のいずれかの1つ以上の変異を含むもの)をいう。一態様において、LAMPポリペプチドは、哺乳動物のリソソーム結合膜タンパク質、例えばヒトまたはマウスなどのリソソーム結合膜タンパク質である。より一般的には、「リソソーム結合膜タンパク質」は、エンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官の膜にみられるドメインを含み、内腔側ドメインをさらに含む任意のタンパク質をいう。LAMP-1ポリペプチドの代表例としては、配列番号:4(ヒトLAMP-1)、配列番号:5(マウスLAMP-1)、またはイヌ科のLAMP(XP_534193)が挙げられ、これらの任意の配列が、本明細書に記載のDNAワクチンの作製に使用され得る。
【0049】
本明細書で用いる場合、「エンドサイトーシス受容体」は、そのC末端またはN末端のいずれかが細胞質に面しており、(例えば、化学結合によって)自身にコンジュゲートされているポリペプチドまたはペプチドをMHCクラスII分子に、または後にMHCクラスII分子と会合する細胞内区画に輸送するためのトラフィッキングドメイン(例えば、内腔側ドメイン)を含む、膜貫通型タンパク質をいう。エンドサイトーシス受容体の例としては、限定されないが、Fc-受容体、補体受容体、スカベンジャー受容体、インテグリン、レクチン(例えば、C型レクチン)、DEC-205ポリペプチド、gp200-MR6ポリペプチド、Toll様受容体、熱ショックタンパク質受容体(例えば、CD 91)、アポトーシス小体もしくはネクローシス小体受容体(例えば、CD 14など)、またはそのホモログ、オーソログ、バリアント(例えば、アレルバリアント)および修飾形態(例えば、天然に存在するか、もしくは改変操作型のいずれかの1つ以上の変異を含むもの)が挙げられる。
【0050】
本明細書で用いる場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写される、および/またはペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳されるプロセスをいう。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には、ゲノムDNAから転写されたmRNAのスプライシングが包含され得る。
【0051】
本明細書で用いる場合、「転写制御下」または「作動可能に(operably)連結された」は、ポリヌクレオチド配列の発現(例えば、転写または翻訳)が、発現制御エレメントとコード配列の適切な並置によって制御されることをいう。一態様において、DNA配列は、発現制御配列によってDNA配列の転写が制御および調節される場合、発現制御配列に「作動可能に(operatively)連結され」ている。
【0052】
本明細書で用いる場合、「コード配列」は、適切な発現制御配列の制御下に配置した場合、転写され、ポリペプチドに翻訳される配列である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンと3’(カルボキシル)末端の翻訳終止コドンによって決定される。コード配列としては、限定されないが、原核生物の配列、真核生物のmRNAのcDNA、真核生物の(例えば、哺乳動物の)DNAのゲノムDNA配列、およびさらには合成DNA配列が挙げられ得る。ポリアデニル化シグナルおよび転写終結配列は通常、コード配列の3’側に配置される。
【0053】
本明細書で用いる場合、2つのコード配列は、配列またはそれぞれの相補配列が同じアミノ酸配列をコードしている場合、互いに「対応する」。
【0054】
本明細書で用いる場合、「シグナル配列」は、小胞体トランスロケーション(translocation)配列を表す。この配列は、自身に連結されている(例えば、化学結合によって)ポリペプチドを小胞体小胞区画に指向してエキソサイトーシス/エンドサイトーシス細胞小器官内に進入させ、細胞小胞区画、細胞表面のいずれかに送達されるか、またはポリペプチドが分泌されるように細胞と連絡するシグナルペプチドをコードしている。このシグナル配列は場合によっては、タンパク質の成熟中に細胞によって切り落とされる。シグナル配列は、原核生物および真核生物に内在するさまざまなタンパク質と会合した状態でみられる場合があり得る。
【0055】
本明細書で用いる場合、「トラフィッキング」とは、粗面小胞体から、抗原のプロセッシングおよびMHC IIとの結合が行われるエンドソーム/リソソーム区画または関連細胞小器官への、経路内のすべての細胞小器官または細胞区画を介するアレルゲンXポリペプチドの移動または進行を表す。「輸送する」とは、ある特定の1つの型の細胞区画へのキメラタンパク質の送達をいう。
【0056】
本明細書で用いる場合、別のトラフィッキング配列に実質的に相同である「トラフィッキング配列」とは、他方のトラフィッキング配列と実質的な相同性を共通して有するものである;しかしながら、実質的な相同性の最終的な試験は、トラフィッキング配列と実質的に相同な配列を含むポリペプチドがトラフィッキング配列と同じエンドソーム区画に共局在することができる機能アッセイである。
【0057】
本明細書で用いる場合、「トラフィッキングドメイン」は、タンパク質内の、1つ以上の細胞区画/細胞小器官を介するタンパク質の小胞フローに必要とされる一連の連続または不連続のアミノ酸をいう。トラフィッキングドメインは好ましくは、このフローを媒介するための適正なタンパク質のフォールディングに必要な配列を含む。一態様において、トラフィッキングドメインは内腔側配列を含み;好ましくは、かかる配列は、細胞内フォールディングタンパク質、例えばシャペロンとの相互作用のための1つ以上の結合部位を含む。
【0058】
本明細書で用いる場合、「標的化」とは、ポリペプチド配列がアレルゲンXのトラフィッキングを、抗原のプロセッシングおよびMHC IIとの結合が行われる好ましい部位または細胞小器官もしくは細胞区画に指向することを表す。
【0059】
対照的に、本明細書で用いる場合、「標的化ドメイン」は、細胞区画/細胞小器官への送達に必要とされる一連のアミノ酸をいう。好ましくは、標的化ドメインは、アダプターあるいはAPタンパク質(例えば、AP1、AP2またはAP3タンパク質など)に結合する配列である。例示的な標的化ドメイン配列はDell’Angelica,2000(上掲)に記載されている。
【0060】
「キメラDNA」は、大型のDNA分子内の同定可能なDNAセグメントであって、自然状態では大型の分子との会合状態でみられないDNAセグメントである。したがって、キメラDNAがタンパク質セグメントをコードしている場合、このセグメントをコードしている配列は、天然に存在するいずれのゲノムでもコード配列にフランキングしていないDNAにフランキングされる。本明細書に定義するキメラDNAは、対立遺伝子変異事象または天然に存在する変異事象によって生じるものではない。
【0061】
本明細書に記載の任意のベクター内へのクローニングを助長するためのアミノ酸をコードしている短鎖のポリヌクレオチドを、アレルゲンXをコードしているポリヌクレオチドの末端に含めてもよい。例えば、配列番号:Yのアミノ酸配列にフランキングするクローニング配列、例えば、“Leu-Glu”をコードするポリヌクレオチドと“Glu-Phe”をコードするポリヌクレオチド(例えば、“CTCGAG”と“GAATTC”)などの使用が設計構築物に含められ得る。
【0062】
本明細書で用いる場合、「核酸送達ベクター」は、対象のポリヌクレオチドを細胞内に輸送し得る核酸分子である。好ましくは、かかるベクターは、発現制御配列に作動可能に連結されたコード配列を含む。しかしながら、対象のポリヌクレオチド配列は必ずしもコード配列を含むものでなくてもよい。例えば、一態様において、対象のポリヌクレオチド配列は、標的分子に結合するアプタマーである。別の態様では、対象の配列が、調節配列に結合して調節配列の調節を阻害する調節配列の相補配列である。さらに別の態様では、対象の配列自体が調節配列(例えば、細胞内の調節因子を調整するためのもの)である。
【0063】
本明細書で用いる場合、「核酸送達媒体」は、ポリヌクレオチドを宿主細胞内に運ぶことができ(例えば、遺伝子または遺伝子断片、アンチセンス分子、リボザイム、アプタマーなど)、上記の核酸ベクターとの会合状態で存在する任意の分子または分子群または巨大分子と定義する。
【0064】
本明細書で用いる場合、「核酸送達」または「核酸移入」は、導入に使用される方法に関係なく外来性ポリヌクレオチド(例えば、「導入遺伝子」など)の宿主細胞内への導入をいう。導入されたポリヌクレオチドは宿主細胞内に安定的に、または一過的に維持され得る。安定な維持には典型的には、導入されたポリヌクレオチドが、宿主細胞と適合性の複製起点を含むか、または宿主細胞のレプリコン内、例えば染色体外レプリコン(例えば、プラスミド)または核もしくはミトコンドリアの染色体内に組み込まれることのいずれかが必要とされる。
【0065】
本明細書で用いる場合、「ウイルスベクター」は、宿主細胞内にインビボ、エキソビボまたはインビトロのいずれかで送達されるポリヌクレオチドを含むウイルスまたはウイルス粒子をいう。ウイルスベクターの例としては、限定されないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。遺伝子移入がアデノウイルスベクターによって媒介される態様において、ベクター構築物は、アデノウイルスゲノムまたはその一部、および選択された非アデノウイルス遺伝子を含み、アデノウイルスカプシドタンパク質と会合状態のポリヌクレオチドをいう。
【0066】
本明細書で用いる場合、「アデノウイルス媒介性遺伝子移入」または「アデノウイルス形質導入」は、遺伝子または核酸配列が宿主細胞内に、アデノウイルスの細胞への進入によって移入されるプロセスをいう。好ましくは、ウイルスは、細胞内で複製され、および/または組み込まれて転写され得るものである。
【0067】
本明細書で用いる場合、「アデノウイルス粒子」は、外部のカプシドと内部の核酸物質で構成された個々のアデノウイルスビリオンであり、ここで、カプシドはさらにアデノウイルスエンベロープタンパク質で構成されている。アデノウイルスエンベロープタンパク質を、例えばアデノウイルス粒子を特定の細胞および/または組織型に標的化するために、ウイルスタンパク質に共有結合しているポリペプチドリガンドを含む融合ポリペプチドを含むように修飾してもよい。
【0068】
本明細書で用いる場合、用語「分子を細胞に投与する」(例えば、発現ベクター、核酸、補助因子、送達媒体、薬剤など)は、細胞を分子で形質導入する、トランスフェクトする、マイクロインジェクションする、エレクトロポレーションするまたはシューティング(shooting)することをいう。一部の態様では、分子は標的細胞内に、標的細胞を送達細胞と接触させることにより(例えば、細胞融合によって、または標的細胞と近接している場合は送達細胞を溶解させることにより)導入される。
【0069】
本明細書で用いる場合、語句「プライムブースト」は、T細胞応答をプライミングするために使用される本明細書に記載のLAMP構築物を使用した後、応答をブーストするためにアレルゲンを含む第2のLAMP構築物、アレルゲンを含むDNAワクチンまたは組換えアレルゲンを使用することを示す。このような異種プライム-ブースト免疫処置により、同じベクターでのプライムおよびブーストによって得られ得るものより大きい高度および幅の免疫応答が惹起される。アレルゲンX記憶細胞を含むLAMP構築物でのプライミング;ブースト工程により、この記憶応答が拡張される。好ましくは、この2種類の異なる薬剤の使用により互いに対する応答は生じず、したがって互いの活性を妨げない。プライムおよび/またはブースト工程においてアレルゲンの混合物も具体的に想定される。ブーストは1回または複数回行われ得る。
【0070】
本明細書で用いる場合、「ハイブリダイゼーション」は、1つ以上のポリヌクレオチドが反応して、ヌクレオチド残基の塩基間の水素結合によって安定化された複合体を形成する反応をいう。水素結合は、ワトソン・クリック型塩基対合、フーグスティーン型結合によって、または任意の他の配列特異的様式で行われ得る。複合体は、二本鎖構造を形成している2つの鎖、多重鎖複合体を形成している3本以上の鎖、1本の自己ハイブリダイズ性の鎖、またはこれらの任意の組合せを含むものであり得る。ハイブリダイゼーション反応は、より大規模なプロセスの一工程、例えば、PCR反応の開始またはリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断を構成するものであってもよい。
【0071】
本明細書で用いる場合、別の配列とある特定のパーセンテージ(例えば、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%)の「配列同一性」を有するポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドもしくはポリペプチド領域)は、当該技術分野で常套的なソフトウェアプログラムを用いて最大限にアラインメントした場合、この2つの配列の比較においてパーセンテージの塩基(またはアミノ酸)が同じであることを意味する。
【0072】
2つの配列は、ヌクレオチドの少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90または95%が、規定の長さDNA配列においてマッチしている場合、「実質的に相同である」か、または「実質的に類似している」。同様に、2つのポリペプチド配列は、ポリペプチドのアミノ酸残基の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90または95%が、規定の長さのポリペプチド配列においてマッチしている場合、「実質的に相同である」か、または「実質的に類似している」。実質的に相同な配列は、配列データバンクにて入手可能な標準的なソフトウェアを用いて配列を比較することにより確認され得る。また、実質的に相同な核酸配列は、例えば、その具体的な系に対して規定されたストリンジェント条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験でも確認され得る。適切なハイブリダイゼーション条件の規定は当該技術分野の技能の範囲内である。例えば、ストリンジェント条件は:5×SSCと50%ホルムアミドで42℃におけるハイブリダイゼーション、および0.1×SSCと0.1%ドデシル硫酸ナトリウムで60℃における洗浄であり得る。
【0073】
用語「配列類似性パーセント(%)」、「配列同一性パーセント(%)」などは、一般的に、共通の進化的起源を共通して有するものであり得るか、またはそうでないものであり得る核酸分子の異なるヌクレオチド配列間またはポリペプチドの異なるアミノ酸配列間の同一性または対応の度合をいう(Reeck et al.(上掲)参照)。配列同一性は、公衆に利用可能ないくつかの配列比較アルゴリズムのいずれか、例えば、BLAST、FASTA、DNA Strider、GCG(Genetics Computer Group,Program Manual for the GCG Package,Version 7,Madison,Wisconsin)などを用いて調べることができる。
【0074】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸分子間の同一性パーセントを調べるため、配列は、最適な比較の目的でアラインメントされる。2つの配列間の同一性パーセントは、配列が共通して有する同一の位置の数の関数(すなわち、同一性パーセント=同一の位置の数/位置の総数(例えば、重なっている位置)×100)である。一実施形態では、2つの配列は同じ長さ、またはほぼ同じ長さである。2つの配列間の同一性パーセントは、後述するものと同様の手法を用いて、ギャップの許容ありまたはなしで調べることができる。配列同一性パーセントの計算では、典型的には厳密なマッチ数がカウントされる。
【0075】
2つの配列間の同一性パーセントの測定は、数学的アルゴリズムを用いて行われ得る。2つの配列の比較に使用される数学的アルゴリズムの非限定的な例は、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90:5873-5877の場合のように改良されたKarlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1990,87:2264のアルゴリズムである。かかるアルゴリズムは、Altschul et al,J.Mol.Biol.1990;215:403のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれている。BLASTヌクレオチド検索をNBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で行うと、本発明の配列と相同なヌクレオチド配列が得られ得る。BLASTタンパク質検索をXBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で行うと、本発明のタンパク質配列と相同なアミノ酸配列が得られ得る。ギャップありの比較目的のアラインメントを得るためには、Gapped BLASTが、Altschul et al,Nucleic Acids Res.1997,25:3389に記載のようにして使用され得る。あるいはまた、分子間の遠縁を検出する反復検索を行うためにはPSI-Blastが使用され得る。Altschul et al.(1997)(上掲)を参照のこと。BLAST、Gapped BLASTおよびPSI-Blastプログラムを使用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータが使用され得る。ワールドワイドウェブ上のncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照のこと。
【0076】
配列比較のために使用される数学的アルゴリズムの別の非限定的な例は、Myers and Miller,CABIOS 1988;4:1 1-17のアルゴリズムである。かかるアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列の比較のためにALIGNプログラムを使用する場合、PAM120の残基重み付けの表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ12、およびギャップペナルティ4が使用され得る。
【0077】
好ましい一実施形態では、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントが、GCGソフトウェアパッケージ(Accelrys,Burlington,MA;ワールドワイドウェブ上のaccelrys.comにおいて入手可能)内のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman and Wunsch(J.Mol.Biol.1970,48:444-453)のアルゴリズムを使用し、Blossum 62行列またはPAM250行列のいずれか、ギャップウェイト16、14、12、10、8、6または4、および長さウェイト(length weight)1、2、3、4、5または6を用いて調べられる。また別の好ましい実施形態では、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントが、GCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムを使用し、NWSgapdna.CMP行列、ギャップウェイト40、50、60、70または80、および長さウェイト1、2、3、4、5または6を用いて調べられる。特に好ましいパラメータの組(および分子が本発明の配列の同一性または相同性の制限値であるかどうかを調べるのに実行者がどのパラメータを適用すべきかについて不確定である場合に使用され得るもの)は、ギャップ開始ペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4およびフレームシフトギャップペナルティ5でのBlossum 62スコア行列の使用である。
【0078】
本明細書に記載の特性の統計解析は、標準的な検定、例えばt-検定、ANOVAまたはカイ二乗検定によって行われ得る。典型的には、統計学的有意性は、p=0.05(5%)、より好ましくはp=0.01、p=0.001、p=0.0001、p=0.000001のレベルまで測定される。
【0079】
また、ドメイン配列の「保存的修飾バリアント」も提供され得る。具体的な核酸配列に関して、保存的修飾バリアントは、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードしている核酸、または核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合は本質的に同一の配列をいう。具体的には、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合型塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによる縮重コドンの置換が行われ得る(Batzer,et al.,1991,Nucleic Acid Res.19:5081;Ohtsuka,et al.,1985,J.Biol.Chem.260:2605-2608;Rossolini et al.,1994,Mol.Cell.Probes 8:91-98)。
【0080】
野生型タンパク質の「生物学的活性断片」、「生物学的活性形態」、「生物学的活性等価物」および「機能性誘導体」という用語は、(活性の検出に適したアッセイを用いて測定したとき)野生型タンパク質の生物学的活性と少なくとも実質的に等しい(例えば、有意に異ならない)生物学的活性を有するものである。例えば、トラフィッキングドメインを含む生物学的活性断片は、トラフィッキングドメインを含む完全長ポリペプチドと同じ区画に共局在し得るものである。
【0081】
本明細書で用いる場合、「インビボでの核酸送達、核酸移入、核酸療法」などは、生物体、例えばヒトまたは非ヒト哺乳動物の体内への外来性ポリヌクレオチドを含むベクターの直接的な導入をいい、これにより、外来性ポリヌクレオチドがかかる生物体の細胞内にインビボで導入される。
【0082】
本明細書で用いる場合、用語「インサイチュ」は、核酸を標的細胞と近接させるインビボ核酸送達の型の1つをいう(例えば、核酸は全身投与されない)。例えば、インサイチュ送達法としては、限定されないが、核酸を直接、部位(例えば、組織内、例えば、腫瘍または心筋内)に注射すること、核酸を細胞(1つもしくは複数)または組織と開放手術野により接触させること、または核酸を部位に、医療用アクセスデバイス、例えばカテーテルを用いて送達することが挙げられる。
【0083】
本明細書で用いる場合、用語「単離された」とは、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片が自然状態で通常、会合している細胞性およびその他の構成成分から分離された状態を意味する。例えば、ポリヌクレオチドに関して、単離されたポリヌクレオチドは、染色体内で通常、会合している5’および3’の配列から分離されているものである。当業者には明白であるように、天然に存在しないポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片は、その天然に存在する対応物と区別するための「単離」を必要としない。
【0084】
本明細書で用いる場合、「標的細胞」または「レシピエント細胞」は、個々の細胞あるいは外来性核酸分子、ポリヌクレオチドおよび/またはタンパク質のレシピエントになること、またはレシピエントであることが所望される細胞をいう。また、この用語は、単一細胞の子孫も包含していることを意図しており、子孫は、天然の偶発的な、または意図的な変異のため必ずしも本来の親細胞と(形態構造またはゲノムもしくは全DNAの相補鎖が)完全に同一でない場合があり得る。標的細胞は、他の細胞と接触していてもよく(例えば、組織の場合のように)、生物体の体内に循環状態で見出されるものであってもよい。
【0085】
本明細書で用いる場合、「被験体」は脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。哺乳動物としては、限定されないが、ネズミ科、猿、ヒト、飼養動物、競技用動物および愛玩動物が挙げられる。他の好ましい実施形態では、「被験体」が齧歯類(例えば、モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ科(例えば、マウス)、イヌ科(例えば、イヌ)、ネコ科(例えば、ネコ)、ウマ科(例えば、ウマ)、霊長類、猿(例えば、サルもしくは類人猿)、サル(例えば、マーモセット、ヒヒ)、または類人猿(例えば、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)である。他の実施形態では、ヒトにおける治療有効性を実証するためのモデルとして慣用的に使用される非ヒト哺乳動物、特に哺乳動物(例えば、ネズミ科、霊長類、ぶた、イヌ科またはウサギの動物)が使用され得る。
【0086】
本明細書で用いる場合、用語「薬学的に許容され得る担体」は、任意の標準的な医薬用担体、例えば、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水およびエマルジョン、例えば、油/水型または水/油型エマルジョン、ならびに種々の型の湿潤剤を包含している。また、組成物に安定剤および保存料を含めてもよい。担体、安定剤およびアジュバントの例については、Martin Remington’s Pharm.Sci.,15th Ed.(Mack Publ.Co.,Easton(1975))を参照のこと。
【0087】
細胞は、外来性核酸または異種核酸が細胞内部に導入されている場合、かかる核酸によって「形質転換」、「形質導入」または「トランスフェクト」されている。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成する染色体DNAに組み込まれる(共有結合される)場合もあり、そうでない場合もあり得る。例えば原核生物、酵母および哺乳動物細胞では、形質転換DNAは、エピソームエレメント、例えばプラスミドに維持され得る。真核生物細胞において、安定的に形質転換された細胞とは、形質転換DNAが染色体内に組み込まれて、染色体の複製によって娘細胞に受け継がれるようになったものである。この安定性は、真核生物細胞が、形質転換DNAを含む娘細胞集団で構成された細胞株またはクローンを確立する能力によって実証される。「クローン」は、単一細胞または共通の祖先からの有糸分裂により派生した細胞集団である。「細胞株」は、インビトロで多世代(例えば、少なくとも約10世代)にわたって安定な増殖能を有する一次細胞のクローンである。
【0088】
本明細書で用いる場合、「有効量」は、有益な結果または所望の結果がもたらされるのに充分な量、例えば、核酸の移入および/または発現、および/または所望の治療エンドポイントの獲得などの有効量である。有効量は1回以上の投与、適用または投薬量で投与され得る。一態様において、核酸送達ベクターの有効量は、少なくとも2つの細胞を含む細胞集団内の少なくとも1つの細胞が形質転換/形質導入/トランスフェクトされるのに充分な量である。
【0089】
本明細書で用いる場合、「治療有効量」は、本明細書で用いる場合、異常な生理学的応答が抑制、修正および/または正常化されるのに充分な量を意味する。一態様において、「治療有効量」は、病態の臨床的に有意な特徴、例えば病態の臨床的に有意な特徴など、例えば、抗体産生、サイトカイン生成、発熱もしくは白血球数、またはヒスタミンレベルなどが少なくとも約30パーセント、より好ましくは少なくとも50パーセント、最も好ましくは少なくとも90パーセント低減されるのに充分な量である。
【0090】
本明細書で用いる場合、用語「予防する(“prevent”または“prevents”)は、アレルギー免疫療法、アレルギーの治療、またはアレルギー患者のために設計された介入を示す他の用語との関連において、全患者の少なくとも20%におけるIgE応答の予防を意味する。用語「予防する」は、全患者におけるIgE媒介性疾患の発症の完全な予防を意味するものではない。完全な予防を意味するという定義は、アレルギー症状を低減させる機構によってアレルギーを治療する本発明の範囲外であり、当該技術分野における「予防する」の用法とは一致しない。アレルギー免疫療法の当業者には、アレルギーの治療が患者の100%において100%有効ではないことはよく知られており、そのため、「予防する」の絶対的定義は本発明の状況には当てはまらない。当該技術分野で認識されている予防の概念は本発明に想定される。
【0091】
用語「口粘膜投与」は、活性成分の局所効果または全身性効果を得るために、投薬形態を舌下または口腔内の他の箇所に置いて活性成分が患者の口腔または咽頭の粘膜と接触することを可能にする投与経路をいう。口粘膜投与経路の一例は舌下投与である。用語「舌下投与」は、活性成分の局所効果または全身性効果を得るために、投薬形態を舌の下部に置く投与経路をいう。本明細書で用いる場合、用語「皮内送達」は、皮膚の真皮へのワクチンの送達を意味する。しかしながら、ワクチンは必ずしも真皮内の排他的に位置されるのではない。真皮は、ヒトの皮膚の表面から約1.0~約2.0mmの間に位置する皮膚内の層であるが、個体間および異なる身体部において、ある一定量のばらつきがみられる。一般に、皮膚表面の1.5mm下まで達することにより真皮に到達すると予測され得る。真皮は、表面の角質層および表皮と下方の皮下層との間に位置している。送達様式に応じて、ワクチンは最終的に主として真皮内のみに位置し得るか、または最終的に表皮および真皮内に分布し得る。
【0092】
「抗体」は、特異的エピトープに結合する任意の免疫グロブリン、例えば抗体およびその断片である。この用語は、ポリクローナル、モノクローナルおよびキメラ抗体(例えば、二重特異性抗体)を包含している。「抗体の結合部位」は、抗原に特異的に結合する重鎖および軽鎖の可変領域と超可変領域で構成された抗体分子の構造部分である。例示的な抗体分子はインタクトな免疫グロブリン分子、実質的にインタクトな免疫グロブリン分子、およびパラトープを含んでいる免疫グロブリン分子の一部分、例えばFab、Fab’、F(ab’)およびF(v)部分であり、この部分は、本明細書における治療方法での使用に好ましい。
【0093】
「エピトープ」は、通常、短いペプチド配列またはオリゴ糖鎖で構成されており、免疫系の成分によって特異的に認識されるか、または特異的に結合される構造部である。T細胞エピトープは一般的に線状オリゴペプチドであることが示されている。2つのエピトープは、同じ抗体に特異的に結合され得る場合、互いに対応する。2つのエピトープは、どちらも同じB細胞受容体または同じT細胞受容体に対する結合能を有し、一方の抗体のそのエピトープに対する結合が他方のエピトープによる結合を実質的に抑制する(例えば、他方のエピトープの約30%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約10%、5%、1%または約0.1%未満が結合する)場合、互いに対応する。本発明において、複数種のアレルゲンXを合わせてアレルゲンX抗原を構成してもよい(例えば、配列番号:11、21、27、109および110参照)。
【0094】
用語「抗原物質」は、本明細書で用いる場合、自然免疫応答または適応免疫応答を惹起する任意の物質を包含している。
【0095】
用語「抗原提示細胞」は、本明細書で用いる場合、主要組織適合複合体分子またはその一部分あるいはまた1種類以上の非古典的MHC分子またはその一部分との会合状態で抗原を表面上に提示する任意の細胞を包含している。好適なAPCの例は以下に詳細に論考しており、限定されないが、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、ハイブリッドAPCおよびフォスター(foster)抗原提示細胞などの全細胞が挙げられる。
【0096】
本明細書で用いる場合、「改変操作された抗原提示細胞」は、表面上に非天然分子の部分を有する抗原提示細胞をいう。例えば、かかる細胞は、表面上に天然状態で共刺激分子を有していないものであり得るか、または表面上に天然の共刺激分子に加えて人工のさらなる共刺激分子を有するものであり得るか、または表面上に非天然のクラスII分子を発現するものであり得る。好ましい実施形態では、改変操作された抗原提示細胞は、表面上に1種類以上のアレルゲンXを有するものである。
【0097】
本明細書で用いる場合、「免疫エフェクター細胞」は、抗原結合能を有しており、免疫応答を媒介する細胞をいう。このような細胞としては、限定されないが、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、NK細胞ならびに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、例えば、CTL株、CTLクローンおよび腫瘍、炎症または他の浸潤物由来のCTLが挙げられる。
【0098】
「単離された」または「精製された」細胞集団は、自然状態では会合している細胞および物質を実質的に含有していないものである。実質的に含有していない、または実質的に精製されたAPCにより、集団の少なくとも50%がAPCであること、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%が、自然状態では会合している非APC細胞を本質的に含有していないことを意図する。
【0099】
本明細書で用いる場合、「遺伝子修飾」は、細胞の正常なヌクレオチドに対する任意の付加、欠失または破壊をいう。APCの遺伝子修飾が行われ得る任意の方法が本発明の趣旨および範囲に含まれる。当該技術分野で認識されている方法としては、ウイルス媒介性遺伝子移入、リポソーム媒介性移入、形質転換、トランスフェクションおよび形質導入、例えば、ウイルス媒介性遺伝子移入、例えばDNAウイルス、例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびヘルペスウイルスベースのベクターならびにレトロウイルスベースのベクターの使用が挙げられる。
【0100】
本発明の実施には、特に記載のない限り、当該技術分野の技能の範囲内の慣用的な分子生物学、微生物学および組換えDNAの手法が使用される。かかる手法は文献に充分に説明されている。例えば、Maniatis,Fritsch & Sambrook,In Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes IおよびII(D.N.Glover編,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編,1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編,1985);Transcription and Translation(B.D.Hames & S.I.Higgins編,1984);Animal Cell Culture(R.I.Freshney編,1986);Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)を参照のこと。
【0101】
アレルゲンX抗原の配列
本発明により、アレルゲンXに指向されるポリ核酸、ポリアミノ酸、宿主細胞、ベクターおよびかかるポリ核酸、ポリアミノ酸、宿主細胞またはベクターを必要とする、被験体の治療方法を提供する。大まかに言うと、ポリ核酸は、ポリ核酸の投与対象である被験体の体内で防御免疫応答を惹起するアレルゲン配列(ポリアミノ酸)の細胞内生成のための核酸(例えば、DNA、RNA)ワクチンであると考えられたい。ポリ核酸は、投与されると、IgE抗体の産生、顆粒球(例えば、好酸球)および他の物質を伴うTh2-型応答ではなく、MHC-II経路ならびにAPC、NK細胞およびT細胞によるインターフェロンの生成を伴うアレルゲン特異的T-ヘルパー1型(Th1)細胞応答の活性化によるIgG抗体の産生による細胞媒介性免疫応答を優先的に誘起する。ある程度までは、MHC-IIおよびMHC-Iの両方の応答が生じ得る;しかしながら、本発明では、主として、または実質的にMHC-II応答である応答がもたらされる。好ましくは、核酸は抗生物質耐性遺伝子をコードしていない。
【0102】
本発明は、少なくとも一部において、ある特定の構造的要素、したがって機能的要素の組合せにより、核酸ワクチンおよびコードされたアレルゲンにとって好都合な特性がもたらされ、当該技術分野でまだ対処されていない必要性を満たすアレルギーの治療方法が可能になるという認識に基づいている。本発明の種々の実施形態(これらは、独立した実施形態として、および独立した実施形態の2つ以上の特徴を兼ね備えた実施形態として単独で成立すると理解されることを意図している)において、組合せとしては、アレルゲンXをリソソームにMHC IIタンパク質とともに指向するためのリソソームトラフィッキングドメインの使用が挙げられる。そのようにすることにより、アレルゲンXに対してIgE応答ではなくIgG応答が優勢になることが可能になる。またさらには、独立した実施形態または実施形態の組合せにより、エピトープの天然に存在する三次元構造をもたらすアミノ酸配列をコードするのに充分な長さの核酸配列(例えば、完全長核酸配列またはその断片、完全長核酸配列のバリアントまたはその断片など)を含む構築物がもたらされる。好ましい実施形態では、核酸配列はアレルゲンX(配列番号:Y)をコードしている。他の実施形態では、核酸配列は、少なくとも1種類のアレルゲンXをコードしている。当該技術分野では免疫応答はエピトープの一次配列に対して生じ得ると認識されているが、本発明の認識では、コードされたエピトープに対するMHC-II免疫応答の発生のための核酸ワクチンには、好ましくは、少なくともアレルゲンXがプロセッシングのためにリソソームに送達されたときに、アレルゲンXを含む領域において正しい三次元ペプチド構造がもたらされるのに充分な配列データをコードしている核酸構築物を使用する。なんら特定の分子論に限定されないが、適正に三次元にフォールディングされたタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドがエンドソームに送達されることにより、免疫応答のためのアレルゲンエピトープのプロセッシングおよび提示が改善されると考えられる。
【0103】
したがって、本発明により、アレルゲンXとポリペプチドの内腔側配列とを含むキメラであって、内腔側配列が、抗原プロセッシングおよびMHC IIとの抗原エピトープの会合のためにエンドソーム/リソソーム区画へのキメラのトラフィッキングをもたらすものであるキメラを提供する。一態様において、キメラタンパク質は、キメラをエンドソーム/リソソーム区画に指向する細胞質標的化配列をさらに含む。さらに、キメラタンパク質は、シグナル配列および/または膜貫通配列もまた含むものであってもよい。好適なトラフィッキングドメインは、以下に論考するように、LAMP-1、LAMP-2、DC-LAMP、Trp-1、DEC-205、gp200-MR6および他のポリペプチドから供給されるものである。シグナル配列および膜貫通配列は、これらのポリペプチドに由来するものであり得るが、そうでなくてもよい。しかしながら、一態様では、抗原/LAMPキメラは完全長LAMPポリペプチドを含むものである。
【0104】
アレルゲンXは、キメラタンパク質を生成させるために使用され得る。一態様において、好ましい組成物は、表1に示す配列番号:Yのいずれか1つのアレルゲンXのアミノ酸配列または配列番号:Yのいずれか1つをコードしているポリヌクレオチドを含む。アレルゲンXをコードするものであり得るポリヌクレオチドの好ましい代表例を配列番号:Zとして表1に示す。さらなる好ましい代表的な実施形態は、アレルゲンXを、ヒト、ネズミ科またはイヌ科のいずれかのLAMP配列とともに含む構築物である(例えば、配列番号:Wおよび配列番号:V参照)。本実施例の表3に示すように、驚くべきことに、配列番号:Yに対応する特定のアレルゲンXのアミノ酸配列を含むキメラLAMPワクチンでは、試験した他の構築物と比べて予期しないロバストな免疫応答が生じることがわかった。
【0105】
アレルゲンXにはアレルゲンXのバリアントもまた包含され得る。例えば、好ましい実施形態は、配列番号:Yと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアレルゲンXポリペプチドバリアントを含む。このようなバリアントは、(a)アレルゲンXと交差反応する抗体を生じさせる能力(ここで、抗体はアレルゲンXにより誘導されたものである)、および/または(b)アレルゲンXの生物学的活性のいずれかを保持している。このようなポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドが具体的に想定される。
【0106】
合成のアレルゲンX抗原および改変されたアレルゲンX抗原もまた、本明細書に記載の方法において使用され得る。合成の抗原アレルゲンXペプチドエピトープは、天然のアレルゲンXの配列と比べて修飾されたアミノ酸配列を有する。さらに、用語「合成のアレルゲンX抗原ペプチド」には、任意選択で介在アミノ酸配列を含む合成の抗原アレルゲンXペプチド多量体(コンカテマー)が包含される。例えば、本発明の合成のアレルゲンX抗原ペプチドエピトープは、抗原アレルゲンXペプチドエピトープの既知のアミノ酸配列に基づいて設計され得る。
【0107】
また、翻訳中または翻訳後、例えばリン酸化、グリコシル化、架橋、アシル化、タンパク質分解性切断、抗体分子、膜分子または他のリガンドとの連結によって差次的に修飾された抗原アレルゲンXペプチドも本発明の範囲に含まれる(Ferguson et al.,Ann.Rev.Biochem.57:285-320,1998)。
【0108】
単離されたアレルゲンXペプチドは、適切な固相合成手順を用いて合成され得る(Steward and Young,Solid Phase Peptide Synthesis,Freemantle,San Francisco,Calif.1968)。好ましい方法の1つはメリフィールド法である(Merrifield,Recent Progress in Hormone Res.23:451,1967)。このようなペプチドのアレルゲンX抗原活性は、例えば本明細書に記載のアッセイを用いて簡便に試験され得る。
【0109】
単離されたアレルゲンXペプチドが得られたら、これは、標準的な方法、例えばクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティおよびサイズ排除(sizing)カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差によって、またはタンパク質精製のための任意の他の標準的な手法によって精製され得る。イムノアフィニティクロマトグラフィーでは、アレルゲンXエピトープは、これを、ペプチドまたは関連ペプチドに対して生じさせて固定支持体に固定した抗体を含むアフィニティカラムに結合させることにより単離され得る。あるいはまた、親和性タグ、例えばヘキサ-His(Invitrogen)、マルトース結合ドメイン(New England Biolabs)、インフルエンザ外被配列(Kolodziej,et al.,Methods Enzymol.194:508-509,1991)およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼをペプチドに結合し、適切なアフィニティカラムに通すことによる容易な精製が可能となるようにしてもよい。また、単離されたアレルゲンXペプチドを、タンパク質分解、核磁気共鳴およびx線結晶学などの手法を用いて物理的特性評価してもよい。
【0110】
所望のエピトープのアレルゲンXペプチド配列を単離して同定したら、このエピトープをコードする配列を含む核酸が容易に配列決定され得る。
【0111】
エンドサイトーシストラフィッキング配列
入手可能なデータにより、MHCクラスII分子の細胞内輸送において以下のシーケンスの事象が示唆される:MHCクラスII分子とインバリアント鎖が小胞体内で会合し、ゴルジ体を経て、他の膜タンパク質、例えばMHCクラスIとともに輸送される。分子は次いで、未知の機構によって特定のエンドソーム/リソソーム細胞小器官に標的化され、構成的経路に従うMHCクラスI分子から分離されて細胞表面に向かう。エンドサイトーシス/リソソーム経路では、インバリアント鎖はMHCクラスIIから、酸性環境で作用するプロテアーゼによって除去される。同時に、このようなプロテアーゼによって、エンドサイトーシス/リソソーム経路に進入したタンパク質の抗原断片が生成し、生じたペプチドがクラスII分子に結合し、細胞表面へと運ばれる。
【0112】
リソソーム/エンドソーム区画内に存在する加水分解酵素の生合成および液胞標的化機構は広く研究されている(Kornfeld and Mellman,Ann.Rev.Cell Biol.5:483,1989)。ゴルジ装置内で新たに合成されるヒドロラーゼは、マンノース6-リン酸受容体に対するこの酵素の結合の特異的認識マーカーとしての機能を果たすマンノース6-リン酸基を獲得し、次いでこれは、なんらかの未知の様式でプレリソソーム液胞に標的化される。そこで、受容体-酵素複合体が低pHによって解離し、受容体がゴルジ装置に再利用されるとともに、酵素含有液胞はリソソームに成熟する。
【0113】
リソソーム膜糖タンパク質の局在は、加水分解性リソソーム酵素について明確に定義されたマンノース6-リン酸受容体(MPR)経路とは独立した標的化機構によって制御される(Kornfeld and Mellman,1989(上掲))。最近の研究により、リソソーム特性を有し、高濃度のリソソーム結合膜タンパク質(LAMP-1)およびMHCクラスII分子を特徴とする別個の小胞区画が報告されている(Peters,et al.,EMBO J.9:3497,1990)。新たに合成されるLAMP-1および他の同様のタンパク質の細胞内輸送および標的化のリソソーム/エンドソーム区画の速度論解析により、分子が小胞体内で合成され、ゴルジ偏平嚢内でプロセッシングされ、形質膜への検出可能な蓄積なしに、その生合成の1時間以内にリソソームに輸送されることが示されている(Barriocanal,et al.,J Biol.Chem.15:261(35):16755-63,1986;D’Sousa,et al.,Arch.Biochem.Biophys.249:522,1986;Green,et al.,J.Cell Biol.,105:1227,1987)。
【0114】
リソソーム膜の構造および機能の研究は1981年に、Augustおよび共同研究者らによって開始され、主要な細胞糖タンパク質が発見され、これは、リソソーム膜に主に局在していることから、後にリソソーム結合膜タンパク質1および2(LAMP-1およびLAMP-2)と称された(Hughes,et al.,J.Biol.Chem.256:664,1981;Chen,et al.,J.Cell Biol.101:85,1985)。その後、同様のタンパク質がラット、ニワトリおよびヒト細胞においても同定された(Barriocanal,et al.,1986(上掲);Lewis,et al.,J.Cell Biol.100:1839,1985;Fambourgh,et al.,J.Cell Biol.106:61,1988;Mane,et al.,Arch.Biochem.Biophys.268:360,1989)。
【0115】
典型的には、LAMP-1は、cDNAクローンから推測すると(Chen,et al.,J.Biol.Chem.263:8754,1988)、大型の(346残基)内腔側アミノ末端ドメインに続いて24残基の疎水性膜貫通領域および短い(12残基)カルボキシル末端細胞質尾部を有する約382個のアミノ酸のポリペプチドコアからなる。図2および3を参照のこと。内腔側ドメインは高度にグリコシル化されており(約20個のアスパラギン結合複合体型オリゴ糖で置換)、プロリン/セリンリッチ領域によって隔てられた2~約160残基の相同性単位からなる。このような相同ドメインの各々は、ジスルフィド結合されて内腔側ドメインの2つの半部内に対称的に配置された4つの36~38残基のループを形成している一定間隔をあけた4つのシステイン残基を含む(Arterburn,et al.,J.Biol.Chem.265:7419,1990;また、Chen,et al.,J.Biol.Chem.25:263(18):8754-8,1988も参照のこと)。LAMP-2分子は、アミノ酸配列全体ではLAMP-1と非常に類似している(Cha,et al.,J.Biol.Chem.265:5008,1990)。
【0116】
LAMP-1およびLAMP-2は抗原提示細胞(樹状細胞)には具体的に見出されない。これらの厳密な機能は不明であるが、おそらく、なんらかの様式でリソソーム機能に関与している。これらがMHC IIとAPCの多層MIIC小胞区画内に共局在することは、抗原のプロセッシングまたは提示との既知の機能的関連性は有していない;しかしながら、LAMP細胞質ドメインを含むキメラ抗原は、上記に論考したように、増強された免疫原性を示す(米国特許第5,633,234号参照)。
【0117】
本発明により、リソソーム結合膜タンパク質、例えばLAMPポリペプチドの内腔側ドメイン、またはその生物活性断片もしくは修飾形態(集合的に「LAMP-内腔側ドメイン」と称する)を含むキメラアレルゲンXタンパク質を提供する。一態様において、LAMP内腔側ドメインは少なくとも2つの相同性単位を含む。好ましくは、各相同性単位は、プロリン/セリンリッチ領域によって隔てられている。より好ましくは、各相同性ドメインは、ジスルフィド結合されて一体になると、内腔側ドメインの2つの半部内に対称的に配置された4つの36~38残基のループを形成し得る4つのシステイン残基を含む。最も好ましくは、内腔側ドメインは、(例えば、化学結合によって)ドメインに連結されているポリペプチドを、MHCクラスII分子との結合のためにエンドソーム/リソソーム区画もしくはリソソーム関連細胞小器官に、または別の区画/細胞小器官に送達して、そこでMHCクラスII分子と結合させるために標的化してトラフィッキングするのに必要な配列を含む。
【0118】
好ましい一実施形態では、本発明において使用され得るLAMP-1の内腔側ドメインの部分としては、限定されないが、配列番号:2もしくは3、または配列番号:4のアミノ酸29~381(あるいは配列番号:5の対応配列)が挙げられる。さらなる好ましい実施形態では、LAMP-1の膜貫通ドメイン/細胞質尾部が本発明において使用され得る。例えば、配列番号:1、または番号:4のアミノ酸配列382~417(あるいは配列番号:5の対応配列)が、本明細書に記載のキメラワクチンに使用され得る。さらに、内腔側ドメインの断片と膜貫通ドメイン/細胞質尾部の断片の任意の組合せが使用され得る。
【0119】
別の態様では、キメラタンパク質は付加的または択一的に、少なくとも1つのロイシン-ロイシンペアまたは少なくとも1つのロイシン/イソロイシンペアを含むジロイシンベースシグナルを含む。好ましくは、タンパク質は、ペアの4~5残基上流に酸性残基をさらに含む。より好ましくは、このシグナルドメインはAP複合体ポリペプチドに結合する(例えば、Bonafacino and Dell’Angelica,J.Cell Biol.145:923-926,1999参照)。好適なジロイシンベースドメインは、例えば、チロシナーゼ(TM-X10-EKQPLL-X-YHSL-X)(配列番号:97);TRP-2(TM-X-EANQPLL-X12)(配列番号:98);ならびにPmel7(TM-X34-ENSPLL-X)(配列番号:99)およびP-タンパク質(例えば、Dell’Angelica,2000(上掲)参照)にみられ得るものである。
【0120】
好ましい一態様において、キメラタンパク質はまた、キメラアレルゲンXタンパク質をエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化および/またはトラフィッキングするための細胞質ドメインも含む。一態様において、細胞質ドメインはLAMPポリペプチドの尾部を含む。LAMP-1および他の同様のリソソーム膜糖タンパク質の細胞質尾部の11個のアミノ酸の配列は以下の配列:Arg-Lys-Arg-Ser-His-Ala-Gly-Tyr-Gln-Thr-Ile-COOHを有する(Chen,et al.,1988(上掲))(配列番号:1の残基25~35)。LAMP-1では、この配列は完全長ポリペプチドのアミノ酸372~382である。
【0121】
リソソーム膜タンパク質LAMP-1(Chen,et al.,1988(上掲))、LAMP-2(Cha,et al.,1990(上掲))およびCD63(Hotta,et al.,Cancer Res.48:2955,1988)の既知の細胞質尾部の配列を、LAP(Pohlman,et al.,EMBO J.7:2343,1988)の細胞質尾部のTyr含有インターナリゼーションシグナルと表2においてアラインメントしている。Tyr残基はエンドソーム/リソソーム標的化に必要とされることがわかっており、米国特許第5,633,234号において、他の分子をリソソームに標的化するのに必要とされる完全な配列は、Tyrに続いて2つのアミノ酸、その後に疎水性残基が続くTyr-X-X-hyd配列(すなわち、「Tyrモチーフ」)を必要とすることが実証された。
【0122】
【表2】
【0123】
カルボキシル末端の位置またはその付近における疎水性残基の重要性は、LAMP-1のTyr-Gln-Thr-Ile配列(配列番号:1の残基32~35)の修飾によって得られた結果によって示される。Ileが他の2つの疎水性残基LeuまたはPheおよび極性残基Thrで置換された変異型cDNA分子が作製された。Leuでの置換(Tyr-Gln-Thr-Leu)(配列番号:103)およびPheでの置換(Tyr-Gln-Thr-Phe)(配列番号:104)はリソソーム標的化に影響しないが、Thr含有変異型タンパク質(Tyr-Gln-Thr-Thr)(配列番号:105)は細胞表面に蓄積される。Glnの代わりにAlaを含む変異型(Tyr-Ala-Thr-Ile)(配列番号:106)、Thrの代わりにAlaを含む変異型(Tyr-Gln-Ala-Ile)(配列番号:107)および両残基の代わりにAlaを含む変異型(Tyr-Ala-Ala-Ile)(配列番号:108)は、リソソーム膜への標的化に対して効果を有さず、これらの位置は荷電残基に占有されていても、極性残基に占有されていても、無極性残基に占有されていてもよいことを示す。
【0124】
したがって、リソソーム/エンドソーム区画への好ましい標的化シグナルは、細胞質ドメイン内、膜貫通ドメイン付近、またC末端付近にも位置するテトラペプチド配列を含む。細胞質ドメインは好ましくは、遊離カルボキシル基で終結する短いアミノ酸配列(70個未満のアミノ酸、好ましくは30個未満のアミノ酸、最も好ましくは20個未満のアミノ酸)である。より好ましい一実施形態では、テトラペプチドは、標的化シグナルを含む短い細胞質尾部のC末端に存在するか、またはLAMP-1と同様の状況で存在する。
【0125】
テトラペプチドの好適な4個のアミノ酸の配列はアミノ酸置換によって得られ得るが、モチーフがTyr-X-X-Hyd(ここで、Xは任意のアミノ酸であり得、Hydは疎水性アミノ酸を表す)からなり、リソソーム/エンドソーム標的化を付与する能力が保存されている場合に限る。特に好ましいテトラペプチドの一例は、配列Tyr-Gln-Thr-Ile(配列番号:1の残基32~35)を有するものである。最も好ましい実施形態では、膜貫通ドメイン、最も好ましくは内腔側ドメインと併せたLAMPの細胞質尾部全体が、高度に効率的なMHCクラスIIのプロセッシングおよび提示のために抗原ドメインの一次配列にカップリングされる。しかしながら、細胞質ドメインは、LAMPポリペプチドの内腔側ドメインを備えている限り、トラフィッキングを助長するために必要でない。
【0126】
別の態様では、エンドソーム標的化ドメインは膜貫通配列を含む。特定の免疫賦活構築物の抗原ドメインの供給源としての機能を果たす多くのタンパク質は、その一次配列に膜貫通ドメインを含む表面抗原である。かかる膜貫通ドメインは保持され、細胞質ドメインは、本明細書に教示しているようなリソソーム/エンドソーム標的化ドメイン(例えば、LAMP内腔側ドメインを含むドメイン)で置き換えられ得る。
【0127】
好ましい一態様では、LAMPの膜貫通ドメイン(Chen,et al.,J.Biol.Chem.263:8754,1988参照)が、アレルゲンX由来ポリペプチドの一次配列および内腔側ドメインの配列にカップリングされる。ポリペプチドの膜貫通ドメインの構造は当該技術分野でよく知られている(例えば、Bangham,Anal.Biochem.174:142,1988;Klein,et al.,Biochem.Biophys.Acta 815:468,1985;Kyle & Doolittle,J.Mol.Biol.157:105,1982参照)。通常、膜貫通領域は、一次配列において、親水性領域にフランキングされた20~25個の疎水性アミノ酸残基の配列としてみられる。かかる配列は、例えば、Genbankのリストにあるほとんどの細胞表面抗原の配列ならびに他の多くの膜タンパク質においてみられ得る。具体的な膜貫通配列は、これが抗原ドメインを内腔側ドメインと細胞質尾部に連結する機能を果たし、膜性区画内の構築物をアンカーリングする限り、重要でない。
【0128】
付加的または択一的なソーティングモチーフとしては、限定されないが:標的化ドメイン、上記のチロシンモチーフドメイン;ジロイシンおよびチロシンベースのドメイン;プロリンリッチドメイン;ならびにS-V-Vドメイン(例えば、Blott and Grifitts,Nature 3:122-131,2002参照)のうちの1つ以上が挙げられ得る。
【0129】
エンドサイトーシス受容体の配列
抗原提示細胞、例えば樹状細胞のMHC II小胞区画への抗原の到達は通常、外来抗原のエンドサイトーシスによるものである。クラスII MHC分子との会合およびその後のプロセッシングのためにアレルゲンXをエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に運ぶためのキメラポリペプチドの作製には、エンドサイトーシス受容体のトラフィッキングドメインが使用され得る。
【0130】
したがって、一態様において、本発明により、(例えば、トラフィッキングドメインと抗原をコードしている核酸配列のインフレーム融合によって)エンドサイトーシス受容体のトラフィッキングドメインに連結された少なくとも1種類のアレルゲンXを提供する。トラフィッキングドメインはアレルゲンXをエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に、区画/細胞小器官内またはアレルゲンXが送達される次の区画内でのMHCクラスII分子との会合ために局在させる。
【0131】
本発明によるエンドサイトーシス受容体としては、限定されないが、微生物に対する受容体、Fc受容体(例えば、CD64、CD32、CD16、CD23およびCD89);補体受容体(例えば、CR1もしくはCD35、CR3、CR4);スカベンジャー受容体またはアセチル化型もしくは修飾型のリポタンパク質、ポリリボヌクレオチド、リポ多糖およびシリカ粒子に結合する受容体(例えば、SRA、MARCOなど)、インテグリン(CD49e/CD29;CD49d/CD29;CD51/CD61);レクチン(例えば、デクチン-1、C型レクチンなどなど)、ならびにToll様受容体(例えば、TLR)が挙げられる。かかる受容体の概説については、例えば、Underhill and Ozinsky,Annu.Rev.Immunol.20:825-52,2002を参照のこと。
【0132】
一態様において、エンドサイトーシス受容体は専門的抗原提示細胞、例えば樹状細胞から得られるものである。樹状細胞のいくつかのエンドサイトーシス受容体、例えばマクロファージマンノース受容体(MMR)、ホスホリパーゼA-受容体、Endo 180およびDEC-205ならびにそのヒトホモログgp200-MR6(McKay,et al.,1998)が同定されている。少なくとも、DEC-205が抗原物質をLAMPおよびMHC IIが共局在しているエンドソーム/リソソーム区画に標的化するのに対して、MMRはLAMPおよびMHC IIがない末梢エンドソームにみられるという点で、DEC-205はMMRとは異なっていると報告されている(Mahnke,et al.,J.Cell Biol.151(3):673-684,2000)。
【0133】
また、DEC-205は、MMRによるものと比べて、エンドサイトーシスを受けた抗原のCD4+ T細胞への提示の大きな増強を示す。この2つの分子間のトラフィッキングおよびMHC IIへの抗原送達におけるこの違いは、被覆ピット取込み配列に加えて、DEC-205のサイトゾル尾部におけるMMRにはないEDE三残基の存在に起因していると報告されている。EDE配列を含むサイトゾル尾部の遠位部分は、LAMPおよびMHC IIを含むより深部のエンドソーム/リソソーム区画への標的化に必要とされることが示され、EDEはAAA配列で置き換えることができなかった。また、Mahnke et al.,2000(上掲)により、このような細胞質尾部のトラフィッキングシグナルは、CD16キメラをMHC II/LAMP部位にトラフィッキングして再利用するのに、および抗原提示の100倍増大を媒介するのに充分であることも示されている。
【0134】
DEC-205とgp200-MR6間の、特に細胞質ドメインにおける配列類似性により、この配列も同様に好適なトラフィッキング配列となる。さらに、gp200-MR6は、IL-4の調節というさらなる重要な特性を有することが示されている。McKay et al.,Eur J Immunol.28(12):4071-83,1998により、gp200-MR6のライゲーションによってIL-4が模倣され、免疫系において抗増殖性成熟促進性の影響がもたらされ、Bリンパ球に対する共刺激分子の上方調節が引き起こされ得ることが示されている。
【0135】
しかしながら、LAMPとのDEC-205融合体はエンドソーム区画へのトラフィッキングを行うのではなく、細胞表面に局在する。しかしながら、LAMPドメインと少なくとも1種類のアレルゲンX、およびエンドサイトーシス受容体ドメイン、例えばDEC-205ドメインを併せ持つキメラタンパク質は、エンドソーム区画へのトラフィッキングを行うことができ、内在性LAMPと共局在する。
【0136】
したがって、好ましい一態様において、本発明のキメラアレルゲンXタンパク質は、リソソーム膜ポリペプチドの内腔側ドメイン(例えば、LAMP内腔側ドメインなど)とエンドサイトーシス受容体(例えば、DEC-205またはgp 200-MR6ポリペプチドなど)の標的化ドメインを含む。かかる構築物は、正しい標的化だけでなく、改善された抗原性も示し得る。さらなる一態様では、エンドサイトーシス受容体の標的化およびトラフィッキングの両方のドメインが少なくとも1種類のアレルゲンXとともに提供される。キメラアレルゲンXタンパク質は付加的または択一的に、エンドサイトーシス受容体の内腔側ドメインを含むものであり得る。なおさらなる一態様では、キメラタンパク質は、完全長のエンドサイトーシス受容体ポリペプチドを少なくとも1種類のアレルゲンXとともに含むものであり得る。
【0137】
一態様において、エンドサイトーシス受容体の標的化ドメインは、DECポリペプチドの31個のアミノ酸の細胞質ドメインを含む(例えば、Manhke,et al.,2000(上掲)参照)。別の態様では、標的化ドメインは、DEC-205細胞質尾部の残基7~9を含む。好ましくは、ドメインはTyrモチーフを含む。より好ましくは、標的化ドメインはまた、DEC-205細胞質尾部の残基18~27も含む。さらなる一態様では、標的化ドメインはEDEドメインを含む。例えば、DEC-205の配列はKato,et al.,Immunogenetics 47(6):442-50,1998に示されており、一方、gp200-MR6のものはMcKay,et al.,1998(上掲)に示されている。
【0138】
キメラアレルゲンXタンパク質はさらに、少なくとも1種類のアレルゲンXをエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化するための細胞質標的化ドメイン(例えば、細胞質LAMPドメインなど)ならびに上記の他のドメインのうちの1つ以上(例えば、シグナル配列、膜貫通配列など)を含むものであり得る。前述のように、付加的または択一的なソーティングモチーフとしては、限定されないが、M6Pドメイン;チロシンモチーフドメイン;ジロイシンおよびチロシンベースのドメイン;プロリンリッチドメイン;ならびにS-V-Vドメイン(例えば、Blott and Grifitts,Nature 3:122-131,2002参照)のうちの1つ以上が挙げられ得る。
【0139】
ワクチン組成物
いくつかの抗原は、新規なキメラワクチンを作製するためにLAMPと組み合わせることができるという仮説が立てられているが;実際には、試験すると、このようなワクチンは必ずしも奏功するとは限らない。
【0140】
したがって、本発明により、哺乳動物においてアレルゲンXに対する免疫応答を惹起するためのワクチン組成物を提供する。組成物は、少なくとも1種類のアレルゲンX(配列番号:Y)をコードしている配列を含むキメラDNAセグメントを含むワクチンベクターを含む。好ましくは、DNAセグメントは、リソソーム結合膜ポリペプチド(例えば、LAMPポリペプチド(例えば、配列番号:2、3、4もしくは5)あるいはそのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾形態など)の内腔側ドメインまたはエンドサイトーシス受容体のトラフィッキングドメインをコードしている配列をさらに含む。好ましくは、内腔側ドメインまたはトラフィッキングドメインは、抗原を細胞のエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官にトラフィッキングし、そこで、MHCクラスII分子に結合するか、または別の区画/細胞小器官に送達されてそこで続いてMHCクラスII分子に結合するようにプロセッシングされる。より好ましくは、アレルゲンXは、区画/細胞小器官(または送達される次の区画)内でプロセッシングされてアレルゲンXエピトープが生成し、これが細胞の表面上に提示され、MHCクラスII分子に結合される。
【0141】
また、ベクターは、膜貫通ドメイン、タンパク質をエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に指向するエンドソーム/リソソーム標的化シグナルを含む細胞質ドメイン、ならびにジロイシンドメイン、Tyrモチーフ、プロリンリッチドメインおよび/またはS-V-Vドメインのうちの1つ以上もコードしていてもよい。
【0142】
ドメインは、順々に備えていてもよく、リンカーポリペプチドをコードしている核酸または所望の機能を有する他のアミノ酸配列(例えば、タンパク質安定化配列など)をコードしている核酸によって隔てられていてもよい。一般的に、リンカー配列を含める場合、これは、約1~約50個のアミノ酸の範囲のリンカーポリペプチドをコードしているものである。ベクターの最小限の要件は、所望のトラフィッキング特性を有するキメラアレルゲンXタンパク質をコードしていることである。かかる特性は、当該技術分野で常套的なアッセイを用いて容易に試験することができる。
【0143】
例えば、免疫蛍光顕微鏡法を使用し、アレルゲンXキメラタンパク質の適切な区画/細胞小器官へのトラフィッキングを確認することができる。35Sメチオニンパルスチェイスラベリング解析は、アレルゲンXキメラタンパク質の合成および分解をモニタリングし、アレルゲンXキメラタンパク質の合成速度に対する内在性アレルゲンXタンパク質の合成速度が本質的に等しいこと、および/またはアレルゲンXキメラタンパク質のプロセッシングが適正に行われていることを示すために使用され得る。
【0144】
特定の実施形態では、キメラDNAセグメントにコードされたタンパク質が、主要組織適合複合体(MHC)クラスII分子と複合体形成するペプチドである少なくとも1種類のアレルゲンXエピトープを含む内部内腔ドメイン、上記のエンドソーム/リソソームトラフィッキング配列、およびエンドソーム/リソソーム標的化配列を含む細胞質ドメインを含むものである。好ましくは、標的化配列はテトラペプチド配列Tyr-Xaa-Xaa-Xbbを含むものであり、ここで、Xbbは疎水性アミノ酸である。
【0145】
別の態様では、キメラDNAセグメントにコードされたタンパク質が、膜結合型の抗原物質と非膜結合型の抗原物質の両方をエンドソーム/リソソーム区画に標的化およびトラフィッキングするための配列を含む完全長のリソソーム膜結合ポリペプチド、例えば、LAMPポリペプチド、そのホモログ、オーソログ、バリアントまたは修飾形態を含む。
【0146】
好ましい実施形態では、キメラワクチンは、(a)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つ;(b)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wとして同定されるポリヌクレオチドのいずれか1つにコードされたポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(c)表1に示す配列番号:Yまたは配列番号:Vのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(d)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)、表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上、およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド;(e)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)および表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上をコードしているポリヌクレオチド;(f)表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチドあるいは(g)(a)~(f)のポリヌクレオチドのいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性のポリヌクレオチドを含むものである。
【0147】
アレルゲンXキメラタンパク質をコードしている配列のアセンブリング
キメラタンパク質の構築のための手順は当該技術分野でよく知られている(例えば、Williams,et al.,J.Cell Biol.111:955,1990参照)。所望のセグメントをコードしているDNA配列は、容易に入手可能な組換えDNA材料、例えばAmerican Type Culture Collection,12301 Parklawn Drive,Rockville,Md.20852,U.S.A.から、または所望のDNAを含むDNAライブラリーから入手可能なものにより得ることができる。
【0148】
かかるDNAセグメントは最低限:アレルゲンXタンパク質の抗原ドメインと、リソソーム膜結合ポリペプチドの内腔側ドメイン(内腔側ドメインに連結されたポリペプチドのエンドソーム/リソソーム区画もしくはリソソーム関連細胞小器官へのトラフィッキングのためのもの)および/またはエンドサイトーシス受容体のトラフィッキングドメイン(エンドソーム/リソソーム区画およびまたはリソソーム関連細胞小器官へのトラフィッキングのためのもの)をコードしている配列を含む。さらなるDNAセグメントは、限定されないが:キメラタンパク質をエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化するための細胞質標的化配列、膜貫通配列、シグナル配列、ジロイシン配列、Tyrモチーフ、プロリンリッチドメイン、M6P配列、Ser-Val-Val配列ならびにクローニング配列などをコードしている配列を含むものであり得る。
【0149】
所望のドメイン配列に対応するDNAセグメントを次いで、適切な制御配列およびシグナル配列と、組換えDNA方法論の常套的な手順を用いて会合させる。例えば、米国特許第4,593,002号およびLangford,et al.,Molec.Cell.Biol.6:3191,1986に記載のものを参照のこと。
【0150】
タンパク質またはポリペプチドをコードしているDNA配列は化学合成してもよく、いくつかのアプローチのうちの1つによって単離してもよい。合成すべきDNA配列は、所望のアミノ酸配列に適切なコドンを用いて設計され得る。一般に、配列の発現のための使用が意図される宿主に対して好ましいコドンが選択される。完全な配列は、標準的な方法によって調製して完全なコード配列にアセンブリングした重複するオリゴヌクレオチドからアセンブリングされ得る。例えば、Edge,Nature 292:756,1981;Nambair,et al.Science 223:1299,1984;Jay,et al.,J.Biol.Chem.259:6311,1984を参照のこと。
【0151】
一態様において、キメラタンパク質のドメイン配列をコードしている1種類以上の核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて個々に単離される(M.A.Innis,et al.,In PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press,1990)。ドメインは好ましくは、これを含んでいることがわかっている公衆に利用可能なクローンから単離されるが、ゲノムDNAまたはcDNAライブラリーから単離してもよい。好ましくは、単離された断片は、免疫原性のタンパク質配列をコードしているキメラDNAが構築されることを可能にする適合性の制限エンドヌクレアーゼ部位と隣接させる。この手法は当業者によく知られている。ドメイン配列は、互いに直接融合されていてもよく(例えば、介在配列なしで)、相互に挿入されていてもよく(例えば、ドメイン配列が不連続である場合)、介在配列(例えば、リンカー配列など)によって隔てられていてもよい。
【0152】
オリゴヌクレオチドプライマー、プローブおよびDNAライブラリーの調製、ならびに核酸ハイブリダイゼーションによるそのスクリーニングのための基本的なストラテジーは当業者によく知られている。例えば、Sambrook,et al.,1989(上掲);Perbal,1984(上掲)を参照のこと。適切なゲノムDNAまたはcDNAライブラリーの構築は当該技術分野の技能の範囲内である。例えば、Perbal,1984(上掲)を参照のこと。あるいはまた、適切なDNAライブラリーまたは公衆に利用可能なクローンが、生物学的研究材料の供給元、例えばClonetechおよびStratagene、ならびに公の寄託機関、例えばAmerican Type Culture Collectionから入手可能である。
【0153】
選択は、DNA発現ライブラリーの配列を発現させ、発現されたペプチドを免疫学的に検出することにより行われ得る。MHC II分子および所望の抗体/T細胞受容体に結合するペプチドを発現するクローンが選択される。このような選択手順は当業者によく知られている(例えば、Sambrook,et al.,1989(上掲)参照)。
【0154】
所望のポリペプチド配列のコード配列を含むクローンが調製または単離されたら、配列は、好ましくは宿主細胞内で配列を維持するための複製起点を含む任意の適切なベクター内にクローニングされ得る。
【0155】
好ましい実施形態では、キメラタンパク質が、(a)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つ;(b)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つにコードされたポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(c)表1に示す配列番号:Yまたは配列番号:Vのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(d)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド、表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上、およびトラフィッキングドメイン(例えば、配列番号:1または配列番号:4もしくは5に示すようなもの);(e)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)および表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上をコードしているポリヌクレオチド;(f)表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド;あるいは(g)(a)~(f)のポリヌクレオチドのいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされている。このようなポリヌクレオチドにコードされたポリペプチドは、好ましいさらなる実施形態である。
【0156】
核酸送達媒体
一態様において、キメラワクチンをコードしている核酸ベクターが細胞内に導入される。細胞は、核酸を複製させるため、またはキメラワクチンを発現させるための宿主細胞であり得る。好ましくは、キメラワクチンを発現させるための宿主細胞は抗原提示細胞である(以下においてさらに説明する)。
【0157】
核酸ベクターは最低限、標的細胞内に挿入するポリヌクレオチド配列と、細胞内におけるポリヌクレオチド配列の発現(例えば、転写および/または翻訳)を制御するための、配列に作動可能に連結された発現制御配列とを含む。例としては、プラスミド、ファージ、自律複製配列(ARS)、セントロメア、ならびに複製することができるか、あるいはインビトロもしくは宿主細胞(例えば、細菌細胞、酵母もしくは昆虫細胞など)および/または標的細胞(例えば、哺乳動物細胞、好ましくは抗原提示細胞など)内で複製され得る、および/またはキメラワクチンをコードしている配列を標的細胞内の所望の箇所に運ぶことができる他の配列が挙げられる。
【0158】
好ましい実施形態では、本明細書に記載のベクター/媒体は、(a)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つ;(b)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つにコードされたポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(c)表1に示す配列番号:Yまたは配列番号:Vのアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(d)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)、表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上、およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド;(e)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)および表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上をコードしているポリヌクレオチド;(f)表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)をコードしているポリヌクレオチド;あるいは(g)(a)~(f)のポリヌクレオチドのいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するポリヌクレオチドを含むものである。
【0159】
組換え発現ベクターは、動物、例えば人、ウマ、ウシ、ブタ、ラマ、キリン、イヌ、ネコまたはニワトリに容易に感染する微生物に由来するものであり得る。好ましいベクターとしては、生ワクチンとして既に使用されているもの、例えばワクシニアが挙げられる。このような組換え体は直接、宿主内に接種され得、微生物系ベクターに対する免疫だけでなく、外来抗原の発現に対する免疫も賦与され得る。本明細書において組換え生ワクチンとして想定される好ましいベクターとしては、例えば、RNAウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポリオウイルス、ならびにワクシニアおよびFlexner,Adv.Pharmacol.21:51,1990に教示されているような他のポックスウイルスが挙げられる。
【0160】
発現制御配列としては、限定されないが、RNAポリメラーゼに結合するプロモーター配列、それぞれ転写のアクチベータおよびリプレッサーに結合するエンハンサー配列もしくは負の調節エレメント、および/またはリボソーム結合のための翻訳開始配列が挙げられる。例えば、細菌系発現ベクターには、プロモーター、例えばlacプロモーターと、転写開始のためのシャイン・ダルガノ配列および開始コドンAUGが含められ得る(Sambrook,et al.,1989(上掲))。同様に、真核生物系発現ベクターには好ましくは、RNAポリメラーゼIIのための非相同、相同またはキメラのプロモーター、下流のポリアデニル化シグナル、開始コドンAUG、およびリボソームの脱離のための終止コドンが含められる。
【0161】
発現制御配列は、天然に存在する遺伝子から得てもよく、設計してもよい。設計された発現制御配列としては、限定されないが、変異型および/またはキメラの発現制御配列あるいは合成またはクローニングされたコンセンサス配列が挙げられる。ポリヌクレオチドが作動可能に連結され得るプロモーターとクローニング部位の両方を含むベクターは当該技術分野でよく知られている。かかるベクターは、インビトロまたはインビボでRNAを転写することができ、Stratagene(La Jolla,Calif.)およびPromega Biotech(Madison,Wis.)などの供給元から市販されている。
【0162】
発現および/または転写を最適化するためには、余分な、もしくは別の翻訳開始コドンまたは転写レベルもしくは翻訳レベルのいずれかで発現を妨害もしくは低減させるかもしれない他の配列を消失させるために、ベクターの5’および/または3’非翻訳部分を除去、付加または改変することが必要な場合があり得る。あるいはまた、発現を増強させるために、コンセンサスリボソーム結合部位が、開始コドンのすぐ5’側に挿入され得る。多種多様な発現制御配列(作動可能に連結されているDNA配列の発現を制御する配列)が、本発明のDNA配列を発現させるために、このようなベクターにおいて使用され得る。有用なかかる発現制御配列としては、例えば、SV40、CMV、ワクシニア、ポリオーマ、アデノウイルス、ヘルペスウイルスの初期または後期プロモーターおよび哺乳動物細胞の遺伝子の発現を制御することがわかっている他の配列、ならびにその種々の組合せが挙げられる。
【0163】
一態様において、核酸送達ベクターに、ベクターの複製のための複製起点を含める。好ましくは、複製起点は、標的細胞への送達における使用のため配列を充分なコピー数で生成させるために使用され得る少なくとも1種類の型の宿主細胞において機能を果たす。したがって、好適な複製起点としては、限定されないが、細菌の細胞(例えば、エシェリキア属の種、サルモネラ属の種、プロテウス属の種、クロストリジウム属の種、クレブシエラ属の種、バチルス属の種、ストレプトマイセス属の種およびシュードモナス属の種など)、酵母(例えば、サッカロミケス(Saccharamyces)属の種またはピキア属の種など)、昆虫細胞ならびに哺乳動物細胞において機能を果たすものが挙げられる。好ましい一態様では、核酸送達媒体が導入される標的細胞(例えば、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞)において機能を果たす複製起点を備える。別の態様では、宿主細胞において機能を果たすものと、標的細胞において機能を果たすものの少なくとも2つの複製起点を備える。
【0164】
核酸送達ベクターに、択一的または付加的に、標的細胞の染色体内への核酸送達ベクターの少なくとも一部分の組込みを助長する配列を含めてもよい。例えば、核酸送達ベクターには、標的細胞の染色体DNAと相同性の領域が含められ得る。一態様において、送達ベクターにキメラワクチンをコードしている核酸配列にフランキングする2つ以上の組換え部位を含める。
【0165】
ベクターに、ベクターが標的細胞内に成功裡に導入されたこと、および/または標的細胞によって発現され得ることを検証するための検出可能および/または選択可能マーカーをさらに含めてもよい。このようなマーカーは、活性、例えば限定されないが、RNA、ペプチドもしくはタンパク質の産生をコードしているものであり得るか、またはRNA、ペプチド、タンパク質、無機および有機の化合物もしくは組成物などに対する結合部位を提供するものであり得る。
【0166】
検出可能/選択可能マーカー遺伝子の例としては、限定されないが:普通は毒性の化合物(例えば、抗生物質)に対する耐性をもたらす産物をコードしているDNAセグメント;普通はレシピエント細胞内にない産物をコードしているDNAセグメント(例えば、tRNA遺伝子、栄養要求性マーカー);遺伝子産物の活性を抑制する産物をコードしているDNAセグメント;容易に同定することができる産物をコードしているDNAセグメント(例えば、表現型マーカー、例えばβ-ガラクトシダーゼ、蛍光タンパク質(GFP、CFP、YFG、BFP、RFP、EGFP、EYFP、EBFP、dsRed、その変異型、修飾型または増強型の形態など)、および細胞表面タンパク質);普通は細胞の生存および/または機能に有害な産物に結合するDNAセグメント;普通は他の核酸セグメントの活性を阻害するDNAセグメント(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド);基質を修飾する産物(例えば、制限エンドヌクレアーゼ)に結合するDNAセグメント;所望の分子を単離または同定するために使用され得るDNAセグメント(例えば、特定のタンパク質結合部位をコードしているセグメント);プライマー配列;存在しない場合、特定の化合物に対して直接または間接的に耐性または感受性が付与されるDNAセグメント;および/またはレシピエント細胞において毒性である産物をコードしているDNAセグメントが挙げられる。
【0167】
マーカー遺伝子を、成功裡に遺伝子移入されたことを確認するための、および/または移入された遺伝子を発現している細胞を単離するため、および/または移入された遺伝子を細胞から回収するためのマーカーとして使用してもよい。例えば、一態様では、マーカー遺伝子が、キメラワクチンを発現している抗原提示細胞を単離および精製するために使用される。
【0168】
上記に論考したように、任意のドメイン配列のホモログ、バリアントおよび修飾形態が、そのそれぞれのドメイン機能の機能を果たす能力を保持している限り使用され得る。例えば、修飾された内腔側配列は、膜抗原物質および非膜抗原物質の両方をエンドソーム区画に、本来のドメイン配列と比べて少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約100%の有効性を伴って、すなわち、免疫応答を起こすキメラ配列を含む細胞による充分な抗原提示をもたらす有効性を伴ってトラフィッキングする能力を保持していなければならない。一態様において、好適なトラフィッキングシグナルを含む配列は、オボアルブミンの充分に特性評価された抗原ドメイン、膜貫通ドメイン、および推定リソソーム/エンドソーム標的化シグナルを含むタンパク質の細胞質ドメインを含むキメラDNAを構築することにより同定され得る。標的化の効率は、キメラタンパク質を発現している抗原提示細胞が、HAエピトープ特異的MHCクラスII拘束T細胞を刺激する能力を調べることにより測定され得る(例えば、米国特許第5,633,234号の実施例5参照)。
【0169】
実質的に類似している遺伝子、例えば、既知の遺伝子に対して約50%より大きい、約60%より大きい、約70%より大きい、80%より大きい、約90%より大きい、好ましくは約95%より大きい同一性を有する遺伝子が提供され得る。同一性パーセントは、当該技術分野で知られたソフトウェアプログラム、例えば、Current Protocols In Molecular Biology(F.M.Ausubel et al.編,1987)Supplement 30,セクション7.7.18,表7.7.1.に記載されたものを用いて調べることができる。好ましくは、アラインメントにデフォルトパラメータが使用される。好ましいアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを使用するBLASTである。特に、好ましいプログラムはBLASTNとBLASTPであり、以下のデフォルトパラメータ:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;行列=BLOSUM62;表示するヒットの最大数=50配列;sort by=HIGH SCORE;データベース=非重複、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+SwissProtein+SPupdate+PIRが使用される。これらのプログラムの詳細は、以下のインターネットアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLASTにおいて知得され得る。
【0170】
また、遺伝子の「保存的修飾バリアント」も提供され得る。具体的な核酸配列に関して、保存的修飾バリアントは、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードしている核酸、または核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合は本質的に同一の配列をいう。具体的には、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの3番目の位置が混合型塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによる縮重コドンの置換が行われ得る(Batzer,et al.,1991,Nucleic Acid Res.19:5081;Ohtsuka,et al.,1985,J.Biol.Chem.260:2605-2608;Rossolini et al.,1994,Mol.Cell.Probes 8:91-98)。
【0171】
実質的に類似しているドメイン配列は、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で対象のドメイン配列に特異的にハイブリダイズする配列を選択することにより最初に同定され得る。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては:摂氏約25度~摂氏約37度のインキュベーション温度;約6×SSC~約10×SSCのハイブリダイゼーションバッファー濃度;約0%~約25%のホルムアミド濃度;および約6×SSCの洗浄溶液が挙げられる。中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては:摂氏約40度~摂氏約50度のインキュベーション温度;約9×SSC~約2×SSCのバッファー濃度;約30%~約50%のホルムアミド濃度;および約5×SSC~約2×SSCの洗浄溶液が挙げられる。高ストリンジェンシーの条件の例としては:摂氏約55度~摂氏約68度のインキュベーション温度;約1×SSC~約0.1×SSCのバッファー濃度;約55%~約75%のホルムアミド濃度;および約1×SSC、0.1×SSCの洗浄溶液または脱イオン水が挙げられる。一般に、ハイブリダイゼーションのインキュベーション時間は5分間~24時間であり、1回、2回またはそれ以上の洗浄工程を伴い、洗浄インキュベーション時間は約1、2または15分間である。SSCは0.15MのNaClと15mMのクエン酸バッファーである。他のバッファー系を用いたSSCの等価物を使用してもよいことは理解されよう。類似性はシーケンシングによって検証され得るが、好ましくはまた、あるいは択一的に、機能(例えば、エンドソーム区画にトラフィッキングする能力など)により、対象の具体的なドメインに適したアッセイを用いて検証される。
【0172】
相同、バリアントまたは修飾型のドメイン配列の好適性を調べるためのアッセイを行うことは、適切な活性を発現する配列をスクリーニングすることにすぎない。かかるスクリーニングは当該技術分野で常套的である。
【0173】
核酸送達ベクターは裸の核酸として、または細胞内への核酸の進入を助長するための1つ以上の分子と会合させた送達媒体で提供され得る。好適な送達媒体としては、限定されないが:リポソーム製剤、ポリペプチド、多糖、リポ多糖、ウイルス製剤(例えば、ウイルス、ウイルス粒子、人工のウイルスエンベロープなど)、細胞送達媒体などが挙げられる。
【0174】
脂質ベース製剤
生物学的活性分子の細胞内送達を助長するために設計される送達媒体は、非極性環境および極性環境の両方と(例えば、形質膜、組織液、細胞内区画などの中または上で)相互作用するものでなければならない。したがって、好ましくは送達媒体は、極性ドメインと非極性ドメインの両方または、核酸を細胞内に移行させるための移行配列を含むように設計される。
【0175】
極性ドメインと非極性ドメインを有する化合物は両親媒性物質と称される。カチオン性両親媒性物質は、負電荷を有するポリヌクレオチド、例えばDNAと相互作用するための、生理学的pHまたはその付近で正荷電となり得る極性基を有する。
【0176】
上記の核酸ベクターは、ベクターが細胞膜を通過して移入されるのを助長するための脂質の単層または二重層を含む製剤で提供され得る。リポソームまたは任意の形態の脂質膜、例えば、脂質平面膜またはインタクトな細胞、例えば赤血球の細胞膜が使用され得る。リポソーム製剤は、任意の手段、例えば静脈内または経口投与によって投与され得る。
【0177】
リポソームおよびリポソーム製剤は、標準的な方法に従って調製され得、当該技術分野でよく知られており、例えば、Remington’s;Akimaru,1995,Cytokines Mol.Ther.1:197-210;Alving,1995,Immunol.Rev.145:5-31;Szoka,1980,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467;米国特許第4,235,871号;米国特許第4,501,728号;および米国特許第4,837,028号を参照のこと。一態様において、リポソームには、リポソーム:核酸ベクター複合体を具体的な細胞型に標的化するための標的化分子を含める。特に好ましい一態様では、標的化分子は、標的組織にみられる血管または細胞の表面上の生体分子(例えば、受容体またはリガンド)に対する結合パートナー(例えば、リガンドまたは受容体)を含むものである。
【0178】
リポソームの電荷は、血液からのリポソームの排出における重要な決定因子であり、負電荷を有するリポソームの方が速やかに網内系に取り込まれ(Juliano,1975,Biochem.Biophys.Res.Commun.63:651)、したがって血流中の半減期がより短い。ホスファチジルエタノールアミン誘導体を組み込むと、リポソームの凝集が抑制されることにより循環時間が増す。例えば、N-(ω-カルボキシ)アシルアミドホスファチジルエタノールアミンを、L-α-ジステアロイルホスファチジルコリンの大型の単層小胞内に組み込むことにより、インビボでのリポソームの循環寿命が劇的に長くなる(例えば、Ahl,1997,Biochim.Biophys.Acta 1329:370-382参照)。治療および診断での使用には、典型的には長い循環半減期を有するリポソームが望ましい。薬物動態の一般的な論考については、例えば、Remington’s,Chapters 37-39,Lee,et al.,In Pharmacokinetic Analysis:A Practical Approach(Technomic Publishing AG,Basel,Switzerland 1996)を参照のこと。
【0179】
典型的には、リポソームは、約5~15モルパーセントの負電荷を有するリン脂質、例えばホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリンまたはホスファチジル-イノシトールを用いて調製される。また、添加された負電荷を有するリン脂質、例えばホスファチジルグリセロールは、自然発生的なリポソームの凝集を抑制する機能を果たし、したがって、リポソームが凝集塊の形成によって小型になるリスクを最小限にする。少なくとも約50モルパーセントの濃度の膜剛直化剤、例えばスフィンゴミエリンまたは飽和中性リン脂質、および5~15モルパーセントの濃度のモノシアリルガングリオシドによってもまた、リポソーム特性、例えば剛直性が望ましく賦与され得る(例えば、米国特許第4,837,028号参照)。
【0180】
さらに、リポソーム懸濁液に、フリーラジカルおよび保存時の脂質過酸化的損傷に対して脂質を保護する脂質保護剤を含めてもよい。親油性フリーラジカル消去剤、例えばα-トコフェロールおよび水溶性の鉄特異的キレート剤、例えば、フェリオキシアニン(ferrioxianine)が好ましい。
【0181】
本発明の核酸送達媒体は、不均一なサイズの多層小胞を含むものであってもよい。例えば、小胞形成脂質を適切な有機溶媒または溶媒系に溶解させ、真空または不活性ガス下で乾燥させると脂質薄膜が形成され得る。所望により、この薄膜を適切な溶媒、例えば第三級ブタノールに再溶解させ、次いで凍結乾燥させて、より容易に水和される粉末様形態であるより均一な脂質混合物を形成してもよい。この薄膜をペプチドまたはポリペプチド複合体の水溶液で覆い、アジテーション下で典型的には15~60分間にわたって水和させる。得られる多層小胞のサイズ分布は、脂質をより激しいアジテーション条件下で水和させることによって、または可溶化デタージェント、例えばデオキシコレートを添加することによって、より小さいサイズにシフトさせることができる。水和媒体には、好ましくは核酸を、最終リポソーム懸濁液中のリポソームの内容積に所望される濃度で含める。
【0182】
リポソーム調製後、リポソームは、所望のサイズ範囲および比較的狭い分布のリポソームサイズが得られるようにサイズ調整(size)され得る。好ましいサイズ範囲の一例は約0.2~0.4ミクロンであり、このサイズ範囲は、リポソーム懸濁液を慣用的なフィルター、典型的には0.22ミクロンフィルターに通す濾過によって滅菌することが可能である。フィルターでの滅菌は、リポソームが約0.2~0.4ミクロンまでサイズダウンされているならばハイスループットベースで行われ得る。リポソームを所望のサイズにサイズ調整するのに、いくつかの手法が利用可能である(例えば、米国特許第4,737,323号参照)。
【0183】
好適な脂質としては、限定されないが、DOTMA(Felgner,et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413-7417)、DOGSまたはTransfectain(商標)(Behr,et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6982-6986)、DNERIEまたはDORIE(Felgner,et al.,Methods 5:67-75)、DC-CHOL(Gao and Huang,1991、BBRC 179:280-285)、DOTAPTM(McLachlan,et al.,1995,Gene Therapy 2:674-622)、Lipofectamine(登録商標)ならびにグリセロ脂質化合物(例えば、EP901463およびWO98/37916参照)が挙げられる。
【0184】
核酸送達ベクターとの複合体形成に適した他の分子としては、カチオン性分子、例えば、ポリアミドアミン(Haensler and Szoka,1993,Bioconjugate Chem.4:372-379)、デンドリックポリリジン(WO95/24221)、ポリエチレンイミンもしくはポリプロピレンイミン(WO96/02655)、ポリリジン(米国特許第5,595,897号;FR 2 719 316)、キトサン(米国特許第5,744,166号)、DNA-ゼラチンコアセルベート(例えば、米国特許第6,207,195号;米国特許第6,025,337号;米国特許第5,972,707号参照)またはDEAEデキストラン(Lopata,et al.,1984,Nucleic Acid Res.12:5707-5717)が挙げられる。
【0185】
ウイルスベースの遺伝子送達媒体
一態様において、核酸送達媒体はウイルスまたはウイルス粒子を含む。この態様において、好ましくは、核酸ベクターはウイルスベクターを含む。ウイルスベクター、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびヘルペスウイルスは多くの場合、修飾されたウイルスゲノムと、これを囲む外被構造の2つの成分で構成されている(例えば、Smith et al.,1995,Ann.Rev.Microbiol.49:807-838参照)が、場合によっては、ウイルスベクターは裸の形態で、またはウイルスタンパク質以外のタンパク質で被覆された状態で導入される。現在使用されているほとんどのベクターは野生型ウイルスと同様の外被構造を有する。この構造によってウイルス核酸がパッケージングおよび保護され、標的細胞に結合して進入する手段がもたらされる。
【0186】
好ましくは、ウイルスベクターは、野生型ウイルスゲノムを、標的細胞内でのウイルスの増殖は不能であるが、感染性粒子を調製するために使用される宿主細胞内(例えば、パッケージング細胞またはヘルパー細胞など)でのウイルスの増殖は可能であるように修飾したものである。ベクター核酸は、一般的に、ヘルパー細胞株における複製およびパッケージングのための必須のシス作用ウイルス配列ならびに標的細胞に送達されるポリヌクレオチドの発現を調節するための発現制御配列を含む。特定のパッケージング細胞株またはヘルパー細胞株においてトランスで発現される他のウイルス機能も当該技術分野で知られている。
【0187】
好ましいベクターは、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、泡沫状ウイルス、レンチウイルス、セムリキ森林ウイルス、AAV(アデノ随伴ウイルス)、ポックスウイルス、アデノウイルスおよびレトロウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来するウイルスベクターである。かかるウイルスベクターは当該技術分野でよく知られている。
【0188】
好ましい一態様では、使用されるウイルスベクターはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスゲノムは、ウイルスの複製サイクルを完遂するのに必要な約30を超える遺伝子を担持しているおよそ36kbの線状二本鎖DNA分子からなる。初期遺伝子は4つの領域(E1~E4)に分けられ、これらは、宿主の抗ウイルス免疫応答を調節すると考えられているE3領域以外は、ウイルスの複製に必須である。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムの転写の調節を担うタンパク質をコードしている。E2領域の遺伝子(E2AおよびE2B)の発現により、ウイルスの複製に必要なポリペプチドの合成がもたらされる。E3領域にコードされたタンパク質は、細胞傷害性T細胞および腫瘍壊死因子による細胞溶解を抑制する(Wold and Gooding,1991,Virology 184:1-8)。E4領域にコードされたタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子の発現およびスプライシングならびに宿主細胞でのシャットオフに関与している(Halbert,et al.,1985,J.Virol.56:250-257)。後期遺伝子は一般的に、ウイルスカプシドに寄与する構造タンパク質をコードしている。また、アデノウイルスゲノムは、DNA複製に必須のシス作用性の5’および3’のITR(Inverted Terminal Repeat(末端逆位反復配列))およびパッケージング配列を担持している。ITRはDNA複製起点を有しており、一方、カプシド形成領域は、感染性粒子内へのアデノウイルスDNAのパッケージングに必要とされる。
【0189】
アデノウイルスベクターを、特定の細胞(例えば、増殖性細胞など)において選択的に複製させるために、Heise and Kim(2000,J.Clin.Invest.105:847-85 1)に記載のようにして条件付き複製型となるように改変操作してもよい(CRAdベクター)。別の態様では、アデノウイルスベクターはE1機能について複製欠陥性である(例えば、E1の完全もしくは部分的な欠失または変異誘発による)。ベクターのアデノウイルス骨格に、さらなる修飾(1つ以上のウイルス遺伝子における欠失、挿入または変異)を含めてもよい。E2修飾の一例は、DBP(DNA結合タンパク質)コード遺伝子上に存在する感熱性変異により例示される(Ensinger et al.,1972,J.Virol.10:328-339)。また、アデノウイルス配列のE4領域の全部または一部が欠失され得る(例えば、EP974 668;Christ,et al.,2000,Human Gene Ther.11:415-427;Lusky,et al.,1999,J.Virol.73:8308-8319参照)。必須でないE3領域におけるさらなる欠失により、送達されるポリヌクレオチドのサイズを大きくすることが可能となり得る(Yeh,et al.,1997,FASEB Journal 11:615 623)。しかしながら、ウイルスが免疫系(Gooding,et al.,1990,Critical Review of Immunology 10:53-71)または炎症反応(EP00440267.3)を逃れることを可能にするポリペプチド(例えば、gp19kなど)をコードしているE3配列の全部または一部を保持しておくことは好都合であり得る。
【0190】
ITRおよびパッケージング配列を保持しており、ウイルス抗原の残留合成を無効にするための実質的な遺伝子修飾を含む第2世代ベクターもまた、形質導入細胞内での発現対象遺伝子の長期発現を改善するために使用され得る。(例えば、WO94/28152;Lusky,et al.,1998,J.Virol 72:2022-2032参照)。
【0191】
細胞内に導入されるポリヌクレオチドは、シス作用配列を除くウイルスゲノムの任意の箇所に挿入され得る。好ましくは、これは、欠失させた領域(E1、E3および/またはE4)との交換で、好ましくは欠失させたE1領域内に挿入される。
【0192】
アデノウイルスは、任意のヒトまたは動物供給源、特に、イヌ(例えば、CAV-1もしくはCAV-2 Genbank整理番号はそれぞれCAVIGENOMおよびCAV77082)、トリ(Genbank整理番号AAVEDSDNA)、ウシ(例えば、BAV3;Reddy,et al.,1998,J.Virol.72:1394 1402)、マウス(Genbank整理番号ADRMUSMAVI)、ヒツジ、ネコ、ブタまたはサル供給源に由来するものであり得るか、あるいは択一的にハイブリッドウイルスであってもよい。任意の血清型が使用され得る。しかしながら、サブグループCのヒトアデノウイルス、特にアデノウイルス2(Ad2)および5(Ad5)が好ましい。かかるウイルスは、例えばATCCから入手可能である。
【0193】
また、アデノウイルス粒子または空のアデノウイルスカプシドを、米国特許第5,928,944号に記載のようなウイルス媒介性コインターナリゼーション法によって核酸送達ベクターを移入するために使用することもできる。この方法は、カチオン性薬剤(1種または複数種)、例えばポリカルベンまたは1つ以上の脂質層を含む脂質小胞の存在下で行われ得る。
【0194】
アデノウイルス粒子は、当該技術分野の任意の慣用的な手法(例えば、WO96/17070)に従い、ウイルスの複製に必要な欠損ウイルス遺伝子をトランスで供給する補完細胞株またはヘルパーウイルスを用いて調製し、増殖させ得る。細胞株293(Graham et al.,1977,J.Gen.Virol.36:59-72)およびPERC6(Fallaux et al.,1998,Human Gene Therapy 9:1909-1917)が一般的に、E1欠失を補完するために使用される。他の細胞株も、欠陥性ベクターを補完するために改変操作されている(Yeh,et al.,1996,J.Virol.70:559-565;Kroughak and Graham,1995,Human Gene Ther.6:1575-1586;Wang,et al.,1995,Gene Ther.2:775-783;Lusky,et al.,1998,J.Virol.72:2022-203;EP 919627およびWO97/04119)。アデノウイルス粒子は、培養上清みから回収され得るが、溶解後の細胞からも回収され得、任意選択で、標準的な手法(例えば、WO96/27677、WO98/00524 WO98/26048およびWO00/50573に記載のようなクロマトグラフィー、超遠心分離)により、さらに精製され得る。
【0195】
ウイルス表面タンパク質の修飾によって広範な宿主範囲を有するアデノウイルスに由来するベクターを用いた細胞型特異的標的化を行ってもよい。例えば、アデノウイルスの感染の特異性は、許容性細胞の表面に存在する細胞受容体との結合によって調べられる。これに関連して、アデノウイルスカプシドの表面に存在するファイバーとペントンは、細胞付着に極めて重要な役割を果たしている(Defer,et al.,1990,J.Virol.64:3661-3673)。したがって、アデノウイルスの細胞標的化は、ファイバーおよび/またはペントンをコードしているウイルス遺伝子の遺伝子修飾により、特有の細胞表面受容体と特異的相互作用を行い得る修飾されたファイバーおよび/またはペントンを生成させることによって行われ得る。かかる修飾の例はWickarn,et al.,1997,J.Virol.71:8221-8229;Arriberg,et al.,1997,Virol.Chem 268:6866-6869;Roux,et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9079-9083;Miller and Vile,1995,FASEB J.9:190-199;WO93/09221およびWO95/28494に記載されている。
【0196】
特に好ましい一態様では、アデノ随伴ウイルスの配列がベクターとして使用される。ヒトパルボウイルスAAV-2(アデノ随伴ウイルス2型)に由来するベクターが、現在開発中の遺伝子送達媒体の中で最も将来有望である。一本鎖DNAをパッケージングするためのこの系の特徴のいくつかにより、これが、遺伝子ワクチンの送達のための裸のDNAの考えられる代替物であることが示唆される。魅力的な主な特徴は、他のウイルスベクター、例えばワクシニアまたはアデノウイルスとは対照的に、AAVベクターは、いずれのウイルス遺伝子も発現しないことである。ワクチン構築物内に含める唯一のウイルスDNA配列は145bpの末端逆位反復配列(ITR)である。したがって、裸のDNAでの免疫処置の場合のように、発現される唯一の遺伝子は、抗原または抗原キメラのものである。さらに、AAVベクターでは、分裂細胞および非分裂細胞(ヒト末梢血単球由来樹状細胞など)のどちらも形質導入され、導入遺伝子発現は持続的であり、粘膜免疫を生じさせるのに経口および鼻腔内送達が可能であることが知られている。さらに、必要とされるDNAの量は数桁、ずっと少ないようであり、最大応答は、1010~1011個の粒子またはコピー数のDNA用量であるのに対して、裸のDNAでは50ugまたは約1015コピーの用量である。
【0197】
一態様において、AAVベクターは、AAV ITRキメラタンパク質コード構築物に含まれたDNAと、AAVコード領域(AAVのrepおよびcapの遺伝子)を含み、ITRがないAAVヘルパープラスミドACG2とによる適切な細胞株(例えば、ヒト293細胞)のコトランスフェクションによってパッケージングされる。続いて、細胞をアデノウイルスAd5に感染させる。ベクターは、細胞ライセートから当該技術分野で知られた方法(例えば、塩化セシウム密度勾配超遠心分離など)を用いて精製され得、検出可能な複製可能AAVまたはアデノウイルスがないことが確実であることが(例えば、細胞変性効果のバイオアッセイによって)検証される。AAV力価は、プロテイナーゼKでの消化後に調製されたウイルスDNA試料を用いた定量的PCRによって測定され得る。好ましくは、かかる方法によってもたらされるベクター力価はおよそ5×1012~1×1013個のDNase耐性粒子/mlである。
【0198】
他の態様では、レトロウイルスベクターが使用される。レトロウイルスは、ウイルスにコードされた逆転写酵素を用いて複製する組込み型ウイルスの一類型であり、ウイルスRNAゲノムが二本鎖DNAに複製され、これが、感染した細胞(例えば、標的細胞)の染色体DNA内に組み込まれる。かかるベクターとしては、マウス白血病ウイルス、特にモロニー(Gilboa,et al.,1988、Adv.Exp.Med.Biol.241:29)またはフレンドFB29株(WO95/01447)に由来するものが挙げられる。一般的に、レトロウイルスベクターは、ウイルス遺伝子gag、polおよびenvの全部または一部が欠失しており、5’および3’のLTRならびにカプシド形成配列が保持されている。これらのエレメントは、レトロウイルスベクターの発現レベルまたは安定性が高まるように修飾され得る。かかる修飾としては、レトロウイルスのカプシド形成配列をレトロトランスポゾンのもの、例えばVL30で置き換えることが挙げられる(例えば、米国特許第5,747,323号参照)。好ましくは、対象のポリヌクレオチドはカプシド形成配列の下流に、好ましくはレトロウイルスゲノムと逆方向に挿入される。細胞特異的標的化は、当該技術分野で知られているように、抗体または抗体断片とレトロウイルスエンベロープタンパク質とのコンジュゲーションによって行われ得る。
【0199】
レトロウイルス粒子は、ヘルパーウイルスの存在下で、またはレトロウイルスベクターでは欠損させるレトロウイルス遺伝子(例えば、gag/polおよびenv)をゲノム内に組み込まれた状態で含む適切な補完(パッケージング)細胞株において調製される。かかる細胞株は先行技術において報告されている(Miller and Rosman,1989,BioTechniques 7:980;Danos and Mulligan,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460;Markowitz,et al.,1988,Virol.167:400)。env遺伝子の産物は、標的細胞の表面上に存在するウイルス受容体に対するウイルス粒子の結合を担い、したがって、レトロウイルス粒子の宿主範囲を決定する。本発明との関連において、両種指向性エンベロープタンパク質を含むパッケージング細胞株、例えばPA317細胞(ATCC CRL 9078)または293EI6(WO97/35996)を使用し、ヒトおよび他の種の標的細胞の感染を可能にすることが好都合である。レトロウイルス粒子は好ましくは培養上清から回収され、任意選択で、標準的な手法(例えば、クロマトグラフィー、超遠心分離)により、さらに精製してもよい。
【0200】
他の適切なウイルスとしてはポックスウイルスが挙げられる。ポックスウイルス科のいくつかの構成員のゲノムがマッピングされ、配列決定されている。ポックスウイルスベクターは、ポックスウイルス科の任意の構成員、特にカナリア痘、鶏痘およびワクシニアウイルスから得られ得る。好適なワクシニアウイルスとしては、限定されないが、コペンハーゲン株(Goebel,et al.,1990,Virol.179:247-266;Johnson,et al.,1993,Virol.196:381-401)、ワイス株および修飾型アンカラ(MVA)株(Antoine,et al.,1998,Virol.244:365-396)が挙げられる。ワクシニアウイルスベクターを構築するための一般的な条件は当該技術分野で知られている(例えば、EP83 286およびEP206 920;Mayr et al.,1975,Infection 3:6-14;Sutter and Moss,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10847-10851参照)。好ましくは、対象のポリヌクレオチドは、必須でない座内、例えばnOD7コード遺伝子間領域内または不活性化もしくは欠失によってウイルスの増殖および複製が有意に損なわれない任意の遺伝子内に挿入される。
【0201】
ポックスウイルス粒子は、当該技術分野で報告されているようにして調製される(Piccini,et al.,1987,Methods of Enzymology 153:545-563;米国特許第4,769,330号;米国特許第4,772,848号;米国特許第4,603,112号;米国特許第5,100,587号および米国特許第5,179,993号)。一般的には、ドナープラスミドを構築し、大腸菌内での増殖によって増幅させ、慣用的な手順によって単離される。次いで、これを適切な細胞培養物(例えば、ニワトリ胚線維芽細胞)中にポックスウイルスゲノムと一緒に導入し、相同組換えによってポックスウイルス粒子を生成させる。これは培養上清から、または溶解工程(例えば、化学的溶解、凍結/解凍、浸透圧ショック、超音波処理など)後の培養細胞から回収され得る。連続的な複数回のプラーク精製を使用し、混在する野生型ウイルスを除去することができる。ウイルス粒子は次いで、当該技術分野で知られた手法(例えば、クロマトグラフィー法または塩化セシウムもしくはスクロース勾配での超遠心分離)を用いて精製され得る。
【0202】
天然痘を根絶するためのグローバルキャンペーンにおいてワクシニアがウイルス生ワクチンとして使用されたことにより、ワクシニアは、組換え生ワクチンベクターとしての開発の当然の選択肢となった。100種類に近い異なる外来タンパク質を発現している組換え生ワクシニアウイルスが報告されており、そのいくつかは有効な実験用ワクチンである(Moss and Flexner,1987に概説)。ワクシニアは、その大きなゲノムサイズ、少なくとも25,000塩基対の外来DNAの受容能およびほとんどの真核生物細胞型(昆虫細胞など)に対する感染能のため、発現ベクターとして特に多用途である(同書)。他のDNAウイルスとは異なり、ポックスウイルスは、感染細胞の細胞質内で排他的に複製し、宿主染色体との組換えウイルスDNAの遺伝子交換の可能性が低い。組換えワクシニアベクターは、さまざまな供給源、例えば人間、他の哺乳動物、寄生生物、RNAおよびDNAウイルス、細菌ならびにバクテリオファージに由来するタンパク質を適正にプロセッシングし、発現することが示されている。
【0203】
ウイルスは、ほとんどの哺乳動物に対して感染能を有し、広範なヒトおよび動物疾患の研究のための有用なベクターとなっている。外来タンパク質をコードしているDNAの発現は、宿主のウイルス系調節エレメント、例えば上流プロモーター配列および、必要な場合はRNAプロセッシングシグナルによって制御される。ワクシニアウイルスゲノムの必須でない領域内への外来DNAの挿入が相同組換えによって行われている(Panicali,et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci,USA,79:4927,1982;Mackett,et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,79:7415,1982)。
【0204】
DNAによる外来遺伝子の発現は、挿入部位もしくはその付近の転写調節エレメントのため、またはより厳密な遺伝子改変操作によって行われ得る。外来遺伝子の挿入および発現を大きく助長するプラスミドベクターが構築されている(Mackett,et al.,J.Virol,49:857,1982)。このようなベクターは、ワクシニア転写プロモーターと、ワクシニアゲノムの必須でない領域に由来するDNAにフランキングされた外来コード配列の挿入のための1つ以上の特有の制限エンドヌクレアーゼ部位とで構成された発現部位を含む。プロモーターの選択によって発現の時期(例えば、初期または後期)とレベルが決定され、一方、フランキングしているDNA配列によって相同組換えの部位が決定される。
【0205】
この手順によって作製される千個のウイルス粒子のうち約1個だけが組換え体である。組換えウイルスプラークはDNAハイブリダイゼーションによって同定することができるが、効率的な選択手順が開発されている。必須でないワクシニアウイルスのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子セグメントをフランキング配列として使用することによりTK座内で外来遺伝子が組み換えられ、挿入によってTK遺伝子が不活性化される。TKウイルスの選択は、TK細胞内において5-ブロモデオキシウリジンの存在下でウイルスプラークアッセイを行うことにより行われる。ヌクレオシドアナログのリン酸化および結果としてのウイルスDNA内への致死性組込みは、TK+ 親ウイルスに感染した細胞内でのみ起こる。トランスフェクションおよび組換えの効率にもよるが、プラークのうち最大80個が所望の組換え体であり、残りは自然発生的なTK変異型である。
【0206】
大腸菌β-ガラクトシダーゼ遺伝子ならびに第2の遺伝子の発現部位を含むプラスミドベクターでは、組換え体を親ウイルスと区別する択一的な方法が可能である(Chakrabarti,et al.,Mol.Cell.Biol.,5:3403,1985)。かかる組換え体によって形成されるプラークは、適切な指示薬を添加すると形成される青色によって能動的に同定され得る。TK選択とβ-ガラクトシダーゼ発現の両方を組み合わせることにより、組換えウイルスが容易にかつ迅速に単離される。次いで、この組換え体を適切な細胞株での増殖によって増幅させ、挿入された遺伝子の発現を適切な酵素学的、免疫学的または物理的手順によって確認する。
【0207】
ワクシニアウイルスゲノムに追加できる遺伝情報の量の上限はまだ不明である。しかしながら、ほぼ25,000塩基対の外来DNAの追加は、ウイルス収量に対して明白に有害な効果はなかった(Smith,et al.,Gene,25:21,1983)。必要であれば、ワクシニアウイルスゲノムの大型セグメントを欠失させると、さらなる許容量を得ることができよう(Moss,et al.,J.Virol.40:387,1981)。
【0208】
ウイルスカプシド分子には、標的化および/または細胞内への進入を助長するための標的化部分が含められ得る。好適な標的化分子としては、限定されないが:化学コンジュゲート、脂質、糖脂質、ホルモン、糖類、ポリマー(例えば、PEG、ポリリジン、PEIなど)、ペプチド、ポリペプチド(例えば、WO94/40958参照)、ビタミン類、抗原、レクチン、抗体およびその断片が挙げられる。好ましくは、かかる標的化分子は、細胞特異的マーカー、組織特異的マーカー、細胞受容体、ウイルス抗原、抗原エピトープまたは腫瘍関連マーカーを認識して結合するものである。
【0209】
ウイルス粒子を主体とする組成物は、10~1014i.u.(感染単位)、好ましくは10~1011i.u.の用量形態で製剤化され得る。この力価は慣用的な手法によって測定され得る。核酸送達ベクターの用量は好ましくは0.01~10mg/kg、さらに特に0.1~2mg/kgに構成される。
【0210】
細胞ベースの送達媒体
本発明による核酸ベクターを標的細胞に、ベクターを含む他の細胞(「送達細胞」)によって送達することができる。ベクターを細胞内に導入するための方法は当該技術分野で知られており、細胞の核内へのDNAのマイクロインジェクション(Capechi,et al.,1980,Cell 22:479-488);CaPOを用いたトランスフェクション(Chen and Okayama,1987,Mol.Cell Biol.7:2745 2752)、エレクトロポレーション(Chu,et al.,1987,Nucleic Acid Res.15:1311-1326);リポフェクション/リポソーム融合(Feigner,et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413-7417)および粒子ボンバードメント(Yang,et al.,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:9568-9572)が挙げられる。好適な細胞としては自己および非自己細胞が挙げられ、異種細胞も挙げられ得る。送達細胞を、その死を誘導することによって(例えば、細胞に誘導性自殺遺伝子を供給することにより)、その内容物が標的細胞に送達されるように誘導してもよい。
【0211】
補助分子
本発明による組成物に、細胞内への核酸送達ベクターの導入を助長するため、および/または特定の治療効果を増強させるための1種類以上の補助分子を含めてもよい。
【0212】
また、本発明による組成物には、動物/ヒトの体内での分解を抑止するため、および/または標的細胞のベクターでのトランスフェクション/感染を改善するために、1種類以上の安定化物質、例えば、脂質、ヌクレアーゼ阻害薬、ヒドロゲル、ヒアルロニダーゼ(WO98/53853)、コラゲナーゼ、ポリマー、キレート剤(EP890362)が含められ得る。かかる物質は、単独または組合せ(例えば、カチオン性および中性の脂質)で使用され得る。
【0213】
また、アデノウイルスタンパク質はエンドソームの不安定化能および細胞内へのDNAの取込みの増強能を有することも示されている。脂質複合体化DNAベクターを含む溶液とのアデノウイルスの混合またはタンパク質架橋剤を用いてアデノウイルスに共有結合されたポリリジンにDNAを結合することにより、核酸送達ベクターの取込みおよび発現が実質的に改善され得る(例えば、Curiel,et al.,1992,Am.I.Respir.Cell.Mol.Biol.6:247-252参照)。
【0214】
宿主細胞
本発明による核酸ベクターは、さまざまな宿主細胞、例えば限定されないが:原核生物細胞(例えば、大腸菌、スタフィロコッカス属の種、バチルス属の種);酵母細胞(例えば、サッカロミセス属の種);昆虫細胞;線虫類の細胞;植物細胞;両生類細胞(例えば、ツメガエル);鳥類細胞;および哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞、マウス細胞、哺乳動物細胞株、一次培養哺乳動物細胞、例えば切開組織由来のもの)において発現させることができる。
【0215】
分子は、生物体から単離された宿主細胞、生物体の一部である宿主細胞、または生物体に導入された宿主細胞において発現させ得る。一態様では、融合分子をインビトロの、例えば培養状態の宿主細胞において発現させる。別の態様では、融合分子を、融合分子をコードしている核酸を含む体細胞および/または生殖細胞を含むトランスジェニック生物体(例えば、トランスジェニックマウス、ラット、ウサギ、ブタ、霊長類など)において発現させる。トランスジェニック動物を構築するための方法は当該技術分野でよく知られており、常套的である。
【0216】
また、核酸ベクターを細胞内にインビトロで導入し、この細胞(例えば、幹細胞、造血細胞、リンパ球など)を宿主生物体に導入してもよい。細胞は宿主生物体に対して異種であっても自己であってもよい。例えば、細胞を宿主生物体から採取し、核酸ベクターを細胞内にインビトロで導入し、次いで宿主生物体に再導入してもよい。
【0217】
抗原提示細胞
本発明の好ましい一態様では、上記のものなどの核酸送達媒体が、天然の、または改変操作された抗原提示細胞内に導入される。
【0218】
用語「抗原提示細胞」(APC)は、本明細書で用いる場合、表面上に抗原を、主要組織適合複合体分子、好ましくはクラスII分子またはその一部分との会合状態で提示する任意の細胞を包含している。好適なAPCの例は以下に詳細に論考されており、限定されないが、全細胞、例えばマクロファージ、樹状細胞、B細胞、ハイブリッドAPC、およびフォスター抗原提示細胞が挙げられる。ハイブリッドAPCの作製方法は報告されており、当該技術分野で知られている。
【0219】
樹状細胞(DC)は強力な抗原提示細胞である。DCは、T細胞の活性化および増殖に必要とされるシグナルのすべてをもたらすことが示されている。このようなシグナルは2つの型にカテゴリー分類され得る。第1の型は、免疫応答に対して特異性を付与するものであり、T細胞受容体/CD3(“TCR/CD3”)複合体と、APCの表面上の主要組織適合複合体(上記に定義した“MHC”)クラスIまたはIIタンパク質によって提示された抗原ペプチドとの間の相互作用によって媒介される。この相互作用は、T細胞の活性化が起こるのに必要であるが充分でない。実際、第2の型のシグナルがないと、第1の型のシグナルはT細胞アネルギーをもたらし得る。第2の型シグナルは、共刺激シグナルと称され、抗原特異的でもMHC拘束性でもなく、第1の型のシグナルの存在下でT細胞の充分な増殖応答およびT細胞エフェクター機能の誘導をもたらし得る。
【0220】
いくつかの分子は、共刺激活性を増強させることが示されている。このようなものとしては、限定されないが、熱安定性抗原(HSA)、コンドロイチン硫酸修飾MHCインバリアント鎖(Ii-CS)、細胞内接着分子I(ICAM-1)、ならびにAPCの表面上のB7共刺激分子およびその対抗受容体CD28またはT細胞上のCTLA-4が挙げられる。
【0221】
他の重要な共刺激分子はCD40、CD54、CD80、CD86である。本明細書で用いる場合、用語「共刺激分子」は、T細胞の表面上のTCRによって結合されたペプチド/MHC複合体と一緒に作用した場合、ペプチドに結合するT細胞の活性化を行う共刺激効果をもたらす任意の単一の分子または分子の組合せを包含している。したがって、この用語は、B7、またはAPC上の他の共刺激分子(1種もしくは複数種)、ペプチド/MHC複合体と一緒にコグネイトリガンドに結合し、T細胞の表面上のTCRがペプチドに特異的に結合するとT細胞の活性化をもたらすその断片(単独、別の分子(1種もしくは複数種)との複合体状態、または融合タンパク質の一部として)を包含している。共刺激分子は、さまざまな供給元、例えばBeckman Coulterなどから市販されている。
【0222】
本発明の一態様では、Romani et al.,J.Immunol.Methods 196:135-151,1996およびBender et al,J.Immunol.Methods 196:121-135,1996に記載の方法が、哺乳動物、例えばマウス、サルまたはヒトの末梢血単核細胞(PBMC)から未熟樹状細胞および成熟樹状細胞の両方を生成させるために使用される。簡単には、単離されたPBMCを、免疫磁気手法によって前処理してT細胞とB細胞を枯渇させる。リンパ球枯渇PBMCを次いで、ヒト血漿(好ましくは、自己血漿)およびGM-CSF/IL-4を補給したRPMI培地中で9日間、例えば約7日間)培養し、樹状細胞を生成させる。樹状細胞は、その前駆細胞の単球と比較した場合、非接着性である。したがって、およそ7日目、非接着性細胞を、さらなる加工処理のために収集する。
【0223】
GM-CSFおよびIL-4の存在下におけるPBMCに由来する樹状細胞は、非接着特性を失っている場合があり得、培養物からサイトカイン刺激が除かれるとマクロファージ細胞に逆戻りする運命にあるという点で未熟である。未熟状態の樹状細胞は、MHCクラスII拘束経路のための天然状態のタンパク質抗原のプロセッシングにおいて非常に有効である(Romani,et al.,J.Exp.Med.169:1169,1989)。培養樹状細胞のさらなる成熟は、必要な成熟因子を含めたマクロファージ条件培地(CM)中で3日間培養することにより行われる。成熟樹状細胞は、提示のために新たなタンパク質を捕捉することはあまりできないが、静止期のT細胞(CD4およびCD8の両方)を増殖して分化するように刺激することの方がずっと得意である。
【0224】
成熟樹状細胞は、形態構造の変化によって、例えば、より運動性の細胞質プロセスの形成;その非接着;以下のマーカー:CD83、CD68、HLA-DRもしくはCD86のうちの少なくとも1種類の存在;またはFc受容体、例えばCD115の減少によって同定することができる(Steinman,Annu.Rev.Immunol.9:271,1991に概説)。成熟樹状細胞は、典型的な細胞蛍光撮影法(cytofluorography)ならびに細胞分取の手法およびデバイス、例えば、FACScanおよびFACStarを用いて収集および解析され得る。フローサイトメトリーに使用される一次抗体は、成熟樹状細胞の細胞表面抗原に特異的なものであり、市販されている。二次抗体は、後でFITC-またはPE-コンジュゲートストレプトアビジンを伴うビオチン化Igであり得る。
【0225】
あるいはまた、他に、樹状細胞を上方調節(活性化)し、単球を活性型樹状細胞の表現型に変換させるための方法が報告されている。この方法は、培養培地へのカルシウムイオノフォアの添加によって単球を活性型樹状細胞に変換させることを伴う。例えば、24~48時間の培養期間の最初にカルシウム21イオノフォアA23187を添加すると、プールされた「単球+DC」画分の一様な活性化および樹状細胞表現型の変換がもたらされた:特徴的には、活性型集団は一様にCD14(Leu M3)陰性となり、HLA-DR、HLA-DQ、ICAM-1、137.1および137.2を上方調節する。さらに、この活性型の大量集団は、少数ベースでもさらなる精製型として同様に機能を果たす。特定の組合せ(1つまたは複数)のサイトカインは、カルシウムイオノフォアを用いて行われる活性化/変換のために増幅させる(または部分的に置換する)ために成功裡に使用された:このようなサイトカインとしては、限定されないが、G-CSF、GM-CSF、IL-2およびIL-4が挙げられる。各サイトカインは、単独で与えた場合、最適な上方調節には不充分である。
【0226】
APCを単離するための第2のアプローチは、血液中を既に循環している比較的大量数のコミットされる前のAPCを収集することである。コミットされたAPCをヒト末梢血から単離するためのこれまでの手法は、物理的手順、例えばメトリザミド勾配と接着/非接着工程の組合せ(Freudenthal et al.PNAS 87:7698-7702,1990);パーコール勾配分離(Mehta-Damani,et al.,J.Immunol.153:996-1003,1994);および蛍光活性化細胞分取手法(Thomas et al.,J.Immunol.151:6840-52,1993)を伴うものであった。
【0227】
専門的抗原提示細胞(またはその前駆細胞)を単離するための当該技術分野で常套的な多くの方法があること、ならびにかかる方法および開発されるかもしれない他のものは限定的なものでなく、本発明の範囲に包含されることは当業者には明らかなはずである。
【0228】
一実施形態では、APC、したがって1種類以上の抗原を提示する細胞は自己のものである。別の実施形態では、抗原を提示するAPCは同種のもの、すなわち異なる被験体に由来するものである。
【0229】
上記に論考したように、キメラ分子をコードしている核酸はAPC内に、上記の方法または当該技術分野で知られた他のもの、例えば限定されないが、トランスフェクション、エレクトロポレーション、融合、マイクロインジェクション、ウイルスベースの送達または細胞ベースの送達を用いて導入され得る。Arthur et al.,Cancer Gene Therapy 4(l):17-25,1997には、ヒト樹状細胞内への遺伝子移入方法の比較が報告されている。
【0230】
既知の部分的な推定ヒト白血球抗原(HLA)、ヒトMHCの遺伝子構成、アミノ酸およびヌクレオチド配列(コンセンサス配列を含む)が公表されており(例えば、Zemmour and Parham,Immunogenetics 33:310-320,1991参照)、HLAバリアントを発現する細胞株が知られており、一般的に、多くのものと同様にAmerican Type Culture Collection(“ATCC”)から入手可能である。したがって、PCRを使用すると、MHCクラスIIコードヌクレオチド配列は本発明の発現ベクターに容易に作動可能に連結され、次いでこれが、発現のための適切な細胞を形質転換するのに使用される。
【0231】
専門的APC、例えばマクロファージ、B細胞、単球、樹状細胞およびランゲルハンス細胞が使用され得る。これらは、1)自己ドナー;2)治療対象の宿主とは異なるHLA特異性を有する異種ドナーの血液もしくは組織から;または3)異なる種の異種ドナーから標準的な手順を用いて収集される(Coligan,et.al.,Current Protocols in Immunology,セクション3および14,1994)。細胞は、正常な宿主または感染性疾患、がん、自己免疫疾患もしくはアレルギーを有する患者から単離され得る。
【0232】
プロフェッショナルAPCは末梢血液から、白血球アフェレーシスおよび“FICOLL/HYPAQUE”密度勾配遠心分離(Ficollおよび不連続パーコール密度勾配による段階的遠心分離)を用いて得られ得る。APCによって内在化され、対象の抗原に特異的でないT細胞の活性化をもたらす可能性がある抗原へのAPCの曝露が回避される手順が使用される。
【0233】
天然では抗原提示しない細胞を、適切な分子をコードしている配列を導入することによって抗原提示するように改変操作してもよい。例えば、MHCクラスII分子、補助分子、共刺激分子および抗原プロセッシング補助分子をコードしている核酸配列が、直接合成、クローニング、かかる遺伝子を含む細胞からのDNAの精製などの後に導入され得る。本明細書に記載の組成物および方法において使用される分子をコードしている遺伝子を得るための得策手段の一例は、選択した核酸鋳型に対して選択したオリゴヌクレオチドプライマーペアを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅である。例えば、上皮細胞、内皮細胞、腫瘍細胞、線維芽細胞、活性型T細胞、好酸球、ケラチノサイト、星状細胞、小グリア細胞、胸腺皮質上皮細胞、シュワン細胞、網膜色素上皮細胞、筋芽細胞、血管平滑筋細胞、軟骨細胞、エンテロサイト、甲状腺細胞(thyrocyte)および尿細管細胞が使用され得る。これらは、宿主から外植されたばかりで、確立された細胞株を形成するために細胞培養で高継代のものでない一次細胞であってもよく、比較的均一であり、多世代にわたって、または無限に増殖能を有する確立された細胞株であってもよい。
【0234】
専門的APCでない細胞は、自己ドナー;異種(“heterologous”または“xenogeneic”)ドナーの任意の組織から単離され、この場合、これらは、さまざまな既知の分離方法を用いて存在させる(Darling,Animal Cells:Culture and Media.J.Wiley,New York,1994;Freshney,Culture of Animal Cells.Alan R.Liss,Inc.,New York,1987)。非自己細胞、例えば異種(“heterologous”または“xenogeneic”)細胞を、既知のヒトHLA特異性とマッチするHLAクラスIおよびクラスII分子を発現するようにエキソビボで改変操作してもよい。このような細胞は次いで、改変操作された細胞のHLA特異性とマッチするヒト被験体に導入され得る。細胞は、1種類以上の本発明によるキメラワクチンを発現するようにエキソビボでさらに改変操作される。
【0235】
改変操作された細胞は、標準的な細胞培養方法によって細胞培養状態で維持される(Darling,Animal Cells:Culture and Media”.J.Wiley,New York,1994;Freshney,Culture of Animal Cells”.Alan R.Liss,Inc.,New York,1987)。本発明における使用のため細胞株は、さまざまな供給元(例えば、ATCC Catalogue of Cell Lines & Hybidomas,American Type Culture Collection,第8版,1995)から入手されるか、または標準的な方法(Freshney,Culture of Immortalized Cells,Wiley-Liss,New York,1996)を用いて作製される。非形質転換細胞株がヒト被験体における使用に好ましい。
【0236】
一態様において、GM-CSFの影響下で樹状細胞に分化しているCD34+ 前駆細胞を被験体の身体から採取し、本発明によるキメラワクチンをコードしている核酸を細胞内に導入し、次いでこれを被験体に再注入する。エンドソーム/リソソーム標的化シグナルに連結された抗原配列を含む(好ましくは、LAMP様内腔側ポリペプチドを含む)構築物を使用すると、特定の抗原に由来するペプチドと形質導入された抗原提示細胞上のMHCクラスII分子との会合が増強され、有意により強力な全身性のT細胞依存性免疫応答がもたらされる。このストラテジーにおいてトランスフェクトされる抗原提示細胞は好ましくは自己細胞であるが、宿主において有効に抗原を提示する任意のMHCクラスII細胞が上記のようにして使用され得る。
【0237】
ペプチドワクチン
同様に本発明の範囲に含まれるのは、無細胞ペプチド免疫原を含むワクチンであって、免疫原が、リソソーム膜ポリペプチド(例えば、LAMPポリペプチドまたはそのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾型など)の配列、あるいはアレルゲンXを、エンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官にMHCクラスII分子との結合のために標的化およびトラフィッキングするための、またはMHCクラスII分子との結合のための別の区画/細胞小器官への送達のためのエンドサイトーシス受容体の配列と融合された少なくとも1種類のアレルゲンXを含むワクチンである。好ましくは、アレルゲンXは区画/細胞小器官(または送達される次の区画/細胞小器官)内でプロセッシングされ、アレルゲンXエピトープが生成して、免疫応答の調節能を有するMHCクラスII分子に結合される。
【0238】
また、キメラワクチンには、膜貫通領域および/またはリソソーム標的化領域を有する細胞質尾部(好ましくは、LAMPポリペプチド由来のもの)、および/またはジロイシンドメイン、Tyrモチーフ、MR6ドメイン、プロリンリッチドメイン、および/またはSer-Val-Valドメインも含められ得る。また、キメラワクチンを、生物体の身体へのその投与が助長されるように膜性構造内に結合させてもよい。例えば、キメラワクチンは、米国特許第4,448,765号に記載のように、リポソーム内に組み込まれ得る。
【0239】
好ましい実施形態では、本発明のペプチドワクチンは:(a)表1に示す配列番号:Zまたは配列番号:Wのポリヌクレオチドのいずれか1つにコードされたポリペプチド;(b)表1に示す配列番号:Yまたは配列番号:Vのアミノ酸配列を含むポリペプチド;(c)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)、表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上、およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)を含むポリペプチド;(d)内腔側ドメイン(例えば、配列番号:2もしくは3など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)および表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上を含むポリペプチド;(e)表1に示す配列番号:Yのうちの1つ以上およびトラフィッキングドメイン(配列番号:1など、または配列番号:4もしくは5に示すようなもの)を含むポリペプチド;あるいは(f)(a)~(e)のポリヌクレオチドのいずれか1つと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するポリペプチドを含むものである。
【0240】
タンパク質またはポリペプチドが免疫原として使用される場合、これは、組換え細胞内での上記のDNA構築物のいずれか1種類以上の発現によって産生させてもよく、化学合成によって調製してもよい。例えば、メリフィールド手法(Journal of American Chemical Society,第85巻,第2149~2154頁,1968)が使用され得る。
【0241】
ポリヌクレオチドとしてのLAMP構築物、LAMP構築物のコードタンパク質および/または細胞(例えば、本明細書に記載のLAMP構築物を発現する抗原提示細胞)でプライミングした後、アレルゲンXでブーストすることは本発明の好ましい一実施形態である。さらなる好ましい実施形態では、本明細書に記載のLAMP構築物でプライミングした後、アレルゲンで、好ましくは、アレルゲンXが由来するタンパク質に由来するアレルゲンでブーストすることが具体的に想定され、さらにいっそうよりロバストな免疫応答(特に、抗体レパートリーの多様性および力価の観点で)を生じさせるために使用され得る。
【0242】
投与
本発明によるワクチン物質は、上記の免疫賦活構築物を含むものであり得るか、または組換え微生物、もしくは免疫賦活構築物を発現する抗原提示細胞であり得る。本発明によるワクチン物質を含む組成物の調製および個体の免疫処置のためのかかる組成物の投与は、当業者によく知られた免疫処置の原理に従って行われる。
【0243】
大量のこのような物質は、本明細書に記載のキメラアレルゲンXタンパク質を発現するレプリコンを含む組換え細胞または形質転換細胞を培養することにより得られ得る。培養方法は当業者によく知られており、上記に挙げた文献の1つ以上に教示されている。ワクチン物質は一般的に、組換え細胞または形質転換細胞の培養によって産生させ、当該技術分野で、例えば米国特許第4,446,128号(引用により本明細書に組み込まれる)に報告されているようにして、薬理学的に許容され得る液剤もしくは懸濁剤(これは通常、生理学的に適合性の水溶液である)またはコート錠、錠剤、カプセル剤、坐剤もしくはアンプルに製剤化する。投与は、任意の適切な経路、例えば経口、経直腸、鼻腔内であり得るか、または注射によるものであり得、ここで、注射は、例えば経皮、皮下、筋肉内または静脈内であり得る。
【0244】
ワクチン組成物は哺乳動物に、哺乳動物において免疫応答が誘導されるのに充分な量で投与される。投与のための好ましい最低限の量は、投与前に存在していたものの少なくとも4倍の濃度まで抗体形成を誘起するのに必要とされる量である。投与のための典型的な初期用量は、静脈内、筋肉内もしくは皮下投与する場合は10~5000マイクログラムまたは10~1011プラーク形成単位の組換えベクターであろうが、この量は、投与を実施する臨床医により、ワクチンおよび免疫応答を誘導する他の薬剤の投与において一般的に行われるようにして調整され得る。免疫を誘導するためには通常、単回投与で充分であり得るが、応答を確実にするため、またはブーストするために、(例えば、アレルゲンXが由来するものと同じタンパク質に由来する組換え産生型を用いて)反復投与を行ってもよい。
【0245】
ワクチンは、最初は非ヒト哺乳動物(例えば、マウスまたは霊長類)において試験され得る。例えば、接種マウスの免疫応答のアッセイが、野生型抗原より抗体、T細胞の増殖、およびリソソーム標的化キメラタンパク質に対する細胞傷害性T細胞応答が大きいことを実証するために使用され得る。マウスにおいて高度に有効なDNAワクチン製剤が適切なサル免疫応答も惹起するかどうかを調べるために、キメラタンパク質はアカゲザルにおいて評価され得る。一態様において、各サルには、1回の免疫処置で合計5mgのDNAがIM送達で2つの部位に分けて投与され、免疫処置は0日目と4、8および20週目に行われ、さらなる用量は任意である。ワクチンに対する免疫応答をモニタリングするために、抗体応答、ADCC、CD4+およびCD8+ T細胞サイトカイン生成、CD4+およびCD8+ T細胞抗原特異的サイトカイン染色が測定され得る。
【0246】
本発明による製剤化および投与の好適な方法のさらなる説明は、米国特許第4,454,116号(構築物)、米国特許第4,681,762号(組換え細菌)ならびに米国特許第4,592,002号および同第4,920,209号(組換えウイルス)をみるとよい。
【0247】
アレルギーの治療
本発明により、アレルゲンXと相関している花粉症の治療に有用な製剤を提供する。これまでに、アレルゲンのタンパク質コード配列をコードしているDNAプラスミドを動物に送達すると、IFN-γの生成が高まり得、IL-4の生成が低下し得ることが調べられており、これは、具体的なアレルゲンに対してアレルギーの動物を治療するのに有用である。本発明により、アレルゲンXと相関しているアレルギーを有する患者を治療するための改善されたワクチン組成物を提供する。本発明の融合タンパク質は、MHCクラスII小胞を横切る特定の細胞内トラフィッキングパターンを有し、免疫系に対するアレルゲンXの提示の増強をもたらすもの、具体的には抗体応答の増強をもたらすものである。本発明によって提供される核酸および組成物はアレルギー免疫療法の実施に有用である。
【0248】
本発明により、細胞に投与した場合、特異的抗体応答の増大がもたらされる製剤を提供する。アレルゲンXに対する抗体応答の増大はIgE媒介性アレルギー疾患を治療するのに有用である。IgEは、その細胞拘束性およびその結果としてのコグネイトアレルゲンへの結合時の細胞内シグナル伝達と関連する特定の特性を有する。B細胞がTh2細胞によって分泌されたIL-4を受容すると、アレルゲンに対してIgEを産生する。これにより、B細胞がIgEクラス抗体を産生するよう指示されることが補助される。B細胞によって分泌されると、IgEは、マスト細胞および好酸球によって発現されるその高親和性受容体Fc-εRIに結合し、これらの細胞および動物を、その後のアレルゲン曝露に対して感作状態にする。その結果として、アレルゲンを摂取、吸入または経粘膜接触するとアレルギーの症状が誘発され得る。抗体の結合特性のため、アレルギー症状を低減させる方法の1つは、IgEによる結合に利用可能な遊離アレルゲンを他の抗体クラスとの競合によってキレート化することであると提案されている。特に、IgGを高めるアレルギー用製剤がアレルギー疾患を低減させるための道であると提案されている。本明細書に記載の発明はIgG産生の増強を誘導し、したがって、臨床的に有意な様式でIgGに対するIgEの比の低減をもたらすものである。
【0249】
特に好ましい一実施形態では、本発明により、アレルゲンXに対するアレルギーの治療または予防の方法を提供する。好ましい方法の一例では、本明細書に記載のアレルゲンXおよびリソソーム結合膜ポリペプチド(例えば、LAMPポリペプチド、そのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾形態)の内腔側トラフィッキングドメインまたはエンドサイトーシス受容体の内腔側トラフィッキングドメイン、ならびにアレルゲンX抗原をエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化するため、および区画/細胞小器官内または抗原が送達される別の区画/細胞小器官内のいずれかでのMHCクラスII分子との会合のための、LAMPポリペプチド、そのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾形態またはエンドサイトーシス受容体の細胞質標的化ドメインをコードしているポリヌクレオチドである。かかるキメラDNA分子に、上記のようなさらなるドメイン配列をコードさせてもよい(例えば、膜貫通ドメイン、シグナル配列、エンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化するための細胞質ドメイン、ジロイシンドメイン、Tyrモチーフドメイン、プロリンリッチドメイン、Ser-Val-Valドメインなどをコードしている配列)。
【0250】
より一般的には、一実施形態において、本発明により、アレルゲンXに対する哺乳動物の免疫応答を調節する(すなわち、かかる応答を賦活、増強または低減させる)ためのワクチン組成物を提供する。好ましくは、組成物はワクチンベクターを含み、ベクターは、アレルゲンXを含むタンパク質およびリソソーム結合膜ポリペプチド(例えば、LAMPポリペプチド、そのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾形態)の内腔側トラフィッキングドメインまたはエンドサイトーシス受容体の内腔側トラフィッキングドメイン、ならびに抗原をエンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化するため、および区画/細胞小器官内または抗原が送達される別の区画/細胞小器官内のいずれかでのMHCクラスII分子との会合のための、標的化ドメイン、例えば、LAMPポリペプチド、そのホモログ、オーソログ、バリアントもしくは修飾形態またはエンドサイトーシス受容体の細胞質標的化ドメインをコードしているキメラDNAセグメントを含むものである。かかるキメラDNA分子に、上記のようなさらなるドメイン配列をコードさせてもよい(例えば、膜貫通ドメイン、シグナル配列、エンドソーム/リソソーム区画またはリソソーム関連細胞小器官に標的化するための細胞質ドメイン、ジロイシンドメイン、Tyrモチーフドメイン、プロリンリッチドメイン、Ser-Val-Valドメインなどをコードしている配列)。
【0251】
キット
本発明は、本明細書に記載の方法の実施を容易にするためのキットをさらに含む。一態様において、キットは、上記の核酸ベクターおよびベクターを受容するための細胞を備えている。キットは、細胞を専門的APCに改変操作するための1種類以上の核酸をさらに備えていてもよい。しかしながら、一態様では、細胞が専門的APCである。細胞は共刺激分子を発現するものであっても、そうでなくてもよい。好ましい一態様において、細胞が共刺激分子を発現しない場合、ベクターにコードされた抗原は自己抗原である。別の態様では、異なるMHC分子(例えば、人において発現されることがわかっているもの)を発現する細胞パネルを備えている。さらなる一態様では、キットは、細胞内へのベクターの進入を助長するための試薬(例えば、脂質ベース製剤、ウイルスパッケージング材料、細胞など)を備えている。なおさらなる一態様では、ベクターにコードされた抗原に特異的な1種類以上のT細胞株を備えており、ベクターが免疫応答を惹起する、調節する、または増強させる能力を検証する。
【0252】
実施例
次に、本発明を、以下の実施例を参照しながらさらに説明する。以下のことは一例にすぎないこと、および依然として本発明の範囲に含まれる状態で詳細事項に対する修正が行われ得ることは認識されよう。
【実施例0253】
実施例1-アレルゲンX構築物の構築
表1に記載のキメラアレルゲンXワクチンをコードしているいくつかの異なる核酸構築物を構築した。配列番号:Zのポリヌクレオチドを含むプラスミドを、当該技術分野でよく知られた手法を用いて設計した。具体的には、LAMP-1内腔側ドメイン(配列番号:2)の一部分を含み、それをアレルゲンX(配列番号:Y)および次いでLAMP-1膜貫通/細胞質尾部(配列番号:1)の一部分に融合した遺伝子融合体をコードしているポリヌクレオチドを含むプラスミドを、NTC 8382ベクター内に挿入した。構築されたかかるポリヌクレオチド代表例を配列番号:Wとして示す。得られた構築物の配列を確認し、タンパク質発現を確認した。
【実施例0254】
実施例2-アレルゲンXをコードしているプラスミドに対するマウスの免疫応答の評価
実施例1に記載のアレルゲンX抗原構築物を免疫応答の調節能について、Su,Yan,Michael Connolly,Anthony Marketon,and Teri Heiland.“CryJ-LAMP DNA Vaccines for Japanese Red Cedar Allergy Induce Robust Th1-Type Immune Responses in Murine Model.”Journal of Immunology Research 2016(2016):1-15に記載のアッセイを用いて試験した。
【0255】
各構築物での結果を表3に報告する。特に記載のない限り、「対照」構築物は、アレルゲン配列のないベクター骨格である。
【0256】
【表3-1】
【0257】
【表3-2】
【0258】
【表3-3】
【0259】
【表3-4】
【0260】
【表3-5】
【0261】
【表3-6】
【0262】
【表3-7】
【0263】
6~8週齢の雌Balb/cマウスを対照ベクターまたはワクチンのいずれかで処置し、Bioject皮内送達によって0、7および14日目に免疫処置した。マウスをミョウバンアジュバントありの組換えアレルゲン(5μg/マウス)で42日目にブーストし、21、35および56日目に採血した。
【0264】
血清試料を1%のBSA含有PBS中で1:100(21日目)、1:2000(35日目)または1:5000(56日目)倍希釈した。56日目、試料を1:3で7回の段階希釈によってさらに希釈し、エンドポイント抗体力価を測定した。IgEを検出するため、血清をAgarose-Protein G(Thermo Fisher Scientific,Rockford,IL)で50分間処理し、次いで、1:20に希釈した試料をELISAプレートに負荷した。試料を、ヤギ抗マウスIgG1-HRP、ヤギ抗マウスIgG2a-HRP(Southern Biotech,Birmingham,Al)、またはラット抗マウス-IgE-ビオチン(R35-118、BD Pharmingen,San Jose,CA)の後にPierce Streptavidin-HRP(Thermo Fisher Scientific,Rockford,IL)を用いて検出した。反応を、SureBlue TMB Substrateを用いて発色させ、TMB Stop Solutionを用いて停止させた。プレートの読み取り(OD450)を、Epoch ELISA reader(BioTek,Winooski,VT)を使用することによって行った。エンドポイント力価は、バックグラウンド平均(PBS)より上の読み値を2回差し引くことにより求めた。各群のエンドポイント力価またはOD450値の平均および標準誤差を、Excelの統計機能を使用することによって解析した。IgEデータを、スチューデントのT検定を使用することによって解析した。検定は両側であり、p値≦0.05を有意とみなした。
【0265】
本明細書に記載のことの変形、修正および他の実施は、本発明および特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく当業者に思いつくであろう。具体的に示した特許、特許出願、国際出願および参考文献はすべて、引用によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
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図4-5】
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図4-9】
図4-10】
図4-11】
図4-12】
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図4-14】
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図4-17】
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図4-19】
図4-20】
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図4-22】
図4-23】
【配列表】
2022119861000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.リソソーム結合膜タンパク質(LAMP)内腔側ドメイン、
b.表1に記載の少なくとも1種類のアレルゲンX、および
c.LAMP膜貫通ドメイン/細胞質尾部
を含むポリペプチドをコードしている単離された核酸。