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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120226
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】制振建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220810BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20220810BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
E04H9/02 321
E04H9/02 301
F16F7/12
F16F7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021016997
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】壇 泰朗
(72)【発明者】
【氏名】青野 英志
(72)【発明者】
【氏名】一色 裕二
【テーマコード(参考)】
2E139
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC26
2E139AC33
2E139AC43
2E139BA02
2E139BA08
3J066AA26
3J066BA04
3J066BF01
3J066CA05
(57)【要約】
【課題】高い制振性能を得ることができる、制振建物を提供する。
【解決手段】制振建物1は、連層耐震壁31X、31Yが設けられる制振建物であって、連層耐震壁31X、31Yと同一面内に、連層耐震壁31X、31Yに隣接して設けられる隣接柱32と、連層耐震壁31X、31Yに接合され、隣接柱32を超えて延伸し、連層耐震壁31X、31Yとは隣接柱32を挟んだ反対側において固定されている梁体40X、40Yと、を備え、梁体40X、40Yは、隣接柱32を貫通するように設けられ、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32との間の区間に、当該区間に作用する変形のエネルギーを吸収するエネルギー吸収部39を備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連層耐震壁が設けられる制振建物であって、
前記連層耐震壁と同一面内に、前記連層耐震壁に隣接して設けられる隣接柱と、
前記連層耐震壁に接合され、前記隣接柱を超えて延伸し、前記連層耐震壁とは前記隣接柱を挟んだ反対側において固定されている梁体と、を備え、
前記梁体は、前記隣接柱を貫通するように設けられ、前記連層耐震壁と前記隣接柱との間の区間に、当該区間に作用する変形のエネルギーを吸収するエネルギー吸収部を備えていることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
前記連層耐震壁の横断面積は、前記隣接柱の断面積より大きいことを特徴とする請求項1に記載の制振建物。
【請求項3】
前記梁体の、前記隣接柱に対して前記連層耐震壁とは反対側に位置する端部は、他の柱とピン接合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の制振建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連層耐震壁が設けられる制振建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の耐振性能を高めるための手法の一つとして、連層耐震壁を用いたものがある。
例えば特許文献1には、間隔をあけて配設された連層耐震壁間に設けられた複数の境界梁と、境界梁に設けられた曲げ変形吸収ダンパーと、連層耐震壁に設けられた剪断変形吸収ダンパーと、を備える構成が開示されている。
また、特許文献2には、上部構造物の外周面における同一面内に離間して立設された複数の連層耐震壁と、複数の連層耐震壁同士を接合する複数の境界梁と、を備え、連層耐震壁の下端部は、下部構造物にピン支承されている構成が開示されている。
また、特許文献3には、同一面内に離間して立設された2つの連層耐震壁と、2つの連層耐震壁同士を接合する複数の境界梁と、を備え、各連層耐震壁は、その外側の下端部の一点において下部構造物に回動自在にピン支承され、各連層耐震壁の内側の下端部の他点と下部構造物との間には、エネルギー吸収部材が介設され、複数の境界梁のうちの少なくとも一つは、エネルギー吸収部材を備える構成が開示されている。
【0003】
例えば200~300mといった高さを有する超々高層建物においては、地震や風によって生じる揺れの周期が長周期化する。特に、風による揺れは、建物の高さに応じて指数関数的に大きくなる。このため、超々高層建物においても、連層耐震壁や境界梁を、より効果的に機能させることで、高い制振性能を実現することが望まれる。
ここで、上記の特許文献1~3においては、いずれも、連層耐震壁を複数枚設け、これら複数の連層耐震壁の間で変形エネルギーを吸収する構造となっている。例えば、連層耐震壁と、これに隣接する他の一般の柱との間においても、効率的に変形エネルギーを吸収できるのであれば、制振性能をより高めることができる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-328810号公報
【特許文献2】特許第4124777号公報
【特許文献3】特許第4167624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い制振性能を得ることができる、制振建物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、制振建物として、連層耐震壁と同一面内に、該連層耐震壁の両側に境界梁(梁体)を介して第1の隣接柱と、第2の隣接柱とを配置し、連層耐震壁の横断面積を各隣接柱より大きくすることで、地震荷重が作用した際には、連層耐震壁が心棒となり、当該連層耐震壁を挟んだ両側の第1、及び第2の隣接柱が其々相反する方向にせん断抵抗することで、連層耐震壁に加わる軸力を低減でき、優れた構造安全性が確保できる点に着眼して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の制振建物は、連層耐震壁が設けられる制振建物であって、前記連層耐震壁と同一面内に、前記連層耐震壁に隣接して設けられる隣接柱と、前記連層耐震壁に接合され、前記隣接柱を超えて延伸し、前記連層耐震壁とは前記隣接柱を挟んだ反対側において固定されている梁体と、を備え、前記梁体は、前記隣接柱を貫通するように設けられ、前記連層耐震壁と前記隣接柱との間の区間に、当該区間に作用する変形のエネルギーを吸収するエネルギー吸収部を備えていることを特徴とする。
このような構成によれば、連層耐震壁と、隣接柱と、連層耐震壁と隣接柱との間の区間に設けられたエネルギー吸収部を備えた梁体と、によって、地震発生時などに水平荷重が作用した際に、これに抵抗することができる制振架構を構成する。地震や風などによって作用する水平荷重により、連層耐震壁が隣接柱側に、あるいは隣接柱とは反対側に、傾くように変位しようとすると、梁体の、連層耐震壁と隣接柱との間の区間においては、連層耐震壁と隣接柱との相対変位によって、一方の側が上方向へ、他方の側が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。梁体においては、この区間にエネルギー吸収部を有していることで、変形のエネルギーが吸収され、連層耐震壁と隣接柱に生じる変形の減衰効果を高めることができる。
ここで、梁体が隣接柱を貰通して設けられ、かつ梁体は連層耐震壁とは隣接柱を挟んだ反対側において固定されている。これにより、梁体は、隣接柱以外の構造によっても支持されて、隣接柱側における固定度合いが高められる。このため、仮に隣接柱が連層耐震壁ほどの強度を有さない一般の柱であったとしても、水平荷重が作用した際の連層耐震壁の傾斜に伴う隣接柱の変形が抑制される。これにより、連層耐震壁と隣接柱とが相対変位しようとするため、エネルギー吸収部によって変形のエネルギーが効率的に吸収される。
したがって、制振建物において、高い制振性能を得ることが可能となる。
【0007】
本発明の一態様においては、本発明の制振建物は、前記連層耐震壁の横断面積は、前記隣接柱の断面積より大きい。
このような構成によれば、連層耐震壁が心柱のように機能し、地震や風などによって作用する水平荷重による建物各層の変形量を均一化し、制振建物内での局所的な変形増大を抑えることができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の制振建物は、前記梁体の、前記隣接柱に対して前記連層耐震壁とは反対側に位置する端部は、他の柱とピン接合されている。
このような構成によれば、隣接柱に対して連層耐震壁とは反対側に延びる梁体を、他の柱とピン接合することで、ピン接合部では曲げモーメントの負担が低減される。このため、他の柱を含む柱梁架構が負担する外荷重が連層耐震壁を含む制振架構側に伝達されるのを抑え、制振架構の制振性能を確保することができる。
また、隣接柱の変形性能を、他の柱を含む柱梁架構が拘束することが抑制され、制振架構の制振性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い制振性能を得ることができる、制振建物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る制振建物の構成を示す立面図である。
図2図1の制振建物の平断面図である。
図3図1の制振建物に設けられた連層耐震壁、隣接柱、境界梁、梁体を示す立面図である。
図4図3の連層耐震壁、隣接柱、境界梁、梁体を示す平面図である。
図5】本発明の実施形態の変形例に係る制振建物の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、連層耐震壁の両側に境界梁(梁体)を介して第1の隣接柱と、第2の隣接柱とを配置した制振建物である。連層耐震壁は壁柱として設け、その連層耐震壁は、両側に配置される各隣接柱に比べて、横断面積が大きく、連層耐震壁(壁柱)の両側が境界梁(梁体)を介して第1の隣接柱と、第2の隣接柱と接合されていることで、地震荷重が作用した際には、連層耐震壁が心棒となり、当該連層耐震壁を挟んだ両側の第1、及び第2の隣接柱が其々相反する方向にせん断抵抗することで、連層耐震壁に加わる軸力を低減でき、優れた構造安全性が確保可能となる。
以下、添付図面を参照して、本発明による制振建物を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る制振建物の構成を示す立面図を図1に示す。図2は、図1の制振建物の平断面図である。
図1図2に示されるように、制振建物1は、基礎構造たる下部構造10と、上部構造20と、を備えている。
図2に示されるように、この制振建物1は、全体として平面視矩形で、上方から見て水平方向に延びる第一方向Xに沿って形成された外壁面1aと、第一方向Xに直交して水平方向に延びる第二方向Yに沿って形成された外壁面1bと、を備えている。本実施形態において、制振建物1は、高層建物である。
【0012】
図1図2に示すように、下部構造10は、地表面Gfよりも下方の地盤G中に構築されている。下部構造10は、直接基礎、杭基礎等、適宜の形式の基礎構造によって、地盤G中に強固に支持されている。本実施形態において、下部構造10は、複数本の基礎杭11を有した杭基礎構造とされている。
上部構造20は、下部構造10の上方に設けられている。図2に示されるように、上部構造20の躯体21は、上部構造20の外周部に形成された柱梁架構22と、上部構造20の内周部に形成された制振架構部23と、を備えている。
柱梁架構22は、複数本の柱24と、複数本の梁25と、を有している。複数本の柱24は、第一方向X、及び第二方向Yにそれぞれ間隔をあけて配置されている。複数本の柱24は、それぞれ上下方向Zに延びている。複数本の柱24のうち、上部構造20の四隅の柱24C以外の他の柱24は、例えば鉄筋コンクリート造とされている。上部構造20の四隅に位置する柱24Cは、鉄骨造とされ、他の鉄筋コンクリート造の柱24よりも細く形成されている。複数本の梁25は、上下方向Zに間隔をあけて、上部構造20の各階に配置されている。各梁25は、例えば、鉄骨造とされている。各階において、複数本の梁25は、第一方向X、及び第二方向Yで互いに隣り合う柱24同士の間に架設されている。
【0013】
制振架構部23は、上部構造20の中央部に配置されている。制振架構部23は、上方から見て矩形状をなしている。制振架構部23は、第一方向Xに沿って形成された二つの制振架構30Xと、第二方向Yに沿って形成された二つの制振架構30Yと、を備えている。二つの制振架構30Xは、それぞれ、第二方向Yに直交し、第一方向Xを含む鉛直面に沿って形成されている。二つの制振架構30Yは、それぞれ、第一方向Xに直交し、第二方向Yを含む鉛直面に沿って形成されている。
制振架構30Xは、それぞれ、連層耐震壁31Xと、隣接柱32と、耐震壁間境界梁33Xと、境界梁34Xと、を備えて構成されている。本実施形態において、制振架構30Xは、それぞれ、二つの連層耐震壁31Xを備えている。
連層耐震壁31Xは、例えば鉄筋コンクリート造により形成されている。連層耐震壁31Xは、例えば、鉄骨ブレース構造によって形成してもよい。二つの連層耐震壁31Xは、第二方向Yに直交し、第一方向Xを含む同一鉛直面内に形成されている。二つの連層耐震壁31Xは、制振架構30Xにおいて、第一方向Xの中央部に、第一方向Xに間隔をあけて配置されている。
隣接柱32は、制振架構30Xの第一方向Xに沿った幅方向の両端部に配置されている。隣接柱32は、上方から見て制振架構部23の角部(四隅)に配置されている。隣接柱32は、第二方向Yに直交し、第一方向Xを含む二つの連層耐震壁31Xと同一鉛直面内に設けられている。隣接柱32は、例えば鉄筋コンクリート造により形成されている。隣接柱32は、二つの連層耐震壁31Xを挟んで互いに反対側に配置されている。隣接柱32は、それぞれ連層耐震壁31Xから第一方向Xに離間して設けられている。
本実施形態において、連層耐震壁31Xの第一方向Xにおける幅寸法W1xは、隣接柱32の第一方向Xにおける幅寸法W2xよりも大きく設定されている。本実施形態において、連層耐震壁31X、隣接柱32の第二方向Yにおける厚み寸法T1xは、同一に設定されている。このようにして、連層耐震壁31Xの横断面積(水平断面積)は、隣接柱32の横断面積より大きくなるように設定されている。
【0014】
図3は、図1の制振建物に設けられた連層耐震壁、隣接柱、境界梁、梁体を示す立面図である。
耐震壁間境界梁33Xは、連層耐震壁31Xどうしを接合する。境界梁34Xは、隣接柱32と、連層耐震壁31Xとを接合する。耐震壁間境界梁33X、境界梁34Xは、上下方向Zに間隔をあけて、例えば、上部構造20の各階に配置されている。
耐震壁間境界梁33Xは、二つの連層耐震壁31X同士の間に配置されている。本実施形態において、耐震壁間境界梁33Xは、連層耐震壁31Xを貫通して設けられ、連層耐震壁31Xに接合されている。耐震壁間境界梁33Xは、第一方向Xの両端部に設けられた鋼材35と、鋼材35間に設けられ、鋼材35よりも降伏点が低い、極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部37と、を備えている。耐震壁間境界梁33Xは、二つの連層耐震壁31Xが回転変形し、エネルギー吸収部37に設定された降伏点以上の応力が入力された場合に変形することで、変形エネルギーを吸収する。つまり、エネルギー吸収部37は、本実施形態においては低降伏点の履歴ダンパーとして実現されている。エネルギー吸収部37は、摩擦ダンパーなど、他の種類のダンパーであってよい。
【0015】
境界梁34Xは、連層耐震壁31Xと隣接柱32との間に配置されている。境界梁34Xは、第一方向Xに延び、その両端部が連層耐震壁31X、隣接柱32内に設けられている。耐震壁間境界梁33Xの端部と、境界梁34Xの、連層耐震壁31X側の端部とは、連層耐震壁31X内で、互いに接合連結されており、このように接合された耐震壁間境界梁33Xの端部と境界梁34Xの端部とが、連層耐震壁31Xを貫通するように設けられている。境界梁34Xは、第一方向Xの両端部に設けられた鋼材38と、鋼材38間に設けられ、鋼材38よりも降伏点が低い、極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部39と、を備えている。境界梁34Xは、連層耐震壁31X、隣接柱32が回転変形し、エネルギー吸収部39に設定された降伏点以上の応力が入力された場合に変形することで、変形エネルギーを吸収する。つまり、エネルギー吸収部39は、本実施形態においては低降伏点の履歴ダンパーとして実現されている。エネルギー吸収部39は、摩擦ダンパーなど、他の種類のダンパーであってよい。
耐震壁間境界梁33X、境界梁34Xの上方に配置される床スラブ8は、耐震壁間境界梁33X、境界梁34Xの周辺に配置された小梁(不図示)によって支持され、耐震壁間境界梁33X、境界梁34Xによって支持されていない。つまり、耐震壁間境界梁33X、境界梁34Xは、床スラブ8と分離され、隙間が設けられており、耐震壁間境界梁33X、境界梁34Xのせん断変形を床スラブ8が阻害しないように構成されている。
【0016】
図4は、図3の連層耐震壁、隣接柱、境界梁、梁体を示す平面図である。
図3図4に示されるように、隣接柱32内には、境界梁34Xの鋼材38の端部38mが設けられている。境界梁34Xの鋼材38の端部38mは、隣接柱32を貫通し、第一方向Xにおいて連層耐震壁31Xとは反対側の柱側面32fまで到達している。このようにして、境界梁34Xは隣接柱32に接合されている。
隣接柱32の柱側面32fには、隣接柱32の連層耐震壁31Xとは反対側に位置する梁部材42Xの一端42aが接続されている。梁部材42Xは、例えば鉄骨造により形成されている。梁部材42Xの一端42aは、隣接柱32を貫通する境界梁34Xの鋼材38の端部38mに剛接合されている。梁部材42Xは、第一方向Xに沿って延びている。梁部材42Xの他端(後に説明する梁体40Xの、隣接柱32に対して連層耐震壁31Xとは反対側に位置する端部)42bは、第二方向Yに沿って形成された外壁面1bに設けられた他の柱としての柱24に、ピン43(図1参照)を介してピン接合されている。
上記したような境界梁34Xと、梁部材42Xと、(耐震壁間境界梁33Xと、)により、梁体40Xが構成されている。梁体40Xは、連層耐震壁31Xに接合され、隣接柱32を貫通しつつこれを超えて延伸し、連層耐震壁31Xとは隣接柱32を挟んだ反対側において、柱24に固定されている。
【0017】
制振架構30Yは、それぞれ、連層耐震壁31Yと、隣接柱32と、耐震壁間境界梁33Yと、境界梁34Yと、を備えて構成されている。本実施形態において、制振架構30Yは、それぞれ、二つの連層耐震壁31Yを備えている。
連層耐震壁31Yは、例えば鉄筋コンクリート造により形成されている。連層耐震壁31Yは、例えば、鉄骨ブレース構造によって形成してもよい。二つの連層耐震壁31Yは、第一方向Xに直交し、第二方向Yを含む同一鉛直面内に形成されている。二つの連層耐震壁31Yは、制振架構30Yにおいて、第二方向Yの中央部に、第二方向Yに間隔をあけて配置されている。
隣接柱32は、制振架構30Yの第二方向Yに沿った幅方向の両端部に配置されている。隣接柱32は、上方から見て制振架構部23の角部(四隅)に配置されたものであり、制振架構30Xと共用されている。隣接柱32は、第一方向Xに直交し、第二方向Yを含む二つの連層耐震壁31Yと同一鉛直面内に設けられている。隣接柱32は、二つの連層耐震壁31Yを挟んで互いに反対側に配置されている。隣接柱32は、それぞれ連層耐震壁31Yから第二方向Yに離間して設けられている。
本実施形態において、連層耐震壁31Yの第二方向Yにおける幅寸法W1yは、隣接柱32の第二方向Yにおける幅寸法W2yよりも大きく設定されている。本実施形態において、連層耐震壁31Y、隣接柱32の第一方向Xにおける厚み寸法T1yは、同一に設定されている。このようにして、連層耐震壁31Yの横断面積(水平断面積)は、隣接柱32の横断面積より大きくなるように設定されている。
【0018】
耐震壁間境界梁33Yは、連層耐震壁31Yどうしを接合する。境界梁34Yは、隣接柱32と、連層耐震壁31Yとを接合する。耐震壁間境界梁33Y、境界梁34Yは、上下方向Zに間隔をあけて、例えば、上部構造20の各階に配置されている。
耐震壁間境界梁33Yは、二つの連層耐震壁31Y同士の間に配置されている。本実施形態において、耐震壁間境界梁33Yは、連層耐震壁31Yを貫通して設けられ、連層耐震壁31Yに接合されている。耐震壁間境界梁33Yは、第二方向Yの両端部に設けられた鋼材35と、鋼材35間に設けられ、鋼材35よりも降伏点が低い、極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部37と、を備えている。耐震壁間境界梁33Yは、二つの連層耐震壁31Yが回転変形し、エネルギー吸収部37に設定された降伏点以上の応力が入力された場合に変形することで、変形エネルギーを吸収する。つまり、エネルギー吸収部37は、本実施形態においては低降伏点の履歴ダンパーとして実現されている。エネルギー吸収部37は、摩擦ダンパーなど、他の種類のダンパーであってよい。
【0019】
境界梁34Yは、連層耐震壁31Yと隣接柱32との間に配置されている。境界梁34Yは、第二方向Yに延び、その両端部が連層耐震壁31Y、隣接柱32内に設けられている。耐震壁間境界梁33Yの端部と、境界梁34Yの、連層耐震壁31Y側の端部とは、連層耐震壁31Y内で、互いに接合連結されており、このように接合された耐震壁間境界梁33Yの端部と境界梁34Yの端部とが、連層耐震壁31Yを貫通するように設けられている。境界梁34Yは、第二方向Yの両端部に設けられた鋼材38と、鋼材38間に設けられ、鋼材38よりも降伏点が低い、極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部39と、を備えている。境界梁34Yは、連層耐震壁31Y、隣接柱32が回転変形し、エネルギー吸収部39に設定された降伏点以上の応力が入力された場合に変形することで、変形エネルギーを吸収する。つまり、エネルギー吸収部39は、本実施形態においては低降伏点の履歴ダンパーとして実現されている。エネルギー吸収部39は、摩擦ダンパーなど、他の種類のダンパーであってよい。
耐震壁間境界梁33Y、境界梁34Yの上方に配置される床スラブ8は、耐震壁間境界梁33Y、境界梁34Yの周辺に配置された小梁(不図示)によって支持され、耐震壁間境界梁33Y、境界梁34Yによって支持されていない。耐震壁間境界梁33Y、境界梁34Yは、床スラブ8と分離されており、耐震壁間境界梁33Y、境界梁34Yのせん断変形を床スラブ8が阻害しないように構成されている。
【0020】
隣接柱32内には、境界梁34Yの鋼材38の端部38nが設けられている。境界梁34Yの鋼材38の端部38mは、隣接柱32を貫通し、第二方向Yにおいて連層耐震壁31Yとは反対側の柱側面32gまで到達している。このようにして、境界梁34Yは隣接柱32に接合されている。
隣接柱32の柱側面32gには、隣接柱32の連層耐震壁31Yとは反対側に位置する梁部材42Yの一端42aが接続されている。梁部材42Yは、例えば鉄骨造により形成されている。梁部材42Yの一端42aは、隣接柱32を貫通する境界梁34Yの鋼材38の端部38nに剛接合されている。梁部材42Yは、第二方向Yに沿って延びている。梁部材42Yの他端(後に説明する梁体40Yの、隣接柱32に対して連層耐震壁31Yとは反対側に位置する端部)42bは、第一方向Xに沿って形成された外壁面1aに設けられた他の柱としての柱24に、ピン43(図1参照)を介してピン接合されている。
上記したような境界梁34Yと、梁部材42Yと、(耐震壁間境界梁33Yと、)により、梁体40Yが構成されている。梁体40Yは、連層耐震壁31Yに接合され、隣接柱32を貫通しつつこれを超えて延伸し、連層耐震壁31Yとは隣接柱32を挟んだ反対側において、柱24に固定されている。
【0021】
図2に示されるように、本実施形態における制振架構部23は、平面視したときに、8枚の連層耐震壁31X、31Yと4本の隣接柱32によって囲われた、コア架構となっている。この制振架構部23の内側には、内側梁27X、27Yが設けられている。内側梁27X、27Yは、例えば鉄筋コンクリート造により形成されている。内側梁27Xは、第一方向Xに延び、第一方向Xで対向する連層耐震壁31Y同士を接続している。内側梁27Yは、第二方向Yに延び、第二方向Yで対向する連層耐震壁31X同士を接続している。
【0022】
このような制振建物1においては、地震や風などにより水平荷重が作用すると、大きな横断面積(特に本実施形態においては大きな幅)を有している連層耐震壁31X、31Yが、心柱としての効果を奏する。すなわち、制振建物1の層間変形を抑えつつ、層ごとの変形量が均一となるように作用する。
また、地震や風などによって作用する水平荷重によって、例えば、連層耐震壁31X、31Yが隣接柱32側に傾くように変位しようとすると、図3に示すように、連層耐震壁31X、31Yにおいて隣接柱32側の側端部31sでは、当該側端部31sを下向きに押し込むような圧縮力F1が作用する。連層耐震壁31X、31Yの側端部31sは、梁体40X、40Y(を構成する境界梁34X、34Y)を介して隣接柱32に接合されている。このため、隣接柱32には、側端部31sに作用する圧縮力F1が伝達され、下向きの押込み力F2が作用する。
ここで、梁体40X、40Yが隣接柱32を貰通して設けられ、かつ梁体32は連層耐震壁31X、31Yとは隣接柱32を挟んだ反対側の端部42bにおいて固定されていることで、梁体40X、40Yは、隣接柱32以外にも、例えば当該端部42bが接合された柱24等の、他の構造によっても支持されて、隣接柱32側における固定度合いが高められる。このため、本実施形態のように隣接柱32が連層耐震壁31X、31Yほどの強度を有さない一般の柱であったとしても、水平荷重が作用した際の連層耐震壁31X、31Yの傾斜に伴う隣接柱32の変形が抑制される。また、二つが間隔をあけて設けられた連層耐震壁31X、31Yにおいては、これを一体とみたときにその両側が、境界梁34X、34Y(梁体40X、40Y)を介して第1の隣接柱32(例えば図1における右側の隣接柱)と、第2の隣接柱32(例えば図1における左側の隣接柱)と接合されていることで、地震荷重が作用した際には、連層耐震壁31X、31Yが心棒となり、当該連層耐震壁31X、31Yを挟んだ両側の第1、及び第2の隣接柱32が其々相反する方向にせん断抵抗することで、連層耐震壁31X、31Yに加わる軸力を低減でき、優れた構造安全性を確保できる。
これにより、梁体40X、40Yの隣接柱32側の部分においては、下向きの押込み力F2に抵抗する上向きの反力F3を発揮し、この反力F3が梁体40X、40Yを構成する境界梁34X、34Yを介して連層耐震壁31X、31Yの側端部31sに伝達される。
【0023】
このようにして、境界梁34X、34Yには、一方の端部が上方向へ、他方の端部が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。ここで、境界梁34X、34Yがエネルギー吸収部39を有しているため、これによって変形のエネルギーが吸収される。
連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32との間で伝達される力(応力)の上限を、境界梁34X、34Yに設定された降伏耐力によって決めることができる。設計段階において、境界梁34X、34Yの降伏耐力を調整することによって、連層耐震壁31X、31Yの制震性能を適切に設定することが可能となる。
【0024】
上述したような制振建物1は、連層耐震壁31X、31Yが設けられる制振建物1であって、連層耐震壁31X、31Yと同一面内に、連層耐震壁31X、31Yに隣接して設けられる隣接柱32と、連層耐震壁31X、31Yに接合され、隣接柱32を超えて延伸し、連層耐震壁31X、31Yとは隣接柱32を挟んだ反対側において固定されている梁体40X、40Yと、を備え、梁体40X、40Yは、隣接柱32を貫通するように設けられ、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32との間の区間に、当該区間に作用する変形のエネルギーを吸収するエネルギー吸収部39を備えている。
このような構成によれば、連層耐震壁31X、31Yと、隣接柱32と、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32との間の区間に設けられたエネルギー吸収部39を備えた梁体40X、40Yと、によって、地震発生時などに水平荷重が作用した際に、これに抵抗することができる制振架構30X、30Yを構成する。地震や風などによって作用する水平荷重により、連層耐震壁31X、31Yが隣接柱32側に、あるいは隣接柱32とは反対側に、傾くように変位しようとすると、梁体40X、40Yの、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32との間の区間においては、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32との相対変位によって、一方の側が上方向へ、他方の側が下方向へと、互いに異なる方向への力が作用する。梁体40X、40Yにおいては、この区間にエネルギー吸収部39を有していることで、変形のエネルギーが吸収され、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32に生じる変形の減衰効果を高めることができる。
ここで、梁体40X、40Yが隣接柱32を貰通して設けられ、かつ梁体40X、40Yは連層耐震壁31X、31Yとは隣接柱32を挟んだ反対側において固定されている。これにより、梁体40X、40Yは、隣接柱32以外の構造によっても支持されて、隣接柱32側における固定度合いが高められる。このため、仮に隣接柱32が連層耐震壁31X、31Yと同程度の剛性、及び強度を有さず連層耐震壁31X、31Yより横断面積が小さく、柱に壁が接合されていない一般的な柱であったとしても、梁体40X、40Yはと隣接柱32との固定度合いを高くすることができる。よって、水平荷重が作用した際には、連層耐震壁31X、31Yの傾斜に伴う隣接柱32の変形が抑制される。これにより、連層耐震壁31X、31Yと隣接柱32とが相対変位しようとするため、エネルギー吸収部39によって変形のエネルギーが効率的に吸収される。
したがって、制振建物1において、高い制振性能を得ることが可能となる。
【0025】
また、連層耐震壁31X、31Yの横断面積は、隣接柱32の断面積より大きい。
このような構成によれば、連層耐震壁31X、31Yが心柱のように機能し、地震や風などによって作用する水平荷重による、建物各層の変形量を均一化し、制振建物1内での局所的な変形増大を抑えることができる。
【0026】
また、梁体40X、40Yの、隣接柱32に対して連層耐震壁31X、31Yとは反対側に位置する他端42bは、他の柱24とピン接合されている。
このような構成によれば、隣接柱32に対して連層耐震壁31X、31Yとは反対側に延びる梁体40X、40Yを、他の柱24とピン接合することで、ピン接合部では曲げモーメントの負担が低減される。このため、他の柱を含む柱梁架構が負担する外荷重が連層耐震壁31X、31Yを含む制振架構30X、30Y側に伝達されるのを抑え、制振架構30X、30Yの制振性能を確保することができる。
また、隣接柱32の変形性能を、他の柱24を含む柱梁架構22が拘束することが抑制され、制振架構30X、30Yの制振性能を確保することができる。
【0027】
(実施形態の変形例)
なお、本発明の制振建物は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、制振架構30X、30Yは、それぞれ二つの連層耐震壁31X、31Yを備えるようにしたが、これに限られない。例えば、図5に示すように、制振架構30X、30Yは、中央部に一つのみの連層耐震壁31X、31Yを備え、その両側に、隣接柱32と、梁体40X、40Yと、を備えるようにしても良い。
【0028】
(その他の変形例)
例えば、上記実施形態では、連層耐震壁31Y、隣接柱32の第一方向Xにおける厚み寸法T1yは同一となっており、連層耐震壁31X、隣接柱32の第二方向Yにおける厚み寸法T1xも同一となっていたが、これに限られない。連層耐震壁31Y、隣接柱32の第一方向Xにおける厚み寸法T1yは、互いに異なっていてもよいし、連層耐震壁31X、隣接柱32の第二方向Yにおける厚み寸法T1xも、互いに異なっていてもよい。
また、梁体40X、40Yは、上部構造20の各階に配置するとは限らず、上下方向Zに適宜間隔をあけて配置してもよい。
【0029】
また、上記実施形態においては、制振架構部23は、上方から見て矩形状をなすようにしたが、これに限らない。制振架構部23は、連層耐震壁31Xと、連層耐震壁31Yとを、上方から見てH型状、はしご状等、適宜他の配置で構成してもよい。また、連層耐震壁31Xと、連層耐震壁31Yとを組み合わせて配置せず、制振建物1内で互いに離間した位置に配置してもよい。
また、連層耐震壁31X、31Yは、制振建物1の外壁面1a、1bに沿って配置するようにしてもよい。ただし、連層耐震壁31X、31Yは、建物の外周部より建物中央部に設置した方が、心柱としても荷重負担能力、及び変形抑止効果を発揮することができるため、上記実施形態のように建物中央部に設置するのが望ましい。
上記の実施形態では、連層耐震壁31X、31Yは建物の地上1階から最上階まで連続して設けられているが、地上階の下層階から特定の中間階まで設定されている場合であっても、地震荷重に対する変形を低減することが可能である。
また、上記の実施形態では、全ての梁体40X、40Yにおいて、その端部42bが柱24にピン接合されていたが、これに限られない。十分な制振効果が得られるようであれば、一部の梁体40X、40Yの端部42bのみが、ピン接合されるように構成されていてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 制振建物 39 エネルギー吸収部
31X、31Y 連層耐震壁 40X、40Y 梁体
32X、32Y 隣接柱(第1の隣接柱、第2の隣接柱)
42b 他端(端部)
図1
図2
図3
図4
図5