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特開2022-120238高結晶性炭素基板の積層構造および接合方法
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  • 特開-高結晶性炭素基板の積層構造および接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120238
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】高結晶性炭素基板の積層構造および接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220810BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20220810BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220810BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C01B32/21
H01L23/36 M
B32B15/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017010
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】717007365
【氏名又は名称】平井 彰
(72)【発明者】
【氏名】平井 彰
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AB21C
4F100AH04B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EH46
4F100EH66
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100EJ61
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JA11A
4F100JK06
4G146AA02
4G146AB07
4G146AD20
4G146CB17
5F136BC07
5F136FA23
5F136FA75
5F136GA12
(57)【要約】
【課題】従来製造方法に比し,結晶性炭素基板同士を比較的低温度で積層接合する方法と積層体を提供する。
【解決手段】
結晶性炭素基板表面に各種処理によってヒドロキシル基を形成し,当該ヒドロキシル基を利用して硫黄原子を官能基とする有機化合物を化学吸着せしめて第1基板とし,Sn系金属フィルムに硫黄原子を官能基とする有機化合物を吸着せしめて第2基板とし,第1基板と第2基板を積層してSn系金属の融点近傍の温度で加圧することで,吸着させた硫黄系有機化合物間の化学結合によって接合させる方法,およびそれによって得られた積層体。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性炭素基板表面にヒドロキシル基を形成して純水に対する接触角を30度以下とし,当該ヒドロキシル基と硫黄原子を有する硫黄系有機化合物とを反応吸着させた第1基板と,硫黄系有機化合物を吸着させたSn系金属フィルムの第2基板を作製し,第1基板と第2基板を相互に積層して当該金属の融点近傍で加圧することによって,各基板表面に吸着されたイオウ系有機化合物同士を反応せしめ,これによって接合された結晶性炭素基板シートを積層する方法,およびその積層体。
【請求項2】
硫黄系有機化合物がトリアジンチオール系化合物であって,吸着方法が蒸着,もしくは溶液に浸漬することによる請求項1に記載される接合方法,および積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば半導体や電子機器,車載機器などの放熱・冷却機構用として用いられるグラファイトやグラフェン等の結晶性炭素基板材料の積層構造,および接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CPUをはじめとする回路の高速化や表示機器の高輝度化,車載機器の高密度電子化,自動車の電動化などにより当該機器は発熱しやすい状態となっている。当該機器の高温化,さらには高温部がスポット状態になることによる故障の誘発など信頼性の欠如となる可能性が高まっている。この対策の一つとして,発熱状態を素早く拡散して均質化し,さらには大気中など外部に放熱することが益々重要となっている。
手段としては,従来からアルミニウムや銅などの金属によるヒートシンクで放熱する構造や,熱導電性の良い金属や化合物の粒子を混錬したグリース状物質にしたり,シリコンポリマーなどに混ぜてシートにしたりすることで,発熱スポットの拡散均質化と放熱を行っている。
【0003】
熱の拡散機能として重要な指数の一つは熱伝導率(W/m・K)であり,例えば金属では銀が418,銅が386,アルミニウムが204で,ヒートシンクやヒートパイプとして銅やその合金が使用されることが多い。しかし,金属は比重が高く,例えば銅は8.96であり,少しでも軽くすることが要求される各種機器においては,高い熱伝導性粒子を混錬したポリマーシートを使用する。これは比重も小さくなり,形状も厚さも使用場所に則して比較的自由に対応することができる。課題は,熱伝導粒子と混錬する割合にもよるが,一般的にはグラファイト粒子などを混錬しても,10W/m・K程度の低い熱伝導率しか得られないことである。
【0004】
熱伝導材料としてカーボングラファイトで代表される高結晶性炭素化合物の基板を使用することで,結晶方向における熱伝導率は1,500W/m・Kを超える熱伝導率を得ることができる。しかし,高い熱伝導率のグラファイト基板を得るには,例えばポリイミドフィルムなどを3,000℃などの超高温度で炭化させるが,均質な収縮やボイドなどの欠陥なく生成するには,厚さを薄くする必要があり,用途や目的に応じた厚さを実現するために薄い基板を複数枚積層する必要がある。
【0005】
しかしながら,結晶性炭素基板の表面には基本的には他原子と化学結合に利用できる官能基はなく,また弾性率も非常に高いため,加圧しても基板表面を変形させることは困難であることから,当該基板同士を積層接合することは困難である。また,一般的な有機系接着剤を使用して接合する方法もあるが,熱伝導率が極めて低い有機系接着剤層を介するため,熱抵抗が高くなり全体の熱的な特性が低下する。
【0006】
そのために,炭素と反応して炭化物を形成するTi,Zr,Alなどの活性化剤と金属系被膜を使用して,真空・高温下で反応させて金属炭化物を生成させて当該炭化物を介して積層接合する構造が採用,あるいは特許文献1,特許文献2などに記載されている。しかし,いずれも800~1000℃程度の高い処理温度が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-532531(登録6529433)
【特許文献2】特開2020-181926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱伝導率の高い結晶性炭素基板を作るには,完成した基板の厚さとのトレードオフにあるため,薄い基板を作ってそれを複数枚積層するが,先行技術文献に記載されるように800℃~1,000℃の高温処理が一般的である。また,有機系樹脂等で接合した場合は,樹脂の熱伝導率が低いために熱抵抗が大きく,厚さ方向の熱特性を大きく損なう。
本発明は,グラフェンやグラファイトなどの結晶性炭素基板の積層接合を100℃~300℃程度の従来と比較して圧倒的に低い温度で接合する構造と方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における積層構造は,結晶性炭素基板同士をSn系金属フィルムの利用によって積層接合する構造であって,接合は各表面に吸着させた硫黄原子を含む有機化合物間の化学結合によってなされる。また,ヤング率が極めて高い結晶性炭素基板の表面形状に沿ってSn系金属が加熱加圧によって変形して,相互の官能基同士の原子間距離が化学結合できる距離となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,例えばSn系金属フィルムとしてBi:58重量部,Sn:42重量部からなるいわゆるSn-58Bi合金フィルムを使用した場合,融点が139℃に対し,それ以下の温度,例えば130℃程度でも接合が可能であり,従来の接合温度である800℃~1,000℃等と比較して圧倒的に低い温度で接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】結晶性炭素基板の表面にヒドロキシル基が形成された模式図である。
図2】結晶性炭素基板表面にトリアジントリチオールが吸着した模式図である。
図3】Sn系金属フィルムの表面にヒドロキシル基が形成された模式図である。
図4】Sn系金属フィルム表面にトリアジントリチオールが吸着した模式図である。
図5】トリアジントリチオールを表面吸着した結晶性炭素基板とSn系金属フィルムを積層して加熱加圧する断面の模式図である。
図6】Sn系金属フィルムの両面に,幅が小さい結晶性炭素基板を複数接合した例である。
図7】トリアジントリチオール系有機化合物を使用して基板間を接合する模式図である。
図8】アルコキシシリル有機化合物を使用して基板間を接合した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は,結晶性炭素基板表面1を,例えばプラズマ処理やコロナ放電処理によって ヒドロキシル基3を形成した模式図である。プラズマ処理は,大気圧プラズマでも真空プラズマでも良く,酸素プラズマやアルゴンプラズマ処理でも良い。表面の水に対する接触角は70度程度が20度以下に改質される。
【0013】
図2は,図1で示した結晶性炭素基板表面1に形成されたヒドロキシル基3とトリアジントリチオール4のチオール基を反応させて基板表面にC-S結合によって強固に吸着することを示している。カーボングラファイトに大兵される結晶性炭素基板1への吸着反応は,Sn系金属フィルム2への吸着と同様に行われることが本発明によって明らかにされた。このC-S結合は,Sn-S結合と同様にX線光電子分光分析装置(ULVAC-PHI社PHI5000 VersaProbe)によって,S2Pスペクトルを測定し確認できる。
【0014】
図3はSn系金属フィルム表面2へのヒドロキシル基3の形成,図4は当該ヒドロキシル基3と反応させてトリアジントリチオール4をSn-S結合によって吸着させた例を示している。これらの吸着反応は,特開2018-40041に示されている。
【0015】
Sn系金属フィルム2は,例えばSn-58Biであれば鉛フリーの低融点はんだとして一般的に使用されており,機械特性等の改善のためにAg(銀)などを添加したものが市販されている。本発明において使用するSn系金属は,他原子との合金であっても良い。Sn系金属は,金属としては柔らかく展性に優れ,プレスや圧延によって容易にフィルム化できる。
【0016】
本発明はSn系金属フィルム2の厚さによって制限されるものではなく,シート状でもロール形状でも使用できる。 Sn-58Biを含むSn系金属の熱伝導率は約20~60W/m・Kであり,炭素系基板の面方向の導電率と比べると小さい。したがって,Sn系金属フィルムの厚さはできる限り薄い方が良い。
【0017】
図5は,例えばトリアジントリチオール3を吸着させた結晶性炭素基板1とSn系金属フィルム2を交互に複数枚を重ねて,加熱プレスする場合の断面模式図である。
例えば,結晶性炭素基板(厚さ50μm)を6枚,Sn-58Bi(厚さ10μm)を5枚の場合,130℃,5kN/cm2,数分間で接合することができる。この場合,接合部の空隙(ボイド)の発生を防止するために真空中で加熱加圧することが好ましい。
【0018】
図6は,Sn系金属フィルム6の両面にリボン状の結晶性炭素基板5を設置した例を示している。本発明においてSn系金属フィルムの面積Sを,結晶性炭素基板形状の寸法をx×yとした時,S>nx×myとすることで,Sn系金属フィルムを基軸として積層体を製造することができる。さらに,上下の面で結晶性炭素基板1の端面が同一にならないように交互に配置することで,全体としての積層体シートの機械的強度を確保することができ,ハンドリングや最終形状の加工がしやすくなるという大きな特長を得ることができる。
【0019】
図7は,トリアジントリチオール間の-S-S-結合を示した模式図で,図8は一方にアルコキシシリル基を導入したトリアジン化合物,例えば,6-トリエトキシシリルプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノソディウムを吸着させた基板とトリアジントリチオールと接合した模式図である。
【0020】
Sn系金属フィルム2の材料であるSn-58Biは,表1に示すようにJIS Z3282(2017)で規定されており,記号はB580である。これは融点139℃であるが,さらに要求耐熱性に応じて他のSn系合金を使用することができ,Sn金属単独も使用できる
【0021】
【表1】
【実施例0022】
以下のような材料や製法で本発明について説明するが,これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例0023】
結晶性炭素基板としてグラファイトシートT68フィルム(t=25μm)(T-Global Technology社)を70mm×10mmにカットし,保護フィルムを剥離し,イソプロパノール中で5分間超音波洗浄を行った。当該フィルムを,低真空プラズマ処理装置Diener-Pico(Diener Electronic社)によりArプラズマ処理を行った(真空度 20 Pa,処理時間30秒)。同様に,Sn-58Bi(B580)として,ドイツPfarr社のシート50μmを50mm×10mmにカットして,前記T68フィルムと同様の処理を行い,プラズマ処理を行った。
【0024】
次に,トリアジントリチオールとして,ジスネットF(三協化成工業株式会社)を使用して,エチレングリコール モノブチルエーテルの1%溶液を調整し,室温で約10分間浸漬し,エアーナイフで乾燥させた。
【0025】
そのあと,吸着処理をしたT68フィルム2枚の間に吸着処理をしたSn-58Biフィルムを挟んで,加圧ヘッド部を予め130℃に昇温した加熱加圧装置(NPaシステム株式会社製N4050-20)で,10kN/cm2で3分間圧着した。T68フィルムの端部10 mm程度Sn-58Biフィルムとずらして接合処理を行った。
【0026】
接合させていない部分のT68フィルム端面を剥離協試験装置(株式会社イマダ)の測定ヘッドに装着し,剥離スピード25.0mm/min.で剥離強度を測定した。
これによって,約9kN/cmの強度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によるSn系合金等による高結晶炭素基板の低温接合方法は,従来の800~1000℃の高温ではなく100℃~200℃近傍の低温で高結晶性炭素基板同士を接合構造および方法を提供する。
【符号の説明】
【0028】
1 結晶性炭素基板 2 Sn系金属フィルム 3 ヒドロキル基 4 硫黄系有機化合物
5 硫黄系化合物吸着処理炭素基板 6 硫黄系化合物吸着処理Sn系金属フィルム
9加熱加圧ステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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