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特開2022-119977エチレン-ビニルアルコール共重合体およびその製造方法
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  • 特開-エチレン-ビニルアルコール共重合体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022119977
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール共重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20220809BHJP
   B29B 13/02 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
C08J3/12 CEX
B29B13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091354
(22)【出願日】2022-06-06
(62)【分割の表示】P 2021129666の分割
【原出願日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】17/137,658
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】梁 志傑
(72)【発明者】
【氏名】陳 家穎
(72)【発明者】
【氏名】林 文星
(72)【発明者】
【氏名】張 鴻銘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エチレン-ビニルアルコール共重合体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを提供する。エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックを有し、前記ラメラスタックが少なくとも8.35nmの小角X線散乱によって測定された場合に長周期Lを有する。エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックは、少なくとも6nmの平均結晶層厚lcを有し得る。追加または代替として、エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックは、少なくとも2.35nmの平均非晶層厚laを有し得る。本発明は、例えば上記の好ましいラメラスタック特性を有するものなどのエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの製造方法も提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも8.35nmの小角X線散乱によって測定された長周期のラメラスタックを
有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を備える、エチレン-ビニルアルコール共重
合体ペレット。
【請求項2】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの平均結晶層厚が、少なく
とも6nmである、請求項1に記載のペレット。
【請求項3】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの平均非晶層厚が、少なく
とも2.35nmである、請求項1に記載のペレット。
【請求項4】
融点温度Tm2、Tm3、および任意選択でTm1を含み、前記3つの融点温度がIS
O 11357-3:2011に従って示差走査熱量測定法(differential
scanning calorimetry、DSC)で測定され、かつ、
m1が存在する場合に、Tm1は1回目のDSC実行での2本の接線の第1交点を表
し、
Tmは1回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、
Tmは2回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、ここでTm1<Tm2
m3である請求項1に記載のペレット。
【請求項5】
m1とTm2との間の差が、65℃以内である、請求項4に記載のペレット。
【請求項6】
m1とTm2との間の差が、40℃以内である、請求項4に記載のペレット。
【請求項7】
m2とTm3との間の差が、4.5℃以内である、請求項4に記載のペレット。
【請求項8】
前記ペレットの全重量に対して0.3重量%以下の水分含有量を含む、請求項1に記載
のペレット。
【請求項9】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が、29~44モル%であ
る、請求項8に記載のペレット。
【請求項10】
エチレン-ビニルアルコール共重合体と、ペレットの全重量に対して0.3重量%以下
の水分含有量を含むエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットであって、前記エチレ
ン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は、29~44モル%であり、
平均直径100cm以下で、少なくとも8.35nmの小角X線散乱によって測定され
た長周期のラメラスタックを有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を備える、エチ
レン-ビニルアルコール共重合体ペレットであって、
ISO 11357-3:2011に従って示差走査熱量測定法(DSC)で測定され
た融点温度Tm2、Tm3、ならびに任意選択でTm1と、を含み、
m1が存在する場合に、Tm1は、1回目のDSC実行での2本の接線の第1交点を
表し、
Tmは1回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、
Tmは2回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、
ここでTm1<Tm2<Tm3であり、
m1とTm2との間の差は65℃以内であり、
m2とTm3との間の差は4.5℃以内である、
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレット。
【請求項11】
次の工程(a)と工程(b)と、を含む、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコー
ル共重合体ペレットの製造方法であって、
(a)は平均直径100cm以下の粒子堆積厚を使用してエチレン-ビニルアルコール
共重合体粒子を3段階乾燥処理するエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子の乾燥工程
であり;前記3段階乾燥処理が第1段階、第1段階後の第2段階、および第2段階後の第
3段階を含み、
(i)第1段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも65℃の温度に少なくとも2
時間加熱することが含まれ;
(ii)第2段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも95℃の温度に少なくとも
16時間加熱することが含まれ;
(iii)第3段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも95℃の温度に12時間
加熱し;
ここで、第2段階の温度は第1段階の温度よりも高く、第3段階の温度が第2段階の温
度よりも高い;
(b)はエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子をペレット化して、エチレン-ビニ
ルアルコール共重合体のラメラスタック体を有するペレットを得る工程である、方法。
【請求項12】
前記乾燥が、ベルト式乾燥機を使用して実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ベルト式乾燥機の気体流速が、少なくとも15トン/時である、請求項12に記載
の方法。
【請求項14】
前記ペレットは、前記ペレットの全重量に対して0.3重量%以下の水分含有量を含む
、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が、29~44モル%であ
る、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックが、少なくとも8.35n
mの小角X線散乱によって測定された場合に長周期を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの平均結晶層厚が、少なく
とも6nmである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの平均非晶層厚が、少なく
とも2.35nmである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ペレットは融点温度Tm2、Tm3、および任意選択でTm1を含み、前記3つの
融点温度がISO 11357-3:2011に従って示差走査熱量測定法(DSC)で
測定され、かつ、
m1が存在する場合に, Tm1は1回目のDSC実行での2本の接線の第1交点を
表し、
Tmは1回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、
Tmは2回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、ここでTm1<Tm2
m3である請求項11に記載の方法。
【請求項20】
m1とTm2との間の差が、65℃以内である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
m1とTm2との間の差が、40℃以内である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
m2とTm3との間の差が、4.5℃以内である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
(i)第1段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも65℃の温度に少なくとも2時
間加熱することが含まれ;
(ii)第2段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも95℃の温度に少なくとも1
6時間加熱することが含まれ;
(iii)第3段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも110℃の温度に16時間
加熱することが含まれる、請求項11の方法。
【請求項24】
第1段階、第2段階、および第3段階のうちの少なくとも1つの間、温度が20℃の範
囲内に維持される、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整された第1の融点を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレッ
トに関する。本発明はまた、調整された第1の融点を有するEVOHペレットの製造方法
にも関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、腐敗しやすい物を保存するためにフィル
ムおよび積層体に広く応用されている。例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体のフ
ィルムおよび積層体は、食品包装業、医療機器と消耗品業、製薬業、電子業、農業用化学
品工業でよく使用されている。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、通常、酸素
バリア層として機能するため、ユニークな層として積層体に組み込まれる。
【0003】
エチレン-ビニルアルコール共重合体のフィルムおよび積層体は、通常押出法で製造さ
れ、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂(通常はペレット形態)を押し出してエチ
レン-ビニルアルコール共重合体のフィルムを製造する。多層押出機は、異なる材料から
なる付加フィルムを含む積層体を製造するために用いられることができる。エチレン-ビ
ニルアルコール共重合体ペレットを溶融するため、押出機は、押出のために用いられる投
入材料の融点温度に等しいかまたはそれに近い温度を利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0059967号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Strobl,G.R.;Schneider,M.J.Polym.Sci.,Polym.Phys.Ed.1980,18,1343
【非特許文献2】Glatter,O.,Kratky,O.(Small Angle X-ray Scattering) (Academic Press:London,1983)
【非特許文献3】ASTM国際規格D7028-07の動的機械分析(DMA)によるポリマーマトリックス複合材のガラス転移温度(DMA Tg)の標準試験法(Standard Test for Glass Transition Temperature of Polymer Matrix Composites by Dynamic Mechanical Analysis)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの第1融点温度を調整して、
押出機に投入する前のペレットの第1融点温度を下げることで、エチレン-ビニルアルコ
ール共重合体のフィルムおよび/または積層体を大幅に改善できることを見出した。特定
の理論に限定されることなく、おそらくエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの
ラメラスタックを制御することによって例えば長周期、非晶層厚および/または結晶層厚
などの所望の特性を持たせることで、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの部
分的な早期溶融の量を低減または除去できると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
通常、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、エチレン-ビニルアルコール
共重合体のラメラスタックを有し、前記ラメラスタックが、少なくとも8.35nmの小
角X線散乱によって測定された場合に長周期を有する。エチレン-ビニルアルコール共重
合体のラメラスタックは、少なくとも6nmの平均結晶層厚を有し得る。追加または代替
として、エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックは、少なくとも2.35
nmの平均非晶層厚を有し得る。
【0008】
場合によっては、ペレットは、融点温度Tm2、Tm3、ならびに任意選択でTm1
含み、融点温度がISO 11357-3:2011に従って示差走査熱量測定法(di
fferential scanning calorimetry、DSC)で測定さ
れる。Tm1が存在する場合に、Tm1は、1回目のDSC実行での2本の接線の第1交
点を表す。Tm2は、1回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、Tm3は2回
目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、ここでTm1<Tm2<Tm3である。
m1とTm2との間の差は、好ましくは65℃以内である。Tm1とTm2との間の差
は、40℃以内であり得る。場合によっては、Tm2とTm3との間の差は、4.5℃以
内である。
【0009】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されるような好ましいラメラスタック特性を有す
るペレットなどのエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの製造方法を提供する。
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの製造方法は、通常、以下の工程(a)と
工程(b)を含み、
(a)は平均直径100cm以下の粒子堆積厚を使用してエチレン-ビニルアルコール
共重合体粒子を3段階乾燥処理するエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子の乾燥工程
であり;前記3段階乾燥処理が第1段階、第1段階後の第2段階、および第2段階後の第
3段階を含み、
(i)第1段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも65℃の温度に少なくとも2
時間加熱することが含まれ;
(ii)第2段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも95℃の温度に少なくとも
16時間加熱することが含まれ;
(iii)第3段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも105℃の温度に12時
間加熱することが含まれ;
前提は、第2段階の温度は第1段階の温度よりも高く、第3段階の温度が第2段階の温
度よりも高い;
(b)はエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子をペレット化して、エチレン-ビニ
ルアルコール共重合体のラメラスタック体を有するペレットを得る工程である。
【0010】
ペレットの製造方法は、予備乾燥されたペレットを少なくとも110℃の温度に16時
間加熱することを含む、乾燥の第3段階を含み得る。第1段階、第2段階、および第3段
階のうちの少なくとも1つの間、温度は20℃の範囲内に維持され得る。場合によっては
、(a)の乾燥はベルト式乾燥を使用して実施される。ベルト式乾燥機の気体流速は、少
なくとも15トン/時にすることができる。
【0011】
前記方法は、前記ペレットの全重量に対して0.3重量%以下の水分含有量を含むエチ
レン-ビニルアルコール共重合体ペレットを使用することができる。追加または代替とし
て、エチレン-ビニルアルコール共重合体は、29~44モル%のエチレン含有量を有し
得る。少なくとも8.35nmの小角X線散乱測定によって測定された場合、前記ペレッ
トのエチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックは長周期を持つことができる
。前記ペレットのエチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックは、好ましくは
、少なくとも6nmの平均結晶層厚を有する。少なくともいくつかの好ましい場合におい
て、前記ペレットのエチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックは、少なくと
も2.35nmの平均非晶層厚を有する。
【0012】
前記ペレットは、融点温度Tm2、Tm3、ならびに任意選択でTm1を含み、融点温
度がISO 11357-3:2011に従って示差走査熱量測定法(DSC)で測定さ
れる。場合によっては、Tm1が存在する場合に, Tm1は、1回目のDSC実行での
2本の接線の第1交点を表し、Tm2は1回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表
し、Tm3は2回目のDSC実行での融解ピークの最高点を表し、ここでTm1<Tm2
<Tm3である。Tm1とTm2との間の差は、好ましくは65℃以内である。追加また
は代替として、Tm1とTm2との間の差は、40℃以内であり得る。場合によっては、
m2とTm3との間の差は、4.5℃以内である。
【0013】
以下に、添付図面および実施例を参照しつつ本発明の技術を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットに用いられるエチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックを示す概略図である。
図2】本発明に係る例示的なエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの2θの1次元マップ(1D map)と散乱強度との対応関係を示す図である。
図3】本発明による例示的なエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子の非晶厚さおよび長周期の識別を示すグラフである。
図4】本発明に係る例示的なエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの示差走査熱量測定グラフである。
図5】本発明に係るエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを乾燥させるためのベルト式乾燥機を示す概略図である。
図6】本発明に係るエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを乾燥させるためのタワー式乾燥機を示す概略図である。
図7】エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを投入するためのホッパーを備えたスクリュー押出機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
様々な態様は、図面に示される配置および手段に限定されないことを理解されたい。
【0016】
発明者は、エチレン-ビニルアルコール(ethylene-vinyl alcoh
ol,EVOH)共重合体ペレットの第1融点温度を調整して、押出機に投入する前のペ
レットの第1融点温度を下げることで、EVOHフィルムまたは積層体を大幅に改善でき
ることを見出した。エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの第1融点温度を下げ
るかまたはなくしてから、ペレットを押出機に供給する時ホッパーネック部内でのペレッ
トがより少なく溶融するか、または溶融しない(図7)。特定の理論に限定されることな
く、おそらくエチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックを制御することによ
って例えば長周期、非晶層厚および/または結晶層厚などの所望の特性を持たせることで
、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの部分的な早期溶融の量を低減または除
去できると考えられる。
【0017】
本発明の一態様は、ラメラスタックを有するエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレ
ットを提供し、前記ラメラスタックが少なくとも8.35nmの小角X線散乱によって測
定された時に長周期を有する。本明細書において用いられる場合、用語「長周期」とは、
平均非晶層厚(L)に加えて、小角X線散乱によって測定されるエチレン系ポリマーラ
メラスタックの平均結晶層厚(L)をいう。具体的にローレンツ補正(Lorentz
-corrected)の小角X線散乱(small-angle X-ray sca
ttering、SAXS)プロファイルによって長周期が得られる。図1は、エチレン
-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの概略図を示す。
【0018】
例えば、「Cu放射線」および面積検出器を備えたRIGAKU MICRO SOU
RCEX線発生装置でSAXSデータを収集することができる。PC(LAB VIEW
ソフトウェア)を介して制御される精密ステッピングモーターでサンプルをビーム内に配
置できる。分析前に、空気バックグラウンド(I(q)b)に対して散乱データI(q)
を補正でき、ここで、qは波数ベクトルであり、(4π/λ)sin(θ/2)に等しく
、ここで、λとθはそれぞれX線の波長と散乱角である。試験サンプルの厚さは約1mm
で、ペレットから切り取ることができ、その表面積がX線ビームのサイズによって決まる
と共にそれに応じて調整できる。
【0019】
エチレン-ビニルアルコール共重合体によって形成された形成された交互の結晶性およ
び非晶ラメラスタックの場合、長周期(L)は、平均非晶層厚(La)および平均結晶層
厚(Lc)の合計である((L)=(La)+(Lc))であり、次の3つの方法で評価
できる。
【0020】
[方法1]
方法1において、長周期Lは、ローレンツ補正の小角度散乱プロファイル「I(q)q
およびq」によって測定され、ここでI(q)は散乱強度、qは散乱ベクトルであり、
q=4πsin(θ/2)/λで定義され、ここでλはX線の波長、θは散乱角である。
長周期は、次の式から得られる。
L=2π/q*
ここで、q*は、ローレンツ補正のSAXプロファイルのピーク位置である。例えば、
この方法は、特許文献1に記載されている。
【0021】
[方法2]
方法2において、良好な結晶-非晶交互スタッキングが存在する場合、長周期は、小角
X線散乱データで確定される相関関数によって決定される。一次元相関関数(γ(z))
はSAXSデータから得られる。長周期(L)、平均非晶層厚(La)、平均結晶層厚(
Lc)は、それぞれ、次の式を有する小角X線の生データから得られる1次元相関関数γ
(z)によって決定される。
γ(z)=(1γ(0))∫ [I(q)-I(q)]cos(qz)dq
ここで、zは、電子密度分布を測定する方向に沿った相対距離である。q値の定義は上
記の通りである。I(q)値は散乱強度である。実験的に得られるqの範囲が限られてい
るため、データをより低いq値とより高いq値に拡張しなければならない。I(q)b値
は、バックグラウンド散乱強度である。「qに対する強度」データは、最小測定値のq値
からゼロ点まで線形外挿される。非特許文献1と非特許文献に記載されるように、Por
od-Ruland理論を使用して大きなq値を無限のqに減衰させ、これらの文献はす
べて参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
X線散乱角データは、例えば両面カプトンテープ(Kapton tape)((黒色
耐熱テープ)を用いて、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの粒子をサンプル
ホルダに固定することによって得られる。真空引き後、サンプルをX線に300秒間照射
し、2D散乱スペクトルで分析することができる。2θの1Dマップは、相関関数変換式
で2D散乱スペクトルを積分することによって生成できる。例えば図2は、式Q=4πs
inθ/λと上記の一次元相関関数変換式を用いて得られた2θの1次元マップ(1D
map)と散乱強度との対応関係を示す図である。図3は、Z=0での接線と、最低点か
ら始まる曲線の最低点(非晶の厚さ(「l」))と見なされる)との交点を示している
。なお、図3の曲線の最高点は、長周期(「L」)と見なされ、Lから「l」を引いた
ものは、層厚(「l」)に等しい。
【0023】
場合によっては、エチレン-ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの長周期は、
少なくとも8.40nm、少なくとも8.45nm、少なくとも8.5nm、少なくとも
8.55nm、少なくとも8.6nm、少なくとも8.65nmである。少なくとも8.
7nm、少なくとも8.75nm、少なくとも8.8nm、少なくとも8.85nm、少
なくとも8.9nm、または少なくとも8.95nmである。場合によっては、前記長周
期は、少なくとも9nm、少なくとも9.1nm、少なくとも9.2nm、少なくとも9
.3nm、少なくとも9.4nm、少なくとも9.5nm、少なくとも9.6nm、少な
くとも9.7nm、少なくとも9.8、少なくとも9.9nm、少なくとも10nm、少
なくとも10.1nm、少なくとも10.2nm、少なくとも10.3nm、少なくとも
10.4nm、少なくとも10.5nm、少なくとも10.6nm、少なくとも10.7
nm、少なくとも10.8nm、少なくとも10.9nm、少なくとも11nm、少なく
とも11.1nm、少なくとも11.2nm、少なくとも11.3nm、少なくとも11
.4nm、少なくとも11.5nm、少なくとも11.6nm、少なくとも11.7nm
、少なくとも11.8nm、少なくとも11.9nm、少なくとも12nm、少なくとも
12.1nm、少なくとも12.2nm、または少なくとも12.3nmである。
【0024】
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、少なくとも6nmの平均結晶層厚を
有するラメラスタックを有し得る。場合によっては、前記平均結晶層厚は、少なくとも6
.1nm、少なくとも6.2nm、少なくとも6.3nm、少なくとも6.4nm、少な
くとも6.5nm、少なくとも6.6nm、少なくとも6.7nm、少なくとも6.8n
mまたは少なくとも6.9nmである。他の場合において、前記平均結晶層厚は、少なく
とも7nm、少なくとも7.1nm、少なくとも7.2nm、少なくとも7.3nm、少
なくとも7.4nm、少なくとも7.5nm、少なくとも7.6nm、少なくとも7.7
nm、少なくとも7.8nm、または少なくとも7.9nmである。また、他の場合にお
いて、前記平均結晶層厚は、少なくとも8nm、少なくとも8.1nm、少なくとも8.
2nm、または少なくとも8.3nmである。
【0025】
好ましい実施例において、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、少な
くとも2.35nmの平均非晶層厚を有するラメラスタックを有する。前記平均非晶層厚
は、少なくとも2.4nm、少なくとも2.5nm、少なくとも2.6nm、少なくとも
2.7nm、少なくとも2.8nm、または少なくとも2.9nmであり得る。例えば非
晶層厚は、少なくとも3nm、少なくとも3.1nm、少なくとも3.2nm、少なくと
も3.3nm、少なくとも3.4nm、少なくとも3.5nm、少なくとも3.6nm、
少なくとも3.7nm、少なくとも3.8nmまたは少なくとも3.9nmであり得る。
場合によっては、非晶層厚は、少なくとも4nm、少なくとも4.1nm、少なくとも4
.2nm、少なくとも4.3nm、少なくとも4.4nm、少なくとも4.5nm、少な
くとも4.6nm、少なくとも4.7nm、少なくとも4.8nm、または少なくとも4
.9nmである。他の場合において、非晶層厚は、少なくとも5nm、少なくとも5.1
nm、少なくとも5.2nm、少なくとも5.3nm、少なくとも5.4nm、少なくと
も5.5nm、少なくとも5.6nm、少なくとも5.7nm、少なくとも5.8nm、
または少なくとも5.9nmである。また、他の場合において、非晶層厚は、少なくとも
6nm、少なくとも6.1nm、少なくとも6.2nm、少なくとも6.3nm、少なく
とも6.4nm、少なくとも6.5nm、少なくとも6.6nm、6.7nm、少なくと
も6.8nm、または少なくとも6.9nmである。
【0026】
前記ペレットは、約20~約60モル%のエチレン含有量を有するエチレン-ビニルア
ルコール共重合体から形成され得る。例えば前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の
エチレン含有量は、約20~約60モル%、約20~約55モル%、約20~約50モル
%、約20~約45モル%、約20~約44モル%、約20~約40モル%、約20~約
35モル%、約20~約30モル%、約25~約60モル%、約25~約55モル%、約
25~約50モル%、約25~約45モル%、約25~約44モル%、約25~約40モ
ル%、約25~約35モル%、約29~約60モル%、約29~約55モル%、約29~
約50モル%、約29~約45モル%、約29~約44モル%、約35~約60モル%%
、約35~約55モル%、約35~約50モル%、約35~約45モル%、約35~約4
4モル%、約40~約60モル%、約40~約55モル%または約40~約50モル%で
あり得ると共にそれらの間の範囲およびサブ範囲を含む。前記エチレン-ビニルアルコー
ル共重合体のエチレン含有量は、好ましくは29~44モル%である。
【0027】
好ましい実施例において、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、融点
温度Tm2、Tm3、および任意選択でTm1を有し、ここで、融点温度は、ISO 1
1357-3:2011に従って示差走査熱量測定法(DSC)で測定される。エチレン
-ビニルアルコール共重合体(およびエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレット)の
融点は、ISO 11357-3:2011に従って測定され、ISO 11357-3
:2011の内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。例えば融点はTA In
strument DSC Q200で測定され得、TA Instruments U
niversal analysis 2000で分析でき、ここで、示差走査熱量測定
法(DSC)は次のパラメータを利用し、
1.50℃で平衡に達し;
2.1回目の加熱速度は5℃/分で、250℃に加熱し;
3.250℃で平衡に達し;
4.冷却速度は5℃/分で、50℃まで冷却し;
5.50℃で平衡に達し;
6.2回目の加熱速度は50℃/分で、250℃に加熱する。
【0028】
融点温度Tm2、Tm3、ならびに任意選択でTm1は、示差走査熱量測定法で測定さ
れる。Tm1(本明細書では第1融点温度とも呼ばれる)は、1回目のDSC実行での2
本の接線の第1交点を表す。図4は、例示的なエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレ
ットの示差走査熱量測定グラフである。図4に示すように、示差走査熱量測定グラフから
m1をから2本の接線の交点として決定され得る。より具体的に図4を使用して、変曲
点から熱流降下のほぼ中間点まで第1接線を形成でき、かつ第1基準点の後に勾配が減少
し始めるところに第2接線を形成できる。これらの接線に基づいて、第1融点温度を計算
できる。場合によっては、例えばTm1=Tm2のように、第2接線が存在しない場合、
第1融点温度Tm1を除外できる。特定の理論に限定されることなく、ペレット格子がき
ちんとしていて均一である場合、Tm1はTm2に等しくなることができると考えられる
。なお、格子の厚さが厚すぎると、Tm1とTm2が類似および/または等しくなる可能
性がある。例えば乾燥温度が上昇すると、非晶層厚および結晶層厚が増加し、これもT
を上げる。非晶層厚と結晶層厚が厚くなりすぎると、Tm1とTm2との間の差が小さ
くなり、Tm1がTm2と類似するか等しくなる。
【0029】
m2(本明細書では第2融点温度とも呼ばれる)は、1回目のDSC実行での融解ピ
ークの最高点を表す。Tm3(本明細書では第3融点温度とも呼ばれる)は、2回目のD
SC実行での融解ピークの最高点を表す。Tm2、Tm3、ならびに任意選択でTm1
測定に関するその他の情報(本明細書に開示される方法の使用を含む)は、非特許文献3
に見出すことができ、すべての目のため、この文献全体が本明細書に組み込まれる。
【0030】
第1融点温度Tm1と第2融点温度Tm2との間の差は、65℃以内であることが好ま
しい。例えばTm1とTm2との間の差は、60℃以内、55℃以内、50℃以内、45
℃以内、40℃以内、35℃以内、30℃以内、25℃以内であり得る。場合によっては
、第1融点温度Tm1が第2部の融点温度Tm2と等しい場合、第1融点温度Tm1と第
2の融点温度Tm2との間の差は、0℃である。
【0031】
追加または代替として、第2融点温度Tm2と第3融点温度Tm3との間の差は、4.
5℃以内であり得る。場合によっては、Tm2とTm3との間の差は、4.5℃以内、4
.3℃以内、4.1℃以内、4℃以内、3.8℃以内、3.6℃以内、3.4℃以内、3
.2℃以内、3℃以内、2.8℃以内、2.6℃以内、2.4℃以内、2.2℃以内、2
℃以内、1.8℃以内、1.6℃以内、1.4℃以内、1.2℃以内、1℃以内、0.8
℃以内、0.6℃以内または0.4℃以内であり得る。
【0032】
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、エチレン-ビニルアルコール共重合
体ペレットの全重量に対して0.3重量%以下の水分含有量を有し得る。例えばエチレン
-ビニルアルコール共重合体ペレットの総重量を基準としてエチレン-ビニルアルコール
共重合体ペレット中に存在する水分含有量は、約0.3重量%以下、約0.28重量%以
下、約0.26重量%以下、約0.24重量%以下、約0.22重量%以下、約0.2重
量%以下、約0.18重量%以下、約0.16重量%以下、約0.14重量%以下、約0
.12重量%以下、約0.1重量%以下、約0.08重量%以下、約0.06重量%以下
、約0.04重量%以下、または約0.02重量%以下であり得る。
【0033】
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、本質的にエチレン-ビニルアルコー
ル共重合体から形成され得る。例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体粒子は、約
50重量%以上、約60重量%以上、約70重量%以上、約80重量%以上、約90重量
%以上、約92.5重量%以上、約95重量%以上、約96重量%以上、約97重量%以
上、約98重量%以上、約99重量%以上、または約99.5重量%以上のエチレン-ビ
ニルアルコール共重合体を含み得る。場合によっては、エチレン-ビニルアルコール共重
合体ペレットは、非エチレンポリマーを実質的に含まないまたは含まない。
【0034】
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、1つ以上のエチレン-ビニルアルコ
ール共重合体を含み得る。前記1つ以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体は、約1
0~約45モル%、約15~約40モル%、約18~約37モル%、約20~約34モル
%、約22~約34モル%、約24~約34モル%、約28~約34モル%、約20~約
32モル%、約22~約32モル%、約24~約32モル%、約28~約32モル%、約
20~約30モル%、約22~約30モル%、約24~約30モル%、または約28~約
30モル%、または任意の間のエチレン含有量の範囲を有し得る。場合によっては、エチ
レン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は、約25~約75モル%、約30~
約70モル%、約36~約65モル%、約40~約65モル%、約42~約65モル%、約44~約65モル%、約36~約60モル%、約40~約60モル%、約42~約60モル%、約44~約60モル%、約36~約55モル%、約40~約55モル%、約42
~約55モル%、約44~約55モル%、約36~約50モル%、約40~約50モル%、約42~約50モル%、または約44~約50モル%、またはそれらの間の任意の範囲であり得る。
【0035】
エチレン-ビニルアルコール共重合体の鹸化度は、好ましくは約90モル%以上、約9
1モル%以上、約92モル%以上、約93モル%以上、約94モル%以上、約95モル%
以上、約96モル%以上、約97モル%以上、約98モル%以上、約99モル%以上、約
99.5モル%以上、約99.7モル%以上、約99.8モル%以上、約99.9モル%
、または約99.95モル%である。
【0036】
エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットは、約15~約400ppmのホウ素含
有量を含み得る。例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体組成物のホウ素含有量は、
約20~約350ppm、約25~約300ppm、約30~約250ppm、約50~
約200ppm、または約60~約230ppmの範囲内、またはそれらの間の任意の範
囲であり得る。追加または代替として、エチレン-ビニルアルコール共重合体組成物は、
10~600ppmのアルカリ金属を有し得る。場合によっては、エチレン-ビニルアル
コール共重合体組成物中のアルカリ金属含有量は、約20~約550ppm、約30~約
500ppm、約40~約450ppm、約50~約400ppm、約50~約380ppm、約80~約370ppm、約140~約360ppm、約250~約350ppm、約260~約340ppm、約270~約330ppm、約280~約320ppm、または約290~約310ppm、またはそれらの間の任意の範囲である。
【0037】
別の態様において、本発明は、本明細書に記載されるような好ましいラメラスタック特
性を有するペレットなどのエチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの製造方法を提
供する。エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットの製造方法は、通常、以下の工程
(a)と工程(b)を含み、
(a)は平均直径100cm以下の粒子堆積厚を使用してエチレン-ビニルアルコール
共重合体粒子を3段階乾燥処理するエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子の乾燥工程
であり;前記3段階乾燥処理が第1段階、第1段階後の第2段階、および第2段階後の第
3段階を含み、
(i)第1段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも65℃の温度に少なくとも2
時間加熱することが含まれ;
(ii)第2段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも95℃の温度に少なくとも
16時間加熱することが含まれ;
(iii)第3段階には、予備乾燥された粒子を少なくとも105℃の温度に12時
間加熱することが含まれ;
前提は、第2段階の温度は第1段階の温度よりも高く、第3段階の温度が第2段階の温
度よりも高い;
(b)はエチレン-ビニルアルコール共重合体粒子をペレット化して、エチレン-ビニ
ルアルコール共重合体のラメラスタック体を有するペレットを得る工程である。
【0038】
前記方法は、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレットを得るため、粒子をペレッ
ト化する前に、ベルト式乾燥機、タワー式乾燥機などでエチレン-ビニルアルコール共重
合体の粒子を乾燥させる工程を含み得る。前記方法は、予備乾燥されたペレットから得ら
れた粒子を乾燥させる工程を含み得る。本明細書で使用される場合、予備乾燥された粒子
とは、当業者が理解する適切な方法で予備乾燥された粒子を意味する。図5は、ベルト式
乾燥機の非限定的な例の概略図である。図6は、タワー式乾燥機の非限定的な例の概略図
である。エチレン-ビニルアルコール共重合体ペットは、好ましくはベルト式乾燥機で乾
燥される。乾燥中の粒子堆積厚は、100cm以下の平均直径を有し得る。例えば、粒子
堆積厚の平均直径は、約90cm以下、約80cm以下、約70cm以下、約60cm以
下、約50cm以下、約40cm以下、約30cm以下、約20cm以下、約10cm以
下、または約5cm以下であり得る。
【0039】
エチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を乾燥させるための気体流速は、エチレン-
ビニルアルコール共重合体のラメラスタックの特性に影響を与えると考えられている。場
合によっては、エチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を乾燥させるための乾燥機(例
えばベルト式乾燥機)は、少なくとも15トン/時の気体流速を用いる。場合によっては
、乾燥機が使用する気体流速は、少なくとも15トン/時、少なくとも17.5トン/時
、少なくとも20トン/時、少なくとも22.5トン/時、少なくとも25トン/時、少
なくとも27.5トン/時、少なくとも30トン/時、少なくとも32.5トン/時、ま
たは少なくとも35トン/時である。その他の場合、乾燥機が使用する気体流速は、最大
100トン/時、最大97.5トン/時、最大95トン/時、最大92.5トン/時、最
大90トン/時、最大87.5トン/時、最大85トン/時、最大82.5トン/時、ま
たは最大80トン/時である。前記ペレットの水分含有量(エチレン-ビニルアルコール
共重合体ペレットの全重量に対して)が約0.3重量%以下、約0.28重量%以下、約
0.26重量%以下、約0.24重量%以下、約0.22重量%以下、約0.2重量%以
下、約0.18重量%以下、約0.16重量%以下、約0.14重量%以下、約0.12
重量%以下、約0.1重量%以下、約0.08重量%以下、約0.06重量%以下、約0
.04重量%以下、または約0.02重量%以下になるまでエチレン-ビニルアルコール
共重合体粒子を乾燥させることができる。
【0040】
発明者は、エチレン-ビニルアルコール共重合体粒子を特定の温度で特定の時間にわた
って3段階乾燥工程で乾燥させると、ラメラスタックの特性などの造粒後の粒子の特性に
影響を与えることを見出した。特に、発明者は、乾燥の第3段階の温度および時間の長さ
を制御することが、ペレットの特性に影響を及ぼし得ると考えている。
【0041】
前記方法は、予備乾燥された粒子を少なくとも65℃の温度に少なくとも2時間加熱す
る工程を含む、粒子を乾燥させる第1の段階を含み得る。場合によっては、乾燥の第1段
階において、ペレットを少なくとも65℃、少なくとも70℃、少なくとも75℃、少な
くとも80℃、少なくとも85℃、少なくとも90℃、少なくとも95℃または少なくと
も100℃の温度で加熱させる。乾燥の第1段階は、粒子を少なくとも2時間、少なくと
も2.5時間、少なくとも3時間、少なくとも3.5時間、少なくとも4時間、少なくと
も4.5時間、または少なくとも5時間に乾燥させる工程を含み得る。
【0042】
粒子を乾燥させる第2段階は、予備乾燥された粒子を少なくとも95℃の温度に少なく
とも16時間加熱する工程を含み得る。場合によっては、乾燥の第2段階の間に、粒子を
少なくとも95℃、少なくとも100℃、少なくとも105℃、少なくとも110℃、少
なくとも115℃、少なくとも120℃、少なくとも125℃、または少なくとも130
℃の温度で加熱させる。粒子を乾燥させるための第2段階の温度は、好ましくは粒子を乾
燥させるための第1段階の温度よりも高い。乾燥の第2段階は、粒子を少なくとも16時
間、少なくとも17時間、少なくとも18時間、少なくとも19時間、少なくとも20時
間、少なくとも21時間、または少なくとも24時間に乾燥させる工程を含み得る。
【0043】
粒子を乾燥させる第3段階は、予備乾燥された粒子を少なくとも105℃の温度に少な
くとも12時間加熱する工程を含み得る。場合によっては、乾燥の第3段階の間に、粒子
を少なくとも105℃、少なくとも110℃、少なくとも115℃、少なくとも120℃
、少なくとも125℃、少なくとも130℃、少なくとも135℃、少なくとも140℃
、少なくとも145℃、少なくとも150℃、少なくとも155℃、少なくとも160℃
、少なくとも165℃、少なくとも170℃、少なくとも175℃、または少なくとも1
80℃の温度で加熱させる。粒子を乾燥させるための第3段階の温度は、好ましくは粒子
を乾燥させるための第2段階の温度よりも高い。乾燥の第3段階は、粒子を少なくとも1
2時間、少なくとも13時間、少なくとも14時間、少なくとも15時間、少なくとも1
6時間、少なくとも17時間、少なくとも18時間、少なくとも19時間、少なくとも2
0時間、少なくとも21時間、少なくとも22時間、少なくとも23時間、少なくとも2
4時間、少なくとも25時間、少なくとも26時間、少なくとも27時間、少なくとも2
8時間、少なくとも29時間、少なくとも30時間、少なくとも31時間、少なくとも3
2時間、少なくとも33時間、少なくとも34時間、少なくとも35時間、少なくとも3
6時間、少なくとも37時間、少なくとも38時間、少なくとも39時間、または少なく
とも40時間に乾燥させる工程を含み得る。
【0044】
場合によっては、第1段階、第2段階、および第3段階のうちの少なくとも1つの間、
温度変化は20℃の範囲内に維持される。換言すれば、場合によっては、温度が20℃の
範囲を超えて上昇または下降しないため、第1段階、第2段階、および第2段階の少なく
とも1つの間の最高温度と最低温度との間の差を20℃以下にさせる。その他の場合にお
いて、第1段階、第2段階、および第3段階の少なくとも2つまたはすべての間の温度変
化は、20℃の範囲内に維持される。
【実施例0045】
以下の非限定的な実施例は、主に、本発明の様々な態様によって奏する効果および特徴
を説明するために提供される。
【0046】
(実施例1)
(EVOHペレットの製造)
異なるエチレン含有量を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を調製してから造
粒することで、エチレン-ビニルアルコール共重合体ペレット(本明細書では「EVOH
ペレット」とも呼ばれる)を形成する。より具体的にエチレンおよび酢酸ビニルモノマー
からエチレン酢酸ビニル(ethylene vinyl acetate、EVAC)
を重合することで、エチレン-ビニルアルコール共重合体(本明細書では「EVOH共重
合体」とも呼ばれる)を調製する。EVAC共重合体を鹸化してEVOH共重合体を形成
した。
【0047】
水中ペレット化工程を使用してEVOH共重合体をペレット化させて、製品前のEVO
Hペレットを形成した。製品前のEVOHペレットを遠心分離して、EVOHに分離した
。その後EVOH粒子を水で洗浄して乾燥工程にかけた。
【0048】
3段階の乾燥工程でEVOH粒子を乾燥した。下記の表1は、EVOH粒子に用いられ
る3つの乾燥段階のそれぞれの温度と期間を示している。
【表1】
【0049】
続いて、実施例1~30のEVOH粒子および比較例1~21のEVOH粒子を、実施
例1~30のEVOHペレットおよび比較例1~21のEVOHペレットにそれぞれ形成
させた。
【0050】
(実施例2)
(EVOHペレットの評価)
実施例1に記載の3段階乾燥工程の後、EVOHペレットの融点特性および性質を評価
した。具体的にEVOHペレットを評価して、EVOHペレットの融点特性を確認した。
本実施例では、EVOHペレットのラメラスタッキングの長周期、ラメラの厚さ、および
非晶厚さも評価した。なお、EVOHペレットの水分含有量を測定した。
【0051】
<融点特性の評価>
EVOHペレットの融点特性は、ISO 11357-3:2011に従って決定され
、ISO 11357-3:2011の全内容があらゆる目的のために参照により本明細
書に組み込まれる。具体的にTA Instrument DSC Q200でEVOH
ペレットの融点特性を測定し、TA Instruments Universal a
nalysis 2000で分析し、ここで、示差走査熱量測定法(DSC)は次のパラ
メータを利用した。
1.50℃で平衡に達し;
2.1回目の加熱速度は5℃/分で、250℃に加熱し;
3.250℃で平衡に達し;
4.冷却速度は5℃/分で、50℃まで冷却し;
5.50℃で平衡に達し;
6.2回目の加熱速度は50℃/分で、250℃に加熱する。
【0052】
実施例1~30のEVOHペレットおよび比較例1~21のEVOHペレットは、3つ
の融点温度を有し、本明細書においてTm1、Tm2およびTm3と呼ばれる。上記のよ
うに、乾燥温度が上昇すると、非晶層厚および結晶層厚が増加し、Tm1が上げる。場合
によっては、非晶層厚および結晶層厚が厚すぎると、Tm1とTm2との間の差が小さく
なりすぎて、Tm1がTm2と類似するか等しくなりすぎることがある。
【0053】
m1は、1回目のDSC実行での2本の接線の第1交点を表す。Tm2は、1回目の
DSC実行での融解ピークの最高点を表す。Tm3は、2回目のDSC実行での融解ピー
クの最高点を表す。DSCグラフで3つの融点温度(Tm1、Tm2、Tm3)を確認し
た。Tm1の場合、第1接線は変曲点から熱流降下のほぼ中間点まで形成され、第2接線
が第1接点の後に勾配が減少し始めるところに形成される。
【0054】
<長周期、ラメラの厚さおよび非晶厚さの評価>
上記と類似する工程と機器でEVOHペレットの長周期、ラメラの厚さ、および非晶の
厚さを評価した。本実施例において、両側でカプトンテープ(Kapton tape)
((黒色の耐熱テープ)を使用して、実施例1~30のEVOHペレットおよび比較例1
~21のEVOHペレットの粒子をサンプルホルダに固定することで、X線散乱角度デー
タを得た。真空引き後、サンプルをX線に300秒間照射し、2D散乱スペクトルで分析
した。2D散乱スペクトルを積分することで、2θの1Dマップを生成した。2層カプト
ンテープをブランクグループとして測定し、上記方法で2θの1Dマップに対するサンプ
ル強度をバックグラウンド値として得た。
【0055】
EVOHペレットの粒子データから得られたブランクデータを差し引いて、2θの1D
マップに対するサンプル強度を求めた。図2は、1次元相関関数の変換後の次の式Q=4
πsinθ/λを使用した散乱強度に対する2θの1Dマップを示している。次の式を使
用して、小角X線生データから1次元相関関数γ(z)を得た。
γ(z)=(1γ(0))∫ [I(q)-I(q)]cos(qz)dq
ここで、zは、電子密度分布を測定する方向に沿った相対距離である。I(q)値は散
乱強度である。実験的に得られるqの範囲が限られているため、データをより低いq値と
より高いq値に拡張しなければならない。I(q)b値は、バックグラウンド散乱強度で
ある。「qに対する強度」データは、最小測定値のq値からゼロ点まで線形外挿される。
【0056】
図3は、Z=0での接線と、最低点から始まる曲線の最低点(非晶の厚さ(「l」)
)と見なされる)との交点を示している。図3の曲線の最高点は長周期(「L」)と見な
され、Lから「l」を引いたものはラメラの厚さ(「l」)に等しくなる。
【0057】
<ペレットの水分含有量>
本明細書において用いられる場合、水分含有量は、ペレット中の揮発性成分の重量パー
セントを指す。ペレットの水分含有量は、以下の方法で測定される。まず、アルミカップ
1個の重量(重量:C1)を測定した。2gのペレットをアルミカップに入れ、ペレット
(重量:P1)が入っているアルミカップの重量(C1+P1)をMettler to
ledo XPE504を用いて測定した。次に、ペレットが入ったアルミカップをFD
56オーブン(Binderから入手可能)に入れ、210℃の温度で30分間加熱した
【0058】
ペレットを加熱した後、アルミカップおよびペレットを電子水分計に入れた。そしてア
ルミカップとペレットをデシケーターに30分間入れてから、室温(23℃など)に戻し
た。次に、ペレット(重量:P2)が入っているアルミカップの重量(C1+P2)を測
定し、次の数式で水分含有量(重量%)を計算した。
水分含有量(重量%)=[{(C1+P1)-(C1+P2)}/{(C1+P1)-
C1}]×100={(P1-P2)/P1}×100
【0059】
以下の表2は、EVOHペレットの融点温度および特性を示している。
【表2】
【0060】
(実施例3)
(多層EVOHフィルムの製造)
実施例1~30のEVOHペレットおよび比較例1~21のEVOHペレットによって
多層EVOHフィルムを製造した。実施例1~30のEVOHペレットおよび比較例1~
21のEVOHペレットを乾燥させた後、EVOHペレットを3層共押出機に投入して、
(I)/(III)/(II)の層状構造を有する多層EVOHフィルムを製造した。層
Iは、実施例1~30のEVOHペレットおよび比較例1~21のEVOHペレットから
形成された。層IIは、ポリエチレン(特にLotrene FD0274)から形成さ
れた。層IIIは、ADMER NF408E(日本三井化学株式会社が独自に開発した
樹脂)から形成された。したがって、多層EVOHフィルムは、実施例1~30のEVO
Hペレットまたは比較例1~21のEVOHペレットのうちの1つから成る外層も呼ばれ
る第1層を有し、ADMER NF408Eを中間層とも呼ばれる第2層とし、ポリエチ
レンを外層の構造も呼ばれる第3層とする。
【0061】
(実施例4)
(多層EVOHフィルムの評価)
多層EVOHフィルムを評価して、各多層EVOHフィルムの外観、均一性、および電
流安定性を判定した。各多層EVOHフィルムの10cm×10cmのサイズの5つの部
分に対し、上記の特性の評を実施した。
【0062】
各多層EVOHフィルムの外観を評価するため、多層EVOHフィルムの5つの部分に
おけるゲルスポット(gel spot)の数およびサイズを測定した。多層EVOHフ
ィルムの5つの部分でゲルスポットのない高い透明度が観察された場合、多層EVOHフ
ィルムに以下の「O」で示される高いグレードを付ける。5つの部分のいずれかにゲルス
ポットが現れ、ゲルスポットの平均サイズが25μm~1mmの場合、前記多層EVOH
フィルムに以下の「Δ」で示される受入可能なグレードを付ける。5つの部分のいずれか
にゲルスポットが現れ、ゲルスポットの平均サイズが1mmを超える場合、前記多層EV
OHフィルムに以下の「X」で示される低いグレードを付ける。
【0063】
多層EVOHフィルムの均一性を評価するため、各多層EVOHフィルムの5つの部分
のそれぞれの厚さ標準偏差を測定した。多層EVOHフィルムの5つの部分の厚さの標準
偏差が5%以内である場合、多層EVOHフィルムに以下の「◎」で示される優れたグレ
ードを付ける。多層EVOHフィルムの5つの部分のいずれかの厚さ標準偏差が5%を超
え、5つの部分の厚さ標準偏差がすべて10%以下の場合、多層EVOHフィルムに以下
の「O」で示される高いグレードを付ける。多層EVOHフィルムの5つの部分のいずれ
かの厚さ標準偏差が10%を超え、5つの部分の厚さ標準偏差がすべて20%以下である
場合、多層EVOHフィルムに以下の「Δ」で表される受入可能なグレードを付ける。多
層EVOHフィルムの5つの部分のいずれかの厚さの標準偏差が20%を超える場合、多
層EVOHフィルムに以下の「X」で示される低いグレードを付ける。
【0064】
多層EVOHフィルムの電流安定性を評価するため、押出機モータ(extrude
motor)の電流を1時間以内に10分ごとに(すなわち7回)記録した。多層EVO
Hフィルムの電流の標準偏差が5%以下の場合、前記多層EVOHフィルムに以下の「◎
」で示される優れたグレードを付ける。多層EVOHフィルムの電流の標準偏差が5%を
超えて10%未満の場合、多層EVOHフィルムに以下の「O」で示される高いグレード
を付ける。多層EVOHフィルムの電流の標準偏差が10%を超えて20%以下の場合、
多層EVOHフィルムに以下の「Δ」で表される受入可能なグレードを付ける。多層EV
OHフィルムの電流の標準偏差が20%を超える場合、多層EVOHフィルムに以下の「
X」で示される低いグレードを付ける。
【0065】
以下の表3は、各多層EVOHフィルムの外観、均一性、および電流安定性の評価結果
を示している。
【表3】
【0066】
本明細書において提供されるすべての範囲は、所定の範囲内の各特定の範囲、および所
定の範囲間のサブ範囲の組み合わせを含むことが意図されている。また、本明細書に明確
に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、その終点を含む。したがって
、1~5の範囲には、特に1、2、3、4、および5と、2~5、3~5、2~3、2~
4、1~4などのサブ範囲が含まれる。
【0067】
本明細書で引用されるすべての刊行物および特許出願は、参照により本明細書に組み込
まれ、ありとあらゆる目的のために、各個々の刊行物または特許出願は、参照により本明
細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されている。本明細書と、参照により本明
細書に組み込まれている刊行物または特許出願との間に矛盾がある場合、本明細書が優先
される。
【0068】
本明細書で使用される「備える/含む」、「有する」および「含有する」という用語は
、オープンエンドで非限定的な意味を有する。「1つの」および「前記」という用語は、
文脈上明らかに単数形であることが示されない限り、複数形も同様に含むことを意図する
場合がある。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を意味し、したがって、単
一の特徴または混合物/組み合わせを含むことができる。
【0069】
明細書記載の実施例以外で、または特に明記されていない限り、成分の量および/また
は反応条件を表すすべての数値は、すべての場合に「約」という用語で修飾できる。これ
は、示された数値の±5%以内を意味する。本明細書で使用する場合、「基本的に含まな
い」または「実質的に含まない」という用語は、特定の特徴が約2%未満であることを意
味する。本明細書に明確に記載されているすべての要素または特徴は、特許請求の範囲か
ら否定的に除外することができる。
【符号の説明】
【0070】
L 長周期
平均非晶層厚
平均結晶層厚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7