(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120236
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】絶縁抵抗低下検出装置および絶縁抵抗低下検出装置の故障診断方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
G01R27/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017008
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】上島 鷹之
【テーマコード(参考)】
2G028
【Fターム(参考)】
2G028AA01
2G028CG03
2G028DH06
2G028FK01
2G028FK08
2G028MS03
(57)【要約】
【課題】絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知する。
【解決手段】絶縁抵抗低下検出装置は、車両のフレームと車両に搭載される高電圧回路との間の絶縁抵抗の低下を検出する。絶縁抵抗低下検出装置は、コントローラと、所定の周期でパルスを生成するパルス生成器と、パルス生成器とフレームとの間に設けられる検出抵抗と、検出抵抗とフレームとの間の測定ノードに接続される漏電抵抗と、漏電抵抗とグランドとの間を遮断するオフ状態または漏電抵抗とグランドとの間を接続するオン状態に制御されるスイッチと、を備える。そして、コントローラは、スイッチがオフ状態であるときの測定ノードの電圧に基づいて絶縁抵抗の抵抗値を検出し、検出した抵抗値およびスイッチがオン状態であるときの測定ノードの電圧に基づいて、絶縁抵抗低下検出装置が正常であるか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフレームと前記車両に搭載される高電圧回路との間の絶縁抵抗の低下を検出する絶縁抵抗低下検出装置であって、
コントローラと、
所定の周期でパルスを生成するパルス生成器と、
前記パルス生成器と前記フレームとの間に設けられる検出抵抗と、
前記検出抵抗と前記フレームとの間の測定ノードに接続される漏電抵抗と、
前記漏電抵抗とグランドとの間を遮断するオフ状態または前記漏電抵抗とグランドとの間を接続するオン状態に制御されるスイッチと、を備え、
前記コントローラは、
前記スイッチがオフ状態であるときの前記測定ノードの電圧に基づいて前記絶縁抵抗の抵抗値を検出し、
検出した抵抗値および前記スイッチがオン状態であるときの前記測定ノードの電圧に基づいて、当該絶縁抵抗低下検出装置が正常であるか否かを判定する
ことを特徴とする絶縁抵抗低下検出装置。
【請求項2】
当該絶縁抵抗低下検出装置が正常であり且つ前記スイッチがオン状態であるときの、前記絶縁抵抗の抵抗値と前記測定ノードの電圧に基づいて得られる評価値との対応関係を表す特性グラフが予め作成されており、
前記コントローラは、
前記スイッチがオフ状態であるときの前記測定ノードの電圧に基づいて前記絶縁抵抗の抵抗値を検出し、
検出した抵抗値に対応する評価値を、前記特性グラフを利用して取得し、
前記特性グラフを利用して取得した評価値と、前記スイッチがオン状態であるときの前記測定ノードの電圧に基づいて得られる評価値との差分が、前記特性グラフに対して予め設定された閾値範囲内であれば、当該絶縁抵抗低下検出装置が正常であると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の絶縁抵抗低下検出装置。
【請求項3】
前記コントローラは、当該絶縁抵抗低下検出装置が正常であると判定したときに、前記絶縁抵抗の抵抗値が所定の閾値以下に低下しているか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁抵抗低下検出装置。
【請求項4】
車両のフレームと前記車両に搭載される高電圧回路との間の絶縁抵抗の低下を検出する絶縁抵抗低下検出装置の故障を診断する方法であって、
前記絶縁抵抗低下検出装置は、所定の周期でパルスを生成するパルス生成器と、前記パルス生成器と前記フレームとの間に設けられる検出抵抗と、前記検出抵抗と前記フレームとの間の測定ノードに接続される漏電抵抗と、前記漏電抵抗とグランドとの間を遮断するオフ状態または前記漏電抵抗とグランドとの間を接続するオン状態に制御されるスイッチと、を備え、
前記スイッチがオフ状態であるときの前記測定ノードの電圧に基づいて前記絶縁抵抗の抵抗値を検出し、
検出した抵抗値および前記スイッチがオン状態であるときの前記測定ノードの電圧に基づいて、当該絶縁抵抗低下検出装置が正常であるか否かを判定する
ことを特徴とする絶縁抵抗低下検出装置の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される高電圧回路と車両フレームとの間の絶縁抵抗の低下を検出する絶縁抵抗低下検出装置および絶縁抵抗低下検出装置の故障診断方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電気回路は、多くのケースにおいて、その車両のボディ(以下、車両フレーム)から電気的に絶縁される。例えば、燃料電池車には、燃料電池セル、DC/DCコンバータおよび負荷を含む高電圧回路が搭載される。この場合、この高電圧回路は、車両フレームから絶縁される。また、このような車両は、絶縁抵抗の低下を検出するための絶縁抵抗低下検出装置を備える。なお、絶縁抵抗低下検出装置は、漏電検出装置と呼ばれることもある。
【0003】
絶縁抵抗低下検出装置は、例えば、パルス発生器、検出抵抗、デカップリングコンデンサ、コントローラを備える。この場合、パルス発生器により生成されるパルス信号は、検出抵抗、デカップリングコンデンサ、および絶縁抵抗を介して、車両に搭載される高電圧回路のグランドまで伝達される。そして、コントローラは、検出抵抗を利用してパルス信号の波高値を測定し、その波高値に基づいて絶縁抵抗が正常であるか否かを判定する。
【0004】
絶縁抵抗低下検出装置は、自己診断機能を備えることがある。自己診断機能は、絶縁抵抗低下検出装置が正常に動作しているか否かを判定する。例えば、自己診断時には、擬似的な漏電状態が引き起こされる。そして、コントローラは、擬似的な漏電状態においてパルス信号の波高値を測定し、その波高値に基づいて絶縁抵抗低下検出装置が正常に動作しているか否かを判定する。
【0005】
なお、自己診断を行うことが可能な絶縁抵抗低下検出器は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した自己診断機能は、擬似的な漏電状態を発生させながらパルス信号の波高値を測定することで、絶縁抵抗低下検出装置を診断する。すなわち、自己診断においては、車両フレームと高電圧回路との間の絶縁抵抗が利用される。ここで、絶縁抵抗の抵抗値は、環境に応じて変化し得る。このため、絶縁抵抗の抵抗値の変化を考慮して自己診断を行う場合、絶縁抵抗の抵抗値の変化に対応するマージンが設定されるので、絶縁抵抗低下検出装置が正常に動作しているか否かを判定するための閾値範囲が広くなってしまう。そして、この閾値範囲が広くなると、絶縁抵抗低下検出装置の故障の予兆または軽微な故障を検知することは困難である。すなわち、従来の技術では、絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知することは困難である。
【0008】
本発明の1つの側面に係る目的は、絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様に係わる絶縁抵抗低下検出装置は、車両のフレームと車両に搭載される高電圧回路との間の絶縁抵抗の低下を検出する。この絶縁抵抗低下検出装置は、コントローラと、所定の周期でパルスを生成するパルス生成器と、パルス生成器とフレームとの間に設けられる検出抵抗と、検出抵抗とフレームとの間の測定ノードに接続される漏電抵抗と、漏電抵抗とグランドとの間を遮断するオフ状態または漏電抵抗とグランドとの間を接続するオン状態に制御されるスイッチと、を備える。そして、コントローラは、スイッチがオフ状態であるときの測定ノードの電圧に基づいて絶縁抵抗の抵抗値を検出し、検出した抵抗値およびスイッチがオン状態であるときの測定ノードの電圧に基づいて、絶縁抵抗低下検出装置が正常であるか否かを判定する。
【0010】
このように、絶縁抵抗低下検出装置は、自己診断の前に絶縁抵抗の抵抗値を検出する。そして、絶縁抵抗の抵抗値を利用して自己診断が行われる。よって、絶縁抵抗の抵抗値が変動する場合であっても、現在の抵抗値に基づいて自己診断を行うことができる。したがって、絶縁抵抗低下検出装置の故障の予兆または軽微な故障を検知できる。すなわち、本発明の実施形態によれば、絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知することができる。
【0011】
上述の態様において、絶縁抵抗低下検出装置が正常であり且つスイッチがオン状態であるときの、絶縁抵抗の抵抗値と測定ノードの電圧に基づいて得られる評価値との対応関係を表す特性グラフを予め作成しておき、コントローラは、スイッチがオフ状態であるときの測定ノードの電圧に基づいて絶縁抵抗の抵抗値を検出し、検出した抵抗値に対応する評価値を、特性グラフを利用して取得し、特性グラフを利用して取得した評価値と、スイッチがオン状態であるときの測定ノードの電圧に基づいて得られる評価値との差分が、特性グラフに対して予め設定された閾値範囲内であれば、絶縁抵抗低下検出装置が正常であると判定してもよい。
【0012】
この構成によれば、自己診断の前に検出する絶縁抵抗の抵抗値に対応する評価値が特定され、その評価値に対して設定される閾値範囲を利用して自己診断が行われる。よって、閾値範囲を狭くできるので、絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知することができる。
【発明の効果】
【0013】
上述の態様によれば、絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係わる絶縁抵抗低下検出装置の一例を示す図である。
【
図2】電圧センサにより測定される電圧波形の一例を示す図である。
【
図3】絶縁抵抗の抵抗値に対する評価値の変化を表す図である。
【
図4】自己診断および漏電判定の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係わる自己診断および漏電判定の一例を示す図である。
【
図6】自己診断および漏電判定の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係わる絶縁抵抗低下検出装置の一例を示す。本発明の実施形態に係わる絶縁抵抗低下検出装置30は、車両1に搭載され、高電圧回路10と車両フレーム20との間の絶縁抵抗Riの低下を検出する。車両1は、特に限定されるものではないが、例えば、フォークリフト等の産業車両である。ただし、車両1は、産業車両に限定されるものではなく、乗用車等であってもよい。また、車両1は、特に限定されるものではないが、例えば、燃料電池を搭載する燃料電池車である。ただし、車両1は、燃料電池車に限定されるものではない。
【0016】
高電圧回路10は、燃料電池セル11、DC/DCコンバータ12、および負荷13を備える。なお、高電圧回路10は、
図1に示していない他の回路または機能を備えてもよい。
【0017】
燃料電池セル11は、燃料ガス(例えば、水素)を利用して電力を生成する。DC/DCコンバータ12は、燃料電池セル11の出力電圧を昇圧および/または降圧する。負荷13は、例えば、車両1の走行用モータであり、DC/DCコンバータ12を介して直流電圧が印加される。すなわち、負荷13は、燃料電池セル11により生成される電力で駆動される。
【0018】
高電圧回路10は、車両フレーム20に対して電気的に絶縁されている。すなわち、高電圧回路10と車両フレーム20との間に絶縁抵抗Riが設けられている。ここで、絶縁抵抗Riの最小抵抗値は、規格等により決められている。したがって、絶縁抵抗低下検出装置30は、絶縁抵抗Riの抵抗値の低下をモニタする。
【0019】
絶縁抵抗低下検出装置30は、パルス生成器31、検出抵抗Rd、デカップリングコンデンサC、漏電抵抗Rx、スイッチSW、電圧センサ32、およびコントローラ33を備える。なお、絶縁抵抗低下検出装置30は、
図1に示していない他の回路または機能を備えてもよい。
【0020】
パルス生成器31は、所定の周期Tで所定の波高値を有するパルスを生成する。周期Tは、パルス列がデカップリングコンデンサCを通過できるように設定される。また、パルスの波高値は、電源電圧Vccに比例するものとする。なお、パルスは、特に限定されるものではないが、例えば、矩形波である。この場合、パルスのデューティは、特に限定されるものではない。そして、パルス生成器31により生成されるパルスは、検出抵抗Rdの一方の端子に与えられる。
【0021】
検出抵抗Rdの他方の端子(出力側端子)は、デカップリングコンデンサCの一方の端子に電気的に接続される。そして、デカップリングコンデンサCの他方の端子は、車両フレーム20に電気的に接続される。デカップリングコンデンサCは、直流電圧成分を除去するために設けられている。
【0022】
漏電抵抗Rxの一方の端子は、検出抵抗Rdの出力側端子に電気的に接続される。漏電抵抗Rxの他方の端子は、スイッチSWを介してグランドに電気的に接続される。すなわち、検出抵抗Rdの出力側端子とグランドとの間に、漏電抵抗RxおよびスイッチSWが直列に設けられる。スイッチSWの状態は、コントローラ33により制御される。具体的には、スイッチSWは、コントローラ33により、漏電抵抗Rxとグランドとの間を遮断するオフ状態または漏電抵抗Rxとグランドとの間を接続するオン状態に制御される。
【0023】
電圧センサ32は、検出抵抗Rdの出力側端子の電圧を測定する。そして、電圧センサ32により測定される電圧値は、コントローラ33に送られる。なお、以下の記載では、電圧センサ32により電圧が測定されるノードを「測定ノードM」と呼ぶことがある。
【0024】
コントローラ33は、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。また、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常に動作しているか否かを判定する。即ち、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30の自己診断を行う。なお、コントローラ33は、例えば、プロセッサおよびメモリにより実現される。この場合、メモリには、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出するためのプログラムおよび絶縁抵抗低下検出装置30を診断するための自己診断プログラムが格納されている。そして、プロセッサがこれらのプログラムを実行することにより、絶縁抵抗Riの抵抗値が検出され、また、絶縁抵抗低下検出装置30の自己診断が実現される。
【0025】
上記構成の車両1において、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出するときは、コントローラ33は、スイッチSWをオフ状態に制御する。すなわち、漏電抵抗Rxとグランドとの間が遮断される。また、コントローラ33は、パルス生成器31に所定の周期Tでパルスを生成させる。そうすると、パルス生成器31により生成されるパルス列は、検出抵抗RdおよびデカップリングコンデンサCを介して車両フレーム20に与えられる。さらに、このパルス列は、絶縁抵抗Riを介して高電圧回路10に到達し、高電圧回路10のグランドで終端される。
【0026】
このとき、電圧センサ32は、測定ノードMの電圧を測定する。そして、コントローラ33は、電圧センサ32により測定される電圧値を所定のサンプリング間隔で取得する。サンプリング間隔は、パルスの周期Tに対して十分に短いものとする。
【0027】
図2は、電圧センサ32により測定される電圧波形の一例を示す。この実施例では、
図2(a)に示すように、測定ノードMに現れるパルスの波高値はV1である。波高値V1は、電源電圧Vccを検出抵抗Rdおよび絶縁抵抗Riで分圧することにより得られる電圧に比例する。ここで、絶縁抵抗Riの抵抗値は、予め決められた所定の最小抵抗値以上であることが要求される。したがって、コントローラ33には、絶縁抵抗Riの抵抗値がこの最小抵抗値であると仮定したときに測定ノードMにおいて得られる波高値を表す閾値Vthが設定される。そして、コントローラ33は、測定により得られる波高値V1と閾値Vthとを比較することにより、絶縁抵抗Riの状態を判定する。
図2(a)に示す例では、測定により得られる波高値V1が閾値Vthより高い。この場合、コントローラ33は、絶縁抵抗Riが正常であると判定する。すなわち、漏電が発生していないと判定される。
【0028】
図2(b)に示す例では、絶縁抵抗Riの抵抗値が低下している。この場合、高電圧回路10に含まれるインダクタンス成分の影響が支配的となり、電圧波形がなまることになる。このため、
図2(a)に示すケースと比較して、測定ノードMに現れるパルスの波高値が閾値Vthを超えるタイミングは遅くなる。そこで、測定ノードMに現れるパルスの波高値と閾値Vthとの比較に基づいて絶縁抵抗Riの抵抗値の低下をモニタする場合には、パルスが印可された時から所定時間tが経過したときに2つの電圧を比較することが好ましい。具体的には、パルスが印可された時から所定時間tが経過したときに測定ノードMに現れるパルスの波高値V2が閾値thより低ければ、コントローラ33は、絶縁抵抗Riが低下していると判定する。即ち、漏電が発生していると判定される。なお、パルスの立ち上がり時の電圧は、Vcc*Ri/(Rd+Ri)で表される。よって、例えば、絶縁抵抗50kΩを閾値にした場合は、Vth=Vcc*50kΩ/(Rd+50kΩ)とすることで閾値Vthを設定することが可能である。
【0029】
なお、
図2に示す例では、コントローラ33は、測定ノードMに現れるパルスの波高値を取得し、その波高値に基づいて絶縁抵抗Riの状態を判定するが、本発明はこの構成に限定されるものではない。たとえば、コントローラ33は、測定ノードMに現れる電圧値の積算値に基づいて絶縁抵抗Riの状態を判定してもよい。この場合、コントローラ33は、測定ノードMに現れる電圧値を所定の測定期間にわたって所定のサンプリング間隔で繰り返し取得し、このサンプリング動作により得られる複数個の電圧値の総和を計算することで電圧積算値を得る。そして、コントローラ33は、この電圧積算値に基づいて絶縁抵抗Riの状態を判定する。
【0030】
このように、測定ノードMに現れるパルスの波高値、又は、測定ノードMに現れる電圧の積算値は、絶縁抵抗Riの抵抗値に依存する。よって、波高値または電圧積算値から絶縁抵抗Riの抵抗値を計算することが可能である。なお、波高値および電圧積算値は、それぞれ測定ノードMの電圧に基づいて得られる評価値の一例である。以下の記載では、絶縁抵抗低下検出装置30が電圧積算値を利用して抵抗検出および自己診断を行うが、本発明はこの構成に限定されるものではない。すなわち、絶縁抵抗低下検出装置30は、測定ノードMの電圧に基づいて抵抗検出および自己診断を行うことができる。
【0031】
図3は、絶縁抵抗Riの抵抗値に対する評価値の変化を表す。なお、以下の記載では、評価値は、測定ノードMに現れる電圧の積算値である。
【0032】
図3(a)は、スイッチSWがオフ状態に制御されているときの、絶縁抵抗Riの抵抗値と測定ノードMの電圧の積算値との対応関係を表す。即ち、
図3(a)に示す特性グラフG1は、擬似的な漏電が引き起こされてない状態における、絶縁抵抗Riの抵抗値に対する電圧積算値を表す。なお、特性グラフG1は、例えば、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であることが検証されているときにスイッチSWをオフ状態に保持し、絶縁抵抗Riの抵抗値を変えながら測定ノードMの電圧をサンプリングすることで予め作成される。そして、特性グラフG1は、コントローラ33に保存される。
【0033】
コントローラ33は、特性グラフG1を利用して絶縁抵抗Riの抵抗値を検出することができる。具体的には、コントローラ33は、スイッチSWをオフ状態に制御しながら電圧積算値を計算する。そして、コントローラ33は、計算した電圧積算値で特性グラフG1を参照することで、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。
【0034】
絶縁抵抗低下検出装置30の自己診断を行うときは、コントローラ33は、スイッチSWをオン状態に制御する。すなわち、漏電抵抗Rxがグランドに接続され、擬似的な漏電が引き起こされる。また、コントローラ33は、パルス生成器31に所定の周期Tでパルスを生成させる。そして、コントローラ33は、測定ノードMの電圧を測定し、電圧積算値を計算する。このとき、測定ノードMは、並列に設けられた絶縁抵抗Riおよび漏電抵抗Rxによりグランドに接続される。したがって、自己診断時に得られる電圧積算値は、基本的に、絶縁抵抗Riの抵抗値の検出時に得られる電圧積算値より小さくなる。
【0035】
図3(b)は、スイッチSWがオン状態に制御されているときの、絶縁抵抗Riの抵抗値と測定ノードMの電圧の積算値との対応関係を表す。即ち、
図3(b)に示す特性グラフG2は、擬似的な漏電が引き起こされている状態における、絶縁抵抗Riの抵抗値に対する電圧積算値を表す。なお、特性グラフG2は、例えば、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であることが検証されているときにスイッチSWをオン状態に保持し、絶縁抵抗Riの抵抗値を変えながら測定ノードMの電圧をサンプリングすることで予め作成される。そして、特性グラフG2は、コントローラ33に保存される。
【0036】
コントローラ33は、特性グラフG2を利用して絶縁抵抗低下検出装置30が正常であるか否かを診断することができる。具体的には、コントローラ33は、スイッチSWをオン状態に制御しながら測定ノードMの電圧を測定して電圧積算値を計算する。ここで、絶縁抵抗低下検出装置30が正常である場合、計算した電圧積算値は、特性グラフG2により表される電圧積算値に近いはずである。したがって、計算した電圧積算値が、特性グラフG2により表される電圧積算値に対して所定の範囲内で検出されれば、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であると判定する。これに対して、計算した電圧積算値が上記範囲から外れていれば、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が故障していると判定する。
【0037】
図4は、自己診断および漏電判定の一例を示す。この例では、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30の自己診断を行った後に、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。
【0038】
すなわち、
図4(a)に示すS1~S2において、コントローラ33は、自己診断を行う。このとき、コントローラ33は、測定ノードMの電圧の積算値が特性グラフG2に対して設定される所定の閾値範囲に入っているか否かを判定する。ただし、この時点で、絶縁抵抗Riの抵抗値は未知である。このため、この方法では、電圧積算値が特性グラフG2に近いか否かを判定するための閾値範囲は、
図4(b)に示すように、絶縁抵抗Riの抵抗値が取り得る全領域をカバーするように設定される。そして、自己診断において絶縁抵抗低下検出装置30が正常であると判定すると、コントローラ33は、S3において、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。
【0039】
このように、
図4に示す手順では、電圧積算値が特性グラフG2に近いか否かを判定するための閾値範囲が広くなってしまう。このため、自己診断の信頼性が低くなる。たとえば、測定により得られた電圧積算値が12000であるものとする。この場合、この電圧積算値は閾値範囲内に入っているので、判定結果は「正常」である。このとき、絶縁抵抗Riの抵抗値が150Ωであったものとすると、電圧積算値と特性グラフG2との差分D1は十分に小さいので、判定結果の信頼性は高い。ところが、例えば、絶縁抵抗Riの抵抗値が800Ωであったものとすると、電圧積算値と特性グラフG2との差分D2は比較的大きく、判定結果の信頼性は低い。したがって、
図4に示す手順では、絶縁抵抗低下検出装置30の故障の予兆または軽微な故障を検知できないことがある。
【0040】
なお、絶縁抵抗Riの抵抗値は、温度に依存して変化するだけでなく、雨または雪などより絶縁抵抗Riに水分が付着すると、大きく変動することがある。また、絶縁抵抗低下検出装置30の故障の予兆または軽微な故障としては、特に限定されるものではないが、例えば、電圧センサ32の出力信号を増幅するアンプの利得の変動などが想定される。
【0041】
図5は、本発明の実施形態に係わる自己診断および漏電判定の一例を示す。本発明の実施形態においては、コントローラ33は、
図5(a)に示すフローチャートに従って自己診断および漏電判定を行う。なお、この実施例では、
図3(a)に示す特性グラフG1および
図3(b)に示す特性グラフG2が予め作成され、コントローラ33が備えるメモリに保存されているものとする。
【0042】
S11において、コントローラ33は、絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。このとき、コントローラ33は、スイッチSWをオフ状態に制御すると共に、パルス生成器31にパルスを生成させる。続いて、コントローラ33は、測定ノードMの電圧を測定することで電圧積算値を計算する。そして、コントローラ33は、この電圧積算値で
図3(a)に示す特性グラフG1を参照することで絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。
【0043】
S12~S13において、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30の自己診断を行う。このとき、コントローラ33は、スイッチSWをオン状態に制御する。即ち、擬似的な漏電状態を発生させる。また、コントローラ33は、パルス生成器31にパルスを生成させる。続いて、コントローラ33は、測定ノードMの電圧を測定することで電圧積算値を計算する。さらに、コントローラ33は、この電圧積算値が
図3(b)に示す特性グラフG2に近いか否かを判定する。ここで、本発明の実施形態においては、
図5(b)に示すように、電圧積算値が特性グラフG2に近いか否かを判定するための閾値範囲が設定されている。
【0044】
本発明の実施形態において設定される閾値範囲は、
図4に示すケースで設定される閾値範囲よりも狭い。また、閾値範囲の幅は、例えば、特性グラフG2が表す電圧積算値に基づいて設定される。一例としては、閾値範囲の幅は、特性グラフG2が表す電圧積算値の6パーセントである。この場合、閾値範囲は「特性グラフG2が表す電圧積算値±3パーセント」で表される。したがって、例えば、特性グラフG2が「抵抗値=500」に対して「電圧積算値=13000」を表すものとすると、「抵抗値=500」に対する閾値範囲は「13000±390」である。また、特性グラフG2が「抵抗値=100」に対して「電圧積算値=12000」を表すものとすると、「抵抗値=100」に対する閾値範囲は「12000±360」である。このように、絶縁抵抗Riの抵抗値に対して対応する閾値範囲が設定される。或いは、閾値範囲の幅は、絶縁抵抗Riの抵抗値に依存しない固定値であってもよい。この場合、閾値範囲は、例えば「特性グラフG2が表す電圧積算値±300」に設定される。
【0045】
そして、コントローラ33は、S11で検出した抵抗値および
図5(b)に示す閾値範囲を利用して、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であるか否かを判定する。具体的には、S12で算出した電圧積算値がS11で検出した抵抗値に対応する閾値範囲内に入っていれば、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であると判定する。これに対して、S12で算出した電圧積算値がS11で検出した抵抗値に対応する閾値範囲から外れていれば、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常に動作していないと判定する。
【0046】
絶縁抵抗低下検出装置30が正常であると判定したときは、コントローラ33は、S14において、漏電判定を行う。具体的には、S11で検出した絶縁抵抗Riの抵抗値が所定の最小抵抗値以上であれば、漏電が発生していないと判定される。一方、S11で検出した絶縁抵抗Riの抵抗値が所定の最小抵抗値より小さいときは、漏電が発生していると判定される。なお、絶縁抵抗低下検出装置30が正常に動作していないと判定したときには、コントローラ33は漏電判定を行う必要はない。この場合、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常に動作していないことを表すアラームを出力してもよい。
【0047】
図6は、自己診断および漏電判定の実施例を示す。この実施例では、
図6に示す特性グラフG2が作成されているものとする。
【0048】
特性グラフG2は、絶縁抵抗Riの抵抗値の関数なので、下記(1)式で表される。関数Fは、例えば、測定により予め求められる。また、閾値範囲は、下記(2)式に示すように、特性グラフG2に対して「±3パーセント」であるものとする。
特性グラフ:G2=F(Ri)・・・(1)
閾値範囲:0.97×G2~1.03×G2・・・(2)
【0049】
ケース1(絶縁抵抗Riの抵抗値=600オーム、電圧積算値:13500)
ケース1は、
図6に示す判定点E1に相当する。ここで、(1)式に「Ri=600」を与え、その結果を(2)式に与えることで、絶縁抵抗Riの抵抗値に対応する閾値範囲が設定される。そうすると、判定点E1は閾値範囲内に入っているので、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であると判定する。また、漏電の有無を判定するための最小抵抗値が500オームであるものとする。この場合、絶縁抵抗Riの抵抗値は最小抵抗値より大きいので、漏電が発生していないと判定される。
【0050】
ケース2(絶縁抵抗Riの抵抗値=600オーム、電圧積算値:12000)
ケース2は、
図6に示す判定点E2に相当する。閾値範囲は、ケース1およびケース2において同じである。そうすると、判定点E2は閾値範囲内に入っていないので、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常に動作していないと判定する。この場合、コントローラ33は、漏電判定を行う必要はない。
【0051】
ケース3(絶縁抵抗Riの抵抗値=150オーム、電圧積算値:13500)
ケース3は、
図6に示す判定点E3に相当する。ここで、(1)式に「Ri=150」を与え、その結果を(2)式に与えることで、絶縁抵抗Riの抵抗値に対応する閾値範囲が設定される。そうすると、判定点E3は閾値範囲内に入っていないので、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常に動作していないと判定する。この場合、コントローラ33は、漏電判定を行う必要はない。
【0052】
ケース4(絶縁抵抗Riの抵抗値=150オーム、電圧積算値:12000)
ケース4は、
図6に示す判定点E4に相当する。閾値範囲は、ケース3およびケース4において同じである。そうすると、判定点E4は閾値範囲内に入っているので、コントローラ33は、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であると判定する。ただし、絶縁抵抗Riの抵抗値は最小抵抗値(ここでは、500オーム)より小さいので、漏電が発生していると判定される。
【0053】
このように、本発明の実施形態に係わる絶縁抵抗低下検出装置30は、自己診断の前に絶縁抵抗Riの抵抗値を検出する。そして、絶縁抵抗Riの抵抗値を利用して自己診断が行われる。このとき、絶縁抵抗Riの抵抗値に対して、絶縁抵抗低下検出装置30が正常であるか否かを判定するための閾値範囲が設定される。したがって、閾値範囲は、絶縁抵抗Riの抵抗値の変動を考慮したマージンを含む必要はない。すなわち、絶縁抵抗Riの抵抗値が変動する場合であっても、狭い閾値範囲を設定することができる。この結果、絶縁抵抗低下検出装置の故障の予兆または軽微な故障を検知することが可能である。すなわち、本発明の実施形態によれば、絶縁抵抗低下検出装置の状態変化を精度よく検知することができる。
【0054】
なお、上述の実施例では、特性グラフG1を利用して電圧積算値が絶縁抵抗Riの抵抗値にマッピングされるが、本発明はこの方式に限定されるものではない。例えば、特性グラフG1を表す近似式を予め作成しておき、電圧積算値をこの近似式に与えることで絶縁抵抗Riの抵抗値を算出してもよい。
【0055】
また、閾値範囲は、絶縁抵抗Riの抵抗値に対して電圧積算値の上限値および下限値が記録されたテーブルで定義してもよい。この場合、絶縁抵抗Riの抵抗値でテーブルを検索することで閾値範囲が特定される。或いは、電圧積算値の上限値を表す近似式および下限値を表す近似式で定義してもよい。この場合、絶縁抵抗Riの抵抗値を各近似式に与えることで閾値範囲が特定される。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
10 高電圧回路
20 車両フレーム
30 絶縁抵抗低下検出装置
31 パルス生成器
32 電圧センサ
33 コントローラ