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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120198
(43)【公開日】2022-08-17
(54)【発明の名称】抗菌性コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/00 20060101AFI20220809BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220809BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 201/10 20060101ALI20220809BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220809BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220809BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01P3/00
A01N59/16 A
C09D201/10
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099211
(22)【出願日】2022-06-20
(62)【分割の表示】P 2021211750の分割
【原出願日】2021-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2020219496
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503205481
【氏名又は名称】株式会社キャスティングイン
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌平
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的安価であり,かつ,抗菌効果と持続性の高い抗菌性コーティング剤の開発。
【解決手段】塗布対象物と水素結合が可能な官能基を含む化合物と,抗菌性金属と,界面活性剤と,溶媒とからなり,界面活性剤として,少なくともポリオキシエチレンアルキルエーテル,又はアミノ酸有機化合物のいずれか,を含むことを特徴とする抗菌性コーティング剤。本発明の抗菌性コーティング剤は,シリル化合物としての対象物への結合性と抗菌性金属の安定化,抗菌性金属としての抗菌性,これらを界面活性剤により水性溶媒中で安定化させることにより,抗菌力ならびに持続性の向上を達成しうる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象物と水素結合が可能な官能基を含む化合物と,
抗菌性金属と,
界面活性剤と,
溶媒とからなり,
界面活性剤として,少なくともポリオキシエチレンアルキルエーテル,又はアミノ酸有機化合物のいずれか,
を含むことを特徴とする抗菌性コーティング剤。
【請求項2】
ポリエチレングリコールアルキルエーテルが,
ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル,ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル,ポリエチレングリコールモノデシルエーテル,ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル,ポリエチレングリコールモノテトラデシルエーテルのいずれか又は複数から選択される請求項1に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項3】
アミノ酸有機化合物が,
グアニル酸,イノシン酸,もしくはこれらの塩のいずれか又は複数から選択される請求項1に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項4】
界面活性剤として,さらに直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム,アルキルグリコシド,アルキルアミンオキシド,第四級アンモニウム塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリエチレングリコールアルキルエーテルのいずれか又は複数を含む請求項1に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項5】
抗菌性金属が,金,銀,銅,白金,亜鉛,チタン,タングステン,ニッケル,鉄,スズ,水銀,パラジウム,アルミニウム,コバルト,モリブデン,鉛,バナジウム,ジルコニウムのいずれか又は複数から選択される請求項1に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項6】
塗布対象物と水素結合が可能な官能基を含む化合物が,加水分解性シリル化合物である請求項1から5のいずれかに記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項7】
加水分解性シリル化合物が,水酸基,水素,ハロゲン原子,アルコキシ基,ジアルコキシ基,トリアルコキシ基,アシルオキシ基,ケトキシメート基,アミノ基,アミド基,酸アミド基,アミノオキシ基,メルカプト基,アルケニルオキシ基,n-プロポキシ基,イソプロポキシ基のいずれかを有する加水分解性シリル化合物から選択される請求項6に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項8】
加水分解性シリル化合物が,メトキシ基,エトキシ基のいずれかを有する加水分解性シリル化合物から選択される請求項6に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項9】
界面活性剤として,水溶性変性シリコーンオイルを少なくとも含む請求項5に記載の抗菌性コーティング剤。
【請求項10】
水溶性変性シリコーンオイルが,PEG-3メチルエーテルジメチコン,PEG-9ジメチコン,PEG-10メチルエーテルジメチコン,PEG-11メチルエーテルジメチコン,PEG12ジメチコン,PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン,ラウリルPEG/PPG-18/18メチコン,ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体,ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体のいずれか又は複数から選択される請求項9に記載の抗菌性コーティング剤。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,抗菌性コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌,ウイルスに関する感染症の予防には,接触感染の対策が必要である。すなわち,人が接触する箇所を,抗菌状態とすることは有効な対策の一つである。
【0003】
無菌的な処理を行う一つの方法として,アルコールなど抗菌力を有する液体の,空間や物体への噴霧が行われている。かかる場合,噴霧対象となる空間や物体は,一時的な無菌状態を維持することが可能である。しかるに,人が手指等で接触するなどして,容易に無菌状態は解除され,汚染源となってしまう。
このような観点から,無菌状態を維持しうる抗菌塗料に関する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6755598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には,光触媒成分となる金属を含んだ抗菌塗料に関する技術が開示されている。先行技術は,抗菌効果を発揮する点において有用であるものの,製造方法が比較的煩雑であり,コストも高くなりがちな点において課題を有する。加えて先行技術は,抗菌効果が静的な状態では安定しているものの,人体の接触により塗膜がはがれる,あるいは塗膜が劣化するという動的な状態において抗菌効果の持続性に課題がある。
【0006】
上記事情を背景として,本発明では,比較的安価であり,かつ,抗菌効果と持続性の高い抗菌組成物の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は,鋭意研究の結果,加水分解性シリル化合物,金属性イオン,界面活性剤,水性溶媒,これらを組成成分とすることで,対象物表面の皮膜と抗菌が可能な組成物として構成することに着想した。
すなわち,加水分解性シリル化合物としての対象物への結合性と抗菌性金属の安定化,抗菌性金属としての抗菌性,これらを界面活性剤により水性溶媒中で安定化させることにより,抗菌力ならびに持続性の向上を達成しうることを見出し,発明を完成させた。
【0008】
本発明は,以下の構成からなる。
[1]加水分解性シリル化合物と,抗菌性金属と,界面活性剤と,溶媒とからなることを特徴とする抗菌性コーティング剤。
【0009】
[2]界面活性剤として,水溶性変性シリコーンオイルを少なくとも含む[1]に記載の抗菌性コーティング剤。
[3]水溶性変性シリコーンオイルが,PEG-3メチルエーテルジメチコン,PEG-9ジメチコン,PEG-10メチルエーテルジメチコン,PEG-11メチルエーテルジメチコン,PEG12ジメチコン,PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン,ラウリルPEG/PPG-18/18メチコン,ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体,ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体のいずれか又は複数から選択される[1]又は[2]に記載の抗菌性コーティング剤。
【0010】
[4]界面活性剤として,さらに直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム,アルキルグリコシド,アルキルアミンオキシド,第四級アンモニウム塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリエチレングリコールアルキルエーテルのいずれか又は複数を含む[1]から[3]のいずれかに記載の抗菌性コーティング剤。
[5]ポリエチレングリコールアルキルエーテルが,ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル,ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル,ポリエチレングリコールモノデシルエーテル,ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル,ポリエチレングリコールモノテトラデシルエーテルのいずれか又は複数から選択される[4]に記載の抗菌性コーティング剤。
【0011】
[6]さらに,アミノ酸有機化合物を含む[1]から[5]のいずれかに記載の抗菌性コーティング剤。
[7]アミノ酸有機化合物が,グアニル酸,イノシン酸,もしくはこれらの塩のいずれか又は複数から選択される[6]に記載の抗菌性コーティング剤。
[8]アミノ酸有機化合物が,グアニル酸ナトリウムである[7]に記載の抗菌性コーティング剤。
【0012】
[9]加水分解性シリル化合物が,水酸基,水素,ハロゲン原子,アルコキシ基,ジアルコキシ基,トリアルコキシ基,アシルオキシ基,ケトキシメート基,アミノ基,アミド基,酸アミド基,アミノオキシ基,メルカプト基,アルケニルオキシ基,n-プロポキシ基,イソプロポキシ基のいずれかを有する加水分解性シリル化合物から選択される[1]から[8]のいずれかに記載の抗菌性コーティング剤。
[10]加水分解性シリル化合物が,メトキシ基,エトキシ基のいずれかを有する加水分解性シリル化合物から選択される[9]に記載の抗菌性コーティング剤。
[11]抗菌性金属が,金,銀,銅,白金,亜鉛,チタン,タングステン,ニッケル,鉄,スズ,水銀,パラジウム,アルミニウム,コバルト,モリブデン,鉛,バナジウム,ジルコニウムのいずれか又は複数から選択される[1]から[10]のいずれかに記載の抗菌性コーティング剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により,比較的安価であり,かつ,抗菌持続性の高い抗菌性コーティング剤の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】液塗布時性能試験の結果を示した図(実験例1から4)。
図2】塗布被膜耐久性ならびに塗布被膜形成外観の試験結果を示した図(実験例1から4)。
図3】塗布面拭取後易滑性ならびに塗布面抗菌性の試験結果を示した図(実験例1から4)。
図4】抗菌試験の結果を示した図(実験例5)
図5】抗菌試験の結果を示した図(比較例1)
図6】抗菌試験の結果を示した図(比較例2)
図7】抗菌試験の結果を示した図(比較例3)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の抗菌性コーティング剤は,塗布対象物と水素結合が可能な官能基を含む化合物と,抗菌性金属と,界面活性剤と,溶媒とからなり,界面活性剤として,少なくともポリオキシエチレンアルキルエーテル,又はアミノ酸有機化合物のいずれか,を含むことを特徴とする抗菌性コーティング剤。
すなわち,本発明の抗菌性コーティング剤は,塗布対象物と水素結合が可能な官能基を含む化合物としての対象物への結合性と抗菌性金属の安定化,抗菌性金属としての抗菌性,これらを界面活性剤により溶媒中で安定化させることにより,抗菌力ならびに持続性の向上を達成しうる。
本発明の抗菌性コーティング剤は,塗布することにより,抗菌効果を発揮するとともに,持続性に優れ,汎用的な抗菌性コーティング剤として用いることができる。また,本発明の抗菌性コーティング剤の好適な用途として,好ましくは人体接触が前提となる箇所,さらに好ましくは手指接触が前提となる場所に塗布して抗菌効果を発揮する抗菌処理方法として構成することができる。
塗布対象物と水素結合が可能な官能基を含む化合物としては,好ましくは加水分解性シリル化合物を用いることができる。
【0016】
加水分解性シリル化合物は,加水分解反応により塗布対象に定着させるとともに,抗菌性金属を安定化させる役割を果たす。加水分解性シリル化合物は,かかる役割・機能を果たす限り特に限定する必要はなく,種々の構造とすることができる。
【0017】
加水分解性シリル化合物は,典型的には,X-Si(OR)nで表されるシランカップリング剤として表すことができる。
Xは,反応性官能基であり,例えば,アミノ基,アルキルアミノ基,エポキシ基,メタクリル基,ビニル基,メルカプト基などを用いることができる。
Rは,H,ハロゲン,炭素原子若しくは窒素原子を含んだ側鎖として表すことができる。また,nは1から3の整数である。
このようなRとして,水酸基,水素,ハロゲン原子,アルコキシ基,ジアルコキシ基,トリアルコキシ基,アシルオキシ基,ケトキシメート基,アミノ基,アミド基,酸アミド基,アミノオキシ基,メルカプト基,アルケニルオキシ基,n-プロポキシ基,イソプロポキシ基のいずれかから選択することができ,より好ましくはメトキシ基,エトキシ基のいずれかを選択することができる。
シランカップリング剤の具体的な化合物としては,例えば,H2N(CH23Si(OCH33,H2N(CH22NH(CH23Si(OCH33(TMSPEDA),H2N(CH22NH(CH22NH(CH23 Si(OCH33(TMSPDETA),H2N(CH23Si(OC2H53,H2N(CH22NH(CH23Si(OC2H53,H2N(CH22 NH(CH22 NH(CH23 Si(OC2H53,H2N(CH23Si(CH3)(OC2H52,H2N(CH22NH(CH23Si(CH3)(OC2H52,H2N(CH22NH(CH22NH(CH23Si(CH32(OC2H5)などを用いることができる。
【0018】
抗菌性金属は,金属イオンとして添加するものであり,加水分解性シリル化合物により安定化され持続的な抗菌性能を発揮する役割を果たす。抗菌性金属は,かかる役割を果たす限り特に限定する必要はなく,種々の金属から選択することができる。
抗菌性金属は,典型的には,金,銀,銅,白金,亜鉛,チタン,タングステン,ニッケル,鉄,スズ,水銀,パラジウム,アルミニウム,コバルト,モリブデン,鉛,バナジウム,ジルコニウムのいずれか又は複数から選択すればよく,好適には,銀を用いることができる。
【0019】
抗菌性金属の含量について,選択する金属の安全性ならびに有効性を考慮したうえで,カップリング樹脂性化合物の物理量を勘案し適宜調整することができる。
すなわち,抗菌性金属の含量は,選択された金属の安全性を踏まえて上限値を設定するとともに,有効性を考慮したうえで下限値を設定することができる。加えて,塗布する対象物の素材との反応性ならびに実際の使用環境での規制等から,含量を適宜調整することができる。
抗菌性金属の含量は,抗菌性コーティング剤において,典型的には0.1から100,000ppmの濃度で添加することができ,好ましくは10から10,000ppm,さらに好ましくは30から1,000ppm,特に好ましくは50から500ppm,最も好ましくは90から300ppmとすることができる。
【0020】
本発明において界面活性剤は,加水分解性シリル化合物と,抗菌性金属を水性溶媒中で安定化させるとともに,抗菌力を向上させる役割を果たす。界面活性剤は,かかる役割を果たす限り特に限定する必要はなく,種々の界面活性剤を用いることができる。
【0021】
界面活性剤として,少なくとも水溶性変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。これにより,本発明の抗菌性コーキング剤の安定性ならびに抗菌力をさらに向上させる効果を有する。
水溶性変性シリコーンオイル(ポリエーテル変性シリコーン)としては,PEG-3メチルエーテルジメチコン,PEG-9ジメチコン,PEG-10メチルエーテルジメチコン,PEG-11メチルエーテルジメチコン,PEG12ジメチコン,PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン,ラウリルPEG/PPG-18/18メチコン,ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体,ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体を用いることができる。
【0022】
本発明において水溶性変性シリコーンオイルに加えて,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム,アルキルグリコシド,アルキルアミンオキシド,第四級アンモニウム塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリエチレングリコールアルキルエーテルのいずれか又は複数を用いることが好ましい。これにより,本発明の抗菌性コーキング剤の安定性ならびに抗菌力をより向上させる効果を有する。
【0023】
ポリエチレングリコールアルキルエーテルとしては,例えば,ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル,ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル,ポリエチレングリコールモノデシルエーテル,ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル,ポリエチレングリコールモノテトラデシルエーテルなどを用いることができる。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとしては,例えば,デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど,炭素数が8~22の直鎖アルキル鎖を有するベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることができる。
アルキルグリコシドとしては,例えば,オクチルグルコシド,デシルグルコシド,ラウリルグルコシドなど,炭素数が8~22,より好ましくは炭素数が8~12のアルキルグリコシドを用いることができる。
アルキルアミンオキシドとしては,例えば,ラウリルジメチルアミンオキシドなど炭素数が8~22のアルキル基を有するアミンオキシドなどを用いることができる。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては,例えば,ポリオキシエチレンベヘニルエーテル,ポリオキシエチレンラウリルエーテル,ポリオキシエチレントリデシルエーテルなど,炭素数が8~22のポリオキシエチレンアルキルエーテルなどを用いることができる。
ポリエチレングリコールアルキルエーテルとしては,例えば,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジエチルエーテル,ジエチレングリコールブチルエーテル,ジエチレングリコールメチルエチルエーテル,トリエチレングリコールモノメチルエーテル,トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどを用いることができる。
第四級アンモニウム塩としては例えば,塩化ベンザルコニウム,塩化ベンゼトニウム,塩化メチルベンゼトニウム,塩化セチルピリジニウム,セトリモニウム,塩化ドファニウム,臭化テトラエチルアンモニウム,塩化ジデシルジメチルアンモニウム,臭化ドミフェン,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム,アルキルグリコシド,アルキルアミンオキシド,塩化ジアルキルジメチルアンモニウム,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,塩化アルキルトリメチルアンモニウム,塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム,塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム,トリ(オキシエチレン)メチルアンモニウム塩メチルサルフェートの脂肪酸エステル,塩化ジヤシアルキルジメチルアンモニウム,塩化ジアルキルジメチルアンモニウム,塩化ジ硬化牛脂アルキルジメチルアンモニウム,ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート塩,ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート,塩化ヤシアルキルビス(2-ヒドロキシ エチル)メチルアンモニウム,塩化ポリオキシエチレンヤシ アルキルメチルアンモニウム,塩化オレイルビス(2-ヒドロキシ エチル)メチルアンモニウム,テトラメチルアンモニウムクロライド,テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド,テトラブチルアンモニウムブロマイド,テトラブチルアンモニウムハイドロ オキサイド,トリメチルフェニルアンモニウム クロライド,ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド,ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド,ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド,塩化ジアルキルジメチルアンモニウム塩のいずれかから選択することができる。好適には,塩化ベンザルコニウムを0.2%以下の濃度で用いることができる。
【0024】
本発明において溶媒は,好ましくは水性溶媒を用いる。水性溶媒として,典型的には水を用いればよく,必要に応じて,微量の有機溶媒を含むことができる。有機溶媒を用いる際には,水性溶媒との混和が可能な両親媒性有機溶媒を用いればよく,例えば,メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロピルアルコール,テトラヒドロフラン,アセトン,エチルメチルケトン,アセトニトリル,DMF,HMPA,トリエチルアミン,DMSOなどを用いることができ,好ましくは,メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロピルアルコールを用いることができる。
【0025】
本発明においてアミノ基含有有機酸化合物をさらに含むことが好ましい。これにより,本発明の抗菌性コーティング剤の安定性を向上させるとともに,抗菌力を向上させる効果を有する。
本発明において,アミノ基含有有機酸化合物とは,一つの分子内にアミノ基と有機酸官能基を有する有機化合物として定義される。また,有機酸官能基としては特に限定する必要はなく,例えば,カルボキシル基,リン酸基などが挙げられる。
【0026】
アミノ基含有有機酸化合物が,天然アミノ酸,リボ核酸,またはこれらの塩のいずれか又は複数から選択されることが好ましい。これにより,アミノ基含有有機酸化合物を,汎用性が高く,かつ,有効性が期待できる化合物として選択することが容易となり,本発明の有用性ならびに経済性を向上させる効果を有する。
【0027】
天然アミノ酸としては,天然アミノ酸である限り特に限定する必要はなく,種々の天然アミノ酸を選択することができる。好ましくは塩基性の天然アミノ酸を選択することができ,最も好ましくは,アルギニン酸とすることができる。
【0028】
リボ核酸としては,リボ核酸である限り特に限定する必要はなく,種々のリボ核酸を選択することができる。好ましくは,イノシン酸,グアニル酸,ないし,これらの塩を用いることができ,最も好ましくはイノシン酸Na又はグアニル酸Naとすることができる。
【実施例0029】
本発明について,実施例を挙げて詳述する。
【0030】
<<実験1>>
<目的>
本発明の抗菌性コーティング剤の抗菌性能を評価することを目的に実験を行った。
【0031】
<方法>
1.表の成分比率に従い,各試験液の作製を行った。なお,エトキシシランとしてはH2N(CH22NH(CH23Si(OC2H53を,水溶性シリコンとしては,ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体を用いた。
2.各試験液について,液塗布時の性能として,乾燥性と被膜形成性の評価を行った。また,乾燥後の被膜性能について,耐久性,外観,表面摩擦,抗菌性の評価を行った。
【表1】
【0032】
<結果1,液塗布時性能評価>
1.液塗布時の性能評価を行った結果を,図1に示す。図中,各項目については,下記の通り,評価を行った。
(1) 乾燥性(塗布そのまま)
各試験液20μLを,0.5mmφノズル径より,透明アクリル板滴下し,23±2℃雰囲気で自然乾燥を行った。滴下後,12時間以内に乾燥したものを〇,24時間以内に乾燥したものを△,48時間以内に乾燥したものを×として評価を行った。
(2) 乾燥性(直拭取後)
各試験液20μLを,0.5mmφノズル径より,透明アクリル板滴下し,塗布した試験液をヘラで伸ばし3分放置後に,キッチンペーパーで液分をふき取った後,23±2℃雰囲気で自然乾燥時間を行った。その後,1分以内に乾燥したものを〇,3分以内に乾燥したものを△,乾燥に5分以上かかったものを×として評価を行った。
(3) 塗布被膜形成(塗布そのまま)
(1)に準じて自然乾燥後,皮膜形成性を,目視で確認できるものを〇,目視で確認できないものを×として評価を行った。
(4) 塗布皮膜抵抗性(直拭取後)
(2)に準じて自然乾燥後,未塗布部に比べ非常に抵抗が少ないものを◎,未塗布部に比べ抵抗が少ないものを〇,未塗布部に比べ抵抗がやや少ないものを△,未塗布部と抵抗が同じものを×として評価を行った。
【0033】
2.液滴を滴下しそのままの状態においては,乾燥の程度に違いは生じず,いずれも12時間以上の乾燥時間がかかるとともに,いずれの実験例においても被膜の形成が確認された。
3.一方,キッチンペーパーでふき取ったものでは,実験例1ならびに実験例2では,そも被膜の形成が確認できなかった。一方,実験例3ならびに実験例4において1分以内の乾燥と被膜の形成が確認された。
【0034】
<結果2,被膜性能評価>
1.被膜性能の評価において,図中,各項目については,下記の通り,評価を行った。
(1) 塗布皮膜耐久性
「(1) 乾燥性(塗布液的そのまま)」に準じて作製したアクリル板について,塗布面をキッチンペーパー5回拭取しても形成膜が剥離しないものを〇,塗布面をキッチンペーパー3回以内拭取で形成膜が剥離するものを△,塗布面をキッチンペーパー1回拭取で形成膜が剥離したものを×として評価を行った。
(2) 塗布被膜形成色目
「(1) 乾燥性(塗布液的そのまま)」に準じて作製したアクリル板について,未塗布面と同じ透明性なものを◎,若干薄曇りが確認されるものを〇,白化ブリードが確認されるものを△,黒~茶色の着色が確認されるものを×として評価を行った。
(3) 易滑性
「(2) 乾燥性(直拭取後)」に準じて作製したアクリル板の表面において,散布粉末残が少なく,塗布面の易滑性が高いものを◎,散布粉末取れやすく,塗布面が易滑性高いものを○,塗布面滑性があるものを△,未塗布面と同じで滑性はなく粉末付着が大きいものを×として評価を行った。
(4) 塗布面抗菌性
作製されたアクリル片5cm×5cmに,カンジダ・アルビカンスの希釈液105CFU/mLを50μL滴下し,菌の作用時間(1分,10分,30分)に,アクリル板表面の菌を回収し,恒温槽35℃で48時間培養した。培養後,繁殖した検体の有無により抗菌性の判定を行った。即効性の評価については,作用時間の短さにより,◎は1分,○は10分,△は30分,×は抗菌性なしとした。持続性の評価については,塗布後20時間において同様の操作を行い,抗菌性が確認されたものを○,抗菌性が確認されないものを×とした。
【0035】
2.塗布被膜耐久性の結果を図7左に示す。
(1) 実験例1ならびに実験例2では,液滴そのままにおいて,被膜が1回のふき取りにより剥離していた。
(2) 一方,実験例3ならびに実験例4では,液滴そのままならびに直拭取後,いずれにおいても,5回のふき取りでも被膜は剥離せず,維持されていた。
(3) これらの結果から,実験例1ならびに実験例2においては,被膜は形成されるものの,拭き取りにより剥離する弱い被膜である一方,実験例3ならびに4においては,被膜が形成されるとともに拭き取りによる耐久性において優れた被膜であることが分かった。
【0036】
3.同様に,塗布被膜形成外観の結果を,図7右に示す。
(1) 実験例1では,試験を行ったアクリル板が着色(茶~黒)しており,酸化銀由来の着色をしていると推定された。
(2) 実験例2においては,アクリル板が白化しており,銀が何らかの理由で凝固し粒子化した色に着色していると推定された。
(3) 実験例3ならびに実験例4においては,被膜は透明であり,アクリル板本来の外観を損なうことはなかった。
(4) これらの結果から,実験例3ならびに実験例4においては,塗布対象物の外観を損なわない,透明な被膜形成が可能であることが分かった。
【0037】
4.易滑性の結果を,図3左に示す。
(1) 実験例1ならびに実験例2においては,被膜が形成されないため,評価は行っていない。
(2) 実験例3では,表面上のざらつきはあるものの,使用に足る十分な易滑性を有していた。
(3) 実験例4では,表面上のざらつきもなく,極めて優れた易滑性を有していた。
【0038】
5.抗菌性の結果を,図3右に示す。
(1) 実験例1ならびに実験例2においては,被膜が形成されないため,評価は行っていない。
(2) 実験例3では,10分のサンプルで抗菌が確認されるとともに,抗菌作用は20時間においても発揮されていた。
(3) 実験例4では,1分のサンプルで抗菌が確認されるとともに,抗菌作用は20時間においても発揮されていた。
【0039】
<<実験2,抗菌性コーティング剤の抗菌性能評価>>
<目的>
本発明の抗菌性コーティング剤について抗菌性能を調べることを目的に実験を行った。
【0040】
<方法>
1.樹脂性化合物として,メトキシ基を有する加水分解性シリル化合物を用い,塩化ベンザルコニウムをカップリングさせた樹脂性化合物([3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジメチル(オクタデシル)アミニウム クロリド)を用いた。これを有効成分として,下記の実験例ならびに比較例を用いた。
なお,比較例2ならびに3については,第四級アンモニウム塩ならびに加水分解性シリル化合物は含まれておらず,一般的に用いられる抗菌性塗膜剤の比較対象として用いた。

(1) 実験例5
第四級アンモニウムオルガノシノラン化合物(樹脂性化合物) 41%
銀水溶液 100ppm
メタノール 59%

(2) 比較例1
第四級オルガノシノラン化合物(樹脂性化合物) 41%
メタノール 59%

(3) 比較例2 酸化チタン系塗膜剤

(4) 比較例3 銀水溶液
【0041】
2.実験例5又は比較例の液体をステンレス板に塗布し,乾燥させた後,試験板とした。当該試験板へ手指接触を行い,接触2時間後,カンジタ菌をたらした後,板表面の菌を,細菌培養を48時間行い,菌数の測定を行った。なお,陽性コントロールとして,液体を塗布しないステンレス板で同様の操作(手指接触なし)を行った。
【0042】
<結果>
1.結果を図4から図7に示す。
(1) 比較例1において,手指接触がない場合は100%の除菌率であったが,手指接触により,除菌率が45.9%まで下がっていた(図5)。
(2) 比較例2において,手指接触がない場合は100%の除菌率であったが,手指接触により,除菌率が1.6%まで下がっていた(図6)。
(3) 比較例3において,手指接触がない場合は100%の除菌率であったが,手指接触により,除菌率が11.1%まで下がっていた(図7)。
(4) 一方,実験例5では,手指接触の有無にかかわらず,全てのサンプルで,除菌率が99.9%を超えていた。
(5) すなわち,全ての比較例において,手指接触による皮膜の剥離ないし除菌物質の効能低下により,除菌効果自体が減衰していることが確認された。一方,実施例では,手指接触による除菌効果の減衰は確認できなかった。
2.これらの結果から,実験例5では,安定的かつ持続的な抗菌作用の発揮が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
公共交通機関,公共施設における手指接触頻度の高い箇所への抗菌性処理が可能となる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7