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特開2022-120207動力伝達装置および動力伝達装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120207
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置および動力伝達装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20220810BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
F16H57/04 J
H02K7/116
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019110390
(22)【出願日】2019-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 裕一
(72)【発明者】
【氏名】上原 弘樹
【テーマコード(参考)】
3J063
5H607
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB12
3J063AC01
3J063BA11
3J063CA01
3J063CB03
3J063CB04
3J063CB05
3J063CB06
3J063XD03
3J063XD17
3J063XD33
3J063XD44
3J063XD46
3J063XD47
3J063XD62
3J063XD72
3J063XD73
3J063XF03
3J063XF14
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB14
5H607BB26
5H607CC03
5H607DD03
5H607DD08
5H607DD18
5H607EE33
5H607EE34
5H607GG01
5H607GG08
(57)【要約】
【課題】潤滑油を効率よく供給する。
【解決手段】動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の下流に接続された減速機構3および差動装置6と、モータ2の内周及び速機構3のサンギア41、51および差動装置6およびデフケース60の内周を貫通するドライブシャフト8Bと、を有する。ドライブシャフト8Bの外周に潤滑油OLを油送する螺旋溝81が形成されており、ドライブシャフト8Bの外周には、モータシャフト20に形成された油孔部204と、連結部511に形成された油孔部512と、が形成される。油孔部204は油孔部512と回転軸X方向にオフセットして配置され、油孔部204の開口面積B1は油孔部512の開口面積B2と異なる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの下流に接続されたギアと、
前記モータの内周及び前記ギアの内周を貫通するシャフトと、を有し、
前記シャフトの外周に潤滑油を油送する螺旋溝が形成されており、
前記シャフトの外周には、第1中空軸部に形成された第1油孔部と、第2中空軸部に形成された第2油孔部と、が形成されており、
前記第1油孔部は前記第2油孔部と軸方向にオフセットして配置されており、
前記第1油孔部の開口面積は前記第2油孔部の開口面積と異なることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記螺旋溝に潤滑油を供給する潤滑油供給口が設けられた潤滑油供給部材を有し、
前記第2油孔部は前記第1油孔部よりも前記潤滑油供給口からの軸方向距離が遠く、
前記第2油孔部は前記第1油孔部よりも開口面積が大きいことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記螺旋溝に潤滑油を供給する潤滑油供給口が設けられた潤滑油供給部材を有し、
前記第1油孔部及び前記第2油孔部は、前記潤滑油供給口からの距離に応じた第1加算量が大きいほど開口面積が大きく設定され、
前記第1油孔部及び前記第2油孔部は、潤滑油供給先の基準回転速度に応じた第2加算量が大きいほど開口面積が大きく設定され、
前記距離が大きいほど前記第1加算量は大きく設定され、
前記基準回転速度が大きいほど前記第2加算量は大きく設定されることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
モータと、
前記モータの下流に接続されたギアと、
前記モータの内周及び前記ギアの内周を貫通するシャフトと、を有し、
前記シャフトの表面に潤滑油を油送する螺旋溝が形成されており、
前記シャフトの外周には、第1中空軸部に形成された第1油孔部と、第2中空軸部に形成された第2油孔部と、が形成されており、
前記第1油孔部は前記第2油孔部と軸方向にオフセットして配置された動力伝達装置の製造方法であって、
前記動力伝達装置は前記螺旋溝に潤滑油を供給する潤滑油供給口が設けられた潤滑油供給部材を有し、
前記第1油孔部及び前記第2油孔部は、前記潤滑油供給口からの距離に応じた第1加算量が大きいほど開口面積を大きく設定し、
前記第1油孔部及び前記第2油孔部は、潤滑油供給先の基準回転速度に応じた第2加算量が大きいほど開口面積を大きく設定し、
前記距離が大きいほど前記第1加算量を大きく設定し、
前記基準回転速度が大きいほど前記第2加算量を大きく設定することを特徴とする動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置および動力伝達装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータの内周側にドライブシャフトを貫通させた動力伝達装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-89860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の動力伝達装置は、ギアおよびモータの内周側にドライブシャフトを貫通させた動力伝達装置を開示する。
【0005】
動力伝達装置を構成するギア等は、潤滑油による潤滑させる必要があるが、ギア全体に潤滑油を行き渡らせるためには遠心力を利用すると効率が良い。そのため、ギアの中心軸側に潤滑油を供給し、ギアの回転による掻き上げを利用して潤滑油を行き渡らせることが好ましい。
【0006】
ここで、特許文献1のように、モータの内周側にシャフトを貫通させた動力伝達装置の場合、シャフトを中空軸にして中空軸の内部から潤滑油を供給する構成とすることも考えられるが、シャフトの耐久性に影響が出る場合がある。また、耐久性を確保しつつシャフトを中空軸とした場合であっても更に潤滑油の供給量を増やしたい場合がある。
【0007】
このように、ギアおよびモータの内周側にドライブシャフトを貫通させた動力伝達装置において、ギアの中心軸側から潤滑油を供給して、潤滑効率を向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動力伝達装置は、
モータと、
前記モータの下流に接続されたギアと、
前記モータの内周及び前記ギアの内周を貫通するシャフトと、を有し、
前記シャフトの外周に潤滑油を油送する螺旋溝が形成されており、
前記シャフトの外周には、第1中空軸部に形成された第1油孔部と、第2中空軸部に形成された第2油孔部と、が形成されており、
前記第1油孔部は前記第2油孔部と軸方向にオフセットして配置されており、
前記第1油孔部の開口面積は前記第2油孔部の開口面積と異なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ギアの内周を貫通するシャフトの外周に螺旋溝を形成することによって、ギアの中心軸側から効率的に潤滑油を供給することができる。さらに、油送方向に沿って複数設けた油孔部の開口面積を異ならせることにより、油送方向の位置に応じた油圧の低下傾向を踏まえて、必要流量に応じた適切な潤滑を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態にかかる動力伝達装置を説明する図である。
図2】動力伝達装置のモータ周りの拡大図である。
図3】動力伝達装置の減速機構および差動装置周りの拡大図である。
図4】油孔部の開口面積を説明する図である。
図5】(a)は、図1の位置Aにおいて回転軸方向から見たキャッチタンクを示す図であり、(b)は、図1の位置Bから見た油路を示す図である。
図6】螺旋溝に供給された潤滑油の流れを示す図である。
図7】変形例2に係る螺旋溝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明する図である。
図2は、動力伝達装置1のモータ周りの拡大図である。
図3は、動力伝達装置1の減速機構3および差動装置6周りの拡大図である。
【0012】
図1に示すように、動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動装置6に入力する減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、ドライブシャフト8A、8Bと、を有している。
【0013】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8A、8Bと、が設けられている。
【0014】
モータ2の出力回転は、減速機構3で減速されて差動装置6に入力された後、ドライブシャフト8A、8Bを介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。図1では、ドライブシャフト8Aが、動力伝達装置1を搭載した車両の左輪に回転伝達可能に接続されていると共に、ドライブシャフト8Bが、右輪に回転伝達可能に接続されている。
【0015】
ここで、第1遊星減速ギア4は、モータ2の下流に接続されており、第2遊星減速ギア5は、第1遊星減速ギア4の下流に接続されている。差動装置6は、第2遊星減速ギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8A、8Bは、差動装置6の下流に接続されている。
【0016】
モータ2は、モータケース10に収容されている。モータケース10は、モータ2の外周を囲むモータハウジング11と、モータ2を回転軸X方向の両端をそれぞれ支持するモータ支持部12、13と、モータ支持部12のモータハウジング11側と反対側に取り付けられたカバー14とから構成される。
減速機構3および差動装置6は、ギアケース15に収容されている。
【0017】
ドライブシャフト8Aは、ギアケース15の開口部150を貫通してギアケース15の内部に挿入され、差動装置6に接続される。ドライブシャフト8Aは、差動装置6を構成するデフケース60の支持部602に回転軸X方向から挿入され、サイドギア63Aの内周を貫通する。ドライブシャフト8Aは、支持部602に回転可能に支持される。
【0018】
開口部150の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Aの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Aの外周と開口部150の内周との隙間が封止されている。
【0019】
ドライブシャフト8Bは、モータケース10およびギアケース15の内部を挿通して、ドライブシャフト8Aの回転軸X方向の反対側から差動装置6に接続される。ドライブシャフト8Bは、モータケース10を構成するカバー14の開口部140を貫通する。開口部140の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Bの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Bの外周と開口部140の内周との隙間が封止されている。
【0020】
図1に示すように、ドライブシャフト8Bは、カバー14の円筒状の支持部141に固定されたベアリングB2によって回転可能に支持されている。
【0021】
ドライブシャフト8Bは、モータケース10内において、モータ2を構成するモータシャフト20に外挿され、ギアケース15内において、第1遊星減速ギア4を構成するサンギア41の貫通孔410と第2遊星減速ギア5を構成するサンギア51の貫通孔510を貫通する。ドライブシャフト8Bは、デフケース60の支持部601に回転軸X方向から挿入され、サイドギア63Bの内周を貫通する。ドライブシャフト8Bは、支持部601によって、ドライブシャフト8Aと同じ回転軸X上に、回転可能に支持される。
【0022】
モータ2、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)および差動装置6は、ドライブシャフト8Bの回転軸X上に配置され回転軸X方向から見てオーバーラップして設けられている。さらに、モータ2、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)および差動装置6のそれぞれを構成する部材は、回転軸Xの径方向にオーバーラップして配置されている。
【0023】
モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0024】
モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに外挿された状態で、ドライブシャフト8Bに対して相対回転可能に設けられている。
モータシャフト20は、回転軸X方向の一端20aの近傍において、ベアリングB1が外挿されて固定され、ベアリングB1を介して、円筒状のモータ支持部13の円筒壁132(図2参照)で回転可能に支持されている。
モータシャフト20は、回転軸X方向の他端20bにおいて、ベアリングB1が外挿されて固定され、ベアリングB1を介して、円筒状のモータ支持部12の円筒壁122(図2参照)で回転可能に支持されている。
【0025】
ロータコア21の外周を、モータハウジング11が所定間隔で囲んでいる。本実施形態では、モータハウジング11の一端11aに、モータ支持部13が接合されており、モータハウジング11の他端11bに、モータ支持部12が接合されている。
【0026】
モータハウジング11の一端11aと他端11bには、シールリングS、Sが設けられている。モータハウジング11の一端11aは、当該一端11aに設けたシールリングSにより、モータ支持部13の一端面13aの外縁近傍に形成された接合部131に隙間なく接合されている。
【0027】
モータハウジング11の他端11bは、当該他端11bに設けたシールリングSにより、モータ支持部12の側壁部12aの外縁近傍に形成された接合部121に隙間なく接合されている。
【0028】
図2に示すように、モータ支持部13の接合部131の内径側は、後記するコイルエンド253aと側板部452と接触を避ける形で形成されている。
モータ支持部13の一端面13aは、コイルエンド253aの内径側でロータコア21の一端部21aと、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
モータ支持部13の内径側には回転軸X方向に延びる円筒壁132が形成され、円筒壁132の内周にモータシャフト20を支持するベアリングB1が固定されている。
【0029】
モータ支持部13の一端面13aには、ベアリングリテーナ135が固定されている。ベアリングリテーナ135は、回転軸X方向から見てリング状を成している。ベアリングリテーナ135は円筒壁132の内径側において、ベアリングB1のアウタレースB1bの側面に回転軸X方向から当接している。ベアリングリテーナ135は、モータ支持部13からのベアリングB1の脱落を阻止している。
図3に示すように、モータ支持部13の他端面13bは、ギアケース15の開口端151に接合され、ギアケース15を閉止している。
【0030】
図2に示すように、モータ支持部12のモータ2側の側壁部12aは、接合部121の内径側において、後記するコイルエンド253bと接触を避け、隙間を空けて対向している。コイルエンド253bと側壁部12aの間を、ステータコア25から引き出された配線Wが通る。配線Wは、接合部121に形成された引き出し部123からモータケース10の外方に引き出され、不図示のインバータに接続される。モータ支持部12の側壁部12aと対向する側壁部12bは、カバー14の端面14aに接合されている。
【0031】
モータ支持部12の側壁部12aの内径側には、回転軸X方向に延びる円筒壁122が形成され、円筒壁122の内周にモータシャフト20の他端20bを支持するベアリングB1が固定されている。
【0032】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0033】
回転軸X方向におけるロータコア21の一端部21aは、モータシャフト20の外周から径方向外方に張り出した大径部203で位置決めされている。
【0034】
ステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものであり、電磁鋼板の各々は、モータハウジング11の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252を、有している。
【0035】
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用しており、ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0036】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部252の各々に、巻線253を集中巻きした構成のステータコア25を採用しても良い。
【0037】
モータ支持部13の円筒壁132の内周に固定されたベアリングB1のインナレースB1aは、回転軸X方向のモータ2側の側面が、モータシャフト20の大径部203に当接している。
【0038】
図3に示すように、モータ支持部13の円筒壁132は、ギアケース15に収容された第1遊星減速ギア4のサンギア41の側面41aと隙間をあけて対向する。円筒壁132の開口部132aとモータシャフト20の間にはリップシールRSが設置されている。リップシールRSは、モータケース10の内部の空間Saと、ギアケース15の内径側の空間Sbとを、区画するために設けられている。空間Saは、モータ2を収容するモータ室であり、空間Sbは、減速機構3および差動装置6を収容するギア室である。
【0039】
空間Sbの下部には、差動装置6および減速機構3の潤滑油OL(図1参照)が封入されている。リップシールRSは、モータケース10内の空間Saへの潤滑油OLの流入を阻止するために設けられている。
【0040】
モータシャフト20の一端20aは、モータ支持部13の円筒壁132の内周を貫通して、ギアケース15の空間Sb内に延出している。モータシャフト20の一端20aは、第1遊星減速ギア4を構成するサンギア41の貫通孔410を挿通している。この状態において、サンギア41は、モータシャフト20の一端20aの外周に相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0041】
そのため、モータ2の出力回転が、モータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に入力され、サンギア41はモータ2の回転駆動力で、回転軸X回りに回転する。
【0042】
回転軸Xの径方向におけるサンギア41の外径側には、中間部材16を介してギアケース15に固定されたリングギア42が位置している。回転軸Xの径方向において、サンギア41とリングギア42の間では、ピニオン軸44で回転可能に支持されたピニオンギア43が、サンギア41の外周と、リングギア42の内周に噛合している。
【0043】
ピニオンギア43は、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸44の外周で回転可能に支持されている。ピニオン軸44は、ピニオンギア43を回転軸Xに沿う軸線X1方向に貫通している。ピニオン軸44の軸線X1方向の両端は、キャリア45の一対の側板部451、452で支持されている。
【0044】
側板部451、452は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部451、452の間では、複数のピニオンギア43が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、4つ)設けられている。
【0045】
ピニオンギア43の差動装置6側に位置する側板部451には、円筒状の連結部453が設けられている。
連結部453は、回転軸Xに対して側板部451と同心に配置されていると共に、回転軸Xに沿って、差動装置6に近づく方向(図中、左方向)に突出している。
【0046】
リングギア42を支持する中間部材16は、回転軸X方向の両端が開口した円筒形状であり、リングギアの外周面を覆って延びる。外周には回転軸Xの径方向外方に張り出す円板部材161が接合されている。円板部材161の外径側に形成された接合部162が、ギアケース15の内壁に接合される。
【0047】
中間部材16の内周面には段部163が形成されている。段部163は、リングギア42に差動装置6側から当接している。リングギア42のモータ2側は、中間部材16の内周に係合したスナップリングRで位置決めされ、これにより第1遊星減速ギア4は回転軸X方向の移動が規制される。
中間部材16のモータ2側の開口端164は、隙間を開けてモータ支持部13の他端面13bと対向している。
【0048】
中間部材16の差動装置6側の開口部165には、後述する第2遊星減速ギア5の筒状部552を支持するベアリングB3が固定されている。
【0049】
第1遊星減速ギア4側の連結部453は、中間部材16の開口部165に固定されたベアリングB3の内周側を貫通する。連結部453の先端453aは、第2遊星減速ギア5のサンギア51の側面51aに、間隔をあけて対向している。
【0050】
連結部453の内径側には、第2遊星減速ギア5のサンギア51から延びる円筒状の連結部511が挿入されてスプライン嵌合しており、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511とは、ベアリングB3の内径側で、相対回転不能に連結されている。
【0051】
サンギア51の連結部511は、サンギア51と一体に形成されおり、サンギア51の内径側と連結部511の内径側とに跨がって、貫通孔510が形成されている。サンギア51は、貫通孔510を貫通したドライブシャフト8Bの外周で相対回転可能に支持されている。
【0052】
サンギア51の差動装置6側の側面51bは、後記するデフケース60の筒状の支持部601に、回転軸X方向の隙間をあけて対向しており、側面51bと支持部601との間には、ニードルベアリングNBが介在している。
【0053】
サンギア51は、段付きピニオンギア53の大径歯車部531に噛合している。
【0054】
段付きピニオンギア53は、サンギア51に噛合する大径歯車部531と、大径歯車部531よりも小径の小径歯車部532とを有している。
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532が、回転軸Xに平行な軸線X2方向で並んで、一体に設けられたギア部品である。
【0055】
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532の内径側を軸線X2方向に貫通した貫通孔530を有している。
段付きピニオンギア53は、貫通孔530を貫通したピニオン軸54の外周で、ニードルベアリングNBを介して回転可能に支持されている。
【0056】
ピニオン軸54の軸線X2方向の両端は、キャリア55を構成する側板部651と側板部551で支持されている。
【0057】
側板部651、551は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部651、551の間では、複数の段付きピニオンギア53が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
【0058】
小径歯車部532の各々は、リングギア52の内周に噛合している。リングギア52は、ギアケース15の内周にスプライン嵌合しており、リングギア52は、ギアケース15との相対回転が規制されている。
【0059】
側板部551の内径側には、第1遊星減速ギア4側に延びる筒状部552が設けられている。筒状部552は、中間部材16の開口部165を、差動装置6側からモータ2側(図中、右側)に貫通している。筒状部552の先端552aは、回転軸X方向において第1遊星減速ギア4のキャリア45の側板部451に、間隔をあけて対向している。
【0060】
筒状部552は、第1遊星減速ギア4側の連結部453と、第2遊星減速ギア5側の連結部511との噛み合い部分の径方向外側に位置している。筒状部552の外周には、中間部材16の開口部165に固定されたベアリングB3が接触している。側板部551の筒状部552は、ベアリングB3を介して、中間部材16により回転可能に支持されている。
【0061】
第2遊星減速ギア5では、キャリア55を構成する側板部551と側板部651のうちの一方の側板部651は、差動装置6のデフケース60と一体に形成されている。
そのため、第2遊星減速ギア5のキャリア55(側板部551、651、ピニオン軸54)は、デフケース60と実質的に一体に形成されている。
【0062】
第2遊星減速ギア5では、第1遊星減速ギア4で減速されたモータ2の出力回転が、サンギア51に入力される。
サンギア51に入力された出力回転は、サンギア51に噛合する大径歯車部531を介して、段付きピニオンギア53に入力されて、段付きピニオンギア53が軸線X2回りに回転する。
【0063】
これによって、大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、大径歯車部531と一体に軸線X2周りに回転する。
ここで、小径歯車部532は、ギアケース15の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、小径歯車部532が軸線X2回りに回転すると、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0064】
そうすると、ピニオン軸54の一端54aが、デフケース60と一体に形成された側板部651に支持されているので、段付きピニオンギア53の回転軸X周りの周方向の変位に連動して、デフケース60が回転軸X回りに回転する。
【0065】
第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、モータ2の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
【0066】
第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53の大径歯車部531から小径歯車部532へ伝達されることにより大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60に出力される。
【0067】
図1に示すように、デフケース60は、シャフト61と、かさ歯車62A、62Bと、サイドギア63A、63Bとを、内部に収納する中空状に形成されている。
デフケース60では、回転軸X方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、シャフト61から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
【0068】
支持部601の外径側には、キャリア55の側板部651と側板部551とを接続する接続片56が設けられている。
接続片56のデフケース60側の一端56aは、側板部651とデフケース60の外周とに跨がって設けられており、他端56bは、回転軸X方向から側板部551に接続されている。
【0069】
接続片56は、前記した段付きピニオンギア53との干渉を避けた位置に設けられている。前記したように、段付きピニオンギア53は、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
接続片56は、回転軸X回りの周方向で隣接する段付きピニオンギア53の間に設けられている。
【0070】
デフケース60の支持部602の外周には、ベアリングB2のインナレースB2aが固定されている。
ベアリングB2のアウタレースB2bは、ギアケース15のリング状の支持部152で保持されており、デフケース60の支持部602は、ベアリングB2を介して、ギアケース15で回転可能に支持されている。
【0071】
支持部602にはドライブシャフト8Aが挿入され、支持部601にはドライブシャフト8Bが挿入され、それぞれ回転可能に支持されている。
【0072】
デフケース60の内部では、ドライブシャフト8A、8Bの先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合しており、サイドギア63A、63Bとドライブシャフト8A、8Bとが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0073】
デフケース60には、回転軸Xに直交する方向に貫通した軸孔60a、60bが、回転軸Xを挟んで対称となる位置に設けられている。
軸孔60a、60bは、回転軸Xに直交する軸線Y上に位置しており、シャフト61の一端61a側および他端61b側が挿入されている。
【0074】
シャフト61の一端61a側および他端61b側は、ピンPでデフケース60に固定されており、シャフト61は、軸線Y周りの自転が禁止されている。
【0075】
シャフト61は、デフケース60内において、サイドギア63A、63Bの間に位置しており、軸線Yに沿って配置されている。
【0076】
デフケース60内においてシャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。シャフト61においてかさ歯車62A、62Bは、当該かさ歯車62A、62Bの軸心を、シャフト61の軸心と一致させて設けられている。
【0077】
デフケース60内において、回転軸Xの軸方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側には、サイドギア63A、63Bが位置している。
サイドギア63A、63Bは、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸Xの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0078】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達系路上に、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と差動装置6(かさ歯車62A、62B、サイドギア63A、63B)を構成するギアが配置されている。
動力伝達装置1の駆動時には、モータ2において発熱すると共に、減速機構3と差動装置6では、ギア同士が互いに噛合する部分(ギアの噛み合い部分)で発熱が生じる。
【0079】
そのため、減速機構3と差動装置6を収容するギアケース15の内部には、冷却用の媒体である潤滑油OLが所定高さまで貯留されている。
そして、差動装置6が回転軸X回りに回転する際に、ケース内の潤滑油OLが、デフケース60により掻き上げられて、掻き上げられた潤滑油OLが、減速機構3と差動装置6のギアの噛み合い部分に供給される。これにより、ギアの噛み合い部分で発生した熱を、掻き上げた潤滑油OLとの熱交換により回収して、ギアの噛み合い部分を冷却するようにしている。
【0080】
ここで、ギアの噛み合い部分を効果的に冷却するには、遠心力を利用して、ギアの内側、すなわち回転軸X側から径方向外方に向かって潤滑油OLを供給することが好ましい。しかしながら、デフケース60の掻き上げではギアの回転軸X側に潤滑油OLは供給されにくい。
【0081】
そこで、本実施形態において、動力伝達装置1はギアの内径側に潤滑油OLを供給するための構成を備える。
以下、その構成について説明する。
【0082】
ドライブシャフト8Bの外周面に、潤滑油OLを油送する螺旋溝81が形成されている。潤滑油OLは、螺旋溝81によってモータ2側から差動装置6側に向かって油送される。
【0083】
螺旋溝81は、回転軸X回りの上下方向に延びる螺旋を描く。螺旋溝81の始端81aは、回転軸X方向において、モータシャフト20の他端20bと、カバー14の支持部141に支持されたベアリングB2の間に位置する。螺旋溝81の終端81bは、回転軸X方向において、第2遊星減速ギア5を構成するサンギア51と支持部601の間に位置する。すなわち、螺旋溝81は、回転軸Xに沿って、モータケース10内を横断してギアケース15内まで形成されている。
【0084】
図3に示すように、ギアケース15内部には、螺旋溝81によって油送される潤滑油OLを、第1遊星減速ギア4と第2遊星減速ギア5にそれぞれ供給する油孔部204、512が形成されている。油孔部204と油孔部512は、回転軸X方向にオフセットして配置されている。
【0085】
油孔部204は、ドライブシャフト8Bに外挿されるモータシャフト20を径方向に貫通して形成され、一端はドライブシャフト8Bの外周面に開口し、他端は空間Sbに開口する。油孔部204は、回転軸X方向における第1遊星減速ギア4のサンギア41とモータ支持部13の円筒壁132の間の位置に形成されている。
【0086】
油孔部512は、ドライブシャフト8Bに外挿される第2遊星減速ギア5の連結部511を径方向に貫通して形成され、一端はドライブシャフト8Bの外周面に開口し、他端は空間Sbに開口する。油孔部512は、回転軸X方向においてサンギア51との境の位置に形成される。
【0087】
図4は、油孔部204、512の開口面積B1、B2を説明する図である。
図4に示すように、後述する油路93から油孔部512までの回転軸X方向の距離D2は、油路93から油孔部204までの回転軸X方向の距離D1よりも遠くなっている(D1<D2)。油孔部512の開口面積B2は、油孔部204の開口面積B1よりも大きくなるように設定されている(B1<B2)。詳細は後述するが、実施の形態では、油孔部の開口面積を、油路93からの回転軸X方向の距離が遠くなるほど大きくなるように設定する。
【0088】
さらに、図1に示すように、動力伝達装置1は、ギアケース15内で掻き上げられた潤滑油OLの一部を貯留するキャッチタンク9を備える。
また、動力伝達装置1は、キャッチタンク9に蓄えられた潤滑油OLをモータ側に油送する配管92と、配管92から螺旋溝81の始端81aに潤滑油OLを導く油路93とを備える。
キャッチタンク9は、ギアケース15内の、他の構成要素に干渉しない位置に設置されており、図1では仮想線で図示している。
【0089】
図5の(a)は、図1の位置Aにおいて回転軸X方向から見たキャッチタンクを示す図である。図5の(b)は、図1の位置Bから見た油路を示す図である。図5は模式図であり、説明に不要な構成要素は図示を省略している。
【0090】
図5の(a)に示すように、キャッチタンク9はギアケース15の上方の部分を、径方向に膨出させて設けられている。
キャッチタンク9は、ギアケース15内の空間Sbに面する開口9aを有する。図5の(a)では、キャッチタンク9の第2遊星減速ギア5の上方にある部分を図示しているが、開口9aは第2遊星減速ギア5および第1遊星減速ギア4の上方に跨る範囲(図1参照)に形成されている。
【0091】
キャッチタンク9の底面には、潤滑油OLの排出口9bが形成されている。
排出口9bは、図5の(a)では図示を省略しているが、図5の(b)に示す配管92に接続している。
配管92は、排出口9bからギアケース15およびモータケース10の外部を配設され、カバー14に形成された油路93に接続するものである。
【0092】
図1に示すように、油路93は、カバー14の外周から支持部141の内周へ径方向内側に貫通して形成される。油路93は、外周側において配線との接続部93aを有する。油路は支持部141の内周側に開口端93bを有し、開口端93bはドライブシャフト8Bの外周面に形成された螺旋溝81の始端81aの上方に位置する。
【0093】
キャッチタンク9の排出口9bの鉛直線方向の高さh1は、油路93の接続部93aの鉛直方向高さh2よりも高くなっている。これによって、排出口9bから排出された潤滑油OLは、重力にしたがって配管92をモータ2側に流れ、接続部93aから油路93に供給される。
【0094】
支持部141の内部には、潤滑油OLをドライブシャフト8Bの外周面に導く、ドーナツ状の一対のガイドプレート94、95が設けられている。
【0095】
一対のガイドプレート94、95は、回転軸X方向の間隔を空けて対向している。ガイドプレート94は、Cリング94aとベアリングB2の間に挟みこまれる形で支持部141の内周に取り付けられている。ガイドプレート95は、モータ支持部12の側壁部12bとカバー14の端面14aに挟み込まれる形で取り付けられている。ガイドプレート95とモータ支持部12の円筒壁122に支持されたベアリングB1の間にはリップシールRSが設置されており、油路93を通る潤滑油OLがモータケース10内の空間Saへ流入することを阻止する。
【0096】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)と、差動装置6と、ドライブシャフト8A、8Bと、が設けられている。
【0097】
モータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、第1遊星減速ギア4のサンギア41に回転が入力される。
【0098】
図3に示すように、第1遊星減速ギア4では、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力部、ピニオンギア43を支持するキャリア45が、入力された回転の出力部となっている。
【0099】
サンギア41がモータ2の出力回転で回転軸X回りに回転すると、サンギア41の外周とリングギア42の内周に噛合したピニオンギア43が、軸線X1回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。これにより、ピニオンギア43を支持するキャリア45(側板部451、452)が、モータ2の出力回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
【0100】
前記したようにキャリア45の連結部453は、第2遊星減速ギア5側のサンギア51の連結部511に連結されており、キャリア45の回転(第1遊星減速ギア4の出力回転)は、第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力される。
【0101】
第2遊星減速ギア5では、サンギア51が、第2遊星減速ギア5の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
【0102】
サンギア51が入力された回転で回転軸X回りに回転すると、段付きピニオンギア53(大径歯車部531、小径歯車部532)が、サンギア51側から入力される回転で、軸線X2回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア53の小径歯車部532は、ギアケース15の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、段付きピニオンギア53は、軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0103】
これにより、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55(側板部551、651)が、第1遊星減速ギア4側から入力された回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。第2遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53の大径歯車部531から小径歯車部532へ伝達されることにより大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60(差動装置6)に出力される。
【0104】
そして、デフケース60が入力された回転で回転軸X回りに回転することにより、ドライブシャフト8A、8Bが回転軸X回りに回転して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0105】
前記したように、ギアケース15の下部には、冷却用の媒体である潤滑油OLが貯留されている。
図1に示すように、実施の形態では、デフケース60のシャフト61の一端61aまたは他端61bが最も下部側に位置した際に、シャフト61の一端61aまたは他端61bが少なくとも潤滑油OL内に位置する高さまで、ギアケース15内に潤滑油OLが貯留されている。
【0106】
これによって、デフケース60は回転軸X回りに回転する際に、ギアケース15内の潤滑油OLを掻き上げる。掻き上げられた潤滑油OLは、ギア(差動装置6のサイドギア63A、63B、かさ歯車62A、62B、第1遊星減速ギア4のサンギア41、リングギア42、ピニオンギア43、第2遊星減速ギア5のサンギア51、リングギア52、段付きピニオンギア53)の噛み合い部分に掛かることによって、噛み合い部分を冷却する。
【0107】
ギアの噛み合い部分を冷却した潤滑油OLは、直接落下するか、ギアの回転によって飛散されギアケース15の壁面を伝って、ギアケース15の下部に再び貯留されるが、一部の潤滑油OLはキャッチタンク9内に入って貯留される。
【0108】
図5の(a)に示すように、段付きピニオンギア53は、ピニオン軸54の軸線X2回りに自転しながら、回転軸X周りに回転している。段付きピニオンギア53に供給された潤滑油OLは、ギアの噛み合い部分を冷却すると同時に、段付きピニオン53の自転によって再びギアケース15内に掻き上げられる。掻き上げられた潤滑油OLは、段付きピニオン53の回転軸X周りの回転で生じる遠心力によって段付きピニオン53の回転方向に沿って移動し、その一部が開口9aからキャッチタンク9の内部に入る。
図示は省略するが、第1遊星減速ギア4においても、同様に潤滑油OLが掻き上げられ、一部の潤滑油OLがキャッチタンク9に貯留される。
【0109】
キャッチタンク9の内部に貯留された潤滑油OLは、重力にしたがって排出口9bから配管92に流れ、図5の(b)に示すように、カバー14に形成された油路93に落下する。油路93に落下した潤滑油OLは、油路93およびガイドプレート94、95(図1参照)を伝って、ドライブシャフト8Bの外周面に形成された螺旋溝81の始端81aに供給される。
【0110】
図6は、螺旋溝81に供給された潤滑油OLの流れを示す図である。
図6に示すように、螺旋溝81に供給された潤滑油OLには、ドライブシャフト8Bの回転によって遠心力が働き、ドライブシャフト8Bの回転軸Xの周方向に形成された螺旋溝81に沿って油送される。潤滑油OLは、モータケース10内部のモータシャフト20の内周側を通過し、ギアケース15内部に入り、終端81b側に向かって油送される。すなわち、螺旋溝81の始端81aから終端81bに向かう方向が、潤滑油OLの油送方向となる。
【0111】
ギアケース15の内部には、ドライブシャフト8Bに連通する油孔部204、512が形成されている。螺旋溝81を油送される潤滑油OLの一部は、油孔部204、512から排出され、ギアケース15の内部に供給される。
【0112】
油孔部204は、第1遊星減速ギア4のサンギア41とモータ支持部13の円筒壁132の間の位置に形成されているため、油孔部204から排出された潤滑油OLは、第1遊星減速ギア4を構成するギア(サンギア41、リングギア42、段付きピニオンギア43)の噛み合い部分に対して、回転軸X側から供給される。
【0113】
油孔部512は、第2遊星減速ギア5のサンギア51と連結部511の境の位置に形成されているため、油孔部512から排出された潤滑油OLは、第2遊星減速ギア5を構成するギア(サンギア51、リングギア52、段付きピニオンギア53)の噛み合い部分に対して、回転軸X側から供給される。
【0114】
螺旋溝81を油送される潤滑油OLにはドライブシャフト8Bの回転によって遠心力が作用しているため、油孔部204、512から潤滑油OLは勢い良く飛散する。これによって、第1遊星減速ギア4、5のギアの噛み合い部分に対して回転軸X側から潤滑油OLが供給されるため、効率的に冷却される。
【0115】
なお、潤滑油OLは、モータシャフト20と連結部511の間からピニオンギア43を支持するニードルベアリングNBにも供給される。サンギア51と支持部601の間からそれぞれを支持するニードルベアリングNBにも供給される。これらのニードルベアリングNBも回転軸X側から潤滑油OLが供給されることで、効率的に冷却される。
【0116】
螺旋溝81の残った潤滑油OLは、ドライブシャフト8Bが接続するデフケース60の内部に供給され、デフケース60のギアの噛み合い部分についても、潤滑油OLは回転軸X側から供給されることになる。
【0117】
ここで、図4に示すように、潤滑油供給口である油路93から油孔部512までの回転軸X方向の距離D2は、油路93から油孔部204までの回転軸X方向の距離D1よりも遠くなっている。すなわち、油孔部512は油孔部204より、潤滑油OLの油送方向の下流側に位置する。前記したように、油送方向下流側に位置する油孔部512の開口面積B2は、油孔部204の開口面積B1よりも大きく設定されている。
【0118】
螺旋溝81を油送される潤滑油OLには、遠心力による油圧がかかるが、油送方向下流側に行くほど油圧は低下する傾向にある。油圧が低下すると、ギアの噛み合い部分に対して潤滑油OLが十分に供給されないおそれがある。
【0119】
そこで、実施の形態では、油送方向下流側の油孔部512の開口面積B2を、油送方向上流側の油孔部204の開口面積B1よりも大きくする。
【0120】
一例として、油孔部204、512の、油路93からの回転軸X方向の距離D1、D2に応じて、潤滑油の基準供給量に対する加算量A1、A2を決定し、それぞれの加算量A1、A2を得るために必要な開口面積B1、B2を設定する。すなわち、油路からの回転軸X方向の距離が遠くなるほど、加算量が大きくなり、設定される開口面積も大きくなる。
なお、加算量A1、A2および開口面積B1、B2の設定は、予め試験またはシミュレーション等を行って決定することができる。
【0121】
このような設定はあくまで一例であり、単純に油送方向下流側にある油孔部の開口面積を、上流側の油孔部より一定面積大きくなるように設定しても良い。
【0122】
このように、油送方向下流側の油孔部512の開口面積B2を大きく設定することで、油孔部512における潤滑油OLの供給量が増加されるようにしている。これによって、油圧が低くなる油送方向下流側でも、ギアの噛み合い部分に適切に潤滑油OLを供給することができる。
【0123】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)モータ2と、
モータ2の下流に接続された減速機構3および差動装置6(ギア)と、
モータ2の内周及び速機構3のサンギア41、51および差動装置6およびデフケース60の内周を貫通するドライブシャフト8B(シャフト)と、を有し、
ドライブシャフト8Bの外周に潤滑油OLを油送する螺旋溝81が形成されており、
ドライブシャフト8Bの外周には、モータシャフト20(第1中空軸部)に形成された油孔部204(第1油孔部)と、連結部511(第2中空軸部)に形成された油孔部512(第2油孔部)と、が形成されており、
油孔部204は油孔部512と回転軸X方向(軸方向)にオフセットして配置されており、
油孔部204の開口面積B1は油孔部512の開口面積B2と異なる。
【0124】
減速機構3(第1遊星減速ギア4、第2遊星減速ギア5)および差動装置6の内周を貫通するドライブシャフト8Bの外周に螺旋溝81を形成することによって、回転軸X側から遠心力によって、減速機構3および差動装置6のギアの噛み合い部分やニードルベアリングNB等の軸受に効率的に潤滑油OLを供給することができる。
【0125】
螺旋溝81によって潤滑油OLを油送する場合、油送方向下流側に行くほど油圧が低下する傾向がある。油圧が低下する位置では潤滑油OLの供給量を増やすことが好ましく、潤滑油OLの必要な供給量が多いほど油孔部の開口面積を大きく設定することが好ましい。当該傾向を踏まえ、実施の形態では、複数の油孔部204、512の開口面積B1、B2を等しくするのではなく異ならせている。これにより、潤滑油OLの必要供給量に応じた適切な潤滑を行うことが可能となる。
【0126】
油孔部はドライブシャフト8Bの外周に位置する中空軸部に適宜設けることができ、設置する位置や設置する数は限定されない。また、各油孔部を、それぞれ1つの油孔で構成しも良く、複数の油孔から構成しても良い。油孔部を複数の油孔で構成する場合は、開口面積は複数の油孔の総面積を意味する。
実施の形態では、第1中空軸部と第2中空軸部を、モータシャフト20と連結部511の別体の軸としたが、これに限定されず、同じ中空軸として一体的に形成されていても良い。
【0127】
(2)動力伝達装置1は、
螺旋溝81に潤滑油OLを供給する油路93(潤滑油供給口)が設けられたカバー14(潤滑油供給部材)を有し、
油孔部512は油孔部204よりも油路93からの回転軸X方向距離が遠く、
油孔部512は油孔部204よりも開口面積が大きい。
【0128】
螺旋溝81は油送方向下流側に行くほど、油圧が低下する傾向にあることを踏まえ、油路93から回転軸X方向距離が遠い油送方向下流側に行くほど、油孔部の開口面積を大きくする。これによって、油送方向下流側にも必要流量の潤滑油OLを供給しやすい。また、油孔部204、512の開口面積B1、B2を調整するのみで良く、設計時の計算が簡素化されるので設計工数の低減につながる。
【0129】
なお、実施の形態では、モータケース10を構成するカバー14を潤滑油供給部材とし、カバー14に潤滑油供給口として油路93を形成したが、これに限定されない。たとえば、油路93をモータ支持部12の内部を貫通させるように形成しても良い。また、油路93を、モータケース10を構成する部材とは別体の部材に形成しても良い。
【0130】
<変形例1>
実施の形態では、油孔部204、512の開口面積B1、B2を、油路93からの回転軸X方向の距離D1、D2に応じて設定したが、開口面積B1、B2を設定する要素は距離だけに限定されない。
前記したように、潤滑油OLは、油孔部204、512を介して、第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5に供給され、ギアの噛み合い部分やニードルベアリングNB等の軸受で発生した熱を冷却する。
【0131】
潤滑油OLの供給先である第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5のニードルベアリングNB等の軸受の回転速度が大きくなるほど、発熱も大きくなりやすい。すなわち、回転速度が大きいほど潤滑油OLの必要な供給量が大きくなる傾向がある。
【0132】
変形例1では、この傾向を踏まえ、油孔部204、512の回転軸X方向距離D1、D2に加え、潤滑油OLの供給先の回転速度に応じて油孔部204、512の開口面積B1、B2を設定する。
【0133】
具体的には、潤滑油OLの供給先である孔部204、512の、第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5のそれぞれの回転速度に応じて、潤滑油OLの基準供給量に対する加算量B1、B2を決定する。
【0134】
そして、油孔部204、512の回転軸X方向距離D1、D2に応じた加算量A1、A2と、回転速度に応じた加算量B1、B2をそれぞれパラメータとして設定し、油孔部204、512開口面積B1、B2を決定する。
【0135】
ここで、第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5の実際の回転速度は走行状態に応じて変化するので、それぞれの基準回転速度V1、V2から加算量C1、C2を決定しても良い。基準回転速度V1、V2が大きくなるほど、加算量C1、C2が大きく設定される。
【0136】
基準回転速度V1、V2は、モータ2から第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5のそれぞれに至るまでの減速比等から算出することができる。例えば、モータ2の回転が所定回転のときの、第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5それぞれの回転速度に応じて基準回転速度V1、V2を決定することができる。
【0137】
加算量C1、C2および開口面積B1、B2は、実施の形態と同様に、予め試験またはシミュレーション等を行い決定することができる。
【0138】
以上の通り、変形例1にかかる動力伝達装置1は、
(3)螺旋溝81に潤滑油OLを供給する油路93(潤滑油供給口)が設けられたカバー14(潤滑油供給部材)を有し、
油孔部204および油孔部512は、油路93からの回転軸X方向距離(距離)に応じた加算量A1、A2(第1加算量)が大きいほど開口面積B1、B2が大きく設定され、
油孔部204および油孔部512は、第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5(潤滑油供給先)の基準回転速度V1、V2に応じた加算量C1、C2(第2加算量)が大きいほど開口面積B1、B2が大きく設定され、
回転軸X方向距離D1、D2が大きいほど加算量A1、A2は大きく設定され、
基準回転速度V1、V2が大きいほど加算量C1、C2は大きく設定される。
【0139】
螺旋溝81は油送方向下流側に行くほど油圧が低下する傾向にあることを踏まえ、油孔部204、512の油路83からの回転軸X方向距離D1、D2に応じた潤滑油OLの加算量A1、A2を設定し、加算量A1、A2に応じて油孔部204、512の開口面積B1、B2を設定する。螺旋溝81の油送方向下流側に行くほど加算量A1、A2は大きくなるため、開口面積B1、B2は大きくなる方向に設定される。
【0140】
さらに、潤滑油OLの供給先である第1遊星減速ギア4および第2遊星減速ギア5の回転速度が大きくなるほど発熱しやすく、潤滑油OLの必要な供給が大きくなることを踏まえ、基準回転速度V1、V2に応じた加算量C1、C2を設定し、加算量C1、C2に応じて開口面積B1、B2を設定する。基準回転速度V1、V2が大きいほど加算量C1、C2は大きくなるため、開口面積B1、B2は大きくなる方向に設定される。これによって、必要な供給量に応じた潤滑油OLの供給を適切に行うことができる。
【0141】
変形例1に係る動力伝達装置1の製造方法も、同様の効果を得ることができる。
【0142】
<変形例2>
図7は、変形例に係る螺旋溝28を示す図である。
実施の形態では、モータシャフト20の内周に設けても良い。
「ドライブシャフト8Bの外周」に形成された螺旋溝81の一例として、「ドライブシャフト8Bの外周面」に形成された螺旋溝81を説明したが、「シャフトの外周」は「シャフトの外周面」に限定されず、シャフトの外周方向に設けられ、シャフトの外周面と対向する部材に形成しても良い。
【0143】
図7に示すように、モータケース10内において、モータシャフト20の内周面がドライブシャフト8Bの外周面に対向する。このモータシャフト20の内周面に、螺旋溝28を形成しても良い。
【0144】
これによって、実施の形態と同様に、油路93から供給された潤滑油は、ドライブシャフト8Bの回転で働く遠心力によって、螺旋溝28に沿ってモータケース10側からギアケース15側に油送され、減速機構3および差動装置6のギアの噛み合い部分に効率的に潤滑油を供給することができる。
【0145】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ2の下流に接続された第1遊星減速ギア4という場合は、モータ2から第1遊星減速ギア4へと動力が伝達されることを意味する。
【0146】
また、実施の形態では、ギアとして減速機構3の第1遊星減速ギア4を構成するサンギア41、リングギア42およびピニオンギア43と、第2遊星減速ギア5を構成するサンギア51、リングギア52および段付きピニオンギア53と、差動装置6を構成するかさ歯車62A、62Bおよびサイドギア63A、63Bを説明したが、これに限定されず、本発明は他のギアにも適用可能である。
【0147】
また、実施の形態ではシャフトとしてドライブシャフト8Bを説明したが、これに限定されず、本発明は他のシャフトにも適用可能である。
また、実施の形態ではドライブシャフト8Bを中実の軸として説明したが、ドライブシャフト8Bを中空軸とし、中空軸の内部からも潤滑油を供給する構成としても良い。これによって、ドライブシャフト8Bの外周に形成した螺旋溝81と併せて潤滑油をさらに効率良く供給することができる。
【0148】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0149】
1 動力伝達装置
10 モータケース
11 モータハウジング
11a 一端
11b 他端
12 モータ支持部
12a 一端面
12b 他端面
121 接合部
122 円筒壁
122a 端面
123 引き出し部
13 モータ支持部
13a 一端面
13b 他端面
131 接合部
132 円筒壁
135 ベアリングリテーナ
14 カバー
140 開口部
141 支持部
15 ギアケース
150 開口部
151 開口端
152 支持部
16 中間部材
161 円板部材
162 接合部
163 段部
164 開口端
165 開口部
2 モータ
20 モータシャフト
20a 一端
20b 他端
203 大径部
204 油孔部
21 ロータコア
21a 一端面
21b 他端面
25 ステータコア
251 ヨーク部
252 ティース部
253 巻線
253a、253b コイルエンド
28 螺旋溝
3 減速機構
4 第1遊星減速ギア
41 サンギア
410 貫通孔
42 リングギア
43 ピニオンギア
44 ピニオン軸
45 キャリア
451、452 側板部
453 連結部
5 第2遊星減速ギア
51 サンギア
510 貫通孔
511 連結部
513 油孔部
52 リングギア
53 段付きピニオンギア
530 貫通孔
531 大径歯車部
532 小径歯車部
54 ピニオン軸
54a 一端
55 キャリア
551 側板部
552 筒状部
56 接続片
56a 一端
56b 他端
6 差動装置
60 デフケース
60a、60b 軸孔
601、602 支持部
651 側板部
61 シャフト
62A、62B かさ歯車
63A、63B サイドギア
8A、8B ドライブシャフト
81 螺旋溝
81a 始端
81b 終端
9 キャッチタンク
9a 一端部
9b 他端部
91 開口
92 排出口
93 油路
94、95 ガイドプレート
B1、B2、B3 ベアリング
W 配線
NB ニードルベアリング
P ピン
RS リップシール
S シールリング
Sa 空間(モータ室)
Sb 空間(ギア室)
X 回転軸
X1、X2、Y 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7