(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120273
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】光電変換素子用有機薄膜、光電変換素子及び撮像素子
(51)【国際特許分類】
H01L 51/42 20060101AFI20220810BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H01L31/08 T
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017065
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 直朗
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊二
(72)【発明者】
【氏名】島 大和
(72)【発明者】
【氏名】三枝 優太
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀良
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AA03
5F849AB11
5F849BA05
5F849BB03
5F849XA02
5F849XA46
5F849XA55
(57)【要約】 (修正有)
【課題】HOMO準位が深く、優れた電荷輸送性を持つ化合物を利用し、暗電流を低減させる光電変換素子を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物を含有する光電変換素子用有機薄膜である。
(1)
(式中、A
1とA
2は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Z
1は窒素原子、若しくはC-R
1を表す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有する光電変換素子用有機薄膜。
【化1】
(1)
(式中、A
1とA
2は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。
Z
1は窒素原子、若しくはC-R
1を表し、R
1とR
2は水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表す。
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるピリミジン環構造を有する化合物を含有する請求項1に記載の光電変換素子用有機薄膜。
【化2】
(2)
(式中、A
1とA
2、R
1とR
2は、一般式(1)中の定義と同じである。)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光電変換素子用有機薄膜を含む、光電変換素子。
【請求項4】
請求項3に記載の光電変換素子用有機薄膜をブロッキング層として含む、光電変換素子。
【請求項5】
請求項4に記載のブロッキング層の最高被占軌道(HOMO)準位が-5.8eV以下であることを特徴とする光電変換素子。
【請求項6】
請求項3に記載の光電変換素子用有機薄膜を光電変換層として含む、光電変換素子。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか一項に記載の光電変換素子を含む、撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアジン構造を含有する光電変換素子用有機薄膜、光電変換素子及びその光電変換素子を含む撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は例えば太陽電池や光センサ等に広く利用され、その中でも撮像素子であるイメージセンサはテレビカメラやスマートフォン搭載のカメラだけでなく、運転支援システム用途にも用いられ始めるなどのため、その用途、市場は共に広がりをみせている。
【0003】
これまでの撮像素子の材料は、Si膜やSe膜といった無機材料が使用されており、その撮像方法としてはプリズムを用い色分ける3板式と、カラーフィルターを用いた単板式の二つが主流であった。しかし、三板式は光の利用率は高いものの、プリズムを使用するため小型化が難しく、単板式はプリズムを使用しないため、小型化は比較的容易であるが、代わりにカラーフィルターを使用するため、解像度、光の利用率が悪かった(非特許文献1)。
【0004】
一方、有機物はSi膜やSe膜と比較し、特定波長の光をよく吸収するため、それぞれの波長に合わせた材料を組み合わせることでプリズムを使用せずとも、三原色に対しそれぞれ光を効率よく利用できる撮像素子を構築することができる。そのため光の利用効率が高く、小型の撮像素子を作れることが可能となる。また、Si膜などでは達成することのできない、フレキシブル性や作成プロセスにおいての塗布による大面積化といった価値を付加できる可能性がある(非特許文献2)。
【0005】
有機物を用いた光電変換素子は次世代の撮像素子としての展開が期待されており、いくつかの報告がなされている。例えばキナクリドン、キナゾリン誘導体を光電変換素子に用いた例(特許文献1)、ベンゾチエベンゾチオフェン誘導体を光電変換素子に用いた例(特許文献2)、インドロカルバゾールを光電変換素子に用いた例(特許文献3)などがある。有機撮像素子は高コントラスト化、省電力化を目的とし、開発が行われているが無機撮像素子と比較し、暗電流が大きく出やすい。そのため、暗電流の低減をさせる必要がある。暗電流低減のためには、光電変換部と電極部の間に、正孔ブロッキング層、もしくは電子ブロッキング層を挿入する手法が用いられることがある。
【0006】
正孔ブロッキング層、並びに電子ブロッキング層の挿入は有機エレクトロニクス分野で、一般的に使用される手法であり、それぞれデバイスの構成膜中において、電極または導電膜と、それ以外の膜の界面に配置され、正孔ブロッキング層の場合には電子を輸送はするが、不必要な正孔の移動を防ぎ、電子ブロッキング層の場合には正孔は輸送するが、電子の移動を防ぐ。特許文献4では電子ブロッキング材料として最高被占軌道(HOMO)準位が4.7~5.8eVを持つ化合物が、電極への電荷の受け渡しを効率化するのに有効であることを提案している。
【0007】
光電変換層には高い感度が求められるが、高感度化には以下のような方法がある。
・光電変換はp型半導体とn型半導体の界面起こるため、活性層をバルクヘテロ構造とし、界面の面積を増やす。
・光吸収で生成した励起子から正孔と電子を効率的に分離するため、アクセプター性の強い化合物を活性層として使用する。
【0008】
電子ブロック層を備えた素子で、活性層をバルクヘテロ構造とした場合、電子ブロック層とn型半導体とが接する界面が生じる。アクセプター性の強い化合物をn型半導体として使用した場合、適切なエネルギー準位の化合物を電子ブロッキング層として使用しないと、特許文献5に示されるように、有機半導体材料の最高被占分子軌道(HOMO)からアクセプター性の強い化合物(特許文献5ではフラーレン誘導体)の最低空軌道(LUMO)への電子移動が起こり、暗電流特性が悪くなる。特許文献4で提案されているHOMO準位の電子ブロッキング層では、活性層にフラーレン誘導体のようなアクセプター性が強く、LUMO準位が深い材料を使用した場合、電子ブロッキング層のHOMOと活性層中のn型半導体のLUMO準位とのエネルギー準位が近くなり、活性層中のn型半導体材料から電子ブロッキング層への電子移動が起こり、暗電流特性が悪くなる。前記電子移動を起こさせないためには、電子ブロッキング層に使用する材料のHOMO準位を深くする必要がある。
【0009】
アジン化合物はHOMO準位を深くすることができ、電子移動度が高い事から、有機半導体分野において特に開発が進んでいる有機EL分野で、主に電子輸送層や、正孔阻止層など、主に電子を輸送する層若しくは電子輸送性のホストとして発光層で開発が進められている(特許文献7)。しかしながら、光電変換素子の電子ブロッキング層といった正孔を輸送する側での開発は行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4945146号公報
【特許文献2】特開2018-170487号公報
【特許文献3】特開2018-085427号公報
【特許文献4】特開2011-187937号公報
【特許文献5】特許第5624987号公報
【特許文献6】国際公開番号2017/159684号公報
【特許文献7】特許第6501771号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】映像情報学会メディア協会誌、60, 3, 291(2006)
【非特許文献2】Adv.Mater.28,4766(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の現状を鑑みてなされたものであり、HOMO準位が深く、優れた電荷輸送性を持つ化合物を利用し、光電変換素子に用いる有機薄膜を提供することにより、その有機薄膜を適用し各種光電変換素子暗電流を低減、これにより高感度な各種撮像素子、及び光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明者らは上記目的を達成のため、アジン骨格がHOMO準位を深くでき、高い電荷輸送性を有していることに着目、鋭意研究を行い、下記一般式(1)で表される化合物を含む有機薄膜が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の各項に係るものである。
【0015】
1)下記一般式(1)で表される化合物を含有する光電変換素子用有機薄膜。
【0016】
【0017】
式(1)中、A1とA2は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。
Z1は窒素原子、若しくはC-R1を表し、R1とR2は水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表す。
【0018】
2)下記一般式(2)で表されるピリミジン環構造を有する化合物を含有する1)に記載の光電変換素子用有機薄膜。
【0019】
【0020】
式(2)中、A1とA2、R1とR2は、一般式(1)中の定義と同じである。
【0021】
3)前記1)または2)に記載の光電変換素子用有機薄膜を含む、光電変換素子。
【0022】
4)前記3)に記載の光電変換素子用有機薄膜をブロッキング層として含む、光電変換素子。
【0023】
5)前記4)に記載のブロッキング層の最高被占軌道(HOMO)準位が-5.8eV以下であることを特徴とする光電変換素子。
【0024】
6)前記3)に記載の光電変換素子用有機薄膜を光電変換層として含む、光電変換素子。
【0025】
7)前記3)~6)のいずれか一項に記載の光電変換素子を含む、撮像素子。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一般式(1)で表されるアジン骨格を有する化合物、或いは一般式(2)で表されるピリミジン環構造を含有する有機薄膜は、各種光電変換素子に適用できる。それにより、良好な暗電流特性を有する光電変換素子を提供でき、またそれを利用した撮像素子、光センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、一般式(1)で表されるアジン骨格を有する化合物、或いは一般式(2)で表されるピリミジン環構造を有する化合物、を含む有機薄膜及びその有機薄膜を使用する有機デバイス、特に光電変換素子に関するものである。
【0029】
【0030】
式(1)中、A1とA2は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基又は置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。Z1は窒素原子、若しくはC-R1を表し、R1とR2は水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族複素環基、置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基又は置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表す。
【0031】
【0032】
式(2)中、A1とA2、R1とR2は、一般式(1)中の定義と同じである。
【0033】
前記「ないし」とは、範囲を表す用語であり、例えば「5ないし10」との記載は、「5以上10以下」を意味し、「ないし」の前後に記載される数値自体も含む範囲を表す。
【0034】
上記一般式(1)または式(2)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」又は「縮合多環芳香族基」の2価基としては、特に限定されないが、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、チエニレン基、フラニレン基及び、フェナントレニレン基、ピリジレン基、ベンゾフラニレン基、ベンゾチエレン基、などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリーレン基及び炭素数2ないし30のヘテロアリーレン基から選択することもできる。
【0035】
上記一般式(1)または式(2)中の「置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換若しくは無置換の芳香族複素環基」、又は「置換若しくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」又は「縮合多環芳香族基」としては、特に限定されないが、例えば、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基及び、カルボリニル基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30のアリール基及び炭素数2ないし30のヘテロアリール基から選択することもできる。
【0036】
上記一般式(1)または式(2)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、又は「炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」としては、特に限定されないが、例えば、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基及び、2-ブテニル基などを挙げることができる。
【0037】
上記一般式(1)または式(2)中の「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」又は「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」としては、特に限定されないが、例えば、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基及び、2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。
【0038】
上記一般式(1)または式(2)中の「置換若しくは無置換のアリールオキシ基」における「アリールオキシ基」としては、特に限定されないが、例えば、具体的に、フェニルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、ターフェニリルオキシ基、ナフチオキシル基、アントラセニルオキシ基及び、フェナントレニルオキシ基などの炭素数6ないし30のアリールオキシ基を挙げることができる。
【0039】
上記一般式(1)または式(2)中の「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、「置換縮合多環芳香族基」、「置換メチレン基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基」、又は「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」としては、特に限定されないが、例えば、具体的に、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状若しくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基若しくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基のような基を挙げることができ、これらの置換基は、更に前記例示した置換基で置換されていてもよい。
【0040】
一般式(1)または式(2)で表されるアジン環を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0041】
【0042】
【0043】
上述したアジン骨格を有する化合物は、それ自体公知の方法に準じて合成する
ことができる(例えば特許文献7)。
【0044】
一般式(1)または式(2)で表される化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行うことができる。化合物の同定は、NMR分析によって行うことができる。物性値として、ガラス転移点(Tg)と仕事関数の測定を行うことが好ましい。ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、HOMO準位は正孔輸送性の指標となるものである。
【0045】
ガラス転移点(Tg)は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によって求めることができる。
【0046】
HOMO準位は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202)によって求めることができる。
【0047】
一般式(1)または式(2)で表される化合物は、蒸着法、スピンコート法及びインクジェット法などの公知の方法によって有機薄膜を形成することができる。また、一般式(1)または式(2)で表される化合物は、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもできる。更に本発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物と混合して成膜することもできる。
【0048】
一般式(1)または式(2)で表される化合物を含む有機薄膜は、光電変換素子、特に撮像素子への使用に適している。光電変換素子の構成としては、例えば、順に第1電極(陽極)、電子ブロッキング層、光電変換層、第2電極(陰極)を有し、電子ブロッキング層が一般式(1)または式(2)の化合物を含む有機薄膜である構成が挙げられる。このような多層構造においては層を追加することが可能であり、例えば、順に第1電極、電子ブロッキング層、光電変換層、正孔ブロッキング層、第2電極を有する構成とすることもできる。また、光電変換層に使用することもできる。
【0049】
<光電変換層>
光電変換層は、有機材料でも無機物、量子ドットでもよく、受光した光量に応じた信号電荷を発生することができればよい。光電変換層が有機材料の場合、その有機半導体膜は、一層であっても複数の層であってもよく、一層の場合はp型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はp型有機半導体及びn型有機半導体の混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。また、複数の層である場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はp型有機半導体及びn型有機半導体混合膜のいずれか2つ以上を積層した構造であり、層間にバッファ層を挿入することも可能である。
【0050】
前記光電変換層に用いられるp型半導体は、ドナー性の有機半導体であり、主に正孔輸送性の有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある化合物である。
p型半導体としては、特に限定されないが、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、フタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、複素環化合物を配位子とする金属錯体、ベンゾチオフェン誘導体、ジナフトチエノチオフェン誘導体、ジアントラセノチエノチオフェン誘導体、ベンゾビスベンゾチオフェン誘導体、チエノビスベンゾチオフェン、ジベンゾチエノビスベンゾチオフェン誘導体、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体、ジベンゾチエノジチオフェン誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、ナフトジチオフェン誘導体、アントラセノジチオフェン誘導体、テトラセノジチオフェン誘導体、ペンタセノジチオフェン誘導体に代表される知恵のアセン系材料やトリアリールアミン化合物、カルバゾール化合物といったアミン系誘導体、インデノカルバゾール誘導体などを挙げることができる。
【0051】
前記光電変換層に用いられるn型有機半導体は、アクセプター性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フラーレン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、又はこれらの誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0052】
また前記光電変換層の膜厚は、100~1000nmであることが好ましく、更に好ましくは100~500nmである事が望ましい。
【0053】
<導電性薄膜>
導電性薄膜は、陽極、陰極の電極であり、これらは導電材料により構成される。透明導電性薄膜であってもよい。陽極、陰極としては、一般に電極として用いられている導電材料であれば特に制限はなく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムタングステン(IWO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化チタン等の導電性金属酸化物、酸化窒化チタン(TiNxOx)、窒化チタン(TiN)等の金属窒化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の金属、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性化合物、これらとITOとの積層物、などが挙げられる。
【0054】
<正孔ブロッキング層>
正孔ブロッキング層が第2電極(陰極)と光電変換層との間に挿入されても良いが、これに用いられる材料としては第1バッファ層に用いられる材料の仕事関数よりも深い材料が好ましい。例えば、ピリジン、キノリン、アクリジン、インドール、イミダゾールベンズイミダゾール、フェナントロリンのような含窒素複素環を含む有機分子及び有機金属錯体で、更に可視光領域の吸収が少ない材料が好ましい。また、5nmから20nm程度の薄膜で形成する場合には可視光領域に吸収を有するフラーレン及びその誘導体などを用いることもできる。
【0055】
<撮像素子>
撮像素子は、前記光電変換素子を含むことで構成される。
【0056】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0057】
<2-{3-(ナフタレン-1-イル)フェニル}-4-{4-(フェナントレン-9-イル)フェニル}-6-{4-(ピリジン-3-イル)フェニル}ピリミジン(1-1)の合成>
窒素ガスを通気した反応容器に、2-クロロ―4-{4-(フェナントレン-9-イル)フェニル}-6-{4-(ピリジン-3-イル)フェニル}ピリミジン5.0g、3-(ナフタレン-1-イル)フェニルボロン酸2.86g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)0.33g、炭酸カリウム4.0g、1,4-ジオキサン50mL、精製水15mLを仕込み、80℃で一晩撹拌した。室温まで放冷し、濃縮、クルードに酢酸エチル、水を加え後、分液した。有機相を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。粗生成物をトルエン再結晶による精製を繰り返すことで白色粉体3.8g(収率59%)を得た。
【0058】
【0059】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。
【0060】
1H-NMR(CDCl3)で以下の33個の水素のシグナルを検出し、2-{3-(ナフタレン-1-イル)フェニル}-4-{4-(フェナントレン-9-イル)フェニル}-6-{4-(ピリジン-3-イル)フェニル}ピリミジン(化合物1-1)であることを示した。δ(ppm)=8.98-8.84(3H)、8.84(1H)、8.78(1H)、8.68(1H)、8.47-8.44(4H)、8.19(1H)、8.06-7.93(6H)、7.81-7.41(16H)。
<2-{4-(ナフタレン-1-イル)フェニル}-4-{4-(フェナントレン-9-イル)フェニル}-6-{4-(ピリジン-3-イル)フェニル}ピリミジン(1-2)の合成>
実施例1において、3-(ナフタレン-1-イル)フェニルボロン酸に代えて4-(ナフタレン-1-イル)フェニルボロン酸を用い、2-クロロ―4-{4-(フェナントレン-9-イル)フェニル}-6-{4-(ピリジン-3-イル)フェニル}ピリミジンに代えて2-クロロ-4-{4-(フェナントレン-9-イル)フェニル}-6-{4-(ピリジン-3-イル)フェニル}ピリミジンを用い、同様の条件で反応を行い、黄色粉体22.6g(収率85%)を得た。