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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119910
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】核酸系調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/23 20160101AFI20220809BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 9/78 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20220809BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20220809BHJP
   C12P 19/38 20060101ALI20220809BHJP
   C12R 1/80 20060101ALN20220809BHJP
【FI】
A23L27/23 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N9/22
C12N9/24
C12N9/78
C12N15/56
C12N15/55
C12P19/38
C12R1:80
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086733
(22)【出願日】2022-05-27
(62)【分割の表示】P 2018543946の分割
【原出願日】2017-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2016199543
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(72)【発明者】
【氏名】奥田 啓太
(57)【要約】      (修正有)
【課題】呈味性が改善された核酸系調味料の製造方法および核酸系調味料を提供する。
【解決手段】リボヌクレオチド含有材料をヌクレオシダーゼで処理するステップを含む、核酸系調味料の製造方法である。前記リボヌクレオチド含有材料が、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理したものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボヌクレオチド含有材料をヌクレオシダーゼで処理するステップを含む、核酸系調味料の製造方法。
【請求項2】
前記リボヌクレオチド含有材料が、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理したものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、請求項2に記載の製造方法:
(1)リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼで処理したリボヌクレオチド含有材料を用意するステップ、及び
(2)前記リボヌクレオチド含有材料をAMP-デアミナーゼとヌクレオシダーゼで個別に又は同時に処理するステップ。
【請求項4】
ステップ(2)が以下のステップ(2-1)及び(2-2)からなる、請求項3に記載の製造方法:
(2-1)前記リボヌクレオチド含有材料をAMP-デアミナーゼで処理するステップ、及び
(2-2)ステップ(2-1)後の処理物をヌクレオシダーゼで処理するステップ。
【請求項5】
前記リボヌクレオチド含有材料が、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理及びAMP-デアミナーゼ処理したものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
リボヌクレオチド含有材料がプリンヌクレオチドを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記リボ核酸含有材料が酵母溶解物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ヌクレオシダーゼが、配列番号1のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と88%以上同一のアミノ酸配列、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ヌクレオシダーゼのアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:55℃~60℃、
(4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)。
【請求項11】
前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、請求項10に記載の製造方法、
(5)至適pH:3.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
【請求項12】
前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:50℃~55℃、
(4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)。
【請求項13】
前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、請求項12に記載の製造方法、
(5)至適pH:4.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
【請求項14】
前記ヌクレオシダーゼがペニシリウム・マルチカラー由来である、請求項8~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法で得られた核酸系調味料。
【請求項17】
前記ヌクレオシダーゼの作用によってプリン塩基の含有量が増加している、請求項16に記載の核酸系調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸系調味料に関する。詳しくは、酵母エキス等の核酸系調味料の製造方法に関する。本出願は、2016年10月7日に出願された日本国特許出願第願2016-199543号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
酵母エキスに代表される核酸系調味料は、旨味やコク味などを付与又は増強する目的で各種食品等に用いられている。酵母エキスは、アミノ酸を豊富に含む高アミノ酸タイプと、核酸含有量の多い高核酸タイプに大別される。後者の酵母エキスにおける主な呈味成分は5'-グアニル酸(GMP)と5'-イノシン酸(IMP)である。その効果を高めるべく、これらの呈味成分に注目した様々な検討が行われている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-113789号公報
【特許文献2】国際公開第2015/141531号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2003/055333号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
核酸系調味料が広範な食品・飲料等に利用されている現状や、より美味しい食品や新しい食味に対する消費者の欲求等に鑑みると、核酸系調味料の呈味性を更に増強することが望まれる。本発明は、このような要望に応えるべく、呈味性が改善された核酸系調味料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
高核酸タイプの酵母エキスの呈味成分の一つであるGMPは、酵母中の核酸にヌクレアーゼを作用することによって生成する。従って、酵母エキス中のGMP量は、原料酵母に元々含まれる核酸の量に依存し、酵素の作用条件を最適化するなどして生成効率を高めたとしてもその含有量には自ずと限界がある。一方、IMPはヌクレアーゼ処理によって生じた5'-アデニル酸(AMP)をAMP-デアミナーゼで変換することによって生成する。そのため、GMPと同様、IMPの含有量も原料の酵母に依存することになる。そこで本発明者らは、これまでとは異なる視点で検討を進めることにした。具体的には、酵母エキスの製造過程で生成するヌクレオチドに注目し、それを基質として作用し得る可能性がある酵素であるヌクレオシダーゼによる処理工程を組み入れることで呈味性の増強や新たな呈味性の付与ができないか検討することにした。検討の結果、驚くべきことに、ヌクレオシダーゼ処理が呈味性の改良ないし増強に有効であることが判明した。ヌクレオシダーゼの反応生成物であるプリン塩基(アデニン、グアニン、ヒポキサンチン等)が呈味性物質とは認識されていない事実に加え、ヌクレオシダーゼの作用によって呈味性物質であるGMP及びIMPの量が減少すると予想されることからすれば、この成果は極めて予想外のことといえる。
【0006】
以下の発明は、主として上記の成果及び考察に基づく。
[1]リボヌクレオチド含有材料をヌクレオシダーゼで処理するステップを含む、核酸系調味料の製造方法。
[2]前記リボヌクレオチド含有材料が、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理したものである、[1]に記載の製造方法。
[3]以下のステップ(1)及び(2)を含む、[2]に記載の製造方法:
(1)リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼで処理したリボヌクレオチド含有材料を用意するステップ、及び
(2)前記リボヌクレオチド含有材料をAMP-デアミナーゼとヌクレオシダーゼで個別に又は同時に処理するステップ。
[4]ステップ(2)が以下のステップ(2-1)及び(2-2)からなる、[3]に記載の製造方法:
(2-1)前記リボヌクレオチド含有材料をAMP-デアミナーゼで処理するステップ、及び
(2-2)ステップ(2-1)後の処理物をヌクレオシダーゼで処理するステップ。
[5]前記リボヌクレオチド含有材料が、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理及びAMP-デアミナーゼ処理したものである、[1]に記載の製造方法。
[6]リボヌクレオチド含有材料がプリンヌクレオチドを含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の製造方法。
[7]前記リボ核酸含有材料が酵母溶解物である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の製造方法。
[8]前記ヌクレオシダーゼが、配列番号1のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と88%以上同一のアミノ酸配列、を含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法。
[9]前記ヌクレオシダーゼのアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、[8]に記載の製造方法。
[10]前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:55℃~60℃、
(4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)。
[11]前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、[10]に記載の製造方法、
(5)至適pH:3.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
[12]前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製造方法、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:50℃~55℃、
(4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)。
[13]前記ヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、[12]に記載の製造方法、
(5)至適pH:4.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
[14]前記ヌクレオシダーゼがペニシリウム・マルチカラー由来である、[8]~[13]のいずれか一項に記載の製造方法。
[15]前記ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、[14]に記載の製造方法。
[16][1]~[15]のいずれか一項に記載の製造方法で得られた核酸系調味料。
[17]前記ヌクレオシダーゼの作用によってプリン塩基の含有量が増加している、[16]に記載の核酸系調味料。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼの作用温度域。7種類のプリン体存在下、各温度条件で酵素反応を行い、遊離プリン塩基比率を求めた。
図2】ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼの作用pH域。7種類のプリン体存在下、各pH条件で酵素反応を行い、遊離プリン塩基比率を求めた。
図3】ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株からのヌクレオシダーゼの精製。DEAE HPカラムクロマトグラフィーの結果を示す。
図4】各精製酵素(ピーク1~3)の分子量の測定結果(SDS-PAGE)。左はピーク1、2の結果。右はピーク3の結果。PNGase F処理後のサンプル(「糖鎖なし」のレーン)と無処理のサンプル(「糖鎖あり」のレーン)を電気泳動し、CBB染色した。左端のレーンは分子量マーカー(ミオシン(200 kDa)、β-ガラクトシダーゼ(116.3 kDa)、ホスホリラーゼB(97.4 kDa)、BSA(66.3 kDa)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(55.4 kDa)、乳酸デヒドロゲナーゼ(36.5 kDa)、炭酸脱水素酵素(31.0 kDa)、トリプシンインヒビター(21.5 kDa)、リゾチーム(14.4 kDa)、アプロチニン(6.0 kDa)、インスリンB鎖(3.5 kDa)、インスリンA鎖(2.5 kDa))。
図5】各精製酵素(ピーク1~3)の分子量。N末端アミノ酸分析の結果も示した。
図6】遺伝子クローニングに使用したプローブの配列。上段:PN1用(配列番号18)、下段:PN2用(配列番号19)。
図7】遺伝子クローニングの結果。ピーク3の酵素(PN1)をコードするゲノム配列(上段。配列番号4)とピーク1、2の酵素(PN2)をコードするゲノム配列(下段。配列番号6)を示す。
図8】遺伝子クローニングの結果。ピーク3の酵素(PN1)をコードするcDNA配列(上段。配列番号3)とピーク1、2の酵素(PN2)をコードするcDNA配列(下段。配列番号5)を示す。
図9】遺伝子クローニングの結果。ピーク3の酵素(PN1)のアミノ酸配列(上段。配列番号1)とピーク1、2の酵素(PN2)のアミノ酸配列(下段。配列番号2)を示す。
図10】遺伝子クローニングの結果。cDNA塩基数、イントロン数、アミノ酸長、分子量及び推定pIをピーク3の酵素(PN1)とピーク1、2の酵素(PN2)の間で比較した。
図11】精製酵素(PN1)の至適温度。
図12】精製酵素(PN1)の温度安定性。
図13】精製酵素(PN1)の至適pH。
図14】精製酵素(PN1)のpH安定性。
図15】組換え生産した酵素(PN2)の電気泳動の結果。
図16】精製酵素(PN2)の至適温度。
図17】精製酵素(PN2)の温度安定性。
図18】精製酵素(PN2)の至適pH。
図19】精製酵素(PN2)のpH安定性。
図20】官能評価の結果
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.核酸系調味料の製造方法
本発明の第1の局面は核酸系調味料の製造方法に関する。核酸系調味料とは、呈味成分としての核酸及び/又はヌクレオチドを含み、調味に用いられる組成物をいう。ここでの調味には味の調整、変化、増強が含まれる。核酸系調味料の原料は、リボ核酸及び/又はリボヌクレオチドを含有する限り特に限定されないが、好ましくは、酵母や卵類(魚卵等)、魚(鮭、ふぐ等)の白子、魚介類、大豆等、リボ核酸を豊富に含む天然物又はその加工品が用いられる。リボ核酸とは、リボヌクレオチドがホスホジエステル結合でつながったポリマーである。リボ核酸の構成成分であるリボヌクレオチドはリン酸基、D-リボースと核酸塩基(プリン塩基又はピリミジン塩基)から構成される物質であり、プリン塩基を持つものはプリンヌクレオチド、ピリミジン塩基を持つものはピリミジンヌクレオチドと呼ばれる。プリンヌクレオチドには5’-アデニル酸(AMP)、5’-グアニル酸(GMP)、5’-イノシン酸(IMP)、5’-キサンチル酸(XMP)などがある。ピリミジンヌクレオチドには、5’-シチジン酸(CMP)、5’-ウリジン酸(UMP)などがある。尚、呈味成分又は呈味性物質とは、味を感じさせる原因となる物質である。
【0009】
本発明の製造方法では、リボヌクレオチド含有材料をヌクレオシダーゼで処理するステップを行う。リボヌクレオチド含有材料は、リボヌクレオチドが含まれていれば特に限定されない。リボヌクレオチドを単独で含有していても、リボヌクレオチドに加えてリボ核酸やデオキシリボ核酸、デオキシリボヌクレオチドなどを含有していてもよい。含有するリボヌクレオチドとしてはプリンヌクレオチドが好ましい。また、リボヌクレオチド含有材料が、呈味性プリンヌクレオチドのGMP及び/又はIMPを含有していることが好ましい。リボヌクレオチド含有材料は、例えば、リボ核酸含有材料を酸・アルカリ分解又は酵素分解することで得られる。好ましくは、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼやAMP-デアミナーゼなどの酵素で処理してリボヌクレオチド含有材料を得る。好ましいリボ核酸含有材料の例としては酵母溶解物を挙げることができる。
【0010】
本発明では、酵母エキスの製造過程にヌクレオシダーゼ処理工程を組み入れることで呈味性が改良ないし増強したという、驚くべき知見に基づき、ヌクレオシダーゼによる処理を行う。ヌクレオシダーゼはプリン塩基を生成するために用いられる。プリンヌクレオチドを基質としてプリン塩基を生成する作用を示す限り、様々なヌクレオシダーゼを使用することができる。好ましくは、後述の新規ヌクレオシダーゼを用いて当該ステップを行う。当該ヌクレオシダーゼにはプリンヌクレオチドを基質としてプリン塩基を生成する作用が確認されている。尚、過去の報告にあるように、いくつかのヌクレオシダーゼ(具体的には論文Appl. Environ. Microbiol. 67, 1783-1787 (2001)の実験に使用されたOchrobactrum anthropi由来のヌクレオシダーゼ、論文Can. J. Biochem. 56, 345-348 (1978)の実験に使用されたAspergillus niger由来のヌクレオシダーゼ等)において上記作用が認められている。
【0011】
リボヌクレオチド含有材料として、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理したもの、又はリボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理及びAMP-デアミナーゼ処理したものを用いることができる。前者の場合、例えば、以下のステップ(1)及び(2)を行う。
(1)リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼで処理したリボヌクレオチド含有材料を用意するステップ、及び
(2)前記リボヌクレオチド含有材料をAMP-デアミナーゼとヌクレオシダーゼで個別に又は同時に処理するステップ。
【0012】
ステップ(1)では、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理したリボヌクレオチド含有材料を用意することになるが、予めリボヌクレアーゼ処理してあるものを入手し、ここでのリボヌクレオチド含有材料として用いても、或いは本発明の実施に際してリボヌクレアーゼ処理することにしてもよい。
【0013】
リボ核酸含有材料として、好ましくは、酵母溶解物を用いる。この好ましい態様では、酵母を原料に核酸系調味料としての酵母エキスが製造されることになる。原料となる酵母は、食品への使用に適さないものでない限り特に限定されない。例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)やサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)等のサッカロマイセス属酵母、トルラ酵母(Candida utilis)等のカンジダ属酵母、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)やクリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)等のクリベロマイセス属酵母、ピキア・パスロリス(Pichia pastoris)等のピキア属酵母、デバリオマイセス・ハンセニイ(Debaryomyces hansenii)等のデバリオマイセス属酵母、チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)等のチゴサッカロマイセス属酵母等、食品工業で用いられているものを使用することができる。尚、ビールや清酒などの醸造後に回収した酵母を用いることもできる。回収後に乾燥処理したもの(乾燥酵母)を使用することもできる。
【0014】
酵母溶解物は酵母を溶解処理することによって調製することができる。例えば、培養後の酵母を酵素分解法、自己消化法、アルカリ抽出法、熱水抽出法、酸分解法、超音波破砕法、ホモジナイザーによる破砕、凍結融解法等(これらの二つ以上を併用してもよい)によって破砕ないし溶解することにより、酵母溶解物を得ることができる。酵母の培養は常法で行えばよい。
【0015】
好ましい一態様では、培養後の酵母を熱処理した後、溶解酵素で処理し、酵素溶解物を得る。熱処理の条件としては、例えば、80℃~90℃、5分~30分を挙げることができる。酵素分解法に用いる溶解酵素としては、酵母の細胞壁を溶解可能なものであれば各種酵素を用いることができる。溶解酵素の具体例としてYL-T "Amano" L(天野エンザイム株式会社)を挙げることができる。反応条件は、使用する溶解酵素に最適ないし適するように設定すればよいが、具体例として、温度50~60℃、pH7.0~8.0を挙げることができる。反応時間についても特に限定されないが、例えば、3時間~5時間にすることができる。
【0016】
リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理することにより、リボ核酸含有材料中のリボ核酸が分解され、呈味性物質であるGMPなどのヌクレオチドが生成する。使用するリボヌクレアーゼは特に限定されず、例えば、Enzyme RP-1G(天野エンザイム株式会社)、ヌクレアーゼ「アマノ」G(天野エンザイム株式会社)等を用いることができる。反応条件は、使用するリボヌクレアーゼに最適ないし適するように設定すればよいが、具体例として、温度65~70℃、pH5.0~5.5を挙げることができる。反応時間についても特に限定されないが、例えば、3時間~16時間にすることができる。
【0017】
ステップ(1)で用意したリボヌクレオチド含有材料は、AMP-デアミナーゼによる処理及びヌクレオシダーゼによる処理に供される(ステップ(2))。ステップ(2)の前に、不要成分、例えば、リボ核酸含有材料として酵母溶解物を用いる場合の菌体(酵母細胞壁等)の一部又は全部を除去することにしてもよい。不溶成分の除去には、例えば、固液分離法、遠心処理、沈降、ろ過、デカンテーション、圧搾等を用いることができる。
【0018】
AMP-デアミナーゼは、リボヌクレアーゼ処理によって生成したAMPをIMPへ変換するために用いられる。言い換えれば、AMP-デアミナーゼ処理によって、呈味性のあるIMPが生成する。一方、ヌクレオシダーゼ処理によってプリンヌクレオチドからプリン塩基(アデニン、グアニン、キサンチン、ヒポキサンチン等)が生成する。
【0019】
AMP-デアミナーゼはAMPを加水分解してIMPとアンモニアを生成する酵素である。使用するAMP-デアミナーゼは特に限定されず、例えば、デアミザイムG(天野エンザイム株式会社)等を用いることができる。
【0020】
AMP-デアミナーゼとヌクレオシダーゼによる処理は個別に又は同時に行われる。即ち、一態様(第1態様)では片方の酵素による処理の後、他方の酵素による処理を行う。別の態様(第2態様)ではこれら二つの酵素を同時に作用させる。第1態様の場合、好ましくは、AMPデアミナーゼ処理を先に行い、その後、ヌクレオシダーゼ処理を行う。即ち、以下の工程(2-1)と(2-2)をこの順序で行う。
(2-1)前記リボヌクレオチド含有材料をAMP-デアミナーゼで処理するステップ
(2-2)ステップ(2-1)後の処理物をヌクレオシダーゼで処理するステップ
【0021】
このようにすれば、AMP-デアミナーゼ処理の前にAMP(AMP-デアミナーゼの基質)が減少することを回避でき、基質が豊富に存在する状態でAMP-デアミナーゼの酵素反応、即ち、AMPのIMPへの変換が進行する。その結果、IMP含有量の多い核酸系調味料を製造することができる。
【0022】
第1態様の場合、各酵素反応の条件は使用する酵素に最適ないし適するように設定すればよい。反応条件の例を示すと、AMP-デアミナーゼ処理については、温度50~55℃、pH5.0~6.0であり、ヌクレオシダーゼ処理については、温度50~60℃、pH4.5~5.5である。反応時間についても特に限定されないが、例えば、AMP-デアミナーゼ処理の時間を3時間~5時間、ヌクレオシダーゼ処理の時間を1時間~3時間とする。
【0023】
AMP-デアミナーゼとヌクレオシダーゼを同時に作用させる第2態様は、特に、操作が簡便になる点で有利といえる。この態様の反応条件は、両方の酵素が作用可能なものであれば特に限定されない。反応条件の例として、温度50~55℃、pH5.0~6.0を挙げることができる。また、反応時間の例は1時間~5時間である。
【0024】
ステップ(2)による生成物はそのまま核酸系調味料(例えば酵母エキス)として各種用途に適用することができるが、精製工程(例えばろ過、遠心分離)、濃縮工程(例えば蒸発濃縮、凍結濃縮、膜濃縮)、乾燥工程(例えばフリーズドライ、スプレードライ)などを追加で行ってもよい。
【0025】
尚、リボヌクレオチド含有材料として、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理及びAMP-デアミナーゼ処理したものを用いる場合においても、上記の場合(リボヌクレオチド含有材料として、リボ核酸含有材料をリボヌクレアーゼ処理したものを用いる場合)と同様に、予めリボヌクレアーゼ処理及びAMP-デアミナーゼ処理してあるものを入手し、ここでのリボヌクレオチド含有材料として用いても、或いは本発明の実施に際してリボヌクレアーゼ処理及びAMP-デアミナーゼ処理することにしてもよい。
【0026】
本発明の製造方法によれば、液体又は固体(典型的には、粉末状、顆粒状など)の核酸系調味料を得ることができる。本発明の製造方法で得られる核酸系調味料は各種食品・飲料の呈味増強や呈味調整に用いることができる。適用可能な食品・飲料の例を挙げれば、水産加工品(ちくわ、かまぼこ、はんぺん、さきいか、干物、塩辛、魚肉ソーセージ、佃煮、缶詰等)、食肉加工品(ハム、ベーコン、ソーセージ、ジャーキー、コンビーフ、成形肉等)、野菜加工品(漬物、総菜等)、パン類(食パン、菓子パンなど)、菓子(スナック菓子、豆菓子、米菓、冷菓等)、調味料(たれ、つゆ、ドレッシング、ソースなど)、スープ類、ルウ(カレールウ、シチュールウ等)、乳製品、炭酸飲料、ノンアルコール飲料、乳飲料、コーヒー飲料、果実飲料、茶系飲料である。
【0027】
ここで、核酸系調味料における代表的な呈味性物質はGMPとIMPである。本発明の製造方法で得られる核酸系調味料においても、これら二つの呈味性物質が呈味を規定する上で重要であるが、後述の実施例に示した実験結果に鑑みれば、これら以外の物質(具体的にはプリン塩基)も全体の呈味に寄与している。本発明の製造方法で得られる核酸系調味料は、この点において特徴的であり、従来の製造方法で得られるものとは呈味を構成する成分組成が相違する。
【0028】
2.ヌクレオシダーゼ及びその生産菌
本発明の第2の局面はヌクレオシダーゼ及びその生産菌を提供する。本発明者らは、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)から2種類のヌクレオシダーゼ(以下、実施例での表記に対応させて「PN1」及び「PN2」と呼ぶ。また、これら二つのヌクレオシダーゼをまとめて「本酵素」と呼ぶことがある)を取得することに成功し、その遺伝子配列及びアミノ酸配列を同定した。当該成果に基づき、本酵素は配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号2のアミノ酸配列、或いは、これらのアミノ酸配列のいずれかと等価なアミノ酸配列を含むという、特徴を備える。尚、配列番号1のアミノ酸配列はPN1に対応し、配列番号2のアミノ酸配列はPN2に対応する。
【0029】
ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、基準となる配列(配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列)と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではヌクレオシダーゼ活性)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、等価なアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素はヌクレオシダーゼ活性を示す。活性の程度は、ヌクレオシダーゼとしての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、基準となる配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。
【0030】
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1~数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違はヌクレオシダーゼ活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限り、アミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの「複数」とは、配列番号1のアミノ酸配列に関しては、全アミノ酸の約15%未満に相当する数であり、好ましくは約10%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約5%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約3%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。一方、配列番号2のアミノ酸配列に関しては、全アミノ酸の約12%未満に相当する数であり、好ましくは約10%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約5%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約3%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち、等価タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列が基準となる場合、例えば約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、より一層好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有し、配列番号2のアミノ酸配列が基準となる場合、例えば約88%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、より一層好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。尚、アミノ酸配列の相違は複数の位置で生じていてもよい。また、配列番号1については、活性中心を構成すると推定される331位ヒスチジン(H)、並びに触媒反応に関与していると推定される11位アスパラギン酸(D)、15位アスパラギン酸(D)、16位アスパラギン酸(D)及び332位アスパラギン酸(D)を欠失又は置換の対象にしないことが好ましい。
【0031】
好ましくは、ヌクレオシダーゼ活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換が生じることによって等価なアミノ酸配列が得られる。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0032】
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
【0033】
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
【0034】
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
【0035】
本酵素が、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
【0036】
上記アミノ酸配列を有する本酵素は、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本酵素をコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
【0037】
本発明者らは取得に成功した新規ヌクレオシダーゼPN1及びPN2の酵素学的特性を明らかにした。そこで、本酵素であるPN1及びPN2を以下の酵素学性質で特徴付けることもできる。
<PN1の酵素学的性質>
(1)作用
PN1はヌクレオシダーゼであり、プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する。プリンヌクレオシドとは、プリン塩基と糖の還元基がN-グリコシド結合で結合した配糖体である。プリンヌクレオシドの例は、アデノシン、グアノシン、イノシンである。また、プリン塩基とは、プリン骨格を有する塩基の総称であり、具体例はアデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチンである。尚、プリンヌクレオシド及びプリン塩基の他、プリンヌクレオチド等を含め、プリン骨格を有する化合物をプリン体と総称する。
【0038】
PN1は、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す。即ち、分解生成物による実質的な阻害を受けない。この特徴は、食品や飲料の製造に本酵素を適用する上で特に重要である。この特徴を示すPN1によれば、食品や飲料の製造過程において、原料に由来するプリンヌクレオシドを効率的に分解することが可能となる。
【0039】
(2)分子量
PN1は天然型では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去前の分子量は約53 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)であった。ゲルろ過クロマトグラフィーで測定すると約126 kDaであり、2量体を形成していると推定される。一方、N型糖鎖除去後にSDS-PAGEで分子量を測定すると約49k Daを示した。従って、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約49 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
【0040】
(3)至適温度
PN1の至適温度は55℃~60℃である。このように至適温度が高いことは、比較的高温での処理工程を経る、食品や飲料の製造への適用に有利である。至適温度は、酢酸緩衝液(pH4.3)を用い、グアノシンを基質とし、反応生成物であるリボースを定量することによって評価することができる。
【0041】
(4)温度安定性
PN1は酢酸緩衝液(pH4.5)中、60分間処理した場合、45℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃~45℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
【0042】
一方、PN1をリン酸緩衝液(pH6.0)中、30分間処理した場合には、55℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃~55℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
【0043】
このように優れた温度安定性を示すPN1は比較的高温の条件においても高い活性を示すことができる。
【0044】
PN1を以下の酵素学的性質(5)及び(6)で更に特徴付けることができる。
(5)至適pH
PN1の至適pHは3.5である。至適pHは、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
【0045】
(6)pH安定性
PN1は広いpH域で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが3.5~7.5の範囲内にあれば、30℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。また、50℃、60分の処理の場合、処理に供する酵素溶液のpHが3.5~7.5の範囲内にあれば、処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
【0046】
<PN2の酵素学的性質>
(1)作用
PN2はヌクレオシダーゼであり、プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する。
【0047】
PN2は、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す。即ち、分解生成物による実質的な阻害を受けない。この特徴は、食品や飲料の製造に本酵素を適用する上で特に重要である。この特徴を示すPN1によれば、食品や飲料の製造過程において、原料に由来するプリンヌクレオシドを効率的に分解することが可能となる。
【0048】
(2)分子量
PN2は天然型では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去前の分子量は約51 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)であった。ゲルろ過クロマトグラフィーで測定すると約230 kDaであった。一方、N型糖鎖除去後にSDS-PAGEで分子量を測定すると約40 kDaを示した。従って、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約40 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
【0049】
(3)至適温度
PN2の至適温度は50℃~55℃である。このように至適温度が高いことは、比較的高温での処理工程を経る、食品や飲料の製造への適用に有利である。至適温度は、酢酸緩衝液(pH4.3)を用い、グアノシンを基質とし、反応生成物であるリボースを定量することによって評価することができる。
【0050】
(4)温度安定性
PN2は酢酸緩衝液(pH4.5)中、60分間処理した場合、65℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃~65℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
【0051】
一方、PN2をリン酸緩衝液(pH6.0)中、30分間処理した場合には、55℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃~55℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
【0052】
このように優れた温度安定性を示すPN2は比較的高温の条件においても高い活性を示すことができる。
【0053】
PN2を以下の酵素学的性質(5)及び(6)で更に特徴付けることができる。
(5)至適pH
PN2の至適pHは4.5である。至適pHは、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
【0054】
(6)pH安定性
PN2は広いpH域で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが3.5~7.5の範囲内にあれば、30℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。また、50℃、60分の処理の場合、処理に供する酵素溶液のpHが4.5~7.5の範囲内にあれば、処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
【0055】
本酵素は好ましくはペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)に由来するヌクレオシダーゼである。ここでの「ペニシリウム・マルチカラーに由来するヌクレオシダーゼ」とは、ペニシリウム・マルチカラーに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するヌクレオシダーゼ、或いはペニシリウム・マルチカラー(野生株であっても変異株であってもよい)のヌクレオシダーゼ遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたヌクレオシダーゼであることを意味する。従って、ペニシリウム・マルチカラーより取得したヌクレオシダーゼ遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物によって生産された組み換え体も、「ペニシリウム・マルチカラーに由来するヌクレオシダーゼ」に該当する。
【0056】
本酵素がそれに由来することになるペニシリウム・マルチカラーのことを、説明の便宜上、本酵素の生産菌という。
【0057】
後述の実施例に示す通り、本発明者らはペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株から上記性質を備えるヌクレオシダーゼを単離・精製することに成功した。尚、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株は独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に保存された菌株(NBRC CultureカタログにNBRC 7569として掲載されている)であり、所定の手続を経ることにより、入手することができる。
【0058】
3.ヌクレオシダーゼをコードする遺伝子、組換えDNA、形質転換体
本発明の第3の局面は本酵素をコードする遺伝子に関する。一態様において本発明の遺伝子は、配列番号1又は2のアミノ酸配列をコードするDNAを含む。当該態様の具体例は、配列番号3の塩基配列からなるDNA(配列番号1のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号4の塩基配列からなるDNA(配列番号1のアミノ酸配列をコードするゲノムDNAに対応する)、配列番号5の塩基配列からなるDNA(配列番号2のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号6の塩基配列からなるDNA(配列番号2のアミノ酸配列をコードするゲノムDNAに対応する)である。
【0059】
本酵素をコードする遺伝子は典型的には本酵素の調製に利用される。本酵素をコードする遺伝子を用いた遺伝子工学的調製法によれば、より均質な状態の本酵素を得ることが可能である。また、当該方法は大量の本酵素を調製する場合にも好適な方法といえる。尚、本酵素をコードする遺伝子の用途は本酵素の調製に限られない。例えば、本酵素の作用機構の解明などを目的とした実験用のツールとして、或いは本酵素の変異体(改変体)をデザイン又は作製するためのツールとして、当該遺伝子を利用することもできる。
【0060】
本明細書において「本酵素をコードする遺伝子」とは、それを発現させた場合に本酵素が得られる核酸のことをいい、本酵素のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸をも含む。また、コドンの縮重も考慮される。
【0061】
本発明の遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法、化学合成、PCR法(例えばオーバーラップPCR)或いはこれらの組合せによって、単離された状態に調製することができる。
【0062】
一般に、あるタンパク質をコードするDNAの一部に改変を施した場合において、改変後のDNAがコードするタンパク質が、改変前のDNAがコードするタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちDNA配列の改変が、コードするタンパク質の機能に実質的に影響を与えず、コードするタンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、基準となる塩基配列(配列番号3~6のいずれかの配列)と等価な塩基配列を有し、ヌクレオシダーゼ活性をもつタンパク質をコードするDNA(以下、「等価DNA」ともいう)を提供する。ここでの「等価な塩基配列」とは基準となる塩基配列に示す核酸と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(ここではヌクレオシダーゼ活性)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。
【0063】
等価DNAの具体例は、基準となる塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
【0064】
等価DNAの他の具体例として、基準となる塩基配列に対して1若しくは複数(好ましくは1~数個)の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、ヌクレオシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが、例えば2~40塩基、好ましくは2~20塩基、より好ましくは2~10塩基である。
【0065】
等価DNAは、基準となる塩基配列(配列番号3~6のいずれかの配列)に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する。
【0066】
以上のような等価DNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように、基準となる塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価DNAを得ることができる。等価DNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。
【0067】
本発明の他の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸に関する。本発明の更に他の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列に対して少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%又は99.9%同一な塩基配列を有する核酸を提供する。
【0068】
本発明のさらに他の局面は、本発明の遺伝子(本酵素をコードする遺伝子)を含む組換えDNAに関する。本発明の組換えDNAは例えばベクターの形態で提供される。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいう。
【0069】
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
【0070】
本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
【0071】
DNAのベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
【0072】
本発明は更に、本発明の組換えDNA(本発明の遺伝子を含む)が導入された宿主細胞(形質転換体)に関する。本発明の形質転換体では、本発明の組換えDNAが外来性の分子として存在することになる。本発明の形質転換体は、好ましくは、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって調製される。トランスフェクション、トランスフォーメーションはリン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann, M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))、Hanahanの方法(Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557-580(1983))、酢酸リチウム法(Schiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339-346(1989))、プロトプラスト-ポリエチレングリコール法(Yelton, M.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470-1474(1984))等によって実施することができる。
【0073】
宿主細胞は、本酵素が発現する限りにおいて特に限定されず、例えばBacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus circulansなどのBacillus属細菌、Lactococcus、Lactobacillus、Streptococcus、Leuconostoc、Bifidobacteriumなどの乳酸菌、Escherichia、Streptomycesなどのその他の細菌、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Torula、Torulopsis、などの酵母、Aspergillus oryzae、Aspergillus nigerなどのAspergillus属、Penicillium属、Trichoderma属、Fusarium属などの糸状菌(真菌)などより選択される。
【0074】
4.ヌクレオシダーゼの製造方法
本発明の第4の局面はヌクレオシダーゼの製造方法を提供する。本発明の製造方法の一態様では、本酵素を産生する微生物を培養するステップ(ステップ(1))と培養後の培養液及び/又は菌体よりヌクレオシダーゼを回収するステップ(ステップ(2))を行う。本酵素を産生する微生物は例えばペニシリウム・マルチカラーであり、好ましくは、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株又はその変異株である。変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、亜硝酸、ヒドロキルアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどによる処理等によって得ることができる。変異株は、本酵素を産生する限り限定されない。変異株として、本酵素の生産性が向上した株、夾雑物の生産性が低減した株、培養が容易になった株、培養液からの回収が容易になった株などが挙げられる。
【0075】
培養条件や培養法は、本酵素が生産されるものである限り特に限定されない。即ち、本酵素が生産されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。培養法としては液体培養、固体培養のいずれでも良いが、好ましくは液体培養が利用される。液体培養を例にとり、その培養条件を説明する。
【0076】
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に限定されない。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する形質転換体の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3~8、好ましくは約4~7程度に調整し、培養温度は通常約20~40℃、好ましくは約25~35℃程度で、1~20日間、好ましくは3~10日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
【0077】
以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より目的の酵素を回収する(ステップ(2))。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
【0078】
本発明の他の態様では、上記の形質転換体を用いてヌクレオシダーゼを製造する。この態様の製造法ではまず、それに導入された遺伝子によってコードされるタンパク質が産生される条件下で上記の形質転換体を培養する(ステップ(i))。様々なベクター宿主系に関して形質転換体の培養条件が公知であり、当業者であれば適切な培養条件を容易に設定することができる。培養ステップに続き、産生されたタンパク質(即ち、ヌクレオシダーゼ)を回収する(ステップ(ii))。回収及びその後の精製については、上記態様の場合と同様に行えばよい。
【0079】
ヌクレオシダーゼの精製度は特に限定されない。最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。
【0080】
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化して提供することも可能である。その際、精製酵素を予め酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解させておいてもよい。好ましくは、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液を使用することができる。尚、ここでGOODの緩衝液としてはPIPES、MES又はMOPSが挙げられる。
【0081】
5.酵素組成物
本酵素は例えば酵素組成物の形態で提供される。酵素組成物は、本酵素を有効成分として含む。酵素組成物の精製度は特に限定されないが、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、他の成分を含んでいても良い。他の成分としては、培地由来の成分や夾雑タンパク質等が挙げられる。酵素組成物の形態は、特に限定されないが、例えば、液体、粉末、顆粒等が挙げられる。
【0082】
本酵素組成物の一態様では、酵素組成物を簡便な操作で得るために、以下のステップ(I)及び(II)を含む製造方法で酵素組成物を製造する。
(I)本酵素を産生する微生物を培養するステップ
(II)培養後に菌体を除去するステップ
【0083】
ステップ(I)は、本酵素の製造法における上記ステップ(1)と同様であるため、その説明を省略する。ステップ(I)に続くステップ(II)では、遠心分離、ろ過、フィルター処理等を利用して菌体を除去する。このようにして得られた、菌体を含まない培養液はそのまま又は更なる処理(即ち、菌体除去後の培養液を精製するステップ(ステップ(III))を経た後、酵素組成物として用いられる。ここでの更なる処理としては、例えば、限外ろ過膜による濃縮を挙げることができる。上記ステップ(II)又はステップ(III)で得られた、液状の酵素組成物を、乾燥するステップ(ステップ(IV))に供し、粉末、顆粒等の酵素組成物にしてもよい。ここでの乾燥処理としては、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどを挙げることができる。
【0084】
6.酵素剤(ヌクレオシオシダーゼ剤)
本酵素は例えば酵素剤(ヌクレオシダーゼ剤)の形態で提供される。本酵素剤は、有効成分(即ち、本酵素)の他、他の酵素、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。有効成分である本酵素の精製度は特に問わない。即ち、粗酵素であっても精製酵素であってもよい。他の酵素としては、例えば、本酵素以外のヌクレオシダーゼ、アミラーゼ(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ)、グルコシダーゼ(α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、ガラクトシダーゼ(α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ)、プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ)、ペプチダーゼ(ロイシンペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ)、リパーゼ、エステラーゼ、セルラーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、オキシダーゼ、デヒドロゲナーゼ、グルタミナーゼ、ペクチナーゼ、カタラーゼ、デキストラナーゼ、トランスグルタミナーゼ、蛋白質脱アミド酵素、プルラナーゼ等が挙げられる。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、マルトデキストリン、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0085】
本酵素剤の一態様では、液状の酵素剤を簡便な操作で得るために、以下のステップ(I)及び(II)を含む製造方法で酵素剤を製造する。
(I)本酵素を産生する微生物を培養するステップ
(II)培養後に菌体を除去するステップ
【0086】
ステップ(I)は、本酵素の製造法における上記ステップ(1)と同様であるため、その説明を省略する。ステップ(I)に続くステップ(II)では、遠心分離、ろ過、フィルター処理等を利用して菌体を除去する。このようにして得られた、菌体を含まない培養液はそのまま又は更なる処理(即ち、菌体除去後の培養液を精製するステップ(ステップ(III))を経た後、酵素剤として用いられる。ここでの更なる処理としては、例えば、限外ろ過膜による濃縮を挙げることができる。上記ステップ(II)又はステップ(III)で得られた、液状の酵素剤を、乾燥するステップ(ステップ(IV))に供し、粉末、顆粒等の酵素剤にしてもよい。ここでの乾燥処理としては、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどを挙げることができる。
【実施例0087】
1.新規ヌクレオシダーゼの取得
新規ヌクレオシダーゼを見出すべく、一万種を超える微生物を対象にスクリーニングを実施した。その結果、4株の微生物、即ち、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IFO 7569株、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)IFO 15304株、ブレビバチルス・リネンズ(Brevibacillus linens)IFO 12141株、ムコール・ヤバニカス(Mucor javanicus) 4068株が有望な候補として同定された。これらの微生物の産生するヌクレオシダーゼについてその作用・効果を評価した。
【0088】
(1)ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株の培養方法
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株を、下記の培養培地B 100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコにて27℃、48~72時間振盪培養した。この前培養液を下記培養培地B 2Lに移して27℃、120~188時間通気撹拌培養した。この培養液を珪藻土ろ過して菌体を除いた培養上清を限外ろ過膜にて濃縮し、凍結乾燥粉末を得た。
【0089】
<培養培地A>
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco )
0.5% NaCl
pH7.0
【0090】
<培養培地B>
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco)
2% コーンミール(松本ノーサン)
0.5% NaCl
pH6.5
【0091】
(2)バチルス・ブレビスIFO 15304株、ブレビバチルス・リネンズIFO 12141株、ムコール・ヤバニカス 4068株の培養方法
バチルス・ブレビスIFO 15304株とブレビバチルス・リネンズIFO 12141株を上記培養培地A 10mLに植菌し、試験管にて30℃、48時間振盪培養した。一方、ムコール・ヤバニカスIFO 4068株を上記培養培地B 10mLに植菌し、同条件で培養した。培養液をそれぞれ同組成の本培養培地50mLに移して30℃、120時間振盪培養した。この培養液を遠心分離にて菌体除去した上清から凍結乾燥粉末を得た。
【0092】
(3)ヌクレオシダーゼ活性の測定
ヌクレオシダーゼ活性は、グアノシンを基質とした反応によって生成するリボースを定量することで定義した。反応液1mL中には0.1M 酢酸緩衝液(pH4.3)、8mM グアノシンと適当量の酵素を含む。反応はグアノシン添加で開始し、55℃にて30分間反応させた。1.5mLの0.5%ジニトロサリチル酸溶液を添加して反応を停止した後、10分間煮沸処理した。冷却後の反応溶液の540nmの吸光度を測定し、酵素無添加の反応溶液の吸光度を差し引いた値より活性値を算出した。30分間に1μmolのリボースを生成する酵素量を酵素活性1Uと定義した。
【0093】
(4)ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来ヌクレオシダーゼ(P.multicolorヌクレオシダーゼ)の特性の検討
P.multicolorヌクレオシダーゼの特性を調べるため、以下の組成のプリン体溶液を用い、作用温度域と作用pH域を検討した。
アデノシン 0.08 mmol/L
アデニン 0.43 mmol/L
イノシン 0.49 mmol/L
ヒポキサンチン 0.08 mmol/L
グアノシン 0.67 mmol/L
グアニン 1.45 mmol/L
キサントシン 0.00 mmol/L
キサンチン 0.08 mmol/L
【0094】
(4-1)作用温度域
プリン体溶液2mLにP.multicolorヌクレオシダーゼを9U添加し、各温度にてpH5.5下で1時間反応させた後、HPLCの移動相150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で10倍に希釈して高速液体クロマトグラフィーにて定量的に分析した。以下の計算式で遊離プリン塩基比率を算出した。50℃~60℃の反応温度で遊離プリン塩基比率が90%以上となった(図1)。
遊離プリン塩基比率(%)={プリン塩基/(プリンヌクレオシド+プリン塩基)}×100
【0095】
(4-2)作用pH域
プリン体溶液2mLにP.multicolorヌクレオシダーゼを9U添加し、各pHにて55℃で1時間反応させた後、HPLCの移動相150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で10倍に希釈して高速液体クロマトグラフィーにて定量的に分析した。pH4.5~pH6.0はクエン酸緩衝液、pH6.0~6.5はMES緩衝液を使用した。作用温度域の検討の場合と同様に、遊離プリン塩基比率を算出した。クエン酸緩衝液ではpH4.5~pH5.5で遊離プリン体比率が80%以上となった。MES緩衝液ではpH6.0~pH6.5で遊離プリン体比率が80%以上となった(図2)。
【0096】
(5)ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来ヌクレオシダーゼの精製
ハイドロキシアパタイトカラム、陰イオン交換カラム、疎水カラム、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによってヌクレオシダーゼを精製した。以下に一連の精製工程を示す。まず、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株の培養液より調製した凍結乾燥粉末0.1gを5mLのバッファー(5mMリン酸カリウム緩衝液(pH6)+0.3M NaCl)で溶解し、同バッファーで平衡化したハイドロキシアパタイトカラム(BioRad)に供した。吸着したタンパク質を5mMから300mMのリン酸のグラジエントで溶出して活性画分を回収した。得られた活性画分をバッファー(20mM リン酸カリウム緩衝液(pH5.5))で透析し、同バッファーで平衡化したDEAE HPカラム(GEヘルスケア)に供した。吸着したタンパク質を0mMから500mMのNaClのグラジエントで溶出したところ、3つのピークを認めた(図3)。Fr.2をピーク1、Fr.8,9をピーク2、Fr.14,15をピーク3と定めた。
【0097】
回収したピーク3をバッファー(20mM 酢酸緩衝液(pH4.5)+30%飽和硫酸アンモニウム)で透析し、同バッファーで平衡化したPhenyl HPカラム(GEヘルスケア)に供した。吸着したタンパク質を30%飽和から0%の硫酸アンモニウムのグラジエントで溶出して活性画分を回収した。得られた活性画分をバッファー(20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6))で透析した後、限外ろ過膜を用いて0.5mLに濃縮した。濃縮した活性画分を同バッファーで平衡化したHiLoad 16/60 Superdex200(GEヘルスケア)に供して活性画分を回収した。得られた精製酵素はSDS-PAGEにより単一バンドであることを確認した(図4)。分子量はSDS-PAGEで約53 kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーで約126 kDaと推定された(図5)。得られた精製酵素の糖鎖をPNGaseF(New England BioLabs)で除去した。処理方法は添付プロトコールに従った。処理後のSDS-PAGEより、N型糖鎖除去によって分子量が約53k Daから約49k Daになったことが示された(図4、5)。回収したピーク1、2についても同様に精製し、SDS-PAGE及びゲルろ過クロマトグラフィーで分子量を決定した。分子量はSDS-PAGEで約51 kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーで約230 kDaと推定された(図5。得られた精製酵素の糖鎖をPNGaseF(New England BioLabs)で除去した。処理後のSDS-PAGEより、N型糖鎖除去によって分子量が約51 kDaから約40 kDaになったことが示された(図4、5)。
【0098】
各精製酵素(ピーク1~3)のN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサー(島津製作所)で分析したところ、以下に示す配列が推定された。
ピーク1のN末端アミノ酸配列:ADKHYAIMDNDWYTA(配列番号7)
ピーク2のN末端アミノ酸配列:ADKHYAIMDNDWYTA(配列番号8)
ピーク3のN末端アミノ酸配列:VETKLIFLT(配列番号9)
【0099】
ピーク1とピーク2は分子量とN末端アミノ酸配列が一致し、同一の酵素であると推定された(図5)。以降の検討では、当該酵素をPN2と呼び、ピーク3の酵素をPN1と呼ぶことした。
【0100】
2.遺伝子クローニング
決定したN末端アミノ酸配列及びヌクレオシダーゼ保存配列から以下の縮重プライマーを設計し、P.multicolorゲノムDNAを鋳型にしてPCRを実施した。
<PN1用縮重プライマー>
FW:ACIAARTAYMGNTTYYTIAC(配列番号10)
RV:CATNCCNCKNGTCCAYTGNCC(配列番号11)
<PN2用縮重プライマー>
FW:GCNATHATGGAYAAYGAYTGGTAYAC(配列番号12)
RV:GCNGCNGTYTCRTCCCARAANGG(配列番号13)
【0101】
得られた増幅断片をpMD20-T(TaKaRa)にサブクローニングしてシーケンスし、図6に示すプローブを用いてサザンブロッティング及びコロニーハイブリダイゼーションを実施した。得られた断片をシーケンスしてPN1とPN2のゲノム中での塩基配列(図7)を同定した。
【0102】
次に、P.multicolorのゲノムDNAより調製したmRNAからSMARTER RACE5'/3' (TaKaRa)を用いてcDNAを調製した。そして、以下のプライマーを用いてPCRを行い、増幅断片をシーケンスし、cDNA中のPN1とPN2の塩基配列を決定した(図8)。また、決定した塩基配列から、PN1とPN2のアミノ酸配列を同定した(図9)。尚、図10においてPN1とPN2を比較した。
<PN1用PCRプライマー>
FW:ATGGCACCTAAGAAAATCATCATTG(配列番号14)
RV:TTAGTGGAAGATTCTATCGATGAGG(配列番号15)
<PN2用PCRプライマー>
FW:ATGCATTTCCCTGTTTCATTGCCGC(配列番号16)
RV:TCAACGCTCATTTCTCAGGTCGG(配列番号17)
【0103】
3.酵素PN1の諸性質の検討
(1)至適温度
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼ(PN1)の至適温度を分析した。各温度における結果を図11に示す。当該条件下での至適温度は55℃~60℃であった。
【0104】
(2)温度安定性
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼの温度安定性を分析した。各温度でpH4.5にて60分間処理した場合は45℃まで、pH6.0にて30分間処理した場合は55℃までは残存活性80%を示した(図12)。
【0105】
(3)至適pH
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼの至適pHを分析した。pH2.5とpH3.5はクエン酸緩衝液、pH3.5とpH4.5とpH5.5は酢酸緩衝液、pH5.5とpH6.5はリン酸カリウム緩衝液を用いた。至適pHはpH3.5であった(図13)。
【0106】
(4)pH安定性
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼを各pHにて30℃で30分間処理した場合と50℃で60分間処理した場合のpH安定性を分析した。緩衝液は至適pHの検討の場合と同じものを使用し、pH7.5についてはリン酸カリウム緩衝液を用いた。30℃で30分間処理した場合はpH3.5~7.5で、50℃で60分間処理した場合はpH3.5~7.5で80%以上の残存活性を示した(図14)。
【0107】
4.酵素PN2の組換え生産
PN2のcDNA断片を発現用ベクターのクローニングサイトに挿入し、PN2発現ベクターを構築した。当該発現ベクターでアスペルギルス・オリゼ(A.oryzae(pyrG-))を形質転換した。得られた形質転換体を4日間液体培養した(30℃、300rpm)。培養上清を回収し、ヌクレオシダーゼ活性を測定した。その結果、活性を示す形質転換体が得られていた。また、培養上清を糖鎖除去処理し、電気泳動したところ、推定される分子量と一致するサイズのバンドが確認された(図15)。
【0108】
5.酵素PN2の諸性質の検討
組換え生産したPN2を用い、諸性質を検討した。実験方法、条件等はPN1の検討の場合と同様とした。
(1)至適温度
至適温度は50℃~55℃であった(図16)。
【0109】
(2)温度安定性
各温度でpH4.5にて60分間処理した場合は65℃まで、pH6.0にて30分間処理した場合は55℃までは残存活性80%を示した(図17)。
【0110】
(3)至適pH
pH2.5とpH3.5はクエン酸緩衝液、pH3.5とpH4.5とpH5.5は酢酸緩衝液、pH5.5とpH6.5はリン酸カリウム緩衝液を用いた。至適pHはpH4.5であった(図18)。
【0111】
(4)pH安定性
各pHにて30℃で30分間処理した場合と50℃で60分間処理した場合のpH安定性を分析した。緩衝液は至適pHの検討の場合と同じものを使用した。30℃で30分間処理した場合はpH3.5~7.5で、50℃で60分間処理した場合はpH4.5~7.5で80%以上の残存活性を示した(図19)。
【0112】
6.ヌクレオシダーゼによる呈味性の変化
ヌクレオシダーゼを利用することにより、酵母エキスの呈味性の増強や新たな呈味性の付与ができないか検討した。
【0113】
(1)方法
1.5%リボ核酸(和光純薬)溶液(pH5.5)を調製し、70℃に昇温後にヌクレアーゼ「アマノ」G(天野エンザイム)をリボ核酸重量に対して2%添加し、70℃にて3時間反応させた。続いて反応液をpH6.0に調整し、デアミザイムG(天野エンザイム)をリボ核酸重量に対して0.4%添加し、50℃にて3時間反応させた。その後、煮沸処理を20分間行って酵素を失活させた。この反応液に上記のヌクレオシダーゼ(PN1とPN2の混合物)(4,000U/g)を反応液量に対して0.4%添加し、50℃にて1時間反応させた。ヌクレオシダーゼの失活のため、反応液を10分間煮沸処理した。熱失活させたヌクレオシダーゼを添加したものをコントロールとした。以上の方法で調製したサンプルの味を評価した。尚、グアノシンを基質として30分間に1μmolのリボースを生成する酵素量をヌクレオシダーゼ活性1Uと定義する。
【0114】
(2)結果
8名のパネラーで官能評価を実施したところ、コントロール区と比較してヌクレオシダーゼ添加区の方が旨味が強いとの結果を得た(図20)。
【0115】
また、HPLC解析の結果、ヌクレオシダーゼ処理によってプリンヌクレオチド(GMP、AMP、IMP)がプリン塩基(アデニン、グアニン、ヒポキサンチン)へ分解されていることが確認できた。この結果は、使用したヌクレオシダーゼが、プリンヌクレオチドをプリン塩基とD-リボース-5-リン酸に加水分解する反応も触媒することを裏づけるものでもある。
【0116】
以上の結果より、酵母エキスの製造過程にヌクレオシダーゼ処理を追加すれば、呈味性が改良又は旨味が増強された酵母エキスが得られることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の製造法方法によれば、特徴的な呈味性を有する核酸系調味料を得ることができる。本発明の製造方法で得られた核酸系調味料は、各種食品・飲料の呈味増強や呈味調整に利用され得る。
【0118】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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