(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120079
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】分析装置および分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220809BHJP
【FI】
G01N33/543 581V
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093468
(22)【出願日】2022-06-09
(62)【分割の表示】P 2019540749の分割
【原出願日】2018-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017173405
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成29年3月8日 アルフレッサファーマ株式会社がアルフレッサ株式会社へ、西村和哉、土居洋介、福本祐子、呉詩勤が発明した分析装置を販売した。
(71)【出願人】
【識別番号】000231394
【氏名又は名称】アルフレッサファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 和哉
(72)【発明者】
【氏名】土居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】福本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】呉 詩勤
(57)【要約】 (修正有)
【課題】免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度測定結果を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定して測定を行う分析装置および分析方法等を提供する。
【解決手段】本発明として、たとえば、検体の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、および、検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、を有する分析装置が挙げられる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析方法であって、
前記分析対象成分の測定中に、初期反応速度V1及びV1stdを計算し、あらかじめ設定しておいた閾値により判定してプロゾーンを検出する工程(a)、および、
前記測定中に、反応速度比R及びRstdを算出して前記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、
を有する分析方法。
【請求項2】
前記閾値は、反応速度又は相対初期反応速度比の閾値である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記プロゾーンを検出する工程(a)において、前記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果を用いてプロゾーン検出を行う、請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記プロゾーンを検出する工程(a)において、あらかじめ測定した前記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度測定結果を参照して、プロゾーンを検出する、請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記高濃度域を判定する工程(b)において、前記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果を用いて、前記検査液の希釈倍率を決定する、請求項1~4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
前記高濃度域を判定する工程(b)において、あらかじめ測定した前記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度測定結果を参照して、前記検査液の希釈倍率を決定する、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
さらに、前記検査液を、前記測定中に前記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)を有する、請求項1~6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記分析対象成分は、生体由来の成分を含む、請求項1~7のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析方法であって、
前記分析対象成分の測定中に、初期反応速度V1及びV1stdを計算し、あらかじめ設定しておいた閾値により判定してプロゾーンを検出する工程(a)、および、
あらかじめ作成しておいた高濃度検量線を用いて、希釈再検を伴わずに、前記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果から分析対象成分の濃度を出力する工程(d)、
を有する分析方法。
【請求項10】
前記閾値は、反応速度又は相対初期反応速度比の閾値である、請求項9に記載の分析方法。
【請求項11】
あらかじめ作成しておいた高濃度検量線を用いて、前記反応過程における吸光度測定結果の代わりに閾値を超える時間を用いて分析対象成分濃度を出力する前記工程(d)を有する、請求項9又は10に記載の分析方法。
【請求項12】
前記閾値を超える時間は、吸光度変化量の閾値を超える時間である、請求項11に記載の分析方法。
【請求項13】
前記反応過程における吸光度測定結果(y)と反応時間(x)に対して非線形フィットを行い、パラメータを抽出し、分析対象成分濃度を出力する前記工程(d)を有し、
前記パラメータは、非線形フィットの係数、非線形関数の極大点又は変曲点である、請求項9又は10に記載の分析方法。
【請求項14】
前記非線形フィットは、累積分布関数、累積分布関数に比例定数と定数項のいずれかもしくは両方を加えた関数を用いた、分析対象成分濃度を出力する前記工程(d)を有する、請求項13に記載の分析方法。
【請求項15】
前記累積分布関数を微分して得られる確率密度関数の最頻値をパラメータとして、分析対象成分濃度を出力する前記工程(d)を有する、請求項13に記載の分析方法。
【請求項16】
前記累積分布関数は、正規分布、指数分布、二項分布、ロジスティック分布、ガンマ分布のいずれか1つを用いた分析対象成分濃度を出力する前記工程(d)を有する、請求項13に記載の分析方法。
【請求項17】
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の希釈装置であって、
前記分析対象成分の測定中に、初期反応速度V1及びV1stdを計算し、あらかじめ設定しておいた閾値により判定してプロゾーンを検出する手段(A)、
前記測定中に、反応速度比R及びRstdを算出して前記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、および、
前記検査液を、前記高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)、
を有する検査液の希釈装置。
【請求項18】
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の希釈方法であって、
前記分析対象成分の測定中に、初期反応速度V1及びV1stdを計算し、あらかじめ設定しておいた閾値により判定してプロゾーンを検出する工程(a)、
前記測定中に、反応速度比R及びRstdを算出して前記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、および、
前記検査液を、前記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)、
を有する検査液の希釈方法。
【請求項19】
前記閾値は、反応速度又は相対初期反応速度比の閾値である、請求項17に記載の希釈装置。
【請求項20】
前記閾値は、反応速度又は相対初期反応速度比の閾値である、請求項18に記載の希釈方法。
【請求項21】
前記測定中は、分析対象成分と免疫試薬との反応を開始し、その反応終了前までの間である、請求項1~16のいずれかに記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析装置および分析方法、希釈装置および希釈方法、ならびに、それらに用いられる免疫試薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床検査などの各種検査では自動化および測定時間の短縮が図られている。その検査の方法として、生体試料中の物質を測定するために免疫反応を利用する測定方法が広く用いられている。免疫測定方法としては、RIA法、EIA法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法などの多くの方法がある。その中でもラテックス凝集法や金コロイド凝集法などの免疫学的凝集法は、反応液の分離や洗浄操作を必要としないため、測定の自動化や短時間での測定に適している。
【0003】
しかしながら、サンプルに含まれる対象成分の濃度が広範囲に存在する場合では、プロゾーン現象の影響によって、目的成分が効率良く正確に測定できない問題が発生する。プロゾーン現象とは、実際のサンプル中の目的成分が高濃度であるために、反応が抑制され、みかけ上存在しないまたは低濃度のように判断される現象である。
【0004】
このようなプロゾーンの解決については、例えば希釈を行わずに、界面活性剤等を添加してその現象を抑制させる方法や(特許文献1)、血清アミロイドAやC反応性蛋白質といった特定の濃度範囲の高い目的成分について、抗体を工夫して測定する方法などが考案されてきたが(特許文献2および3)その現象を十分抑制できなかったり、目的成分によっては思うようにそれらの工夫を利用できないことがあった。
【0005】
さらに、希釈操作を含む場合では、目的成分の測定範囲は一般にその基準レベルの10~50倍程度であるが、そのような測定範囲を外れる高濃度のサンプルは、測定前に希釈されたり、測定前後に一律の希釈がされたり、測定可能となるまで何度も繰り返し希釈されたりなど、煩雑で正確性の問われる操作が行われてきた。しかし、例えば、1万倍ほどの濃度分布をもつ便中カルプロテクチン、あるいは便中ヘモグロビン、さらには便中ラクトフェリン等といった非常に広い濃度幅をもつ成分についての臨床現場による定量測定はニーズが高い。プロゾーン現象の影響を受ける可能性の高いサンプル中に含まれる目的成分を、迅速に正確に測定するには、最適な割合で希釈ができることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1:特許第3851807号
特許文献2:許第4413179号
特許文献3:特開2009-85702号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来、凝集法を用いた免疫試薬を使用する測定等において、たとえば、測定対象が広い幅をもつ便中ヘモグロビン、便中カルプロテクチン、および、便中ラクトフェリン等といった項目の測定において、測定範囲外の高濃度のサンプルの場合、一連の測定後に測定範囲外の濃度であったことが判明し、たとえばその後再度希釈して再測定しては、適切な濃度域に入るまで希釈や測定作業を繰り返す必要があった。凝集法を用いた免疫反応を利用する測定方法等においては、分析対象成分の濃度が高い場合に発生するプロゾーン現象の問題があり、迅速かつ正確に濃度や挙動解析を行うことが困難であった。
【0008】
本発明は、このような事情に照らし、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度測定結果(あるいは吸光度変化量等とも呼び、吸光度変化量、吸光度、吸光度差、吸光度変化率などを指す)を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定して測定を行う分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度測定結果を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行って測定(希釈再検)を行う分析装置および分析方法、ならびに、それらに用いられる免疫試薬を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度測定結果を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても希釈再検を伴わずに濃度の出力を行う分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度測定結果を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行う希釈装置および希釈方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記分析装置および分析方法、ならびに、上記希釈装置および希釈方法に好適に用いられる免疫試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示す分析装置および分析方法ならびにそれに用いられる免疫試薬を見出し、上記装置等により上記目的を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の分析装置は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析装置であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、および、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の分析装置において、上記プロゾーンを検出する手段(A)は、上記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果を用いた検出手段であってもよい。
【0016】
また、本発明の分析装置において、上記検出手段は、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度変化を参照して、プロゾーンを検出する検出手段であってもよい。
【0017】
また、本発明の分析装置において、上記高濃度域を判定する手段(B)は、上記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果を用いて、上記検査液の希釈倍率を決定する判定手段であってもよい。
【0018】
また、本発明の分析装置において、上記判定手段は、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度変化を参照して、上記検査液の希釈倍率を決定する判定手段であってもよい。
【0019】
また、本発明の分析装置において、さらに、上記検査液を、高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)を有することができる。
【0020】
また、本発明の分析装置において、上記分析対象成分は、生体由来の成分を含んでいてもよい。
【0021】
また、本発明の分析装置は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析装置であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、および、
希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果から分析対象成分の濃度を出力する手段(D)、
を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の分析装置において、上記反応過程における吸光度測定結果の代わりに閾値を超える初めの時間を用いて分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0023】
また、本発明の分析装置において、上記反応過程における吸光度測定結果(y)と反応時間(x)に対して非線形フィットを行い、パラメータを抽出し、分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0024】
また、本発明の分析装置において、上記非線形フィットは、累積分布関数、累積分布関数に比例定数と定数項のいずれかもしくは両方を加えた関数を用いた、分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0025】
また、本発明の分析装置において、上記累積分布関数を微分して得られる確率密度関数の最頻値をパラメータとして、分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0026】
また、本発明の分析装置において、上記累積分布関数は、正規分布、指数分布、二項分布、ロジスティック分布、ガンマ分布のいずれか1つを用いた分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0027】
一方、本発明の分析方法は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析方法であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、および、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、
を有することを特徴とする。
【0028】
本発明の分析方法において、上記プロゾーンを検出する工程(a)において、上記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果を用いてプロゾーン検出を行うものであってもよい。
【0029】
また、本発明の分析方法において、上記プロゾーンを検出する工程(a)において、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度測定結果を参照して、プロゾーンを検出するものであってもよい。
【0030】
また、本発明の分析方法において、上記高濃度域を判定する工程(b)において、上記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果を用いて、上記検査液の希釈倍率を決定するものであってもよい。
【0031】
また、本発明の分析方法において、上記高濃度域を判定する工程(b)において、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度測定結果を参照して、上記検査液の希釈倍率を決定するものであってもよい。
【0032】
また、本発明の分析方法において、さらに、上記検査液を、上記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)を有するものであってもよい。
【0033】
また、本発明の分析方法において、上記分析対象成分は、生体由来の成分を含むものであってもよい。
【0034】
また、本発明の分析方法は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析方法であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、および、
希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度測定結果から分析対象成分の濃度を出力する工程(d)、
を有することを特徴とする。
【0035】
本発明の分析方法において、上記反応過程における吸光度測定結果の代わりに閾値を超える初めの時間を用いて分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0036】
また、本発明の分析方法において、上記反応過程における吸光度測定結果(y)と反応時間(x)に対して非線形フィットを行い、パラメータを抽出し、分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0037】
また、本発明の分析方法において、上記非線形フィットは、累積分布関数、累積分布関数に比例定数と定数項のいずれかもしくは両方を加えた関数を用いた、分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0038】
また、本発明の分析方法において、上記累積分布関数を微分して得られる確率密度関数の最頻値をパラメータとして、分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0039】
また、本発明の分析方法において、上記累積分布関数は、正規分布、指数分布、二項分布、ロジスティック分布、ガンマ分布のいずれか1つを用いた分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0040】
他方、本発明の希釈装置は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の希釈装置であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、および、
上記検査液を、上記高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)、
を有することを特徴とする。
【0041】
また、本発明の希釈方法は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の希釈方法であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、および、
上記検査液を、上記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)、
を有することを特徴とする。
【0042】
さらに、本発明の免疫試薬は、上記分析装置および分析方法、ならびに、上記希釈装置および希釈方法に用いられる免疫試薬であって、上記高濃度域を判定する手段(B)または工程(b)において、希釈せずに測定できる上限濃度がプロゾーンの発生する濃度に対して0.5倍から1倍となるように設計された免疫試薬であること特徴とする。
【0043】
また、本発明の免疫試薬において、生体由来の成分を抗原あるいは抗体とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明の分析装置および分析方法によると、上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)および工程(a)、ならびに、上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)および工程(b)を有するため、高濃度の検体と免疫試薬とを含む検査液の測定時であっても、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体についても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、測定を行うことが可能となる。高濃度判定は、プロゾーン検出により高濃度であると検出された場合に、10倍希釈で測定範囲に入るか否かという判定を行う機能であってもよい。また、上記手段や工程の全部または一部を自動化することで、より簡易迅速な測定、分析が可能となる。
【0045】
また、上記検査液を、高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)または上記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)を有する場合には、高濃度の検体と免疫試薬とを含む検査液の測定時であっても、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行って測定を行うことが可能となる。当該希釈は、分析対象成分を、希釈液等で決定された希釈倍率に、自動であるいは手動で希釈を行ってもよい。よって、これまで困難であった高濃度検体の測定が迅速でより正確に、測定者に負担をかけることなく行うことができ、患者の症状の変化も容易に観察、診断することができる。たとえば、重度の患者の検体は高濃度であることがあり、経過観察する上で毎回の希釈操作を伴っており迅速性と正確性に欠点があったが、本手段により簡易迅速に把握することが可能となる。また、上記希釈する手段までその全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定、分析が可能な分析装置となる。
【0046】
さらに、本発明の分析装置および分析方法によると、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても希釈再検を伴わずに濃度の出力を行うことが可能となる。また、上記手段や工程の全部または一部を自動化することで、より簡易迅速な測定、分析が可能となる。
【0047】
また、本発明の希釈装置および希釈方法によると、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行うことが可能となる。また、上記手段や工程の全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定、分析が可能となる。
【0048】
また、本発明の免疫試薬によると、上記高濃度域を判定する手段(B)または工程(b)において、希釈せずに測定できる上限濃度がプロゾーンの発生する濃度に対して0.5倍から1倍となるように設計された免疫試薬であるため、上記分析装置および分析方法、ならびに、上記希釈装置および希釈方法をより簡易迅速なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】免疫測定法における抗原濃度とプロゾーンに関する説明図の一例を示す。
【
図4】本発明における測定フローに関する説明図の一例を示す。
【
図5】本発明の実施例1-1における測定結果等を示す。
【
図6】本発明の実施例1-2における測定結果等を示す。
【
図7】本発明の実施例2における測定結果等を示す。
【
図8】本発明の実施例3における測定結果等を示す。
【
図9】本発明の実施例4および比較例1における測定結果等を示す。
【
図10】本発明の実施例4~6における測定結果等を示す。
【
図11】本発明の実施例7におけるΔTの算出に関する説明図を示す。
【
図12】本発明の実施例7における測定結果等を示す。
【
図15】本発明の実施例8にガンマ分布によるフィッティング結果を示す。
【
図16】本発明の実施例8における変曲点の算出結果を示す。
【
図17】本発明の実施例8における高濃度カルプロテクチンの変曲点の相関性の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0051】
まず、
図1に例示した抗原濃度とプロゾーンに関する説明図を用いて、抗原濃度(検体濃度、分析対象成分濃度)とプロゾーンの関係について説明する。凝集法等の免疫試薬を用いた測定においては、吸光度変化量を基準にサンプル中にある抗原や抗体濃度を測定する。しかしながら、測定範囲(
図1中で「測定範囲」と示した領域)では吸光度変化量と濃度には単調増加がみられるものの、高濃度域(
図1中で「プロゾーン域」と示した領域)では検体の濃度により吸光度変化量が減少傾向にある。この領域を「プロゾーン領域」(プロゾーン域)といい、正確に濃度を算出することが非常に困難である。従来では、一旦測定した後、このプロゾーンを検出した場合に、再度、測定者が希釈倍率あるいはサンプル量の増減をして適正な測定範囲に入るまで繰り返し測定を行っている。
【0052】
次に、本発明の測定フローに関する説明を行う。まず、
図2には、初期反応速度に関する説明図を例示している。
図2に示すように、反応時間t
a、t
bの間における各吸光度差(Abs)をAbs
aおよびAbs
bとするとき、初期反応速度V1を
図2中に示す式のように規定する。同様に、分析対象成分の校正用試料における初期反応速度をV1
stdと規定する。併せて、校正用試料における初期反応速度V1
stdに対する初期反応速度V1の相対比を、相対初期反応速度としてV1/V1
stdと規定する。
【0053】
図3には、反応速度比に関する説明図を例示している。
図3に示すように、反応時間t
c、t
dの間における反応速度V2に対する反応時間t
a、t
bの間における初期反応速度V1の反応速度比Rを
図3中に示す式(V2/V1)のように規定する。同様に、校正用試料における、反応時間t
c、t
dの間における反応速度V2
stdに対する反応時間t
a、t
bの間における初期反応速度をV1
stdの反応速度比R
stdを
図3中に示す式(V2
std/V1
std)のように規定する。併せて、校正用試料における反応速度比R
stdに対する反応速度比Rの相対比を、相対反応速度比としてR/R
stdと規定する。
【0054】
図4には、本発明における測定フローに関する説明図を例示する。
図4では、測定フローとして、分析対象成分の校正用試料を用いた校正プロセスと、分析対象成分の測定プロセスとを含む測定フローを例示しているが、これに限られるものではない。まず、校正用試料を用いた校正プロセスにおいて、濃度が明確な分析対象成分の校正用試料と免疫試薬との反応を開始し、反応終了までの間を測定し、吸光度変化量の検量線を作成するとともに、反応速度V1
stdおよび反応速度比R
stdを算出する。
【0055】
次に、分析対象成分の測定プロセスにおいて、分析対象成分と免疫試薬との反応を開始し、その反応過程(反応終了前まで)において上記反応速度V1stdを用いて当該サンプルがプロゾーンか否かの判定(プロゾーンを検出するプロゾーン判定)を行い、当該サンプルは測定範囲にあると判定された場合には、そのまま当該反応を終了した後、測定結果を出力または記録して測定を終了する。一方、プロゾーン判定において、当該サンプルはプロゾーンにあると判定された場合には、次いでどの程度の高濃度であるかの判定(高濃度判定)を行う。高濃度判定においては、上記反応速度比Rstdを用いる。いいかえると、プロゾーン検出により、希釈をすべき試料であるか判定を行い、高濃度判定により、適切な希釈倍率を判定する。適切な希釈倍率とは、高濃度試料を測定範囲に収めるための希釈倍率である。例えば測定範囲50~1000U/mLの測定系において、2000U/mLの試料では、10倍希釈が適切な希釈倍率であり、20000U/mLの試料では100倍が適切な希釈倍率となる。高濃度判定は測定範囲の上限を超えるプロゾーン領域の試料であっても濃度を推定し、適切な希釈倍率を決定する機能である。
【0056】
図4では、10倍希釈で測定範囲とすることができる場合と100倍希釈で測定範囲とすることができる場合との2段階に分け、100倍希釈で測定範囲とすることができる場合を判定する、高濃度判定を行う例を示しているが、希釈倍率や判定後のフローはこの限りではなく、分析対象成分や免疫試薬の測定範囲や反応挙動などに応じて希釈倍率を適宜設定することができる。
【0057】
上記高濃度判定において、10倍希釈で測定範囲とすることができると判定した場合には、希釈再検を行う際に10倍希釈して再度当該分析対象成分と免疫試薬との反応を開始し、そのまま当該反応を終了した後、測定結果を出力または記録して測定を終了する。一方、上記高濃度判定において、100倍希釈で測定範囲とすることができると判定した場合(10倍希釈では測定範囲に入らないという判定)には、希釈再検を行う際に100倍希釈して再度当該分析対象成分と免疫試薬との反応を開始し、そのまま当該反応を終了した後、測定結果を出力または記録して測定を終了する。
【0058】
他方、希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等から分析対象成分の濃度を出力する場合には、上記高濃度判定に代えて、あらかじめ作成しておいた高濃度検量線から濃度を出力することができる。この場合、希釈再検を行わずに、定量評価が可能となる。
【0059】
高濃度判定で用いる式では、濃度によって、たとえば高濃度では感度が非常に悪くなり、濃度の予測は困難な場合もあり得るところ、実施例7および8においては、高濃度の領域での検量線を作成する方法例を示した。
【0060】
より具体的な方法としては、タイムコースデータをY分布の累積関数に補正項を入れた数式でフィットし、パラメータを抽出した。パラメータを割り算した値と濃度に線形関係にあり、検量線として使用可能である。
【0061】
以下、本発明における各構成、要素等についてより詳細に説明する。
【0062】
本発明の分析装置は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析装置であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、および、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、
を有することを特徴とする。
【0063】
本発明の分析装置は、上述のように、上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、ならびに、上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)を有するため、高濃度の検体と免疫試薬とを含む検査液の測定時であっても、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体についても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、短時間で正確な測定を行うことが可能な分析装置となる。また、上記手段の全部または一部を自動化することで、より簡易迅速な測定、分析が可能な分析装置となる。
【0064】
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)として、たとえば、初期反応速度V1を計算し、あらかじめ設定しておいた閾値を用いて判定する手段をあげることができる。測定開始後の初期段階の速度に基づき判定する手段により、反応初期の段階でもプロゾーン検出が可能となる。たとえば、1サンプルの測定時間が10分や15分の測定フローにおいて、反応開始1分前後でのプロゾーン検出が可能となる。
【0065】
また、本発明の分析装置において、上記プロゾーンを検出する手段(A)は、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等を用いた検出手段であってもよい。
【0066】
なお、本発明における吸光度変化量とは、ある特定の波長における吸光度の変化量であってもよく、2点の特定波長における吸光度同士の差の変化量であってもよい。たとえば、金コロイド試薬を用いる場合、主波長540nm(反応により減少する金コロイド粒子の最大吸収波長)および副波長660nm(反応に伴い増加する金コロイド粒子の吸収波長)の2波長の光において測定された吸光度同士の差を用いることもできる。
【0067】
また、本発明の分析装置において、上記検出手段は、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度変化を参照して、プロゾーンを検出する検出手段であってもよい。校正プロセスにおいて、濃度等が明確な校正用試料と免疫試薬との反応を開始し、反応終了までの間を測定し、吸光度変化量等の検量線を作成するとともに、初期反応速度V1stdを算出しておくことで、当該校正用試料での上限の初期反応速度と対比して、プロゾーン判定における閾値として、より精度の高い閾値を得ることができる。また、免疫試薬のロットが異なる場合であっても、当該閾値としてより適切な共通の閾値の設定が可能となり、ロット間誤差の補正に有効となる。
【0068】
また、検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)とは、たとえば、上記反応速度比RやRstdを算出し、その値によりどの程度の高濃度であるかの判定(高濃度判定)を行う手段をあげることができる。上記高濃度判定を行う手段(B)により、従来であれば、当該サンプルが測定可能範囲に入るまで勘頼みや試行錯誤を繰り返して再測定と希釈を繰り返していた分析対象成分であっても、より簡易迅速で正確な測定、分析が可能となる。
【0069】
また、本発明の分析装置において、上記高濃度域を判定する手段(B)は、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等を用いて、上記検査液の希釈倍率を決定する判定手段であってもよい。たとえば、
図3、7に示すように、反応時間t
c、t
dの間における反応速度V2(
図7ではA2)に対する反応時間t
a、t
bの間における初期反応速度V1(
図7ではA1)の反応速度比R(=V2/V1(A2/A1))を
図3中に示す式のように規定し、閾値(Rd)を設定した上で、R≧Rdの場合には10倍希釈を行い、R<Rdの場合には100倍希釈を行う手段をあげることができる。また、希釈濃度や判定後の分岐フロー数はこの限りではなく、たとえば、2倍、3倍、5倍、7倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍等の希釈倍率や、高濃度判定として2段階のみならず複数段階の分岐フローを設ける等、分析対象成分や免疫試薬、反応挙動などに応じて適宜設定することができる。
【0070】
また、上記反応時間ta~tbは、全反応時間を100%とした場合に、たとえば、開始から0~30%とすることができ、0~5%、5~10%、10~15%、15~20%等であってもよい。たとえば、当該サンプルの測定時間が10分間である場合、測定開始から0~3分、0~1分、1~2分、2~3分等とすることができる。
【0071】
また、上記反応時間tc~tdは、全反応時間を100%とした場合に、たとえば、開始から10~40%とすることができ、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%等であってもよい。たとえば、当該サンプルの測定時間が10分間である場合、測定開始から1~4分、1~2分、2~3分、3~4分等とすることができる。なお、反応時間ta、tbと反応時間tc、tdはその一区間が重複していてもよいが、taはtcよりも時間的に先であるものとする。
【0072】
また、本発明の分析装置において、上記判定手段は、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度変化を参照して、上記検査液の希釈倍率を決定する判定手段であってもよい。たとえば、
図3、8に示すように、反応時間t
c、t
dの間における反応速度V2に対する反応時間t
a、t
bの間における反応速度V1の反応速度比R(=V2/V1)と、校正用試料における同様の反応速度比R
std(=V2
std/V1
std)とを用い、
図3中に示す式のように相対反応速度比R/R
stdに基づき、閾値(Rf)を設定した上で、(R/R
std)≧Rfの場合には10倍希釈を行い、(R/R
std)<Rfの場合には100倍希釈を行う手段をあげることができる。校正プロセスにおいて、濃度等が明確な校正用試料と免疫試薬との反応を開始し、反応終了までの間を測定し、吸光度変化量等の検量線を作成するとともに、反応速度比R
stdを算出し、相対反応速度比R/R
stdを用いることで、当該校正用試料での上限の反応速度比と対比して、高濃度判定における閾値(Rf)として、より精度の高い閾値を得ることができる。また、免疫試薬のロットが異なる場合であっても、当該閾値としてより適切な共通の閾値の設定が可能となり、ロット間誤差の補正に有効となる。
【0073】
また、本発明の分析装置において、さらに、上記検査液を、高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)を有することができる。上記希釈する手段(C)として、たとえば、希釈再検する試料に検査液が当該希釈倍率になるように検査液の溶媒を添加する手段をあげることができる。上記検査液を、高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)を有する場合には、高濃度の検体と免疫試薬とを含む検査液の測定時であっても、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行って測定を行うことが可能な分析装置となる。また、これまで困難であった高濃度検体の測定が迅速でより正確に、測定者に負担をかけることなく行うことができ、患者の症状の変化も容易に観察、診断することができる。たとえば、重度の患者の検体は高濃度であることがあり、経過観察する上で毎回の希釈操作を伴っており迅速性と正確性に欠点があったが、本手段により簡易迅速に把握することが可能となる。また、上記希釈する手段までその全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定、分析が可能な分析装置となる。
【0074】
加えて、本発明の希釈装置において、上記検査液を、高濃度域を判定する手段(B)を有することができる分析装置に、上記希釈する手段(C)を接続することによって機能してもよい。好ましくは上記の分析装置の一部になってもよく、分析装置と一体となって好ましくは上記希釈する手段までその全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定が可能となる。
【0075】
また、本発明の分析装置は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析装置であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、および、
希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等から分析対象成分の濃度を出力する手段(D)、
を有することを特徴とする。
【0076】
本発明の分析装置は、上述のように、希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等から分析対象成分の濃度を出力する手段(D)を有する場合、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても希釈再検を伴わずに濃度の出力を行うことが可能な分析装置となる。また、上記手段の全部または一部を自動化することで、より簡易迅速な測定、分析が可能な分析装置となる。
【0077】
本発明の分析装置において、上記反応過程における吸光度変化量等の代わりに閾値を超える時間を用いて分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0078】
また、本発明の分析装置において、上記反応過程における吸光度変化量等(y)と反応時間(x)に対して非線形フィットを行い、パラメータを抽出し、分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0079】
また、本発明の分析装置において、上記非線形フィットは、累積分布関数、累積分布関数に比例定数と定数項のいずれかもしくは両方を加えた関数を用いた、分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0080】
また、本発明の分析装置において、上記累積分布関数を微分して得られる確率化密度関数の最頻値をパラメータとして、分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0081】
また、本発明の分析装置において、上記累積分布関数は、正規分布、指数分布、二項分布、ロジスティック分布、ガンマ分布のいずれか1つを用いた分析対象成分濃度を出力する上記手段(D)を有するものであってもよい。
【0082】
上記関数として、たとえば、以下に記載のものを適宜用いることができる。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0083】
一方、本発明の分析方法は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析方法であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、および、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、
を有することを特徴とする。
【0084】
本発明の分析方法は、上述のように、上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、ならびに、上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)を有するため、高濃度の検体と免疫試薬とを含む検査液の測定時であっても、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体についても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、測定を行うことが可能な分析方法となる。また、上記工程の全部または一部を自動化することで、より簡易迅速な測定、分析が可能な分析方法となる。
【0085】
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)として、たとえば、初期反応速度V1を計算し、あらかじめ設定しておいた閾値を用いて判定する工程をあげることができる。測定開始後の初期段階の速度に基づき判定する工程により、反応初期の段階でもプロゾーン検出が可能となる。たとえば、1サンプルの測定時間が10分や15分の測定フローにおいて、反応開始1分前後でのプロゾーン検出が可能となる。
【0086】
また、本発明の分析方法において、上記プロゾーンを検出する工程(a)は、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等を用いた検出工程であってもよい。
【0087】
また、本発明の分析方法において、上記検出工程は、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度変化を参照して、プロゾーンを検出する検出工程であってもよい。校正プロセスにおいて、濃度等が明確な校正用試料と免疫試薬との反応を開始し、反応終了までの間を測定し、吸光度変化量等の検量線を作成するとともに、反応速度V1stdを算出しておくことで、当該校正用試料での上限の初期反応速度と対比して、プロゾーン判定における閾値として、より精度の高い閾値を得ることができる。また、免疫試薬のロットが異なる場合であっても、当該閾値としてより適切な共通の閾値の設定が可能となり、ロット間誤差の補正に有効となる。
【0088】
また、検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)とは、たとえば、上記反応速度比RやRstdを算出し、その値によりどの程度の高濃度であるかの判定(高濃度判定)を行う工程をあげることができる。上記高濃度判定を行う工程(b)により、従来であれば、当該サンプルが測定可能範囲に入るまで勘頼みや試行錯誤を繰り返して再測定と希釈を繰り返していた分析対象成分であっても、より簡易迅速な測定、分析が可能となる。
【0089】
また、本発明の分析方法において、上記高濃度域を判定する工程(b)は、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等を用いて、上記検査液の希釈倍率を決定する判定工程であってもよい。たとえば、
図3、7に示すように、反応時間t
c、t
dの間における反応速度V2(
図7ではA2)に対する反応時間t
a、t
bの間における初期反応速度V1(
図7ではA1)の反応速度比R(=V2/V1(A2/A1))を
図3中に示す式のように規定し、閾値(Rd)を設定した上で、R≧Rdの場合には10倍希釈を行い、R<Rdの場合には100倍希釈を行う工程をあげることができる。また、希釈濃度や判定後の分岐フロー数はこの限りではなく、たとえば、2倍、3倍、5倍、7倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍等の希釈倍率や、高濃度判定として2段階のみならず複数段階の分岐フローを設ける等、分析対象成分や免疫試薬、反応挙動などに応じて適宜設定することができる。
【0090】
また、上記反応時間ta~tbは、全反応時間を100%とした場合に、たとえば、開始から0~30%とすることができ、0~5%、5~10%、10~15%、15~20%等であってもよい。たとえば、当該サンプルの測定時間が10分間である場合、測定開始から0~3分、0~1分、1~2分、2~3分等とすることができる。
【0091】
また、上記反応時間tc~tdは、全反応時間を100%とした場合に、たとえば、開始から10~40%とすることができ、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%等であってもよい。たとえば、当該サンプルの測定時間が10分間である場合、測定開始から1~4分、1~2分、2~3分、3~4分等とすることができる。なお、反応時間ta、tbと反応時間tc、tdはその一区間が重複していてもよいが、taはtcよりも時間的に先であるものとする。
【0092】
また、本発明の分析方法において、上記判定工程は、あらかじめ測定した上記分析対象成分の校正用試料の反応過程における吸光度変化を参照して、上記検査液の希釈倍率を決定する判定工程であってもよい。たとえば、
図3、8に示すように、反応時間t
c、t
dの間における反応速度V2に対する反応時間t
a、t
bの間における反応速度V1の反応速度比R(=V2/V1)と、校正用試料における同様の反応速度比R
std(=V2
std/V1
std)とを用い、
図3中に示す式のように相対反応速度比R/R
stdに基づき、閾値(Rf)を設定した上で、(R/R
std)≧Rfの場合には10倍希釈を行い、(R/R
std)<Rfの場合には100倍希釈を行う工程をあげることができる。校正プロセスにおいて、濃度等が明確な校正用試料と免疫試薬との反応を開始し、反応終了までの間を測定し、吸光度変化量等の検量線を作成するとともに、反応速度比R
stdを算出し、相対反応速度比R/R
stdを用いることで、当該校正用試料での上限の反応速度比と対比して、高濃度判定における閾値(Rf)として、より精度の高い閾値を得ることができる。また、免疫試薬のロットが異なる場合であっても、当該閾値としてより適切な共通の閾値の設定が可能となり、ロット間誤差の補正に有効となる。
【0093】
また、本発明の分析方法において、さらに、上記検査液を、高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)を有することができる。上記希釈する工程(c)として、たとえば、希釈再検する試料に検査液が当該希釈倍率になるように検査液の溶媒を添加する工程をあげることができる。上記検査液を、高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)を有する場合には、高濃度の検体と免疫試薬とを含む検査液の測定時であっても、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行って測定を行うことが可能な分析方法となる。また、これまで困難であった高濃度検体の測定が迅速でより正確に、測定者に負担をかけることなく行うことができ、患者の症状の変化も容易に観察、診断することができる。たとえば、重度の患者の検体は高濃度であることがあり、経過観察する上で毎回の希釈操作を伴っており迅速性と正確性に欠点があったが、本手段により簡易迅速に把握することが可能となる。
【0094】
加えて、本発明の希釈する希釈方法において、上記検査液を、高濃度域を判定する工程(b)により決定する工程を独立して行い、上記希釈する工程(c)を接続することによって機能してもよい。好ましくは、高濃度域を判定する工程(b)と一体となって、全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定が可能となる。
【0095】
また、本発明の分析方法は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の分析方法であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、および、
希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等から分析対象成分の濃度を出力する工程(d)、
を有することを特徴とする。
【0096】
本発明の分析方法装置は、上述のように、希釈再検を伴わずに、上記分析対象成分の反応過程における吸光度変化量等から分析対象成分の濃度を出力する工程(d)を有する場合、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても希釈再検を伴わずに濃度の出力を行うことが可能な分析方法となる。また、上記工程の全部または一部を自動化することで、より簡易迅速な測定、分析が可能な分析方法となる。
【0097】
また、本発明の分析方法において、上記反応過程における吸光度変化量等の代わりに閾値を超える時間を用いて分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0098】
また、本発明の分析方法において、上記反応過程における吸光度変化量等(y)と反応時間(x)に対して非線形フィットを行い、パラメータを抽出し、分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0099】
また、本発明の分析方法において、上記非線形フィットは、累積分布関数、累積分布関数に比例定数と定数項のいずれかもしくは両方を加えた関数を用いた、分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0100】
また、本発明の分析方法において、上記累積分布関数を微分して得られる確率密度関数の最頻値をパラメータとして、分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0101】
また、本発明の分析方法において、上記累積分布関数は、正規分布、指数分布、二項分布、ロジスティック分布、ガンマ分布のいずれか1つを用いた分析対象成分濃度を出力する上記工程(d)を有するものであってもよい。
【0102】
上記関数として、たとえば、以下に記載のものを適宜用いることができる。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0103】
他方、本発明の希釈装置は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の希釈装置であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、および、
上記検査液を、上記高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)、
を有することを特徴とする。
【0104】
本発明の希釈装置は、上述のように、上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する手段(A)、上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する手段(B)、および、上記検査液を、上記高濃度域を判定する手段(B)により決定された希釈倍率に希釈する手段(C)を有することにより、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行うことが可能となる。また、上記手段の全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定、分析が可能な分析装置となる。また、上記手段(A)、(B)および(C)ならびに試薬等の各構成については、上述と同様の手段を適宜用いることができる。
【0105】
また、本発明の希釈方法は、
凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液の希釈方法であって、
上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、
上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、および、
上記検査液を、上記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)、
を有することを特徴とする。
【0106】
本発明の希釈方法は、上述のように、上記分析対象成分の測定中にプロゾーンを検出する工程(a)、上記検査液の希釈倍率を自動的に決定する、高濃度域を判定する工程(b)、および、上記検査液を、上記高濃度域を判定する工程(b)により決定された希釈倍率に希釈する工程(c)を有することにより、免疫試薬と検体とを含む検査液の測定時に、反応過程における吸光度変化量等を用いて、そのままでは測定範囲外に該当し得る高濃度の検体であっても濃度を予測し、最適な希釈倍率を決定し、当該希釈を行うことが可能となる。また、上記工程の全部または一部を自動化することで、さらに簡易迅速な測定、分析が可能な分析方法となる。また、上記工程(a)、(b)および(c)ならびに試薬等の各構成は、上述と同様の工程を適宜用いることができる。
【0107】
さらに、本発明の免疫試薬は、上記分析装置および分析方法、ならびに、上記希釈装置および希釈方法に用いられる免疫試薬であって、上記高濃度域を判定する手段(B)または工程(b)において、希釈せずに測定できる上限濃度がプロゾーンの発生する濃度に対して0.5倍から1倍となるように設計された免疫試薬であること特徴とする。
【0108】
本発明の免疫試薬は、上記構成とすることにより、上記分析装置および分析方法、ならびに、上記希釈装置および希釈方法をより簡易迅速なものとすることができる。
【0109】
本発明の免疫試薬は、上述のように希釈せずに測定できる上限濃度がプロゾーンの発生する濃度に対して0.5倍から1倍となるように設計された免疫試薬であるが、上記濃度が0.6倍から0.9倍となるように設計された免疫試薬、上記濃度が0.8倍から1倍となるように設計された免疫試薬、または、上記濃度が0.5倍から0.8倍となるように設計された免疫試薬等としてもよい。
【0110】
また、本発明における凝集法を用いた免疫試薬とは、吸光光度計により特定の波長の吸光度または透過率等を測定することが可能な免疫試薬をいい、免疫試薬としては、分析対象成分と抗原抗体反応を起こすものであれば適宜用いることができ得る。上記免疫試薬として、たとえば、金コロイド試薬、ラテックス試薬、金属粒子試薬、シリカ粒子試薬、免疫比濁試薬などをあげることができる。なかでも、金コロイド試薬、ラッテクス試薬であることが好ましい。
【0111】
また、本発明における分析対象成分とは、凝集法を用いた免疫試薬で測定、分析可能な成分であれば特に限定せず用いることができる。上記分析対象成分は、生体由来の成分を含んでいてもよい。上記分析対象成分として、たとえば、カルプロテクチン、ラクトフェリン、ヘモグロビン、トランスフェリン、免疫グロブリン、C反応タンパク質、アルブミン、マクロアルブミン、フェリチン、αフェトプロテイン、シスタチンC、ヒト絨毛ゴナドトロピン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、または前立腺特異抗原などをあげることができる。なかでも、カルプロテクチン、ラクトフェリン、ヘモグロビンまたはトランスフェリンであっても好適に測定、分析が可能であり好ましい。本発明の分析装置および分析方法を用いることにより、従来は幅広い濃度分布が混在する検体が多いために迅速で正確な定量が困難であった分析対象成分であっても、簡易迅速に定量的な測定、分析を行うことが可能となる。
【0112】
また、本発明において、凝集法を用いた免疫試薬と分析対象成分とを含む検査液が用いられるが、上記免疫試薬と上記分析対象成分のほか、本発明の作用効果の妨げとならない限り、検査液の調整に必要な溶媒や添加剤等を適宜含んでいてもよい。上記溶媒として、たとえば、水、アルコール、生理食塩水、希釈液、緩衝液等をあげることができる。上記添加剤として、たとえば、酸、塩基、pH調整剤、無機塩、糖類、アミノ酸類、キレート剤、界面活性剤、安定化剤、分散剤、色素等をあげることができる。また、生体由来の成分を含む検査液として、たとえば、人や動物の血液や骨髄等を含む液、人や動物の糞便が分散した便懸濁液、人や動物の検尿あるいは畜尿、唾液、鼻汁、粘膜拭い液等をあげることができる。
【0113】
また、本発明の分析装置および分析方法、ならびに、上記希釈装置および希釈方法において、その他の手段、工程等の各構成については公知のものを適宜用いることができる。
【実施例0114】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0115】
<測定試薬の調製>
便中カルプロテクチン金コロイド測定試薬は下記のR1緩衝液およびR2金コロイド反応液の2種類の液状の試薬から構成した。
【0116】
・R1緩衝液
3% 塩化ナトリウム、0.05% 界面活性剤、等を100mM HEPES緩衝液に、ポリエチレングリコール20000を添加したものをR1緩衝液とした。
【0117】
・R2金コロイド反応液
抗ヒトカルプロテクチンマウスモノクローナル抗体を、0.05%アジ化ナトリウムを含む10mM HEPES(pH7.1)緩衝液で希釈して50μg/mLの濃度に調製した。この液100mLを金コロイド溶液1Lに加え、冷蔵条件化で2時間撹拌した。次いで、0.5%BSAを含む10mM HEPES(pH7.1)緩衝液110mL添加し、37℃で90分間撹拌した。12000Gで40分間遠心分離を行い、上清を除去した後、0.1%BSAを含む10mM HEPES(pH7.5)緩衝液を1L加え抗体感作金コロイドを分散させた後、再度12000Gで40分間遠心分離を行い、上清を除去し、0.1%BSAを含む10mM HEPES(pH7.5)緩衝液で抗体結合金コロイドを分散させ全量160mLとし、抗カプテクチン抗体結合金コロイド試薬とした。抗体結合金コロイド試薬を安定化剤等の入った緩衝液で希釈し、540nmの吸光度が10となるように調製しR2金コロイド反応液とした。
【0118】
<検体の調製>
便溶解液に、ヒト白血球由来のカルプロテクチンを添加し、高濃度カルプロテクチン検体とした。高濃度カルプロテクチン検体を、1、0.8、0.6、0.4、0.2、0.1、0.08、0.06、0.04、0.02、0.01、0.008、0、006、0.004、および0.002倍に便溶解液で希釈して検体とした。
【0119】
<吸光度の測定>
吸光度の測定は、自動分析機 ヘモテクトNS-Prime(大塚電子社製)を用いて行った。より詳細には、検体、R1緩衝液、およびR2反応液を液量比1:14:5で加え、37℃で反応を行い、反応中の吸光度を、主波長として540nm(反応により減少する金属コロイド粒子の最大吸収波長)および副波長として660nm(反応に伴い増加する金属コロイド粒子の吸収波長)の2波長の光において測定された吸光度同士の差を、各図の吸光度差として示した。
【0120】
〔実施例1-1〕
プロゾーン検出に関する結果である。
0.002~1倍に希釈した検体に対し、R1の成分濃度の異なる4種類の便中カルプロテクチン金コロイド測定試薬LotA、LotB、LotC、LotDをロットの異なる試薬の例として用いて、各々の吸光度変化量や初期反応速度V1を測定し、そのまま測定可能な範囲(測定範囲)とプロゾーン域の検出および各試薬での閾値を算出した。なお、当該サンプルの各測定時間は6.8分であった。4種類の測定試薬の中でもっともプロゾーンが低濃度でプロゾーンが確認できたのはLotDで、プロゾーンが1300U/mLから確認された。一方で4種類の測定試薬の中でもっともプロゾーンが高濃度でプロゾーンが確認できたのはLotAで、2180U/mLから確認された(図表なし)。LotDで得られた結果を用いてプロゾーン域として、
図5に示すように、プロゾーン判定と各試薬の初期反応速度V1の比較を行った。
【0121】
この場合、LotA、LotB、LotC、LotDの各閾値が縦軸の初期反応速度V1値の0~0.4の間に分布している結果となった。
【0122】
〔実施例1-2〕
プロゾーン検出に関する結果である。
図6に示すように、実施例1-1で得られた結果に加えて、校正用試料の初期反応速V1
stdを用いて、相対初期反応速度V1/V1
stdに算出した。実施例1-1と同様にプロゾーン判定と各試薬の相対初期反応速度V1/V1
stの比較を行った。この場合、縦軸の相対初期反応速度V1/V1
std値の0.8~1.2の間にLotA、LotB、LotC、LotDの閾値が得られる結果となった。実施例1-1ではロットによってプロゾーン判定に関する閾値を個々に設定する必要があるが、実施例1-2の場合ではロットによらず共通の閾値を用いることができることがわかった。
【0123】
〔実施例2〕
実施例1-1の測定データを用いたプロゾーン検出と高濃度判定に関する結果である。
図7および表1に示すように、LotA、LotB、LotC、LotDを用いて、各々の反応時間1~2分の間における反応速度A2に対する、反応時間0~1の間における反応速度A1の反応速度比R(=A2/A1)を算出した。高濃度判定と各試薬の反応速度比の比較を行い、そのままで測定可能な測定範囲、10倍希釈で測定できる範囲、100倍希釈で測定できる範囲は図のような結果となった。反応速度比にはロット間差があったが、10倍希釈で測定できる範囲と100倍希釈で測定できる範囲とは重なりがあり、閾値(Rd)を1.0に設定することで、全てのロットにおいて適切な希釈倍率の判定(高濃度判定)を実施できた。
【0124】
【0125】
〔実施例3〕
プロゾーン検出と高濃度判定とを実施した結果である。
図8および表2に示すにように、実施例2の結果に加え、校正用試料の反応速度比R
stdを用いて相対反応速度比R/R
stdに関するグラフを算出した。高濃度判定と各試薬の相対反応速度比とそのままで測定可能な測定範囲、10倍希釈で測定できる範囲、100倍希釈で測定できる範囲を比較すると
図8のような結果となった。実施例2の場合よりも、相対反応速度比は試薬のロット間格差の影響を受けにくい分布結果となった。また、閾値(Rf)を0.2に設定することで、ロットによらずにうまく切り分けすることが可能となることがわかった。この実施例3は実施例2に比較してロット間の影響が受けにくいため、より安定した高濃度判定であることが分かった。
【0126】
【0127】
〔実施例4~6〕
図9に示すように、高濃度判定に適した免疫試薬に関して、適した感度条件について試験を行った。実施例1の結果に加え、感度が極端に小さい試薬(比較例1)を調製し、実施例1および3と同様の測定を行った。比較例1の試薬を用いると、プロゾーンは4200U/mLであるのに対して、実施例4(実施例1における試薬LotA)では、2180U/mLであった。
【0128】
図10に示すように、実施例4に加えて、2種類の試薬(実施例1における試薬ロットLotC、LotD)を用いて本発明の高濃度判定の比較を行った。より具体的には、
図10に示すように感度の違う4種類の免疫試薬でプロゾーンの発生域と高濃度判定(相対反応速度比)を比較したところ、比較例1では相対反応速度比は極端に大きな値となった。また、この際、使用した各免疫試薬のプロゾーン域の下限を示した。実施例4~6においては、プロゾーン域の下限が測定範囲(1200)に近い(1~2倍)となっていたのに対して、比較例1においては、プロゾーン域の下限が測定範囲との乖離(4倍)となっていた。この結果から、免疫試薬の適した感度条件は、プロゾーン域の下限が測定範囲の1~2倍程度であるといえる。
【0129】
〔実施例7〕
上記反応過程における吸光度変化量の閾値を超える時間から、分析対象成分濃度を出力する手段(D)または工程(d)を有する分析装置または分析方法に関する説明である。
図11に示すように、横軸に反応時間、縦軸に吸光度変化量をプロットした。あらかじめ設定した閾値と反応曲線との交点における時間をΔTとした。このΔTを特徴量として、分析対象成分濃度を出力した。
【0130】
図12は、カルプロテクチンを測定した結果である。横軸に反応時間、縦軸に吸光度変化量をプロットした。閾値を0.1にしたところ、ΔTと濃度の関係は両対数プロットで線形関係にあり、分析対象成分濃度とΔTには累乗関数(Y=aX
b)の関係にあることが分かった。この相関を用いた、高濃度の検量線を使用することにより、希釈を行わすに分析対象物の濃度を出力することができる。
【0131】
〔実施例8〕
まず、
図13において、ガンマ分布の累積分布関数を用いた変曲点算出方法に関する説明図を例示した。累積分布関数と確率密度関数は微分積分の関係である。累積分布関数の変曲点(微分値の極大)は、確率密度関数の最頻値となる。確率密度関数の最頻値は数学的に計算可能であり、反応過程を累積分布関数でフィットすることで、測定のばらつきによらずに変曲点を容易に取得が可能である。また実際には累積分布関数に対して比例定数および定数項を加えた場合も変局点には影響がないため、
図14に示すフィティング関数群をフィティング関数に用いることができる。
【0132】
図15~17には、高濃度カルプロテクチンの試料測定において、高濃度での分析対象成分の出力手段および工程に関する結果を示した。反応過程による吸光度変化量を、ガンマ(γ)分布の累積関数に比例定数および定数項を加えた関数でフィッティングを行った。上記の関数では、どの濃度でも、うまくフィッティングを行うことができた(
図15)。パラメータとして変曲点(時間微分の最大となる点)に着目し、反応時間に対して(吸光度変化量)の時間微分をプロットした。時間微分値は釣鐘型になっており、濃度が増加するにつれてピーク位置は時間が短い方にシフトした(
図16)。
【0133】
また、
図17に示すように、サンプル濃度と変曲点の関係を調べたところ、濃度に対して、(変曲点)^‐0.5を縦軸にプロットを行ったときに線形関係にあった。この相関関係を用いることによって、反応終了後の吸光度変化量に基づき、濃度を出力する濃度上限(1200U/mL)の20倍程度の領域でも濃度を出力する高濃度検量線として用いることができることがわかった。これにより、希釈再検を行わずしても分析対象成分の濃度を出力することができる。また、この過程において時間微分は確率密度関数にあたり、ピーク位置は確率密度関数の最頻値となる。本発明の分析装置および分析方法等を用いることによって、高濃度域での検量線がより簡便に計算できることがわかった。