(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120216
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス及びその製造方法、並びに立体組織の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220810BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20220810BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019122026
(22)【出願日】2019-06-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)、「創薬スクリーニングを可能にするヒトiPS細胞を用いた腎臓Organ-on-a-Chip」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】横川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 龍
(72)【発明者】
【氏名】亀田 良一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA03
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029EA20
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB34
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】人工的に血管床を構築し、生体組織により近い状態で立体組織を培養できるデバイス、及び該デバイスを用いて立体組織を培養する方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るマイクロ流体デバイスは、デバイス本体と、デバイス本体に設けられた第一の流路と、デバイス本体における第一の流路に隣接し、第一の壁部を介して設けられた血管床保持チャンバーと、デバイス本体に設けられ、血管床保持チャンバーと連通する開口部と、開口部を塞ぐように設けられた隔壁とを備え、第一の壁部には複数の第一のスリットが形成されており、隔壁は除去可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイスであって、
デバイス本体と、
前記デバイス本体に設けられた第一の流路と、
前記デバイス本体における前記第一の流路に隣接し、第一の壁部を介して設けられた血管床保持チャンバーと、
前記デバイス本体に設けられ、前記血管床保持チャンバーと連通する開口部と、
前記開口部を塞ぐように設けられた隔壁とを備え、
前記第一の壁部には、複数の第一のスリットが形成されており、
前記隔壁は、除去可能である、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記第一の流路が一対設けられ、
一対の前記第一の流路のそれぞれが、前記血管床保持チャンバーに前記第一の壁部を介して隣接している、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記隔壁が前記血管床保持チャンバーと前記開口部との間に設けられる、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記隔壁が化学的方法又は物理的方法によって除去可能な隔壁である、請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記隔壁が水溶性材料から形成される膜状隔壁である、請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記第一の壁部における第一のスリットは、スリット幅が50μm~200μmとなるように等間隔に形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記第一の流路に連通する第一の流体供給部をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記デバイス本体に設けられた第二の流路をさらに備え、
前記第二の流路は、前記第一の流路に第二の壁部を介して隣接し、
前記第二の壁部には、複数の第二のスリットが形成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記第一の流路が一対設けられ、一対の前記第一の流路のそれぞれが、前記血管床保持チャンバーに前記第一の壁部を介して隣接しており、
前記第二の流路が一対設けられ、一対の前記第二の流路のそれぞれが、一対の前記第一の流路のそれぞれに、前記第二の壁部を介して隣接している、請求項8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記第二の壁部における第二のスリットは、スリット幅が50μm~200μmとなるように等間隔に形成されている、請求項8又は9に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記第二の流路に連通する第二の流体供給部をさらに備える、請求項8~10のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法であって、
第一の溝部と、前記第一の溝部に隣接し、第一の壁部を介して設けられた凹部とを備える第一の基板と、貫通孔を備える第二の基板と、除去可能な隔壁とを用意する工程と、
前記第二の基板の、前記第一の基板と接する面に、前記貫通孔を塞ぐように前記隔壁を設置することで、前記貫通孔を前記開口部として形成する工程と、
前記隔壁を介して、前記第二の基板の、前記第一の基板と接する面に、前記開口部が前記凹部の少なくとも一部に対応する位置に設置されるように、前記第一の基板を設置することで、前記凹部を前記血管床保持チャンバーとして形成する工程と
を含む、製造方法。
【請求項13】
前記第一の基板を設置する工程において、前記第一の基板と前記第二の基板とが接するそれぞれの面がプラズマ加工されており、前記第一の基板が前記第二の基板と接合するように設置される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスを用いて、立体組織を培養するための方法であって、
前記第一の流路に血管新生因子を含む流体を供給し、前記血管床保持チャンバーに血管内皮細胞を含む培地を供給し、前記血管床保持チャンバーに血管床を形成させる工程と、
前記隔壁を除去し、前記形成された血管床の上に立体組織を設置し、培養する工程と
を含む、培養方法。
【請求項15】
前記マイクロ流体デバイスが請求項8~11のいずれか一項に記載のマイクロ流体デバイスであり、前記第一の流路への血管新生因子の供給は、前記第二の流路に線維芽細胞を含む培地を供給することによって行う、請求項14に記載の培養方法。
【請求項16】
前記血管床を形成する工程が、前記第一の流路に血管内皮細胞を導入することをさらに含む、請求項14又は15に記載の培養方法。
【請求項17】
培養して得られた立体組織を単離する工程をさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明、マイクロ流体デバイス及びその製造方法、並びに該マイクロ流体デバイスを用いた立体組織の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実験動物から摘出した組織、又はES細胞若しくはiPS細胞等から人工的に作った立体組織を、in vitroで長期間培養するために、外部から血管を通じて栄養及び酸素を供給する必要がある。これまで、立体組織培養のための血管床(Vascular Bed)を人工的に構築し、当該血管床を用いて立体組織を培養しながら、立体組織内にある血管と血管床の血管を融合させたり、立体組織内において新たに血管状組織又は血管網(Vascular network)を構築させたりする方法がいくつか報告された。
【0003】
特許文献1には、血管形成細胞を含フッ素ポリイミド膜表面上で培養した後、当該膜を反転させてゲル上に載置し、あるいはゲルでポリイミド膜表面を被い、培養を続けることを特徴とする血管様組織形成方法が開示されている。さらに、該血管様組織を内在させたゲル層上にスフェロイドを播種することによって血管・スフェロイド融合体を形成する方法が開示されている。この方法では、血管状組織の周囲を覆うようにスフェロイドが成長しているのが観察され、また、一部においてはスフェロイドと血管状組織の融合も認められた。
【0004】
特許文献2には、ゲル内部に培地を灌流するための流路を設け、血管内皮細胞を誘導させ、ゲル内に血管網を構築させた血管床を作製し、その血管床上へ細胞シートを積層することで細胞シート内に血管網を構築させることを特徴とする細胞シート積層化物の製造方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、血管網と細胞組織を共培養するためのマイクロ流体デバイスが開示されている。該デバイスは、Open-topデバイスと呼ばれ、天井にマイクロポアを有するマイクロ流路(microchannel)で構成されており、リザーバーからマイクロ流路への直接の流体アクセスを提供する。非特許文献1の
図1には、細胞スフェロイドがマイクロポアの上に形成され、血管網が該マイクロポアを通して該細胞スフェロイドにまで伸びていることが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法によって作製した血管・スフェロイド融合体は、一部においてスフェロイドと血管状組織の融合も認められたものの、不完全なものであった。特許文献2の方法では、ゲル内に構築させた血管床上へ細胞シートを積層しても、血管網と細胞シートとは直接接触しておらず、ゲル内の血管が細胞シートまで延びにくいと考えられる。また、非特許文献1のOpen-topデバイスを用いる場合も、細胞スフェロイドと血管床とが直接的に接触できず、血管網はマイクロポアを通じしてしか細胞スフェロイドに延びることできないため、生体組織に近い状態で立体組織を培養することができない。
【0007】
一方、マイクロ流体デバイス(microfluidic device)は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術等の微細加工技術を利用して、微小流路や反応容器を作成し、バイオ研究や化学工学へ応用するためのデバイスを総称している。microTAS(micro Total Analysis Systems)又はLab on a Chip等とも呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-213716号公報
【特許文献2】国際公開第2012/036225号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Soojung Oh et al.,“Open-top”microfluidic device for in vitro three dimensional capillary beds, LabChip,2017,17,3405-3414
【非特許文献2】Nishimoto Y et al., Integratingperfusable vascular networks with a three-dimensional tissue in a microfluidicdevice, Integr., Biol., 2017, 9, 506-518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、人工的に血管床を構築し、生体組織により近い状態で立体組織を培養できるデバイス、及び該デバイスを用いて立体組織を培養する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記本発明の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。本発明者らは以前、マイクロ流体デバイスを用いて、灌流可能な血管網を持つ三次元細胞スフェロイドを構築する方法を開示した(非特許文献2)。具体的には、マイクロ流体デバイスの流路内にヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)とヒト肺線維芽細胞(hLF)との細胞相互作用により、血管形成性新芽がデバイスからスフェロイドに向かって誘導され、連続的な管腔(血管網)を形成したことも確認した。しかしながら、この血管状組織の誘導形成方法は、HUVECとhLFとの組み合わせに限定されるものであり、他の細胞種では血管誘導因子を十分に産生できない等の理由で管腔を有する血管網をスフェロイドにつなぐことができない。
【0012】
そこで、本発明者らはあらゆる立体組織を培養できるように、上記デバイスをさらに改良し、血管床と立体組織とを近接して培養し、デバイス一つであらゆる立体組織を簡便に培養できる新規なマイクロ流体デバイスを見出した。本発明は、この新しい知見に基づくものである。
【0013】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、デバイス本体と、デバイス本体に設けられた第一の流路と、デバイス本体における第一の流路に隣接し、第一の壁部を介して設けられた血管床保持チャンバーと、デバイス本体に設けられ、血管床保持チャンバーと連通する開口部と、開口部を塞ぐように設けられた隔壁とを備え、第一の壁部には複数の第一のスリットが形成されており、隔壁は除去可能である。
【0014】
本発明に係るマイクロ流体デバイスを用いれば、まず隔壁によって塞がれた血管床保持チャンバー内に血管床を構築したのち、隔壁を取り除いて、開口部から立体組織を上記血管床の上に直接的に導入し、さらに培養することで、立体組織内にある血管と血管床の血管とを接続させるか、或いは、血管床から血管が延びて立体組織内において新たに血管網を構築しることで、生体組織により近い状態で立体組織を培養することができる。
【0015】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、第一の流路が一対設けられ、一対の第一の流路のそれぞれが、血管床保持チャンバーに第一の壁部を介して隣接していてもよい。これにより、血管床が血管床保持チャンバーの両側へ延びことができ、より生体組織に近い血管床を構築することができる。
【0016】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、隔壁が血管床保持チャンバーと開口部との間に設けられてもよい。これにより、血管床保持チャンバーの天井(開口部側)に段差が生じず、それにより血管床がより構築し易くなる。
【0017】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、隔壁が化学的方法又は物理的方法によって除去可能な隔壁であってもよく、また、隔壁が水溶性材料から形成される膜状隔壁であってもよい。これにより、隔壁が除去されやすくなる。
【0018】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、第一の壁部における第一のスリットは、スリット幅が50μm~200μmとなるように等間隔に形成されていてもよい。これにより、血管床保持チャンバーへの血管床構築に必要な成分を供給しやすく、また最適な太さを有する血管ができ、さらに、等間隔により血管床ができやすくなる。
【0019】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、第一の流路に連通する第一の流体供給部をさらに備えてもよい。これにより、第一の流路への細胞又は血管新生因子を含む流体の供給又は交換が容易にできる。
【0020】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、デバイス本体に設けられた第二の流路をさらに備え、第二の流路は、第一の流路に第二の壁部を介して隣接し、第二の壁部には、複数の第二のスリットが形成されていてもよい。これにより、第一の流路及び血管床保持チャンバーへの血管床構築に必要な成分等を供給できる。
【0021】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、第一の流路が一対設けられ、一対の第一の流路のそれぞれが、血管床保持チャンバーに第一の壁部を介して隣接しており、第二の流路が一対設けられ、一対の第二の流路のそれぞれが、一対の第一の流路のそれぞれに、第二の壁部を介して隣接していてもよい。
【0022】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、第二の壁部における第二のスリットは、スリット幅が50μm~200μmとなるように等間隔に形成されていてもよい。これにより、第一の流路及び血管床保持チャンバーへの血管床構築に必要な成分等を供給しやすくなる。
【0023】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、第二の流路に連通する第二の流体供給部をさらに備えてもよい。これにより、第二の流路への細胞又は血管床構築に必要な成分等を含む流体を容易に供給又は交換できる。
【0024】
本発明に係るマイクロ流体デバイスの製造方法は、第一の溝部と、第一の溝部に隣接し、第一の壁部を介して設けられた凹部とを備える第一の基板と、貫通孔を備える第二の基板と、除去可能な隔壁とを用意する工程と、第二の基板の、第一の基板と接する面に、貫通孔を塞ぐように隔壁を設置することで、貫通孔を開口部として形成する工程と、隔壁を介して、第二の基板の、第一の基板と接する面に、開口部が凹部の少なくとも一部に対応する位置に設置されるように、第一の基板を設置することで、凹部を血管床保持チャンバーとして形成する工程とを含む。本発明に係るマイクロ流体デバイスは複雑な構造を有するため、一体成型が不可能である。本発明に係る製造方法によれば、第一の基板、隔壁及び第二の基板を別々用意し、順に設置することにより、本発明に係るマイクロ流体デバイスを製造することができる。
【0025】
本発明に係る製造方法において、第一の基板を設置する工程において、第一の基板と第二の基板とが接するそれぞれの面がプラズマ加工されており、第一の基板が第二の基板と接合するように設置されてもよい。これにより、第一の基板と第二の基板とが強固に接合できる。
【0026】
本発明に係る立体組織の培養方法は、本発明に係るマイクロ流体デバイスを用いて、第一の流路に血管新生因子を含む流体を供給し、血管床保持チャンバーに血管内皮細胞を含む培地を供給し、血管床保持チャンバーに血管床を形成させる工程と、隔壁を除去し、形成された血管床の上に立体組織を設置し、培養する工程とを含む。これにより、デバイス一つで生体組織により近い状態で、あらゆる細胞からなる立体組織を長期間に培養することができる。また、第一の流路及びそれにつながった血管床を通して立体組織の内部への経血管的な養分又は薬剤の投与も可能であるため、デバイス上で立体組織を培養しながら、創薬研究、発生若しくは再生医療研究等に利用し得る。
【0027】
本発明に係る培養方法において、マイクロ流体デバイスがデバイス本体に設けられた第二の流路をさらに備える場合、第一の流路への血管新生因子の供給は、第二の流路に線維芽細胞を含む培地を供給することによって行ってもよい。
【0028】
本発明に係る培養方法において、血管床を形成する工程が、第一の流路に血管内皮細胞を導入することをさらに含んでもよい。これにより、血管床保持チャンバー内の血管内皮細胞が、血管床保持チャンバー外の血管内皮細胞と繋がる傾向にあり、血管床がより構築しやくなる。
【0029】
本発明に係る培養方法において、得られた立体組織を単離する工程をさらに含んでもよい。単離された立体組織は、立体組織を用いたin vivoの実験、生体移植等に利用され得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明のマイクロ流体デバイス及び立体組織の培養方法によれば、より生体組織に近い状態で立体組織を培養することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一実施形態のマイクロ流体デバイスの平面図である。
【
図2】一実施形態のマイクロ流体デバイスのA-A’断面図である。
【
図3】一実施形態のマイクロ流体デバイスのB-B’断面図である。
【
図4】一実施形態のマイクロ流体デバイスのB-B’断面図の矩形枠内の拡大図である。
【
図5】一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法に用いられる第一の基板の平面図である。
【
図6】一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法に用いられる隔壁の平面図である。
【
図7】一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法に用いられる第二の基板の平面図である。
【
図8】一実施形態のマイクロ流体デバイスの第一の基板の作製工程を示す図である。
【
図9】一実施形態のマイクロ流体デバイスの第二の基板の作製工程を示す図である。
【
図10】一実施形態の立体組織の培養方法における血管床を構築する工程を示す図である。
【
図11】一実施形態の立体組織の培養方法における立体組織を構築する工程を示す図である。
【
図14】実験例5の隔壁無しデバイスの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0033】
〔マイクロ流体デバイス〕
図1~
図4は、本発明に係るマイクロ流体デバイスの一実施形態を示すが、本発明のマイクロ流体デバイスはこれに限定されない。
図1は一実施形態の平面図、
図2は該実施形態のA-A’断面図、
図3は該実施形態のB-B’断面図、
図4は
図3の矩形枠内部分の拡大図をそれぞれ示す。
【0034】
図1~
図4に示されるように、一実施形態のマイクロ流体デバイス1は、デバイス本体1と、デバイス本体1に設けられた第一の流路4、デバイス本体1における第一の流路4に隣接し、第一の壁部3を介して設けられた血管床保持チャンバー2と、デバイス本体1に設けられ、血管床保持チャンバー2と連通する開口部6と、開口部6を塞ぐように設けられた隔壁5とを備える。
【0035】
マイクロ流体デバイス1は、細胞培養に適した材料から形成されるものであれば、特に限定されない。材料としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のプラスチック樹脂を挙げることできるが、これらに限定されない。マイクロ流体デバイスの形状も限定されず、大きさはマイクロ流体デバイスとしての通常の大きさであればよく特に限定されない。
【0036】
血管床保持チャンバー2は、血管床を形成するための細胞及び培地を収容し、血管床を構築させ、保持するためのチャンバー(空間)である。その形状及び大きさは特に限定されない。血管床保持チャンバー2の高さ(深さ)は、形成する血管床の大きさに応じて適宜設定できるが、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~300μm、50μm~250μm、又は100μm~250μmであってもよい。
【0037】
マイクロ流体デバイス1は、
図1又は
図3に示されるように、血管床保持チャンバー2に連通する血管内皮細胞供給部11をさらに備えてもよい。血管内皮細胞供給部11によれば、血管床保持チャンバー2に血管床を形成するための血管内皮細胞等の細胞及び各種成分を含む培地等の流体を供給できるようになる。血管内皮細胞供給部11の形状は特に限定されず、また、その径(最大径)も特に限定されず、目的に応じて適宜に設定できる。
【0038】
第一の壁部3は、血管床保持チャンバー2と第一の流路4との間に介在しており、第一の壁部3には複数の第一のスリット21が形成されている。第一の壁部3は血管床保持チャンバー2を形成するための壁であるとともに、血管床保持チャンバー2と第一の流路4との間に、細胞を含むゲル状細胞外基質が通過しないが、低分子化合物又はタンパク質等の成分が通過できるようにするための壁でもある。ここで、低分子化合物としては、細胞培養に必要な炭素源(糖類)、アミノ酸、ビタミン類、無機塩類等、合成化学物質等が挙げられ、タンパク質としては、窒素源としてのタンパク質、増殖因子や栄養因子など血清由来成分、血管床形成に必要な血管新生因子等が挙げられる。
【0039】
血管床保持チャンバー2側の、第一の壁部3の高さは、血管床保持チャンバー2の高さを決定し、第一の流路4側の、第一の壁部3の高さは、第一の流路4の高さを決定し、両者が同じ高さであることが好適である。第一の壁部3の厚さは特に限定されず、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~300μm、50μm~250μm、又は100μm~250μmであってもよい。また、第一の壁部3の長さは特に限定されず、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~300μm、50μm~250μm、又は100μm~250μmであってもよい。
【0040】
第一の壁部3には、複数の第一のスリット21が形成されており、すなわち、第一の壁部3はマイクロピラー構造を有している。第一の壁部3において、一部の領域にのみ複数の第一のスリット21が形成されていてもよく、全長にわたって複数の第一のスリット21が形成されていてもよい。第一のスリット21は第一の壁部3に設けられた第一の壁部3の高さとほぼ同じ高さの隙間である。第一のスリット21の形状は特に限定さない。スリット幅は、第一の壁部3の厚さ方向において(例えば、血管床保持チャンバー2側から第一の流路4側へ向かって)同じ幅を有してもよく、異なる幅を有してもよい。例えば、
図4に示されるように、断面が台形であるスリットであってもよい。ここで、スリット幅とは最も狭い幅をいう。第一のスリット21のスリット幅は、細胞を含むゲル状細胞外基質が通過しないが、低分子化合物又はタンパク質等の成分が通過できる幅であればよく、例えば30μm~500μmであってよく、40μm~400μm、50μm~300μm、50μm~200μm、又は50μm~150μmであってよい。また、第一の壁部3において、複数の第一のスリット21が等間隔で形成されることが好適である。それによって、複数の血管が等間隔かつ等直径で形成され得、均一な流れを立体組織に与えることができる。また、このスリット幅は、血管床保持チャンバー内に液状のゲル培地を充填する際に、液状のゲル培地が表面張力によって漏れ出さない程度のスリット幅である。
【0041】
第一の流路4は、流体を収容し、血管床保持チャンバー2へと供給するための流路である。該流体は、血管床保持チャンバー2に保持される、血管床を形成するための細胞が血管床を形成するために必要な血管新生因子等の成分を含む。また、第一の流路4は細胞を収容してもよい。該細胞は、血管床保持チャンバー2に保持される、血管床を形成するための細胞と同じ細胞であってよい。第一の流路4は、第一の壁部3を介して、血管床保持チャンバー2に隣接している。これにより、第一の流路4に収容される流体に含まれる成分が、濃度勾配によって、第一の壁部3上の複数の第一のスリット21を通過して血管床保持チャンバー2へと拡散されていく。第一の流路4は、第一の壁部3を介して血管床保持チャンバー2と隣接する領域のほかに、後述の第一の流体供給部へと連通する領域を含んでもよい。この第一の流体供給部へと連通するための領域の壁は、スリットを有さなくてもよい。
【0042】
第一の流路4の形状は特に限定されず、例えば、血管床保持チャンバー2の全体を囲むように形成される1本の流路であってもよく、血管床保持チャンバー2の周りを部分的に又は断続的に囲むように形成される2本以上の流路であってもよい。また、第一の流路4の底面の形状も限定されない。一実施形態では、
図1~
図3に示されるように、第一の流路4が一対設けられ、一対の第一の流路4のそれぞれが、血管床保持チャンバー2に第一の壁部3を介して隣接している。一対の第一の流路4は、血管床保持チャンバー2と隣接するそれぞれの領域において、平行して延伸していることが好適である。すなわち、血管床保持チャンバー2が一対の第一の流路4によって挟まれている。これにより、左右対称構造を有する血管床を形成され得、形成された血管床を介した立体組織への酸素や養分の供給が均一にできる。
【0043】
第一の流路4の高さ(深さ)は特に限定されず、例えば30μm~500μmであってよく、40μm~400μm、50μm~300μm、50μm~200μm、又は50μm~150μmであってもよい。均一の血管床を形成するために、第一の流路4の高さを、血管床保持チャンバー2及び第一の壁部3の高さと同じ高さにするのが好適である。第一の流路4の幅は例えば100μm~5000μmであってよく、300μm~3000μm、500μm~2000μm、又は500μm~1500μmであってもよい。
【0044】
隔壁5は、後述の開口部6を塞ぐように設けられた蓋である。ここで、開口部6を塞ぐこととは、開口部6が実質的に塞がれていることをいい、すなわち、隔壁5によって血管床保持チャンバー2に保持されている血管内皮細胞を含む培地が開口部6内に漏れ出さない程度に塞がれていることをいう。血管内皮細胞を含む培地が漏れ出さなければ、例えば通気できる程度の隙間があってもよい。これにより、血管床保持チャンバー2の開口部6側(天井側)が塞がれ、すなわち、この隔壁5が血管床保持チャンバー2の天井の一部となる。それによって、血管床が形成されやすくなる。一方で、血管床を構築したのち、隔壁5があると、立体組織を血管床に接触させることができず、立体組織を培養することができない。したがって、隔壁5が除去可能である必要がある。血管床を構築したのち、隔壁5を除去することで、立体組織を血管床に接触さることができ、立体組織を培養することができる。
【0045】
隔壁5は、開口部6を実質的に塞ぐことができれば、血管床保持チャンバー2と開口部6との間、又は、開口部6の任意の領域に配置してもよい。デバイスの作製容易さの観点から、血管床保持チャンバー2と開口部6との間に設けられることが好適である。この場合、血管床保持チャンバー2の天井が凡そ平らであり、そのため、血管床保持チャンバー2は深さ方向において段差がないため、後述の血管内皮細胞の均一な播種ができ、それによって血管床が形成されやすいと考えられる。一方、隔壁5は開口部6内に設置される場合、血管床保持チャンバー2の天井は、開口部6へ一部突出することとなり、そのため、血管床保持チャンバー2は深さ方向において段差があり、後述の血管内皮細胞の均一な播種ができない場合があるが、血管床が形成し得る。したがって、血管床保持チャンバー2の天井における、隔壁5とそれ以外の天井部分との段差が小さければ小さいほどよくて、段差がないことが最も好ましい。段差がある場合、この段差は例えば500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下又は50μm以下であることが好ましい。
【0046】
隔壁5は、血管床に影響を与えることなく除去できるものであれば特に限定されず、例えば、化学的方法又は物理的方法によって除去可能であってよい。化学的方法としては、例えば、キレート剤又は酵素によって溶解することによって除去する方法が挙げられ、物理的方法としては、例えば、熱、紫外線等によって除去する方法が挙げられる。
【0047】
隔壁5の形状は、開口部6を塞ぐことができれば特に限定されないが、例えば、シート状若しくは膜状であってよく、栓状であってもよい。隔壁5がシート状又は膜状である場合は、その大きさが開口部6の断面と同じ又はそれよりも大きくてもよく、その厚みは例えば1~100μm又は10~50μmであってよい。隔壁5は、水溶性材料から形成されてもよい。ここで、水溶性材料とは、水又は水溶液に溶ける性質を有する材料をいう。水溶性材料としては、例えばキレート剤又は酵素によって溶解可能な材料であってもよく、血管床を構築するまでの数日間の長期培養によって自然に溶解可能な材料であってよい。隔壁5はこれらの水溶性材料から形成される膜状隔壁であってよい。水溶性材料としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、セルロース、キトサン、キチン、澱粉、デキストラン、ヘパリン、カルボキシメチルセルロース、アガロース等の多糖類及びそれらの塩、コラーゲン、フィブリン等のタンパク質、並びに、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリコール塩(PGA)等のポリマーが挙げられ、特にアルギン酸塩が好ましく用いられる。アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。また、このような材料を溶解できるキレート剤としては、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸等が挙げられ、酵素としては、セルラーゼ、キチナーゼ、コラーゲナーゼ、プラスミン等が挙げられる。
【0048】
開口部6は、デバイス本体1に設けられ、血管床保持チャンバー2と連通する開口である。ここで、開口部6と血管床保持チャンバー2とが連通することとは、隔壁5の位置によって、使用する前において連通している場合と、使用時において隔壁5を除去することによって連通可能となる場合の両方を含む。すなわち、隔壁5が開口部6の内部に位置する場合、開口部6と血管床保持チャンバー2とが、使用前に連通しているが、隔壁5が開口部6と血管床保持チャンバー2との間に位置する場合、開口部6と血管床保持チャンバー2とが使用前に連通しておらず、使用時において隔壁5の除去によって連通する。開口部6は、立体組織を投入するための投入口となっており、また、立体組織を収容し、培養するための空間でもある。隔壁5を除去することによって、開口部6を介して投入された立体組織は、血管床保持チャンバー2に形成され、保持された血管床と直接接触することになる。開口部6の形状は特に限定されず、また、その径(最大径)も特に限定されず、所望の立体組織の大きさによって適宜に設定できる。開口部6は、血管床保持チャンバー2の上部開口(開口部6側の開口)と同じ大きさであるか、それよりも小さい開口であってよい。開口部6の高さは、所望の立体組織を収容できる高さであれば、特に限定されない。
【0049】
マイクロ流体デバイス1は、
図1又は
図3に示されるように、第一の流路4に連通する第一の流体供給部9をさらに備えてもよい。第一の流体供給部9によれば、第一の流路4に血管新生因子等の成分のみならず細胞をも含む培地等の流体を供給できるようになり、これにより、血管新生因子等の成分が、第一の流路4を通じて血管床保持チャンバー2へ供給される。第一の流体供給部9の形状は特に限定されず、また、その径(最大径)も特に限定されず、目的に応じて適宜に設定できる。
【0050】
マイクロ流体デバイス1は、デバイス本体に設けられた第二の流路8をさらに備えてもよく、第二の流路8は、第一の流路4に第二の壁部7を介して隣接し、第二の壁部7には、複数の第二のスリット22が形成されていてもよい。第二の流路8は第一の流路4と同様な構造を有し、また、第二の壁部7及び第二のスリット22は、それぞれ第一の壁部3及び第一のスリット21と同様な構造を有してよい。第二の流路8によれば、第一の流路4に血管新生因子等の血管床を構築するために必要な成分を供給できる。第二の流路8は、第一の流路4と同様に、血管新生因子等の成分を含む流体のほか、細胞を含む培地をも収容し得る。第二の流路8に収容される細胞は、例えば血管新生因子を産生する細胞であってよい。
【0051】
マイクロ流体デバイス1において、一実施形態では、第一の流路4が一対設けられ、一対の第一の流路4のそれぞれが、血管床保持チャンバー2に第一の壁部3を介して隣接しており、第二の流路8が一対設けられ、一対の第二の流路8のそれぞれが、一対の第一の流路4のそれぞれに、第二の壁部7を介して隣接していてもよい。一対の第一の流路4は、血管床保持チャンバー2と隣接するそれぞれの領域において平行して延伸しており、一対の第二の流路8は、第一の流路4と隣接するそれぞれの領域において平行して延伸していることが好適である。これにより、複数の血管が等間隔かつ等直径で形成され、均一な流れを立体組織に与えることができる。
【0052】
マイクロ流体デバイス1において、第二の壁部7における第二のスリット22のスリット幅は特に限定されず、例えば30μm~500μmであってよく、40μm~400μm、50μm~300μm、50μm~200μm、又は50μm~150μmとなるように等間隔に形成されていてもよい。これにより、第一の流路4及び血管床保持チャンバー2への血管新生因子等の供給がしやすくなる。
【0053】
マイクロ流体デバイス1において、一実施形態では、
図1又は
図3に示されるように、第二の流路8に連通する第二の流体供給部10をさらに備えてもよい。第二の流体供給部10によれば、第二の流路8に血管新生因子等の成分のみならず細胞をも含む培地等の流体を供給できるようになり、これにより、血管新生因子等の成分が、第二の流路8を通じて、第一の流路4、さらに血管床保持チャンバー2へ供給される。第二の流体供給部10の形状は特に限定されず、また、その径(最大径)も特に限定されず、目的に応じて適宜に設定できる。
【0054】
〔マイクロ流体デバイスの製造方法〕
本発明に係るマイクロ流体デバイスは構造が複雑であるため、一体成型が不可能である。本発明に係るマイクロ流体デバイスの製造方法は、第一の基板、隔壁及び第二の基板をそれぞれ用意し、順に設置することにより、本発明に係るマイクロ流体デバイスを製造することができる。以下、
図5~10を参照して、マイクロ流体デバイスの製造方法の一例を説明する。
【0055】
<第一の工程>
一実施形態において、マイクロ流体デバイス1の製造方法の第一の工程は、
図5に示される第一の基板100と、
図7に示される第二の基板200と、
図6に示される除去可能な隔壁5とを用意する工程である。
【0056】
(第一の基板)
図5に示される第一の基板100は、第一の溝部104と、第一の溝部104に隣接し、第一の壁部3を介して設けられた凹部102とを備える。第一の溝部104は、マイクロ流体デバイス1における第一の流路4を形成するための溝であり、凹部102はマイクロ流体デバイス1における血管床保持チャンバー2を形成するための凹部である。第一の基板100は、さらに第二の溝部108を備えてもよい。第二の溝部108は、マイクロ流体デバイス1における第二の流路8を形成するための溝である。第一の溝部104及び第二の溝部108は、それぞれ第一の流路4及び第二の流路8を形成するための溝部であり、天井が塞がれていないことを除き、第一の流路4及び第二の流路8と同じ構造を有する。
【0057】
第一の基板100の作製方法は、特に限定されない。以下、一例として、ソフトリソグラフィーによる作製方法について説明する。また、第一の基板100の作製方法の具体例は、実施例1に示されている。なお、
図8及び
図9は模式図であり、構造を正確に表していない場合がある。
図8及び
図9に示されるそれぞれの構造物の構造に関しては、
図1~
図7を参照されたい。
【0058】
一実施形態において、ソフトリソグラフィー等の微細な立体構造を形成できる技術を用いて所望のパターンを有する硬化物を形成することによって第一の基板100を作製する。例えば、まず支持部材111の上に、ソフトリソグラフィーに用いられる材料を載せ、予め設計したパターン112にしたがって、上記材料をパターン112にパターン化し、そして、第一の基板100を形成するための材料をパターン112に密着させ、硬化させ、硬化物113を得る(
図8の(a))。
【0059】
ここで、支持部材111としては、パターン112と分離可能なものであることが好適であり、例えば、パターン112を破壊せずに、物理的又は化学的方法で除去できる材料からなる支持部材であってよい。具体的には、例えばシリコンウェハ、ガラス基板等の材料が挙げられる。支持部材111がシリコンウェハ又はガラス基板である場合は、支持部材111の上にパターン112を形成したのち、支持部材111をトリクロロ-(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シランで処理すると、支持部材111を容易に取り除くことができる。
【0060】
ソフトリソグラフィーに用いられる材料としては、通常用いられるものであればよく、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0061】
パターン112は、第一の基板100と反転するパターンであり、すなわち、第一の基板100上における凹部である、凹部102、第一の溝部104、及び第二の溝部108は、パターン112において凸部となり、第一の基板100上における凸部である、第一の壁部3及び第二の壁部7は、パターン112において凹部となる。
【0062】
第一の基板100を形成するための材料としては、流体としてパターン112に密着でき、かつ、硬化させることができる材料であれば特に限定されず、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の熱硬化性樹脂のプレポリマーであってもよい。PDMSプレポリマーとしては、PDMS主剤に硬化剤を混入させたものが挙げられる。ポリマー主剤:硬化剤の比率は特に限定されないが、例えば、5:1~15:1であってもよい。
【0063】
プレポリマーをパターン112に密着させるため、スピンコートを用いてもよい。また、気泡が入らないように、真空チャンバー内で脱気してもよい。プレポリマーの硬化は、通常の硬化方法であれば特に限定されないが、例えば、70~90℃で10~18時間静置してもよい。
【0064】
次に、
図8の(b)に示されるように、硬化後、第一の基板100をパターン112から剥がしたのち、ひっくり返し、適切な支持体114に設置してもよい。支持体114としては特に限定されず、たとえば、カバーガラス等が挙げられる。
【0065】
(隔壁)
隔壁5は上述とおりであり、その一例は
図6に示されているが、これに限定されない。隔壁5の作製方法は、特に限定されず、溶解可能な材料によって適宜に条件設定できる。隔壁5は、水溶性材料からなる材料から形成される膜状隔壁である場合、一般的な成膜方法にしたがって所望の厚み及びサイズの薄膜とすることができる。例えばスピンコートして硬化させることにより製作できる。
【0066】
隔壁5がアルギン酸塩膜の場合、例えば、カルシウムイオンと架橋反応させることにより作製することができる。適切な濃度のアルギン酸塩水溶液を乾燥させることによって成膜させた後、カルシウム塩溶液に浸し、架橋反応させ、その後例えば2枚のガラス板で挟み圧力をかけることにより均一な厚みを有する薄膜に成形し、さらに所望のサイズに切断することによって作製できる。
【0067】
(第二の基板)
図7に示される第二の基板200は、第二の基板本体200に設けられた貫通孔206を備える。貫通孔206は、マイクロ流体デバイス1における開口部6を形成するための貫通孔である。第二の基板200は、さらに、第一の流体供給貫通孔209、第二の流体供給貫通孔210、及び血管内皮細胞供給貫通孔211を備えてもよい。これらの貫通孔は、それぞれ、マイクロ流体デバイス1における第一の流体供給部9、第二の流体供給部10、及び血管内皮細胞供給部11を形成するための貫通孔である。これらの貫通孔は、それぞれ対応する供給部とは同じ構成を有する。
【0068】
第二の基板200の作製方法は特に限定されず、所望の大きさのポリマー基板の所望の位置に貫通孔206等の貫通孔を設けてあればよい。また、第二の基板200の作製方法の具体例は、実施例1に示されている。
【0069】
隔壁5が血管床保持チャンバー2と開口部6との間に設けられる場合、第二の基板200において、隔壁5を設置するための空間を設けることが好適である。この空間は、例えば、
図9の(a)に示されるように、型302によって予め設けることができる。
【0070】
<第二の工程>
マイクロ流体デバイス1の製造方法の第二の工程は、第二の基板200の、第一の基板100と接する面に、貫通孔206を塞ぐように隔壁5を設置することで、貫通孔206を開口部6として形成する工程である。隔壁5の設置方法は特に限定されず、例えば、第一の基板100と第二の基板200の間に挟まれるように設置してもよい。ここで、第二の基板200の、第一の基板100と接する面を、第二の基板200の底面と呼び、また、第一の基板100の、第二の基板200と接する面を第一の基板の頂面と呼ぶ。
【0071】
<第三の工程>
マイクロ流体デバイス1の製造方法の第三の工程は、隔壁5を介して、第二の基板200の、第一の基板100と接する面(すなわち、第二の基板200の底面)に、開口部6が凹部102の少なくとも一部に対応する位置に設置されるように、第一の基板100を設置することで、凹部102の頂面の開口(天井)が、隔壁5及び第二の基板200の底面によって塞がれ、それによって凹部102を血管床保持チャンバー2として形成する工程である。
【0072】
第三の工程によって、第一の基板100の頂面の開口の大部分が、隔壁5及び第二の基板200の底面によって塞がれており、それによって、血管床保持チャンバー2のほか、第一の流路4及び第二の流路8も形成されている。一方、第一の溝部104(すなわち、第一の流路4)及び第二の溝部108(すなわち、第二の流路8)の末端は、
図1に示されているように、第二の基板200の底面によって塞がれず、それぞれ第一の流体供給貫通孔209(すなわち、第一の流体供給部9)及び第二の流体供給貫通孔210(すなわち、第二の流体供給部10)に連通している。また、凹部102(すなわち、血管床保持チャンバー2)の末端が第二の基板200の底面によって塞がれず、血管内皮細胞供給部11に連通している。
【0073】
第一の基板100と第二の基板200とが強固に接合してよく、そのために、接着剤を用いてもよく、又は接触面のプラズマ加工を行ってもよい。PDMS又はガラス等の(-Si-O-)基を持つ材料の表面がプラズマ加工により、接触面同士で(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合が生じ、接合は強固なものとなる。
【0074】
本発明のマイクロ流体デバイスの製造方法にしたがって製造されたマイクロ流体デバイス1においては、隔壁5が血管床保持チャンバー2と開口部6との間に設けられる。作製されたマイクロ流体デバイス1は、細胞培養に供される前に、UV照射等によって滅菌を行ってもよい。
【0075】
上記マイクロ流体デバイスの製造方法は一例に過ぎず、他の方法によっても本願発明のマイクロ流体デバイスを製造することが可能である。例えば、上記製造方法の改変法としてPDMSプレポリマーをモールドに流し込み、
図2に示す各流路(第一の流路4、第二の流路8)及び各供給部(第一の流体供給部9、第二の流体供給部10、血管内皮細胞供給部11)を形成する各壁部(第一の壁部3、第二の壁部7等)と、
図9の(b)に示す第二の基板200の一例であるポリマー基板304とが一体となった基板を作製したのち、隔壁5を所望の位置に貼り付け、最後に各流路の底部となる基板を接合する製法が挙げられる。
【0076】
〔立体組織の培養方法〕
本発明に係る立体組織の培養方法は、本発明に係るマイクロ流体デバイス1を用いて、第一の流路4に血管新生因子を含む流体を供給し、血管床保持チャンバー2に血管内皮細胞を含む培地を供給し、血管床保持チャンバー2に血管床を形成させる工程と、隔壁5を除去し、形成された血管床の上に立体組織を設置し、培養する工程とを含む。
【0077】
図10及び
図11は立体組織の培養方法のプロセスの一例を示す。なお、
図10及び
図11中の(1a)~(5a)は、
図5中の断線の矩形枠内部分の模式図であり、
図10及び
図11中の(1b)~(5b)は
図1のマイクロ流体デバイス1のA-A’断面の模式図である。
図10及び
図11は、分かりやすく説明するために、マイクロ流体デバイス1の構造を正確に表していない場合があるため、示されるそれぞれの構造物の構造に関しては、
図1~
図7を参照されたい。
【0078】
図10の(1a)及び(1b)は、使用される前のデバイスを示す。(2a)及び(2b)は、血管床保持チャンバー2に血管内皮細胞を含む培地を導入し、一対の第一の流路4に流体を導入し、また、血管新生因子の代わりに、一対の第二の流路8に線維芽細胞を導入することを示す。(3a)及び(3b)は、さらに、一対の第一の流路4に血管内皮細胞を導入し、血管床が形成されていることを示す。
【0079】
図11の(4a)及び(4b)は、隔壁5を除去したのち、立体組織を血管床の上に載せることを示し、(5a)及び(6b)は、立体組織の内部まで血管が延びていることを示す。
【0080】
血管床保持チャンバー2に導入される血管内皮細胞は、血管床を形成する血管内皮細胞であり、その由来は特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等の動物由来の血管内皮細胞であってもよく、またヒトiPS細胞等の幹細胞から分化誘導して得られた血管内皮細胞であってよく、また、静脈内皮細胞であることが好適であり、例えば臍帯静脈内皮細胞が好適である。
【0081】
血管内皮細胞を含む培地は、特に血管内皮細胞を培養するための必要な炭素源、窒素源、ビタミン類、無機塩類、合成化学物質、血清由来成分等の成分を含んでいるものであり、当業者が任意に選択できるものである。血管内皮細胞の自己組織化及び管腔形成能を利用して血管床を形成しやすいように、ゲル状培地であることが好適である。ゲル状培地は、例えば液体培地にゲル化成分を添加して、適切な硬さのゲル状培地としてもよい。ゲル化成分としては、フィブリン、コラーゲン、寒天、アガロース等が挙げられる。ゲル化成分がフィブリンである場合、培地中におけるゲル化成分の濃度は2~10mg/mLであってよい。血管内皮細胞を含むゲル培地を血管床保持チャンバー2への導入は、溶解したゲル培地に所望の濃度となるように血管内皮細胞を懸濁したのち、血管内皮細胞供給部11を通じ、該懸濁液をピペット等によって添加し、ゲル化させることによって行うことができる。
【0082】
血管新生因子とは、血管新生に関与する因子であり、本発明の培養方法使用される血管新生因子は特に限定されず、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)等が挙げられ、特にヒト血管内皮増殖因子、例えばヒト線維芽細胞によって産生されるヒト血管内皮増殖因子であることが好適である。
【0083】
血管新生因子の濃度は、血管新生因子の種類、又は血管床保持チャンバー2内の血管内皮細胞の濃度によって適宜に調整してよく、例えば、0.1ng/mL~500ng/mLであってよく、5ng/mL~300ng/mLであってよい。ここで血管新生因子の濃度とは、血管床保持チャンバー2と第一の流路4、さらに第二の流路8との間に濃度平衡に達した時に濃度を意味する。第一の流路4等に血管新生因子を導入する時の導入時濃度は、所望の血管新生因子の濃度、並びに、血管床保持チャンバー2、第一の流路4及び第二の流路8の容量に基づき、計算できる。
【0084】
血管新生因子そのものを供給してもよく、血管新生因子を産生する細胞をマイクロ流体デバイス1に導入して、in situで血管新生因子を産生させてよい。血管新生因子を産生する細胞としては特に限定されず、例えばヒト肺線維芽細胞、グリア芽腫等の腫瘍細胞等が挙げられる。
【0085】
血管新生因子を産生する細胞をマイクロ流体デバイス1に導入する方法として、マイクロ流体デバイス1の第一の流路4又は第二の流路8に導入してもよく、第一の流路4に血管内皮細胞を導入する場合もあるため、血管新生因子を産生する細胞は第二の流路8に導入するのが好適である。血管新生因子の濃度は、導入する血管新生因子を産生する細胞の数又は濃度で調節できる。血管新生因子を産生する細胞がヒト肺線維芽細胞である場合、第一の流路4又は第二の流路8におけるヒト肺線維芽細胞の濃度は、1×103~1×108細胞/mL、又は1×105~1×107細胞/mLであってよい。
【0086】
血管新生因子を含む流体は、緩衝液等の水溶液であってもよく、又は、細胞を培養するための培地であってもよい。流体は、血管新生因子以外に、他の血管新生を促進する成分を含んでもよい。培地としては、血管内皮細胞、又は他の血管新生因子を産生する細胞を培養できる液体培地であればよく、例えばEGM-2(Lonza社)等が挙げられる。
【0087】
本発明に係る培養方法において、血管床を形成する工程が、第一の流路4に血管内皮細胞を導入することをさらに含んでもよい。添加方法は第一の流体供給部9を介して、血管内皮細胞の懸濁液を添加すればよく、また、血管内皮細胞が第一の流路4の血管床保持チャンバー2側の側壁に接合させたほうが好ましい。接合方法は、例えば、血管内皮細胞の懸濁液を添加したのち、デバイスを90°傾けた状態にして血管床保持チャンバー2側の側壁を下にして細胞の自然沈降によって接合させることが挙げられる。血管内皮細胞を添加しなくても、血管床保持チャンバー2で血管床が構築されるが、第一の流路4に血管内皮細胞が添加されることで、血管床保持チャンバー2内外の血管内皮細胞と繋がる傾向にあり、血管床保持チャンバー2内で形成された血管内皮細胞の管腔が、第一の流路4側への開口しやすくなる。それによって、第一の流路4へ液体を供給することで血管床の灌流ができるようになる。添加される血管内皮細胞は血管床保持チャンバー2内に添加される血管内皮細胞と同種のものであることが好ましい。
【0088】
第一の流路4に血管新生因子を含む流体を供給し、血管床保持チャンバー2に血管内皮細胞を含む培地を供給したのち、培地交換しながら、培養するのが好適である。培養条件は一般的な細胞培養条件であればよく、特に限定されない。培地や流体の量がごく微量のため、乾かないように環境湿度を調節したほうがよい。
【0089】
培養開始2~4日後に、第一の流路4に血管内皮細胞をさらに導入するのが好適である。第一の流路4に導入される血管内皮細胞は、第一の流路4から血管床保持チャンバー2に向かって内腔を有する血管網を形成できるため、第一の流路4の連通する血管床を構築できる。
【0090】
培養開始6~7日後、血管床保持チャンバー2内に血管床が形成される。本発明に係る培養方法によって形成される血管床は、直径30~80μm、場合によって50μm程度の内腔を有する血管網が均一に広がる血管床である。
【0091】
本発明に係る培養方法において、血管床が形成されたのち、隔壁5を除去し、形成された血管床の上に立体組織を設置し、培養する工程が含まれる。
【0092】
立体組織(3次元組織)は、1種又は2種以上の細胞からなる立体構造を有する組織又は組織様細胞凝集体である。本発明の培養方法によって培養可能な立体組織は、特に限定されず、任意の細胞からなる立体組織であってよい。例えば、生体から分離した立体組織又は人工的に構築した立体組織であってもよい。生体から分離した立体組織は任意の動物から分離した任意の立体組織であってよく、また、正常な組織であってもよく、腫瘍組織などの異常な組織であってもよい。人工的に構築した立体組織としては、例えば腫瘍環境を模したスフェロイド、ES細胞又はヒトiPS細胞等の幹細胞から誘導分化したオルガノイド等が挙げられる。立体組織は、その内部に血管又は血管網を有してもよく、有さなくてもよい。
【0093】
立体組織の内部に血管又は血管網を有する場合、立体組織を血管床の上に設置してから凡そ2~7日間で、血管床中の血管と立体組織内の血管とが連通(融合)し、血管床から立体組織へ養分又は薬剤を供与できるようになる。一方、立体組織の内部に血管又は血管網を有さない場合、立体組織を血管床の上に設置してから凡そ2~7日間で、血管床から血管が立体組織へ血管が延び、立体組織内に血管網が形成され、血管床から立体組織へ養分又は薬剤を供与できるようになる。これにより、立体組織をより長期間培養することができる。
【0094】
本発明に係る培養方法にしたがって血管床上において培養した立体組織は、流路及びそれにつながった血管床を通して立体組織の内部への経血管的な養分又は薬剤の投与も可能であるため、デバイス上で立体組織を培養しながら、創薬研究、発生若しくは再生医療研究等に利用され得る。
【0095】
本発明に係る培養方法において、得られた立体組織を単離する工程をさらに含んでもよい。単離された立体組織は、立体組織を用いたin vivoの実験や、生体移植等の用途に利用され得る。
【実施例0096】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実施例1 マイクロ流体デバイスの作製>
図1に示すマイクロ流体デバイスの一例を作製した。まず、
図5に示した第一の基板100、
図6に示される隔壁5、及び
図7に示される第二の基板200をそれぞれ作製した。
【0098】
隔壁5として、アルギン酸塩膜をJ.Liら(J. Li, J. He, Y.Huang, D. Li and X. Chen, Carbohydr. Polym., 2015, 123, 208-216)に開示の方法に準じて、カルシウムイオンと架橋反応させることにより作製した。まず、滅菌水にアルギン酸ナトリウムを2%の濃度になるように溶解させ、アルギン酸塩溶液を作製した。直径35mmの培養皿にアルギン酸塩溶液を3mL入れた後、35℃で一晩乾燥させ、アルギン酸塩膜を得た。そのアルギン酸塩膜を塩化カルシウム溶液に1時間浸した。塩化カルシウム溶液は、30%(v/v)のエタノールを含む脱イオン水に、100mMになるよう塩化カルシウムを溶かすことにより準備した。その後、架橋反応させたアルギン酸塩膜を脱イオン水で洗浄した。アルギン酸塩膜を2枚のガラス板に挟み、クリップでさらに挟んだ後、35℃で乾燥させた。得られたアルギン酸膜の厚さは約40μmであった。最後に、第二の基板に貼るため、4.5mm×5mmの長方形を切り出し、隔壁5とした。
【0099】
第一の基板100は、
図8に示される手順でソフトリソグラフィーによって作製した。支持部材111として、厚さ100μmのシリコンウェハを用いた。支持部材111の上に、フォトリソグラフィによってSU-8 3050(MicroChem、米国)をパターン112にパターン化した。支持部材111を後で取り除きやすくするため、トリクロロ-(1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチル)シラン(Sigma)で処理した。さらに該パターン化したSU-8 3050からなるパターン112及び支持部材111の上に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)プレポリマー(PDMS主剤:硬化剤=10:1(重量比))(東レ・ダウコーニング株式会社、日本)を500rpm、15秒でスピンコートし、続いて真空チャンバー内で30分間脱気した。その後、静置し、70℃で2時間PDMSプレポリマーを硬化させ、硬化物113を得た(
図8の(a))。
【0100】
硬化物113を、SU-8 3050からなるパターン112及び支持部材111から剥がし、24mm×24mm×0.5mmの第一の基板100を得た。第一の基板100をひっくり返して、支持体114としての24mm×24mmのスライドガラス(松波硝子工業、日本)上に載せた(
図8の(b))。
【0101】
作製された支持体114によって支持される第一の基板100は、
図5に示されるように、凹部102、第一の壁部3、第一の溝部104、第二の壁部7、及び第二の溝部108を備えるものであった。第一の壁部3及び第二の壁部7はそれぞれ、長さが4.1mmであり、第一のスリット21又は第二のスリット22を20個等間隔に備えておいる。第一の溝部104における第及び第二の溝部108は、長さが6.1mmであり、径が1mmであった。凹部102、第一の溝部104及び第二の溝部108の深さは100μmであった。
【0102】
第二の基板200は、
図9に示される手順で作製した。隔壁5の型302とし、2枚の4.5mm×5~6mmのセロファンテープ(総厚さ100μm)を用いた。2枚のセロファンテープをプラスチックの容器301の中央に取り付けたのち、プレポリマー303としてのPDMSプレポリマーを、容器301に注いだ後、真空チャンバー内で1時間脱気し、80℃で2時間硬化させた(
図9の(a))。硬化物を容器301から剥がし、
図6に示される、貫通孔206、二対の第一の流体供給貫通孔209、二対の第二の流体供給貫通孔210、及び一対の血管内皮細胞供給貫通孔211をそれぞれ生検パンチ(Sterile Dermal Biopsy Punch、貝印株式会社、日本)で穿孔し、第二の基板200の一例であるポリマー基板304を得た(
図9の(b))。ポリマー基板304における貫通孔206、第一の流体供給貫通孔209、第二の流体供給貫通孔210、及び血管内皮細胞供給貫通孔211は、それぞれ3.5mm、6mm、2mm、及び2mmの直径を有する。
【0103】
続いて、ポリマー基板304における隔壁5のための空隙にグルー305としてのPDMSプレポリマーを塗り、その上、上記の方法で作製された膜状隔壁306をグルー305の上に載せて、70℃、30分硬化することで、ポリマー基板304と隔壁5とを接着させた。
【0104】
さらに、第一の基板100とポリマー基板304とが接するそれぞれの面を大気プラズマ(50sccm、270pa、40W、Femto Science Cute)で40秒プラズマ処理しによってプラズマ加工し、両者を密に接合して、マイクロ流体デバイス1を作製した。
【0105】
<実施例2 血管床の構築及び立体組織の培養>
(細胞培養)
緑色蛍光タンパク質を発現するヒト臍帯静脈内皮細胞(GFP-HUVEC(Human Umbilical Vein Endothelial Cells)、Angio Proteomie、米国)、及び、赤色蛍光タンパク質を発現するヒト臍帯静脈内皮細胞(RFP-HUVEC、Angio Proteomie)を、内皮細胞増殖培地-2(EGM-2、Lonza、スイス)で培養し、4~6継代の細胞を実験に使用した。使用したEGM-2には、EGM-2のサプリメントの1つであるゲンタマイシンの代わりに、1%ペニシリン及びストレプトマイシン(P/S、Thermo Fisher Scientific、米国)を含んだ。ヒト肺線維芽細胞(hLF(Human Lung Fibroblasts)、Lonza)を線維芽細胞増殖培地-2(FGM-2、Lonza)で培養し、継代4~5細胞を実験に使用した。共培養スフェロイドを調製するために、hLFとHUVECを200μLのEGM-2に4:1(2.0×104細胞:5.0×103細胞)の割合で混合した。スフェロイドは、マイクロ流体デバイスに導入する前に、U字底の96ウェルプレート(住友ベークライト、日本)で1日間培養した。
【0106】
(細胞の導入)
実施例1で作製したマイクロ流体デバイス1を用いて、立体組織を培養した。まず、上記デバイスをUVで滅菌した。フィブリノーゲン粉末(Sigma)を2.8mg/mLになるようにPBSに溶かした。コラーゲンI(Corning)をpHが7となるよう中和し、3.0mg/mLになるようにPBSに溶かした。さらに、107.2μLの上記フィブリノーゲン溶液と、8.0μLの上記コラーゲンI溶液と、3.6μLのアプロチニン(Sigma)(5U/mL)とを混合し、ゲル溶液を作製した。
【0107】
上記培養したGFP-HUVEC及びhLFをトリプシンで剥離し、10%FBSを含むDMEM培地で中和し、トリプシンの作用を止め、遠心分離用チューブに回収し、220×gで3分間遠心した。GFP-HUVEC及びhLFをそれぞれ8×106cells/mL及び5×106cells/mLになるように、ゲル溶液に懸濁した。得られた細胞懸濁液を99μL分注し、50U/mLのトロンビン(Thrombin)を1μL入れた。得られた細胞懸濁液に含まれるフィブリノーゲン、コラーゲンI、アプロチニン及びトロンビンの濃度はそれぞれ、2.5mg/mL、0.2mg/mL、0.15U/mL及び0.5U/mLとなった。
【0108】
図10に示されるように、30μLのGFP-HUVEC懸濁液を血管内皮細胞供給部11を介して、血管床保持チャンバー2に導入した。20μLのhLF懸濁液を第二の流体供給部10を介して、一対の第二の流路8にそれぞれ導入した。15分間、CO
2インキュベータでインキュベートした。続いて、血管床保持チャンバー2及び一対の第二の流路8にEGM-2培地を導入した。乾燥を防ぐため,濡れたキムワイプ(登録商標)を入れた100mmディッシュにマイクロ流体デバイス1を入れ、CO
2インキュベータで培養した。
【0109】
培養2日目、EGM-2培地に5×106cells/mLになるように懸濁したGFP-HUVEC懸濁液を用意し、第一の流体供給部9を介して、片方の第一の流路4に20μL導入した。90°傾けた状態で30分インキュベートし、それによってゲル面にGFP-HUVECを接着させた。もう片方の第一の流路4にも、同様にGFP-HUVEC懸濁液を20μL導入し、HUVECをゲル面に接着させた。続いて、2日間ごと培地交換し、培養した。培養4日目から血管床保持チャンバー2に形成されつつある血管網(血管床)とゲル面に接着させた血管内皮細胞が接合する様子が観察された。
【0110】
(スフェロイドの導入)
培養7日目に、開口部6に50mM EDTA(Thermo Fisher Scientific)/DPBS(ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水)を20μL入れ、3分間室温でインキュベートし、隔壁5のアルギン酸塩膜を溶かした。DPBSで3回洗浄して過剰のEDTAを除去したのち、すべての供給部(第一の流体供給部9、第二の流体供給部10、血管内皮細胞供給部11)から培地を吸い取り、2.5×104個のRFP-HUVECと1×105個のhLFで構築したスフェロイドを血管床保持チャンバー2に導入した。CO2インキュベータで37℃、30分間インキュベートし、スフェロイドをゲルに接着させた。新鮮なEGM-2培地をすべての供給部から供給し、血管床保持チャンバー2、第一の流路4、及び第二の流路8を満たした。2日ごとに培地交換し、構築した血管床の上においてスフェロイドを培養した。
【0111】
<実施例3 血管床の灌流性の可視化>
実施例2で形成された血管床の灌流性を調べるために、血管床が完全に形成された培養7日目、隔壁5を取り除く前に、デバイスのすべて供給部からEGM-2培地を除去した後、蛍光色素である、10μMのローダミン-デキストラン(rhodamine-dextran、70kDa、Sigma)のDPBS溶液を一対の第一の流路4の片方のみに導入した。そして蛍光色素溶液は、一対の第一の流路4の間液面差によって、血管床の血管内腔に灌流された。蛍光色素溶液が血管内腔を流れる様子を観察した。イメージング電荷結合素子カメラ(DP74)を備えた倒立顕微鏡(CKX53、Olympus)及び4倍対物レンズ(Olympus)を用いて、蛍光画像を撮影した。
【0112】
結果を
図12に示した。
図12の(a)は、血管内皮細胞自体の蛍光(GFP)を観察した蛍光画像であり、(b)は血管内腔における灌流された蛍光色素(ローダミン-デキストラン)を観察した蛍光画像である。
図12から、内腔を有する血管網が形成されており、また該血管網の血管壁から溶液が漏出していないことが確認された。
【0113】
<実施例4 立体組織の分析>
スフェロイドの導入4日後、イメージング電荷結合素子カメラ(DP74)を備えた倒立顕微鏡(CKX53、Olympus)及び4倍対物レンズ(Olympus)を用いて、タイムラプス明視野及び蛍光画像を撮影した。断面画像は、20倍及び40倍レンズと、波長488及び561のスペクトルレーザーを備えた共焦点顕微鏡(FV3000、オリンパス)を介して取得した。得られた画像をImageJソフトウェア(National Institutes of Health、メリーランド州メリーランド州)で分析した。
【0114】
結果を
図13に示した。
図13から、スフェロイドの内部まで血管網が延びており、また、最初に作製した血管床とスフェロイド内部の血管網とが連通していることが確認された。
【0115】
<実施例5 血管床の構築における隔壁の作用の検討>
実施例1で作製したデバイス(隔壁有りデバイス)、及び、アルギン酸塩膜の隔壁がない以外隔壁有りデバイスと同じである隔壁無しデバイスを用いて、隔壁の有無による影響を調べた。
【0116】
血管床構築実験の前に、隔壁無しデバイスの血管床保持チャンバー2をチップで塞いだ。具体的に、
図14に示すように、1mLのピペットチップに適量のPDMSを入れて固め、さらにチップの先端を切ったものを、隔壁無しデバイスの開口部6に入れ、血管床保持チャンバー2を塞いだ。その後、隔壁有りデバイスと隔壁無しデバイスを用いて、実施例2と同様な手順で血管床の構築を試みた。実施例2と同様にGFP-HUVEC懸濁液及びhLF懸濁液を準備し、GFP-HUVEC懸濁液50μLを血管床保持チャンバー2に導入し、hLF懸濁液20μLを一対の第二の流路8にそれぞれ導入した後、隔壁無しデバイスからチップを外した。その後、15分間、CO
2インキュベータで培養した。さらに、一対の第二の流路にEGM-2培地を導入した。培養2日目、実施例2と同様の手順で、一対の第一の流路4の側壁にそれぞれGFP-HUVECを接着させ、さらに2日間ごと培地交換し、培養した。培養4日目から血管床保持チャンバー2に形成された血管網(血管床)を観察した。
【0117】
隔壁有りデバイスの結果を
図15の(a)に、隔壁無しデバイスの結果を
図15の(b)に示す。隔壁が存在する場合と比較し、隔壁が存在しない場合では血管床保持チャンバー2で十分な血管網の構築を観察することができなかった。隔壁がないと、細胞懸濁液の多くが天井のない血管床保持チャンバー2の中央部に流入した。その結果、血管床保持チャンバー2の中央部の細胞数が多くなり、培地の供給が不足してしまい、血管網が上手く構築できなかったと考えられる。
1…デバイス本体、2…血管床保持チャンバー、3…第一の壁部、4…第一の流路、5…隔壁、6…開口部、7…第二の壁部、8…第二の流路、9…第一の流体供給部、10…第二の流体供給部、11…血管内皮細胞供給部、21…第一のスリット、22…第二のスリット、100…第一の基板、102…凹部、104…第一の溝部、108…第二の溝部、111…支持部材、112…パターン、113…硬化物、114…支持体、200…第二の基板、206…貫通孔、209…第一の流体供給貫通孔、210…第二の流体供給貫通孔、211…血管内皮細胞供給貫通孔、301…容器、302…型、303…プレポリマー、304…ポリマー基板、305…グルー、306…膜状隔壁。