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特開2022-120109難水溶性成分可溶化ミセル及びそれを含有する液剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120109
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】難水溶性成分可溶化ミセル及びそれを含有する液剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/166 20060101AFI20220809BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/4704 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/542 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/235 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/245 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20220809BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220809BHJP
【FI】
A61K31/166
A61K31/445
A61K31/4704
A61K31/405
A61K31/198
A61K31/192
A61K31/575
A61K31/542
A61K31/235
A61K31/245
A61K31/197
A61K31/167
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/28
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/34
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094556
(22)【出願日】2022-06-10
(62)【分割の表示】P 2019521338の分割
【原出願日】2018-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2017110489
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390031093
【氏名又は名称】テイカ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】岡城 徹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、難水溶性成分を液剤に可溶化させること、難水溶性成分含有液剤を提供すること、難水溶性成分の水(例えば、中性、弱酸性、弱塩基性)への溶解性を増大させること、及び/又は難水溶性成分含有液剤を医薬品として実用上充分な程度に安定化させること等を目的とする。
【解決手段】本発明は、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが、その周囲において、保護剤で保護されていることを特徴とするミセル、又は酸性下でカチオン化する官能基を有し、カチオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするカチオンミセルが、その周囲において、保護剤で保護されていることを特徴とするミセルを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが、その周囲において、保護剤で保護されていることを特徴とするミセル。
【請求項2】
保護剤の、アニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子の電子密度が、当該アニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さいことを特徴とする請求項1に記載のミセル。
【請求項3】
保護剤の、アニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子と、当該アニオンミセルのアニオン化した官能基とが、水素結合により結合していることを特徴とする請求項1又は2に記載のミセル。
【請求項4】
保護剤が、水中でヒドロキシ基(-OH)を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のミセル。
【請求項5】
保護剤が、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、N-アセチルグルコサミン、コンドロイチン硫酸エステル、グリチルリチン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポビドン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリソルベート80からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のミセル。
【請求項6】
前記成分が、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のミセル。
【請求項7】
前記成分が、フェキソフェナジン、レバミピド、インドメタシン、L-カルボシステイン、イブプロフェン、及びウルソデオキシコール酸並びにこれらの塩からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のミセル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のミセルを含有する、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤。
【請求項9】
前記成分の濃度が0.01~5.0%(w/v)であることを特徴とする請求項8に記載の液剤。
【請求項10】
長期保存時のpHが5~9である請求項8又は9に記載の液剤。
【請求項11】
点眼剤又は点鼻剤であることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の液剤。
【請求項12】
下記工程(A)及び(B)を含有する、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルの製造方法。
(A)塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分含有水懸濁液を塩基性にする工程
(B)保護剤を添加する工程
【請求項13】
請求項12に記載の方法により製造された、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセル。
【請求項14】
塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分のアニオンミセルを形成させる工程を含有することを特徴とする塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分の溶解性を増大させる方法。
【請求項15】
酸性下でカチオン化する官能基を有し、カチオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするカチオンミセルが、その周囲において、保護剤で保護されていることを特徴とするミセル。
【請求項16】
保護剤の、カチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子の電子密度が、当該カチオンミセルのカチオン化した官能基の電子密度と比較して大きいことを特徴とする請求項15に記載のミセル。
【請求項17】
保護剤の、カチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子と、当該カチオンミセルのカチオン化した官能基とが、カチオン-パイ(π)相互作用により結合していることを特徴とする請求項15又は16に記載のミセル。
【請求項18】
保護剤が、パイ(π)電子を有することを特徴とする請求項15~17のいずれかに記載のミセル。
【請求項19】
保護剤が、チロキサポールであることを特徴とする請求項15~18のいずれかに記載のミセル。
【請求項20】
請求項15~19に記載のミセルにおいて、保護剤が存在する層の外側に密接して、更に界面活性剤が存在する層を有することを特徴とする請求項15~19に記載のミセル。
【請求項21】
前記成分が、ブリンゾラミド、トリメブチン、アミノ安息香酸エチル、バクロフェン、メトクロプラミド、及びリドカイン、並びにこれらの塩からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項15~20のいずれかに記載のミセル。
【請求項22】
請求項15~21のいずれかに記載のミセルを含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤。
【請求項23】
前記成分の濃度が0.01~5.0%(w/v)であることを特徴とする請求項22に記載の液剤。
【請求項24】
長期保存時のpHが5~9である請求項22又は23に記載の液剤。
【請求項25】
点眼剤又は点鼻剤であることを特徴とする請求項22~24のいずれかに記載の液剤。
【請求項26】
下記工程(a)及び(b)を含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されているミセルの製造方法。
(a)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を酸性にする工程
(b)保護剤を添加する工程
【請求項27】
請求項26に記載の方法により製造された、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されているミセル。
【請求項28】
酸性下でカチオン化する官能基を有する成分のカチオンミセルを形成させる工程を含有することを特徴とする酸性下でカチオン化する官能基を有する成分の溶解性を増大させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性成分可溶化ミセル及びそれを含有する液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェキソフェナジンは、ヒスタミンH受容体拮抗薬であり、アレルギー性鼻炎(花粉症等)、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒の治療に用いられているが、難水溶性であるため(pH7で0.01%(w/v)以下;非特許文献1)、液剤(特に点眼剤、点鼻剤等)の形態として使用されていない。フェキソフェナジン製剤としては懸濁液製剤が知られている(特許文献1)。しかし、懸濁剤は用事に使用者が念入りに容器を振盪し、有効成分を均一に分散させてから使用する必要がある等、煩雑な調製工程を要する。フェキソフェナジン等の難水溶性成分の液剤としての製剤化には莫大な設備投資、高額な生産コストを要し、また懸濁剤はメンブランフィルター濾過を行うことができないため、無菌性及び品質の保証は困難と思われていた。
他方、シクロデキストリンへの包接によるフェキソフェナジン可溶化技術が知られている(特許文献2)。しかし、本願発明者らの検証によれば、特許文献2の実施例5に記載の製造方法により製造されたフェキソフェナジン含有製剤については室温下又はpH6~7でのフェキソフェナジンの大量析出が確認されており、当該技術はフェキソフェナジン含有液剤の医薬品としての使用を目的とした場合に致命的な欠点を含んでいる。なお当該技術により製造されたフェキソフェナジン含有溶液には、フェキソフェナジンを構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルは存在しない。他の難水溶性成分についてもフェキソフェナジンと同様である。
【0003】
そこで、液剤として実用上充分な安定性を有する難水溶性成分含有液剤が望まれていた。この場合の安定性には、ヒト粘膜適用可能なpH範囲であるpH5~9で難水溶性成分の水溶性が優れている(難水溶性成分が析出しにくい)こと、室温で長期安定であること、及び/又は製剤安定性に優れること等が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5308824号
【特許文献2】特表2003-519083号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アレグラ(登録商標)錠 インタビューフォーム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、難水溶性成分を液剤に可溶化させること、難水溶性成分含有液剤を提供すること、難水溶性成分の水(例えば、中性、弱酸性、弱塩基性)への溶解性を増大させること、及び/又は上記安定性に係わる課題を解決すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、難水溶性成分を構成単位とするアニオンミセルまたはカチオンミセルが、保護剤で保護されているミセルを製造することによって、難水溶性成分を可溶化できること、並びに上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
〔1〕塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが、その周囲において、保護剤で保護されていることを特徴とするミセル。
〔2〕保護剤の、アニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子の電子密度が、当該アニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さいことを特徴とする前記〔1〕に記載のミセル。
〔3〕保護剤の、アニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子と、当該アニオンミセルのアニオン化した官能基とが、水素結合により結合していることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載のミセル。
〔4〕保護剤が、水中でヒドロキシ基(-OH)を有することを特徴とする前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のミセル。
〔5〕保護剤が、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、N-アセチルグルコサミン、コンドロイチン硫酸エステル、グリチルリチン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポビドン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリソルベート80からなる群より選択される1以上であることを特徴とする前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のミセル。
〔6〕前記成分が、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分であることを特徴とする前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のミセル。
〔7〕前記成分が、フェキソフェナジン、レバミピド、インドメタシン、L-カルボシステイン、イブプロフェン、及びウルソデオキシコール酸並びにこれらの塩からなる群より選択される1以上であることを特徴とする前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のミセル。
〔8〕前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のミセルを含有する、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤。
〔9〕前記成分の濃度が0.01~5.0%(w/v)であることを特徴とする前記〔8〕に記載の液剤。
〔10〕長期保存時のpHが5~9である前記〔8〕又は〔9〕に記載の液剤。
〔11〕点眼剤又は点鼻剤であることを特徴とする前記〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の液剤。
〔12〕下記工程(A)及び(B)を含有する、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルの製造方法。
(A)塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分含有水懸濁液を塩基性にする工程
(B)保護剤を添加する工程
〔13〕前記〔12〕に記載の方法により製造された、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセル。
〔14〕塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分のアニオンミセルを形成させる工程を含有することを特徴とする塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分の溶解性を増大させる方法。
〔15〕酸性下でカチオン化する官能基を有し、カチオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするカチオンミセルが、その周囲において、保護剤で保護されていることを特徴とするミセル。
〔16〕保護剤の、カチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子の電子密度が、当該カチオンミセルのカチオン化した官能基の電子密度と比較して大きいことを特徴とする前記〔15〕に記載のミセル。
〔17〕保護剤の、カチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子と、当該カチオンミセルのカチオン化した官能基とが、カチオン-パイ(π)相互作用により結合していることを特徴とする前記〔15〕又は〔16〕に記載のミセル。
〔18〕保護剤が、パイ(π)電子を有することを特徴とする前記〔15〕~〔17〕のいずれかに記載のミセル。
〔19〕保護剤が、チロキサポールであることを特徴とする前記〔15〕~〔18〕のいずれかに記載のミセル。
〔20〕前記〔15〕~〔19〕に記載のミセルにおいて、保護剤が存在する層の外側に密接して、更に界面活性剤が存在する層を有することを特徴とする前記〔15〕~〔19〕に記載のミセル。
〔21〕前記成分が、ブリンゾラミド、トリメブチン、アミノ安息香酸エチル、バクロフェン、メトクロプラミド、及びリドカイン、並びにこれらの塩からなる群より選択される1以上であることを特徴とする前記〔15〕~〔20〕のいずれかに記載のミセル。
〔22〕前記〔15〕~〔21〕のいずれかに記載のミセルを含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤。
〔23〕前記成分の濃度が0.01~5.0%(w/v)であることを特徴とする前記〔22〕に記載の液剤。
〔24〕長期保存時のpHが5~9である前記〔22〕又は〔23〕に記載の液剤。
〔25〕点眼剤又は点鼻剤であることを特徴とする前記〔22〕~〔24〕のいずれかに記載の液剤。
〔26〕下記工程(a)及び(b)を含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されているミセルの製造方法。
(a)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を酸性にする工程
(b)保護剤を添加する工程
〔27〕前記〔26〕に記載の方法により製造された、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されているミセル。
〔28〕酸性下でカチオン化する官能基を有する成分のカチオンミセルを形成させる工程を含有することを特徴とする酸性下でカチオン化する官能基を有する成分の溶解性を増大させる方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、難水溶性成分を液剤に可溶化させること、難水溶性成分含有液剤を提供すること、難水溶性成分の水(例えば、中性、弱酸性、弱塩基性)への溶解性を増大させること、及び/又は上記安定性に係わる課題を解決すること等が可能である。難水溶性成分が生理活性成分又は医薬有効成分である場合、その生理活性又は薬効を維持したまま、それを可溶化し得る点でも本発明は優れている。なお、本明細書における「安定」とは成分が化学的に分解、または他物質と結合して別物質に変化することが抑止された状態を意味するものでは無く、可溶化された成分が水中でその可溶化状態を維持し、非溶解状態になることを抑止された状態を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ミセルα又はβの例の二次元的模式図(一例)を示す。
図2図2は、ミセルα2又はβ2の例の二次元的模式図(一例)を示す。
図3図3は、アニオンミセルの模式図(一例)を示す。
図4図4は、ミセルαの例の模式図を示す。
図5図5は、ミセルαの例の模式図を示す。
図6図6は、ミセルαの例の模式図を示す。
図7図7は、カチオンミセルの模式図(一例)を示す。
図8図8は、ミセルβの例の模式図を示す。
図9図9は、試料1~7の波長268nmでの吸光度を測定した結果を示す図である。
図10図10は、試料1~7の最大吸収波長(λmax)付近で紫外線吸収スペクトルを測定した結果を示す図である。
図11図11は、製造例80のアニオンミセルの粒度分布測定結果を示す図である。
図12図12は、製造例81のミセルの粒度分布測定結果を示す図である。
図13図13は、製造例82のミセルの粒度分布測定結果を示す図である。
図14図14は、フェキソフェナジンの薬効確認試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「室温」とは特に断りがない限り第十七改正日本薬局方における室温を意味する。具体的には1~30℃である。なお「なりゆき室温」とは「室温」とは異なる概念であり、通常の居室において温度湿度が制御されていない状態を指す。
【0012】
ミセル
本発明は、pH7を除くpH領域で負又は正に荷電する官能基を有する成分を構成単位とする負又は正に荷電しているミセルが保護剤で保護されていることを特徴とするミセルを提供する。すなわち、本発明は、(α)塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されていることを特徴とするミセル(以下、ミセルαとも称する)、及び/又は、(β)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されていることを特徴とするミセル(以下、ミセルβとも称する)を提供する。
【0013】
各々のミセルの一例を2次元的に図示したものが図1または2である。
ここで、図1または2において、A核は成分によって構成されているアニオンミセルまたはカチオンミセルであり、その周囲を保護剤が取り囲んでP層が形成されており、A核およびP層全体としてミセルαまたはミセルβを形成している。
【0014】
図1がミセルαを示す場合において、アニオンミセル(以降これをA核ともいう。)表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基は負に帯電している。保護剤が存在する層(以降これをP層ともいう。)の中の保護剤の、A核表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子の電子密度は、A核表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さく、A核表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基と分子間相互作用(例えば、水素結合)を形成している。
【0015】
図1がミセルβを示す場合において、カチオンミセル(以降これをA核ともいう。)表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基は正に帯電している。保護剤が存在する層(以降これをP層ともいう。)の中の保護剤の、A核表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子の電子密度は、A核表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基の電子密度と比較して大きく、A核表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基と分子間相互作用(例えば、カチオン-π相互作用)を形成している。
【0016】
保護剤によってアニオンミセルまたはカチオンミセルが保護された状態で、保護剤が存在する層の外側に存在する官能基が疎水性の場合には、保護剤が存在する層の外側に密接してさらに界面活性剤を付随させてもよい。この界面活性剤は図2においてS層に相当する。保護剤が存在する層の外側に密接してさらに界面活性剤を付随させることにより、ミセルαまたはβの親水性を一層向上させることができる。界面活性剤は、好ましくは長鎖(例えば炭素原子数7又は8以上)のアルキル基を有する化合物である。界面活性剤として具体的にはポリソルベート80(TO-10M)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO60)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(MYS-40)、マクロゴール(PEG400)、マクロゴール(PEG4000)又はマクロゴール(PEG6000)等が挙げられる。
言い換えると、図2は、ミセルαまたはβの保護剤が存在する層の外側に密接してさらに界面活性剤を付随させたミセルα2またはβ2を示す。
【0017】
図2がミセルα2を示す場合において、アニオンミセル(以降これをA核ともいう。)表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基は負に帯電している。保護剤が存在する層(以降これをP層ともいう。)の中の保護剤の、A核表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子の電子密度は、A核表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さく、A核表面すなわちアニオンミセルのアニオン化した官能基と分子間相互作用(例えば、水素結合)を形成している。
図2において、P層の外側と密接している界面活性剤によって構成されるS層が示されている。S層の界面活性剤は、P層に存在する保護剤の疎水性置換基等の置換基と、分子間相互作用(例えばファンデルワールス力など)により結合し、この分子間相互作用がP層の外側表面で複数生じていることで、P層の外側と密接している界面活性剤が存在するS層が形成されている。
【0018】
図2がミセルβ2を示す場合において、カチオンミセル(以降これをA核ともいう。)表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基は正に帯電している。保護剤が存在する層(以降これをP層ともいう。)の中の保護剤の、A核表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子の電子密度は、A核表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基の電子密度と比較して大きく、A核表面すなわちカチオンミセルのカチオン化した官能基と分子間相互作用(例えば、カチオン-π相互作用)を形成している。
図2において、P層の外側と密接している界面活性剤によって構成されるS層が示されている。S層の界面活性剤は、P層に存在する保護剤の疎水性置換基等の置換基と、分子間相互作用(例えばファンデルワールス力など)により結合し、この分子間相互作用がP層の外側表面で複数生じていることで、P層の外側と密接している界面活性剤が存在するS層が形成されている。
【0019】
ミセルα
〔成分〕
ミセルαにおける成分は、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能である。ミセルαにおける成分は、例えばpH7超~pH14、pH8~14、pH9~14、pH10~14、pH11~pH14、pH12~14又はpH13~14の下でアニオン化する官能基を有することが好ましく、pH12~14又はpH13~14の下でアニオン化する官能基を有することがより好ましい。
塩基性下でアニオン化する官能基として、例えばカルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ホスホリル基(-O-PO(OH)OH)、ヒドロキシル基(-OH)、スルホンアミドが挙げられる。
なお、塩基性下でアニオン化する官能基は、酸性下(例えばpH7未満、pH6以下、pH5以下等)でアニオン化状態であってもよい。
また、ミセルαにおける成分は、塩基性下でアニオン化する官能基の他に、酸性下でカチオン化する官能基を有していてもよく、有していなくてもよい。
本願の目的の1つは難水溶性成分を可溶化することにあるため、ミセルαにおける成分としては、通例、水への溶解度が低い成分が選択される。特に、本願発明の技術を用いて、液剤等の医薬品を製造するには、後述のとおり、液剤の長期保存時や使用時においてpHが中性付近であることが刺激性の観点などから求められることがあるため、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分であると、より本願発明の効果が生かせるため好ましい。pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、pH6から8の中性領域において水(例えば20℃)への溶解度が1g/100gHO以下であることが好ましく、0.1g/100gHO以下であることがより好ましく、0.001g/100gHO以下であることがより好ましい。また、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、第十七改正日本薬局方等の公定書に水に溶けにくい旨記載されている医薬品の有効成分であってもよい。
また、本開示において長期保存時とは、液剤製造から1週間保存時であってもよく、好ましくは2週間保存時であってもよく、より好ましくは4週間であってもよい。尚、保存期間における保存温度は40℃であってもよく、25℃であってもよい。
ミセルαにおける成分として、以下の化合物が例示される。
【表1】
【0020】
〔アニオンミセル〕
アニオンミセルとは、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分が形成するミセルであって、ミセル形成時にそのミセル表層を構成する官能基が負に帯電しているものをいう。アニオンミセルは、模式図1または2においてA核に相当するものである。
図3は、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分を構成単位とするアニオンミセルの例としての模式図である。図3における負電荷は、塩基性下でアニオン化する官能基のアニオン化している部分を示す。図3における負電荷に結合している直線で示されている部分は、塩基性下でアニオン化する官能基のアニオン化している部分以外の、成分の部分が簡略化されて示されたものである。すなわち、図3における負電荷とそれに結合する直線からなる1単位は、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分1単位を示す。言い換えると、アニオンミセルにおいて、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分が構成単位である。なお、構成単位は複数種存在していてもよく、同一構成単位からなるミセルが複数種存在していてもよく、複数の構成単位で構成されたミセルが、1種又は複数種存在していてもよい。
ミセルの会合の仕方として、一般的に、H型会合体とJ型会合体の2通りが知られている。H型会合体は、各構成単位が互いに向きを反対にして並列的に重なることで形成される会合体であり、一方、J型会合体は、各構成単位の向きは同じであるが、斜めにずれて重なることにより形成される会合体である。本発明においてアニオンミセルは、図3で示されるようにJ型会合していることが好ましい。各構成単位が単一分散している場合に比べてJ型会合が起これば紫外-可視領域の吸収スペクトルが長波長側にシフトすることで評価できる。
【0021】
〔保護剤〕
前述のアニオンミセルが形成された時点で、成分によっては充分に溶解性が向上し、安定なアニオンミセルとなることがあるが、成分によってはアニオンミセルの安定性が不充分なことがある。特に本願発明のアニオンミセルを含む液剤のpHを中性付近に戻して長期保存を行う場合には、当該pH領域においてアニオンミセルが崩壊してしまうことがある。このような場合、保護剤を添加することにより、アニオンミセルの崩壊を防ぐことが可能となる。
保護剤は、前記アニオンミセルと何らかの化学結合により結合し、前記アニオンミセルを保護するものである。具体的には、前記アニオンミセルを水中で安定して存在させる性質を有することが好ましい。
保護剤は、水中でヒドロキシ基(-OH)を有することが好ましい。水中で有するヒドロキシ基(-OH)の1分子あたりの数は1以上であることが好ましく、2、3、4、5、6、7、又は8以上であることがより好ましい。
保護剤は、水中で2以上のヒドロキシ基(-OH)を有し、アニオンミセルのアニオン化した官能基と化学結合(例えば水素結合)する2以上のヒドロキシ基間に直鎖状、分枝状又は環状構造の分子骨格を1以上有することが好ましい(例として図4参照)。アニオンミセルと化学結合(例えば水素結合)する2以上のヒドロキシ基間の分子骨格における元素数は、1以上であることが好ましく、2、3、4、5、6、7、又は8以上であることがより好ましい。分子骨格を2以上有する場合において、アニオンミセルのアニオン化した官能基と化学結合(例えば水素結合)する2以上のヒドロキシ基間に2分子以上の前記分子骨格を有する保護剤が化学結合(例えば水素結合)により結合して存在していてもよい(例として図5及び6参照)。
このような保護剤として、例えば、水溶性高分子、多価アルコール、又は糖アルコール等が挙げられ、中でも水溶性高分子が好ましい。
保護剤として例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール(例えばD-ソルビトール等)、マンニトール、N-アセチルグルコサミン、コンドロイチン硫酸エステル、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース(例えばメチルセルロース15又はメチルセルロース400等)、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポビドン(例えばポビドンK30等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリソルベート80、マクロゴール(例えばPEG400、PEG4000又はPEG6000等)、並びにこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0022】
〔保護剤とアニオンミセルとの関係〕
図4~6に、ミセルαの例としての模式図を示すが、ミセルαはこれらに限定されない。
図4において、内側の枠内で示されたアニオンミセル表面は負に帯電している。内側の枠から外側の枠までの間の保護剤が存在する層の中で代表例として示された保護剤1分子のアニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する水素原子の電子密度はアニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さく、当該水素原子は、アニオンミセルのアニオン化した官能基と化学結合(例えば、水素結合)している。すなわち、図4中点線は化学結合(例えば、水素結合)を示す。
図5において、内側の枠内で示されたアニオンミセル表面は負に帯電している。内側の枠から外側の枠までの間の保護剤が存在する層の中で代表例として示された保護剤2分子のアニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する水素原子の電子密度はアニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さく、アニオンミセルのアニオン化した官能基と化学結合(例えば、水素結合)している。また、保護剤2分子は、互いに化学結合(例えば、水素結合)している。すなわち、図5中点線は化学結合(例えば、水素結合)を示す。
図6は、図5のミセルαと同じミセルについて、保護剤とアニオンミセルとの化学結合を詳細に示す。
保護剤の、アニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子の電子密度は、当該アニオンミセルのアニオン化した官能基の電子密度と比較して小さいことが好ましい。
保護剤の、アニオンミセルのアニオン化した官能基と結合する原子と、当該アニオンミセルのアニオン化した官能基とは、水素結合、共有結合、ファンデルワールス力による結合、又はイオン結合等の化学結合により結合していることが好ましく、水素結合により結合していることがより好ましい。
【0023】
〔ミセルの物性・特徴〕
ミセルの粒度分布を公知の方法により測定することにより、ミセルの物性を確認することができる。本発明のミセルαにおいて、アニオンミセルの直径、及びミセルαの直径を測定したとき、ミセルαの直径がアニオンミセルの直径よりも大きい。アニオンミセルの直径は、構成成分の分子量や成分の濃度等によって大きく異なるが、通例0.1nm以上、100nm以下であり、特に1nm以上10nm以下であることが好ましい。ミセルαの直径は通例0.2nm以上、150nm以下であり、特に1.5nm以上20nm以下であることが好ましい。
また、ミセルα含有水溶液に、大量のカウンターイオン(カチオン)(例えば塩化ナトリウム)を添加して電荷を消失させることにより、又は無機塩(例えば塩化ナトリウム)を添加して臨界ミセル濃度(CMC)を低下させることにより、成分が析出することを確認することで、ミセルαの存在を確認することができる。
【0024】
〔液剤〕
本発明は、ミセルαを含有する、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤を提供する。本発明の液剤中のミセルαの下限濃度は特に限定されないが、成分(塩でない)として、例えば0.01%(w/v)以上、0.02%(w/v)以上、0.03%(w/v)以上、0.04%(w/v)以上、0.05%(w/v)以上、0.07%(w/v)以上、0.09%(w/v)以上、0.1%(w/v)以上、0.2%(w/v)以上である。本発明の液剤中のミセルαの上限濃度は特に限定されないが、成分(塩でない)として、例えば5.0%(w/v)以下、3.0%(w/v)以下、1.0%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.3%(w/v)以下、0.25%(w/v)以下、0.2%(w/v)以下、0.15%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下である。上記列記された下限濃度と上限濃度とのあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。なお、上記ミセルαの濃度は、下記製造方法の任意の段階で容易に調節できる。
本発明の液剤の長期保存時のpHは、特に限定されず、中性付近~酸性付近、中性付近~塩基性付近、中性付近~弱酸性付近、中性付近~弱塩基性付近等であってもよいが、中性付近であることが好ましい。この場合の中性付近とは、例えば、pH5~9、5.5~8.5、6~8、6.5~7.5等である。pHの調節は公知手段(例えば、塩酸、硫酸、又は硝酸等を添加する手段)に従って行われる。本発明の液剤は、中性付近でも難水溶性成分が溶解されているので点眼剤、点鼻剤、又は経口液剤として特に有用である。点眼剤、点鼻剤、又は経口液剤として使用される場合の成人の1日当たりの投与量は成分(塩でない)として、0.01~10000mgであってもよい。経口液剤として使用される場合の成人の1日当たりの投与量は成分(塩でない)として、1~10000mgであってもよく、0.1~1000mgであってもよく、1~100mgであってもよい。1日当たりの投与量を1~数回に分けて投与してもよい。
本発明の液剤は、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分が生理活性成分又は医薬成分である場合、その活性又は薬効を奏することができる。当該成分がアレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎)に伴うそう痒の予防及び/又は治療に有用である場合、本発明の液剤は、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎)に伴うそう痒の予防及び/又は治療に有用である。
【0025】
〔製造方法〕
本発明は、下記工程(A)及び(B)を含有する、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルαの製造方法を提供する。
(A)塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を塩基性にする工程
(B)保護剤を添加する工程
【0026】
ミセルαの製造方法において、(A)塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を塩基性にする工程では、例えば所望の比率の当該成分と水とを混合し、常法により攪拌し、得られた懸濁液に塩基を添加することで、該懸濁液を塩基性にする。該懸濁液中の当該成分濃度は、臨界ミセル濃度(CMC;critical micelle concentration)以上であることが好ましい。また、当該成分と水との比率(当該成分(g):水(mL))は、当該成分によって適宜変更し得るが、具体的には、(0.001:100)以上(5:100)以下、(0.01:100)以上(3:100)以下、(0.1:100)以上(1:100)以下等であってもよい。この場合の塩基性は、当該成分によって適宜変更し得るが、当該成分が一部(例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上)又は全部溶解するpHであることが好ましく、具体的には、pH9以上14以下、pH10以上13以下、pH11以上13以下、pH11.5以上13以下、又はpH11.7以上12.9以下等が挙げられる。当該成分がフェキソフェナジンである場合、pHが12以上であることが好ましい。pH調節に用いる塩基は強塩基(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等)、弱塩基(例えばアンモニア、トロメタモール等)のいずれであってもよいが、強塩基であることが好ましい。
【0027】
ミセルαの製造方法において、(B)保護剤を添加する工程では、(A)の工程により得られる成分含有組成物に所望量の保護剤を添加する。成分と保護剤のモル比(成分:保護剤)は、保護剤により適宜変更し得るが、例えば、(100:1)~(1:100)であってもよい。
【0028】
前述の(A)および(B)の工程により、ミセルαは充分な安定性を得られており、このままでも利用できるが、例えば、本発明を医薬品に用いる場合には、ミセルαを含有する液を、そのままのpHでヒトに適用すると刺激が強く、使用しづらいことがある。そのような場合、ミセルαの製造方法において、さらに(B)工程の後に(C)pHをヒト適用可能範囲にする工程を含有していてもよい。
(C)pHをヒト適用可能範囲にする工程では、(B)の工程により得られる成分含有組成物に、pH調節剤、pH緩衝剤等を添加することにより、組成物のpHをヒト適用可能範囲にする。pH調節剤又はpH緩衝剤として例えば、塩酸、クエン酸、及びリン酸、並びにこれらの塩等が挙げられる。ヒト適用可能範囲とは、例えば、ヒトに点眼投与、点鼻投与、液剤としての経口投与等することが可能な範囲のことをいう。この場合のヒト適用可能範囲とは例えば、pH5~9、好ましくはpH6~8、さらに好ましくはpH6~7、pH7~8等である。
このようにpHをヒト適用可能範囲に変化させても、前述の(A)および(B)の工程等によって製造されたミセルαは、容易に崩壊せず、本発明の効果を奏し得る。
【0029】
上記製造方法により製造されたミセル
本発明は、上記製造方法により製造された、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分を構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセル(ミセルαともいう)を提供する。ミセルαについてはミセルαの説明を参照することができる。
【0030】
〔成分溶解性増大方法〕
本発明は、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分のアニオンミセルを形成させる工程を含有することを特徴とする塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分の溶解性を増大させる方法を提供する。塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分の溶解性とは、液性が中性付近(例えば、pH6~8、pH6.5~7.5等)の場合の当該成分の溶解性である。塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分の溶解性を増大させる方法は、さらに、形成したアニオンミセルを保護剤で保護する工程を含有することが好ましい。
【0031】
使用
本発明は、塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分を高濃度に溶解した液剤を製造するための、ミセルαの使用を包含する。
【0032】
ミセルβ
〔成分〕
成分は、酸性下でカチオン化する官能基を有する。
ミセルβにおける成分は、酸性下でカチオン化する官能基を有する。ミセルβにおける成分は、例えばpH1~pH7未満、pH1~6、pH1~5、pH1~4、pH1~3、pH1~2.5又はpH1~2の下でカチオン化する官能基を有することが好ましく、pH1~2.5又はpH1~2の下でカチオン化する官能基を有することがより好ましい。
酸性下でカチオン化する官能基として、例えばアミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基等が挙げられる。
なお、酸性下でカチオン化する官能基は、塩基性下(例えばpH7超、pH8以上、pH9以上等)でカチオン化状態であってもよい。
また、ミセルβにおける成分は、酸性下でカチオン化する官能基の他に、塩基性下でアニオン化する官能基を有していてもよく、有していなくてもよい。pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、pH6から8の中性領域において水(例えば20℃)への溶解度が1g/100gHO以下であることが好ましく、0.1g/100gHO以下であることがより好ましく、0.001g/100gHO以下であることがより好ましい。また、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、第十七改正日本薬局方等の公定書に水に溶けにくい旨記載されている医薬品の有効成分であってもよい。
また、本開示において長期保存時とは、液剤製造から1週間保存時であってもよく、好ましくは2週間保存時であってもよく、より好ましくは4週間保存時であってもよい。尚、保存期間における保存温度は40℃であってもよく、25℃であってもよい。
ミセルβにおける成分として、以下の化合物が例示される。
【表2】
【0033】
〔カチオンミセル〕
カチオンミセルとは、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が形成するミセルであって、ミセル形成時にそのミセル表層を構成する官能基が正に帯電しているものをいう。カチオンは、模式図1または2においてA核に相当するものである。
図7は、カチオンミセルβの例としての模式図である。図7における正電荷は、酸性下でカチオン化する官能基のカチオン化している部分を示す。図7における正電荷に結合している直線で示されている部分は、酸性下でカチオン化する官能基のカチオン化している部分以外の、成分の部分が簡略化されて示されたものである。すなわち、図7における正電荷とそれに結合する直線からなる1単位は、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分1単位を示す。言い換えると、カチオンミセルにおいて、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が構成単位である。なお、構成単位は複数種存在していてもよく、その場合、同一構成単位からなるミセルが複数種存在していてもよく、複数の構成単位で構成されたミセルが、1種又は複数種存在していてもよい。
ミセルの会合の仕方として、一般的に、H型会合体とJ型会合体の2通りが知られている。H型会合体は、各構成単位が互いに向きを反対にして並列的に重なることで形成される会合体であり、一方、J型会合体は、各構成単位の向きは同じであるが、斜めにずれて重なることにより形成される会合体である。本発明においてカチオンミセルは、図7で示されるようにJ型会合している。各構成単位が単一分散している場合に比べてJ型会合が起これば紫外-可視領域の吸収スペクトルが長波長側にシフトすることで評価できる。
【0034】
〔保護剤〕
前述のカチオンミセルが形成された時点で、成分によっては充分に溶解性が向上し、安定なカチオンミセルとなることがあるが、成分によってはカチオンミセルの安定性が不充分なことがある。特に本願発明のカチオンミセルを含む液剤のpHを中性付近に戻して長期保存を行う場合には、当該pH領域においてカチオンミセルが崩壊してしまうことがある。このような場合、保護剤を添加することにより、カチオンミセルの崩壊を防ぐことが可能となる。
保護剤は、前記カチオンミセルを保護するものであればよいが、具体的には、前記カチオンミセルを水中で安定して存在させる性質を有することが好ましい。
保護剤は、水中でパイ(π)電子を有することが好ましい。π電子とは、π結合に関与し、p軌道上に存在する電子である。p軌道はz軌道上に対称に存在するためz軸正方向と負方向のp軌道のπ電子に由来する部分負電荷から生じた双極子モーメントが相殺されるが、部分負電荷によって誘導された帯電化が新たな双極子モーメントを生じさせ、その結果電気四重極モーメントを形成する。この電気四重極モーメントがカチオンとの分子間相互作用の駆動力となる。このπ電子とカチオンの分子間相互作用(カチオン-π相互作用)は、非共有結合性の分子間相互作用を示し、その結合エネルギーは、水素結合に匹敵する。保護剤は、カチオンミセル表面と分子間相互作用(例えばカチオン-π相互作用)を示すことが好ましい(例として図8参照)。
このような保護剤として、例えばπ電子が安定化された状態で存在する化合物が好ましく、具体的には置換基としてフェニル基を有する化合物又はフェニル誘導体等が好ましい。
保護剤として例えば、置換されていてもよいベンゼン環を1~10有する化合物(置換基は、同一又は異なっていてもよく、-O(CO)mH(mは、8~10の整数を表す。)、又は(C1~10)アルキル基である。(ここで(C1~10)アルキル基は、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ターシャリーペンチル基、ネオペンチル基、2,3‐ジメチルプロピル基、1‐エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2‐メチルブチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基、2‐ヘキシル基、3‐ヘキシル基、2‐メチルペンチル基、3‐メチルペンチル基、1,1,2‐トリメチルプロピル基、3,3‐ジメチルブチル基、ノルマルへプチル基、ノルマルオクチル基、ノルマルノニル基、ノルマルデシル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~10個のアルキル基を示す。))が挙げられる。
また、保護剤として下記一般式(I)(式中、mは8~10の整数を、nは1~5の整数を表す。)で示されるチロキサポールが例示できる。
【0035】
【化1】
【0036】
〔保護剤とカチオンミセルとの関係〕
図8に、ミセルβの例としての模式図を示すが、ミセルβはこれらに限定されない。
図8において、内側の枠内で示されたカチオンミセル表面は正に帯電している。内側の枠から外側の枠までの間の保護剤が存在する層の中で代表例として示された保護剤1分子のカチオンミセルに存在するカチオン化した官能基と結合するベンゼン環の電子密度は、カチオンミセル表面の電子密度と比較して大きく、カチオンミセル表面と分子間相互作用(例えば、カチオン-π相互作用)を形成している。すなわち、図8中矢印(→)は分子間相互作用(例えば、カチオン-π相互作用)を表している。
【0037】
〔ミセルの物性・特徴〕
ミセルの粒度分布を公知の方法により測定することにより、ミセルの物性を確認することができる。本発明のミセルβにおいて、カチオンミセルの直径、及びミセルβの直径を測定する場合、ミセルβの直径がカチオンミセルの直径よりも大きい。カチオンミセルの直径は、構成成分の分子量や成分の濃度等によって大きく異なるが、通例0.1nm以上、100nm以下であり、特に1nm以上10nm以下であることが好ましい。ミセルβの直径は通例0.2nm以上、150nm以下であり、特に1.5nm以上20nm以下であることが好ましい。
また、ミセルβ含有水溶液に、大量のカウンターイオン(アニオン)(例えば塩化ナトリウム)を添加して電荷を消失させることにより、又は無機塩(例えば塩化ナトリウム)を添加して臨界ミセル濃度(CMC)を低下させることにより、成分が析出することを確認することで、ミセルβの存在を確認することができる。
【0038】
〔液剤〕
本発明は、ミセルβを含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤を提供する。本発明の液剤中のミセルβの下限濃度は特に限定されないが、成分(塩でない)として、例えば0.01%(w/v)以上、0.02%(w/v)以上、0.03%(w/v)以上、0.04%(w/v)以上、0.05%(w/v)以上、0.07%(w/v)以上、0.09%(w/v)以上、0.1%(w/v)以上、0.2%(w/v)以上である。本発明の液剤中のミセルβの上限濃度は特に限定されないが、成分(塩でない)として、例えば5.0%(w/v)以下、3.0%(w/v)以下、1.0%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.3%(w/v)以下、0.25%(w/v)以下、0.2%(w/v)以下、0.15%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下である。上記列記された下限濃度と上限濃度とのあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。なお、上記ミセルβの濃度は、下記製造方法の任意の段階で容易に調節できる。
本発明の液剤の長期保存時のpHは、特に限定されず、中性付近~酸性付近、中性付近~塩基性付近、中性付近~弱酸性付近、中性付近~弱塩基性付近等であってもよいが、中性付近であることが好ましい。この場合の中性付近とは、例えば、pH5~9、5.5~8.5、6~8、6.5~7.5等である。pHの調節は公知手段(例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等を添加する手段)に従って行われる。本発明の液剤は、中性付近でも難水溶性成分が溶解されているので点眼剤、点鼻剤、又は経口液剤として特に有用である。点眼剤、点鼻剤、又は経口液剤として使用される場合の成人の1日当たりの投与量は成分(塩でない)として、0.01~10000mgであってもよい。経口液剤として使用される場合の成人の1日当たりの投与量は成分(塩でない)として、1~10000mgであってもよく、0.1~1000mgであってもよく、1~100mgであってもよい。1日当たりの投与量を1~数回に分けて投与してもよい。
本発明の液剤は、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が生理活性成分又は医薬成分である場合、その活性又は薬効を奏することができる。当該成分がアレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎)に伴うそう痒の予防及び/又は治療に有用である場合、本発明の液剤は、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症、アトピー性皮膚炎)に伴うそう痒の予防及び/又は治療に有用である。
【0039】
〔製造方法〕
本発明は、下記工程(a)及び(b)を含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されているミセルβの製造方法を提供する。
(a)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を酸性にする工程
(b)保護剤を添加する工程
【0040】
ミセルβの製造方法において、(a)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を酸性にする工程では、例えば所望の比率の当該成分と水とを混合し、常法により攪拌し、得られた懸濁液に酸を添加することで、該懸濁液を酸性にする。該懸濁液中の当該成分濃度は、臨界ミセル濃度(CMC)以上であることが好ましい。また、当該成分と水との比率(当該成分(g):水(mL))は、当該成分によって適宜変更し得るが、具体的には、(0.001:100)以上(5:100)以下、(0.01:100)以上(3:100)以下、(0.1:100)以上(1:100)以下等であってもよい。この場合の酸性は、当該成分によって適宜変更し得るが、当該成分が一部(例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上)又は全部溶解するpHであることが好ましく、具体的には、pH1以上7未満、pH1以上6以下、pH1以上5以下、pH1以上4以下、pH1以上3以下、pH1以上2.5以下、又はpH1以上2.2以下等が挙げられる。当該成分がブリンゾラミドである場合、酸性を示すpHが2以下であることが好ましい。酸は強酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸、ヨウ化水素、過塩素酸、臭化水素等)、弱酸(例えばクエン酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、硫化水素等)のいずれであってもよいが、強酸であることが好ましい。
【0041】
ミセルβの製造方法において、(b)保護剤を添加する工程では、(a)の工程により得られる成分含有組成物に所望量の保護剤を添加する。成分と保護剤のモル比(成分:保護剤)は、保護剤により適宜変更し得るが、例えば、(100:1)~(1:1000)であってもよい。
保護剤の種類によっては、疎水基がミセルβの外側に位置するため、ミセルβの溶解性が所望の程度に達しないことがある。そのような場合、必要に応じてミセルβの製造方法において、さらに(b)工程と同時又は(b)工程の後に(c)界面活性剤を添加する工程を含有していてもよい。(c)工程では、(b)の工程により得られる成分含有組成物に所望量の界面活性剤を添加する。成分と界面活性剤のモル比(成分:界面活性剤)は、界面活性剤により適宜変更し得るが、例えば、(100:1)~(1:1000)であってもよい。
【0042】
前述の(a)および(b)の工程、または必要に応じて(a)、(b)、および(c)の工程により、ミセルβは充分な安定性を得られており、このままでも利用できるが、例えば、本発明を医薬品に用いる場合には、ミセルβを含有する液を、そのままのpHでヒトに適用すると刺激が強く、使用しづらいことがある。そのような場合、ミセルβの製造方法において、さらに(b)又は(c)工程の後に(d)pHをヒト適用可能範囲にする工程を含有していてもよい。ミセルβの製造方法において、(b)工程の後に(d)工程を含有する場合、(d)工程の後に(c)工程を含有してもよい。
(d)pHをヒト適用可能範囲にする工程では、(b)又は(c)の工程により得られる成分含有組成物に、pH調節剤、pH緩衝剤等を添加することにより、組成物のpHをヒト適用可能範囲にする。pH調節剤又はpH緩衝剤として例えば、塩酸、クエン酸、及びリン酸、並びにこれらの塩等が挙げられる。ヒト適用可能範囲とは、例えば、ヒトに点眼投与、点鼻投与、液剤としての経口投与等することが可能な範囲のことをいう。この場合のヒト適用可能範囲とは例えば、pH5~9、好ましくはpH6~8、さらに好ましくはpH6~7、pH7~8等である。
【0043】
上記製造方法により製造されたミセル
本発明は、上記製造方法により製造された、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤で保護されているミセル(ミセルβともいう。)を提供する。ミセルβについてはミセルβの説明を参照することができる。
【0044】
〔成分溶解性増大方法〕
本発明は、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分のカチオンミセルを形成させる工程を含有することを特徴とする酸性下でカチオン化する官能基を有する成分の溶解性を増大させる方法を提供する。酸性下でカチオン化する官能基を有する成分の溶解性とは、液性が中性付近(例えば、pH6~8、pH6.5~7.5等)の場合の当該成分の溶解性、液性が塩基性付近(例えば、pH8~14、pH8~10、pH8~9等)の場合の当該成分の溶解性、液性が酸性付近(例えば、pH3~6、pH4~6、pH5~6等)の場合の当該成分の溶解性であってもよい。酸性下でカチオン化する官能基を有する成分の溶解性を増大させる方法は、さらに、形成したカチオンミセルを保護剤で保護する工程を含有することが好ましい。
【0045】
使用
本発明は、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を高濃度に溶解した液剤を製造するための、ミセルβの使用を包含する。
【実施例0046】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。各表内における室温の表現は「なりゆき室温」を意味する。
【0047】
(1)塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分
〔試験例1〕フェキソフェナジン塩酸塩
下記表3に示す手順で、フェキソフェナジン含有液体組成物を製造し、製造直後、製造1~4週間後(なりゆき室温、5℃、40℃条件下)に、フェキソフェナジンの可溶化を確認した(表4~6)。なお、表4~6中「○」は目視により析出が観察されなかったことを、「×」は目視により析出が観察されたことを、「-」は試験未実施を、それぞれ意味する。なお、ある条件下で析出が確認された場合、それ以降の同条件での試験は実施していない。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
上記表4及び5から明らかなように、pHを塩基性にし、その後保護剤を添加することで、その後pHを中性付近に調節してもアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルが形成されるため、フェキソフェナジンの可溶化が可能となった。
一方、上記表6から明らかなように、比較例では、pHを塩基性にしないまま保護剤を添加したため、アニオンミセルが形成されず、該アニオンミセルが保護剤で保護されているミセルも形成されず、フェキソフェナジンを可溶化することができなかった。
【0053】
〔試験例2〕その他の塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分
塩基性下でアニオン化する官能基を有する成分として、フェキソフェナジンの代わりにレバミピド、インドメタシン、L-カルボシステイン、イブプロフェン又はウルソデオキシコール酸を用い、表7に示す組成で上記成分含有液体組成物を製造した以外は試験例1の実施例と同様の手順で、各サンプルの製造直後、製造1週間後(なりゆき室温、40℃条件下)に、上記成分の可溶化を確認した(表7)。なお、表7中「○」は目視により析出が観察されなかったことを意味する。
【0054】
【表7】
【0055】
上記表7から明らかなように、上記成分についても、pHを塩基性にし、その後保護剤を添加することで、その後pHを中性付近に調節してもアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルが形成されるため、上記成分の可溶化が可能となった。
【0056】
(2)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分
〔試験例3〕ブリンゾラミド
下記表8に示す手順で、ブリンゾラミド含有液体組成物を製造し、製造直後、製造1~4週間後(なりゆき室温、5℃、40℃条件下)に、ブリンゾラミドの可溶化を確認した(表9及び10)。なお、表9及び10中「○」は目視により析出が観察されなかったことを、「×」は目視により析出が観察されたことを、「-」は試験未実施を、それぞれ意味する。なお、ある条件下で析出が確認された場合、それ以降の同条件での試験は実施していない。
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
【表10】
【0060】
上記表9から明らかなように、pHを酸性にし、その後保護剤を添加することで、その後pHを中性付近に調節してもカチオンミセルが保護剤で保護されているミセルが形成されるため、ブリンゾラミドの可溶化が可能となった。
一方、上記表10から明らかなように、比較例では、pHを酸性にしないまま保護剤を添加したため、カチオンミセルが形成されず、該カチオンミセルが保護剤で保護されているミセルも形成されず、ブリンゾラミドを可溶化することができなかった。
【0061】
〔試験例4〕その他の酸性下でカチオン化する官能基を有する成分
酸性下でカチオン化する官能基を有する成分として、ブリンゾラミドの代わりにトリメブチン、アミノ安息香酸エチル、バクロフェン、メトクロプラミド、又はリドカイン塩酸塩を用い、表11に示す組成で上記成分含有液体組成物を製造した以外は試験例3の実施例と同様の手順で、各サンプルの製造直後、及び製造1週間後(なりゆき室温、及び40℃条件下)に、上記成分の可溶化を確認した(表11)。なお、表11中「○」は目視により析出が観察されなかったことを意味する。
【0062】
【表11】
【0063】
上記表11から明らかなように、上記成分についても、pHを酸性にし、その後保護剤を添加することで、その後pHを中性付近に調節してもカチオンミセルが保護剤で保護されているミセルが形成されるため、上記成分の可溶化が可能となった。
【0064】
(3)ミセル形成の確認
(3-1)確認1
<1>下記表12に示される試料を作製するために、ビーカーに各量のフェキソフェナジン塩酸塩をそれぞれ量り取り、pH12.5に調製した水酸化ナトリウム水溶液5mLを正確に加え15分撹拌し溶解させた。試料3~7においては、表12に記載の量の固体の水酸化ナトリウムを溶解するまで添加した。
<2><1>で調製されたフェキソフェナジン水溶液を全てpH12.5に調製した。
<3>各試料の紫外線吸収スペクトルを測定し、波長268nmでの吸光度を測定した(表12)。
【0065】
各試料の吸光度の結果を表12に、縦軸に吸光度、横軸にフェキソフェナジン濃度を定めプロットしたグラフを図9に示す。
【0066】
【表12】
【0067】
図9において、フェキソフェナジン低濃度域の点を結び、直線が得られた。また、フェキソフェナジン高濃度域の点を結び、直線が得られた。
2つの直線の交点は臨界ミセル濃度(CMC)を表し、その値は1mg/mL(0.1%w/v)であった。
この結果より、0.1%w/vフェキソフェナジンアニオン溶液は、ミセル構造を有することが確認された。
【0068】
(3-2)確認2
試料1~7の最大吸収波長(λmax)(下記表13を参照)付近で紫外線吸収スペクトルを測定した。
【0069】
【表13】
【0070】
結果を図10に示す。図10に示されるように、CMCを超えた濃度である試料4から試料7に向けて、スペクトルのピークが長波長側に7nm程度シフトすることが観測された。また、試料4を測定後、試料2と同様の濃度に希釈し、即時測定した結果、そのスペクトルは試料2と完全に一致し、その可逆性が示された。
これらの結果からフェキソフェナジンアニオンはCMCを超えた濃度、すなわちミセル構造を形成している濃度域でJ型会合の挙動を示すことが確認された。
【0071】
(3-3)確認3
下記表14に示される製造例80のアニオンミセルを製造した。また、上記表3の実施例の手順に従って製造例81及び82のミセルを製造した。
【0072】
【表14】
【0073】
動的光散乱式(DLS)ナノ粉末粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社 マルバーン事業部製、ゼータサイザーナノZS)を用いて、製造例80のアニオンミセル並びに製造例81及び82のミセルの粒度分布を測定した。
その結果、製造例80のアニオンミセルの直径は約1.4nm(表15、図11)、製造例81のミセルの直径は約1.9nm(表16、図12)、製造例82のミセルの直径は約1.5nm(表17、図13)であった。
尚、製造例80のアニオンミセル並びに製造例81及び82のミセルの粒度分布の測定条件は以下の通りである。
〔製造例80〕条件:試料RI:1.60°分散媒RI:1.474 粘度:0.94 mpa・s 温度:25℃
〔製造例81〕条件:試料RI:1.60°分散媒RI:1.337 粘度:1.24 mpa・s 温度:25℃
〔製造例82〕条件:試料RI:1.60°分散媒RI:1.337 粘度:1.15 mpa・s 温度:25℃
【0074】
【表15】
【0075】
【表16】
【0076】
【表17】
【0077】
以上の粒子径比較により、製造例81においてフェキソフェナジンの周囲をヒドロキシプロピルメチルセルロース(本明細書においては、ヒプロメロースまたはHPMCともいう。)が覆い、さらにグリセリンがHPMCの周囲を覆っていることが確認された。
【0078】
(3-4)確認4
製造例80のアニオンミセル含有溶液、製造直後若しくは40℃で6ヶ月保存後の製造例81のミセル含有溶液、又は製造直後若しくは40℃で6ヶ月保存後の製造例80のミセル含有溶液5mLに塩化ナトリウムを100mg添加した。いずれの溶液も瞬時にフェキソフェナジンが析出した。これは、ミセル崩壊によるものであり、いずれの溶液においてもミセル形成を確認できた。
【0079】
(4)特表2003-519083の実施例5に記載の製剤に関する確認
特表2003-519083の実施例5に記載の製剤は、本発明におけるミセルβと異なることを下記のようにして確認した。
(4-1)
特表2003-519083実施例5の記載に基づき製剤を調製後、製剤をなりゆき室温に放置した。結果を下記表18に示す。
【0080】
【表18】
【0081】
(4-2)
特表2003-519083実施例5の記載に基づき製剤を調製後、製剤のpHを測定した。製剤のpHは3.16であった。
そこで、1.0N水酸化ナトリウム水溶液を添加した結果、pH6で白濁し、pH7で大量析出した。
【0082】
以上、特表2003-519083の実施例5に記載の製剤においては、室温下での安定性が著しく悪く、非常に低いpH下のもと1時間のみフェキソフェナジンを溶解できる可溶化法であり、特に医薬品としての使用を目的とした場合には実用的でない。
【0083】
(5)フェキソフェナジンの薬効確認試験
ラット(Wistar系、雄性、搬入時5週齢、日本エスエルシー社より購入)を麻酔下で、予め作製した卵白アルブミン抗血清(抗体価3)を両下眼瞼結膜下に注射することにより受動感作した(10μL/眼、n=6/群)。その48時間後に、惹起溶液1mLを静脈内投与し、結膜局所にアレルギー反応を惹起した。試験液をアレルギー惹起15分前及び直前に点眼投与した(計2回)。反応惹起30分後にラットを安楽死させ、眼瞼結膜を結膜円蓋部に沿って摘出し、組織重量を測定後、抽出液を添加して一晩抽出した。一晩経過した抽出液を遠心分離し、上清の620nmの吸光度を測定した。群3は製造例14、群4は製造例32を用いた。
(評価方法)
アレルギー反応により、血管透過性が亢進するとエバンスブルーが漏出するため、漏出色素量が少ない程、血管透過性の亢進が抑制され、抗アレルギー効果有りと判断される。予め作成した検量線を用いて単位組織あたりの漏出色素量(μg/g)を求め、抑制効果の指標とした。
群1:生理食塩水
群2:ザジテン(登録商標)点眼液0.05%
群3:フェキソフェナジン可溶化製剤0.1%
群4:フェキソフェナジン可溶化製剤0.3%
【0084】
結果を図14に示す。図14から明らかなように、フェキソフェナジンを構成単位とするアニオンミセルが保護剤で保護されているミセルの形成によって、フェキソフェナジンの薬効は低くなることはなく、維持された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、難水溶性成分の可溶化技術を提供するものであり、あらゆる技術分野に応用可能であるが、特に医薬の分野で利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2022-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性下でカチオン化する官能基を有し、カチオンミセルを形成可能な成分を構成単位とするカチオンミセルが、その周囲において、保護剤の存在する層により取り囲まれて保護されていることを特徴とするミセル。
【請求項2】
保護剤の、カチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子の電子密度が、当該カチオンミセルのカチオン化した官能基の電子密度と比較して大きいことを特徴とする請求項に記載のミセル。
【請求項3】
保護剤の、カチオンミセルのカチオン化した官能基と結合する原子と、当該カチオンミセルのカチオン化した官能基とが、カチオン-パイ(π)相互作用により結合していることを特徴とする請求項又はに記載のミセル。
【請求項4】
保護剤が、パイ(π)電子を有することを特徴とする請求項のいずれかに記載のミセル。
【請求項5】
保護剤が、チロキサポールであることを特徴とする請求項のいずれかに記載のミセル。
【請求項6】
護剤が存在する層の外側に密接して、更に界面活性剤が存在する層を有することを特徴とする請求項5のいずれかに記載のミセル。
【請求項7】
前記成分が、ブリンゾラミド、トリメブチン、アミノ安息香酸エチル、バクロフェン、メトクロプラミド、及びリドカイン、並びにこれらの塩からなる群より選択される1以上であることを特徴とする請求項のいずれかに記載のミセル。
【請求項8】
請求項のいずれかに記載のミセルを含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が可溶化されている液剤。
【請求項9】
前記成分の濃度が0.01~5.0%(w/v)であることを特徴とする請求項に記載の液剤。
【請求項10】
長期保存時のpHが5~9である請求項又はに記載の液剤。
【請求項11】
点眼剤又は点鼻剤であることを特徴とする請求項10のいずれかに記載の液剤。
【請求項12】
下記工程(a)及び(b)を含有する、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分を構成単位とするカチオンミセルが保護剤の存在する層により取り囲まれて保護されているミセルの製造方法。
(a)酸性下でカチオン化する官能基を有する成分含有水懸濁液を酸性にする工程
(b)保護剤を添加する工程
【請求項13】
酸性下でカチオン化する官能基を有する成分のカチオンミセルを形成させる工程、及び前記成分を構成単位とするカチオンミセルを、その周囲において、保護剤の存在する層により取り囲んで保護する工程を含有することを特徴とする前記成分の溶解性を増大させる方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
ミセルα
〔成分〕
ミセルαにおける成分は、塩基性下でアニオン化する官能基を有し、アニオンミセルを形成可能である。ミセルαにおける成分は、例えばpH7超~pH14、pH8~14、pH9~14、pH10~14、pH11~pH14、pH12~14又はpH13~14の下でアニオン化する官能基を有することが好ましく、pH12~14又はpH13~14の下でアニオン化する官能基を有することがより好ましい。
塩基性下でアニオン化する官能基として、例えばカルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ホスホリル基(-O-PO(OH)OH)、ヒドロキシル基(-OH)、スルホンアミドが挙げられる。
なお、塩基性下でアニオン化する官能基は、酸性下(例えばpH7未満、pH6以下、pH5以下等)でアニオン化状態であってもよい。
また、ミセルαにおける成分は、塩基性下でアニオン化する官能基の他に、酸性下でカチオン化する官能基を有していてもよく、有していなくてもよい。
本願の目的の1つは難水溶性成分を可溶化することにあるため、ミセルαにおける成分としては、通例、水への溶解度が低い成分が選択される。特に、本願発明の技術を用いて、液剤等の医薬品を製造するには、後述のとおり、液剤の長期保存時や使用時においてpHが中性付近であることが刺激性の観点などから求められることがあるため、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分であると、より本願発明の効果が生かせるため好ましい。pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、pH6から8の中性領域において水(例えば20℃)への溶解度が1g/100gHO以下であることが好ましく、0.1g/100gHO以下であることがより好ましく、0.001g/100gHO以下であることがより好ましい。また、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、第十七改正日本薬局方等の公定書に水に溶けにくい旨記載されている医薬品の有効成分であってもよい。
また、本開示において長期保存時とは、液剤製造から1週間保存時であってもよく、好ましくは2週間保存時であってもよく、より好ましくは4週間であってもよい。尚、保存期間における保存温度は40℃であってもよく、25℃であってもよい。
ミセルαにおける成分として、以下の化合物が例示される。
【表1】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
ミセルβ
〔成分〕
成分は、酸性下でカチオン化する官能基を有する。
ミセルβにおける成分は、酸性下でカチオン化する官能基を有する。ミセルβにおける成分は、例えばpH1~pH7未満、pH1~6、pH1~5、pH1~4、pH1~3、pH1~2.5又はpH1~2の下でカチオン化する官能基を有することが好ましく、pH1~2.5又はpH1~2の下でカチオン化する官能基を有することがより好ましい。
酸性下でカチオン化する官能基として、例えばアミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基等が挙げられる。
なお、酸性下でカチオン化する官能基は、塩基性下(例えばpH7超、pH8以上、pH9以上等)でカチオン化状態であってもよい。
また、ミセルβにおける成分は、酸性下でカチオン化する官能基の他に、塩基性下でアニオン化する官能基を有していてもよく、有していなくてもよい。pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、pH6から8の中性領域において水(例えば20℃)への溶解度が1g/100gHO以下であることが好ましく、0.1g/100gHO以下であることがより好ましく、0.001g/100gHO以下であることがより好ましい。また、pH6から8の中性領域において水への溶解度が低い成分として、第十七改正日本薬局方等の公定書に水に溶けにくい旨記載されている医薬品の有効成分であってもよい。
また、本開示において長期保存時とは、液剤製造から1週間保存時であってもよく、好ましくは2週間保存時であってもよく、より好ましくは4週間保存時であってもよい。尚、保存期間における保存温度は40℃であってもよく、25℃であってもよい。
ミセルβにおける成分として、以下の化合物が例示される。
【表2】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
〔カチオンミセル〕
カチオンミセルとは、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が形成するミセルであって、ミセル形成時にそのミセル表層を構成する官能基が正に帯電しているものをいう。カチオンミセルは、模式図1または2においてA核に相当するものである。
図7は、カチオンミセルの例としての模式図である。図7における正電荷は、酸性下でカチオン化する官能基のカチオン化している部分を示す。図7における正電荷に結合している直線で示されている部分は、酸性下でカチオン化する官能基のカチオン化している部分以外の、成分の部分が簡略化されて示されたものである。すなわち、図7における正電荷とそれに結合する直線からなる1単位は、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分1単位を示す。言い換えると、カチオンミセルにおいて、酸性下でカチオン化する官能基を有する成分が構成単位である。なお、構成単位は複数種存在していてもよく、その場合、同一構成単位からなるミセルが複数種存在していてもよく、複数の構成単位で構成されたミセルが、1種又は複数種存在していてもよい。
ミセルの会合の仕方として、一般的に、H型会合体とJ型会合体の2通りが知られている。H型会合体は、各構成単位が互いに向きを反対にして並列的に重なることで形成される会合体であり、一方、J型会合体は、各構成単位の向きは同じであるが、斜めにずれて重なることにより形成される会合体である。本発明においてカチオンミセルは、図7で示されるようにJ型会合している。各構成単位が単一分散している場合に比べてJ型会合が起これば紫外-可視領域の吸収スペクトルが長波長側にシフトすることで評価できる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
〔保護剤〕
前述のカチオンミセルが形成された時点で、成分によっては充分に溶解性が向上し、安定なカチオンミセルとなることがあるが、成分によってはカチオンミセルの安定性が不充分なことがある。特に本願発明のカチオンミセルを含む液剤のpHを中性付近に戻して長期保存を行う場合には、当該pH領域においてカチオンミセルが崩壊してしまうことがある。このような場合、保護剤を添加することにより、カチオンミセルの崩壊を防ぐことが可能となる。
保護剤は、前記カチオンミセルを保護するものであればよいが、具体的には、前記カチオンミセルを水中で安定して存在させる性質を有することが好ましい。
保護剤は、水中でパイ(π)電子を有することが好ましい。π電子とは、π結合に関与し、p軌道上に存在する電子である。p軌道はz上に対称に存在するためz軸正方向と負方向のp軌道のπ電子に由来する部分負電荷から生じた双極子モーメントが相殺されるが、部分負電荷によって誘導された帯電化が新たな双極子モーメントを生じさせ、その結果電気四重極モーメントを形成する。この電気四重極モーメントがカチオンとの分子間相互作用の駆動力となる。このπ電子とカチオンの分子間相互作用(カチオン-π相互作用)は、非共有結合性の分子間相互作用を示し、その結合エネルギーは、水素結合に匹敵する。保護剤は、カチオンミセル表面と分子間相互作用(例えばカチオン-π相互作用)を示すことが好ましい(例として図8参照)。
このような保護剤として、例えばπ電子が安定化された状態で存在する化合物が好ましく、具体的には置換基としてフェニル基を有する化合物又はフェニル誘導体等が好ましい。
保護剤として例えば、置換されていてもよいベンゼン環を1~10有する化合物(置換基は、同一又は異なっていてもよく、-O(CO)mH(mは、8~10の整数を表す。)、又は(C1~10)アルキル基である。(ここで(C1~10)アルキル基は、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ターシャリーペンチル基、ネオペンチル基、2,3‐ジメチルプロピル基、1‐エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2‐メチルブチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基、2‐ヘキシル基、3‐ヘキシル基、2‐メチルペンチル基、3‐メチルペンチル基、1,1,2‐トリメチルプロピル基、3,3‐ジメチルブチル基、ノルマルへプチル基、ノルマルオクチル基、ノルマルノニル基、ノルマルデシル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~10個のアルキル基を示す。))が挙げられる。
また、保護剤として下記一般式(I)(式中、mは8~10の整数を、nは1~5の整数を表す。)で示されるチロキサポールが例示できる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0078
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0078】
(3-4)確認4
造直後若しくは40℃で6ヶ月保存後の製造例81のミセル含有溶液、又は製造直後若しくは40℃で6ヶ月保存後の製造例82のミセル含有溶液5mLに塩化ナトリウムを100mg添加した。いずれの溶液も瞬時にフェキソフェナジンが析出した。これは、ミセル崩壊によるものであり、いずれの溶液においてもミセル形成を確認できた。