(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120098
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】眼神経変性障害(例えば緑内障)の処置及び予防における使用のためのニコチンアミド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/455 20060101AFI20220809BHJP
A61K 31/7084 20060101ALI20220809BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20220809BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220809BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220809BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220809BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20220809BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220809BHJP
A61K 38/45 20060101ALI20220809BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220809BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220809BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/7084
A61K31/19
A61P25/00
A61P27/06
A61P43/00 121
A61K31/706
A61K48/00
A61K38/45
A61K35/76
A61K35/761
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094110
(22)【出願日】2022-06-10
(62)【分割の表示】P 2018521064の分割
【原出願日】2016-10-24
(31)【優先権主張番号】62/245,467
(32)【優先日】2015-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/366,211
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】398066918
【氏名又は名称】ザ ジャクソン ラボラトリー
【氏名又は名称原語表記】THE JACKSON LABORATORY
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サイモン・ダブリュー・エム
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,ピーター・アレクサンダー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】神経変性障害、特に、緑内障を含めた眼関連神経変性疾患におけるニューロン組織の軸索変性の処置方法を提供する。
【解決手段】処置を必要とする対象において緑内障を処置する方法であって、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって緑内障を処置する工程を含む、前記方法である。前記医薬組成物がピルビン酸をさらに含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする対象において緑内障を処置する方法であって、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって緑内障を処置する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記医薬組成物がピルビン酸を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬組成物が、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドリボース(NR)からなる群から選択される1つ又はそれ以上の化合物を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記NAMが、網膜神経節細胞の神経変性を減少させるための治療有効量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記NAMが、眼内圧を減少させるための治療有効量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記NAM及びピルビン酸が、網膜神経節細胞の神経変性を減少させるための治療有効量で存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記NAM及びピルビン酸が、眼内圧を減少させるための治療有効量で存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記対象がヒト対象である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリヌクレオチドが、ウイルスベクター内にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスベクターが、AAVである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスベクターが、AAV2.2である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記遺伝子組成物が、硝子体内又は眼内に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子組成物が、硝子体内に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
対象に追加の治療的薬剤を投与する工程を更に含む、請求項1から17のいずれか一項
に記載の方法。
【請求項19】
前記追加の治療的薬剤が、β受容体遮断薬、非選択的アドレナリン作動薬、選択的α-2アドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン類似体、副交感神経刺激様アゴニスト、カルバコール又はそれらの組合せである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記追加の治療的薬剤が、チモロール、レボブノロール、メチプラノロールカルテオロール、ベタキソロール、エピネフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミド、ブリンゾールアミド、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、ピロカルピン、ヨウ化エコチオフェート、カルバコール又はそれらの組合せである請求項18に記載の方法。
【請求項21】
予防を必要とする対象において緑内障を予防する方法であって、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって緑内障を予防する工程を含む、前記方法。
【請求項22】
前記医薬組成物がピルビン酸を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記医薬組成物が、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドリボース(NR)からなる群から選択される1つ又はそれ以上の化合物を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記NAMが、眼内圧を減少させるための治療有効量で存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記NAM及びピルビン酸が、眼内圧を減少させるための治療有効量で存在する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記対象がヒト対象である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリヌクレオチドがウイルスベクター内にある、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記遺伝子組成物が、硝子体内又は眼内に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記遺伝子組成物が、硝子体内に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
対象に追加の治療的薬剤を投与することを更に含む、請求項21から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記追加の治療的薬剤が、β受容体遮断薬、非選択的アドレナリン作動薬、選択的α-2アドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン類似体、副交感神経刺激様アゴニスト、カルバコール又はそれらの組合せである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記追加の治療的薬剤が、チモロール、レボブノロール、メチプラノロールカルテオロール、ベタキソロール、エピネフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミド、ブリンゾールアミド、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、ピロカルピン、ヨウ化エコチオフェート、カルバコール又はそれらの組合せである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
改善を必要とする対象において視覚機能を改善する方法であって、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって視覚機能を改善する工程を含む、前記方法。
【請求項37】
前記医薬組成物がピルビン酸を更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項36又は37のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金助成を受けた研究に関する記述
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって与えられた助成番号R01 EY011721で米国政府支援のもと行われた。米国政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0002】
関連出願に対する参照
本出願は、2015年10月23日に出願の米国仮出願番号第62/245,467号及び2016年7月25日に出願の62/366,211号に対し35U.S.C.§119(e)に基づいて利益を主張し、その全ての内容を、全体において参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0003】
軸索傷害は、神経変性疾患における初期の事象である。神経変性疾患は、末梢又は中枢神経系の生存神経細胞の機能不全又は喪失によって特徴付けられる。多くの事例において、軸索変性は、軸索突起の近位よりも遠位端で常により顕著な過程である神経喪失に先行することが示されている。ニューロンにおいて神経変性カスケードを誘発する上流の分子シグナルは、依然として未知である。
【0004】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びその関連化合物を使用して、軸索変性を減少させることを示唆する報告がある。例えば、米国特許出願公開第2006/0,211,744号A1(‘744出願)は、慢性神経変性を減少させるためのNAD、NADH及びニコチンアミド(NAM)を含めた薬剤の使用について記述している。‘744出願は切断された後根神経節(DRG)ニューロン軸索の細胞培養モデルを使用して、NADが、これらニューロンに軸索変性に対する保護効果を与えたことを開示する。‘744出願は、NAMが実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び再発寛解型多発性硬化症(RRMS)のマウスモデルにおいて神経変性を減少させることを更に開示している。米国特許第7,776,326号(‘326特許)は、傷ついたニューロンにおいてNAD活性を増加させる薬剤を投与することによって哺乳動物における神経障害疾患において軸索分解を処置する方法を開示している。326特許権者は後根神経節(脊髄神経由来)の初代細胞培養及び神経細胞体近くの場所における軸索切断(機械的切断)を使用して、‘ニコチン酸及びNAMが、軸索変性を減弱させるために働かないと明確に結論した。眼注射研究において、‘326特許権者は、硝子体内に注射した場合にNAMが、対照動物といかなる差も示さなかったことを再び述べた。
【0005】
緑内障は、最も一般的な神経変性疾患の1つであり、不可逆的失明の主原因となっており、特に高齢者において、世界で70000000人以上が冒されている(Quigley及びBroman、Br J Ophthalmol 90、262~267頁、2006年)。緑内障は、視力喪失をもたらす網膜神経節細胞(RGC)の進行性の機能不全及び喪失によって特徴付けられる複合的な多因子疾患である。高眼内圧(IOP)及び加齢は、緑内障の神経変性に対する感受性因子になる。最近の進歩は、疾患の初期段階で緑内障の組織に起こる様々な分子変化を示した(Howellら、Journal of Clinical Investigation 121、1429~1444頁、2011年;Nickellsら、Annu Rev Neurosci 35、153~179頁、2012年)。RGC内で緑内障の損傷を開始させる初期の細胞及び分子機序は、十分に知られていない。RGCは、網膜内の細胞体、樹状突起及びシナプス並びに視神経の軸索に影響を及ぼす変化を含めて、緑内障の極めて初期に複数部位で侵襲されるように見える。ヒトにおいて高IOP及び老化が、ニューロンの脆弱性を引き起こし、緑内障を開始させる機序は今なお不明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IOPの上昇を軽減するために利用可能な戦略は存在するが、眼神経変性を標的する有効な処置又は予防措置は存在しない。従って、網膜及び軸索変性において、特に緑内障の処置においてRGC損傷を減少させる治療的介入を提供するために、最初の神経変性過程を起動する上流の分子シグナルを明らかにし、新たな分子標的を同定することが継続して必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ニコチンアミド(NAM)若しくはピルビン酸又はそれらの組合せに、神経細胞体、軸索及び関連細胞型を保護する潜在的効果があり、従って神経変性(例えば、軸索変性)及び眼神経変性疾患(例えば、緑内障)の処置に有益であるという発見に主に基づく。
【0008】
本発明の目的は、処置を必要とする対象にNAM及び/又はピルビン酸を含む医薬組成物の治療有効量を投与する工程を含む、緑内障を処置又は予防する方法を提供することである。
【0009】
本発明の目的は、処置を必要とする対象にNAM及び/又はピルビン酸を含む医薬組成物の治療有効量に投与する工程を含む、例えば、緑内障において眼内圧を低減する方法を提供することである。
【0010】
本発明の態様は、処置を必要とする対象にNAM及び/又はピルビン酸を含む医薬組成物の治療有効量を投与する工程を含む、緑内障である又はそれに悩まされている患者の視覚機能を改善する方法を提供することである。
【0011】
本治療処置(医薬品及び/又は遺伝子治療)は、特定の理論に束縛されるものではないが、2つの主要な機序:1)眼房水産生を減少させる、及び/又は2)眼房水流出を増加させることによって眼内圧を低減することで働くと考えられる。本治療は、高IOPを低減することによる有効な処置として役立ち、従って視神経などの軸索を保存し、視覚機能のその後の喪失を予防することができる。
【0012】
本治療処置は、緑内障における神経変性を処置又は予防するのに有用である。
本緑内障処置は、網膜(例えば、RGC)のレベルで神経性機能不全及び神経変性を処置又は予防するのに有効である。緑内障は、どんなレベルの眼内圧でも(高IOP又は正常眼圧)存在し得る。本治療処置は、網膜神経節細胞(RGC)などの網膜細胞に対する神経保護的効果のIOP非依存的効果を提供する。
【0013】
特定の実施形態において、本処置は、眼内圧を減少させることによって、緑内障(例えば、原発性開放隅角緑内障又はPOAG)の進行を予防及び/又は遅延させる。緑内障を処置するための現在の戦略のほとんど全ては、IOPの上昇を低減又は予防することを意図する。
【0014】
特定の実施形態において、本処置は、直接的な神経保護を提供すること及び眼内圧を減少させることの両方によって、緑内障(例えば、原発性開放隅角緑内障又はPOAG)の進行を予防及び/又は遅延させる。本治療は、緑内障の処置において予想外の二重利益を提供する。
【0015】
特定の実施形態において、本処置は、眼内圧を減少させることなく緑内障の進行を予防及び/又は遅延させる。従って、本治療方法は、予想外の利点を提供し、その点で医薬品及び/又は遺伝子治療は、IOP非依存的な神経保護的効果を与える。
【0016】
本治療方法は、視神経変化及び視野喪失の特徴的なパターンを保護することにより原発性開放隅角緑内障などの緑内障に対する処置を提供する。AAOの好ましい実践パターンによると、原発性開放隅角緑内障の診断のためには、3つの所見のうちの2つ(IOPの上昇、視神経の損傷又は視野喪失)が存在しなければならない。
【0017】
本発明の目的は、処置を必要とする対象において神経変性障害(眼神経変性疾患、例えば、緑内障など)を処置する方法を提供することであり、方法は、対象にNADtの細胞内レベルを増加させる又はNAD+、NADH、GSH、GSSG、PQQ若しくはピルビン酸の細胞内レベルを増加させる1つ又はそれ以上の化合物を含む医薬組成物の治療有効量を投与する工程を含む。
【0018】
特定の実施形態において、神経変性障害(眼神経変性疾患、例えば、緑内障など)は、軸索変性、ニューロン機能不全、神経細胞体収縮、シナプス喪失、樹状突起萎縮及び/又は正常なニューロンの老化と関係する。特定の実施形態において、神経変性障害(眼神経変性疾患、例えば緑内障など)は、軸索変性と関係する。
【0019】
特定の実施形態において、神経変性障害(眼神経変性疾患、例えば緑内障など)は、ワーラー変性、ワーラー様変性又は遠位性軸索変性と関係する。例えば、ワーラー変性はニューロン傷害に起因する。ニューロン傷害は、疾患、外傷、化学療法薬又はニューロン老化に起因する場合がある。
【0020】
特定の実施形態において、神経変性障害は、アルツハイマー病、多発性硬化症、糖尿病性神経障害、外傷性脳傷害、虚血、末梢神経障害、又は緑内障若しくは老人性眼疾患(例えば、加齢黄斑変性[AMD]、レーベル視神経障害、優性視神経萎縮症、白内障、糖尿病性眼疾患/糖尿病性網膜症、網膜変性、ドライアイ、低視力)などの眼障害のうちの1つ又は複数である。
【0021】
特定の実施形態において、本発明の化合物は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)前駆体(例えば、ニコチン酸[Na]、ニコチンアミド[NAM]、ニコチンアミドモノヌクレオチド[NMN]、ニコチンアミドリボース配糖体[NR]又はそれらの組合せ)を含む。
【0022】
特定の実施形態において、本発明の化合物は、ニコチンアミド、ピルビン酸又はピロロキノリンキノン(PQQ)を含む。本発明の化合物は、細胞内NADtを補給する又はミトコンドリア電子伝達系を改善すると考えられる。
【0023】
特定の実施形態において、本発明の化合物は:(a)NAM;(b)ピルビン酸;(c)PQQ;(d)NAM及びピルビン酸;(d)NAM及びPQQを含む。
本発明の目的は、処置を必要とする対象において神経変性障害(眼神経変性疾患、例えば緑内障など)を処置する方法を提供することであり、方法が、対象に遺伝子組成物を投与する工程を含む。遺伝子組成物は、Nmnat(例えば、Nmnat-1、Nmnat-2又はNmnat-3)の発現を増加させる遺伝子を含有する。
【0024】
特定の実施形態において、遺伝子はNMNAT1である。
特定の実施形態において、遺伝子はWldSである。
特定の実施形態において、方法は、対象の眼にNmnat(例えば、Nmnat-1、Nmnat-2又はNmnat-3)及び/又はWldSをコードするポリヌクレオチドを投与する工程を含む。
【0025】
特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、対象に局所的に投与される。
特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、ウイルスベクターで対象に投与される(例えば、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターなど)。
【0026】
特定の実施形態において、神経変性障害は緑内障又は老人性眼疾患であり;対象はヒトである。
本発明の目的は、処置を必要とする対象において神経変性障害を処置する方法を提供することであり、方法が、対象にNADtの細胞内レベルを増加させる1つ又はそれ以上の化合物の治療有効量を投与する工程を含み、対象にNampt、Nmnat(例えば、Nmnat-1)、及び/又はWldSをコード並びに発現するポリヌクレオチドを投与する工程を更に含む。
【0027】
本発明の目的は、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって緑内障を処置する工程を含む、処置を必要とする対象において緑内障を処置する方法を提供することである。
【0028】
本発明の更に関連するが、特徴的な目的は、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって緑内障を予防する工程を含む、予防を必要とする対象において緑内障を予防する方法を提供することである。
【0029】
特定の実施形態において、前記NAMは、網膜神経節細胞の神経変性を減少させるための治療有効量で存在する。例えば、特定の実施形態において、前記医薬組成物は、1日の摂取量についてNAM約0.5~10g、NAM約1~5g又はNAM約2.5gを含有する。
【0030】
特定の実施形態において、前記NAMは、眼内圧を減少させるための治療有効量で存在する。例えば、特定の実施形態において、前記医薬組成物は、1日の摂取量についてNAM約2~25g、NAM約10~20g又はNAM約10gを含有する。
【0031】
特定の実施形態において、前記医薬組成物は、ピルビン酸を更に含む。好ましくは、前記NAM及びピルビン酸は、網膜神経節細胞の神経変性を減少させるための治療有効量で存在する。例えば、特定の実施形態において、前記医薬組成物は、(1)1日の摂取量についてNAM約0.5~10g、NAM約1~5g、又はNAM約2.5g;及び(2)1日の摂取量についてピルビン酸約0.5~10g、ピルビン酸約1~5g、又はピルビン酸約2.5gをそれぞれ独立に含有する。好ましくは、前記NAM及びピルビン酸は、眼内圧を減少させるための治療有効量で存在する。例えば、特定の実施形態において、前記医薬組成物は、(1)1日の摂取量についてNAM約2~25g、NAM約10~20g又はNAM約10グラム;及び(2)1日の摂取量についてピルビン酸約2~25g、ピルビン酸約10~20g、又はピルビン酸約10gをそれぞれ独立に含有する。
【0032】
特定の実施形態において、前記医薬組成物は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドリボース(NR)からなる群から選択される1つ又はそれ以上の化合物を更に含む。特定の実施形態において、PQQが存在する場合、医薬組成物は、1日の摂取量についてPQQ約10mg~10g、約50mg~1g、又は約500mgを
含む。
【0033】
特定の実施形態において、本方法(ピルビン酸有り又は無し)は、遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物は、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターなどのウイルスベクターである。
【0034】
特定の実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAVである。特定の実施形態において、前記ウイルスベクターは、AAV2.2である。特定の実施形態において、前記ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0035】
特定の実施形態において、前記遺伝子組成物は、硝子体内又は眼内に投与される。好ましくは、前記遺伝子組成物は、硝子体内に投与される。
特定の実施形態において、前記対象は、ヒト対象である。
【0036】
特定の実施形態において、前記対象は、約12~21mmHgの眼内圧がある。特定の実施形態において、前記対象は、21mmHgを超える眼内圧がある。
特定の実施形態において、前記対象は、緑内障の神経変性症状を発症していない。特定の実施形態において、前記対象は、緑内障の神経変性症状を発症している。
【0037】
特定の実施形態において、前記対象は、視覚機能不全を発症している。
特定の実施形態において、方法は対象に追加の治療的薬剤を投与する工程を更に含む。典型的な追加の治療的薬剤には、眼内圧を低減する薬剤がある。特定の実施形態において、前記追加の治療的薬剤は、β受容体遮断薬、非選択的アドレナリン作動薬、選択的α-2アドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン類似体、副交感神経刺激様アゴニスト、カルバコール又はそれらの組合せである。特定の実施形態において、前記追加の治療的薬剤は、チモロール、レボブノロール、メチプラノロールカルテオロール、ベタキソロール、エピネフリン(epinepherine)、アプラクロニジン、ブリモニジン、アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミド、ブリンゾールアミド、ラタノプロスト、トラボプロスト(travaprost)、ビマトプロスト(bimataprost)、ピロカルピン、ヨウ化エコチオフェート、カルバコール又はそれらの組合せである。
【0038】
更に本発明の目的は、対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を含有する医薬組成物を投与し、それによって視覚機能を改善する工程を含む、改善を必要とする対象において視覚機能を改善する方法を提供することである。
【0039】
特定の実施形態において、前記医薬組成物は、ピルビン酸を更に含む。
特定の実施形態において、方法は、遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、前記遺伝子組成物は、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0040】
明確に否定されない限り、本明細書に記述される全ての実施形態は、他の任意の実施形態と組み合わせることができると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】疾患の初期段階にあり、月齢が同じD2-Gpnmb
+又は若齢対照と形態学的に区別できないDBA/2J(D2)マウスにおいて分子的に決定された緑内障の段階を定義するための階層的クラスタ分析(HC)の結果を示す図である。HCは、D2マウス及び対照から単離された網膜神経節細胞(RGC)におけるRNA-配列決定に基づいた。HCは、分子的に類似している対照及び若齢サンプルを含む固有の群へのRGCサンプルのクラスタリングを可能にする(スピアマンのρ)。丸=D2 RGC由来サンプル、三角形=D2-Gpnmb
+RGCS由来サンプル。挿入画:D2-Gpnmb
+と各群の間で差異的に発現される(DE)遺伝子の数(q<0.05)。
【
図2A】4つのD2マウス群(群1、群2、群3及び群4)及びD2-Gpnmb
+対照群の間で差異的に発現される(DE)遺伝子の数を表す図である。
【
図2B】全てのサンプルのヒートマップ相関を表す図である(スピアマンのρ、青色=最も高い相関、赤色=最も低い相関)。
図1からのデンドログラムを灰色で示す。
【
図3A】対照からのHC距離が増加するにつれて、ミトコンドリア:核のリード総比率が増加することを示す図である(9ヵ月齢マウス)。結果は、ミトコンドリア機能不全が、緑内障におけるRGC損傷の初期の駆動体であるという概念と整合している。
【
図3B】疾患前D2マウス(9ヵ月齢D2マウス、群2、群3及び群4の3つのクラスタ)並びに同じ月齢及び性別の野生型対照(D2-Gpnmb
+)のRGCから得られたRNA-seqデータを使用する、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)に基づいて有意に濃縮された、いくつかの上位の経路を示す図である。-logp値が大きいほど、濃縮はより大きい。濃縮された経路の上位3つのうちの2つは、ミトコンドリア機能不全及び酸化的リン酸化である。有意に濃縮された追加の経路については表3も参照のこと。D2群1において差異的に発現される経路がない点に留意すべきである。
【
図3C】対照からD2群のHC距離の増加につれて、転写産物発現が、主に核コードされているミトコンドリアタンパク質について増加することを示す図である(全て9ヵ月齢マウス)。結果は、ミトコンドリア機能不全が、緑内障におけるRGC損傷の初期の駆動体であるという概念と再び整合している。点は、個々の遺伝子を表す、灰色又はより明るい点=差異的に発現しなかった、赤色又はより暗い点=q<0.05で差異的に発現された。遺伝子は、マウスMitoCarta2.0(Calvoら、Nucleic Acids Res 44、D1251~1257頁、2016年)から得た。
【
図3D】RNA-配列決定が、緑内障初期に増加したミトコンドリア分裂遺伝子転写産物を同定することを示す図である(9ヵ月齢マウス)。結果は、ミトコンドリア機能不全が、緑内障におけるRGC損傷の初期の駆動体であるという概念と整合している。
【
図3E】対照と比較した初期のミトコンドリア小胞体ストレス応答を示す図である。示したデータは、D2群4(9ヵ月齢マウス)の場合である。結果は、ミトコンドリア機能不全が、緑内障におけるRGC損傷の初期の駆動体であるという概念と整合している。
【
図3F】初期の緑内障(9ヵ月齢マウス)における代謝的及び酸化的事象を示す個々の遺伝子発現プロットの結果を表す図である。点は、個々の遺伝子を表す、灰色又はより明るい点=差異的に発現しなかった、赤色又はより暗い点=q<0.05で差異的に発現された。また、酸化的リン酸化遺伝子は、最も高いレベルで差異的発現を示すものの1つであり、差異的発現は、対照からのHC距離が増加するD2群において次第に高くなるように見える(群4>群3及び2)。
【
図3G】差異的に発現している遺伝子(n=4/月齢群)のウェスタンブロットタンパク質検証のデータ(
図3I)を要約する棒グラフである。チトクロムcにおいて、RNA-配列決定によって評価される転写産物存在量と相関する全般的なタンパク質増加が存在した。棒グラフにおいて縦軸は、β-アクチンに対する相対密度である。*=P<0.05、**=P<0.01。
【
図3H】差異的に発現している遺伝子(n=4/月齢群)のウェスタンブロットタンパク質検証のデータ(
図3J)を要約する棒グラフである。eIF2αにおいて、RNA-配列決定によって評価される転写産物存在量と相関する全般的なタンパク質増加が存在した。棒グラフにおいて縦軸は、β-アクチンに対する相対密度である。*=P<0.05、**=P<0.01。
【
図3I】差異的に発現している遺伝子(n=4/月齢群)のウェスタンブロットタンパク質検証のデータ。
【
図3J】差異的に発現している遺伝子(n=4/月齢群)のウェスタンブロットタンパク質検証のデータ。
【
図3K】酸化的リン酸化遺伝子が、対照からのHC距離が増加するD2群においてますます高い発現で、全ての群にわたって差異的に発現されることを示す図である(群4>群3>群2>群1)。赤色=最も高い発現、青色=最も低い発現、I~V=ミトコンドリア複合体I~V(表1に作表される)、G=D2-Gpnmb
+、1~4=D2群1~4。
【
図4】
図4A及び4Bは、9ヵ月齢のD2マウスが、RGC神経細胞体及び樹状突起ミトコンドリアにおいてクリステ容積を低下させたことを示す図である。しかしながら、総ミトコンドリアサイズ/容積に有意差はない。スケールバー=350nm。**=P<0.01、*=P<0.001。
【
図5A】NAD(t)レベルが、NAM
Lo処置(550mg/kg/日)したD2マウス(n=22/群)において増加することを示す図である。*=P<0.05、***=P<0.001。
【
図5B】GSH/GSSGレベルが、年齢に伴って低下することを示す図である(n=22/群)。*=P<0.05、***=P<0.001。
【
図5C】D2-Gpnmb
+対照マウス(n=22/群)においてもNAD(t)レベルが年齢に伴って低下することを示す図である。***=P<0.001。
【
図5D】ピルビン酸処置によって回復される月齢に伴うピルビン酸レベルの低下を示す図である。D2マウスは、6ヵ月齢から正常飲料水中の500mg/kg/日のピルビン酸で処置された。
【
図5E】D2網膜におけるNAM処置(550mg/kg/日)又はWld
S対立遺伝子の追加によって回復される、年齢に伴う全NAD(NAD[t])(即ち、NAD
++NADH)の低下を示す図である。Wld
S及びNAMの組合せは、更なる利益をもたらす。
【
図6】
図6A及び6Bは、免疫染色によって評価した通り、NAM処置(550mg/kg/日)が、初期の緑内障においてHIF-1αの上方調節を小さくすることを示す図である(n=6/群)。*=P<0.05、***=P<0.001。結果は、NAM処置が、D2緑内障において初期の損傷変化を予防することを実証する。
【
図7A】RNA-配列決定により、細胞代謝に対する変化、特に、D2緑内障における脂肪酸代謝遺伝子変化が同定されることを示す図である。点は、個々の遺伝子を表す、灰色又はより明るい点=差異的に発現しなかった、赤色又はより暗い点=q<0.05で差異的に発現された。
【
図7B】オイルレッドOを使用して染色した通り、IOP侵襲された高齢D2眼における網膜内層細胞外脂質滴形成を示す図である。染色は、視神経変性なし(NOE)又は重度(SEV)両方のD2眼に存在した。外眼性脂肪を、陽性対照として使用した(n=6/群)。スケールバー=25μm。
【
図8】
図8A及び8Bは、γH2AX染色によって評価したDNA損傷のレベル増加を示す図である(n=6/群)。結果を、γH2AX染色最大強度(AU)の棒グラフとして表す。***=P<0.001。
【
図9】
図9A及び9Bは、NAMが、緑内障においてPARP活性化を予防することを示す図である。PARPは、NAD
+の主要な消費体であり、年齢に伴うRGCにおけるNAD(t)低下の一因になり得る。NAMの投与(550mg/kg/日)後に、PARP発現(総PARP免疫染色)は、NAM処置した網膜において減少する(n=6/群)。***=P<0.001。スケールバー=15μm。
【
図10A】
図10A(IOPプロファイル)は、保護的戦略が、処置された眼における臨床疾患の進行/提示を変化させないことを示す。虹彩疾患は、同じ時間枠内で、全ての群において、類似の速度で進行し、重度の状態に達した。NAM
Lo=550mg/kg/日。NAM
Hi=2000mg/kg/日。Nmnat1=外来性Nmnat1を(ウイルスベクターで)発現させることによる遺伝子治療。
【
図10B】
図10B(IOP上昇虹彩疾患の臨床所見)は、保護的戦略が、処置された眼における臨床疾患の進行/提示を変化させないことを示す。虹彩疾患は、同じ時間枠内で、全ての群において、類似の速度で進行し、重度の状態に達した。NAM
Lo=550mg/kg/日。NAM
Hi=2000mg/kg/日。Nmnat1=外来性Nmnat1を(ウイルスベクターで)発現させることによる遺伝子治療。
【
図10C】
図10C(IOPプロファイル)は、保護的戦略が、処置された眼における臨床疾患の進行/提示を変化させないことを示す。虹彩疾患は、同じ時間枠内で、全ての群において、類似の速度で進行し、重度の状態に達した。NAM
Lo=550mg/kg/日。NAM
Hi=2000mg/kg/日。Nmnat1=外来性Nmnat1を(ウイルスベクターで)発現させることによる遺伝子治療。
【
図10D】
図10D(IOP上昇虹彩疾患の臨床所見)は、保護的戦略が、処置された眼における臨床疾患の進行/提示を変化させないことを示す。虹彩疾患は、同じ時間枠内で、全ての群において、類似の速度で進行し、重度の状態に達した。NAM
Lo=550mg/kg/日。NAM
Hi=2000mg/kg/日。Nmnat1=外来性Nmnat1を(ウイルスベクターで)発現させることによる遺伝子治療。
【
図11A】NAMが視神経変性から保護することを示す図である。緑又はバーの下部=緑内障でない又は初期の緑内障(NOE)(神経損傷のない段階)、黄色又はバーの中間部=中等度の損傷(MOD)、赤又はバーの上部=重度損傷(SEV)。フィッシャーの正確確率検定:**=P<0.01、***=P<0.001。NAM
Lo=550mg/kg/日。NAM
Hi=2000mg/kg/日。初期開始=処置を、6ヵ月齢で開始する(ほとんど全ての眼においてIOPの上昇前)。後期開始-処置を、9ヵ月齢で開始する(IOPの上昇の発病後;この時点において大多数の眼にIOPの上昇がある又はあった)。
【
図11B】12ヵ月齢においてニコチンアミドが、D2緑内障の視神経変性に対する保護をもたらすことを示す図である。グラフは、検出可能な緑内障なし(NOE;バーの下部)、中等度緑内障の損傷(MOD;バーの中間部)、又は重度緑内障の損傷(SEV;バーの上部)である神経のパーセンテージを示す。左から、DBA/2J対照-標準飲料水によるD2マウス;ニコチンアミド(NAM
Lo)初期開始-6ヵ月齢(疾患前)からNAM 550mg/kg/日で補充した標準飲料水によるD2マウス;ニコチンアミド(NAM
Lo)後期開始-9ヵ月齢(疾患中)からNAM 550mg/kg/日で補充した標準飲料水によるD2マウス;ニコチンアミド(NAM
Hi)初期開始-6ヵ月齢(疾患前)からNAM 2000mg/kg/日で補充した標準飲料水によるD2マウス;ピルビン酸-6ヵ月齢(IOPの上昇前)からピルビン酸500mg/kg/日で補充した標準飲料水によるD2マウス;NAM
Lo+ピルビン酸-6ヵ月齢(疾患前)からNAM 550mg/kg/日+ピルビン酸500mg/kg/日で補充した標準飲料水によるD2マウス;D2.Wld
S-標準飲料水によるWld
S導入遺伝子(酵素活性を増強する改変されたNMNAT酵素)を保有するD2マウス;D2.Wld
S+ニコチンアミド(NAM
Lo)-6ヵ月齢(IOPの上昇前)からNAM 550mg/kg/日を含む標準飲料水によるWld
S導入遺伝子(改変されたNMNAT酵素)を保有するD2マウス。緑内障の神経変性を介入的に処置することに加えて、NAMはまた、緑内障の神経変性に対する予防的保護をもたらす点に留意すべきである。
【
図12A】NAM及びピルビン酸が、RGC神経細胞体喪失(n=8/群)、網膜NFL及びIPL薄層化(n=8/群)、視神経変性(n>50/群)並びに順行性軸索原形質輸送の喪失(n=20/群)から保護することを示す図である。対応するマーカー及び色分けは、各列の下にある。スケールバー:RBPMS=20μm、Nissl=20μm、PPD=20μm、CT-β=100μm(網膜)、200μm(LGN、Sup.Col.)。ONH=視神経頭、LGN=外側膝状核、Sup.Col.=上丘。白色星印は、ONHの部位における軸索輸送の喪失を意味する。
【
図12B】NAM及びピルビン酸処置D2マウスにおける軸索輸送の回復を示す図である。軸索輸送の喪失は、緑内障に顕著な特徴であり、ニューロン健全性の測定基準として使用することができる。蛍光標識されたコレラ毒素(Ct-B;緑色)を使用して、網膜神経節細胞の眼部分から細胞の終末端(脳)への軸索輸送を、可視化することができる。最上列:D2.Gpnmb
(wt)マウスは、網膜から脳内の視覚中枢(LGN;外側膝状核、Sup.col.;上丘)への正常で、完全な軸索輸送を有する。第2列:D2マウスは、視神経内で停止している不完全な軸索輸送を有する(白色星印)。標識化が、脳の視覚中枢に存在しない。第3及び第4列:NAM処置(第3列)又はピルビン酸処置(第4列)は、軸索輸送喪失を予防する。
【
図13A】NAMが、RGC神経細胞体喪失から保護することを示す図である(n=8/群、D2とD2-Gpnmb
+の間の密度下落は、圧力が伸張を誘導するためである)。***=P<0.001。
【
図13B】NAM
Lo(550mg/kg/日)及びピルビン酸(500mg/kg/日)が、RGC神経細胞体喪失を予防することを示す図である(RGCの特異的マーカー;RBMPSを使用する)。
【
図14】NAM(NAM
Lo及びNAM
Hi)、ピルビン酸(500mg/kg/日)、Wld
S及びそれらの組合せの全てが、PERG(パターン網膜電図)振幅を使用する視覚機能試験(n>20/群)に基づく初期の視覚機能喪失からD2マウスを保護することを示す図である。PERGは、非常に高感度であり、緑内障の初期の評価基準である、従ってNAM又はピルビン酸処置は、緑内障の非常に初期の段階さえも予防する。NAM
Lo+ピルビン酸の併用及びNAM
Lo+Wld
Sの併用は両方とも、PERG振幅の更なる回復を示す。NAM
Lo=550mg/kg/日。NAM
Hi=2000mg/kg/日。
【
図15】NAM
Lo(550mg/kg/日)及びピルビン酸(500mg/kg/日)が、高齢マウスにおいてもPERGを保護することを示す図である。6ヵ月及び12ヵ月D2並びに12ヵ月NAM
Lo処置マウス(550mg/kg/日)からの例図を示す。12ヵ月ピルビン酸処置マウス及びNAM
Lo処置Wld
Sマウスの結果も示す。
【
図16】
図16A及び16Bは、SNAP-25染色によって評価した通り、NAM
Lo-処置(550mg/kg/日)が、初期の緑内障においてシナプス喪失を予防することを示す図である(n=6/群)。**=P<0.01、***=P<0.001。スケールバー=25μm。
【
図17A】
図17A及び17Bは、NAM(NAM
Lo=550mg/kg/日)が、
図4A及び4Bに示す樹状突起のミトコンドリアにおける初期のミトコンドリア機能不全を予防することを示す図である。これらのデータは、PERGに対する初期の変化及び9ヵ月のD2網膜において以前に報告されているシナプス喪失と符合する。従って、IOPの上昇に誘導されるミトコンドリア機能不全は、初期の神経変性変化を駆動し得る。**=P<0.01、***=P<0.001。ns=統計的に有意でない。スケールバー=350nm。
【
図17B】
図17A及び17Bは、NAM(NAM
Lo=550mg/kg/日)が、
図4A及び4Bに示す樹状突起のミトコンドリアにおける初期のミトコンドリア機能不全を予防することを示す図である。これらのデータは、PERGに対する初期の変化及び9ヵ月のD2網膜において以前に報告されているシナプス喪失と符合する。従って、IOPの上昇に誘導されるミトコンドリア機能不全は、初期の神経変性変化を駆動し得る。**=P<0.01、***=P<0.001。ns=統計的に有意でない。スケールバー=350nm。
【
図18】NAM処置(550mg/kg/日)が、網膜内層における脂質滴形成を予防する(12ヵ月;
図7Bのように)ことを示す図である。スケールバー=25μm。
【
図19】
図19A及び19Bは、γH2AX染色によって評価された通り、NAM処置(NAM
Lo=550mg/kg/日)が、初期の緑内障においてDNA損傷を予防することを示す図である(n=6/群)。***=P<0.001。スケールバー=25μm。
【
図20A】代謝及びDNA損傷経路を示す個々の遺伝子発現プロットが、NAM処置RGCSにおいて正常に戻ることを表す図である。点は、個々の遺伝子を表す、D2-Gpnmb
+対照と比較して、灰色又はより明るい点=差異的に発現しなかった、赤色又はより暗い点=q<0.05で差異的に発現された。
【
図20B】NAM処置RCGが、対照と分子的に類似していることを示す遺伝子発現(発現されている全遺伝子)のヒートマップである。
【
図21A】NAM処置RCGが、若齢及び同月齢両方の緑内障ではない対照RCGと分子的に類似していることを示す図である。(スピアマンのρ)。丸=D2 RGC由来サンプル、三角形=D2-Gpnmb
+RGC由来サンプル、正方形=NAM処置(NAM
Lo=550mg/kg/日)RGC由来サンプル。従って、NAM処置は、疾患及び老人性分子変化を予防する。
【
図21B】対照D2-Gpnmb
+群と比較して、D2群(群1、群2、群3及び群4)で差異的に発現される遺伝子の数を要約する図である。
【
図21C】
図21C及び21Fは、NAM-処置(NAM
Lo=550mg/kg/日)が、9ヵ月のD2 RGCに見られるトランスクリプトーム不均衡及びOXPHOS不均衡(ミトコンドリア:核ライブラリサイズ比)を予防することを示す図である。
図21Fにおいて、赤色=最も高い発現、青色=最も低い発現。I~V=ミトコンドリア複合体I~V(表1に作表される)、G=D2-Gpnmb
+、1~4=D2群1~4、N=NAM。
【
図21D】D2マウスは、6ヵ月齢から正常飲料水中の550mg/kg/日ニコチンアミドで処置された(老齢NAM)。NAM処置マウス由来の網膜神経節細胞のRNA-seqは、NAMが、月齢及び疾患に関連する遺伝子発現変化を予防することを示す。NAM処置網膜神経節細胞は、同月齢の対照(老齢対照)よりも若齢対照(若齢対照)と最も類似している。これは、NAMが、月齢依存的な分子変化を予防することを示す。
【
図21E】全てのサンプルのヒートマップ相関を示す図である(スピアマンのρ、青色=最も高い相関、赤色=最も低い相関)。
図21Aのデンドログラムを灰色で示す。
【
図21F】
図21C及び21Fは、NAM-処置(NAM
Lo=550mg/kg/日)が、9ヵ月のD2 RGCに見られるトランスクリプトーム不均衡及びOXPHOS不均衡(ミトコンドリア:核ライブラリサイズ比)を予防することを示す図である。
図21Fにおいて、赤色=最も高い発現、青色=最も低い発現。I~V=ミトコンドリア複合体I~V(表1に作表される)、G=D2-Gpnmb
+、1~4=D2群1~4、N=NAM。
【
図22A】
図22Aは、NAMが、緑内障の侵襲をモデル化する神経変性処置に対して保護的であることを示す図である。NAMは、死(
図22A)及びプレアポトーシス核収縮(
図22B)から神経細胞層細胞(GCL細胞)を保護する魅力的な用量反応効果を示した。網膜神経節細胞損傷の軸索切断培養モデルにおいて、ニコチンアミド(NAM)の添加は、用量依存的な様式の細胞収縮(細胞アポトーシス及び機能不全の徴候)に対する保護をもたらす(軸索切断5日後)。5日間異なる濃度のNAMに曝露したD2マウス網膜のDAPI標識核の平均核直径を測定した(0日目対照[正常網膜]、処置なし[軸索切断5日後]、100mM及び500mM NAM[軸索切断5日後]を含む)。NAM処置網膜は、無傷の、ベースライン対照(0日目)と区別できなかった。β-NAD及びβ-NMNで網膜を処置する有意な保護的効果も存在した(n=8網膜/群)。***=P<0.001。スケールバー=20μm。
【
図22B】
図22Bは、NAMが、緑内障の侵襲をモデル化する神経変性処置に対して保護的であることを示す図である。NAMは、死(
図22A)及びプレアポトーシス核収縮(
図22B)から神経細胞層細胞(GCL細胞)を保護する魅力的な用量反応効果を示した。網膜神経節細胞損傷の軸索切断培養モデルにおいて、ニコチンアミド(NAM)の添加は、用量依存的な様式の細胞収縮(細胞アポトーシス及び機能不全の徴候)に対する保護をもたらす(軸索切断5日後)。5日間異なる濃度のNAMに曝露したD2マウス網膜のDAPI標識核の平均核直径を測定した(0日目対照[正常網膜]、処置なし[軸索切断5日後]、100mM及び500mM NAM[軸索切断5日後]を含む)。NAM処置網膜は、無傷の、ベースライン対照(0日目)と区別できなかった。β-NAD及びβ-NMNで網膜を処置する有意な保護的効果も存在した(n=8網膜/群)。***=P<0.001。スケールバー=20μm。
【
図23】
図23A~23Cは、NAM(NAM
Lo=550mg/kg/日)が、TNFα投与後12週においてTNFα注射された眼のPERG(
図23A)及び神経細胞体喪失(
図23B及び23C)を予防することを示す図である(n=20/群)。*=P<0.05。ns=統計的に有意でない。スケールバー=20μm。
【
図24-1】
図24A及び24Bは、遺伝子治療が、緑内障の神経変性から強く保護することを示す図である。D2眼は、CMVプロモーター下でマウスNmnat1を過剰発現させるためのプラスミドを保有するAAV2.2ウイルスベクターで5.5ヵ月に硝子体内に注射された。
図24Aは、
図12Aにおいて実証された通り、Nmnat1過剰発現がRGC神経細胞体喪失及び順行性軸索原形質輸送の喪失を予防することを示す(n=10/群)。スケールバーは、
図24Aにおいて50μmであり、
図24Bにおいて100μmである。
【
図24-2】
図24C及び24Dは、Nmnat1遺伝子治療も、視神経変性(n>40/群)(
図24C)、神経細胞体喪失(n=8/群)(
図24D、上パネル)、及びPERG振幅(n>20/群)(
図24D、下パネル)に対してIOPの上昇があるD2眼を保護することを示す図である。飲料水中のNAMの添加(NAM
Lo=550mg/kg/日)は、視神経変性の更なる保護をもたらした(Nmnat1+NAM
Loと比較したNmnat1=P<0.001、フィッシャーの正確確率検定)(
図24C)。**=P<0.01、***=P<0.001。
【
図25】NAM及びNMNAT1/WLD
SによるNAD再生経路を示す図である。
【
図26】
図26A及び26Bは、PQQで処置した軸索切断された網膜において、PQQ投与が核直径収縮(
図26A)及び細胞密度の低下(
図26B)を予防することを示す図である。
【
図27】
図27A~27Hは、FACSソートRGCを示す図である。網膜サンプルを、抗体カクテルで染色した(材料及び方法を参照のこと)。
図27Aは、生細胞(
図27D)を同定するためにゲートされた前方及び側方散乱(
図27B及び27C)を示す。RGCは、ゲートされたThy1.2
+事象(Cd11b
-、Cd11c
-、Cd31
-、Cd34
-、Cd45.2
-、GFAP
-、DAPI
-)として同定された。Cd11b、Cd45及びThy1.2プロットだけを示す(
図27E~27G)。
図27Hにおいて、FACS陽性RCGを平板培養し、SNAP-25及びβ-チューブリンで染色して、RGCの状態を確認した。スケールバー=25μm。
【発明を実施するための形態】
【0042】
定義
この出願に使用される用語は、以下の意味を持つものとする。
本明細書では、用語「緑内障」とは、網膜及び視神経に対する損傷及び視覚機能不全又は視力喪失をもたらす眼疾患のことを指す。緑内障は、老人の間で広く一般に起こる。緑内障による視力喪失は、恒久的であり、不可逆的である。
【0043】
本明細書では、用語「その処置を必要とする対象/患者」とは、特定の神経変性疾患若しくは病態、特に緑内障を含めた眼神経変性に悩まされている又はそのような処置を必要と単に感じている人間と一般に理解される。
【0044】
本明細書では、用語「緑内障」は、原発性開放隅角緑内障、二次性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、過分泌緑内障、原発性閉寒隅角緑内障、二次性閉寒隅角緑内障、プラトー虹彩緑内障、色素性緑内障、混合型緑内障、発育異常緑内障、ステロイド緑内障、落屑緑内障、アミロイド緑内障、血管新生緑内障、悪性緑内障、水晶体嚢緑内障、プラトー虹彩
症候群、等を包含する。
【0045】
本明細書では、ヒトにおいて用語「正常眼内圧(「正常「IOP」)とは、IOP値10mmHg~21mmHgを有するヒト対象のことを指す。しかしながら、一部の患者は、正常IOPにもかかわらず、視神経損傷を発症することがある(正常眼圧緑内障として公知である)。
【0046】
本明細書では、ヒトにおいて用語「高眼内圧」(高IOP)とは、21mmHg(又は、2.8kPa)を超えるIOP値を有するヒト対象のことを指す。高IOPは、緑内障の危険因子になることが公知である。しかしながら、一部の患者は、長年の間高IOPであり、視神経損傷を全く発症しない場合もある。
【0047】
本明細書では、用語「神経保護的」又は「神経保護」とは、眼神経(例えば、視神経)、中枢又は末梢神経系におけるニューロン、そのシナプス、樹状突起、神経細胞体又は軸索を損傷(機能的な機能不全を含む)若しくは死から保護する、又はニューロン損傷若しくは死の発病を遅延させる、又はニューロンの集団の中のニューロン損傷の重症度/死の範囲を軽減する能力のことを指す。
【0048】
本明細書では、用語「予防する」又は「予防」とは、例えば、一般的又は特に眼神経変性疾患(例えば、緑内障)におけるニューロン損傷若しくは死に関して、好ましくはそのような損傷、死若しくは疾患が起こる前に神経保護を与える本発明の化合物又は薬剤の能力のことを指す。従って、緑内障の予防は、緑内障の発症を回避する、緑内障を最終的に発症する危険性若しくは可能性を減少させる、緑内障の発病若しくは進行を遅延させる、又は緑内障を最終的に発症するはずのニューロンの集団の中のニューロン損傷の重症度/ニューロン死/喪失の範囲を減少させることを含む。
【0049】
本明細書では、用語「処置する」又は「処置」は、対象に本発明の化合物若しくは薬剤を投与して、緑内障などの神経変性と関連する症状若しくは病態の発症を軽減する、抑える又は阻害することを含む。
【0050】
本明細書では、「視力又は視覚機能を改善する」とは、そのような化合物若しくは薬剤を投与されていない対照対象と比較して、そのような化合物若しくは薬剤を投与された対象において視力又は視覚機能(視野試験又はRGCのパターン網膜電図[PERG]振幅など)を改善する本発明の化合物若しくは薬剤の効果のことを指す。
【0051】
本明細書では、用語「治療有効量」は、対象に投与された場合に、それが投与される効果を生じる量を意味する。例えば、神経変性を阻害するために対象に投与された場合、「治療有効量」は、IOP上昇を減少させ、及び/又はRGC機能を改善する(例えば、RGC機能が悪化することを予防する)。
【0052】
本明細書では、用語「対象」又は「患者」は互換的に使用され、齧歯動物、イヌ及びヒトなどの哺乳動物のことを指す。従って、本明細書では用語「対象」又は「患者」は、本発明の化合物を投与できる任意の哺乳動物の患者又は対象(例えば、ヒト)を意味する。
【0053】
本明細書では、用語「医薬品」又は「医薬組成物」とは、疾患を処置、治癒若しくは改善する又は疾患の症状を処置、改善若しくは軽減するのに使用する医薬製剤のことを指す。
【0054】
本明細書では、用語「発現ベクター」とは、そのような配列と適合する細胞に含有される遺伝子/核酸分子の発現を実行できる核酸分子のことを指す。発現ベクターは、少なく
とも適切なプロモーター配列及び任意選択で転写終結シグナルを一般に含む。
【0055】
以下の省略形が使用される:
NAM-ニコチンアミド
NAMPT-ニコチンアミドホスホリボシル転移酵素
NMN又はβNMN-ニコチンアミドモノヌクレオチド
NMNAT-ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリル転移酵素
NAD-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド
NaMN-ニコチン酸モノヌクレオチド
NR-ニコチンアミドリボース配糖体
概要
本発明は、網膜神経節細胞(RGC)に対する最高水準の分子技術(RNA配列決定;RNA-seq)の使用に主に基づき、これは、検出可能な神経変性の前に起こるミトコンドリア異常が、ニューロン機能不全の初期の駆動体であるという発見につながった。DBA/2J(D2)マウスモデル(慢性老人性、遺伝性緑内障)を使用して、本発明者らは、大部分の緑内障にとって鍵となる危険因子である加齢とRGCにおけるニューロン変性の駆動における高IOPとの関係を更に明らかにした。
【0056】
本発明者らは、網膜に治療的レベルのニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を送達して、レベルが下降したNAD+を補充する方法を開発した。本発明の特定の医薬組成物(例えば、NAM及び/又はピルビン酸)の投与は、眼神経変性及び緑内障の処置における新規の手法となる。本治療方法は、老化ニューロンが疾患関連侵襲の影響を受けやすい場所の減少を含めた他の神経変性の処置に有用であり得る。
【0057】
一態様において、本発明は、年齢依存的な神経変性を処置又は予防するため、例えば緑内障を処置又は予防するために標的した医薬組成物の治療上の使用を提供する。
特定の実施形態において、医薬組成物は、緑内障、好ましくは原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障及び原発性閉寒隅角緑内障を処置又は予防するのに有効である。特定の実施形態において、本発明の医薬製剤は、原発性開放隅角緑内障を処置又は予防するのに特に有効である。
【0058】
特定の実施形態において、方法は神経変性障害(例えば、緑内障)の処置/予防を必要とする対象にニコチンアミド(NAM)の治療有効量を投与する工程を含む。
特定の実施形態において、対象はピルビン酸と組み合わせてNAMを投与される。NAM及び/又はピルビン酸が、NADt(NAD+及びNADHの総レベル)の細胞内レベルを増加させ、従って対象において神経変性障害を処置又は予防すると考えられる。
【0059】
一態様において、本発明は、細胞内ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを増加させて、神経変性を予防し、それによって緑内障を処置するための遺伝子送達の治療上の使用を提供する。
【0060】
特定の実施形態において、本発明は、遺伝子治療(例えば、ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ1[Nmnat1])の駆動発現)の方法を提供する。Nmnat1タンパク質の発現が、非常に保護的であり、NAMと相乗的に作用する(即ち、眼の84%に緑内障の神経変性がない)事が判明した。
【0061】
本発明の利点は、緑内障を発症する危険因子を減少させることである。 本研究は、NAM単独又は他の薬剤(ピルビン酸など)との組み合わせが、緑内障に対する危険因子を減少させることを明らかに示している。12ヵ月齢の対照D2マウスにおいて、神経の約60%は、重度の緑内障がある。これは、緑内障を発症する危険因子0.6に相当する。
低用量NAM投与(マウスに550mg/kg/日)の後、この危険因子は0.36(危険因子においておよそ2分の1への下落)、又は高用量NAM(マウスに2000mg/kg/日)が投与される場合0.06(危険因子において10分の1への減少)まで減少した。
【0062】
本発明の利点は、NAMと遺伝子治療の投与との相乗効果である(例えば、NMNAT1遺伝子治療)。単独で危険因子を0.29(危険因子においておよそ2分の1への減少)に減少させる遺伝子治療と比較して、NAMと組み合わせる遺伝子治療は、危険因子を0.16(危険因子においておよそ4分の1への減少)に減少させる。従って、NAMと遺伝子治療の組み合わせは、IOPの上昇後に緑内障を発症する危険因子を相乗的に減少させる。
【0063】
NAM(単独又はピルビン酸など他の薬剤との組み合わせ)に関する保護的効果の本発見は、予想外である。本発見は、NAMには保護的効果がないと述べる‘326特許に報告されているそれと著しく対照的である。
【0064】
少なくとも以下の理由で異なる所見の基礎が得られる。第1の理由は、‘326特許権者が、in vivo効果、特に緑内障などの眼性関連疾患との関連性がほとんどない実験系を使用したということである。それらの実験において、‘326特許権者は、脊髄後根神経節(DRG)ニューロンを単離し、その神経炎を切断することによって神経損傷を誘導した。機械的切断をDRGニューロン細胞体の非常に近くに起こしたこの人工培養によって誘導された神経傷害は、in vivoでの神経変性にほとんど似ていない。緑内障における初期の軸索損傷は、DRG神経炎よりも、神経細胞体から大きく離れた距離で起こると認識されている。第2の理由は、‘326特許権者の培養系が、緑内障の神経変性と大いに関連するニューロンである網膜神経節細胞(RGC)を使用しなかったことである。第3の理由は、‘326特許権者が、完全な神経組織(それは、互いに通信し、支持し合う様々な細胞型で構成される)の代わりに人工細胞系を使用したことである。
【0065】
最後に、‘326特許権者は、in vivoの完全な視神経横断面モデルに言及しており、そのモデルにおいて神経(その周囲の鞘を含む)は機械的に切断されている。これは、神経に急激に損傷を与え、軸索がある局所的環境を実質的に改変し、その改変は、14日以内に90%超の網膜神経節細胞の死の原因になる(www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21610673を参照のこと)。侵襲が、神経上の正しい場所にあるにもかかわらず、緑内障の事例がない。全体として、‘326特許権者に採用された手法は、ヒト緑内障を再現しない網膜神経節細胞を破壊する非常に人工的で、急激な方法である。興味深いことに、その視神経横断面実験において、‘326特許権者は、化合物(NAMを含む)を硝子体内に注射して眼におけるNADの産生を駆動し、‘326特許権者は、このモデルにおいてNAMがRGCの軸索変性に対して保護的でないと明確に結論した。
【0066】
この全てが、特に関連するものである。本発明者らの培養実験は、他の網膜細胞型に対して正常な関係にある網膜神経節細胞を含む完全な網膜組織を使用し、網膜神経節細胞軸索を緑内障において損傷が起こるのと同じ場所で切断したので、緑内障との関連性がより高い。緑内障における損傷は、RGC軸索が、眼から出て、視神経になる視神経頭における真の軸索において起こると考えられる。
【0067】
それに対し、本出願に提示されるデータは、緑内障におけるNAMの神経保護的効果を明らかに示した。単独又は他の薬剤(例えば、ピルビン酸)と組み合わせるNAMの本使用は、緑内障などの眼性関連疾患において神経保護的効果をもたらす。本出願において、神経保護的効果は、以下のパラメータの少なくとも1つによって証明される:(i)神経
細胞体喪失の予防(RBPMS染色);(ii)網膜薄層化及び神経線維層喪失の予防(Nissl染色);(iii)視神経変性及び軸索喪失の予防(PPD染色);(iv)順行性軸索原形質輸送の喪失の予防(Ct-B染色);(v)視覚機能の喪失の予防(PERG);(vi)異常なミトコンドリアクリステの予防(EM);(vii)脂肪小滴の減少(オイルレッドO染色);及び(viii)PARP活性化の減少(PARP染色)。
【0068】
本発明者らは:(i)HIF-1α活性化の減少(HIF-1α染色);(ii)シナプス喪失の減少(SNAP-25染色);(iii)ミトコンドリアに対する核の転写産物存在量の回復(RNA-seq);及び(iv)老人性分子/遺伝子変化の予防(RNA-seq)によって明示されるように、単独又は他の薬剤(例えば、ピルビン酸)と組み合わせるNAMの使用が、細胞内事象に影響を及ぼして、神経保護的効果を提供するということを更に発見した。
【0069】
本発明の別の利点は、NAMの併用使用及びNAD送達における遺伝子治療である。遺伝子治療手法は、多くの臨床研究が示したことによって証明された通り、少なくとも3~5年間持続すると考えられる。遺伝子治療は、緑内障並びにIOPを低減することにおいてNAM及び/又はピルビン酸との相乗作用的な神経保護的効果をもたらす。
【0070】
上で発明について一般的に説明したが、以下の節は、本発明の更なる態様のためのより詳細な説明を提供する。
DBA/2Jマウスモデル
本発明者らは、DBA/2J(D2)マウスモデルがヒト緑内障をよく模倣する遺伝性老人性緑内障を発症するので、このマウス系統の使用を選択した。D2マウスは、ヒト緑内障に起こるのと同じ疾患媒介分子(例えば補体成分分子)、視神経頭において鍵となる緑内障侵襲の同じ部位、及びRGC死の同じ局所解剖学的パターンの誘導を含め、ヒト緑内障との類似点が多く確立されている最も研究されている緑内障モデルの1つである。D2マウスは、約6~8ヵ月齢で開始する虹彩疾患及び高い眼内圧を有する。9ヵ月齢まで、高い眼圧は、大部分のD2マウスの眼において持続中であった。D2マウスは、進行性の視力喪失、視神経損傷及び網膜内層機能不全をその後有する。12ヵ月齢で、設計された実験が通常どおりに終わったとき、D2マウス眼のおよそ70%が、網膜及び視神経の組織学検査に基づく重度疾患を有する。緑内障。化合物(例えば、メマンチン、チモロール又はラタノプロスト)の局所投与は、ヒト緑内障においてするのと同様に、D2マウスにおいてIOPを低減し、神経変性を発症する危険性を減少させる。対照D2-Gpnmb+は、緑内障を発症しない月齢及び系統が同じマウスである。
【0071】
緑内障における眼圧
眼内圧(IOP)は、例えば、ゴールドマン圧平眼圧測定(Haag Streit、Bern、Switzerland)を使用して決定することができる。ヒトにおいて、正常IOPは、12~21mmHgである。21mmHgを超えるIOPは、高いと見なされる。IOPの上昇は、緑内障における主要な危険因子である。POAG(原発性開放隅角緑内障、事例の90%超を占める最も一般的な緑内障)である緑内障では、25mmHgが、無処置のベースラインIOP中央値である。
【0072】
ボルティモア眼研究(www.ncbi.nlm.nih.gov/pub/12049574)は、高い危険性=IOP>25.75mmHg;中等度の危険性=IOP 23.75~25.75mmHg;及び低い危険性=IOP<23.75mmHgと報告した。24mmHg以下のレベルにIOPを20%低減することにより、進行の危険性が5年で9.5%から4.4%に低下する。一方の眼の失明の可能性は、診断後の10年後で27%、及び20年後で38.1%である。両眼の失明可能性は、それぞれ6%及び13
.5%である。
【0073】
原発性開放隅角緑内障(primary open agent glaucoma)(POAG)患者などのヒト
緑内障患者において、緑内障は非同期であり、老人性である(通常、40歳超で起こる)。IOPが21~25mmHgである場合、無処置の緑内障は、初期から後期疾患に進行するのに平均で14年間かかる。IOPが増加するにつれて、進行のこの速度は急速に増加する(IOP>30mmHgの場合、初期から後期疾患への進行におよそ3年)。
【0074】
ヒト患者において、IOPを低減する処置(外科的又は薬理学的な)は、神経変性を発症する危険性を減少させる。疾患の進行の速度及び失明するパーセンテージ可能性は、診断されていない患者のため、誤って伝えられている可能性が高い。高IOPは、緑内障を必ずしも示さないと一般に考えられている(10年後でおよそ30%、20年後でおよそ40%の失明)。IOPを低減することにより、緑内障は治療されないが、58%まで危険因子を減少させる。従来通りのIOP低減予防策にもかかわらず、視力喪失及び更に失明の危険性が今なお存在する。緑内障に利用可能な神経保護的戦略は限られている。緑内障における視力喪失は、不可逆的である。実際のところ、緑内障は、世界の不可逆的失明の主要な事例である。
【0075】
網膜神経節細胞(RGC)
網膜神経節細胞(RGC)は、網膜の出力ニューロンである。それらは、介在ニューロン(即ち、双極細胞及びアマクリン細胞)を経て光受容器(即ち、桿体視細胞及び錐体視細胞)から視覚情報を受ける。この視覚情報は、光中の光子として開始し、網膜神経節細胞シナプスで電位になる。RGCは、細胞体を残す長い軸索を有し、軸索が眼から出る(視神経頭)視神経円板(即ち、盲点)へと網膜を超えて横断する。視神経頭(ミエリン移行帯)を越えたところで、網膜神経節細胞軸索はミエリン化し、視神経を形成する(即ち、視神経は網膜神経節細胞軸索の束であり、マウスにおいてこれは、系統によりおよそ50000本である)。視神経中の軸索は、脳内の末端視覚中枢に最終的に到達し、脳は、次いでこれらのシグナルを中継する又はこの情報をそれ自体で処理する。網膜神経節細胞軸索が終わる2つの重要な視覚中枢は、外側膝状核(LGN)及び上丘(sup.col./SC)である。
【0076】
網膜神経節細胞は、緑内障において特に影響を受ける(即ち、細胞消失)。RGCに対する損傷は、視神経頭の部位の軸索で起こる可能性が高い。異常に高いIOPによって眼に誘導されるストレスのため、視神経頭は、網膜神経節細胞軸索への機械的侵襲が起こり得る眼の「弱点」であると推測される。眼全体に及ぶ圧力は、神経細胞体及び樹状突起にも同様に影響を及ぼすはずなので、軸索は、網膜神経節細胞における侵襲の唯一の点ではない。RGC損傷がどのようかという正確な発症機序は、全く明らかでない。
【0077】
DBA/2J(D2)マウスにおいて、本発明者らは、IOPが高い時点で、視神経において検出可能な軸索喪失がない(即ち、眼神経変性がない)ことを示した。驚くべきことに、本発明者らは、初期のミトコンドリア及び分子変化、樹状突起萎縮、並びにシナプス喪失が存在することを発見した。この発見は、IOPの効果が、視神経における軸索だけではなく網膜神経節細胞の他の区画にも現れることを示唆する。
【0078】
神経変性処置
特定の実施形態において、薬剤は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)前駆体(例えば、ニコチン酸、ニコチンアミド[NAM]、ニコチンアミドモノヌクレオチド[NMN]、ニコチンアミドリボース配糖体[NR]又はそれらの組合せ)、クレブス回路中間体若しくはその前駆体(例えば、ピルビン酸)、又はそれらの組合せを含む。
【0079】
特定の実施形態において、薬剤は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)前駆体、例えば、ニコチン酸、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドモノヌクレオチド、ニコチンアミドリボース配糖体又はそれらの組合せを含む。特定の実施形態において、NAD+前駆体は、ニコチンアミド又はニコチンアミドリボース配糖体である。
【0080】
ニコチン酸(別名ナイアシン、ニコチネート、ビタミンB3及びビタミンPP)は、ビタミンである。その対応するアミドは、ニコチンアミド又はナイアシンアミドと呼ばれる。これらのビタミンは、直接相互転換可能ではないが;ニコチネート及びニコチンアミドの両方は、酸化還元対NAD+/NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)及びNADP+/NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の合成における前駆体である。ニコチネート及びニコチンアミド代謝経路は、ここではNAD+合成経路と称することができる。
【0081】
NAD+は、2つの代謝経路:サルベージ経路及び新生経路によって合成される。サルベージ経路において、NAD+は、前駆体化合物の外部供給源(例えば、ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボース配糖体など)から合成され得る。NAD+は、新生経路においてアミノ酸の代謝の間に産生されるキノリン酸(例えば、トリプトファン、アスパラギン酸など)から合成され得る。
【0082】
本発明のNAD+前駆体は、ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボース配糖体など、並びにその塩及びその類似体を含む。特定の実施形態において、本発明のNAD+前駆体の投与は、NADtの細胞内レベルの増加を引き起こす。
【0083】
特定の実施形態において、薬剤は、クレブス回路中間体若しくはその前駆体、又はそれらの組合せを含む。例えば、クレブス回路中間体又は前駆体は、オキサロ酢酸、アセチルCoA、クエン酸、CoA-SH、cisアコニット酸、D-イソクエン酸、NAD+、オキサロコハク酸、NADH、αケトグルタル酸、スクシニル-CoA、GDP、ユビキノン、コハク酸、フマル酸エステル、L-リンゴ酸、ピルビン酸、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトースなど)、二糖類(ショ糖、マルトース、ラクトースなど)又はそれらの組合せである。
【0084】
従って、本発明は、ニコチン酸及び/若しくはニコチンアミドリボース配糖体並びに/又はニコチンアミド及び/若しくはニコチン酸代謝産物を含む医薬組成物を提供する。ニコチン酸及び/若しくはニコチンアミドリボース配糖体並びに/又はニコチンアミド及び/若しくはニコチン酸代謝産物は、遊離形態で使用することができる。本明細書では要素に関して用語「遊離」は、要素がより大きい分子複合体に組み込まれていないことを示す。いくつかの実施形態において、ニコチン酸は、ナイアシンに含まれ得る。ニコチン酸及び/若しくはニコチンアミドリボース配糖体並びに/又はニコチンアミド及び/若しくはニコチン酸代謝産物は、塩形態であり得る。
【0085】
いくつかの実施形態において、本明細書に記述される組成物のいずれも、塩、誘導体、代謝産物、異化産物、同化産物、前駆体及びその類似体であり得る。例えば、代謝産物には、ニコチニルCoA、ニコチン尿酸、ニコチネートモノヌクレオチド、ニコチネートアデニンジヌクレオチド又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドがあり得る。いくつかの実施形態において、組成物は、ニコチンアミドを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、ニコチン酸代謝産物を実質的に含まないことができる。
【0086】
特定の実施形態において、塩は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ギ酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゾアート、炭酸、クエン酸、カルバミン酸、ギ酸、グルコン酸、乳
酸、臭化メチル、硫酸メチル、硝酸、リン酸、二リン酸、コハク酸、硫酸及びトリフルオロ酢酸塩からなる群から選択される。
【0087】
NAM/ニコチン酸類似体は、主題の発明においても使用され得る。ニコチン酸の適切な類似体には、例えば、イソニコチンアミド及びNーメチルニコチンアミドがある。
特定の実施形態において、NAMのケト、エチル、ベンジル又は他の非塩実施形態を、本発明に使用することもできる。
【0088】
NAM/ニコチンアミド/NAD/NR/ピルビン酸の毒性は低く、比較的大量を毒性効果なしに投与することができる。
マウスにおいて、本化合物(例えば、NAM/ニコチンアミド/NAD/NR/ピルビン酸)は、1日の投与量約200~1000のmg/kg/日で投与して、神経保護的効果を得ることができる。好ましくは、1日の投与量は約400~600mg/kg/日である。より好ましくは、1日の投与量は約550mg/kg/日である。これらの投与量において、本化合物は、神経保護的効果をもたらす。
【0089】
マウスにおいて、本化合物(例えば、NAM/ニコチンアミド/NAD/NR/ピルビン酸)を、約1000~5000mg/kg/日の用量で投与して、IOP低減効果を得ることができる。好ましくは、1日の投与量は約1500~3000mg/kg/日である。より好ましくは、1日の投与量は約2000mg/kg/日である。これらの投与量において、本化合物は、IOP低減効果をもたらす。
【0090】
PQQに関しては、マウスにおいて少なくとも2000mg/kg/日で寛容される。PQQによって得られる神経保護的効果は、マウスにおいて約20~2000mg/kg/日、約100~1000mg/kg/日又は約500mg/kg/日である。
【0091】
ある種(例えば、マウス)からmg/kgを単位として表される医薬組成物の用量を、別の種(例えば、ヒト)においてmg/kgとして表される等価の表面積用量に変換するために、以下の表は、Freireichら、Quantitative comparison of toxicity of anticancer agents in
mouse、rat、dog、monkey and man、Cancer Chemother Rep.50(4):219~244頁、1966年(参照により本明細書に組み込む)における仮定及び定数に基づいて、変換のためのおおよその係数を提供する。
【0092】
【0093】
従って、マウスにおける用量550mg/kgは、サルにおいて550mg/kg×1/4=137.5mg/kg、及び60kgのヒトにおいて550mg/kg×1/12=45.8mg/kg(又は、2.85g)に等価である(mg/m2に基づいて等価を仮定する)。
【0094】
上の表において幾分単純化された変換係数は、それぞれの種について表面積に対する体重比[km]に基づく。より正確な変換が望ましい場合、投与量変換は、以下に挙げたそれぞれの種のkm係数に基づくこともできる。
【0095】
【0096】
従って、マウスにおける用量550mg/kgは、60kgのヒト成人における550mg/kg×3.0/37=44.6mg/kg(又は、2.68g)、及び20kgのヒト小児における550mg/kg×3.0/25=66mg/kg(又は、1.32g)に等価である。
【0097】
上記の表を使用して、適当なkm因子で用量を乗算することにより、任意の所与の種における等価mg/平方メートル用量としてmg/kg用量を表すこともできる。例えば、ヒト成人において、100mg/kgは、100mg/kg×37kg/平方メートル=3700mg/平方メートルに等価である。
【0098】
ヒト(およそ60kgの患者)において、本化合物(例えば、NAM/ニコチンアミド/NAD/NR/ピルビン酸)を1日の投与量0.5~10gで投与して、神経保護的効果を得ることができる。好ましくは、1日の投与量は約1~5g/日である。好ましくは、1日の投与量は約2~4g/日である。より好ましくは、1日の投与量は約2.5g/日である。これらの投与量において、本化合物は、神経保護的効果をもたらす。
【0099】
ヒト(およそ60kgの患者)において、本化合物(例えば、NAM/ニコチンアミド/NAD/NR/ピルビン酸)を、1日の投与量約5~25g/日で投与して、IOP低減効果を得ることができる。好ましくは、1日の投与量は約10~20g/日である。好ましくは、1日の投与量は約8~15g/日である。より好ましくは、1日の投与量は約10g/日である。これらの投与量において、本化合物は、IOP低減効果をもたらす。
【0100】
ヒト(およそ60kgの患者)において、PQQを、1日の投与量約2~160mg/kg/日、又は約10~100mg/kg/日、又は約50mg/kg/日で投与して、神経保護的効果をもたらすことができる。特定の実施形態において、PQQは、1日におよそ10mg~10g、1日に約50mg~1g、又は1日に約500mgの1日の投与量で投与することができる。
【0101】
理想的には、典型的な投薬は、1日に1、2又は3回とすることができる。総一日量は、単回で投与されても、又は2若しくは3回に分けた用量として(例えば、各用量が、1日の総量の1/2又は1/3で)投与されてもよい。複数回投薬の場合、各用量は、同一量又は異なる量とすることができる。医薬組成物は、朝又は夕方に投与されてもよい。医薬組成物は、食事の有無にかかわらず服用されてもよい。
神経変性障害を処置するための治療的薬剤
一態様において、本発明は、処置又は予防を必要とする対象において神経変性障害を処置又は予防する方法を提供し、方法が、対象にNADtの細胞内レベルを増加させる又はNAD+、NADH、GSH、GSSG、ピルビン酸若しくはPQQの細胞内レベルを増加させる薬剤の治療有効量を投与する工程を含む。
【0102】
別の態様において、本発明は、NAM、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN又はβ-NMN)、NAD、ピルビン酸、PQQ又はグルタチオンの治療有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0103】
医薬組成物に使用される薬剤は、緑内障など、そのような神経変性障害を処置又は予防するための神経保護的薬剤である。
多くの異なる型の侵襲又は神経変性疾患又は病態、例えば:低酸素、低血糖症、糖尿病、イオンホメオスタシスの喪失が原因の代謝的ストレス、ニューロンの物理的傷害、毒物への曝露及び遺伝又は非遺伝性神経変性障害を含む神経系に影響を及ぼす多数の疾患は、ニューロンの損傷又は死をもたらし得る。特定の実施形態において、神経変性障害は、軸索変性を含む。特定の実施形態において、神経変性障害は、ワーラー変性又はワーラー様変性を含む。例えば、ワーラー変性は、疾患、外傷又は化学療法薬に起因する傷害などのニューロン傷害に起因する場合がある。
【0104】
これが単なる例示的リストであることは言うまでもない。神経保護的薬剤の存在により、ニューロンは、保護されていないニューロンにおける機能的完全性の喪失の原因になり得る侵襲又は疾患病態への曝露に対して生存し続けることが可能になる。そのような薬剤は、ニューロンをより強くすることによって、ニューロンが侵襲に応じて損傷を受けることを予防することもできる。
【0105】
医薬組成物
医薬製剤は、投与される対象に対して有害でない形態の薬理学的活性成分、及び活性成分を安定化するように設計され、血液循環又は標的組織へのその吸収に影響を及ぼす追加の構成要素を含む。
【0106】
本発明による医薬組成物は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.,Easton,PA、1995年に開示されているものなど従来通りの技術に従って、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤並びに他の任意の公知のアジュバント及び賦形剤と配合されてもよい。
【0107】
適切な薬学の許容可能な担体には、不活性な固体の希釈剤又は充填材、滅菌水溶液及び様々な有機溶媒がある。固形担体の例は、ラクトース、白土、ショ糖、シクロデキストリン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸及びセルロースの低級アルキルエーテルである。液状担体の例は、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン及び水である。
【0108】
本発明による医薬組成物の投与は、様々な経路、例えば経口、非経口(皮下、筋肉内、真皮内を含む)、硝子体内、眼内(例えば、点眼薬の形態で)等、によることができる。好ましい一実施形態において、医薬組成物は、経口投与用である(飲料の一部としての医薬組成物の投与を含む)。好ましい一実施形態において、医薬組成物は、眼内投与用である。
【0109】
非経口投与は、注射器、任意選択でペン様の注射器による皮下、筋肉内、腹膜内又は静脈注射によって実施することができる。別法として、非経口投与は、注入ポンプにより実施することができる。なお更なる選択肢として、本発明の製剤は、経皮投与、例えば、無針注射によって若しくはパッチ、任意選択でイオン導入パッチから、又は経粘膜、例えば口腔投与に適合させることもできる。
【0110】
本発明の医薬組成物は、適切な剤形、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、コーティング錠、カプセル剤、硬カプセル及び軟カプセル剤、点滴剤、点眼剤、眼軟膏、洗眼剤(ophthalmic rinse)、注射液剤、等として投与することができる。
【0111】
本発明の医薬組成物は、例えば共有結合、疎水的及び静電的相互作用によって、薬物担体、薬物送達系及び高度な薬物送達系に更に調合又は付加して、更に、組成物の安定性を増強させ、生物学的利用能を高め、可溶性を増加させ、有害作用を低下させ、当業技術者に周知の時間治療を実現し、患者の服薬順守を高める又はその任意の組合せを行うことができる。
【0112】
担体、薬物送達系及び高度な薬物送達系の例には、ポリマー、例えばセルロース及び誘導体、多糖、例えばデキストラン及び誘導体、デンプン及び誘導体、ポリ(ビニルアルコール)、アクリレート及びメタクリレートポリマー、ポリ乳酸及びポリグリコール酸並びにそのブロック共重合体、ポリエチレングリコール、担体タンパク質、例えばアルブミン、ゲル、例えば、熱ゲル化系、例えば当業技術者に周知のブロック共重合体系、ミセル、リポソーム、微小球、ナノ粒子、液晶及びその分散液、脂質-水系における相挙動の当業技術者に周知のL2相及びその分散液、重合ミセル、多層乳剤、自己乳化、自己微乳化シクロデキストリン及びその誘導体、並びにデンドリマーがあるが、これに限定されない。
【0113】
本発明の医薬組成物は、制御された、持続性、延長性、遅延性、徐放性薬物送達系の組成物に有用であり得る。より具体的には、それだけには限らないが、医薬組成物は、非経口制御放出及び持続性放出系組成物(両方の系とも投与回数を、数分の1へと減少させる)に有用であり得、当業技術者に周知である。更により好ましくは、制御放出及び持続性放出系は、皮下投与される。本発明の範囲を制限するものではないが、有用な制御放出系及び組成物の例は、ヒドロゲル、油性ゲル、液晶、重合ミセル、微小球及びナノ粒子である。
【0114】
神経変性疾患
本発明の医薬組成物は、ワーラー変性などの軸索変性を含む神経変性障害の処置に有用性があると予測される。これらの変性が重要なものになり得る障害の例には、糖尿病性神経障害、運動ニューロン疾患、多発性硬化症、末梢神経障害、脳卒中及び他の虚血性障害、外傷性脳傷害、等がある。このリストは単なる例示目的であり、制限的又は包括的でない。
【0115】
特定の実施形態において、神経変性障害は、糖尿病性神経障害、外傷性脳傷害、虚血、末梢神経障害又は緑内障などの眼障害のうちの1つ又は複数である。特定の実施形態において、神経変性障害は、緑内障である。
【0116】
一実施形態において、医薬組成物は、ニューロン傷害に起因する神経変性障害の処置又は予防における神経保護的医薬品としての使用を目的とする。更なる実施形態において、モジュレータは、ニューロン傷害に起因する軸索変性(例えば、ワーラー変性)に関係する神経変性障害の処置における神経保護的医薬品としての使用を目的とする。本明細書では用語「傷害」とは、細胞体又は軸索又は樹状突起かを問わず、ニューロンに加えられる損傷のことを指す。これは、従来通りの意味の物理的傷害、即ち、対象に加えられた外力が原因の脳、脊髄又は末梢神経に対する外傷性傷害であり得る。損傷の他の外因は、例えば、水銀及び他の重金属、ヒ素、農薬及び溶媒などの環境毒素である。あるいは、傷害は、対象内から生じるニューロンへの侵襲、例えば:虚血性脳卒中並びに糖尿病性神経障害にあるような酸素及びエネルギー供給の減少、多発性硬化症にあるような自己免疫性発作又は筋萎縮性側索硬化症において重要であると考えられている酸化的ストレス及びフリーラジカル生成に起因し得る。また傷害は、軸索輸送の機序におけるあらゆる欠損を指すためにここで使用される。
【0117】
別の実施形態において、対象とする医薬組成物は、神経保護的医薬品としての使用を目的とし、神経変性障害は、疾患に起因するニューロン傷害が原因である。
一実施形態において、ニューロン傷害は、老化に起因する。
【0118】
一実施形態において、ニューロン傷害は、外傷に起因する。一実施形態において、障害は、化学療法薬によって誘導されるニューロン傷害である。タキソール、ベルケイド及びビンクリスチンなどがん化学療法に使用される特定の薬物は、使用できる最大用量を制限する末梢神経障害の原因である。最近の研究は、タキソール又はビンクリスチン毒性に悩まされるニューロンは、その形態及び基礎となる分子事象にワーラー様変化を受けることを示唆する。ニューロンは、神経毒薬剤に一時的にしか曝露されないので、ワーラー変性の阻害は、この病態に特に有効になり得る。従ってワーラー変性を阻害する薬剤とタキソール又はビンクリスチンの同時投与により、本剤を、現在考え得るより実質的に高い用量で使用することが可能になり、従って、がんと更に闘うことができる。
【0119】
年齢は、大部分の緑内障にとって一般的な危険因子であり、本治療方法は、NADの老人性下降に対する予防を提供し、緑内障の発症から患者を保護する(即ち、神経変性を予防する)。本発明は、NAM及び/又はピルビン酸の投与(NADレベルを補給するため)並びにNMNAT1遺伝子の遺伝子送達の併用療法を提供する。NAM及び/又はピルビン酸並びに遺伝子治療の驚くべき効力を考えると、併用療法は、緑内障を処置及び予防するのに魅力的な手法である。
【0120】
神経変性を処置するための遺伝子治療
遺伝子治療は、服薬順守問題を克服し、有効性を改善するのに魅力的な方法である。本発明は、神経変性を処置するための遺伝子治療の方法を提供する。軸索変性は、治療必要性が満たされていない領域である。神経変性は、運動ニューロン疾患、緑内障、アルツハイマー病及び多発性硬化症における症状の原因になる。糖尿病において、それは神経障害性疼痛及び遠位感覚消失の原因になり、それは肢切断の主原因である。それは、がん化学療法において用量を制限する副作用でもある。伸張傷害による進行性軸索変性は、外傷性脳傷害における主要な病理であり、白質を保護できないことが、脳卒中の処置を制限する。ヒト集団のおよそ半分は、これらの障害の1つ又は複数を最終的に患うことになり、これは生活の質を有意に減少させる。
【0121】
特定の実施形態において、本発明は、眼における神経変性を処置する方法を提供する。本発明は、眼に対し機能不全遺伝子のコピーを置き換える方法を提供する。遺伝子は、ウイルス遺伝子送達を使用して導入される。特定の実施形態において、ベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)がある。好ましい実施形態において、AAV
は、AAV2.2である。この出願のために、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、AAV9などを含めた他のAAV血清型を包含するものとする。他の実施形態において、ベクターは、レンチウイルス、一般に偽HIVに基づくベクターである。
【0122】
遺伝子を標的化RGCに送達するために、ウイルスベクターは、硝子体腔に導入される。好ましい実施形態において、遺伝子送達は、網膜内層の近位に直接標的される。硝子体内注射は、眼科手術において常法通り行われ、診療所/クリニック場所において安全に実施され得る。
【0123】
ウイルス遺伝子送達は、トランスフェクトしようとする多数の細胞に生涯にわたり標的した遺伝子産物を送達することが可能なので、本発明は、魅力的な展望として眼へのウイルス遺伝子送達を提供する。発明者の知見の限りでは、眼における遺伝子治療は、緑内障処置の新規の手法となる。緑内障などのヒト複合疾患に適用されるNAD+を増加させるためのそのような遺伝子治療は、処置の新規の手法となる。
【0124】
一態様において、本発明は、罹患した眼に遺伝子を送達して、それによりNADの発現を増強する方法を提供する。特定の実施形態において、本発明による遺伝子治療組成物(例えば、ウイルスベクター上のポリヌクレオチド)は、硝子体内又は眼内に投与される。好ましい一実施形態において、遺伝子治療は、硝子体内投与である。好ましい経路が、処置しようとする対象の全身状態及び年齢、処置しようとする病態の性質並びに選択される活性成分によって決まることになることはいうまでもない。
【0125】
一態様において、本発明は、眼に遺伝子を送達して、Nmnatの発現を増加させる遺伝子治療を提供する。特定の実施形態において、Nmnatのタンパク質発現を増加させる遺伝子には、Nmnat-1、Nmnat-2又はNmnat-3がある。
【0126】
特定の実施形態において、遺伝子はNmnat-1(例えば、ヒトNMNAT1)である。
NMNAT
ニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ1(Nmnat1[マウス]、NMNAT1[ヒト])は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の生合成において鍵となる工程を触媒する酵素をコードする。コードされている酵素は、いくつかのニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼの1つであり、細胞核に特異的に限局する。この遺伝子の選択的スプライシングは、複数の(少なくとも3つ)転写産物バリアントをもたらす。
【0127】
ヒトNMNAT1、アイソフォーム(1)に対するNCBI参照配列(RefSeq)には、以下がある:NM_022787.3(ヌクレオチド)及びNP_073624.2(タンパク質)、そのヌクレオチド配列は、より長いNMNAT1アイソフォーム(1)をコードする転写バリアント(1)として公知である;及びNM_001297778.1(ヌクレオチド)及びNP_001284707.1(タンパク質)、そのヌクレオチド配列は、バリアント1と比較した場合に5’UTR領域において異なる転写産物バリアント(2)として公知である。バリアント1及び2は、同じアイソフォーム(1)をコードし、本発明の方法に全て使用できる。全ての配列を参照により組み込む。
【0128】
核に限局し、偏在して発現される他のヒトファミリーメンバーとは異なる、関連するニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ2(nmnat2)、この酵素は細胞質性であり、脳において主に発現される。この遺伝子の選択的スプライシングは、2つの転写産物バリアントをもたらす。
【0129】
ヒトNMNAT2アイソフォーム(1)に対するNCBI参照配列(RefSeq)には、以下がある:NM_015039.3(ヌクレオチド)及びNP_055854.1(タンパク質)、そのヌクレオチド配列は、本発明の方法に使用することができる。全ての配列を参照により組み込む。
【0130】
関連するニコチンアミドヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ3(nmnat3)は、ミトコンドリアに限局するタンパク質をコードし、分子シャペロンとして神経保護的役割を担う可能性もある。あるいは、この遺伝子について複数のアイソフォーム(少なくとも5つ)をコードするスプライスされた転写産物バリアント(少なくとも6つ)が、観察された。
【0131】
ヒトNMNAT3、アイソフォーム(3)に対するNCBI参照配列(RefSeq)には、以下がある:NM_001320510.1(ヌクレオチド)及びNP_001307439.1(タンパク質)、そのヌクレオチド配列は、最も長いアイソフォーム(3)をコードする転写バリアント3であり、本発明の方法に使用し得る。全ての配列を参照により組み込む。
【0132】
NMNAT2は、軸索における重要なNAD生成酵素として現れ、軸索変性から保護する。RGCにおいて持続中のストレスは、Nmnat2発現に負に影響を与える(D2緑内障群4、緑内障変性前に検出される最終段階においてq<0.05)。この下降は、緑内障における軸索変性への移行に重要である可能性がある。NMNAT2発現は、アルツハイマー病の脳において低下し、高齢の死後のヒト脳において大きなばらつきの減退があり、そのばらつきは、これら病態に対する多様な脆弱性の一因になる可能性がある。
【0133】
異なる動物種(ハツカネズミマウスなど)における多数の関連するnmnat配列は、NCBI RefSeq、GenBank、等などの公開データベースからすぐに利用できる。全ての配列を、参照により本明細書に組み込む。
【0134】
NAMPTを使う遺伝子治療は、細胞中のNAD+レベルを上昇させるが、軸索細胞毒性をもたらすことになると考えられる。NAMPTは、NAMをNMNに変換するように機能し、次いでNMNは、NAD+に変換される。細胞内NAD+は、軸索変性と関連する鍵となる分子である。NAD+レベルが低い場合、軸索は急速に変性する。座骨神経軸索における軸索傷害の後、NMNが急速に蓄積することも確立されている。このモデル軸索変性において、NMNレベルは、12時間以内に上昇し、続いて傷害後36時間で神経傷害が起こる。FK866を使用するNMN生成酵素NAMPTの遮断は、この軸索変性を潜在的に阻害し、このことは、NMNがニューロンに有毒であることを暗示した。軸索変性は、NMN依存的であり、FK866を使用するNMNの増加の阻害は、軸索変性から保護するように見える。軸索変性のゼブラフィッシュモデル(2光子レーザー軸索切断)において、FK866は、軸索変性を強力に遅延させた。神経突起変性の細胞培養モデル(上頸神経節;SCG)において、NMNを急速に除去する(NMNをNAMNに変換する細菌性酵素NMNデアミダーゼの過剰発現による)ことにより、軸索変性から強力に保護される。
【0135】
従って、本発明は、NMNATを使う遺伝子治療が、NAMPTのそれとは異なり、眼神経変性を保護するのに有効であるという予想外の発見を示す。
Nampt過剰発現は、NMNの産生を駆動することになり、NMNは、適切に除去しないとニューロンに有毒なので、従って、NamptよりもNmnat1を選択した。
【0136】
WldS
軸索変性は、神経変性疾患の一般的な要素である。遠位軸索変性のこのより大きな程度
を説明しようと試みる2つのモデルがある。第1は、変性が神経末端から逆行的に広がる「遠位性」である。第2は、ワーラー変性であり、この場合変性が、病変型に従って病変の部位からいずれの方向にも広がり、遠位から病変部位への軸索の喪失を最終的にもたらし、近位部分が完全に残る。厳密に言えば、ワーラー変性は、軸索の物理的傷害に応じてしか起こらず、そのような傷害が起こらなかった疾患においては類似の機序が作動する。後者は、「ワーラー様」変性と称される。両方の型の変性は、「ワーラー変性」として以下で一緒に称されることになる。
【0137】
最近発見されたWldSマウスは、これら2つの過程の理解に進展をもたらした。これらの動物において、ワーラー変性は、野生型動物よりおよそ10倍遅い速度で起こる。研究は、この突然変異が、軸索末端の「遠位性」に関係すると考えられる病変も遅延させることを示した。従って、WldS遺伝子は、軸索変性の2つのモデル間の機械学的連結を提供する。
【0138】
WldS遺伝子の同定及び特徴付けにもかかわらず、ワーラー変性の分子的引き金の理解に向けた進展は、限られている。この引き金の知見は、「遠位性」神経変性疾患の初期段階の理解に多大な影響がある可能性がある。
【0139】
WldS遺伝子を持つマウスは、ワーラー変性を遅延させた。WldS突然変異は、マウス4番染色体に起こる常染色体優性突然変異である。遺伝子変異は、天然に存在する85kbの直列の三重化であり、2つの関連する遺伝子:ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリル転移酵素1(Nmnat-1)及びユビキチン化因子e4b(Ube4b)、並びに18アミノ酸をコードするリンカー領域を含有する変異領域をもたらす。作製されるタンパク質は、核内に局在し、軸索においては検出できない。
【0140】
突然変異は、マウスに対する有害性の原因にならないように見える。唯一の公知の効果は、ワーラー変性が、神経の傷害の後に平均で最長3週間まで遅延するということである。最近の研究は、突然変異が、十分に解明されていない機序によって軸索を保護することを示唆する。いかなる特定の理論によっても束縛されないが、WldS突然変異が、Nmnatタンパク質(例えば、Nmnat-1)の過剰発現及び/又は局在化の改善をもたらし、NAD合成を増加させる可能性が高い。
【0141】
特定の実施形態において、方法は、対象にNmnat(例えば、Nmnat-1-2又は-3)又はWldSをコードするポリヌクレオチドを投与する工程を含む。
特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、WldS又はそのヒト配列相当物をコードする。
【0142】
特定の実施形態において、方法は、対象にNAM又は前駆体、及びWldSをコードするポリヌクレオチドを投与する工程を含む。
特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、対象に局所的に投与される。
例えば、緑内障を処置するために、薬剤は、冒された眼に局所的に送達されてもよい。
【0143】
ベクター
特定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、ウイルスベクターで対象に投与される。典型的な適切なウイルスベクターには、それだけには限らないが、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、等がある。好ましくは、ウイルスベクターは、AAVベクター又はレンチウイルスベクターである。
【0144】
例えば、ポリヌクレオチドは、1つ又はそれ以上の対象となる標的遺伝子の発現をモジュレートすることができる外来性遺伝物質として対象に導入することができる。そのよう
な種類の遺伝子治療は、例えば、損傷した又は疾患のある組織、ニューロン組織など、を修復するために行われる方法に使用することができる。要約すると、アデノウイルス、レンチウイルス、又はレトロウイルス遺伝子送達媒体(下記参照)を含めた任意の適切なベクターを使用して、対象にDNA及び/又はRNAの様な遺伝情報を送達することができる。当業者は、遺伝子治療において標的される特定の遺伝子を置き換える又は修復することができる。例えば、正常遺伝子を、疾患のある細胞のゲノム内の非特異的な場所に挿入して、機能しない遺伝子を置き換えることができる。別の例において、異常な遺伝子配列を、相同組換えにより正常遺伝子配列と置き換えることができる。別法として、選択的復帰突然変異は、その正常機能に遺伝子を戻すことができる。更なる例は、特定の遺伝子の調節(遺伝子が、オン又はオフにされる程度)を改変する。特定の実施形態において、標的細胞(ニューロン幹細胞など)が、遺伝子治療手法によってex vivoで処置され、哺乳動物、好ましくは処置を必要とするヒトへその後移される。
【0145】
様々な核酸構築物によるトランスフェクション及び感染(例えば、ウイルスベクターによって)を含めた、遺伝子操作に関する当業者に認められた任意の方法を、使用することができる。
【0146】
例えば、異種核酸(例えば、DNA)は、物理的処置(例えば、エレクトロポレーション、ソノポレーション、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、インペールフェクション(impalefection)、ハイドロダイナミック送達、ナノ粒子、マグネットフ
ェクション)によって、化学材料又は生物学的ベクター(ウイルス)を使用して対象に導入することができる。化学性トランスフェクションは、リン酸カルシウム、シクロデキストリン、ポリマー(例えば、DEAEデキストラン又はポリエチレンイミンなどの陽イオン性ポリマー)、デンドリマーなど高度に分枝化した有機化合物、リポソーム(陽イオン性リポソームなど、Lipofectamine、等を使用するリポフェクションなどのリポフェクション)又はナノ粒子(化学又はウイルス官能化有り無し)に基づき得る。
【0147】
核酸構築物は、対象の核酸分子を含み、それが導入された細胞内で対象の核酸分子の発現を指令することが一般に可能である。
特定の実施形態において、核酸構築物は、ポリペプチドなどの遺伝子産物又はポリペプチドの発現をアンタゴナイズする核酸(例えば、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンス配列、アプタマー、リボザイム、アンタゴmir、RNAスポンジ、等)をコードする核酸分子が、標的細胞における核酸分子の発現を指令可能なプロモーターに作動的に連結されている発現ベクターである。
【0148】
特定の細胞への導入のために調製されるDNA構築物は、細胞によって認識される複製系、所望のポリペプチドをコードする意図するDNA区分、並びにポリペプチドをコードする区分に作動的に連結された転写及び翻訳開始及び終結調節配列を一般に含む。DNA区分は、それが別のDNA区分と機能的な関係に置かれる場合、「作動的に連結される」。例えば、プロモーター又はエンハンサーは、それが配列の転写を刺激する場合、コード配列に作動的に連結される。シグナル配列のためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドをコードするDNAに作動的に連結される。一般に、作動的に連結されているDNA配列は連続しており、シグナル配列の場合、両方が連続し、読み枠相にある。しかしながら、エンハンサーは、それが転写を制御するコード配列と連続する必要がない。連結は、簡便な制限部位又はその代わりに挿入されるアダプタ若しくはリンカーでのライゲーションによって完成される。
【0149】
適当なプロモーター配列の選択は、DNA区分の発現のために選択された宿主細胞によって一般に決まる。適切なプロモーター配列の例には、当業者に周知の真核生物プロモーターがある(例えば、Sambrook及びRussell、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3編、2001年を参照のこと)。転写調節配列は、細胞によって認識される異種エンハンサー又はプロモーターを一般に含む。適切なプロモーターには、CMVプロモーターがある。複製系並びにポリペプチドコード区分の挿入部位と一緒に転写及び翻訳の調節配列を含む発現ベクターを、使うことができる。細胞株及び発現ベクターの実行可能な組合せの例は、Sambrook及びRussell(2001年、上記)及びMetzgerら(1988年)Nature、334:31~36頁に記述されている。
【0150】
本発明のいくつかの態様は、上で定義したヌクレオチド配列を含む核酸構築物又は発現ベクターの使用に関し、ベクターは、遺伝子治療に適切なベクターである。
遺伝子治療に適切なベクターは、Anderson(Nature、392:25~30頁、1998年);Walther及びStein(Drugs、60:249~71頁、2000年);Kayら(Nat.Med.、7:33~40頁、2001年);Russell(J.Gen.Virol.、81:2573~604頁、2000年);
Amado及びChen(Science 285:674~6頁、1999年);Federico(Curr.Opin.Biotechnol.、10:448~53頁、1999年);Vigna及びNaldini(J.Gene Med.、2:308~16頁、2000年);Marinら(Mol.Med.Today、3:396~403頁、1997年);Peng及びRussell(Curr.Opin.Biotechnol.、10:454~7頁、1999年);Sommerfelt(J.Gen.Virol.、80:3049~64頁、1999年);Reiser(Gene Ther.、7:910~3頁、2000年);及びその中に引用される文献(参照により全て組み込む)に記述されるものなど当業者に公知である。例には、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス並びにヘルペスウイルスに基づくものなど組み込み型及び非組み込み型ベクターがある。
【0151】
特に適切な遺伝子治療ベクターには、アデノウイルス(Ad)及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターがある。これらのベクターは、大多数の分裂及び非分裂細胞型に感染する。加えて、アデノウイルスベクターは、高レベルの導入遺伝子発現が可能である。しかしながら、(Russell、J.Gen.Virol.、81:2573~2604頁、2000年;Goncalves、Virol J.、2(1):43頁、2005年)に記載の通り、細胞侵入後のアデノウイルス及びAAVベクターのエピソーム性性質のため、これらのウイルスベクターは、導入遺伝子の一過性の発現しか必要としない治療適用に最も適している。Russell(2000年、上記)によって見直されたように、好ましいアデノウイルスベクターは、宿主応答を減少させるために修飾される。AAV遺伝子導入の安全性及び有効性は、肝臓、筋肉、CNS及び網膜にける有望な結果と共にヒトにおいて徹底的に研究された(Mannoら、Nat.Medicine、2006年;Stroesら、ATVB、2008年;Kaplitt、Feigin、Lancet、2009年;Maguire、Simonelliら、NEJM、2008年;Bainbridgeら、NEJM、2008年)。
【0152】
AAV2は、ヒト及び実験モデル両方において遺伝子導入研究のために最も特徴付けられた血清型である。AAV2は、骨格筋、ニューロン、血管平滑筋細胞及び肝細胞に向かう天然の向性を示す。アデノ随伴ウイルスに基づく非組み込み型ベクターの他の例には、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11及び偽型AAVがある。AAV8及びAAV9の様な非ヒト血清型の使用は、対象におけるこれらの免疫学的応答を克服するのに有用となる可能性があり、臨床試験がちょうど始まった(ClinicalTrials dot gov Identifier:NCT00979238)。肝細胞への遺伝子導入の場合、アデノウイルス血清型5又はAAV血清型2、7若しくは8は有効なベクターであり、従って好ましいAd又はAAV血清型になると示された(Gao、Molecular Therapy、13:77~87頁、2006年)。
【0153】
本発明における適用のための典型的なレトロウイルスベクターは、レンチウイルスに基づく発現構築物である。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染する固有の能力を有する(Amado及びChen、Science 285:674~676頁、1999年)。レンチウイルスに基づく発現構築物の構築及び使用に関する方法は、米国特許第6,165,782号、第6,207,455号、第6,218,181号、第6,277,633号及び第6,323,031号並びにFederico(Curr.Opin.Biotechnol.10:448~53頁、1999年)及びVignaら(J.Gene Med.2:308~16頁、2000年)に記述されている。
【0154】
一般に、遺伝子治療ベクターは、発現しようとする本発明の遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列を含み、前述の通りヌクレオチド配列が適当な調節配列に作動的に連結されるという意味で上述した発現ベクターのことになる。そのような調節配列は、プロモーター配列を少なくとも含むことになる。遺伝子治療ベクターからポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるのに適切なプロモーターには、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)中初期プロモーター、マウスモロニー白血病ウイルス(MMLV)、ラウス肉腫ウイルス又はHTLV-1由来などのウイルス性末端反復配列プロモーター(LTR)、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター及び単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーターがある。更なる適切なプロモーターについては、以下で記述される。
【0155】
小さい有機又は無機化合物の投与によって誘導し得るいくつかの誘導可能なプロモーター系が、記述されてきた。そのような誘導可能なプロモーターには、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター(Brinsterら、Nature、296:39~42頁、1982年;Mayoら、Cell、29:99~108頁、1982年)など重金属、RU-486(プロゲステロンアンタゴニスト)(Wangら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91:8180~8184頁、1994年)、ステロイド(Mader及びWhite、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90:5603~5607頁、1993年)、テトラサイクリン(Gossen及びBujard、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:5547~5551頁、1992年;米国特許第5,464,758号;Furthら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91:9302~9306頁、1994年;Howeら、J.Biol.Chem.、270:14168~14174頁、1995年;Resnitzkyら、Mol.Cell.Biol.、14:1669~1679頁、1994年;Shockettら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、92:6522~6526頁、1995年)並びにVP16の活性化ドメインとしてtetRポリペプチド及びエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインで構成されるマルチキメラトランス活性化因子に基づくtTAER系(Yeeら、2002年、米国特許第6,432,705号)によって制御されるものがある。
【0156】
RNA干渉(下記参照)によって特定の遺伝子をノックダウンするためのスモールRNAをコードするヌクレオチド配列に適切なプロモーターには、上記のポリメラーゼIIプロモーターに加えて、ポリメラーゼIIIプロモーターがある。RNAポリメラーゼIII(pol III)は、5S、U6、アデノウイルスVA1、Vault、テロメラーゼRNA及びtRNAを含めた多種多様な、核内及び細胞質性非コード低分子RNAの合成に関与する。これらRNAをコードする多数の遺伝子のプロモーター構造が決定され、RNA pol IIIプロモーターが、3つの型の構造に分類されることが分かってい
る(総説については、Geiduschek及びTocchini-Valentini、Annu.Rev.Biochem.、57:873~914頁、1988年;Willis、Eur.J.Biochem.、212:1~11頁、1993年;Hernandez、J.Biol.Chem.、276:26733~36頁、2001年を参照のこと)。siRNAの発現に特に適切なのは、RNA pol IIIプロモーターの3型であり、それにより転写は、5’-隣接領域、即ち転写開始点の上流においてのみ見られるシス作用エレメントによって駆動される。上流の配列エレメントには、従来のTATAボックス(Mattajら、Cell、55:435~442頁、1988年)、近位配列エレメント及び遠位配列エレメント(DSE;Gupta及びReddy、Nucleic Acids Res.、19:2073~2075頁、1991年)がある。3型pol IIIプロモーターの制御下にある遺伝子の例は、U6核内低分子RNA(U6 snRNA)、7SK、Y、MRP、HI及びテロメラーゼRNA遺伝子である(例えば、Myslinskiら、Nucl.Acids Res.、21:2502~09頁、2001年を参照のこと)。
【0157】
遺伝子治療ベクターは、第2の又は更なるポリペプチドをコードする第2の又は1つ又はそれ以上の更なるヌクレオチド配列を任意選択で含むことができる。第2の又は更なるポリペプチドは、発現構築物を含有する細胞の同定、選択及び/又はスクリーニングを可能にする(選択可能な)マーカーポリペプチドとすることができる。この目的に適切なマーカータンパク質は、例えば、蛍光タンパク質GFP、並びに選択可能なマーカー遺伝子であるHSVチミジンキナーゼ(HAT培地における選択のため)、細菌ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(ハイグロマイシンBに対する選択のため)、Tn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(G418に対する選択のため)及びジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)(メトトレキサートに対する選択のため)、CD20、低親和性神経成長因子遺伝子である。これらのマーカー遺伝子を得るための供給源及びその使用のための方法は、Sambrook及びRussell、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、2001年に提供される。
【0158】
別法として、必要とみなされる場合、第2の又は更なるヌクレオチド配列は、対象がトランスジェニック細胞から治癒されることを可能にする二重安全機序を提供するポリペプチドをコードすることができる。しばしば自殺遺伝子と称されるそのようなヌクレオチド配列は、プロドラッグを、ポリペプチドが発現されているトランスジェニック細胞を死滅させることができる毒性物質に変換することが可能なポリペプチドをコードする。そのような自殺遺伝子の適切な例には、例えば、大腸菌シトシンデアミナーゼ遺伝子又は単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス及び水痘帯状疱疹ウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子のうちの1つがあり、この場合ガンシクロビルをプロドラッグとして使用して、対象内のIL-10トランスジェニック細胞を死滅させることができる(例えば、Clairら、Antimicrob.Agents Chemother.、31:844~849頁、1987年を参照のこと)。
【0159】
眼における遺伝子治療のための投与経路
一態様において、本発明は、眼変性疾患を処置するための遺伝子治療の方法を提供する。当業者は、硝子体内投与又は眼内投与を含む眼における遺伝子治療の経路を認識するだろう。
【0160】
眼内投与は、眼球どこへでも遺伝子組成物を送達する。
好ましい実施形態において、遺伝子組成物は、硝子体内に注射される。硝子体内投与は、遺伝子組成物を眼の硝子体区画、即ち、網膜に直ぐ近接する眼の後部を構成する液体に直接送達する。特定の実施形態において、注射の間硝子体は、薬物のための空間を作るために除去される。
【0161】
硝子体内注射は、一般に診療所において行われるが、病院の手術室において行うこともできる。患者は、プロパラカイン、リドカイン、その他など日常的な薬物で局所麻酔(通常点眼薬又は浸漬したスポンジ/綿棒)を一般に受ける。
【0162】
特定の実施形態において、遺伝子組成物は、網膜下に注射される(即ち、網膜の下)。
注射の場合、27~32ゲージの注射針サイズを使用することができる。好ましい実施形態において、注射針サイズは、30ゲージである。注射針注射は、眼に薬剤を注射するための普及している技術であり、全く危険性はない。注射は、深部又は表面であり得る。注射は、垂直(即ち眼の表面に対して90°で)、斜め(45~60°)又はダブルペイン(double-pane)(斜めに、外へ垂直に)とすることができる。
【0163】
眼における遺伝子治療
本発明は、遺伝子組成物を使用して、RGCにおいてNAD+を上昇させる遺伝子治療を提供する。眼は、サイズが小さく(即ち、トランスフェクトする細胞が少ない)、容易に接近でき、部分的に/ほとんど免疫特権化されており(即ち、免疫応答を引き起こす可能性が低い/ほとんどない)、他眼が対側性対照及び予備として役立つので、遺伝子治療を利用するには理想的な器官である。
【0164】
いくつかの眼に基づく遺伝子治療臨床試験が、失明に至る障害に対して行われてきた。例えば、レーバー先天性黒内障を処置するためのAAV2ベクターによるRPE65遺伝子の遺伝子治療は、第3相臨床試験(NCT00481546、NCT00516477、NCT00643747及びNCT00999609)であり;網膜色素変性を処置するためにAAV2ベクターを使用するMERTK遺伝子の遺伝子治療は、第1相(NCT014822195)であり;シュタルガルト病を処置するためにEIAVレンチウイルスベクターを使用するABCA4遺伝子の遺伝子治療は、現在第2相(NCT01367444)であり;コロイデレミア(Chorioderemia)を処置するためにAAV2ベクター
を使用するREP-1遺伝子の遺伝子治療は、現在第2相(NCT02553135)である。いくつかのクリニックにおける臨床研究は、眼への遺伝子送達が安全に許容されるように見えることを実証する。
【0165】
併用療法-更なる治療的薬剤
特定の実施形態において、本発明は、それを必要とするヒトに神経細胞(例えば、RGC)におけるNAD+細胞内レベルを増強させる化合物及び更なる治療的薬剤を投与することによる神経変性の併用療法処置の方法を提供する。
【0166】
特定の実施形態において、緑内障を処置するための本発明の更なる治療的薬剤は、IOPを低減する薬剤を含むが、これに限定されない。更なる典型的な治療的薬剤には、β受容体遮断薬(マレイン酸チモロール、チモロール半水和物、レボブノロールHCL、メチプラノロール、カルテオロール、ベタキソロール、など)、非選択的アドレナリン作動薬(エピネフリン、ジピベフリンHCLなど)、選択的α-2アドレナリン作動薬(アプラクロニジンHCL、ブリモニジン酒石酸塩、及びプリテ中のブリモニジン酒石酸塩など)又は炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド[経口]、アセタゾラミド[非経口]、メタゾラミド[経口]、ドルゾラミド[局所]及びブリンゾールアミド[局所]などのCAI)があるが、これに限定されない。
【0167】
特定の実施形態において、更なる治療的薬剤には、プロスタグランジン類似体(ラタノプロスト、トラボプロスト及びビマトプロスト[プロスタミド]など)、副交感神経刺激
性アゴニスト(ピロカルピンHCLなどの直接コリン作動性アゴニスト;並びにヨウ化エコチオフェート、ヨウ化デメカリウム(demercarium)及びフィソスチグミンイソフルオ
ロフェートなどの間接的コリン作動薬を含む)及びカルバコール(混合直接アゴニスト/アセチルコリン遊離薬)がある。
【0168】
特定の実施形態において、更なる治療的薬剤は、利便性、服薬順守、有効性及び費用を高めた潜在的利点を提供する配合薬品を含む。配合物は、プロスタグランジン類似体、αアドレナリン作動薬アゴニスト又は局所性炭酸脱水酵素阻害薬と組み合わせた局所性β受容体遮断薬を含むことができる。典型的な配合には:(1)2%ドルゾラミド塩酸塩及び0.5%マレイン酸チモロール点眼液など、ドルゾラミド及びチモロール(例えば、コソプト、現在後発品として利用可能である)、(2)0.2%ブリモニジン酒石酸塩及び0.5%マレイン酸チモロール点眼液(例えば、コンビガン)並びに0.2%ブリモニジン酒石酸塩及び1%ブリンゾールアミド(例えば、シンブリンザ)など、チモロール又はブリンゾールアミドを含むブリモニジン、又は(3)ラタノプロスト及びチモロールがある。
【0169】
特定の実施形態において、更なる治療的薬剤は、経口グリセリン、経口イソソルビド及び硝子体容積を低下させることによってIOPを急速に低減することができる静脈内マンニトールなどの高浸透圧薬剤を含む。それらは、血液眼関門を横断しない、従って、硝子体を脱水する膠質浸透圧を及ぼさない。高浸透圧薬剤は、より決定的な処置が提供できるまで、高IOPを一時的に減少させるために急性局面で一般に使用される。
【0170】
本発明は、以下の非限定的な例によって例示される。
【実施例0171】
[実施例1]緑内障感受性遺伝子/経路の同定
(A)ヒトにおける神経変性を模倣するマウスモデルの選択
DBA/2J D2(D2)マウスモデルを選択してヒトにおける神経変性の病因を調べた。D2マウスは、緑内障の広く使用されているモデルであり、ヒト緑内障の顕著な特徴を概括する。D2マウスにおいて、2つの遺伝子(GpnmbR250X、Tyrp1b)の変異対立遺伝子は、進行性虹彩疾患の原因になる。この虹彩疾患には、2つの主要な要素:虹彩間質性萎縮(ヒトの本態性虹彩萎縮に非常に似ている)及び虹彩色素脱出表現型(ヒトの色素脱出症候群に非常に似ている)がある。本態性虹彩萎縮及び色素脱出症候群は、ヒトにおいてIOP上昇及び緑内障を誘導する。D2眼における虹彩疾患は、8~9ヵ月齢までの大多数の眼に老人性の眼内圧(IOP)上昇をもたらす。視神経変性は、12ヵ月齢までにほぼ完了する(一般に、70%超の神経が、重度の損傷を有する)。
【0172】
本研究において、D2マウスは、老人性IOP増加後に眼神経変性を受けることが検証された。特に、3つの月齢;即ち、4、9、及び12ヵ月齢のD2マウスを使用した。
(i)4ヵ月齢D2マウスが、正常眼内圧(IOP)(即ち、10~13mmHg)であり、緑内障を呈しないことを検証した(即ち、これらのマウスは、IOP及び前緑内障の発症前の月齢である;検出可能な神経変性はない)。この月齢において、D2マウスは、対照マウスと区別がつかない。
【0173】
(ii)9ヵ月齢D2マウスが、高IOP(即ち、21mmHg超)であるが神経変性を呈しないことを検証した。従来通りの緑内障は、この発育段階(即ち、前神経変性)において存在しないが、9ヵ月齢D2マウスの眼は、本明細書において「初期の緑内障」を有すると定義される分子変化を受ける。
【0174】
(iii)12ヵ月齢のD2マウスが、様々な高IOP(即ち、14~>21mmHg
)を呈することを検証し、神経変性が、明らかになる(即ち、緑内障;60%超の眼が、重度の神経変性を有する)。
【0175】
(iv)対照D2-Gpnmb+マウスは、老化に伴う高IOPも神経変性も呈さないので、このマウスを本研究に使用した。これらのマウスは、虹彩疾患を引き起こすGpnmbR250X突然変異の修正を除いてD2マウスと同一である。
【0176】
(B)D2マウスの網膜からの網膜神経節細胞(RGC)の単離
(i)4ヵ月齢DBA/2J D2マウス、(ii)9ヵ月齢DBA/2J D2マウス、及び(iii)月齢、性別及び系統が同じD2-Gpnmb+野生型対照から得た眼から網膜を採取した。
【0177】
網膜サンプルを、抗体カクテルで最初に染色した。網膜神経節細胞(RGC)を、Thy1.2+細胞(及びCd11b-、Cd11c-、Cd31-、Cd34-、Cd45.2-、GFAP-、DAPI-に陰性)として同定した。FACS陽性RCGを平板培養し、SNAP-25及びβ-チューブリン(RGCの特異的マーカー)で染色して、RGCの状態を確認した。
【0178】
蛍光活性化細胞分取(FACソーティング)を使用して、これら3つの群のマウスにおいて新たに採取した網膜からRGCを次いで単離した。
図27A~
図27Hを参照のこと。
【0179】
(C)RNA配列決定
緑内障をもたらす感受性遺伝子/経路を同定するために、(B)において上で得られたRGCのRNAからRNA-配列決定(RNA-seq)を実施して、神経変性に先行するRGC内の非常に初期の分子変化を説明した。増幅させたdscDNAライブラリ(二本鎖コピーDNA)をRNAから生成し、サンプル当たり35000000個のリード深度で読んだ。データ分析を、偽発見率q<0.05の(FDR、q)で実施した。全ての群のサンプル(B)は、成功裏に増幅され、配列決定された。
【0180】
4、9、及び12ヵ月齢D2並びにD2-Gpnmb+眼由来神経網膜の更なる代謝的プロファイリングを実施した。代謝的プロファイリングを、製造業者の推奨に従って標的アッセイを使用して実施した。以下の代謝産物がプロファイルされた:NAD+/NADH(即ち全NAD、NAD[t])、GSH/GSSG(即ち全グルタチオン、グルタチオン[t])及びピルビン酸。
【0181】
(D)階層的クラスタ分析(HC)
本研究において、サンプル当たり35000000個のリード深度で、単離されたRGC由来のRNAを配列決定した。教師なし階層的クラスタリング(HC)を使用して、疾患の初期段階にあり、同月齢のD2-Gpnmb+又は若齢対照と形態学的に区別がつかないサンプル間で分子的に決定される緑内障の段階を定義した。
【0182】
HCは、9ヵ月齢D2サンプルの固有の4つの群(即ち、群1、群2、群3及び群4)を同定した。群1は、対照サンプルの全てでクラスタ形成し、分子レベルで検出可能な緑内障がないD2 RGCを表す。群2~4の全てのサンプルは、初期の疾患段階であり、群番号の増加が、対照からの距離の増加を反映する(トランスクリプトームレベルでより大きい疾患の進行)ことが観察された(
図1、
図2A及び
図2B)。
【0183】
疾患が進行するにつれて、ミトコンドリアリードに対して最も顕著な転写産物存在量の増加があった(
図3A)。核及びミトコンドリアゲノムにコードされるミトコンドリア分
子の相対的な割合の不均衡は、ミトコンドリア機能に負の影響力を与える。D2群2~群4において、ミトコンドリア機能不全及び酸化的リン酸化経路におけるミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子の差異的発現並びに差異的に発現される遺伝子の有意な濃縮(月齢及び性別が同じD2-Gpnmb
+対照RGCSと比較して)は、RGC内のミトコンドリア異常を更に指し示す(
図3A~
図3J及び
図3K、並びに下記の表1~表3)。
【0184】
トランスクリプトーム全体の総リード存在量(即ち転写された遺伝子全て)を、核トランスクリプトーム(即ち、核にコードされている)又はミトコンドリアトランスクリプトーム(即ち、ミトコンドリアでコードされている)から得られるリードに分割した。D2 RGCにおけるリード存在量は、両方のトランスクリプトームで増加したが、ミトコンドリア由来リードにおいて最も豊富であった。このことはミトコンドリア機能不全を促すだろう不均衡を示す(
図3A)。
【0185】
D2群2、3及び4に現れる濃縮された上位の経路(IPA)。差異的に発現される(DE)遺伝子が1つしかないので、D2群1に濃縮された経路はない。このD2群1は、緑内障の侵襲を受けなかった眼を表す(
図3B)。
【0186】
核遺伝子にコードされる(ミトコンドリアにコードされない)ミトコンドリアタンパク質全てのプロットを作成した。DE遺伝子を、赤色で示す。非DE遺伝子を、灰色で示す。ミトコンドリアタンパク質をコードする核由来転写産物の存在量の増加は、ミトコンドリアの代謝回転又は機能における不均衡を更に示す(
図3C)。
【0187】
ミトコンドリア分裂遺伝子(Dnm1及びFis1)の発現の増加は、緑内障初期のミトコンドリアにおける前分裂事象を示す。分裂の増加は、ミトコンドリアの代謝回転及び疾患の増加と関係している。ミトコンドリア融合/分裂動態に影響を及ぼす突然変異は、一般に致死的である、又は神経学的病態の原因になる(優性視神経萎縮症、シャルコーマリーツース病を含むがこれに限定されない)(
図3D)。
【0188】
ミトコンドリア小胞体ストレス応答に関係する遺伝子の発現が増加した。これは、アポトーシス(プログラム細胞死)に一般にしばしば先行する細胞内のストレス応答である(
図3E)。
【0189】
ミトコンドリアに関連する経路にある遺伝子の個々のプロットを作成した。DE遺伝子を、赤色で示し、非DE遺伝子を、灰色で示す。経路全体、特に酸化的リン酸化及び活性酸素種代謝におけるミトコンドリア遺伝子の上方調節は、細胞内のエネルギー危機を指し示す点に留意すべきである(
図3F)。
【0190】
網膜由来ミトコンドリアアポトーシス促進性分子チトクロムCのタンパク質分析(ウェスタンブロット)は、初期の緑内障(9ヵ月)の間にチトクロムCが遺伝子及びタンパク質レベル両方で上方調節され、12ヵ月まで有意に上方調節されたことを示す(
図3G及び
図3I)。
【0191】
タンパク質分析は、網膜内のeIF2上方調節があったことも確認する(
図3H及び
図3J)。
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
(E)IPA分析に基づく濃縮された上位の経路
表3は、IPA分析に基づく最も濃縮された10個の経路を挙げる。2016年7月25日に出願されたU.S.S.N.62/366,211の
図1は、D2マウスとD2-Gpnmb
+対照の間の濃縮された上位の経路の予備分析の結果を提供する(その開示を、参照により組み込む)。
【0199】
【0200】
【0201】
経路分析によって、eIF2及びmTORシグナル伝達転写産物の濃縮が同定され(
図3B及び
図3F)、eIF2シグナル伝達が、群2において最も濃縮された経路であった(対照と識別可能な最初の段階)。
【0202】
ミトコンドリア分裂遺伝子(Dnm1及びFis1)の有意な上方調節(
図3D)及びミトコンドリア小胞体ストレス応答(UPRmt)に対する有意な変化(
図3E)があり、ミトコンドリア機能不全を更に示した。
【0203】
(F)形態により、ミトコンドリア異常が明らかになる
本研究において、これらマウスの網膜に対して電子顕微鏡検査(EM)を実施することによって形態学的な交替を評価した。EMは、細胞内オルガネラ(ミトコンドリアなど)の形態を研究するのに利用可能な最大の分解能を現在与える。EMにより、D2 RGCの樹状突起においてミトコンドリアクリステ容積が減少した機能不全のミトコンドリアが明らかになったが、対照RGCにはなかった(
図4A及び
図4B)。これらのミトコンドリアEM所見は、9ヵ月齢D2網膜におけるシナプス喪失、パターン網膜電図振幅(PERG、ヒト患者及び動物両方におけるRGC活性の高感度の評価基準)の初期の減少(
図14)、及び網膜チトクロムcレベルの増加(
図3G)と一致する。
【0204】
示したこれらのデータは、ミトコンドリアの乱れが、遺伝性老人性緑内障においてin
vivo RGC内に起こる最初の変化の1つであることを明らかに実証する。本発見は、培養細胞が、圧力に供された場合に、ミトコンドリア異常を受けると報告されているin vitro研究と整合している。しかしながら、in vitro研究は、緑内障におけるin vivoのミトコンドリア異常が、どれくらい初期に起こるかを立証できない(一方で本発見は立証する)。
【0205】
要約すれば、本RNA-seq研究により、検出不可能な神経変性表現型がある緑内障傾向がある眼のRGCにおける転写プロセシング及びミトコンドリア機能不全が明らかになった。ミトコンドリア機能不全は、標的化代謝性アッセイ及びEMによって確認され、初期のエネルギー危機とともに緑内障における初期の異常なミトコンドリアが示された。
【0206】
[実施例2]代謝的プロファイリング
疾患の前及び最初期段階(即ち、4ヵ月[前緑内障]、どんな神経変性もなしに高IOPが存在する場合には9ヵ月齢、及び大多数の眼において神経変性が存在する/重度である場合12ヵ月)の間に、ミトコンドリア機能不全/エネルギー危機が、(対照D2-Gpnmb+マウスと比較して)D2マウスに存在するかどうか決定するために、神経網膜の代謝プロファイリングを実施した。
【0207】
4、9、及び12ヵ月齢D2並びにD2-Gpnmb
+眼由来神経網膜の更なる代謝的プロファイリングを実施した。代謝的プロファイリングを、製造業者の推奨に従って標的アッセイを使用して実施した。以下の代謝産物をプロファイルした:NAD
+/NADH(即ち全NAD、NAD[t])、GSH/GSSG(即ち全グルタチオン、グルタチオン[t])及びピルビン酸。有意な老人性減少が、プロファイルされた全ての代謝産物にあった。これらの代謝プロファイルの変化は、検出可能なあらゆる神経変性表現型の前にも起こり、同年齢の、緑内障ではない、対照D2-Gpnmb
+網膜にも起こる(
図5A~
図5D)。
【0208】
これらは、細胞の代謝及び細胞のストレスからの保護において鍵となる分子なので、これらの年齢依存的下降は、疾患関連ストレス及びミトコンドリア機能不全に対して網膜ニューロンを鋭敏にすると思われる。
【0209】
データは、HIF-1α(乱れた酸化還元状態の間に鍵となる代謝調節因子)が、緑内障初期に神経節細胞層において誘導されたことを示す(RNA-seq及び免疫染色による:
図6A及び
図6B)。これは、RGCが、緑内障初期に代謝の乱れ(及び活性酸素種のその後の過剰な生成)を受けることを更に示唆する。
【0210】
IOPの上昇、ミトコンドリア機能不全、代謝物質除去(特にNAD)及び細胞のストレスの間の連結を研究するために、初期の緑内障におけるDNA損傷及びPARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)の役割を調べた。PARPは、DNA損傷に応答し、細胞内NADの主要な消費体である。
【0211】
RNA-seqデータセットは、RGCがミトコンドリアストレス及び代謝物質除去の期間を経て、潜在的に脂肪酸代謝の方へ進むことを示唆する(初期緑内障の間の網膜における脂質沈着の増加と一致する、
図7A及び
図7B)。
【0212】
脂肪酸β酸化の1つ結末は、フリーラジカル/活性酸素種(ROS)生成の増加である。従って、ROS誘導性DNA損傷の徴候について、網膜を更に評価した(RNA-seq、
図3F;及びdsDNA切断の高感度マーカーであるγ-H2AX免疫染色による)。γ-H2AX
+核は、D2網膜の神経節細胞層の全体に存在するが対照には存在しないことが判明し、このことは、DNA損傷が緑内障の非常に初期に増加することを示した(
図8A及び
図8B)。
【0213】
PARP活性が、RGCにおいて年齢に伴って誘導されることが判明し(
図9A及び
図9B)、このことはDNA損傷とRGC内の代謝的ストレスの増加とのつながりを提供した。本発見は、PARPがDNA損傷によって誘導され、主要なNAD
+消費酵素であり、ヘキソキナーゼのPAR阻害により解糖を阻害するという仮説と整合する。
【0214】
D2マウスモデルは、年齢が、緑内障及び他の様々な神経変性疾患の主要な危険因子であるというパラダイムを明らかに支持する。代謝プロファイルデータは、加齢が、ニューロンの主要代謝産物の除去によって損傷に対するニューロンの脆弱性をどのように増加させ得るかについて示唆する。
【0215】
全体として、本明細書に提示されるデータは、網膜におけるNAD及びグルタチオンの年齢依存的な下降が、緑内障及びおそらく他の老人性疾患に対してRGCを鋭敏にする新しいモデルを支持する。RGCは、有害な高IOP及び緑内障に特に影響を受けやすい。従って、年齢依存的な代謝物質下降並びにRGC内のPARP活性化は、細胞代謝の混乱及び持続中のIOP誘導ストレスに対する感受性の増加に至り、RGCの決定的な損傷をもたらす。
【0216】
D2マウスにおいて、緑内障の神経変性は、老人性であり、慢性的、非同期である。D2緑内障の発症の間、RGCは、接続性の初期の喪失、並びに代謝及び分子変化を受け、その変化の全ては、全体の神経細胞体喪失、軸索喪失及び視神経の変性の前に起こる。これらの初期の変化は、細胞代謝の確実性を低下させ、RGCが持続中のIOP誘導ストレス下にある場合、年齢に伴う細胞の不全の確率を増加させると思われる。
【0217】
要約すれば、RNA-配列決定及び代謝性アッセイに基づくと、網膜内のニューロンは、変性前に代謝危機を経るということを発見した。これは、ミトコンドリア機能の方法を改変又は補充することができる代謝分子が、鍵となる役割を担うことを示唆する。これらの機能不全の過程を修正することは、緑内障の他にも利益があり、より全般的な老人性変化に関連する可能性が高い。
【0218】
これまでのところのデータは、NADの下降が、緑内障に対する老人性ニューロン脆弱性にとって中心的であることをこれまで示している。
[実施例3]NAMは、軸索切断培養において神経細胞喪失を保護する
この一連の研究において、NADレベルを増加させることにより、侵襲された眼を神経変性変化から保護できるかどうか調べた。軸索切断(即ち軸索を分断すること)は、いくつかの緑内障に見られる急性の重度の侵襲を模倣し、これらのより重度の侵襲を試験するための重要なモデルである。
【0219】
本研究は、代謝/エネルギー不全の確率を低下させることにより、外部ストレスに対してより強いRGCを提供できるはずであるという仮説に基づく。
ミトコンドリアで作用がある多量の薬物を、軸索切断培養において試験して、D2マウスにおいて観察されるミトコンドリア機能不全/エネルギー危機を潜在的にアンタゴナイズする候補薬物を同定した。スクリーニングにより、ニコチンアミド(NAM)が、核リモデリングプレアポトーシスの顕著な特徴である核収縮に対して最も強力な保護を与えると同定された。
図22A及び
図22B。
【0220】
上記のin vitroでの発見は、実施例3におけるin vivoでの結果と整合している。
[実施例4]NAMは、D2マウスにおいて緑内障を軽減する
D2マウスの大きなコホートを使用してin vivo実験を行った。
【0221】
この実験において、視神経を3つの損傷レベル:NO(緑内障でない)、MOD(中等度の損傷)及びSEV(重度の損傷)に分類した。
実験的なD2マウスを以下の群に分割し、与えた:
W=水(標準マウス水)
NAM又はNAM
Lo=飲料水中の550mg/kg/日のNAM
初期=初期開始==プレ緑内障=6ヵ月齢(即ち予防的)
後期=後期開始=緑内障中=9ヵ月齢(マウスがすでに高IOPである場合、即ち介入的、ヒト緑内障により関係する)
NADレベルは、D2マウスにニコチンアミド(NAM;NADの前駆体)を投与することによって増加した(
図5A、
図11~
図14、
図20A及び
図20Bを参照のこと)。マウスを、12ヵ月目に視神経損傷、神経細胞体喪失、視覚機能及び軸索輸送について次いで評価した。
【0222】
飲料水中のNAM投与(550mg/kg/日、NAM
Lo)は、12ヵ月目までNADレベルの下降を予防した(この緑内障モデルにおいて神経変性を評価するための標準的な最終段階)(
図5A及び
図5E)。
【0223】
(A)NAMは、緑内障の検出可能な徴候の全てからマウスを保護する
ニューロン脆弱性仮説を支持することには、NAMは、IOPを改変しなかった(
図10A~
図10D)が、緑内障から強力に保護し、即ち、NAMは神経保護的薬剤である。重要なことに、NAMは、予防的(6ヵ月目に開始する、初期開始;コロニー内の大多数の眼においてIOP上昇の前)及び介入として(9ヵ月目に開始する、後期開始;大多数の眼が継続的なIOP上昇を有した場合)両方で保護的であった。これは、NAMが、ニューロン傷害が起こること及びニューロン傷害を、すでに侵襲されたニューロンに制限することの両方から予防できることを意味する(
図11A及び
図11B)。これは、疾患が症状を示す、従って検出可能になったときだけ処置が開始されることになるヒト疾患で重要である。
【0224】
これらのデータは、NAMを予防的に使用して、ヒト緑内障を処置できることを支持する。例えば、家族歴、眼外傷、公知の遺伝子変異のため緑内障の危険性がある、又はIOPがより高いように見られるが、緑内障の損傷が存在しない場合のいずれかの対象において。
【0225】
(B)NAMは、網膜神経節細胞機能不全及び変性を強力に予防する
NAMは有意に、視神経変性の発病率を減少させ(
図11A及び
図12A)、RGC神経細胞体喪失及び網膜薄層化を予防し(通常の方法 、例えばOCT、眼底検査によって
ヒトクリニックにおいて検出可能)(
図12A及び
図13A)、順行性軸索輸送(Ct-β追跡によって評価され;軸索機能不全及び変性の重要な初期マーカー)(
図12A)及びパターン網膜電図によって評価される視覚機能(PERG)(
図14及び
図15)を回復した。PERGは、非常に高感度であり、ヒト及び動物モデル両方において緑内障の視覚機能不全の初期の評価基準であることが示され(Salehら、Invest Ophthalmol Vis Sci 48、4564~4572頁、2007年);従って、NAMは緑内障の最初期の徴候を予防する。
【0226】
(C)NAMは、網膜における初期のシナプス喪失及び脂質滴形成を保護する
NAM投与はまた、このモデルにおいて起こる初期のシナプス喪失(SNAP-25免疫染色)から保護し(
図16A及び
図16B)、EMによって評価される異常なクリステを持つ機能不全ミトコンドリアの形成を阻害するのに充分であった(
図17A及び
図17
B)。
【0227】
脂質滴形成も、高齢のD2網膜において予防された(
図18)。
(D)NAMはPARP活性化を低下させ、緑内障の分子徴候を予防する
NAMは、乱れが少ない細胞代謝を反映するPARP活性化、限られたレベルのDNA損傷及びHIF-1αの転写誘導も低下させる(
図9A、
図9B、
図19A及び
図19B)。NAMは、上流のエフェクターを修正すること、即ちミトコンドリア内の代謝物質除去及び酸化還元緩衝作用によってこれらの損傷機序をおそらく予防する。
【0228】
NAMは、RNA-seqによって評価した通り、処置された眼の大多数において緑内障の最初期の分子徴候さえ予防した。NAM処置サンプルは、対照と分子的に類似しており、同年齢及び若齢対照サンプル両方の中でクラスタ形成された(
図20A、
図20B及び
図21A~
図21F)。
【0229】
(E)NAMは、RGCにおける老人性遺伝子発現を予防する
NAMは、RGC内の老人性遺伝子発現変化の大多数も予防した(n=DE遺伝子数;4ヵ月のD2-Gpnmb+対9ヵ月のD2-Gpnmb+=4699、9ヵ月のD2-Gpnmb+対NAM=4437、4ヵ月のD2-Gpnmb+対NAM=83)。分子保護のこの驚くべき程度は、高IOPの眼における代謝の混乱及び緑内障の確率を低下させる際のNAMの予想外の効力を強調する。年齢は、緑内障の病因における主要な危険因子であり、老人性変化に損傷を与えることを阻害することは、ヒト緑内障及び徐々に変性する他の神経変性疾患の多くの例において神経変性を予防する潜在性を有する。
【0230】
処置された眼の大部分において、NAM投与は、PERGなどの初期疾患の非常に高感度の評価基準に基づく結果を含め、緑内障を完全に予防する。加えて、多くの眼及び神経変性疾患は、損傷に対する感受性を増加させる年齢依存的分子可能性のため高齢者に起こる。NAM処置は、遺伝子発現(これらの変化の非常に高感度な評価基準)によって評価される老人性分子変化を予防する。
【0231】
更に、軸索変性及び神経細胞体の収縮は、いくつかの神経変性疾患における一般的な要素を表す可能性がある。NAMは、少なくとも緑内障処置において上記のデータに基づくこれらの変化を予防する。更に、上記のデータは、NAMが緑内障において軸索変性及び神経細胞体の収縮を予防することを示している。
【0232】
[実施例5]食物由来NAMの増加は、D2マウスにおいてIOP上昇の程度を更に小さくする
NAMは、高用量でも安全に寛容されると考えられる。いくつかの研究は、ヒトにおいて1日当たり4g超のNAMの用量で肝毒性の発病率を示唆した。しかしながら、これらは古くなった調製品の不純物に起因した。高用量のニコチンアミド又はナイアシンに対する患者6000名の最近の調査において、黄疸の事例が3つしか報告されていない。これらの1例において(6g/日ナイアシン)黄疸は、異なるが、同時に投与された薬物(ナイアシンではない)を止めた後に消散し、もう一方において黄疸は継続的なナイアシン処置でも消散した。高用量のニコチンアミドについて、異常肝臓酵素試験は、肝臓細胞損傷を示さないが、むしろ肝臓酵素発現の変化を示し、薬物を中止するとそれは急速に元に戻ることを示唆した。肝臓毒性の希な事例は、個々の遺伝的感受性又は他の個々の因子を反映する場合がある。非常に高い用量の長期の効果は、更なる評価を必要とするが、経験は、長期のニコチンアミド処置の利益に対する危険性の比が非常に有利になることを示唆する。
【0233】
緑内障の確率を更に低下させ、IOP誘導侵襲からより多くの眼を保護する試みにおい
て、D2マウスに投与されるNAM用量の増加(2000mg/kg/日で元のより低い用量の4倍に相当する、NAMHi)を使用した。
【0234】
意外なことに、NAM(この用量で)は、緑内障の視神経損傷がない処置された眼の93%で極めて保護的であると判明した(
図11A)。これは、緑内障を発症する危険因子の、およそ10分の1への低下に相当する。この単一分子を投与することによってもたらされる保護の程度は、前例がなく、全く意外である。
【0235】
マウスにおいて550mg/kg/日のNAMは、明らかな神経保護的効果を実証し(IOPが改変されなかったとして)、増加させた用量2000mg/kg/日は、IOP上昇の程度を小さくする(
図10A及び
図10B)。これは、NAMが、RGCに対する更なる細胞型において老人性発病過程から保護することを示す。
【0236】
本データは、NAMが、IOP上昇及び神経脆弱性の両方から保護し、従ってヒト緑内障の処置において二重の利益及び大きな臨床潜在性を有することを示す。IOPが改変されないより低い用量550mg/kg/日でも、IOPを低減する処置(手術又は点眼薬など)をNAM補充と組み合わせて、神経変性に対するより高い保護を得られる可能性がある。
【0237】
[実施例6]NAMは、緑内障の侵襲に対するRGC死の2つのモデルにおいて有効である
緑内障は、複数の侵襲に関係する複合疾患である。それには、RGC区画(例えば、神経細胞体、軸索、樹状突起)が異なる影響を受け得る幅広い発病因子がある。機械的軸索損傷及び局所炎症は、緑内障の間のRGC変性の2つの重要な要因を示す。
【0238】
異なる状況におけるNAM処置の有効度を評価するために、RGC死の2つのモデルでNAM有効性を試験した。第1の緑内障侵襲モデルは、軸索切断の組織培養モデルの使用に関係し、第2の緑内障侵襲モデルは、局所炎症を駆動し、緑内障に関係する可溶性マウスTNFαの硝子体内注射の使用に関する。
【0239】
NAMは、RGC神経細胞体の変性から培養網膜を強力に保護した(
図22A及び
図22B)。NAMは、PERG振幅の喪失及びTNFα注射した眼における細胞喪失からも保護した(
図23A~
図23C)。
【0240】
重度急性侵襲からのこれら保護及び緑内障と他の神経変性疾患との共通性を考慮すると、NAMは、緑内障及び他の老人性神経変性疾患の処置に広い意味を有する可能性がある。
【0241】
[実施例7]Nmnat1遺伝子治療は、D2マウスにおいて緑内障を軽減する
本研究において、Nmnat1、NAD
+産生において鍵となる酵素、の過剰発現(
図25)が、NAD
+産生細胞機構を支持することを実証する。
【0242】
CMVプロモーター下で単一転写産物として発現されるNmnat1遺伝子及びGFPレポータを含有するAAV2.2ベクターで5.5ヵ月のD2マウス眼を一回注射した。マウスを麻酔し、ウイルスベクター(3×108U/mL)1.5μLで硝子体内(即ち、レンズ及び中心網膜を避けて、硝子体腔へ45~60°の角度で角膜輪部の後方)に注射した。両眼に注射した。注射の直後に、水和している点眼薬を局所的に投与し、マウスを太陽灯下で目覚めさせておいた。注射後の複数の時点で眼を臨床的に調べて、眼に損傷がないことを確認した。視覚機能判定(PERGによる)を、注射の前後に実施し、最初の注射及びウイルストランスフェクションの有害作用がないことを確認した。
【0243】
Nmnat1発現(GFP発現によって評価される)は、AAV2.2注射後少なくとも第1週時点で検出可能であり、注射2週間後にRGCにおいて強力であり(RGCの83%超で発現される)、最終段階時点(12ヵ月)まで強力なままであった。大多数のRGCは形質導入され、網膜中のRGC細胞神経細胞体並びに外側膝状核(LGN)及び上丘(colliculs)(sup.col.)を含めた脳内のそれらの末端点におけるGFP蛍光によって証明されるようにウイルスで送達された遺伝子産物を発現した。
【0244】
Nmnat1の過剰発現は、軸索及び神経細胞体喪失を予防し(
図24A~
図24C及び
図24D、上パネル)、RGCにおける軸索原形質輸送及び電気的活性(PERG)を保存する(
図24B及び
図24D、下パネル)のに十分であった。緑内障の神経損傷は、処置した眼の70%超において存在しなかった。この強い保護は、ヒト緑内障を予防するための類似の遺伝子治療戦略の使用を促す。
【0245】
[実施例8]Nmnat1遺伝子治療及びNAMを使用する併用治療
本研究において、実施例4及び実施例7に詳述される実験を組み合わせることによって、Nmnat1及びNAM(NAMLo)の組み合わせの治療による効果を調べた。簡潔には、マウスは、上記の通り遺伝子治療を受け、1週間のウイルス排出期間後に、マウスを通常のコロニーに戻し、正常飲料水中のNAM 550mg/kg/日を投与した。
【0246】
この組合せは、84%の眼に12ヵ月齢で検出可能な緑内障の損傷がない有意な更なる保護をもたらした。これは、無処置のD2対照と比較してIOPに誘導される緑内障の神経変性を発症する危険性の、およそ4分の1への低下に相当する。
【0247】
遺伝子治療と組み合わせたNAMの用量増加は更に保護的である。
[実施例9]WldSは、D2マウスにおいて緑内障を軽減する
ワーラー変性が遅い対立遺伝子(WldS)は、D2緑内障において部分的な保護を示した。WLDSタンパク質は、修飾されたNMNAT1タンパク質(NMNをNADに変換する酵素)である。変異体タンパク質WLDSを含有する細胞は、酵素活性の増加を示し、より速く又はより効率的にNMNをNADに変換する。
【0248】
この実験において、WldS突然変異があるD2マウスにおいて、NAM及びWldSの組合せは、WldS単独より、緑内障に対するよりよい保護をもたらすことを実証した。NAMを投与され、WldS突然変異を保有するマウスは、緑内障の損傷からの多大な保護(およそ95%が緑内障なし)を示す。
【0249】
実験は、基本的に実施例4と同様に行われたが、ワーラー変性が遅い対立遺伝子(Wld
S)を持つD2マウスを使用した。結果を、
図11Bにも示した。Wld
S単独又はNAM単独が、D2緑内障に対する保護をもたらすことは明白であるが、Wld
S及びNAMの組合せはWld
S単独より有意に優れている。
【0250】
特に、NAM単独は、緑内障において約70%保護的である。一方で、NAM+WldSは、緑内障においておよそ95%保護的である。NAM及びNAM+WldSの両方とも、細胞及び視神経の全ての部分を保護する(データ不掲載)。従って、NAM及びWldSは、それぞれ部分的に保護的であるが、組合せは、有意な相乗効果を呈した(即ち、およそ70%保護からおよそ95%)。
【0251】
いかなる特定の理論にも束縛されないが、WldS突然変異を使用することによるNmnat発現の増加は、より多くのNAMをNADtに変換することを可能にすると考えられ、組合せは緑内障において神経変性に対する相乗的保護をもたらす。
【0252】
この理論と整合して、DBA/2Jマウスにおいて、年齢及び疾患に関連する低下が、NADt及び他のTCA/クレブス回路要素の細胞レベルに存在する(ピルビン酸など、
図5D)。従ってNADt(NAD
+/NADH)の細胞レベルを、処置した動物において決定した。
【0253】
NADt(NAD
+/NADH)のレベルが、NAM処置マウス及びWld
Sマウスにおいて回復したことが判明した。Wld
SマウスをNAMで更に処置する場合、NADtレベルの回復は、NAM+Wld
S処置マウスにおいて相乗的である(
図5Eを参照のこと)。
【0254】
この実施例の結果は、実施例8のそれと整合している。
NADt(NAD+/NADH)レベルは、老化及び神経変性疾患において変化すると考えられる。本明細書において得られるデータは、NAM、NAM誘導体及び/又はNMNAT酵素の投与/補充が、老化及び疾患表現型の大きな範囲で保護的になり得ることを実証する。
【0255】
[実施例10]ピルビン酸は、D2マウスにおいて緑内障を軽減/予防する
この実施例は、ニコチンアミド(ビタミンB3)及び/又はピルビン酸(グルコースの単純な代謝物質)との組み合わせが、DBA/2Jマウスを視力喪失、軸索輸送の喪失、網膜及び視神経損傷から強力に保護することを実証する。遺伝子発現実験は、ニコチンアミドで処置したマウスが、同年齢の非緑内障のマウスよりも若齢対照マウスに対して分子的により近く一致していることを実証する。データは、ニコチンアミドが、年齢依存的な機序によってある程度働いており、緑内障に対する感受性の年齢依存的増加を遅延させ得ることを示唆する。NAMが提供する保護の規模は、完全に予想外であり、驚く程である。
【0256】
ピルビン酸は、それがグルコースから産生される代謝に関係する重要な単純なα-ケト酸である。ピルビン酸は、クレブス回路(クエン酸回路)に対する主要な入力であるアセチル補酵素Aに変換される。酸素正常状態(正常状態)の間、ピルビン酸はNADHレベルを増加させる。
【0257】
ピルビン酸レベルは、網膜において年齢に伴って低下し、高眼内圧による緑内障の損傷に対して網膜ニューロンを鋭敏にする(
図5D)。正常飲料水中のピルビン酸を投与されたマウスは、網膜におけるピルビン酸のレベルを増加させた(
図5D)。正常飲料水中のピルビン酸を投与されたマウスは、緑内障における視神経軸索変性、細胞喪失及び視覚機能不全に抵抗性であった(PERGによって評価した)(
図11B、
図12B、
図13B及び
図14)。
【0258】
上記の所見は、NAM及びピルビン酸両方を投与されたマウスにおける効力の増加を示し、ニューロン変性を予防するためのNAMとびピルビン酸処置の相乗効果を実証した。
[実施例11]PQQは、核直径収縮及び細胞密度の低下を予防する
更なる神経保護的薬剤を試験して、神経変性疾患におけるそれらの役割も決定した。
【0259】
一実験において、類似の実験を設定して、ピロロキノリンキノン(PQQ)の神経保護的機能を決定した。PQQは、ニコチンアミドと類似する、重要な酸化還元補因子である。PQQは、ミトコンドリア生合成を促進し、その神経保護的機能は、酸化防止剤としてのその機能によって決まると考えられる。
図26は、PQQが網膜組織培養において保護的であることを示す。
【0260】
[実施例12]網膜におけるグルタチオンレベルは、年齢に伴って低下する
N-アセチルシステイン(N-アセチル-L-システイン又はNAC)は、L-システインの前駆体、グルタチオンの前駆体、強い生物学的酸化防止剤及びニューロンにおける主要な酸化還元緩衝剤である。
図5Bのデータは、網膜中のグルタチオンレベルが、年齢に伴って低下することを示す。
【0261】
NADPH(NADから産生される)は、GSSGからのGSH合成に必要である。従って、NAD及びGSHレベルは、本質的に連鎖している。
材料及び方法
1.マウス系統、育種及び管理
マウスを、これまでに報告されているように、飼料及び水を不断給餌で14時間明/10時間暗周期で飼育した(Howellら、Journal of Clinical Investigation 121、1429~1444頁、2011年)。全ての育種及び実験手順は、Use of Animals in Ophthalmic ResearchのためのAssociation for research for Vision and Ophthalmology Statementに従って行われた。ジャクソン研究所の機関内安全委員会及び動物実験委員会が、本研究を承認した。
【0262】
C57BL/6J(B6)、DBA/2J(D2)及びDBA/2J-GpnmbR150X(D2-Gpnmb+)系統を利用し、他の場所で詳述した(Andersonら、Nature Genetics 30、81~85頁、2002年)。D2-Gpnmb+マウスは高IOPを発症せず、従って緑内障の神経変性を発症しない(Libbyら、Vis Neurosci 22、637~648頁、2005年)。それらは、DBA/2Jマウスに対して遺伝的に一致した対照である。
【0263】
高齢の緑内障実験の場合、マウスは、6ヵ月(予防的、ほとんど全ての眼においてIOP上昇前)又は9ヵ月(大多数の眼は、高IOP及び分子変化があるが、検出可能な神経変性がない時)に開始して飼料及び/若しくは水中のNAMが与された(Howellら、Journal of Clinical Investigation 121、1429~1444頁、2011年)。これらの分子変化は、PERG欠損及び順行性軸索原形質輸送の喪失の前である。低用量NAM(NAMLo、550mg/kg/日、PanReac AppliChem)を、日常的な酸性飲料水(350mL)に溶解し、1週間に一回変えた。高用量NAM(NAMHi、2000mg/kg/日)の場合、NAMは、水(550mg/kg/日)及び飼料(1450mg/kg/日)の両方で利用可能であり、1週間に一回変えた。NAM飼料は、これまでに公開されている、食味のために特別注文の西洋型の食事で調製した(LabDiet)(Grahamら、Sci Rep 6、21568頁、2016年)。対照マウスは、NAM添加なしで同じ食餌を受けた。この食餌は、マウスの眼の健全性に効果がない。
【0264】
2.RGCのFACソーティング
細胞採集の前に、全ての表面及び容積を、70%エタノール及びRNaseZap(ThermoFisher Scientific)溶液、続けてdH2Oで清浄にした。マウスを安楽死させ、眼を摘出し、氷冷HBSSに直ちに入れた。網膜を、眼から氷上のHBSS中に解剖し(4又は9ヵ月齢、PPD染色によって軸索変性がないことを確認した、データ不掲載)、特別注文のHBSS(Gibco)、ディスパーゼ(5U/mL)(Stemcell Technologies)、DNase I(2000U/mL
)(Worthington Biochemical)及びSUPERase(1U/μL)(ThermoFisher Scientific)溶液100μL中に直接置いた。全ての網膜は、PPD染色及び分析によって緑内障の軸索変性がない眼に由来した(下記の視神経判定を参照のこと)。網膜を、37℃で20分間インキュベートし、Ep
pendorf Thermomixer R中で350RPMで振盪し、その後200μLピペットを使用して穏やかに粉砕した。サンプルを、HBSS中の2%BSA、SUPERase(1U/μL)でブロッキングし、Cd11b、Cd11c、Cd34、Cd45.2、GFAP、Thy1.2並びにDAPIに対するコンジュゲート抗体で染色した。このカクテルにより、FACSの間に他の網膜細胞型を正確に除去できた。
【0265】
FACSを、FACSAria(BD Biosciences)で実施した。Thy1.2+(及び他の全てのマーカーについて陰性)RGCを、緩衝液RLT+1% β-ME 300μL中にソートし、ボルテックスし、更なる加工まで-80℃で凍らせた。
【0266】
3.RNA-配列決定
FACソートされたRGCサンプルを氷上で解凍し、RLT緩衝液中で注射器でホモジナイズした(総容積300μL)。トータルRNAを、製造業者の手順に従ってRNeasyマイクロキット(Qiagen)を使用して、任意でDNase処理工程を含めて単離し、品質をAgilent 2100 Bioanalyzerを使用して評価した。濃度を、Ribogreen Assay(Invitrogen)を使用して決定した。増幅したdscDNAライブラリを、Nugen Ovation RNA-seq System Vを使用して作製した。SPIA dscDNAを、Diogenode Disruptorを使用して長さ300bpに剪断した。品質管理を、Agilent 2100 Bioanalyzer及びDNA 1000チップアッセイを使用して実施した。
【0267】
産生したライブラリサイズを、Library Quantitationキット/Illumina GA/ABI Prism(Kapa Biosystems)を使用してqPCRを使用して分析した。ライブラリをバーコード化し、プールし、HiSeq
2500シーケンサ(Illumina)で1レーン当たり6サンプルを配列決定し、サンプル当たりリード深度30000000~35000000個を得た。
【0268】
4.差異的な遺伝子発現及び経路分析
サンプルを、特別注文の品質管理Python Scriptによって品質管理分析に供した。塩基の70%が塩基クオリティスコア≧30を有するリードを、更なる分析のために保持した。リード整列化を、TopHat v2.0.7(Kimら、Genome
Biol 14、R36頁、2013年)を使用して実施し、発現評価を、DBA/2Jマウスゲノム(build-mm10)に対して与えられた注釈及び初期設定パラメータを用いてHTSeq(Andersら、Bioinformatics 31、166~169頁、2015年)を使用して実施した。Bamtools v 1.0.2(B
arnettら、Bioinformatics 27、1691~1692頁、2011年を使用して、マッピング統計を算出した。
【0269】
RUVSeqを使用して一括修正し、外れ値サンプル及び2つより多いサンプルにおいて5つ未満のリードの遺伝子を除去することによって低発現遺伝子を除去した後、群間の差異的遺伝子発現分析を、edgeR v3.10.5(Robinsonら、Bioinformatics 26、139~140頁、2010年)を使用して実施した。標準化を、トリム平均のM値(TMM)を使用して実施した。
【0270】
教師なしHCを、Rで実施した(1cor、スピアマンのρ)。全ての群にわたって合計72個のサンプルを成功裏に増幅し、配列決定し、HCパイプラインの後、9つのサンプルを外れ値として除去した。複数の試験に対する調整を、偽発見率(FDR)を使用して実施した。遺伝子は、FDR<0.05で有意に差異的な発現と見なした。
【0271】
老人性変化を研究するために、比較を、4ヵ月及び9ヵ月のD2-Gpmnb+サンプルとNAMLoサンプルの間で行った。経路分析のために、QIAGENのIngenuity Pathway Analysis(IPA、Qiagen)を使用して、有意に差異的に発現される遺伝子全体にわたるネットワークを生成した。有意に差異的に発現された遺伝子のリストを、IPAにアップロードし、IPA知識ベースを使用してマウスEntrez Gene Symbolsにマップした。これらの対象を、IPA知識ベースに含有される情報から開発される標準経路上へ次いで重層することになる。IPAの内蔵ネットワーク得点アルゴリズムを使用して、生成されたネットワークをランク付けすることになる。
【0272】
5.代謝的表現型検査
GSH/GSSG及びNAD+/NADH定量化のために、網膜を分離し(上記のように)、化合物を製造業者の指示に従って測定した(GSH/GSSG、Cayman Chemical;NAD+/NADH、Biovision)。結果を、キットの標準を使用することによって生成した標準曲線により算出した。各サンプルに対する最終的な代謝物質濃度を、ブラッドフォードアッセイによって測定した総タンパク質濃度に対して標準化した。
【0273】
6.全網膜移植片培養
マウスを安楽死させ、眼を摘出し、氷冷HBSSに直ちに入れた。網膜を、眼から氷上のHBSS中に解剖し、神経節細胞層を上にして細胞カルチャーインサート(Millipore)上に平らに載せ、Neurobasal-A、1%ペニシリンストレプトマイシン(10000U/mL)、1%グルタミン(100×)、1% N-2(100×)及び1% B-27(50×)(全てThermoFisher Scientific)を含有する組織培養培地中に浸漬した。
【0274】
薬物処置網膜の場合、組織培養培地を、上記のように作り、以下の化合物:β-NAD、NAM(PanReac AppliChem)、β-NMNのうち1つ(別段の指示がなければ全てSigma)で補充した。網膜を、37℃、4% CO2で、5日間6ウェルプレート中でインキュベートし、その後4% PFAに固定し、DAPIで染色した。(無処置の「0日目」対照の場合、網膜を解剖し、4%PFA中にそのまま置いた。)網膜は、Zeiss AxioObserverで撮像した。
【0275】
7.可溶性マウスTNFα注射
遅延性網膜神経節細胞変性を誘導するために、可溶性マウスTNFα(1ng/μL)を、前述の通り硝子体内に(intravitrally)注射した(Nakazawaら、J Ne
urosci 26、12633~12641頁、2006年)。10週齢のB6マウスを、TNFα注射の前に2週間NAMで前処置し、PERGを、8、10及び12週齢で実施した。12週目にマウスを屠殺し、RGC計数を実施した。
【0276】
8.臨床表現型決定
D2マウスにおけるIOP上昇は、色素分散虹彩疾患の後に続く。全ての実験において、変異体又は薬物処置マウスにおける虹彩疾患及び眼内圧の進行を、前述のとおり対照D2マウスと比較した(Johnら、Invest Ophthalmol Vis Sci 39、951~962頁、1998年)。各実験において、虹彩疾患及び眼内圧を評価した。
【0277】
虹彩疾患を、6ヵ月齢で開始して実験完了まで2ヵ月間隔で評価した。
眼内圧を、8.5~9ヵ月で開始して実験完了まで45日間隔で測定した。
9.パターン網膜電図(PERG)
これまでに報告されているように、PERGを、鼻口部から皮下記録した。簡潔には:LEDパネルで生成されるパターン刺激(格子0.05周期/度、コントラスト100%)を、およそ1Hzわずかに異なる周波数で別々に各眼に見せた。波形を、非同期加算平均方法を使用して読み取った(Chouら、Invest Ophthalmol Vis Sci 55、2469~2475頁、2014年)。
【0278】
マウスを、ケタミン/キシラジン(Savinovaら、BMC Genet 2、12頁、2001年)を使用して麻酔し、体温を、直腸検温器によって監視されるフィードバックコントロールされた加熱台上で37℃に維持した。
【0279】
10.緑内障の損傷の視覚神経判定及び決定
視神経の加工及びパラフェニレンジアミン(PPD)による染色は、公開されている(Smithら、Systematic evaluation of the mouse eye.、Anatomy、pathology and biomethods.CRC Press、Boca Raton、2002年)。PPDは、全ての軸索のミエリン鞘を染色するが、損傷を受けた軸索だけの軸索原形質を暗く染色する。視神経損傷の非常に高感度の評価基準を提供することが、確立されている(Smithら、Systematic evaluation of the mouse eye.、Anatomy、pathology and biomethods.CRC Press、Boca Raton、2002年)。
【0280】
簡潔には、視神経の頭蓋内部分を、RTで48時間4%PFAに固定し、加工し、プラスチックに包埋した。強膜の後面から1mmまでの領域内からの視神経の区分を、切片化し(1μm厚切片)、PPDで染色した。一般に、30~50枚の切片を、各神経からとる。
【0281】
損傷レベルを決定する場合は、各神経の複数の切片を考慮した。視神経を分析し、3つの損傷レベルの1つを有するように決定した:
(1)損傷なし又は初期の損傷(NOE)-5%未満の軸索が損傷を受けている及びグリオーシスでない。このレベルの損傷は、同じ年齢及び性別の非緑内障のマウスに見られ、緑内障によるものではない。これらの眼のいずれも緑内障の神経損傷を呈しないが、これらの眼のいくつかは、神経変性に先行する初期の分子変化を有するので、この損傷レベルは、緑内障でない又は初期の緑内障と呼ばれる。これらの分子変化は、遺伝子発現研究によって検出することができる(Howellら、Journal of Clinical Investigation 121、1429~1444頁、2011年)。本明細書において代謝的、ミトコンドリア、遺伝子発現変化について論ずる場合、これらの初期の分子変化があるが、変性がない眼を、初期の緑内障であると見なす。
【0282】
(2)中等度損傷(MOD)-平均30%の軸索喪失及び初期のグリオーシス。
(3)重度(SEV)→50%の軸索喪失及び顕著なグリオーシスがある損傷。
11.順行性軸索輸送
マウスを、ケタミン/キシラジンを使用して麻酔し、AF488又はAF594コレラ毒素サブユニットB(PBS中に1mg/mL)(ThermoFisher Scientific)2μLで硝子体内に注射した。72時間後、マウスを麻酔し、4%PFA心灌流によって安楽死させた。脳及び眼を、4%PFA中で更に24時間後固定し、PBS中の30%ショ糖で終夜(ON)凍結防止し、OCT凍結包埋(cryoembedded)し、20μmで切片化した。AF488を、Zeiss AxioObserver又はZeiss AxioImagerを使用して可視化した。
【0283】
12.組織検査
免疫蛍光染色の場合、マウスを、頚椎脱臼によって安楽死させ、その眼を摘出し、4%PFA中にON置いた。網膜を解剖し、スライド上へ平らに載せ、0.1% Triton-Xで15分間透過処理し、PBS中の2% BSAでブロッキングし、一次抗体中でRTでON染色した(抗体のリストについては下記参照)。
【0284】
一次抗体インキュベーションの後、網膜をPBSで5回洗浄し、二次抗体でRTで4時間染色した。スライドを次いでPBSで更に5回を洗浄し、DAPIで15分間染色し、フルオロマウントで封入し、カバーガラスを被せ、マニキュアで密閉した。
【0285】
網膜切片の場合、眼を30%ショ糖中でON凍結防止し、OCTで凍結させ、18μmで凍結切片にした。スライドを室温に暖め、上記の手順に従った。網膜を、低分解能カウントでZeiss AxioObserverで撮像した。網膜切片を、高分解能像でLeica SP8で撮像した。
【0286】
ニッスル染色の場合、凍結切片を室温に暖め、1:1アルコール:クロロホルム中に置きON、連続アルコール勾配によって再水和した。スライドを、蒸留水で一回洗浄し、蒸留水中の0.1%クレシルバイオレットで15分間染色する前に95%アルコールで分別し、100%アルコールで脱水し、キシレンで透徹した。スライドを、上記のように調製した。ニッスル染色した網膜切片を、Nikon Eclipse E200を使用して撮像した。
【0287】
オイルレッドO染色の場合、スライドを室温に暖め、60%イソプロパノールで速やかに洗浄し、オイルレッドO及びヘマトキシリン中でRTで15分間インキュベートし、60%イソプロパノールで再洗浄し、封入し、カバーガラスを被せた。オイルレッドOで染色した網膜切片を、Nikon Eclipse E200を使用して撮像した。
【0288】
13.ウェスタンブロッティング
マウスを、頚椎脱臼によって安楽死させ、眼を摘出し、氷冷HBSSに直ちに入れた。網膜を、眼からHBSS中に解剖し、RIPA緩衝液に直接入れ、ホモジナイズした。タンパク質抽出物を、成型ゲル(Bio-Rad)でSDS-PAGEによって分離し、iBlot 2(ThermoFisher Scientific)を使用してPVDF膜へ移した。膜を、0.1%PBS-Tween中の5%ミルク又は5% BSA中でブロッキングし、抗体インキュベーションを、ブロッキング溶液中で実施した。抗体染色を、ECLを使用して検出した。タンパク質濃度を、ブラッドフォードアッセイによって評価し、デンシトメトリーを使用してハウスキーピングタンパク質に対して標準化した。
【0289】
14.電子顕微鏡観察
マウスを安楽死させ、眼を摘出し、次いでSmith-Rudt(0.1Mリン酸緩衝液中の0.8%PFA及び1.2%グルタルアルデヒド(gluteraldehyde))中でON固定した。角膜及びレンズを、解剖し、残りの後部アイカップ(eye-cup)(網膜及びON
Hを含有する)を、2%水性四酸化オスミウムで後固定し、エチルアルコールで脱水した。サンプルを、次いで浸潤させ、Embed 812/Araldite樹脂(Electron Microscopy Sciences)に平らに載せ、正面切片にさせた。ブロックを、60℃で48時間重合させ、90nmミクロトーム切片を、300メッシュ銅グリッド上に切断(Leica UC6、Leica)した。グリッドを、1%水性の酢酸ウラニル/レイノルドのクエン酸鉛で染色し、JEOL JEM 1230 TEMで視た。画像を、AMT 2Kカメラで採取した。
【0290】
15.遺伝子治療
ウイルスで送達される遺伝子治療の場合、マウスを麻酔し(上記の通り)、GFPレポ
ータと共にCMVプロモーター下にあるAAV2.2マウスNmnat1 1.5μL(3.1×1010gc/mL)で硝子体内に注射した(主文においてNmnat1と称する;Vector Biolabs#ADV-265880)。マウスを、BSL2研究室において5.5ヵ月齢で注射し、2週間後に通常のマウスコロニーへ移動させた。
【0291】
更なるNAM処置を受けるNmnat1マウスの場合、マウスに、6ヵ月齢から正常飲料水中のNAM 550mg/kg/日を与えた。マウスを、12ヵ月に安楽死させた。
16.抗体
上の実施例で使用した抗体を、以下に記載する。IF:免疫蛍光。Wb:ウェスタンブロット
【0292】
【0293】
17.統計分析
サンプルサイズ(眼の数、n)を、各図の凡例に示す。グラフ化及び統計分析を、Rで実施した。スチューデントt検定を、定量的プロットにおけるペアワイズ分析に使用し、エラーバーは、特に明記しない限り平均値の標準誤差のことを指す。
【0294】
全ての引用文献を参照により組み込む。本発明の特定の実施形態について前述したが、それらに対する多くの均等物、修飾形態、置換形態及び変形形態を、添付の請求項に定義される本発明の精神と範囲から逸脱することなく得ることができることは、当業技術者に認められることになる。
対象において網膜神経節細胞の軸索変性を減少させて、該対象において緑内障を処置するための医薬組成物であって、該対象において網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させて緑内障を処置するために有効な量でニコチンアミド(NAM)を含有し、ニコチンアミド(NAM)が1~5g/日の量で投与される、前記医薬組成物。
医薬組成物が、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドリボース(NR)からなる群から選択される1つ又はそれ以上の化合物を更に含む、請求項2に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させること、そして緑内障を処置することが、遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、該遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターである、請求項7に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させること、そして緑内障を処置することが、遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、該遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項2に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させること、そして緑内障を処置することが、対象に追加の治療的薬剤を投与する工程を更に含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記追加の治療的薬剤が、β受容体遮断薬、非選択的アドレナリン作動薬、選択的α-2アドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン類似体、副交感神経刺激様アゴニスト、カルバコール又はそれらの組合せである、請求項15に記載の医薬組成物。
前記追加の治療的薬剤が、チモロール、レボブノロール、メチプラノロールカルテオロール、ベタキソロール、エピネフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミド、ブリンゾールアミド、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、ピロカルピン、ヨウ化エコチオフェート、カルバコール又はそれらの組合せである請求項15に記載の医薬組成物。
対象において緑内障を予防するための医薬組成物であって、該対象において網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させて該対象において緑内障を予防するために有効な量でニコチンアミド(NAM)を含有し、ニコチンアミド(NAM)が1~5g/日の量で投与される、前記医薬組成物。
医薬組成物が、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドリボース(NR)からなる群から選択される1つ又はそれ以上の化合物を更に含む、請求項19に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させること、そして緑内障を予防することが、遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、該遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項18に記載の医薬組成物。
前記ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターである、請求項23に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させること、そして緑内障を予防することが、遺伝子組成物を投与する工程を更に含み、該遺伝子組成物が、NMNAT1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項19に記載の医薬組成物。
網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させること、そして緑内障を予防することが、対象に追加の治療的薬剤を投与することを更に含む、請求項18から27のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記追加の治療的薬剤が、β受容体遮断薬、非選択的アドレナリン作動薬、選択的α-2アドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン類似体、副交感神経刺激様アゴニスト、カルバコール又はそれらの組合せである、請求項28に記載の医薬組成物。
前記追加の治療的薬剤が、チモロール、レボブノロール、メチプラノロールカルテオロール、ベタキソロール、エピネフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミド、ブリンゾールアミド、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、ピロカルピン、ヨウ化エコチオフェート、カルバコール又はそれらの組合せである、請求項28に記載の医薬組成物。
対象において網膜神経節細胞の軸索変性を減少させて、該対象において緑内障を処置するための医薬組成物であって、該対象において網膜神経節細胞中で軸索変性を減少させて緑内障を処置するために有効な量でニコチンアミド(NAM)およびピルビン酸を含有すること、医薬組成物が経口投与されて、ニコチンアミド(NAM)の1日あたりの投与量が1~5gとなり、ピルビン酸の1日あたりの投与量が1~5gとなるように用いられることを特徴とする、医薬組成物。