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特開2022-120120眼科用水性組成物及びプロスタグランジンF2α誘導体の含量の低下を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120120
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】眼科用水性組成物及びプロスタグランジンF2α誘導体の含量の低下を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5575 20060101AFI20220809BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220809BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220809BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220809BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220809BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61P27/06
A61P43/00 112
A61K9/08
A61K47/34
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/02
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022095194
(22)【出願日】2022-06-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 尚之
(72)【発明者】
【氏名】鳥崎 真吾
(72)【発明者】
【氏名】内藤 卓人
(57)【要約】
【課題】プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下を抑制しながら浸透圧が調整された、プロスタグランジンF2α誘導体を含有する眼科用水性組成物を提供する。
【解決手段】プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする眼科用水性組成物であって、非イオン性界面活性剤と等張化剤とを含み、グリセリンを実質的に含有しない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする眼科用水性組成物であって、非イオン性界面活性剤と等張化剤とを含み、グリセリンを実質的に含有しない、眼科用水性組成物。
【請求項2】
前記有効成分としてタフルプロストを含む、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリソルベートからなる群から選択される1つ以上を含む、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤の濃度が0.5mg/mL以上25mg/mL以下である、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項5】
前記等張化剤として、プロピレングリコール及び塩化ナトリウムからなる群から選択される1つ以上を含む、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項6】
浸透圧比が0.5以上2.0以下である、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項7】
樹脂製容器に充填されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項8】
タフルプロストを有効成分とする眼科用水性組成物であって、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリソルベートからなる群から選択される1つ以上の添加剤と、プロピレングリコール及び塩化ナトリウムからなる群から選択される1つ以上の添加剤と、を含み、グリセリンを実質的に含有しない、眼科用水性組成物。
【請求項9】
浸透圧比が0.8以上1.2以下である、請求項8に記載の眼科用水性組成物。
【請求項10】
樹脂製容器に充填されている、請求項8又は9に記載の眼科用水性組成物。
【請求項11】
プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする眼科用水性組成物におけるプロスタグランジンF2α誘導体の含量の低下を抑制する方法であって、グリセリンを実質的に添加することなく、非イオン性界面活性剤及び等張化剤を添加する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用水性組成物及びプロスタグランジンF2α誘導体の含量の低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タフルプロスト又はラタノプロストのようなプロスタグランジンF2α誘導体は、緑内障治療のために点眼剤として用いられている。例えば、非特許文献1は、タフルプロストに加えて、ポリソルベート80、エチレンジアミン四酢酸、グリセリン、及びベンザルコニウム塩化物を含有するタプロス(登録商標)点眼液を開示している。また、特許文献1は、安定化剤として刺激性を有するエチレンジアミン四酢酸を用いる代わりに、適切な防腐剤を用いることにより、タフルプロストの含量安定性を向上させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6855026号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】タプロス(登録商標)点眼液0.0015%及びタプロス(登録商標)ミニ点眼液0.0015%添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者の検討によれば、プロスタグランジンF2α誘導体を含有する眼科用水性組成物は、浸透圧差による眼刺激性を低減するために等張化剤を添加すると、プロスタグランジンF2α誘導体が不安定化する傾向が見出された。
【0006】
本発明は、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下を抑制しながら浸透圧が調整された、プロスタグランジンF2α誘導体を含有する眼科用水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする眼科用水性組成物であって、非イオン性界面活性剤と等張化剤とを含み、グリセリンを実質的に含有しない。
【発明の効果】
【0008】
プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下を抑制しながら浸透圧が調整された、プロスタグランジンF2α誘導体を含有する眼科用水性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする眼科用水性組成物であって、非イオン性界面活性剤と等張化剤とを含み、グリセリンを実質的に含有しない。このような眼科用水性組成物は、例えば患者への点眼用に用いることができる。以下の例において、眼科用水性組成物は点眼液である。
【0011】
本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分として含有している。プロスタグランジンF2α誘導体は、プロスタグランジンF2αがシクロペンタン環上に有するヒドロキシオクテニル基の代わりに置換基を有していてもよいC以上の炭素鎖を、カルボキシヘキセニル基の代わりに置換基を有していてもよいCカルボン酸基又はそのエステル若しくはアミドを有している化合物である。プロスタグランジンF2α誘導体の例としては、例えば、ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト、及びウノプロストン等が挙げられる。なお、眼科用水性組成物は、2種類以上のプロスタグランジンF2α誘導体を含有していてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、医薬的に有効な量のプロスタグランジンF2α誘導体を含有している。プロスタグランジンF2α誘導体を含有する眼科用水性組成物は、例えば、緑内障の治療若しくは予防、高眼圧症の治療若しくは予防、又は眼圧の低下若しくは上昇抑制の用途で用いることができる。眼科用水性組成物がプロスタグランジンF2α誘導体を有効成分として含有していることは、眼科用水性組成物がこのような用途で用いるために有効な量のプロスタグランジンF2α誘導体を含有していることを意味する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、さらに非イオン性界面活性剤を含有する。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及びショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。例えば、非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリソルベートからなる群から選択される1つ以上であってもよい。なお、眼科用水性組成物は、2種類以上の非イオン性界面活性剤を含有していてもよい。
【0014】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80、又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100等を用いることができる。モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコールとしては、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(25)、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(40)、又はモノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール(100)等を用いることができる。
【0015】
また、本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、さらにグリセリン以外の等張化剤を含有し、グリセリンを実質的に含有しない。等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、若しくはホウ酸等の無機塩、プロピレングリコール等のジオール類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、グルコース、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、若しくはスクロース等の糖類、等が挙げられる。例えば、等張化剤は、プロピレングリコール及び塩化ナトリウムからなる群から選択される1つ以上であってもよい。なお、眼科用水性組成物は、2種類以上の等張化剤を含有していてもよい。
【0016】
本願発明者の検討によれば、眼科用水性組成物に対して、浸透圧の調整、又は眼刺激性の低減等の目的で等張化剤を添加する場合に、グリセリン以外の等張化剤を、非イオン性界面活性剤と組み合わせて用いることにより、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下を抑制できることが見出された。
【0017】
眼科用水性組成物中の等張化剤の濃度は、所望の浸透圧に応じて適宜選択することができる。例えば、等張化剤の濃度は、0.01mg/mL以上であってもよく、100mg/mL以下であってもよい。一実施形態に係る眼科用水性組成物の浸透圧比は、特に限定されないが、眼への刺激を低減する観点から、0.5以上、0.6以上、0.7以上、又は0.8以上であってもよく、0.9以上であることが好ましい。一方で、2.0以下、1.4以下、又は1.2以下であってもよく、1.1以下であることが好ましい。浸透圧比とは、生理食塩水に対する浸透圧比である。
【0018】
上述のように、本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物はグリセリンを実質的に含有しない。本願発明者の検討によれば、眼科用水性組成物に対して等張化剤としてグリセリンを添加すると、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性が低下する傾向が見出された。特に、一実施形態において、眼科用水性組成物はアスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸、トコフェロール、又はジブチルヒドロキシトルエンのような抗酸化剤の含有量が低減されている。例えば、一実施形態において、眼科用水性組成物中の抗酸化剤の濃度は、0.5mg/mL未満、0.3mg/mL未満、又は0.15mg/mL未満であってもよく、眼科用水性組成物が抗酸化剤を実質的に含有していなくてもよい。また、一実施形態において、眼科用水性組成物の刺激性を低減する観点から、眼科用水性組成物はエチレンジアミン四酢酸を実質的に含有していない。このように、抗酸化剤の含有量が低減された又は抗酸化剤を実質的に含有しない眼科用水性組成物に対して等張化剤としてグリセリンを添加すると、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性が大きく低下する傾向がみられる。一方で、上記のように、等張化剤としてグリセリンを用いる代わりに、グリセリン以外の等張化剤を非イオン性界面活性剤と組み合わせて用いることにより、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性を改善することができる。
【0019】
本明細書において、眼科用水性組成物がグリセリンを実質的に含有しないことは、眼科用水性組成物がグリセリンを全く含有しないこと、眼科用水性組成物がプロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性に実質的に影響を与える量のグリセリンを含有しないこと、又は眼科用水性組成物が浸透圧に実質的に影響を与える量のグリセリンを含有しないこと、を意味する。ここで、眼科用水性組成物がプロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性に実質的に影響を与える量のグリセリンを含有しないとは、眼科用水性組成物が抗酸化剤を含まない場合に、眼科用水性組成物が抗酸化剤及びグリセリンを全く含有しない場合と比較して、60℃で1週間又は40℃で1ヶ月保管した後のプロスタグランジンF2α誘導体の含量の差異が10%以下であることを意味する。本明細書において、「抗酸化剤を含まない場合」とは、抗酸化剤を含まないことを除き同一組成を有することをいう。同様に、「抗酸化剤及びグリセリンを全く含有しない場合」とは、抗酸化剤及びグリセリンを全く含まないことを除き同一組成を有することをいう。また、眼科用水性組成物が浸透圧に実質的に影響を与える量のグリセリンを含有しないとは、グリセリンの含有量が14mOsm/L以下であること、又は2.8mOsm/L以下であることを意味する。
【0020】
本明細書において、眼科用水性組成物が抗酸化剤(若しくはエチレンジアミン四酢酸)を実質的に含有しないことは、眼科用水性組成物が抗酸化剤(若しくはエチレンジアミン四酢酸)を全く含有しないこと、又は眼科用水性組成物がプロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性に実質的に影響を与える量の抗酸化剤(若しくはエチレンジアミン四酢酸)を含有しないことを意味する。ここで、眼科用水性組成物がプロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性に実質的に影響を与える量の抗酸化剤(若しくはエチレンジアミン四酢酸)を含有しないとは、眼科用水性組成物と比較して、眼科用水性組成物が抗酸化剤(若しくはエチレンジアミン四酢酸)を含まない場合に、60℃で1週間又は40℃で1ヶ月保管した後のプロスタグランジンF2α誘導体の含量の差異が10%以下であることを意味する。
【0021】
眼科用水性組成物中の非イオン性界面活性剤の濃度は、求められるプロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性に応じて適宜選択することができる。すなわち、非イオン性界面活性剤の添加量を増やすことにより、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下をより強く抑制できる傾向が見られる。例えば、非イオン性界面活性剤の濃度は、0.01mg/mL以上、0.05mg/mL以上、0.1mg/mL以上、又は0.5mg/mL以上であってもよい。一方で、有効成分の眼組織移行性や眼科用水性組成物の表面張力を調整するために、非イオン性界面活性剤の濃度は、25mg/mL以下、10mg/mL以下、5mg/mL以下、又は2mg/mL以下であってもよい。一実施形態において、非イオン性界面活性剤の濃度は、0.01mg/mL以上5mg/mL以下、0.1mg/mL以上2mg/mL以下、又は0.5mg/mL以上25mg/mL以下である。
【0022】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体以外の有効成分を含有していてもよい。有効成分の種類は特に限定されないが、有効成分の例としては、カルテオロール及びチモロールのようなβ遮断薬、ブリモニジンのようなα2作動薬、リパスジルのようなROCK阻害薬、並びにオミデネパグのようなEP2受容体作動薬、等の緑内障治療薬が挙げられる。また、有効成分の別の例としては、フルオロメトロン及びベタメタゾンのようなステロイド薬、ジクアホソルナトリウム及びヒアルロン酸のようなドライアイ治療薬、プラノプロフェン及びアズレンスルホン酸のような抗炎症薬、クロモグリク酸及びケトチフェンのような抗アレルギー薬、などが挙げられる。なお、眼科用水性組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体以外に2種類以上の有効成分の組み合わせを含んでいてもよい。
【0023】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、さらなる添加剤を含有していてもよい。添加剤の例としては、防腐剤、緩衝剤、pH調節剤、及び粘稠化剤等が挙げられる。
【0024】
防腐剤の例としては、第四級アンモニウム化合物、ビグアナイド系化合物、パラオキシ安息香酸エステル及びクロロブタノールのようなアルコール系化合物、並びに亜塩素酸塩のような塩素酸化物系化合物等が挙げられる。第四級アンモニウム化合物としては、ベンザルコニウム塩及びベンゼトニウム塩などが挙げられる。なお、これらの第四級アンモニウム化合物に結合する陰イオンの種類は特に限定されず、例えば第四級アンモニウム化合物として塩化ベンザルコニウム又は塩化ベンゼトニウムなどを用いることができる。また、ビグアナイド系化合物は、ビグアナイド骨格(N-C(=N)-N-C(=N)-N)を有する化合物であり、ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアナイド)及びクロルヘキシジンなどが挙げられる。例えば、防腐剤は、ビグアナイド系化合物及びアルコール系化合物からなる群から選択される1つ以上、又はビグアナイド系化合物及びクロロブタノールからなる群から選択される1つ以上であってもよい。眼科用水性組成物は2種類以上の防腐剤を含有していてもよい。
【0025】
緩衝剤の例としては、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、及びトロメタモール等が挙げられる。眼科用水性組成物は2種類以上の緩衝剤を含有していてもよい。
【0026】
pH調節剤の例としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。眼科用水性組成物は2種類以上のpH調整剤を含有していてもよい。
【0027】
粘稠化剤の例としては、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、及びグリセリン等が挙げられる。眼科用水性組成物は2種類以上の粘稠化剤を含有していてもよい。
【0028】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、保存含量安定性及び携帯性等の観点から、容器に収容することができる。容器は、眼科用水性組成物を直接的に収容する包装体のことである。容器は、第十八改正日本薬局方通則に定義される「密閉容器」、「気密容器」、及び「密封容器」のいずれかである。
【0029】
眼科用水性組成物が含む溶媒は特に限定されないが、一般的には水が用いられる。眼科用水性組成物のpHは点眼可能であれば特に制限されないが、眼への刺激を低減する観点から、例えば6以上又は6.5以上であってもよく、8以下又は7.5以下であってもよい。
【0030】
また、眼科用水性組成物は、エチレンオキサイドガスや過酸化水素等のガスで滅菌処理された容器に収容されてもよい。ガス滅菌処理で使用されるガスの種類については、特に制限されないが、例えば、エチレンオキサイドガス、過酸化水素ガス、これらと二酸化炭素等との混合ガス等が挙げられる。眼科用水性組成物は、ガンマ線照射及び電子線照射等の放射線で滅菌処理された容器に収容されていてもよい。
【0031】
容器の形態は、眼科用水性組成物を収容可能である容器であれば良く、剤形等に応じて適宜選択されても良い。容器の形態は、例えば、注射剤用容器、吸入剤用容器、スプレー剤用容器、ボトル状容器、チューブ状容器、点眼剤用容器、点鼻剤用容器、点耳剤用容器、及びバッグ容器等を含む。また、眼科用水性組成物を収容した容器は、箱及び袋等によって更に包装されていても良い。
【0032】
容器の材質は、容器の形態に応じて適宜選択され得る材料であって良い。容器の材質は、例えば、ガラス、プラスチック、セルロース、パルプ、ゴム、及び金属等を含む。容器の材質は、加工性、スクイズ性及び耐久性の観点から、プラスチックであって良い。
【0033】
一実施形態において、眼科用水性組成物は樹脂製容器に収容される。本明細書において「樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも眼科用水性組成物と接する部分が樹脂製である容器を意味する。樹脂製容器に用いる樹脂は、例えば熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びスチレン系樹脂を含む。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及び環状ポリオレフィン等を含む。
【0035】
ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、及びポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレナフタレート)等を含む。
【0036】
なお、プラスチック製容器に用いる樹脂は、上記の2以上の樹脂を組み合わせた混合体(ポリマーアロイ)であっても良い。
【0037】
一実施形態において、眼科用水性組成物は、変色抑制作用の観点から、ポリオレフィン系樹脂製容器に収容される。本明細書において「ポリオレフィン系樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも眼科用水性組成物と接する部分が「ポリオレフィン系樹脂製」である容器を意味する。したがって、例えば、眼科用水性組成物と接する内層にポリオレフィン層を設け、その外側に他の材質の樹脂等を積層等させてなる容器も、「ポリオレフィン系樹脂製容器」に該当する。ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、単一種のモノマーの重合体(ホモポリマー)であっても、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、コポリマーである場合においては、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい、さらにその立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
【0038】
容器は、紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤等の紫外線の透過を妨げる物質を有していても良い。一実施形態において、紫外線吸収剤は、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール(例えば、Tinuvin P:BASF社)、又は2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(例えば、Tinuvin 234:BASF社)である。一実施形態において、紫外線散乱剤は、例えば、酸化チタン又は酸化亜鉛等である。
【0039】
なお、容器の色は、眼科用水性組成物の含量安定性を維持できるように、適宜定めることができる。
【0040】
一実施形態において、眼科用水性組成物はマルチドーズ型容器に収容される。マルチドーズ型容器は、複数回分の使用量の眼科用水性組成物を保持し、繰返し使用可能な容器のことをいう。例えば、マルチドーズ型容器は、マルチドーズ型保存剤フリー容器と通常のマルチドーズ型容器とを含む。
【0041】
マルチドーズ型保存剤フリー容器は、マルチドーズ型容器の外側に浸出した眼科用水性組成物がマルチドーズ型容器内へ逆流することを防止する機構、及び、異物がマルチドーズ型容器内へ混入することを防止する機構を有する。マルチドーズ型保存剤フリー容器は、逆流防止弁、マイクロフィルター、及び特殊な二重構造容器等の構造を有する。
【0042】
通常のマルチドーズ型容器は、上記の機構を有していないマルチドーズ型容器のことである。なお、通常のマルチドーズ型容器において眼科用水性組成物が収容される場合、眼科用水性組成物の製造時のろ過滅菌工程にて、眼科用水性組成物をフィルターに通過させることができる。
【0043】
なお、本実施形態における眼科用水性組成物は、ユニットドーズ型容器に収容されても良い。ユニットドーズ型容器は、単回分の使用量の眼科用水性組成物を保持し、1回の点眼で使用済みとなる容器のことをいう。
【0044】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、フィルターを通過させる工程を経て患部へ提供することができる。ここで、「フィルター」とは、眼科用水性組成物を通過させるが、細菌及び真菌を通過させない多孔性膜を指す。フィルターの細孔径としては、通常5μm以下であればよいが、好ましくは0.1~2.5μm、更に好ましくは0.2~1μmが挙げられる。眼科用水性組成物は、フィルター付き容器に収容され、使用時に容器のフィルターを通過させて容器外に注出されてもよい。また、眼科用水性組成物は、製造時のろ過滅菌工程でフィルターを通過していてもよい。フィルターの素材については、特に制限されないが、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース混合エステル、ナイロン、及びポリアミド等が挙げられる。
【0045】
眼科用水性組成物の製造方法は特に限定されない。プロスタグランジンF2α誘導体と、非イオン性界面活性剤と、等張化剤と、必要に応じてその他の添加剤とを、精製水に溶解することにより、眼科用水性組成物を製造することができる。
【0046】
一実施形態に係る眼科用水性組成物を、40℃で1ヶ月間保管した後におけるプロスタグランジンF2α誘導体の含有率は、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。さらに、上述の各実施形態に係る眼科用水性組成物を、60℃で1週間保管した後におけるプロスタグランジンF2α誘導体の含有率は、50%以上、又は65%以上であってもよい。
【0047】
一実施形態において、グリセリン以外の等張化剤を用いて等張化された眼科用水性組成物は、グリセリンを用いて等張化された眼科用水性組成物と比較して、40℃で1ヶ月保管した後におけるプロスタグランジンF2α誘導体の含有率を、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上増加させることができる。
【0048】
本発明の別の一実施形態は、プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする眼科用水性組成物の浸透圧を調整する際におけるプロスタグランジンF2α誘導体の含量の低下を抑制する方法に関する。この方法は、グリセリンを実質的に添加することなく、非イオン性界面活性剤及び等張化剤を添加する工程を含む。上記のように、グリセリン以外の等張化剤を非イオン性界面活性剤と組み合わせて用いることにより、プロスタグランジンF2α誘導体の含量の低下を抑制することができる。このような実施形態におけるプロスタグランジンF2α誘導体、非イオン性界面活性剤、等張化剤、及びその他の成分の種類及びその量は、既に説明したように選択することができる。
【実施例0049】
(実施例1)
タフルプロスト(3mg)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(1g)、リン酸二水素ナトリウム水和物(NaHPO・2HO、400mg)、塩化ナトリウム(1.6g)、及びベンザルコニウム塩化物(2mg)を、精製水に溶解させ、塩酸/水酸化ナトリウムを用いてpHを6.0に調整することにより、200mLの点眼液を調製した。
【0050】
次に、得られた点眼液の含量安定性試験を行った。具体的には、得られた点眼液3mLを5mLのポリエチレン(PE)容器に充填し、40℃(加速試験)で1ヶ月保管した。その後、高速液体クロマトグラフ法によりタフルプロストの定量を行うことにより、タフルプロストの残存率を測定した。
【0051】
(実施例2~10)
実施例1と同様の方法で、表1~4に示す組成の点眼液を調製した。また、実施例1と同様に、得られた点眼液の含量安定性試験を行った。
【0052】
(比較例1~5)
実施例1と同様の方法で、表1,3~4に示す組成の点眼液を調製した。また、実施例1と同様に、得られた点眼液の含量安定性試験を行った。
【0053】
表1は、比較例1~3及び実施例1~2で得られた点眼液の組成及び含量安定性試験の結果を示す。
【表1】
【0054】
眼刺激性の低減を目的に、等張化剤としてグリセリンを添加することにより点眼液を涙液と等張化させたところ、残存率の著しい低下が認められた(比較例1~3)。一方で、等張化剤をグリセリンから塩化ナトリウム(実施例1)又はプロピレングリコール(実施例2)に変えることにより、50%以上もの残存率の顕著な改善が認められ、その含量安定性は等張化していないサンプルと同等以上であった。このように、グリセリン以外の等張化剤と非イオン性界面活性剤の組み合わせにより、タフルプロストの含量安定性の低下を抑制する効果が確認された。
【0055】
表2は、実施例3~7で得られた点眼液の組成及び含量安定性試験の結果を示す。
【表2】
【0056】
実施例3~6からわかるように、ポリエチレン硬化ヒマシ油の添加量がより多い場合に、グリセリン以外の等張化剤を用いることによる含量安定性の改善効果が大きくなる傾向が見られた。また、少なくともポリエチレン硬化ヒマシ油の濃度が0.1mg/mL以上である場合に十分な含量安定性の改善効果が認められ、0.5mg/mL以上では95%以上の残存率を示すことが認められた。また、同等の含量安定性の改善効果が、ポリエチレン容器の代わりに環状オレフィン(COP)容器を用いた場合にも認められた(実施例7)。
【0057】
表3は、実施例8~9及び比較例4で得られた点眼液の組成及び含量安定性試験の結果を示す。
【表3】
【0058】
表3からわかるように、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の代わりにポリソルベート(Tween80)を用いた場合であっても、グリセリン以外の等張化剤を用いることによる含量安定性の改善効果が認められた。その改善効果は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を用いる場合よりもさらに高く、等張化剤としてグリセリンを用いる場合と比較して残存率が95%以上増加した。
【0059】
表4は、実施例10及び比較例5で得られた点眼液の組成及び含量安定性試験の結果を示す。
【表4】
【0060】
表4からわかるように、プロスタグランジンF2α誘導体としてラタノプロストを含有する点眼液においても、等張化剤としてグリセリンを用いることによるラタノプロストの不安定化が認められた。また、タフルプロストを含有する点眼液と同様に、ラタノプロストを含有する点眼液においても、グリセリン以外の等張化剤を添加することによって含量安定性が改善し、グリセリンを添加する場合と比較して50%以上の残存率の改善が認められた。
【0061】
以上のように、グリセリン以外の等張化剤と非イオン性界面活性剤の組み合わせにより、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下が抑制され、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性が改善する効果が確認された。
【0062】
(製剤例1)
タフルプロスト(3mg)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(100mg)、リン酸二水素ナトリウム水和物(400mg)、プロピレングリコール(3.46g)、塩化ナトリウム(100mg)、及びベンザルコニウム塩化物(2mg)を、精製水に溶解させ、塩酸/水酸化ナトリウムを用いてpHを6.0に調整することにより、200mLの点眼液を調製し、そのうち3mLをポリエチレン(PE)容器に充填する。
【0063】
(製剤例2~108)
製剤例1と同様の方法で、表5~13に示す組成の点眼液を調製する。ただし、製剤例2~72においては塩酸/水酸化ナトリウムを用いてpHを6.0に調整する一方で、製剤例73~108では塩酸/水酸化ナトリウムを用いてpHを6.9に調整する。調製した点眼液のうち3mLをポリエチレン(PE)容器に充填する。
【0064】
(製剤例109~216)
点眼液をポリプロピレン(PP)容器に充填することを除き、製剤例1~108と同様に製剤を作製する。
【0065】
(製剤例217~324)
点眼液を環状オレフィンポリマー(COP)容器に充填することを除き、製剤例1~108と同様に製剤を作製する。
【0066】
(製剤例325~432)
点眼液を環状オレフィンコポリマー(COC)容器に充填することを除き、製剤例1~108と同様に製剤を作製する。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】
【0073】
【表11】
【0074】
【表12】
【0075】
【表13】
【0076】
これらの製剤例によっても、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性の低下を抑制し、プロスタグランジンF2α誘導体の含量安定性を改善することができる。
【0077】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。