(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120252
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20220810BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20220810BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B53/04 D
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017031
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】小高 淳
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002CH02
2C002CH06
(57)【要約】
【課題】 ダウンスイング中のトウダウンを抑制する。
【解決手段】 ゴルフクラブヘッド1であって、ボールを打撃するためのフェース2、及び、ヘッド上面を形成するクラウン3を含む。クラウン3は、フェース2に隣接する第1部分31と、第1部分31のヘッド後方側に連なる第2部分32とを含む。第2部分32は、段差部6を介して、第1部分31よりも下方に位置する。第1部分31は、フェース2に沿ってトウ・ヒール方向に延びるフェース近傍部311と、フェース近傍部311のヒールH側の端部に連なり、かつ、クラウン3のヒールH側の輪郭に沿ってヘッド後方に延びるヒール近傍部312とを含む。ヘッド平面視において、リーディングエッジLeからヒール近傍部312のヘッド後方側の端部312eまでのヘッド前後方向の長さAは、ヘッド前後方向のクラブヘッド最大長さBの70%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドであって、
ボールを打撃するためのフェース、及び
ヘッド上面を形成するクラウンを含み、
前記クラウンは、前記フェースに隣接する第1部分と、前記第1部分のヘッド後方側に連なる第2部分とを含み、
前記第2部分は、段差部を介して、前記第1部分よりも下方に位置し、
前記第1部分は、前記フェースに沿ってトウ・ヒール方向に延びるフェース近傍部と、前記フェース近傍部のヒール側の端部に連なり、かつ、前記クラウンのヒール側の輪郭に沿ってヘッド後方に延びるヒール近傍部とを含み、
ヘッド平面視において、リーディングエッジから前記ヒール近傍部のヘッド後方側の端部までのヘッド前後方向の長さAは、ヘッド前後方向のクラブヘッド最大長さBの70%以上である、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
ヘッド平面視において、前記第2部分の面積A2は、前記第1部分の面積A1よりも大きい、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記面積A2及びA1の比A2/A1が、1.5~3.0の範囲である、請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
ヘッド平面視において、前記ヒール近傍部のトウ・ヒール方向の長さは、ヘッド後方に向かって漸減する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記フェースは、フェース中心を有し、
ヘッド平面視において、前記段差部は、トウ側からヒール側に向かってトウ・ヒール方向に延びる第1段差部と、前記フェース中心よりもヒール側の第1の位置で滑らかに湾曲してヘッド後方へ延びる第2段差部とを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記第1の位置は、トウ・ヒール方向において、前記フェース中心よりも15mm以上ヒール側にある、請求項5に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記第1の位置とトウ端とのトウ・ヒール方向の長さCは、トウ・ヒール方向のクラブヘッド最大長さDの60%~90%の範囲である、請求項5又は6に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
ヘッド平面視において、前記ヒール近傍部のヘッド後方側の前記端部は、トウ・ヒール方向において、前記第1の位置よりもトウ側に位置する、請求項5ないし7のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
ヘッド底面を形成するソールをさらに含み、
前記ソールは、第3部分と、前記第3部分のヘッド後方に位置する第4部分とを含み、
前記第3部分は、前記第4部分から、段差部を介して、膨らんでいる、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
前記第3部分は、トウにおいて、前記第1部分と実質的に連続する、請求項9に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項11】
フェアウエイウッド又はハイブリッドである、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、クラウン部に段差部を有するゴルフクラブヘッドが記載されている。このゴルフクラブヘッドでは、当該段差部の前側に対して当該段差部の後ろ側が下がるように形成されており、ヘッドの重心を下げるという効果を期待している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なゴルフクラブは、ヘッド重心が、そのゴルフクラブシャフト軸線からヘッドトウ側に離れて位置する。このため、
図14に示されるように、ダウンスイング中にいわゆるトウダウンが生じることがある。トウダウンとは、ダウンスイング中の遠心力でゴルフクラブヘッドのトウ側が下がってしまう現象である。トウダウンは、インパクトにおけるゴルフクラブヘッドの位置又は姿勢を変動させ、ひいては、打球の飛距離や方向を悪化させる。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、トウダウンを抑制することができるゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴルフクラブヘッドであって、ボールを打撃するためのフェース、及びヘッド上面を形成するクラウンを含み、前記クラウンは、前記フェースに隣接する第1部分と、前記第1部分のヘッド後方側に連なる第2部分とを含み、前記第2部分は、段差部を介して、前記第1部分よりも下方に位置し、前記第1部分は、前記フェースに沿ってトウ・ヒール方向に延びるフェース近傍部と、前記フェース近傍部のヒール側の端部に連なり、かつ、前記クラウンのヒール側の輪郭に沿ってヘッド後方に延びるヒール近傍部とを含み、ヘッド平面視において、リーディングエッジから前記ヒール近傍部のヘッド後方側の端部までのヘッド前後方向の長さAは、ヘッド前後方向のクラブヘッド最大長さBの70%以上である、ゴルフクラブヘッドである。
【0007】
本発明の他の態様では、ヘッド平面視において、前記第2部分の面積A2は、前記第1部分の面積A1よりも大きくても良い。
【0008】
本発明の他の態様では、前記面積A2及びA1の比A2/A1が、1.5~3.0の範囲であっても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、ヘッド平面視において、前記ヒール近傍部のトウ・ヒール方向の長さは、ヘッド後方に向かって漸減しても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記フェースは、フェース中心を有し、ヘッド平面視において、前記段差部は、トウ側からヒール側に向かってトウ・ヒール方向に延びる第1段差部と、前記フェース中心よりもヒール側の第1の位置で滑らかに湾曲してヘッド後方へ延びる第2段差部とを含んでも良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1の位置は、トウ・ヒール方向において、前記フェース中心よりも15mm以上ヒール側にあっても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記第1の位置とトウ端とのトウ・ヒール方向の長さCは、トウ・ヒール方向のクラブヘッド最大長さDの60%~90%の範囲であっても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、ヘッド平面視において、前記ヒール近傍部のヘッド後方側の前記端部は、トウ・ヒール方向において、前記第1の位置よりもトウ側に位置しても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、ヘッド底面を形成するソールをさらに含み、前記ソールは、第3部分と、前記第3部分のヘッド後方に位置する第4部分とを含み、前記第3部分は、前記第4部分から、段差部を介して、膨らんでいても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記第3部分は、トウにおいて、前記第1部分と実質的に連続するものでも良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記ゴルフクラブヘッドが、フェアウエイウッド又はハイブリッドであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明のゴルフクラブヘッドは、上記の構成を採用したことにより、ダウンスイング中のゴルフクラブヘッドのヒール側にかかる空気抵抗を増大させ、ひいては、トウダウンを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。
【
図2】本実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図3】本実施形態のゴルフクラブヘッドのトウ側から見た側面図である。
【
図4】本実施形態のゴルフクラブヘッドのヒール側から見た側面図である。
【
図5】本実施形態のゴルフクラブヘッドの前方かつヒール側から見た斜視図である。
【
図6】本実施形態のゴルフクラブヘッドのトウ側から見た斜視図である。
【
図7】本実施形態のゴルフクラブヘッドの後方かつヒール側から見た斜視図である。
【
図8】
図2のVIII-VIII線の部分断面図である。
【
図9】(A)及び(B)は、それぞれフェースの周縁を説明するための正面図及びs1断面図である。
【
図10】ゴルフクラブのダウンスイング中の軌跡を示す線図である。
【
図11】(A)~(C)は、
図10のゴルフクラブヘッド1A、1B及び1Cをスイング方向前方から見た正面図である。
【
図12】スイング中のゴルフクラブヘッドが受ける力を説明する線図である。
【
図13】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。
【
図14】スイング中のトウダウンを説明するゴルフクラブの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
各実施形態において、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0020】
図1~4は、それぞれ、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)1の平面図、正面図、トウ側から見た側面図及びヒール側から見た側面図である。さらに、
図5~7は、それぞれ、本実施形態のヘッド1の前方かつヒール側から見た斜視図、後方かつトウ側から見た斜視図、及び、後方かつヒール側から見た斜視図である。
【0021】
図1~7において、ヘッド1は、例えば、フェース2、クラウン3、ソール4、ホーゼル5、トウT、及び、ヒールHを含む。また、
図1~
図4において、ヘッド1は以下に述べる基準状態に置かれている。
【0022】
[基準状態]
本明細書において、ヘッド1の「基準状態」とは、ヘッド1が、当該ヘッド1に設定されたライ角α(
図2)及びロフト角(
図3)で水平面HPに置かれた状態である。
図3に示されるように、基準状態では、ヘッド1のシャフト軸中心線CLが、水平面HPと直角な基準垂直面VP内に配された状態で、ヘッド1がライ角α及びロフト角βに保持される。本明細書において、特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態とされている。なお、「シャフト軸中心線CL」は、ヘッド1のホーゼル5に形成されたシャフト差込孔5aの軸中心線によって画定される。
【0023】
[ヘッドの方向]
図3に示されるように、ヘッド1の基準状態において、基準垂直面VPに直交する方向xがヘッド前後方向とされる。ヘッド前後方向に関して、フェース2の側が前側とされ、その反対側が後側とされる。また、基準垂直面VP及び水平面HPにともに平行な方向yは、トウ・ヒール方向とされる。さらに、水平面HPに直交する方向zが、上下方向として定義される。
【0024】
[ヘッドの基本構造]
図8は、
図2のVIII-VIII線断面図である。
図8に示されるように、本実施形態のヘッド1は、例えば、内部に中空部iが設けられたゴルフクラブヘッドとして構成されている。この種のヘッドとしては、例えば、ウッドタイプ又はハイブリッドタイプが挙げられる。
【0025】
本発明は、とりわけ、フェアウエイウッド又はハイブリッドとして好適に実施される。これらのヘッドは、例えば、13~35度のロフト角β、200g以上のヘッド重量、及び、250cc以下のヘッド体積を備える。なお、
図1~
図7のヘッド1は、好ましい態様として、フェアウエイウッドが示されている。
【0026】
図8に示されるように、フェース2は、ボールを打撃するための表面である打撃フェース2aと、中空部iに面するフェース内面2iとを備える。打撃フェース2aは、例えば、バルジ及びロールを有する。これにより、打撃フェース2aは、外側に向かって凸となる三次元曲面で構成される。
【0027】
打撃フェース2aは、その周縁Eによって画定される。本明細書において、打撃フェース2aの周縁Eは、次のように定義される。まず、
図9(A)に示されるように、ヘッド重心CGとスイートスポットSSとを結ぶ法線Nを含む各断面s1、s2、s3…が特定される。なお、スイートスポットSSは、ヘッド重心CGから打撃フェース2aに引いた法線Nが打撃フェース2aを交差する点である。
【0028】
次に、
図9(B)に示されるように、前記各断面s1、s2、s3…において、ヘッド外面側の輪郭線Lfの曲率半径rがスイートスポットSS側からェース外側に向かって初めて200mmとなる位置Peを求め、これらの位置Peを連ねたものが打撃フェース2aの周縁Eとされる。なお、ある曲線上の任意の点の曲率半径は、その点と、その点の一方側に0.5mmを隔てた点と、その点の他方側に0.5mmを隔てた点との、3点を通る単一円の半径として求められる。これらの「0.5mm」は、当該曲線に沿った道のり距離である。
【0029】
また、打撃フェース2aは、フェース中心FC(
図1等参照)を有する。本明細書において、「フェース中心」FCは次のように決定される。まず、上下方向及びトウ・ヒール方向において、打撃フェース2aの概ね中央付近の任意の点Pが選択される。次に、この点Pを通り、当該点Pにおける打撃フェース2aの法線方向に沿って延び、かつ、トウ・ヒール方向に平行な平面が決定される。この平面と打撃フェース2aとの交線を引き、その中点Pxが決定される。次に、この中点Pxを通り、当該点Pxにおける打撃フェース2aの法線方向に沿って延び、かつ、上下方向に平行な平面が決定される。この平面と打撃フェース2aとの交線を引き、その中点Pyが決定される。次に、この中点Pyを通り、当該点Pyにおける打撃フェース2aの法線方向に沿って延び、かつ、トウ・ヒール方向に平行な平面が決定される。この平面と打撃フェース2aとの交線を引き、その中点Pxが新たに決定される。次に、この新たな中点Pxを通り、当該点Pxにおける打撃フェース2aの法線方向に沿って延び、かつ、上下方向に平行な平面が決定される。この平面と打撃フェース2aとの交線を引き、その中点Pyが新たに決定される。この工程を繰り返して、Px及びPyが順次決定される。この工程の繰り返しの中で、新たな中点Pyとその直前の中点Pyとの間の距離が最初に0.5mm以下となったときの当該新たな位置Py(最後の位置Py)が、フェース中心FCとされる。
【0030】
打撃フェース2aには、フェースラインと呼ばれるトウ・ヒール方向に延びる複数本の溝が設けられているが、本実施形態の図面からは省略されている。
【0031】
クラウン3は、ヘッド上面を形成するように、フェース2からヘッド後方に延びている。クラウン3は、例えば、ヘッド平面図で見える部分からフェース2を除いた部分である。クラウン3のヒール側には、ホーゼル5が設けられている。ホーゼル5には、クラブシャフト(図示省略)を固定するためのシャフト差込孔5aが形成されている。
【0032】
ソール4は、ヘッド底面を形成するように、フェース2からヘッド後方に延びている。ソール4は、例えば、ヘッド底面図で見える部分である。
【0033】
ヘッド1は、例えば、主要部が金属材料で構成されている。金属材料としては、特に限定されないが、例えば、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、マレージング鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、タングステン-ニッケル合金等が採用され得る。ヘッド1の一部(例えば、クラウン3)が、繊維強化樹脂等の非金属材料で作られても良い。
【0034】
[クラウンの特徴]
図1に示されるように、クラウン3は、フェース2に隣接する第1部分31と、第1部分31のヘッド後方側に連なる第2部分32とを含む。本実施形態において、第1部分31及び第2部分32は、ともに、ヘッド外面側に滑らかに凸となる外表面を備えているが、第2部分32は、段差部6を介して、第1部分31よりも下方に位置している。
【0035】
本実施形態の段差部6は、フェース2側に位置するフロントエッジ6aと、その後方に位置するリアエッジ6bとを備える。
図8に示されるように、本実施形態の段差部6は、フロントエッジ6aからリアエッジ6bに向かって下降するような斜面で形成されている。
【0036】
本実施形態のヘッド1において、第1部分31はまた、フェース近傍部311と、ヒール近傍部312とを含む。
【0037】
フェース近傍部311は、第1部分31のうち、フェース2に沿ってトウ・ヒール方向に延びる部分である。ヒール近傍部312は、第1部分31のうち、フェース近傍部311のヒール側の端部に連なり、かつ、クラウン3のヒール側の輪郭に沿ってヘッド後方に延びる部分である。したがって、フェース近傍部311及びヒール近傍部312は、いずれも、第2部分32よりも上方に位置しており、かつ、第2部分32から段差部6を介して隆起している。
【0038】
また、本実施形態では、
図1に示されるヘッド平面視において、リーディングエッジLeからヒール近傍部312のヘッド後方側の端部312eまでのヘッド前後方向の長さAは、ヘッド前後方向のクラブヘッド最大長さBの70%以上とされる。
【0039】
[本実施形態の作用1]
フェース2に隣接する第1部分31が、段差部6を介して、ヘッド後方の第2部分32よりも上方に位置するため、フェース2の面積(特に、上下方向寸法)がより大きく維持され、ひいては、フェース2の反発性能が維持又は向上する。このようなフェース2は、例えば、打球の初速を高めるのに役立つ。好ましい態様では、
図2に示されるように、フェース2の上下方向の最大長さ2Hが23mm以上、より好ましくは26mm以上に拡大され得る。同様に、ヘッド1の上下方向の最大長さ1Hが、例えば30mm以上、より好ましくは35mm以上に拡大され得る。
【0040】
また、第1部分31よりもヘッド後方に位置する第2部分32は、段差部6を介して、第1部分31よりも下方に位置するため、低いヘッド重心CGを提供する。このようなヘッド1は、打球のバックスピン量を減らすのに役立つ。好ましい態様では、ヘッド重心CG(
図2に示す)の水平面HPからの高さである重心高さCGHは、例えば、20mm以下、より好ましくは17mm以下とされ得る。
【0041】
好ましい態様では、
図1に示されるように、ヘッド平面視において、第2部分32の面積A2は、第1部分31の面積A1よりも大きいのが望ましい。これにより、ヘッド重心CGがさらに低い位置に提供され得る。ここで、第2部分32の面積A2は、ヘッド輪郭線と、段差部6のリアエッジ6bとで囲まれる面積である。また、第1部分31の面積A1は、ヘッド輪郭線と、段差部6のフロントエッジ6aと、フェース2の周縁Eとで囲まれる(ホーゼル5を含んだ)面積A1である。
【0042】
特に好ましい態様では、これらの面積A2及びA1の比A2/A1は、例えば、1.5~3.0の範囲であるのが望ましい。このように、第1部分31及び第2部分32の面積A1及びA2の比を特定することにより、フェース2の面積の増大と、低いヘッド重心とをより一層バランス良く両立させることができる。
【0043】
[本実施形態の作用2]
また、本実施形態のヘッド1は、ダウンスイング中のトウダウンを抑制することができる。その作用機序は、次の通りである。
【0044】
図10は、一般的なダウンスイング中におけるヘッド1の軌跡を示す。この軌跡は、アドレスしたゴルファ(図示せず)を正面から見たもので、符号100はヘッド1の進行方向を示す。
図11(A)~(C)は、それぞれ、
図10のスイング軌跡中のヘッド1A、1B及び1Cを、スイング方向の前方から見た図を示す。
【0045】
これらの図から明らかなように、スイング軌跡の中心SCを時計の中心に見立てると、略9時の位置のヘッド1Aのフェース2は、ほぼ正面を向いている。ヘッド1は、そこから徐々にフェース2が閉じられるように移動し(ヘッド1B)、インパクトではフェース2が完全に閉じた状態になる(ヘッド1C)。
【0046】
また、
図11(A)及び(B)から明らかなように、ダウンスイング中、ヘッド1は、ヒールH側をスイング方向に向けながら進んでいく過程を含んでいる。特に、ダウンスイング中、ヘッドスピードはこの過程で急激に加速する傾向があることから、ヘッド1のヒールH側の表面は、大きな空気抵抗を受ける。
【0047】
図12は、
図10の略9時の位置におけるヘッド1Aが受ける力を示す。ヘッド1には、ヘッド重心CGに遠心力Fが、また、ヒールH側には、空気抵抗fがそれぞれ作用する。符号BLは、ゴルフクラブヘッドの回転中心に延びる軸線である。遠心力Fは、ヘッド1を、(シャフト10を曲げながら)ヘッド重心CGがシャフト軸中心線CLに近づくような向きに移動させる回転モーメントMを生成する。これがトウダウンをもたらす。一方、空気抵抗fは、ヘッド1のトウダウンに抗うように作用する。
【0048】
本実施形態のヘッド1は、ヘッド1のヒールH側から見た投影面積を増大させることで、ダウンスイング中の空気抵抗fを積極的に増大させる。すなわち、ヘッド1は、ヒール近傍部312を備えることにより、基準垂直面VPに沿ってシャフト軸中心線CLに垂直にヒールH側から見たヘッド1の投影面積(
図12のXII-XII視の投影面積であり、これは
図11(A)に示される。)が、ヒール近傍部312を備えないヘッドに比べて大きくなる。空気抵抗fは、ヘッド1の上記投影面積に比例するため、本実施形態のヘッド1は、ダウンスイング時の略9時の位置からそれ以降の過程において、大きな空気抵抗fを受け、ひいては、ダウンスイング中のヘッド1のトウダウンを効果的に抑制することができる。
【0049】
ここで、
図1に示したリーディングエッジLeからヒール近傍部312のヘッド後方側の端部312eまでのヘッド前後方向の長さAが、ヘッド前後方向のクラブヘッド最大長さBの70%未満であると、上記投影面積の増大が十分に見込めず、ひいてはトウダウンの抑制効果が十分に得られない。好ましくは、前記長さAは、クラブヘッド最大長さBの80%以上とされるのが良い。
【0050】
以下、より好ましい具体的態様が説明される。
【0051】
[フェース近傍部]
フェース2の面積を維持ないし増大させるために、第1部分31のフェース近傍部311は、トウ・ヒール方向に十分に長く形成されるのが望ましい。例えば、
図1のヘッド平面視において、フェース近傍部311は、ヘッド1のトウTの輪郭線から始まり、ヒールH側へと延びるのが望ましい。この場合でも、
図1に示されるように、フェース近傍部311をトウ側には突出させないことが望ましい。これにより、ヘッド1のトウT側の輪郭線は、凹凸することなく、トウ側に凸の滑らかな円弧状曲線で形成され得る。他の態様では、フェース近傍部311は、ヘッド1のトウTの輪郭線の近傍(例えば、ヒールH側に10mm以内の位置)から始まるように形成されても良い。
【0052】
本実施形態の第1部分31は、ヒールHまで延びている。すなわち、
図4ないし7から理解されるように、第1部分31のヒールH側は、第2部分32をその表面に沿って仮想延長した表面よりも上方に位置している。したがって、本実施形態のフェース近傍部311も実質的にヒールHまで延びる。このような態様では、フェース近傍部311が、フェース2のトウ・ヒール方向の全範囲に亘って形成されることから、フェース2の面積が効果的に増大し、フェース2の反発性能がさらに向上され得る。
【0053】
図1に示されるように、フェース近傍部311の前後方向の幅W1は、特に制限されないが、フェース2の反発性能を高める観点では、例えば、クラブヘッド最大長さBの5%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上とされても良い。また、低いヘッド重心の高さCGHを提供する観点では、フェース近傍部311の前後方向の幅W1は、例えば、クラブヘッド最大長さBの45%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下とされても良い。また、フェース近傍部311の前後方向の幅W1は、5~25mmの範囲であっても良い。
【0054】
[ヒール近傍部]
図1に示されるように、本実施形態のヒール近傍部312は、クラウン3のヒールH側の輪郭と、段差部6のフロントエッジ6aとの間の領域として形成される。すなわち、ヒール近傍部312は、クラウン3のヒールH側の輪郭を画定している。このようなヒール近傍部312は、上述のダウンスイング時の投影面積を効果的に拡大する。
【0055】
ヒール近傍部312の端部312eは、例えば、クラウン3の輪郭線上に位置している。他の態様では、ヒール近傍部312の端部312eは、ヘッド1の輪郭線よりも手前に位置しても良い。
【0056】
図1のヘッド平面視において、ヒール近傍部312のトウ・ヒール方向の長さW2は、ヘッド後方に向かってが漸減するのが望ましい。本実施形態では、ヒール近傍部312の長さW2は、フェース近傍部311から、ヒール近傍部312の端部312eまで連続的に減少し、端部312eではゼロである。このような態様は、ヘッド重心CGが高くなるのを抑制するのに役立つ。
【0057】
[段差部]
本実施形態の段差部6は、クラウン3のトウT側の輪郭線からヒールH側に延び、かつ、ヒールH側でヘッド後方へ湾曲してクラウン3のバック側の輪郭線まで延びている。より詳細には、段差部6は、トウ・ヒール方向に延びる第1段差部61と、フェース中心FCよりもヒールH側の第1の位置P1で滑らかにヘッド後方へ湾曲して前後方向に延びる第2段差部62とを含む。したがって、第1段差部61は、第2部分32とフェース近傍部311とを区分している。また、第2段差部62は、第2部分32とヒール近傍部312とを区分している。
【0058】
第1段差部61は、例えば、フェース2の周縁E(上縁)とほぼ平行に第1の位置P1まで延びている。好ましい態様では、第1の位置P1は、フェース中心FCよりも、トウ・ヒール方向において、例えば、15mm以上、より好ましくは18mm以上ヒールH側とされる。これにより、第2部分32の面積が大きく確保され、ひいては、より低いヘッド重心の高さCGHが提供され得る。また、フェース近傍部311が、トウ・ヒール方向に大きく形成されることから、フェース2の反発性能がさらに向上され得る。
【0059】
別の特定方法として、第1の位置P1とトウ端Teとのトウ・ヒール方向の長さCは、トウ・ヒール方向のクラブヘッドの最大長さDの例えば60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上であっても良い。なお、トウ・ヒール方向のクラブヘッドの最大長さDは、
図2に示されるように、基準状態のヘッド1の正面視において、最もトウ側に突出したトウ端Teと、水平面から22.23mmの高さの位置のヒール点Hdとの間の水平方向距離として定義される。また、第1の位置P1とトウ端Teとのトウ・ヒール方向の長さCは、
図1に示されるように、基準状態のヘッド1の平面視において特定される。
【0060】
さらに好ましい態様では、第1の位置は、ヒール近傍部312の端部312eよりも、トウ・ヒール方向において、ヒールH側に位置しても良い。このような態様によれば、上述の空気抵抗を大きく確保しつつ、第2部分32の面積を大きく確保し、ひいては、より低いヘッド重心の高さCGHが提供され得る。
【0061】
第2段差部62は、第1の位置P1から湾曲を始め、ヘッド1のヒール側の輪郭線に沿ってヘッド後方へと延びている。本実施形態の第2段差部62は、滑らかな円弧形状とされている。
【0062】
図8に示されるように、段差部6のフロントエッジ6aとリアエッジ6bとの上下方向の高さhは、例えば、1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上とされても良い。これにより、フェース近傍部311及びヒール近傍部312が、第2部分32からより上方に位置し、ひいては、フェース2の反発性能及びダウンスイング時のトウダウン抑制といった効果がさらに向上する。一方、段差部6の高さhが過度に大きくなると、ボール打撃時に段差部6に応力が集中するおそれがある。このような課題の下では、段差部6の高さhは、例えば7.0mm以下、好ましくは6.5mm以下、さらに好ましくは6.0mm以下とされても良い。
【0063】
本実施形態の段差部6の高さhは、ヒール側の端部を除き、実質的に一定に形成されている。段差部6の高さhは、そのヒール側の端部において漸減しても良い。他の態様では、段差部6の高さhは、各部において、異なっていても良い。例えば、第2段差部62の高さは、第1段差部61の高さよりも大きく形成されても良い。これにより、ヒール側から見たヘッドの投影面積を効果的に増大させることができる。
【0064】
図1において、段差部6のフロントエッジ6aとリアエッジ6bとの間の距離である段差部6の幅も特に制限されないが、例えば、1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上とされても良く、また、例えば7.0mm以下、好ましくは6.5mm以下、さらに好ましくは6.0mm以下とされても良い。
【0065】
[ソール部]
図3に示されるように、ソール4は、第3部分43と、前記第3部分のヘッド後方に位置する第4部分44とを含んでも良い。第3部分43は、第4部分44から、段差部60を介して、膨らんでいても良い。このようなヘッド1も、フェース2の面積を維持ないし増大するのに役立つ。本実施形態では、第3部分43は、トウTにおいて、第1部分31と実質的に連続するように形成されている。
【0066】
[他の形態のヘッド]
図13は、本発明の他の実施形態のヘッド1の平面図を示す。
図13では、ヘッド1は、ハイブリッドとして実施されている。このように、本発明は、様々な形態で実施することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例0068】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
図1~7に示した基本構造を有する中空構造のフェアウエイウッドが表1の仕様に基づいて試作され、ヘッド重心の高さCGHが測定された。また、コンピュータを用いた空力シミュレーションにより、ダウンスイング中のヘッドが受ける空気抵抗と相関がある抗力が計算された。この抗力は、
図11(B)の状態にあるヘッド(ヘッドスピード30m/s)が受ける紙面と垂直方向の力であり、数値が大きいほどトウダウンを抑制する効果がある。また、比較のために、クラウンに、第1部分、第2部分及びこれらの間の段差部が設けられているが、第1部分が幅W1でトウ・ヒール方向に連続して延びる、フェース近傍部のみからなるゴルフクラブヘッド(比較例)についても同様の測定及び計算がなされた。それらの結果は、表1に示される。なお、実施例、比較例とも、第1部分の幅W1は、16mmとした。
【0069】
【0070】
表1から分かるように、実施例は、比較例よりもダウンスイング中の抗力が大きいことから、トウダウンを抑制することが可能である。